説明

ベルト式無段変速装置

【課題】変速比検出手段を熱から保護して耐久性向上と検出精度向上を図る。
【解決手段】駆動軸(クランク軸11)に設けられた駆動側プーリー14と、その可動半体26に対し相対回転自在かつ駆動軸の軸方向に摺動一体なスライダーギヤ31と、これを回転駆動するアクチュエーター(電動モーター44)と、スライダーギヤ31をその回転に伴い可動半体26と共に軸方向に移動させる軸方向移動機構40と、スライダーギヤ31の軸方向位置を検出する変速比検出手段とを備え、変速比検出手段は、スライダーギヤ31の一側面に当接してスライダーギヤ31の軸方向移動に追従する接触子58と、これに連動して回動する回動子59と、回動子59の回動量を検出する回動量検出センサー60とを備え、接触子58と回動子59とをベルトケース3の内部に配置し、回動量検出センサー60をベルトケース3の外部に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動側プーリーの可動半体をアクチュエーターの力により軸方向に移動させてVベルト巻き付け有効径を変化させるようにしたベルト式無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクーター型車両の多くはエンジンとベルトケースとが一体化されてベルトケースの後部に後輪が直接軸支されたユニットスイング式のパワーユニット採用している。ベルトケースの内部にはベルト式無段変速装置が収容され、エンジンのクランク軸(駆動軸)に設けられた駆動側プーリーの回転がVベルトによって従動軸に設けられた従動側プーリーに伝達され、従動軸の回転が減速ギヤ機構に減速されて後輪に伝達される。
【0003】
比較的小型なスクーター型車両のベルト式無段変速装置では駆動側プーリーに複数のウェイトローラーが内蔵され、駆動側プーリーの回転速度上昇に伴う遠心力増大によって上記ウェイトローラーが遠心方向に拡張する力を利用して駆動側プーリーの可動半体を固定半体側に移動させ、駆動側プーリーのVベルト巻き付け有効径を大きくして無段階に自動変速している。
【0004】
一方、比較的大型のスクーター型車両や自動車等のベルト式無段変速装置では、例えば特許文献1〜3に記載されているように、電動モーター等のアクチュエーターの力で機械的に駆動側プーリーの可動半体を軸方向に移動させて上述のベルト式無段変速装置と同様に駆動側プーリーのVベルト巻き付け有効径を変化させている。この場合、リニアセンサーやポテンショメーター等の変速比検出手段により可動半体の軸方向の移動量が検出され、その検出データーに基づいて可動半体の移動量がフィードバック制御される。
【特許文献1】実公平7-041960号公報
【特許文献2】特開2005-133929号公報
【特許文献3】特許第2696583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の第1図に記載されているベルト式無段変速装置では、駆動側プーリーの可動半体の軸方向位置を検出する変速比検出手段(ポテンショメーター)が、ベルト式無段変速装置の作動時における作動熱(摩擦熱)やエンジンの熱により高温化するベルトケース内部に設置されているため、変速比検出手段の耐久性に懸念が持たれる。また、同じく第5図に従来例として記載されているベルト式無段変速装置と、特許文献2に記載されているベルト式無段変速装置では、共に変速比検出手段がウォーム・ホイール機構であるため、ギヤのバックラッシュにより変速比検出の精度が低下してしまう。
【0006】
