ベルト式無段変速装置
【課題】従動プーリ4の可動シーブ4bを固定シーブ4a側に付勢するばねと、可動シーブ4bを固定シーブ4aとの相対回転によって固定シーブ4aに近付くように押圧するトルクカム機構14とを備えたベルト式無段変速装置において、その従動プーリ4の可動シーブ側ベルト溝側面24及び固定シーブ側ベルト溝側面23での各ベルト接触位置が半径方向で異なった場合でもトルクカム効果を有効に発揮させてベルト5のスリップを防ぐ。
【解決手段】従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1を、半径方向内側にある内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2よりも大にし、その外周部24aのベルト溝面角度θ1と内周部24bのベルト溝面角度θ2との差を0.4°以上でかつ1.4°以下とする。
【解決手段】従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1を、半径方向内側にある内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2よりも大にし、その外周部24aのベルト溝面角度θ1と内周部24bのベルト溝面角度θ2との差を0.4°以上でかつ1.4°以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速プーリ間にベルトを巻き付けたベルト式無段変速装置に関し、特に、従動プーリ側にトルクカム機構を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、これら駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトとを備え、各プーリの可動シーブを固定シーブに対し両プーリで逆方向に移動するように接離させてベルト巻付け半径を変化させ、駆動プーリのベルト巻付け半径を従動プーリのベルト巻付け半径よりも大きくすることで、速比(レシオ)が1未満の増速状態とする一方、駆動プーリのベルト巻付け半径を従動プーリのベルト巻付け半径よりも小さくすることで、速比が1を越えた減速状態とするようにしたベルト式無段変速装置は知られている。
【0003】
この種の無段変速装置として、例えば特許文献1に示されるように、プーリのベルト溝において、固定シーブ及び可動シーブがなす溝角度を、小径側(半径方向内側)ではVベルトの側面間のなすV角度と同一とし、大径側(半径方向外側)ではV角度よりも小さくする、換言すれば半径方向外側の溝角度を半径方向内側よりも小さくすることにより、ベルトの負荷により両シーブが互いに離隔するように撓んだとき、その撓みの大きい大径側にあっては撓みに伴って変化した溝角度をベルトのV角度に一致させ、撓みの殆どない小径側にあっては変化のない溝角度をベルトのV角度にそのまま一致させるようにして、ベルト溝の大径側及び小径側のいずれでもベルト側面とベルト溝側面とを正しく接触させ、伝達トルクの低下を防止することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2に示されるものでは、両シーブのプーリ中心線を含む断面におけるベルト溝側面の輪郭曲線を溝角度が連続して変化する凸曲線とすることにより、変速に伴ってベルトがベルト溝の大径側及び小径側で移動したときに芯ずれする(駆動及び従動プーリ間のミスアラインメントが生じる)のを低減し、ベルトの片当たりによる偏摩耗や騒音の発生を抑制するようになされている。
【0005】
また、この特許文献2には、プーリのベルト溝の両側面を、半径方向外側の溝角度が半径方向内側の溝角度よりも大きくなるように2段階にするとともに、ベルト溝の両側面をも、底面側(内周側)のV角度が背面側(外周側)よりも大きくなるように2段階にすることで、ベルトがベルト溝の半径方向外側にあるときには、ベルトの左右側面の底面側を、またベルト溝の半径方向内側にあるときには、ベルト左右側面の背面側をそれぞれ接触させて、上記と同様の目的を達成することが示されている。
【特許文献1】特開2002−70966号公報
【特許文献2】特開2002−31215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなベルト式無段変速装置において、従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付く側に移動させる推力を付与する推力付与機構として、可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢するばね等の付勢手段と、可動シーブが固定シーブに対し相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを組み合わせたものを用いることがある。
【0007】
上記トルクカム機構が設けられている従動プーリでは、その従動プーリの倒れや撓み等に起因するベルトの接触状態の差により、その可動シーブ側(トルクカム機構側)のベルト溝面におけるベルト接触位置と、固定シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なることがあり、その場合にはトルクカム機構の効果が有効に発揮されず、ベルト伝動に必要な推力が得られなくなってベルト張力が低下し、スリップが発生するという問題が生じる虞れがある。
【0008】
すなわち、図9に示すように、トルクカム機構14が、従動軸2と回転一体に設けられかつ回転方向進み側(円周方向の一方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第1カム面16、及び回転方向遅れ側(円周方向の他方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第2カム面17を有するカムプレート15と、可動シーブ4b背面に回転一体に固定され、上記カムプレート15の第1カム面16に接触可能な第1カム部20、及び第2カム面17に接触可能な第2カム部21を有するカムフォロワ19とを備えたものであるとすると、図9(a)に示す如く、従動プーリ4に負荷が加わっていない状態では、その可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する相対回転が生じないので、カムプレート15の2つのカム面16,17はいずれもカムフォロワ19のカム部20,21に接触せず、トルクカム機構14は非作動状態で、可動シーブ4bが付勢手段としてのばね10のみでベルト5を押圧している状態となる。
【0009】
また、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態では、図9(b)に示すように、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し進み側に相対回転するので、その可動シーブ4bにおけるカムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面16に接触し、可動シーブ4bが固定シーブ4a側に押されてばね10(付勢手段)と共にベルト5を押圧している状態となり、トルクカム機構14が作動状態となる。
【0010】
一方、負荷が従動プーリ4から駆動プーリ3に伝動されている逆負荷状態では、図9(c)に示すように、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転するので、その可動シーブ4bにおけるカムフォロワ19の第2カム部21がカムプレート15の第2カム面17に接触し、可動シーブ4bが固定シーブ4a側に押されてばね10と共にベルト5を押圧している状態となり、トルクカム機構14が作動状態となる。
【0011】
そして、上記正負荷状態において、従動プーリの倒れや撓み等により、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)のベルト溝側面におけるベルト接触位置と、固定シーブ4a側のベルト溝側面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なり、図10(a)に示すように(尚、図10は、説明のために、ベルト5の可動シーブ4b側及び固定シーブ4a側のベルト溝側面でベルト接触位置が異なる状態を強調して示している)、ベルト5が可動シーブ4b側のベルト溝側面には下部で、また固定シーブ4a側のベルト溝側面には上部でそれぞれ接触して、可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径R1が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径R2よりも小さくなると(R1<R2)、図11に示す如く、可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する速度差が大きくなって、可動シーブ4bが回転方向進み側にさらに相対回転し、その分、カムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面16上をさらに進み側に進んで、トルクカム機構14による推力が増大する。つまり、この場合はトルクカム機構14の効果が促進されるので、問題はない。
【0012】
しかし、図10(b)に示すように、ベルト5が可動シーブ4b側のベルト溝面には上部で、また固定シーブ4a側のベルト溝面には下部でそれぞれ接触して、可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径R1が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径R2よりも大きくなると(R1>R2)、図11に示す如く、可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する速度差が小さくなって、上記逆負荷状態と同様に可動シーブ4bが回転方向遅れ側にさらに相対回転し、その分、カムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面17上を遅れ側に進んで、トルクカム機構14による推力が減少する。つまり、この場合、トルクカム機構14のカム効果が減少されることとなり、ベルト伝動に必要な推力が不足してスリップが発生する。図11の3は駆動プーリである。
【0013】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記の如く、従動プーリにその可動シーブを付勢する付勢手段とトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、その従動プーリにおけるベルト溝面の傾斜角度に改良を加えることにより、負荷が駆動プーリから従動プーリに伝動されている正負荷状態で、可動シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置と、固定シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なった場合でも、トルクカム効果が有効に発揮されなくなるのを防止し、ベルトのスリップの発生を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、この発明では、変速装置がLo側にあって、従動プーリにおけるベルトがスリップの起こし易い大径側にあるときの可動シーブ側のベルト溝側面の角度を大きくする一方、変速装置がHi側にあって、従動プーリにおけるベルトがスリップの影響の小さい小径側にあるときのベルト溝側面の角度は小さくすることにより、従動プーリの倒れや撓み等に起因するベルトの接触状態の差があってもトルクカム機構の機能が最大限に発揮されるようにした。
【0015】
具体的には、請求項1の発明では、固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、これら駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置が前提である。
【0016】
そして、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比(レシオ)が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度よりも大きく、上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴としている。
【0017】
