説明

ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法

【課題】夜間頻尿及び/又は尿崩症の治療又は予防剤として有用な、バソプレシンV2受容体を選択的に刺激する4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法の提供。
【解決手段】カルボン酸誘導体とアミン化合物とを縮合する工程を含む、4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊に中枢性尿崩症、夜間頻尿治療薬として有用な4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギニンバソプレシン(AVP)は、視床下部−下垂体系にて生合成・分泌される9個のアミノ酸からなるペプチドである。AVPの受容体は、V1a、V1b及びV2の3種類のサブタイプに分類され、末梢におけるAVPの主な薬理作用にはV1a受容体を介する血管収縮作用と、V2受容体を介する抗利尿作用が知られている。V2受容体選択的作動薬としてはペプチドであるデスモプレシン(AVPの1位のシステインのアミノ基を削除し、8位のアルギニンをd型に変換したもの)が合成されており、中枢性尿崩症の治療に用いられている(非特許文献1)。しかしながら、デスモプレシンの経口剤は生物学的利用率が非常に低く、効果を得るためには高い用量が必要である。このため、デスモプレシン製剤は高価であり、また個体間の吸収のばらつきに基づく副作用の発生がしばしば認められる。従って、V2受容体を選択的に刺激する、生物学的利用率の高い非ペプチド性の抗利尿薬の開発が期待されている。
【0003】
一方、医療の多様化、高齢化に伴い、薬物が単独で使用されることの方が稀となり、多くの場合は複数の薬物が同時に、あるいは時間をずらして投与されている。これはAVP受容体作動薬の分野でも同様である。薬物は、肝臓において薬物代謝酵素の作用を受けて不活性化され、代謝産物へと変換されるが、この薬物代謝酵素の中でも最も重要であるのがチトクロームP450(CYP)である。CYPには多数の分子種が存在するが、同じ分子種のCYPにより代謝される複数の薬物がその代謝酵素上で競合すると、その薬物のCYPへの親和性により異なるものの、何らかの代謝阻害を受けることが考えられる。その結果、血中濃度上昇や血中半減期延長等の薬物相互作用が発現する。
このような薬物相互作用は、相加作用、相乗作用を意図して使用される場合を除き好ましくない作用であり、予期せぬ副作用を呈する場合がある。従って、CYPに対する親和性が低く、薬物相互作用の懸念の小さい医薬の創製が望まれている。
【0004】
従来、V2受容体選択的作動薬であり、抗利尿作用を示す非ペプチド性化合物としては、一般式(A)、一般式(B)又は一般式(C)で示される3環性化合物が知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【化6】

(式中の記号は、該公報参照)
また、V2受容体選択的作動薬として、一般式(D)で示される縮合アゼピン誘導体が知られている(特許文献4)。
【化7】

(式中の記号は、該公報参照)
また、一般式(E)で示されるベンゾアゼピン誘導体(特許文献5、特許文献6)、及び一般式(F)又は一般式(G)で示されるベンゾへテロ環化合物(特許文献7、特許文献8、特許文献9)がV2受容体選択的作動薬として知られている。
【化8】

(式中の記号は、該公報参照)
しかし、いずれの公報にも本発明の製造法の目的化合物に係る4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体に関する開示は一切ない。
また、AVP受容体又はオキシトシン受容体に対する拮抗作用を有する、4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体が知られているが、V2受容体作動作用並びに中枢性尿崩症及び夜間頻尿との関連については一切知られていない(特許文献10、特許文献11、特許文献12)。なお、特許文献10及び特許文献12には、本発明の製造法の目的化合物に係るベンゾアゼピン1位に置換するベンゾイル2位にCF3、若しくはハロゲンが置換した4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体についての開示はない。また、特許文献11には、ベンゾアゼピン1位に置換するカルボニルに結合したヘテロアリール基に、直接芳香環が結合した化合物のみが開示されており、本発明に係るベンゾアゼピン1位に置換するカルボニルに結合した環に-O-、-S-、-NH-、若しくは-N(低級アルキル)-を含む置換基を有する4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体については開示がない。
【0005】
なお、本発明の製造法の目的物に係る4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩は、例えば、本特許出願出願人による日本国特許出願出願番号特願2004-130664に記載されている。
【非特許文献1】日本内分泌学会雑誌, 54, 676-691, 1978.
【特許文献1】国際公開第99/06409号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/06403号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/46224号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/49682号パンフレット
【特許文献5】国際公開第97/22591号パンフレット
【特許文献6】日本国特許第2926335号公報
【特許文献7】日本国特許第3215910号公報
【特許文献8】日本国特許出願公開特開平11-349570号公報
【特許文献9】日本国特許出願公開特開2000-351768号公報
【特許文献10】国際公開第95/06035号パンフレット
【特許文献11】国際公開第98/39325号パンフレット
【特許文献12】日本国特許出願公開特開平9-221475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
V2受容体作動作用を有する4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記V2受容体作動作用を有する4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩の製造法について鋭意研究したところ、下記第一製法第三工程、及び/又は第二製法第五工程による製造法が、当該化合物の優れた製造法であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明によれば、式(X)
【化9】

[式中の記号は以下の意味を示す。
R2:CF3、若しくはハロゲン。
R3:H、若しくはハロゲン。
a、b:それぞれ単結合又は二重結合を示し、一方が単結合、他方が二重結合。
-X-:
(1)aが単結合、bが二重結合である場合、-CH=CH-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、若しくは-S-。
(2)aが二重結合、bが単結合である場合、-N-。
Y:
(1)aが単結合、bが二重結合である場合、CH、若しくはN。
(2)aが二重結合、bが単結合である場合、S。
-A-:-O-、-S-、-NH-、若しくは-N(低級アルキル)-。
B:それぞれ置換されていてもよい低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、シクロアルキル、若しくはアリール。]
で示されるカルボン酸誘導体、又はその反応性誘導体と、式(Y)
【化10】

[式中の記号は以下の意味を示す。
R1:置換されていてもよいアミノ。]
で示されるアミン化合物とを縮合する工程を含む、式(I)
【化11】

[式中の記号は前述の意味を示す。]
で示される4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその製薬学的に許容される塩の製造法が提供される。
【0009】
上記製造法のうち、好ましくはR1が式(II)、若しくは式(III)で示される基である製造法である。
【化12】

[式中の記号は以下の意味を示す。
Z1:単結合、低級アルキレン、若しくは-低級アルキレン-C(=O)-。
R11:-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、及び1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイルからなる群より選択される基で置換されていてもよい低級アルキル、又は-H。
R12
(1)Z1が単結合、又は低級アルキレンを示す場合、
-H、-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環、又は置換されていてもよい非芳香族ヘテロ環。
(2)Z1が-低級アルキレン-C(=O)-を示す場合、
式(III)、若しくは式(IV)で示される基。
【化13】