一方、特許文献3に記載されているベルト式無段変速装置では、変速比検出手段であるセンサーの作動子が駆動側プーリー(可動半体)の一側面に無潤滑状態で摺接しているため、作動子の摩耗が激しく、耐久性の面で難点がある。しかも、このセンサーはブラシホルダーを流用しているために大型であり、これをベルトケース内に配置するのは、コンパクト性が必須であるスクーター型車両にとって好ましくない。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、変速比検出手段をベルトケース内部の高熱から保護して耐久性を向上させると同時にその検出精度を向上させ、しかもコンパクト化と組立作業性の向上を図り、併せてスクーター型車両用パワーユニットの揺動時の慣性モーメント低減ならびにレイアウト性を向上させることのできるベルト式無段変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るベルト式無段変速装置は、駆動軸と、上記駆動軸に設けられて固定半体および可動半体を備えてなる駆動側プーリーと、従動軸と、上記従動軸に設けられた従動側プーリーと、上記両プーリー間に巻装されるVベルトと、上記駆動側プーリーの可動半体に対して相対回転自在かつ上記駆動軸の軸方向には摺動一体のスライダーギヤと、上記スライダーギヤを回転駆動するアクチュエーターと、上記スライダーギヤの回転に伴いスライダーギヤを上記可動半体と共に軸方向に移動させる軸方向移動機構と、上記スライダーギヤの軸方向位置を検出する変速比検出手段とを備え、上記変速比検出手段は、上記スライダーギヤの一側面に当接してスライダーギヤの軸方向移動に追従する接触子と、上記接触子の軸方向移動に連動して回動する回動子と、上記回動子の回動量を検出する回動量検出センサーとを備え、上記接触子と回動子とをベルト式無段変速装置が収容されるベルトケースの内部に配置する一方、上記回動量検出センサーを上記ベルトケースの外部に配置したことを特徴とする。
【0009】
上記変速比検出手段は、上記接触子にラックギヤを備える一方、上記回動子にピニオンギヤを備えたラック・アンド・ピニオン機構を有し、上記ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部の歯筋方向を、上記スライダーギヤの回動時に接触子とスライダーギヤとの当接部が描く円弧軌跡の接線に対して鋭角に交差させたことを特徴とする。
【0010】
また、上記変速比検出手段の接触子を上記スライダーギヤの一側面に当接させる方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
さらに、上記変速比検出手段は、上記付勢手段の付勢力による上記接触子の移動に伴う上記回動子の回動量を規制する回動量規制手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
そして、ベルト式無段変速装置を収容するベルトケースがエンジンのクランクケースに一体化されてスクーター型車両用のパワーユニットを構成し、このパワーユニットが車体フレームに対して上記クランクケースの近傍に設けられた揺動軸を中心に回動自在に設けられたものにおいて、上記アクチュエーターを上記揺動軸の近傍に配置するとともに、上記変速比検出手段を上記駆動軸の後方近傍に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るベルト式無段変速装置によれば、変速比検出手段をスライダーギヤの軸方向移動に追従する接触子とこの接触子の軸方向移動に連動して回動する回動子と、この回動子の回動量を検出する回動量検出センサーとを備えて構成し、接触子と回動子をベルトケース内部に配置する一方、回動量検出センサーをベルトケースの外部に配置したため、接触子の摩耗を防ぐとともに回動量検出センサーをベルトケース内部の高熱から保護して変速比検出手段の耐久性を向上させ、かつ変速比検出手段および装置全体のコンパクト化を図ることができる。
【0014】
また、変速比検出手段の接触子にラックギヤを、回動子にピニオンギヤを備えたラック・アンド・ピニオン機構とし、その噛合部における歯筋方向をスライダーギヤの回動時に接触子とスライダーギヤとの当接部が描く円弧軌跡の接線に対して鋭角に交差させるとともに、接触子をスライダーギヤの一側面に当接させる方向に付勢する付勢手段を設けたため、変速比検出手段の検出精度を向上させることができる。
【0015】
さらに、上記付勢手段の付勢力による接触子の移動に伴う回動子の回動量を規制する規制手段を設けたため、ベルト式無段変速装置の組立作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るベルト式無段変速装置が組み込まれたスクーター型車両用のパワーユニットの横断面図であり、図2は図1のII-II矢視による左側面図である。なお、図1は図2のI-I線に沿って展開した図でもある。
