説明

プロピレン重合体樹脂組成物

【課題】 ポリプロピレン系樹脂の成形加工性を改良可能な、特にブロー成形性、発泡成形性を改良可能なポリエチレン系樹脂を含むポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
プロピレン重合体99〜50重量%、および下記(A)〜(E)を満足するエチレン重合体1〜50重量%を含んでなるプロピレン重合体樹脂組成物を用いる。
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が940kg/m以上960kg/m以下、(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上10g/10分以下、(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下、(D)160℃で測定した溶融張力(MS160)が100mN以上、(E)流動の活性化エネルギー(Ea)が、35kJ/mol以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン重合体樹脂とプロピレン重合体樹脂とを含んでなるプロピレン重合体樹脂組成物に関する。 特に、プロピレン重合体樹脂に特定のエチレン重合体樹脂を配合することによって、プロピレン重合体樹脂のブロー成形性および発泡成形性を改良してなるプロピレン重合体樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体樹脂は、安価で物理的特性に優れることから、射出成形、押出成形などの一般的に用いられる各種の成形法によって成形され、各種の成形品として広く使用されている。しかしながら、溶融時の粘度、溶融張力が低いため、射出成形や押出成形などの熔融成形において問題があった。特に、発泡成形時に際して気泡が破壊されやすいという課題があり、また、ブロー成形や溶融紡糸などに際してドローダウン(成形した形状が保持できずに垂れ下がる現象)するという課題があった。
【0003】
このような課題の解決、すなわち、プロピレン重合体樹脂の溶融張力の改善を目的としていくつかの検討がなされてきた。例えば、プロピレン重合体樹脂に高圧ラジカル重合法で製造される高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)を添加する方法は代表的な手法である。しかしながら、この方法においてLDPEの添加量が少ない場合には効果が小さい、また、大量のLDPEを添加するとプロピレン重合体樹脂の大きな特徴である剛性が低下するという新たな課題が発生し、課題の解決には至っていない。
【0004】
さらに、直鎖状プロピレン重合体に活性酸素の存在下で電子線やガンマ線などの高エネルギーイオン化放射線を照射して長鎖分岐を生じさせることにより、プロピレン重合体の溶融加工性を改善する方法(例えば、特許文献1参照。)、ゴム状重合体にビニル系単量体をグラフト共重合したコア−シェルグラフト共重合体を、プロピレン重合体に添加してなる樹脂組成物(例えば、特許文献2参照。)、エチレン−α−オレフィン共重合ゴムとポリアミド繊維をプロピレン重合体に添加することにより、プロピレン重合体の溶融張力を向上せしめた樹脂組成物(例えば、特許文献3参照。)などが提案されている。
【0005】
また、末端にビニル基を有するエチレン(共)重合体からなるマクロモノマーの存在下に特定のメタロセン化合物と有機化合物で処理した粘土鉱物からなる触媒を用いて重合して得られる、熱安定性に優れ、幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れるエチレン重合体樹脂が提案されている。さらに、特定のメタロセン化合物からなる触媒を用いて重合して得られる、機熱安定性に優れ、幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れるエチレン重合体樹脂も提案されている(例えば、特許文献4,5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−298536号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−339433号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−181162号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−346304号公報(特許請求の範囲、0007の欄)
【0007】
【特許文献5】特開2007−169339号公報(特許請求の範囲、0040の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案の方法においては、特定濃度の活性酸素が存在する雰囲気下で高エネルギーイオン化放射線を照射して反応を行う工程や、放射線を照射した後に、放射線照射によって生じた遊離基を失活させる工程が必須であって、それらの操作は複雑である。また、高エネルギーイオン化放射線を照射するのに必要な設備はコスト的にも不利である。
【0009】
特許文献2に提案されている樹脂組成物においては、プロピレン重合体樹脂の溶融張力を十分に改善するためには、多量のコア−シェルグラフト共重合体を添加しなければならないという課題があった。また、特許文献3に提案の樹脂組成物においては、プロピレン重合体とポリアミド繊維とは相溶性が乏しいため、ポリアミド繊維が均一に分散しないうえ、両者の相間密着性の乏しさから、成形品の外観不良や強度の低下という課題があった。
【0010】
特許文献4および特許文献5に提案されているエチレン重合体樹脂は、それをプロピレン重合体その他の重合体樹脂に対して、改質剤、機能向上剤などとして添加することはなんら記載されていない。
【0011】
以上を要するに、プロピレン重合体樹脂の発泡成形加工性、特に発泡成形や発泡ブロー成形性を改良する工業的有利な技術は、これまで提案されたものの中に見当たらない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のエチレン重合体を含有せしめたプロピレン重合体樹脂組成物が、プロピレン重合体と比べ、改良された溶融張力を有し、溶融成形性、特にブロー成形性および発泡成形性に優れることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
かくして、本発明によれば、プロピレン重合体樹脂99〜50重量%、および下記(A)〜(E)を満足するエチレン重合体樹脂1〜50重量%からなるプロピレン重合体樹脂組成物が提供される。
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が940kg/m以上960kg/m以下である。
(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上10g/10分以下である。
