説明

ポリアリレート樹脂水性分散体、およびその製造方法、ならびにそれから得られる樹脂被膜

【課題】 耐熱性や、衝撃強度等の機械的強度、寸法安定性、透明性等に優れたポリアリレートの樹脂被膜を、有機溶剤に溶解した塗工液ではなく、環境負荷低減効果の高いポリアリレート樹脂水性分散体とすることができ、その製造方法と、ポリアリレート樹脂水性分散体から得られる樹脂被膜を提供する。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から構成され、酸価が2mgKOH/g以上であるポリアリレート樹脂が、水性媒体中に分散されてなることを特徴とするポリアリレート樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から構成され、酸価が2mgKOH/g以上であるポリアリレート樹脂が水性媒体中に分散されてなるポリアリレート樹脂水性分散体、およびその製造方法、ならびにそれから得られる樹脂被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル樹脂の中で、芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から得られるポリアリレート樹脂が、非晶性が高く透明で、かつ耐熱に優れることから、さまざまな用途に用いられている。たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、BisAと表記する)と、テレフタル酸(以下、TPAと表記する)およびイソフタル酸(以下、IPAと表記する)からなる非晶性ポリアリレートは、エンジニアリングプラスチックとして既によく知られており、耐熱性や、衝撃強度に代表される機械的強度、寸法安定性、透明性等が要求される電気、電子、自動車、機械等の分野に幅広く応用されている。
【0003】
これらの樹脂製品の多くは、押出成形や射出成形のように溶融状態で加工された成形品であるが、溶剤に溶解してキャストされたシートやフィルム、あるいは金属、ガラス、樹脂、木材等の基材にコーティングされた被膜としての応用も盛んになってきており、優れた電気的特性(絶縁性、誘電特性等)や光学特性を利用して、コンデンサー用や液晶ディスプレー用のフィルムのような電子材料用途にも適用されつつある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、透明性、機械的強度、寸法安定性だけではなく、紫外線による変色が抑えられるポリアリレートが提案されている。また、特許文献2では、透明性、機械的強度、寸法安定性に加えて、絶縁性、誘電特性、耐摩耗特性等に優れたポリアリレートが提案されている。しかしながら、これらの文献に記載されたポリアリレートは、有機溶剤に溶解させた塗工液から得られる樹脂被膜についてしか検討されていない。
【0005】
一方で、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善等の理由で、有機溶剤の使用を抑制する傾向が近年拡大しており、ポリエステル等の汎用樹脂を、水性媒体に微分散させた、樹脂の水性分散体を供給することが求められており、その開発が盛んにおこなわれている。
【0006】
たとえば、特許文献3には、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより、水性媒体中に分散させた、ポリエステル樹脂水性分散体が提案されており、かかる水性分散体を用いると加工性、耐水性、耐溶剤性等の性能に優れた被膜を形成できるとの開示があるが、多塩基酸と多価アルコールからなるポリエステル樹脂についてしか検討されていない。
【特許文献1】特開平5−43670号公報
【特許文献2】特開2001−26637号公報
【特許文献3】国際公開第2004/037924号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性、耐熱性等に優れたポリアリレート樹脂を、水性媒体に微分散させ、ポリアリレート樹脂水性分散体、およびその製造方法、ならびにそれから得られる樹脂被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の酸価を有するポリアリレート樹脂を、水性媒体中に分散することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
(1) 芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から構成され、酸価が2mgKOH/g以上であるポリアリレート樹脂が、水性媒体中に分散されてなることを特徴とするポリアリレート樹脂水性分散体。
(2) 芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸(TPA)とイソフタル酸(IPA)からなり、TPA/IPA=60/40〜40/60(モル比)の範囲であるポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする(1)のポリアリレート樹脂水性分散体。
(3) ポリアリレート樹脂は、下記の一般式(I)で示される二価フェノール成分を含有してなり、少なくとも(I)を20モル%以上含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載のポリアリレート樹脂水性分散体。
【0011】
【化1】

[式中のR、および、Rは、各々独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の炭化水素基、および、ハロゲン原子から選ばれるものであり、m、および、nは、各々独立して、0〜4の整数をとる。また、式中のX、および、Xは、水素原子、または、炭素原子数1〜20の直鎖状、枝分かれ状、芳香族や脂環族を含む環状の、少なくとも一つからなる炭化水素基、または、トリハロメタン基、または、炭素原子数が1〜20であるアルキルエステル基、または、フェニルエステル基から選ばれるものである。]
(4) 二価フェノール成分として、4,4´−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール(BisAF)を20モル%以上含有するポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする(1)〜(3)のポリアリレート樹脂水性分散体。
(5) 界面重縮合法で重合され、重量分子量が5,000以上であるポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする(1)〜(4)のポリアリレート樹脂水性分散体。
(6) ポリアリレート樹脂、塩基性化合物、有機溶剤、水を含有されてなり、ポリアリレート樹脂を有機溶剤で溶解した後、塩基性化合物を加え、さらに、水を徐々に加えて、転相乳化することを特徴とする(1)〜(5)のポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法。
(7) 温度を40℃以下に保った状態で、ポリアリレート樹脂を少なくとも10質量%以上溶解することができ、かつ沸点が150℃以下、水に対する溶解性が5g/L(20℃)以上である有機溶剤を用いることを特徴とする(6)のポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法。
