説明

ベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法

【課題】ベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法及び美白剤を提供する。
【解決手段】ムシゴケを、アルコールを60v/v%以上含有するアルコール溶液、環状エーテル類及び酸素原子を2個以上有するエーテル類、並びに総炭素数3〜6のエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて抽出する工程を含むベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法、並びに当該抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤及び美白剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベオミセス酸を高含有するムシゴケ抽出物の製造方法、並びに当該抽出物を含有するエンドセリン作用抑制剤及び美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ムシゴケ(学名:Thamnolia vermicularis又はThamnolia Subuliformis)は、中国高地などに生息する地衣類の一種である。脂肪分解効果等のダイエット効果があるといわれ、日本でも茶などとして広く飲用されている。また、ムシゴケの抽出物は、メラニン生成抑制作用を有するとの報告もある(特許文献1)。
ムシゴケ抽出物には、タムノール酸、スクァマト酸、ベオミセス酸等のデプシド類と呼ばれる化合物が含有されることが知られている(非特許文献1)。また、ベオミセス酸については、血管拡張作用やスリム化作用等を有することが報告されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−182731号公報
【特許文献2】特開平2−223577号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2004−0146359号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本食品化学学会誌 Vol.14(2), 2007, P63〜69
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ベオミセス酸を高含有するムシゴケ抽出物の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、当該方法により得られるベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤及び美白剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み、ムシゴケ抽出物からの美白成分の探求と、当該成分を高濃度に含有しうる抽出方法について鋭意検討を行った。その結果、ムシゴケ抽出物に含まれるベオミセス酸が、メラニン生成を効果的に抑制しうることを見出し、新規の美白成分として有用であるとの知見を得た。さらに、ムシゴケを特定の抽出溶媒で抽出することにより、得られた抽出物中のベオミセス酸濃度が有意に増加することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、ムシゴケを、アルコールを60v/v%以上含有するアルコール溶液、環状エーテル類及び酸素原子を2個以上有するエーテル類、並びに総炭素数3〜6のエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて抽出する工程を含むベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法に関する。
また、本発明は、当該製造方法により得られるベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤及び美白剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、新規の美白成分であるベオミセス酸を高濃度に含有するムシゴケ抽出物を提供することができる。また、本発明のエンドセリン作用抑制剤及び美白剤は、有効成分として当該方法により得られる抽出物を含有し、ベオミセス酸の美白効果を発揮し得る医薬品、医薬部外品、化粧料等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】試験例1において、ベオミセス酸を添加し培養した皮膚シートの写真である。
【図2】試験例1において、ベオミセス酸を添加した皮膚シート中のメラニン量(相対値%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、抽出溶媒として、アルコール含有率60%以上のアルコール水溶液、環状エーテル類及び酸素原子を2個以上有するエーテル類、並びに総炭素数3〜6のエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて、原料であるムシゴケを抽出することを特徴とする。当該方法によって得られたムシゴケ抽出物は、他の抽出溶媒を用いたムシゴケ抽出物と比べてベオミセス酸を高濃度で含有する。
【0011】
1.ベオミセス酸
本発明において、ベオミセス酸とは下記式(1)で表される化合物である。
【0012】
【化1】

【0013】
2.ベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法
[原料]