(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下である。
(D)160℃で測定した溶融張力(MS160)が100mN以上である。
(E)流動の活性化エネルギー(Ea)が、35kJ/mol以下である。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記プロピレン重合体樹脂組成物を発泡成形してなる発泡成形品;および上記プロピレン重合体樹脂組成物をブロー成形してなるブロー成形品が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、上記プロピレン重合体樹脂組成物であって、230℃で測定したMFRが10g/10分未満であり、190℃で測定した溶融張力(MS190)が10mN以上であるプロピレン重合体樹脂組成物を、押出発泡成形してなる押出発泡成形品が提供される。
【発明の効果】
【0016】
特定のエチレン重合体樹脂を含む本発明のプロピレン重合体樹脂組成物は、プロピレン重合体樹脂と比較して、流動性が改善され、加工性に優れている。ここで用いるエチレン重合体樹脂は、少量の添加でもプロピレン重合体樹脂の溶融張力の改善効果が大きいため、プロピレン重合体樹脂の特性を実質的に維持しながら、その成形加工性を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るプロピレン重合体樹脂組成物およびその成形品を詳細に説明する。
【0018】
エチレン重合体樹脂
本発明で用いる上記(A)〜(E)を満足するエチレン重合体樹脂は、一般にポリエチレン系樹脂と称される範疇に属するものである。エチレン重合体樹脂としては、特に、プロピレン重合体樹脂との樹脂組成物とした場合に、耐熱性、剛性に優れたプロピレン重合体樹脂組成物となることから、エチレンから導かれる繰り返し単位からなるエチレン単独重合体、およびエチレンから導かれる繰り返し単位と炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなるエチレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。ここで、炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位とは、単量体である炭素数3〜8のα−オレフィンから誘導され、エチレン−α−オレフィン共重合体に含有される単位である。本発明で用いる上記(A)〜(E)を満足するエチレン重合体樹脂には、エラストマー(ゴム)は含まれない。
【0019】
炭素数3〜8のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンなどが挙げられる。これら炭素数3〜8のα−オレフィンは、単独であっても、または、少なくとも2種類を併用してもよい。上記共重合体におけるエチレン単位と炭素数3〜8のα−オレフィン単位との割合(モル比)は、好ましくは1〜200、より好ましくは3〜100、特に好ましくは5〜50の範囲である。
【0020】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が、940kg/m以上960kg/m以下、好ましくは945kg/m以上955kg/m以下のものである。ここで、密度(d)が940kg/m未満の場合、エチレン重合体樹脂の融解温度が低くなり、得られるプロピレン重合体樹脂組成物は耐熱性が劣る。一方、960kg/mを超える場合、エチレン重合体樹脂の融解温度は高く、プロピレン重合体樹脂組成物は耐熱性、剛性に優れるものとなる反面、耐衝撃性が劣るものとなる。
【0021】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、190℃で、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(以下、MFRと記す。)が、1g/10分以上10g/10分以下のものである。ここで、MFRが1g/10分未満である場合、プロピレン重合体樹脂に配合してプロピレン重合体樹脂組成物とする際の押出機の負荷が大きくなり、生産性が低下すると共に、プロピレン重合体樹脂組成物は成形加工性に劣る。一方、10g/10分を超える場合、溶融張力が小さく、プロピレン重合体樹脂組成物は成形加工性に劣り、得られる成形品は機械的強度に劣る。
【0022】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、末端ビニル数が1000炭素原子当たり0.2個以下、好ましくは0.1個以下である。ここで、末端ビニル数が1000炭素原子当たり0.2個を越える場合、プロピレン重合体樹脂組成物は熱安定性に劣り、熱劣化などが発生しやすく、得られる成形体に黄変などの問題が生じる。
【0023】
ここで、末端ビニル数は、エチレン重合体樹脂を熱プレスした後、氷冷して調製したフィルムをフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)により4000cm−1〜400cm−1の範囲で測定し、下式により算出される。
【0024】
1000炭素原子当たりの末端ビニル数(個/1000C)=a×A/L/d
式中、aは吸光光度係数、Aは末端ビニルに帰属される909cm−1の吸光度、Lはフィルムの厚み(mm)、dは密度(kg/m)を示す。なお、aは、H−NMR測定より、1000炭素原子当たりの末端ビニル数を確認したサンプルを用いて作成した検量線から求められる。H−NMRは、NMR測定装置(日本電子社製、商品名GSX400)を用い、重水素化ベンゼンとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒中、130℃において測定される。
【0025】
1000炭素原子当たりの末端ビニル数は、メチレンに帰属されるピークと末端ビニルに帰属されるピークの積分比から算出される。各ピークは、テトラメチルシランを基準(0ppm)として、化学シフトが1.3ppmのピークをメチレン、4.8〜5.0ppmのピークを末端ビニルと帰属される。
【0026】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、(D)160℃で測定した溶融張力(MS160)が100mN以上である。溶融張力が100mN未満であると、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形時のガス抜けが大きくなり、発泡倍率が低下し、製品形状の制御が困難となったり、特殊な温度制御が必要となる。その成形性が劣り、安定して発泡成形体を得ることができなくなる。
【0027】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、MS160(mN)とMFR(g/10分)の関係が下記式(1)を満足することが好ましく、特に下記式(2)を満足することが好ましい。
