説明

プロピレン系樹脂シートおよびそれを用いた加熱処理用包装体

【課題】透明性、柔軟性、極低温下での耐衝撃性等に優れ、かつ、積層時の厚み変動の低下、界面荒れなどの外観悪化をを改良したプロピレン系樹脂シートおよび加熱処理用包装体を提供する。
【解決手段】少なくとも1層からなるプロピレン系樹脂シートであって、主層は、
(1)融解ピーク温度が120〜150℃のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体30〜70wt%と、炭素数2または4〜8のα−オレフィン含有量が10wt%以上20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)70〜30wt%を含有するプロピレン系樹脂組成物(A)を50〜90wt%、
(2)特定のエチレン−α−オレフィン共重合体(B)10〜50wt%
を含有する樹脂組成物からなるプロピレン系樹脂シートによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂シートおよびそれを用いた加熱処理用包装体に関し、詳しくは、加圧蒸気処理もしくは加圧熱水処理などの加圧下での加熱処理を行なっても、変形を起こし難い、優れた耐熱性を有しながらも、良好な透明性、柔軟性を有し、さらに、耐衝撃性、特に極低温下(例えば−25℃)での耐衝撃性に優れたプロピレン系樹脂シートおよびそれを用いた加熱処理用包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト用包装体や薬液等の輸液バッグなど加圧処理を行って殺菌、滅菌が必要な包装袋に求められる性能として、内容物を確認可能なための透明性、空気孔を開けずとも排液可能にするための柔軟性、極寒地(例えば−25℃といった環境)での運搬時に乱雑に取り扱っても破袋しないための耐低温衝撃性、121℃の滅菌、殺菌処理でも変形、融着しないための耐熱性、易製袋性のためのヒートシール特性等の二次加工適性等が挙げられる。
とりわけ輸液バッグに関しては、かつては上述の性能を満たす材料として塩化ビニル樹脂が使用されていたが、可塑剤の溶出、廃棄処理に難があること、近年の地球環境への配慮等の問題があることから、ポリオレフィン系樹脂に代替されてきている。
【0003】
ポリエチレンを主構成とする輸液バッグは柔軟性、耐衝撃性に優れるが耐熱性に乏しく、オーバーキル条件である121℃の滅菌温度では変形等の外観不良が発生し、輸液バッグとしての性能を満たすことはできない(例えば特許文献1参照)。一方、ポリプロピレンを主構成とする輸液バッグは良好な耐熱性を有しているが、輸液バッグ材料としては硬く、低温での耐衝撃性が不足しているため、こちらも上述の性能を満たすことはできない(例えば特許文献2参照)。
【0004】
そこで、ポリプロピレンにエラストマー成分を添加し、柔軟性・耐衝撃性を付与した技術が開示されている(例えば特許文献3参照)。しかし、ポリプロピレンの耐熱性が犠牲となり、また滅菌後の低分子量成分がブリードアウトし、透明性も悪化する問題がある。エラストマー成分としてスチレン系エラストマーを添加する技術の開示もあるが(例えば特許文献4参照)、ブロッキングが起こりやすくなり、生産性に優れているとは言い難い。またスチレン系エラストマーはオレフィン系エラストマーに比較して高価であり、コスト的にも課題が残る。
【0005】
それとは別に、チーグラー・ナッタ系触媒を用いて連続重合によりエラストマー成分を添加するポリプロピレンブロック共重合体が開発されている(例えば特許文献5参照)が、やはり滅菌後のブリードアウトが発生し、透明性は良くない。一方で、メタロセン系触媒を用いて連続重合によりエラストマー成分を添加するプロピレン−エチレンブロック共重合体からなる水冷インフレーションフィルムが提案されており、40℃条件下でのブリードアウト改良が見られている(例えば特許文献6参照)が、低温での耐衝撃性が未だ不十分なものであった。また、異質ブレンドを含む医療用フィルムが提案されている(例えば特許文献7参照)が、低温での耐衝撃性が不十分なものであった。
即ち、耐熱性・透明性・柔軟性・耐衝撃性を十分バランスよく備えた、尚かつ、低コストの輸液バッグ材料が求められているが、満足する材料が見つかっていないのが現状であった。
【0006】
また、輸液バッグ製袋工程にはスパウト、排出ポート・注入ポートなどの射出部品などとの融着させる工程があり、十分な融着のためにはフィルムを溶融させることが必要である。そのために非常に過酷(高温、高圧、長時間等)なヒートシールがされる。十分な溶融状態ではシールバーに溶融樹脂がくっついてしまい、生産性の悪化は否めない。そこで積層により外層、内層の融点差をつけることにより外層を固体のまま、内層を溶融させる技術が開示されている(例えば特許文献7参照)。しかし、内層がポリエチレン系の樹脂であるため滅菌温度115℃には耐えられるが、121℃滅菌ではフィルム内面同士が融着してしまい、耐熱性は十分ではない。
【0007】
さらに、特許文献8では透明、柔軟、耐熱性、耐衝撃性(落体衝撃)に優れたシートを提案されている。しかしながら、極低温下(例えば−25℃)での耐衝撃性が不足しており、寒冷地での輸送時にシートが破壊される恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−308682号公報
【特許文献2】特開平9−99036号公報
【特許文献3】特開平9−75444号公報
【特許文献4】特開平9−324022号公報
【特許文献5】特開2006−307072号公報
【特許文献6】特表2008−524391号公報
【特許文献7】特開2007−245490号公報
【特許文献8】特開2010−138211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
加熱処理用包装袋に必要な性能である透明性、耐熱性、柔軟性などをバランスよく兼ね備えるには、耐熱性を発現するプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体と、透明性を損なわずに柔軟化可能な特定のα−オレフィン量を添加したプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の組み合わせを用いることが効果的である。一方で、そのままでは過酷なヒートシール条件に耐えられず、ヒートシール部の肉厚が薄くなり、内容物を入れた状態で加熱処理包装体を落下させた時にヒートシールぎわから亀裂が入り破袋してしまう可能性がある。
したがって、本発明は、柔軟性、透明性、耐熱性に優れ、且つ、製袋時の過酷なヒートシール条件に耐えられる上に、耐衝撃性、特に極低温下(例えば−25℃)での耐衝撃性に優れたシートおよびそれを用いた加熱処理用包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題点の解決のために多様な検討、解析を実施し、特定のプロピレン−α−オレフィン共重合体の混合物と、特定の密度とメルトフローレートを有するエチレン−α−オレフィン共重合体成分を特定量配合することにより、上記問題点をバランス良く解決できることを見出し、以上の樹脂組成により上記課題を解決するシートが得られるとの知見を得て、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の条件を満たすプロピレン系樹脂組成物(X)からなる層を少なくとも一層以上含むことを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
・プロピレン系樹脂組成物(X)は、下記(A−i)〜(A−iv)を満たすプロピレン系樹脂組成物(A)50〜90wt%と、下記(B−i)〜(B−ii)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体(B)10〜50wt%からなる。
・・プロピレン系樹脂組成物(A):
(A−i)融解ピーク温度(Tm(A1))が120〜150℃のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)30〜70wt%と、炭素数が2または4〜8のα−オレフィン含有量(α[A2])が10wt%以上で20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)70〜30wt%を含有する。
(A−ii)メルトフローレート(MFR(A):230℃、2.16kg)が、0.5〜20g/10分の範囲である。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、水冷インフレ法にて成形して得られる200μm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲で観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一のピークを示す。
(A−iv)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、プレス法にて成形して得られる2mm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲において観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一ではないピークを示す。
・・エチレン−α−オレフィン共重合体(B):
(B−i)密度が0.860〜0.910g/cmの範囲である。
(B−ii)メルトフローレート(MFR(B):190℃、2.16kg)が0.1〜20g/10分の範囲である。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物(X)からなる層を内層(1)とし、さらに外層(2)を有する少なくとも2層からなるシートであって、シート全体の厚みを100としたときの内層(1)の割合が50〜98であることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、プロピレン系樹脂組成物(A)が、メタロセン系触媒を用いて得られたものであることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜第3の発明において、プロピレン系樹脂組成物(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)が、逐次重合することで得られるものであって、
第1工程でプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を30〜70wt%、第2工程でα−オレフィン含有量(α[A2])が10wt%以上で20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を70〜30wt%逐次重合したものであることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜第3の発明において、プロピレン系樹脂組成物(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)が、逐次重合することで得られるものであって、
第1工程でプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を30〜70wt%、第2工程でα−オレフィン含有量(α[A2])が13wt%以上で16wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を70〜30wt%逐次重合したものであることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の発明において、内層(1)を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)は、さらに下記(C−i)〜(C−ii)を満たすプロピレン系樹脂(C)を、プロピレン系樹脂組成物(X)100重量部に対し、1〜100重量部を含有することを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
・プロピレン系樹脂(C):
(C−i)融解ピーク温度(Tm(C))が、150℃を超え、170℃以下である。
(C−ii)メルトフローレート(MFR(C):230℃、2.16kg)が、0.5〜30g/10分の範囲である。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6の発明において、さらに最内層(3)を、外層(2)、内層(1)、最内層(3)の順で有する少なくとも3層からなることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7の発明において、外層(2)を構成するプロピレン系樹脂組成物(Y)が、融解ピーク温度(Tm(D))が150〜170℃の範囲であるプロピレン系樹脂(D)を含有することを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0019】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8の発明において、プロピレン系樹脂組成物(A)におけるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(A2)が、プロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0020】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9の発明において、プロピレン系樹脂組成物(A)におけるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(A1)が、プロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0021】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10の発明において、厚みが0.01mm〜1.0mmであることを特徴とするプロピレン系樹脂シートが提供される。
【0022】
また、本発明の第12の発明によれば、第1〜11のいずれかの発明のプロピレン系樹脂シートを用いることを特徴とする加熱処理用包装体が提供される。
【0023】
さらに、本発明の第13の発明によれば、第12の発明において、加熱処理用包装体が輸液バックであることを特徴とする加熱処理用包装体が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のシートおよびそれを用いた加熱処理用包装体における基本的な要件は、少なくとも一層に特定のプロピレン系樹脂組成物(A)、特定のエチレン−α−オレフィン共重合体(B)を含有するプロピレン系樹脂組成物(X)を用いることにある。
プロピレン系樹脂組成物(X)に用いるプロピレン系樹脂組成物(A)は、特定の範囲に融解ピーク温度を示すプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)と、特定のα−オレフィン含有量を持つプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を含有することで、耐熱性、透明性、柔軟性が高く、耐低温衝撃性に優れ、得られるシートに柔軟性および耐低温衝撃性をバランスよく付与させることができる。
また、プロピレン系樹脂組成物(X)に用いるプロピレン系樹脂(B)は、密度およびメルトフローレートにより特定されるものであり、得られるシートに、透明性、耐低温衝撃性を損なわず柔軟性を付与させることができる。
【0025】
したがって、本発明のプロピレン系樹脂シートおよび該シートを用いた加熱処理用包装体は、透明性、柔軟性に加え、極低温化での耐衝撃性などに優れたものであり、レトルト用包装体、輸液バッグ等の用途に、特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】製造例(A−4)で得られたプロピレン系樹脂組成物(A−4)の水冷インフレシートの固体粘弾性測定(DMA)により得られた温度−損失正接(tanδ)曲線を示すグラフ図であって、単一なピークの一例を示す。
【図2】製造例(A−6)で得られたプロピレン系樹脂組成物(A−6)のプレスシートの固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線を示すグラフ図であって、単一でないピークの一例を示す。
【図3】製造例(A−4)で得られたプロピレン系樹脂組成物(A−4)のプレスシートの固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線を示すグラフ図であって、単一でないブロードなピークの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のプロピレン系樹脂シートは、少なくとも一層にプロピレン系樹脂組成物(X)を用いたシート、およびそれから得られる加熱処理用包装体である。
以下、本発明のプロピレン系樹脂シートの各層構成成分、各層構成成分の製造、加熱処理用包装体について詳細に説明する。
【0028】
[I]プロピレン系樹脂シートの各層の構成成分
1.主層(1)(後記するように外層(2)等と積層された場合、内層(1)という。)
主層(1)は、下記のプロピレン系樹脂組成物(A)、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)を含有したプロピレン系樹脂組成物(X)から形成される。
【0029】
(1)プロピレン系樹脂組成物(A)
・プロピレン系樹脂組成物(A)の特性
本発明のプロピレン系樹脂シートの主層(1)のプロピレン系樹脂組成物(X)の一成分として用いられるプロピレン系樹脂組成物(A)(以下、成分(A)ということもある。)は、透明性や、柔軟性、及び、耐衝撃性が高いことが必要である。これらの要求を高い水準で満たすために、成分(A)は、以下の(A−i)〜(A−iv)の条件を満たすことが必要である。
【0030】
・成分(A)の基本規定
成分(A)は、下記条件(A−i)〜(A−iv)を満たすプロピレン系樹脂組成物(A)である。
(A−i)
融解ピーク温度(Tm(A1))が120〜150℃のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)30〜70wt%、炭素数が2または4〜8のα−オレフィン含有量(α[A2])が10wt%以上で20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)70〜30wt%を含有する。
(A−ii)
メルトフローレート(MFR(A):230℃、2.16kg)が0.5〜20g/10分の範囲である。
(A−iii)
固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、水冷インフレ法にて成形して得られる200μm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲で観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一のピークを示す。
(A−iv)
固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、プレス法にて成形して得られる2mm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲において観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一ではないピークを示す。
上記条件等につき、以下の(i)〜(vii)で詳細に説明する。
【0031】
(i)プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)の融解ピーク温度(Tm(A1))
成分(A1)は、プロピレン系樹脂組成物(成分(A))において結晶性を決定する成分である。成分(A)の耐熱性を向上させるためには、成分(A1)の融解ピーク温度Tm(A1)(以下、Tm(A1)ということもある。)が高いことが必要である反面、Tm(A1)が高すぎると柔軟性や透明性が阻害される。また、Tm(A1)が低すぎると耐熱性が悪化し、ヒートシール時に薄肉化が進んでしまう。Tm(A1)は、120〜150℃の範囲にあることが必要であり、好ましくは125〜145℃、より好ましくは125〜140℃である。
成分(A1)は好ましくはメタロセン触媒を用いて製造される。
【0032】
ここで、融解ピーク温度Tmは、示差走査型熱量計(セイコー社製DSC)で求める値であり、具体的には、サンプル量5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温スピードで結晶化させ、さらに10℃/分の昇温スピードで融解させたときの融解ピーク温度として求める値である。
【0033】
(ii)成分(A)中に占める成分(A1)の割合
成分(A)中に占める成分(A1)の割合W(A1)は、成分(A)に耐熱性を付与する成分であるが、W(A1)が多過ぎると柔軟性や耐衝撃性及び透明性を充分に発揮することができない。そこで成分(A1)の割合は、70wt%以下である必要がある。
一方、成分(A1)の割合が少なくなり過ぎると、Tm(A1)が十分であっても耐熱性が低下し、滅菌、殺菌工程において変形してしまう恐れがあるため、成分(A1)の割合は30wt%以上でなければならない。W(A1)の好ましい範囲は、35〜65wt%である。
【0034】
(iii)プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)中のα−オレフィン含有量α[A2]
成分(A2)は、成分(A)の柔軟性と耐衝撃性及び透明性を向上させるのに必要な成分であり、好ましくはメタロセン系触媒を用いて得られる。一般に、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体においてα−オレフィン含有量が増加することで結晶性は低下し、柔軟性向上効果は大きくなるため、成分(A2)中のα−オレフィン含有量α[A2](以下、α[A2]ということもある。)は、10wt%以上であることが必要である。α[A2]が10wt未満の場合には十分な柔軟性を発揮することが出来ず、好ましくは12wt%以上、より好ましくは13wt%以上である。
一方、成分(A2)の結晶性を下げるためにα[A2]を増加させ過ぎると、成分(A1)と成分(A2)の相溶性が低下し、成分(A2)が成分(A1)と相溶化せずにドメインを形成するようになる。このような相分離構造において、マトリクスとドメインの屈折率が異なると透明性が急激に低下してしまう。そこで本発明に用いられる成分(A)中の成分(A2)のα[A2]は20wt%未満であることが必要であり、好ましくは17wt%未満、より好ましくは16wt%未満である。
【0035】
成分(A1)および成分(A2)に使用するコモノマーとしてのα−オレフィンは、好ましくは炭素数が2または4〜20のα−オレフィン、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル1−ペンテンなどのプロピレン以外のα−オレフィン、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナンなどのビニル化合物等からなる選択される。これらのコモノマーは、二種以上共重合されていてもよい。コモノマーは、エチレン及び/又は1−ブテンであるのが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。
【0036】
(iv)成分(A)中に占める成分(A2)の割合
成分(A)中に占める成分(A2)の割合W(A2)は、多過ぎると耐熱性が低下するため、W(A2)は、70wt%以下に抑えることが必要である。
一方、W(A2)が少なくなり過ぎると柔軟性と耐衝撃性の改良効果が得られないため、W(A2)は、30wt%以上であることが必要である。W(A2)の好ましい範囲は、65〜35wt%である。
【0037】
ここで、W(A1)及びW(A2)は、温度昇温溶離分別法(TREF)により求める値であり、α−オレフィン含有量α[A1]とα[A2]は、NMRにより求める値である。
具体的には、次の方法による。
【0038】
・温度昇温溶離分別法(TREF)によるW(A1)とW(A2)の特定
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体等の結晶性分布を温度昇温溶離分別法(TREF)により評価する手法は、当業者によく知られているものであり、例えば、次の文献などで詳細な測定法が示されている。
G.Glockner,J.Appl.Polym.Sci.:Appl.Polym.Symp.;45,1−24(1990)
L.Wild,Adv.Polym.Sci.;98,1−47(1990)
J.B.P.Soares,A.E.Hamielec,Polymer;36,8,1639−1654(1995)
【0039】
本発明に用いられる成分(A)は、成分(A1)と成分(A2)各々の結晶性に大きな違いがあり、また、両成分がメタロセン系触媒を用いて製造されると各々の結晶性分布が狭くなっていることから双方の中間的な成分は極めて少なく、双方をTREFにより精度良く分別することが可能である。
【0040】
本発明において、TREF測定は、具体的には次のように測定を行う。
試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後に8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒である−15℃のo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlBHT入り)を1ml/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0041】
得られた溶出曲線において、成分(A1)と成分(A2)は結晶性の違いにより各々の温度T(A1)とT(A2)にその溶出ピークを示し、その差は充分大きいため、中間の温度T(A3)(={T(A1)+T(A2)}/2)においてほぼ分離が可能である。
ここで、T(A3)までに溶出する成分の積算量をW(A2)wt%、T(A3)以上で溶出する部分の積算量をW(A1)wt%と定義すると、W(A2)は、成分(A2)の量と対応しており、T(A3)以上で溶出する成分の積算量W(A1)は、結晶性が比較的高い成分(A1)の量と対応している。
【0042】
測定に用いた装置、仕様を以下に示す。
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm 表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー製デジタルプログラム調節計KP1000(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃ 温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ 4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
【0043】
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル 光路長1.5mm
窓形状2φ×4mm長丸 合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
〔測定条件〕
溶媒:o−ジクロロベンゼン(0.5mg/mlのBHTを含む)
試料濃度:5mg/ml 試料注入量:0.1ml 溶媒流:1ml/分
【0044】
・α[A1]とα[A2]の特定
各成分のα−オレフィン(好ましくはエチレン)含有量α[A1]とα[A2]は、分取型分別装置を用い昇温カラム分別法により各成分を分離し、NMRにより各成分のα−オレフィン(またはエチレン)含有量を求める。
昇温カラム分別法とは、例えば、Macromolecules 21 314−319(1988)に開示されたような測定方法をいう。
具体的には、本発明において以下の方法を用いた。
【0045】
・昇温カラム分別
直径50mmで高さ500mmの円筒状カラムにガラスビーズ担体(80〜100メッシュ)を充填し、140℃に保持する。次に、140℃で溶解したサンプルのo−ジクロロベンゼン溶液(10mg/ml)200mlを前記カラムに導入する。その後、該カラムの温度を0℃まで10℃/時間の降温速度で冷却する。0℃で1時間保持後、10℃/時間の昇温速度でカラム温度をT(A3)(TREF測定に得られる)まで加熱し、1時間保持する。なお、一連の操作を通じてのカラムの温度制御精度は±1℃とする。
次いで、カラム温度をT(A3)に保持したまま、T(A3)のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、カラム内に存在するT(A3)で可溶な成分を溶出させ回収する。
次に、10℃/分の昇温速度で当該カラム温度を140℃まで上げ、140℃で1時間静置後、140℃の溶媒のo−ジクロロベンゼンを20ml/分の流速で800ml流すことにより、T(A3)で不溶な成分を溶出させ回収する。
分別によって得られたポリマーを含む溶液は、エバポレーターを用いて20mlまで濃縮された後、5倍量のメタノール中に析出される。析出ポリマーを濾過して回収後、真空乾燥器により一晩乾燥する。
【0046】
・13C−NMRによるエチレン含有量の測定
上記分別により得られた成分のα−オレフィン(好ましくはエチレン)含有量α[A2]は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した、13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。
機種:日本電子(株)製 GSX−400又は同等の装置
(炭素核共鳴周波数100MHz以上)
溶媒:o−ジクロロベンゼン/重ベンゼン=4/1(体積比)
濃度:100mg/ml 温度:130℃
パルス角:90° パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
【0047】
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules 17 1950 (1984)などを参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は表1の通りである。表中Sααなどの記号はCarmanら(Macromolecules 10 536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0048】
【表1】