【0018】
このパワーユニット1は、単気筒エンジンのクランクケース2の左側面に一体的に設けられたベルトケース3の内部にベルト式無段変速装置4が収容され、ベルトケース3の後部に後輪5が直接的に軸支され、クランクケース2の近傍(例えばクランクケース2の上部)にて車幅方向に架設された揺動軸6が図示しない車体フレームに軸着されて上記揺動軸6を中心にパワーユニット1全体が車体フレームに対し上下方向に回動自在とされた、スクーター型車両用として一般的なユニットスイング式である。
【0019】
クランクケース2とベルトケース3は例えば軽合金製であり、ベルトケース3はクランクケース2の左側面から後方に長く延びつつ車幅方向左側に開口し、その開口部が同じく軽合金製のケースカバー8で閉塞され、さらにケースカバー8の外側が樹脂製の保護カバー(消音カバー)9で覆われている。なお、図2ではケースカバー8と保護カバー9が取り外された状態が示されている。
【0020】
エンジンのクランク軸11は車幅方向に延在してクランクケース2内にて一対のベアリング12,13により軸支され、その左端がベルトケース3前部の内部に突入してベルト式無段変速装置4の駆動軸となり、このクランク軸11の自由端に駆動側プーリー14が軸装されている。
【0021】
一方、ベルトケース3の後部には従動軸16が3個のベアリング17,18,19により軸支されて従動側プーリー20と遠心クラッチ21が軸装され、駆動側プーリー14と従動側プーリー20との間にVベルト22が巻装されている。
【0022】
図3にも拡大して示すように、駆動側プーリー14は車幅方向外側に位置してクランク軸11に回転一体に設けられた固定半体25と、この固定半体25の内側に対向して位置し、クランク軸11に回転一体かつ軸方向に移動可能に設けられた可動半体26とを備えており、固定半体25と可動半体26の内側面にそれぞれ形成された円錐状の固定フェース27および可動フェース28の間にVベルト22の両側面が挟持されて摩擦係合する。なお、固定半体25の外側面には冷却ファン29が一体に形成されている。
【0023】
また、可動半体26の車幅方向内側に隣接してスライダーギヤ31がクランク軸11に軸装されている。このスライダーギヤ31はベアリング32を介して可動半体26に対し相対回転自在かつクランク軸11の軸方向には摺動一体に連結されている。スライダーギヤ31には車幅方向内側に延びるスラストスリーブ33が形成され、その内周面に斜歯状のスラストインナーギヤ34が形成されている。
【0024】
さらに、クランク軸11にはベアリング36を介してスラストリング37が軸装されている。このスラストリング37は固定ブラケット38によってクランクケース2(またはベルトケース3)に固定されており、スラストリング37の外周面に形成されたスラストアウターギヤ39がスライダーギヤ31(スラストスリーブ33)のスラストインナーギヤ34に噛み合って軸方向移動機構40を構成している。なお、軸方向移動機構40の外周を覆う防塵カバー41が固定ブラケット38に固定されている。
【0025】
一方、揺動軸6の近傍、例えば揺動軸6のすぐ後方には、スライダーギヤ31を回転駆動するアクチュエーターとしての電動モーター44が、その主軸を車幅方向に向けて設置されている。この電動モーター44の主軸45にはピニオンギヤが刻設され、このピニオンギヤとスライダーギヤ31との間に2つの減速中間ギヤ46,47が軸支されて全てのギヤが噛み合っている。
【0026】
電動モーター44が作動すると、主軸45(ピニオンギヤ)の回転が2つの減速中間ギヤ46,47により3段階に減速されてスライダーギヤ31に伝達され、スライダーギヤ31を所定の角度だけ回動させる。これにより、軸方向移動機構40のうち、クランクケース2またはベルトケース3に固定されたスラストリング37のスラストアウターギヤ39と、スライダーギヤ31のスラストスリーブ33に形成されて回動が許容されたスラストインナーギヤ34との間に軸方向に沿うスラスト力が発生し、スライダーギヤ31が可動半体26とともに図3中に示すロー位置Lとハイ位置Hとの間を軸方向に移動する。ロー位置Lでは駆動側プーリー14のVベルト巻き付け有効径が最小径D1となり、ハイ位置HではVベルト巻き付け有効径が最大径D2となる。
