説明

ペプチド精製物の製造方法

【課題】ゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物のようなペプチド混合物(例えば、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%のペプチド混合物)から、大量生産に適した方法で、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が25%以上のペプチド精製物を製造できる方法を提供する。
【解決手段】トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)を含有するペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させて、前記ペプチド混合物に含有される疎水性ペプチドの少なくとも一部を非極性吸着剤に吸着させ、前記非極性吸着剤に吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することを含む、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が前記ペプチド混合物より高められたペプチド精製物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が低いペプチド混合物から、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が高められたペプチド精製物を製造する方法に関する。さらに本発明は、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が高められ、かつエンドトキシンの含有量も低減されたペプチド組成物とその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンまたはコラーゲンをプロテアーゼ、ペプチターゼ或はコラゲナーゼ(以下酵素という)にて加水分解して得られるペプチドに僅かに含まれるトリペプチドGly-X-Yは、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、皮膚コラーゲン合成促進作用、骨折治癒促進作用、腱損傷治癒促進作用等の効果が認められており、食品及び化粧品などに利用されている(特開2002-255847号公報(特許文献1)、特開2003-137807号公報(特許文献2)、特開2004-123637号公報(特許文献3)、特開2005-281186号公報(特許文献4))。
【0003】
一般に、ゼラチンやコラーゲンは、牛や豚などの陸上動物及び魚原料から抽出して製造されており、これを原料に酵素にて加水分解することでトリペプチドを含むペプチド組成物が得られる。
【0004】
ゼラチンやコラーゲンを酵素にて加水分解することによりトリペプチドを含むペプチドが得られることが知られている。ここでは、バイオリアクターによる連続分解、回分式分解、逆相クロマトグラフィーによりトリペプチドの精製(画分)がなされている(特許第3146251号公報(特許文献5))。しかし、トリペプチド含有率の高いペプチドを工業的に製造するまでには至っていない。
【0005】
【特許文献1】特開2002-255847号公報
【特許文献2】特開2003-137807号公報
【特許文献3】特開2004-123637号公報
【特許文献4】特開2005-281186号公報
【特許文献5】特許第3146251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2には、トリペプチドの中でも、特定アミノ酸配列を有する33種類のトリペプチドが、コラーゲン産生促進作用等の作用に優れていることが記載されている。しかし、本発明者らがさらに研究したところ、これらのトリペプチドの内、親水性トリペプチドがコラーゲン産生促進作用等の作用により優れていることが判明した。
【0007】
ところが、ゼラチンやコラーゲンを酵素にて加水分解することにより得られるトリペプチドを含むペプチド混合物中における、上記親水性トリペプチドの含有率は、原料や製造条件により異なる。通常は2〜10%程度と低い。また、トリペプチドを含むペプチド混合物から上記親水性トリペプチドの含有量を高めたペプチド組成物を得る方法はこれまでのところ知られていない。
【0008】
上記親水性トリペプチドは、本発明者らが行ったODS樹脂を担体として用いた液体クロマトグラフィーの結果(図3参照)によれば、水溶媒100%溶離条件下で溶出してくる一群のフラグメントである。それに対して、ゼラチンやコラーゲンを酵素にて加水分解することにより得られるトリペプチドを含むペプチド混合物には、親水性トリペプチド以外に、含水有機溶媒にて溶出してくる一郡のフラグメントがあり、これらのフラグメントに含まれるペプチドは、ODS液体クロマトグラフィーにおける溶出挙動から、上記親水性を示すトリペプチドよりも、相対的に疎水性が高いペプチドであると考えられる。
【0009】
さらに、上記ペプチド混合物は、トリペプチドGly-X-Yの含有率が、製造方法によって異なるが、工業的に可能な一般な製造方法で得られるペプチド混合物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率は、通常は2〜10%の範囲であり、高くても20%までである。
【0010】
そこで本発明の目的は、ゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物のようなペプチド混合物(例えば、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%のペプチド混合物)から、大量生産に適した方法で、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が25%以上のペプチド精製物を製造できる方法を提供することにある。
【0011】
さらに本発明の目的は、上記製造方法で得られる親水性トリペプチドの含有率が高いペプチド精製物から、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が高められ、かつエンドトキシンの含有量も低減されたペプチド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)を含有するペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させて、
前記ペプチド混合物に含有される少なくとも一部の疎水性ペプチドを非極性吸着剤に吸着させ、
前記非極性吸着剤に吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することを含む、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が前記ペプチド混合物より高められたペプチド精製物の製造方法。
