説明

ベーン圧縮機

【課題】吐出空間に潤滑油が貯まることを防止し、吐出空間の容積減少を防止して吐出脈動を低減することができるとともに、摺動部の摺動用に供給される潤滑油量の減少を防止することができるベーン圧縮機を提供する。
【解決手段】ベーン圧縮機10のハウジングH内には吐出空間Daと、吐出空間Daよりも低圧の吐出室30が形成されるとともに、リヤサイドプレート15には油分離器40が接合されている。リヤサイドプレート15には吐出空間Daと吐出室30とを繋ぐ吐出通路15eが形成されている。ベーン圧縮機10は、吐出空間Daと吐出通路15eとを繋ぐオイル戻し通路45を備え、油分離器40には吐出通路15eに連通する連通通路41aが形成されている。そして、オイル戻し通路45によって吐出空間Da内の潤滑油を吐出室30へ戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンによってシリンダブロック内に圧縮室が形成されたベーン圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示のように、ベーン圧縮機において、ハウジング内にはシリンダブロックが収容されるとともに、このシリンダブロックの軸方向両端それぞれにはサイドプレートが接合されている。また、シリンダブロックの内部には複数のベーンを備えたロータが回転可能に収容されるとともに、これらベーンによってシリンダブロック内には作動室(圧縮室)が形成されている。シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向するハウジングの内周面と、両サイドプレートの一側面との間には作動室で圧縮された冷媒ガスの吐出空間が区画されている。また、シリンダブロックには、その内部の圧縮室と外部の吐出空間とを連通する吐出口が形成されている。
【0003】
さらに、リヤのサイドプレートの他側面とハウジングの内面との間には油貯留室(吐出室)が区画されるとともに、この油貯留室内には、冷媒ガスに含まれる潤滑油を分離する油分離器が設けられている。この油分離器は、ケースに形成された油分離室と、この油分離室の上部に設けられた油分離筒とを備える。
【0004】
また、リヤのサイドプレートには吐出空間と油貯留室とを連通する吐出通路が形成され、この吐出通路を介して吐出空間と油分離器とが連通している。そして、冷媒ガス中に含まれるミスト状の潤滑油は、吐出空間から吐出通路を通して油分離器に供給され、油分離器により分離される。また、冷媒ガスから分離された潤滑油は油分離室から滴下し、油貯留室に貯留される。この油貯留室に貯留された潤滑油はロータとサイドプレートとの摺動面やロータとベーンとの摺動面等の各摺動部に供給される。
【特許文献1】特開平7−12072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、冷媒ガス中に含まれる潤滑油は、作動室から吐出空間に吐出された際、ハウジングの内周面に衝突すること等により吐出空間で冷媒ガスから分離されてしまい、潤滑油が吐出空間内に貯まってしまう。潤滑油が吐出空間内に貯まると、吐出脈動を低減させる効果の大きい吐出空間の容積が減少してしまい、ベーン圧縮機の吐出脈動による異常騒音が増大してしまう。また、吐出空間内に潤滑油が貯まってしまうと、ベーン圧縮機内の各摺動部の潤滑に用いられる潤滑油量が減少してしまう。
【0006】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、吐出空間に潤滑油が貯まることを防止し、吐出空間の容積減少を防止して吐出脈動を低減することができるとともに、摺動部の摺動用に供給される潤滑油量の減少を防止することができるベーン圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、ハウジング内には筒状のシリンダブロックが収容され、該シリンダブロックの内部にはベーンを備えたロータが回転可能に収容されるとともに前記シリンダブロックの両端にはサイドプレートが接合