説明

ベルト式無段変速機

【課題】駆動プーリもしくは従動プーリのいずれかに主動力源とは異なる電動機が連結され、しかも、コンパクトで車両搭載性が良好なベルト式無段変速機を提供する。
【解決手段】回転部材33,34にその軸線方向に移動不可能に取り付けられた固定シーブ37,41と回転部材33,34にその軸線方向に移動可能に取り付けられた可動シーブ38,42とによってベルト溝39,43がそれぞれ形成された駆動プーリ35および従動プーリ36と、ベルト溝39,43に巻き掛けられた伝動ベルト45とを備え、駆動プーリ35に主動力源1が連結されるとともに、駆動プーリ35もしくは従動プーリ36のいずれか一方に、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機48が連結されたベルト式無段変速機9において、いずれかのシーブと電動機48とが、半径方向にオーバーラップして配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動プーリと従動プーリとの間で、それらの間に巻き掛けられた伝動ベルトを介して動力伝達を行い、変速比を制御するベルト式無段変速機であって、特に、駆動プーリに主動力源が連結されるとともに、駆動プーリもしくは従動プーリのいずれかに、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機が連結されたベルト式無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機は、ベルトを巻掛けたプーリの溝幅を変更することにより、プーリの有効径すなわちベルトが巻き掛かっている半径を変更して変速比を無段階に設定することのできる変速機である。したがって駆動側(あるいは入力側)のプーリおよび従動側(あるいは出力側)のプーリを、固定シーブとその固定シーブに対して軸線方向に前後動する可動シーブとによって構成し、その可動シーブを例えば油圧などの外力で移動させることにより、各プーリの溝幅を変化させ、ベルトの巻き掛け半径を連続的に変更できるように構成されている。
【0003】
一方、近年、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関を駆動力源とする車両の燃費を向上させることが強く求められていることは周知のとおりである。そのような要請に応える技術として、車両の減速時にエネルギを回生し、その回生したエネルギを電力に変換して、内燃機関の動力に替えてもしくは内燃機関を補助する動力として使用する技術、すなわち車両をハイブリッド化する技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、動力源の出力軸の軸線に沿う方向に配置された第1軸(入力軸)と、その第1軸と平行な第2軸(出力軸)との複数の軸を有していて、第2軸を動力源側に延長した位置に回転駆動されてエネルギーを回生する回生手段が配置された構成の車両用パワートレーンの構造に関する発明が記載されている。具体的には、この特許文献1に記載されている車両用パワートレーンの構造は、ベルト式無段変速機の駆動プーリと一体の入力軸に、エンジンがトルクコンバータおよび前後進切換機構を介して連結され、従動プーリと一体の出力軸の同一軸線上に、オルタネータあるいはモータ・ジェネレータなどの回生手段が配置された構成となっている。
【0005】
また、特許文献2のハイブリッド車両の駆動制御装置に関する発明では、ベルト式無段変速機の入力軸(すなわち駆動プーリ側の軸)に、エンジンとは別のモータが連結された構成のパワートレーンが記載されている。
【0006】
そして、特許文献3のハイブリッド車両の油圧供給装置に関する発明では、プライマリプーリ(駆動プーリ)を備えた変速機入力軸と走行用モータジェネレータの回転軸とが、走行用モータジェネレータの回転軸の端部に固定された走行用モータドライブギヤと、変速機入力軸の端部に固定された走行用モータドリブンギヤと、2段に構成された第1,第2中間ギヤとからなる減速歯車機構を介して接続された構成が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−79002号公報
【特許文献2】特開平11−270376号公報
【特許文献3】特開2003−307270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の各特許文献に記載されている発明のように、ベルト式無段変速機の駆動プーリもしくは従動プーリのプーリ軸方向と同一軸線上に、あるいはプーリ軸方向と平行な軸線上に、モータやモータ・ジェネレータなどの発電機としての機能も有する電動機を配置して連結することで、ベルト式無段変速機を用いたハイブリッド車両のパワートレーンを構成することができる。
