説明

ペリクル収納容器

【解決手段】ペリクルが載置されるトレイと、トレイを覆ってトレイと共にペリクルを収容する閉空間を形成するカバーとを備え、トレイが、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の一部に設けられた粘着剤の未塗布領域とのみ接触することによってペリクルを支持するペリクルフレーム支持体と、ペリクルフレームをペリクルフレーム支持体上で固定する保持機構とを有し、ペリクルフレーム支持体が、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成され、両者が硬さの異なる部材の接合体で形成されたペリクル収納容器。
【効果】粘着剤層がペリクル収納容器に接触することなくペリクルが収納容器内で固定され、セパレータを使用せずとも粘着剤層を保護することができるため、保管中にセパレータを必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際に使用されるペリクルの収納容器、特には、液晶ディスプレイ製造に使用される大型のペリクルの収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造、液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウェハー又は液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、このときに用いるフォトマスク又はレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジが、がさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けた後に露光をする方法が一般に採用されている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルには、ペリクルフレームの上端面に透明なペリクル膜が張設されるとともに、下端面にフォトマスクに貼り付けるための粘着剤層が形成されている。具体的には、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着する(特許文献1:特開昭58−219023号公報)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤で接着する(特許文献2:米国特許第4861402号明細書、特許文献3:特公昭63−27707号公報)。更に、ペリクルフレームの下端面には、フォトマスクに装着するためのポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着剤層、及び必要に応じて、粘着剤層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が貼り付けられる。
【0005】
セパレータは、通常PET樹脂などの100〜200μm程度の薄いフィルム上に離型剤を塗布し、所望の形状に切断加工したものが使用される。セパレータは、フィルムの薄さに加え、なおかつ、フレームの外形とほぼ同じ枠状の形状をしているため、紐のようになってしまい、きれいに洗浄することが困難であるほか、粘着剤層への貼り付け等の作業上において取り扱いが極めて不便であるという問題がある。
【0006】
また、セパレータは継ぎ目、折り目等のない一枚の原材料シートで製造される必要がある。セパレータに継ぎ目、折り目等の段差があると、貼り付けた粘着剤層に形状が転写されてしまい、貼り付け後のマスクの安定性に影響を及ぼすおそれがある。このような継ぎ目、折り目等のない大型の一枚の原材料シートを製造することは困難であり、また、離型剤を全面にわたって欠陥なく塗布することも困難である。そのため、大型のペリクル、特には1辺の長さが1mを超えるような大型のペリクルに対するセパレータの製造は困難であった。
【0007】
セパレータは粘着剤層を保護する機能のみを必要とされ、ペリクル使用時には剥がされ廃棄されるものであるため、これらの問題を解決するためにはセパレータを用いなければよい。セパレータの使用を省略するためには、例えば、ペリクル収納容器を用いればよく、この場合、通常ペリクルは粘着剤層を下側(ペリクル収納容器側)に向けて収納容器に収容するが、逆に粘着剤層を上側に向け、ペリクル膜側を下側に向けて載置することも考えられる。しかし、この場合、ペリクル膜内側がペリクル収納容器内で上方を向くことになり、最も保護しなければならない部分に異物が付着する懸念があり、好ましくない。そのため、これまでのところ、保管中にセパレータを必要とせずにペリクルを収納できるペリクル収納容器はほとんど提案されていなかった。
【0008】
