説明

ポリイミド樹脂組成物

【課題】 電子部品の実装において、高接着力、その経時安定性、高い機械強度、半田リフローに耐えられる高耐熱性を有した接合材料を提供する。
【解決手段】 特定構造の繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子、溶媒からなるポリイミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドと導電性粒子と溶媒とを含む樹脂組成物に関する。本発明は微細な多数の高密度回路を一括接続でき、ガラス基板上に形成された回路と駆動用ドライバチップのアウトリードとを電気的に接続できる接合材料を与える樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の実装において、素子等を配線基板上に接合する目的に用いられる実装材料としては、熱硬化性のエポキシ樹脂組成物が用いられてきている。
【0003】
現在の電子機器は、携帯性および外観を向上させるために、薄型化・軽量化が進んでいる。それに応じて、使用される回路がより微細化され、接合材料に対しても高い接合信頼性を得るため高接着力、その経時安定性、高い機械強度、半田リフローに耐えられる高耐熱性が求められる。
【0004】
従来電子部品の実装において、素子等を配線基板上に接合する目的に用いられる実装材料としては、熱硬化性のエポキシ樹脂組成物が用いられてきている(例えば特許文献1)。熱硬化性のエポキシ樹脂は高い接着強度とその経時安定性が得られるものの、繰り返し折り曲げた時の割れが生じるなど機械強度面において改善を求められており、また、耐熱性の面において更なる改善を求められている。
【0005】
一方ポリイミド樹脂は耐熱性に優れ、機械強度に優れる樹脂として知られている。一般的にポリイミド樹脂は芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン類から合成した芳香族ポリアミド酸からなる分散液を支持基板上に塗布あるいは流延してフィルム状に成形した後、溶媒を除去するとともに、熱イミド化してポリイミドフィルムを得る。
ポリイミドを構成するモノマーに脂肪族系のものを用いることにより、脂肪族系モノマーを用いたポリイミドは溶媒可溶性という特徴を発現し、テトラカルボン酸二無水物とジアミンからポリイミドを溶液中で重合できることが報告されている(特許文献2)。また脂肪族性を有したテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから合成したポリイミド樹脂に導電フィラーを混合した導電性接着フィルムが報告されている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−299025号公報
【特許文献2】特開2005−15629号公報
【特許文献3】特開平6−145639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来電子部品の実装において、素子等を配線基板上に接合する目的に用いられてきた実装材料の問題点を解決し、高接着力、その経時安定性、高い機械強度、半田リフローに耐えられる高耐熱性を有した接合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子および溶媒からなるポリイミド樹脂組成物を用いると接着力に優れ、機械強度に優れ、高耐熱性を有する接合部剤を与えるポリイミド樹脂組成物が得られることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子および溶媒からなるポリイミド樹脂組成物である。また一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子および溶媒からなるポリイミド樹脂組成物を支持体上に膜状に押し出しまたは塗布または流延し膜状混合物を得て、次いで膜状混合物より溶媒を除去することを特徴とするポリイミド樹脂複合物フィルムの製造方法およびポリイミド樹脂複合物フィルムである。
【0010】
【化1】