また、請求項2の発明では、上記請求項1の発明と同様の前提のベルト式無段変速装置において、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、上記ベルト側面の上記直交平面に対するベルト側面角度よりも大きく、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度が上記ベルト側面の角度よりも小さく、上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とする。
【0018】
これら発明の上記構成によると、従動プーリのベルト溝の大径側にベルトが位置している、変速装置のLo状態では、大きな負荷トルクが従動プーリに作用するためにスリップ発生の可能性が高くなるが、この従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周側(大径側)のベルト溝面角度が内周側(小径側)のベルト溝面角度よりも大きいので、そのベルト側面においてベルト溝側面との接触位置が常にベルト下側(ベルト内周側)になってベルト側面がベルト溝側面の小径側で接触し、可動シーブ側(トルクカム機構側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも小さくなる。このため、負荷が駆動プーリから従動プーリに伝動されている正負荷状態で、可動シーブの回転速度が速くなって固定シーブに対し進み側に相対回転し、可動シーブ側の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも大きくなることにより可動シーブの回転速度が遅くなって固定シーブに対し遅れ側に相対回転することは防止され、トルクカム機構を作動させてその効果を得ることができ、ベルトのスリップの発生を防止することができる。
【0019】
一方、変速装置のHi状態では、従動プーリのベルト溝の内周側(小径側)にベルトが位置し、この従動プーリの可動シーブのベルト溝面における内周側(小径側)のベルト溝面角度が外周側(大径側)のベルト溝面角度よりも小さいので、ベルト側面においてベルト溝側面との接触位置が常にベルト上側(ベルト外周側)になってベルト側面がベルト溝側面の大径側で接触し、可動シーブ側(トルクカム機構側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも大きくなり、可動シーブの回転速度が遅くなって固定シーブに対し遅れ側に相対回転し、トルクカム機構の効果が低下する。しかし、この変速装置のHi状態では、元々伝達トルクが小さく、しかも付勢手段により付与される推力が大きいので、スリップ発生についての問題は生じない。
【0020】
そして、変速装置のHi状態の使用頻度はLo状態よりも高いので、ベルト側面の摩耗が進んだときには、そのベルト側面の角度が可動シーブのベルト溝面における内周側(小径側)のベルト溝面角度に対応して小さくなる。この状態では、変速装置がLo状態になったときにベルト側面においてベルト溝側面との接触位置がベルト下側(ベルト内周側)になる。つまり、ベルトの摩耗が進行してもLo状態ではベルト溝面との接触位置がベルト下側(ベルト内周側)になる。よってLo状態でのスリップ防止を長期間に亘って維持することができる。
【0021】
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は、0.4°未満では、上記した発明の効果が期待できない一方、1.4°を越えると、ベルトのスリップ性に対する効果があるものの、ベルトの片当たりが強くなってその寿命が低下するので、0.4°以上でかつ1.4°以下とされている。
【0022】
請求項3の発明では、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とが円弧面で接続されている構成とする。
【0023】
このことで、従動プーリのベルト溝において、変速装置がLo状態及びHi状態に変わったときベルトの外周部及び内周部間の移動をスムーズに行うことができる。
【0024】
請求項4の発明では、上記請求項1の発明と同様の前提のベルト式無段変速装置において、上記従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面は、固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成されていて、その可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状は、ベルトが最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、該両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインが位置する中間位置とを通る曲線形状とされ、上記直線と中間位置との距離は、0.15mm以上でかつ0.6mm以下であることを特徴とする。この発明においても、上記請求項1〜3の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
上記直線と中間位置との距離は、0.15mm未満では、発明の効果が期待できない一方、0.6mmを越えると、ベルトのスリップ性に対する効果があるものの、ベルトの片当たりが強くなってその寿命が低下するので、0.15mm以上でかつ0.6mm以下とされている。
【0026】
請求項5の発明では、Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合してなるブロックベルトとする。こうすれば、本発明の効果が有効に発揮される最適なVベルトが得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、請求項1の発明では、従動プーリに、その可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを設けたベルト式無段変速装置において、可動シーブのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、半径方向外側にある外周部のベルト溝面角度を、内周部のベルト溝面角度よりも大きくし、その外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は0.4°以上でかつ1.4°以下とした。また、請求項2の発明では、可動シーブのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、外周部のベルト溝面角度をベルト側面の角度よりも大きくし、内周部のベルト溝面角度をベルト側面の角度よりも小さくし、その外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は0.4°以上でかつ1.4°以下とした。さらに、請求項4の発明では、従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状を、ベルトの最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、これら両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置とを通る曲線形状として、その可動シーブ側溝側面を固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成し、外周及び内周位置を通る直線と、速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置との距離を0.15mm以上でかつ0.6mm以下とした。従って、これらの発明によると、ベルト側面が摩耗しても、変速装置がLo状態にあるときのトルクカム機構の効果を有効に発揮させて推力を確保し、ベルトのスリップの発生を確実に防止することができる。
【0028】
また、請求項3の発明によると、従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とを円弧面で接続したことにより、従動プーリのベルト溝において、変速装置がLo状態及びHi状態に変わったときベルトの外周部及び内周部間の移動をスムーズに行うことができる。
【0029】
請求項5の発明によると、Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合したブロックベルトとしたことにより、本発明の効果が有効に発揮される最適なVベルトが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0031】
(実施形態1)
図3は本発明の実施形態1に係るベルト式無段変速装置Aの全体構成を概略的に示し、このベルト式無段変速装置Aは、例えば、車両のエンジン等の動力源と駆動車輪等の被駆動装置(いずれも図示せず)の間のトルク伝達経路に配置されて、動力源のトルクを被駆動装置に伝達しつつ速比を変化させるために使用される。
【0032】
上記ベルト式無段変速装置Aは、動力源に駆動連結される駆動軸1と、この駆動軸1に平行に配置されていて、被駆動装置に連結される従動軸2とを備え、駆動軸1に変速プーリからなる駆動プーリ3が、また従動軸2に同様の従動プーリ4がそれぞれ設けられている。
【0033】
上記駆動プーリ3は、駆動軸1に回転一体にかつ軸方向(図3の左右方向)に移動不能に設けられた固定シーブ3aと、駆動軸1に回転一体にかつ軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ3bとからなる。これら固定シーブ3a及び可動シーブ3b間には断面V字状のベルト溝3cが形成されている。そして、固定シーブ3aに対し、可動シーブ3bが接近する方向(同図の左方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径(プーリ径)が大きくなる一方、可動シーブ3bが離隔する方向(同図の右方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が小さくなる。
【0034】
上記従動プーリ4も、駆動プーリ3と同様に、従動軸2に回転一体にかつ軸方向に移動不能に設けられた固定シーブ4aと、従動軸2に回転可能にかつ軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ4bとからなっている。これら固定シーブ4a及び可動シーブ4b間には、駆動プーリ3と同様の断面V字状のベルト溝4cが形成されている。そして、固定シーブ4aに対し、可動シーブ4bが接近する方向(図3の右方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が大きくなる一方、可動シーブ4bが離隔する方向(同図の左方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が小さくなる。但し、上記駆動プーリ3及び従動プーリ4の固定シーブ3a,4aと可動シーブ3b,4bとの配置は軸方向に互いに逆になっている。
【0035】
上記駆動プーリ3のベルト溝3cと従動プーリ4のベルト溝4cとの間には、高負荷伝動用Vベルトとしてのブロックベルト5が巻き掛けられている。このブロックベルト5は、断面略V字状のもので、図2に示すように、ベルト幅方向(同図の左右方向)に並ぶように配置されかつ心線6aが埋め込まれた1対の張力帯6,6と、ベルト長さ方向に所定ピッチで配置されていて、両張力帯6,6に係止固定された複数のブロック7,7,…とからなる。
【0036】
上記各ブロック7のベルト幅方向両側部には、それぞれベルト幅方向側方に開放されたスリット状をなす嵌合部7a,7aが上下ビーム間に形成され、この左右の嵌合部7a,7aにそれぞれ張力帯6,6が嵌め込まれており、このことで各ブロック7は張力帯6,6に係止固定されている。
【0037】
また、各ブロック7のベルト幅方向両側面(各嵌合部7aを除く部分)は、それぞれ各プーリ3,4のベルト溝3c,4cの溝側面23,24に接触する接触面7b,7bとなっている。
【0038】
各ブロック7は、図示しないが、例えばフェノール系樹脂材料と、このフェノール系樹脂材料に埋設されるように配置されたアルミニウム合金製の補強材とからなる。
【0039】