保管中にセパレータを必要としないペリクル及びペリクル収納容器として、ペリクル収納容器内にペリクルフレーム支持体を設けたものがある(特許文献4:特開2009−128635号公報)。しかし、ペリクルフレーム支持体が軟らかい場合には、ペリクルフレーム支持体をペリクル容器へ確実にネジ止め等により十分に固定することができなかったり、ペリクルフレーム支持体が硬い場合には、ペリクル収納容器を移動する際に生じるペリクルフレームへの振動・衝撃を十分吸収できなかったりという不具合があり、問題解決には至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−219023号公報
【特許文献2】米国特許第4861402号明細書
【特許文献3】特公昭63−27707号公報
【特許文献4】特開2009−128635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、ペリクル、特には、少なくとも一つの辺長が500mm以上の大型のペリクルについて、セパレータ以外の粘着剤層保護手段、即ち、セパレータを使用せずとも粘着剤層を保護し、かつ、保管中や輸送中の振動、衝撃がある場合にも確実にペリクルを保持することができるペリクル収納容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記問題点を解決するため鋭意検討を行った結果、ペリクルが載置されるトレイと、トレイを覆ってトレイと共にペリクルを収容する閉空間を形成するカバーとを備え、トレイが、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の一部に設けられた粘着剤の未塗布領域とのみ接触することによってペリクルを支持するペリクルフレーム支持体と、ペリクルフレームをペリクルフレーム支持体上で固定する保持機構とを有し、更に、ペリクルフレーム支持体が、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成され、両者が硬さの異なる部材の接合体で形成されているペリクル収納容器が、セパレータを使用せずとも粘着剤層を保護し、かつ、保管中や輸送中の振動、衝撃がある場合にも確実にペリクルを保持することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記ペリクル収納容器を提供する。
請求項1:
ペリクルが載置されるトレイと、トレイを覆って該トレイと共にペリクルを収容する閉空間を形成するカバーとを備え、前記トレイが、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の一部に設けられた粘着剤の未塗布領域とのみ接触することによってペリクルを支持するペリクルフレーム支持体と、ペリクルフレームをペリクルフレーム支持体上で固定する保持機構とを有するペリクル収納容器であって、
前記ペリクルフレーム支持体が、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成され、両者が硬さの異なる部材の接合体で形成されてなることを特徴とするペリクル収納容器。
請求項2:
前記ペリクルフレーム支持体の基体部がエンジニアリングプラスチックで形成され、前記ペリクルフレーム支持体の緩衝部がゴム又はエラストマーで形成されてなることを特徴とする請求項1記載のペリクル収納容器。
請求項3:
前記ペリクルフレーム支持体の基体部が緩衝部より硬く形成され、該緩衝部の硬さがデュロメータタイプAで10以上80以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のペリクル収納容器。
請求項4:
前記ペリクルフレーム支持体の基体部と緩衝部とが二色成型により一体成型されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のペリクル収納容器。
【0013】
本発明のペリクル収納容器は、セパレータを使用せずとも粘着剤層を保護し、かつ、保管中や輸送中の振動、衝撃がある場合にも確実にペリクルを保持することができる。更には、セパレータを使用しないため、特に、大型ペリクルにおける大型セパレータの原材料入手難という問題を解決できるほか、セパレータ自体のコストのみならず、セパレータの洗浄作業、貼り付け作業等関連作業を削減できるため、製造コストを大きく低減することができる。以上のことから、産業上における利用価値は極めて高い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘着剤層がペリクル収納容器に接触することなくペリクルが収納容器内で固定され、セパレータを使用せずとも粘着剤層を保護することができるため、保管中にセパレータを必要としないペリクルの収納容器を提供することができる。よって、特に大型のペリクルにおけるセパレータ原材料の入手難という問題を解決できる。また、輸送中やセパレータの剥離作業におけるセパレータ自体からの発塵がなくなるため、異物付着防止の観点からも効果が大きい。更に、セパレータ自体のコストのみならず、洗浄作業、貼り付け作業等の関連する工程を削減できるため、製造コストを大幅に低減することができる。
【0015】