され、前記ベーンによって前記シリンダブロック内には圧縮室が形成されるとともに、前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する前記ハウジングの内周面と、両サイドプレートにおいて前記シリンダブロックに対向する一方の端面とで囲まれる空間には、前記圧縮室で圧縮された冷媒ガスの吐出空間が区画され、さらに、一方のサイドプレートにおける他方の端面と、前記ハウジングの内面との間には前記吐出空間から冷媒ガスが吐出される吐出室が区画され、さらに、前記一方のサイドプレートに前記吐出空間と前記吐出室とを繋ぐ吐出通路が形成されたベーン圧縮機であって、前記吐出通路より下方において前記吐出空間と、該吐出空間より低圧の低圧部とを繋ぐオイル戻し通路を備え、前記吐出空間と前記低圧部との差圧に基づき前記オイル戻し通路によって前記吐出空間内の潤滑油を前記低圧部へ戻すようにしたものである。
【0008】
これによれば、圧縮室から吐出空間に冷媒ガスが吐出された際に、吐出空間で冷媒ガスから潤滑油が分離されても、吐出空間と低圧部との差圧により吐出空間の潤滑油をオイル戻し通路を介して低圧部へ戻すことができる。したがって、吐出空間に潤滑油が貯まることを防止し、吐出空間の容積減少を防止することができるため、吐出空間による吐出脈動の緩衝作用を発揮させ、吐出脈動を低減することができる。また、潤滑油が吐出空間内に貯まることで、ベーン圧縮機内を流れる潤滑油量が低下してしまうことを防止することができる。
【0009】
また、前記低圧部は前記吐出室であってもよい。これによれば、吐出室は、冷媒ガスの流通方向において吐出空間の下流側に位置している。このため、例えば、オイル戻し通路を、冷媒ガスの流通方向における吐出空間の上流側に位置する低圧部(例えば、圧縮室)に連通させた場合と比べると、オイル戻し通路の通路断面積を大きくすることができる。また、オイル戻し通路を、冷媒ガスの流通方向における吐出空間の上流側に位置する低圧部(例えば、圧縮室)に連通させると、吐出空間に潤滑油が貯まっていない場合は、吐出空間の冷媒ガスが圧縮室に流れて再圧縮されることとなる。よって、オイル戻し通路が、流通方向における下流側の吐出室に連通していることにより、冷媒ガスが再圧縮されることがなくなる。
【0010】
また、前記オイル戻し通路は、一端が前記吐出空間に連通するとともに、他端が前記吐出通路に連通しているものでもよい。これによれば、吐出通路には吐出空間から吐出された冷媒ガスが流入してくる。このため、オイル戻し通路を吐出通路に連通させることにより、吐出通路から吐出室へ流れる冷媒ガスに潤滑油を乗せ、冷媒ガスとともに潤滑油を吐出室へ戻すことができる。
【0011】
また、前記一方のサイドプレートにおける他方の端面には、前記冷媒ガスから潤滑油を分離する油分離器が接合されるとともに該油分離器は前記吐出室内に設けられ、前記油分離器には前記吐出通路に連通する連通通路が形成されていてもよい。
【0012】
これによれば、オイル戻し通路から吐出通路へ戻された潤滑油は、冷媒ガスとともに連通通路へ流入し、その後、油分離器へ供給される。そして、油分離器によって冷媒ガスと潤滑油が分離される。このため、吐出空間内の潤滑油は、冷媒ガスとともに吐出室へ戻された後、油分離器によって確実に冷媒ガスと分離される。
【0013】
また、前記オイル戻し通路は、一端が前記吐出空間に連通するように前記サイドプレートに形成されたオイル戻し孔と、このオイル戻し孔の他端及び前記吐出通路に連通するように前記サイドプレートにおける他方の端面に凹設されたオイル戻し溝とから形成されていてもよい。
【0014】
