説明

ボールねじ、射出成形機

【課題】高負荷で作動させた場合でも、ボールやねじ溝に過大な面圧が作用するのを防ぐことができるボールねじを低コストで提供することを目的とする。
【解決手段】ねじ棒52のねじ溝54のリード寸法とナット部材53のねじ溝55のリード寸法との誤差に起因して生じる偏差を吸収するため、スリット60を形成し、ねじ溝54、55やボール56に過大な面圧が作用するのを防止する。これによって、スリット60を形成しない場合に比較して、ねじ棒52のねじ溝54、ナット部材53のねじ溝55のリード寸法の精度を下げることが可能となり、ねじ棒52およびナット部材53、すなわちボールねじの製作コストを低減することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置・機器類において、直線的な動作を行うための駆動源としてボールねじが用いられている。このボールねじは、ねじ棒とナットの双方にねじ溝が形成され、これらねじ棒のねじ溝とナットのねじ溝との間にボールを挟み込むことでねじ棒とナットが互いに噛み合い、少ないフリクションでねじ棒とナットが相対的に回転できるようになっている。そして、相対移動させたい2つの部材の一方でねじ棒を支持し、他方にナットを固定し、ねじ棒をモータ等の回転駆動源で回転させ、ナットに対してねじ棒を相対的に進退させることによって、2つの部材を相対的に動作させるようになっている。
【0003】
このようなボールねじは、例えば、射出成形機の射出スクリューの駆動源として用いられている。
射出スクリューは、樹脂を溶融して射出成形機の型内に押し出すもので、シリンダ内でスクリュー本体を回転させつつ、スクリュー本体の基端部側からシリンダ内に投入した樹脂を、回転するスクリュー本体によって溶融しつつスクリュー本体の先端側に移動させていく。そして、スクリュー本体の先端部とシリンダとの間に形成された樹脂溜まりに溶融樹脂が溜まった状態で、スクリュー本体をシリンダに対して前進させることで、シリンダに形成された射出口から溶融樹脂を押し出すようになっている。
このとき、スクリュー本体をシリンダに対して前進させるための駆動源としてボールねじが用いられているのである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−240099号公報(図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出時には、ボールねじには、射出圧に応じた反力が作用する。このとき、ねじ棒に形成されたねじ溝のリード寸法と、ナットに形成されたねじ溝のリード寸法に誤差があると、これらの間に挟みこまれたボールに過大な力が作用し、ボール、あるいはねじ溝の耐久性に影響を及ぼし、射出成形機の作動条件(荷重条件)にも影響する。このため、そのリード寸法を高精度に形成する必要がある。
しかしながら、ボールねじのねじ棒・ナットのねじ溝のリード寸法を高精度に形成することは、これはそのままボールねじのコストアップに繋がる。
このような問題は、駆動対象物からの反力が大きい、高負荷の作動環境で用いられるボールねじであれば、共通するものである。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、高負荷で作動させた場合でも、ボールやねじ溝に過大な面圧が作用するのを防ぐことができるボールねじを低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明のボールねじは、外周面にねじ溝が形成されたねじ棒と、ねじ棒が挿通され、内周面にねじ溝が形成されたナット部材と、ねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に介在する複数のボールと、を備えたボールねじであって、ねじ棒とナット部材をねじ棒の軸線方向に相対移動させて駆動対象物を駆動したとき、駆動対象物から伝わる反力によってねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝の間に生じる偏差を吸収する偏差吸収部を備えることを特徴とする。
このような偏差吸収部として、ねじ棒のねじ溝の立ち上がり部、ナット部材のねじ溝の立ち上がり部の少なくとも一方に、ねじ溝と平行に延在するスリットを形成した構成を採用することができる。スリットにより、ねじ棒のねじ溝の立ち上がり部やナット部材のねじ溝の立ち上がり部の剛性が低下し、駆動対象物から伝わる反力によってねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝に偏差が生じたとき、ねじ棒のねじ溝の立ち上がり部やナット部材のねじ溝の立ち上がり部が弾性変形することで、この偏差を吸収することができる。
