ベーンポンプ
【課題】ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制すること。
【解決手段】ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、を備えるベーンポンプとした。
【解決手段】ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、を備えるベーンポンプとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の吸引および吐出を行うベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のパワーステアリング装置における作動油の搬送やブレーキブースタへの負圧空気の供給等にベーンポンプを用いている。
特許文献1は、ベーン摺動面に、全周に亘って連続した連通溝を凹設し、これに対応して、ベーンの先端縁のそれぞれに、連通溝の溝幅と合致する幅の切欠部を設けたベーンポンプを開示している。特許文献1記載の技術では、上記連通溝と上記切欠部とを合わせて生じる開口部により、ベーン前後の圧力室を連通し、ベーンが吐出ポートを通過した後の位置等で、潤滑油に液圧縮が生じることを抑制している。
【0003】
また、特許文献2は、ベーンの長手方向に出没自在に連結し、ポンプ室の内周面に摺接するキャップをベーンの両端部に備えるベーンポンプを開示している。特許文献2記載の技術では、ベーンが遠心力によっていずれか一方のキャップ側に移動してキャップがベーン側に退没すると共に、他方のキャップがベーンから突出するようになっている。そして、キャップとベーンとの間に、それらが区画した回転方向前後の空間を相互に連通させる連通路をそれぞれ形成し、上記キャップがベーン側に退没することにより各連通路を閉鎖し、キャップがベーンから突出することにより各連通路を開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−30290号公報
【特許文献2】特開2006−226165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術においては、ベーン前後の圧力室が連通することから、圧力室のシール性の観点から改善の余地がある。
即ち、従来の技術においては、圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を防ぐことが困難であった。
本発明の課題は、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係るベーンポンプは、ベーン摺動面に形成した吐出ポートよりもロータの回転方向における下流側に、ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部を形成した。また、ダム部と吐出ポートとを連通する連通部を形成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係るベーンポンプ1の構成を示す外観図である。
【図2】ベーンポンプ1の吸排気経路を示す断面図である。
【図3】カムリング11の内部構造を示す斜視図である。
【図4】図3におけるカムリング11のA−A断面図である。
【図5】図3におけるカムリング11のB−B断面図である。
【図6】吐出ポート18周辺を示す部分拡大図である。
【図7】ダム部18bおよび連通部18cを有していないベーンポンプに液圧縮が発生する状態を示す説明図である。
【図8】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図9】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図10】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図11】第2実施形態に係るダム部18bの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
本実施形態では、ブレーキアシスト装置の負圧空気供給源であるバキュームポンプに本発明を適用した一実施例を示している。
本実施形態に係るバキュームポンプとしてのベーンポンプは、エンジン(不図示)のクランクシャフトの回転を動力源としている。即ち、チェーンを介してロータの回転軸にクランクシャフトの回転が伝達し、ロータが回転する。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係るベーンポンプ1の構成を示す外観図であり、圧力室を閉塞するサイドプレートの一方を取り外した状態を示している。
また、図2は、ベーンポンプ1の吸排気経路を示す断面図である。
図1および図2において、ベーンポンプ1のハウジングとなる筒状のカムリング11は、略円筒面からなるベーン摺動面12を内周に有し、その内側に円筒状のロータ13を収容している。ベーン摺動面12は、ロータ13の外周面13aの一部と対応する形状のロータ受容面12aを有している。
【0011】
上記ロータ13は、ベーン摺動面12に対し偏心した回転中心を有し、かつ周方向の一部で、外周面13aが上記ベーン摺動面12のロータ受容面12aに実質的に接している。つまり、厳密には極僅かな間隙をもって近接しており、潤滑油膜によって、その間隙を封止した状態となっている。そして、上記ロータ13は、回転軸に沿う中空部を有しており、その中空部を貫通して直径方向にベーン収容溝14を有している。
【0012】
ベーン収容溝14は、板状のベーン15を進退可能に収容している。ベーン収容溝14には、サイドプレート19の油路(不図示)およびロータ13の中空部を介して潤滑油が流入する。即ち、潤滑油は、ベーン収容溝14からベーン15を伝わってカムリング11内に流入する。
ベーン15は、ロータ13の回転に伴う遠心力によってベーン収容溝14内を外周側へ移動し、先端縁15aがベーン摺動面12に摺接する。ベーン15がベーン摺動面12に摺接することによって、カムリング11内に3つの圧力室16を区画形成する。そして、ロータ13の回転に伴って、各圧力室16の容積が変化し、吸入ポート17から空気を吸い込むと共に後述する吐出ポート18へと吐出するポンプ作用が得られる。
