説明

ベシクル及びそれを含む化粧料

【課題】優れた分散安定性を有するベシクルを提供する
【解決手段】ショ糖脂肪酸ジエステルと、該ジエステルに対し〜30重量%のアシルメチルタウリン塩とを含み、前記ショ糖脂肪酸ジエステルを主な膜成分とすることを特徴とするベシクル。
また、前記ベシクルを含有することを特徴とする化粧料。
また、前記ベシクルが、アルコールを含む溶媒中に分散してなることを特徴とする化粧水。
また、下記(I)及び(II)の工程を含むことを特徴とするベシクルの製造方法。
(I)ショ糖脂肪酸ジエステルを加熱下において水溶性溶媒へ溶解する工程、
(II)前記溶解液と、アシルメチルタウリン塩を含む水系溶媒とを混合する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベシクル、特に化粧料における該ベシクルの安定性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤などの有効成分をマイクロカプセル化して生体内外に適用する技術は、カプセル内包物の代謝が抑制されて薬効が長期間にわたって維持される等の利点から、医薬、食品分野の他、化粧品分野においても実用化が模索されてきた。
化粧品分野におけるマイクロカプセル化技術として、レシチンなどのリン脂質を膜成分としたリポソームないしベシクル(脂質二分子膜からなる閉鎖小胞体)の利用が従来知られている。しかしながら、該成分はその特性上、耐熱性、経時の膜安定性、コスト面などにおいて十分な実用性を備えたものではなかった。
この問題に対し、ショ糖脂肪酸ジエステルを膜成分としたベシクル(脂質に分子膜からなる閉鎖小胞体)をイオン性界面活性剤の存在下において製造することにより、極めて安定なベシクル構造が容易に得られることが報告されている(特許文献1)。前記技術は、Tc(ゲル−液晶転移温度)が前記のリン脂質に比べて高いことから耐熱性に優れ、特にTc以下の水分散系において安定した薬物内包率を示すものであった。
【特許文献1】特許第3126193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、原料としてのショ糖脂肪酸ジエステルは、大規模な工業生産においてモノエステルやトリエステルを不純物として多量に含む。そのため、ショ糖脂肪酸ジエステルを用いて一定の粒径及び内包率を維持する安定したベシクルを得ようとする場合、煩雑な原料精製工程を経て不純物を除去することが必要とされていた。すなわち、ショ糖脂肪酸ジエステルが安定したベシクルを形成することは明らかであるものの、純粋な化合物としての安定供給が難しく、製品としての生産性に問題が残されていた。さらに、このベシクルは、エタノールなどを含有する溶媒に配合した際の分散安定性が低く、化粧水等への適用においても未だ十分な実用性を満たすものではなかった。
本発明は上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、優れた分散安定性を有するベシクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために本発明者等が鋭意検討を進めた結果、特定のイオン性界面活性剤を適量配合することにより、ショ糖脂肪酸ジエステルを主な膜成分とする安定性の高いベシクルが形成され、さらに、該ベシクルがエタノール等を含む溶媒中においても優れた安定性を保持することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかるベシクルは、ショ糖脂肪酸ジエステルと、該ジエステルに対し10〜30重量%のアシルメチルタウリン塩とを含み、前記ショ糖脂肪酸ジエステルを主な膜成分とすることを特徴とする。
また、本発明にかかる化粧料は、前記ベシクルを含有することを特徴とする。
さらに、本発明にかかる化粧水は、前記ベシクルが、アルコールを含む溶媒中に分散してなることを特徴とする。
また、本発明にかかるベシクルの製造方法は、下記(I)及び(II)の工程を含むことを特徴とする。
(I)ショ糖脂肪酸ジエステルを加熱下において水溶性溶媒へ溶解する工程、
(II)前記溶解液と、アシルメチルタウリン塩を含む水系溶媒とを混合する工程。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ショ糖脂肪酸ジエステルを主な膜成分とした極めて安定性の高いベシクルを得ることができる。前記ベシクルは、化粧料への配合において優れた保湿作用及び使用性を発揮し、さらに従来ベシクルの配合が困難であったアルコールベースの化粧水に用いることも可能である。また、前記ベシクルは、薬剤等のキャリア(DDS基剤)として安全性が高く、水溶性・脂溶性いずれの薬剤に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。
本発明にかかるベシクルは、ショ糖脂肪酸ジエステルと、アシルメチルタウリン塩とを含む。
ショ糖脂肪酸ジエステルにおける脂肪酸は炭素数12〜22の飽和または不飽和の、直鎖あるいは分岐をもつものであり、二つの脂肪酸は異なっていてもよい。但し、ショ糖脂肪酸ジエステルはTc(ゲル−液晶転移温度)以上の温度においても極めて水に分散し難いため、ベシクル形成剤として、ジエステルに対して5〜30重量%のアシルメチルタウリン塩を配合する必要があり、好ましい配合量は5〜15重量%、更に好ましくは5〜10重量%である。アシルメチルタウリン塩の配合量がジエステルに対して5重量%に満たないと、ベシクルの安定性が低下する傾向にあり、また、配合量が30重量%を超えるとアシルメチルタウリン塩が結晶として析出することがあるため好ましくない。