【0009】
しかしながら、上記のようにベルト式無段変速機のいずれかのプーリのプーリ軸方向の延長軸線上もしくは平行な軸線上に電動機を配置すると、ベルト式無段変速機はプーリ軸方向に大型化し、車両搭載性が低下してしまう。通常、ベルト式無段変速機は、駆動プーリ軸すなわち入力軸と従動プーリ軸すなわち出力軸とを平行に配置した構成とされるため、そのベルト式無段変速機に連結されるエンジンは、その軸方向が車両の幅方向と平行に配置される、すなわちいわゆる横置きされるのが一般的である。
【0010】
したがって、エンジンとベルト式無段変速機とを車両に搭載する場合には、もともと車両の幅方向には配置空間上の余裕が少なく、その上に、上記のようにプーリの軸線方向に電動機を配置することは、プーリ軸方向すなわち車両の幅方向のさらなる大型化を招くことになり、その結果、車両搭載性がさらに低下してしまい、実用的ではなかった。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動プーリもしくは従動プーリのいずれかに主動力源とは異なる電動機が連結され、しかも、コンパクトで車両搭載性が良好なベルト式無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、回転部材にその軸線方向に移動不可能に取り付けられた固定シーブと前記回転部材にその軸線方向に移動可能に取り付けられた可動シーブとによってベルト溝がそれぞれ形成された駆動プーリおよび従動プーリと、それら駆動プーリと従動プーリとの前記ベルト溝に巻き掛けられた伝動ベルトと、前記回転部材に取り付けられ、かつ前記可動シーブに前記軸線方向の力を与える油圧室を形成する油圧室構成部材とを備え、前記駆動プーリに主動力源が連結されるとともに、前記駆動プーリもしくは従動プーリのいずれか一方に、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機が連結されたベルト式無段変速機において、前記いずれかのシーブと前記電動機とが、半径方向にオーバーラップして配置されていることを特徴とするベルト式無段変速機である。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記従動プーリの固定シーブと前記電動機のロータとが一体化されていることを特徴とするベルト式無段変速機である。
【0014】
さらに、請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記電動機のロータの内周部分に、前記従動プーリの固定シーブを取り付けた前記回転部材を支持する軸受が配置されていることを特徴とするベルト式無段変速機である。
【0015】
そして、請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記油圧室構成部材と前記電動機のロータとが一体化されていることを特徴とするベルト式無段変速機である。
【発明の効果】
【0016】
したがって、請求項1の発明によれば、主動力源の出力トルクを変速するベルト式無段変速機に、主動力源とは別の、例えばモータ、あるいは発電機、あるいはそれら両方の機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータなどの電動機を連結して配置する場合、ベルト式無段変速機の駆動プーリと従動プーリとを構成する各固定シーブおよび可動シーブのうちのいずれかのシーブと、電動機とが、互いにそれらの半径方向にオーバーラップするように配置されて連結される。例えば、シーブの電動機に隣接する側の端部の外周部分もしくは内周部分と、電動機のシーブに隣接する側の部分とが互いに重なり合うように、ベルト式無段変速機に対して電動機が配置されて連結される。そのため、ベルト式無段変速機のいずれかのプーリに電動機を連結してユニット化する場合に、ベルト式無段変速機のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。
【0017】
なお、シーブの電動機に隣接する側の端部と、電動機のシーブに隣接する側の部分とをオーバーラップさせる際には、シーブの電動機に隣接する側の端部の外周部分と、電動機のシーブに隣接する側の部分とが互いに重なり合うように、それらシーブおよび電動機の形状・寸法を設定すること、例えば、電動機のステータの内径をシーブの外径よりも大きく設定することで、電動機の体格を大きくすることができ、電動機に高出力が要求される場合に有利である。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、ベルト式無段変速機の従動プーリの固定シーブと、電動機のロータとが一体化されて、言い換えると、従動プーリの固定シーブの一部分と電動機のロータの一部分とが共用化されて、ベルト式無段変速機に電動機が連結される。そのため、ベルト式無段変速機のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるとともに、従動プーリの固定シーブおよび電動機のロータの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
