説明

ペダルアームの軸受部材、およびペダルアーム

【課題】軸受部材を取付穴内に挿通してかしめ加工によって取り付ける場合に、芯金等の受け治具を用いることなく、軸受面として機能する円筒内周面の精度が良好に維持されるようにする。
【解決手段】軸受部材42は、軸受面として機能する第1円筒内周面52を有する大径筒部44および小径筒部46に加えて、第2円筒外周面54が設けられるとともに第1円筒内周面52よりも大径の第2円筒内周面56が設けられた薄肉筒部48を備え、その薄肉筒部48が軸方向へかしめ加工されることにより取付穴34hの周縁部を挟持するように一体的に取り付けられる。その場合に、かしめ加工によって薄肉筒部48の第2円筒内周面56が内周側へ膨出しても、軸受面として機能する第1円筒内周面52よりも小径にならない限り軸受性能に影響する恐れはなく、芯金等の受け治具を用いることなく第1円筒内周面52の精度が良好に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペダルアームに係り、特に、そのペダルアームを構成している板材に設けられた取付穴に配設され、円筒外周面を有する連結軸が相対回転可能に挿通させられる筒形状の軸受部材の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペダルアームにクレビスピン等の軸を相対回転可能に連結したり、ペダルアームを回動可能に支持したりする際に、そのペダルアームを構成している板材に軸受部材が配設される。特許文献1に記載のペダルアームはその一例で、一対の半割体から成る中空構造を成しているとともに、その一対の半割体にはそれぞれ連結穴が設けられ、それ等の連結穴に跨がってクレビスピンが相対回転可能に挿通させられるようになっており、一方の半割体の連結穴には円筒形状の軸受部材が固設されている。また、特許文献2には、ペダルアームを構成している板材に設けられた取付穴に軸受部材をかしめ固定し、その軸受部材を介して支持軸等の連結軸を相対回転可能に連結する技術が記載されている。軸受部材は、(a) 外径が取付穴よりも大きいとともに、連結軸が相対回転可能に挿通させられる円筒内周面を備えている大径筒部と、(b) その大径筒部の軸方向に連続して一体に設けられるとともに、前記取付穴よりも小径の円筒外周面を有し、且つ前記円筒内周面が前記大径筒部から連続して設けられた小径筒部と、を備え、(c) その小径筒部側から取付穴内に挿入されて反対側へ突き出すその小径筒部が軸方向へかしめ加工(圧縮加工)されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部と大径筒部との間で取付穴の周縁部を挟持するようにその取付穴に一体的に取り付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−122610号公報
【特許文献2】特開平11−29014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の軸受部材の場合、板材との接合部分にせん断応力が作用するため、高い接合強度を確保する必要がある。これに対し、特許文献2に記載の軸受部材は、取付穴を貫通して配設されるためせん断応力を生じる恐れがないものの、かしめ加工部の内周面すなわち小径筒部の円筒内周面がそのまま軸受面として機能するのに対し、その内周面がかしめ加工によって縮径したり変形したりする可能性があり、所定の軸受性能を得るための精度を確保することが難しい場合があった。
【0005】
図4は、このようにかしめ加工によって配設される軸受部材の一例を示す図で、(a) はかしめ加工前の状態、(b) はかしめ加工によって軸受部材が板材に一体的に固定された状態である。この軸受部材100は、大径筒部102と小径筒部104とを軸方向に連続して一体に備えているとともに、それ等の大径筒部102および小径筒部104に跨がって軸受面として機能する円筒内周面105が設けられている。そして、ペダルアームを構成している板材106に設けられた取付穴108内に小径筒部104を挿入し、大径筒部102と小径筒部104との間の段差110に板材106が接するように載置した状態で、その小径筒部104の先端側からパンチ112によってかしめ加工が施されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部114と大径筒部102との間で取付穴108の周縁部を挟持するようにその取付穴108に一体的に取り付けられる。その場合に、小径筒部104の大部分は外周側へ膨出するが、一部が内周側へ膨出して変形部116が形成され、連結軸の外周面に接触させられる円筒内周面105の径寸法が小さくなったり真円度が損なわれたりして、所定の軸受性能が得られなくなる可能性がある。図4の(b) の変形部116は、かしめ加工部114の内周側が全体的に内側へ膨出させられた場合である。