さらに、偏差吸収部として、ねじ棒のねじ溝、ナット部材のねじ溝の少なくとも一方において、ねじ溝の底部に、ねじ溝と平行に延在する段部を形成するようにしても良い。これによっても、ねじ棒のねじ溝の立ち上がり部やナット部材のねじ溝の立ち上がり部が弾性変形することで、偏差を吸収することができる。
また、偏差吸収部として、ナット部材の外径を、ねじ棒の軸線方向に沿って一方の側から他方の側に向けて漸次小さくなるよう形成することもできる。このようにすると、ナット部材の外径が小さい側、すなわちナット部材の肉厚が小さい側においては、剛性が低くなる。駆動対象物から伝わる反力によってねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝に偏差が生じるとき、その偏差によってねじ棒、ナット部材のそれぞれには、引張方向あるいは圧縮方向の力が作用するが、偏差の大きい側ほど、大きな力が作用する。大きな力が作用する側においてナット部材の外径を小さくしておくことで、ナット部材の外径が小さい部分ほど、ねじ棒の軸線方向に大きく弾性変形する。これによって、偏差を吸収することができるのである。
【0007】
ところで、ナット部材には、ボールを循環させるためのチューブが形成されている。偏差吸収部として、この複数のチューブを、ねじ棒の軸線を挟んで一方の側に並んで形成することもできる。このようにすると、ナット部材において、チューブが形成された側の方が、ねじ棒の軸線を挟んだ反対側に比較して、剛性が低くなる。また、ねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に挟みこまれているボールの数は、チューブが形成された側の方が、ねじ棒の軸線を挟んだ反対側に比較して少なくなる。チューブが形成された側においては、ボールの一部がチューブ内に存在し、ねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に挟み込まれていないからである。
チューブが形成された側に位置するボールは、ボールの数が少ないため、ボール一つ当たりに作用する荷重が、その反対側よりも大きくなってしまうが、チューブによってナット部材の剛性が低められている。このため、駆動対象物から伝わる反力によってねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝に偏差が生じ、その偏差によってねじ棒、ナット部材のそれぞれに、引張方向あるいは圧縮方向の力が作用した場合、ナット部材が、チューブが形成されて剛性が低い側において大きく弾性変形し、これによってボール一つ当たりに作用する荷重が軽減される。その結果、全体として、偏差を吸収することができるのである。
【0008】
この場合、ナット部材は、ねじ棒に対し、複数のチューブが設けられた側とは反対側に偏心して設けるのが好ましい。これによって、ナット部材は、その肉厚が複数のチューブが設けられた側において薄くなり、チューブが形成された側の剛性がさらに低くなる。その結果、上記効果は一層顕著なものとなる。
【0009】
本発明の射出成形機は、所定形状の成形体を形成する金型と、成形体の原料となる樹脂をシリンダ内で溶融し、シリンダ内で進退するスクリューによって樹脂を金型内に注入する射出スクリューと、シリンダとスクリューを、相対的に進退させるボールねじと、を備え、ボールねじは、ボールねじを構成するねじ棒とナット部材をねじ棒の軸線方向に相対移動させて射出スクリューを駆動したとき、駆動対象物から伝わる反力によってねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝に生じる偏差を吸収する偏差吸収部を備えることを特徴とする。
【0010】
このような射出成形機において、偏差吸収部として、ねじ棒のねじ溝の立ち上がり部、ナット部材のねじ溝の立ち上がり部の少なくとも一方に、ねじ溝と平行に延在するスリットを形成することができる。
また、ナット部材の外径を、ねじ棒の軸線方向に沿って一方の側から他方の側に向けて漸次小さくなるよう形成することもできる。
【0011】
本発明の射出成形機は、所定形状の成形体を形成する金型と、成形体の原料となる樹脂をシリンダ内で溶融し、シリンダ内で進退するスクリューによって樹脂を金型内に注入する射出スクリューと、シリンダとスクリューを相対的に進退させるため、シリンダおよびスクリューの一方に連結されたねじ棒、シリンダおよびスクリューの他方に連結されたナット部材、ねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に介在する複数のボールを備えたボールねじと、を備え、ナット部材に、ボールを循環させるためのチューブが複数形成され、複数のチューブが、ねじ棒の軸線を挟んで一方の側に並んで形成されていることを特徴とすることもできる。