【0013】
上記吸入ポート17は、ベーン摺動面12におけるロータ受容面12aの上部(ロータ13の回転方向下流側)に開口している。また、吐出ポート18は、ベーン摺動面12におけるロータ受容面12aの下部(ロータ13の回転方向上流側)に開口している。
また、ベーンポンプ1は、上記カムリング11の端面をそれぞれ閉塞する一対のサイドプレート19,20(サイドプレート20は不図示)を備えている。なお、サイドプレート19,20の一方は、カムリング11と一体形成することもできる。
【0014】
本実施形態に係るベーンポンプ1は、バキュームポンプとして負圧を生成するものであるので、上記吸入ポート17は、逆止弁21を介して接続する吸気管22によって、不図示のバキュームタンクに連通している。また、上記吐出ポート18は、排気管23を通してベーンポンプ1外部に連通しており、圧力室16に吸入した空気を排気管23を通して排出する。また、本実施形態においては、ベーンポンプ1の潤滑油も吐出ポート18から排出しており、吐出ポート18から排出した潤滑油は排気と分離してオイルタンクに流入し、潤滑油の油路を介してベーンポンプ1の圧力室16内に再び流入する。
【0015】
次に、図3〜図6に基づいて、本発明の要部について説明する。
図3は、カムリング11の内部構造を示す斜視図であり、ロータ13を取り外した状態を示している。
また、図4は、図3におけるカムリング11のA−A断面図であり、図5は、図3におけるカムリング11のB−B断面図である。
さらに、図6は、吐出ポート18周辺を示す部分拡大図である。
図3に示すように、カムリング11のベーン摺動面12は、ロータ受容面12a、吸入ポート17および吐出ポート18を有している。
カムリング11のロータ受容面12aは、ロータ13の外周面13aの半径とほぼ同一半径の円筒面の一部となっており、サイドプレート19における軸受部19aの外周に沿う位置に形成してある。
【0016】
ベーン摺動面12は、ロータ13の回転中心に対して、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部および下流側端部から徐々に距離が増加していき、ロータ13の回転中心を挟んでロータ受容面12aと反対側の位置において距離が最大となる形状を有している。また、ベーン摺動面12は、ベーン15がロータ13のベーン収容溝14内を摺動しながら回転したときに、ベーン15の両端が接触を維持する形状となっている。
また、ベーン摺動面12において、ロータ受容面12aの下流側には、ロータ受容面12aの回転方向下流側端部から離間した位置に吸入ポート17が開口している。
【0017】
一方、ベーン摺動面12において、ロータ受容面12aの上流側には、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部から離間した位置に吐出ポート18が開口している。具体的には、吐出ポート18は、ベーン摺動面12の壁面から窪んだ形状の溝部18aの底面部分に開口している。溝部18aは、図4に示すように、矩形に形成した凹部であり、溝部18aの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に近接している。ここで、溝部18aの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に連続する位置に形成することが望ましい。これにより、圧力室16の容積がゼロとなる直前まで、潤滑油を吐出ポート18から流出させることが可能となる。
【0018】
なお、本実施形態では、加工技術の精度から確保が必要となる距離だけロータ受容面12aの回転方向上流側端部から離間した位置に、溝部18aの回転方向下流側端部形成している。
また、図5に示すように、溝部18aの底面は、中央部分の深さが最も深くなる形状の曲面となっている。そして、溝部18aの底面における中央部分より回転方向下流側の位置に、吐出ポート18が開口している。
ここで、図6に示すように、溝部18aは、その回転方向下流側端部に、ベーン15が掻き集めた潤滑油を溜めるダム部18bと、ダム部18bと吐出ポート18とを連通する連通部18cとを有している。
【0019】
ダム部18bの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部との境界部分によって潤滑油を堰き止める作用を有し、堰き止めた潤滑油の一部はダム部18b内(溝部18aの吐出ポート18より回転方向下流側部分)に留まることとなる。そして、ロータ13が回転し、ベーン15が吐出ポート18の位置を通過すると、潤滑油が圧力室16を満たすこととなり、潤滑油にはベーン15の回転による圧力が加わる。連通部18cは、ベーン15の回転による圧力に伴って、ダム部18bに留まっている潤滑油が吐出ポート18へと流出する際の流路となる。
【0020】
(動作)
次に、動作を説明する。
本発明に係るベーンポンプ1は、自動車のエンジン始動と共にクランクシャフトに連動して動作を開始する。
ベーンポンプ1では、クランクシャフトに連動してロータ13が回転する。このとき、ベーン15の先端がカムリング11のベーン摺動面12を摺動しながら回転することにより、カムリング11内に複数の圧力室を形成する。
ベーン15の一端がベーン摺動面12のロータ受容面12aに接触している状態からロータ13が回転すると、ロータ13の外周面13aからベーン15が徐々に突出し、ベーン15とロータ13の外周面13aとベーン摺動面12とによって囲まれた空間が圧力室16となる。
そして、ロータ13がさらに回転すると、圧力室16の容積が徐々に増大し、圧力室16内の圧力は徐々に低下する。
【0021】
ベーン15が吸入ポート17の位置を通過すると、吸入ポート17から圧力室16に気体が流入し、ベーン15の回転に伴い、さらに圧力室16に気体が流入する状態となる。