(8) (1)〜(5)のポリアリレート樹脂水性分散体から得られる樹脂被膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性や、衝撃強度等の機械的強度、寸法安定性、透明性等に優れたポリアリレートの樹脂被膜を、有機溶剤に溶解した塗工液ではなく、環境負荷低減効果の高いポリアリレート樹脂水性分散体とすることができ、その製造方法と、ポリアリレート樹脂水性分散体から得られる樹脂被膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の水性分散体は、少なくともポリアリレート樹脂が水性媒体に分散されてなる液状物である。
【0015】
本発明におけるポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から構成されている必要がある。たとえば、芳香族ジカルボン酸に代えて、脂肪族ジカルボン酸を用いた場合は、耐熱性、衝撃強度、寸法安定性、透明性等の劣るポリアリレート樹脂となる。
【0016】
本発明における、ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸成分としては、TPA、IPA、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、単独で用いることもできるし、2種類以上で併用することも可能である。必要に応じて、脂肪族ジカルボン酸成分を混合することができるが、その際は、耐熱性、衝撃強度、寸法安定性、透明性等の観点から、芳香族ジカルボン酸成分100モル%に対して、0.1〜10モル%の配合が好ましい。
【0017】
特に好適に用いることのできる芳香族ジカルボン酸は、工業的に多量に生産されており、安価であること等から、TPAとIPAであり、できるポリアリレート樹脂の溶剤溶解性が向上することから、これらの比率がTPA/IPA=60/40〜40/60(モル比)の範囲であることが好ましく、TPA/IPA=50/50(モル比)が特に好ましい。TPAとIPAの比率がこれらの範囲外であると、ポリアリレート樹脂は溶剤溶解性に乏しくなる傾向があり、後述するポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法における、溶解工程において、非常に不利になるために好ましくない。
【0018】
本発明における、ポリアリレート樹脂を構成する二価フェノール成分としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、BisAと表記)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、TMBPAと表記)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4´−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールフルオレン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、4,4´−[1,4−フェニレン−ビス(2−プロピリデン)−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)]、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4´−ジヒドロキシフェニルエーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,4´−メチレンビスフェノール、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、テルペンジフェノール、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジ−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチル−6−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フルオロフェニル)メタン、BisAF、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、ビス(3ーフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェノール、3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ビフェノール、3,3´,5,5´−テトラ−tert−ブチル−4,4´−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、3,3´−ジフルオロ−4,4´−ビフェノール、3,3´,5,5´−テトラフルオロ−4,4´−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2,3,5−トリメチル−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)エタン、イサチンビスフェノール、イサチンビスクレゾール、2,2´,3,3´,5,5´−ヘキサメチル−4,4´−ビフェノール、ビス(2ーヒドロキシフェニル)メタン、2,4´−メチレンビスフェノール、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3−アリルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2ーヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フェニルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、1,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)メタン、2,2−ビス(3−スチリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−(p−ニトロフェニル)エタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3´,5,5´−テトラ−tert−ブチル−2,2´−ビフェノール、2,2´−ジアリル−4,4´−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5,5−テトラメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,4−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−エチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロペンタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下、BisSと表記)、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン酸メチルエステル(以下、BisP−PRMと表記)等が挙げられる。これらの2価フェノールは、単独で用いることもできるし、2種類以上で併用することも可能である。
【0019】
特に好適に用いることのできる二価フェノールは、下記一般式(I)で示される二価フェノール成分が好ましい。
【0020】
【化1】

[式中のR1、および、R2は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の炭化水素基、および、ハロゲン原子から選ばれるものであり、m、および、nは、各々独立して、0〜4の整数をとる。また、式中のX1、および、X2は、水素原子、または、炭素原子数1〜20の直鎖状、枝分かれ状、芳香族や脂環族を含む環状の、少なくとも一つからなる炭化水素基、または、トリハロメタン基、または、炭素原子数が1〜20であるアルキルエステル基、または、フェニルエステル基から選ばれるものである。]