本発明で用いるムシゴケとは、学名Thamnolia vermicularis(和名はセッチャ、ムシゴケ)であるムシゴケ科ムシゴケ属の地衣類、又は、学名Thamnolia Subuliformis(和名はトキワムシゴケ)であるムシゴケ科ムシゴケ属の地衣類をいう。本発明においては、上記属に属する類縁地衣類を用いることもできる。これらは市販品として入手可能である。
本発明においては、セッチャとトキワムシゴケとを混合して用いてもよく、単独で用いてもよい。好ましくは、セッチャを用いる。また、ムシゴケの任意の部位(全体、全草、地衣体、枝状体、葉状体、子実体等)を用いることができ、各部位を複数組み合わせて用いてもよい。好ましくは、地衣体、枝状体を用いる。
抽出に用いるムシゴケは生のままでもよく、抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕などの処理を施したものであってもよい。
【0014】
[抽出溶媒]
本発明で用いる抽出溶媒は、アルコールを60%以上含有するアルコール溶液(アルコールとして具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類が挙げられ、総炭素数1〜4のアルコールが好ましい)、環状エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン)、酸素原子を2個以上有するエーテル類(具体的には、ポリエーテル類が挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンメチルグルコシド等が挙げられる)、及び総炭素数3〜6のエステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)から選択することができる。本発明では、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、いずれかの溶媒で抽出後、他の溶媒に置き換えてもよい。本発明では抽出溶媒として、濃度60%以上のアルコール水溶液、又は酢酸エチルを用いることが好ましく、濃度70%以上のアルコール水溶液を用いることがより好ましく、濃度90%以上のアルコール水溶液(好ましくはエタノール)を用いることがさらに好ましく、濃度95%以上のアルコール水溶液(好ましくはエタノール)を用いることが特に好ましい。なお、本明細書において溶媒濃度は特に限定がない限り容量(v/v)基準である。
抽出溶媒の使用量は、抽出原料のムシゴケに対し質量比で1〜200倍量であることが好ましく、1〜100倍量であることがより好ましく、1〜50倍量であることがさらに好ましく、5〜40倍量であることが特に好ましく、5〜30倍量であることが最も好ましい。
【0015】
[抽出方法]
ムシゴケの抽出方法・条件は、地衣類や植物の抽出に用いられる通常の方法・条件を適用することができ、特に制限はない。例えば、ムシゴケを0〜100℃で数分間〜数週間浸漬又は加熱還流するのが好ましく、室温付近の温度で1時間〜3週間程度浸漬することが特に好ましい。また、抽出効率を上げる為、併せて攪拌を行ったり、溶媒中でホモジナイズ処理を行ってもよい。
また、抽出工程の後、必要に応じて更に適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留等により活性の高い画分を分画してもよい。
本発明の製造方法により得られる抽出物には、このようにして得られた各種抽出物、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末等が包含される。
【0016】
3.ベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物
本発明の方法により得られるムシゴケ抽出物は、ベオミセス酸を高含有する。具体的には、本発明のベオミセス酸高含有(高濃度含有)ムシゴケ抽出物は、同量のムシゴケを同量の濃度50%アルコール水溶液を用いて同じ抽出条件(抽出時間、抽出温度等)で抽出した場合と比べて、得られたムシゴケ抽出物中のベオミセス酸濃度が2倍以上であることを特徴とする。本発明のムシゴケ抽出物中のベオミセス酸濃度は、抽出物の全質量に対して、300ppm以上であることが好ましく、400ppm以上であることがより好ましく、800ppm以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書においてppmは、特に限定がない限り質量基準である。
後述の実施例で実証されているようにベオミセス酸はメラニン生成抑制作用を有し、これを含有する本発明の抽出物は優れた美白作用を奏する。ムシゴケには、ベオミセス酸、スクァマト酸等のデプシド類が成分として含有されることが知られているが、その中のベオミセス酸がメラニン生成抑制作用を奏することは従来知られておらず、本発明者らにより得られた新しい知見である。本発明のムシゴケ抽出物はベオミセス酸を高濃度で含有し、従来のムシゴケ抽出物と比べて一段と高い美白効果を奏する。なお、本発明において「美白(作用、効果)」とは、メラニン色素の生成を抑え、余分なメラニンのない本来の透明な肌色に戻すこと、または皮膚の黒化若しくはシミ・ソバカス等の色素沈着を防止、抑制することを意味する。
【0017】
4.美白剤・美白用組成物
本発明のベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物は、そのままエンドセリン作用抑制剤又は美白剤として用いてもよい。また、当該抽出物に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を加えて用いてもよい。組成物とする場合、剤中に含有される上記ムシゴケ抽出物の量は特に制限されないが、当該抽出物が0.0001〜50質量%含まれることが好ましく、0.001〜20質量%含まれることがより好ましく、0.01〜10質量%含まれることが特に好ましい。
【0018】