そして、変速装置Aの速比(レシオ)を変えるために、駆動プーリ3をその可動シーブ3bが固定シーブ3aに対し接離するように開閉する変速機構(図示せず)が設けられている。一方、従動プーリ4には、可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように常時付勢する付勢手段としてのばね10が設けられており、上記変速機構による駆動プーリ3の開閉に応じて従動プーリ4を駆動プーリ3と逆の方向に開閉し、駆動プーリ3を開いたときに、従動プーリ4をばね10の付勢力によって閉じる一方、駆動プーリ3を閉じたときに、従動プーリ4をばね10の付勢力に抗して開くことにより、駆動プーリ3及び従動プーリ4の各ベルト巻付け半径を変えてLo状態とHi状態との間で変速するようになっている。
【0040】
上記ばね10は、例えば従動軸2周りに配置されたコイルばねからなり、従動プーリ4において可動シーブ4bの背面側、つまり固定シーブ4aと反対側に設けられている。すなわち、上記可動シーブ4bの背面側の従動軸2上にはばね止め11が回転一体にかつ軸方向に移動不能に取り付けられ、このばね止め11と可動シーブ4bの背面との間にばね10が縮装されており、このばね10の伸張力により、可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように常時付勢し、その推力によってベルト張力を付与するようにしている。
【0041】
また、このばね10の他に、従動プーリ4の可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し相対回転したときに可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように押圧するトルクカム機構14が設けられている。このトルクカム機構14は、上記ばね止め11の可動シーブ4b側の部分に一体的に設けられたカムプレート15を備えている。このカムプレート15は、例えば従動軸2の周りに同心状に配置された円筒状のもので、その可動シーブ4bに対向する端部は略V字状に切り欠かれており、その切欠部分により、回転方向進み側(円周方向の一方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第1カム面16と、回転方向遅れ側(円周方向の他方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第2カム面17とが形成されている。
【0042】
一方、可動シーブ4bの背面にはカムフォロワ19が一体に突設されている。このカムフォロワ19の先端部は上記カムフレート15の切欠部分内に位置し、その回転方向進み側(円周方向の一方)にカムプレート15の第1カム面16に接触可能な第1カム部20が、また回転方向遅れ側(円周方向の他方)に第2カム面17に接触可能な第2カム部21がそれぞれ設けられている。
【0043】
そして、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態で、従動プーリ4の可動シーブ4bが固定シーブ4aよりも進み側に相対回転したときには、トルクカム機構14を作動状態として、その可動シーブ4bと一体のカムフォロワ19の第1カム部20をカムプレート15の第1カム面16に接触させ、このカム接触により可動シーブ4bを固定シーブ4a側に押して、ばね10の付勢力と共に推力を得る一方、負荷が従動プーリ4から駆動プーリ3に伝動されている逆負荷状態で、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転したときにも、トルクカム機構14を作動状態として、そのカムフォロワ19の第2カム部21をカムプレート15の第2カム面17に接触させ、このカム接触により可動シーブ4bを固定シーブ4a側に押して、ばね10の付勢力と共に推力を得るようにしている。
【0044】
本発明の特徴として、上記従動プーリ4のベルト溝4cにおいて、固定シーブ4a側にある固定シーブ側溝側面23の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対する角度θは、上記ベルト5の側面であるブロック7の接触面7bの同角度αと同じであるが(θ=α。例えば13°)、可動シーブ4b側にある可動シーブ側溝側面24の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対する角度θ1,θ2は、外周側(大径側)と内周側(小径側)とで異なっている。すなわち、図1に拡大して示すように、この可動シーブ側溝側面24のうち、変速装置Aの速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置(ベルト5における張力帯6の心線6aの位置)よりも半径方向外側にある外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1はベルト側面の角度αよりも大きく、半径方向内側にある内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2はベルト側面の角度αりも小さく形成されている(θ1>α>θ2)。換言すれば、上記外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1は、内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2よりも大に設定されている。
【0045】
この従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24aのベルト溝面角度θ1と内周部24bのベルト溝面角度θ2との差θ1−θ2は0.4°以上でかつ1.4°以下とされている。この角度差が0.4°未満では、後述する実施形態の効果が期待できない一方、1.4°を越えると、ブロックベルト5のスリップ性に対する効果があるものの、そのベルト5におけるブロック7の上又は下ビームの片当たりが強くなってブロック7延いてはベルト5の寿命が低下するので、0.4°〜1.4°が好ましい。
【0046】
また、上記ベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24aと内周部24bとは円弧面24cで接続されている。
【0047】
次に、上記実施形態の作用について説明する。無段変速装置Aは変速機構によってLo状態及びHi状態の間で切り換えられて変速される。変速装置AがLo状態にあるときには、駆動プーリ3が開いて、その可動シーブ3bが固定シーブ3aから離隔する方向(図3の右方向)に移動し、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が小さくなり、ベルト張力が低下しようとする。また、従動プーリ4の可動シーブ4bはばね10によって固定シーブ4a側に押圧付勢されているので、このばね10の付勢力により可動シーブ4bが上記ベルト張力の低下を補うように固定シーブ4aに接近する方向(図3の右方向)に移動する。このことにより、従動プーリ4が閉じてそのベルト巻付け半径が増大し、このベルト巻付け半径の増大によりベルト5が従動プーリ4側に引き寄せられ、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4よりも小さくなり、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が減速されて従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0048】
一方、変速装置AがHi状態にあるときには、駆動プーリ3が閉じ、その可動シーブ3bが固定シーブ3aに接近する方向(図3の左方向)に移動し、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が大きくなり、ベルト張力が増大しようとする。また、このベルト張力の増大に伴い、従動プーリ4の可動シーブ4bがばね10の付勢力に抗して固定シーブ4aから離れる方向(図3の左方向)に移動する。このことで、従動プーリ4のベルト巻付け半径が小さくなり、ベルト5が駆動プーリ3側に引き寄せられ、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4よりも大きくなり、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が増速されて従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0049】
また、上記Lo状態及びHi状態の間には速比1.0になる等速状態があり、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4と同じになって、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が等速で従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0050】
上記変速装置AのLo状態では、従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周側(大径側)にベルト5が位置しており、大きな負荷トルクが従動プーリ4に作用することで、ベルト5のスリップ発生の可能性が高くなる。しかし、この実施形態では、従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24a(大径側)のベルト溝面角度θ1がベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度α(可動シーブ側溝側面24の内周部24b(小径側)のベルト溝面角度θ2)よりも大きいので、図2(上側の仮想線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)はベルト溝4cの固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置(張力帯6の心線6aの位置)、つまりベルト5の上下略中央位置で接触するのに対し、ベルト5の可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)は可動シーブ側溝側面24の外周部24bとベルトピッチラインよりも下側の位置、つまりベルト5の下部で接触し、このベルト5の接触位置の違いによって、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも小さくなる。このため、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態で、従動プーリ4における可動シーブ4bの回転速度が速くなって固定シーブ4aに対し進み側に相対回転し、逆に可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも大きくなることによって可動シーブ4bの回転速度が遅くなって固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転することは防止され、トルクカム機構14のカムフォロワ19における第1カム部21をカムプレート15の第1カム面16上で進み側に移動させて、トルクカム効果を高めることができる。よって、トルクカム機構14を適正に作動させて推力を高め、ベルト5のスリップの発生を防止することができる。
【0051】
一方、上記変速装置AのHi状態では、従動プーリ4のベルト溝4cの内周側(小径側)にベルト5が位置するが、このベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における内周部(小径側)のベルト溝面角度θ2がベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度α(可動シーブ側溝側面24の外周部24a(大径側)のベルト溝面角度θ1)よりも小さいので、図2(下側の仮想線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)は固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触するのに対し、ベルト5の可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)は可動シーブ側溝側面24の内周部24b(小径部)と、上記Hi状態とは逆に、ベルトピッチラインよりも上側の位置、つまりベルト5の上部で接触し、この接触位置の違いによって、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも大きくなり、可動シーブ4bの回転速度が遅くなって固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転し、トルクカム機構14の効果が低下する。しかし、この変速装置AのHi状態では、伝達トルクが小さく、しかもばね10により付与される推力が大きいので、スリップ発生についての問題は生じない。