【0049】
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、及びEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules 15 1150 (1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度とスペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) …(1)
[PPE]=k×I(Tβδ) …(2)
[EPE]=k×I(Tδδ) …(3)
[PEP]=k×I(Sββ) …(4)
[PEE]=k×I(Sβδ) …(5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} …(6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。
従って、[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1 …(7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含有量が求まる。
エチレン含有量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
【0050】
なお、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が含まれ、それにより、表2に示す微小なピークを生じる。
【0051】
【表2】

【0052】
正確なα−オレフィン(エチレン)含有量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、本発明のエチレン含有量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
エチレン含有量のモル%から重量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含有量(重量%)
=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100
(ここで、Xはモル%表示でのエチレン含有量である。)
【0053】
(v)成分(A)の製造方法
本発明に用いられる成分(A)の好ましい製造方法は、メタロセン系触媒を用いて、第1工程でDSC測定における融解ピーク温度Tm(A1)が120〜150℃、より好ましくは125〜140℃の範囲にあるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を30〜70wt%、より好ましくは35〜65wt%、第2工程でα−オレフィン含有量α[A2]が10wt%以上で20wt%未満、より好ましくは13〜16wt%のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A2)を70〜30wt%、より好ましくは65〜35wt%、逐次重合することで得られる。メタロセン系触媒を用いて、第1工程で成分(A1)を重合し、第2工程で成分(A2)を逐次重合する具体的方法は、例えば特開2005−132979号公報に記載の方法を用いることが出来、ここで言及したことで同公報の全内容が本明細書に取り込まれたものとする。
【0054】
また、成分(A)は、逐次重合品でなくても、上記融解ピーク温度Tm(A1)を満たすプロピレン−α−オレフィン共重合体(A1)と、α−オレフィン含有量α[A2]を満たすプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(A2)のブレンド物であっても良い。
【0055】
(A−ii)成分(A)のメルトフローレートMFR(A)
本発明に用いられる成分(A)のメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg)(以下、MFR(A)ということもある。)は、0.5〜20g/10分の範囲を取ることが必要である。
MFR(A)は、成分(A1)および成分(A2)に対応する各々のMFR(以下、MFR(A1)およびMFR(A2)ということもある。)の比率によって決定付けられるが、本発明においては、MFR(A)が0.5〜20g/10分の範囲にあれば、MFR(A1)およびMFR(A2)は、本発明の目的を損ねない範囲で任意である。ただし、両者のMFR差が大きく異なる場合には、外観不良等が生じる恐れがあるため、MFR(A1)およびMFR(A2)は、共に4〜10g/10分の範囲にあることが望ましい。
【0056】
MFR(A)が低く過ぎると、成形機スクリュの回転への抵抗が大きくなるために、モータ負荷や先端圧力が上昇するばかりでなく、シートの表面が荒れることで外観を悪化させるといった問題が生じるため、MFR(A)は好ましくは4g/10分以上、より好ましくは5g/10分以上である。
一方で、MFR(A)が高すぎると、成形が不安定になりやすく、均一なシートを得ることが困難となるため、MFRは好ましくは10g/10分以下、好ましくは8g/10分以下である。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
メルトフローレート(MFR)は、逐次重合の場合は、重合条件である温度や圧力を調節したり、水素等の連鎖移動剤を重合時に添加する水素添加量を制御したりすることにより、容易に調整を行うことができる。
【0057】
(A−iii)水冷インフレ法にて成形した200μm厚のシートで測定した固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線におけるピーク。
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(成分(A))は、水冷インフレ法にて成形した200μm厚のシートで測定した固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、−60〜20℃の範囲において観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが0℃以下に単一のピークを示すことが必要である。
成分(A)が相分離構造を取る場合には、成分(A1)に含まれる非晶部のガラス転移温度と成分(A2)に含まれる非晶部のガラス転移温度が各々異なるため、ピークは単一ではなくなる。この場合にはシートとしての透明性が悪化しやすいという問題が生じる。
なお、測定に使用する装置やサンプルの柔軟性によっては、200μm厚のシートでは応力の検知が不十分となり、測定が困難な場合がある。このような場合は当該シートを複数枚重ねて、例えば2枚重ねて測定を行えばよく、当該方法で測定することによって同様の結果が得られる。
【0058】
ここで、固体粘弾性測定(DMA)は、具体的には、短冊状の試料片に特定周波数の正弦歪みを与え、発生する応力を検知することで行う。周波数は1Hzを用い、測定温度は−60℃から段階状に昇温し、サンプルが融解して測定不能になるまで行う。また、歪みの大きさは0.1〜0.5%程度が推奨される。得られた応力から、公知の方法によって貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”を求め、これの比で定義される損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)を温度に対してプロットすると、0℃以下の温度領域で鋭いピークを示す。一般に0℃以下でのtanδ曲線のピークは非晶部のガラス転移を観測するものであり、本発明では、本ピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)として定義する。
なお、水冷インフレ法による200μm厚のシートの製造条件は、後記の実施例で詳記した方法により行う。但し、後述の方法において、各押出機に投入する原料はプロピレン系樹脂組成物(A)のみである。
【0059】
(A−iv)プレス法にて成形した2mm厚のシートで測定した固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線におけるピーク。
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(成分(A))は、プレス法にて成形した2mm厚のシートで測定した固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、−60〜20℃の範囲において観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが0℃以下に単一ではないピークを示すことが必要である。
ここでtanδ曲線のピークが0℃以下に単一ではないピークを示すとは、図2に示すように明確なピークが複数以上出現しているものは勿論、例えば図3に示すように、ブロードな形のピークで観察されるものも含まれる。
【0060】
プレス法にて成形したシートは水冷インフレ法により成形したシートに比べ徐冷条件で固化するため、成分(A1)と成分(A2)の相分離を起こしやすくなる。相分離を起こすことにより成分(A2)に起因するTgが観測されはじめる。成分(A2)のTgは、プロピレン以外のα−オレフィンの含有量が成分(A1)より多いので、成分(A1)より低いTgを示す。従って、成分(A2)に起因するTgが観測されはじめることにより、成分(A2)が耐低温衝撃性により有効に作用することになる。
前述の通り、tanδ曲線において0℃以下に単一ではないピークを示す場合は透明性が悪化しやすい傾向にあるが、成分(A)が相分離構造を全く取らない場合には、成分(A2)による耐低温衝撃性改善効果が不十分となる問題が生じやすい。
すなわち、本発明に使用するプロピレン系樹脂組成物(A)は、水冷インフレ法にて成形したシートでは相分離であることが確認できず、プレス法にて成形したシートでは相分離であることが確認できるといった絶妙の相分離性を有することで、透明性と耐低温衝撃性をバランス良く向上させることが出来る。
【0061】
(vi)プロピレン系樹脂組成物(A)の構成要素の制御方法
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(A)の各要素は、以下のように制御され、本発明のプロピレン系樹脂組成物(A)に必要とされる構成要件を満たすよう製造することができる。
成分(A1)の融解ピーク温度(Tm(A1))の制御は、重合槽に供給するプロピレンとα−オレフィンの量比を、適宜調整する等により可能である。融解ピーク温度(Tm(A1))を例えば120℃〜150℃に制御するためには、使用する触媒の種類にも依存するが、α−オレフィン含有量(α[A1])が概ね0〜10w%程度の範囲で調整することにより所望の融解ピーク温度(Tm(A1))を有する成分(A1)を製造できる。
また、成分(A2)のα−オレフィン含有量(α[A2])を所定の範囲に制御するためには、逐次重合による場合は、第2工程における重合槽に供給するプロピレンとα−オレフィンの量比を、適宜調整すればよい。供給比率と得られるプロピレンα−オレフィンランダム共重合体中のα−オレフィン含量の関係は、メタロセン触媒を用いる場合、その種類によって異なるが、供給比率の調整により必要とするα−オレフィン含有量(α[A2])を有する成分(A2)を製造することができる。
【0062】
成分(A1)の量W(A1)と成分(A2)の量W(A2)は、逐次重合の場合は、成分(A1)を製造する第1工程の製造量と第2工程での成分(A2)の製造量の比を変化させることにより制御することができる。
成分(A)のメルトフローレートの調製は前述したとおりである。
【0063】
成分(A)のtanδ曲線のピーク
成分(A)は、固体粘弾性測定により得られる温度−損失正接曲線において求められるtanδ曲線におけるピークを示す温度であるガラス転移温度Tgが、前記のとおり、水冷インフレ法にて成形して得られる200μm厚のシートによる測定においては、測定0℃以下で単一のピークを持ち、プレス法にて成形して得られる2mm厚のシートにおける測定では、0℃以下に単一ではないピークを示す必要がある。
水冷インフレ法において、Tgが単一のピークを持つためには、成分(A1)中のα−オレフィン含有量(α[A1])と成分(A2)中のα−オレフィン含有量(α[A2])との差(α[A1]−[α[A2])を20wt%以下、好ましくは16wt%以下にし、実際の測定においてTgが単一のピークとなる範囲までこれをを小さくすればよい。
また、プレス法において、Tgが単一ではないピークを持つためには、成分(A1)中のα−オレフィン含有量(α[A1])と成分(A2)中のα−オレフィン含有量(α[A2])との差(α[A1]−[α[A2])を7wt%以上、好ましくは10wt%以上にし、実際の測定においてTgが単一のピークとならない範囲までこれを大きくすればよい。
【0064】
(vii)主層(1)における成分(A)の割合
プロピレン系樹脂組成物(成分(A))の主層構成に占める割合は、成分(A)と成分(B)の合計量100wt%に対して、50〜90wt%の範囲であることが必要であり、好ましくは60〜85wt%である。
成分(A)の含有量が少なすぎると、良好な柔軟性、透明性が得られない。一方で、成分(A)の含有量が多くなりすぎると、低温下での耐衝撃性が低下しやすくなる。
【0065】
(2)エチレン−α−オレフィン共重合体(B)
・成分(B)の特性
本発明のプロピレン系樹脂シートの主層(1)のプロピレン系樹脂組成物(X)の一成分として用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体(B)(以下、成分(B)ということもある。)は、エチレンと、好ましくは炭素数3〜20のα−オレフィンを共重合して得られる共重合体であって、α−オレフィンとしては、炭素数3〜20、のもの、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン等を好ましく例示できる。成分(B)は、プロピレン系樹脂組成物(X)の透明性、柔軟性を向上させる働きをする成分であって、以下の(B−i)〜(B−ii)の条件を満たすことが必要である。
【0066】
本発明のプロピレン系樹脂シートには、柔軟性、透明性、耐低温衝撃性が要求される。透明性については、成分(B)の屈折率が成分(A)と大きく異なる場合には、得られるシートの透明性が悪化するため、屈折率を合わせることも重要である。屈折率は、密度によって制御可能であり、本発明において要求される透明性を得るには、密度を特定の範囲にすることが重要となる。
また、成分(A)の更なる耐低温衝撃性を強化するために成分(B)の添加が必要である。
【0067】
(B−i)密度
本発明に用いられる成分(B)は、密度が0.860〜0.910g/cmの範囲にあることが必要である。
密度が低くなりすぎると、屈折率差が大きくなり透明性が悪化するため、0.860g/cm未満の場合には、本発明に必要な透明性を確保することが出来ない。
一方、密度が高くなりすぎると、耐低温衝撃性、柔軟性、透明性が悪化する。このため密度は、0.910g/cm以下であることが必要であり、好ましくは0.905g/cm以下、より好ましくは0.900g/cm以下である。
ここで、密度は、JIS K7112に準拠して測定する値である。
【0068】
(B−ii)成分(B)のメルトフローレートMFR(B)
本発明の主層(1)は、成形性を確保するために適度な流動性を持っていることが必要である。
したがって、成分(B)のメルトフローレートMFR(190℃、2.16kg)(以下、MFR(B)ということもある。)が低くすぎると、流動性が不足し、分散不良が生じたりすることで透明性の低下を生じる。そこで、MFR(B)は、0.1g/10分以上であることが必要であり、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは1.0g/10分以上である。
一方で、MFR(B)が高すぎると成形が不安定で膜厚変動が生じる。そこで、MFR(B)は、20g/10分以下であることが必要であり、また10g/10分以下が好ましい。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
【0069】
・成分(B)の製造方法
本発明に用いられる成分(B)は、成分(A)との屈折率差を小さくするために、密度を低くすることが必要であり、さらに、ベタツキやブリードアウトを抑制するためには結晶性及び分子量の分布が狭いことが望ましい。そこで、成分(B)の製造には結晶性及び分子量分布の狭くできるメタロセン系触媒を用いることが望ましい。
以下にメタロセン触媒およびそれを用いた重合方法について説明する。
【0070】
(i)メタロセン系触媒
メタロセン触媒としては、エチレン−α−オレフィン共重合体の重合に用いられる公知の各種触媒を用いることが出来る。具体的には、特開昭58−19309号、特開昭59−95292号、特開昭60−35006号、特開平3−163088号の各公報などに記載されているメタロセン系触媒を例示できる。
【0071】
(ii)重合方法
具体的な重合方法としては、これらの触媒の存在下でのスラリー法、気相流動床法や溶液法、あるいは圧力が200kg/cm以上、重合温度が100℃以上での高圧バルク重合法などが挙げられる。好ましい製造法としては高圧バルク重合が挙げられる。
なお、成分(B)は、メタロセン系ポリエチレンとして市販されているものの中から適宜選択し使用することもできる。市販品としては、デュポンダウ社製商品名アフィニティー(AFFINITY)及びエンゲージ(ENGAGE)、日本ポリエチレン社製商品名カーネル(KERNEL)、エクソンモービル社製商品名エグザクト(EXACT)などが挙げられる。
これらの使用において、成分(B)の要件である密度とMFRを満足するグレードを適宜選択すればよい。
【0072】
・主層構成における成分(B)の割合
成分(B)の主層構成中に占める割合は、成分(A)および(B)の合計量100wt%に対して、10〜50wt%の範囲であることが必要である。成分(B)の含有量が10wt%より少ないと、耐低温衝撃性の付与が不十分である。一方で、成分(B)の含有量が多くなりすぎると、耐熱性が悪化し、またシートの厚みムラを生じ、良好な外観のシートを得ることができない。
成分(B)の好ましい含有量は、成分(A)、(B)の合計量100wt%に対して、15〜40wt%、特に好ましくは15〜35wt%である。
【0073】
(3)プロピレン系樹脂(C)
(3−1)成分(C)の特性
本発明のプロピレン系樹脂組成物(X)には、以下に示すプロピレン系樹脂(C)を加えることも好ましく、添加することで成形性、薄肉化抑制が改良される。
主層のプロピレン系樹脂組成物(X)の主成分として用いられる成分(A)は、積層シートに高い柔軟性と透明性を付与させるのに極めて有効であるが、成分(A1)は比較的低融点成分であるため、高結晶成分が少なく、ヒートシール時の薄肉化等の問題を有している。
そこで、成分(A)の結晶性分布を拡げ、相対的に高結晶成分を増やすそうとすると、必然的に低結晶成分も増し、結果として、それが積層シート表面へのブリードアウトによるべたつき、外観不良といった問題が生じさせるため、透明性が要求される用途には不向きとなる。
高結晶成分の少ない成分(A)に対し、成分(C)を特定量添加することにより、低結晶成分および低分子量成分の増加なしで、高結晶成分を増加させることができ、その結果として、ブリードアウトなどの外観不良を起こさずに、厚み変動や界面荒れなどの外観不良、ヒートシール時の薄肉化を抑制する事が可能となる。
【0074】
成分(C)は、以下の(C−i)〜(C−ii)の条件を満たすプロピレン系樹脂であり、例えばプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体が挙げられる。
【0075】
(C−i)融解ピーク温度Tm(C)
成分(C)として好ましいのは、融解ピーク温度(Tm(C))が、前記プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)の前記融解ピーク温度(Tm(A1))より高温、好ましくは6℃以上高温であるプロピレン系樹脂である。融解ピーク温度を高くすることにより、得られるシートに、ブリードアウトなどの外観不良を起こさずに、ヒートシール時の薄肉化を抑制する機能を付与させることができる。
成分(C)の具体的な融解ピーク温度Tm(C)は、150℃を超え170℃以下の範囲にあることが好ましい。Tm(C)が150℃以下であると高結晶成分が不足し、十分な流動性低下できず、ヒートシール時の薄肉化が悪化する。Tm(C)が170℃を超えるものは工業的に製造することは難しい。より好ましいTm(C)は、155〜170℃、より好ましくは158〜167℃である。
【0076】
(C−ii)メルトフローレートMFR(C)
また、成分(C)は、成形性を確保するために適度な流動性を有することが重要であり、流動性の尺度であるメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg荷重)(以下、MFR(C)ということもある。)が、0.5〜30g/10分の範囲にあることが好ましい。MFR(C)が0.5g/10分未満の場合には、分散が悪化し、ゲルやフィッシュアイと呼ばれる外観不良を引き起こしやすい。一方、30g/10分を超える場合には、シート成形性が悪化し易くなる。MFR(C)の好ましい上限は15g/10分、より好ましくは12g/10分、特に好ましいMFRの範囲としては2.5〜12g/10分である。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
【0077】
・成分(C)の製造方法
プロピレン系樹脂(C)は、上記の諸特性を満足すればいかなる方法で製造しても良い。プロピレン系(共)重合体成分(C1)とプロピレン−エチレンランダム共重合体(C2)からなる組成物を製造する場合には、別々に製造されたプロピレン系(共)重合体(C1)とプロピレン−エチレンランダム共重合体(C2)を混合装置を用いてプロピレン系樹脂(C)を製造してもよく、また、第1工程でプロピレン系(共)重合体(C1)を製造し、引き続き第2工程でプロピレン系(共)重合体(C1)の存在下にプロピレン−エチレンランダム共重合体(C2)を製造して、プロピレン系樹脂(C)を連続的に製造しても良い。
具体的な製造方法としては、特開2006−35516号公報、特開2001−172454号公報に記載されている製造方法を好ましく例示でき、ここでこれらを言及したことで同公報の全内容が本明細書に取り込まれたものとする。
【0078】
なお、成分(C)は市販されているものの中から適宜選択し、使用することもできる。市販品としては、日本ポリプロ社製商品名ノバテックPP(NOVATEC PP)、日本ポリプロ社製商品名ニューコン(NEWCON)、三菱化学社製商品名ゼラス(ZELAS)などが挙げられる。これらの使用において本発明での条件である融解ピーク温度、MFRを満足するグレードを適宜選択すればよい。
【0079】
・内層成分における成分(C)の割合
成分(C)を添加する場合、成分(C)が主層(1)中に占める割合は、前記した成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、1〜100重量部の範囲であることが好ましい。
このとき、成分(C)の量が少なすぎると、高結晶性成分が不足し、十分な薄肉化抑制効果を得ることが出来にくいため、5重量部以上であることが好ましく、より好ましくは10重量部以上である。逆に、成分(C)の量が多くなりすぎると、柔軟性や透明性等の物性低下が顕著になりやすく、本発明の樹脂組成物に要求される品質を満たすことが出来ないにくいため、70重量部以下であることが好ましく、より好ましくは50重量部以下である。
なお、本願発明において成分(C)を使用する場合は、プロピレン系樹脂組成物(X)に上記成分が含まれていればよく、例えば、特定の範囲に融解ピーク温度を示すプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)と、特定のα−オレフィン含有量を持つプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)は必ずしもプロピレン系樹脂組成物(A)という一つの組成物を形成する必要はない。このような例としては、連続重合法によって第1工程でプロピレン系樹脂(C)を重合した後、引き続き第2工程で特定のα−オレフィン含有量を持つプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を重合して得られた樹脂に、別途特定の範囲に融解ピーク温度を示すプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を混合して製造される場合が挙げられ、このような場合も本願発明の範囲に含まれる。
【0080】
2.外層(2)
本発明のシートには、主層(1)以外に外層(2)を配することが好ましい。外層を設ける場合、主層(1)(すなわち内層(1))と外層(2)の間に必要に応じて任意の層、例えば接着層を設けることも本発明の趣旨に反するものではない。
なお、外層を設ける場合、以後、主層(1)を内層(1)という。
外層(2)は耐熱性、透明性を損なわなければ特に限定されるものではなく、例えばポリエステル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、プロピレン系樹脂などが挙げられる。その中でもプロピレン系樹脂組成物(Y)から形成されることが好ましい。
・プロピレン系樹脂組成物(Y)の特性
プロピレン系樹脂シートの外層(2)として、好ましく用いられるプロピレン系樹脂組成物(Y)(以下、成分(Y)ということもある。)は、透明性及び、耐熱性が優れていることが重要である。シートとしての透明性を得るには内層(1)だけではなく、外層(2)も透明化しなければならない。加えて、外層(2)は、耐熱性も有していなければならず、殺菌、滅菌などの加熱処理でも変形しないこと、二次加工であるヒートシールにおいてヒートシールバーにくっつかないことが必要である。
