説明

ヘッドアップディスプレイ装置

【課題】 視認者がスペックルノイズの影響を受けずに、明瞭な表示を視認することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】 半導体レーザー11,12,13は、レーザー光Rを発する。光ファイバー25は、半導体レーザー11,12,13から出射したレーザー光Rを伝播する。表示像生成手段19は、光ファイバー25から発せられたレーザー光Rにて表示像Lを生成する。反射手段21,22は、表示像Lを投影部材に向けて反射させる。振動発生手段32は、光ファイバー25を振動させる。高周波重畳回路31は、半導体レーザー11,12,13の閾値Ithを跨いで電流値を増減させる。表示像Lの映像信号に高周波電流増減信号を重畳させて半導体レーザー11,12,13を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源を備えたヘッドアップディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のウインドシールド或いはコンバイナと称される半透過板に表示像を投影し、虚像を表示する車両用ヘッドアップディスプレイ装置が種々提案されており、例えば特許文献1に開示されている。車両用ヘッドアップディスプレイ装置1は車両のダッシュボード内に配設されており、この車両用ヘッドアップディスプレイ装置1が投射する表示像Lはウインドシールド2により車両運転者3に反射され、車両運転者3は虚像Vを風景と重畳させて視認することができる(図6参照)。
【0003】
このような車両用ヘッドアップディスプレイ装置1において、半導体レーザーを光源としたものが提案されており、例えば特許文献2に開示されている。また、本願出願人も半導体レーザーを用いたヘッドアップディスプレイ装置を特願2008−318055号として提案している。斯かる車両用ヘッドアップディスプレイ装置1は、半導体レーザー,走査系,スクリーンを備えており、半導体レーザーから発せられたレーザー光を走査系でスクリーン上に走査して表示像を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−193400号公報
【特許文献2】特開平7−270711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザー光はコヒーレントな光であるため、スペックルノイズが発生するという問題を有していた。スペックルノイズは、スクリーンで拡散された光が同位相で重なった場合、光の干渉によって強めあい強度が高くなる一方、拡散された光の位相が1/2波長ずれた場合、弱めあい強度が低くなるために発生する。スペックルノイズは、人間の見た目には表示がギラついて見えたり、明暗の斑点模様にように見えたりする。また、画質が低下するとともに、視認者にとって不快感を与える原因となる。
本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、視認者がスペックルノイズの影響を受けずに、明瞭な表示を視認することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、レーザー光Rを発する半導体レーザー11,12,13と、前記半導体レーザー11,12,13から出射した前記レーザー光Rを伝播する光ファイバー25と、前記光ファイバー25から発せられた前記レーザー光Rにて表示像Lを生成する表示像生成手段19,51と、前記表示像Lを投影部材に向けて反射させる反射手段21,22と、を備えたヘッドアップディスプレイ装置であって、前記光ファイバー25を振動させる振動発生手段32を備えたものである。
【0007】
また、本発明は、前記表示像生成手段は、前記光ファイバー25から出射した前記レーザー光Rを空間変調させると共に特定方向に反射させる光路分岐空間変調手段51である。
【0008】
また、本発明は、前記半導体レーザー11,12,13の閾値Ithを跨いで電流値を増減させる高周波重畳回路31を備え、前記表示像Lの映像信号に高周波電流増減信号を重畳させて前記半導体レーザー11,12,13を駆動するものである。
【発明の効果】
【0009】
レーザー光Rを伝播する光ファイバーを振動させる振動発生手段を設けたことにより、スペックルノイズを低減でき、明瞭な表示を視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一実施形態を示す側面図。
【図2】同上実施形態を示すマルチモード化の概念図。
【図3】同上実施形態を示す高周波重畳回路のブロック図。
【図4】同上実施形態を示す高周波電流印加の概念図。
【図5】本発明の第二実施形態を示す側面図。
