説明

ポリアミドプレポリマーおよびポリアミドの製造方法

【課題】ポリアミド重合後のモノマー,オリゴマー量を低減することにより、繊維,樹脂用原料として好適な、環状オリゴマー、中でも特に環状2量体含有量の少ないポリアミドプレポリマーおよびポリアミドを効率的かつ安定的に製造すること、さらに後工程であるオリゴマー除去、精製工程の簡略化が可能となり、高生産効率かつ低エネルギーコストでポリアミドを製造することを課題とする。
【解決手段】カプロラクタム水溶液を反応器の下部から連続的に供給し、反応器内に気相部が存在しない状態で反応させ、上部からポリアミドプレポリマーを連続的に取出すことを特徴とするポリアミドプレポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプロラクタムを主原料とするポリアミドプレポリマーおよびポリアミドの製造方法に関する。さらに詳しくは、カプロラクタムを主原料として加熱処理した際に、環状オリゴマー(特に環状2量体)含有量が少ないポリアミドプレポリマーを製造することにより、重合した際に、環状オリゴマー(特に環状2量体)含有量が少ないポリアミドを効率的かつ安定的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムを主原料とするポリアミドは、その優れた特性を活かして衣料用繊維,産業用繊維に使われ、さらに、自動車分野,電気・電子分野などにおいて射出成形品として、また、食品包装用途を中心に押出フィルム,延伸フィルムとしても広く使われている。
【0003】
カプロラクタムを主原料とするポリアミドは通常、カプロラクタムを少量の水の存在下で加熱することによって製造される。この製造方法は比較的単純なプロセスであり、世の中で広く採用されている製造方法である。「ポリアミド樹脂ハンドブック」(福本修編、日刊工業新聞社)の第63頁〜65頁に記載されている汎用的なポリアミド6の重合方法の概略を以下に説明する。
【0004】
カプロラクタムを溶融して約260℃に加熱された常圧重合塔に供給し、この重合塔内で約10時間の滞留の後、塔下部からストランド状にして水槽に吐出されペレット化される。重合後のペレットにはモノマーや環状2量体などのオリゴマーが含まれており、これらを除去するため熱水抽出塔に供給され、塔下部から送られる熱水でモノマー、オリゴマーを向流抽出された後、下部から取り出される。抽出後のペレットは多量の水を含んでいるため、真空又は不活性ガス雰囲気中、約100℃で乾燥される。
【0005】
このように重合後のポリアミドは重合平衡により残存するモノマーおよび環状2量体などのオリゴマーを含有するため、このままの状態で繊維やフィルム,射出成形品原料として使用すると、モノマーやオリゴマーが成形加工時に揮発し、最終製品である繊維やフィルム,射出成形品を得る際に口金汚れや糸切れ,外観不良を発生させ、得られる製品の機械物性や外観も低下するなど、数多くの問題を発生させる。特に環状2量体は、モノマー,オリゴマーの中でも融点が高く後工程での悪影響は極めて大きい。
【0006】
そこで、これらのモノマーとオリゴマーを除去することが必要であり、前記のように一般的には熱水により抽出を行っている。この熱水抽出工程には熱水を得るために多くのエネルギーを要し、また抽出したモノマー,オリゴマーを含む熱水からモノマー,オリゴマーを分離するための濃縮工程,蒸留工程,あるいはオリゴマーからモノマーを得る解重合工程および不純物を除去する精製工程などでも多くのエネルギーが必要である。
【0007】
これら抽出工程〜精製工程での負荷を下げるため、重合後のポリアミドに含まれるモノマー,オリゴマーを減少させる試みがなされており、例えば特許文献1のような提案がされている。特許文献1にはカプロラクタム水溶液を高温・高圧で短時間処理してポリアミドプレポリマーを得、続く常圧重合の重合温度を得られるポリアミドの融点+10℃以下という低温域で実施することにより、重合直後のポリアミドに含有されるオリゴマー量を低減させる方法が開示されており、重合度が比較的低い領域で環状オリゴマー量が0.9重量%以下のポリアミドが得られたことが示されている。しかしながら、オリゴマー量を低減するには融点近傍の温度で重合を行う必要があり、固化防止のため非常に繊細な温度管理が必要となり、工業的生産においては安定性に課題がある。
【0008】
本発明技術は、重合温度を低温と限定しない一般的な安定した重合方法で、後工程や最終製品への悪影響が特に大きい、環状2量体量の少ないポリアミドを効率的かつ安定的に製造する方法であるため、工業的生産に適用した場合においても安定した運転が可能であり、従来技術に比べて格段に生産性が向上するものである。
【0009】
また、ポリアミドの反応装置としては、一般的に連続式の垂直管状反応器(重合塔)や回分式のタンク状反応器(重合槽)が用いられており、いずれの場合も、原料であるモノマーや水,添加剤またはプレポリマーなどを、装置上部から供給し、重合後に装置下部から取出す。しかし、いずれの場合も、供給した原料を液混合させずにピストンフローで完全に均一加熱処理して取出すことは難しく、多少の品質面でのバラツキが生じる。
