説明

ボルト素材の加工方法およびボルト素材並びにボルト素材の加工用金型

【課題】 超音波を利用してボルト軸力を測定する際の、測定精度の向上を図る。
【解決手段】 ダイス12の貫通穴12bに丸棒ワークW0を挿入し、ノックピン14によりダイス12の上端面12aから一部突出するように保持された丸棒ワークの突出部WAを、曲げポンチ16によって曲げる。続いて、その曲げ部WBを潰しポンチ18によってダイス12の上端面12a上に潰す。さらに、潰し部WCを打抜きポンチ20によってダイス12の貫通穴12aへと打ち抜くことで、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さを向上させることが可能となる。この丸棒ワークをボルト素材として冷鍛加工されたボルトは、その端面の平面度、面粗さが向上する。当該ボルトに対し超音波を利用したボルト軸力の測定を行うことで、軸力の測定精度を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト素材とその製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルト締結時の、ボルトの軸力の安定化を図る新たな技術として、近年、超音波を用いた軸力測定方法が開発されている。この軸力測定方法は、ボルトの締結作業時に、ボルトに対し超音波を印加し、その超音波がボルト端面で反射伝播する時間を測定することにより、ボルトの弾性伸び量を正確に測定し、当該弾性伸び量から軸力を正確に把握するものである。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
【特許文献1】特開2002−113546号公報(〔0023〕〜〔0031〕、〔図3〕〜〔図9〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の超音波を利用してボルト軸力を測定する技術は、ボルトに印加した超音波を反射させる端面の、平面度、面粗さの良否が、超音波の乱反射の発生度合を左右し、軸力の測定精度に大きく影響を及ぼすものである。そこで、従来は、シャー切断した丸棒ワークの端面を、凸状もしくは凹状に予備成形した後、平坦面へと押し潰すことにより、ボルト端面の平面度、面粗さを向上させる手法を採用している。
【0005】
しかしながら、ボルト端面に凸状もしくは凹状の予備成形を施すための金型の剛性を確保することが困難であり、金型寿命が短命であるといった欠点が指摘されていた。また、シャー切断された丸棒ワークの端面は、平面度、面粗さが悪化していることから、予備成形後においても、それらが十分に補正されず、所定の端面精度を得ることが困難となっていた。しかも、凸状もしくは凹状の予備成形形状を平坦面へと押し潰す際に、丸棒ワーク端面の中心部に素材流動が発生しないことから、特に丸棒ワーク端面の中心部の精度向上が見込めないという問題が指摘されていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、端面の平面度、面粗さを向上させたボルト素材を提供することによって、そのボルト素材を用いたボルトの端面の平面度、面粗さの向上を図り、超音波を利用してボルト軸力を測定する際の、測定精度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明の請求項1に係るボルト素材の加工方法は、丸棒ワークの一部をダイスから突出させた状態で固定し、その突出部を曲げ、当該曲げ部を軸方向へと押し潰し、当該潰し部を丸棒ワークの直径に打抜くことを特徴とするものである。
本発明によれば、丸棒ワークの状態で良好な面粗さが維持される丸棒ワーク外周部を、丸棒ワークの端面に加工することで、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さの向上を図ることができる。
また、本発明の請求項2に係るボルト素材の加工方法は、請求項1記載のボルト素材の加工方法において、前記丸棒ワークの一端面を加工した後に、前記丸棒ワークの端面を入れ換えて、他端面にも同一の加工を行うこととしたものであり、かかる発明によれば、丸棒ワークの両端面の平面度、面粗さを向上させることができる。
【0007】
また、上記課題を解決するための、本発明に係るボルト素材は、請求項1または2記載の方法により製造されたボルト素材であり、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さの向上が図られたものとなる。
【0008】