この状態は、ベーン15の他端が吸入ポート17の位置を通過するまで継続し、ベーン15の他端が吸入ポート17の位置を通過すると、圧力室16は密封状態となる。
そして、ロータ13がさらに回転し、ベーン15の一端が吐出ポート18の位置を通過すると、圧力室16内の気体は吐出ポート18から流出していく。
この後、ロータ13がさらに回転し、ベーン15の他端が吐出ポート18の位置を通過すると、圧力室16内の気体はほぼ流出が完了し、潤滑油が圧力室16を満たす状態となる。
圧力室16内の潤滑油の一部は、ベーン15の他端が溝部18aに差し掛かったときに溝部18a内に溜まり、吐出ポート18から流出する。
【0022】
また、吐出ポート18から流出しなかった潤滑油の一部は、ベーン15の他端が吐出ポート18を通過した後、ダム部18bに留まり、ロータ13の回転により圧力室16の圧力が高まると、連通部18cを通じて吐出ポート18から流出する。
これにより、ベーン15の先端が吐出ポート18を通過した後でも、ベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18bに貯留し、さらに連通部18cを通じて圧力室16から流出させることができる。そのため、圧力室16のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することができる。
【0023】
以上のように、本実施形態に係るベーンポンプ1は、カムリング11のベーン摺動面12にダム部18bを有し、吐出ポート18を通過したベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18b内に貯留する。そして、ロータ13の回転に伴い、ベーン15が圧力室16の圧力を高めると、ダム部18bに貯留していた潤滑油は、連通部18cを通じて吐出ポート18から流出する。
【0024】
ここで、ダム部18bの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に近接する位置に形成してあるため、ベーン15が吐出ポート18を通過した後にも潤滑油の流出が可能となっている。また、ベーンポンプ1における圧力室16は、他の圧力室16と連通しない構成である。
したがって、本発明によれば、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【0025】
(参考例)
図7は、本発明に係るダム部18bおよび連通部18cを有していないベーンポンプに液圧縮が発生する状態を示す説明図である。
図7に示すように、ベーンが吐出ポートの位置を通過したのち、潤滑油は逃げ場のない状態となるため、液圧縮が生じる可能性が高いものとなる。
これに対し、本発明のように、吐出ポート18より下流側にダム部18bを形成し、ダム部18bに潤滑油を溜めると共に、圧力室16の圧力の高まりに伴って、連通部18cから潤滑油を流出させるようにすれば、液圧縮が生じる可能性を低下させることができる。
【0026】
(第1実施形態の効果)
(1)ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
(2)ダム部を、ロータの回転方向における下流側端部がロータの外周面とベーン摺動面とが接触する部分に隣接させたため、圧力室の容積がゼロとなる直前まで、潤滑油を吐出ポートから流出させることが可能となる。
【0027】
(3)また、本発明を自動車に適用し、ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、を備えるベーンポンプと、このベーンポンプを用いた流体回路とを備えた自動車とすることができる。
【0028】
これにより、一般に、ロータを回転させる駆動源の回転数変動が大きい自動車において、ベーンポンプのベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能な自動車とすることができる。
【0029】
(4)また、本発明をベーンポンプの液圧制御方法に適用し、ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留するステップと、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させるステップとを含むベーンポンプの液圧制御方法とすることができる。
これにより、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【0030】
(応用例)
本応用例では、第1実施形態の構成に対し、潤滑油をより効率的にダム部18bに掻き集める構成としている。
図8〜図10は、ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
図8に示すように、ベーン摺動面12におけるダム部18bの周辺からダム部18bに向けて、ベーン15の回転方向と直交する向き(ベーン摺動面12の幅方向)の誘導溝Pを形成することができる。
これにより、ベーン摺動面12の全幅に渡る領域からダム部18bに潤滑油を掻き集めることができ、液圧縮が生じる可能性を低減することができる。
【0031】
なお、この場合、1つの誘導溝Pがベーン摺動面12の全幅にわたることのないよう、誘導溝Pはベーン摺動面12の全幅における一部にのみ形成することとする。
これにより、ベーン15が誘導溝Pに嵌り込むことを回避できる。
また、図9に示すように、サイドプレート19,20に、サイドプレート19,20におけるダム部18bの側方位置に向かう誘導溝Pを形成することができる。この誘導溝Pは、ロータ13が吐出ポート18の位置を通過した後に、ロータ受容面12a側の圧力室16の側面となる範囲に形成する。
【0032】
これにより、サイドプレート19,20の誘導溝Pを伝わって潤滑油がダム部18bに流れ込み易くなり、より効率的に潤滑油をダム部18bに集めることが可能となる。
また、図10に示すように、ベーン摺動面12のダム部18b周辺に、ダム部18bから放射状に広がる誘導溝Pを形成することができる。