これによれば、サイドプレートといったベーン圧縮機に吐出室及び吐出空間を形成する一部材を加工するだけの簡単な構成で、吐出空間に潤滑油が貯まることを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吐出空間に潤滑油が貯まることを防止し、吐出空間の容積減少を防止して吐出脈動を低減することができるとともに、摺動部の摺動用に供給される潤滑油量の減少を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化したベーン圧縮機の一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。なお、以下の説明においてベーン圧縮機の「前」及び「後」は、図1に示す矢印Y1の方向を前後方向とし、「上」及び「下」は、図1に示す矢印Y2の方向を上下方向とする。
【0017】
図1に示すように、ベーン圧縮機10のハウジングHは、リヤハウジング11と、このリヤハウジング11の前端面(一端面)に接合されたフロントハウジング12とから形成されている。リヤハウジング11(ハウジングH)の内部には筒状をなすシリンダブロック13が収容されている。このシリンダブロック13の内周面は楕円状に形成されている(図2参照)。
【0018】
また、リヤハウジング11(ハウジングH)の内部において、シリンダブロック13の前端面(一端面)にはサイドプレートとしてのフロントサイドプレート14が接合されるとともに、シリンダブロック13の後端面(他端面)には、サイドプレートとしてのリヤサイドプレート15が接合されている。そして、シリンダブロック13の外周面と、この外周面に対向するリヤハウジング11(ハウジングH)の内周面と、フロントサイドプレート14及びリヤサイドプレート15においてシリンダブロック13に対向する一方の端面たる第1端面14a,15aとの間には、吐出空間Daが区画形成されている。
【0019】
また、フロントサイドプレート14及びリヤサイドプレート15には回転軸17が回転可能に支持されるとともに、回転軸17はシリンダブロック13内を貫通している。シリンダブロック13内において、回転軸17には円筒状をなすロータ18が回転軸17に一体回転可能に止着されている。図2に示すように、ロータ18の外周面には、複数箇所に放射状にベーン溝18aが形成されるとともに、各ベーン溝18aそれぞれにはベーン20が出没可能に収容されている。各ベーン溝18aには潤滑油が供給されるようになっている。
【0020】
そして、回転軸17の回転に伴うロータ18の回転によってベーン20の先端面がシリンダブロック13の内周面に接触すると、ロータ18の外周面と、シリンダブロック13の内周面と、隣り合うベーン20と、フロントサイドプレート14及びリヤサイドプレート15との間に圧縮室21が区画される。ベーン圧縮機10において、ロータ18の回転方向に関して圧縮室21が容積を拡大する行程が吸入行程となり、圧縮室21が容積を減少する行程が圧縮行程となる。
【0021】
また、図1に示すように、ベーン圧縮機10において、フロントハウジング12の上部には吸入ポート24が形成されるとともに、フロントハウジング12内には吸入ポート24に連通する吸入空間Saが形成されている。さらに、フロントサイドプレート14には、吸入空間Saと連通する吸入口14bが形成されている。また、シリンダブロック13には、シリンダブロック13を軸方向全体に亘って貫通する吸入通路13bが形成されている。そして、吸入行程中の圧縮室21と吸入空間Saとは、吸入口14b及び吸入通路13bを介して連通される。
【0022】
図2に示すように、また、シリンダブロック13の上下方向における中央部に位置し、かつシリンダブロック13の両側に位置する外周面それぞれには切欠部13dが、シリンダブロック13の外周面から凹むように形成されている。両切欠部13dそれぞれは、シリンダブロック13の軸方向全体に亘って延びるように形成されるとともに、吐出空間Daの一部を形成している。両切欠部13dそれぞれは、シリンダブロック13の外周面からシリンダブロック13の内側に向けて延びる段差面13fを有するとともに、この段差面13fに対し交差しつつシリンダブロック13の外周面に向けて延びる取付面13gを有する。2つの切欠部13dのうち一方(図2では左方)の切欠部13dは、取付面13gの上側に段差面13fが位置するように形成され、他方(図2では右方)の切欠部13dは、取付面13gの下側に段差面13fが位置するように形成されている。