【0019】
さらに、請求項3の発明によれば、電動機のロータと従動プーリの固定シーブとが一体化され、その固定シーブが取り付けられている回転部材を支持する軸受が、電動機のロータの内周部分に形成された空間に設置される。そのため、ロータの内周部分の空間を有効に利用して、ベルト式無段変速機のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。
【0020】
そして、請求項4の発明によれば、ベルト式無段変速機の可動シーブを軸線方向へ移動する力を発生させる油圧室の所定の油圧室構成部材と、電動機のロータとが一体化されて、言い換えると、油圧室構成部材の一部分と電動機のロータの一部分とが共用化されて、ベルト式無段変速機に電動機が連結される。そのため、ベルト式無段変速機のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるとともに、油圧室構成部材および電動機のロータの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1の構成例)
つぎに、この発明を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、この発明の第1の構成例におけるベルト式無段変速機を適用したFF車(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動車)のスケルトン図である。図1において、1は車両の主動力源としてのエンジンであり、このエンジン1としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどが用いられる。そして、エンジン1のクランクシャフト2が車両の幅方向に配置されている。
【0022】
エンジン1の出力側には、トランスアクスル3が設けられている。このトランスアクスル3は、エンジン1の後端側(図1での左側)に取り付けられたトランスアクスルハウジング4と、トランスアクスルハウジング4におけるエンジン1とは反対側(図1での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルケース5と、トランスアクスルケース5におけるトランスアクスルハウジング4とは反対側(図1での左側)の開口端に取り付けられたトランスアクスルリヤカバー6とを有している。
【0023】
トランスアクスルハウジング4の内部には、トルクコンバータ7が設けられており、トランスアクスルケース5およびトランスアクスルリヤカバー6の内部には、前後進切り換え機構8およびベルト式無段変速機9および最終減速機10が設けられている。
【0024】
トルクコンバータ7は、クランクシャフト2と同一の軸線を中心として回転可能なインプットシャフト11が設けられており、インプットシャフト11におけるエンジン1側(図1での右側)の端部にはタービンランナ12が取り付けられている。一方、クランクシャフト2の後端にはドライブプレート13を介してフロントカバー14が連結されており、フロントカバー14にはポンプインペラ15が接続されている。これらタービンランナ12とポンプインペラ15とは互いに対向して配置され、タービンランナ12およびポンプインペラ15の内側にはステータ16が設けられている。このステータ16には、一方向クラッチ17を介して中空軸18が接続されている。中空軸18はトランスアクスルケース5側に回転不能に固定されていて、その中空軸18の内部に前記のインプットシャフト11が配置されている。
【0025】
インプットシャフト11におけるフロントカバー14側(図1での右側)の端部には、ダンパ機構19を介してロックアップクラッチ20が設けられている。上記のように構成されたフロントカバー14およびポンプインペラ15などにより形成されたケーシング(図示せず)内に、作動流体としてのオイルが供給されている。
【0026】
上記構成により、エンジン1の動力(トルク)がクランクシャフト2からフロントカバー14に伝達される。この時、ロックアップクラッチ20が解放されている場合は、ポンプインペラ15のトルクが流体によりタービンランナ12に伝達され、ついでインプットシャフト11に伝達される。なお、ポンプインペラ15からタービンランナ12に伝達されるトルクを、ステータ16により増幅することもできる。一方、ロックアップクラッチ20が係合されている場合は、フロントカバー14のトルクが機械的にインプットシャフト11に伝達される。