これにより、ベーン15がダム部18bの位置を通過する前後にわたって、ベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18bに流れ込み易くさせることができる。
【0033】
また、上記応用例における各誘導溝Pは、ダム部18bから離れるにつれて溝幅が広がるテーパを有するものとできる。
これにより、ダム部18bに潤滑油を流れ込み易くすることができる。
また、この場合、ダム部18bに近づくにつれて誘導溝Pを深くすることができる。
これにより、ダム部18bに流れ込む潤滑油に加わる流体圧力を低減することができる。
【0034】
(効果)
(1)ベーン摺動面あるいはサイドプレートに、ダム部に向かう誘導溝を形成したため、潤滑油をより効率的にダム部に掻き集めることができる。
(2)ベーン摺動面における幅方向の一部に、ベーンの回転方向と直交する向きの誘導溝を形成したため、ベーンが誘導溝に嵌り込むことを防ぎつつ、ベーン摺動面の全幅に渡る領域からダム部に潤滑油を掻き集めることができる。
(3)ベーン摺動面に、ダム部に向かう放射状の誘導溝を形成したため、ベーンがダム部の位置を通過する前後にわたって、ベーンが掻き集めた潤滑油をダム部に流れ込み易くさせることができる。
(4)サイドプレートに、ダム部の側方位置に向かう誘導溝を形成したため、誘導溝を伝わって潤滑油がダム部に流れ込み易くなり、より効率的に潤滑油をダム部に集めることが可能となる。
【0035】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、ダム部18bと連通部18cとを区分して異なる形状で構成したが、これらを一体的に構成することができる。
図11は、本発明の第2実施形態に係るダム部18bの構成例を示す図である。
図11に示すように、ベーン15が吐出ポート18を通過した状態において、そのときにロータ受容面12a側にある圧力室から、ベーン15の厚みを超えて吐出ポート18側に繋がる連通経路を形成する。この連通経路は、一体的に構成したダム部18bおよび連通部18cとして作用するように、潤滑油を目的の量(液圧縮を抑制可能な量)だけ収容できる容積に形成する。
【0036】
連通部18cを一体に形成したダム部18b(すなわち連通経路)は、ベーン摺動面12およびサイドプレート19,20のいずれに形成することもできる。
このようなダム部18bの形態とした場合、ベーン15が吐出ポート18を通過する前は、ダム部18bは同一の圧力室16内を連通するものとなるため、圧力室16のシール性に影響を及ぼさない。
一方、ベーン15が吐出ポート18を通過すると、ダム部18bがこの圧力室16からベーン15の後方に連通することになり、潤滑油を吐出ポート18側に流出させる状態となる。
したがって、圧力室16のシール性を低下させることなく、液圧縮が生じることを抑制できる。
【0037】
また、ダム部18bと連通部18cとを一体に形成することができるため、ダム部18bおよび連通部18cを形成する際の加工を容易なものとできる。
なお、第2実施形態の構成においても、第1実施形態の応用例と同様に、ダム部18bに潤滑油を流れ込み易くする形状の誘導溝Pを形成することが可能である。
また、第1実施形態のダム部18bと第2実施形態のダム部18b(連通経路)とを併せて形成することもできる。
(第2実施形態の効果)
(1)ダム部と連通部とを一体の経路として形成したため、これらを形成する際の加工を容易なものとできる。
【符号の説明】
【0038】
1 ベーンポンプ、11 カムリング、12 ベーン摺動面、12a ロータ受容面、13 ロータ、13a 外周面、14 ベーン収容溝、15 ベーン、15a 先端縁、16 圧力室、17 吸入ポート、18 吐出ポート、18a 溝部、18b ダム部、18c 連通部、19,20 サイドプレート、19a 軸受部、21 逆止弁、22 吸気管、23 排気管、P 誘導溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の吸引および吐出を行うベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のパワーステアリング装置における作動油の搬送やブレーキブースタへの負圧空気の供給等にベーンポンプを用いている。
特許文献1は、ベーン摺動面に、全周に亘って連続した連通溝を凹設し、これに対応して、ベーンの先端縁のそれぞれに、連通溝の溝幅と合致する幅の切欠部を設けたベーンポンプを開示している。特許文献1記載の技術では、上記連通溝と上記切欠部とを合わせて生じる開口部により、ベーン前後の圧力室を連通し、ベーンが吐出ポートを通過した後の位置等で、潤滑油に液圧縮が生じることを抑制している。
【0003】
また、特許文献2は、ベーンの長手方向に出没自在に連結し、ポンプ室の内周面に摺接するキャップをベーンの両端部に備えるベーンポンプを開示している。特許文献2記載の技術では、ベーンが遠心力によっていずれか一方のキャップ側に移動してキャップがベーン側に退没すると共に、他方のキャップがベーンから突出するようになっている。そして、キャップとベーンとの間に、それらが区画した回転方向前後の空間を相互に連通させる連通路をそれぞれ形成し、上記キャップがベーン側に退没することにより各連通路を閉鎖し、キャップがベーンから突出することにより各連通路を開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−30290号公報
【特許文献2】特開2006−226165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術においては、ベーン前後の圧力室が連通することから、圧力室のシール性の観点から改善の余地がある。
即ち、従来の技術においては、圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を防ぐことが困難であった。