このとき、ナットは、ねじ棒に対し、複数のチューブが設けられた側とは反対側に偏心して設けることもできる。
さらに、ボールねじが射出スクリューの周囲に複数配置されている場合、射出スクリューのスクリューと、それぞれのボールねじのねじ棒またはナット部材とはハウジングによって一体に動作するように連結される。このとき、ナット部材は、チューブが射出スクリュー側に向くように設けるのが好ましい。射出スクリューからの反力により、ハウジングの外周部が前記の反力と反対側に変形し、この変形により、ナット部材の射出スクリューに向いた側において、大きな偏差が生じるからである。チューブを射出スクリュー側に向けて配置することで、大きな偏差が生じる側においてナット部材が変形しやすく、偏差を有効に吸収できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボールねじを作動させたときに駆動対象物から伝わる反力により、ねじ棒のねじ溝とナット部材のねじ溝に偏差が生じたときに、ねじ棒やナット部材の一部が弾性変形することで偏差を吸収することが可能となる。これによって、高負荷で作動させた場合でも、ボールやねじ溝に過大な面圧が作用するのを防ぐことが可能となる。さらには、これにより、ボールねじやナット部材のねじ溝の加工精度を従来よりも落とすことが可能となり、製造コストを削減し、低コスト化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔第一の実施形態〕
以下、添付図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1に示すように、射出成形機10は、樹脂を溶融して射出する射出部20と、射出部20から射出された樹脂を成形する成形部30と、を備えている。
このうち、成形部30は、所定形状の成形品を形成するための金型(図示無し)と、金型を開閉・型締めするための型開閉機構(図示無し)とを備えて構成されている。
【0014】
射出部20は、原料となるペレット状あるいは粉末状の樹脂を投入するホッパー21と、ホッパー21から投入された樹脂を溶融し、成形部30に射出する射出スクリュー(駆動対象物)22と、射出スクリュー22を駆動する駆動機構23とを備える。
【0015】
射出スクリュー22は、筒状のシリンダ24と、スクリュー本体25とを備える。
シリンダ24は、その一端側にホッパー21からの投入口が形成され、他端側に金型(図示無し)に樹脂を注入する注入口が形成されている。このシリンダ24は、ベース40に固定されたフロントプレート41に取り付け固定されている。
スクリュー本体25は、ベアハウジング(ハウジング)42に、ベアリング等を介して回転自在に支持されている。このベアハウジング42は、ベース40上に、スライドレール43を介して支持されており、これによってスクリュー本体25の軸線方向に進退自在とされている。
【0016】
駆動機構23は、ボールねじ50と、ボールねじ50を駆動するモータ51とから、主に構成されている。
ボールねじ50のねじ棒52は、その軸線方向を射出スクリュー22のスクリュー本体25に平行な状態として配置されており、フロントプレート41に、ベアリング等を介して回転自在な状態で支持され、モータ51によってその軸線周りに回転駆動されるようになっている。
一方、ボールねじ50のナット部材53は、ベアハウジング42に固定されている。
【0017】
図2に示すように、ねじ棒52とナット部材53には、それぞれねじ溝54、55が形成されており、ねじ棒52のねじ溝54とナット部材53のねじ溝55の間には、複数のボール56が挟み込まれている。これらのボール56により、ねじ棒52とナット部材53は互いに直接接触しない状態とされている。
図3に示すように、このようなボールねじ50は、例えば矩形状をなしたフロントプレート41の四隅にそれぞれ配置され、その中央部に射出スクリュー22が位置した構成とされる。
【0018】
ボールねじ50は、モータ51でねじ棒52を回転させると、ボール56を介して互いにかみ合ったねじ棒52とナット部材53は、ねじ棒52の軸線に沿った方向に相対的に移動する。これにより、ベアハウジング42とフロントプレート41とが互いに接近・離間する方向に駆動され、ベアハウジング42に設けられたスクリュー本体25が、シリンダ24に対して進退するようになっている。
【0019】
さて、本実施形態において、ボールねじ50は、以下のような構成を有している。
すなわち、図2に示すように、ねじ棒52と、ナット部材53の双方に、互いに隣接するねじ溝54,55の間に、これらに平行に延在するスリット(偏差吸収部)60が形成されているのである。スリット60を形成することで、ねじ溝54、55の立ち上がり部54a、55aの剛性が下がる。