さらに、上記課題を解決するための、本発明に係るボルト素材の加工用金型は、水平な上端面と、丸棒ワークを隙間嵌め状態で挿入するための前記上端面と直交する貫通穴と、当該貫通穴に前記丸棒ワークとは反対方向から挿入され、前記丸棒ワークの一部を上端面から突出させた状態で保持するノックピンとを備えるダイスと、前記丸棒ワークの突出部を曲げる曲げポンチと、その曲げ部を前記ダイスの上端面と共に潰す潰しポンチと、当該潰し部を前記貫通穴へと打抜く打抜きポンチとを有することを特徴とするものである。
本発明によれば、ダイスの貫通穴に丸棒ワークを挿入し、ノックピンにより上端面から一部突出するように保持された丸棒ワークの突出部を、曲げポンチによって曲げ、続いて、その曲げ部を潰しポンチによってダイスの上端面上に潰し、さらに、当該潰し部を打抜きポンチによって貫通穴へと打ち抜くことで、丸棒ワークの状態で良好な面粗さが維持される丸棒ワーク外周部を、丸棒ワークの端面に加工し、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さを向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明はこのように構成したので、端面の平面度、面粗さを向上させたボルト素材を提供することが可能となる。そして、そのボルト素材を用いたボルトの端面の平面度、面粗さの向上を図り、当該ボルトに対し超音波を利用したボルト軸力の測定を行うことで、軸力の測定精度を向上させ、ボルト締結時のボルト軸力の安定化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の実施の形態に係るボルト素材の加工用金型10は、水平な上端面12aと、丸棒ワークW0を隙間嵌め状態で挿入するための、上端面12aと直交する貫通穴12bと、貫通穴12bに丸棒ワークW0とは反対方向から挿入され、丸棒ワークW0の一部を上端面12aから突出させた状態で保持するノックピン14とを備える、ダイス12を有している。貫通穴12bの縁端部12cには、上端面12aと連続的につながるためのアールが形成されている。
【0011】
また、ボルト素材の加工用金型10は、丸棒ワークW0の突出部WAを、図1(a)に示すように曲げるための曲げポンチ16を有している。曲げポンチ16は傾斜面16aを有しており、傾斜面16aを丸棒ワークW0の上方から突出部WAへと押付けることにより、曲げ部WBを形成する。また、ボルト素材の加工用金型10は、丸棒ワークW0の曲げ部WBを、図1(b)に示すように、ダイス12の上端面12aと共に潰すための潰しポンチ18を有している。潰しポンチ18の加工面18aの中心部には、後述する抜きポンチ20による抜き工程を円滑に行うべく、打抜きポンチ20とほぼ同一直径の窪みWCaを潰し部WCに形成するための、凸部18bが形成されている。さらに、ボルト素材の加工用金型10は、潰し部WCをダイス12の貫通穴12bへと打抜くための、打抜きポンチ20を備えている。打抜きポンチ20は、ダイス12の貫通穴12bに対し、打抜き加工に必要なクリアランスを確保し得る直径を有している。
なお、ノックピン14、曲げポンチ16、潰しポンチ18、打抜きポンチ20の各駆動手段の構造は、通常の鍛造金型と同様であり、詳しい説明を省略する。
【0012】
ここで、ボルト素材の加工用金型10を用いて、丸棒ワークW0の端面精度を向上させる加工手順を説明する。
まず、図1(a)に示すように、所定の長さにシャー切断された丸棒ワークW0を、ダイス12の貫通穴12bに挿入する。この際、ノックピン14は、丸棒ワークW0の一部がダイス12から突出する突出部WAとなるように、貫通穴12bに対し丸棒ワークW0とは反対方向から挿入された状態で位置固定される。そして、曲げポンチ16を丸棒ワークW0の上方にセットし、ラムを駆動して曲げポンチ16をダイス12に接近させ、曲ポンチ16の傾斜面16aで、突出部WAを曲げる。この際、丸棒ワークW0の突出部WAは、貫通穴12bの縁端部12cに形成されたアールにそって湾曲し、曲げ部WBとなる。
【0013】
続いて、曲げポンチ16をダイス12から離間させ、潰しポンチ18を丸棒ワークW0の上方にセットする。この際、潰しポンチ18の加工面18aの中央部に形成された凸部18bを、ダイス12の貫通穴12bと同軸上に配置する。そして、ラムを駆動して、図1(b)に示すように潰しポンチ18をダイス12に接近させ、潰しポンチ18の加工面で18aで、曲げ部WBを軸方向へと押し潰し、潰し部WCとする。
【0014】
続いて、潰しポンチ18をダイス12から離間させ、打抜きポンチ20を丸棒ワークW0の上方にセットする。この際、打抜きポンチ20の中心軸と、ダイス12の貫通穴12bの中心軸とを一致させる。そして、ラムを駆動して、図1(c)に示すように打抜きポンチ20をダイス12の貫通穴12bに挿入する。ここで、打抜きポンチ20が丸棒ワークW0の潰し部WCに当接する際に、潰しポンチ18の凸部18bによって丸棒ワークW0の潰し部WCに形成された窪みWCaに、打抜きポンチ20の先端部が案内され、打ち抜き加工は円滑に開始される。