【0028】
MS160>90−130×log(MFR) (1)
MS160>110−130×log(MFR) (2)
ここで、該エチレン重合体樹脂のMFRとMS160の関係が上記式(1)を満足する場合、得られるプロピレン重合体樹脂組成物を発泡成形体とする際のガス抜けが小さく、発泡倍率が低下せず、製品形状の制御が容易で、特殊な温度制御が必要でなく、その成形性が優れるばかりか、安定して発泡成形体を得ることができる。
【0029】
さらに、本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、190℃で測定した溶融張力(mN)(以下、MS190と記す。)とMS160(mN)の関係が下記式(3)を満足することが好ましく、特に下記式(4)を満足することが好ましい。
【0030】
MS160/MS190<1.8 (3)
MS160/MS190<1.7 (4)
ここで、MS160とMS190の関係が上記式(3)を満足する場合、エチレン重合体樹脂は温度に依存するその溶融張力の変化が小さく、このようなエチレン重合体樹脂を配合したプロピレン重合体樹脂組成物は、発泡成形体とする際の成形加工温度の調節が容易であり、ひいては成形可能範囲が広いため、発泡倍率が高く、気泡が均一な発泡成形体を得ることができる。
【0031】
なお、溶融張力MS190は、長さが8mm,直径が2.095mmであるダイスを用い、流入角90°で、せん断速度10.8s−1、延伸比47、測定温度190℃の条件下で測定した値であり、最大延伸比が47未満の場合は、破断しない最高の延伸比で測定した値をMS190とした。また、同様の方法により、温度160℃で測定した溶融張力をMS160とした。
【0032】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、流動の活性化エネルギー(以下、Eaと記す。)が35kJ/mol以下である。
【0033】
ここで、Eaが35kJ/molを越えると、溶融粘度の温度依存性が大きくなるため、このようなエチレン重合体樹脂を配合したプロピレン重合体樹脂組成物は成形加工温度の厳密な調節が必要となり、ひいては成形可能範囲が狭くなる。
【0034】
本発明で用いるエチレン重合体は、Ea(kJ/mol)と密度d(kg/m)との関係が、下記式(5)を満足することが好ましく、特に下記式(6)を満足することが好ましい。
【0035】
125−0.105d<Ea<88−0.0550d (5)
127−0.107d<Ea<88−0.060d (6)
ここで、Eaが(125−0.105d)超である場合、このようなエチレン重合体樹脂を配合したプロピレン重合体樹脂組成物を発泡成形体とする際、加工性がより一層良好である。一方、Eaが(88−0.0550d)未満である場合、溶融粘度の温度依存性が小さく、このようなエチレン重合体樹脂を配合したプロピレン重合体樹脂組成物は成形加工温度の調節が容易であり、ひいては成形可能範囲が広くなる。
【0036】
なお、Eaは、160〜230℃の温度範囲における動的粘弾性測定を行い、得られるシフトファクターをアレニウス式に代入することにより求めることができる。
【0037】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂は、プロピレン重合体樹脂に配合した際の溶融張力の向上効果に特に優れることから、重量平均分子量/数平均分子量(以下、Mw/Mnと記す。)が5以上10以下であることが好ましく、5以上8以下であることがより好ましい。なお、Mw/Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリエチレン換算値である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定することにより算出することが可能である。
【0038】
本発明で用いるエチレン重合体は、エチレン重合体の範疇に属するものであれば如何なるタイプのものでもよく、また、その製造にはいかなるタイプの製造方法も採用できる。その製造に際しては、例えば、後述する本願実施例に記載される具体的製造条件そのものによって、または条件因子の微調整によって任意に作り分けることが可能である。
【0039】
本発明で用いるエチレン重合体は、好ましくは、例えば、メタロセン化合物として、2つのシクロペンタジエニル基が2種類以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されているか、もしくは2個以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されている架橋型ビスシクロペンタジエニルジルコニウム錯体(以下、成分(a)と記す。)と、架橋型(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体および/または架橋型(インデニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体(以下、成分(b)と記す。)とを用いて調製したメタロセン触媒の存在下に、エチレンを重合する、またはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンを共重合する方法によって製造することができる。
【0040】
エチレン重合体は、本願実施例に記載される具体的製造条件そのものによって、または条件因子の微調整によって任意に作り分けることができるが、条件因子変動の具体例を述べると、用いる成分(a)および成分(b)の構造、成分(a)に対する成分(b)の量、用いる助触媒成分の種類などの触媒成分に関する要件や、重合温度、エチレン分圧、共存させる水素などの分子量調整剤の量、添加するコモノマー量などの重合条件の制御によっても密度やMFRの作り分けが可能である。さらに多段重合との組み合わせによって、分子量分布の範囲を拡大することも可能である。
【0041】
より具体的には、例えば、流動の活性化エネルギーEaは、成分(a)の選択または炭素数3〜8のα−オレフィンの添加量の増加により制御することができる。また、成分(a)を用いて得られるエチレン系重合体成分の末端ビニル数を増加させること、成分(b)の選択または成分(a)に対する成分(b)の比率増加により、エチレン重合体の長鎖分岐数を増加させることでも制御することができる。また、分子量分布Mw/Mnは、特定の成分(a)を選択使用して得られるエチレン重合体成分の分子量低下、または、特定の成分(b)を選択使用して得られるエチレン系重合体成分の分子量増加により調整が可能である。
【0042】