【0006】
これに対し、芯金等の受け治具を小径筒部104内に配置し、内周面を拘束しつつかしめ加工を行うことが考えられるが、大きな加工荷重(プレス荷重)が必要になるとともに摩耗に対する耐久性確保の必要性などから製造コストが高くなる。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、せん断応力が生じることがないように軸受部材を取付穴内に挿通してかしめ加工によって取り付ける場合に、芯金等の受け治具を用いることなく、軸受面として機能する円筒内周面の精度が良好に維持されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、第1発明は、ペダルアームを構成している板材に設けられた取付穴に配設され、外周面が円筒形状を成す連結軸が相対回転可能に挿通させられる筒形状の軸受部材であって、(a) 外径が前記取付穴よりも大きく、前記連結軸が相対回転可能に挿通させられる円筒内周面を備えている大径筒部と、(b) その大径筒部の軸方向に連続して一体に設けられるとともに、前記取付穴よりも小径の円筒外周面を有し、且つ前記円筒内周面が前記大径筒部から連続して軸方向寸法tの全長に亘って設けられた小径筒部と、(c) その小径筒部から軸方向に連続して前記大径筒部と反対側に一体に設けられるとともに、内径がその小径筒部の前記円筒内周面よりも大きく、且つ前記円筒外周面がその小径筒部から連続して設けられた薄肉筒部と、を備え、(d) その薄肉筒部側から前記取付穴内に挿入されて反対側へ突き出すその薄肉筒部が軸方向へかしめ加工されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部と前記大径筒部との間で前記取付穴の周縁部を挟持するようにその取付穴に一体的に取り付けられることを特徴とする。
【0009】
第2発明は、第1発明のペダルアームの軸受部材において、前記小径筒部の軸方向寸法tは、前記板材の板厚寸法dと等しいかそれより小さいことを特徴とする。
【0010】
第3発明は、第1発明または第2発明のペダルアームの軸受部材において、前記円筒外周面と前記取付穴との間の隙間が、前記かしめ加工の際のその円筒外周面の膨出変形で埋められることを特徴とする。
【0011】
第4発明は、車両幅方向に分割された板状の一対の半割体の周縁部が一体的に溶接されることにより中空構造とされているペダルアームであって、前記一対の半割体にはそれぞれ取付穴が設けられているとともに、その取付穴にはそれぞれ第1発明〜第3発明の何れかの軸受部材がかしめ加工によって配設されており、それ等の軸受部材に跨がって外周面が円筒形状を成す単一の連結軸が相対回転可能に挿通させられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようなペダルアームの軸受部材においては、軸受面として機能する円筒内周面を有する大径筒部および小径筒部に加えて、その小径筒部から連続して円筒外周面が設けられるとともに内径が小径筒部の円筒内周面よりも大きい薄肉筒部が、小径筒部から軸方向に連続して大径筒部と反対側に一体に設けられ、その薄肉筒部側から取付穴内に挿入されて反対側へ突き出すその薄肉筒部が軸方向へかしめ加工されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部と大径筒部との間で取付穴の周縁部を挟持するようにその取付穴に一体的に取り付けられる。その場合に、軸受面として機能する円筒内周面よりも内径が大きい薄肉筒部がかしめ加工されるため、そのかしめ加工によって薄肉筒部の内周面が内周側へ膨出しても、大径筒部および小径筒部の円筒内周面よりも小径にならない限り軸受性能に影響する恐れはなく、芯金等の受け治具を用いることなく、軸受面として機能する大径筒部および小径筒部の円筒内周面の精度が良好に維持されて、所定の軸受性能が確保される。
【0013】