[式中の記号は以下の意味を示す。
Z2:単結合、若しくは低級アルキレン。
R15:-H、-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環、又は置換されていてもよい非芳香族ヘテロ環。]
R13、R14:隣接する窒素原子と一体となって、置換されていてもよい非芳香族環状アミノ基。]
【0010】
より好ましくは、R1が式(II)、若しくは式(III)で示される基であり;aが単結合であり;bが二重結合であり;-X-が-CH=CH-であり;-Y-が-CH-である製造法である。
さらに好ましくは、R1が式(II)で示される基であり;aが単結合であり;bが二重結合であり;-X-が-CH=CH-であり;-Y-が-CH-である製造法である。
特に好ましくは、R1が式(II)で示される基であり;aが単結合であり;bが二重結合であり;-X-が-CH=CH-であり;-Y-が-CH-であり;-A-が-O-である製造法である。
もっとも好ましくは、R1が式(II)で示される基であり;aが単結合であり;bが二重結合であり;-X-が-CH=CH-であり;-Y-が-CH-であり;-A-が-O-であり;-Bが置換されていてもよい低級アルキルである製造法である。
その中でも特に、R2がトリフルオロメチルであり;R3が-H若しくは-Fである製造法が好ましい。
【0011】
これらの製造法の中でも、特に好ましい製造法は、上記式(I)で示される4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその製薬学的に許容される塩が、化合物群P及び化合物群Qからなる群より選択される化合物若しくはその製薬学的に許容される塩の製造法であり、その中でも化合物群Pより選択される化合物若しくはその製薬学的に許容される塩の製造法が好ましい。
ここで、「化合物群P」とは、
(2Z)-N-(2-アミノ-2-オキソエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-N-(2-ヒドロキシエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-N-(2-ヒドロキシエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、
3-[((2Z)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセチル)アミノ]プロパンアミド、及び、
(2Z)-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
からなる群であり、「化合物群Q」とは、
(2Z)-N-(2-アミノ-2-オキソエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-2-{1-[4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、
(2Z)-2-{1-[4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4,7-トリフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、
(2Z)-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-プロポキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、
3-[((2Z)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセチル)アミノ]プロパンアミド、
(2Z)-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
3-[((2Z)-2-{1-[4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4,7-トリフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセチル)アミノ]プロパンアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-プロポキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、及び、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-プロポキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、
からなる群である。
なお、本発明の製造法において、R1としては、上記式(II)若しくは上記式(III)で示される基が好ましく;上記式(II)で示される基がより好ましく;Z1が単結合であり、R12が-Hであり、R11が置換されていてもよい低級アルキルである、上記式(II)で示される基がさらに好ましく;Z1が単結合であり、R12が-Hであり、R11が-OH及びカルバモイルからなる群より選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい低級アルキルである、上記式(II)で示される基が特に好ましい。
【0012】
また、本発明の製造法において、R2としては、トリフルオロメチル若しくはクロロが好ましく;トリフルオロメチルが特に好ましい。
また、本発明の製造法において、R3としては、-H若しくはフルオロが好ましく;-H若しくは7-フルオロが特に好ましい。
また、本発明の製造法において、a、b、-X-及び-Y-としては、aが単結合、bが二重結合、-X-が-CH=CH-、かつ、-Y-が-CH-が好ましい。
また、本発明の製造法において、-A-としては、-O-が好ましい。
また、本発明の製造法において、-Bとしては、置換されていてもよい低級アルキルが好ましく;Fで置換されていてもよい低級アルキルが特に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造法により製造される、本発明の製造法の目的物に係る4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその塩は、アルギニンバソプレシンV2受容体に対して優れた作動作用を有する化合物である。従って、当該作用に基づくプロフィールの抗利尿作用を有し、排尿障害、大量尿に有用であり、頻尿、尿失禁、遺尿症、中枢性尿崩症、夜間頻尿、夜尿症の予防及び/又は治療に有効であり、これら以外にも、V2受容体作動作用に基づき、血液凝固第VIII因子及びvon Willebrand因子放出作用を有し、様々な出血状態に有用であり、自然発生性出血、血友病、von Willebrand病、尿毒症、先天的又は後天的血小板機能障害、外傷性及び手術時出血、肝硬変等の診断、予防及び治療に有用な化合物である。
また、本発明の製造法の目的化合物に係る化合物は薬物代謝酵素CYP3A4及びCYP2C9に対する阻害作用が極めて小さいため、CYP3A4若しくはCYP2C9を介して代謝される他の薬物への薬物相互作用の懸念が従来知られているアルギニンバソプレシンV2受容体作動作用を有するベンゾアゼピン誘導体に比べて少なく、他剤との併用療法にも安全に使用できる点で優れている。
CYP3A4により代謝される薬物としては、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、ミダゾラム、ニフェジピン、アムロジピン、ニカルジピン等が、また、CYP2C9により代謝される薬物としては、ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、トルブタミド、グリベンクラミド、ロサルタン等が挙げられる(総合臨床, 48(6), 1427-1431, 1999.)。
【0014】
本発明の製造法の目的化合物に係る化合物の薬理作用は、以下の試験例により確認された。
【0015】
試験例1 V2受容体結合試験
田原らの方法(British Journal of Pharmacology, Vol 125, p.1463-1470, 1998)に準じて、ヒトV2発現CHO細胞膜標本を調製した。膜標本2 μgを[3H]-アルギニン- バソプレシン(以下、単に「[3H]-バソプレシン」という。)(0.5 nM, Specific activity = 75 Ci / mmol)及び被験化合物(10-10〜10-5 M)と共に、10 mM MgCl2、0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する50 mMトリス−塩酸緩衝液(pH=7.4)の総量250 μl中で60分間、25 ℃でインキュベーションした。その後、セルハーベスターを用いて遊離型[3H]-バソプレシンと受容体結合型[3H]-バソプレシンを分離し、ユニフィルタープレートGF/Bガラスフィルター上に受容体結合型[3H]-バソプレシンを吸着させた。十分に乾燥させた後、マイクロプレートシンチレーションカクテルと混合し、受容体結合型[3H]-バソプレシン量をトップカウントを用いて測定し、阻害率を次式より算出した。
阻害率(%)=100−(C1-B1)/(C0-B1)×100
C1:既知濃度の被験化合物と[3H]-バソプレシンとが共存して受容体膜標本と処理するとき、[3H]-バソプレシンが膜標本と結合する量
C0:被験化合物非存在下で、[3H]-バソプレシンと受容体膜標本とを処理するとき、[3H]-バソプレシンが膜標本と結合する量
B1:過剰量のバソプレシン(10-6 M)と[3H]-バソプレシンとが共存して受容体膜標本と処理するとき、[3H]-バソプレシンが膜標本と結合する量
上記式より阻害率が50%となる被験化合物の濃度(IC50値)を算出し、これから被験化合物の受容体に対する親和性、即ち解離定数(Ki)を次式より算出した。
解離定数(Ki)= IC50/(1+[L]/Kd)
[L]:[3H]-バソプレシンの濃度
Kd:飽和結合実験より求めた[3H]-バソプレシンの受容体に対する解離定数
【0016】
【表1】