【0027】
トルクコンバータ7と前後進切り換え機構8との間には、オイルポンプ21が設けられている。このオイルポンプ21のロータ22と、前記ポンプインペラ15とが円筒形状のハブ23により接続されている。また、オイルポンプ21のボデー24は、トランスアクスルケース5側に固定されている。この構成により、エンジン1の動力がポンプインペラ15を介してロータ22に伝達され、オイルポンプ21を駆動することができる。
【0028】
前後進切り換え機構8は、インプットシャフト11とベルト式無段変速機9との間の動力伝達経路に設けられている。この前後進切り換え機構8は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力する、もしくは反転して出力するように構成されている。具体的には、この前後進切り換え機構8は、主に、ダブルピニオン形式の遊星歯車装置25およびフォワードクラッチ26ならびにリバースブレーキ27により構成されている。
【0029】
この前後進切り換え機構8の構成の一例を説明すると、遊星歯車装置25は、インプットシャフト11のベルト式無段変速機9側(図1での左側)の端部に設けられたサンギヤ28と、このサンギヤ28の外周側に、サンギヤ28と同心状に配置されたリングギヤ29と、サンギヤ28に噛み合わされたピニオンギヤ30と、このピニオンギヤ30およびリングギヤ29に噛み合わされたピニオンギヤ31と、ピニオンギヤ30,31を自転可能に保持し、かつ、ピニオンギヤ30,31を、サンギヤ28の周囲で一体的に公転可能な状態で保持したキャリヤ32とを有している。
【0030】
そして、このキャリヤ32と、後述するベルト式無段変速機9の入力軸であるプライマリシャフト33とが連結され、サンギヤ28と、ダンパ機構19に連結されたインプットシャフト11とが連結されている。また、リングギヤ29の回転・固定を制御するリバースブレーキ27が、トランスアクスルケース5に設けられている。さらに、サンギヤ28と、キャリヤ32との間の動力伝達経路を接続・遮断するフォワードクラッチ26が設けられている。
【0031】
この前後進切り換え機構8においては、前進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ26が係合され、かつ、リバースブレーキ27が解放されて、キャリヤ32と、サンギヤ28すなわちインプットシャフト11とが一体回転する。キャリヤ32とサンギヤ28とが一体回転することによって、リングギヤ29もそれらキャリヤ32およびサンギヤ28と一体回転する。すなわち、インプットシャフト11とプライマリシャフト33とが直結状態になる。そして、エンジン1のトルクが、後述するベルト式無段変速機9のプライマリシャフト33およびセカンダリシャフト34などの回転部材を経由して駆動輪47に伝達され、車両が前進する。
【0032】
これに対して、後進ポジションが選択された場合は、フォワードクラッチ26が解放され、かつ、リバースブレーキ27が係合されて、リングギヤ29が固定される。すると、インプットシャフト11の回転に伴ってサンギヤ28が回転し、リングギヤ29を反力要素としてキャリヤ32がインプットシャフト11の回転方向とは逆の方向に回転する。その結果、後述するプライマリシャフト33およびセカンダリシャフト34などの回転部材が、前進ポジションの場合とは逆方向に回転して車両が後進する。
【0033】
ベルト式無段変速機9は、この発明の回転部材に相当するプライマリシャフト33およびセカンダリシャフト34を有している。すなわち、ベルト式無段変速機9は、インプットシャフト11と同心状に配置されたプライマリシャフト33と、プライマリシャフト33と相互に平行に配置されたセカンダリシャフト34とを有している。プライマリシャフト33側にはプライマリプーリ(すなわち駆動プーリ)35が設けられており、セカンダリシャフト34側にはセカンダリプーリ(すなわち従動プーリ)36が設けられている。
【0034】
プライマリプーリ35は、プライマリシャフト33の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ37と、プライマリシャフト33の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ38とを有している。また、これら固定シーブ37と可動シーブ38との対向面間に、すなわち固定シーブ37のテーパ面37aと可動シーブ38のテーパ面38aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)39が形成されている。そして、可動シーブ38をプライマリシャフト33の軸線方向に動作させ、可動シーブ38と固定シーブ37とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ40が設けられている。