【0027】
スライダーギヤ31はロー位置Lからハイ位置Hに移動するまでに約3/4回転する。スライダーギヤ31と可動半体26とがロー位置Lに移動(回動)した時には、例えばスライダーギヤ31の内側面に突設された突起状のロー側ストッパー49が固定ブラケット38に形成されたロー側停止片50に当接して回動が停止する。また、スライダーギヤ31と可動半体26とがハイ位置Hに移動(回動)した時には、例えばスライダーギヤ31の外側部に突設されたハイ側ストッパー51がベルトケース3に形成されたハイ側停止片52に当接して回動が停止する。
【0028】
従動側プーリー20および遠心クラッチ21の構造は一般のスクーター型車両のものと同様であり、駆動側プーリー14のVベルト巻き付け有効径が最小径D1である時には従動側プーリー20のVベルト巻き付け有効径が最大径d1となり、駆動側プーリー14のVベルト巻き付け有効径が最大径D2である時には従動側プーリー20のVベルト巻き付け有効径が最小径d2となる。ベルト式無段変速装置4の変速比(減速率)は上記有効径D1とd1の状態で最も高く、D2とd2の状態で最も低くなる。
【0029】
駆動側プーリー14の回転はVベルト22により従動側プーリー20に伝達され、従動側プーリー20の回転は遠心クラッチ21を介して従動軸16に伝達され、従動軸16の回転が減速ミッション機構54により更に減速されて車軸55に伝達され、車軸55に取り付けられた後輪5が駆動される。
【0030】
スクーター型車両の発進時には図示しないメインコントローラーの制御により電動モーター44がスライダーギヤ31および可動半体26をロー位置Lに移動させて駆動側プーリー14のVベルト巻き付け有効径を最小径D1とし、スクーター型車両が加速するにつれて電動モーター44がスライダーギヤ31および可動半体26をハイ位置H側に移動させて駆動側プーリー14のVベルト巻き付け有効径を最大径D2に近づけて行く。このためスクーター型車両が無段階に変速されて加速する。
【0031】
ベルト式無段変速装置4には、スライダーギヤ31の軸方向位置を検出する変速比検出手段としての接触子58と回動子59と回動量検出センサー60とが設けられている。これらの部材58,59,60は全てクランク軸11の後方近傍にまとめて配置されている。また、接触子58には、接触子58をスライダーギヤ31の一側面に当接させる方向に付勢する付勢手段としてコイルスプリング61が設けられている。
【0032】
接触子58は円柱形断面のロッド状に形成されており、その先端に樹脂キャップ63が冠着されるとともに、一側辺にラックギヤ64が形成されている。この接触子58はベルトケース3の内部に形成されたクランク軸11の軸方向に沿う円柱孔状の保持孔65内に摺動自在に挿入され、接触子58の軸心部に形成されたスプリング孔66にコイルスプリング61とその撓みを防止するスプリングガイドロッド67とが同軸的に挿入される。コイルスプリング61はスプリング孔66と保持孔65の底面との間に弾装され、その付勢力により接触子58がスライダーギヤ31側に付勢されて先端の樹脂キャップ63が常時スライダーギヤ31の右側面に当接する。このため、接触子58は常にスライダーギヤ31の軸方向移動に追従して保持孔65内を摺動する。
【0033】
一方、回動子59は回動軸70と扇形ピニオンギヤ71とが一体化されたものである。ベルトケース3の内部にはクランク軸11の直ぐ後方に当たる位置に底部から上方に向かって円柱孔状の回動子挿通孔72が形成され、この回動子挿通孔72の下端開口部から回動子59が回転自在に挿入され、回動子59の扇形ピニオンギヤ71が接触子58のラックギヤ64に噛合してラック・アンド・ピニオン機構73が構成されている。
【0034】