[2]前記ペプチド混合物がタンパク質加水分解物である[1]に記載の製造方法。
[3]前記タンパク質加水分解物がゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物である[2]に記載の製造方法。
[4]前記ペプチド混合物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%の範囲であり、かつペプチド精製物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が25%以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]親水性トリペプチドGly-X-Yが、Gly-Ser-Hyp、Gly-Lys-Asp、Gly-Ala-Ala、Gly-Pro-Hyl、Gly-Leu-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Ala-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Gln-Glu、Gly-Glu-Gln、Gly-Pro-Ser、Gly-Pro-Lys、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro- Pro、Gly-Pro-ArgおよびGly-Pro-Hypから成る群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記非極性吸着剤がスチレン系吸着剤、置換芳香族系吸着剤、またはアクリル系吸着剤である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記非極性吸着剤が、活性炭である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記活性炭が、塩化亜鉛賦活活性炭である[7]に記載の製造方法。
[9]前記活性炭は、細孔半径が10〜100Åであり、かつ表面積が1000m2/g以上である[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]前記非極性吸着剤が、ODS担体である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記非極性吸着剤への接触は、pHを4以上7以下に調整したペプチド混合物を用いることで行う[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記非極性吸着剤への接触は、非極性吸着剤を充填したカラムにペプチド混合物を含む溶液を流通することで行い、カラムからの流出液を回収することで親水性トリペプチドGly-X-Yの回収を行う[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]前記非極性吸着剤への接触は、非極性吸着剤とペプチド混合物を含む溶液を容器中で混合し、必要により一定時間放置することで行い、非極性吸着剤から溶液を分離することで親水性トリペプチドGly-X-Yの回収を行う[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[14]ペプチド精製物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が40〜95%の範囲である[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液を、脱塩処理して、塩分含有量を低減したペプチド精製物を得る[1]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液、またはこの溶液を脱塩処理した後の溶液をMFろ過して、除菌したペプチド精製物を得る[1]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[17]回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液、またはこの溶液を脱塩処理及び/又はMFろ過した溶液を乾燥して、固形のペプチド精製物を得る[1]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[18][16]または[17]に記載の方法で得られたトリペプチド精製物を含む水溶液を、分画分子量1000〜6000の限外ろ過膜で処理して、透過液としてエンドトキシンを低減したトリペプチド精製物を得る、エンドトキシンを低減したトリペプチド精製物の製造方法。
[19]親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)の含有率が25%以上であり、かつエンドトキシンの含有量が0.03EU/mL未満であるペプチド組成物。
[20]親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が40〜95%の範囲である[19]に記載のペプチド組成物。
[21]親水性トリペプチドGly-X-Yが、Gly-Ser-Hyp、Gly-Lys-Asp、Gly-Ala-Ala、Gly-Pro-Hyl、Gly-Leu-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Ala-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Gln-Glu、Gly-Glu-Gln、Gly-Pro-Ser、Gly-Pro-Lys、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro- Pro、Gly-Pro-ArgおよびGly-Pro-Hypから成る群から選ばれる少なくとも1種である[19]または[20]に記載のペプチド組成物。
[22][19]〜[21]のいずれかに記載のペプチド組成物を含有する腹膜透析液。
[23][19]〜[21]のいずれかに記載のペプチド組成物を含有する輸液製剤。
[24][19]〜[21]のいずれかに記載のペプチド組成物を含有する変形性関節症用製剤または慢性関節リュウマチ用製剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって得られる、親水性トリペプチドの含有率が高められたペプチド精製物は、機能性の高い健康食品、機能性食品、医薬品、医薬部外品または化粧品原料として利用することができる。また、ペプチド精製物に対して限外ろ過を行うことにより更に精製(脱エンドトキシン)されたトリペプチドが得られ、その機能性から再生医療や注射用剤、輸液製剤、人口透析への利用も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)を含有するペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させて、前記ペプチド混合物に含有される少なくとも一部のペプチドを非極性吸着剤に吸着させ、前記非極性吸着剤に吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することを含む、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が前記ペプチド混合物より高められたペプチド精製物の製造方法に関する。