本発明の美白剤には、上記ムシゴケ抽出物に加え、他の成分を加えてもよい。例えば、その他の美白剤、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、色材種等を加えることができる。他の薬効成分とともに組成物として用いる場合、美白剤中に含有される当該抽出物の量は特に制限されないが、当該抽出物が0.0001〜50質量%含まれることが好ましく、0.001〜20質量%含まれることがより好ましく、0.01〜10質量%含まれることが特に好ましい。
【0019】
本発明の美白剤は、皮膚外用剤の形態で使用することができる。「皮膚外用剤」とは、皮膚化粧料、外用医薬品、外用医薬部外品等として皮膚に適用されるものを意味し、その剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、ゲル系、軟膏系、クリーム、水−油2層系、水−油−粉末3層系など、幅広い形態をとり得る。例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク、ファンデーション、軟膏、シート状製品等の形態が挙げられる。
皮膚外用剤の形態で使用する場合には、本発明のムシゴケ抽出物の他、通常の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば界面活性剤、油性物質、高分子化合物、防腐剤、前記以外の薬効成分、紛体、紫外線吸収剤、色素、香料、乳化安定剤、pH調整剤等を適宜配合できる。
本発明のムシゴケ抽出物を含有する皮膚外用剤の使用量は、有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合、皮膚面1cm当たり0.1〜5μg、液状製剤の場合、同じく0.1〜10μg使用するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の試験例及び実施例では、ムシゴケとしてセッチャ(Thamnolia vermicularis)を用いた。
【0021】
試験例1 ベオミセス酸とスクァマト酸の美白作用の検証
1.セッチャ抽出物からの成分の単離
(1)ベオミセス酸
セッチャ(新和物産社製)41.6gに95%エタノール水溶液1Lを加え、30℃で30日間抽出後、ろ過し、ろ紙上のセッチャを95%エタノール水溶液200mLで洗浄し、最初のろ液に加え、セッチャ抽出物1100mL(固形分2.98g)を得た。この抽出物56mL(固形分151.7mg)をHPLCで分画し、ベオミセス酸28.00mg(収率18.5%)を得た。
単離成分の構造解析は、NMRにより行った。単離成分のNMRスペクトルデータが文献で報告されているベオミセス酸(日本食品化学学会誌(日食化誌)Vol.14(2),2007参照)のスペクトルデータとほぼ一致したことから、単離された成分はベオミセス酸であると同定した。NMRによる構造解析の結果を表1に示す。なお、表中のMeはメチル基を表す。
【0022】
【表1】

【0023】
(2)スクァマト酸
上記(1)で得られたセッチャ抽出物24mL(固形分65.04mg)をHPLCで分画したところ、スクァマト酸5.6mg(収率8.61%)が得られた。単離成分の構造解析は、NMRにより行った。単離成分のNMRスペクトルデータが文献で報告されているスクァマト酸(Yunnan Zhiwu Yanjiu,24(4),525-530(2002))のスペクトルデータとほぼ一致したことから、単離された成分はスクァマト酸であると同定した。NMRによる構造解析の結果を表2に示す。なお、表中のMeはメチル基を表す。
【0024】
【表2】

【0025】
2.エンドセリン作用抑制効果の検証
上記1.で製造したベオミセス酸及びスクァマト酸について、下記の評価系を用いてエンドセリン作用抑制効果を検証した。
エンドセリンはメラノサイトに作用してカルシウム濃度を上昇させ、メラニン産生を増加させることが知られており(Yada et al. (1991) J. Biol. Chem. 266, 18352-18357、Imokawa et al. (1992) J. Biol. Chem. 267, 24675-24680参照)、エンドセリンの当該作用を抑制する物質は美白成分として有用である。
【0026】
(1)評価系
正常ヒト新生児表皮由来メラノサイト(NHEMs;クラボウ社)を、蛍光検出用の96穴プレートに3×10cells/well(200μL/well)で播種し、5%CO下にて37℃で培養した。培地には、PMA(−)の増殖用添加剤(HMGS)を含むMedium 254を用いた。
3日間培養後、培養プレートからデカントで培地を除去し、細胞内Ca2++測定試薬Fluo4−AMを含むアッセイバッファーに置換し、37℃で1時間インキュベートした。次に、FDSS(Functional Drug Screening System)機器において測定開始20秒後に評価サンプルとして所定濃度の上記化合物(ベオミセス酸又はスクァマト酸)を1分間前処理した後、リガンドであるエンドセリン(ET−1、終濃度100nM)を添加し、Fluo4−AMの蛍光をEx.480nm/Em.540nmの測定波長で測定開始から5分後まで経時的に検出した。
コントロールにおけるFluo4−AMの蛍光増加比(Max ratio−Min ratio)を100とした場合の相対値(%)で、各化合物の細胞内カルシウム(カルシウムイオン)濃度上昇率(%)を算出し、エンドセリン作用抑制効果を評価した。なお、コントロールとして、エタノール又は10〜95v/v%の含水エタノール溶液を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加したものを用いた。
【0027】
(2)ベオミセス酸及びスクァマト酸の評価
