説明

ヘスペレチン−7−β−マルトシド及びその製造方法並びにその用途

【課題】ヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法及びその用途の提供。
【解決手段】ヘスペリジンにα−1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノースを除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、α−Dグルコースを1個以上付加させるか、又はこの付加させたものに、更に加水分解酵素を作用させて平均付加糖数を低減し、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンを基準として平均付加糖数を1.5〜3.0に調整することを特徴とするヘスペレチン配糖体組成物の製造方法。ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジン、イソフラボンのうちから選択される難水溶性物質に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを共存させる、難水溶性物質の水溶性改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘスペレチン−7−β−マルトシド及びその製造方法並びにその用途に関し、さらに詳しくは水溶性に優れた新規物質のヘスペレチン−7−β−マルトシド及びその製造方法並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘスペリジン(Hesperidin)は、下記式[I]:
【0003】
【化3】

【0004】
で示されるようにヘスペレチン(5,7,3'-トリヒドロキシ-4'-メトキシフラバノン
)の7位の水酸基に、ルチノース(L-ラムノシル-(α1→6)-グルコース)がβ-結合したものをいう。このヘスペリジンは柑橘類の未熟な果皮に含まれ、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整等の生理作用を有するビタミンPとして、また消炎・鎮痛作用あるいは動脈硬化、高血圧などを改善する作用を有する物質として医薬品、化粧品等に供される。またこのヘスペリジンは、アルカリ性水溶液には可溶であるが、水、酸に難溶であり、特開平10−70994号公報(特許文献1)にも記載されているように、室温では、50Lの水に僅かに1g(約0.002V/V%)程度しか溶けず、このヘスペリジンが、例えば、缶詰の液汁に少量でも含まれていると、液汁が白濁し商品価値が損なわれる。
【0005】
従来、ヘスペリジンによる液汁の白濁を防止するとの観点から、種々の方法が提案されている。例えば、特開平3-7593号公報(特許文献2)には、ヘスペリジンに澱粉部
分分解物(α-グルコシル糖化合物)共存下で糖転移酵素(α-グルコシル転移活性を有する酵素)を作用させて、下記式[II]で示されるα−グリコシルヘスペリジンを生成させて、水溶性を高めた酵素処理ヘスペリジンの製造方法が開示されている。
【0006】
【化4】

【0007】
このα−グリコシルヘスペリジンは、上記式[II]に示されるように、式[I]で示されるヘスペリジンのグルコースの4位の位置にグルコース(G)がα-1,4結合で順次
n個(1以上の整数個)結合した化合物、またはこれらグルコース数の異なるα−グリコシルヘスペリジンの混合物である。
【0008】
このα−グリコシルヘスペリジンも上記特許文献2には、原料ヘスペリジンと同様に、ビタミンP強化剤、感受性疾患の予防剤、治療剤すなわち抗感受性疾患剤として医薬品に用いられ、天然型黄色着色剤、酸化防止剤、安定剤、品質改良剤、紫外線吸収剤として用いられ、美肌剤、色白剤などとして化粧料に用いられる旨記載されている。
【0009】
また、特開平10−218777号公報(特許文献3)には、α−グリコシルヘスペリジンを、経口摂取または皮膚外用可能なむくみ抑制剤、痩身剤として使用することが記載されている。
【0010】
また、特許第3208113号公報(特許文献4)には、ヘスペリジン配糖体すなわちα−グリコシルヘスペリジンを用いて、飲食品や生薬含有飲食品、カカオ製品、ハチミツ製品等の異味(野菜飲料の青臭味、酸味、渋味;生薬の苦味、渋味、薬臭;ハチミツのエグ味、いがらっぽい味;)を低減する飲食品の風味改善方法が開示されている。
【0011】
また、ヘスペリジンのアグリコンであるヘスペレチン(hesperetin)は、特開平8−283154号公報(特許文献5)では、血中コレステロール低下作用及び高密度リポプロテインコレステロール増加作用があることが開示されている。
【0012】
このように、ヘスペリジンやその配糖体、ヘスペリジンのアグリコンであるヘスペレチンなどについてこれまでに、その水溶性、薬効などの点から種々提案されているが、未だその配糖体や物性等については知られていないものがあり、もし、安価で容易に入手しうる原料ヘスペリジンから誘導される新規ヘスペレチン配糖体やその有用性などが見出されれば、その工業的意義は大きい。
【0013】
そこで、本発明者らは、このヘスペリジンを出発物質とし、これに種々の酵素処理、加水分解処理等を加えたところ、特定のヘスペレチン配糖体を合成するに至ると共に、その物質がヘスペリジンに比して著しく加水分解性に優れること、またこれまでに知られていない新規物質であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
なお、上記特開平10−70994号公報(特許文献1)において、本願出願人らは、上記α−グリコシルヘスペリジンとヘスペリジンとを含有する溶液に、α-L-ラムノシダ
ーゼ活性を有する酵素を作用させて、α-グリコシルヘスペリジンを変化させることなく
ヘスペリジンをβ−モノグルコシルヘスペレチンに変化させた後に、グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3)又はβ−アミラーゼ(E.C.3.2.1.2)を作用させて、α−グリコシルヘスペリジ
ンをα-モノグルコシルヘスペリジン又はα-ジグルコシルヘスペリジンに変化させることもできる旨を記載している([0023]欄)。
【0015】