成分(a)の具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1−ジメチル−1−シラエタン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、プロパン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ブタン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、シス−2−ブテン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1,2,2−テトラメチルジシラン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライドなどのジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体が挙げられる。
【0043】
成分(b)の具体例としては、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−トリメチルシリル−1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジメチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドなどのジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体を挙げることができる。また、上記遷移金属化合物のジルコニウム原子をチタン原子またはハフニウム原子に置換した化合物も例示することもできる。
【0044】
成分(a)に対する成分(b)の割合は、特に制限はなく、0.0001〜100倍モルであることが好ましく、特に好ましくは0.001〜10倍モルである。
【0045】
成分(a)と成分(b)を用いたメタロセン触媒としては、例えば、成分(a)と成分(b)と有機アルミニウム化合物(以下、成分(c)と記す。)からなる触媒;成分(a)と成分(b)とアルミノオキサン(以下、成分(d)と記す。)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と成分(c)と成分(d)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と、プロトン酸塩(以下、成分(e)と記す。)、ルイス酸塩(以下、成分(f)と記す。)または金属塩(以下、成分(g)と記す。)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒;さらにこれらの成分(a)、成分(b)と、成分(e)、成分(f)、成分(g)から選ばれる少なくとも1種類の塩成分と、成分(c)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と成分(d)と無機酸化物(以下、成分(h)と記す。)からなる触媒;成分(a)と成分(b)と成分(h)と、成分(e)、成分(f)、成分(g)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒;成分(a)と成分(b)と成分(c)と成分(h)と、成分(e)、成分(f)、成分(g)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒;成分(a)と成分(b)と粘土鉱物(以下、成分(i)と記す。)と成分(c)からなる触媒;および、成分(a)と成分(b)と有機化合物で処理された粘土鉱物(以下、成分(j)と記す。)からなる触媒を例示することができる。これらの中でも、成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒が好ましく用いられる。
【0046】
ここで、成分(i)および成分(j)として用いることが可能な粘土鉱物としては、微結晶状のケイ酸塩を主成分とする微粒子を挙げることができる。特に、粘土鉱物の大部分が、その構造上の特色として層状構造を成しており、層の中に種々の大きさの負電荷を有するものが挙げられる。このような構造は、シリカやアルミナのような金属酸化物が有する三次元構造とは大きく異なる。これらの粘土鉱物は、一般に層電荷の大きさで、パイロフィライト、カオリナイト、ディッカイトおよびタルク群(化学式当たりの負電荷がおよそ0)、スメクタイト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.25から0.6)、バーミキュライト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.6から0.9)、雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ1)、脆雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ2)に分類されている。ここで示した各群には、それぞれ種々の粘土鉱物が含まれるが、スメクタイト群に属する粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライトなどが挙げられる。上記粘土鉱物は複数混合して用いることもできる。
【0047】
成分(j)における有機化合物処理とは、粘土鉱物層間に有機イオンを導入し、イオン複合体を形成する処理をいう。有機化合物処理に用いられる有機化合物としては、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−エイコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−ドコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルオレイルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルベヘニルアミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−オクタデシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−エイコシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ジオレイルアミン塩酸塩、N−メチル−ジベヘニルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルアニリン塩酸塩を例示することができる。
【0048】
成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒は、有機溶媒中、成分(a)と成分(b)と成分(j)を接触させることによって調製することができる。具体的には、成分(a)と成分(j)の接触生成物に成分(b)を添加する方法;成分(b)と成分(j)の接触生成物に成分(a)を添加する方法;成分(a)と成分(b)の接触生成物に成分(j)を添加する方法;および成分(j)に成分(a)と成分(b)の接触生成物を添加する方法を例示することができる。
【0049】