回動子挿通孔72の下端開口部は、図4にも示すように蓋状に形成されたピニオンホルダー74が数本のビス75でベルトケース3の底面に締結されることにより液密に閉塞され、このピニオンホルダー74により回動子59(回動軸70)の下端が回転支持される。そして回動子59はラックギヤ64と扇形ピニオンギヤ71との噛合により接触子58の軸方向移動に連動して回動する。
【0035】
ここで、図5に示すように、ラックギヤ64と扇形ピニオンギヤ71との噛合部における歯筋方向Aは、スライダーギヤ31の回動時に接触子58とスライダーギヤ31との当接部が描く円弧軌跡Bの接線Cに対し、その交差角度αが鋭角になるように配置されている。例えば本実施形態ではα=40度に設定されている。
【0036】
他方、回動量検出センサー60は、回動子59の回動量を検出するセンサーであり、例えばポテンショメーターが用いられている。接触子58と回動子59がベルトケース3の内部に設けられているのに対し、回動量検出センサー60はベルトケース3の外部に設置され、例えばピニオンホルダー74の下面にビス76で取り付けられている。
【0037】
駆動側プーリー14の可動半体26がスライダーギヤ31とともにクランク軸11の軸方向(ロー位置L〜ハイ位置H)に移動すると、コイルスプリング61の付勢力によりスライダーギヤ31の右側面に当接している接触子58が保持孔65内を車幅方向に摺動し、接触子58のラックギヤ64に噛合する扇形ピニオンギヤ71が回動子59を回動させる。回動子59の回動量、即ちスライダーギヤ31の軸方向位置は回動量検出センサー60により検出され、前述のメインコントローラーに入力される。
【0038】
このベルト式無段変速装置4では、駆動側プーリー14の可動半体26(スライダーギヤ31)の軸方向位置を検出する変速比検出手段の接触子58が、連続回転し続ける可動半体26ではなく約3/4回転の回動範囲しか持たないスライダーギヤ31の側面に当接しているため、接触子58の摩耗を防いで変速比検出手段の耐久性を大幅に向上させることができる。
【0039】
また、変速比検出手段を構成する接触子58と回動子59と回動量検出センサー60のうち、接触子58と回動子59とをベルトケース3の内部に配置する一方、回動量検出センサー60をベルトケース3の外部に配置したため、回動量検出センサー60をベルトケース3内部の高熱から保護して耐久性を向上させ、かつ変速比検出手段およびベルト式無段変速装置4全体のコンパクト化に多大に貢献することができる。特に、駆動側プーリー14の近傍には、減速中間ギヤ46,47やハイ側停止片52等といった部品が置かれ、これらの部品との干渉を避けて回動量検出センサー60を配設するにはベルトケース3を大型化する必要があるが、回動量検出センサー60をベルトケース3の外部に配置することでベルトケース3を小型化できる。
【0040】
一方、変速比検出手段の接触子58にラックギヤ64を、回動子59に扇形ピニオンギヤ71をそれぞれ形成してラック・アンド・ピニオン機構73を構成し、その噛合部における歯筋方向Aをスライダーギヤ31の回動時に接触子58とスライダーギヤ31との当接部が描く円弧軌跡Bの接線Cに対して、その交差角度αが鋭角になるように配置したため、変速比検出手段の検出精度を向上させることができる。
【0041】
即ち、例えば歯筋方向Aと接線Cとの交差角度αをゼロに設定した場合には、図6に示すように接触子58がスライダーギヤ31に対して相対移動する方向(つまり上記接線C)と歯筋方向Aとが完全に一致することになる。このため、仮に接触子58がその保持孔65の内径部との嵌合代(遊び)により保持孔65内で傾斜(首振り動作)したとしても、ラックギヤ64の移動方向が歯筋方向Aに沿うため、回動子59(扇形ピニオンギヤ71)が回動することはない。よって、このように接触子58が傾斜することに起因する回動量検出センサー60の誤動作を防止することができる。
【0042】
しかし、歯筋方向Aと接線Cとの交差角度αを90度に設定した場合には、接触子58が保持孔65内で傾斜した場合にラックギヤ64が扇形ピニオンギヤ71に対して離接する方向に移動するため、両方のギヤ64,71の嵌合位置関係によっては扇形ピニオンギヤ71が微小量回転してしまい、回動量検出センサー60の測定データに誤差が生じる懸念がある。