【図6】従来例を示す概観図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の一実施形態について説明する。図1乃至図4は第一実施形態を示す図である。
【0012】
11は赤色レーザーダイオード(半導体レーザー)であり、この赤色レーザーダイオード11は赤色のレーザー光Rを発するものである。12は緑色レーザーダイオード(半導体レーザー)であり、この緑色レーザーダイオード12は緑色のレーザー光Rを発するものである。13は青色レーザーダイオード(半導体レーザー)であり、この青色レーザーダイオード13は青色のレーザー光Rを発するものである。
【0013】
14はペルチェ素子であり、このペルチェ素子14は、レーザーダイオード11,12,13の温度を調整するものであり、レーザーダイオード11,12,13に密着するように配設される。ペルチェ素子14は、レーザーダイオード11,12,13の作動時にはレーザーダイオード11,12,13の発熱を除去すると共に、低温時にはレーザーダイオード11,12,13を加熱する。
【0014】
15は光ファイバーであり、この光ファイバー15は、レーザーダイオード11,12,13が発したレーザー光Rを伝播させる。光ファイバー15は、マルチモードファイバーからなるものである。レーザーダイオード11,12,13が発したレーザー光Rは、光ファイバー15の一端から入射し、光ファイバー15の他端から出射する。16はファイバーカプラであり、このファイバーカプラ16は、光ファイバー15の前記他端から出射したレーザー光Rを受光して混色させる。
【0015】
17はコリメート光学系であり、このコリメート光学系17は、ファイバーカプラ16にて混色されたレーザー光Rを平行光にするものである。19は表示像生成手段であり、この表示像生成手段19は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラー18と、スクリーン20とからなるものである。MEMSミラー18は、コリメート光学系17から出射されたレーザー光Rを走査して、スクリーン20に表示像Lを生成させる。
【0016】
スクリーン20は、MEMSミラー18で走査されたレーザー光Rを背面で受光して表示像Lを生成する。スクリーン20は拡散板からなるものであるが、例えば、ホログラフィックディフューザ,マイクロレンズアレイまたは偏光板からなるものであっても良い。21は平面ミラー(反射手段)であり、この平面ミラー21はスクリーン20に表示された表示像Lを後述する凹面ミラーに折り返すものである。22は凹面ミラー(反射手段)であり、この平面ミラー21で反射された表示像Lをウインドシールド(投影部材)に投影する。
【0017】
23はハウジングであり、このハウジング23には、コリメート光学系17,MEMSミラー18,スクリーン20,平面ミラー21,凹面ミラー22等が収容される。ハウジング23には、表示像Lが出射する窓部24が設けられている。この窓部24はアクリル等の透光性樹脂からなるものであり、湾曲形状になっている。レーザーダイオード11,12,13,ペルチェ素子14,ファイバーカプラ16は、ハウジング23外に配置されており、ファイバーカプラ16にて混色されたレーザー光Rは、光ファイバー25でコリメート光学系17に伝播される。なお、光ファイバー25は、マルチモードファイバーからなるものである。
【0018】
31は高周波重畳回路であり、この高周波重畳回路31は、レーザーダイオード11,12,13の電流を閾値Ithを跨いで高速に増減させる。レーザーダイオード11,12,13の電流を高速に増減させて駆動することによって、レーザーダイオード11,12,13から出射するレーザー光の縦シングルモードが縦マルチモードに変化する(図2参照)。これに伴い、レーザーダイオード11,12,13から出射するレーザー光のコヒーレンシーが低下するため、スペックルノイズを低減することができる。なお、映像信号に高周波電流増減信号を重畳させるため、映像の画質が劣化することはない。
【0019】
32は圧電素子(振動発生手段)であり、この圧電素子32は、光ファイバー25を振動させ、光ファイバー25のモード分散を時間的に変化させる。これにより、光ファイバー25から出射するレーザー光Rのスペックルパターンが変化し、人間が感知できない程度に平均化され、スペックルノイズが低減する。圧電素子32を配置する場所はハウジング23の外であっても良いし、ハウジング23の中であっても良いが、圧電素子32が発した振動がハウジング23や車室内に伝わらないようにすることが望ましい。
【0020】
次に、図3に基づいて、高周波重畳回路31について詳述する。映像信号に重畳する高周波信号はオシレーター41で生成される。オシレーター41で生成される高周波信号は、例えば数百MHzの矩形波であるが、高周波信号の周波数は半導体レーザー11,12,13の特性に合わせて適宜選択すればよい。オシレーター41が出力した高周波信号は、バッファー42とバッファーインバーター43に入力される。バッファー42にはスイッチ44、バッファーインバーター43にはスイッチ45が接続され、スイッチ45は接地されている。