また、ペリクルフレーム支持体を硬さの異なる部材の組み合わせとすることにより、輸送中のペリクルの振動・衝撃を効果的に吸収、緩和することができ、特に、ペリクルフレームをゴム又はエラストマーで支持するようにした場合、輸送中のペリクルの振動・衝撃をゴム又はエラストマーで吸収・緩和し、ペリクルフレームやペリクル膜がペリクル収納容器と接触し、傷ついてしまうことを効果的に防ぐことができる。更に、ペリクルフレーム支持体を、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成すれば、それぞれ最適な部材を使用することができる。更には、二色成型による成型方法により、一体成型することにより、基体部と緩衝部とを接合する工程を省くことができ、しかも強力に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のペリクル収納容器の一実施形態を示し、ペリクル収納容器にペリクルを収容した状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のA−A’線における断面図、(C)は(A)のB−B’線における断面図、(D)は(B)においてCで囲まれた部分の拡大図、(E)は、カバーを開けた状態の平面図である。
【図2】本発明のペリクルフレーム支持体の一実施形態を示す縦断面図である。
【図3】実施例において使用したペリクルを示す図であり、(A)は粘着剤塗布端面側から見た底面図、(B)は、(A)のD−D’線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明のペリクル収納容器の一実施形態を示す図であり、この場合、ペリクル1を収容した状態のペリクル収納容器を示している。図1中、(A)は平面図、(B)は(A)のA−A’線における断面図、(C)は(A)のB−B’線における断面図、(D)は(B)においてCで囲まれた部分の拡大図、(E)は、カバーを開けた状態の平面図である。
【0018】
本発明のペリクル収納容器は、図1に示されるように、ペリクル1が載置されるトレイ21と、トレイ21を覆ってトレイ21と共にペリクル1を収容する閉空間を形成するカバー22とを備える。トレイとカバーは、発塵しにくい硬質の材料、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂や金属などで形成される。ペリクルは、フォトマスクの形状に合わせて作製され、通常、四角形(長方形又は正方形)であるが、トレイは、ペリクルを収容できるように、ペリクルの形状及びサイズに合わせて形成される。図1に示されるペリクル収納容器2の場合、トレイ21は略長方形形状に形成され、この場合、外周壁の内側には、外周壁に沿って、土手部211が全周に亘って凸設されている。
【0019】
カバー22は、トレイ21を覆う蓋状に形成されており、この場合、カバー22の外周縁部は、外側に、更に上方に向かって折り返された形状となっており、トレイ21にカバー22が載置されたとき、折り返しによって形成されたカバー22の底面が、トレイ21の外周壁と土手部211との間の上面に、また、折り返しによって形成されたカバー22の外周面が、トレイ21の外周壁の内周面に、各々が接して、ペリクル1を収容する閉空間が形成されるようになっている。
【0020】
ペリクル収納容器には、図1に示されるように、フォトマスクの形状に合わせて形成された四角形リング形状(図1の場合、長方形リング形状)のペリクルフレーム11の一端面にペリクル膜12が張設され、他端面に粘着剤(粘着剤層)13が、通常、ペリクルフレーム11の全周に亘って塗布されたペリクル1が収容される。そして、図1に示されるように、ペリクルフレーム11の粘着剤塗布端面の一部(外周側、幅方向中央部、内周側のいずれでもよい)にのみ粘着剤層13が形成され(図1の場合、内周側に形成されている)、残部は、粘着剤13が塗布されていない未塗布領域aとなっている。
【0021】
本発明のペリクル収納容器のトレイには、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の一部に設けられた粘着剤の未塗布領域とのみ接触することによってペリクルを支持するペリクルフレーム支持体が設けられている。ペリクルフレーム支持体は、トレイの上に設けられ、例えば、図1に示される場合は、トレイ21の上面(図1の場合は、トレイ21の外周縁部に凸設された土手部211上)に、ペリクルフレーム支持体3が設けられている。ペリクルフレーム支持体は、ペリクルフレーム上に塗布された粘着剤により形成された粘着剤層とトレイとが接触しないように十分に離間した状態となる高さに形成される。なお、図1の場合は、土手部211上にペリクルフレーム支持体3が設けられているが、これに限定されず、土手部211を形成せずに、トレイ21の上に、必要な高さのペリクルフレーム支持体3を直接形成してもよい。
【0022】
ペリクルフレーム支持体3は、トレイ21の外周縁の内側(例えば、図1に示されるように土手部211上)に、外周縁に沿って全周又は周の一部に設けられる。図1の場合、円錐台形状のペリクルフレーム支持体3が、土手部211のトレイ21の周方向に、略等間隔に8個設けられている。
【0023】