接触溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタンもしくはシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエンもしくはキシレンなどの芳香族炭化水素類、エチルエーテルもしくはn−ブチルエーテルなどのエーテル類;塩化メチレンもしくはクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、1,4−ジオキサン、アセトニトリルまたはテトラヒドロフランを例示することができる。
【0050】
接触温度については、0〜200℃の間で選択して処理を行うことが好ましい。
【0051】
各成分の使用量は、成分(a)は、成分(j)1gあたり、0.0001〜100mmol、好ましくは0.001〜10mmolである。成分(b)は、成分(a)1molあたり、0.1〜10000mol、好ましくは1〜1000molである。
【0052】
このようにして調製された成分(a)と成分(b)と成分(j)の接触生成物は、洗浄せずに用いても良く、また洗浄した後に用いても良い。また、成分(a)または成分(b)がジハロゲン体の時、さらに成分(c)を添加することが好ましい。また、成分(j)、重合溶媒およびオレフィン中の不純物を除去することを目的に成分(c)を添加することができる。
【0053】
エチレン重合体樹脂を製造するための重合反応は、重合温度−100〜120℃で行うことが好ましく、特に生産性を考慮すると20〜120℃が好ましく、60〜120℃の範囲がより好ましい。また、重合時間は10秒〜20時間の範囲が好ましく、重合圧力は常圧〜300MPaの範囲が好ましい。
エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとを共重合する場合、両単量体の供給割合は、エチレン/炭素数3〜8のα−オレフィン(モル比)が、1〜200、好ましくは3〜100、より好ましくは5〜50の範囲で適宜選ばれる。
【0054】
重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であり、重合条件を変えて2段階以上に分けて多段重合を行うことも可能である。
【0055】
重合はスラリー状態、溶液状態または気相状態で実施することができ、特に、重合をスラリー状態で行う場合にはパウダー粒子形状の整ったエチレン系共重合体を効率よく、安定的に生産することができる。
【0056】
重合に用いる溶媒は一般に用いられる有機溶媒であればいずれでもよく、具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、プロパン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ガソリンなどが挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0057】
エチレン単独重合体および共重合体は、重合終了後に従来既知の方法により重合溶媒から分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0058】
プロピレン重合体樹脂組成物
上記エチレン重合体樹脂を配合するプロピレン重合体樹脂は、一般に、プロピレン系重合体樹脂の範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、好ましくは、プロピレンの単独重合体、および80重量%以上のプロピレンと20重量%以下の他のα−オレフィン、例えば、エチレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などとのブロックまたはランダム共重合体などが挙げられる。これらのプロピレン重合体樹脂は、1種または2種以上を併用してもよい。本発明で用いるプロピレン重合体樹脂には、エラストマー(ゴム)は含まれない。
【0059】
プロピレン重合体樹脂としては、JIS K 7210に従い、230℃、荷重2.16kgで測定したMFRが、0.05〜1000g/10分であるものが好ましい。0.1〜700g/10分のものがより好ましく、0.5〜500g/10分のものが特に好適である。
【0060】
上記エチレン重合体樹脂とプロピレン重合体樹脂との配合割合は、両重合体樹脂の合計重量に基づき、エチレン重合体樹脂が1〜50重量%、好ましくは5〜20重量%であり、プロピレン重合体樹脂が99〜50重量%、好ましくは95〜80重量%である。
【0061】
エチレン重合体樹脂の配合割合が過少であると溶融張力の改善効果が小さく、プロピレン重合体樹脂組成物は、流動性および成形加工性に劣る。逆に、エチレン重合体樹脂の配合割合が過少であると、プロピレン重合体樹脂の特長である大きな剛性が活かされない。
【0062】
本発明で用いるエチレン重合体樹脂をプロピレン重合体樹脂に配合する際には、通常の樹脂混合組成物の調製方法を用いることができる。例えば、溶融・混合方法として、押出混練、ロール混練など公知の方法を挙げることができる。
【0063】
本発明のプロピレン重合体樹脂組成物は、特に発泡成形性、ブロー成形性に優れることから、MS190(mN)とMFR(g/10分)の関係が下記式(7)を満足することが好ましい。
【0064】
MS190>40−20×log(MFR) (7)
ここでいうMS190とMFRは、上記した方法により求めることができる。
【0065】
本発明のプロピレン重合体樹脂組成物には、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて、安定剤、滑剤、難燃剤、分散剤、充填剤、発泡剤、架橋剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、着色剤などを含有させることができる。
【0066】
本発明のプロピレン重合体樹脂組成物の成形加工法としては、通常の方法を採用することが可能であり、例えば、射出発泡成形、押出発泡成形(ブロー成形、シート成形など)を挙げることができる。特にブロー成形が好適である。また、プロピレン重合体樹脂組成物を用いて得られる有用な成形体としては、ブロー成形による中空成形品、押出発泡成形による発泡成形品(特に発泡シート成形体)、射出成形品などを挙げることができる。
【0067】
押出発泡成形する場合、従来のプロピレン重合体樹脂では、成形ダイより押し出された際に、発泡成形の場合は気泡の破壊、ガス抜けを生じやすく、また、ブロー成形、中空成形の場合は自重による垂れ下がり(ドローダウン)、変形などが生じやすく、成形体の肉厚、形状に支障を来す。特に、押出発泡成形分野においては、気泡の破壊によるガス抜け、発泡倍率の低下、独立気泡率の低下などが大きな問題となりやすい。対照的に、溶融張力の高い、本発明のプロピレン重合体樹脂組成物は、発泡成形性、ブロー成形性、中空成形性、押出成形性に優れている。
【0068】