【0023】
シリンダブロック13の上下方向における中央部には、圧縮行程中の圧縮室21と吐出空間Daとを連通するように吐出口13aが形成されている。各吐出口13aは各取付面13gから吐出空間Daに向けて開口している。各取付面13gには、吐出弁22が取り付けられるとともに、この吐出弁22により吐出口13aは開閉可能となっている。そして、圧縮室21で圧縮された冷媒ガスは、吐出弁22を押し退けて吐出口13aを介して切欠部13d(吐出空間Da)へ吐出されるようになっている。
【0024】
図1に示すように、リヤハウジング11の後側には、リヤサイドプレート15によって吐出室30が区画形成されている。すなわち、リヤハウジング11内は、リヤサイドプレート15によって吐出空間Da側と吐出室30側とに区画されている。また、吐出室30は、リヤサイドプレート15の他方の端面としての第2端面15bと、リヤハウジング11の後側の内面とで囲まれた空間である。なお、第2端面15bは、リヤサイドプレート15の厚み方向において第1端面15aの反対側に位置する端面である。
【0025】
図3に示すように、リヤサイドプレート15の第2端面15bには、一定の厚みを持って後側に膨出する膨出部15cが形成されている。膨出部15cには、一対の吐出通路15eが形成されている。各吐出通路15eは、膨出部15cに凹設された溝部15fと、この溝部15fの下端(一端)に連通し、かつリヤサイドプレート15を厚み方向に貫通するように延びる絞り部15gとから形成されている。絞り部15gは、前端(一端)が吐出空間Daに向けて開口して吐出空間Daに連通するとともに、後端(他端)が溝部15fの下端(一端)に連通している(図1参照)。
【0026】
図1に示すように、各絞り部15gの前端は、吐出口13aと対応するようにリヤサイドプレート15の上下方向における中央部に形成されている。すなわち、各絞り部15gは、リヤサイドプレート15の上下方向における中央部で回転軸17を挟むように、リヤサイドプレート15に2箇所形成されており、絞り部15gはリヤサイドプレート15の下部には形成されていない。そして、吐出空間Daの冷媒ガスは、吐出通路15eを通過して吐出室30に供給されるため、吐出通路15eにおける絞り部15gで絞られることにより減圧される。よって、減圧された冷媒ガスが吐出される吐出室30は、吐出空間Daよりも低圧の低圧部となっているとともに、冷媒ガスの流通方向において吐出空間Daよりも下流側に位置している。
【0027】
ベーン圧縮機10において、吐出室30内には冷媒ガス中に含まれる潤滑油を分離するための油分離器40が設けられており、この油分離器40内は吐出室30と同圧の低圧部となっている。また、吐出室30内において、油分離器40の外側には油貯留室31が区画されている。
【0028】
油分離器40は、両吐出通路15eを覆うように膨出部15cにガスケットGを介して接合固定されたケース41と、このケース41に形成した有底円筒状の油分離室42と、この油分離室42の上部に嵌合固定した円筒状の油分離筒43とより構成されている。ケース41には各吐出通路15eの上端(他端)と連通するように一対の連通通路41a(図4参照)が形成されるとともに、連通通路41aは油分離筒43の外周面に対向するように形成されている。そして、吐出通路15eは、吐出空間Daと、吐出室30内に設けられた油分離器40内とを繋いでいる。
【0029】
また、油分離器40において、ケース41の下部には、油分離室42内の潤滑油を油貯留室31へ流下させる油通路41bが形成されている。さらに、リヤサイドプレート15の膨出部15c内には、油貯留室31(吐出室30の底部側)に貯留された潤滑油をベーン溝18a等に導くための油供給通路15dが形成されている。
【0030】
図1、図3及び図4に示すように、リヤサイドプレート15の下部には、吐出空間Da内の潤滑油を吐出室30へ戻すためのオイル戻し通路45が形成されている。このオイル戻し通路45は、リヤサイドプレート15の厚み内で延びるように形成されたオイル戻し孔45bと、このオイル戻し孔45bに連通し、かつ膨出部15cの端面に露出するように凹設されたオイル戻し溝45aとから形成されている。