【0007】
アシルメチルタウリン塩としては、ヤシ油脂肪酸メチルタウリン塩、パーム核油脂肪酸メチルタウリン塩、硬化パーム核油脂肪酸メチルタウリン塩、牛脂脂肪酸メチルタウリン塩、硬化牛脂脂肪酸メチルタウリン塩、カプロイルメチルタウリン塩、ラウロイルメチルタウリン塩、ミリストイルメチルタウリン塩、パルミトイルメチルタウリン塩、ステアロイルメチルタウリン塩、オレオイルメチルタウリン塩等が挙げられる。
また、好ましい対イオンとしてはNa、K、トリエタノールアミン、アンモニア等がある。本発明においては、特にラウロイルメチルタウリンナトリウムの使用が好ましい。
【0008】
また、ショ糖脂肪酸ジエステル中に、他のショ糖脂肪酸エステル、例えばモノエステルやトリエステルが不純物として含有されていてもよく、具体的には、原料中にショ糖脂肪酸ジエステルが40%以上含有されていれば安定したベシクル製造が可能となる。すなわち、原料中の前記不純物の含有率が60%までであれば、該原料をそのままベシクル形成に供することができる。通常、市販のショ糖脂肪酸ジエステルには前記不純物が50〜60%程度残存しており、従来のショ糖脂肪酸ジエステルを膜成分としたベシクル製造では、これらの不純物を除き、ジエステルを高純度に精製するという煩雑な処理が必要とされていた。一方、本発明にかかるベシクルの製造方法によれば、前記程度の不純物の含有であれば、その安定性に影響を及ぼすことなくベシクルを形成することができる。
【0009】
本発明にかかるベシクルは、前述のショ糖脂肪酸ジエステルを加熱した水溶性溶媒(エタノールやジプロピレングリコールなど)に溶解し、これを同程度の温度に加熱したアシルメチルタウリン塩を含む水系溶媒へ添加し、機械的に撹拌混合した後冷却することにより、ベシクル分散液として容易に製造することができる。
製造時の溶媒の加熱温度は、ショ糖脂肪酸ジエステルのTcである50℃以上であることが好ましく、具体的には50〜100℃、更に好ましくは60〜80℃である。前記加熱下でショ糖糖脂肪酸ジエステルを水系溶媒と撹拌混合すると、加熱により流動性が上昇した状態の該ジエステルは均一な粒径で水相中に分散する。
【0010】
上記製造方法において、機械的に撹拌混合の手段に制限はないが、例えば、ホモミキサー、ナノマイザー、コロイドミル、マイクロフルイタイザー、超音波乳化装置等の使用が挙げられる。また、これら手段における撹拌混合の条件を調整して、形成するベシクルの粒径を制御することが可能である。すなわち、撹拌混合条件を高くし、ショ糖脂肪酸ジエステルを水相中に微細分散させる程、形成されるベシクルの粒径はより小さくなると考えられる。
処理する混合液量や配合成分にもよるが、例えば、3500〜9000rpmのホモミキサーで1〜5分間程度撹拌混合することで、50〜200nm程度の平均粒径を有するベシクルを得ることができる。
【0011】
前記製造方法における水溶性溶媒とは、水と自由に混和し、且つ若干の親油性を備えた溶媒を示す。このような水溶性溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合することができる。製造系の全成分量に対する水溶性溶媒の配合量は、1〜20重量%であることが好適である。また、前記水溶性溶媒に溶解するショ糖脂肪酸ジエステルは、製造系の全成分量に対し0.05〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。
また、本発明の製造における水系溶媒とは、水または水溶性成分の水溶液を表し、系における水相成分に相当する。
【0012】
前記ベシクル製造方法により水系溶媒中に形成されたベシクルの脂質膜内は、ベシクルの分散媒である水系溶媒で満たされている。すなわち、所望であれば、ベシクル製造時に水系溶媒中に薬物等の化合物を分散または溶解しておくことによって、該ベシクルにその化合物を内包させることができる。また、ベシクルの生成後に、該ベシクルが分散した水系溶媒に化合物を添加する、もしくは所望の濃度に調製した化合物溶液中に単離したベシクルを分散させることによっても化合物のベシクル内への導入が可能である。
さらに、導入化合物が脂溶性である場合、前記ベシクル製造において、ショ糖脂肪酸ジエステルとともに水溶性溶媒中へ該化合物を溶解することにより、ベシクルを形成する二分子膜の脂質層に該化合物が導入され得る。
【0013】
ベシクルに導入することのできる物質としては、薬物(医療効果を目的とする物質であって、天然には存在しない物質のほか、異なった量で天然に体内に存在する生理活性物質を含む)および標識体(診断等の目的で投与され、検出可能な信号を発生し得る物質)が含まれる。したがって、特にドラックデリバリーシステム(DDS)の有効なキャリアとして利用することができる。
ベシクルに導入し得る化合物としては、ベシクル成分と相互作用を起こして変質等しない限り、全ての化合物が適用可能である。尚、各種化合物を内包したベシクルは、医薬分野に限らず、化粧品分野や食品分野にも応用しうる。
【0014】