しかしながら、この特許文献1では、β-モノグルコシルヘスペレチンの付加糖4−位
に一旦糖付加したのち、β−アミラーゼを作用させ新規物質を生成させるという技術的思想はなく、また該特許文献1に示すように、ヘスペリジンにα-L−ラムノシダーゼを作
用させて生成したβ-モノグルコシルヘスペレチンに(糖転移酵素を作用させる段階を経
ることなく、直ちに)β−アミラーゼを作用させても、ヘスペレチン−7−β−マルトシドなどは生成しない。よって、本発明者らが今回初めて見出したこの物質がどのような物性を有し、どのような用途に有効かなど、上記特許文献1には何ら教示されていない。
【特許文献1】特開平10−70994号公報
【特許文献2】特開平3-7593号公報
【特許文献3】特開平10−218777号公報
【特許文献4】特許第3208113号公報
【特許文献5】特開平8−283154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、ヘスペリジンやβ−モノグルコシルヘスペレチンに比してより水溶性、吸収性などに優れ、風味改善、生理機能、ビタミンP活性、色調が黄色などの点でヘスペリジンと同様の効果を有する新規なヘスペレチン配糖体およびその用途を提供することを目的としている。
【0017】
また本発明は、上記の新規なヘスペレチン配糖体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る新規物質は、下記式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドである。
【0019】
【化5】

【0020】
本発明に係る上記式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法は、ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を1個のみ付加することを特徴としている。
【0021】
本発明では、上記α-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素は、α−1,6−ラムノ
シダーゼ活性を有するセルラーゼ剤、ヘスペリジナーゼ剤、ナリンジナーゼ剤のうちから選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る上記の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物の第1の製造方法は、
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を1個以上(例:1〜10個かそれ以上)付加させることを特徴としている。本発明では、次いで、必要によりヘスペレチン−7−β−マルトシドを分取(分離精製)してもよい。
【0023】
本発明に係る上記の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物の第2の製造方法は、前記第1の製造方法と同様に、
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を1個以上付加させた後、
加水分解酵素を作用させて平均付加糖数を低減し、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンを基準として平均付加糖数を1.5〜3.0に調整することを特徴としている。本発明では、次いで、必要によりヘスペレチン−7−β−マルトシドを分取(分離精製)してもよい。
【0024】
本発明に係る上記の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物は、上記の何れかに記載の方法で得られたものであることを特徴としている。
【0025】
本発明に係る色素の退色防止方法は、色素に、上記ヘスペレチン−7−β−マルトシド、または上記ヘスペレチン配糖体組成物を添加することを特徴としている。
本発明に係る色素の退色防止方法では、さらに酵素処理ルチン、酵素処理イソケルシトリン、L−アスコルビン酸のうちから選択される、1種または2種以上を添加することを特徴としている。
【0026】
本発明に係る難水溶性物質の水溶性改善方法は、ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジン、イソフラボンのうちから選択される難水溶性物質に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを共存させることを特徴としている。
【0027】
本発明に係る水溶性改善剤は、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有することを特徴としており、特に、ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジン、イソフラボンのうちから選択される難水溶性物質を含む含水液に共存させれば、難水溶性物質を含有することによる濁りの発生を防止でき、難水溶性物質の水溶性を著しく改善することができる。
【0028】
本発明に係る飲食物は、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有することを特徴としている。
本発明に係る化粧料(化粧品)は、何れも、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを有効成
分として含有することを特徴としている。
【0029】
本発明に係る飲食物、経口医薬の呈味改善方法は、異味を有する飲食物、経口医薬に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを添加し、その異味を低減することを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る新規ヘスペレチン−7−β−マルトシドは、安全であり、原料ヘスペリジンに比してビタミンP活性を有する点、黄色である点で共通し、水溶性に優れる点、より吸収効率が高い点で相違しており、また新たな特性として、アミラーゼにより容易に分解し、生体吸収率が高いという特徴を有している。
【0031】