また、小径筒部と大径筒部との間に、それ等の外径寸法の相違によって段差が形成され、その段差に板材が接する状態で取り付けられることから、小径筒部の全部または一部は取付穴の内側に位置し、その小径筒部の軸方向寸法tの全長に亘って設けられる円筒内周面も取付穴の内側に位置させられるため、その円筒内周面に接するように配設される連結軸とペダルアームの板材との間で荷重が効率良く伝達される。
【0014】
第2発明では、小径筒部の軸方向寸法tが板材の板厚寸法dと等しいかそれより小さいため、薄肉筒部のかしめ加工の影響で小径筒部の円筒内周面が内周側へ膨出したり変形したりすることが適切に防止され、その円筒内周面の精度が良好に維持されるとともに、薄肉筒部をかしめ加工するだけで取付穴に適切に取り付けることができるため、加工荷重を低く抑えることができる。また、小径筒部の軸方向寸法tが板材の板厚寸法dと略等しい場合には、その小径筒部の円筒内周面に接するように配設される連結軸と板材との間でこじりを生じることがなく、それ等の間で荷重が一層効率良く伝達される。
【0015】
第3発明では、円筒外周面と取付穴との間の隙間が、かしめ加工の際のその円筒外周面の膨出変形で埋められるため、その取付穴に対して軸受部材が高い接合強度で固定されるとともに、その軸受部材内に配設される連結軸と板材との間で荷重が適切に伝達される。なお、円筒外周面と取付穴との間の隙間が完全に埋められる必要はない。
【0016】
第4発明のペダルアームは、一対の半割体に設けられた取付穴にそれぞれ第1発明〜第3発明の軸受部材がかしめ加工によって取り付けられ、それ等の軸受部材に跨がって単一の連結軸が相対回転可能に配設されるようになっているため、実質的に第1発明〜第3発明と同様の効果が得られる。特に、一対の半割体にそれぞれ設けられた軸受部材に跨がって単一の連結軸が配設されるため、ペダルアームと連結軸との間でこじり等を生じることなく大きな荷重を効率良く伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用された車両用ブレーキペダルを示す図で、(a) は左側面図、(b) は(a) におけるIB−IB断面部分の拡大図、(c) は一方の軸受部材を拡大して示す断面図である。
【図2】図1の実施例において、半割体に設けられた取付穴に軸受部材をかしめ加工によって固定する際の工程を説明する図で、それぞれ図1(c) に対応する断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を説明する図で、図2の(b) 、(c) に対応する断面図であり、パンチ等の加工具を省略した図である。。
【図4】従来の軸受部材を説明する図で、図2の(b) 、(c) に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、例えば車両用のブレーキペダルやクラッチペダル、アクセルペダル等に好適に適用されるが、車両用以外の操作ペダルにも適用され得る。また、第4発明は、一対の半割体(板材)から成る中空構造のペダルアームに関するものであるが、第1発明〜第3発明の軸受部材は、例えば比較的厚肉の単一の板材にてペダルアームが構成されている操作ペダルにも適用できるし、一対の半割体から成る中空構造のペダルアームにおいてそれ等の半割体が互いに密着するように重ね合わされた部分に単一の軸受部材が設けられる場合でも良い。中空構造は、必ずしも全周が袋状に密閉される必要はなく、一部が開口していても良い。
【0019】
本発明は、ペダルアームを回動可能に支持する支持軸とペダルアームとの連結部分の軸受部材や、ペダルアームとクレビスとを相対回動可能に連結するクレビスピンとペダルアームとの連結部分の軸受部材などに好適に適用される。
【0020】
軸受部材の大径筒部の外径は取付穴よりも大きければ良く、円筒内周面と同心円の円筒形状が望ましいが、楕円形や多角形などでも良いし、円筒内周面に対して偏心している円筒面であっても良い。大径筒部の円筒内周面は軸方向の全長に設けられても良いが、大径筒部側から連結軸を挿入する場合にガイドとして機能するテーパ形状のガイド穴を小径筒部と反対側の開口端に設けることが望ましい。
【0021】