ボールねじ50を作動させて射出スクリュー22を作動させた場合、シリンダ24の先端部に形成された樹脂溜まりの溶融樹脂の圧力による反力をスクリュー本体25が受け、これがベアハウジング42を介してボールねじ50へと伝達される。すると、ボールねじ50のねじ棒52、ナット部材53に、ねじ棒52の軸線方向での引張力あるいは圧縮力が作用し、ねじ棒52のねじ溝54のリード寸法の誤差とナット部材53のねじ溝55のリード寸法誤差の差により、ねじ棒52とナット部材53との間に偏差が生じる。この偏差は、引張力の場合は力の伝達方向下流側、圧縮力の場合は上流側ほど大きくなり、ボール56を介し、ねじ棒52のねじ溝54の立ち上がり部54aと、ナット部材53のねじ溝55の立ち上がり部55aとの間に、偏差の量に応じた面圧が作用する。この面圧が作用したとき、スリット60により、立ち上がり部54a、55aが弾性変形することで、面圧を緩和し、偏差を吸収することができるのである。
【0020】
図4に示すものは、同じリード寸法のねじ溝54,55に対し、スリット60の幅寸法と、ねじ溝54,55に対するボール56の接触角αを変化させた場合の、立ち上がり部54a、55aの剛性比を示すものである。スリット60の幅寸法が大きいほど、立ち上がり部54a、55aの剛性は低くなり、弾性変形しやすくなる。また、ボール56の接触角αが大きくなるほど、ボール56は立ち上がり部54a、55aの先端側に接触することになるため、立ち上がり部54a、55aの剛性は低くなり、弾性変形しやすくなる。このため、立ち上がり部54a、55aの弾性変形を大きくし、偏差吸収能力を高めるには、スリット60の幅、ボール56の接触角αをなるべく大きくするのが好ましい。
図5は、立ち上がり部54a、55aの剛性と、ボール56による面圧との関係を示すものである。この図5からもわかるように、立ち上がり部54a、55aの剛性を下げることが、ボール56による面圧を下げるのに有効なのである。
【0021】
このようなスリット60の作用からして、スリット60の深さについても、なるべく大きくするのが好ましいが、スリット60を深くしすぎると、ねじ棒52、ナット部材53の軸線方向の強度が低下する。このため、スリット60の深さは、ねじ棒52のねじ溝54のリード寸法の誤差とナット部材53のねじ溝55のリード寸法誤差の差、すなわちねじ棒52のねじ溝54の立ち上がり部54aと、ナット部材53のねじ溝55の立ち上がり部55aとの間に作用する面圧の大きさに応じて適宜設定すればよいが、ねじ溝54、55の深さと同等程度の深さ以下とするのが好ましい。また、弾性変形したときのスリット60の底部への面圧集中を防ぐため、スリット60の底部をR形状とするのが好ましい。
【0022】
この他、立ち上がり部54a、55aの剛性を落とし、さらに弾性変形しやすくするには、図6に示すように、ねじ溝54、55の底部に、ねじ溝54、55に平行に延在する段部(偏差吸収部)61、62等を形成するようにしても良い。
【0023】
このようにして、スリット60を形成することで、ねじ棒52とナット部材53との間に生じる偏差を吸収することができるので、スリット60を形成しない場合に比較して、ねじ棒52のねじ溝54、ナット部材53のねじ溝55のリード寸法の精度を下げることが可能となる。その結果、ねじ棒52およびナット部材53、すなわちボールねじ50の製作コストを低減することが可能となるのである。
【0024】
〔第二の実施形態〕
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
ここで、上記射出成形機10の全体構成については、上記第一の実施形態と同様とすることができるので、以下の説明においては特徴的な構成についてのみ説明し、他の部分については説明を省略する。
さて、図7(a)に示すように、第二の実施形態の射出成形機10においては、スリット60を設けることに代えて、ボールねじ50のナット部材53をテーパ形状とし、ねじ棒52の軸線に直交する方向、つまり径方向のナット部材53の厚さtを、ねじ棒52の軸線方向に沿ってナット部材53の一端53b側から他端53c側に向けて漸次変化させる形状とする。このとき、一端53b側と他端53c側のうち、図7(b)に示すように、ねじ棒52のねじ溝54とナット部材53のねじ溝55との間に生じる偏差によって面圧が大きくなる側に向けて、ナット部材53の厚さを小さくするのが好ましい。
【0025】
このような形状のナット部材53により、ナット部材53の剛性の分布は、ねじ棒52の軸線方向において異なることになる。ねじ棒52とナット部材53との間に生じた偏差によって、ねじ棒52のねじ溝54と、ナット部材53のねじ溝55との間に、偏差の量に応じた面圧が作用したときに、ナット部材53は、剛性が低い部分、すなわち偏差が大きい部分ほど大きく弾性変形することになる。この、ナット部材53の弾性変形によって、面圧が特に高い部分において大きな面圧緩和効果を発揮し、偏差を吸収するとともに、ボール56に掛かる荷重を均等化することが可能となるのである。