これら特性を生かして、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整などの生理作用を有するビタミンP剤、脂質代謝改善剤、酸化防止剤、黄色着色剤、安定剤、品質改良剤、紫外線吸収剤、ウイルス性疾患、細菌性疾患、循環器疾患、悪性腫瘍などの感受性疾患の予防・治療剤、むくみ抑制作用や痩身剤剤として医薬、食品や化粧品に、また美肌剤、メラニン生成抑制剤として化粧品などの用途に使用できる。
【0032】
また、この新規ヘスペレチン−7−β−マルトシドを、異味を有する飲食物に添加すれば、例えば、その異味を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係るヘスペレチン−7−β−マルトシド、ヘスペレチン配糖体組成物及びそれらの製造方法並びにその用途等について具体的に説明する。
[新規物質のヘスペレチン−7−β−マルトシド]
本発明に係るヘスペレチン−7−β−マルトシドは、下記式[A]で表される新規物質である。
【0034】
【化6】

【0035】
このヘスペレチン−7−β−マルトシドの分子構造は、後述するように、MS分析、メチル化分析、1H−NMR分析等により決定され、MS分析により分子量が626であり
、メチル化分析、1H−NMR分析からヘスペレチンに結合している糖質はマルトースで
あること等が分かる。
【0036】
このヘスペレチン−7−β−マルトシドは、ヘスペリジン、ヘスペレチン−7−β−Dモノグルコシドあるいはアグリコンのヘスペレチンに比して、著しく水溶性に優れ、例えば、20℃の水100mlに25000mg溶ける。因みに、ヘスペリジンの溶解度については、特開平3−7593号公報2頁左下欄1〜3行に、「ヘスペリジンは、室温の水
50リットルに僅か1g程度(約0.002V/V%)しか溶けず、使用上困難を極めている。」、とあるように、極めて水溶性に乏しい。また、ヘスペレチン−7−β−マルトシドの溶解度は、ヘスペリジンに比して10000(1万)倍高く、またヘスペレチン−7
−β−Dモノグルコシドに比して、3000(3千)倍高い。
【0037】
ヘスペレチン−7−β−マルトシドは、天然の原料であるヘスペリジンを用いて後述するように糖転移酵素の作用、さらには必要により加水分解酵素の作用等で生成されるものであり、安全性に優れている。
【0038】
[ヘスペレチン配糖体組成物]
本発明に係るヘスペレチン配糖体組成物としては、上記ヘスペレチン−7−β−マルトシド[A]を含む、下記式[B]で表されるヘスペレチンβ−グリコシド(但し、式[B]中で、n=0の場合は、式[A]に相当する。)が挙げられる。このヘスペレチンβ−グリコシド[B]は、後述するように、ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を
有する酵素を作用させて、ラムノースを加水分解して除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはデキストリンの存在下に糖転移酵素を作用させることにより得られ、通常、n=1〜10程度を含むnの値の異なる配糖体混合物(i)である。
【0039】
なお、このヘスペリジン配糖体組成物には、成分[A]を含むヘスペレチンβ−グリコシドが含まれる。さらに、この配糖体混合物(i)に加水分解酵素を作用させて平均付加糖数を低減したもの(配糖体混合物(ii)という。)も含まれる。
【0040】
このような加水分解酵素を作用させた配糖体混合物(ii)では、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンを基準としてα−Dグルコースを(II)と(IIa)の合計としての平均付加糖数が1.5〜3.0に低減あるいは調整されている(すなわち[A]含量が高められている)ことが望ましい。
【0041】
このようなヘスペレチンβ−グリコシド[B]では、ヘスペレチン7位のOH基に、式[B]中(I)で示すようにβ-Dグルコースが1個結合し(ヘスペレチン−7−β−D
モノグルコシド)、さらにその先に(IIa)で示すようにα-Dグルコースがn個(例
:1〜10個、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個)α−D(1→4)結合で鎖状に縮合し、最終端部に(II)で示すようにα-Dグルコースが1−4結合している

【0042】
よって、グルコース数の合計では、ヘスペレチン−7-β−Dモノグルコシド基準で、β−Dグルコース(I)の4位のOH基にα−Dグルコースが(n+1)個、α−D(1→4)結合で鎖状に縮合した構造を有している。
【0043】
【化7】

【0044】
(式[B]中、nは、0又は1以上の整数で、通常、1〜10、好ましくは1〜5、特に
好ましくは1〜2程度の数を示す。なお、式[B]中、n=0の時は前記式[A]に相当
する。)
このヘスペレチン配糖体組成物中におけるヘスペレチン−7−β−マルトシド[A]の含有量は、その用途等に応じて適宜設定変更が可能であり、特に限定されないが、例えば、化粧品用では、20〜100重量%程度の量で含まれていることが加工性、機能の発現の点で望ましい。
【0045】
なお、ヘスペレチン配糖体組成物中における[A]以外の成分、例えば、ヘスペレチン配糖体(ヘスペレチンβ−グリコシド)[B](n=0を除く。)の含有量は特に限定されない。
【0046】
[ヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法]
ヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法の概略を下記式に示す。
なお、下記のヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造工程の説明では、ヘスペレチンβ−グリコシド[B]を示す式は、特に断らない限り、n=0のヘスペレチン−7−β−マルトシド[A]を含む意味で用いる。
【0047】
【化8】

【0048】
本発明に係る上記式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法では、上記式に示すように、先ず原料ヘスペリジンに、α-1,6ラムノシダーゼ活性を有
する酵素を水あるいは水分の共存下に作用させてラムノースを加水分解し、除去する。
【0049】
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させると、7−β−