【0052】
尚、変速装置Aの等速状態では、図2(実線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)は固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触し、可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)も可動シーブ側溝側面24とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触し、上記の如き接触位置の違いは生じない。
【0053】
そのとき、上記変速装置AのHi状態の使用頻度はLo状態よりも大きいので、ベルト5の左右の接触面7b,7bの摩耗が済んだときには、そのベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度αが可動シーブ側溝側面24における内周部24b(小径側)のベルト溝面角度θ2に対応して小さくなる。そして、この状態でLo状態になったときには、そのベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの可動シーブ側溝側面24との接触位置がベルト5の下側(ベルト内面側)になる。つまり、ベルト5の摩耗が進行してもLo状態では可動シーブ側溝側面24との接触位置がベルト5の下側(ベルト内面側)になり、Lo状態でのスリップ防止を長期間に亘って維持することができる。
【0054】
さらに、上記従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周部24aと内周部24bとが円弧面24cで接続されているので、変速装置AがLo状態及びHi状態に変わったとき、このベルト溝4cにおいてベルト5の可動シーブ側溝側面24の外周部24a及び内周部24b間の移動をスムーズに行うことができる。
【0055】
尚、上記ベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周部24aと内周部24bとの接続部を円弧面24cとすることは必須ではないが、上記効果が得られる点で円弧面とするのが好ましい。
【0056】
(実施形態2)
図4は本発明の実施形態2を示し(尚、図1〜図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、従動プーリの可動シーブにおけるベルト溝面の断面形状を変えたものである。
【0057】
この実施形態においては、従動プーリ4のベルト溝4cにおける可動シーブ側溝側面24は、固定シーブ4a側に向かうように膨出する凸曲面で構成され、この可動シーブ側溝側面24の半径方向に沿った断面形状は、ベルト5が最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置P1と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置P2と、該両位置P1,P2を通る直線Lから該直線Lと直交する方向に所定距離dだけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置P3とを通る曲線形状とされている。
【0058】
そして、上記直線Lとベルトピッチラインの中間位置P3との間の距離dは、0.15mm以上でかつ0.6mm以下とされている。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0059】
したがって、この実施形態でも上記実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0060】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。ベルトとして上記実施形態と同様の構造のブロックベルトを用いた。そのベルト側面間の角度であるブロック角度(=2α)は26°、ベルト(ブロック)のピッチ幅(ピッチラインでのベルト幅)は25mm、ブロック間のピッチは3mm、ブロックの厚さは2.95mm、ベルトの周長は612mmである。各ブロックは、厚さ2mmの軽量高強度アルミニウム合金からなる補強材をフェノール樹脂中にインサート成形したものである。このベルトを、図5に示すような変速装置Aに巻き掛けて走行させた。この変速装置Aは、実施例及び比較例をなすもので、基本的に上記実施形態1と同様の構成のものであり、図3と同じ部分については同じ符号を付して説明する(図3参照)。その駆動プーリ3の外径は73.23mm、従動プーリ4の外径は124.49mm、軸間距離は148.5mmである。この駆動プーリ3及び従動プーリ4はそれぞれ軸台31,32に支持されている。駆動プーリ3の可動シーブ3bにDCモータ33を連結して、このモータ33の駆動により駆動プーリ3の開閉による変速動作(可動シーブ3bの軸方向の移動)を行うようにし、従動プーリ4の可動シーブ4bにはばね10とトルクカム機構14(図5では概略的に示す)とを設けてベルト5に張力を付与する構造とした。駆動プーリ3はモータ(図示せず)で回転駆動し、従動プーリ4の負荷もDCモータ(図示せず)によって加えた。
【0061】
そして、実施形態1と同様に、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の角度を外周部と内周部とで種々に異ならせたものを実施例1〜3及び比較例1〜3とした。実施例1〜3は、0.4°≦θ1−θ2≦1.4°のものであり、比較例1〜3は、θ1−θ2<0.4°又はθ1−θ2>1.4°のものである。
【0062】
また、実施形態2と同様に、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の凸曲面の突出量を種々に異ならせたものを実施例4,5及び比較例4,5とした。実施例4,5は、0.15mm≦d≦0.6mmのものであり、比較例4,5は、d<0.15mm又はd>0.6mmのものである。また、比較例6は従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24を凹曲面としたものである。さらに、比較例7は、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の角度を外周部と内周部とで同じにしたものである。その詳細を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(スリップ性試験)
上記実施例1〜5及び比較例1〜7について、スリップ性試験を行った。この試験では、駆動プーリ3を駆動トルク73N・mで回転させ、従動プーリ4の負荷も一定とした。そして、駆動プーリ3の軸台31と従動プーリ4の軸台32との間にロードセル34を介在させ、変速装置Aの速比(レシオ)を1.7に固定したLo状態で、ロードセル34によって発生軸荷重を測定し、それを記録計35で記録した。この発生軸荷重が小さいと、伝動に必要なベルト張力が小さいこととなり、耐スリップ性を評価することができる。
【0065】
ベルト5の走行の初期、24時間走行後、200時間走行後、走行終了後(後述の耐久試験の終了)の各測定結果を表2、図7及び図8に示す。尚、発生軸荷重は2500N以上が必要で、これを満たすものを「OK」とし、そうでないものを「NG」とした。
【0066】
【表2】
【0067】
この結果を見ると、実施例1〜5は発生軸荷重が2500N以上で、走行時の伝達トルクが高く維持されていることが判る。尚、比較例1〜7については、比較例5を除き、いずれも24時間走行を過ぎると、発生軸荷重を2500N以上にすることができない。
【0068】
(サイクリック耐久試験)
また、上記実施例1〜5及び比較例1〜7について、サイクリック耐久試験を行った。この試験では、駆動回転数を3600rpmとし、駆動トルクを50N・mとし、従動プーリ4の負荷も一定とし、ベルト温度を120℃とした条件で、図6に示すように、レシオ(従動プーリ4のベルト巻付け半径/駆動プーリ3のベルト巻付け半径)=1.7のLo状態からスタートして10秒間でレシオ=0.5のHi状態に増速し、このHi状態を5分間続けた後、5秒間で元のレシオ=1.7のLo状態に減速し、このLo状態を1分間続行させた。以上の6分15秒を1サイクルとし、50000サイクルまで継続させた。その結果を表3、図7及び図8に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
この結果によれば、実施例1〜5はいずれも、50000サイクルを継続した後もベルトのブロックの破損がなかった。これに対し、比較例の一部は50000サイクルに至るまでにブロックの破損が生じ、耐久性に問題があった。
【0071】
すなわち、以上の試験結果から、実施例1〜5は、走行時の伝達トルクの維持と耐久性との双方を良好に満たし得ることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、従動プーリ側に可動シーブの推力発生用のばねとトルクカム機構とを設けたベルト式無段変速装置に対し、トルクカム機構の効果を確保してベルトのスリップ発生を抑制できる点で極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る無段変速装置における従動プーリの要部を拡大して示す正面図である。
【図2】図2は、速比が変わったときに従動プーリのベルト溝面に対するベルト側面の接触位置を示す図である。
【図3】図3は、ベルト式無段変速装置を概略的に示す図である。
【図4】図4は、実施形態2を示す図1相当図である。
【図5】図5は、スリップ性試験及びサイクリック耐久試験のための装置を示す図である。
【図6】図6は、サイクリック耐久試験の変速パターンを示す図である。
【図7】図7は、実施例1〜3及び比較例1〜3の試験結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例4,5及び比較例4〜7の試験結果を示す図である。
【図9】図9は、トルクカム機構の作動を示す図である。
【図10】図10は、ベルト側面とプーリのベルト溝面との接触位置が異なった状態を示す図である。
【図11】図11は、可動シーブ側と固定シーブ側との伝動ピッチ半径が異なったときに両シーブ間で回転速度差が生じることを示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
A ベルト式無段変速装置
1 駆動軸
2 従動軸
3 駆動プーリ
3a 固定シーブ
3b 可動シーブ
3c ベルト溝
4 従動プーリ
4a 固定シーブ
4b 可動シーブ
4c ベルト溝
5 ブロックベルト(Vベルト)
α ベルト側面角度
10 ばね(付勢手段)
14 トルクカム機構
23 固定シーブ側溝側面
24 可動シーブ側溝側面
24a 外周部
24b 内周部
24c 円弧面
θ ベルト溝面角度
θ1 外周部のベルト溝面角度
θ2 内周部のベルト溝面角度
P1 外周位置
P2 内周位置
P3 中間位置
L 直線
d 距離
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速プーリ間にベルトを巻き付けたベルト式無段変速装置に関し、特に、従動プーリ側にトルクカム機構を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、これら駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトとを備え、各プーリの可動シーブを固定シーブに対し両プーリで逆方向に移動するように接離させてベルト巻付け半径を変化させ、駆動プーリのベルト巻付け半径を従動プーリのベルト巻付け半径よりも大きくすることで、速比(レシオ)が1未満の増速状態とする一方、駆動プーリのベルト巻付け半径を従動プーリのベルト巻付け半径よりも小さくすることで、速比が1を越えた減速状態とするようにしたベルト式無段変速装置は知られている。
【0003】
