説明

ホイールハウス及び車両

【課題】磁気シールド体の面積を小さくしてもスチールコード入りタイヤからの磁気を十分にシールドすることができるホイールハウスを提供する。
【解決手段】前輪ホイールハウス4は磁気シールド材料にて構成されている。後輪ホイールハウスにあっては、磁気シールド材料製のライナ15が装着されている。磁気シールド材料としては、高透磁率材料を分散含有したゴム又は合成樹脂のシート状成形体又は塗膜であってもよく、高透磁率の薄板であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールハウス及び車両に係り、特にスチールコード入りタイヤからの磁気をシールドする機能を有した車両用シート及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両室内への磁気の進入を防止するための公知技術として、特開2002−291113に記載された、電動機を有した電気自動車のキャビン底壁にシールド材を配備する技術が挙げられる。また、特開2005−88817等に記載された、スチールコードを有したタイヤを脱磁処理する技術が挙げられる。
【0003】
ホイールハウスは、一般に鋼板で構成されているが、樹脂プロテクターを設けることもある(特開2000―72040)。
【特許文献1】特開2002−291113
【特許文献2】特開2005−88817
【特許文献3】特開2000―72040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開2002−291113のようにキャビン底壁にシールド材を設ける場合、シールド材の面積を十分に大きくしないと、キャビン内への磁気侵入を防止する効果が低い。
【0005】
特開2005−88817のようにタイヤを脱磁する技術では、走行中にタイヤが着磁するようになった場合には、磁気がキャビンに侵入するようになる。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、スチールコードを有したタイヤから発生してキャビンに侵入する磁気を十分にシールドすることができるホイールハウス及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のホイールハウスは、タイヤからの磁気をシールドする磁気シールド機能を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のホイールハウスは、請求項1において、磁気シールド材料で構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のホイールハウスは、請求項1において、ホイールハウス本体と、該ホイールハウス本体に重なる磁気シールド材料層を有することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4のホイールハウスは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記磁気シールド材料は高透磁率材料を含有したゴム又は合成樹脂よりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5のホイールハウスは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記磁気シールド材料は高透磁率材料の薄板よりなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の車両は、請求項1ないし5のいずれか1項のホイールハウスを備えたものである。
【0013】
請求項7の車両は、タイヤからの磁気をシールドするための磁気シールド材料をホイールハウス及びその近傍の少なくとも一部に備えたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項8の車両は、請求項7において、ホイールハウス、車両室内のフロントパネルとエンジンルーム境界部、後部座席とトランクとの境界部、及び下部シャシー部の少なくとも一部に前記磁気シールド材料を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のホイールハウスは、磁気をシールドする機能を有しており、スチールコード入りタイヤからキャビンへの磁気の侵入を防止(抑制を包含する。)することができる。このホイールハウスは、キャビン底壁に設ける磁気シールド体よりも小面積のものであるが、タイヤに近接しているので、キャビンへの磁気の影響を防止する効果が高いものとなる。
また、本発明の車両は、このスチールコード入りタイヤからの磁気をシールドする磁気シールド層をホイールハウス及びその近傍の少なくとも一部に設けたものであり、同様に小面積の磁気シールド層によりタイヤからの磁気を十分にシールドすることができる。
【0016】
本発明では、ホイールハウスは磁気シールド材料にて構成されていてもよく、磁気シールド材料層を有するものであってもよい。
【0017】
磁気シールド材料は、高透磁率材料を分散含有するゴム又は合成樹脂よりなるものであってもよく、高透磁率材料の薄板よりなるものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
第1図は実施の形態に係るホイールハウスを備えた車両の斜視図、第2図はこのホイールハウスの斜視図、第3図は第1図のIII−III線断面図である。
【0020】
車両(この実施の形態では乗用者)1の前輪2の上面側にホイールハウス4が設けられている。このホイールハウス4は、略半円弧状の主部4aと、該主部4aの両端から互いに離反する方向に延出したフランジ部4b,4cとを備えている。このフランジ部4b,4cが車体側メンバに取り付けられる。このホイールハウス4は、全体が磁気シールド材料にて構成されている。
【0021】
後輪3のホイールハウス10は、第3図に示すように、それぞれ鋼板よりなるリヤホイールハウスインナパネル11及びリヤホイールハウスアウタパネル12と、これらパネル11,12のタイヤ対向面に装着された磁気シールド材料製のライナ15とからなる。パネル11,12同士は溶接により連結されている。パネル12は車体のサイドアウタパネル13に溶接により連結されている。ライナ15は後輪3の略上半分の上方側及び左右両側を覆う略半円形の側面視形状のものとなっている。
【0022】
このように磁気シールド材料によって構成されたホイールハウス4及び磁気シールド材料製ライナ15を設けることにより、前輪3及び後輪4を構成するスチールラジアルタイヤからの磁気をシールドすることができる。
【0023】
第4図は実施の形態に係る、キャブオーバートラックよりなる車両20の斜視図、第5図はそのホイールハウス21部分の構成を示す車両前後方向の縦断面図である。第4図の符号22はフェンダーを示す。
【0024】
前輪23のホイールハウス21は、ホイールハウスカバー25と、該ホイールハウスカバー25に連なるマッドカバー26とからなる。ホイールハウス25は、車体の下部フレームを構成するサイドメンバ27に対しブラケット28,29を介して取り付けられている。ホイールハウス25及びマッドカバー26の連結体は、前輪23の略上半分の上方側及び左右両側を覆う略半円形の側面視形状のものとなっている。
【0025】