【0035】
一方、セカンダリプーリ36は、セカンダリシャフト34の外周に一体的に形成もしくは固定された固定シーブ41と、セカンダリシャフト34の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ42とを有している。また、これら固定シーブ41と可動シーブ42との対向面間に、すなわち固定シーブ41のテーパ面41aと可動シーブ42のテーパ面42aとの間に、V字形状の溝(ベルト巻き掛け溝)43が形成されている。そして、可動シーブ42をセカンダリシャフト34の軸線方向に動作させ、可動シーブ42と固定シーブ41とを接近・離隔させる油圧アクチュエータ44が設けられている。さらに、上記構成のプライマリプーリ35のベルト巻き掛け溝39およびセカンダリプーリ36のベルト巻き掛け溝43に対して、伝動ベルト45が巻き掛けられている。
【0036】
このように、ベルト式無段変速機9は、互いに平行に配置された入力部材としてのプライマリプーリ(駆動プーリ)35と出力部材としてのセカンダリプーリ(従動プーリ)36とのそれぞれが、固定シーブ37,41と、油圧アクチュエータ40,44によって軸線方向に前後動させられる可動シーブ38,42とによって構成されている。したがって各プーリ35,36のベルト巻き掛け溝39,43の幅が、可動シーブ38,42を軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ35,36に巻掛けた伝動部材としての伝動ベルト45の巻掛け半径(各プーリ35,36の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。
【0037】
なお、セカンダリプーリ36における油圧アクチュエータ44には、ベルト式無段変速機9に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が供給されている。したがって、セカンダリプーリ36における各シーブ41,42が伝動ベルト45を挟み付けることにより、伝動ベルト45に張力が付与され、各プーリ35,36と伝動ベルト45との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対してプライマリプーリ35における油圧アクチュエータ40には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0038】
ベルト式無段変速機9の入力部材であるプライマリプーリ35が、前後進切り換え機構8における出力要素であるキャリヤ32に連結され、ベルト式無段変速機9の出力部材であるセカンダリプーリ36が、ギヤ対46および最終減速機10に連結され、さらにその最終減速機10が駆動輪47に連結されている。
【0039】
そして、この第1の構成例におけるベルト式無段変速機9は、セカンダリプーリ36の固定シーブ41に、電動機48が連結されている。この電動機48は、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有するものであって、この実施例では、モータとしての機能と発電機としての機能との両方を兼ね備えたモータ・ジェネレータ48が用いられた例を示している。
【0040】
このベルト式無段変速機9は、固定シーブ41にモータ・ジェネレータ48を連結してユニット化するにあたり、ベルト式無段変速機9のプーリ軸方向(図1での左右方向)の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるように、固定シーブ41とモータ・ジェネレータ48とが、半径方向(図1での上下方向)にオーバーラップして配置されて連結されている。
【0041】
具体的には、図2,図3に示すように、固定シーブ41の背面41bからモータ・ジェネレータ48側の方向(図2,図3での左方向)に延出した連結部材41cが、固定シーブ41と一体的に形成もしくは固定されている。そして、この連結部材41cとモータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体的に固定されている。すなわち、セカンダリプーリ36の固定シーブ41と、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されている。
【0042】
また、その際には、モータ・ジェネレータ48のセカンダリプーリ36側(図2,図3での右側)の先端部48bと、固定シーブ41の外周部分41dとが互いに重なり合うように、言い換えると、モータ・ジェネレータ48の先端部48bと固定シーブ41の外周部分41dとが、それらの半径方向にオーバーラップするように、セカンダリプーリ36に対してモータ・ジェネレータ48が配置されて、固定シーブ41とロータ48aとが一体化されている。