Dモノグルコシルヘスペレチンに変化する。
α-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素としては、α-1,6−ラムノシダーゼ活性を有する酵素剤が使用され、例えば、商品名「セルラーゼ A アマノ」(天野エンザイム(株)製)、商品名「可溶性ヘスペリジナーゼ」(田辺製薬(株)製)、商品名「ナリンギナーゼ」(田辺製薬(株)製)等が挙げられ、とりわけ、商品名「可溶性ヘスペリジナーゼ」がβ−グルコシダーゼ活性が少ないなどの点で好ましい。
【0050】
これらα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素は、ヘスペリジンを含有する溶液(
水溶液)中のヘスペリジン100重量部当たり、酵素剤として、好ましくは0.05〜50重量部、さらに好ましくは1.5〜15重量部程度の量で用いられる。これらのα-1
,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を上記ヘスペリジン含有溶液中のヘスペリジンに作用させるには、通常、pH3〜7、好ましくはpH3.5〜5.0で、通常15〜70℃、好ましくは20〜60℃の温度で、通常0.5〜48時間、好ましくは6〜24時間程度保持すればよい。
【0051】
次いで、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンが含まれた酵素処理ヘスペリジン溶液を、例えば、エタノール等で活性化した中間極性の多孔性吸着樹脂に通液し、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、未反応原料のヘスペリジンを該樹脂に吸着させると共に、ヘスペリジンの分解により生じたラムノースなどを流出させる。
【0052】
次いで、炭酸ソーダ含有エタノール水溶液などを用いて樹脂への吸着成分を溶離させると共に、酸で中和させ、エタノールを除去し、冷却すれば、水溶性に乏しい7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン(ヘスペレチン−7−β−Dグルコシド)が沈殿物として得られる。
【0053】
次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン(ヘスペレチン−7−β−Dモノグルコシド)を含む溶液(アルカリ性の水溶液)に、糖またはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、1−4−α−Dグルコース付加活性を有する糖転移酵素(例:シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)を作用させて、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基にさらにα−Dグルコース(II)を1個付加(脱水縮合)することによりヘスペレチン−7−β−マルトシド[A]を製造することができる。
【0054】
この際に糖転移酵素は、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンを含有する溶液(水溶液)中の7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン100重量部当たり、酵素剤として、通常、0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度の量で用いられる。これらの糖転移酵素を上記7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン含有溶液中の7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに作用させるには、通常、pH6.0〜9.5、好ましくはpH7.5〜8.5で、通常30〜70℃、好ましくは50〜70℃の温度で、通常4〜48時間、好ましくは18〜24時間程度保持すればよい。
【0055】
糖転移酵素としては、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、でん粉質からのグルコースを付加しうるような酵素であればどのような酵素でも用いることができる。
本発明の上記工程では、上記のように7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに糖転移酵素を作用させると、式[B]で表されるヘスペレチンβ−グリコシドが生成する。この糖転移反応では、式[B]で表されるものの中には、n=0に相当するヘスペレチン−7
−β−マルトシド[A]の他に、式[B]でnが1以上の整数(通常、1〜10個程度の混合物)のものが生成する。
【0056】
そこで、本発明では、上記のように7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに糖転移酵素を作用させた後、加水分解酵素(例:β−アミラーゼ)等により上記ヘスペレチンβ−グリコシド[B]の加水分解処理し、ヘスペレチン−7−β−マルトシド[A]の含有量を高濃度に高めてもよい。すなわち式[B]中、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに付加糖数nが1個以上の整数(通常、1〜10個程度の混合物)であるところ、これの1−4−α−Dグルコース数を低減(調整)して、1−4−α−Dグルコース数が1個(n=0)の成分[A]が高含有となるように、加水分解処理してもよい。
【0057】
この際、加水分解酵素は、前記7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンを含有する溶液(水溶液)中の7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン100重量部当たり、酵素剤として0.001〜100重量部、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度の量で用いられる。これらの加水分解酵素を上記7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン含有溶液中のヘスペレチンβ−グリコシド[B]に作用させるには、通常、pH3〜6で、通常35〜65℃の温度で、通常2〜24時間程度保持すればよい。