【0031】
オイル戻し孔45bの前端は、吐出空間Daの最下部近傍に向けて開口するように第1端面15aの下端に開口している。また、オイル戻し孔45bは、その後端が前端より上方に位置するようにリヤサイドプレート15の厚み内を斜め上方に向けて延びるように形成され、オイル戻し孔45bの後端は、膨出部15cにおける回転軸17のやや下方となる位置で開口している。
【0032】
オイル戻し溝45aは、下端がオイル戻し孔45bの後端に連通するとともに、上端が吐出通路15eにおける溝部15fに連通するようにオイル戻し孔45bから斜め上方へ向けて延びるように形成されている。オイル戻し溝45aは、冷媒ガスの流通方向において絞り部15gよりも下流側となる溝部15fに連通している。また、オイル戻し溝45aは、リヤサイドプレート15の膨出部15cにガスケットGが接合されることで吐出室30からシールされている。
【0033】
よって、吐出空間Daと、吐出室30に連通する吐出通路15eとは、オイル戻し通路45によって繋がれている。また、オイル戻し通路45は、吐出通路15e及び吐出口13aよりも下方に位置するように設けられている。さらに、吐出通路15eは油分離器40の連通通路41aに連通しているため、吐出空間Daと油分離器40とはオイル戻し通路45及び吐出通路15eを介して繋がっている。
【0034】
次に、上記構成のベーン圧縮機について、その動作を説明する。
さて、回転軸17が回転されると、ロータ18及びベーン20が回転し、冷媒ガスが吸入空間Saから吸入口14b、及び吸入通路13bを介して吸入行程中の圧縮室21に吸入される。そして、圧縮室21に吸入された冷媒ガスは、圧縮行程中の圧縮室21の容積減少により圧縮される。圧縮された冷媒ガスは、吐出口13aから切欠部13d(吐出空間Da)に吐出される。吐出口13aから吐出空間Daへ冷媒ガスが吐出されたとき、冷媒ガスがリヤハウジング11の内周面に衝突したりする等により冷媒ガスから潤滑油が分離され、吐出空間Daには潤滑油が存在することとなる。
【0035】
吐出空間Daに吐出された冷媒ガスは、絞り部15gによって絞られ、その後、溝部15fに流入する。冷媒ガスは、溝部15fから連通通路41aへ流入し、連通通路41aから油分離器40に供給される。そして、冷媒ガスは連通通路41aから油分離筒43の外周面に吹き付けられるとともに、油分離筒43の外周面を旋回しながら油分離室42の下方へ導かれる。このとき、遠心分離によって冷媒ガスから潤滑油が分離される。そして、冷媒ガスから分離された潤滑油は油分離室42に貯まり、さらに、油通路41bから吐出室30の油貯留室31へ滴下される。油貯留室31に貯留された潤滑油は、油供給通路15dからベーン溝18aや、ベーン圧縮機10内の摺動部に導かれ、各摺動部が潤滑油によって潤滑される。一方、潤滑油が分離された冷媒ガスは、油分離筒43の内部を上方へ移動し、ベーン圧縮機10外(例えば、外部冷媒回路)へ導出される。
【0036】
このようなベーン圧縮機10において、吐出空間Daで冷媒ガスから分離された潤滑油は、吐出空間Daと吐出室30との差圧に基づき、オイル戻し孔45bを通過してオイル戻し溝45aに流入する。さらに、潤滑油は、オイル戻し溝45aから吐出通路15eの溝部15fへ流入する。溝部15fに流入した潤滑油は、油分離器40に向かって吐出通路15eを流れる冷媒ガスに乗って連通通路41aから油分離器40に供給される。そして、潤滑油は、油分離器40で冷媒ガスから分離された後、油貯留室31に滴下する。よって、ベーン圧縮機10内に、吐出空間Daと吐出室30とを繋ぐオイル戻し通路45を設けることにより、吐出空間Da内の潤滑油を吐出室30へ戻すことができる。