【0015】
本発明の製造方法に用いる原料は、トリペプチドGly-X-Yを含有するペプチド混合物である。Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す。ペプチド混合物は、タンパク質加水分解物であり、より具体的には、タンパク質加水分解物は、ゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物である。親水性トリペプチドGly-X-Yを含有するペプチド混合物は、例えば、特許文献5に記載の方法で調製でき、ある程度精製したコラーゲンあるいは変性コラーゲン(ゼラチン)などを原材料として、コラゲナーゼで選択的に加水分解することによって得られる。コラーゲンあるいは変性コラーゲン(ゼラチン)などを原材料として、コラゲナーゼで選択的に加水分解することで、親水性トリペプチドGly-X-Yを含有するペプチド混合物が得られる。コラゲナーゼ以外でもプロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素を用いれば、親水性トリペプチドGly-X-Yを含有するペプチド混合物が得られる。以下、コラゲナーゼ及びコラゲナーゼ以外の酵素を含めて、コラゲナーゼ等と言う。
【0016】
ペプチド混合物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率は、特に制限はない。しかし、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が高いペプチド混合物の調製には、多量のコラゲナーゼ等または固定化コラゲナーゼ等が必要であり、トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%の範囲であれば、実用に耐え得る程度のコストで製造できる。従って、この範囲の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率を有するがペプチド混合物を用いることが本発明では好ましい。また、本発明では、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%の範囲のペプチド混合物を用いて、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が25%以上であるペプチド精製物を得ることが好ましい。
【0017】
トリペプチドGly-X-Yは、XおよびYの種類によって、親水性を示すものと、疎水性を示すものとに分けられる。しかし、殆どのGly-X-Yは親水性であると考えられている。ゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物に含まれる親水性のトリペプチドとしては、例えば、Gly-Ser-Hyp、Gly-Lys-Asp、Gly-Ala-Ala、Gly-Pro-Hyl、Gly-Leu-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Ala-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Gln-Glu、Gly-Glu-Gln、Gly-Pro-Ser、Gly-Pro-Lys、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro- Pro、Gly-Pro-ArgおよびGly-Pro-Hypが挙げられる。
【0018】
また、ゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物に含まれる疎水性のトリペプチドとしては、例えば、Gly-Phe-Ser、及びGly-Phe-Alaが挙げられる。本発明において、親水性トリペプチドGly-X-Yとは、ODS樹脂を担体として用いた液体クロマトグラフィーにおいて、水溶媒100%溶離条件下で溶出してくる一群のフラグメントである。一方、疎水性トリペプチドGly-X-Yとは、ODS樹脂を担体として用いた液体クロマトグラフィーにおいて、含水有機溶媒にて溶出してくる一郡のフラグメントである。図3にODS樹脂を担体として用いて行ったコラーゲンの酵素消化精製物であるコラーゲンペプチドの液体クロマトグラムを示す。図3のクロマトグラムにおいて、リテンションタイムが15分以下の溶出フラグメントは、主に親水性トリペプチドGly-X-Yである。一方、リテンションタイムが10分を超える溶出フラグメントは、疎水性トリペプチドGly-X-Yを含む、親水性トリペプチドGly-X-Yよりも疎水性が高いペプチド成分である。
【0019】
上記のペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させて、前記ペプチド混合物に含有される少なくとも一部のペプチドを非極性吸着剤に吸着させ、前記非極性吸着剤に吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収する。非極性吸着剤には、相対的に、親水性トリペプチドGly-X-Yよりも、上記疎水性トリペプチドGly-X-Yを含む疎水性が高いペプチド成分が吸着し易い。本発明ではこの吸着性の差を利用して、親水性トリペプチドGly-X-Yを濃縮する。
【0020】
非極性吸着剤は、非極性を有する吸着剤であれば、特に制限はない。非極性吸着剤としては、例えば、スチレン系吸着剤、置換芳香族系吸着剤およびアクリル系吸着剤等の合成樹脂吸着剤、活性炭、さらには、ODS担体を挙げることができる。接触面積が大きいという観点から、多孔性の吸着剤であることが好ましい。非極性かつ多孔性の合成樹脂吸着剤としては、例えば、三菱化学社製のDAIAION HP20、HP21、HP2MG、SEPABEADS SP825、SP850、SP70、SP207、Rohm&Haas社製のXAD4、XAD16、HPXAD1180、XAD2000等を挙げることができる。
【0021】
【表1】

【0022】
上記合成樹脂吸着剤の場合、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル等の有機溶媒を用いて吸着成分の回収及び樹脂の再生をすることが出来る。
【0023】
非極性吸着剤としては、活性炭も使用でき、好ましくは、塩化亜鉛で賦活した活性炭(塩化亜鉛炭)を挙げることが出来る。活性炭は、例えば、細孔半径が10〜100Åであり、かつ表面積が1000m2/g以上である活性炭が好ましい。このような活性炭としては、例えば、日本エンバイロケミカルズ社製の粒状白鷺KL、DC32、及びカルボラフィン、並びに和光純薬社製の活性炭素粉末等を挙げることが出来る。