【0081】
これらの要求を高い水準で満たすために、プロピレン系樹脂組成物(Y)は、融解ピーク温度Tm(D)が150〜170℃の範囲にあるプロピレン系樹脂(D)(以下、成分(D)ということもある。)を含有することが好ましい。
【0082】
(D−i)融解ピーク温度Tm(D)
成分(D)の融解ピーク温度Tm(D)は、150〜170℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは155〜170℃、更に好ましくは158〜168℃である。
Tm(D)が150℃未満であると、耐熱性が不十分であり、ヒートシール時にヒートシールバーにくっついてしまい易くなる問題がある。Tm(D)が170℃を超えるものは工業的に製造することは難しい。
【0083】
(D−ii)メルトフローレートMFR(D)
成分(D)は、積層時の界面荒れ、表面荒れを発生せず、また厚み変動などを起こさない易成形性を得るために適度な流動性を有することが重要であり、流動性の尺度であるメルトフローレートMFR(230℃、2.16kg荷重)(以下、MFR(D)ということもある。)は、2〜20g/10分の範囲にあることが好ましく、2〜15g/10分の範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは4〜15g/10分である。
MFR(D)が2g/10分未満の場合には界面荒れ、表面荒れを発生しやすく、外観良好なシートが得られない恐れがある。一方、MFR(D)が20g/10分を超える場合には厚み変動が起こりやすく、成形性に難がある場合が多い。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
【0084】
・成分(D)の製造方法
本発明で用いるプロピレン系樹脂(D)は、上記の融点範囲を満足すればプロピレンホモポリマーであってもよく、他のα−オレフィンとのランダム共重合体、あるいは他のα−オレフィンとのブロック共重合体であってもよい。
このような成分(D)はいかなる方法で製造しても良い。プロピレン系(共)重合体成分(D1)とプロピレン−エチレンランダム共重合体(D2)からなる組成物(いわゆるブロック重合体)を製造する場合には、別々に製造されたプロピレン系(共)重合体(D1)とプロピレン−エチレンランダム共重合体(D2)を混合装置を用いてプロピレン系樹脂(D)を製造しても、プロピレン系(共)重合体(D1)を製造し、引き続きプロピレン系(共)重合体(D1)の存在下にプロピレン−エチレンランダム共重合体(D2)を製造して、プロピレン系樹脂(D)を連続的に製造しても良い。
【0085】
なお、成分(D)は、市販されているものの中から適宜選択し、使用することもできる。市販品としては、日本ポリプロ社製商品名ノバテックPP(NOVATECPP)、日本ポリプロ社製商品名ニューコン(NEWCON)、三菱化学社製商品名ゼラス(ZELAS)などが挙げられる。これらの使用において本発明の条件である融解ピーク温度、MFRを満足するグレードを適宜選択すればよい。
【0086】
・エチレン−α−オレフィン共重合体(D3)
プロピレン系樹脂(D)には、さらに低温での耐衝撃性を付与するために、下記のエラストマー成分(D3)を添加してもよい。
プロピレン系樹脂シートの外層(2)に配合することのできるエラストマー成分としては、例えばエチレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンと好ましくは炭素数3〜20のα−オレフィンを共重合して得られる共重合体であって、α−オレフィンとしては、炭素数3〜20のもの、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン等を好ましく例示できる。
本発明に好適に用いることのできるエチレン−α−オレフィン共重合体としては、成分(D)との屈折率差を小さくするために、密度を合わせるが必要であり、さらに、ベタツキやブリードアウトを抑制するためには結晶性及び分子量分布が狭いことが望ましい。そこで、結晶性及び分子量分布の狭くできるメタロセン系触媒により重合されたものを用いることが望ましい。
【0087】
なお、成分(D3)としてのエチレン−α−オレフィン共重合体は、メタロセン系ポリエチレンとして市販されているものの中から適宜選択し使用することもできる。市販品としては、デュポンダウ社製商品名アフィニティー(AFFINITY)及びエンゲージ(ENGAGE)、日本ポリエチレン社製商品名カーネル(KERNEL)、エクソンモービル社製商品名エグザクト(EXACT)などが挙げられる。これらの使用においては、透明性、ベタツキ、ブリードアウト等の問題をおこさいよう適宜密度とMFRを選定すればよい。
また、他のエラストマー成分としては、スチレン系エラストマーを挙げることが出来る。スチレン系エラストマーとしては、市販されているものの中から適宜選択して使用することが出来る。例えばスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物としてクレイトンポリマージャパン(株)より「クレイトンG」として、また、旭化成工業(株)より「タフテック」の商品名で、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物として(株)クラレより「セプトン」の商品名で、スチレン−ビニル化ポリイソプレンブロック共重合体の水素添加物として(株)クラレより「ハイブラー」の商品名で、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物としてJSR(株)より「ダイナロン」の商品名販売されており、これらの商品群より適宜選択して用いてもよい。
【0088】
・外層における成分(Y)中の各成分の割合
本発明に好適に用いることのできる成分(D3)を用いる場合、成分(D)の外層(2)構成中に占める割合は、60〜99wt%の範囲であることが好ましく、成分(D3)の外層(2)構成中に占める割合は1〜40wt%の範囲であることが好ましい。より好ましくは成分(D)の含有量が70〜95wt%、成分(D3)の含有量が5〜30wt%である。
成分(D)の含有量が60wt%未満、即ち成分(D3)の含有量が40wt%以上であると、耐熱性が不十分であり加熱処理工程において変形が生じる恐れがある。成分(D)の含有量が99wt%以上、即ち成分(D3)の含有量が1wt%未満であると、低温耐衝撃性付与効果が不十分である。
【0089】
3.最内層(3)
本発明のシートは、最内層(3)を、外層(2)、内層(1)、最内層(3)の順で有する少なくとも3層からなるシートであることも好ましい。この最内層(3)は、シートのヒートシール性を制御するために、また、あるいは低温シール性や易剥離性の付与のため等に設けられるが、その目的は問わない。
最内層に使用する樹脂組成物(Z)には、特に制限はなく、その目的に応じて各種の樹脂を使用することができるが、積層時の界面荒れ、表面荒れを発生せず、また厚み変動などを起こさない易成形性を得るために適度な流動性を有することが好ましく、メルトフローレートMFR(230℃、2.16kg荷重)が、2〜15g/10分の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2.5〜10g/10分である。
樹脂組成物(Z)のMFR(MFR(Z)ともいう。)が2g/10分未満の場合には、界面荒れ、表面荒れを発生しやすく、外観良好なシートが得られない恐れがある。一方、MFR(Z)が15g/10分を超える場合には、厚み変動が起こりやすく、成形性に難がある。
ここで、MFRは、JIS K7210に準拠して測定する値である。
【0090】
最内層に使用する好ましい成分として、メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体と、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン−αオレフィン共重合体からなるプロピレン系樹脂組成物やプロピレン系樹脂組成物(A)とエチレン−α−オレフィン共重合体(B)およびプロピレン系樹脂(C)からなるプロピレン系樹脂組成物を好ましく例示することができる。
メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体の市販品としては、日本ポリプロ社製商品名「ウィンテック(WINTEC)」等を挙げることができ、エチレン−α−オレフィン共重合体の市販品としては、デュポンダウ社製商品名アフィニティー(AFFINITY)及びエンゲージ(ENGAGE)、日本ポリエチレン社製商品名カーネル(KERNEL)、エクソンモービル社製商品名エグザクト(EXACT)などが挙げられる。
【0091】
4.付加的成分(添加剤)
本発明のプロピレン系樹脂シートにおける内層(1)、外層(2)、最内層(3)に用いられる各プロピレン系樹脂組成物(X)、(Y)および(Z)は、シートとして好適に用いられるため、ブリードアウトなど本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意の添加剤を配合する事が出来る。このような任意成分としては、通常のポリオレフィン樹脂材料に使用される酸化防止剤、結晶核剤、透明化剤、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、中和剤、金属不活性剤、着色剤、分散剤、過酸化物、充填剤、蛍光増白剤等を挙げることが出来る。各種添加剤について以下に詳しく述べる。さらに本発明の効果を著しく損なわない範囲で、柔軟性を付与する成分としてエラストマーを配合することができる。
【0092】
(1)酸化防止剤
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸などを挙げることができる。
【0093】
燐系酸化防止剤の具体例としては、トリス(ミックスド、モノ及びジノニルフェニルホスファイト)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4´−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトなどを挙げることができる。
硫黄系酸化防止剤の具体例としては、ジ−ステアリル−チオ−ジ−プロピオネート、ジ−ミリスチル−チオ−ジ−プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリル−チオ−プロピオネート)などを挙げることができる。
これら酸化防止剤は、本目的の効果を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0094】
酸化防止剤の配合量は、各々の樹脂100重量部に対して0.01〜1.0重量部、好ましくは0.02〜0.5重量部、より好ましくは0.05〜0.1重量部、配合量が上記範囲未満では、熱安定性の効果が得られず、樹脂を製造する際に劣化が起こり、ヤケとなってフィッシュアイの原因となる。また、上記範囲を超えるとそれ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0095】
(2)アンチブロッキング剤
アンチブロッキング剤としては、平均粒子径1〜7μm、好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは、1〜4μmである。平均粒子径が1μm未満では、得られるシートの滑り性、開口性が劣り好ましくない。一方、7μmを超えると、透明性、傷つき性が著しく劣り好ましくない。ここで平均粒子径は、コールターカウンター計測による値である。
【0096】
アンチブロッキング剤の具体例としては、たとえば無機系としては、合成または天然のシリカ(二酸化珪素)、ケイ酸マグネシウム、アルミノシリケート、タルク、ゼオライト、硼酸アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、燐酸カルシウム等が使用される。
また、有機系としては、ポリメチルメタクリレート、ホリメチルシリルトセスキオキサン(シリコーン)、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド(ユリア樹脂)、フェノール樹脂等を用いることができる。
特に合成シリカ、ポリメチルメタクリレートが分散性、透明性、耐ブロッキング性、傷つき性のバランスから好適である。
また、アンチブロッキング剤は表面処理されたものを用いてもよく、表面処理剤としては、界面活性剤、金属石鹸、アクリル酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、フッソ樹脂、シランカップリング剤、ヘキサメタリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、トリメタリン酸ソーダ等の縮合リン酸塩等を用いることができ、特に有機酸処理なかでもクエン酸処理されたものが好適である。処理方法は特に限定されるものではなく、表面噴霧、浸漬等公知の方法を採用することができる。
アンチブロッキング剤はいかなる形状であってもよく球状、角状、柱状、針状、板状、不定形状等任意の形状とすることができる。
これらアンチブロッキング剤は、本目的の効果を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0097】
アンチブロッキング剤を配合する場合の配合量は、樹脂100重量部に対して0.01〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.7重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部である。配合量が上記範囲未満では、シートのアンチブロッキング性、滑り性、開口性が劣りやすくなる。上記範囲を超えるとシートの透明性を損ない、また、それ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0098】
(3)スリップ剤
スリップ剤としては、モノアマイド類、置換アマイド類、ビスアマイド類等が挙げられ、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
モノアマイド類の具体例としては、飽和脂肪酸モノアマイドとして、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘニン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド等が挙げられる。
不飽和脂肪酸モノアマイドとしては、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、リシノール酸アマイド等が挙げられる。
置換アマイド類の具体例としては、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−オレイルオレイン酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、N−ステアリルエルカ酸アマイド、N−オレイルパルチミン酸アマイド等が挙げられる。
ビスアマイド類の具体例としては、飽和脂肪酸ビスアマイドとして、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスイソステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘニン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アマイド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’−ジステアリルセパシン酸アマイドなどが挙げられる。
不飽和脂肪酸ビスアマイドとしては、エチレンビスオレイン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセパシン酸アマイドなどが挙げられる。
芳香族系ビスアマイドとしては、m−キシリレンビスステアリン酸アマイド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アマイドなどが挙げられる。
これらの中では、特に、脂肪酸アマイドのうち、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、ベヘニン酸アマイドが好適に使用される。
【0099】
スリップ剤を配合する場合の配合量としては、樹脂100重量部に対して、0.01〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.7重量部、より好ましくは0.1〜0.4重量部である。上記範囲未満では開口性や滑り性が劣り易くなる。上記範囲を超えると、スリップ剤の浮き出しが過剰となり、シート表面にブリードし透明性が悪化する。
【0100】
(4)核剤
核剤の具体例としては、2,2−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)燐酸ナトリウム、タルク、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールなどのソルビトール系化合物、ヒドロキシ−ジ(t−ブチル安息香酸アルミニウム、2,2−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)燐酸と炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸リチウム塩混合物((株)ADEKA製、商品名NA21)等が挙げられる。
上記核剤を配合する場合の配合量としては、各々の樹脂100重量部に対して、0.0005〜0.5重量部、好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは0.005〜0.05重量部である。上記範囲未満では核剤としての効果が得られない。上記範囲を超えると、それ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0101】
また、上記以外の核剤として高密度ポリエチレン樹脂を挙げることができる。高密度ポリエチレン樹脂としては、密度が、0.94〜0.98g/cm、好ましくは、0.95〜0.97g/cmである。密度がこの範囲を外れると透明性改良効果が得られない。高密度ポリエチレン樹脂の190℃メルトフローレイト(MFR)は、5g/10分以上、好ましくは7〜500g/10分、さらに好ましくは、10〜100g/10分である。MFRが5g/10分より小さいときは高密度ポリエチレン樹脂の分散径が充分に小さくならず、それ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。また、高密度ポリエチレン樹脂が微分散するためには、好ましくは高密度ポリエチレン樹脂のMFRが、本発明のプロピレン系樹脂のMFRより大きい方がよい。
【0102】
核剤として使用される高密度ポリエチレン樹脂の製造は、目的の物性を有する重合体を製造し得る限りその重合方法や触媒について特に制限はない。触媒については、チーグラー型触媒(すなわち、担持または非担持ハロゲン含有チタン化合物と有機アルミニウム化合物の組み合わせに基づくもの)、カミンスキー型触媒(すなわち、担持または非担持メタロセン化合物と有機アルミニウム化合物、特にアルモキサンの組み合わせに基づくもの)が挙げられる。高密度ポリエチレン系樹脂の形状については制限がなく、ペレット状であってもよく、また、粉末状であってもよい。
【0103】
核剤として使用する場合、高密度ポリエチレンの配合量としては樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。上記範囲未満では核剤としての効果が得られない。上記範囲を超えると、それ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0104】
(5)中和剤
中和剤の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ミズカラック(水沢化学工業(株)製)などを挙げることができる。
中和剤を配合する場合の配合量は、樹脂100重量部に対して0.01〜1.0重量部、好ましくは0.02〜0.5重量部、より好ましくは0.05〜0.1重量部である。配合量が上記範囲未満では、中和剤としての効果が得られず、押出機内部の劣化樹脂を掻き出してフィッシュアイの原因となる。また、上記範囲を超えるとそれ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0105】
(6)光安定剤
光安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤が好適に使用され、従来公知のピペリジンの2位および6位の炭素に結合している全ての水素がメチル基で置換された構造を有する化合物が特に限定されることなく用いられるが、具体的には以下のような化合物が用いられる。
具体例としては、琥珀酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、N,N−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル}イミノ]、ポリ[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]などを挙げることができる。
これらのヒンダードアミン系安定剤は、本目的の効果を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0106】
ヒンダードアミン系安定剤を配合する場合の配合量は、樹脂100重量部に対して0.005〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、さらに好ましくは0.05〜0.5重量部とするのが望ましい。
ヒンダードアミン系安定剤の含有量が、0.005重量部未満であると、耐熱性、耐老化性等の安定性の向上効果がなく、2重量部より多いとそれ自体が異物となってフィッシュアイの原因となり好ましくない。
【0107】
(7)帯電防止剤
帯電防止剤としては、従来から静電防止剤または帯電防止剤として使用されている公知のものであれば特に限定されることなく使用でき、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
上記アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸またはロジン酸セッケン、N−アシルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミン塩等のカルボン酸塩;スルホコハク酸塩、エステルスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、硫酸アルキルポリオキシエチレン塩、硫酸エーテル塩、硫酸アミド塩等の硫酸エステル塩;リン酸アルキル塩、リン酸アルキルポリオキシエチレン塩、リン酸エーテル塩、リン酸アミド塩等のリン酸エステル塩などが挙げられる。
【0108】
上記カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩等のアミン塩;アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、アルキルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロリド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、テトラアルキルアンモニウム塩、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)ジアルキルアンモニウム塩、N−アルキルアルカンアミドアンモニウムの塩等の第4級アンモニウム塩;1−ヒドロキシエチル−2−アルキル−2−イミダゾリン、1−ヒドロキシエチル−1−アルキル−2−アルキル−2−イミダゾリン等のアルキルイミダゾリン誘導体;イミダゾリニウム塩、ピリジニウム塩、イソキノリニウム塩などが挙げられる。
【0109】
上記非イオン性界面活性剤としては、アルキルポリオキシエチレンエーテル、p−アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル等のエーテル形;脂肪酸ソルビタンポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸ソルビトールポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸グリセリンポリオキシエチレンエーテル等のエーテルエステル形;脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、2価アルコールエステル、ホウ酸エステル等のエステル形;ジアルコールアルキルアミン、ジアルコールアルキルアミンエステル、脂肪酸アルカノールアミド、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)アルカンアミド、アルカノールアミンエステル、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)アルカンアミン、アミンオキシド、アルキルポリエチレンイミン等の含窒素形などが挙げられる。
【0110】
上記両性界面活性剤としては、モノアミノカルボン酸、ポリアミノカルボン酸等のアミノ酸形;N−アルキルアミノプロピオン酸塩、N,N−ジ(カルボキシエチル)アルキルアミン塩等のN−アルキル−β−アラニン形;N−アルキルベタイン、N−アルキルアミドベタイン、N−アルキルスルホベタイン、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)アルキルベタイン、イミダゾリニウムベタイン等のベタイン形;1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシ−1−ヒドロキシエチル−2−アルキル−2−イミダゾリン、1−スルホエチル−2−アルキル−2−イミダゾリン等のアルキルイミダゾリン誘導体などが挙げられる。