【0021】
上記一般式(I)の中でも、さらに好ましい二価フェノールとしては、BisA、BisS、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、TMBPA、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、BisP−PRM、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、BisAF等である。また、得られるポリアリレート樹脂(A)の溶剤溶解性が向上することから、二価フェノール成分のうち、BisAFを20モル%以上有することが特に好ましい。BisAFが20モル%未満であると、ポリアリレート樹脂は溶剤溶解性に乏しくなる傾向があり、後述するポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法における、溶解工程において、非常に不利になるために好ましくない。
【0022】
本発明におけるポリアリレート樹脂は、酸価が2mgKOH/g以上である必要があり、2〜40mgKOH/gであることが好ましく、4〜30mgKOH/gであることが特に好ましい。酸価が2gKOH/g未満であると、水性化が困難になり、また、たとえできたとしても体積平均粒径が大きくなり、保存安定性が悪くなる。また、酸価が40mgKOH/gを超えると、ポリアリレート樹脂の分子量が小さくなり、水性分散体から形成される樹脂被膜の耐久性が不十分となって、塗膜強度等が不足するため好ましくない。
【0023】
本発明におけるポリアリレート樹脂は、重量平均分子量が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、30,000以上であることが特に好ましい。重量平均分子量が5,000未満であると、水性分散体から形成される樹脂被膜の耐久性が不十分となって、塗膜強度等が不足するため好ましくない。
【0024】
ここで、重量平均分子量とは、ポリアリレート樹脂の分子量分布において、下記式(II)に定義される平均分子量である。
Mw=Σ(NiMi)/ΣNiMi (II)
[ただし、式(II)中、Miは樹脂中の分子鎖iの分子量、Niは樹脂中の分子鎖iの個数を示す。]
【0025】
本発明におけるポリアリレート樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、耐熱性や、衝撃強度等の機械的強度の観点から、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、170℃以上が特に好ましい。
【0026】
次に、本発明における、ポリアリレート樹脂の製造方法について説明する。
【0027】
ポリアリレート樹脂を製造する方法としては、既述の二価フェノールと、芳香族ジカルボン酸、および/または、これらの誘導体を原料とし、公知のポリアリレート重合方法を用いて製造することができる。重合方法としては、界面重縮合、溶液重合、溶融重合等が挙げられる。
【0028】
本発明における、ポリアリレート樹脂の製造方法としては、界面重縮合法で重合されることが好ましい。界面重縮合法を用いると、重合速度が速く、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができ、また、得られたポリアリレート樹脂は、着色がほとんどない等、非常に有用である。界面重縮合法でない場合、たとえば、溶融重合法で重合されたポリアリレート樹脂は、着色が激しく、溶剤溶解性も悪化し、また、微量の酢酸が残存して、後述する水性分散体の製造にも影響を及ぼすため、好ましくない。
【0029】
界面重縮合法とは、二価フェノールをアルカリ性水溶液に溶解させた水相と、二価のカルボン酸ハライドを水に溶解しない有機溶剤に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる。
【0030】
水相に用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が挙げられる。
【0031】
有機相に用いる有機溶剤としては、水と相溶せずに、かつ、生成するポリアリレート樹脂を溶解することができる有機溶剤が用いられる。たとえば、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系炭化水素等があげられる。
【0032】
界面重縮合法に使用される触媒としては、たとえば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。特に、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドを用いると、反応速度が速く好ましい。
【0033】
本発明におけるポリアリレート樹脂は、末端が一価フェノール、一価酸ハライド、一価アルコール、一価カルボン酸等で封止されていてもよい。そのような末端封止剤として用いられる一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニル−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられ、一価酸ハライドとしては、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられ、一価カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸等が挙げられる。
【0034】
界面重縮合法は、有機相の溶液を前述の水相溶液に混合し、好ましくは50℃以下の温度で1時間〜8時間攪拌しながら重縮合を行うことによって所望の樹脂溶液を得ることができる。
【0035】
重合後に得られた樹脂溶液に酢酸を添加し、重合を終了したあと、樹脂溶液を水で繰返し攪拌しながら洗浄し、樹脂溶液に含まれるナトリウムやカリウム、および重合触媒等のイオン性成分を除去する。洗浄に使用する水は、酸性であっても、塩基性であっても構わないが、洗浄廃液水が、中性になるまで繰返し洗浄する必要がある。
【0036】
得られた樹脂溶液を、貧溶媒に滴下することにより、固形分としての樹脂が析出する。樹脂溶液の固形分濃度は3質量%以下が好ましい。また、貧溶媒の体積は樹脂溶液の体積の3倍以上が好ましい。貧溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン等が挙げられる。
【0037】
樹脂溶液を貧溶媒へ添加することにより、樹脂に含有される遊離の芳香族ジカルボン酸を低減させることができる。遊離の芳香族ジカルボン酸の含有量を低減するためには、特に、貧溶媒へ析出処理をした後の貧溶媒への浸漬時間を1分以上とすることが好ましい。また、重合触媒として、重合活性の比較的低いトリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライドなどを用いたときは、浸漬時間を3分以上とすることが特に好ましい。3分未満で取り出したときは、遊離の芳香族ジカルボン酸が樹脂から十分に除去されない場合がある。遊離の芳香族ジカルボン酸量をさらに十分に低減させるためには、得られた樹脂を再び溶媒に溶解し、貧溶媒へ添加して析出をおこなう上記操作を繰り返してもよい。
【0038】
つづいて、ポリアリレート樹脂水性分散体について説明する。
【0039】
本発明のポリアリレート樹脂水性分散体は、前記したポリアリレート樹脂が、水性媒体中に分散されてなる液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0040】