この種の無段変速装置として、例えば特許文献1に示されるように、プーリのベルト溝において、固定シーブ及び可動シーブがなす溝角度を、小径側(半径方向内側)ではVベルトの側面間のなすV角度と同一とし、大径側(半径方向外側)ではV角度よりも小さくする、換言すれば半径方向外側の溝角度を半径方向内側よりも小さくすることにより、ベルトの負荷により両シーブが互いに離隔するように撓んだとき、その撓みの大きい大径側にあっては撓みに伴って変化した溝角度をベルトのV角度に一致させ、撓みの殆どない小径側にあっては変化のない溝角度をベルトのV角度にそのまま一致させるようにして、ベルト溝の大径側及び小径側のいずれでもベルト側面とベルト溝側面とを正しく接触させ、伝達トルクの低下を防止することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2に示されるものでは、両シーブのプーリ中心線を含む断面におけるベルト溝側面の輪郭曲線を溝角度が連続して変化する凸曲線とすることにより、変速に伴ってベルトがベルト溝の大径側及び小径側で移動したときに芯ずれする(駆動及び従動プーリ間のミスアラインメントが生じる)のを低減し、ベルトの片当たりによる偏摩耗や騒音の発生を抑制するようになされている。
【0005】
また、この特許文献2には、プーリのベルト溝の両側面を、半径方向外側の溝角度が半径方向内側の溝角度よりも大きくなるように2段階にするとともに、ベルト溝の両側面をも、底面側(内周側)のV角度が背面側(外周側)よりも大きくなるように2段階にすることで、ベルトがベルト溝の半径方向外側にあるときには、ベルトの左右側面の底面側を、またベルト溝の半径方向内側にあるときには、ベルト左右側面の背面側をそれぞれ接触させて、上記と同様の目的を達成することが示されている。
【特許文献1】特開2002−70966号公報
【特許文献2】特開2002−31215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなベルト式無段変速装置において、従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付く側に移動させる推力を付与する推力付与機構として、可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢するばね等の付勢手段と、可動シーブが固定シーブに対し相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを組み合わせたものを用いることがある。
【0007】
上記トルクカム機構が設けられている従動プーリでは、その従動プーリの倒れや撓み等に起因するベルトの接触状態の差により、その可動シーブ側(トルクカム機構側)のベルト溝面におけるベルト接触位置と、固定シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なることがあり、その場合にはトルクカム機構の効果が有効に発揮されず、ベルト伝動に必要な推力が得られなくなってベルト張力が低下し、スリップが発生するという問題が生じる虞れがある。
【0008】
すなわち、図9に示すように、トルクカム機構14が、従動軸2と回転一体に設けられかつ回転方向進み側(円周方向の一方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第1カム面16、及び回転方向遅れ側(円周方向の他方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第2カム面17を有するカムプレート15と、可動シーブ4b背面に回転一体に固定され、上記カムプレート15の第1カム面16に接触可能な第1カム部20、及び第2カム面17に接触可能な第2カム部21を有するカムフォロワ19とを備えたものであるとすると、図9(a)に示す如く、従動プーリ4に負荷が加わっていない状態では、その可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する相対回転が生じないので、カムプレート15の2つのカム面16,17はいずれもカムフォロワ19のカム部20,21に接触せず、トルクカム機構14は非作動状態で、可動シーブ4bが付勢手段としてのばね10のみでベルト5を押圧している状態となる。
【0009】
また、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態では、図9(b)に示すように、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し進み側に相対回転するので、その可動シーブ4bにおけるカムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面16に接触し、可動シーブ4bが固定シーブ4a側に押されてばね10(付勢手段)と共にベルト5を押圧している状態となり、トルクカム機構14が作動状態となる。
【0010】
一方、負荷が従動プーリ4から駆動プーリ3に伝動されている逆負荷状態では、図9(c)に示すように、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転するので、その可動シーブ4bにおけるカムフォロワ19の第2カム部21がカムプレート15の第2カム面17に接触し、可動シーブ4bが固定シーブ4a側に押されてばね10と共にベルト5を押圧している状態となり、トルクカム機構14が作動状態となる。
【0011】
そして、上記正負荷状態において、従動プーリの倒れや撓み等により、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)のベルト溝側面におけるベルト接触位置と、固定シーブ4a側のベルト溝側面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なり、図10(a)に示すように(尚、図10は、説明のために、ベルト5の可動シーブ4b側及び固定シーブ4a側のベルト溝側面でベルト接触位置が異なる状態を強調して示している)、ベルト5が可動シーブ4b側のベルト溝側面には下部で、また固定シーブ4a側のベルト溝側面には上部でそれぞれ接触して、可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径R1が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径R2よりも小さくなると(R1<R2)、図11に示す如く、可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する速度差が大きくなって、可動シーブ4bが回転方向進み側にさらに相対回転し、その分、カムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面16上をさらに進み側に進んで、トルクカム機構14による推力が増大する。つまり、この場合はトルクカム機構14の効果が促進されるので、問題はない。
【0012】
しかし、図10(b)に示すように、ベルト5が可動シーブ4b側のベルト溝面には上部で、また固定シーブ4a側のベルト溝面には下部でそれぞれ接触して、可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径R1が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径R2よりも大きくなると(R1>R2)、図11に示す如く、可動シーブ4bの固定シーブ4aに対する速度差が小さくなって、上記逆負荷状態と同様に可動シーブ4bが回転方向遅れ側にさらに相対回転し、その分、カムフォロワ19の第1カム部20がカムプレート15の第1カム面17上を遅れ側に進んで、トルクカム機構14による推力が減少する。つまり、この場合、トルクカム機構14のカム効果が減少されることとなり、ベルト伝動に必要な推力が不足してスリップが発生する。図11の3は駆動プーリである。
【0013】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記の如く、従動プーリにその可動シーブを付勢する付勢手段とトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、その従動プーリにおけるベルト溝面の傾斜角度に改良を加えることにより、負荷が駆動プーリから従動プーリに伝動されている正負荷状態で、可動シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置と、固定シーブ側のベルト溝面におけるベルト接触位置とが半径方向で異なった場合でも、トルクカム効果が有効に発揮されなくなるのを防止し、ベルトのスリップの発生を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、この発明では、変速装置がLo側にあって、従動プーリにおけるベルトがスリップの起こし易い大径側にあるときの可動シーブ側のベルト溝側面の角度を大きくする一方、変速装置がHi側にあって、従動プーリにおけるベルトがスリップの影響の小さい小径側にあるときのベルト溝側面の角度は小さくすることにより、従動プーリの倒れや撓み等に起因するベルトの接触状態の差があってもトルクカム機構の機能が最大限に発揮されるようにした。
【0015】
具体的には、請求項1の発明では、固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、これら駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置が前提である。
【0016】
そして、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比(レシオ)が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度よりも大きく、上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴としている。
【0017】
また、請求項2の発明では、上記請求項1の発明と同様の前提のベルト式無段変速装置において、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、上記ベルト側面の上記直交平面に対するベルト側面角度よりも大きく、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度が上記ベルト側面の角度よりも小さく、上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とする。
【0018】
これら発明の上記構成によると、従動プーリのベルト溝の大径側にベルトが位置している、変速装置のLo状態では、大きな負荷トルクが従動プーリに作用するためにスリップ発生の可能性が高くなるが、この従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周側(大径側)のベルト溝面角度が内周側(小径側)のベルト溝面角度よりも大きいので、そのベルト側面においてベルト溝側面との接触位置が常にベルト下側(ベルト内周側)になってベルト側面がベルト溝側面の小径側で接触し、可動シーブ側(トルクカム機構側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも小さくなる。このため、負荷が駆動プーリから従動プーリに伝動されている正負荷状態で、可動シーブの回転速度が速くなって固定シーブに対し進み側に相対回転し、可動シーブ側の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも大きくなることにより可動シーブの回転速度が遅くなって固定シーブに対し遅れ側に相対回転することは防止され、トルクカム機構を作動させてその効果を得ることができ、ベルトのスリップの発生を防止することができる。
【0019】
一方、変速装置のHi状態では、従動プーリのベルト溝の内周側(小径側)にベルトが位置し、この従動プーリの可動シーブのベルト溝面における内周側(小径側)のベルト溝面角度が外周側(大径側)のベルト溝面角度よりも小さいので、ベルト側面においてベルト溝側面との接触位置が常にベルト上側(ベルト外周側)になってベルト側面がベルト溝側面の大径側で接触し、可動シーブ側(トルクカム機構側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ側の伝動ピッチ半径よりも大きくなり、可動シーブの回転速度が遅くなって固定シーブに対し遅れ側に相対回転し、トルクカム機構の効果が低下する。しかし、この変速装置のHi状態では、元々伝達トルクが小さく、しかも付勢手段により付与される推力が大きいので、スリップ発生についての問題は生じない。
【0020】
そして、変速装置のHi状態の使用頻度はLo状態よりも高いので、ベルト側面の摩耗が進んだときには、そのベルト側面の角度が可動シーブのベルト溝面における内周側(小径側)のベルト溝面角度に対応して小さくなる。この状態では、変速装置がLo状態になったときにベルト側面においてベルト溝側面との接触位置がベルト下側(ベルト内周側)になる。つまり、ベルトの摩耗が進行してもLo状態ではベルト溝面との接触位置がベルト下側(ベルト内周側)になる。よってLo状態でのスリップ防止を長期間に亘って維持することができる。