軸受部材の小径筒部の円筒内周面および円筒外周面は同心に設けることが望ましいが、偏心して設けられても良い。この小径筒部に連続して設けられる薄肉筒部の内径は、小径筒部の円筒内周面よりも大きければ良く、円筒外周面と同心円の円筒形状が望ましいが、楕円形や多角形などでも良いし、円筒外周面に対して偏心している円筒面であっても良い。薄肉筒部がかしめ加工された場合に内周側へ膨出したり変形したりしても、小径筒部や大径筒部の円筒内周面よりも内周側へ突き出さないように設けられれば良い。この薄肉筒部の内周面と小径筒部の円筒内周面との境界は段差であっても良いが、薄肉筒部がかしめ加工されたかしめ加工部側から連結軸を挿入する場合にガイドとして機能するテーパ形状のガイド穴を小径筒部との境界部分に設けることが望ましい。
【0022】
軸受部材を取付穴にかしめ加工によって取り付ける場合に、少なくとも薄肉筒部が主として外周側へ膨出するように圧縮変形させられるが、小径筒部の軸方向寸法tが板材の板厚寸法dより大きい場合など、小径筒部の一部も薄肉筒部と共に圧縮変形させられても良い。薄肉筒部は、単純に軸方向から圧縮荷重を受けた場合、内周側では周方向の圧縮応力が作用することから主として外周側へ膨出するように圧縮変形させられる。
【0023】
第2発明では、小径筒部の軸方向寸法tが板材の板厚寸法dと等しいかそれより小さいが、連結軸との間で荷重が効率良く伝達されるようにする上で、軸方向寸法tは板厚寸法dの1/2以上が望ましい。第1発明の実施に際しては、板材の板厚寸法dよりも軸方向寸法tが大きい小径筒部を設けることもできる。その場合は、その小径筒部の一部も圧縮変形させられて外周側へ膨出させられ、大径筒部との間で取付穴の周縁部を挟持するようにかしめ加工を行えば良い。
【0024】
第3発明では、小径筒部および薄肉筒部の一連の円筒外周面と取付穴との間の隙間が、かしめ加工の際のその円筒外周面の膨出変形で埋められるが、大径筒部との間で取付穴の周縁部を挟持するように薄肉筒部や小径筒部がかしめ加工されると、通常はそのかしめ加工部の近傍部分の円筒外周面も外周側へ膨出するように変形し、第3発明のように取付穴との間の隙間が埋められて、取付穴に対して強固に固定される。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両の常用ブレーキ用のブレーキペダル10を示す図で、(a) は左側面図、(b) は(a) におけるIB−IB断面部分の拡大図、(c) は一方の軸受部材を拡大して示す断面図である。このブレーキペダル10は、ペダルアーム14を主体として構成されており、そのペダルアーム14の上端部において略水平な支持軸12の軸心である支持軸心Oまわりに回動可能に支持されている。ペダルアーム14の下端部は、運転席側へ向かって車両後方側の斜め上向きに曲げられているとともに、その下端部にはペダルシート18が一体的に固定されている。そして、そのペダルシート18が運転者によって踏込み操作されると、ブレーキペダル10は図1の(a) において支持軸12の右回りに回動させられる。ブレーキペダル10には、支持軸12と略平行なクレビスピン20の軸心まわりに相対回動可能にプッシュロッド等の出力部材22がクレビス24を介して連結されており、ブレーキペダル10の回動に伴って出力部材22が機械的に図1(a) の左方向へ押圧されることにより、ブレーキペダル10の踏込み操作力に応じてブレーキ油圧が発生させられる。本実施例では、上記クレビスピン20が連結軸に相当する。
【0026】
上記ペダルアーム14は、断面が略四角形の中空構造を成しており、車両の幅方向における左右方向に2分割された形状の一対の半割体32、34にて構成されている。半割体32、34は鋼板をプレスにより成形加工したもので、それぞれ断面が略ハット形状を成しており、そのハット形状の開口側が互いに対向する姿勢で、且つ周縁部に外向きに設けられた互いに平行な板状の外周フランジ32f、34fが密着するように重ね合わされた状態で、その外周フランジ32f、34fの外端縁、すなわち車両の前後方向および下方に位置する端縁がアーク溶接等により一体的に接合されている。図1(b) の符号Wは、この外周フランジ32fおよび34fの溶接部を表している。
【0027】
前記一対の半割体32、34のうち前記クレビスピン20が配設される回動連結部には、それぞれクレビスピン20の軸部よりも大径の円形の取付穴32h、34hが同心に設けられているとともに、その取付穴32h、34hには金属製の軸受部材40、42がかしめ加工によって一体的に取り付けられている。そして、クレビスピン20は、円筒外周面を有する軸部がそれ等の軸受部材40、42に跨がって配設され、それ等の軸受部材40、42の内部を相対回転可能に挿通させられているとともに、スナップリング等により抜け出し不能とされている。軸受部材40、42は同一形状を成しており、対称的すなわち反対向きとなる姿勢で取付穴32h、34hに配設されている。一対の半割体32、34は、ペダルアーム14を構成している板材に相当する。