【0043】
このため、本発明のようにラックギヤ64と扇形ピニオンギヤ71との噛合部における歯筋方向Aを接触子58の円弧軌跡Bの接線Cに対して鋭角に配置することにより、回動量検出センサー60の誤差の発生を極力抑制して変速比検出手段の検出精度を向上させることができる。ここで、本明細書で述べる「鋭角」の定義として、図6に示すように交差角度αがゼロのものも含むこととする。
【0044】
また、接触子58をコイルスプリング61でスライダーギヤ31の側面に当接させる方向に付勢しているため、ラックギヤ64と扇形ピニオンギヤ71との間のバックラッシュを無くして変速比検出手段の検出精度を一段と向上させることができる。
【0045】
ところで、図7〜図10に示すように、変速比検出手段にはコイルスプリング61の付勢力による接触子58の移動に伴う回動子59の回動量を規制する回動量規制手段としての位置決めピン80および位置決めスクリュー79が設けられている。この位置決めピン80および位置決めスクリュー79は、その長手方向が車幅方向に沿うように回動子59の扇形ピニオンギヤ71の近傍に植設されている。
【0046】
ところで、図8〜図10に示すように、変速比検出手段にはコイルスプリング61の付勢力による接触子58の移動に伴う回動子59の回動量を規制する回動量規制手段としての位置決めスクリュー79が設けられている。この位置決めスクリュー79は、その長手方向がクランク軸11方向に沿うように回動子59の扇形ピニオンギヤ71の近傍でベルトケース3に植設されている。
【0047】
位置決めスクリュー79は、コイルスプリング61の付勢力による接触子58の移動に伴う扇形ピニオンギヤ71の回動範囲を規定する位置に締結される(図8参照)。このように位置決めスクリュー79で扇形ピニオンギヤ71の回動を規制するので、駆動側プーリー14およびスライダーギヤ31がクランク軸11に組み付けられていない状態において、接触子58が保持孔65から飛出すのを防止でき組立作業性を向上できる。
【0048】
また、変速比検出手段の接触子58と回動子59を組み付ける際には、接触子58と回動子59のラック・アンド・ピニオン機構73の初期位置合わせを正確に行う必要がある。本願発明の変速比検出手段の組み付け時に、接触子58が最もクランク軸11方向外側(スライダーギヤ31側)に延びた位置(図7の状態)において回動子59(扇形ピニオンギヤ71)の回動を停止させる位置で位置決めピン80をベルトケース3に植設することにより、ラック・アンド・ピニオン機構73の初期位置合わせを高精度に行える。
【0049】
さらに、この位置決めピン80をベルトケース3に取り付けた後で上記位置決めスクリュー79を締結することで、位置決めスクリュー79により位置決めピン80の抜け止めをすることができる。
【0050】
変速比検出手段の組み付け手順は次の通りである。
(1)回動子59をピニオンホルダー74に部組みし、回動子59をベルトケース3の回動子挿通孔72に挿し込んでピニオンホルダー74をビス75で回動子挿通孔72の下端開口部に締結する。
(2)位置決めピン80をベルトケース3の所定の位置に形成した挿通孔に挿通する。
(3)ピニオンホルダー74から下方に突出する回動軸70の先端を回して扇形ピニオンギヤ71の一端を位置決めピン80に当接させる。この時の回動軸70の回転方向はベルトケース3の下面から見て時計方向となる。
(4)扇形ピニオンギヤ71の一端を位置決めピン80に当接させた状態で接触子58を保持孔65に挿入し、接触子58のラックギヤ64と回動子59の扇形ピニオンギヤ71の端部同士を噛み合わせる(図7の状態)。この時、接触子58の内部にコイルスプリング61とスプリングガイドロッド67とを組付けた状態で接触子58を保持孔65に挿入する。
(5)接触子58を保持孔65に深く押し込んだ状態で、位置決めピン80の近傍に位置決めスクリュー79を締結して位置決めピン80を固定する。