プロピレン重合体樹脂組成物を押出発泡成形に使用する場合、230℃でのMFRが10g/10分未満であることが好ましい。ここで、プロピレン重合体樹脂組成物のMFRが10g/10分未満であると、発泡成形体とする際の樹脂の垂れ下がりが少なく、シート成形やブロー成形が容易となる。また、190℃で測定した溶融張力(MS190)が10mN以上であルことが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
エチレン重合体、プロピレン重合体樹脂組成物、および成形品の特性は下記の方法により測定した。
【0071】
〔分子量(Mw)、(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)〕
エチレン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー(株)製 HLC−8121GPC/HTを用い、カラムとしては東ソー(株)製 TSKgel GMHhr−H(20)HTを用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正されている。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0072】
〔密度(d)〕
エチレン重合体の密度(d)(kg/m)は、JIS K6760(1995)に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0073】
〔末端ビニル数〕
エチレン重合体の末端ビニル数は、Perkin Elmer社製SPECTRUM ONEフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて、エチレン系重合体を熱プレスした後、氷冷して調製したフィルムを4000cm−1〜400cm−1の範囲で測定し、下式を用い算出した。
【0074】
1000炭素原子当たりの末端ビニル数(個/1000C)=a×A/L/d
(式中、aは吸光光度係数、Aは末端ビニルに帰属される909cm−1の吸光度、Lはフィルムの厚み(mm)、dは密度(kg/m)を示す。なお、aは、H−NMR測定より、1000炭素原子当たりの末端ビニル数を確認したサンプルを用いて作成した検量線から求めた。H−NMR測定は、日本電子社製のGSX400を用い、重水素化ベンゼンとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒中、130℃において実施した。1000炭素原子当たりの末端ビニル数は、メチレンに帰属されるピークと末端ビニルに帰属されるピークの積分比から算出した。各ピークは、テトラメチルシランを基準(0ppm)として、化学シフトが1.3 ppmのピークをメチレン、4.8−5.0 ppmのピークを末端ビニルと帰属した。)
〔メルトフローレート(MFR)〕
MFR(g/10分)は、190℃、2.16kg荷重下に測定した。
【0075】
測定に用いたエチレン重合体は、予め耐熱安定剤としてイルガノックス1010TM((株)チバスペシャリティケミカルズ製)1,500ppm、イルガフォス168TM((株)チバスペシャリティケミカルズ製)1,500ppmを添加したものを、インターナルミキサー((株)東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0076】
〔流動の活性化エネルギー(Ea)〕
エチレン重合体の流動の活性化エネルギー(Ea)(kJ/mol)は、円板−円板レオメーター((株)アントンパール製、商品名:MCR−300)を用い、150℃、170℃、190℃の各温度で角速度0.1〜100rad/sの範囲のせん断貯蔵弾性率G’、せん断損失弾性率G”を求め、基準温度150℃での横軸のシフトファクターを求め、アレニウス型の式により計算した。
【0077】
測定に用いたエチレン重合体は、MFRの測定に用いたものと同様に、予め耐熱安定剤を添加し、混練したものを用いた。
【0078】
〔溶融張力(MS)〕
エチレン重合体およびプロピレン重合体樹脂組成物の溶融張力(MS)(mN)は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名:キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mm、流入角が90°のダイスを装着して測定した。MS190は、温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定して、引き取りに必要な荷重(mN)を求め、MS190とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)をMS160とした。MS190は、設定温度を190℃に変えた他は上記と同様な方法により求めた。
【0079】
測定に用いたエチレン重合体は、MFRの測定に用いたものと同様に、予め耐熱安定剤を添加し、混練したものを用いた。
【0080】
〔発泡倍率〕
プロピレン重合体樹脂組成物を使用して押出発泡成形された発泡成形体から、直径5cm×長さ10cmの円筒状の発泡体を切り出し、重量W2(g)を測定し、JIS K6767に準拠して、次式で見掛密度を算出した。
【0081】
見掛密度(g/cm)=W2/(2.5×2.5×π×10)
発泡倍率は、この見掛密度より、次式で求めた。
【0082】
発泡倍率=1/見掛密度
〔発泡成形体の気泡形状〕
プロピレン重合体樹脂組成物を使用して押出発泡成形された発泡成形体の外観、および断面における気泡の状態を顕微鏡で観察した。2段階法により評価した。
【0083】
発泡体は、概して、円滑な表面を有し、独立気泡からなる:○
発泡体は、概して、外観が凹凸で、連続気泡からなる:×
〔発泡成形体の独立気泡率〕
プロピレン重合体樹脂組成物を使用して成形された発泡成形体の独立気泡率(S)(%)は、ASTM D2856−70に記載されている手順Cに準拠し、東芝ベックマン株式会社製の空気比較式比重計930型を使用して測定される発泡体の実容積(独立気泡の容積と樹脂部分の容積との和):Vx(L)から、下記式により算出される値である。
【0084】
S(%)=(Va−Vx)×100/(Va−W/ρ)
但し、上記式中の、Va、W、ρは以下の通りである。
【0085】
Va:測定に使用した発泡体試験片の外寸法から計算される見掛け容積(L)
W :試験片の重量(g)
ρ :試験片を構成する樹脂の密度(g/L)
尚、試験片を構成する樹脂の密度ρ(g/L)及び試験片の重量W(g)は、発泡体試験片を加熱プレスにより気泡を脱泡させてから冷却する操作を行い、得られた試験片から求めることができる。
【0086】
〔発泡成形体の引裂き強さ〕
プロピレン重合体樹脂組成物を使用して押出発泡成形された発泡成形体を手で引裂いた際の引裂け難易度により3段階法により評価した。
【0087】
容易に引裂けない:○
容易に引裂ける:×
両者の中間程度の引裂け易さ:△
製造例1