【0058】
加水分解酵素としては、グルコアミラーゼ剤、β−アミラーゼ剤などが挙げられる。
なお、上記ヘスペレチンβ−グリコシド[B]の加水分解処理により、1−4−α−Dグルコース数=1〜3程度(式[B]ではn=0〜2に相当)のもの、特にヘスペレチン−7−β−マルトシド[A](式[B]ではn=0に相当)がより高含有となる。
【0059】
なお、原料のヘスペリジンは、柑橘類などを中心に自然界に幅広く存在しており、極めて低コストで容易に入手可能である。
このようにして得られたヘスペレチン−7−β−マルトシド含有物は、必要により精製してヘスペレチン−7−β−マルトシドとして用いてもよく、精製せずにそのまま用いてもよい。
【0060】
[発明の効果]
本発明に係る新規ヘスペレチン−7−β−マルトシドは、安全であり、原料ヘスペリジンに比してビタミンP様活性を有する点、黄色である点で共通し、水溶性に優れる点、より吸収効率が高い点で相違しており、
また新たな特性として、アミラーゼにより容易に分解し、生体吸収率が高いという特徴を有しており、これら特性を生かして、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整などの生理作用を有するビタミンP剤(ビタミンP代替品)、脂質代謝改善剤、酸化防止剤、黄色着色剤、安定剤、品質改良剤、紫外線吸収剤、ウイルス性疾患、細菌性疾患、循環器疾患、悪性腫瘍などの感受性疾患の予防・治療剤、むくみ抑制作用や痩身剤剤として医薬、食品や化粧品に使用でき、家畜等の飼料に配合して使用でき、また美肌剤、メラニン生成抑制剤として化粧品などの用途に使用できる。さらには、ビタミンP代替品として飲食物、飼料、化粧品などに添加して用いてもよい。
【0061】
また、この新規ヘスペレチン−7−β−マルトシドを、異味を有する飲食物に添加すれば、例えば、その異味を低減させることができる。
[ヘスペレチン−7−β−マルトシドの用途等]
<難水溶性物質の水溶性改善方法及び水溶性改善剤>
本発明に係る難水溶性物質の水溶性改善方法は、難水溶性物質に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを共存させることを特徴としている。
【0062】
本発明において難水溶性物質とは、20℃の水1リットルに、当該物質が1.0g以上
溶解しないものをいう。
この難水溶性物質としては、例えば、ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、イソケルシトリン、イソフラボン、ナリンジンなどが挙げられ、難水溶性物質にヘスペレチン−7−β−マルトシドを共存させる本発明に係る難水溶性物質の水溶性改善方法によれば、特にヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンの水溶性を著しく高めることができる。このようにヘスペレチン−7−β−マルトシドが難水溶性物質の水への溶解度を高めることができる理由は、難水溶性物質と同一又は類似した構造(部分)をもち、かつ、分子内に水溶性の糖を有しているためであろうと考えられる。
【0063】
因みに、難水溶性物質がヘスペリジンの場合、ヘスペリジンは室温(例:20℃)の水中に0.05重量%濃度も溶けず、アルカリで溶解させたヘスペリジンを同様の量(液中濃度:0.05重量%)で水に添加した直後から濁りが生ずる。
【0064】
これに対して、このアルカリで溶解させたヘスペリジン含有液(ヘスペリジン初期濃度:0.05重量%)に、本発明に係る新規物質のヘスペレチン−7−β−マルトシドを、ヘスペリジン重量に対しその0.3重量倍以上の量で、好ましくは4〜10重量倍程度の量で用いると、ヘスペリジンの水溶性を著しく向上させることができる。特にヘスペリジンなどの難水溶性物質に対するヘスペレチン−7−β−マルトシドの添加量が増大するに連れてヘスペリジン含有液中の難水溶性物質の1種であるヘスペリジンの水溶性が向上して濁りが発生し難くなり、ヘスペリジン含有液を4℃程度の低温で長期間(例:1ヶ月〜1年)保存後でも、ヘスペリジンが0.005〜0.10重量%程度の量で配合された種々の水溶液は、澄明のまま保存・維持でき、濁りが極めて生じ難い。
【0065】
難水溶性物質が、上記ヘスペリジン以外の7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジン等の場合においても、ヘスペレチン−7−β−マルトシドの添加による効果があり、その添加量は、例えば、ヘスペリジンの場合と同様な量に設定できる。
【0066】
本発明に係る水溶性改善剤は、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有することを特徴としている。この水溶性改善剤中におけるヘスペレチン−7−β−マルトシド含量は特に限定されず、その用途に応じて適宜設定可能であり、例えば、0.01〜100重量%
の量で含まれている。この水溶性改善剤を、特に、ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジンのうちから選択される難水溶性物質を含む含水液に添加すれば、上記のように難水溶性物質を含有することによる濁りの発生を防止でき、難水溶性物質の水溶性を著しく改善することができる。
<色素の退色防止方法>
本発明に係る色素の退色防止方法は、色素に、上記のヘスペレチン−7−β−マルトシド、または上記ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有したヘスペレチン配糖体組成物を添加することを特徴としている。
【0067】
色素へのヘスペレチン−7−β−マルトシドの添加量は、特に限定されないが、色素100g当たり、例えば、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを10〜100g程度の量で配合すればよい。
【0068】
本発明では、さらに酵素処理ルチン、酵素処理イソケルシトリン、L−アスコルビン酸などを、1種または2種以上添加することが望ましい。その場合、ヘスペレチン−7−β−マルトシド100重量部当たり、酵素処理ルチン、酵素処理イソケルシトリン、L−アスコルビン酸など合計で10〜1000重量部、好ましくは20〜200重量部程度の量で用いることが退色防止効果を高める上でより望ましい。
