説明

ペダル後退抑制機構

【課題】ペダル後退抑制機構は、後退するペダルの軌跡を車幅方向に変えたり、下側(フロアパネル側)に変えたりするものが提案されている。しかし、いずれも規模の大きな機構となり、車両の軽量化、低廉化は容易でなかった。
【解決手段】ピラーツーピラーに固着されたステアリングシャフトの左右にダッシュパネルに固定された操作ペダルが少なくとも1つずつ配置されている車両に対して、一方のペダルからステアリングシャフトの裏側(車両前側)を通して、他方のペダルの車両後方側に延設端が位置するように延設させたブラケットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が前突した際に、車体前部の変形によって後方に移動するブレーキペダルなどのペダル類を、高い剛性を有する車両部材に固定されたステアリングシャフトを利用して後方への変位を止めるペダル後退抑制機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部に衝突が生じた際に、エンジンを含む車両前部が車内側に突入してきて運転者の足元のペダルが後退しながら変位し、運転者の脚部に衝突する場合がある。
【0003】
車両の両側部に配置されたAピラー間を連結するピラーツーピラーチューブは車両の剛性の高い部分に固定されているので、後方に移動してくる車両前部を止めるのに効果を有する。しかし、ピラーツーピラーチューブは運転者の足元に配置されたペダルの後退を直接規制しない。従って、ペダルが運転者の脚部に衝突するということが発生する。
【0004】
特許文献1では、ペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体を有する車両前部構造において、ブレーキペダルに連結され、ブレーキペダルを車体前部の他部分に係合される係合体を設け、前突時には、ペダルブラケットの突出端が案内体により後下方に向かうよう案内されながら、係合体がブレーキペダルを幅方向に変位されるようにする車両前部構造が開示されている。
【0005】
この発明によるとブレーキペダルが運転者の脚部方向に変位してきた時、係合体がブレーキペダルを横方向に変位させるので、運転者の脚部には衝突しにくい構造を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−6806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ブレーキペダルの後方への変位による運転者の脚部への衝突を回避する。しかし、このペダル後退抑制機構は、比較的大型であり、質量低減やコスト低減が容易でない機構である。また、ブレーキペダルを支持するブラケットは操作性、耐震性を確保するために剛性を確保しなければならない。しかし、この機構では、ブラケットが変形しなければならないという、相反する特性が要求され、容易に製造できないという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決する目的で想到されたペダル後退抑制機構である。より具体的に本発明のペダル後退抑制機構は、
所定値以上の外力が車両前部に作用した際、車両後方側に変位する第1の車両構成部材に設定された複数のペダルと、
車両前後方向への剛性が前記第1の車両構成部材より高い第2の車両構成部材に設定されたステアリングシャフトを有し、
前記ペダルは前記ステアリングシャフトの車幅方向の左右両側にそれぞれ少なくとも1つ以上配置されたペダル後退抑制機構であって、
前記ステアリングシャフトの一方側の前記ペダルから他方側の前記ペダルに、前記ステアリングシャフトを跨いで延設されたブラケットを有し、
前記ブラケットは、
前記ブラケットの延設端が前記他方側のペダルを超えて延設され、
前記ステアリングシャフトの部分では、前記ステアリングシャフトより車両前方側に位置し、
前記他方側のペダルの部分では前記他方側のペダルより車両後方側に位置するペダル後退抑制機構を提供する。
【0009】
また本発明のペダル後退抑制機構においては、ブラケットは、前記ステアリングシャフトの部分で、車両後方側に開口する凹形状を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペダル後退抑制機構は、車両の前突時に、運転者の足元に配置された複数のペダルのうち、どのペダルが後退してきても、ブラケットがステアリングシャフトに当接することにより、1つのブラケットで後退を抑制することができる。従って、ペダルの配置をどのようにしてもペダル後退を抑制することができるので、重量、コスト、レイアウト性で大変有益である。
【0011】
また、ブラケットは、ステアリングシャフトの部分で、車両後方側に開口する凹形状を有する。また、この時ブラケットがステアリングシャフトに引っ掛かり、車幅方向に横ずれを起こさないので、ブラケットがずれてペダルの後退を規制できなくなることがない。従って、効果的にペダル後退を抑制できる。
【0012】
以上のように本発明のペダル後退抑制機構は、運転者から見てステアリングシャフトの裏側を跨いで、車幅方向に延設したブラケットという簡単な部材で、ペダルの後退を抑制し脚部傷害を防ぐので、重量も軽く、また、ペダルの配置に依存せず、さらに低価格で効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のペダル抑制機構を示す図である。