【0010】
本発明技術は、装置下部から原料を供給し、装置上部から取出すことにより、より均一加熱処理された品質バラツキが少ない、高品質なポリアミドプレポリマーを製造することができ、このポリアミドプレポリマーを重合することにより、品質バラツキが少ない、高品質なポリアミドを製造することが可能であり、従来技術に比べて格段に品質バラツキを低減することができる。
【0011】
なお、装置下部から原料を供給し、装置上部から取出す方式の重合反応器として、例えば特許文献2のような提案がされている。特許文献2には、反応器下部入り口付近に流れそらせ板を挿入し、下部の混合室で混合させ、分配板で上部の反応域および装置の径が大きい速度減少域に送られる。装置上部から取出した反応物は、循環管路で再び装置下部から供給され、一部の反応生成物は装置中間部から系外に排出される。しかし、循環している系の中に連続的に原料を供給し、連続的に生成物を取出す方法では、滞留時間にバラツキが生じやすいという欠点がある。
【0012】
装置下部から連続的に供給した原料を、液混合させずにピストンフローで完全に均一加熱処理し、滞留時間の安定した生成物を装置上部から取出すという本発明技術とは相違する。
【特許文献1】特開2003−82096号公報
【特許文献2】特公平8−26086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、高い重合度を有し、環状オリゴマーの中でも特に環状2量体含有量が少ない、繊維,樹脂用原料として好適な、ポリアミドプレポリマーおよびポリアミドを効率的かつ安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カプロラクタム水溶液を縦型反応器の下部から供給し、反応器内部に気相部が存在しない状態で反応させることで、環状2量体含有量の少ないポリアミドプレポリマーを製造することができ、これを重合することで、オリゴマー含有量の少ないポリアミドを効率的、安定的に製造することができることを見いだし、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)カプロラクタム水溶液を反応器の下部から連続的に供給し、反応器内に気相部が存在しない状態で反応させ、上部からポリアミドプレポリマーを連続的に取出すことを特徴とするポリアミドプレポリマーの製造方法、
(2)供給するカプロラクタム水溶液の含水率が2〜14重量%である(1)記載のポリアミドプレポリマーの製造方法、
(3)反応器内を200〜300℃の温度、水が蒸発しない圧力として反応を行う(1)または(2)記載のポリアミドプレポリマーの製造方法、
(4)得られるポリアミドプレポリマーが、アミノ基量0.03mmol/1g以上、かつ環状オリゴマーの2量体含有量0.10重量%以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法、
(5)反応器が、多管式熱交換型反応器である(1)〜(4)のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法、
(6)反応器が、反応器内部が複数の領域に分割されており、下部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換ゾーン、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化ゾーン、さらに続けて(a)(b)各ゾーン、(c)多孔板を備えた整流ゾーンの順に構成された複合式熱交換型反応器である(1)〜(5)のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法、
(7)(1)〜(6)のいずれか記載の製造方法で得られたポリアミドプレポリマーを230℃〜270℃の温度で5〜20時間液相重合することを特徴とするポリアミドの製造方法、および
(8)得られるポリアミドが、硫酸相対粘度2.2以上、モノマー含有量10重量%以下、オリゴマー含有量2.0重量%以下、環状オリゴマーの2量体含有量0.30重量%以下であることを特徴とする(7)記載のポリアミドの製造方法、である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によって、高い重合度を有し、環状オリゴマーの中でも特に環状2量体含有量が少ない、繊維,樹脂用原料として好適な、ポリアミドプレポリマーおよびポリアミドを効率的かつ安定的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のポリアミドの製造方法では、まず含水率2〜14重量%のカプロラクタム水溶液を、加熱処理温度でのカプロラクタム水溶液の蒸気圧以上に圧力を保持し、200〜300℃で1〜60分加熱処理して、アミノ基量0.03mol/1g以上、かつ環状オリゴマーの2量体含有量0.10重量%以下であるポリアミドプレポリマーを得、該ポリアミドプレポリマーを常圧重合装置に供給し、230〜270℃の温度で5〜20時間液相重合し、硫酸相対粘度2.2以上、モノマー含有量10重量%以下、オリゴマー含有量2.0重量%以下、環状オリゴマーの2量体含有量0.30重量%のポリアミドを得る。