本発明の課題は、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係るベーンポンプは、ベーン摺動面に形成した吐出ポートよりもロータの回転方向における下流側に、ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部を形成した。また、ダム部と吐出ポートとを連通する連通部を形成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係るベーンポンプ1の構成を示す外観図である。
【図2】ベーンポンプ1の吸排気経路を示す断面図である。
【図3】カムリング11の内部構造を示す斜視図である。
【図4】図3におけるカムリング11のA−A断面図である。
【図5】図3におけるカムリング11のB−B断面図である。
【図6】吐出ポート18周辺を示す部分拡大図である。
【図7】ダム部18bおよび連通部18cを有していないベーンポンプに液圧縮が発生する状態を示す説明図である。
【図8】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図9】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図10】ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
【図11】第2実施形態に係るダム部18bの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
本実施形態では、ブレーキアシスト装置の負圧空気供給源であるバキュームポンプに本発明を適用した一実施例を示している。
本実施形態に係るバキュームポンプとしてのベーンポンプは、エンジン(不図示)のクランクシャフトの回転を動力源としている。即ち、チェーンを介してロータの回転軸にクランクシャフトの回転が伝達し、ロータが回転する。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係るベーンポンプ1の構成を示す外観図であり、圧力室を閉塞するサイドプレートの一方を取り外した状態を示している。
また、図2は、ベーンポンプ1の吸排気経路を示す断面図である。
図1および図2において、ベーンポンプ1のハウジングとなる筒状のカムリング11は、略円筒面からなるベーン摺動面12を内周に有し、その内側に円筒状のロータ13を収容している。ベーン摺動面12は、ロータ13の外周面13aの一部と対応する形状のロータ受容面12aを有している。
【0011】
上記ロータ13は、ベーン摺動面12に対し偏心した回転中心を有し、かつ周方向の一部で、外周面13aが上記ベーン摺動面12のロータ受容面12aに実質的に接している。つまり、厳密には極僅かな間隙をもって近接しており、潤滑油膜によって、その間隙を封止した状態となっている。そして、上記ロータ13は、回転軸に沿う中空部を有しており、その中空部を貫通して直径方向にベーン収容溝14を有している。
【0012】
ベーン収容溝14は、板状のベーン15を進退可能に収容している。ベーン収容溝14には、サイドプレート19の油路(不図示)およびロータ13の中空部を介して潤滑油が流入する。即ち、潤滑油は、ベーン収容溝14からベーン15を伝わってカムリング11内に流入する。
ベーン15は、ロータ13の回転に伴う遠心力によってベーン収容溝14内を外周側へ移動し、先端縁15aがベーン摺動面12に摺接する。ベーン15がベーン摺動面12に摺接することによって、カムリング11内に3つの圧力室16を区画形成する。そして、ロータ13の回転に伴って、各圧力室16の容積が変化し、吸入ポート17から空気を吸い込むと共に後述する吐出ポート18へと吐出するポンプ作用が得られる。
【0013】
上記吸入ポート17は、ベーン摺動面12におけるロータ受容面12aの上部(ロータ13の回転方向下流側)に開口している。また、吐出ポート18は、ベーン摺動面12におけるロータ受容面12aの下部(ロータ13の回転方向上流側)に開口している。
また、ベーンポンプ1は、上記カムリング11の端面をそれぞれ閉塞する一対のサイドプレート19,20(サイドプレート20は不図示)を備えている。なお、サイドプレート19,20の一方は、カムリング11と一体形成することもできる。
【0014】
本実施形態に係るベーンポンプ1は、バキュームポンプとして負圧を生成するものであるので、上記吸入ポート17は、逆止弁21を介して接続する吸気管22によって、不図示のバキュームタンクに連通している。また、上記吐出ポート18は、排気管23を通してベーンポンプ1外部に連通しており、圧力室16に吸入した空気を排気管23を通して排出する。また、本実施形態においては、ベーンポンプ1の潤滑油も吐出ポート18から排出しており、吐出ポート18から排出した潤滑油は排気と分離してオイルタンクに流入し、潤滑油の油路を介してベーンポンプ1の圧力室16内に再び流入する。
【0015】
次に、図3〜図6に基づいて、本発明の要部について説明する。
図3は、カムリング11の内部構造を示す斜視図であり、ロータ13を取り外した状態を示している。
また、図4は、図3におけるカムリング11のA−A断面図であり、図5は、図3におけるカムリング11のB−B断面図である。
さらに、図6は、吐出ポート18周辺を示す部分拡大図である。
図3に示すように、カムリング11のベーン摺動面12は、ロータ受容面12a、吸入ポート17および吐出ポート18を有している。
カムリング11のロータ受容面12aは、ロータ13の外周面13aの半径とほぼ同一半径の円筒面の一部となっており、サイドプレート19における軸受部19aの外周に沿う位置に形成してある。
【0016】
ベーン摺動面12は、ロータ13の回転中心に対して、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部および下流側端部から徐々に距離が増加していき、ロータ13の回転中心を挟んでロータ受容面12aと反対側の位置において距離が最大となる形状を有している。また、ベーン摺動面12は、ベーン15がロータ13のベーン収容溝14内を摺動しながら回転したときに、ベーン15の両端が接触を維持する形状となっている。
また、ベーン摺動面12において、ロータ受容面12aの下流側には、ロータ受容面12aの回転方向下流側端部から離間した位置に吸入ポート17が開口している。