本発明のポリアリレート樹脂は、末端、および/または、側鎖にカルボキシル基を有することが好ましい。カルボキシル基を有するポリアリレート樹脂であれば、後述する水性分散体の製造時において、塩基性化合物を添加することにより、当該カルボキシル基の少なくとも一部、または、全部が中和されて、カルボキシルアニオンが生成し、このアニオン間の電気反発力によって、ポリアリレート樹脂の微粒子は凝集せず、安定に分散するため、界面活性剤を使用せずに、分散安定性の良好なポリアリレート樹脂水性分散体が得られる。界面活性剤を使用した水性分散体からなる被膜は耐水性に劣る傾向にある。
【0041】
本発明におけるポリアリレート樹脂を用いる水性分散体を製造する際に使用する有機溶剤は、温度を40℃以下に保った状態で該ポリアリレート樹脂を10質量%以上溶解することが出来、かつ沸点が150℃以下、水に対する溶解性が5g/L以上(20℃)である有機溶剤(以下、有機溶剤(イ)と表記する)であることが好ましい。有機溶剤(イ)が、温度を40℃以下に保った状態で該ポリアリレート樹脂を10質量%未満しか溶解することができないならば、製造される水性分散体の固形分濃度を上げることが困難となり、非常に非実用的、かつ、非経済的なものとなるため好ましくない。また、沸点が150℃を超えると、後述するポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法において、有機溶剤(イ)の完全な除去が非常に困難になり、十分に安定な水性分散体を得ることができなくなるため好ましくなく、水に対する溶解性が5g/L(20℃)未満であると、後述するポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法において、転相工程を十分に完了することができず、均一な水性分散体を得ることができなくなるため好ましくない。
【0042】
これらの条件を満たす、有機溶剤(イ)としては、たとえば、メチルエチルケトン(以下、MEKと表記する)や、テトラヒドロフラン(以下、THFと表記する)等が好ましい。なお、有機溶剤(イ)は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。なお、MEKの沸点は80℃、THFの沸点は65℃である。
【0043】
本発明のポリアリレート樹脂水性分散体に含有するポリアリレート樹脂の含有率は、5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。ポリアリレート樹脂の含有率が50質量%を超えると、分散していたポリアリレート樹脂が凝集しやすくなり、安定性が乏しくなる傾向にある。ポリアリレート樹脂の含有率が5質量%未満では、塗工しても十分な膜厚を得ることができず、適当でない。
【0044】
本発明のポリアリレート樹脂水性分散体のpHは6以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、8以上であることが特に好ましい。pHが6未満であるものは、水性分散体中にあるポリアリレート樹脂のカルボキシルアニオンが減少し、アニオン間の電気反発力が低減して、分散していたポリアリレート樹脂が凝集してしまい、もはや均一な水性分散体としては得られなくなるため好ましくない。
【0045】
本発明の水性分散体中におけるポリアリレート樹脂の粒子径は、特に限定されないが、保存安定性を良好に保つ観点から、各々の体積平均粒子径は500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。
【0046】
次に、ポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
【0047】
はじめに、酸価が2mgKOH/g以上のポリアリレート樹脂を有機溶剤(イ)に溶解させる工程(溶解工程)、有機溶剤(イ)に溶解したポリアリレート樹脂溶液を塩基性化合物とともに水に分散させる工程(転相乳化工程)、得られた分散体から、有機溶剤(イ)を除去する工程(脱溶剤工程)の3工程をおこなうことで製造することができる。必要に応じて、未分散物や凝集物をろ過して取り除くことにより、沈殿物や相分離等の見られない、均一な状態のポリアリレート樹脂水性分散体が得られる。
【0048】
溶解工程について説明する。ポリアリレート樹脂を有機溶剤(イ)に溶解するための装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであれば特に限定されない。また、ポリアリレート樹脂が溶解しにくい場合には、加熱をおこなってもよい。
【0049】
転相乳化について説明する。転相乳化は、ポリアリレート樹脂の有機溶剤溶液に、塩基性化合物、水と混合しておこなう。本発明においては、塩基性化合物をポリアリレート樹脂の有機溶剤溶液に加えておき、これに水を徐々に投入して転相乳化をおこなう方法が好ましい。また、水の投入速度が速い場合には、ポリアリレート樹脂の塊が形成され、この塊は水性媒体に分散しなくなる傾向にあり、最終的に得られる水性分散体の収率が下がり好ましくない。1000gの(樹脂溶液+塩基性化合物)に対して、25g〜100g/minの投入速度で水を投入することが望ましい。なお、本発明において「転相乳化」とは、ポリアリレート樹脂の有機溶剤溶液に、この溶液に含まれる有機溶剤量(質量%)を超える量の水(質量%)を添加して、有機溶剤よりも水を多く含む液相にポリアリレート樹脂を微分散させることを意味する。
【0050】
転相乳化工程時に用いる塩基性化合物としては、塗工した樹脂被膜から水性媒体を、容易に揮散可能になるため、沸点が150℃以下、さらには100℃以下の有機アミン、あるいは、アンモニアが好ましい。なかでもアンモニア、トリエチルアミン等が最も好ましい。塩基性化合物の使用量としては、ポリアリレート樹脂中に含まれるカルボキシル基の量に応じて、少なくともこれを部分中和し得る量、すなわち、カルボキシル基に対して0.4〜20倍当量が好ましく、0.6〜18倍当量がより好ましく、0.8〜15倍当量が特に好ましい。塩基性化合物の使用量を前記範囲とすることで、保存安定性が特に良好なポリアリレート樹脂水性分散体を得ることができる。
【0051】
転相乳化をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであれば特に限定されない。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機(たとえばホモミキサー)として広く当業者に知られている装置が挙げられる。転相乳化は常圧、減圧、加圧下のいずれの条件でおこなってもよい。
【0052】
脱溶剤工程について説明する。脱溶剤工程は、転相乳化した後に蒸留する方法によりおこなうことができる。蒸留は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよく、蒸留をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
【0053】
また、脱溶剤工程をした後のポリアリレート樹脂水性分散体に、転相乳化工程の説明で既述の、塩基性化合物を添加することができる。脱溶剤工程後に、再度塩基性化合物添加をすることで、水性分散体のpHを容易に6以上に上げることができる。このとき、水性分散体を攪拌した状態にして、除々に塩基性化合物を添加する方がよい。水性分散体を攪拌しない状態で添加したり、一気に塩基性化合物を添加したりすると、添加の衝撃により、水性分散体中のポリアリレート樹脂が凝集し、沈殿することがあるためよくない。
【0054】
次に、本発明のポリアリレート樹脂水性分散体の使用方法について説明する。
【0055】