<飲食物、医薬、化粧品など>
本発明に係る飲食物は、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有することを特徴としている。
【0069】
本発明に係る医薬および化粧料は、何れも、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを有効成分として含有することを特徴としている。
このように本発明に係る医薬は、体内で分解され、ヘスペリジンのアグリコンと同様のアグリコンを有するヘスペレチン−7−β−マルトシドを有効成分として含有しているので、毛細血管の強化、出血予防、血圧調整などの生理作用を有するビタミンP代替品、脂質代謝改善剤、酸化防止剤、黄色着色剤、安定剤、品質改良剤、紫外線吸収剤、ウイルス性疾患、細菌性疾患、循環器疾患、悪性腫瘍などの感受性疾患の予防・治療剤、むくみ抑制剤、痩身剤などとして使用することが期待できる。
【0070】
また、本発明に係る化粧料(化粧品)は、ヘスペリジンのアグリコンと同様のアグリコンを有するヘスペレチン−7−β−マルトシドを有効成分として含有しているので特開平3−7593号公報に記載のα−グリコシルヘスペリジンと同様の効果である、美肌剤、メラニン生成抑制剤としての効果が期待できる。
【0071】
また本発明に係る医薬および化粧料は、本願出願人らが先に提案した特開平10−218777号公報に記載のα−グリコシル化ヘスペリジンを有効成分とする医薬と同様の効果である、むくみ抑制・改善剤及び痩身剤としての効果が期待できる。
【0072】
本発明に係る飲食物、経口医薬の呈味改善方法は、異味を有する飲食物、経口医薬に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを添加し、その異味を低減することを特徴としている。
【0073】
また、この新規ヘスペレチン−7−β−マルトシドを、異味を有する飲食物、経口医薬に添加すれば、例えば、その異味を低減させることができる。すなわち、特許第3208113号公報のヘスペリジン配糖体等と同様の効果が期待できる。
<異味改善方法及び異味改善剤>
上記低減可能な異味としては、(1)野菜飲料の青臭み、酸味または渋味、(2)生薬類含有飲食品や医薬の苦味、渋味または薬臭、(3)カカオ製品の酸味または渋味、または(4)ハチミツ製品のエグ味またはいがらっぽい味等が挙げられる。上記ヘスペレチン−7−β−マルトシドを野菜飲料、生薬類含有飲食物や医薬、カカオ製品、ハチミツ製品等に添加すると、これらの異味が低減され、その風味が改善される。
【0074】
ヘスペレチン−7−β−マルトシドの添加量は、飲食品の種類、異味の程度、添加目的等にもより、一概に決定されないが、例えば、呈味を改善すべき飲食品、医薬(100重量%)に対して通常、0.001〜10重量%程度の量(外分)で、好ましくは0.01〜0.2重量%程度の量で添加される。
【0075】
飲食物が高甘味度甘味料(例:アスパルテーム、ステビア、シュクラロース、アセスルファムKなど)を含有する場合には、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを添加すれば、嗜好的に好ましくない後味として持続する、高甘味度甘味料の甘味(後甘味)を抑制することができる。
[実施例]
以下、本発明に係るヘスペレチン−7−β−マルトシド及びその製造方法、ヘスペレチン−7−β−マルトシドの構造およびその決定法等についてさらに具体的に説明するが、本発明は係る実施例等により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
<ヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造>
ヘスペリジン10gを水200Lに分散し、これにへスペリジナーゼ(田辺製薬株式会社製、商品名:可溶性ヘスペリジナーゼ、田辺製薬(株)製)を10g添加し一晩保持した。
【0077】
次いで、得られた酵素処理液を、予め50%(v/v)エタノールで活性化した中間極性の多孔性吸着樹脂(商品名XAD−7、オルガノ(株)製)1.0Lに通し、次いでカラム容量の2倍量の水で洗浄してから2%炭酸ソーダ含有50%(v/v)エタノール水溶液3Lで樹脂への吸着成分を溶離させた。
【0078】
次いで、溶離液を酸で中和し、エタノールを除去して1.5Lとし室温下に放置してヘスペレチン−7グルコシド(7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン)を沈殿させた後、ろ別し、乾燥物7.1gを得た。
【0079】
なお、ヘスペレチン−7グルコシドであることはHPLCにより確認した。
乾燥物5.0gを取り出し、0.1Lの水に分散させ1N苛性ソーダで溶解後、デキストリン15gを加えて溶かし、希硫酸でphを7.5に調整し、これに糖転移酵素(商品名:耐熱性CGTase、株式会社 林原生物化学研究所製)0.1mlを添加して温度6
5℃で24時間保持した。
【0080】
次いで90℃で30分間保持してから希硫酸を添加してphを6.0に調整し、β−アミラーゼ(ナガセケムテックス(株)製、商品名:β−アミラーゼ−L)10μL添加し、温度60℃で6時間保持した。
【0081】
次いで、得られた反応物をクロマト分離しヘスペレチン−7−β−マルトシド1.2gを分取した。
<ヘスペレチン−7−β−マルトシドの安全性確認試験>
ヘスペレチン−7−β−マルトシド0.05gを50mMのクエン酸バッファ−(pH6.8)100mlで溶解して試料液を調製した。この試料液を37℃のウォ−タ−バス中で保温した。
【0082】
また、ラット腸アセトン粉末(SIGMA Co.,Ltd.製)0.25gにイオン交換水40mlを
加え、氷冷下で充分攪拌した後遠心分離(3,000rpm、6分)して、得られた上澄みをラット腸粉末液として分取した。このラット腸粉末液を氷水中に保管した。
【0083】
試験管に、上記「試料液」5mlと、「ラット腸粉末液」1,200μlとを入れ被検液とし、37℃のウォ−タ−バス中で一定時間反応させた。
一方、上記ラット腸粉末液に換えてイオン交換水1,200μlを加えたものをコントロ−ルとした。