【0017】
一方、ベーン摺動面12において、ロータ受容面12aの上流側には、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部から離間した位置に吐出ポート18が開口している。具体的には、吐出ポート18は、ベーン摺動面12の壁面から窪んだ形状の溝部18aの底面部分に開口している。溝部18aは、図4に示すように、矩形に形成した凹部であり、溝部18aの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に近接している。ここで、溝部18aの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に連続する位置に形成することが望ましい。これにより、圧力室16の容積がゼロとなる直前まで、潤滑油を吐出ポート18から流出させることが可能となる。
【0018】
なお、本実施形態では、加工技術の精度から確保が必要となる距離だけロータ受容面12aの回転方向上流側端部から離間した位置に、溝部18aの回転方向下流側端部形成している。
また、図5に示すように、溝部18aの底面は、中央部分の深さが最も深くなる形状の曲面となっている。そして、溝部18aの底面における中央部分より回転方向下流側の位置に、吐出ポート18が開口している。
ここで、図6に示すように、溝部18aは、その回転方向下流側端部に、ベーン15が掻き集めた潤滑油を溜めるダム部18bと、ダム部18bと吐出ポート18とを連通する連通部18cとを有している。
【0019】
ダム部18bの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部との境界部分によって潤滑油を堰き止める作用を有し、堰き止めた潤滑油の一部はダム部18b内(溝部18aの吐出ポート18より回転方向下流側部分)に留まることとなる。そして、ロータ13が回転し、ベーン15が吐出ポート18の位置を通過すると、潤滑油が圧力室16を満たすこととなり、潤滑油にはベーン15の回転による圧力が加わる。連通部18cは、ベーン15の回転による圧力に伴って、ダム部18bに留まっている潤滑油が吐出ポート18へと流出する際の流路となる。
【0020】
(動作)
次に、動作を説明する。
本発明に係るベーンポンプ1は、自動車のエンジン始動と共にクランクシャフトに連動して動作を開始する。
ベーンポンプ1では、クランクシャフトに連動してロータ13が回転する。このとき、ベーン15の先端がカムリング11のベーン摺動面12を摺動しながら回転することにより、カムリング11内に複数の圧力室を形成する。
ベーン15の一端がベーン摺動面12のロータ受容面12aに接触している状態からロータ13が回転すると、ロータ13の外周面13aからベーン15が徐々に突出し、ベーン15とロータ13の外周面13aとベーン摺動面12とによって囲まれた空間が圧力室16となる。
そして、ロータ13がさらに回転すると、圧力室16の容積が徐々に増大し、圧力室16内の圧力は徐々に低下する。
【0021】
ベーン15が吸入ポート17の位置を通過すると、吸入ポート17から圧力室16に気体が流入し、ベーン15の回転に伴い、さらに圧力室16に気体が流入する状態となる。
この状態は、ベーン15の他端が吸入ポート17の位置を通過するまで継続し、ベーン15の他端が吸入ポート17の位置を通過すると、圧力室16は密封状態となる。
そして、ロータ13がさらに回転し、ベーン15の一端が吐出ポート18の位置を通過すると、圧力室16内の気体は吐出ポート18から流出していく。
この後、ロータ13がさらに回転し、ベーン15の他端が吐出ポート18の位置を通過すると、圧力室16内の気体はほぼ流出が完了し、潤滑油が圧力室16を満たす状態となる。
圧力室16内の潤滑油の一部は、ベーン15の他端が溝部18aに差し掛かったときに溝部18a内に溜まり、吐出ポート18から流出する。
【0022】
また、吐出ポート18から流出しなかった潤滑油の一部は、ベーン15の他端が吐出ポート18を通過した後、ダム部18bに留まり、ロータ13の回転により圧力室16の圧力が高まると、連通部18cを通じて吐出ポート18から流出する。
これにより、ベーン15の先端が吐出ポート18を通過した後でも、ベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18bに貯留し、さらに連通部18cを通じて圧力室16から流出させることができる。そのため、圧力室16のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することができる。
【0023】
以上のように、本実施形態に係るベーンポンプ1は、カムリング11のベーン摺動面12にダム部18bを有し、吐出ポート18を通過したベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18b内に貯留する。そして、ロータ13の回転に伴い、ベーン15が圧力室16の圧力を高めると、ダム部18bに貯留していた潤滑油は、連通部18cを通じて吐出ポート18から流出する。
【0024】
ここで、ダム部18bの回転方向下流側端部は、ロータ受容面12aの回転方向上流側端部に近接する位置に形成してあるため、ベーン15が吐出ポート18を通過した後にも潤滑油の流出が可能となっている。また、ベーンポンプ1における圧力室16は、他の圧力室16と連通しない構成である。
したがって、本発明によれば、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【0025】
(参考例)
図7は、本発明に係るダム部18bおよび連通部18cを有していないベーンポンプに液圧縮が発生する状態を示す説明図である。
図7に示すように、ベーンが吐出ポートの位置を通過したのち、潤滑油は逃げ場のない状態となるため、液圧縮が生じる可能性が高いものとなる。
これに対し、本発明のように、吐出ポート18より下流側にダム部18bを形成し、ダム部18bに潤滑油を溜めると共に、圧力室16の圧力の高まりに伴って、連通部18cから潤滑油を流出させるようにすれば、液圧縮が生じる可能性を低下させることができる。