本発明の水性分散体は、被膜形成能に優れているので、ディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法等の公知の成膜方法により各種基材表面に均一にコーティングし、加熱処理に供することにより水性媒体を除去して、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、樹脂被膜の厚さとしては、その用途や目的によって適宜選択されるものであるが、0.1〜30μmが好ましく、0.3〜10μmがより好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜30分間であり、5秒〜20分が好ましく、10秒〜10分が最も好ましい。
【0056】
また、本発明における水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、保護コロイド作用を有する化合物、水、有機溶剤、界面活性剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラックなどの顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂などの水性樹脂などを配合して使用することができる。
【0057】
硬化剤としては、ポリアリレート樹脂が有する官能基、たとえばカルボキシル基や、その無水物、および、ヒドロキシル基と反応性を有する硬化剤であれば、特に限定されるものではなく、たとえば、尿素樹脂や、メラミン樹脂や、ベンゾグアナミン樹脂などのアミノ樹脂、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、および、その各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有重合体、フェノール樹脂などが挙げられる。これらのうちの1種類を使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0058】
添加剤としては、ハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、滑剤などが挙げられる。また、保護コロイド作用を有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、アクリル酸および/またはメタクリル酸を一成分とするビニルモノマーの重合物、ポリイタコン酸、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、膨潤性雲母などが挙げられる。
【0059】
水としては、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などが挙げられる。また、有機溶剤としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類を挙げることができる。
【0060】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。たとえば、非イオン性界面活性剤としてはAldrich社製のIgepalシリーズ、三洋化成株式会社製のナロアクティーシリーズ等が挙げられる。ただし、界面活性剤が残存した状態の樹脂被膜は耐水性に劣る傾向にあるので、使用には注意が必要である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0062】
1.測定方法
【0063】
(1)ポリアリレート樹脂の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求め、H−NMRスペクトル上のシグナルを帰属して、ポリアリレート樹脂の構成を確認した。
【0064】
(2)ポリアリレート樹脂の酸価
ポリアリレート樹脂約0.15gを精秤し、ベンジルアルコール5mlを加えて加熱溶解した。これにクロロホルム10mlを混合した後、フェノールレッドを指示薬として加え、撹拌しながら0.1N−KOHベンジルアルコール溶液で中和滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリアリレート1gあたりに換算した値を酸価として求めた。
【0065】
(3)ポリアリレート樹脂の重量平均分子量
重量平均分子量は、GPC分析(ウォーターズ社製使用、RI検出器、溶媒:クロロホルム、ポリスチレン換算)により求めた。
【0066】
(4)ポリアリレート樹脂のガラス転移温度
ポリアリレート樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度とした。
【0067】
(5)ポリアリレート樹脂の溶剤溶解性
10gのポリアリレート樹脂を90gのMEK、およびTHFが入ったフラスコに入れ、40℃に保ちながら攪拌し、2時間後の外観、および、状態の変化を目視にて観察し、下記の基準でポリアリレート樹脂の溶剤溶解性を評価した。
○:ポリアリレート樹脂が完全に溶解した。
×:ポリアリレート樹脂が溶解せずに溶剤中に残留した。
【0068】
(6)ポリアリレート樹脂水性分散体の固形分濃度
水性分散体を約1g秤量(Xgとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Ygとする)、下記式(III)により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y/X)×100 (III)
【0069】
(7)ポリアリレート樹脂水性分散体のpH
pHメーター(堀場製作所製F−21)を用いて、pH7及びpH9の標準緩衝液(ナカライテスク製)により校正した後、測定温度25℃で水性分散体のpHを測定した。
【0070】
(8)ポリアリレート樹脂水性分散体中での、ポリアリレート樹脂の体積平均粒径
水性分散体を0.1%に水で希釈し、日機装製、MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA)を用いて、ポリアリレート樹脂水性分散体中での、ポリアリレート樹脂の体積平均粒径を測定した。
【0071】
(9)ポリアリレート樹脂水性分散体の安定性
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体30mlを入れ、25℃で1か月間静置した後の外観、および、状態の変化を目視にて観察し、下記の基準で水性分散体の安定性を評価した。
○:外観、状態に変化なし。
×:相分離、沈澱発生、ゲル状態が認められる。
【0072】
(10)樹脂被膜の厚さ
厚み計(ユニオンツール社製、MICROFINE)を用いて、基材の厚みを予め測定しておき、水性分散体を用いて基材上に樹脂被膜を形成した後、この樹脂被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差を樹脂被膜の厚さとした。
【0073】
(11)樹脂被膜の造膜性
水性分散体を、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ38μm)のコロナ処理面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、130℃に設定された熱風乾燥機中で1分間乾燥させることにより膜厚が3μmの樹脂被膜を形成した。樹脂被膜を目視にて観察し、クラックなどが見られず、かつ透明な樹脂被膜を形成しているか否かにより以下のように分類し、造膜性を評価した。
○:クラックなどが見られず、かつ透明
×:クラックなどが見られる、および/または、不透明
【0074】
(12)樹脂被膜の密着性
前記(11)と同様に被膜を形成した。次いで、JIS Z1522に規定された粘着テープ(幅18mm)を、端部を残して樹脂被膜に貼りつけ、その上から消しゴムでこすって十分に接着させた後に、粘着テープの端部をフィルムに対して直角としてから瞬間的に引き剥がした。この引き剥がした粘着テープ面を表面赤外分光装置(パーキンエルマー社製SYSTEM2000、Ge60°50×20×2mmプリズムを使用)で分析することにより、粘着テープ面に樹脂被膜が付着しているか否かにより以下のように分類し、密着性を評価した。