【0111】
これらの中では、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が好ましく、中でもモノグリセリド、ジグリセリド、ホウ酸エステル、ジアルコールアルキルアミン、ジアルコールアルキルアミンエステル、アミド等のエステル形または含窒素形の非イオン性界面活性剤;ベタイン形の両性界面活性剤が好ましい。
【0112】
なお、帯電防止剤としては、市販品を使用することができ、例えば、エレクトロストリッパーTS5(花王(株)製、商標、グリセリンモノステアレート)、エレクトロストリッパーTS6(花王(株)製、商標、ステアリルジエタノールアミン)、エレクトロストリッパーEA(花王(株)製、商標、ラウリルジエタノールアミン)、エレクトロストリッパーEA−7(花王(株)製、商標、ポリオキシエチレンラウリルアミンカプリルエステル)、デノン331P(丸菱油化(株)製、商標、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート)、デノン310(丸菱油化(株)製、商標、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル)、レジスタットPE−139(第一工業製薬(株)製、商標、ステアリン酸モノ&ジグリセリドホウ酸エステル)、ケミスタット4700(三洋化成(株)製、商標、アルキルジメチルベタイン)、レオスタットS(ライオン(株)製、商標、アルキルジエタノールアミド)などが挙げられる。
【0113】
帯電防止剤を配合する場合の配合量は、樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部、好ましくは0.05〜1重量部、さらに好ましくは0.1〜0.8重量部、もっとも好ましくは0.2〜0.5重量部である。これら帯電防止剤は、本目的の効果を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。帯電防止剤の配合量が、0.01重量部未満では、表面固有抵抗を減らして帯電による障害を防止することができない。2重量部より多いとブリードによるシート表面に粉吹きが発生しやすくなる。
【0114】
(8)エラストマー
特に限定されるものではないが、例えば、エラストマーとしては、スチレン系エラストマーを挙げることが出来る。スチレン系エラストマーとしては、市販されているものの中から適宜選択して使用することが出来る。例えばスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物としてクレイトンポリマージャパン(株)より「クレイトンG」として、また、旭化成工業(株)より
「タフテック」の商品名で、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物として(株)クラレより「セプトン」の商品名で、スチレン−ビニル化ポリイソプレンブロック共重合体の水素添加物として(株)クラレより「ハイブラー」の商品名で、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物としてJSR(株)より「ダイナロン」の商品名で販売されており、これらの商品群より適宜選択して用いてもよい。
【0115】
[II]プロピレン系樹脂シート各層構成樹脂組成物の製造
本発明のプロピレン系樹脂シートにおける内層(1)を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)は、上述したプロピレン系樹脂組成物(A)、エチレン−α−オレフィン共重合体(B)、および必要に応じてプロピレン系樹脂(C)、さらに、他の付加的成分をヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリミキサー等の混練機により混練する方法により得られる。
【0116】
本発明のプロピレン系樹脂シートにおける外層(2)を構成するプロピレン系樹脂組成物(Y)は、上述したプロピレン系樹脂(D)、および必要に応じて他の付加的成分をヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリミキサー等の混練機により混練する方法により得られる。
【0117】
本発明のプロピレン系樹脂シートにおける最内層(3)を構成するプロピレン系樹脂組成物(Z)は、所望の樹脂成分に、必要に応じて他の付加的成分をヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリミキサー等の混練機により混練する方法により得られる。
また、上記各成分は同時に混合してもよいし、一部をマスターバッチとした上で、混合混練してもよい。
【0118】
[III]プロピレン系樹脂シート
本発明のプロピレン系樹脂シートは、上記プロピレン系樹脂組成物を用い公知の方法で製造することができる。例えば、Tダイ、サーキュラーダイを用いた押出成形等の公知の技術によって製造する。
本発明のプロピレン系樹脂シートは、シート全体の厚みを100としたときの内層の割合が50乃至98であり、好ましくは60乃至90である。内層の割合が50より少ないと、柔軟性、耐衝撃性が劣りやすくなり、98を越えると耐熱性が劣りやすくなる。
本発明のプロピレン系樹脂シートの外層は、シート全体の厚みを100としたときに、2以上50未満であり、好ましくは5以上30未満である。
本発明のプロピレン系樹脂シートに更に最内層を設ける場合は、シートの全体の厚みを100としたときに2以上48未満であることが好ましく、より好ましくは5以上30未満である。
本発明のプロピレン系樹脂シートは、柔軟性、透明性、耐衝撃性、耐熱性、クリーン性に優れ、厚みムラ、界面荒れなどの外観不良による透明性悪化を抑制でき、かつ、極低温下での耐衝撃性に優れるため、殺菌や滅菌などの加熱処理工程が必要な加熱処理用包装袋、特に輸液バッグ等に好適である。
【0119】
本発明のプロピレン系樹脂シートは、加熱処理後も優れた柔軟性を有していることを特徴としており、柔軟性の尺度である引張弾性率が、400MPa以下であることが望ましい。引張弾性率が400MPa以下、好ましくは380MPa以下、更に好ましくは350MPaであると、ごわごわ感がなくなるため、触感が良く、高級感を醸し出すことが出来るという点で非常に優れている。
【0120】
本発明のプロピレン系樹脂シートは、透明性の尺度である内部ヘイズ(Haze)が加熱処理後で10%以下、好ましくは8%以下、更に好ましくは7%以下であると内容物を明瞭に見せることができ、内容物に異物が入っていないかどうか確認可能であるという点で非常に優れている。
【0121】
本発明のプロピレン系樹脂シートは、耐衝撃性、とりわけ、例えば−25℃等の極低温での耐衝撃性が優れており、低温衝撃性の尺度である−25℃における衝撃強度試験において5kJ/m以上という優れた耐衝撃性を有し、運搬工程、保存工程などで万が一落としても破袋せず、製品として使用可能であるという点で優れている。
【0122】
また、本発明のプロピレン系樹脂シートは、優れた耐熱性を有しており、121℃前後の加熱処理を行っても変形を起こさないという優れた耐熱性を有している。変形したものは外観が悪く、製品価値が下がってしまい、製品として用いることはできない。
また、本発明のプロピレン系樹脂シートは優れたクリーン性を有しており、内容物と接する最内層(3)において内容物を汚染する可能性がある低分子量成分、低規則性成分が極めて少ないメタロセン触媒を用いて得られるプロピレン系樹脂組成物を使用することが望ましい。
【0123】
また、本発明のプロピレン系樹脂シートはヒートシールを行った場合のヒートシール部の形状保持温度が高く、2次加工適性に優れている。一般に、プロピレン系樹脂シートをヒートシールすると、大幅に形状が変化する、即ちヒートシール部が極端に薄肉となったり、ヒートシール部の周囲に極端な肉厚部ができるような温度が存在する。ここでいう形状保持温度は、ヒートシールによって上記のような大幅な形状変化を起こさない上限温度のことをいい、具体的には以下の方法によって決定される。即ち、プロピレン系樹脂シートをヒートシール(ヒートシール条件:圧力3.4kgf/cm、時間1.5秒、温度120〜170℃を5℃刻み)し、当該ヒートシール部を光学顕微鏡にて観察する。ヒートシール部の変形度合を目視で確認し、ヒートシールによって大幅に形状が変化した、即ちヒートシール部が極端に薄肉となったり、ヒートシール部の周囲に極端な肉厚部ができるような温度を測定し、その温度から5℃低い温度を形状保持温度とする。形状保持温度が140℃以上であると、ヒートシール部の薄肉化が抑制され、強度保持に優れており、145℃以上が好ましく、150℃以上が特に好ましい。
【実施例】
【0124】
以下において、本発明をより具体的にかつ明確に説明するために、本発明を実施例及び比較例との対照において説明し、本発明の構成の要件の合理性と有意性を実証するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた物性測定法、特性評価法、樹脂材料は以下の通りである。
【0125】
1.樹脂物性の測定方法
(1)MFR:
プロピレン系樹脂組成物(A)、プロピレン系樹脂(C)、プロピレン系樹脂(D)は、JIS K7210 A法 条件Mに従い、試験温度:230℃、公称荷重:2.16kg、ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mmで測定した。
エチレン−α−オレフィン共重合体(B)は、JIS K7210 A法 条件Dに従い、試験温度:190℃、公称荷重:2.16kg、ダイ形状:直径2.095mm 長さ8.00mmで測定した。
(2)密度:
JIS K7112 D法に準拠して密度勾配管法で測定した。
(3)融解ピーク温度:
セイコー社製DSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度を測定した。
【0126】
(4)固体粘弾性測定
試料は、下記条件により水冷インフレ成形で得た厚さ200μmのシートおよび下記条件にてプレス成形して得た厚さ2mmのシートから、10mm幅×18mm長の短冊状に切り出したものを用いた。なお、厚さ200μmのシートを使用する場合に応力の検知が困難な場合は、当該シートを2枚重ねて測定を行った。装置はレオメトリック・サイエンティフィック社製のARESを用いた。周波数は1Hzである。測定温度は−60℃から段階状に昇温し、試料が融解して測定不能になるまで測定を行った。歪みは0.1〜0.5%の範囲で行った。
水冷インフレ成形(後記プロピレン系樹脂PP(A−1)〜PP(A−3)に対して):
内層用押出機として、口径50mmの単軸押出機、外層用および最内層用押出機として、口径40mmの単軸押出機を用い、全ての押出機にプロピレン系樹脂Aを投入し、マンドレル口径100mm、Lip幅3.0mmのサーキュラーダイから設定温度200℃にて押出し、20℃に調整した水冷リングにて水冷して、10m/minの速度で、折り幅200mmとなるように、水冷インフレーション成形を行い、厚さ200μmのシートを得た。
水冷インフレ成形(後記プロピレン系樹脂PP(A−4)〜PP(A−9)に対して):
内層用押出機として、口径30mmの単軸押出機、外層用および最内層用押出機として、口径18mmの単軸押出機を用い、全ての押出機にプロピレン系樹脂Aを投入し、マンドレル口径50mm、Lip幅1.0mmのサーキュラーダイから設定温度200℃にて押出し、10℃に調整した水冷リングにて水冷して、3m/minの速度で、折り幅90mmとなるように、水冷インフレーション成形を行い、厚さ200μmのシートを得た。
プレス成形:
230℃にて5分予熱を与え、続いて同温度で50kgf/cmの圧力で3分間加圧し、即座に30℃に調整したプレス機にて100kgf/cmの圧力をかけて冷却固化を行い、厚さ2mmのプレスシートを得た。
【0127】
(5)成分(A1)、(A2)の量W(A1)、W(A2)および成分(A1)、(A2)のα−オレフィン含有量α[A1]、α[A2]は、前述の方法で測定した。
【0128】
2.シートの評価方法
(1)耐熱性:
<実施例1、比較例1、2の積層シートの耐熱性評価>
円筒状になっているプロピレン系樹脂シートを流れ方向に210mmの大きさに切り出し、切り出した一方をヒートシール(ヒートシール条件:圧力3.4kgf/cm、時間1.5秒、温度150℃、テスター産業社製ヒートシーラー)して袋状にした。ついで、その中に純水を500ml充填し、もう一辺をヒートシーラーを用いてヒートシールして密封した。ヒートシールとヒートシールの間の距離は200mmとなるようにシールした。このようにして得られたサンプル袋を、高温高圧調理殺菌試験機(日阪製作所製、RCS−40RTGN型)の中に入れた後、加圧し、121℃まで雰囲気温度を上昇させて、その温度を30分間保持した。その後、約40℃まで冷却し、該サンプル袋を試験機から取り出した。(以下、この殺菌処理をしたシート(サンプル袋)を加熱処理後シートということもある。)
加熱処理後シートの耐熱性評価は以下の基準で行った。
×:変形、しわ、内面融着を起こしており、使用不可
○:変形、しわ、内面融着を起こしていないか、ごく僅かであり使用可能なレベル
なお、結果の表4の項目欄においては、外観と表記した。
【0129】
<実施例2〜37、比較例3〜7の積層シートの耐熱性評価>
円筒状になっているプロピレン系樹脂シートを流れ方向に210mmの大きさに切り出し、切り出した一方を、ヒートシーラーを用いてヒートシール(ヒートシール条件:圧力3.4kgf/cm、時間1.5秒、温度150℃、テスター産業社製ヒートシーラー)して袋状にした。ついでその中に純水を250ml充填し、もう一辺をヒートシーラーを用いてヒートシールして密封した。ヒートシールとヒートシールの間の距離は200mmとなるようにシールした。このようにして得られたサンプル袋を、高温高圧調理殺菌試験機(日阪製作所製、RCS−40RTGN型)の中に入れた後、加圧し、121℃まで雰囲気温度を上昇させて、その温度を30分間保持した。その後、約40℃まで冷却し、該サンプル袋を試験機から取り出した。(以下、この殺菌処理をしたシート(サンプル袋)を加熱処理後シートということもある。)
加熱処理後シートの耐熱性評価は以下の基準で行った。
×:変形、しわ、内面融着を起こしており、使用不可
○:変形、しわ、内面融着を起こしていないか、ごく僅かであり使用可能なレベル
なお、結果の表4の項目欄においては、外観と表記した。
【0130】
(2)透明性(内部ヘイズ):
加熱処理後積層シートの両面を流動パラフィンによりスライドグラスで密着させ、JIS−K7136−2000に準拠し、ヘイズメータで測定した。得られた値が小さいほど透明性がよいことを意味し、この値が10%以下であると内容物確認しやすく、ディスプレイ効果を得る点で優れており、8%以下が好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0131】
(3)柔軟性(引張弾性率):
JIS K7127−1989に準拠し、下記の条件にて、加熱処理後積層シートの流れ方向(MD)についての引張弾性率を測定した。得られた値が小さいほど柔軟性に優れていることを意味し、この値が400MPa以下であると触感のよい手触りで高級感を得る点で優れており、380MPa以下が好ましく、350MPa以下が特に好ましい。
サンプル長さ:110mm
サンプル幅:10mm
チャック間距離:50mm
クロスヘッド速度:0.5mm/min
【0132】
(4)衝撃強度(単位:KJ/m):
東洋精機製フィルムインパクトテスターを用い、単位シート厚み当たりの貫通破壊に要した仕事量を測定した。具体的には、加熱処理後の積層シートを−25℃の雰囲気下に24時間以上放置し、状態調整を行った後、−25℃にて試験シートを直径50mmのホルダーに固定し、12.7mmφの半球型の金属貫通部を打撃させ、貫通破壊に要した仕事量(KJ)から、そのシートの衝撃に対する脆さを測定した。この値が5KJ/m以上であると極低温での輸送工程を経ても破袋を抑制できる点で優れていることを示している。
【0133】
(5)2次加工適性(形状保持温度):
円筒状になっているプロピレン系樹脂シートを流れ方向に100mmの大きさに切り出し、切り出した一方をヒートシール(ヒートシール条件:圧力3.4kgf/cm、時間1.5秒、温度120〜170℃を5℃刻み)し、23℃、50%RH雰囲気下で24時間状態調整した。
その後、プロピレン系樹脂シートのヒートシール部の中央部を流れ方向に切り出し、ミクロトームにて流れ方向断面を20μm厚の切片を得た。切片を光学顕微鏡にて観察し、ヒートシール部の変形度合を目視で確認した。この観察では、急激に変形度合が大きくなる(ヒートシール部が極端に薄肉となったり、ヒートシール部の周囲に極端な肉厚部ができる)温度が観察される。ヒートシール後に急激に変形度合が大きくなる温度より5℃低い温度を、形状保持温度とした。形状保持温度が140℃以上であると、ヒートシール部の薄肉化が抑制され強度保持に優れていることを示している。
【0134】
3.使用樹脂
(1)内層用プロピレン系樹脂組成物(A)
下記の製造例(A−1)〜(A−7)により逐次重合で得られたプロピレン系樹脂組成物PP(A−1)〜PP(A−7)およびブレンドによって得られたプロピレン系樹脂組成物PP(A−8)、PP(A−9)を用いた。
【0135】
[製造例(A−1):PP(A−1)の製造]
(i)予備重合触媒の調製
(珪酸塩の化学処理)
10リットルの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製商品名「ベンクレイSL」;平均粒径=25μm、粒度分布=10〜60μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の重量は707gであった。
【0136】
(珪酸塩の乾燥)
先に化学処理した珪酸塩は、キルン乾燥機により乾燥を実施した。仕様及び乾燥条件は以下の通りである。
回転筒:円筒状 内径50mm 加温帯550mm(電気炉)
かき上げ翼付き回転数:2rpm 傾斜角:20/520
珪酸塩の供給速度:2.5g/分
ガス流速:窒素 96リットル/時間
向流乾燥温度:200℃(粉体温度)
【0137】
(触媒の調製)
撹拌および温度制御装置を有する内容積16リットルのオートクレーブを窒素で充分置換した。乾燥珪酸塩200gを導入し、混合ヘプタン1160ml、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)840mlを加え、室温で攪拌した。1時間後、混合ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2,000mlに調製した。次に、先に調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M/L)9.6mlを添加し、25℃で1時間反応させた。平行して、(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム2,180mg(0.3mM)と混合ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)33.1mlを加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間攪拌後、混合ヘプタンを追加して5,000mlに調製した。
【0138】
(予備重合/洗浄)
続いて、槽内温度を40℃昇温し、温度が安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。4時間後プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。
予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄みを2,400mlデカントした。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のヘプタン溶液9.5ml、さらに混合ヘプタンを5,600ml添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを5,600ml除いた。さらにこの操作を3回繰り返した。最後の上澄み液の成分分析を実施したところ有機アルミニウム成分の濃度は、1.23mM/L、Zr濃度は8.6×10−6g/Lであり、仕込み量に対する上澄み液中の存在量は0.016%であった。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のヘプタン溶液を170ml添加した後に、45℃で減圧乾燥を実施した。触媒1g当たりポリプロピレンを2.0g含む予備重合触媒が得られた。
この予備重合触媒を用いて、以下の手順に従ってプロピレン系樹脂組成物の製造を行った。
【0139】
(ii)第一重合工程
攪拌羽根を有する横型反応器(L/D=6、内容積100リットル)を十分に乾燥し、内部を窒素ガスで十分に置換した。ポリプロピレン粉体床の存在下、回転数30rpmで攪拌しながら、反応器の上流部に上記の方法で調整した予備重合触媒を(予備重合パウダーを除いた固体触媒量として)0.568g/hr、トリイソブチルアルミニウムを15.0mmol/hrで連続的に供給した。反応器の温度を65℃、圧力を2.1MPaGに保ち、且つ反応器内気相部のエチレン/プロピレンモル比が0.07、水素濃度が100ppmになるように、モノマー混合ガスを連続的に反応器内に流通させ、気相重合を行った。反応によって生じた重合体パウダーは、反応器内の粉体床量が一定になるように、反応器下流部より連続的に抜き出した。この時、定常状態になった際の重合体抜き出し量は10.0kg/hrであった。
第一重合工程で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合を分析したところ、MFRは6.0g/10分、エチレン含有量は2.2wt%であった。
【0140】
(iii)第二重合工程
攪拌羽根を有する横型反応器(L/D=6、内容積100リットル)に、第一工程より抜き出したプロピレン−エチレン共重合体を連続的に供給した。回転数25rpmで攪拌しながら、反応器の温度を70℃、圧力を2.0MPaGに保ち、且つ反応器内気相部のエチレン/プロピレンモル比が0.453、水素濃度が330ppmになるように、モノマー混合ガスを連続的に反応器内に流通させ、気相重合を行った。反応によって生じた重合体パウダーは、反応器内の粉体床量が一定になるように、反応器下流部より連続的に抜き出した。この時、重合体抜き出し量が17.9kg/hrになるように活性抑制剤として酸素を供給し、第二重合工程での重合反応量を制御した。活性は31.429kg/g−触媒であった。
こうして得られたプロピレン系樹脂組成物PP(A−1)の各種分析結果を、表3に示す。
【0141】
造粒
更に得られたプロピレン系樹脂PP(A−1)100重量部に対し、下記酸化防止剤1を0.05重量部、下記酸化防止剤2を0.05重量部添加し、充分に撹拌混合し、スクリュ口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュ回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することでプロピレン系樹脂組成物PP(A−1)を得た。
酸化防止剤1:
テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガノックス1010」)
酸化防止剤2:
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガホス168」)
【0142】
[製造例(A−2)〜(A−7):PP(A−2)〜PP(A−7)の製造]
水素濃度とエチレン/プロピレン供給比率および重合圧力、重合温度を適宜変更した以外は製造例(A−1)と同様の製法で触媒調整、重合、分析および造粒を行った。
【0143】
[製造例(A−8)]
成分(A1)として、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFW4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7、融点135℃)56wt%、成分(A2)として、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「VISTAMAXX 3000」(商品名、エクソンモービルケミカル社製、MFR8、エチレン含量11wt%)44wt%を二軸スクリュ押出機により混練したものを用いた。
【0144】
[製造例(A−9)]
成分(A1)として、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFW4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7、融点135℃)56wt%、成分(A2)として、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「VISTAMAXX 3000」(商品名、エクソンモービルケミカル社製、MFR8、エチレン含量11wt%)22wt%およびメタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「VISTAMAXX 6102」(商品名、エクソンモービルケミカル社製、MFR3、エチレン含量16wt%)22wt%を二軸スクリュ押出機により混練したものを用いた。
【0145】
得られたプロピレン系樹脂組成物(A−2)〜(A−9)の各種分析結果を表3に示す。これらのうち、(A―2)、(A−4)〜(A−6)、(A−9)は本発明の要件を満たすものであり、(A−1)、(A−3)、(A−7)及び(A−8)は本発明の要件を満たさないものである。
【0146】
【表3】