適用可能な化合物の一例として以下のものが挙げられる。チトクロームP450、チトクロームP450還元酵素、SOD等の各種酵素類;DNA、RNA等の遺伝子関連物質;インターリューキン類、インターフェロン−α、−β、−γ、TPA、リンホトキシン類、セルレタイド等の生理活性物質;プロスタグランジン類;等の他、頭痛、解熱、抗炎症薬(例えば麦角アルカロイド、モルヒネ類、ペンタゾシン、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、アセトアミノフェン等)、精神・神経疾患用薬(例えばジアゼバム、エトスクシミド、フェニトイン、カルバマゼビン、フェノバルビタール、バルプロ酸ナトリウム、レボドパ、塩酸トリヘキフェニジル、塩酸アマンタジン、塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリン、クロルジアゼボキサイド、塩酸クロルプロマジン、ハロペリドール等)、心・血管疾患用薬(例えばジゴキシン、ドブタミン、イソプロテレノール、エビネフリン、プロプラノロール、ニフエジピン、キニジン、ヒドラジン、ヒドロクロロチアジド、レセルピン、プラゾシン、グアネチジン、フロセミド、クロルタリドン、スピロノラクトン等)、抗アレルギー・抗喘息薬(例えばジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、硫酸サルブタモール、臭化イプラトロピウム等)、抗リウマチ・痛風薬(例えばフェニルプタゾン、D−ペニシラミン、免疫抑制剤、アロプリノール、スルフィンピラゾン、ナプロキセン等)、抗菌剤(例えばペニシリン系抗菌剤、セファロスポリン系抗菌剤、ゲンタマイシン、ミノサイクリン、エリスロマイシン、リファンピシン、イソニアジド、カナマイシン、グリセオフルビン、ナイスタチン)、ジフテリア抗毒素、抗蛇毒血清やワクチン等、抗寄生虫・抗原虫薬(例えばメトロニダゾール、デヒドロエメチン、スラミンナトリウム、ニクロサミド等)、抗腫瘍・抗白血病薬(例えばプスルファン、シクロホスファミド、プレオマイシン、フルオロウラシル、メトトレキサート等)、抗脂血・抗糖尿病薬(例えばクロフィブラート、トルブタミド、クロルプロパミド等)、血液疾患用薬(例えばフィブリノーゲン、第VIII因子、ヘパリン、シアノコバラミン等)、消化器官用薬(例えばアクリノール、ジアスターゼ、パンクレアチン等)、ホルモン関連薬(例えばヒドロコルチゾン、プレドニソロン、テキサメサゾン、メチルテストステロン、エストロジエン、インシュリン、レボチロキシン等)、ビタミン(例えばビタミンA、活性形ビタミンB1、ビタミンC、ビタミンE、パントテン酸等)、滋養変質薬(例えばアスパラギン酸カルシウム、イソロイシン、オロチン酸第一鉄等)、外皮用薬、美白剤(例えばハイドロキノン、アルブチン等)等が例示される。
標識体としては、X線造影剤(例えばメトリザミド、メトリゾ酸)、放射性または非放射性(安定)同位元素製剤、そのほかのCT用製剤等が含まれる。
特に、水溶性薬剤として、アルブチン、トラネキサム酸(TA)、脂質型薬剤としてレチノール、ハクシニン、リノール酸、リノレン酸、セラミド等が好適に導入し得る。
【0015】
上記した本発明にかかるベシクルは、公知の化粧基材に配合することにより、保湿性及び使用性に優れた化粧料を得ることができる。
または、上記したベシクル分散液の製造において、例えば、粉末成分、油分、各種界面活性剤、水溶性高分子、紫外線吸収剤、低級アルコール、有機アミン、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、保湿剤、多価アルコール、単糖、オリゴ糖、アミノ酸、高分子エマルジョン、pH調整剤、ビタミン類、防腐剤、美白剤、消炎剤、血行促進剤、各種抽出物、賦活剤、抗脂漏剤、香料等の通常化粧品に用いることのできる成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することによっても、ベシクルを含有した化粧料を製造することが可能である。
【0016】
本発明にかかる化粧料は、化粧水、乳液、クリーム、美容液、クレンジング、パック、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、入浴剤、メークアップ化粧品、日焼け止め等、任意の形態をとり得るが、特に化粧水へ好適に配合することができる。
化粧水は、脂質を溶解するエタノール等の低級アルコールを含有することが多いため、従来のベシクルは化粧水中で脂質膜の安定性を維持することが難しかった。一方、アシルメチルタウリン塩を膜の構成成分とする本発明にかかるベシクルであれば、エタノール等の低級アルコールを含有する化粧水中においても高い安定性を維持することができる。
【実施例1】
【0017】
下記表1に示す処方及び製造方法により得た、ベシクルについてその安定性を評価した。安定性の評価方法は下記のとおりである。
濁度変化の測定
ベシクル調製直後、及び、0℃、RT(室温)、50℃下で1ヶ月保存した後の各試験サンプルについて、波長600nmにおける吸光度(Abs.)を吸光光度計(Ubest−55 日本分光株式会社)により測定し、(保存後Abs./調製直後Abs.)として濁度変化を表した。結果を表2に示す。
【0018】
外観
各試験サンプルの調製1時間後におけるベシクルの分散状態を目視で観察し、下記基準により評価した。結果を表2に示す。
○:凝集物ないし沈殿が認められない。
△:凝集物ないし沈殿が若干認められる。
×:凝集物ないし沈殿が著しく認められる。
【0019】
(表1)