○:粘着テープ面に樹脂被膜に由来するピークが認められない。
×:粘着テープ面に樹脂被膜に由来するピークが認められる。
【0075】
(13)樹脂被膜の透明性
前記(11)と同様に被膜を形成した。次いで、被膜の可視光線領域における全光線透過率を測定した(日本電色工業社製Z−Σ90、Color Measuring System)。なお、保護被膜を施さないPETフィルムをブランクとして用いた。
【0076】
(14)樹脂被膜の耐熱保持力
はじめに、水性分散体を、SUS304(0.5mm厚)表面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、150℃に設定された熱風乾燥機中で1分間乾燥させることにより膜厚が3μmの樹脂被膜を形成した。次に、試験板を幅30mm、長さ100mmの大きさに切り出し、320℃に設定されたオーブン中で、試験板の表面が250℃になるまで加熱し、ただちに、それぞれの被膜面どうしを、接着面積が30mm×30mmになるようにロールラミネーターを用いて圧着した。JIS Z1541の6.3.3に準拠し、72時間、標準状態に放置した後、80℃の熱風循環式恒温装置内に10分間放置して、同温中で1kgのおもりを掛け、7日間経過後の落下の有無により、耐熱保持力を評価した。
○:7日間経過後も、落下しない。
×:7日間経過で、落下する。
【0077】
2.ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂の製造
【0078】
実施例、および比較例で用いたポリアリレート樹脂は、以下のようにして得た。
【0079】
[ポリアリレートP−1の製造例]
攪拌装置を備えた反応容器中に、BisSを7.39g、BisAFを9.93g、水酸化ナトリウムを7.08g、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウムクロライド(以下、TBBACと表記する)を2.45g仕込み、純水434mlに溶解して水相を調製した。また、別途、ジクロロメタン255mlに、芳香族ジカルボン酸として、TPAクロライド/IPAクロライド=50/50混合物(以下、MPCと表記する)を11.99g溶解して有機相を調製した。まず、400rpmの回転速度を保って水相を攪拌しながら、20ml/秒で有機相を徐々に滴下し、その後4時間攪拌を続けて界面重縮合をおこなった。攪拌中は15℃に保って重合した。4時間後、攪拌を停止し、静置した後に水相を分離、除去した。次に、有機相中に純水800mlと酢酸2mlを添加し、再び400rpmで30分攪拌した。30分後、攪拌停止、静置後に水相を除去した。残った有機相が中性になるまで、純水を添加して攪拌する洗浄操作を繰り返しおこなった後、有機相にジクロロメタン100mlを添加し、2μmφのフィルターを通して不溶物を除去し樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、1500mlのメタノール中に、攪拌しながら徐々に添加して樹脂を沈澱させ、全量滴下後さらに30秒攪拌をおこなった。攪拌を停止して沈澱した樹脂を分離し、80℃、13Paで12時間減圧乾燥して、ポリアリレートP−1を得た。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
[ポリアリレートP−2の製造例]
二価フェノール成分として、BisAFの量を0gに変更して、さらに、BisP−PRMを8.04g仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−2を得た。その結果を表1に示す。
【0082】
[ポリアリレートP−3の製造例]
二価フェノール成分として、BisAFの量を0gに変更して、さらに、TMBPAを8.40g仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−3を得た。その結果を表1に示す。
【0083】
[ポリアリレートP−4の製造例]
重縮合の添加剤として、水酸化ナトリウムの量を11.81gに、TBBACの量を4.91gに変更すること以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−4を得た。その結果を表1に示す。
【0084】
[ポリアリレートP−5の製造例]
重縮合の添加剤として、水酸化ナトリウムの量を5.43gに変更すること以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−5を得た。その結果を表1に示す。
【0085】
[ポリアリレートP−6の製造例]
重縮合の添加剤として、さらに、PTBP0.09gを、水相中に仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−6を得た。その結果を表1に示す。
【0086】
[ポリアリレートP−7の製造例]
二価フェノール成分として、BisSの量を0gに、BisAFの量を19.86gに変更して、重縮合の時間を8時間に変更すること以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−7を得た。その結果を表1に示す。
【0087】
[ポリアリレートP−8の製造例]
二価フェノール成分として、BisAFの量を5.96gに変更して、さらに、BisAを2.70g仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−8を得た。その結果を表1に示す。
【0088】
[ポリアリレートP−9の製造例]
芳香族ジカルボン酸成分として、MPCの代わりに、TPAクロライド7,19gと、IPAクロライド4.80gとを、有機相中に仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−9を得た。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
[ポリアリレートP−10の製造例]
重縮合の添加剤として、水酸化ナトリウムの量を5.43gに、TBBACの量を0.25gに変更して、さらに、PTBPを0.71g仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−10を得た。その結果を表2に示す。
【0091】
[ポリアリレートP−11の製造例]
二価フェノール成分として、BisAFの量を0gに変更して、さらに、BisAを6.74g仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−11を得た。その結果を表2に示す。
【0092】
[ポリアリレートP−12の製造例]
芳香族ジカルボン酸成分として、MPCの代わりに、TPAクロライド9.59gと、IPAクロライド2.40gとを、有機相中に仕込むこと以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−12を得た。その結果を表2に示す。
【0093】
[ポリアリレートP−13の製造例]
重縮合の添加剤として、水酸化ナトリウムの量を18.90gに、TBBACの量を9.82gに変更すること以外は、P−1と同様の方法で、ポリアリレートP−13を得た。その結果を表2に示す。
【0094】
[ポリアリレートP−14の製造例]