【0024】
また、非極性吸着剤としては、ODS(オクタデシル基化学結合型シリカ)樹脂を用いることもできる。ODS樹脂は、シリカゲル担体にオクタデシル基を化学結合した基材である。ODS担体といっても、炭素含有量の違い、残存シラノ−ル基の処理法の違い、シリカ担体の物性(粒子径、比表面積、細孔容積、細孔径)の違いにより選択性が異なる。ODS担体の例としては、例えば、ワイエムシィ社製のYMC-Pack PolymerC18、東ソー社製のTskgel ODS80ts、ODS100V等が挙げることが出来る。例えば、ODS樹脂を充填したカラムへペプチド混合物を通液し、親水性トリペプチド以外のペプチド(夾雑物)を吸着させ、親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することもできる。
【0025】
本発明においては、合成吸着剤、活性炭、または合成吸着剤と活性炭を併用して得られたペプチド精製物を更にODS樹脂を用いて精製することもできる。また、合成吸着剤、活性炭、ODS樹脂の2種以上の吸着剤を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
トリペプチドは上記ペプチド組成物の中でも極性が大きい成分であり、中でも、親水性トリペプチドは、極性が大きい成分である。そのため、合成吸着剤、活性炭、またはODS樹脂の様な固定相を用いることで親水性トリペプチド以外のペプチド成分(夾雑物)を吸着剤へ吸着させ、親水性トリペプチドを優先的に分離することが出来る。合成吸着剤及び活性炭は、非極性物質をファンデルワールス力に基づく疎水相互作用にて吸着することが知られている。
【0027】
なお、親水性トリペプチドの分離条件は原料とするトリペプチドを含有するペプチド組成物の種類や精製法により条件が異なるのでpH、温度や処理速度などを任意に選択して決定することが出来る。
【0028】
ペプチド混合物の非極性吸着剤への接触は、例えば、非極性吸着剤を充填したカラムにペプチド混合物を流し込むことで実施できる。その際、ペプチド混合物に含有される疎水性トリペプチドGly-X-Y及びその他のペプチドの少なくとも一部を非極性吸着剤に吸着させる。疎水性トリペプチドGly-X-Y及びその他のペプチドの非極性吸着剤への吸着は、ペプチド混合物のpHを4以上7以下に調整することでより良好に行うことができる。疎水性トリペプチドGly-X-Y及びその他のペプチドの非極性吸着剤への吸着は、好ましくはペプチド混合物のpHを5以上7以下に調整する。この範囲のpHに調整したペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させることで、疎水性トリペプチドGly-X-Y及びその他のペプチドが、選択的に非極性吸着剤に吸着し、吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することができる。
【0029】
pH調整にはリン酸、塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素アンモニウムを使用することが出来る。
【0030】
ペプチド混合物と非極性吸着剤との接触は、カラム以外の方法で行うこともできる。例えば、バッチ式(適当な容器へ非極性吸着剤を入れ、そこへ親水性トリペプチドを含有するペプチド混合物、例えばゼライス社製のHACPを入れて疎水性トリペプチドGly-X-Y及びその他のペプチドの少なくとも一部を吸着させる方法)も可能である。
【0031】
非極性吸着剤にペプチド混合物に含まれる疎水性トリペプチド等のペプチドの少なくとも一部を吸着させ、親水性トリペプチドの含有率が高くなった溶液を回収する。
【0032】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Y含有水溶液は、吸着の条件および溶出の条件を調整することで、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率を25%以上にできる。また、負荷量を変えることでも親水性トリペプチド含有率をコントロールできる。負荷量を上げると親水性トリペプチド含有率は相対的に減少し、負荷量を至適量にすることで親水性トリペプチド含有率を70%以上にすることが出来る。ここで負荷量とは、単位量の非極性吸着剤で処理するペプチド混合物の量である。
【0033】
さらに、回収した親水性トリペプチドGly-X-Y含有水溶液を、さらに限外ろ過に供することもでき、さらに限外ろ過に供することで、親水性トリペプチド含有率を上昇させることができる。尚、親水性トリペプチド含有率と、負荷量との関係は、使用する非極性吸着剤の非極性や原料中の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率により、変化する。従って、非極性吸着剤の非極性や原料中の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率を考慮し、かつペプチド精製液中の所望の親水性トリペプチド含有率を考慮して、負荷量を制御することが適当である。
【0034】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液は、脱塩処理に供して、塩分含有量を低減したペプチド精製物を得ることができる。脱塩処理には、無機イオンを除去する(脱塩)方法として、例えば、一般的に使用されている電気透析またはイオン交換樹脂を用いることができる。また、回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液は、脱塩処理して、または脱塩処理することなしに、MFろ過等のろ過処理に供することで、滅菌することもできる。
【0035】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液、この溶液を脱塩処理した溶液、この溶液を脱塩処理し、かつMFろ過等で処理をした溶液、及びこの溶液をMFろ過等で処理した溶液を乾燥して、固形のペプチド精製物を得ることができる。本発明により得られた親水性トリペプチドを25%以上含有するペプチド精製物は、上記の水溶液の状態で十分な保存安定性はある。しかし、脱塩処理及び/又はMFろ過したトリペプチド水溶液は、必要に応じて濃縮、乾燥を行うことができる。真空乾燥、真空凍結乾燥、噴霧乾燥等により、乾燥粉末とすることも出来る。
【0036】