なお、比較化合物とは、国際公開第WO 97/22591号記載の実施例32の化合物(化合物名:2-[(5R)-1-(2-クロロ-4-ピロリジン-1-イルベンゾイル)-2,3,4,5-テトラヒドロベンゾアゼピン-5-イル]-N-イソプロピルアセトアミド)を示す。
表1に示すように、本発明の製造法の目的化合物に係る化合物はV2受容体に対する高い親和性を有することが明らかとなった。
【0017】
実施例2 抗利尿試験(静脈内投与)
実験には、各群5例のウィスター系の雄性ラット(10〜12週齢)を用いた。群Aには実施例3の化合物0.3 mg/kg、群Bには実施例9の化合物0.3 mg/kgをそれぞれ溶媒(DMSOを含む生理食塩水)に溶解したものを、群Cには比較として溶媒のみをそれぞれ1 ml/kgで静脈内投与し、15分後に蒸留水30 ml/kgを強制経口投与した(水負荷)。水負荷2時間後までの尿を代謝ケージにて採取し、水負荷量を100%としたときの尿量を尿排泄率として算出した。なお、評価には、1時間後までの尿排泄率と2時間後までの尿排泄率のそれぞれの群における平均値を用いた。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

表2に示すように、本発明の製造法の目的化合物に係る化合物は優れた抗利尿作用を有することが明らかとなった。
【0019】
実施例3 抗利尿試験(経口投与)
実験には、ウィスター系の雄性ラット(10〜12週齢)を用いた。被験化合物を経口投与し、15分後に蒸留水30 ml/kgを強制経口投与した(水負荷)。水負荷4時間後までの尿を代謝ケージにて採取し、水負荷量を100%としたときの尿量を尿排泄率として算出した。なお、評価には尿排泄率を50%減少させるのに必要な試験化合物の用量(ED50)を用いた。その結果、本発明の製造法の目的化合物に係る化合物は静脈内投与のみならず、経口投与によっても優れた抗利尿作用を有することが明らかとなった。
【0020】
実施例4 チトクロームP450(3A4)酵素阻害試験
Crespiらの方法(Analytical Biochemistry, 248, 188-190, 1997)に準じて実験を行った。
96ウェルプレートを用いて、基質として7-ベンジルオキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン(5×10-5 M)、被験化合物(4.9×10-8〜5×10-5 M)および酵素(5×10-9 M)を、8.2 μM NADP+、0.41 mM グルコース-6-ホスフェート、0.41 mM MgCl2および0.4 Units/ml グルコース-6-ホスフェート デヒドロゲナーゼを含む200 mMリン酸緩衝液(pH=7.4)の総量200 μl中で、30分間37℃でインキュベーションした。その後、アセトニトリル80%含有0.5 M 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール水溶液を加えて反応を停止させ、蛍光プレートリーダーで蛍光強度(励起波長;409nm、蛍光波長;530nm)を測定した。阻害率を次式より算出し、阻害率が50%となる被験化合物濃度(IC50)を求めた。その結果を表3に示す。
阻害率(%)=100-(C1-B1)/(C0-B1)×100
C1:既知濃度の被験化合物と酵素及び基質存在下での蛍光強度
C0:被験化合物非存在下、酵素及び基質存在下での蛍光強度
B1:ブランクウェルの蛍光強度
【0021】
実施例5 チトクロームP450(2C9)酵素阻害作用
Crespiらの方法(Analytical Biochemistry, 248, 188-190, 1997)に準じて実験を行った。
96ウェルプレートを用いて、基質として7-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)クマリン(7.5×10-5 M)、被験化合物(4.9×10-8〜5×10-5 M)および酵素(10-8 M)を、8.2 μM NADP+、0.41 mM グルコース-6-ホスフェート、0.41 mM MgCl2および0.4 Units/ml グルコース-6-ホスフェート デヒドロゲナーゼを含む200 mMリン酸緩衝液(pH=7.4)の総量200 μl中で、45分間37 ℃でインキュベーションした。その後、アセトニトリル80%含有0.5 M 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール水溶液を加えて反応を停止させ、蛍光プレートリーダーで蛍光強度(励起波長;409 nm、蛍光波長;530 nm)を測定した。阻害率を上記(4)と同じ式により算出し、阻害率が50%となる被験化合物濃度(IC50)を求めた。その結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