【0147】
(2)内層用エチレン−α−オレフィン共重合体(B)
下記製造例(B−1)〜(B−3)で得られた樹脂PE(B−1)〜PE(B−3)および市販品の後記PE(B−4)〜PE(B−8)を使用した。
【0148】
(製造例B−1)
エチレンとヘキセン−1の共重合体を製造した。触媒の調製は、特表平7−508545号公報の実施例の「触媒系の調製」に記載された方法で実施した。即ち、錯体ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ハフニウムジメチル2.0ミリモルに、トリペンタフルオロフェニルホウ素を上記錯体に対して等倍モル加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器にエチレンと1−ヘキセンとの混合物を1−ヘキセンの組成が73重量%となるように供給し、反応器内の圧力を130MPaに保ち、127℃で反応を行った。1時間あたりのポリマー生産量は約2.5kgであった。
反応終了後、得られたポリマーの各種分析を行った。得られたエチレン−α−オレフィン共重合体PE(B−1)の各種分析結果を表4に示す。
【0149】
(製造例B−2〜B−3)
重合時の1−ヘキセンの組成と重合温度を表4に示すように変えた以外は製造例(B−1)と同様の製法で触媒調整及び重合を行った。
反応終了後、得られたポリマーの各種分析を行った。
【0150】
使用した市販品は以下のとおりである。
(B−4):市販品 三井化学社製商品名「タフマー A−1085S」
(メタロセン触媒によるエチレン−α−オレフィン共重合体)
(B−5):市販品 三井化学社製商品名「タフマー A−4085S」
(メタロセン触媒によるエチレン−αオレフィン共重合体)
(B−6):市販品 ダウケミカル社製商品名「エンゲージ EG8003」
(メタロセン触媒によるエチレン−α−オレフィン共重合体)
(B−7):市販品 日本ポリエチレン社製商品名「KERNEL KF283」
(メタロセン触媒によるエチレン−α−オレフィン共重合体)
(B−8):市販品 日本ポリエチレン社製商品名「KERNEL KJ640T」
(メタロセン触媒によるエチレン−αオレフィン共重合体)
【0151】
PE(B−1)〜PE(B−8)の各種分析結果を表4に示す。PE(B−1)〜PE(B−6)は、成分(B)として本発明の要件を全て満たすものである。
一方、PE(B−7)、PE(B−8)は、成分(B)として本発明の要件を満たさないものである。
【0152】
【表4】