【0018】
本発明にいうポリアミドプレポリマーとは、カプロラクタムの加熱処理により得られる組成物であり、鎖状オリゴマー、環状オリゴマー、未反応モノマーを含む混合物を言う。
本発明のポリアミドプレポリマーの製造方法では、カプロラクタム水溶液を調製する。この時の含水率の下限は総量に対し、2重量%であり、好ましくは2.5重量%、特に好ましくは3重量%である。また含水率の上限は総量に対し、14重量%であり、好ましくは13重量%、特に好ましくは12重量%である。含水率が2重量%未満であるとアミノ基量0.03mmol/1g以上のポリアミドプレポリマーを得るに際し、環状2量体が多く生成し、重合後に環状2量体量0.30重量%以下のポリアミドを得ることが困難になる。また含水率が14重量%を超えると原料を加熱するのに必要なエネルギーが大きくなるために好ましくない。
【0019】
本発明のアミノ基量0.03mmol/1g以上のポリアミドプレポリマーを得るための処理温度の下限は200℃であり、好ましくは205℃、特に好ましくは210℃である。また処理温度の上限は300℃であり、好ましくは290℃、特に好ましくは280℃である。本処理温度において、カプロラクタム水溶液の含水率を前記した本発明の範囲に維持するためには、処理時の圧力を、処理温度での蒸気圧以上に維持する必要があるが、このような圧力制御は、圧力調節弁などを用いて行うことが可能である。処理温度が200℃未満ではアミノ基量0.03mmol/1g以上のポリアミドプレポリマーを得るに際し、時間を要するために生産性に劣り、工業的生産には不適当である。また、処理温度が300℃を超えると短時間で処理が可能であるが、水分を保持するための圧力が高くなるために設備費用が割高となること、またアミノ基量の生成速度、環状2量体の生成速度が大きくなりすぎるため、工業的な安定性に欠ける。
【0020】
本発明のポリアミドプレポリマーを得るための処理時間の下限は1分であり、好ましくは5分、特に好ましくは10分である。また、上限は60分であり、好ましくは50分、特に好ましくは40分である。処理時間1分未満でアミノ基量0.03mmol/1g以上のポリアミドプレポリマーを得ようとすると、アミノ基量の生成速度、環状2量体の生成速度が速くなるために工業的な安定性に欠ける。また、60分を超えるとポリアミドプレポリマー中に環状2量体が多く生成し、重合後に環状2量体量0.30重量%以下のポリアミドを得ることが困難になる。
【0021】
本発明のポリアミドプレポリマーの製造方法では、カプロラクタム水溶液を縦型の反応装置を用いて、連続的に加熱処理する。装置下部から連続的に供給した原料を、液混合させずにピストンフローで完全に均一加熱処理し、滞留時間の安定したポリアミドプレポリマーを装置上部から取出す。装置内の圧力は、加熱処理によりカプロラクタム水溶液中の水分が蒸発して気相部を作らないよう、加熱処理温度でのカプロラクタム水溶液の蒸気圧以上に圧力を保持し、液で充満させる必要がある。蒸気圧以上の圧力であれば特に制限はないが、圧力が高くなると設備費用が割高になることから、好ましくは、2.0MPa以下になるような条件設定が望ましい。装置内の圧力がカプロラクタム水溶液の蒸気圧以下になると、水分が蒸発し、品質面でのバラツキが大きくなり、目標とするポリアミドプレポリマーが安定して得られなくなり、工業的生産には不適当である。
【0022】
また、縦型の反応装置としては、装置内部が複数の領域に分割されており、カプロラクタム水溶液供給部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換ゾーン、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化ゾーン、さらに続けて(a)(b)各ゾーン、(c)多孔板を備えた整流ゾーンの順に構成された複合式熱交換型反応器を用いることで、所定の時間で均一に処理された高品質なポリアミドプレポリマーを得る。なお、加熱方法は、反応器をジャケットで覆い、ジャケット内の熱媒体により加熱する。熱媒体としては、目的とする反応温度、熱媒体の取扱いの容易さなどに応じて適宜選択すればよい。