*1:ショ糖ステアリン酸ジエステルを約40%含み、不純物としてモノエステルを20〜23%、トリエステルを33〜39%含有するショ糖ステアリン酸ジエステル原料。
*2:*1の原料を特許第3126193号記載の方法で精製し、純度99%以上としたショ糖ステアリン酸ジエステル。
(製造方法)
(1)または(2)を80℃下で(3)に溶解し、これを80℃に加熱した(4)、(5)ないし(8)、(9)の混合液に添加し、ホモミキサー(9000rpm)で3分間撹拌混合した後、冷却して目的のサンプルを得た。
【0020】
(表2)

【0021】
表2の結果より、ショ糖脂肪酸ジエステルにアシルメチルタウリン塩を配合した試験例1、2、5、6においては、凝集等のない均一なベシクル形成が認められた。また、37℃下での保存後に若干の濁度変化が見られたものの、その他の温度下においては保存後も調製直後とほぼ同様の濁度を維持しており、極めて安定性の高いベシクルであることが認められた。
一方、アシルメチルタウリン塩に代えて、他のイオン性界面活性剤を配合した試験例3、4、7、8では、前記試験例に比べ濁度の上昇が大きく、経時によりベシクルの膨張もしくは崩壊が推察された。特に不純物(モノエステル、トリエステル)を60%含むショ糖ステアリン酸ジエステル原料を使用した試験例3、4では目視においても凝集や沈殿が認められた。
また、イオン性界面活性剤を配合しなかった試験例9においても、均一なベシクル形成は認められず、濁度による保存安定性も他の試験例に比べ劣るものであった。
以上のことから、ショ糖ステアリン酸ジエステルに特定量のアシルメチルタウリン塩を配合することにより、安定性に優れたベシクルが得られることが明らかとなった。また、アシルメチルタウリン塩を配合することにより、不純物を60%含むショ糖脂肪酸ジエステル原料から安定性の高いベシクルを得ることができる。