なお、図1では円錐台形状のペリクルフレーム支持体を8ヶ所設けたものを例示しているが、ペリクルフレーム支持体の位置や個数、個々の形状については、収納するペリクルやペリクル収納容器の形状によって適宜設定することができる。基本的には、輸送中の振動や衝撃でペリクルフレームが動いても粘着剤層と、ペリクル収納容器のトレイ及びペリクルフレーム支持体との間隙が確実に確保されるようになっていればよい。ペリクルフレーム支持体をトレイの周方向に一部に設ける場合、ペリクルフレーム支持体の個数は特に限定されるものではないが、ペリクルを安定して支持するためには、ペリクルフレーム支持体を3個以上、特に4個以上設けることが好ましい。
【0024】
ペリクルフレーム支持体には、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の粘着剤が塗布されていない未塗布領域だけが接触するように載置される。図1の場合、ペリクルフレーム11の粘着剤塗布端面の内周側のみに粘着剤層12が形成されており、円錐台形状のペリクルフレーム支持体3の上面が、ペリクルフレーム11の粘着剤塗布端面の粘着剤が塗布されていない未塗布領域aと接して、ペリクルを支持するようになっており、この際、粘着剤層13とペリクルフレーム支持体3とは、接触しないようになっている。
【0025】
また、本発明のペリクル収納容器のトレイには、ペリクルフレームをペリクルフレーム支持体上で固定する保持機構が設けられている。この保持機構としては、例えば、フレーム側面や膜接着層側端面をクランプする保持機構などでもよいが、特に、ペリクルフレーム側面に設けられた非貫通穴にピンを挿入してペリクルフレームを固定する保持機構が好適である。
【0026】
図1に示されるペリクル1には、ペリクルフレーム11の周面から(図1の場合は外周面から形成されているが、内周面からでもよい)ペリクルフレーム11の内部に向かって水平方向に、後述するペリクルフレーム11を固定する保持機構4のピン41が挿入される非貫通穴11aが、保持機構4のピン41の数に対応する所定個数(図1の場合、ペリクルフレーム11の角部に計4個)設けられている。
【0027】
一方、トレイ21上には、非貫通穴11aに対応する位置(図1の場合は、土手部211上の4箇所)に、ピン41を有する保持機構4が設けられている。これにより、ペリクルの輸送中にペリクル収納容器内でペリクルが移動することを防ぐことができる。図1は、ペリクル1が保持機構4によってペリクル収納容器内で固定されている状態を示している。ピン41は、非貫通穴11a内に進退可能となっており、ペリクルフレーム11をペリクルフレーム支持体3上に載置し、非貫通穴11aにピン41を挿入することにより、ペリクルフレーム11がペリクルフレーム支持体3上で固定され、ピン41を非貫通穴11aから引き抜くことにより、ペリクル1を保持機構4から解放することができるようになっている。また、保持機構のピンの先端には、ゴムなどの弾性体を設けることができ、この場合、より安定な固定が可能となるため好ましい。
【0028】
本発明のペリクル収納容器のペリクルフレーム支持体は、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成されている。そして、基体部及び緩衝部の両者が硬さの異なる部材の接合体で形成されている。図2は、図1に示されるペリクル収納容器2のペリクルフレーム支持体3の拡大縦断面図であり、この場合、円錐台形のペリクルフレーム支持体3の下部(トレイ21側)が基体部31、上部、即ち、ペリクルフレーム11と接する側が緩衝部32となっている。ペリクルフレーム支持体の基体部は、緩衝部より硬く形成されていることが好ましい。
【0029】
基体部は、トレイから一体に形成してもよいが、ペリクルの大きさや形状に合わせてペリクルフレーム支持体の位置を調整できることから、トレイとは別部材として設けることが好ましい。その場合、基体部31は、トレイ21との接着、ねじ止め等による確実な固定が必要であるため、硬度、強度がある材料、例えば、エンジニアリングプラスチックで形成することが好ましい。エンジニアリングプラスチックの材質としては、発塵しにくく、表面を平滑に加工できるものであればよく、例えば、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)、PI(ポリイミド)、PA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)などを用いることができる。
【0030】
一方、緩衝部は、ペリクルフレームにかかる振動や衝撃を吸収・緩和する必要があるため、ゴム又はエラストマーであることが好ましい。ゴム又はエラストマーの材質としては表面を平滑に加工できるものであればよく、例えば、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、IR(イソプレンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、Q(シリコーンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、FKM(フッ素ゴム)、IIR(ブチルゴム)等のゴム、PS(ポリスチレン)系、PE(ポリエチレン)系、PP(ポリプロピレン)系等のエラストマー(PS、PE、PPと、PB(ポリブタジエン)との共重合体)などを用いることができる。