かくして得られた本発明のポリアミドプレポリマーは、アミノ基量が0.03mmol/1g以上である。さらに好ましくは0.04mmol/1g以上、特に好ましくは0.05mmol/1g以上である。アミノ基量が0.03mmol/1g未満では、得られたポリアミドプレポリマーからポリアミドを重合する際に、残存するカプロラクタムのアミノ基への付加速度、すなわちカプロラクタムの消費速度が遅くなるため、カプロラクタムが水との反応で鎖状オリゴマーを経由して環状オリゴマーが生成しやすく、重合後の環状2量体含有量0.30重量%以下のポリアミドを得ることが困難になる。アミノ基量に上限はないが、アミノ基量が多いと重合塔に供給する際に固化しやすくなるため、生産性の点で通常0.4mmol/1g以下の範囲が採用される。また、ポリアミドプレポリマー中の環状2量体含有量は0.10重量%以下である。好ましくは0.08重量%以下、特に好ましくは0.06重量%以下である。0.10重量%を超えると得られたポリアミドプレポリマーから製造されるポリアミド中の環状2量体含有量が増加するからである。この環状2量体含有量の下限に特に制限はないが、通常0.01重量%である。
【0023】
このようにして得られたポリアミドプレポリマーを230〜270℃で5〜20時間、液相重合し、硫酸相対粘度2.2以上、モノマー含有量10重量%以下、オリゴマー含有量が2.0重量%以下、環状オリゴマーの2量体含有量0.30重量%であるポリアミドを得る。
【0024】
本発明のポリアミドの製造方法では、加圧下での加熱処理によって得られたポリアミドプレポリマーを常圧重合装置に供給する際、常圧重合装置上部などにフラッシュさせて水分を蒸散除去させることが好ましく採用される。水分を蒸散除去させることにより、ポリアミドを製造する際の加熱に要する熱量を低減し、かつ重合温度制御を容易にすることができる。
【0025】
本発明のポリアミドの製造方法において、用いる重合装置は常圧で重合を行える装置であれば特に制限はなく、一般的にカプロラクタムの重合に用いられる装置を用いることができる。具体的には連続式常圧重合装置、回分式重合装置などの液相重合装置が挙げられる。中でも生産性の面から連続式常圧重合装置が好ましい。
【0026】
本発明のポリアミドの相対粘度は、サンプル濃度0.01g/mLの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度として、2.2以上である。さらに好ましくは、2.25〜7.0、特に好ましくは2.3〜6.0である。相対粘度が2.2未満では機械物性の発現が不十分な場合があり、8.0を超えると溶融粘度が高すぎて成形が困難となる。
【0027】
本発明のポリアミド中のモノマー含有量は10重量%以下であり、好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。また、ポリアミド中のオリゴマー含有量は2.0重量%以下であり、好ましくは1.9重量%以下である。ポリアミド中の環状2量体含有量は0.30重量%以下であり、好ましくは0.28重量%以下である。
【0028】
重合温度,重合時間は、重合後のポリアミドが、硫酸相対粘度2.2以上、モノマー含有量10重量%以下、オリゴマー含有量2.0重量%以下、環状オリゴマーの2量体含有量0.30重量%以下となるように上記範囲から選べばよい。重合後のポリアミドに含有されるオリゴマー量が2.0重量%を超えたり、環状2量体量が0.30重量%を超えると、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。モノマー量が10重量%を超えるとポリアミドの収率が低いために経済的に好ましくない。
【0029】
本発明の重合温度は230〜270℃であり、好ましくは235〜265℃、さらに好ましくは240〜260℃である。重合温度が230℃未満の場合、重合速度が遅く重合に長時間を要し経済的でないばかりか、重合中にオリゴマー量が2.0重量%を超えて生成したり、環状2量体量が0.3重量%を超えて生成するために、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。また、270℃を超える場合も、環状オリゴマーの生成速度が大きくなるために、重合後のオリゴマー量が2.0重量%を超えたり、環状2量体量が0.3重量%を超え、後工程であるオリゴマー除去、精製工程の負担が大きくなる。なお、ここでいう重合温度とは、重合装置内におけるポリアミドまたはその前駆体の最高温度である。重合時間が5時間未満ではモノマー量が10重量%を超えることがあるため、モノマー量を10重量%以下とするために重合温度が270℃を超えることが必要となり、環状オリゴマーの生成速度が大きくなる等の問題がある。また、20時間を超えると環状2量体量が0.30重量%を超えて生成することや経済的ではないなどの問題を生じる。本発明において好ましい重合時間は8〜16時間である。また、本発明の方法によれば、ポリアミド中の環状2量体量は通常0.30重量%以下となり、好ましい態様においては0.25重量%以下となる。環状2量体は昇華性があり高融点であることから、フィルム製造時や紡糸時の口金汚れの主たる原因物質となっているため、上記のように環状2量体量が低減されることは、実用上極めて有用である。
【0030】
本発明のポリアミドの製造方法では、重合開始時にポリアミドプレポリマーに対してさらにカプロラクタムを追添加して重合することができる。カプロラクタムの追添加量は、ポリアミドプレポリマーと追添加カプロラクタムからなる原料組成物中のアミノ基量が0.03mmol/1g以上となる範囲であれば、特に制限はない。