【図2】本発明のペダル抑制機構を示す斜視図である。
【図3】本発明のペダル抑制機構のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
図1に本発明のペダル抑制機構を示す。図1は運転者シートから車両前部を見た図である。本明細書を通じて、車幅方向の右側、左側は、矢印30、31の方向であり、車高方向の下側、上側は、矢印32、33の方向である。車体フレーム1には、フロアパネル2が取り付けてあり、車両の床3を形成している。床3からは、ダッシュパネル4が設置されており、ダッシュパネル4には、ペダルが配置されている。
【0015】
また、車体フレーム1には側面に剛性の高い構造部材5が配置されており、両側の構造部材を連結するのが、ピラーツーピラーメンバー6(以下「P−Pメンバー6」と呼ぶ)である。
【0016】
P−Pメンバー6は、車両前後方向に関しては少なくともダッシュパネル4より高い剛性を有しており、前突した際に車両後部を基準とするとP−Pメンバー6はほとんど変位しないとされている。このP−Pメンバー6には、ステアリングコラム7がステアリングコラムブラケット8を介して固定されている。
【0017】
ステアリングコラム7中にはステアリングシャフト9が貫通されており、一方の端はステアリングハンドルに10連結されている。ステアリングハンドル10の回転は、ステアリングシャフト9を通じてダッシュパネル4の図示しないエンジン側操作部に伝達される。なお、ステアリングコラム7は、ステアリングシャフト9の一部であるので、本明細書中はまとめてステアリングシャフト9と呼ぶ。
【0018】
ダッシュパネル4には、各種操作ペダルが配置されている。ここでは、アクセル11、ブレーキ12、パーキング13の各ペダルを示す。なお、ここで操作ペダルとは、運転者が運転若しくは停車中に操作するペダルをいう。本発明のブラケット20は、パーキングペダル13に一方の端を溶接され固定されている。この端部を溶接端21と呼ぶ。ブラケット20は、パーキングペダル13から車幅方向に延設され、ステアリングシャフト9の後ろを通り、ブレーキペダル12を越して延設される。すならち、ブラケットの延設端22は、ブレーキペダル12より右側に位置する。
【0019】
図2は、P−Pメンバー6とステアリングシャフト9と各ペダルとブラケット20の位置関係を示す模式図である。P−Pメンバー6とステアリングシャフト9との連結は簡単に記載した。ブラケット20は、パーキングペダル13の裏側に溶接端21を設けられ固定され、ステアリングシャフト9側に車幅に沿って伸びる。
【0020】
そして、ステアリングシャフト9の付近23で、車両前部に向かって屈曲する。ステアリングシャフト9の裏側24で再び車幅方向に屈曲し、ステアリングシャフト9の右側に出た地点26で車両後方に向かって屈曲する。ブレーキペダル12より車両後方の位置27で、再び車幅方向に屈曲し、そのままブレーキペダルを過ぎるまで延設される。
【0021】
結果、ブラケット20は車両後方側に開口した凹形状部分をステアリングシャフト9の部分で有することとなる。
【0022】
次に車両が前突した場合について説明する。車両が前突すると、ダッシュパネル4に配設されたブレーキペダルと12若しくはパーキングペダル13又は両方共に後退する。これらは共に、ダッシュパネル4に固定されているが、衝突の具合によっては、これらのうち1つのペダルだけが後退する場合もある。パーキングペダル13が後退すると、固定されたブラケット20も共に後退し、ブラケット20の凹形状部の奥25がステアリングシャフト9に突きあたり、後退が規制される。また、ブラケット20の凹部がステアリングシャフト9に引っかかるので、ブラケット20は、車幅方向に横ずれすることがない。
【0023】
後退が規制されたブラケット20の延設端22はブレーキペダル12より右側にあるので、ブレーキペダル12は後退しても、ブラケット20に突きあたり、後退が規制される。ここで、ダッシュパネル4は第1の車体構成部材であり、P−Pメンバー6は第2の車体構成部材である。
【0024】
以上のように、本発明のブラケット20は、ステアリングシャフト9の左右両側に少なくとも1つの操作ペダルが配置されている自動車において、左側のパーキングペダル13に一方の端部(溶接端21)を固着させ、ステアリングシャフト9の後ろ側を屈設させ、右側のブレーキペダル12より車両後方であってかつ延設端22がブレーキペダルより右側に位置するようにした。
【0025】
なお、通常パーキングペダル13を踏むと、ブラケット20は車両前方に変位し、ブレーキペダル12付近のブラケット20もブレーキペダル12に接近する。しかし、ブラケット20の凹部における車両前後方向の部分の長さを適宜選択したり、ダッシュパネルのペダルの取り付け位置を変えることで、パーキングペダル13を踏んだ時も、ブラケット20の延設側がペダルに干渉することを避けることができる。
【0026】
なお、ブラケット20の凹部における車両前後方向の部分の長さとは、凹形状部分の辺28および辺29の長さという意味である。すなわち、本発明のブラケット20の有する、凹形状は左右対称であるように限定されない。また、凹部の辺28、29は、ブラケット20が横ずれを起こさない程度の長さが必要である。すなわち、ステアリングシャフト9の直径の半分以上の長さは必要である。また、凹部の辺28、29は、ステアリングシャフト9の直径より長ければより好ましい。
【0027】
(実施の形態2)