上記1.で単離したベオミセス酸、スクァマト酸を、表3に示す終濃度で前処理して上記評価系に供し、エンドセリン刺激によるCa濃度上昇率を算出した(N=6)。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
表3から明らかなように、ベオミセス酸を添加した系ではいずれも、濃度50μMにおいて、エンドセリン刺激による細胞内Ca濃度上昇が45%以上も抑制されることが確認された。一方、スクァマト酸を添加した系では、濃度50μMにおいては、細胞内Ca濃度上昇は約4%程度抑制されるにとどまった。
【0030】
3.メラニン産生抑制作用の検証
上記1.で単離したベオミセス酸を用いて、皮膚におけるメラニン産生の抑制作用について検証した。
メラノサイトを含む3次元培養皮膚モデル(MEL300A;クラボウ社)を、メラノサイト活性化因子であるエンドセリン−1(ET-1)とSCF(幹細胞増殖因子)とを終濃度10nMで添加したEPI-100-NMM113培地を用いて、37℃、5%CO条件下にて培養した。培養初日より、ベオミセス酸を終濃度50μMで添加した(N=2)。培地交換は3日に一度行った。14日後に、皮膚モデルをPBSにて洗浄し、写真撮影を行った。結果を図1に示す。その後、アラマーブルー試薬を用いて細胞呼吸活性を測定し、上記終濃度が細胞毒性を示さない濃度であることを確認した(結果は図示せず)。
続いて皮膚モデルカップをPBSで洗浄し、ピンセットで皮膚シートを剥離してチューブに移し、PBSで3回洗浄した。50%エタノールで3回、100%エタノールで2回洗浄した後、室温で一晩放置し、完全に乾燥させた。2M NaOHを200μL加えた後100℃で溶解させ、遠心分離によって得られた上清について405nmの測定波長で吸光度を測定し、メラニン量を算出した。結果を図2に示す。メラニン量は、コントロールのメラニン量を100とした場合の相対値(%)で示した。なお、コントロールとして、エタノール又は10〜95v/v%の含水エタノール溶液を終濃度0.1〜0.5v/v%で添加したものを用いた。
【0031】
図1から明らかなように、ベオミセス酸を添加した系では、コントロールの系に比べて皮膚の色が明るく、メラニン産生による皮膚の黒化が抑えられていた。また、図2に示すように、ベオミセス酸を添加した系では、細胞毒性を示さない添加濃度において、コントロールの系に比べて皮膚組織中のメラニン量が40%以上も低下していた。
【0032】
続いて、上記1.で単離したスクァマト酸を用いて、上記と同様にメラニン産生抑制作用について検証した。スクァマト酸を添加した系では、ベオミセス酸のような有意なメラニン量の低下は見られなかった。
【0033】
以上の結果から、ムシゴケに含まれるベオミセス酸は、エンドセリン作用による細胞内Ca濃度上昇を抑制し、皮膚におけるメラニン産生を顕著に抑制することがわかった。一方、同じムシゴケに含まれる成分であっても、スクァマト酸はエンドセリン作用抑制効果及びメラニン産生抑制効果はほとんど見られなかった。
【0034】
実施例1−1
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに60%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物75.9g(蒸発残分0.45(w/v)%)を得た。
【0035】
実施例1−2
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに70%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物74.6g(蒸発残分0.52(w/v)%)を得た。
【0036】
実施例1−3
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに80%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物72.6g(蒸発残分0.50(w/v)%)を得た。
【0037】
実施例1−4
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに90%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物71.7g(蒸発残分0.46(w/v)%)を得た。
【0038】
実施例1−5
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに95%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物69.3g(蒸発残分0.52(w/v)%)を得た。
【0039】
実施例1−6
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに99.5%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物67.5g(蒸発残分0.47(w/v)%)を得た。
【0040】
参考例1−1
セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに10%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物80.0g(蒸発残分0.69(w/v)%)を得た。
【0041】
参考例1−2
特開2006−182731に記載の方法と同様にして、セッチャ(新和物産(株)より入手、中国産)5.0gに50%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物77.6g(蒸発残分0.51(w/v)%)を得た。
【0042】
ベオミセス酸濃度の測定(1)