(6)そして接触子58を押し込んでいた力を放すと、コイルスプリング61の付勢力により接触子58が突出方向に移動し、扇形ピニオンギヤ71が所定量回動するが、扇形ピニオンギヤ71の一端が位置決めスクリュー79に当接することによって接触子58の飛び出しが阻止される(図8の状態)。この時、扇形ピニオンギヤ71が位置決めピン80よりも先に位置決めスクリュー79に当接するように、位置決めピン80と位置決めスクリュー79の位置関係が設定されている。
(7)ピニオンホルダー74の下面に突出している回動軸70に回動量検出センサー60を嵌合させながら、回動量検出センサー60をビス76でピニオンホルダー74の下面に締結固定する。
(8)駆動側プーリー14とスライダーギヤ31をクランク軸11に組み込んで完成させる。図9はスライダーギヤ31がロー位置Lにある状態を示し、図10はスライダーギヤ31がハイ位置Hにある状態を示している。前述したようにハイ位置Hではスライダーギヤ31のハイ側ストッパー51がハイ側停止片52に当接し、ロー位置Lではスライダーギヤ31のロー側ストッパー49がロー側停止片50に当接するため、接触子58が保持孔65の底部に当接したり、扇形ピニオンギヤ71の一端が位置決めスクリュー79に当接することはない。
【0051】
このように、コイルスプリング61の付勢力による接触子58の移動に伴う回動子59の回動量を規制する回動量規制手段(位置決めスクリュー79)を設けたことにより、駆動側プーリー14とスライダーギヤ31に対して接触子58と回動子59のラック・アンド・ピニオン機構73の初期位置合わせを正確に行うことができ、ベルト式無段変速装置4の組立作業性を飛躍的に向上させることができる。
【0052】
さらに、スライダーギヤ31を回転駆動するアクチュエーターである電動モーター44をパワーユニット1の揺動軸6近傍に配置したため、重量物である電動モーター44を揺動軸6に近付けてパワーユニット1のマスを集中させ、パワーユニット1の揺動時における慣性モーメントを低減させてスクーター型車両の乗り心地を向上させることができる。
【0053】
また、変速比検出手段(部材58,59,60)をスペース的に余裕のあるクランク軸11の後方近傍に集約して配置したため、パワーユニット1内部の部品を効率良くレイアウトし、パワーユニット1のコンパクト化と軽量化に貢献できる。
【0054】
なお、図1、2中の符号82はパワーユニット1のエンジンを始動するためのスターターモーターである。揺動軸6を挟んで前後に電動モーター44とスターターモーター82を振り分けることで、揺動軸6近傍のマスの集中化にさらに貢献できる。スターターモーター82の駆動力は、図1に示すようにベルト式無段変速装置4の反対側、すなわちクランク軸11の右端側にてクランク軸11に伝達される。クランク軸11の右端には発電機83が設けられており、発電機83と回転一体のスタータードリブンギヤ84が減速中間ギヤ85を介してスターターモーター82によって回転駆動されてエンジンが始動される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るベルト式無段変速装置が組み込まれたスクーター型車両用のパワーユニットの横断面図。
【図2】図1のII-II矢視による左側面図。
【図3】本発明の一実施形態を示す駆動側プーリーとスライダーギヤ付近の拡大図。
【図4】図2のIV矢視によるピニオンホルダーと回動量検出センサーの平面図。
【図5】ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部における歯筋方向とスライダーギヤの接線との交差角度をαに設定した場合を示す図。
【図6】ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部における歯筋方向とスライダーギヤの接線との交差角度をゼロに設定した場合を示す図。
【図7】変速比検出手段の組み込み時において回動子のピニオンギヤを位置決めピンに当接させてピニオンギヤとラックギヤの端部同士を噛合させた状態を示す図。
【図8】位置決めスクリューを締結し、接触子を押し込んでいた力を放した状態を示す図。
【図9】駆動側プーリーとスライダーギヤがロー位置にある状態を示す図。
【図10】駆動側プーリーとスライダーギヤがハイ位置にある状態を示す図。
【符号の説明】
【0056】