【0026】
このような構成によっても、上記第一の実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0027】
〔第三の実施形態〕
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。
ここでも、上記射出成形機10の全体構成については、上記第一の実施形態と同様とすることができるので、以下の説明においては特徴的な構成についてのみ説明し、他の部分については説明を省略する。
図8に示すように、ボールねじ50のナット部材53には、ボール56を循環させるためのチューブ70が設けられている。ボール56は、ねじ棒52のねじ溝54とナット部材53のねじ溝55の間を転がりながら、ねじ溝54,55に沿ってらせん状に所定回転数(例えばねじ棒52の周囲を0.5回転、あるいは1.5回転)移動した後、チューブ70を通って元の位置に戻り、循環するようになっている。
図9に示すように、ボールねじ50は、このようなチューブ70によるボール56の循環経路を複数組有している。このようなボールねじ50において、偏差吸収部として、複数組分のチューブ70を、ナット部材53の中心軸に対し、片側に配置して設ける。さらに、ナット部材53には、偏差吸収部として、ねじ溝55を有した貫通孔71を、ナット部材53の中心軸に対し、チューブ70が設けられた側とは反対側に偏心させて形成する。
【0028】
このようにすると、ねじ棒52に装着した状態で、ナット部材53は、チューブ70が設けられている側の肉厚が小さく、反対側の肉厚が大きくなる。したがって、ナット部材53の剛性は、チューブ70が設けられている側が小さく、反対側が大きくなる。
また、ナット部材53内において、チューブ70内に存在するボール56があるために、チューブ70が設けられている側においてはねじ棒52のねじ溝54とナット部材53のねじ溝55の間に存在するボール56の数が少なく、反対側においてはねじ棒52のねじ溝54とナット部材53のねじ溝55の間に存在するボール56の数が多い。
したがって、ねじ棒52とナット部材53との間に生じた偏差によって、ねじ棒52のねじ溝54と、ナット部材53のねじ溝55との間に、偏差の量に応じた面圧が作用したときに、ナット部材53は、剛性の低いチューブ70側が大きく弾性変形することになる。さらに、チューブ70側の方がボール56の数が少ないために、個々のボール56に作用する荷重は、チューブ70側と反対側とで均等化が図られる。これによって、偏差が大きくなる特定の部位で過大な荷重・面圧がボール56やねじ溝54、55に作用するのを防ぐことが可能となるのである。その結果、このような手法によっても、ねじ棒52とナット部材53との間に生じる偏差を吸収し、ねじ棒52のねじ溝54、ナット部材53のねじ溝55のリード寸法の精度を下げることができ、ボールねじ50の製作コストを低減することが可能となるのである。
【0029】
〔第四の実施形態〕
次に、本発明の第四の実施形態について説明する。
ここでも、上記射出成形機10の全体構成については、上記第一の実施形態と同様とすることができるので、以下の説明においては特徴的な構成についてのみ説明し、他の部分については説明を省略する。
図10に示すように、第四の実施形態においては、第三の実施形態と同様、ナット部材53の片側に、複数のチューブ80を設ける。そして、これらチューブ80を設けた側を、偏差吸収部として、ベアハウジング42の中心側の射出スクリュー22に向くように配置するのである。なおこのとき、ナット部材53において、ねじ溝55は偏心していない。
【0030】
図3に示したように、射出スクリュー22で溶融樹脂を押し出そうとするとき、溶融樹脂の圧力が反力として寄与し、ベアハウジング42の中心部は、射出スクリュー22の先端部から離間する方向に変形する。一方、ベアハウジング42の外周部は、ボールねじ50によってフロントプレート41側に引っ張られるように変形する。
これにより、ボールねじ50にはフロントプレート41方向に向かう軸方向の引張荷重だけでなく、射出スクリュー22の組み付けられたベアハウジング42の中心方向に向かう半径方向の荷重や、ベアハウジング42の湾曲方向と同一の回転方向となるモーメント荷重が作用するため、ボールネジ50の面圧分布は単純な軸方向引張加重のみが作用する場合に対して、ボール56およびねじ溝54、55に作用する面圧が増加する。
【0031】
ナット部材53は、上記第三の実施形態でも述べたように、片側に設けられたチューブ80によって、ねじ棒52、ナット部材53間にかみ合うボール56の数が、チューブ80側の方が反対側よりも少なくなっている。