【0037】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)圧縮室21の外周側に吐出空間Daが区画されるとともにハウジングH内に吐出室30が区画され、リヤサイドプレート15に吐出空間Daと吐出室30とを繋ぐ吐出通路15eが形成されたベーン圧縮機10において、吐出通路15eより下方に吐出空間Daと吐出通路15eとを繋ぐオイル戻し通路45を形成した。このため、吐出空間Daで冷媒ガスから潤滑油が分離されても、吐出空間Da内の潤滑油をオイル戻し通路45を介して吐出通路15eへ戻し、吐出通路15eを通過する冷媒ガスに乗せて潤滑油を吐出室30に戻すことができる。よって、オイル戻し通路45を形成することにより、吐出空間Daに潤滑油が貯まることを防止することができる。したがって、吐出脈動の緩衝作用を有している吐出空間Daの容積減少を防止して吐出脈動を低減することができる。また、潤滑油が吐出空間Da内に死にオイルとして貯まることを無くし、ベーン圧縮機10内を流れる潤滑油量の低下を防止することができる。その結果として、ベーン圧縮機10内の各摺動部に供給される潤滑油量の減少を防止し、各摺動部の信頼性の低下を防止することができる。
【0038】
(2)リヤサイドプレート15に、吐出空間Daと吐出通路15eとを繋ぐオイル戻し通路45を形成した。このため、吐出空間Daで冷媒ガスから潤滑油が分離されても、吐出空間Da内の潤滑油をオイル戻し通路45を介して吐出通路15eへ戻し、吐出通路15eを流れる冷媒ガスとともに潤滑油を吐出室30に戻すことができる。よって、吐出空間Da内に潤滑油が貯まることを防止することができる。したがって、吐出空間Daに貯まった潤滑油が、吐出弁22の作動(特に、開方向への変形)の妨げとなることを防止することができる。その結果として、吐出空間Daの開き遅れが防止され、過圧縮を防止してベーン圧縮機10の動力損失を低減することができる。
【0039】
(3)オイル戻し通路45を吐出空間Daと吐出通路15eに連通させた。吐出通路15eには吐出空間Daから吐出された冷媒ガスが流入してくる。このため、オイル戻し通路45によって吐出通路15eに戻された潤滑油は、吐出通路15eを流れる冷媒ガスによって吐出室30(油分離器40)へ戻すことができる。
【0040】
(4)吐出空間Daの潤滑油は、オイル戻し通路45を介して吐出通路15eへ戻され、吐出通路15eから連通通路41aを介して油分離器40に供給される。このため、吐出空間Daの冷媒ガスが、オイル戻し通路45により潤滑油とともに吐出通路15eへ戻されても、油分離器40で冷媒ガスと潤滑油とを分離することができる。よって、例えば、オイル戻し通路45によって吐出空間Daの潤滑油を油貯留室31に直接戻す場合に比較して冷媒ガスと潤滑油の分離を精度良く行うことができる。
【0041】
(5)シリンダブロック13の外周面には一対の切欠部13dが凹設されるとともに、各切欠部13dを形成するようにシリンダブロック13の外周面から凹んだ取付面13gに吐出口13aが開口している。また、各切欠部13dそれぞれは取付面13gに交差するように段差面13fを有しており、一方の段差面13fは取付面13gの上側に位置し、他方の段差面13fは取付面13gの下側に位置している。このため、一方の切欠部13d内には、他方の切欠部13dに比して潤滑油が貯まりやすくなり、切欠部13d内への潤滑油の貯まり方の差により2つの切欠部13dの間に圧力差が生じると、この圧力差によりロータ18ががたつき、騒音が発生する虞がある。しかし、本実施形態では、オイル戻し通路45を形成することで吐出空間Daに潤滑油が貯まることを防止することができるため、切欠部13dの形状が異なっていてもロータ18のシリンダブロック13内でのがたつきを防止し、このがたつきに起因した騒音の発生を防止することができる。
【0042】
(6)オイル戻し通路45は、ハウジングH内に吐出空間Da及び吐出室30を区画するリヤサイドプレート15に形成されている。よって、ベーン圧縮機10を形成する一部材(リヤサイドプレート15)を加工するだけの簡単な構成で、吐出空間Daに潤滑油が貯まることを防止することができる。
【0043】