【0031】
本発明のポリアミドの製造方法で用いる原料には主にカプロラクタムを用いるが、発明の目的を阻害しない範囲で、1種または2種以上の他のラクタムおよびその誘導体をポリアミドの原料全体の10mol%を超えない範囲で併用してもかまわない。10mol%を超えると得られるポリアミドの結晶性が低下する場合がある。かかる併用ラクタム及びその誘導体の具体例としては、バレロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどを挙げることができる。
【0032】
本発明のポリアミドの製造方法では、カプロラクタムに対して5mol%以下のジカルボン酸、ジアミン、およびこれらの塩の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を加熱処理前の原料中あるいは重合段階に供給して重合することができる。このことにより、必要な重合時間のさらなる短縮が可能である。ただし、この添加量としては4mol%以下が好ましく、更に好ましくは3mol%以下である。添加剤の添加量が5mol%を超えると得られるポリアミドの融点や結晶性が低下し、成形性・成形品物性が低下する場合がある。
【0033】
添加剤を構成するジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
添加剤を構成するジアミンとしては、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0035】
この添加剤としては、好ましくはジカルボン酸とジアミンの塩であり、より好ましくは脂肪族および/または芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンから誘導される塩であり、最も好ましくは、アジピン酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩および/またはテレフタル酸と1,6−ジアミノヘキサンから誘導される塩である。
【0036】
前記添加剤を常圧重合装置に供給する方法に特に制限はない。粒状の固体を重合装置に添加してもよく、水などの溶媒に溶解し、溶液として添加してもよい。
【0037】
本発明のポリアミドの製造方法では、得られたポリアミドからさらにモノマーおよびオリゴマーを熱水抽出によって除去してもよく、減圧下で加熱することにより揮発除去してもよく、減圧下で加熱して、モノマーおよびオリゴマーを除去した後、さらに熱水抽出を行ってもよい。モノマーおよびオリゴマーの減圧下加熱による揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、固相で行ってもよく、溶融状態で行ってもよい。溶融状態での揮発除去は、重合反応生成物をペレットなどの固体とした後、押出機や薄膜蒸発機などで溶融・減圧下加熱を行ってもよく、重合塔より吐出される溶融状態の重合反応生成物を、直接押出機や薄膜蒸発機などに供給してもよい。また、モノマーおよびオリゴマーの減圧下加熱による揮発除去においてポリアミドの溶融重合または固相重合を同時に行うことにより、その重合度を用途に応じた好適な値に調整することができる。
【0038】
本発明の製造方法で得られるポリアミドは、高強度繊維や押出成形などポリアミドが高粘度であることを要求される用途に対しては、好適な粘度が得られるように、ポリアミドの融点未満の温度かつ窒素気流下または減圧下で加熱処理する固相重合によって所望の重合度に調整することが好ましい。
【0039】
本発明のポリアミドの製造方法では、必要に応じてカルボン酸化合物で末端を封鎖するもしくは末端基の構成を制御することができる。モノカルボン酸を添加して末端封鎖する場合には、得られたポリアミドの末端基濃度が末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸で末端封鎖した場合には全末端基量は変化しないが、アミノ基とカルボキシル基との比率を変えることができる。カルボン酸化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸のような脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸のような脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸のような芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。また、末端封鎖剤の添加方法としては、ポリアミドプレポリマーの加熱処理初期にカプロラクタム等の原料と同時に仕込む方法、常圧重合装置投入前に添加する方法、ポリアミドを溶融状態でモノマーおよびオリゴマーを除去する際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもかまわない。