このようなナット部材53を、チューブ80が設けられている側をベアハウジング42の中心側に向けることで、ねじ棒52、ナット部材53にかみ合うボール56は、チューブ80側ではかみ合いが弱く、反対側ではかみ合いが強くなるため、本来ボール数が少なく面圧の高くなりやすいチューブ80側に配置されたボール56への作用荷重が低減し、反対側ではボール56への作用荷重が高くなる。
【0032】
これによって、チューブ80側と反対側で、個々のボール56に作用する荷重は均等化が図られ、偏差が大きくなる特定の部位で過大な荷重・面圧がボール56やねじ溝54、55に作用するのを防ぐことが可能となる。その結果、このような手法によっても、ねじ棒52とナット部材53との間に生じる偏差を吸収し、ねじ棒52のねじ溝54、ナット部材53のねじ溝55のリード寸法の精度を下げることができ、ボールねじ50の製作コストを低減することが可能となる。
【0033】
図11は、このようなボールねじ50を、ナット部材53のチューブ80の向きを変化させて配置した場合の、ねじ溝54、55に作用する最大面圧の変化を示すものである。ここで、ベアハウジング42は、長方形状とし、ボールねじ50は、ベアハウジング42の角部から高さ方向、幅方向とも等距離の位置に軸線が位置するように設けた。
そして、射出スクリュー22側から見て左上に位置するボールねじ50において、射出スクリュー22で溶融樹脂を押し出そうとしたときの、ボールねじ50においてボール56が接触している位置での面圧を調べた。
このとき、チューブ80を上向き(図11中、“U”)、下向き(図11中、“D”)、右向き(図11中、“R”)、左向き(図11中、“L”)と変化させると、向きによって面圧が変動することがわかり、さらには、チューブ80を下向きおよび右向き、すなわち射出スクリュー22側に向けることで、面圧が小さくなることがわかる。
そこで、チューブ80の向きを、15°ずつ異ならせた場合の、ねじ溝54、55に作用する最大面圧の変化を調べた。その結果、図12に示すように、チューブ80が射出スクリュー22側に向いて位置することで、面圧が小さくなることが確認された。
【0034】
なお、上記各実施形態においては、過大な荷重・面圧がかかったときに、ねじ棒52やナット部材53自体が弾性変形し、面圧の抑制・均等化を図る構成となっているが、これに加え、過大な荷重や面圧が掛かったときに、ねじ棒52、ナット部材53の少なくとも一方を、油圧シリンダ等の各種機器によって発揮される外力によって伸長あるいは短縮させて、荷重・面圧の緩和を図るような構成とすることも可能である。
【0035】
また、上記各実施形態において、射出成形機10の構成を示したが、本発明の要部となる部分以外は、いかなる構成としても良い。
さらに、上記第一〜第四の実施形態に示した構成は、その複数を適宜組み合わせて用いても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態における射出成形機の概略構成を示す図である。
【図2】第一の実施形態における、ボールねじのねじ棒とナット部材、およびボールの構成を示す図である。
【図3】ベアハウジングに対する射出スクリュー、ボールねじの取り付け位置関係の一例を示す図である。
【図4】ねじ棒とナット部材に形成するスリット幅、ねじ溝に対するボールの接触角と、ねじ溝の立ち上がり部の剛性比の関係を示す図である。
【図5】ねじ溝の立ち上がり部の剛性比と、ボールに作用する面圧との関係を示す図である。
【図6】ボールねじのねじ棒とナット部材、およびボールの構成の他の例を示す図である。
【図7】第二の実施形態において、テーパ状に形成したナット部材の例、およびボールの位置と作用する面圧の関係を示す図である。
【図8】ナット部材に形成したチューブを示す断面図である。
【図9】第三の実施形態において、チューブおよびナット部材の構成を示す図である。
【図10】第四の実施形態における、チューブおよびナット部材の構成を示す図である。
【図11】チューブの方向とボールに作用する面圧との関係を示す図である。
【図12】チューブの角度とボールに作用する面圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10…射出成形機、20…射出部、22…射出スクリュー(駆動対象物)、23…駆動機構、24…シリンダ、25…スクリュー本体、40…ベース、41…フロントプレート、42…ベアハウジング(ハウジング)、50…ボールねじ、52…ねじ棒、53…ナット部材、54,55…ねじ溝、54a、55a…立ち上がり部、56…ボール、60…スリット(偏差吸収部)、61、62…段部(偏差吸収部)、70、80…チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が形成されたねじ棒と、
前記ねじ棒が挿通され、内周面にねじ溝が形成されたナット部材と、