また、この打抜き工程では、ノックピン14を丸棒ワークW0の端面から離間させることにより、打抜きポンチ20と共に、丸棒ワークW0が、ダイス12の貫通穴12bを軸方向に移動することを許容し、打抜きポンチ20とダイス12とによる潰し部WCの打抜き加工を可能としている。そして、潰し部WCを、丸棒ワークW0の直径に打抜くことで、加工後の丸棒ワークW1を得る。
【0015】
最後に、打抜きポンチ20をダイス12から離間させ、加工後の丸棒ワークW1を、ノックピン14によってダイス12の貫通穴12bから押出し、加工後の丸棒ワークW1の離型を行う。
なお、必要に応じて、加工後の丸棒ワークW1の端面を入れ換えて、反対側の端面にも、図1(a)〜(c)の加工を施すこととしてもよい。
【0016】
上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。まず、本発明の実施の形態によれば、シャー切断された丸棒ワークW0の状態で、良好な面粗さが維持される丸棒ワークの外周部を、丸棒ワークの端面に加工することが可能となり、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さの向上を図ることができる。
また、他端面にも同一の加工を行うこととすれば、丸棒ワークの両端面の平面度、面粗さを向上させることができる。
【0017】
また、本発明の実施の形態に係るボルト素材の加工用金型によれば、ダイス12の貫通穴12bに丸棒ワークW0を挿入し、ノックピン14によりダイス12の上端面12aから一部突出するように保持された丸棒ワークの突出部WAを、曲げポンチ16によって曲げ、続いて、その曲げ部WBを潰しポンチ18によってダイス12の上端面12a上に潰し、さらに、潰し部WCを打抜きポンチ20によってダイス12の貫通穴12aへと打ち抜くことで、丸棒ワーク端面の平面度、面粗さを向上させることが可能となる。
したがって、加工後の丸棒ワークW1は、端面の平面度、面粗さの向上が図られたものとなるので、これをボルト素材として冷鍛加工されたボルトは、その端面の平面度、面粗さが向上することとなる。その結果として、当該ボルトに対し超音波を利用したボルト軸力の測定を行うことで、軸力の測定精度を向上させ、ボルト締結時のボルト軸力の安定化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るボルト素材の加工用金型により、ボルト素材の端面精度向上のための加工を施す手順を示す説明図であり、(a)は曲げ工程を、(b)は潰し工程を、(c)は打抜き工程を示すものである。
【符号の説明】
【0019】
10:ボルト素材の加工用金型、12:ダイス、12a:上端面、12b:貫通穴、14:ノックピン、16:曲げポンチ、18:潰しポンチ、20:打抜きポンチ、W0:丸棒ワーク、W1:加工後の丸棒ワーク、WA:突出部、WB:曲げ部、WC:潰し部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒ワークの一部をダイスから突出させた状態で固定し、その突出部を曲げ、当該曲げ部を軸方向へと押し潰し、当該潰し部を丸棒ワークの直径に打抜くことを特徴とするボルト素材の加工方法。
【請求項2】
前記丸棒ワークの一端面を加工した後に、前記丸棒ワークの端面を入れ換えて、他端面にも同一の加工を行うことを特徴とする請求固1記載のボルト素材の加工方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法により製造されたボルト素材。
【請求項4】
水平な上端面と、丸棒ワークを隙間嵌め状態で挿入するための前記上端面と直交する貫通穴と、当該貫通穴に前記丸棒ワークとは反対方向から挿入され、前記丸棒ワークの一部を上端面から突出させた状態で保持するノックピンとを備えるダイスと、
前記丸棒ワークの突出部を曲げる曲げポンチと、その曲げ部を前記ダイスの上端面と共に潰す潰しポンチと、当該潰し部を前記貫通穴へと打抜く打抜きポンチとを有することを特徴とするボルト素材の加工用金型。


【図1】
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【公開番号】特開2006−136915(P2006−136915A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327618(P2004−327618)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】