【0040】
本発明の製造方法においては、用途に応じて例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(酸化チタン、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホン酸アミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組合せ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填剤等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0041】
本発明の製造方法によって得られたポリアミドは、従来のポリアミドと同様に、通常の成形方法によって成形品とすることができる。成形方法に関しては特に制限はなく、射出成形、押出成形、吹き込み成形、プレス成形など公知の成形方法が利用できる。ここでいう成形品とは射出成形などによる成形品の他、繊維、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント等の賦形物も含む。
【実施例】
【0042】
以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、特許請求の範囲、明細書本文および実施例、比較例に記した特性値の定義および測定方法は以下のとおりである。
【0043】
(1)ポリアミドプレポリマー中のアミノ基量
被測定物約0.2gを精秤し、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)25ccに溶解後、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定した。
【0044】
(2)ポリアミドプレポリマー中の環状オリゴマー含有量
被測定物を粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過である被測定物の粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出器を用いて抽出し、抽出液中に含まれる環状オリゴマーを高速液体クロマトグラフを用いて定量した。なお、測定に先立ち、カラム保持時間の確認と検量線の作成をカプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体、カプロラクタム環状3量体、カプロラクタム環状4量体の標準サンプルを用いて実施した。重合度5を超えるカプロラクタム環状体の検量線は、カプロラクタム環状4量体と同一として計算した。また、以下の実施例においては7量体以上の環状オリゴマーは検出されなかった。測定条件は下記のとおりである。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min。
【0045】
(3)ポリアミド中のモノマー量および環状2量体量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、抽出液中に含まれるカプロラクタムを高速液体クロマトグラフを用いて定量した。測定条件は下記のとおりである。なお測定に先立ち、カラム保持時間の確認と検量線の作成をカプロラクタムおよびカプロラクタム環状2量体の標準サンプルを用いて実施した。
高速液体クロマトグラフ:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社 ODS−3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
インジェクション体積:10μl
溶媒:メタノール/水(メタノール/水の組成は、20:80→80:20(体積比)のグラディエント分析とした。)
流速:1ml/min。
【0046】
(4)ポリアミド中のオリゴマー量
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124mesh不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、エバポレーターで蒸発乾固し、更に80℃/8時間真空乾燥することによりカプロラクタムを除去した後に得られる残渣量を求めオリゴマー含有量とした。
【0047】
(5)硫酸相対粘度(ηr)
ポリアミドを粉砕し、JIS標準ふるい24meshは通過し、124mesh不通過のポリアミド粉末を集め、該粉末約20gをメタノール200mlで3時間ソックスレイ抽出し、残分を乾燥後測定試料とする。98%硫酸中、試料0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0048】
実施例1〜6
図1〜2に示す装置を用いて加熱処理、重合を行った。
【0049】