表3に示すように、本発明の製造法の目的化合物に係る化合物は薬物代謝酵素CYP3A4及びCYP2C9に対して極めて低い阻害作用を示した。なお、比較化合物とは、表1に示す比較化合物と同一である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の製造法をさらに説明すると次の通りである。
本明細書中、「低級アルキル」とは、C1-6の直鎖又は分枝状の炭素鎖の1価基を意味し、具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル若しくはヘキシル、又はイソプロピル、tert-ブチル等のこれらの構造異性体であり、好ましくはC1-4アルキルのメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチルである。
「低級アルキレン」とは、C1-6の直鎖又は分枝状の炭素鎖の2価基を意味し、具体的には例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、メチルメチレン、メチルエチレン、ジメチルメチレン等が挙げられる。
「低級アルケニル」とは、C2-6の直鎖又は分枝状の少なくとも1つの二重結合を有する炭素鎖の1価基を意味し、具体的には例えば、ビニル、アリル、1-ブテニル、2-ブテニル、1-ヘキセニル若しくは3-ヘキセニル、又は2-メチルアリル等のこれらの構造異性体であり、好ましくはアリル、2-メチル-1-プロペン-3-イルである。
「低級アルキニル」とは、C2-6の直鎖又は分枝状の少なくとも1つの三重結合を有する炭素鎖の1価基を意味し、具体的には例えば、エチニル、プロパルギル、1-ブチニル、3-ブチニル、1-ヘキシニル若しくは3-ヘキシニル、又は3-メチル-1-ブチニル等のこれらの構造異性体であり、好ましくはプロパルギル、1-ブチン-4-イルである。
【0024】
「シクロアルキル」とは、部分的に不飽和結合を有していてもよいC3-8の非芳香族の炭化水素環の1価基を意味し、具体的には例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロヘキセニル、シクロオクタンジエニル等が挙げられる。
「アリール」とは、単環乃至3環のC6-14の芳香族の炭化水素環の1価基を意味し、具体的には例えば、フェニル、ナフチル等が挙げられ、好ましくはフェニルである。
【0025】
「芳香族ヘテロ環」とは、単環乃至3環の窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を有する芳香環の1価基を意味し、具体的には例えば、ピリジル、チエニル、フリル、ピラジニル、ピリダジニル、チアゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、ピロリル、オキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル等が挙げられ、好ましくはピリジルである。
「非芳香族ヘテロ環」とは、部分的に不飽和結合を有していてもよく、アリール若しくは芳香族ヘテロ環と縮合していてもよい窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を有する5乃至7員環の1価基を意味し、具体的には例えば、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、アゼピニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロチエニル等が挙げられ、好ましくはピロリジニル、ピペラジニル、モルホリニルである。
「非芳香族環状アミノ基」とは、部分的に不飽和結合を有していてもよく、窒素、酸素、硫黄を含んでいてもよい3乃至10員環の非芳香族の環状アミン、好ましくは5乃至7員環の非芳香族の環状アミンの1価基を意味し、具体的には例えば、ピロリジニル、ピペリジニル、アゼピニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ピラゾリジニル、ジヒドロピロリル等が挙げられ、好ましくはピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニルである。
「ハロゲン」とは、ハロゲン原子の1価基を意味し、具体的には例えばフルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等が挙げられる。
【0026】
「カルボン酸誘導体の反応性誘導体」とは、メチルエステル、エチルエステル、tert-ブチルエステルなどの通常のエステル;酸クロリド、酸ブロミド等の酸ハライド;酸アジド;N-ヒドロキシベンゾトリアゾール、p-ニトロフェノールやN-ヒドロキシスクシンイミド等との活性エステル;対称型酸無水物;アルキル炭酸ハライド等のハロカルボン酸アルキルエステル、ピバロイルハライド、p-トルエンスルホン酸クロリド等との混合酸無水物;塩化ジフェニルホスホリル、N-メチルモルホリンとを反応させて得られるリン酸系混合酸無水物等の混合酸無水物等が挙げられ、低級アルキルエステル、酸ハライド、混合酸無水物が好ましい。
【0027】
本明細書において、「置換されていてもよい」の語の許容される置換基としては、それぞれの基の置換基として通常用いられる置換基であればいずれでもよく、各々の基に1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0028】
R1における「置換されていてもよいアミノ」とは、具体的には、上記一般式(II)及び(III)で示される基を挙げることができる。
Bにおける「置換されていてもよいシクロアルキル」、「置換されていてもよいアリール」;R12、R15における「置換されていてもよいアリール」、「置換されていてもよいシクロアルキル」、「置換されていてもよい芳香族ヘテロ環」、「置換されていてもよい非芳香族ヘテロ環」;並びにR13、R14における「置換されていてもよい非芳香族環状アミノ基」;において許容される置換基としては、以下の(a)乃至(h)に示される基が挙げられる。なお、RZは、-OH、-O-低級アルキル、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいアミノ、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、アリール、芳香族ヘテロ環及びハロゲンからなる群より選択される1つ以上の基で置換されていてもよい低級アルキルを示す。
(a)ハロゲン;
(b)-OH、-O-RZ、-O-アリール、-OCO-RZ、オキソ(=O);
(c)-SH、-S-RZ、-S-アリール、-SO-RZ、-SO-アリール、-SO2-RZ、-SO2-アリール、1つ又は2つのRZで置換されていてもよいスルファモイル;
(d)1つ又は2つのRZで置換されていてもよいアミノ、-NHCO-RZ、-NHCO-アリール、-NHSO2-RZ、-NHSO2-アリール、ニトロ;
(e)-CHO、-CO-RZ、-CO2H、-CO2-RZ、1つ又は2つのRZで置換されていてもよいカルバモイル、シアノ;
(f)-OH、-O-低級アルキル、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいアミノ、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、アリール、芳香族ヘテロ環、ハロゲン及びRZからなる群より選択される1つ以上の基でそれぞれ置換されていてもよいアリール若しくはシクロアルキル;
(g)-OH、-O-低級アルキル、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいアミノ、1つ又は2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、アリール、芳香族ヘテロ環、ハロゲン及びRZからなる群より選択される1つ以上の基でそれぞれ置換されていてもよい芳香族ヘテロ環若しくは非芳香族ヘテロ環;
(h)上記(a)乃至(g)に示される置換基より選択される1つ以上の基でそれぞれ置換されていてもよい低級アルキル若しくは低級アルケニル。
また、Bにおける「置換されていてもよい低級アルキル」「置換されていてもよい低級アルケニル」「置換されていてもよい低級アルキニル」において許容される置換基としては、上記の(a)乃至(g)に示される基が挙げられる。
【0029】
一般式(I)で示される化合物には、置換基の種類によっては、不斉炭素原子を含む場合があり、これに基づく光学異性体が存在しうる。本発明の製造法はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを製造するための製造法をすべて包含する。また、本発明化合物は互変異性体が存在する場合があるが、本発明にはこれらの異性体の分離したもの、あるいは混合物を製造するための製造法が含有される。
【0030】
また、式(I)で示される化合物は、塩を形成する場合もあり、かかる塩が製薬学的に許容されうる塩である限りにおいて本発明の製造法による目的化合物に包含される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸又はグルタミン酸などの有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の金属を含む無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。さらに、本発明は式(I)で示される化合物及びその製薬学上許容される塩の各種の水和物や溶媒和物及び結晶多形を有する物質を製造するための製造法も包含する。なお、本発明には、生体内において代謝されて式(I)で示される化合物又はその塩に変換される化合物、いわゆるプロドラッグを製造するための製造法もすべて包含される。式(I)で示される化合物のプロドラッグを形成する基としては、Prog. Med., 5; 2157-2161, 1985.に記載されている基や、廣川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻 分子設計163-198ページに記載されている基が挙げられる。
【0031】
(製造法)
以下、本発明の製造法を含む、式(I)で示される化合物の製造法の概略を示す。なお、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基、すなわち容易に当該官能基に転化可能な基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。しかる後、必要に応じて保護基を除去し、所望の化合物を得ることができる。このような官能基としては例えば水酸基やカルボキシル基、アミノ基などを挙げることができ、それらの保護基としては例えばグリーン(Greene)及びウッツ(Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(third edition)」に記載の保護基を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜用いればよい。
【0032】
<中間体の製法>
【化14】