上記実施例1−1〜1−6及び参考例1−1及び1−2で得られた各セッチャ抽出物のベオミセス酸含有量を、HPLCを用いて下記の条件で分析した。測定に用いた装置及び測定条件は下記のとおりである。結果を表4に示す。

測定機器:日立HPLCマルチシステムソフトウェアZ30ZL200、日立HPLCマネージャーD-7000、日立HPLC用オートサンプラーL-7200、日立HPLC用カラムオーブンL-7300、日立HPLC用紫外可視検出器L-7420、日立HPLCポンプL-7100

<HPLC分析条件>
流速:0.75mL/min
使用したカラム:Inertsil ODS-3 5μm(GL Science),3.0I.D. × 150mm
カラム温度:40℃
移動相: 0.1%トリフルオロ酢酸含有水溶液: 0.1%トリフルオロ酢酸含有メタノール=30:70(ベオミセス酸リテンションタイム 9.06min)。
検出波長:254nm
【0043】
【表4】

【0044】
表4の結果から明らかなように、抽出溶媒のアルコール濃度が50%以下の場合、抽出物中のベオミセス酸濃度は一様に低い値を示した。一方、抽出溶媒のアルコール濃度が60%以上になると抽出物中のベオミセス酸濃度が急に増加することがわかった。
【0045】
実施例2−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに60%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物79.8g(蒸発残分0.26(w/v)%)を得た。
【0046】
実施例2−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに70%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物78.6g(蒸発残分0.27(w/v)%)を得た。
【0047】
実施例2−3
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに80%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物75.8g(蒸発残分0.28(w/v)%)を得た。
【0048】
実施例2−4
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに90%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物74.0g(蒸発残分0.30(w/v)%)を得た。
【0049】
実施例2−5
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに95%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物72.6g(蒸発残分0.34(w/v)%)を得た。
【0050】
実施例2−6
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに99.5%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物70.7g(蒸発残分0.30(w/v)%)を得た。
【0051】
参考例2−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに10%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物86.2g(蒸発残分0.36(w/v)%)を得た。
【0052】
参考例2−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに50%エタノール溶液100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物81.7g(蒸発残分0.29(w/v)%)を得た。
【0053】
ベオミセス酸濃度の測定(2)
前記ベオミセス酸濃度の測定(1)と同様にして、実施例2−1〜2−6及び参考例2−1及び2−2で得られた各抽出物中のベオミセス酸濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5の結果から明らかなように、抽出溶媒のアルコール濃度が50%以下の場合、抽出物中のベオミセス酸濃度は一様に低い値を示した。一方、抽出溶媒のアルコール濃度が60%以上になると抽出物中のベオミセス酸濃度が急に増加することがわかった。また、表4の結果との比較から、アルコール濃度の変化に伴うベオミセス酸濃度の上昇は、溶媒量に対するセッチャの使用量が少ないほど顕著であることがわかった。
【0056】
実施例3−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)5.0gに100%1,3−ブタンジオール100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物86.95g(蒸発残分0.26(w/v)%)を得た。
【0057】
参考例3−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)5.0gに50%1,3−ブタンジオール100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物86.07g(蒸発残分0.35(w/v)%)を得た。
【0058】
ベオミセス酸濃度の測定(3)
前記ベオミセス酸濃度の測定(1)と同様にして、実施例3−1及び参考例3−1で得られた各抽出物中のベオミセス酸濃度を測定した。結果を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
表6から明らかなように、溶媒として50%1,3−ブチレングリコールを用いた抽出物ではベオミセス酸濃度が低いのに対し、100%1,3−ブチレングリコールを用いた抽出物ではベオミセス酸濃度が非常に高い値を示した。