表1記載の組成のカプロラクタム水溶液を原料貯槽1に投入し、ついで圧力計3を吐出側に有する原料供給ポンプ2を用い、複合式熱交換型反応器4に供給し、表1記載の条件下で連続的に加熱処理を行った。次いで得られたポリアミドプレポリマーを重合塔7に供給して、表1記載の条件で連続重合を行い、重合塔7下部より重合反応生成物であるポリアミドを得た。
【0050】
なお、加熱処理に用いた複合式熱交換型反応器4は図2のような構成をしており、装置内の圧力は加熱処理時にカプロラクタム水溶液から水分が蒸発しないように圧力調整バルブ5により維持・調整し、圧力調整バルブ5を通過後、圧力を大気圧解放することでポリアミドプレポリマーから蒸発した水分を重合塔7上部から系外へ排出した。
【0051】
ポリアミドプレポリマーは、重合塔7への供給前にサンプル採取用バルブ6から分析用サンプルを採取した。また、重合後のポリアミドは重合塔7下部から排出したものを採取した。
【0052】
比較例1
タンク式で気相部を有する反応器を用いた場合を比較例1として表2に記載した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
表1,表2から明らかなように、本発明の製造方法では、モノマー量および環状オリゴマーの中でも特に環状2量体含有量が少ないポリアミドが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ポリアミド重合後のモノマー,オリゴマー量を低減することにより、繊維,樹脂用原料として好適な、環状オリゴマー、中でも特に環状2量体含有量の少ないポリアミドプレポリマーおよびポリアミドを効率的かつ安定的に製造することができ、さらに後工程であるオリゴマー除去、精製工程の簡略化が可能となり、高生産効率かつ低エネルギーコストでポリアミドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例で用いた加熱処理および重合装置の概略図である。
【図2】実施例で用いた複合式熱交換型反応器4の概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1:原料貯槽
2:原料供給ポンプ
3:圧力計
4:複合式熱交換型反応器
5:圧力調整バルブ
6:サンプル採取用バルブ
7:重合塔
8:多管式熱交換ゾーン
9:熱均一化ゾーン
10:多管式熱交換ゾーン
11:熱均一化ゾーン
12:整流ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプロラクタム水溶液を反応器の下部から連続的に供給し、反応器内に気相部が存在しない状態で反応させ、上部からポリアミドプレポリマーを連続的に取出すことを特徴とするポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項2】
供給するカプロラクタム水溶液の含水率が2〜14重量%である請求項1記載のポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項3】
反応器内を200〜300℃の温度、水が蒸発しない圧力として反応を行う請求項1または2記載のポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項4】
得られるポリアミドプレポリマーが、アミノ基量0.03mmol/1g以上、かつ環状オリゴマーの2量体含有量0.10重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項5】
反応器が、多管式熱交換型反応器である請求項1〜4のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項6】
反応器が、反応器内部が複数の領域に分割されており、下部から(a)2本以上の反応管からなる多管式熱交換ゾーン、(b)内部に障害物が存在しない熱均一化ゾーン、さらに続けて(a)(b)各ゾーン、(c)多孔板を備えた整流ゾーンの順に構成された複合式熱交換型反応器である請求項1〜5のいずれか記載のポリアミドプレポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の製造方法で得られたポリアミドプレポリマーを230℃〜270℃の温度で5〜20時間液相重合することを特徴とするポリアミドの製造方法。
【請求項8】
得られるポリアミドが、硫酸相対粘度2.2以上、モノマー含有量10重量%以下、オリゴマー含有量2.0重量%以下、環状オリゴマーの2量体含有量0.30重量%以下であることを特徴とする請求項7記載のポリアミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81634(P2008−81634A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264275(P2006−264275)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】