図3には、本発明のブラケットの形態のいくつかを例示する。本発明は、ステアリングシャフト9の左右に配置されたペダル類の車両後方に位置されるブラケット20をステアリングシャフト9の裏側(車両前方側)を通すことによって、ペダル類が後退した際に、ステアリングシャフト9にブラケット20を突き当てることで、ペダルの後退を抑制する。従って、ブラケット20の配置は、ステアリングシャフト9の左側のパーキングペダル13と右側のブレーキペダル12の間だけに配置する必要はない。
【0028】
図3(a)は、実施形態1で説明した配置であり、ステアリングシャフト9の左側にパーキングペダル13、右側にブレーキペダル12がある時に、ブラケット20の左端をパーキングペダルに溶接で固着した溶接端21とし、次にステアリングシャフト9の後ろ(車両前方側)で屈設させ、ブレーキペダル12より右側まで延設端22を延設させた場合である。
【0029】
図3(b)は、逆に、ブレーキペダル12側にブラケットの溶接端21を配置させ、パーキングペダル13側に延設端22を配置した機構である。ペダル後退抑制の効果は図3(a)と同じである。
【0030】
図3(c)と(d)は、ステアリングシャフト9の左右に配置されているのが、クラッチペダル14とブレーキペダル12の場合を示す。このようにブラケット20で後退抑制させるペダルはパーキングペダル14とブレーキペダル12の組み合わせだけに限定されることはない。
【0031】
図3(e)乃至(h)は、パーキングペダル13、クラッチペダル14、ブレーキペダル12が、ステアリングシャフト9の左右に配置されている場合を示す。図3(e)と(f)は、ステアリングシャフト9の左側にパーキングペダ13ル、右側にはクラッチペダ14ルとブレーキペダル12が配置されている場合を示す。
【0032】
図3(e)は、左側のパーキングペダルから右側のクラッチペダル14、そしてブレーキペダル12まで延設端22が延びている場合である。このように、本発明のブラケット20は、ステアリングコラ7ムの左右1つずつのペダル同士を組み合わせることに限定されない。
【0033】
ただし、図3(f)に示すように、ステアリングシャフト9の左側のパーキングペダル13と右側のクラッチペダル14だけにブラケット20を配置してもよい。また、ブレーキペダルは別途後退防止手段を設けてもよい。
【0034】
図3(g)と(h)は、ステアリングシャフト9の左側にパーキングペダル13とクラッチペダ14ルが配置され、右側にブレーキペダル12だけが配置された場合である。図3(g)は、図3(e)の場合とほぼ同じである。また、図3(h)の場合は図3(f)の場合と同じで、ステアリングシャフト9を挟んで左右1つずつのペダルに対してブラケット20を配している。
【0035】
以上のように本発明のブラケット20は、ステアリングシャフト9の両側に配置されたペダル類が、車両の前突時に運転者の足元に突進することを1つのブラケット部材で規制することができ、重量、コスト、レイアウト性で有利なペダル後退抑制手段を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、自動車の足元に配置された操作ペダルが、前突時に運転者の脚部に衝突する事故を回避することができ、エンジンとハンドルと操作ペダルを有する走行車両に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 車体フレーム
2 フロアパネル
3 床
4 ダッシュパネル
5 剛性の高い構造部材
6 ピラーツーピラーメンバー6(P−Pメンバー6)
7 ステアリングコラム
8 ステアリングコラムブラケット
9 ステアリングシャフト
10 ステアリングハンドル
11 アクセルペダル
12 ブレーキペダル
13 パーキングペダル
14 クラッチペダル
20 ブラケット
21 溶接端
22 延設端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定値以上の外力が車両前部に作用した際、車両後方側に変位する第1の車両構成部材に設定された複数のペダルと、
車両前後方向への剛性が前記第1の車両構成部材より高い第2の車両構成部材に設定されたステアリングシャフトを有し、
前記ペダルは前記ステアリングシャフトの車幅方向の左右両側にそれぞれ少なくとも1つ以上配置されたペダル抑制機構であって、
前記ステアリングシャフトの一方側の前記ペダルから他方側の前記ペダルに、前記ステアリングシャフトを跨いで延設されたブラケットを有し、
前記ブラケットは、
前記ブラケットの延設端が前記他方側のペダルを超えて延設され、
前記ステアリングシャフトの部分では、前記ステアリングシャフトより車両前方側に位置し、
前記他方側のペダルの部分では前記他方側のペダルより車両後方側に位置するペダル抑制機構。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記ステアリングシャフトの部分で、車両後方側に開口する凹形状を有する請求項1に記載されたペダル抑制機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−231534(P2010−231534A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78742(P2009−78742)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】