【0031】
緩衝部に用いられるゴム又はエラストマーは、その硬さがデュロメータタイプAで10以上80以下の硬さのものが好ましく、更には、10以上60以下のものがより好ましい。硬さがデュロメータタイプAで10より低いと、緩衝部がペリクルフレームを支えきれず潰れてしまったり、軟らかすぎて加工が困難であったりするおそれがある。また、硬さが80より高いと、緩衝部が硬すぎてペリクルフレームにかかる振動や衝撃を吸収・緩和できない場合がある。
【0032】
これらのエンジニアリングプラスチック、ゴム及びエラストマーには、帯電防止性能付与のため、界面活性剤やカーボン、金属、金属酸化物などを配合してもよい。これによって、輸送中やペリクル収納容器からの取り出し時におけるペリクルの帯電を防止することができ、静電気による異物の付着やペリクル貼り付け時のマスクパターンの静電破壊発生の懸念が低下する。
【0033】
更に、ペリクルフレーム支持体の基体部と緩衝部との接合には、両面テープや接着剤、粘着剤等を用いてもよいが、二色成型による一体成型がより好ましい。両面テープでは基体部と緩衝部との接合面に合うように切断し、貼り付けることが困難な場合があり、接着剤や粘着剤では硬化時にガスが発生したり、接合面以外にはみ出してしまったりすることがある。また、それらの工程は、非常に精細な工程であり時間がかかる。これに対して、二色成型による成型であれば、金型内での成型時に基体部と緩衝部とを一体物として成型することができるため、短時間で容易に作製することができる。
【0034】
本発明のペリクル収納容器を用いれば、粘着剤層はトレイに接触することなくペリクル収納容器内に固定、保持された状態で収容される。したがって、セパレータによって粘着剤層を保護する必要がなくなり、セパレータの使用を省略することができる。また、本発明のペリクル収納容器は、セパレータとして、継ぎ目、折り目等のない一枚の原材料シートを確保することが容易ではない、少なくとも一つの辺長が500mm以上、特に1000mm以上、とりわけ1500mm以上の大型のペリクルを収納する容器として特に好適である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]
図3に示すようなペリクル1を作製した。即ち、ペリクルフレーム11として長辺外寸1600mm、短辺外寸1500mm、高さ5.8mm、幅13mmの5000系アルミニウム合金を機械加工により切削し、表面には黒色アルマイト処理を施した。このペリクルフレーム11の外側面の所定の4箇所には、保持機構4のピン41を挿入する非貫通穴11aを設けた。このペリクルフレームを純水で洗浄、乾燥した後、粘着剤層13として、シリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製、製品名:X−40−3122)をトルエンで希釈したものを直交3軸ディスペンサーロボットで塗布した。なお、粘着剤層13は、幅4mm、高さ1.5mmの蒲鉾型の断面形状とした。このとき、ペリクルフレームの幅13mmに対して4mmの粘着剤層が内側に形成されているので、外側に9mm幅の未塗布領域aがあることになる。
【0037】
更に、ペリクル膜接着剤層(図示せず)としてシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製、製品名:KR−3700)をトルエンで希釈して、乾燥後の厚さが0.1mmとなるように粘着剤塗布端面の反対面に塗布した後、130℃に加熱してこれらを硬化させた。ペリクル膜12は、表面を平滑に研磨した1600mm×1700mmの矩形石英基板上にフッ素樹脂(旭硝子株式会社製、製品名:サイトップ)をダイコート法にて塗布し、溶媒を乾燥させた後、石英基板より引き剥がし、厚さ4μmのペリクル膜を得た。そして、このペリクル膜12をペリクル膜接着剤層上に貼り付け、カッターで外側の不要部分を切除し、ペリクル1を完成させた。
【0038】
一方、厚さ5mmの黒色帯電防止ABS樹脂(東レ株式会社製、製品名:トヨラックパレル)を真空成型法により成型し、図1に示されるような、ペリクル収納容器2のトレイ21を作製した。また、同様にして、厚さ5mmの黒色帯電防止ABS樹脂(東レ株式会社製、製品名:トヨラックパレル)を用い、真空成型法によりペリクル収納容器2のカバー22を作製した。ペリクル収納容器トレイ21上にはABS樹脂を射出成型して作製したピン41を有する保持機構4を、ペリクルフレーム11に設けた非貫通穴11aに嵌合するよう位置調整の上、接着固定した。
【0039】