[有機化合物処理粘土鉱物(変性ヘクトライト)の調製]
水3リットルにエタノール3リットルと37%濃塩酸100ミリリットルを加えた後、得られた溶液にN−メチルジオレイルアミン585g(1.1mol)を添加し、60℃に加熱することによって、塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト1kgを加えた。この懸濁液を60℃で、3時間撹拌し、上澄み液を除去した後、60℃の水50Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径10.5μmの変性ヘクトライトを得た。
[エチレン重合体樹脂の製造触媒の調製]
上記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド6.97g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、続いて、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して8mol%のジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−tert−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド1.16g(1.74mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
[エチレン重合体樹脂の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン1.0リットルを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに[エチレン重合体の製造触媒の調製]で調製した触媒60ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:800ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガス(水素:800ppm含有)を連続的に導入した。重合温度は、85℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して30kgのポリエチレンパウダーを得た。ポリエチレンパウダーを200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズして、ポリエチレンペレットを得た。
【0088】
得られたポリエチレンペレットの密度(d)は950kg/m、MFRは4.0g/10分であった。ポリエチレンのその他の特性を表1に示す。
【0089】
実施例1
[プロピレン重合体樹脂組成物の製造]
得られたポリエチレンペレットと市販のポリプロピレンペレット(商品名:FX4E、日本ポリプロ製、MFR=5g/10分、密度=900kg/m)を30:70(重量%)の比率でドライブレンドを行い、これをプラコー社製50mm径単軸押出機にて溶融混合して、プロピレン重合体樹脂組成物を調製した。バレルの温度はC1;180℃、C2;200℃、C3;220℃、ダイヘッド;220℃とした。
[プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形体の製造]
プロピレン重合体樹脂組成物100重量部に対し、発泡核剤としてタルク(平均粒径8μm)を0.7重量部の割合で含有する発泡成形用プロピレン重合体樹脂組成物をメルトブレンドにより調製した。そして、バレルの途中に揮発性液体注入用のバレル孔を有する単軸押出機(スクリュー径50mmφ、L/D=36、共伸機械製)の発泡成形用押出設備を用い、発泡成形用プロピレン重合体樹脂組成物を10kg/時で供給し、溶融混練を行った。さらに、揮発性液体であるブタンを700g/時でバレル孔から圧入して、該ブタンを分散させ、発泡成形体表面に凹凸が発生しない最低の樹脂温度である160℃に設定した丸棒用ダイ(径13mmφ)により棒状の発泡成形体を押出した。該棒状発泡成形体の外側に空気を吹き付け5.0m/分で引き取り、発泡成形体を得た。
【0090】
上記製造法にて作成したプロピレン重合体樹脂組成物の発泡成形体について、独立気泡率、発泡倍率、発泡体形状および引裂き強さを評価した。得られたプロピレン重合体樹脂組成物の物性および発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0091】
実施例2
実施例1において、ポリエチレン/ポリプロピレン配合比を20:80(重量%)に変えたこと以外は、実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0092】
実施例3
実施例1において、ポリエチレンを下記の製造例2に示す方法で製造し、かつ、ポリエチレン/ポリプロピレン配合比を10:90(重量%)に変えたこと以外は、実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0093】
製造例2
[変性ヘクトライトの調製]
水3リットルにエタノール3リットルと37%濃塩酸100ミリリットルを加えた後、得られた溶液にN−メチルジオレイルアミン585g(1.1mol)を添加し、60℃に加熱することによって、塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト1kgを加えた。この懸濁液を60℃で、3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水50Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径10.5μmの変性ヘクトライトを得た。
[エチレン重合体樹脂の製造触媒の調製]
上記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド6.97g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、続いて、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して8mol%のジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−tert−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド1.16g(1.74mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