【0153】
(3)内層用プロピレン系樹脂(C)
市販品の後記プロピレン系樹脂PP(C−1)、PP(C−2)および下記製造例(C−3)、(C−4)で得られたプロピレン系樹脂樹脂PP(C−3)〜PP(C−4)を使用した。
PP(C−1)
市販品、日本ポリプロ社製商品名「ノバテックPP MA3」
プロピレン単独重合体 MFR11、融点163℃
PP(C−2)
市販品 日本ポリプロ社製商品名「ノバテックPP FY6H」
プロピレン単独重合体 MFR2、融点167℃
【0154】
(製造例C−3)
(i)固体成分触媒の製造
窒素置換した内容積50リットルの攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン20リットルを導入し、次いで塩化マグネシウム4モルとテトラブトキシチタン8モルとを導入して95℃で2時間反応させた後、温度を40℃に下げ、メチルヒドロポリシロキサン(20センチストークスのもの)480mlを添加して更に3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
続いて、前記と同様の攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン15lを導入し、次いで固体成分をマグネシウム原子換算で3モルを加え、更に四塩化珪素8モルをn−ヘプタン25mlに加えた混合液を30℃で30分間かけて導入して、温度を90℃に昇温して、1時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
更に、前記と同様の攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン5lを導入し、次いで上で得られた四塩化珪素処理したチタン含有固体成分250gと、1,5−ヘキサジエン750g、t−ブチル−メチル−ジメトキシシシラン130ml、ジビニルジメチルシラン10ml、トリエチルアルミニウム225gをそれぞれ導入して30℃で2時間接触させた後、反応液を取り出し、n−ヘプタンで洗浄して固体成分触媒を得た。
得られた固体成分触媒は、1,5−ヘキサジエンの予備重合量がチタン含有固体成分あたり、2.97gであった。
【0155】
(ii)プロピレン/プロピレン−エチレンの2段重合
内容積550リットルの第1段反応器に、温度70℃で加圧下(70℃においては約3.2MPaになる)において、プロピレンとトリエチルアルミニウムおよび、重合生成速度が20kg/時間となるような量の前記固体成分触媒とを連続的に供給し、更に分子量調整剤として水素をやはり連続的に供給して、液相中で第1段階の重合を実施した。
続いて、プロピレンパージ槽を経由して、生成重合体を内容積1900リットルの第2段反応器に導入し、温度60℃で圧力3.0MPaになるように、目的とする共重合体の組成割合に応じたプロピレンとエチレンとを連続的に供給し、更に分子量調整剤として水素を連続的に供給するとともに、活性水素化合物(エタノール)を、第1段階で供給した固体成分触媒中のチタン原子に対して200倍モルで、トリエチルアルミニウムに対して2.5倍モルになるように供給して、気相中で重合を実施し、生成重合体を連続的にベッセルに移した後、水分を含んだ窒素ガスを導入して反応を停止させた(第2段階重合)。
【0156】
造粒
得られたプロピレン系樹脂PP(C−3)100重量部に対し、下記酸化防止剤1を0.05重量部、下記酸化防止剤2を0.05重量部、下記中和剤1を0.02重量部添加し、充分に撹拌混合し、スクリュ口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュ回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することでプロピレン系樹脂組成物PP(C−3)を得た。
酸化防止剤1:
テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガノックス1010」
酸化防止剤2:
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製商品名「イルガホス168」
中和剤1:
マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート
協和化学工業(株)製商品名「DHT−4A」
【0157】
(製造例C−4)
特許第4389307号の実施例1に記載の方法と同様の操作を実施し、エチレン含量が20重量%のプロピレン系樹脂のパウダーを得た。
造粒
得られたプロピレン系樹脂PP(C−4)100重量部に対し、上記酸化防止剤1を0.05重量部、上記酸化防止剤2を0.05重量部、上記中和剤1を0.02重量部、下記有機化酸化物1を0.018重量部添加し、充分に撹拌混合し、スクリュ口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュ回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することでプロピレン系樹脂組成物PP(C−4)を得た。
有機化酸化物1:
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン
日油(株)製商品名「パーヘキサ25B」
PP(C−1)〜PP(C−4)の各種分析結果を表5に示す。
【0158】
【表5】