(式中、R2、a、b、X、Y、Aは前記の意味を示し;Lvは脱離基を示し;B1は前記のB又は水酸基、アミノ基若しくはスルファニル基の保護基を示し;Raはカルボキシル基、低級アルキルオキシカルボニル基又はシアノ基を示す。以下同様。)
本製法は、化合物(a)の脱離基Lvを化合物(b)で置換し、化合物(c)を製造し、必要に応じて加水分解することにより化合物(d)を製造する方法である。
【0033】
(第一工程)
化合物(a)における脱離基Lvとしては、例えばフルオロ、クロロ、メタンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシが挙げられ、好ましくはフルオロ、クロロ、メタンスルホニルオキシである。
反応は、無溶媒中、あるいはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF);ジメチルアセトアミド(DMA);N-メチルピロリドン;ジメチルスルホキシド(DMSO);酢酸エチル(EtOAc)等のエステル類;アセトニトリル等反応に不活性な溶媒、又はメタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、2-プロパノール(iPrOH)等のアルコール類中、化合物(a)と化合物(b)とを等モル乃至一方を過剰量用い、室温乃至加熱還流下に行うことができる。化合物によっては、有機塩基(好ましくは、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン又は金属塩塩基(好ましくは、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム)の存在下に行うのが有利な場合がある。
なお、本工程の原料化合物である、化合物(a)には、新規化合物が含まれているが、例えば参考例記載の方法若しくはそれに準じた方法、又は当業者にとって自明である方法、あるいはこれらの変法により製造することができる。
【0034】
(第二工程)
反応は、化合物(c)に対し、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール系溶媒、DMF、DMA、DMSO、ピリジン、水等反応に不活性な溶媒中、硫酸、塩酸、臭化水素酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸等の有機酸又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムあるいはアンモニア等の塩基存在下、冷却下乃至加熱還流下に行うことができる。反応温度は化合物により適宜選択することができる。
【0035】
<第一製法>
【化15】

(式中、R1及びR3は前記の意味を、Rbは低級アルキルを示す。以下同様。)
本製法は、上記中間体の製法で製造した化合物(d)を化合物(1a)と縮合して化合物(1b)を製造し、加水分解することにより化合物(1c)を製造し、さらに本発明の製造法である化合物(1d)を縮合する工程に付すことにより、B1がBである化合物(I)若しくはB1が水酸基、アミノ基若しくはスルファニル基の保護基である化合物(1e)を製造する方法である。
【0036】
(第一工程)
反応は、下記第三工程に準じて行うことができる。
【0037】
(第二工程)
反応は、中間体の製法第二工程に準じて行うことができる。
(第三工程)
本発明の製造法に含まれる、カルボン酸誘導体とアミン化合物の縮合工程である。
化合物(1c)は遊離酸として反応に用いることもできるが、その反応性誘導体を反応に用いることもできる。化合物(1c)の反応性誘導体としては、メチルエステル、エチルエステル、tert-ブチルエステルなどの通常のエステル;酸クロリド、酸ブロミド等の酸ハライド;酸アジド;N-ヒドロキシベンゾトリアゾール、p-ニトロフェノールやN-ヒドロキシスクシンイミド等との活性エステル;対称型酸無水物;アルキル炭酸ハライド等のハロカルボン酸アルキルエステル、ピバロイルハライド、p-トルエンスルホン酸クロリド等との混合酸無水物;塩化ジフェニルホスホリル、N-メチルモルホリンとを反応させて得られるリン酸系混合酸無水物等の混合酸無水物等が挙げられる。
化合物(1c)を遊離酸で反応させる場合、あるいは活性エステルを単離せずに反応させる場合等は、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1,1’-カルボニルビス-1H-イミダゾール(CDI)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、ジエチルホスホリルシアニドや1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSCD)などの縮合剤を使用するのが好適である。
特に本発明においては、酸クロリド法、活性エステル化剤と縮合剤との共存下に反応させる方法、通常のエステルをアミン処理する方法が、簡便容易に本発明化合物としうるので便利である。
反応は使用する反応性誘導体や縮合剤によっても異なるが、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、エステル類、アセトニトリル、DMFやDMSOなどの反応に不活性な有機溶媒中、冷却下、冷却乃至室温下あるいは室温乃至加熱下に行われる。
なお、反応に際して、化合物(1d)を過剰に用いたり、N-メチルモルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン、ピコリン、ルチジンなどの塩基の存在下に反応させるのが、反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。また、ピリジン塩酸塩、ピリジン p-トルエンスルホン酸塩、N,N-ジメチルアニリン塩酸塩などの弱塩基と強酸からなる塩を用いてもよい。ピリジンは溶媒とすることもできる。
特に、アセトニトリル、DMF等の溶媒中、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン等の塩基、又はピリジン塩酸塩等の塩の存在下に反応させるのが好適である。
化合物(1e)は、必要に応じて保護基を除去することにより、又は、さらに必要な側鎖を常法に従って導入することにより、化合物(I)に導くことができる。必要な側鎖の導入は、後述の第二製法第三工程に準じて行うこともできる。
【0038】
<第二製法>
【化16】