前記ねじ棒の前記ねじ溝と前記ナット部材の前記ねじ溝との間に介在する複数のボールと、を備えたボールねじであって、
前記ねじ棒と前記ナット部材を前記ねじ棒の軸線方向に相対移動させて駆動対象物を駆動したとき、前記駆動対象物から伝わる反力によって前記ねじ棒の前記ねじ溝と前記ナット部材の前記ねじ溝の間に生じる偏差を吸収する偏差吸収部を備えることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記偏差吸収部として、前記ねじ棒の前記ねじ溝の立ち上がり部、前記ナット部材の前記ねじ溝の立ち上がり部の少なくとも一方に、前記ねじ溝と平行に延在するスリットが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記偏差吸収部として、前記ねじ棒の前記ねじ溝、前記ナット部材の前記ねじ溝の少なくとも一方において、前記ねじ溝の底部に、前記ねじ溝と平行に延在する段部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記偏差吸収部として、前記ナット部材の外径が、前記ねじ棒の軸線方向に沿って一方の側から他方の側に向けて漸次小さくなるよう形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のボールねじ。
【請求項5】
前記ナット部材に、前記ボールを循環させるためのチューブが形成され、
複数の前記チューブが、前記ねじ棒の軸線を挟んで一方の側に並んで形成された、
前記偏差吸収部として、前記ナット部材が、前記ねじ棒に対し、複数の前記チューブが設けられた側とは反対側に偏心して設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のボールねじ。
【請求項6】
所定形状の成形体を形成する金型と、
前記成形体の原料となる樹脂をシリンダ内で溶融し、前記シリンダ内で進退するスクリューによって前記樹脂を前記金型内に注入する射出スクリューと、
前記シリンダと前記スクリューを、相対的に進退させるボールねじと、を備え、
前記ボールねじは、前記ボールねじを構成するねじ棒とナット部材を前記ねじ棒の軸線方向に相対移動させて前記射出スクリューを駆動したとき、駆動対象物から伝わる反力によって前記ねじ棒のねじ溝と前記ナット部材のねじ溝に生じる偏差を吸収する偏差吸収部を備えることを特徴とする射出成形機。
【請求項7】
前記偏差吸収部として、前記ねじ棒の前記ねじ溝の立ち上がり部、前記ナット部材の前記ねじ溝の立ち上がり部の少なくとも一方に、前記ねじ溝と平行に延在するスリットが形成されていることを特徴とする請求項6に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記偏差吸収部として、前記ナット部材の外径が、前記ねじ棒の軸線方向に沿って一方の側から他方の側に向けて漸次小さくなるよう形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の射出成形機。
【請求項9】
所定形状の成形体を形成する金型と、
前記成形体の原料となる樹脂をシリンダ内で溶融し、前記シリンダ内で進退するスクリューによって前記樹脂を前記金型内に注入する射出スクリューと、
前記シリンダと前記スクリューを相対的に進退させるため、前記シリンダおよび前記スクリューの一方に連結されたねじ棒、前記シリンダおよび前記スクリューの他方に連結されたナット部材、前記ねじ棒のねじ溝と前記ナット部材のねじ溝との間に介在する複数のボールを備えたボールねじと、を備え、前記ナット部材に、前記ボールを循環させるためのチューブが複数形成され、
複数の前記チューブが、前記ねじ棒の軸線を挟んで一方の側に並んで形成されていることを特徴とする射出成形機。
【請求項10】
前記ナット部材が、前記ねじ棒に対し、複数の前記チューブが設けられた側とは反対側に偏心して設けられていることを特徴とする請求項9に記載の射出成形機。
【請求項11】
前記ボールねじは前記射出スクリューの周囲に複数が配置され、
前記射出スクリューのスクリューと、それぞれの前記ボールねじの前記ねじ棒または前記ナット部材とがハウジングによって一体に動作するように連結され、
前記ナット部材は、前記チューブが前記射出スクリュー側に向くように設けられていることを特徴とする請求項9または10に記載の射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−120579(P2007−120579A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311696(P2005−311696)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】