さらに、上記で脱塩処理及び/又はMFろ過した親水性トリペプチド水溶液は、好ましくはメンブランフィルター(好ましくは孔径0.2μm)で前処理した後、分画分子量1000〜6000の範囲の限外ろ過にて、脱エンドトキシンを行うことが好ましい。メンブランフィルター処理したトリペプチド精製物を含む水溶液を、分画分子量1000の限外ろ過膜で処理することで、エンドトキシンを低減した親水性トリペプチド精製物を透過液として得ることができる。トリペプチド精製物の原料は、前述のように、ある程度精製したコラーゲンあるいは変性コラーゲン(ゼラチン)などであるが、微量ではあるが、不可避的にエンドトキシンを含有する。それに対して、トリペプチド精製物を分画分子量1000〜6000の範囲の限外ろ過膜で処理することで、エンドトキシン含有量を日本薬局方 一般試験法 7.エンドトキシン試験法(ゲル化法)による検出限界である0.03EU/mL未満にまで低減できる。
【0037】
本発明は、上記方法で得られたペプチド組成物を包含する。即ち、本発明は、親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)の含有率が25%以上であり、かつエンドトキシンの含有量が0.03EU/mL未満であるペプチド組成物を包含する。親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率は、好ましくは40〜95%の範囲である。
【0038】
さらに本発明は、上記エンドトキシンの含有量が0.03EU/mL未満であるペプチド組成物を含有する腹膜透析液、輸液製剤、変形性関節症用製剤、及び慢性関節リュウマチ用製剤に関する。これら腹膜透析液、輸液製剤、変形性関節症用製剤、及び慢性関節リュウマチ用製剤は、エンドトキシンの含有量が0.03EU/mL未満であることから、安全性に優れたものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0040】
実施例1
市販のコラーゲンペプチド360mg(ゼライス社製)を純水3.24mLに溶解し、10%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを13.0%(総トリペプチド含有率として16.0%)含有していた。総トリペプチド含有率の測定方法は、ゲルろ過クロマトグラフィーにより分析した。また、親水性のトリペプチド含有率の測定方法は、逆相クロマトグラフィーにより分析し、水100%の溶離条件(0-15min)で溶出してきた成分を親水性トリペプチド含有率とした。条件は以下の通りである。
【0041】
ゲルろ過クロマトグラフィーの分析条件
column : Superdex Peptide(10mm×300mm)
Eluent : 100mM Tris/HCl(pH7.4)
Flow rate : 1mL/min
Detection : UV at 214nm
【0042】
逆相クロマトグラフィーの分析条件
column : TSKgel ODS-80Ts(4.6mm×150mm)
Eluent : A)H2O/TFA(100/0.1)、B)CH3CN/H2O/TFA(50/50/0.1)
Temp : 40℃
Flow rate : 1mL/min
Detection : UV at 214nm
【0043】
このコラーゲンペプチド水溶液を、合成吸着剤12mLを充填したアクリル製カラムへ流速SV1(室温)で通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。合成吸着剤には、三菱化学社製のスチレン系合成吸着剤であるダイヤイオンHP20、HP21、セパビーズSP70、SP825、SP850、置換芳香族系合成吸着剤であるSP207、アクリル系合成吸着剤であるダイヤイオンHP2MGを使用した。合成吸着剤の細孔(最頻度半径)は以下の通りである。HP20:260Å、HP21:80Å、SP70:70Å、SP825:57Å、SP850:38Å、SP207:105Å、HP2MG:170Å
【0044】
各種合成吸着剤により得られたペプチド精製物を分析した結果を表2に示した。その結果、全ての系で親水性トリペプチド含有率25%以上のペプチド精製物が得られた。また、トリペプチドの回収率は45%以上であり、HP20では73%、SP70においては約90%と良好な結果が得られた。ペプチド精製物の分析は、前述と同様のゲルろ過クロマトグラフィー(総トリペプチド含有率測定)及び逆相クロマトグラフィー(親水性トリペプチド含有率の測定)により行った。以下の実施例でも、特に断らない限り同様である。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2
実施例1で用いたと同じ市販のコラーゲンペプチド15g(ゼライス社製)を純水100mLに溶解し、前処理として脱塩処理を行なった。脱塩には三菱化学社製の強酸性陽イオン交換樹脂DIAION SK1B 2mLと、強塩基性陰イオン交換樹脂DIAION SA10A 4mLを混ぜ合わせた後、アクリル製のカラムへ充填しイオン交換樹脂を行なった。その後、純水で希釈し10%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。なお、脱塩処理はイオン交換樹脂を使用した。表3に脱塩前後の分析結果を示した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを13.2%(総トリペプチド含有率として16.2%)含有していた。
【0047】
【表3】

【0048】
この脱塩処理を施した10%コラーゲンペプチド水溶液を合成吸着剤12mLを充填したアクリル製カラムへ流速SV1(室温)で通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。なお、合成吸着剤には、三菱化学社製のスチレン系合成吸着剤であるダイヤイオンHP20、またはセパビーズSP70を使用した。また、通液量は、HP20は3.6mL、SP70は4.8mLとした。
【0049】
HP20またはSP70により得られたペプチド精製物を分析した結果を表4に示した。その結果、全ての系で親水性トリペプチド含有率60%以上のペプチド精製物が得られた。トリペプチドの回収率は75%以上と良好な結果が得られた。HP20においては前処理として脱塩処理を行なうことで精製度が上昇した。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例3
実施例1と同様の市販のコラーゲンペプチドを実施例2と同様に脱塩処理した10%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを12.4%(総トリペプチド含有率として15.9%)含有していた。
【0052】
2連結カラム(1)または2連結カラム(2)に、脱塩処理を行なった10%コラーゲンペプチド水溶液を流速SV1(室温)で通液することにより、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。通液量は、2連結カラム(1)は4.8mL、2連結カラム(2)は6.0mLとした。
【0053】