(式中、B2は水酸基、アミノ基若しくはスルファニル基の保護基を示す。以下同様。)
本製法は、上記中間体の製法で製造した、B2がBでない化合物(dd)を化合物(1a)と縮合して化合物(2a)を製造し、保護基B2を除去して化合物(2b)を製造し、化合物(2c)若しくは(2d)と縮合して化合物(2e)を製造し、加水分解することにより化合物(2f)を製造し、化合物(1d)と縮合することにより、本発明化合物(I)を製造する方法である。
【0039】
(第一工程)
反応は、第一製法第一工程に準じて行うことができる。
(第二工程)
水酸基、アミノ基若しくはスルファニル基の保護基としては、前述の「Protective Groups in Organic Synthesis(third edition)」に記載の保護基を挙げることができる。反応は、「Protective Groups in Organic Synthesis(third edition)」に記載の方法に準じて行うことができる。
特に、水酸基の保護基としてベンジル基を用いる場合、トリフルオロ酢酸等の強酸性溶液中、ペンタメチルベンゼンを作用させてベンジル基を除去する方法を用いることもできる。
【0040】
(第三工程)
化合物(2c)における脱離基Lvとしては、例えばクロロ、ブロモ、ヨード、メタンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシが挙げられ、好ましくはブロモ、メタンスルホニルオキシ、p-トルエンスルホニルオキシである。
化合物(2c)を用いる反応は、通常のアルキル化反応を用いることができ、好ましくはアセトニトリル、DMF、DMSO、エーテル類等の反応に不活性な溶媒中、化合物(2b)と(2c)を等モル乃至一方を過剰量用い、冷却下、冷却乃至室温下、あるいは室温乃至加熱下に、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基の存在下に行うことができる。
化合物(2d)を用いる反応は、エーテル類、DMF、N-メチルピロリドン等の非プロトン性の反応に不活性な溶媒中、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン、及びアゾジカルボン酸ジエチル、アゾジカルボン酸ジイソプロピル等のアゾジカルボン酸ジアルキルの存在下、光延反応条件下にて行うことができる(Synthesis, 1981, pp.1)。
(第四工程)
反応は、第一製法第二工程に準じて行うことができる。
【0041】
(第五工程)
本発明の製造法に含まれる、カルボン酸誘導体とアミン化合物の縮合工程である。
反応は、第一製法第三工程に準じて行うことができる。
さらに、式(I)で示されるいくつかの化合物は、第一製法若しくは第二製法により得られた化合物から、公知のアルキル化、アシル化、置換反応、酸化、還元、加水分解等、当業者が通常採用しうる工程を任意に組み合わせることにより製造することができる。具体的には、例えばメタクロロ過安息香酸等の酸化剤による硫黄原子の酸化等を挙げることができ、このような反応は「実験化学講座 第4版」(丸善株式会社、1990-1992年)に記載の方法を適用して、又は準じて行うことができる。また、これらの当業者が通常採用しうる工程は、化合物(I)に対する適用に限定されず、製造中間体に対して適用することもできる。具体的には、例えば第二製法第三工程で得られる化合物に対して適用することもでき、その後、次の工程に進むこともできる。
【0042】
このようにして製造された化合物は、遊離のまま、又は常法による造塩処理を施し、その塩として単離・精製される。単離・精製は抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等の通常の化学操作を適用して行われる。
各種の異性体は異性体間の物理化学的性質の差を利用して常法により単離できる。例えばラセミ混合物は、例えば酒石酸等の一般的な光学活性酸とのジアステレオマー塩に導き光学分割する方法などの一般的なラセミ体分割法により、光学的に純粋な異性体に導くことができる。また、ジアステレオ混合物は、例えば分別結晶化又は各種クロマトグラフィーなどにより分離できる。また、光学活性な化合物は適当な光学活性な原料を用いることにより製造することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、実施例において使用される原料化合物には新規な物質も含まれており、そのような原料化合物の公知物からの製造法を参考例として説明する。
【0044】
参考例1
60%水素化ナトリウム油分散体5.2 gをDMF 50 mlに懸濁し、氷冷下ベンジルアルコール6.73 mlを加えた。室温に昇温後、4-フルオロ-2-トリフルオロメチル安息香酸12.3 gを加え、室温にて6時間攪拌した。反応液に1M塩酸水溶液を加え、析出した結晶を濾取し、16.39 gの4-(ベンジルオキシ)-2-(トリフルオロメチル)安息香酸を得た。
MS(+):297
参考例1と同様に、表4に示す参考例2〜4を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
なお、表中の記号は以下の意味を示す(以下同様)。
Rf:参考例番号、
Data:物理化学的データ(NMR:(CH3)4Siを内部標準とし、特に記載がない場合にはDMSO-d6を測定溶媒とする1H-NMRにおけるピークのδ(ppm)を示す、MS(+):FAB-MS[M+H]+、MS(-):FAB-MS[M-H]+、EMS(+):ESI-MS[M+H]+、EMS(-):ESI-MS[M-H]+)、
RA、RB:一般式中の置換基、
nPr:ノルマルプロピル、cPr:シクロプロピル。
なお、NMRデータについては、化合物により2種以上のコンフォマーの存在による複雑なデータを与えることがあるが、そのうち、主に存在していると考えられるコンフォマーに対応するピークのみを記載した。また、これらのピークは、加温下で測定することにより、1種類の化合物を示すピークに収束した。
【0045】
【表4】

【0046】
参考例5
メチル 4-フルオロ-2-トリフルオロベンゾアート4.44 gをDMF 40 mlに溶解し、炭酸カリウム3.32 g及びN-メチル-N-プロピルアミン4.10 mlを加え、80 ℃にて14時間攪拌した。反応液を冷却後、水及びEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を飽和食塩水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン-EtOAc(4:1)で溶出し減圧下濃縮して、4.79 gのメチル 4-[メチル(プロピル)アミノ]-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
MS(+):276
【0047】
参考例6
参考例5の化合物4.78 gをMeOH 20 mlに溶解し、5M水酸化ナトリウム水溶液 6.94 mlを加え、70 ℃にて5時間攪拌した。反応液を冷却後、減圧下濃縮した。得られた残渣を1M塩酸水にて中和し、析出した結晶を濾取して、4.36 gの4-[メチル(プロピル)アミノ]-2-(トリフルオロメチル)安息香酸を得た。
MS(+):262
【0048】
参考例7
参考例1の化合物8.0 gをTHF 80 mlに溶解し、氷冷下塩化チオニル8 ml、DMF 3滴を加えた後室温にて3時間攪拌した。反応溶媒を留去後乾燥し酸クロリド体を得た。これに(Z)-メチル(4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン)アセタート6.84 gを加え氷冷下ピリジン50 mlを加え、室温にて12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し1M塩酸水溶液とEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を水及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去して得られた残渣をEtOHより再結晶を行い、9.12 gのメチル (2Z)-{1-[4-(ベンジルオキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン5-イリデン}アセタートを得た。
EMS(+):532
参考例7と同様に、表5に示す参考例8〜11を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
なお、表中の記号は以下の意味を示す(以下同様)。
Me:メチル。
【0049】
【表5】

【0050】
参考例12
参考例7の化合物9.1 gをトリフルオロ酢酸100 mlに溶解し、ペンタメチルベンゼン5.1 gを加え室温にて12時間攪拌した。不溶物を濾過後、濾液を減圧下濃縮した。得られた残渣にジエチルエーテルを加え、析出した結晶を濾取し、6.22 gのメチル (2Z)-{4,4-ジフルオロ-1-[4-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン5-イリデン}アセタートを得た。
EMS(+):442
【0051】
参考例13
参考例12の化合物3.89 gをDMSO 20 mlに溶解し、これにブロモ酢酸tert-ブチル2.06 g及び炭酸カリウム1.46 gを加え室温にて2時間攪拌した。不溶物を濾過後、水とEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム-MeOH(80:1)溶出部より、3.55 gのメチル (2Z)-{1-[4-(2-tert-ブトキシ-2-オキソエトキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセタートを得た。
EMS(+):556
【0052】
参考例14
参考例13の化合物3.75 gをトリフルオロ酢酸20 mlに溶解し、室温にて30分間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、3.25 gの[4-{[(5Z)-4,4-ジフルオロ-5-(2-メトキシ-2-オキソエチリデン)-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-1-ベンゾアゼピン-1-イル]カルボニル}-3-(トリフルオロメチル)フェノキシ]酢酸を得た。
MS(+):450
【0053】
参考例15
参考例14の化合物1.09 gをDMF 10 mlに溶解し、HOBt 324 mg、WSCD 460 mg、ジメチルアミン(2.0 M THF溶液)1.20 ml及びトリエチルアミン0.335 mlを加えた後、室温にて6時間攪拌した。反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、析出した沈殿物を濾取することで得られた組成生物を水で洗浄後、減圧下乾燥し、1.14 gのメチル (2Z)-{1-[4-(2-ジメチルアミノ-2-オキソエトキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセタートを得た。
MS(+):527
【0054】
参考例16
参考例12の化合物1.00 gをTHF 15 mlに溶解し、1-ブタノール0.415 ml、トリフェニルホスフィン1.19 g及びアゾジカルボン酸ジエチル2.08 mlを加えた後、室温にて17時間攪拌した。反応液に水とEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を水及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム-MeOH(50:1)で溶出し、減圧下濃縮して、1.41 gの粗メチル (2Z)-{1-[4-ブトキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセタートを得た。あ
上記で得られた化合物をMeOH 5 ml-THF 10 mlに溶解し、1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた後室温にて2時間攪拌した。溶媒を留去した後、1M塩酸及びクロロホルム-iPrOH(3:1混合溶媒)を加え分液操作を行った。有機層を飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去して、1.01 gの(2Z)-{1-[4-ブトキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}酢酸を得た。
MS(+):484
参考例16と同様に、表6に示す参考例17〜19を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
なお、表中の記号は以下の意味を示す(以下同様)。
iBu:イソブチル。
【0055】
【表6】

