説明

ボンディングワイヤ

【課題】 発光装置の光特性を向上させるために、ボンディングワイヤ表面への金属被覆をすることなしに波長380〜560nmの光の反射率が高く、化学的安定性を高めた安価なボンディングワイヤを提供する。
【解決手段】 銀を主成分とし、10000〜90000質量ppmの金、10000〜50000質量ppmのパラジウム、10000〜30000質量ppmの銅、10000〜20000質量ppmのニッケルから選ばれた少なくとも1種以上の成分を含み、塩素含有量が1質量ppm未満で、波長380〜560nmの光の反射率が95%以上のボンディングワイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンディングを行う発光装置に関し、発光装置の光特性を向上させることを目的として、光の反射率を高めたボンディングワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、発光装置として発光素子を用いた発光ダイオード(LED)などが知られている。従来からこのLEDの発光素子の電極とパッケージ電極との接続に電導率が高く、電極との密着生の良い金(Au)ボンディングワイヤが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
図1に発光素子を用いた発光装置の断面構造例を示す。
図1に示す発光装置10は、支持基板である銀メッキ層2を有する銅回路基板1の表面に、ダイボンディング剤3を介して半導体発光素子が固定してある。半導体発光素子はサファイア基板4の表面にn型半導体5とp型半導体6が異なる面積で積層されており、n型半導体5とp型半導体6の表面にはそれぞれn極11とp極12の金電極7a,7bが形成されている。
金電極7a,7bにはボンディングパッド9a,9bを介してボンディングワイヤ8がダイボンディングされ、パッケージ電極となる銅回路基板1上の銀メッキ層2に接続されている。
このような構造の発光装置では、発光面の上方の一部をボンディングワイヤが横切ることとなり、その部分での光の反射・吸収が外部発光出力に影響を及ぼすようになる。
【0003】
そして、LEDの高出力化高効率化により、ディスプレイ、携帯電話等のバックライト、照明光源等へと使用用途が広がっている。これらLEDのニーズに応えるためには更なる高出力化、高効率化が求められている。LEDの発光量を増やすためには、定格電流を大きくしなければならない。しかし電流が大きくなると発熱による素子へのダメージが問題となり、同じ太さのワイヤでは定格電流は大きくできない難点がある。また、電流容量を大きくするにはワイヤの太さを太くすればよいが、発光装置の小型化に伴いワイヤの太線化は時代の要求に逆行することになる。そこで、放熱効率を高める目的で熱伝導率が金よりも高い銀から成るボンディングワイヤが用いられるようになっている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、熱放散を高めるために、LEDのボンディングワイヤに熱伝導率が315W・m−1・K−1のAu線や398W・m−1・K−1のCu線を用いると、上述のように波長380〜560nmの青色系の光を吸収してしまい、光特性が不十分となる。そこでボンディングワイヤとして、Au線やCu線の表面の反射率を高める目的で、Ag、Al、RhをコーティングしたAu線やCu線が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−307145号公報
【特許文献2】特開2005−5437号公報
【特許文献3】特開2007−80990号公報
【0006】
しかしながら、Au線やCu線の表面にAg、AlあるいはRhを、厚さ1nmから金属細線直径の10%の範囲でコーティングするには、電解メッキ、無電解メッキ、真空蒸着、化学蒸着(CVD)、スパッタリング等の煩雑な操作や高価な設備が必要となり、安価なボンディングワイヤを供給することが不可能となる。
【0007】
ここで、もし反射率の高い金属をボンディングワイヤとして用いることができれば、Au線やCu線表面への他の金属の被覆なしに青色系の光の反射率が高まり、発光装置の光特性を大幅に向上させることができると考えられる。
そして、波長380〜560nmの光の反射率が高い金属には銀があり、その反射率は95%以上である。銀は電気抵抗率が1.59×10−1Ωcmと金属中で最も低い電気の良導電体であり、熱電導率も427W・m−1・K−1と金属中で最も高く、伸線加工性にも優れている。