なお、2連結カラム(1)は、合成吸着剤HP20(6mL)を充填したアクリル製カラムとSP70(6mL)を充填したアクリル製のカラムをHP20、SP70の順に接続した2連結カラムであり、2連結カラム(2)は合成吸着剤SP70(6mL)を充填したアクリル製カラムとHP20(6mL)を充填したアクリル製のカラムをSP70、HP20の順に接続した2連結カラムである。
【0054】
2連結カラム(1)または2連結カラム(2)で得られたペプチド精製物を分析した結果を表5に示した。その結果、親水性トリペプチド含有率60%以上のペプチド精製物が得られた。また、トリペプチドの回収率は50%以上と良好な結果が得られた。合成吸着剤HP20及びSP70を併用することで精製度は上昇した。トリペプチド(Tp)回収率は50%程度となった。
【0055】
【表5】

【0056】
実施例4
実施例1と同様の市販のコラーゲンペプチドを実施例2と同様に脱塩処理した10%コラーゲンペプチド水溶液を使用した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを13.2%(総トリペプチド含有率として16.1%)含有していた。
【0057】
このコラーゲンペプチド水溶液をスチレン系の合成吸着剤SP70を12mL充填したアクリル製カラムへ流速SV1(室温)で通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。コラーゲンペプチド水溶液の通液量は(1)3.6mL、(2)6.0mL、(3)8.4mL、(4)10.8mLとした。なお、合成吸着剤1mL当たりのコラーゲンペプチドの負荷量は、それぞれ(1)30mg/mL-resin、(2)50mg/mL-resin、(3)70mg/mL-resin、(4)90mg/mL-resinとした。
【0058】
合成吸着剤SP70へコラーゲントリペプチドの負荷量を変えて得られたペプチド精製物を分析した結果を表6に示した。コラーゲンペプチドの負荷量を増減することで精製度を調整することができた。コラーゲンペプチド負荷量30mg/mL-resinの系では親水性のトリペプチド含有率が75.4%となった。また、トリペプチドの回収率は負荷量に関係なく70%程度と良好な結果が得られた。
【0059】
【表6】

【0060】
実施例5
市販のコラーゲンペプチド(ゼライス社製)を純水に溶解し、10%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。また、コラーゲンペプチド水溶液のpHは、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて(1)4.0、(2)5.0、(3)6.0、(4)7.0、(5)8.0に調整した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを13.2%(総トリペプチド含有率として16.2%)含有していた。
【0061】
このpHの異なるコラーゲンペプチド水溶液を合成吸着剤12mLを充填したアクリル製カラムへ流速SV1(室温)で通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。合成吸着剤には、三菱化学社製のスチレン系合成吸着剤であるダイヤイオンHP20、セパビーズSP70を使用した。合成吸着剤1mL当たりのコラーゲンペプチド負荷量は、HP20は60mg/mL-resin、SP70は100mg/mL-resinとした。
【0062】
得られたペプチド精製物を分析した結果を表7、8に示した。HP20の系ではトリペプチド(Tp)含有率はpH6.0で最も高く、pH6.0を中心に酸性側、或はアルカリ側へpHが変わることで精製度が低下する傾向が認められた。トリペプチドの回収率については、酸性側で高くなる傾向が認められた。SP70の系では、Tp含有率はpH5.0及びpH6.0で最も高く、それより酸性側或はアルカリ側へpHが変わることで精製度が低下する傾向が認められた。トリペプチドの回収率については、pH7.0が最も高い値を示した。
【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
実施例6
活性炭5gを純水40mLに懸濁させた活性炭懸濁液に、市販のコラーゲンペプチド(ゼライス社製)を(1)1.0g、(2)2.0g、(3)4.0g、(4)8.0g添加/溶解し、室温で2時間静かに振とう(吸着処理)した。その後、ろ過により活性炭を除去し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。該コラーゲンペプチドは親水性トリペプチドを13.0%(総トリペプチド含有率として16.0%)含有している。なお、活性炭1g当たりのコラーゲンペプチドの負荷量は(1)200mg/mL-carbon、(2)400mg/mL-carbon、(3)800mg/mL-carbon、(4)1600mg/mL-carbonである。活性炭は日本エンバイロケミカルズ社製の粒状白鷺KL、DC32、カルボラフィン、和光純薬の活性炭素粉末を使用した。
【0066】
各種活性炭による吸着処理にて得られたペプチド精製物を分析した結果を表9に示した。コラーゲンペプチドの負荷量を増減させることで親水性のトリペプチド含有率を22〜96%に調整することができた。トリペプチドの回収率は活性炭の種類により大きく異なるが「カルボラフィン」或は「活性炭素粉末」において70%以上と良好な結果が得られた。
【0067】
【表9】

【0068】
実施例7
市販のコラーゲンペプチド300g(ゼライス社製)を純水600mLに溶解し、25%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを20.3%(総トリペプチド含有率として28.8%)含有している。
【0069】
このコラーゲンペプチド水溶液を、ODS樹脂785mLを充填したステンレス製耐圧カラム(100mm×100mm I.D.)へ流速100mL/minで通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。ODS樹脂には、ワイエムシィ社製のYMC-Pack ODS-AQを使用した。
【0070】
ODS樹脂により得られたペプチド精製物を分析した結果、親水性トリペプチド含有率46.0%(総トリペプチド含有率として51.7%)のペプチド精製物が得られた。また、この溶液を凍結乾燥し、83.5gの凍結乾燥粉末を得た。
【0071】
ODS樹脂により得られた粉末状のペプチド精製物を、更にODS樹脂で処理することにより、親水性トリペプチド含有率57.6%(総トリペプチド含有率として88.6%)のペプチド精製物が得られた。また、この溶液を凍結乾燥し、35.8g凍結乾燥粉末を得た。
【0072】
実施例8
市販のコラーゲンペプチド600g(ゼライス社製)を純水3.4Lに溶解し、10%コラーゲンペプチド水溶液を調製した。その後、実施例2と同様にイオン交換樹脂を用いて脱塩処理を行なった。表10に脱塩前後の分析結果を示した。該コラーゲンペプチドは、親水性トリペプチドを13.4%(総トリペプチド含有率として16.4%)含有していた。