【0056】
参考例20
参考例7の化合物1.43 gをMeOH 15 ml-THF 25 mlの混合溶媒に溶解し、1M 水酸化ナトリウム水溶液10 mlを加え室温にて2時間攪拌した。有機溶媒を留去後、1M塩酸を加え液性を酸性とした後、析出した白色固体を濾取、減圧乾燥し、1.39 gの(2Z)-{1-[4-(ベンジルオキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}酢酸を得た。
MS(+):518
参考例20と同様に、表7に示す参考例21〜25を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
【0057】
【表7】

【0058】
参考例26
参考例1の化合物のMeOH溶液に濃硫酸を加え、3日間加熱還流を行った。反応溶媒を氷水にあけエーテルにて抽出操作を行った。溶媒を留去後得られた残渣をEtOHに溶解し、10%パラジウム担持炭素を加え水素雰囲気下、室温にて24時間攪拌し、メチル 4-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
MS(+):221
【0059】
参考例27
参考例26の化合物のアセトニトリル溶液にブロモアセトン及び炭酸カリウムを加え、60 ℃で1時間攪拌しメチル 4-(2-オキソプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
ESI-MS(+):299[M+23]+
【0060】
参考例28
参考例27の化合物の塩化メチレン溶液に-78 ℃にて(ジエチルアミノ)サルファ トリフルオリドを加え、室温で24時間攪拌しメチル 4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
EI-MS:298[M]+
【0061】
参考例29
参考例28の化合物のMeOH溶液に5M 水酸化ナトリウム水溶液を加え、90 ℃で2.5時間攪拌し4-(2,2-ジフルオロプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)安息香酸を得た。
MS(-):283
【0062】
参考例30
(2S)-プロパン-1,2-ジオールの塩化メチレン溶液にトリエチルアミンを加えた後、-20 ℃にてパラトルエンスルフォニルクロライドの塩化メチレン溶液を加え、室温にて18時間攪拌し、(2S)-2-ヒドロキシプロピル-4-メチルベンゼンスルフォナートを得た。
MS(+):231
【0063】
参考例30A
参考例30の化合物のTHF溶液に、N,N-ジメチルアニリン及び無水酢酸を加え0 ℃で1時間攪拌し(1S)-1-メチル-2-{[(4-メチルフェニル)スルフォニル]オキシ}エチルアセタートを得た。
MS(+):273
【0064】
参考例30B
参考例30Aの化合物のDMF溶液に、参考例26の化合物及び炭酸カリウムを加え70 ℃で17時間攪拌しメチル 4-{[(2S)-2-(アセチルオキシ)プロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
MS(+):321
【0065】
参考例31
参考例30Bの化合物のMeOH溶液に、1M 水酸化カリウム-MeOH溶液を0 ℃にて加え、室温にて1時間攪拌しメチル 4-{[(2S)-2-ヒドロキシプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
MS(+):279
【0066】
参考例32
参考例31の化合物の塩化メチレン溶液に-78 ℃にて(ジエチルアミノ)サルファ トリフルオリドを加え、室温で15時間攪拌しメチル 4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
FAB-MS(+):280[M]+
【0067】
参考例33
参考例32の化合物のMeOH溶液に5M 水酸化ナトリウム水溶液を加え、70 ℃で6時間攪拌し、4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)安息香酸を得た。
MS(+):267
【0068】
参考例34
参考例27の化合物のEtOH溶液に水素化ホウ素ナトリウムを0 ℃にて加え、室温にて1時間攪拌しメチル 4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを得た。
ESI-MS(+):301[M+23]+
【0069】
参考例35
参考例30と同様に、(2R)-2-ヒドロキシプロピル-4-メチルベンゼンスルフォナートを、(2R)-プロパン-1,2-ジオールを用いて製造した。
MS(+):231
【0070】
参考例35A
参考例30Aと同様に、(1R)-1-メチル-2-{[(4-メチルフェニル)スルフォニル]オキシ}エチルアセタートを、参考例35の化合物を用いて製造した。
MS(+):273
【0071】
参考例35B
参考例30Bと同様に、メチル 4-{[(2R)-2-(アセチルオキシ)プロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを、参考例35Aの化合物を用いて製造した。
MS(+):321
【0072】
参考例36
参考例31と同様に、メチル 4-{[(2R)-2-ヒドロキシプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを、参考例35Bの化合物を用いて製造した。
MS(+):279
【0073】
参考例37
参考例32と同様に、メチル 4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾアートを、参考例36の化合物を用いて製造した。
MS(+):281
【0074】
参考例38
参考例33と同様に、4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)安息香酸を、参考例37の化合物を用いて製造した。
MS(+):267
参考例7と同様に、表8に示す参考例39〜41を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
【0075】
【表8】

【0076】
参考例20と同様に、表9に示す参考例42〜46を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
【0077】
【表9】