(7)吐出空間Daから吐出室30へ冷媒ガスを吐出させるために、リヤサイドプレート15には吐出通路15eが形成されている。この吐出通路15eにおける絞り部15gは、リヤサイドプレート15の上下方向における中央部に形成されている。このため、吐出空間Daで冷媒ガスから潤滑油が分離されても、吐出通路15eが潤滑油で満たされることを防止することができる。
【0044】
(8)オイル戻し通路45は、吐出通路15eより下方に位置するように設けられるとともに、オイル戻し通路45におけるオイル戻し孔45bの前端は、吐出空間Daの最下部近傍に向けて開口するようにリヤサイドプレート15に形成されている。よって、吐出空間Daの下部に潤滑油が貯まっても、この潤滑油をオイル戻し通路45によって吐出室30へ戻すことができる。
【0045】
(9)オイル戻し通路45は、吐出空間Daに前端が連通するとともに、後端が冷媒ガスの流通方向において吐出空間Daの下流側に位置する吐出通路15eに連通している。ここで、例えば、オイル戻し通路45が、吐出空間Daと、冷媒ガスの流通方向における吐出空間Daより上流側に位置する圧縮室21とを繋いでいると、潤滑油の戻り量を抑えるためにオイル戻し通路45の通路断面積を極めて小さくする必要がある。しかし、本実施形態では、吐出空間Daより下流側の吐出通路15eにオイル戻し通路45を連通させたため、吐出室30(油分離器40)への潤滑油の戻り量を抑える必要がないため、オイル戻し通路45の通路断面積を比較的大きく形成することができる。また、吐出空間Daに潤滑油が貯まっていない場合には、オイル戻し通路45を介して吐出空間Daの冷媒ガスが圧縮室21へ抜けてしまい、冷媒ガスの再圧縮が行われ、ベーン圧縮機10の圧縮効率が低下してしまう。しかし、本実施形態では、吐出空間Daより下流側の吐出通路15eにオイル戻し通路45を連通させたため、冷媒ガスが再圧縮されることがなくなり、ベーン圧縮機10の圧縮効率を低下させることなく潤滑油を吐出室30に戻すことができる。
【0046】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 図5に示すように、オイル戻し通路50を、前端(一端)が吐出空間Daに連通するようにリヤサイドプレート15に形成された第1通路51と、この第1通路51と吐出通路15eとを連通するようにガスケットGに形成された第2通路52とから形成してもよい。
【0047】
○ オイル戻し通路を、前端(一端)が吐出空間Daに連通するとともに後端(他端)が低圧部としての吐出室30の下部(油貯留室)に連通するように、リヤサイドプレート15を厚み方向に貫通して形成し、吐出空間Daの潤滑油を吐出室30の下部に直接戻すようにしてもよい。
【0048】
○ オイル戻し通路を、前端(一端)が吐出空間Daに連通するとともに後端(他端)が低圧部としての油分離器40の連通通路41aに直接連通するように、オイル戻し通路をリヤサイドプレート15及びケース41に形成してもよい。
【0049】
○ オイル戻し通路を、一端を吐出空間Daに連通させるとともに、他端を吸入行程中の圧縮室21(低圧部)に連通させるように、オイル戻し通路をシリンダブロック13に形成してもよい。この場合、オイル戻し通路は、シリンダブロック13においてリヤサイドプレート15に対向する後端面に形成された切り欠きによって形成される。
【0050】
○ オイル戻し通路を、一端が吐出空間Daに連通するとともに、他端が低圧部としての吸入通路13bや油供給通路15dに連通するように形成してもよい。
○ 実施形態において、油分離器40を削除するとともに、オイル戻し通路45によって吐出通路15eへ戻された潤滑油を、吐出通路15eから吐出室30へ直接戻すようにしてもよい。なお、この場合、オイル戻し通路45におけるオイル戻し溝45aはガスケットGによってシールされる。
【0051】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)前記一方のサイドプレートと前記油分離器との間にはガスケットが介装され、前記オイル戻し通路は、一端が前記吐出空間に連通するように前記サイドプレートに形成された第1通路と、この第1通路と前記吐出通路とを連通するように前記ガスケットに形成された第2通路とから形成されている請求項4に記載のベーン圧縮機。