【0159】
(4)内層用のその他成分
スチレン系エラストマー
クレイトン社製商品名「クレイトン G1645MO」を用いた。
なお、後記表中では、「StEL」と表記する。
【0160】
(5)外層用プロピレン系樹脂(D)
市販品の後記プロピレン系樹脂PP(D−1)および下記製造例(D−2)、(D−3)で得られたプロピレン系樹脂PP(D−2)〜PP(D−3)を使用した。
PP(D−1):日本ポリプロ社製商品名「ノバテックPP MA3」
プロピレン単独重合体 MFR11、融点163℃
【0161】
(製造例D−2)
日本特許第4389307号公報の実施例1に記載の方法と同様の操作を実施し、エチレン含量が20重量%のプロピレン系樹脂のパウダーを得た。
造粒
得られたプロピレン系樹脂PP(D−2)100重量部に対し、前記酸化防止剤1を0.05重量部、前記酸化防止剤2を0.05重量部、前記中和剤1を0.02重量部、前記有機化酸化物1を0.018重量部添加し、充分に撹拌混合し、スクリュ口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュ回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することでプロピレン系樹脂組成物PP(D−2)を得た。
【0162】
(製造例D−3)
(i)固体成分触媒の製造
窒素置換した内容積50リットルの攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン20リットルを導入し、次いで塩化マグネシウム4モルとテトラブトキシチタン8モルとを導入して95℃で2時間反応させた後、温度を40℃に下げ、メチルヒドロポリシロキサン(20センチストークスのもの)480mlを添加して更に3時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
続いて、前記と同様の攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン15リットルを導入し、次いで固体成分をマグネシウム原子換算で3モルを加え、更に四塩化珪素8モルをn−ヘプタン25mlに加えた混合液を30℃で30分間かけて導入して、温度を90℃に昇温して、1時間反応させた後、反応液を取り出し、生成した固体成分をn−ヘプタンで洗浄した。
【0163】
更に、前記と同様の攪拌機付反応槽に脱水および脱酸素したn−ヘプタン5リットルを導入し、次いで上で得られた四塩化珪素処理したチタン含有固体成分250gと、1,5−ヘキサジエン750g、t−ブチルーメチルージメトキシシシラン130ml、ジビニルジメチルシラン10ml、トリエチルアルミニウム225gをそれぞれ導入して30℃で2時間接触させた後、反応液を取り出し、n−ヘプタンで洗浄して固体成分触媒を得た。
得られた固体成分触媒は、1,5−ヘキサジエンの予備重合量がチタン含有固体成分あたり、2.97gであった。
【0164】
(ii)プロピレン/プロピレン−エチレンの2段重合
内容積550リットルの第1段反応器に、温度70℃で加圧下(70℃においては約3.2MPaになる)において、プロピレンとトリエチルアルミニウムおよび、重合生成速度が20kg/時間となるような量の前記固体成分触媒とを連続的に供給し、更に分子量調整剤として水素をやはり連続的に供給して、液相中で第1段階の重合を実施した。
続いて、プロピレンパージ槽を経由して、生成重合体を内容積1900リットルの第2段反応器に導入し、温度60℃で圧力3.0MPaになるように、目的とする共重合体の組成割合に応じたプロピレンとエチレンとを連続的に供給し、更に分子量調整剤として水素を連続的に供給するとともに、活性水素化合物(エタノール)を、第1段階で供給した固体成分触媒中のチタン原子に対して200倍モルで、トリエチルアルミニウムに対して2.5倍モルになるように供給して、気相中で重合を実施し、生成重合体を連続的にベッセルに移した後、水分を含んだ窒素ガスを導入して反応を停止させた(第2段階重合)。
造粒
更に得られたプロピレン系樹脂PP(D−3)100重量部に対し、前記酸化防止剤1を0.05重量部、前記酸化防止剤2を0.05重量部、前記中和剤1を0.02重量部添加し、充分に撹拌混合し、スクリュ口径30mmの池貝製作所製PCM二軸押出機にて、スクリュ回転数200rpm、吐出量10kg/hr、押出機温度200℃で溶融混練し、ストランドダイから押し出された溶融樹脂を冷却水槽で冷却固化させながら引き取り、ストランドカッターを用いてストランドを直径約2mm、長さ約3mmに切断することでプロピレン系樹脂組成物PP(D−3)を得た。
PP(D−1)〜PP(D−3)の各種分析結果を表6に示す。
【0165】
【表6】