【0021】
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は、0.4°未満では、上記した発明の効果が期待できない一方、1.4°を越えると、ベルトのスリップ性に対する効果があるものの、ベルトの片当たりが強くなってその寿命が低下するので、0.4°以上でかつ1.4°以下とされている。
【0022】
請求項3の発明では、上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とが円弧面で接続されている構成とする。
【0023】
このことで、従動プーリのベルト溝において、変速装置がLo状態及びHi状態に変わったときベルトの外周部及び内周部間の移動をスムーズに行うことができる。
【0024】
請求項4の発明では、上記請求項1の発明と同様の前提のベルト式無段変速装置において、上記従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面は、固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成されていて、その可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状は、ベルトが最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、該両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインが位置する中間位置とを通る曲線形状とされ、上記直線と中間位置との距離は、0.15mm以上でかつ0.6mm以下であることを特徴とする。この発明においても、上記請求項1〜3の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
上記直線と中間位置との距離は、0.15mm未満では、発明の効果が期待できない一方、0.6mmを越えると、ベルトのスリップ性に対する効果があるものの、ベルトの片当たりが強くなってその寿命が低下するので、0.15mm以上でかつ0.6mm以下とされている。
【0026】
請求項5の発明では、Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合してなるブロックベルトとする。こうすれば、本発明の効果が有効に発揮される最適なVベルトが得られる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、請求項1の発明では、従動プーリに、その可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを設けたベルト式無段変速装置において、可動シーブのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、半径方向外側にある外周部のベルト溝面角度を、内周部のベルト溝面角度よりも大きくし、その外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は0.4°以上でかつ1.4°以下とした。また、請求項2の発明では、可動シーブのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、外周部のベルト溝面角度をベルト側面の角度よりも大きくし、内周部のベルト溝面角度をベルト側面の角度よりも小さくし、その外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差は0.4°以上でかつ1.4°以下とした。さらに、請求項4の発明では、従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状を、ベルトの最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、これら両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置とを通る曲線形状として、その可動シーブ側溝側面を固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成し、外周及び内周位置を通る直線と、速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置との距離を0.15mm以上でかつ0.6mm以下とした。従って、これらの発明によると、ベルト側面が摩耗しても、変速装置がLo状態にあるときのトルクカム機構の効果を有効に発揮させて推力を確保し、ベルトのスリップの発生を確実に防止することができる。
【0028】
また、請求項3の発明によると、従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とを円弧面で接続したことにより、従動プーリのベルト溝において、変速装置がLo状態及びHi状態に変わったときベルトの外周部及び内周部間の移動をスムーズに行うことができる。
【0029】
請求項5の発明によると、Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合したブロックベルトとしたことにより、本発明の効果が有効に発揮される最適なVベルトが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0031】
(実施形態1)
図3は本発明の実施形態1に係るベルト式無段変速装置Aの全体構成を概略的に示し、このベルト式無段変速装置Aは、例えば、車両のエンジン等の動力源と駆動車輪等の被駆動装置(いずれも図示せず)の間のトルク伝達経路に配置されて、動力源のトルクを被駆動装置に伝達しつつ速比を変化させるために使用される。
【0032】
上記ベルト式無段変速装置Aは、動力源に駆動連結される駆動軸1と、この駆動軸1に平行に配置されていて、被駆動装置に連結される従動軸2とを備え、駆動軸1に変速プーリからなる駆動プーリ3が、また従動軸2に同様の従動プーリ4がそれぞれ設けられている。
【0033】
上記駆動プーリ3は、駆動軸1に回転一体にかつ軸方向(図3の左右方向)に移動不能に設けられた固定シーブ3aと、駆動軸1に回転一体にかつ軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ3bとからなる。これら固定シーブ3a及び可動シーブ3b間には断面V字状のベルト溝3cが形成されている。そして、固定シーブ3aに対し、可動シーブ3bが接近する方向(同図の左方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径(プーリ径)が大きくなる一方、可動シーブ3bが離隔する方向(同図の右方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が小さくなる。
【0034】
上記従動プーリ4も、駆動プーリ3と同様に、従動軸2に回転一体にかつ軸方向に移動不能に設けられた固定シーブ4aと、従動軸2に回転可能にかつ軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ4bとからなっている。これら固定シーブ4a及び可動シーブ4b間には、駆動プーリ3と同様の断面V字状のベルト溝4cが形成されている。そして、固定シーブ4aに対し、可動シーブ4bが接近する方向(図3の右方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が大きくなる一方、可動シーブ4bが離隔する方向(同図の左方向)に移動することにより、ベルト巻付け半径が小さくなる。但し、上記駆動プーリ3及び従動プーリ4の固定シーブ3a,4aと可動シーブ3b,4bとの配置は軸方向に互いに逆になっている。
【0035】
上記駆動プーリ3のベルト溝3cと従動プーリ4のベルト溝4cとの間には、高負荷伝動用Vベルトとしてのブロックベルト5が巻き掛けられている。このブロックベルト5は、断面略V字状のもので、図2に示すように、ベルト幅方向(同図の左右方向)に並ぶように配置されかつ心線6aが埋め込まれた1対の張力帯6,6と、ベルト長さ方向に所定ピッチで配置されていて、両張力帯6,6に係止固定された複数のブロック7,7,…とからなる。
【0036】
上記各ブロック7のベルト幅方向両側部には、それぞれベルト幅方向側方に開放されたスリット状をなす嵌合部7a,7aが上下ビーム間に形成され、この左右の嵌合部7a,7aにそれぞれ張力帯6,6が嵌め込まれており、このことで各ブロック7は張力帯6,6に係止固定されている。
【0037】
また、各ブロック7のベルト幅方向両側面(各嵌合部7aを除く部分)は、それぞれ各プーリ3,4のベルト溝3c,4cの溝側面23,24に接触する接触面7b,7bとなっている。
【0038】
各ブロック7は、図示しないが、例えばフェノール系樹脂材料と、このフェノール系樹脂材料に埋設されるように配置されたアルミニウム合金製の補強材とからなる。
【0039】
そして、変速装置Aの速比(レシオ)を変えるために、駆動プーリ3をその可動シーブ3bが固定シーブ3aに対し接離するように開閉する変速機構(図示せず)が設けられている。一方、従動プーリ4には、可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように常時付勢する付勢手段としてのばね10が設けられており、上記変速機構による駆動プーリ3の開閉に応じて従動プーリ4を駆動プーリ3と逆の方向に開閉し、駆動プーリ3を開いたときに、従動プーリ4をばね10の付勢力によって閉じる一方、駆動プーリ3を閉じたときに、従動プーリ4をばね10の付勢力に抗して開くことにより、駆動プーリ3及び従動プーリ4の各ベルト巻付け半径を変えてLo状態とHi状態との間で変速するようになっている。
【0040】
上記ばね10は、例えば従動軸2周りに配置されたコイルばねからなり、従動プーリ4において可動シーブ4bの背面側、つまり固定シーブ4aと反対側に設けられている。すなわち、上記可動シーブ4bの背面側の従動軸2上にはばね止め11が回転一体にかつ軸方向に移動不能に取り付けられ、このばね止め11と可動シーブ4bの背面との間にばね10が縮装されており、このばね10の伸張力により、可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように常時付勢し、その推力によってベルト張力を付与するようにしている。
【0041】
また、このばね10の他に、従動プーリ4の可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し相対回転したときに可動シーブ4bを固定シーブ4aに近付くように押圧するトルクカム機構14が設けられている。このトルクカム機構14は、上記ばね止め11の可動シーブ4b側の部分に一体的に設けられたカムプレート15を備えている。このカムプレート15は、例えば従動軸2の周りに同心状に配置された円筒状のもので、その可動シーブ4bに対向する端部は略V字状に切り欠かれており、その切欠部分により、回転方向進み側(円周方向の一方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第1カム面16と、回転方向遅れ側(円周方向の他方)に向かって可動シーブ4b側に向かう方向に傾斜する第2カム面17とが形成されている。
【0042】
一方、可動シーブ4bの背面にはカムフォロワ19が一体に突設されている。このカムフォロワ19の先端部は上記カムフレート15の切欠部分内に位置し、その回転方向進み側(円周方向の一方)にカムプレート15の第1カム面16に接触可能な第1カム部20が、また回転方向遅れ側(円周方向の他方)に第2カム面17に接触可能な第2カム部21がそれぞれ設けられている。
【0043】
そして、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態で、従動プーリ4の可動シーブ4bが固定シーブ4aよりも進み側に相対回転したときには、トルクカム機構14を作動状態として、その可動シーブ4bと一体のカムフォロワ19の第1カム部20をカムプレート15の第1カム面16に接触させ、このカム接触により可動シーブ4bを固定シーブ4a側に押して、ばね10の付勢力と共に推力を得る一方、負荷が従動プーリ4から駆動プーリ3に伝動されている逆負荷状態で、可動シーブ4bが固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転したときにも、トルクカム機構14を作動状態として、そのカムフォロワ19の第2カム部21をカムプレート15の第2カム面17に接触させ、このカム接触により可動シーブ4bを固定シーブ4a側に押して、ばね10の付勢力と共に推力を得るようにしている。