【実施例2】
【0022】
下記表3に示す処方及び製造方法により、化粧料(化粧水)を調製し、各サンプルにおけるベシクルの安定性を評価した。評価方法は下記のとおり。
濁度変化の測定
調製直後、及び、−5℃、0℃、RT(室温)、37℃下で1ヶ月保存した後の各サンプルについて、波長600nmにおける吸光度(Abs.)を吸光光度計(Ubest−55 日本分光株式会社)により測定し、(保存後Abs./調製直後Abs.)として濁度変化を表した。結果を表4に示す。
また、試験例11及び12のサンプルについては、−5℃、0℃、RT(室温)、37℃の条件下で2ヶ月間保存した場合についても同様に濁度変化を求めた。結果を表5に示す。
【0023】
(表3)

(製造方法)
ショ糖ステアリン酸ジエステルを80℃に加熱したジプロピレングリコールに溶解した。これを80℃に加熱した残りの成分(水相)の混合液へ添加し、ホモミキサー(9000rpm)で3分間混合撹拌した後、冷却して目的の化粧水を得た。
【0024】
(表4)

【0025】
(表5)

【0026】
表4に示すとおり、アシルメチルタウリン塩を配合しなかった試験例10、11に比べ、該成分を配合した試験例12、13は、外観によるベシクル形成及び濁度変化による経時安定性に著しく優れていた。特に、試験例10、11の比較において、エタノールを配合した試験例11の濁度変化が大きく、安定性が低かったのに対し、試験例12、13においては、エタノールの配合に関わらず高い安定性が維持されていた。
また、表5より、試験例11のサンプルが2ヶ月の保存においてさらに安定性が低下したのに対し、試験例12ではなおもベシクルが安定した状態を維持していた。
以上の結果から、ショ糖ステアリン酸ジエステルに特定量のアシルメチルタウリン塩を配合することにより、長期間の安定性に優れたベシクル含有化粧料が得られることが明らかとなった。また、前記ベシクルはアルコール配合系の化粧水においても、高い安定性を有する。
【0027】
次いで、下記表6に示す処方のアルコールを含有する化粧水について、保湿作用及び使用性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
保湿作用
次の試験方法により保湿作用を評価した。なお、試験の概要を図1に示す。
洗浄した被験者の前腕内側部位を5cm四方の試験区画に区切り、洗浄より20分後に表皮角層水分量測定装置(SKICON−200)を用いて各区画の角層水分量を測定した。その後、それぞれの区画に各試験例のサンプルを塗布(2ml/cm)し、1時間静置した。その後、塗布したサンプルを洗い流し、20分後に再度角層水分量を測定した。測定後、サンプルの塗布を時間を置いて2度行なった。
翌日(2日目)、サンプルの塗布を時間を置いて2度行なった。
さらに翌日(3日目)、サンプルの塗布を行い、1時間後に洗い流し、20分後に角層水分量を測定した。
各試験例の区画における角層水分量の変化を図2に示す。なお、角層水分量の変化量とは、初日のサンプル塗布前の測定値を基準とした角層水分量の増加量を示し、「単回」は初日の最初のサンプル塗布後の測定における増加量、「連用2日」は3日目の測定における増加量を表す。
【0028】
使用性
試験例14及び15のサンプルについて、専門パネル9名による実使用試験を行い、以下の評価基準にしたがって評価した。
<試験例15に対する試験例14の比較評価>
図3左のグラフは、試験例15の使用性を0として試験例14の使用性を下記の基準にしたがって−2〜2点の間で評価し、その平均点を示したものである。