[エチレン重合体樹脂の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン1.0リットルを導入し、オートクレーブの内温を85℃に昇温した。このオートクレーブに上記[エチレン重合体の製造触媒の調製]において調製した触媒60ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:500ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガス(水素:500ppm含有)を連続的に導入した。また、重合温度を85℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して30kgのポリエチレンパウダーを得た。ポリエチレンパウダーを200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズして、ポリエチレンペレットを得た。
【0094】
得られたポリエチレンペレットの密度は950kg/m、MFRは2.0g/10分であった。ポリエチレンのその他の特性を表1に示す。
【0095】
比較例1
実施例1においてエチレン重合体樹脂を、市販の高圧法により製造された低密度ポリエチレン(LDPE)(商品名:ペトロセン203、東ソー製、MFR=8g/10分、密度=919kg/m)に変え、かつ、ポリエチレン/ポリプロピレン配合比を10:90(重量%)に変えたこと以外は、実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0096】
比較例2
実施例1においてエチレン重合体樹脂を市販のメタロセン触媒で製造された直鎖状低密度ポリエチレン(商品名:ユメリット4540F、宇部興産製、MFR=3.9g/10分、密度=944kg/m)に変え、かつ、ポリエチレン/ポリプロピレン配合比を10:90(重量%)に変えたこと以外は実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0097】
比較例3
実施例1においてポリエチレン/ポリプロピレン配合比を0.1:99.9(重量%)に変えたこと以外は実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0098】
比較例4
実施例1においてポリエチレン/ポリプロピレン配合比を52:48(重量%)に変えたこと以外は実施例1と同様に、プロピレン重合体樹脂組成物の押出発泡成形を行った。評価結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明で特定のエチレン重合体樹脂を含むプロピレン重合体樹脂組成物は、高溶融張力を有し、流動性が改善され、加工性に優れている。ここで用いるエチレン重合体樹脂は、少量の添加でもプロピレン重合体樹脂の溶融張力の改善効果が大きいため、プロピレン重合体樹脂の特性を維持しながら、その成形加工性が改良される。
【0101】
上記特性を活用して、本発明のプロピレン重合体樹脂組成物は、発泡成形用、ブロー成形用、中空成形用、押出成形用として優れ、特に、押出成形発泡用として優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体樹脂99〜50重量%、および下記(A)〜(E)を満足するエチレン重合体樹脂1〜50重量%を含んでなるプロピレン重合体樹脂組成物。
(A)JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)が940kg/m以上960kg/m以下である。
(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上10g/10分以下である。
(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下である。
(D)160℃で測定した溶融張力(MS160)が100mN以上である。
(E)流動の活性化エネルギー(Ea)が、35kJ/mol以下である。
【請求項2】
エチレン重合体樹脂が、さらに下記(F)を満足する請求項1に記載のプロピレン重合体樹脂組成物。
(F)重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が5以上10以下である。
【請求項3】
エチレン重合体樹脂が、さらに下記(G)を満足する請求項1または2に記載のプロピレン重合体樹脂組成物。
(G)160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)と、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)(g/10分)との関係が下記式(1)を満足する。
MS160>90−130×log(MFR) (1)
【請求項4】
エチレン重合体樹脂が、さらに下記(H)を満足する請求項1−3のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物。
(H)190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と、160℃で測定した溶融張力(MS160)(mN)との関係が下記式(3)を満足する。
MS160/MS190<1.8 (3)
【請求項5】
エチレン重合体樹脂が、さらに下記(I)を満足する請求項1−4のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物。
(I)流動の活性化エネルギー(E)(kJ/mol)と、JIS K6760に準拠して密度勾配管法により測定した密度(d)(kg/m)との関係が、下記式(5)を満足する。
125−0.105d<E<88−0.0550d (5)
【請求項6】
190℃で測定した溶融張力(MS190)(mN)と、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)(g/10分)との関係が下記式(7)を満足する請求項1−5のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物。
MS190>40−20×log(MFR) (7)
【請求項7】
請求項1−6のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物を発泡成形してなる発泡成形品。
【請求項8】
請求項1−6のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物をブロー成形してなるブロー成形品。
【請求項9】
請求項1−6のいずれかに記載のプロピレン重合体樹脂組成物であって、230℃で測定したMFRが10g/10分未満であり、190℃で測定した溶融張力(MS190)が10mN以上であるプロピレン重合体樹脂組成物を、押出発泡成形してなる押出発泡成形品。

【公開番号】特開2010−265449(P2010−265449A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92615(P2010−92615)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】