【0084】
上記何れの場合も、下記のHPLC条件にてヘスペレチン−7−β−マルトシドの残存率(%)を調べ、ラット腸アセトン粉末液による分解性を確認した。
<HPLC条件>
カラム :YMC ODS−AQ (4.6mmφ×250mm)、
温度 :40℃、
流速 :1.0ml/min、
検出器 :日立L-4000 UV Detector 280nm、
移動相 :20%アセトニトリル + 100μl酢酸/L。
<結果>
結果を表1に示す。表1中、[時間(分)]は、スタートからの経過時間(分)を示し、各項目の値は、当該時間経過後のコントロール及び被験液中のヘスペレチン−7−β−マルトシドの残存率(%)を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1に記載の通り、ヘスペレチン−7−β−マルトシドは、ラット腸アセトン粉末により容易に分解されてヘスペレチン−7−グルコシドに戻ることが確認された。これにより、本ヘスペレチン−7−β−マルトシドはヒトの腸内酵素によっても容易に分解されることが示唆された。
【実施例2】
【0087】
<ヘスペリジンの水溶性の改善>
ヘスペリジンを2N−NaOHを用いて、0.05重量%濃度となるように水に溶解し、3本の100ml試験管に50mlづつ注入した。
【0088】
それらのうち2本にそれぞれヘスペレチン−7−β−マルトシドを50mg、100mg添加・混合し、2N−HClにてPHを6.5に調整し、1本をブランク(対照)とし、これら試料を温度4℃で4週間冷蔵保存した。
【0089】
調製直後からブランクは濁りを生じたが、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを50mg、100mg添加・混合した区分は添加直後では澄明であった。
各試料の保存期間とヘスペリジンの析出の程度との関係を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
<析出の程度の評価基準>
「−」:澄明。
「±」:ほぼ透明。
「+」:かすかに濁りがある。
「++」:やや濁りがある。
「+++」:濁っている。
【0092】
上記表2によれば、ヘスペリジン濃度が0.05重量%のヘスペリジン含有液にヘスペレチン−7−β−マルトシドを0.10〜0.20重量%の量で添加すれば、その水溶性を高めることができ、長期間4℃程度の低温で保存しても、ヘスペリジンの析出が抑制され、濁りが生じないことがわかる。
<反応生成物の構造解析>
得られた精製物について、以下のMS分析、メチル化分析、1H−NMR分析を行い、
その構造解析を行った。
【0093】
各分析法の分析条件等を以下に示す。
<分析条件>
(1) MS分析(ESI−MS)
装置:サーモエレクトロン(株)製、型番「LCQ Advantage」、
イオン化:ESI、検出:ポジティブモード、測定範囲:m/z150〜2000、Spray Voltage:5kV、Capillary Temp:350℃、Capillary Voltage:4V、Sheath Gas Flow:8arb、Tube Lens Offset:0V、
試料量:100ppm(1%酢酸/メタノール=50/50にて調製)
導入法:インフュージョン。
(2) メチル化分析
試料1mgをCIUCANU法にてメチル化し、加水分解、還元、アセチル化を行い、得られたメチル化アルジトールアセテートをGLC[(株)島津製作所製、型番「GC-14B
」]にて分析した。
(3) NMR分析
装置:日本電子(株)製、型番「JNM−AL300型(JEOL)」、
1H:300.4MHz、13C:75.45MHz、
溶媒:重水(0.1N NaOHを含む。)
内部標準:3−(trimethylsilyl)-1-propane-sulfonic acid sodium salt(TPS)、積算回数:1H−NMR 4000回、
試料量:9mg。
<分析結果>
(i)MS分析:
実施例1で得られた試料(標品)について、MS分析(ESI−MS)の測定結果を図1に示す。
【0094】
この図1に示すESI−MSスペクトルによれば、メインピークはナトリウム付加イオン[M+Na]+m/z649であり、1価のイオンであったことから標品の分子量は6
26(=649−23)と決定した。
(ii)メチル化分析:
また、実施例1で得られた試料(標品)について、メチル化分析の測定結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3に示すように、メチル化分析の結果、非還元末端グルコース残基が1分子、1,4
−位が結合に関与したグルコース残基が1分子検出され、アグリコンに結合している糖質はα−グルコースが2個結合した構造のマルトースまたはβ−グルコースが2個結合した構造のセロビオースであることが分かった。
(iii)NMR解析:
試料(標品)を1H−NMR解析の結果、得られた1H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0097】
この1H−NMR解析の結果から、ヘスペレチン−7−β−グルコシドに新たに結合し
たグルコース(図3に示すヘスペレチン−7−β−マルトシドにおける(II))は、α−結合(δH:5.17ppm)であることが分かり、ヘスペレチンに結合した糖質は、上記メチル化分析結果も考慮して、マルトースであると判断した。
(iv)試料(標品)の構造決定:
MS分析の結果から標品の分子量は626であり、メチル化分析の結果および1H−N
MR分析の結果から、ヘスペレチンに結合している糖質はマルトースであることがわかった。また、ヘスペレチン−7−β−グルコシドを受容体として酵素合成された標品であることと上記分析結果を総合的に判断して、本標品は、ヘスペレチン−7−β−マルトシド(図3)と決定した。
【実施例3】
【0098】
濃度0.05重量%のクチナシ黄色素溶液(クエン酸緩衝液、pH3.3)にヘスペレチン−
7−β−マルトシドを溶液重量当たり400mg/kgの量で加えたもの(本発明品(イ))と、さらにL−アスコルビン酸を上記クチナシ黄色素溶液重量当たり200mg/kgの量で添加したもの(本発明品(ロ))、上記クチナシ黄色素溶液にヘスペレチン−7−β−マルトシド