【0028】
図1の(c) は、一方の半割体34の取付穴34hに取り付けられた軸受部材42を具体的に説明する拡大図で、図2は、その軸受部材42をかしめ加工によって取付穴34hに取り付ける際の工程図である。軸受部材42は、図2の(a) に示す取付前の状態では、大径筒部44、小径筒部46、および薄肉筒部48がその順番で共通の軸心Sと同心に軸方向に一体に設けられた円筒形状を成している。大径筒部44は、取付穴34hよりも大径の第1円筒外周面50を有するとともに、前記クレビスピン20の軸部が相対回転可能に挿通させられる第1円筒内周面52を備えている。これ等の第1円筒外周面50および第1円筒内周面52は軸心Sと同心に設けられている。第1円筒内周面52は請求項1に記載の円筒内周面で、軸受面として機能する部分であり、クレビスピン20の軸部より僅かに大きい径寸法で形成されている。
【0029】
小径筒部46は、大径筒部44の軸方向に連続して同心に一体に設けられているとともに、前記取付穴34hよりも小径の第2円筒外周面54を有し、且つ前記第1円筒内周面52が大径筒部44から連続して軸方向寸法tの全長に亘って設けられている。第2円筒外周面54も軸心Sと同心に設けられている。この小径筒部46と前記大径筒部44との外径寸法の相違により、それ等の境界には軸心Sに対して直角に円環形状の段差58が形成されている。第2円筒外周面54は請求項1に記載の円筒外周面で、取付穴34hとの間に僅かな隙間が形成される径寸法とされている。
【0030】
薄肉筒部48は、小径筒部46の軸方向に連続して大径筒部44と反対側に同心に一体に設けられるとともに、前記第1円筒内周面52よりも大径の第2円筒内周面56を有し、且つ前記第2円筒外周面54が小径筒部46から連続して設けられている。第2円筒内周面56も軸心Sと同心に設けられている。
【0031】
また、前記第1円筒内周面52が大径筒部44側の端面に開口する部分には、開口側程大径となるテーパ形状のガイド面60が設けられ、クレビスピン20がその大径筒部44側から軸受部材42内へ挿入される場合に、そのクレビスピン20を円滑に第1円筒内周面52内に案内するようになっている。薄肉筒部48に設けられる第2円筒内周面56と第1円筒内周面52との境界部分には、第1円筒内周面52へ向かうに従って小径となるテーパ形状のガイド面62が設けられ、クレビスピン20が大径筒部44と反対側から軸受部材42内へ挿入される場合に、そのクレビスピン20を円滑に第1円筒内周面52内に案内するようになっている。薄肉筒部48にはまた、小径筒部46と反対側の先端部の外周面に面取64が設けられ、図2の(b) に示すように半割体34の取付穴34h内に薄肉筒部48側から挿入する際に、その取付穴34h内に容易に挿入できるようになっている。
【0032】
そして、このような軸受部材42を前記半割体34の取付穴34hにかしめ固定する際には、先ず図2の(b) に示すように、大径筒部44側が下になる姿勢で基台70の略水平で平坦な載置面72上に軸受部材42を載置するとともに、取付穴34h内に薄肉筒部48が相対的に挿入されるように半割体34を軸受部材42の上方から接近させて、段差58上に載置されるようにセットする。その状態で、略水平で平坦な成形面74を有するかしめパンチ76を下降させて、取付穴34hから上方へ突き出している薄肉筒部48を軸方向へ圧縮変形させるようにかしめ加工する。このように薄肉筒部48に軸方向の圧縮荷重が加えられると、内周側では周方向の圧縮応力が作用することから主として外周側へ膨出するように圧縮変形させられ、図2の(c) に示すように外周側へ大きく膨出するかしめ加工部78が形成され、そのかしめ加工部78と大径筒部44との間で取付穴34hの周縁部を挟持するように取付穴34hに一体的に固定される。
【0033】