溶融重縮合によりポリアリレートを作製した。BisSを59.1g、BisAFを79.4g、TPAを39.3g、IPAを39.3g、無水酢酸を62.4g、オートクレーブ中に仕込み、窒素雰囲気下、常圧で、140℃で3時間、攪拌混合しながら反応をおこなった。次いで、280℃まで4時間で昇温し、1時間保持の後、さらに310℃まで1.5時間で昇温した。その後、2時間で50Paまで減圧して、この条件でさらに2時間重縮合反応を続けた。2時間後、窒素ガスで系を常圧にし、払い出すことでポリアリレートP−14を得た。その結果を表2に示す。
【0095】
[ポリエステル樹脂P−15の製造例]
テレフタル酸125g、イソフタル酸125g、エチレングリコール53g、ネオペンチルグリコール100gからなる混合物をオートクレーブ中で、240℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、触媒として酢酸亜鉛0.2gを添加し、系の温度を255℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、6時間後に系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、250℃になったところでトリメリット酸1.9gを添加し、240℃で2時間撹拌して、解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいて、240℃で、ポリエステル樹脂をストランド形状に樹脂を払い出し、水温が35℃のクエンチングバスを経由してペレタイザー(ナカタニ機械株式会社製、型式ST)でカッティングすることで、ペレット状のポリエステル樹脂P−15を得た。その結果を表2に示す。
【0096】
3.ポリアリレート樹脂水性分散体の製造、および評価
【0097】
(実施例1)
ジャケット付きガラス容器に、ポリアリレートP−1を150gとMEKを350g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化器械社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にP−1をMEKに溶解させ、固形分濃度30質量%の樹脂溶液500gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン2.64gを添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を471.2g添加して転相乳化をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、800gを1lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を留去した。蒸留は留去量が402.5gになったところで終了し、室温まで冷却後、得られた水性分散体を攪拌しながら、28質量%アンモニア水0.7gを添加した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、濾液の固形分濃度を測定すると31.0質量%であった。この濾液を攪拌しながら蒸留水を添加し固形分濃度を30質量%に調整し、ポリアリレート水性分散体E−1を得た。得られたE−1、および、E−1を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
(実施例2)
樹脂としてP−2を使用し、有機溶剤をTHFに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−2を得た。得られたE−2、および、E−2を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0100】
(実施例3)
樹脂としてP−3を使用し、有機溶剤をTHFに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−3を得た。得られたE−3、および、E−3を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0101】
(実施例4)
樹脂としてP−4を使用し、トリエチルアミンの量を3.52gに、蒸留水の量を470.4gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−4を得た。得られたE−4、および、E−4を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0102】
(実施例5)
樹脂としてP−5を使用し、トリエチルアミンの量を6.98gに、蒸留水の量を466.9gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−5を得た。得られたE−5、および、E−5を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0103】
(実施例6)
樹脂としてP−6を使用し、トリエチルアミンの量を2.60gに、蒸留水の量を471.3gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−6を得た。得られたE−6、および、E−6を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0104】
(実施例7)
樹脂としてP−7を使用し、トリエチルアミンの量を2.56gに、蒸留水の量を471.3gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−7を得た。得られたE−7、および、E−7を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0105】
(実施例8)
樹脂としてP−8を使用し、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−8を得た。得られたE−8、および、E−8を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0106】
(実施例9)
樹脂としてP−9を使用し、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−9を得た。得られたE−9、および、E−9を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0107】
(比較例1)
樹脂としてP−10を使用し、トリエチルアミンを2.02gに、蒸留水を471.8gに変更して、E−1と同様の方法で、P−10の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、転相乳化工程中に樹脂が凝集をしてしまうため、分散させることはできず、水性分散体を得ることはできなかった。
【0108】
(比較例2)
樹脂としてP−11を使用し、E−1と同様の方法で、P−11の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、P−11は、既述の有機溶剤(イ)に溶解しないため、水性分散体を得ることはできなかった。
【0109】
(比較例3)
樹脂としてP−12を使用し、E−1と同様の方法で、P−12の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、P−12は、既述の有機溶剤(イ)に溶解しないため、水性分散体を得ることはできなかった。
【0110】
(比較例4)
樹脂としてP−13を使用し、トリエチルアミンの量を6.76gに、蒸留水の量を467.1gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−11を得た。得られたE−11、および、E−11を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0111】