【0044】
本発明の特徴として、上記従動プーリ4のベルト溝4cにおいて、固定シーブ4a側にある固定シーブ側溝側面23の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対する角度θは、上記ベルト5の側面であるブロック7の接触面7bの同角度αと同じであるが(θ=α。例えば13°)、可動シーブ4b側にある可動シーブ側溝側面24の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対する角度θ1,θ2は、外周側(大径側)と内周側(小径側)とで異なっている。すなわち、図1に拡大して示すように、この可動シーブ側溝側面24のうち、変速装置Aの速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置(ベルト5における張力帯6の心線6aの位置)よりも半径方向外側にある外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1はベルト側面の角度αよりも大きく、半径方向内側にある内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2はベルト側面の角度αりも小さく形成されている(θ1>α>θ2)。換言すれば、上記外周部24aの、プーリ回転軸線と直交する平面に対するベルト溝面角度θ1は、内周部24bの上記ベルト溝面角度θ2よりも大に設定されている。
【0045】
この従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24aのベルト溝面角度θ1と内周部24bのベルト溝面角度θ2との差θ1−θ2は0.4°以上でかつ1.4°以下とされている。この角度差が0.4°未満では、後述する実施形態の効果が期待できない一方、1.4°を越えると、ブロックベルト5のスリップ性に対する効果があるものの、そのベルト5におけるブロック7の上又は下ビームの片当たりが強くなってブロック7延いてはベルト5の寿命が低下するので、0.4°〜1.4°が好ましい。
【0046】
また、上記ベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24aと内周部24bとは円弧面24cで接続されている。
【0047】
次に、上記実施形態の作用について説明する。無段変速装置Aは変速機構によってLo状態及びHi状態の間で切り換えられて変速される。変速装置AがLo状態にあるときには、駆動プーリ3が開いて、その可動シーブ3bが固定シーブ3aから離隔する方向(図3の右方向)に移動し、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が小さくなり、ベルト張力が低下しようとする。また、従動プーリ4の可動シーブ4bはばね10によって固定シーブ4a側に押圧付勢されているので、このばね10の付勢力により可動シーブ4bが上記ベルト張力の低下を補うように固定シーブ4aに接近する方向(図3の右方向)に移動する。このことにより、従動プーリ4が閉じてそのベルト巻付け半径が増大し、このベルト巻付け半径の増大によりベルト5が従動プーリ4側に引き寄せられ、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4よりも小さくなり、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が減速されて従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0048】
一方、変速装置AがHi状態にあるときには、駆動プーリ3が閉じ、その可動シーブ3bが固定シーブ3aに接近する方向(図3の左方向)に移動し、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が大きくなり、ベルト張力が増大しようとする。また、このベルト張力の増大に伴い、従動プーリ4の可動シーブ4bがばね10の付勢力に抗して固定シーブ4aから離れる方向(図3の左方向)に移動する。このことで、従動プーリ4のベルト巻付け半径が小さくなり、ベルト5が駆動プーリ3側に引き寄せられ、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4よりも大きくなり、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が増速されて従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0049】
また、上記Lo状態及びHi状態の間には速比1.0になる等速状態があり、駆動プーリ3のベルト巻付け半径が従動プーリ4と同じになって、駆動プーリ3(駆動軸1)の回転が等速で従動プーリ4(従動軸2)に伝達される。
【0050】
上記変速装置AのLo状態では、従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周側(大径側)にベルト5が位置しており、大きな負荷トルクが従動プーリ4に作用することで、ベルト5のスリップ発生の可能性が高くなる。しかし、この実施形態では、従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における外周部24a(大径側)のベルト溝面角度θ1がベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度α(可動シーブ側溝側面24の内周部24b(小径側)のベルト溝面角度θ2)よりも大きいので、図2(上側の仮想線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)はベルト溝4cの固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置(張力帯6の心線6aの位置)、つまりベルト5の上下略中央位置で接触するのに対し、ベルト5の可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)は可動シーブ側溝側面24の外周部24bとベルトピッチラインよりも下側の位置、つまりベルト5の下部で接触し、このベルト5の接触位置の違いによって、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも小さくなる。このため、負荷が駆動プーリ3から従動プーリ4に伝動されている正負荷状態で、従動プーリ4における可動シーブ4bの回転速度が速くなって固定シーブ4aに対し進み側に相対回転し、逆に可動シーブ4b側の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも大きくなることによって可動シーブ4bの回転速度が遅くなって固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転することは防止され、トルクカム機構14のカムフォロワ19における第1カム部21をカムプレート15の第1カム面16上で進み側に移動させて、トルクカム効果を高めることができる。よって、トルクカム機構14を適正に作動させて推力を高め、ベルト5のスリップの発生を防止することができる。
【0051】
一方、上記変速装置AのHi状態では、従動プーリ4のベルト溝4cの内周側(小径側)にベルト5が位置するが、このベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24における内周部(小径側)のベルト溝面角度θ2がベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度α(可動シーブ側溝側面24の外周部24a(大径側)のベルト溝面角度θ1)よりも小さいので、図2(下側の仮想線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)は固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触するのに対し、ベルト5の可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)は可動シーブ側溝側面24の内周部24b(小径部)と、上記Hi状態とは逆に、ベルトピッチラインよりも上側の位置、つまりベルト5の上部で接触し、この接触位置の違いによって、可動シーブ4b側(トルクカム機構14側)の伝動ピッチ半径が固定シーブ4a側の伝動ピッチ半径よりも大きくなり、可動シーブ4bの回転速度が遅くなって固定シーブ4aに対し遅れ側に相対回転し、トルクカム機構14の効果が低下する。しかし、この変速装置AのHi状態では、伝達トルクが小さく、しかもばね10により付与される推力が大きいので、スリップ発生についての問題は生じない。
【0052】
尚、変速装置Aの等速状態では、図2(実線)に示すように、ベルト5の固定シーブ4a側の接触面7b(ベルト側面)は固定シーブ側溝側面23とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触し、可動シーブ4b側の接触面7b(ベルト側面)も可動シーブ側溝側面24とベルトピッチラインの位置、つまりベルト5の上下略中央位置で接触し、上記の如き接触位置の違いは生じない。
【0053】
そのとき、上記変速装置AのHi状態の使用頻度はLo状態よりも大きいので、ベルト5の左右の接触面7b,7bの摩耗が済んだときには、そのベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの角度αが可動シーブ側溝側面24における内周部24b(小径側)のベルト溝面角度θ2に対応して小さくなる。そして、この状態でLo状態になったときには、そのベルト5の可動シーブ4b側の接触面7bの可動シーブ側溝側面24との接触位置がベルト5の下側(ベルト内面側)になる。つまり、ベルト5の摩耗が進行してもLo状態では可動シーブ側溝側面24との接触位置がベルト5の下側(ベルト内面側)になり、Lo状態でのスリップ防止を長期間に亘って維持することができる。
【0054】
さらに、上記従動プーリ4のベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周部24aと内周部24bとが円弧面24cで接続されているので、変速装置AがLo状態及びHi状態に変わったとき、このベルト溝4cにおいてベルト5の可動シーブ側溝側面24の外周部24a及び内周部24b間の移動をスムーズに行うことができる。
【0055】
尚、上記ベルト溝4cの可動シーブ側溝側面24の外周部24aと内周部24bとの接続部を円弧面24cとすることは必須ではないが、上記効果が得られる点で円弧面とするのが好ましい。
【0056】
(実施形態2)
図4は本発明の実施形態2を示し(尚、図1〜図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する)、従動プーリの可動シーブにおけるベルト溝面の断面形状を変えたものである。
【0057】
この実施形態においては、従動プーリ4のベルト溝4cにおける可動シーブ側溝側面24は、固定シーブ4a側に向かうように膨出する凸曲面で構成され、この可動シーブ側溝側面24の半径方向に沿った断面形状は、ベルト5が最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置P1と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置P2と、該両位置P1,P2を通る直線Lから該直線Lと直交する方向に所定距離dだけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインの中間位置P3とを通る曲線形状とされている。
【0058】
そして、上記直線Lとベルトピッチラインの中間位置P3との間の距離dは、0.15mm以上でかつ0.6mm以下とされている。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0059】