【0061】
実施例4−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにテトラヒドロフラン100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物75.3g(蒸発残分(w/v)0.32%)を得た。
【0062】
実施例4−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに1,4−ジオキサン100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物93.4g(蒸発残分0.32(w/v)%)を得た。
【0063】
実施例4−3
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにポリエチレングリコール(PEG200)を100mL加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物100.1gを得た。
【0064】
実施例4−4
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにセッチャにポリエチレングリコール(PEG400)を100mL加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物100.0gを得た。
【0065】
実施例4−5
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにポリエチレングリコール(PEG600)を100mL加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物98.1gを得た。
【0066】
実施例4−6
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにポリオキシエチレンメチルグルコシド(商品名:グルカムE−10,ノベオン(Noveon)社製)を100mL加え、40℃で一週間抽出後、デカンテーションにより、抽出物とセッチャを分離し、セッチャ抽出物74.4gを得た。
【0067】
実施例4−7
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにポリオキシエチレンメチルグルコシド(商品名:グルカムE−20,ノベオン(Noveon)社製)を100mL加え、40℃で一週間抽出後、デカンテーションにより、抽出物とセッチャを分離し、セッチャ抽出物111.3gを得た。
【0068】
参考例4−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにジエチルエーテル100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物60.7g(蒸発残分0.03(w/v)%)を得た。
【0069】
参考例4−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにパルミチル−1,3−ジメチルブチルエーテル100mLを加え40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物70.5gを得た。
【0070】
ベオミセス酸濃度の測定(4)
前記ベオミセス酸濃度の測定(1)と同様にして、実施例4−1〜4−7及び参考例4−1及び4−2で得られた各抽出物中のベオミセス酸濃度を測定した。結果を表7に示す。
【0071】
【表7】

【0072】
表7の結果から明らかなように、溶媒として酸素原子数が1の鎖状エーテルを用いた抽出物(参考例4−1、4−2)ではベオミセス酸濃度が低いのに対し、環状エーテル及び酸素原子数が2以上のエーテルを用いた抽出物(実施例4−1〜4−7)ではベオミセス酸濃度が非常に高い値を示した。
【0073】
実施例5−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに酢酸エチル100mLを加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物81.3g(蒸発残分0.14(w/v)%)を得た。
【0074】
実施例5−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに、酢酸エチル50mLと99.5%エタノール50mLとの混合溶媒を加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物76.2g(蒸発残分0.34(w/v)%)を得た。
【0075】
実施例5−3
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに、酢酸エチル50mLと95%エタノール水溶液50mLとの混合溶媒を加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物77.2g(蒸発残分0.37(w/v)%)を得た。
【0076】
実施例5−4
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gに、酢酸エチル50mLと50%エタノール水溶液50mLとの混合溶媒を加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物80.1g(蒸発残分0.44(w/v)%)を得た。
【0077】
参考例5−1
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにクロロホルム100mLを加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物132.6g(蒸発残分0.04(w/v)%)を得た。