【0073】
【表10】

【0074】
このコラーゲンペプチド水溶液を、合成吸着剤12Lを充填したアクリル製カラムへ流速SV1(室温)で通液し、親水性のトリペプチドGly-X-Yに富むペプチド精製物を得た。得られたペプチド精製物の分析結果を表11に示した。なお、吸着剤は、三菱化学社製の合成吸着剤ダイヤイオンHP20を使用した。
【0075】
【表11】

【0076】
合成吸着剤による吸着処理にて得られたペプチド精製液を噴霧乾燥し、約86gの粉末状ペプチド精製物を得た。本実験においては大河原化工機(株)社製のスプレードライヤー(L-8型)を使用して以下の条件で乾燥を行った。表12に乾燥条件を示した。
【0077】
【表12】

【0078】
この粉末状のペプチド精製物約86gを純水774mLに溶解し、10%ペプチド精製液を調製した。このペプチド精製液を最終0.2μmのメンブランフィルターを用いて滅菌ろ過を実施した後に限外ろ過を行なった。限外ろ過は、分画分子量1,000〔Prep Scale Ultracel Seriesスパイラルカートリッジ(日本ミリポア(株)〕の膜を備えたMILLIPORE社のPro Flux30を用いて行なった。その後、ろ液を凍結乾燥し、約65gの凍結乾燥粉末を得た。
【0079】
本実施例で使用したコラーゲンペプチド(原料)のろ過クロマトグラムを図1に示し、逆相クロマトグラフムを図3に示す。また、上記で得られたペプチド精製物(凍結乾燥粉末)のゲルろ過クロマトグラフムを図2に示し、逆相クロマトグラフムを図4に示す。
【0080】
ゲルろ過クロマトグラフィー分析条件
column : Superdex Peptide(10mm×300mm)
Eluent : 100mM Tris/HCl(pH7.4)
Flow rate : 1mL/min
Detection : UV at 214nm
【0081】
逆相クロマトグラフィー分析条件
column : TSKgel ODS-80Ts(4.6mm×150mm)
Eluent : A)H2O/TFA(100/0.1)、B)CH3CN/H2O/TFA(50/50/0.1)
Temp : 40℃
Flow rate : 1mL/min
Detection : UV at 214nm
【0082】
得られた凍結乾燥ペプチド精製物について日本薬局方 一般試験法 7.エンドトキシン試験法(ゲル化法)に従い測定を行った。その結果、エンドトキシンは陰性であった。表13に結果を示した。また、表14に限外ろ過前後のゲルろ過分析による分子量分布測定の結果を示した。
【0083】
【表13】

【0084】
【表14】

【0085】
ペプチド精製物の凍結乾燥品の組成及び特性、なお、表15〜16に最終製品の品質を示した。図1、2にゲルろ過クロマトグラフィーによるコラーゲンペプチド(原料)と凍結乾燥ペプチド精製物のクロマトグラムを示した。また、図3、4に逆相クロマトグラフィーによるコラーゲンペプチド(原料)と凍結乾燥ペプチド精製物のクロマトグラムを示した。
【0086】
【表15】

【0087】
【表16】

【0088】
配合例
以下、ペプチド精製組成物を配合した医薬品、再生医療用材料、医薬部外品、化粧品を示すが、これら配合例は本発明の範囲を何ら制限するものではない。また本発明に係るペプチド精製組成物を医薬品、再生医療用材料、医薬部外品、化粧品に配合する方法は既に公知になっている操作方法に準じて実施することができる。
【0089】
配合例1
[腹膜透析液]
次の組成で腹膜透析液を調製した。
ナトリウムイオン 140.0mEq/L
カルシウムイオン 4.5mEq/L
マグネシウムイオン 1.5mEq/L
塩素イオン 101.0mEq/L
乳酸 45.0mEq/L
グルコース 8g/L
実施例8の凍結乾燥精製物 25g/L
注射用水 適量
全量 1L
【0090】
本腹膜透析液は高い除水効果があるため、透析液の交換回数、透析時間を減ずることができ、患者に与える負担を小さくすることができる。
【0091】
配合例2
[輸液製剤]
次の組成で輸液製剤を調製した。
塩化ナトリウム 8.6g/L
塩化カリウム 0.3g/L
塩化カルシウム 0.33g/L
グルコース 8g/L
実施例8の凍結乾燥精製物 25g/L
注射用水 適量
全量 1L
【0092】
本輸液製剤は循環血液量及び組織間液の減少時に投与されることによって、循環血液量を回復する効果がある。
【0093】
配合例3
[化粧水]
次の組成で保湿化粧水を調整した。
実施例8の凍結乾燥精製物 0.5%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1%
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05%
1,3-ブチレングリコール 5.0%
グリセリン 1.0%
防腐剤 適量
精製水 残余
【0094】
本化粧水はコラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用を有するので、肌のハリや弾力を保つ効果がある。
【0095】
配合例4
[変形性関節症用製剤あるいは慢性関節リュウマチ用製剤]
次の組成で変形性関節症用製剤、或は慢性関節リュウマチ用製剤を調整した。
ヒアルロン酸ナトリウム 10.0g/L
実施例7の凍結乾燥精製物 1.2g/L
注射用水 適量
全量 1L
【0096】
本製剤は、変形性関節症用製剤あるいは慢性関節リュウマチにおける関節痛を軽減し、且つ、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用を有するので関節症における軟骨破壊を軽減する効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の方法で得られるプチド精製物は、機能性の高い健康食品、機能性食品、医薬品、医薬部外品または化粧品原料として利用することができ、食品及び医療の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】コラーゲンペプチド(原料)のゲルろ過クロマトグラム
【図2】ペプチド精製物(凍結乾粉末)のゲルろ過クロマトグラフム
【図3】コラーゲンペプチド(原料)の逆相クロマトグラフム
【図4】ペプチド精製物(凍結乾燥粉末)の逆相クロマトグラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)を含有するペプチド混合物を非極性吸着剤と接触させて、
前記ペプチド混合物に含有される少なくとも一部のペプチドを非極性吸着剤に吸着させ、
前記非極性吸着剤に吸着しなかった親水性トリペプチドGly-X-Yを回収することを含む、親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が前記ペプチド混合物より高められたペプチド精製物の製造方法。
【請求項2】