<試験例14の使用性単独評価>
図3右のグラフは、試験例14単独でその使用性を下記の基準にしたがって−2〜2点の間で評価し、平均点を示したものである。
【0029】
(浸透感)
+2:塗布時に非常に浸透感を感じる
+1:塗布時に浸透感を感じる
0:どちらともいえない
−1:塗布時にほとんど浸透感を感じない
−2:塗布時に全く浸透感を感じない

(なじみの早さ)
+2:塗布時に非常に塗布時の皮膚へのなじみが早い
+1:塗布時に皮膚へのなじみが早い
0:どちらともいえない
−1:塗布時にほとんど皮膚になじまない
−2:塗布時に全く皮膚になじまない

(しっとり感)
+2:塗布後に非常にしっとり感を感じる
+1:塗布後にしっとり感を感じる
0:どちらともいえない
−1:塗布後にほとんどしっとり感を感じない
−2:塗布後に全くしっとり感を感じない

(肌のやわらかさ)
+2:塗布後に非常に肌のやわらかさを感じる
+1:塗布後に肌のやわらかさを感じる
0:どちらともいえない
−1:塗布後にほとんど肌のやわらかさを感じない
−2:塗布後に全く肌のやわらかさを感じない

(もっちり感)
+2:塗布後の肌に非常にもっちり感がある
+1:塗布後の肌にもっちり感を感じる
0:どちらともいえない
−1:塗布後の肌にほとんどもっちり感がない
−2:塗布後の肌に全くもっちり感がない

(肌の潤い感)
+2:塗布後の肌に非常に潤いを感じる
+1:塗布後の肌に潤いを感じる
0どちらともいえない
−1:塗布後の肌にほとんど潤いを感じない
−2:塗布後の肌に全く潤いを感じない
【0030】
(表6)
試験例
(成分) 14 15
ショ糖ステアリン酸ジエステル 0.3 −
(純度99%)
ジプロピレングリコール 5 5
ダイナマイトグリセリン 5 5
エタノール 5 5
ステアロイルメチルタウリンナトリウム 0.03 −
エスセーフ1324 − 0.3
(汎用界面活性剤)
フェノキシエタノール 0.3 0.3
イオン交換水 残 余 残 余
(製造方法)
ショ糖ステアリン酸ジエステルを80℃に加熱したジプロピレングリコールに溶解した。これを80℃に加熱した残りの成分(水相)の混合液へ添加し、ホモミキサー(9000rpm)で3分間混合撹拌した後、冷却して目的の化粧水を得た。
【0031】
図2に示すように、角層水分量は単回の使用において増加が認められ、その増加量はショ糖脂肪酸ジエステル及びアシルメチルタウリン塩によるベシクルを配合した試験例15と、前記ベシクルに代えて汎用の界面活性剤を配合した試験例16との間にほとんど差はなかった。
連用2日の角層水分量測定でも、試験例14、15ともに水分量の増加が認められたが、試験例14の塗布部位の方がより高い水分量を示した。
また、図3に示すように、ショ糖脂肪酸ジエステルを膜成分とするベシクルを含有する化粧料(試験例14)は、汎用の界面活性剤を配合した通常の化粧料に対し、全ての項目において優れた使用性を示した。
以上の結果から、ショ糖脂肪酸ジエステルをに特定量のアシルメチルタウリン塩を配合して得たベシクルは、アルコールを含む化粧水において高い保湿作用及び優れた使用性を発揮することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかるベシクルを含む化粧水の保湿作用に関する試験方法を示した図である。
【図2】本発明にかかるベシクルを含む化粧水の角層水分量の変化を示したグラフである。
【図3】本発明にかかるベシクルを含む化粧水の使用性評価を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖脂肪酸ジエステルと、該ジエステルに対し10〜30重量%のアシルメチルタウリン塩とを含み、前記ショ糖脂肪酸ジエステルを主な膜成分とすることを特徴とするベシクル。
【請求項2】
請求項1に記載のベシクルを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項3】
請求項1に記載のベシクルが、アルコールを含む溶媒中に分散してなることを特徴とする化粧水。
【請求項4】
下記(I)及び(II)の工程を含むことを特徴とするベシクルの製造方法。
(I)ショ糖脂肪酸ジエステルを加熱下において水溶性溶媒へ溶解する工程、
(II)前記溶解液と、アシルメチルタウリン塩を含む水系溶媒とを混合する工程。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−249360(P2009−249360A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101721(P2008−101721)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】