【0078】
参考例5−2
セッチャ(新和物産(株)より入手)5.0gにヘキサン100mLを加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物51.8g(蒸発残分0.02(w/v)%)を得た。
【0079】
参考例5−3
セッチャ(新和物産(株)より入手)2.5gにトルエン100mLを加え、40℃で一週間抽出後、ろ過し、セッチャ抽出物70.9g(蒸発残分0.01(w/v)%)を得た。
【0080】
ベオミセス酸濃度の測定(5)
前記ベオミセス酸濃度の測定(1)と同様にして、実施例5−1〜5−4及び参考例5−1〜5−3で得られた各抽出物中のベオミセス酸濃度を測定した。結果を表8に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
表8から明らかなように、炭化水素溶媒やハロゲン系溶媒を用いた抽出物ではベオミセス酸濃度が低いのに対し、酢酸エチル及びその混合溶媒を用いた抽出物ではベオミセス酸濃度が非常に高い値を示した。
【0083】
実施例6 エンドセリン作用抑制効果の検証
1.セッチャ抽出物
上記試験例1の2.で用いた評価系により、上記実施例1で得られたセッチャ抽出物のエンドセリン作用抑制効果を検証した。
評価サンプルとして、実施例1−1、1−2、1−3、1−5、1−6あるいはその希釈品、及び参考例1−1、1−2で得られた抽出物を用いた。これらの抽出物を下記表9に示す評価濃度で前処理して上記評価系に供し、エンドセリン刺激によるCa濃度上昇率を算出した(N=6)。なお、各抽出物は、溶媒をDMSOに置換後、上記試験において0.6v/v%添加して評価を行った。コントロールとしては、DMSOを0.6v/v%添加したものを用いた。結果を表9に示す。
【0084】
2.ジャーマンカミツレ抽出物(参考例6)
ジャーマンカミツレ(和名:カミツレ、新和物産(株)より入手)の花部40gへ、50%エタノール含有水溶液400mLを加え、室温で14日間抽出後、濾過し、ジャーマンカミツレ抽出物(221mL)を得た(蒸発残分2.63%)。得られたジャーマンカミツレエキスを、0.5v/v%の終濃度で前処理して上記セッチャ抽出物と同様の評価系に供し、エンドセリン刺激によるカルシウム(Ca)濃度上昇率を算出した(N=6)。結果を表9に示す。
なお、ジャーマンカミツレエキスはエンドセリンの作用によるメラノサイトのCa濃度上昇を抑制し、メラニン産生を抑制することが知られている。
【0085】
【表9】

【0086】
表9から明らかなように、アルコール濃度50%以下の溶媒で抽出した抽出物を添加した系(試料1及び2)では、細胞内Ca濃度上昇率はほとんど変化しなかった。これに対し、アルコール濃度60%以上の溶媒で抽出した抽出物を添加した系(試料3〜8)では、エンドセリン刺激による細胞内Ca濃度上昇率が有意に低下していた。また、試料3〜8の細胞内Ca濃度上昇抑制作用は、公知の美白成分であるジャーマンカミツレエキス(参考例6)と同程度、或いはそれ以上のものであった。
以上の結果から、特定の抽出溶媒を用いて得られた本発明のムシゴケ抽出物は、優れたエンドセリン抑制作用を有していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムシゴケを、アルコールを60v/v%以上含有するアルコール溶液、環状エーテル類及び酸素原子を2個以上有するエーテル類、並びに総炭素数3〜6のエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて抽出する工程を含むベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記抽出工程により得られた抽出物のベオミセス酸濃度が、濃度50v/v%アルコール溶液を用いて抽出した抽出物中のベオミセス酸濃度と比べて2倍以上であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールが、総炭素数1〜4のアルコールであることを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記エーテル類が、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ポリエチレングリコール、及びポリオキシエチレンメチルグルコシドからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
前記エステルが酢酸エチルであることを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、総炭素数3〜6のエステル類とアルコール溶液との混合溶媒であることを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法により得られたベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物を有効成分として含有するエンドセリン作用抑制剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法により得られたベオミセス酸高含有ムシゴケ抽出物を有効成分として含有する美白剤。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−140405(P2012−140405A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256362(P2011−256362)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】