【0043】
なお、固定シーブ41の外周部分41dにモータ・ジェネレータ48をオーバーラップさせることに伴って、モータ・ジェネレータ48のステータ48cの内径が、固定シーブ41の外周部分41dの外径よりも大きくなっている。すなわち、外周部分41dにモータ・ジェネレータ48をオーバーラップさせることで、モータ・ジェネレータ48のステータ48cの内径が大きく設定されることになり、その結果、モータ・ジェネレータ48の体格(外径)が大きくなる。モータ・ジェネレータ48などのモータの最大トルクは、一般にモータの外径の2ないし3乗に比例して大きくなるため、このようにステータ48cの内径が大きく設定されることは、モータ・ジェネレータ48に高出力が要求される場合に有利である。
【0044】
そして、セカンダリプーリ36および油圧アクチュエータ44を支持する一方(図2,図3での左側)の軸受49が、ロータ48aの内周部分に形成された空間48dに配置されている。したがって、ロータ48aの内周部分の空間48dを有効に利用して、ベルト式無段変速機9のプーリ軸方向の形状・寸法がコンパクト化されている。
【0045】
以上のように構成されたこの第1の構成例に係るベルト式無段変速機9よれば、エンジン1の出力トルクを変速するベルト式無段変速機9に、エンジン1とは別の動力源としてモータ・ジェネレータ48を連結して配置する場合、ベルト式無段変速機9のセカンダリプーリ36の固定シーブ41と、モータ・ジェネレータ48とが、互いにそれらの半径方向にオーバーラップするように配置されて連結される。すなわち、固定シーブ41のモータ・ジェネレータ48側の外周部分41dと、モータ・ジェネレータ48の固定シーブ41側の部分とが互いに重なり合うように、ベルト式無段変速機9に対してモータ・ジェネレータ48が配置されて連結される。そのため、ベルト式無段変速機9のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。
【0046】
また、ベルト式無段変速機9に対するモータ・ジェネレータ48の連結部分は、セカンダリプーリ36の固定シーブ41と、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されること、言い換えると、固定シーブ41の一部分である連結部材41cと、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが共用化されることにより固定される。そのため、セカンダリプーリ36の固定シーブ41およびモータ・ジェネレータ48のロータ48aの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
【0047】
(第2の構成例)
図4ないし図6は、この発明の第2の構成例におけるベルト式無段変速機を適用したFF車のスケルトン図である。前述の図1ないし図3で示した第1の構成例が、ベルト式無段変速機9のセカンダリプーリ36の固定シーブ41とモータ・ジェネレータ48とが、半径方向にオーバーラップして配置されるとともに、それら固定シーブ41とモータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されて連結されている構成であるのに対して、この第2の構成例は、ベルト式無段変速機9のプライマリプーリ35の可動シーブ38とモータ・ジェネレータ48とが、半径方向にオーバーラップして配置されるとともに、その可動シーブ38をプーリ軸線方向に移動させる油圧アクチュエータ40の油圧室を構成する部材と、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されて連結された構成例である。したがって、図4ないし図6において、前述の図1ないし図3の構成と同様の部分には、図1ないし図3に付した符号と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図4において、この第2の構成例におけるベルト式無段変速機9は、プライマリプーリ35の可動シーブ38に、油圧アクチュエータ40を介してモータ・ジェネレータ48が連結されている。そして、このベルト式無段変速機9は、可動シーブ38にモータ・ジェネレータ48を連結してユニット化するにあたり、ベルト式無段変速機9のプーリ軸方向(図4での左右方向)の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができるように、可動シーブ38とモータ・ジェネレータ48とが、半径方向(図4での上下方向)にオーバーラップして配置されて連結されている。