【0021】
バッファー42から出力された信号がLowであるときスイッチ44はオフされ、信号がHighであるときスイッチ44はオンされる。一方、バッファーインバーター45から出力された信号がLowのときスイッチ45はオンされ、信号がHighであるときスイッチ45はオフされる。つまり、高周波信号がHighのときスイッチ44がオンされ、スイッチ45がオフされた状態で映像信号が増幅器46に反転入力するため、トランジスタ47がオンし、半導体レーザー11,12,13に電流が流れる。
【0022】
高周波信号がLowになるとスイッチ44がオフされ、スイッチ45がオンになるため、増幅器46への入力はゼロになり、半導体レーザー11,12,13はオフされる。スイッチ45にはバイアス電圧が印加され、浮遊容量の影響が除去されることにより、半導体レーザー11,12,13のオンオフが直ちに切り換えられる。
【0023】
図4に示すように、高周波信号と映像信号とを足し合わせ、半導体レーザー11,12,13の閾値Ithをきるように直流バイアスする。駆動電流は閾値Ithをきるように増減され、それに伴って、半導体レーザー11,12,13の出力も増減する。このように、半導体レーザー11,12,13の閾値Ithをきるように電流を高速で増減させることで、緩和振動時に半導体レーザー11,12,13の発振縦モードがマルチモード化する現象が持続することになる。そのため、レーザー光Rのコヒーレンシーが低下し、スペックルノイズを低減することができる。
【0024】
次に、図5に基づいて、第二実施形態を説明する。第二実施形態は光路分岐空間変調手段(表示像生成手段)51のみが異なり、他の構成は第一実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0025】
光路分岐空間変調手段51は、偏光ビームスプリッタ52とLCOS(Liquid Crystal on Silicon)53とから構成されている。光ファイバー25から出射したレーザー光Rにはコリメート光学系17で配光特性を付与される。コリメート光学系17にて平行光となったレーザー光Rは偏光ビームスプリッタ52でS偏光とP偏光とに分離され、S偏光のみがLCOS53に反射される。LCOS53から出射される表示像LはP偏光であるため、表示像Lは偏光ビームスプリッタ52を透過する。
【0026】
第一,第二実施形態の如く、光ファイバー25を振動させたり、半導体レーザー11,12,13に高周波重畳駆動を行う組み合わせを採ることでスペックルノイズを低減することができ、ギラツキのない表示が可能になる。
【符号の説明】
【0027】
11 レーザーダイオード(半導体レーザー)
12 レーザーダイオード(半導体レーザー)
13 レーザーダイオード(半導体レーザー)
14 ペルチェ素子(温度可変部)
15 光ファイバー
18 MEMSミラー
19 表示像生成手段
20 スクリーン
21 平面ミラー(反射手段)
22 凹面ミラー(反射手段)
23 ハウジング
25 光ファイバー
31 高周波重畳回路
32 圧電素子(振動発生手段)
51 光路分岐空間変調手段(表示像生成手段)
R レーザー光
L 表示像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を発する半導体レーザーと、前記半導体レーザーから出射した前記レーザー光を伝播する光ファイバーと、前記光ファイバーから発せられた前記レーザー光にて表示像を生成する表示像生成手段と、前記表示像を投影部材に向けて反射させる反射手段と、を備えたヘッドアップディスプレイ装置であって、前記光ファイバーを振動させる振動発生手段を備えたことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記表示像生成手段は、前記光ファイバーから出射した前記レーザー光を空間変調させると共に特定方向に反射させる光路分岐空間変調手段であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記半導体レーザーの閾値を跨いで電流値を増減させる高周波重畳回路を備え、前記表示像の映像信号に高周波電流増減信号を重畳させて前記半導体レーザーを駆動することを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276689(P2010−276689A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126552(P2009−126552)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】