そして更に、ペリクル収納容器2のトレイ21上の8箇所に、ペリクルフレーム11の粘着剤の未塗布領域aにのみ接触するように、ペリクルフレーム支持体3を設けた。ペリクルフレーム支持体3は、ABS樹脂からなる基体部31と、PS−(PE/PP/PB)共重合体(クラレプラスチックス株式会社製、製品名:セプトンKC−596、硬さ:デュロメータタイプAで40)からなるペリクルフレーム緩衝部32とを二色成型により一体の接合体として作製し、トレイ21上に取り付けた。二色成型時には金型温度は40℃に保持し、成型機のシリンダー温度を190℃まで加熱して成型した。
【0040】
このペリクル収納容器2をクリーンルーム内で、純水で洗浄、乾燥させた後、ペリクルフレーム支持体3が、ペリクルフレーム11の粘着剤の未塗布領域aにのみ接触するように載置し、保持機構4でペリクルを固定してペリクル1を収容し、ペリクル収納容器2に収納した。
【0041】
[実施例2]
ペリクルフレーム支持体の基体部をポリカーボネート、緩衝部をシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、製品名:KE−1950−10、硬さ:デュロメータタイプAで10)として二色成型により成型したほかは、実施例1と同様にペリクル収納容器を作製し、ペリクルを固定・収納した。
【0042】
[実施例3]
ペリクルフレーム支持体の基体部をABS、緩衝部をPS−(PE/PP/PB)共重合体(クラレプラスチックス株式会社製、製品名:セプトンKC−623、硬さ:デュロメータタイプAで80)として二色成型により成型したほかは、実施例1と同様にペリクル収納容器を作製し、ペリクルを固定・収納した。
【0043】
[比較例1]
ペリクルフレーム支持体の基体部をABS、緩衝部をシリコーンゲル(信越化学工業株式会社製、製品名:KE−1052A/B、硬さ:デュロメータタイプAで1以下、アスカCで10)として二色成型により成型したほかは、実施例1と同様にペリクル収納容器を作製し、ペリクルを固定・収納した。
【0044】
[比較例2]
ペリクルフレーム支持体の基体部をABS、緩衝部をシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、製品名:KER−2667、硬さ:デュロメータタイプAで90以上、ショアDで70)として二色成型により成型したほかは、実施例1と同様にペリクル収納容器を作製し、ペリクルを固定・収納した。
【0045】
実施例1〜3及び比較例1、2にて作製したペリクル収納容器の評価を行った。評価方法は以下の通りである。結果を表1に示す。
評価項目1(ペリクル保持性):ペリクルをペリクル収納容器に収納したときのペリクルフレーム支持体によるペリクル(ペリクルフレーム)保持性を目視して確認した。
評価項目2(異物の付着状況):ペリクルが収納されたペリクル収納容器を垂直に立て、1分間保持した後、水平に戻す動作を3回行い、ペリクル膜、ペリクルフレームへの異物の付着状況を目視して確認した。
【0046】
【表1】

【符号の説明】
【0047】
1 ペリクル
11 ペリクルフレーム
11a 非貫通穴
12 ペリクル膜
13 粘着剤(粘着剤層)
2 ペリクル収納容器
21 トレイ
211 土手部
22 カバー
3 ペリクルフレーム支持体
31 基体部
32 緩衝部
4 保持機構
41 ピン
a 粘着剤の未塗布領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルが載置されるトレイと、トレイを覆って該トレイと共にペリクルを収容する閉空間を形成するカバーとを備え、前記トレイが、ペリクルフレームの粘着剤塗布端面の一部に設けられた粘着剤の未塗布領域とのみ接触することによってペリクルを支持するペリクルフレーム支持体と、ペリクルフレームをペリクルフレーム支持体上で固定する保持機構とを有するペリクル収納容器であって、
前記ペリクルフレーム支持体が、基体部と、ペリクルフレームと接する緩衝部とで構成され、両者が硬さの異なる部材の接合体で形成されてなることを特徴とするペリクル収納容器。
【請求項2】
前記ペリクルフレーム支持体の基体部がエンジニアリングプラスチックで形成され、前記ペリクルフレーム支持体の緩衝部がゴム又はエラストマーで形成されてなることを特徴とする請求項1記載のペリクル収納容器。
【請求項3】
前記ペリクルフレーム支持体の基体部が緩衝部より硬く形成され、該緩衝部の硬さがデュロメータタイプAで10以上80以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のペリクル収納容器。
【請求項4】
前記ペリクルフレーム支持体の基体部と緩衝部とが二色成型により一体成型されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のペリクル収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−34020(P2011−34020A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183033(P2009−183033)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】