しかし、銀だけでは酸化・硫化・塩素化の影響を受けて径時的に反射率が低下してしまう。したがって、反射率の低下を抑えて銀の高い反射率を維持させなければボンディングワイヤとして用いることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は発光装置の光特性を向上させるために、ボンディングワイヤ表面への金属被覆をすることなしに波長380〜560nmの光の反射率が高く、化学的安定性を高めたボンディングワイヤを安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボンディングワイヤは、銀(Ag)を主成分とし、10000〜90000質量ppmの金(Au)、10000〜50000質量ppmのパラジウム(Pd)、10000〜30000質量ppmの銅(Cu)、10000〜20000質量ppmのニッケル(Ni)から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含み、塩素(Cl)含有量が1質量ppm未満のボンディングワイヤとした。
また、本発明のボンディングワイヤは、波長380〜560nmの光の反射率が95%以上のボンディングワイヤである。
【発明の効果】
【0010】
光素子にワイヤボンディングを有する発光装置に本発明のボンディングワイヤを用いた場合、光特性の低下がなく、金ボンディングワイヤを用いた場合よりも光度を5%上げることができる。そして、本発明のボンディングワイヤは安価で、波長380〜560nmの光の反射率が95%以上であるため、青色系の発光を使用する白色LEDにも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のボンディングワイヤを用いた発光装置の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のボンディングワイヤは、たとえばシリコン系透明樹脂で封止した発光装置において、サファイア基板上に形成された2層のGaN半導体から成る発光素子上の金電極と、反射板を兼ねてAgメッキされた外部接続用電極の銀メッキ層とを接続するために使用する。
発光素子の上部にかぶさるボンディングワイヤは、発光に対して反射率が高いものが望まれる。反射率が高いボンディングワイヤとしては銀(Ag)ワイヤが用いられるが、銀だけでは酸化、硫化、塩素化等の影響により反射率が低下するので、本発明ではこの反射率の低下を抑えるために銀に少量の添加元素を加えている。
【0013】
添加元素を加えていくと、銀の本来の反射率は若干低下していく傾向にある。この現象は合金化によりAgの自由電子が減少することによると考えられる。反射率低下に及ぼす影響は合金として添加する元素種の種類や量によって異なる。
そこで、添加元素には周期律表でAgと同属の銅族元素のAu、Cuおよびニッケル族のNi、Pd、Pt、およびCuと隣接した位置にあるZnを選択して調査した。
その結果、細線への伸線加工性に優れ、反射率の低下が少ない添加元素とその適正含有量を見いだした。
【0014】
本発明のボンディングワイヤは、銀(Ag)を主成分とし、10000〜90000質量ppmの金(Au)、10000〜50000質量ppmのパラジウム(Pd)、10000〜30000質量ppmの銅(Cu)、10000〜20000質量ppmのニッケル(Ni)から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含み、塩素(Cl)含有量が1質量ppm未満のボンディングワイヤである。
銀(Ag)は電気伝導率1.59×10−6Ωcmと金属材料中で最大で、伸線加工性にも優れているので、ボンディングワイヤとして使用することが可能である。また銀は可視波長の光の反射率も大きいので光学装置の反射板としても多用されている。価格も金に比べて大幅に低廉である。
【0015】
本発明のボンディングワイヤでは、銀の反射率を大幅に損なわずかつ酸化、硫化、塩素化に耐えるよう化学的安定性を向上させるために少量の金、パラジウム、銅及びニッケルから選ばれた少なくとも1種以上の成分を添加する。一方塩素含有量は極力低く抑える必要がある。各成分の限定理由は以下の通りである。
金;10000質量ppm未満では銀の酸化を抑制することができず、90000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、高価になるからである。
パラジウム;10000質量ppm未満では銀の酸化や硫化を抑制することができず、50000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、ワイヤへの伸線加工が困難となる。
銅;10000質量ppm未満ではパラジウムと同じく銀の酸化や硫化を抑制することができず、30000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、ワイヤへの伸線加工が困難となる。