【0078】
実施例1
参考例20の化合物150 mgをDMF 5 mlに溶解し、HOBt 43 mg、WSCD 61 mg、グリシンアミド 塩酸塩35 mg及びトリエチルアミン0.045 mlを加えた後、室温にて4時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及びEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を水及び飽和食塩水にて洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を留去して得られた残渣をEtOHより再結晶を行い、139 mgの(2Z)-N-(2-アミノ-2-オキソエチル)-2-{1-[4-(ベンジルオキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミドを得た。
実施例1と同様に、表10に示す実施例2〜16を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
【0079】
実施例17
参考例20の化合物150 mgをTHF 3.5 mlに溶解し、塩化チオニル0.3 ml及び2〜3滴のDMFを加え室温にて1時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、さらにトルエンを用いて塩化チオニルを共沸留去した。得られた残渣をTHFに溶解し、この溶液をアンモニア水に滴下した。反応液にEtOAcを加え分液操作を行った。有機層を飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。得られた粗生成物をiPrOH-ジイソプロピルエーテル混合溶媒から再結晶し、126 mgの(2Z)-2-{1-[4-(ベンジルオキシ)-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンズアゼピン-5-イリデン}アセトアミドを得た。
実施例17と同様に、表10に示す実施例18を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。また、参考例12と同様に、表10に示す実施例19〜20を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。
【0080】
実施例21
実施例6の化合物325 mgを1,2-ジクロロエタン5 mlに溶解し、氷冷下メタクロロ過安息香酸148 mgを加え室温にて4時間攪拌した。反応液に10%(w/v)Na2S2O3・5H2O水溶液、水及びクロロホルムを加え分液操作を行った。有機層を飽和重曹水にて洗浄後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を留去して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム-MeOH(23:2)で溶出し、減圧下濃縮して、121 mgの(2Z)-N-(2-アミノ-2-オキソエチル)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-(プロピルスルフィニル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミドを得た。
実施例21と同様に、表10に示す実施例22を、それぞれ対応する原料を用いて製造した。また、表11〜18に示す実施例23〜147を、それぞれ対応する原料を用いて、上記の製造法や実施例記載の方法、及び当業者にとって自明である方法、又はこれらの変法により製造した。
なお、表中の記号は以下の意味を示す(以下同様)。
Ex:実施例番号、
RC:一般式中の置換基、
Et:エチル、nBu:ノルマルブチル、Ph:フェニル、Py:ピリジル、Bn:ベンジル、Gly:カルバモイルメチルアミノ(-NHCH2CONH2)、Etha:2-ヒドロキシエチルアミノ(-NHCH2CH2OH)、Car:アミノ(-NH2)。なお、置換基の前の数字は置換位置を示す。具体的には、例えば-NHPh(2-OH)は2-ヒドロキシフェニルアミノを、-NHCH2(2-Py)はピリジン-2-イルメチルアミノを示す。
【0081】
【表10】

【0082】
【表11】

【0083】
【表12】

【0084】
【表13】

【0085】
【表14】

【0086】
【表15】

【0087】
【表16】

【0088】
【表17】

【0089】
【表18】

以下、表19〜表22にいくつかの実施例化合物のNMRデータを示す。
【0090】
【表19】

【0091】
【表20】

【0092】
【表21】

【0093】
【表22】

【0094】
以下、表23〜39に本発明の製造法で製造しうる別の化合物の構造を示す。
なお、表中の記号は以下の意味を示す。
No:化合物番号。
R1A、-AA-BA、X、Y:一般式中の置換基、
iPr:イソプロピル、tBu:tert-ブチル、cBu:シクロブチル、nPen:ノルマルペンチル、cPen:シクロペンチル、iAm:イソアミル、nHex:ノルマルヘキシル、pyrr:ピロリジン-1-イル、pipe:ピペリジン-1-イル、pipa:ピペラジン-1-イル、mor:モルホリン-4-イル、Ac:アセチル、Ms:メタンスルホニル、cyano:シアノ。
【0095】
【表23】

【0096】
【表24】

【0097】
【表25】

【0098】
【表26】

【0099】
【表27】

【0100】
【表28】

【0101】
【表29】

【0102】
【表30】

【0103】
【表31】

【0104】
【表32】

【0105】
【表33】

【0106】
【表34】

【0107】
【表35】

【0108】
【表36】

【0109】
【表37】

【0110】
【表38】

【0111】
【表39】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(X)
【化1】

[式中の記号は以下の意味を示す。
R2:CF3、若しくはハロゲン。
R3:H、若しくはハロゲン。
a、b:それぞれ単結合又は二重結合を示し、一方が単結合、他方が二重結合。
-X-:
(1)aが単結合、bが二重結合である場合、-CH=CH-、-CH=N-、-N=CH-、-N=N-、若しくは-S-。
(2)aが二重結合、bが単結合である場合、-N-。
Y:
(1)aが単結合、bが二重結合である場合、CH、若しくはN。
(2)aが二重結合、bが単結合である場合、S。
-A-:-O-、-S-、-NH-、若しくは-N(低級アルキル)-。
B:それぞれ置換されていてもよい低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、シクロアルキル、若しくはアリール。]
で示されるカルボン酸誘導体、又はその反応性誘導体と、式(Y)
【化2】

[式中の記号は以下の意味を示す。
R1:置換されていてもよいアミノ。]
で示されるアミン化合物とを縮合する工程を含む、式(I)
【化3】

[式中の記号は前述の意味を示す。]
で示される4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその製薬学的に許容される塩の製造法。
【請求項2】
R1が式(II)、若しくは式(III)で示される基である、請求項1記載の製造法。
【化4】

[式中の記号は以下の意味を示す。
Z1:単結合、低級アルキレン、若しくは-低級アルキレン-C(=O)-。
R11:-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、及び1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイルからなる群より選択される基で置換されていてもよい低級アルキル、又は-H。
R12
(1)Z1が単結合、又は低級アルキレンを示す場合、
-H、-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環、又は置換されていてもよい非芳香族ヘテロ環。
(2)Z1が-低級アルキレン-C(=O)-を示す場合、
式(III)、若しくは式(IV)で示される基。
【化5】

[式中の記号は以下の意味を示す。
Z2:単結合、若しくは低級アルキレン。
R15:-H、-OH、-O-低級アルキル、-CO2H、-CO2-低級アルキル、1つ若しくは2つの低級アルキルで置換されていてもよいカルバモイル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環、又は置換されていてもよい非芳香族ヘテロ環。]
R13、R14:隣接する窒素原子と一体となって、置換されていてもよい非芳香族環状アミノ基。]
【請求項3】
aが単結合であり、bが二重結合であり、-X-が-CH=CH-であり、-Y-が-CH-である、請求項2記載の製造法。
【請求項4】
R1が式(II)で示される基である、請求項3記載の製造法。
【請求項5】
-A-が-O-である、請求項4記載の製造法。
【請求項6】
-Bが置換されていてもよい低級アルキルである、請求項5記載の製造法。
【請求項7】
R2がトリフルオロメチルであり、R3が-H若しくは-Fである請求項6記載の製造法。
【請求項8】
請求項1記載の式(I)で示される4,4-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン誘導体又はその製薬学的に許容される塩が、
(2Z)-N-(2-アミノ-2-オキソエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-N-(2-ヒドロキシエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2S)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-N-(2-ヒドロキシエチル)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
(2Z)-2-{4,4-ジフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}-N-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]アセトアミド、
3-[((2Z)-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセチル)アミノ]プロパンアミド、若しくは、
(2Z)-N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-2-{4,4,7-トリフルオロ-1-[4-{[(2R)-2-フルオロプロピル]オキシ}-2-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]-1,2,3,4-テトラヒドロ-5H-1-ベンゾアゼピン-5-イリデン}アセトアミド、
又はその製薬学的に許容される塩である、請求項1記載の製造法。

【公開番号】特開2006−151957(P2006−151957A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309218(P2005−309218)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】