【0026】
(第1実施形態の効果)
(1)ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
(2)ダム部を、ロータの回転方向における下流側端部がロータの外周面とベーン摺動面とが接触する部分に隣接させたため、圧力室の容積がゼロとなる直前まで、潤滑油を吐出ポートから流出させることが可能となる。
【0027】
(3)また、本発明を自動車に適用し、ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、を備えるベーンポンプと、このベーンポンプを用いた流体回路とを備えた自動車とすることができる。
【0028】
これにより、一般に、ロータを回転させる駆動源の回転数変動が大きい自動車において、ベーンポンプのベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留し、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させることができる。
したがって、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能な自動車とすることができる。
【0029】
(4)また、本発明をベーンポンプの液圧制御方法に適用し、ベーンが掻き集めた潤滑油を吐出ポートより下流側においてダム部に貯留するステップと、ベーンの回転による圧力の高まりによって連通路から吐出ポートに流出させるステップとを含むベーンポンプの液圧制御方法とすることができる。
これにより、ベーンポンプにおける圧力室のシール性を低下させることなく、潤滑油の液圧縮を抑制することが可能となる。
【0030】
(応用例)
本応用例では、第1実施形態の構成に対し、潤滑油をより効率的にダム部18bに掻き集める構成としている。
図8〜図10は、ダム部18b周辺の構成における応用例を示す図である。
図8に示すように、ベーン摺動面12におけるダム部18bの周辺からダム部18bに向けて、ベーン15の回転方向と直交する向き(ベーン摺動面12の幅方向)の誘導溝Pを形成することができる。
これにより、ベーン摺動面12の全幅に渡る領域からダム部18bに潤滑油を掻き集めることができ、液圧縮が生じる可能性を低減することができる。
【0031】
なお、この場合、1つの誘導溝Pがベーン摺動面12の全幅にわたることのないよう、誘導溝Pはベーン摺動面12の全幅における一部にのみ形成することとする。
これにより、ベーン15が誘導溝Pに嵌り込むことを回避できる。
また、図9に示すように、サイドプレート19,20に、サイドプレート19,20におけるダム部18bの側方位置に向かう誘導溝Pを形成することができる。この誘導溝Pは、ロータ13が吐出ポート18の位置を通過した後に、ロータ受容面12a側の圧力室16の側面となる範囲に形成する。
【0032】
これにより、サイドプレート19,20の誘導溝Pを伝わって潤滑油がダム部18bに流れ込み易くなり、より効率的に潤滑油をダム部18bに集めることが可能となる。
また、図10に示すように、ベーン摺動面12のダム部18b周辺に、ダム部18bから放射状に広がる誘導溝Pを形成することができる。
これにより、ベーン15がダム部18bの位置を通過する前後にわたって、ベーン15が掻き集めた潤滑油をダム部18bに流れ込み易くさせることができる。
【0033】
また、上記応用例における各誘導溝Pは、ダム部18bから離れるにつれて溝幅が広がるテーパを有するものとできる。
これにより、ダム部18bに潤滑油を流れ込み易くすることができる。
また、この場合、ダム部18bに近づくにつれて誘導溝Pを深くすることができる。
これにより、ダム部18bに流れ込む潤滑油に加わる流体圧力を低減することができる。
【0034】
(効果)
(1)ベーン摺動面あるいはサイドプレートに、ダム部に向かう誘導溝を形成したため、潤滑油をより効率的にダム部に掻き集めることができる。
(2)ベーン摺動面における幅方向の一部に、ベーンの回転方向と直交する向きの誘導溝を形成したため、ベーンが誘導溝に嵌り込むことを防ぎつつ、ベーン摺動面の全幅に渡る領域からダム部に潤滑油を掻き集めることができる。
(3)ベーン摺動面に、ダム部に向かう放射状の誘導溝を形成したため、ベーンがダム部の位置を通過する前後にわたって、ベーンが掻き集めた潤滑油をダム部に流れ込み易くさせることができる。
(4)サイドプレートに、ダム部の側方位置に向かう誘導溝を形成したため、誘導溝を伝わって潤滑油がダム部に流れ込み易くなり、より効率的に潤滑油をダム部に集めることが可能となる。
【0035】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、ダム部18bと連通部18cとを区分して異なる形状で構成したが、これらを一体的に構成することができる。
図11は、本発明の第2実施形態に係るダム部18bの構成例を示す図である。
図11に示すように、ベーン15が吐出ポート18を通過した状態において、そのときにロータ受容面12a側にある圧力室から、ベーン15の厚みを超えて吐出ポート18側に繋がる連通経路を形成する。この連通経路は、一体的に構成したダム部18bおよび連通部18cとして作用するように、潤滑油を目的の量(液圧縮を抑制可能な量)だけ収容できる容積に形成する。
【0036】
連通部18cを一体に形成したダム部18b(すなわち連通経路)は、ベーン摺動面12およびサイドプレート19,20のいずれに形成することもできる。
このようなダム部18bの形態とした場合、ベーン15が吐出ポート18を通過する前は、ダム部18bは同一の圧力室16内を連通するものとなるため、圧力室16のシール性に影響を及ぼさない。
一方、ベーン15が吐出ポート18を通過すると、ダム部18bがこの圧力室16からベーン15の後方に連通することになり、潤滑油を吐出ポート18側に流出させる状態となる。
したがって、圧力室16のシール性を低下させることなく、液圧縮が生じることを抑制できる。
【0037】