(比較例5)
樹脂としてP−14を使用し、樹脂を溶解するための有機溶剤をTHFに、トリエチルアミンの量を3.98gに、蒸留水の量を469.9gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリアリレート水性分散体E−11を得た。得られたE−11、および、E−11を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0112】
(比較例6)
樹脂としてP−15を使用し、トリエチルアミンの量を2.48gに、蒸留水の量を471.4gに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、ポリエステル樹脂水性分散体E−12を得た。得られたE−12、および、E−12を用いて上記の方法で得られた樹脂被膜について、各種評価をおこなった。その結果を表3に示す。
【0113】
(比較例7)
樹脂としてP−3を使用し、樹脂を溶解するための有機溶剤をイソプロピルアルコールに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、P−3の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、イソプロピルアルコールは、P−3を溶解させることができないため、水性分散体を得ることはできなかった。
【0114】
(比較例8)
樹脂としてP−3を使用し、樹脂を溶解するための有機溶剤をトルエンに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、P−3の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、転相乳化工程中に内容液が凝固してしまい、均一な水性分散体を得ることはできなかった。
【0115】
(比較例9)
樹脂としてP−3を使用し、樹脂を溶解するための有機溶剤をN−メチルピロリドンに変更すること以外は、E−1と同様の方法で、P−3の水性分散体の製造を試みた。しかしながら、脱溶剤工程でN−メチルピロリドンを留去することができずに、脱溶剤工程中に内容物が凝固してしまい、安定な水性分散体を得ることはできなかった。
【0116】
実施例において、本発明の水性分散体は、透明性、耐熱性に非常に優れたポリアリレートの安定な水性分散体であり、水性分散体から得られる樹脂被膜は、造膜性、密着性、さらには、透明性、耐熱性に優れていることがわかる。
【0117】
比較例1は、ポリアリレートの酸価が2mgKOH/g未満であるため、転相乳化工程中に樹脂が凝集してしまい、水性分散体を得ることができなかった。
【0118】
比較例2は、ポリアリレートの二価フェノール成分のうち、BisAF含有量が20モル%未満であり、比較例3は、ポリアリレートの芳香族ジカルボン酸成分が、TPA/IPA=60/40〜40/60(モル比)の範囲外であるために、有機溶剤(イ)に溶解させることができないため、水性分散体を得ることができなかった。
【0119】
比較例4は、ポリアリレートの重量平均分子量が、5,000未満であるため、良好な樹脂被膜が得られなかった。なお、良好な樹脂被膜が得られなかったため、透明性、耐熱保持力の評価はおこなわなかった。
【0120】
比較例5は、ポリアリレートを熔融重縮合法で製造したため、得られた樹脂被膜は、実施例と比較して透明性が劣っていた。また、製造時に使用した酢酸が樹脂中に残存しており、水性分散体を製造時に、ポリアリレートの一部が沈澱してしまい、非効率的であった。
【0121】
比較例6は、樹脂の構成成分が、芳香族ジカルボン酸と二価フェノールからなるものではないため、得られた樹脂被膜は、実施例と比較して、透明性、および、耐熱性が劣るものであった。
【0122】
比較例7は、イソプロピルアルコールが、有機溶剤(イ)の条件のうち、温度を40℃以下に保った状態で、該ポリアリレートを少なくとも10質量%以上溶解することができないため、水性分散体を得ることができなかった。
【0123】
比較例8は、トルエンが、有機溶剤(イ)の条件のうち、水に対する溶解性が5g/L(20℃)以上でないため、均一な水性分散体を得ることができなかった。
【0124】
比較例9は、N−メチルピロリドンが、有機溶剤(イ)の条件のうち、沸点が150℃以下でないため、安定な水性分散体を得ることができなかった。





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分から構成され、酸価が2mgKOH/g以上であるポリアリレート樹脂が、水性媒体中に分散されてなることを特徴とするポリアリレート樹脂水性分散体。
【請求項2】
芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸(TPA)とイソフタル酸(IPA)からなり、TPA/IPA=60/40〜40/60(モル比)の範囲であるポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする請求項1に記載のポリアリレート樹脂水性分散体。
【請求項3】
ポリアリレート樹脂は、下記の一般式(I)で示される二価フェノール成分を含有してなり、少なくとも(I)を20モル%以上含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のポリアリレート樹脂水性分散体。
【化1】

[式中のR、および、Rは、各々独立して、水素原子、炭素原子数1〜5の炭化水素基、および、ハロゲン原子から選ばれるものであり、m、および、nは、各々独立して、0〜4の整数をとる。また、式中のX、および、Xは、水素原子、または、炭素原子数1〜20の直鎖状、枝分かれ状、芳香族や脂環族を含む環状の、少なくとも一つからなる炭化水素基、または、トリハロメタン基、または、炭素原子数が1〜20であるアルキルエステル基、または、フェニルエステル基から選ばれるものである。]
【請求項4】
二価フェノール成分として、4,4´−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール(BisAF)を20モル%以上含有するポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリアリレート樹脂水性分散体。
【請求項5】
界面重縮合法で重合され、平均重量分子量が5,000以上であるポリアリレート樹脂を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリレート樹脂水性分散体。
【請求項6】
ポリアリレート樹脂、塩基性化合物、有機溶剤、水を含有してなり、ポリアリレート樹脂を有機溶剤で溶解した後、塩基性化合物を加え、さらに、水を徐々に加えて、転相乳化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項7】
温度を40℃以下に保った状態で、ポリアリレート樹脂を少なくとも10質量%以上溶解することができ、かつ沸点が150℃以下、水に対する溶解性が5g/L(20℃)以上である有機溶剤を用いることを特徴とする請求項6に記載のポリアリレート樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5に記載のポリアリレート樹脂水性分散体から得られる樹脂被膜。





【公開番号】特開2010−18770(P2010−18770A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248080(P2008−248080)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】