前記ペプチド混合物はタンパク質加水分解物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質加水分解物はゼラチンまたはコラーゲンの酵素消化精製物である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ペプチド混合物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が2〜20%の範囲であり、かつペプチド精製物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が25%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
親水性トリペプチドGly-X-Yが、Gly-Ser-Hyp、Gly-Lys-Asp、Gly-Ala-Ala、Gly-Pro-Hyl、Gly-Leu-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Ala-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Gln-Glu、Gly-Glu-Gln、Gly-Pro-Ser、Gly-Pro-Lys、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro- Pro、 Gly-Pro-ArgおよびGly-Pro-Hypから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記非極性吸着剤がスチレン系吸着剤、置換芳香族系吸着剤、またはアクリル系吸着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記非極性吸着剤が、活性炭である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記活性炭が、塩化亜鉛賦活活性炭である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記活性炭は、細孔半径が10〜100Åであり、かつ表面積が1000m2/g以上である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記非極性吸着剤が、ODS担体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記非極性吸着剤への接触は、pHを4以上7以下に調整したペプチド混合物を用いることで行う請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記非極性吸着剤への接触は、非極性吸着剤を充填したカラムにペプチド混合物を含む溶液を流通することで行い、カラムからの流出液を回収することで親水性トリペプチドGly-X-Yの回収を行う請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記非極性吸着剤への接触は、非極性吸着剤とペプチド混合物を含む溶液を容器中で混合し、必要により一定時間放置することで行い、非極性吸着剤から溶液を分離することで親水性トリペプチドGly-X-Yの回収を行う請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ペプチド精製物の親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が40〜95%の範囲である請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液を、脱塩処理して、塩分含有量を低減したペプチド精製物を得る請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液、またはこの溶液を脱塩処理した後の溶液をMFろ過して、除菌したペプチド精製物を得る請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
回収した親水性トリペプチドGly-X-Yを含有する溶液、またはこの溶液を脱塩処理及び/又はMFろ過した溶液を乾燥して、固形のペプチド精製物を得る請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項16または17に記載の方法で得られたトリペプチド精製物を含む水溶液を、分画分子量1000〜6000の限外ろ過膜で処理して、透過液としてエンドトキシンを低減したトリペプチド精製物を得る、エンドトキシンを低減したトリペプチド精製物の製造方法。
【請求項19】
親水性トリペプチドGly-X-Y(Gly-X-Yはアミノ酸配列であり、X、YはGly以外のアミノ酸残基を示す)の含有率が25%以上であり、かつエンドトキシンの含有量が0.03EU/mL未満であるペプチド組成物。
【請求項20】
親水性トリペプチドGly-X-Yの含有率が40〜95%の範囲である請求項19に記載のペプチド組成物。
【請求項21】
親水性トリペプチドGly-X-Yが、Gly-Ser-Hyp、Gly-Lys-Asp、Gly-Ala-Ala、Gly-Pro-Hyl、Gly-Leu-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Ala-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Gln-Glu、Gly-Glu-Gln、Gly-Pro-Ser、Gly-Pro-Lys、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro- Pro、Gly-Pro-ArgおよびGly-Pro-Hypから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項19または20に記載のペプチド組成物。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか1項に記載のペプチド組成物を含有する腹膜透析液。
【請求項23】
請求項19〜21のいずれか1項に記載のペプチド組成物を含有する輸液製剤。
【請求項24】
請求項19〜21のいずれか1項に記載のペプチド組成物を含有する変形性関節症用製剤または慢性関節リュウマチ用製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−24611(P2008−24611A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196665(P2006−196665)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(391024353)ゼライス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】