を添加せず、L−アスコルビン酸のみを上記クチナシ黄色素溶液重量当たり200mg/kgの量で添加したもの(対照区(イ))と、上記クチナシ黄色素溶液に何も添加しなかったもの(対照区(ロ))とを準備した。
【0099】
次いで、これらを密閉容器中にて加熱殺菌処理した後、5℃下、蛍光灯照射(照度:7000ルクス)下に保存し、クチナシ黄色素の残存率%を0日後(試験開始直後)、2日後、4日後について分光光度計(442nm)で測定した。
【0100】
結果を表4に示す。
【0101】
【表4】

【0102】
クチナシ黄色素溶液にヘスペレチン−7−β−マルトシドを添加することにより、呈味に影響を及ぼすことなくクチナシ黄色素の退色が有意に抑制された。またL−アスコルビン酸との相乗効果も見られた。
【実施例4】
【0103】
<グレープフルーツゼリー>
グレープフルーツ果汁(1/6濃縮)0.5重量部、グレープフルーツさのう1.0重量部、マ
ルチトール6.0重量部、酵素処理ステビア0.04重量部、pH調整剤0.9重量部、ベニバナ黄色0.01重量部、ヘスペレチン−7−β−マルトシド0.01重量部に水を加えて全量を100重
量部とし、グレープフルーツゼリーを調製した。
【0104】
本グレープフルーツゼリーを透明ガラス瓶に密封し、室温下、日中蛍光灯の光が当たる所に6ヶ月間保存したが風味の変化もほとんどなく、色調の変化も少なかった。このよう
に本ゼリーは長期間でも退色しなかったことから、ヘスペレチン−7−β−マルトシドによる酸化防止および退色防止の効果が示された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、実施例1で得られた試料(標品)について、MS分析(ESI−MS)の測定結果を示す図(ESI−MSスペクトル)である。
【図2】図2は、実施例1で得られた試料(標品)について、1H−NMR分析を行った結果を示す図(1H−NMRスペクトル)である。
【図3】図3は、ヘスペレチン−7−β−マルトシドの構造を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシド:
【化1】

【請求項2】
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β−Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β―Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を1個のみ付加することを特徴とする、下記式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドの製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記α-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素が、α−1,6−ラムノシダーゼ活性
を有するセルラーゼ剤、ヘスペリジナーゼ剤、ナリンジナーゼ剤のうちから選択される1
種または2種以上である請求項1〜2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β―Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β―Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を付加させることを特徴とする、上記請求項1の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物の製造方法。
【請求項5】
ヘスペリジンにα-1,6ラムノシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、ラムノース
を除去し、次いで、得られた7−β―Dモノグルコシルヘスペレチンに、デンプンまたはその部分分解物であるデキストリンの存在下に、糖転移酵素を作用させて、7−β―Dモノグルコシルヘスペレチン中のβ−Dグルコース(I)の4−位のOH基に、さらにα−Dグルコース(II)を付加させた後、
加水分解酵素を作用させて平均付加糖数を低減し、7−β―Dモノグルコシルヘスペレ
チンを基準として平均付加糖数を1.5〜3.0に調整することを特徴とする、上記請求項1の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項4〜5の何れかに記載の方法で得られた、上記請求項1の式[A]で表されるヘスペレチン−7−β−マルトシドが含有されたヘスペレチン配糖体組成物。
【請求項7】
色素に、請求項1に記載のヘスペレチン−7−β−マルトシド、または請求項6に記載のヘスペレチン配糖体組成物を添加することを特徴とする、色素の退色防止方法。
【請求項8】
さらに酵素処理ルチン、酵素処理イソケルシトリン、L−アスコルビン酸のうちから選択される、1種または2種以上を添加することを特徴とする、請求項7に記載の色素の退色防止方法。
【請求項9】
ヘスペリジン、7−β−Dモノグルコシルヘスペレチン、ヘスペレチン、ルチン、ナリンジン、イソフラボンのうちから選択される難水溶性物質に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを共存させることを特徴とする、難水溶性物質の水溶性改善方法。
【請求項10】
ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有する水溶性改善剤。
【請求項11】
ヘスペレチン−7−β−マルトシドを含有する飲食物、飼料。
【請求項12】
ヘスペレチン−7−β−マルトシドを有効成分として含有する化粧品。
【請求項13】
異味を有する飲食物、経口医薬に、ヘスペレチン−7−β−マルトシドを添加し、その異味を低減することを特徴とする、飲食物、経口医薬の呈味改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−39349(P2007−39349A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222955(P2005−222955)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【Fターム(参考)】