ここで、軸受部材42の小径筒部46の軸方向寸法tは、半割体34の板厚寸法dに対してd/2〜dの範囲内で、本実施例ではd/2よりも少し大き目であり、テーパ形状のガイド面62の大径端位置(第2円筒内周面56の下端位置)が、半割体34の上面(ペダルアーム14の状態で外側向きとなる面)36と略一致している。このため、主としてガイド面62よりも上方の薄肉筒部48が圧縮変形させられ、大径筒部44および小径筒部46に設けられた第1円筒内周面52がかしめ加工によって変形する恐れは殆どないとともに、取付穴34hの内側に位置する第2円筒外周面54の一部も外周側へ膨出させられ、その取付穴34hの内周面に部分的に接するように隙間が埋められて、軸受部材42が高い接合強度で半割体34に固定される。また、薄肉筒部48の一部は内周側へ膨出させられ、かしめ加工部78の内周側に変形部80が形成されるが、その突出寸法は小さく、軸受面として機能する第1円筒内周面52よりも内周側へ突き出して軸受性能を損なう恐れはない。薄肉筒部48の第2円筒内周面56の径寸法は、このように変形部80が第1円筒内周面52よりも内周側へ突き出すことがないように、その変形部80の突出寸法を考慮して定められる。
【0034】
なお、このように軸受部材42をかしめ固定する際の半割体34は、図1(b) に示されるように所定のハット形状にプレス加工された後でも良いが、プレス成形する前の略平坦なブランクの状態であっても良い。
【0035】
このように、本実施例のブレーキペダル10の軸受部材42は、軸受面として機能する第1円筒内周面52を有する大径筒部44および小径筒部46に加えて、その小径筒部46から連続して第2円筒外周面54が設けられるとともに第1円筒内周面52よりも大径の第2円筒内周面56が設けられた薄肉筒部48が、小径筒部46から軸方向に連続して一体に設けられ、その薄肉筒部48側から取付穴34h内に挿入されて反対側(上方)へ突き出すその薄肉筒部48が軸方向へかしめ加工されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部78と大径筒部44との間で取付穴34hの周縁部を挟持するようにその取付穴34hに一体的に取り付けられる。
【0036】
その場合に、軸受面として機能する第1円筒内周面52よりも内径が大きい薄肉筒部48が主としてかしめ加工されるため、そのかしめ加工によって薄肉筒部48の第2円筒内周面56が内周側へ膨出しても、大径筒部44および小径筒部46の第1円筒内周面52よりも小径にならない限り軸受性能に影響する恐れはなく、芯金等の受け治具を用いることなく、軸受面として機能する第1円筒内周面52の精度が良好に維持されて、所定の軸受性能が確保される。
【0037】
また、小径筒部46と大径筒部44との間に、それ等の外径寸法の相違によって段差58が形成され、その段差58に半割体34が載置された状態でかしめ加工が行われるとともに、小径筒部46の軸方向寸法tはd/2〜dの範囲内であるため、小径筒部46の全部が半割体34の板厚dとオーバーラップして取付穴34hの内側に位置し、その小径筒部46の軸方向寸法tの全長に亘って設けられる第1円筒内周面52も取付穴34hの内側に位置させられるため、その第1円筒内周面52に接するように配設されるクレビスピン20と半割体34との間で荷重が効率良く伝達される。
【0038】
また、小径筒部46の軸方向寸法tが半割体34の板厚寸法dに対してd/2〜dの範囲内であるため、薄肉筒部48のかしめ加工の影響で小径筒部46の第1円筒内周面52が内周側へ膨出したり変形したりすることが適切に防止され、その第1円筒内周面52の精度が良好に維持されるとともに、薄肉筒部48をかしめ加工するだけで取付穴34hに適切に取り付けることができるため、パンチ76による加工荷重を低く抑えることができる。
【0039】
また、第2円筒外周面54と取付穴34hとの間の隙間が、かしめ加工の際のその第2円筒外周面54の膨出変形で埋められるため、その取付穴34hに対して軸受部材42が高い接合強度で固定されるとともに、その軸受部材42内に配設されるクレビスピン20と半割体34との間で荷重が適切に伝達される。
【0040】
なお、他方の軸受部材40も、上記軸受部材42と同様にして半割体32の取付穴32hにかしめ固定されており、軸受部材42と同様の作用効果が得られる。加えて、本実施例のペダルアーム14は、一対の半割体32、34に設けられた取付穴32h、34hにそれぞれ軸受部材40、42がかしめ加工によって取り付けられ、それ等の軸受部材40、42に跨がって単一のクレビスピン20が相対回転可能に配設されるため、ペダルアーム14とクレビスピン20との間でこじり等を生じることなく大きな荷重を効率良く伝達できる。