1 パワーユニット
2 クランクケース
3 ベルトケース
4 ベルト式無段変速装置
5 後輪
6 揺動軸
11 駆動軸としてのクランク軸
14 駆動側プーリー
16 従動軸
20 従動側プーリー
21 遠心クラッチ
22 Vベルト
25 固定半体
26 可動半体
31 スライダーギヤ
40 軸方向移動機構
44 アクチュエーターとしての電動モーター
58 変速比検出手段を構成する接触子
59 変速比検出手段を構成する回動子
60 変速比検出手段を構成する回動量検出センサー
61 付勢手段としてのコイルスプリング
64 ラックギヤ
71 扇形ピニオンギヤ
73 ラック・アンド・ピニオン機構
79 位置決めピン
80 回動量規制手段としての位置決めスクリュー
A ラック・アンド・ピニオン機構の噛合部の歯筋方向
C 円弧軌跡の接線
B 接触子とスライダーギヤとの当接部が描く円弧軌跡
α 歯筋方向と接線との交差角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、上記駆動軸に設けられて固定半体および可動半体を備えてなる駆動側プーリーと、従動軸と、上記従動軸に設けられた従動側プーリーと、上記両プーリー間に巻装されるVベルトと、上記駆動側プーリーの可動半体に対して相対回転自在かつ上記駆動軸の軸方向には摺動一体のスライダーギヤと、上記スライダーギヤを回転駆動するアクチュエーターと、上記スライダーギヤの回転に伴いスライダーギヤを上記可動半体と共に軸方向に移動させる軸方向移動機構と、上記スライダーギヤの軸方向位置を検出する変速比検出手段とを備え、上記変速比検出手段は、上記スライダーギヤの一側面に当接してスライダーギヤの軸方向移動に追従する接触子と、上記接触子の軸方向移動に連動して回動する回動子と、上記回動子の回動量を検出する回動量検出センサーとを備え、上記接触子と回動子とをベルト式無段変速装置が収容されるベルトケースの内部に配置する一方、上記回動量検出センサーを上記ベルトケースの外部に配置したことを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項2】
上記変速比検出手段は、上記接触子にラックギヤを備える一方、上記回動子にピニオンギヤを備えたラック・アンド・ピニオン機構を有し、上記ラックギヤとピニオンギヤとの噛合部の歯筋方向を、上記スライダーギヤの回動時に接触子とスライダーギヤとの当接部が描く円弧軌跡の接線に対して鋭角に交差させたことを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速装置。
【請求項3】
上記変速比検出手段の接触子を上記スライダーギヤの一側面に当接させる方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のベルト式無段変速装置。
【請求項4】
上記変速比検出手段は、上記付勢手段の付勢力による上記接触子の移動に伴う上記回動子の回動量を規制する回動量規制手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載のベルト式無段変速装置。
【請求項5】
ベルト式無段変速装置を収容するベルトケースがエンジンのクランクケースに一体化されてスクーター型車両用のパワーユニットを構成し、このパワーユニットが車体フレームに対して上記クランクケースの近傍に設けられた揺動軸を中心に回動自在に設けられたものにおいて、上記アクチュエーターを上記揺動軸の近傍に配置するとともに、上記変速比検出手段を上記駆動軸の後方近傍に配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベルト式無段変速装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−215477(P2008−215477A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53088(P2007−53088)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】