【0049】
具体的には、図5,図6において、固定シーブ37と可動シーブ38とによって構成されるプライマリプーリ35、および油圧アクチュエータ40が、軸受50,51によって支持されている。すなわち、固定シーブ37と一体的に形成もしくは固定されたプライマリシャフト33の両端が、例えばトランスアクスルケース5に固定された軸受50,51に、それぞれ支持されている。そして、固定シーブ37のテーパ面37aに可動シーブ38のテーパ面38aが対向する位置に、可動シーブ38がプライマリシャフト33に嵌合して配置されている。
【0050】
可動シーブ38の背面側、すなわち可動シーブ38のテーパ面38aの反対側(図5,図6での左側)の中心部には、円筒部38bが一体的に形成もしくは固定されていて、この可動シーブ38の円筒部38bとプライマリシャフト33との嵌合部分がスプラインになっている。また、可動シーブ38の背面側の周縁部には、隔壁部38cが一体的に形成もしくは固定されていて、この隔壁部38cと、プライマリシャフト33に固定されている油圧室隔壁40a,40bおよびそれら油圧室隔壁40a,40bの間で仕切板として機能する油圧室隔壁40cとなどによって構成される油圧アクチュエータ40が、可動シーブ38の背面側に設けられている。
【0051】
より具体的には、可動シーブ38の背面と、円筒部38bの外周面と、隔壁部38cの内周面と、隔壁部材40aとによって、油圧室40dが形成されている。また、隔壁部材40aと、隔壁部材40bと、隔壁部材40cとによって、油圧室40eが形成されている。そして、プライマリシャフト33に形成された油路52,52a,52b、および可動プーリ38に形成された油路53、および油圧室隔壁40aに形成された油路54を介して圧油が供給・排出されるようになっている。
【0052】
したがって、各油圧室40d,40eの油圧を制御することにより、可動シーブ38をプライマリシャフト33の軸線方向に動作させ、可動シーブ38と固定シーブ37とを接近・離隔させることができる。すなわち、上記の可動シーブ38の背面および円筒部38bおよび隔壁部38c、各隔壁部材40a,40b,40c、各油路52,52a,52b,53,54などから、油圧アクチュエータ40が構成されている。
【0053】
そして、油圧室40eを形成する油圧室構成部材である隔壁部材40bと、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体的に固定されている。すなわち、隔壁部材40bと、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されている。また、その際には、モータ・ジェネレータ48のプライマリプーリ35側(図5,図6での右側)の先端部48bと、可動シーブ38の外周部分38dとが互いに重なり合うように、言い換えると、モータ・ジェネレータ48の先端部48bと可動シーブ38の外周部分38dとが、それらの半径方向にオーバーラップするように、プライマリプーリ35に対してモータ・ジェネレータ48が配置されて、可動シーブ38とロータ48aとが一体化されている。
【0054】
なお、可動シーブ38の外周部分38dにモータ・ジェネレータ48をオーバーラップさせることに伴って、モータ・ジェネレータ48のステータ48cの内径が、可動シーブ38の外周部分38dの外径よりも大きくなっている。すなわち、外周部分38dにモータ・ジェネレータ48をオーバーラップさせることで、モータ・ジェネレータ48のステータ48cの内径が大きく設定されることになり、その結果、モータ・ジェネレータ48の体格(外径)が大きくなる。そのため、このようにステータ48cの内径が大きく設定されることは、モータ・ジェネレータ48に高出力が要求される場合に有利である。
【0055】
以上のように構成されたこの第2の構成例に係るベルト式無段変速機9よれば、エンジン1の出力トルクを変速するベルト式無段変速機9に、エンジン1とは別の動力源としてモータ・ジェネレータ48を連結して配置する場合、ベルト式無段変速機9のプライマリプーリ35の可動シーブ38と、モータ・ジェネレータ48とが、互いにそれらの半径方向にオーバーラップするように配置されて連結される。すなわち、可動シーブ38のモータ・ジェネレータ48側の外周部分38dと、モータ・ジェネレータ48の可動シーブ38側の部分とが互いに重なり合うように、ベルト式無段変速機9に対してモータ・ジェネレータ48が配置されて連結される。そのため、ベルト式無段変速機9のプーリ軸方向の形状・寸法をコンパクト化して、車両搭載性を向上することができる。
【0056】