ニッケル;10000質量ppm未満では銀の酸化や硫化を抑制することができず、20000を越えると元素の特性で銀の自由電子が減少することにより反射率が低下する。
【0016】
一方、通常銀ワイヤには29質量ppm程度の塩素(Cl)が付着しており、この塩素の影響により反射率が徐々に低下してしまう。塩素はワイヤ加工工程で使用する水や大気中から付着するものと思われる。ここで添加元素を加えると塩素の付着を防ぐ効果が発揮される。
【実施例】
【0017】
(実施例1〜23)
銀地金に表1に示した各種添加元素を加えた合金を溶解鋳造し、凝固後伸線加工を施して直径16〜25μmのボンディングワイヤとした。このボンディングワイヤをガラス基板の周囲に2層に巻き付けて板状試料とし、板状試料を分光光度計に固定して波長400nmの光の反射率を測定した。反射率の測定に先立ち、酸化、硫化、塩素化の影響による反射率の低下を調べるため、湿潤試験、混合ガス流腐食試験を実施した。湿潤試験は80℃・90%RHの環境下、混合ガス流腐食試験はJIS・C0048に基づき、HS;0.1ppm、Cl;0.02ppmの混合ガス雰囲気中で、30℃・75%RHにて実施し、その後反射率を測定した。添加元素の含有量と反射率の測定結果を表1に示す。
なお、各添加元素の含有量は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)により測定した。塩素含有量はいずれも1質量ppm未満であったので、記載は省略した。反射率は95%以上に○印を付した。
【0018】
(比較例24〜42)
実施例と同様に銀地金に表1に示した各種添加元素を加えたボンディングワイヤを作成し、実施例と同様にして光反射率を測定した。添加元素の含有量と反射率の測定結果を表1に示す。
なお、塩素含有量はいずれも1質量ppm未満であったので、記載は省略した。反射率は95%以上には○印を、95%未満には×印を付した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1の結果から、実施例1〜23のように、Pd、Au、Cu、Niを適正量添加することにより、高い反射率を得ることができる。PtはPdと同属であるが、高い反射率を維持することはできない(比較例37〜39)。また、Znも高い反射率を得ることはできない(比較例40〜42)。
Pdと同属のNiは20000質量ppmを越えると、反射率は95%未満となり、高反射率を得ることはできない(比較例32、33)。また、10000質量ppm未満では酸化しやすく、反射率が低下する(比較例30、31)。
Auは、10000質量ppm未満では酸化しやすいので反射率は95%未満となる(比較例27、28)。比較例29のように添加量の上限を超えて添加しても反射率には影響ないが、銀の純度が90%以下となり高価になるので比較例とした。
Cuは、添加量10000質量ppm未満では硫化しやすく、反射率が95%未満となる(比較例34、35)。また、比較例36のように添加量の上限を超えても反射率には影響ないが、ワイヤへの伸線加工が困難になるため比較例とした。
Pdは添加量10000ppm未満では酸化や硫化されやすく、反射率が95%未満となるからである(比較例24、25)。比較例26のようにPdもCuと同様、添加量の上限を超えても反射率には影響ないが、上限を超えるとワイヤへの伸線加工が困難になるため比較例とした。
【符号の説明】
【0021】
1. 銅回路基板
2. 銀メッキ層
3. ダイボンディング剤
4. サファイア基板
5. n型半導体
6. p型半導体
7a、7b. 金電極
8. ボンディングワイヤ
9a、9b. ボンディングパッド
10. 発光装置
11. n極
12. p極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀(Ag)を主成分とし、10000〜90000質量ppmの金(Au)、10000〜50000質量ppmのパラジウム(Pd)、10000〜30000質量ppmの銅(Cu)、10000〜20000質量ppmのニッケル(Ni)から選ばれた少なくとも1種以上の成分を含み、塩素(Cl)含有量が1質量ppm未満であることを特徴とするボンディングワイヤ。
【請求項2】
波長380〜560nmの光の反射率が95%以上であることを特徴とする請求項1に記載のボンディングワイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−99577(P2012−99577A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244578(P2010−244578)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】