このホイールハウスカバー25及びマッドカバー26は、それぞれ磁気シールド材料よりなるものであり、タイヤ23からの磁気をシールドする機能を有する。なお、ホイールハウスカバー25及びマッドカバー26は鋼板などの非磁気シールド材料のパネルと、該パネルに設けられた磁気シールド材料層とによって構成してもよい。
【0026】
本発明で用いられる磁気シールド材料は、高透磁率材料を分散含有したゴム又は合成樹脂の薄板(シート(sheet)状)成形体であってもよく、高透磁率材料を分散含有した塗料の塗膜であってもよく、高透磁率材料の薄板であってもよい。
【0027】
高透磁率材料としては、酸化物系としてMn−Zn系、Ni−Zn系又はCu−Zn系フェライト、金属系では、鉄(Fe)、コバル(Co)、ニッケル(Ni)、ケイ素鋼(Fe−4Si)、78パーマロイ(Fe−78.5Ni)、パーメンジュール(Fe−50Co)、センダスト(Fe−5Al−10Si)などがあげられる。また、高透磁率の扁平状センダスト粉末や扁平状ケイ素鋼などを用いてもよい。
【0028】
上記ゴムとしては、NR、BR、SBR、NBRをはじめとしたジエン系ゴムをはじめ、EPDMやシリコンゴム、ウレタンゴムなどを用いることができる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、ポリベンゾイミダゾール、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。塗料の樹脂成分としては、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステル等を用いることができる。
【0029】
ゴム又は合成樹脂のシートもしくは塗膜中には、高透磁率材料の粉体又は扁平粒状体を40〜75体積%程度とくに60〜70体積%程度分散させるのが好ましい。この高透磁率材料含有ゴム又は合成樹脂シートもしくは塗膜の厚みは0.1〜10mm特に0.2〜5mm程度が好ましい。
【0030】
高透磁率材料の粉体としては平均粒径が0.5〜5μm程度のものがとくに好適である。
【0031】
扁平粒状の高透磁率材料の場合、厚みが0.2〜0.3μm程度で平均直径が0.5〜3μm程度のものが好適である。なお、粒径は顕微鏡の撮像から求められる。薄板金属板を高透磁率材料として用いる場合、その厚みは0.5〜3mm程度で十分である。
【0032】
第1図〜第5図の実施の形態は本発明の一例であって、本発明は図示以外の態様をもとりうる。本発明は、図示以外の各種車両に適用することができる。
【0033】
上記実施の形態の車両は、上記の通り、磁気シールド材料を有したホイールハウスを有するものであるが、ホイールハウス以外箇所に、又はホイールハウスと共にホイールハウス近傍の箇所に磁気シールド材料層を形成してよい。そのようなホイールハウス近傍の箇所としては、例えば、車両室内のフロントパネルとエンジンルーム境界部や、後部座席とトランクとの境界部、下部シャシー部などが例示される。
【実施例】
【0034】
実施例1
乗用車の後輪ホイールハウスの内面に平均粒径3μmのMn−Zn系フェライトを60体積%含有するアクリル系塗料を塗布して厚さ5mmの磁気シールド性塗膜を形成した。
【0035】
実施例2〜4
さらに表1に示す箇所にも同様の磁気シールド性塗膜を形成した。
【0036】
実施例5
フェライトの代わりに平均粒径5μmの高ケイ素鋼粉を用いたこと以外は実施例4と同様とした。
【0037】
前席及び後席にそれぞれ磁気測定機器としてLakeshore460型の3軸プローブを配置した。スチールコードを有したラジアルタイヤを120rpmで回転させ、上記測定機器により磁界強さを測定し、そのN−S間の変動幅を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
磁気シールド性塗膜を設けなかったこと以外は同様にして計測を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例6
平均粒径5μmの高ケイ素鋼粉を70体積%有する厚さ8mmのゴムシートよりなる磁気シールド体をリヤホイールハウスの内面の全体に貼り付け、前席及び後席での磁界強さを上記と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0041】
実施例7
ゴムシートの代わりに厚さ4mmの高ケイ素鋼板を用いたこと以外は実施例6と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0042】
実施例8
ゴムシートの代わりに厚さ2mmのパーマロイ板を用いたこと以外は実施例6と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表1,2の通り、本発明によると十分な磁気シールド効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態に係るホイールハウスを備えた車両の斜視図である。
【図2】図1のホイールハウスの斜視図である。
【図3】図1のIII―III線に沿う断面図である。
【図4】異なる実施の形態に係るホイールハウスを備えた車両の斜視図である。
【図5】図4のホイールハウス部分の縦断面図である。
【符号の説明】
【0046】
4 磁気シールド性ホイールハウス
15 磁気シールド性ライナ
25 ホイールハウスカバー
26 マッドカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤからの磁気をシールドする磁気シールド機能を備えたことを特徴とするホイールハウス。
【請求項2】
請求項1において、磁気シールド材料で構成されていることを特徴とするホイールハウス。
【請求項3】
請求項1において、ホイールハウス本体と、該ホイールハウス本体に重なる磁気シールド材料層を有することを特徴とするホイールハウス。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記磁気シールド材料は高透磁率材料を含有したゴム又は合成樹脂よりなることを特徴とするホイールハウス。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記磁気シールド材料は高透磁率材料の薄板よりなることを特徴とするホイールハウス。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項のホイールハウスを備えた車両。
【請求項7】
タイヤからの磁気をシールドするための磁気シールド材料をホイールハウス及びその近傍の少なくとも一部に備えたことを特徴とする車両。
【請求項8】
請求項7において、ホイールハウス、車両室内のフロントパネルとエンジンルーム境界部、後部座席とトランクとの境界部、及び下部シャシー部の少なくとも一部に前記磁気シールド材料を設けたことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−30392(P2010−30392A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193589(P2008−193589)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】