また、ベルト式無段変速機9に対するモータ・ジェネレータ48の連結部分は、可動シーブ38の背面側に形成された油圧室40eを構成する部材である隔壁部材40bと、モータ・ジェネレータ48のロータ48aとが一体化されること、言い換えると、隔壁部材40bとモータ・ジェネレータ48のロータ48aとが共用化されることにより固定される。そのため、プライマリプーリ35の可動シーブ38および可動シーブ38における油圧アクチュエータ40ならびにモータ・ジェネレータ48のロータ48aの構成を簡素化し、また部品点数を削減して、低コスト化を図ることができる。
【0057】
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、上記の具体例では、ベルト式無段変速機に連結される電動機(モータ・ジェネレータ)が、従動プーリ(セカンダリプーリ)の固定シーブ、あるいは駆動プーリ(プライマリプーリ)の可動シーブに半径方向でオーバーラップするように配置されて連結された例を示しているが、従動プーリの可動シーブ、あるいは駆動プーリの固定シーブに半径方向でオーバーラップするように配置して連結するように構成することも可能である。
【0058】
また、上記の具体例では、この発明を適用したベルト式無段変速機が、FF方式の車両に搭載されている例を示しているが、FR方式あるいはその他の方式の車両、あるいは四輪駆動車両、さらには車両以外の他の産業機械・装置に搭載することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の第1の構成例におけるベルト式無段変速機を搭載した車両の駆動系統を示す模式図(スケルトン図)である。
【図2】この発明の第1の構成例におけるベルト式無段変速機の構成を説明するための断面図である。
【図3】この発明の第1の構成例におけるベルト式無段変速機の構成を説明するための拡大断面図である。
【図4】この発明の第2の構成例におけるベルト式無段変速機を搭載した車両の駆動系統を示す模式図(スケルトン図)である。
【図5】この発明の第2の構成例におけるベルト式無段変速機の構成を説明するための断面図である。
【図6】この発明の第2の構成例におけるベルト式無段変速機の構成を説明するための拡大断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジン(主動力源)、 9…ベルト式無段変速機、 33…プライマリシャフト(回転部材)、 34…セカンダリシャフト(回転部材)、 35…プライマリプーリ(駆動プーリ)、 36…セカンダリプーリ(従動プーリ)、 37,41…固定シーブ、 38,42…可動シーブ、 39,43…ベルト巻き掛け溝(ベルト溝)、 40,44…油圧アクチュエータ、 40b…隔壁部材(油圧室構成部材)、 40d,40e…油圧室、 45…伝動ベルト、 48…モータ・ジェネレータ(電動機)、 48a…ロータ、 48c…ステータ、 49…軸受。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材にその軸線方向に移動不可能に取り付けられた固定シーブと前記回転部材にその軸線方向に移動可能に取り付けられた可動シーブとによってベルト溝がそれぞれ形成された駆動プーリおよび従動プーリと、それら駆動プーリと従動プーリとの前記ベルト溝に巻き掛けられた伝動ベルトと、前記回転部材に取り付けられ、かつ前記可動シーブに前記軸線方向の力を与える油圧室を形成する油圧室構成部材とを備え、前記駆動プーリに主動力源が連結されるとともに、前記駆動プーリもしくは従動プーリのいずれか一方に、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機が連結されたベルト式無段変速機において、
前記いずれかのシーブと前記電動機とが、半径方向にオーバーラップして配置されていることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記従動プーリの固定シーブと前記電動機のロータとが一体化されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記電動機のロータの内周部分に、前記従動プーリの固定シーブを取り付けた前記回転部材を支持する軸受が配置されていることを特徴とする請求項2に記載のベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記油圧室構成部材と前記電動機のロータとが一体化されていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−149839(P2008−149839A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338630(P2006−338630)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】