【0052】
(2)前記吐出通路において前記吐出空間に連通する絞り部は、前記シリンダブロックの上下方向における中央部に形成されている請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載のベーン圧縮機。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態のベーン圧縮機を示す縦断面図。
【図2】実施形態のベーン圧縮機内を示す図1の2−2線断面図。
【図3】リヤサイドプレートの第2端面を示す図1の3−3線断面図。
【図4】リヤサイドプレートに油分離器を接合した状態を示す図1の4−4線断面図。
【図5】オイル戻し通路の別例を示す断面図。
【符号の説明】
【0054】
H…ハウジング、Da…吐出空間、10…ベーン圧縮機、13…シリンダブロック、13b…低圧部としての吸入通路、14…サイドプレートとしてのフロントサイドプレート、14a…一方の端面としての第1端面、15…一方のサイドプレートとしてのリヤサイドプレート、15a…一方の端面としての第1端面、15b…他方の端面としての第2端面、15d…低圧部としての油供給通路、15e…吐出通路、18…ロータ、20…ベーン、21…圧縮室(低圧部)、30…低圧部としての吐出室、40…油分離器、41a…連通通路、45,50…オイル戻し通路、45a…オイル戻し溝、45b…オイル戻し孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内には筒状のシリンダブロックが収容され、該シリンダブロックの内部にはベーンを備えたロータが回転可能に収容されるとともに前記シリンダブロックの両端にはサイドプレートが接合され、前記ベーンによって前記シリンダブロック内には圧縮室が形成されるとともに、前記シリンダブロックの外周面と、該外周面に対向する前記ハウジングの内周面と、両サイドプレートにおいて前記シリンダブロックに対向する一方の端面とで囲まれる空間には、前記圧縮室で圧縮された冷媒ガスの吐出空間が区画され、さらに、一方のサイドプレートにおける他方の端面と、前記ハウジングの内面との間には前記吐出空間から冷媒ガスが吐出される吐出室が区画され、さらに、前記一方のサイドプレートに前記吐出空間と前記吐出室とを繋ぐ吐出通路が形成されたベーン圧縮機であって、
前記吐出通路より下方において前記吐出空間と、該吐出空間より低圧の低圧部とを繋ぐオイル戻し通路を備え、前記吐出空間と前記低圧部との差圧に基づき前記オイル戻し通路によって前記吐出空間内の潤滑油を前記低圧部へ戻すようにしたベーン圧縮機。
【請求項2】
前記低圧部は前記吐出室である請求項1に記載のベーン圧縮機。
【請求項3】
前記オイル戻し通路は、一端が前記吐出空間に連通するとともに、他端が前記吐出通路に連通している請求項2に記載のベーン圧縮機。
【請求項4】
前記一方のサイドプレートにおける他方の端面には、前記冷媒ガスから潤滑油を分離する油分離器が接合されるとともに該油分離器は前記吐出室内に設けられ、前記油分離器には前記吐出通路に連通する連通通路が形成されている請求項3に記載のベーン圧縮機。
【請求項5】
前記オイル戻し通路は、一端が前記吐出空間に連通するように前記サイドプレートに形成されたオイル戻し孔と、このオイル戻し孔の他端及び前記吐出通路に連通するように前記サイドプレートにおける他方の端面に凹設されたオイル戻し溝とから形成されている請求項2〜請求項4のうちいずれか一項に記載のベーン圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−31759(P2010−31759A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195179(P2008−195179)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】