したがって、この実施形態でも上記実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0060】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。ベルトとして上記実施形態と同様の構造のブロックベルトを用いた。そのベルト側面間の角度であるブロック角度(=2α)は26°、ベルト(ブロック)のピッチ幅(ピッチラインでのベルト幅)は25mm、ブロック間のピッチは3mm、ブロックの厚さは2.95mm、ベルトの周長は612mmである。各ブロックは、厚さ2mmの軽量高強度アルミニウム合金からなる補強材をフェノール樹脂中にインサート成形したものである。このベルトを、図5に示すような変速装置Aに巻き掛けて走行させた。この変速装置Aは、実施例及び比較例をなすもので、基本的に上記実施形態1と同様の構成のものであり、図3と同じ部分については同じ符号を付して説明する(図3参照)。その駆動プーリ3の外径は73.23mm、従動プーリ4の外径は124.49mm、軸間距離は148.5mmである。この駆動プーリ3及び従動プーリ4はそれぞれ軸台31,32に支持されている。駆動プーリ3の可動シーブ3bにDCモータ33を連結して、このモータ33の駆動により駆動プーリ3の開閉による変速動作(可動シーブ3bの軸方向の移動)を行うようにし、従動プーリ4の可動シーブ4bにはばね10とトルクカム機構14(図5では概略的に示す)とを設けてベルト5に張力を付与する構造とした。駆動プーリ3はモータ(図示せず)で回転駆動し、従動プーリ4の負荷もDCモータ(図示せず)によって加えた。
【0061】
そして、実施形態1と同様に、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の角度を外周部と内周部とで種々に異ならせたものを実施例1〜3及び比較例1〜3とした。実施例1〜3は、0.4°≦θ1−θ2≦1.4°のものであり、比較例1〜3は、θ1−θ2<0.4°又はθ1−θ2>1.4°のものである。
【0062】
また、実施形態2と同様に、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の凸曲面の突出量を種々に異ならせたものを実施例4,5及び比較例4,5とした。実施例4,5は、0.15mm≦d≦0.6mmのものであり、比較例4,5は、d<0.15mm又はd>0.6mmのものである。また、比較例6は従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24を凹曲面としたものである。さらに、比較例7は、従動プーリ4の可動シーブ側溝側面24の角度を外周部と内周部とで同じにしたものである。その詳細を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(スリップ性試験)
上記実施例1〜5及び比較例1〜7について、スリップ性試験を行った。この試験では、駆動プーリ3を駆動トルク73N・mで回転させ、従動プーリ4の負荷も一定とした。そして、駆動プーリ3の軸台31と従動プーリ4の軸台32との間にロードセル34を介在させ、変速装置Aの速比(レシオ)を1.7に固定したLo状態で、ロードセル34によって発生軸荷重を測定し、それを記録計35で記録した。この発生軸荷重が小さいと、伝動に必要なベルト張力が小さいこととなり、耐スリップ性を評価することができる。
【0065】
ベルト5の走行の初期、24時間走行後、200時間走行後、走行終了後(後述の耐久試験の終了)の各測定結果を表2、図7及び図8に示す。尚、発生軸荷重は2500N以上が必要で、これを満たすものを「OK」とし、そうでないものを「NG」とした。
【0066】
【表2】
【0067】
この結果を見ると、実施例1〜5は発生軸荷重が2500N以上で、走行時の伝達トルクが高く維持されていることが判る。尚、比較例1〜7については、比較例5を除き、いずれも24時間走行を過ぎると、発生軸荷重を2500N以上にすることができない。
【0068】
(サイクリック耐久試験)
また、上記実施例1〜5及び比較例1〜7について、サイクリック耐久試験を行った。この試験では、駆動回転数を3600rpmとし、駆動トルクを50N・mとし、従動プーリ4の負荷も一定とし、ベルト温度を120℃とした条件で、図6に示すように、レシオ(従動プーリ4のベルト巻付け半径/駆動プーリ3のベルト巻付け半径)=1.7のLo状態からスタートして10秒間でレシオ=0.5のHi状態に増速し、このHi状態を5分間続けた後、5秒間で元のレシオ=1.7のLo状態に減速し、このLo状態を1分間続行させた。以上の6分15秒を1サイクルとし、50000サイクルまで継続させた。その結果を表3、図7及び図8に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
この結果によれば、実施例1〜5はいずれも、50000サイクルを継続した後もベルトのブロックの破損がなかった。これに対し、比較例の一部は50000サイクルに至るまでにブロックの破損が生じ、耐久性に問題があった。
【0071】
すなわち、以上の試験結果から、実施例1〜5は、走行時の伝達トルクの維持と耐久性との双方を良好に満たし得ることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、従動プーリ側に可動シーブの推力発生用のばねとトルクカム機構とを設けたベルト式無段変速装置に対し、トルクカム機構の効果を確保してベルトのスリップ発生を抑制できる点で極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る無段変速装置における従動プーリの要部を拡大して示す正面図である。
【図2】図2は、速比が変わったときに従動プーリのベルト溝面に対するベルト側面の接触位置を示す図である。
【図3】図3は、ベルト式無段変速装置を概略的に示す図である。
【図4】図4は、実施形態2を示す図1相当図である。
【図5】図5は、スリップ性試験及びサイクリック耐久試験のための装置を示す図である。
【図6】図6は、サイクリック耐久試験の変速パターンを示す図である。
【図7】図7は、実施例1〜3及び比較例1〜3の試験結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例4,5及び比較例4〜7の試験結果を示す図である。
【図9】図9は、トルクカム機構の作動を示す図である。
【図10】図10は、ベルト側面とプーリのベルト溝面との接触位置が異なった状態を示す図である。
【図11】図11は、可動シーブ側と固定シーブ側との伝動ピッチ半径が異なったときに両シーブ間で回転速度差が生じることを示す説明図である。
【符号の説明】
【0074】
A ベルト式無段変速装置
1 駆動軸
2 従動軸
3 駆動プーリ
3a 固定シーブ
3b 可動シーブ
3c ベルト溝
4 従動プーリ
4a 固定シーブ
4b 可動シーブ
4c ベルト溝
5 ブロックベルト(Vベルト)
α ベルト側面角度
10 ばね(付勢手段)
14 トルクカム機構
23 固定シーブ側溝側面
24 可動シーブ側溝側面
24a 外周部
24b 内周部
24c 円弧面
θ ベルト溝面角度
θ1 外周部のベルト溝面角度
θ2 内周部のベルト溝面角度
P1 外周位置
P2 内周位置
P3 中間位置
L 直線
d 距離
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度よりも大きく、
上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項2】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、上記ベルト側面の上記直交平面に対するベルト側面角度よりも大きく、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度が上記ベルト側面の角度よりも小さく、
上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項3】
請求項1又は2のベルト式無段変速装置において、
従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とが円弧面で接続されていることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項4】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面は、固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成されていて、
上記可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状は、ベルトが最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、該両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインが位置する中間位置とを通る曲線形状とされ、
上記直線と中間位置との距離は、0.15mm以上でかつ0.6mm以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つのベルト式無段変速装置において、
Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合してなるブロックベルトであることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項1】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度よりも大きく、
上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項2】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面のうち、速比が1.0になるときのベルトピッチラインの位置よりも半径方向外側にある外周部の、プーリ回転軸線と直交する直交平面に対するベルト溝面角度が、上記ベルト側面の上記直交平面に対するベルト側面角度よりも大きく、半径方向内側にある内周部のベルト溝面角度が上記ベルト側面の角度よりも小さく、
上記外周部のベルト溝面角度と内周部のベルト溝面角度との差が0.4°以上でかつ1.4°以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項3】
請求項1又は2のベルト式無段変速装置において、
従動プーリのベルト溝の可動シーブ側溝側面における外周部と内周部とが円弧面で接続されていることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項4】
固定及び可動シーブ間に断面V字状のベルト溝が形成された変速プーリからなる駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝に巻き掛けられたVベルトと、
上記従動プーリの可動シーブを固定シーブに近付くように常時付勢する付勢手段と、
上記従動プーリの可動シーブが固定シーブに対し回転方向進み側に相対回転したときに該可動シーブを固定シーブに近付くように押圧するトルクカム機構とを備えたベルト式無段変速装置において、
上記従動プーリのベルト溝における可動シーブ側溝側面は、固定シーブ側に向かうように膨出する凸曲面で構成されていて、
上記可動シーブ側溝側面の半径方向に沿った断面形状は、ベルトが最大巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する外周位置と、最小巻付け半径になるときにベルトピッチラインが位置する内周位置と、該両位置を通る直線から該直線と直交する方向に所定距離だけ離れかつ速比が1.0となるときのベルトピッチラインが位置する中間位置とを通る曲線形状とされ、
上記直線と中間位置との距離は、0.15mm以上でかつ0.6mm以下であることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つのベルト式無段変速装置において、
Vベルトは、張力帯に多数のブロックを係合してなるブロックベルトであることを特徴とするベルト式無段変速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−63048(P2009−63048A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230444(P2007−230444)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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