また、ダム部18bと連通部18cとを一体に形成することができるため、ダム部18bおよび連通部18cを形成する際の加工を容易なものとできる。
なお、第2実施形態の構成においても、第1実施形態の応用例と同様に、ダム部18bに潤滑油を流れ込み易くする形状の誘導溝Pを形成することが可能である。
また、第1実施形態のダム部18bと第2実施形態のダム部18b(連通経路)とを併せて形成することもできる。
(第2実施形態の効果)
(1)ダム部と連通部とを一体の経路として形成したため、これらを形成する際の加工を容易なものとできる。
【符号の説明】
【0038】
1 ベーンポンプ、11 カムリング、12 ベーン摺動面、12a ロータ受容面、13 ロータ、13a 外周面、14 ベーン収容溝、15 ベーン、15a 先端縁、16 圧力室、17 吸入ポート、18 吐出ポート、18a 溝部、18b ダム部、18c 連通部、19,20 サイドプレート、19a 軸受部、21 逆止弁、22 吸気管、23 排気管、P 誘導溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、
前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、
前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、
前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、
前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、
前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、
前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、
を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ダム部は、前記ロータの回転方向における下流側端部が前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に隣接していることを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ベーン摺動面あるいは前記サイドプレートに、前記ダム部に向かう誘導溝を有することを特徴とする請求項1または2記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ベーン摺動面における幅方向の一部に、前記ベーンの回転方向と直交する向きの誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ベーン摺動面に、前記ダム部に向かう放射状の誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記サイドプレートに、前記ダム部の側方位置に向かう誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項7】
前記誘導溝は、前記ダム部から離れるにつれて溝幅が広くなる形状を有することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のベーンポンプ。
【請求項8】
前記ダム部と前記連通部とを一体の経路として形成したことを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項1】
ベーン摺動面を内周に有するカムリングと、
前記カムリングの端面を閉塞するサイドプレートと、
前記カムリングのベーン摺動面に外周面の一部が接触する位置に回転軸を設けて設置した円筒状のロータと、
前記ロータの外周面から進退可能であり、先端が前記ベーン摺動面に摺接しながら回転するベーンと、
前記ベーン摺動面に形成した吐出ポートと、
前記吐出ポートよりも前記ロータの回転方向における下流側に形成し、前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に集まる潤滑油を溜めるダム部と、
前記ダム部と前記吐出ポートとを連通する連通部と、
を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ダム部は、前記ロータの回転方向における下流側端部が前記ロータの外周面と前記ベーン摺動面とが接触する部分に隣接していることを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ベーン摺動面あるいは前記サイドプレートに、前記ダム部に向かう誘導溝を有することを特徴とする請求項1または2記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ベーン摺動面における幅方向の一部に、前記ベーンの回転方向と直交する向きの誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ベーン摺動面に、前記ダム部に向かう放射状の誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記サイドプレートに、前記ダム部の側方位置に向かう誘導溝を有することを特徴とする請求項3記載のベーンポンプ。
【請求項7】
前記誘導溝は、前記ダム部から離れるにつれて溝幅が広くなる形状を有することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載のベーンポンプ。
【請求項8】
前記ダム部と前記連通部とを一体の経路として形成したことを特徴とする請求項1記載のベーンポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−36807(P2012−36807A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177234(P2010−177234)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]