【0041】
一方、上記実施例では小径筒部46の軸方向寸法tが、半割体34の板厚寸法dに対してd/2〜dの範囲内でd/2よりも少し大き目とされており、テーパ形状のガイド面62の大径端位置が半割体34の上面36と略一致していたが、図3に示すように小径筒部46の軸方向寸法tが半割体34の板厚寸法dと略同じ寸法の軸受部材90を採用することもできる。その場合は、取付穴34hの軸方向の全長に亘って小径筒部46の第1円筒内周面52が存在するため、その第1円筒内周面52に接するように配設されるクレビスピン20と半割体34との間でこじりを生じることがなく、それ等の間で荷重が一層効率良く伝達される。また、軸方向寸法tが板厚寸法dより大きい場合には、薄肉筒部48が減少して所定の接合強度を得るためのかしめ加工部78が形成できなかったり、或いは所定の接合強度を得るためのかしめ加工部78を形成できたとしても加工荷重が増大したりする恐れがあるが、本実施例ではそのような恐れがない。図3の(a) 、(b) は、図2の(b) 、(c) に対応する断面図で、パンチ76等の加工具を省略した図である。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
14:ペダルアーム 20:クレビスピン(連結軸) 32、34:半割体(板材) 32h、34h:取付穴 40、42、90:軸受部材 44:大径筒部 46:小径筒部 48:薄肉筒部 52:第1円筒内周面(円筒内周面) 54:第2円筒外周面(円筒外周面) 78:かしめ加工部 t:小径筒部の軸方向寸法 d:板厚寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルアームを構成している板材に設けられた円形の取付穴に配設され、外周面が円筒形状を成す連結軸が相対回転可能に挿通させられる筒形状の軸受部材であって、
外径が前記取付穴よりも大きく、前記連結軸が相対回転可能に挿通させられる円筒内周面を備えている大径筒部と、
該大径筒部の軸方向に連続して一体に設けられるとともに、前記取付穴よりも小径の円筒外周面を有し、且つ前記円筒内周面が前記大径筒部から連続して軸方向寸法tの全長に亘って設けられた小径筒部と、
該小径筒部から軸方向に連続して前記大径筒部と反対側に一体に設けられるとともに、内径が該小径筒部の前記円筒内周面よりも大きく、且つ前記円筒外周面が該小径筒部から連続して設けられた薄肉筒部と、
を備え、該薄肉筒部側から前記取付穴内に挿入されて反対側へ突き出す該薄肉筒部が軸方向へかしめ加工されることにより、外周側へ膨出させられたかしめ加工部と前記大径筒部との間で前記取付穴の周縁部を挟持するように該取付穴に一体的に取り付けられる
ことを特徴とするペダルアームの軸受部材。
【請求項2】
前記小径筒部の軸方向寸法tは、前記板材の板厚寸法dと等しいかそれより小さい
ことを特徴とする請求項1に記載のペダルアームの軸受部材。
【請求項3】
前記円筒外周面と前記取付穴との間の隙間が、前記かしめ加工の際の該円筒外周面の膨出変形で埋められる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のペダルアームの軸受部材。
【請求項4】
車両幅方向に分割された板状の一対の半割体の周縁部が一体的に溶接されることにより中空構造とされているペダルアームであって、
前記一対の半割体にはそれぞれ取付穴が設けられているとともに、該取付穴にはそれぞれ請求項1〜3の何れか1項に記載の軸受部材がかしめ加工によって配設されており、それ等の軸受部材に跨がって外周面が円筒形状を成す単一の連結軸が相対回転可能に挿通させられている
ことを特徴とするペダルアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−155380(P2012−155380A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11607(P2011−11607)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【特許番号】特許第4961063号(P4961063)
【特許公報発行日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(000241496)豊田鉄工株式会社 (104)
【Fターム(参考)】