【0166】
(6)外層用エチレン−α−オレフィン共重合体PE(D3)
下記製造例(D3−1)で得られたエチレン系樹脂PE(D3−1)を使用した。
(製造例D3−1)
エチレンとヘキセン−1の共重合体を製造した。触媒の調製は、特表平7−508545号公報の実施例の「触媒系の調製」に記載された方法で実施した。即ち、錯体ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ハフニウムジメチル2.0ミリモルに、トリペンタフルオロフェニルホウ素を上記錯体に対して等倍モル加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
内容積1.5リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器にエチレンと1−ヘキセンとの混合物を1−ヘキセンの組成が73重量%となるように供給し、反応器内の圧力を130MPaに保ち、127℃で反応を行った。1時間あたりのポリマー生産量は約2.5kgであった。
反応終了後、得られたポリマーの各種分析を行った。得られたエチレン−α−オレフィン共重合体PE(D3−1)の各種分析結果を表7に示す。
【0167】
【表7】

【0168】
(7)外層用のその他成分
クレイトン社製の市販品のスチレン系エラストマー、商品名「クレイトン G1645MO」を用いた。
【0169】
(8)最内層用プロピレン系樹脂組成物(Z)
市販のプロピレン系樹脂等を用い、以下のプロピレン系樹脂組成物(Z−1)〜(Z−8)を使用した。
【0170】
プロピレン系樹脂組成物(Z−1):
メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFW4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7,融点135℃)85wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体15wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−2):
前記(A−4)のプロピレン系樹脂組成物75wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%と、前記(C−1)のプロピレン単独重合体5wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−3):
前記(A−1)のプロピレン系樹脂組成物40wt%と、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFX4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7,融点125℃)40wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%からなる組成物。
【0171】
プロピレン系樹脂組成物(Z−4):
メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFW4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7、融点135℃)40wt%と、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFX4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7,融点125℃)40wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−5):
メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINT
EC WFW4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7,融点135℃)40wt%と、メタロセン触媒によって製造されたプロピレン−エチレンランダム共重合体「WINTEC WFX4」(商品名、日本ポリプロ社製、MFR7,融点125℃)40wt%と、スチレン系エラストマー「クレイトン G1657MS」(商品名、クレイトン社製)20wt%からなる組成物。
【0172】
プロピレン系樹脂組成物(Z−6):
前記(A−1)のプロピレン系樹脂組成物80wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−7):
前記(A−1)のプロピレン系樹脂組成物79wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%と、前記(C−1)のプロピレン単独重合体1wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−8):
前記(A−1)のプロピレン系樹脂組成物75wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体20wt%と、前記(C−1)のプロピレン単独重合体5wt%からなる組成物。
プロピレン系樹脂組成物(Z−9):
前記(A−1)のプロピレン系樹脂組成物74wt%と、前記(B−1)のエチレン−α−オレフィン共重合体25wt%と、前記(C−1)のプロピレン単独重合体1wt%からなる組成物。
【0173】
(実施例1)
以下の表8に記載された各層用の原料ペレットを、表に記載の比率にて、内層用押出機として、口径50mmの単軸押出機、外層用および最内層用押出機として、口径40mmの単軸押出機を用い、マンドレル口径100mm、Lip幅3.0mmのサーキュラーダイから設定温度200℃にて押出し、水冷して、10m/minの速度で、折り幅200mmとなるように、水冷インフレーション成形を行い、表8に記載の層構成からなる総厚み200μmの筒状成形体を得た。
次に、得られた積層シートからなる筒状成形体を上述の方法で加熱処理を行った後に23℃、50%RHの雰囲気下において24時間以上状態調整した後、積層シートの物性を評価した。評価結果を以下の表8に示す。
本発明の構成を満たす積層シートは、透明性、柔軟性、耐熱性、耐衝撃性、外観に優れるものであった。
【0174】
(実施例2〜37)
以下の表8〜表13に記載された各層用の原料ペレットを、表に記載の比率にて、内層用押出機として、口径30mmの単軸押出機、外層用および最内層用押出機として、口径18mmの単軸押出機を用い、マンドレル口径50mm、Lip幅1.0mmのサーキュラーダイから設定温度200℃にて押出し、水冷して、3m/minの速度で、折り幅90mmとなるように、水冷インフレーション成形を行い、表8〜表13に記載の層構成の総厚み200μmの筒状成形体を得た。
次に、得られた積層シートからなる筒状成形体を上述の方法で加熱処理を行った後に23℃、50%RHの雰囲気下において24時間以上状態調整した後、積層シートの物性を評価した。評価結果を以下の表8〜表13に示す。
本発明の構成を満たす積層シートは、透明性、柔軟性、耐熱性、耐衝撃性、外観に優れるものであった。
【0175】
【表8】

【0176】
【表9】

【0177】
【表10】

【0178】
【表11】

【0179】
【表12】

【0180】
【表13】

【0181】
(比較例1〜2)
以下の表14に記載の成分を用いた以外は、前記実施例1と同様にして、積層シートを得た。
評価結果を以下の表14に示す。
【0182】
(比較例3〜7)
以下の表14に記載の成分を用いた以外は、前記実施例2〜37と同様にして、積層シートを得た。評価結果を以下の表14に示す。
【0183】
【表14】

【0184】
比較例1、比較例4、比較例7は、成分(A)におけるプレスシートのtanδピークが単一であるため極低温下での耐衝撃性が劣るものであった。比較例2、比較例3は、成分(A)における水冷インフレ成形シートのtanδのピークが単一でなかったため、透明性が劣るものであった。比較例5は成分(B)の密度が高すぎるために極低温下での耐衝撃性が劣るものであった。比較例6は成分(B)のMFRが高すぎるために成形性に乏しく、膜厚変動がおこり、良好なサンプルが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明のプロピレン系樹脂シートは、柔軟性、透明性、耐熱性、耐低温衝撃性に優れるプロピレン系樹脂シートであり、それを用いた加熱処理用包装袋は、輸液バッグやレトルト包装袋用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件を満たすプロピレン系樹脂組成物(X)からなる層を少なくとも一層以上含むことを特徴とするプロピレン系樹脂シート。
・プロピレン系樹脂組成物(X)は、下記(A−i)〜(A−iv)を満たすプロピレン系樹脂組成物(A)50〜90wt%と、下記(B−i)〜(B−ii)を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体(B)10〜50wt%からなる。
・・プロピレン系樹脂組成物(A):
(A−i)融解ピーク温度(Tm(A1))が120〜150℃のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)30〜70wt%と、炭素数が2または4〜8のα−オレフィン含有量(α[A2])が10wt%以上で20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)70〜30wt%を含有する。
(A−ii)メルトフローレート(MFR(A):230℃、2.16kg)が、0.5〜20g/10分の範囲である。
(A−iii)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、水冷インフレ法にて成形して得られる200μm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲で観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一のピークを示す。
(A−iv)固体粘弾性測定(DMA)により得られる温度−損失正接(tanδ、プレス法にて成形して得られる2mm厚のシートにて測定)曲線において、−60〜20℃の範囲において観測されるガラス転移を表すtanδ曲線のピークが、0℃以下に単一ではないピークを示す。
・・エチレン−α−オレフィン共重合体(B):
(B−i)密度が0.860〜0.910g/cmの範囲である。
(B−ii)メルトフローレート(MFR(B):190℃、2.16kg)が0.1〜20g/10分の範囲である。
【請求項2】
請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物(X)からなる層を内層(1)とし、さらに外層(2)を有する少なくとも2層からなるシートであって、シート全体の厚みを100としたときの内層(1)の割合が50〜98であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項3】
プロピレン系樹脂組成物(A)が、メタロセン系触媒を用いて得られたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項4】
プロピレン系樹脂組成物(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)が、逐次重合することで得られるものであって、
第1工程でプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を30〜70wt%、第2工程でα−オレフィン含有量(α[A2])が10wt%以上で20wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を70〜30wt%逐次重合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項5】
プロピレン系樹脂組成物(A)のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)およびプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)が、逐次重合することで得られるものであって、
第1工程でプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A1)を30〜70wt%、第2工程でα−オレフィン含有量(α[A2])が13wt%以上で16wt%未満のプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A2)を70〜30wt%逐次重合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項6】
内層(1)を構成するプロピレン系樹脂組成物(X)は、さらに下記(C−i)〜(C−ii)を満たすプロピレン系樹脂(C)を、プロピレン系樹脂組成物(X)100重量部に対し、1〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1〜5記載のいずれかにプロピレン系樹脂シート。
・プロピレン系樹脂(C):
(C−i)融解ピーク温度(Tm(C))が、150℃を超え、170℃以下である。
(C−ii)メルトフローレート(MFR(C):230℃、2.16kg)が、0.5〜30g/10分の範囲である。
【請求項7】
さらに最内層(3)を、外層(2)、内層(1)、最内層(3)の順で有する少なくとも3層からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項8】
外層(2)を構成するプロピレン系樹脂組成物(Y)が、融解ピーク温度(Tm(D))が150〜170℃の範囲であるプロピレン系樹脂(D)を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項9】
プロピレン系樹脂組成物(A)におけるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(A2)が、プロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項10】
プロピレン系樹脂組成物(A)におけるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体(A1)が、プロピレン−エチレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項11】
厚みが0.01mm〜1.0mmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のプロピレン系樹脂シート。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂シートを用いることを特徴とする加熱処理用包装体。
【請求項13】
加熱処理用包装体が、輸液バックであることを特徴とする請求項12に記載の加熱処理用包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82405(P2012−82405A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201646(P2011−201646)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】