(式中、Rは炭素数4〜39の4価の脂肪族、脂環族基であり、Φは合計の炭素数が2〜39の2価の脂肪族、脂環族、芳香族またはこれらの組み合わせからなる基であって、結合基として−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−OSi(CH−、−CO−および−S−からなる群から選ばれた少なくとも1を有していても良いものである。)
【0011】
本発明のポリイミド樹脂組成物をフィルム状に成形することにより導電膜を得ることができる。特に導電粒子を膜の厚み方向に配向させた場合、膜の厚み方向の抵抗が小さく、膜の面方向の絶縁性が高い、という二つの特性を兼ね備えた異方導電膜性を有することができる。本発明は、このような異方導電膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられる一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミドは、4価の脂肪族テトラカルボン酸と2価のジアミンとを構成成分とするポリイミドであり、脂肪族テトラカルボン酸またはその誘導体とジアミンまたはその誘導体とを反応させることにより得られる。脂肪族テトラカルボン酸またはその誘導体としては、脂肪族テトラカルボン酸、脂肪族テトラカルボン酸エステル類、脂肪族テトラカルボン酸二無水物などが挙げられるが、好ましいのは脂肪族テトラカルボン酸二無水物である。ジアミンおよびその誘導体としては、ジアミン、ジイソシアネート、ジアミノジシラン類などが上げられるが、好ましいのはジアミンである。
【0013】
本発明のポリイミドの合成に用いられる脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物などが例示されるが、特に好ましいのは1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。一般に、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドは、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な錯体を形成するために高分子化しにくいので、錯体の溶解性が比較的高い溶媒−例えばクレゾール−を用いるなどの工夫が必要になる。しかし、1,2,4,5−シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物と脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドでは、ポリアミド酸とジアミンの錯体は比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が容易で、フレキシブルなフィルムが得られ易い。
【0014】
本発明のポリイミド合成に用いられるジアミンは、芳香族ジアミンであっても脂肪族ジアミンであってもよく、それらの混合物でもよい。
【0015】
本発明のポリイミド合成に用いられる芳香族ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、などが挙げられる。
さらに、本発明のポリイミド合成に用いられる脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類などが挙げられる。
【0016】
本発明で用いるポリイミドは、上記の一般式Iで示される繰り返し単位を有する。一般式Iで示される繰り返し単位の含有量は、全繰り返し単位の10〜100モル%、好ましくは50〜100モル%であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。また、ポリイミド1分子中の一般式Iで示される繰り返し単位の個数は、10〜2000であるのが好ましく、20〜200であるのがより好ましい。
【0017】
ポリイミド樹脂組成物を構成するポリイミドのガラス転移温度は、主に選択するジアミンにより決定されるが、概ね350℃以下である。ガラス転移温度以上の温度で接着性が発現する。ガラス転移温度が高すぎると熱圧着温度が高くなりすぎるので不適当であり、ガラス転移温度が低すぎるとポリイミド層の耐熱性が不足し、好ましくない。ガラス転移温度の範囲は200〜350℃が好ましい。
【0018】
本発明に用いられるポリイミド樹脂を製造するに当たっては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、P−クロルフェノール、m−クレゾール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエンなどの溶媒が用いられる。
【0019】
本発明に用いられるポリイミド溶液は下記の(1)から(3)の方法で得ることができる。
(1)ジアミンの溶液に酸二無水物を添加、あるいは酸二無水物の溶液にジアミンを添加し、好ましくは80℃以下、特に室温付近ないしそれ以下の温度に保って得たポリアミド酸溶液にトルエンあるいはキシレンなどの共沸脱水溶剤を添加して、生成水を共沸により系外へ除きつつ脱水反応を行い、ポリイミド溶液を得る。
(2)ポリアミド酸溶液に無水酢酸などの脱水剤を用いてイミド化させた後、メタノールなどのポリイミドの溶解性が乏しい溶剤を添加して、ポリイミドを沈殿させ、ろ過・洗浄・乾燥により固体として分離し、N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶剤に溶解させたポリイミド溶液を得る。イミド化に際しては、触媒としてトリエチルアミン、ピリジン、β―ピコリン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、イミダゾール、キノリン、イソキノリンなどの3級アミンを併用することが出来る。
(3)クレゾールなどの高沸点溶剤を用いてポリアミド酸溶液を調整し、そのまま150℃以上に保ってポリイミド化させた後、メタノールなどのポリイミドの溶解性が乏しい溶剤を添加して、ポリイミドを沈殿させ、ろ過・洗浄・乾燥により固体として分離し、N,N−ジメチルアセトアミドなどの溶剤に溶解させたポリイミド溶液を得る。
【0020】
また、本発明のポリイミド樹脂組成物中のポリイミドの濃度は、5〜70重量%、好ましくは10〜50重量%であり、特に10〜40重量%がより好ましい。5重量%未満であるとフィルムにした場合に厚さが不均一になり易く好ましくない。また、70重量%を超えると粘度が著しく大きくなり、取り扱いが困難となり好ましくない。
【0021】
本発明に用いられる導電性粒子はニッケル、銀、銅、銅合金、炭素、金属付き樹脂粒子を用いることができる。これらの中から一種類あるいは複数種類を使用しても良いが、中でもニッケル、金属付き樹脂粒子が好ましい。導電性粒子の粒径は2〜20μmのものを用いることができる。回路の細線化に伴い、粒径が微小化する一方で、樹脂への分散性も合わせて確保するのに好ましい粒径の導電性粒子を使用することができる。また回路のより細線化に対応するため、より微細ないわゆるナノ粒子を使用することもでき、具体的には導電性粒子を形成する金属粒子として、粒径10〜500nm程度の粒子を使用することもできる。
【0022】
ニッケル、銀、銅、銅合金などの金属粒子表面には、凸凹を設けることができる。金属粒子表面に設けた凸凹が接続面に食い込むことにより、強固に接続できるので信頼性が高まる。
ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂などの表面に、ニッケル、金などの導電性の金属薄層を電解めっき、無電解めっきなどにより形成した金属付き樹脂粒子を導電性粒子として使用することができる。金属付き樹脂粒子はポリイミド樹脂と比重が近いので、ポリイミド樹脂中により均一に分散することができる。
【0023】
また、本発明に用いられる導電性粒子としてカーボンナノチューブを用いることができる。カーボンナノチューブには一般的なカーボンナノチューブに加えて、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維も含む。
カーボンナノチューブは直径が0.3〜100nmで長さが0.1〜20μm、好ましくは長さが0.1〜10μmであるものが好ましく用いられる。これらのカーボンナノチューブは、凝集することなく1本ずつ或は1束ずつ分散することで該カーボンナノチューブが光透過を阻害することが少なくなり、光線透過率が50%以上の透明なポリイミド樹脂組成物を得るうえで特に好ましいのである。
ここで、凝集していないとは、樹脂組成物を光学顕微鏡で観察し、凝集している塊があれば、その長径と短径とを測定し、その平均値が30μm以上の塊がないことを意味している。
また、樹脂組成物の光線透過率は、測定に分光光度計を用い、550nmにおける光線透過率を測定することにより得ることができる。
上記カーボンナノチューブには、中心軸線の周りに直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブや、中心軸線の周りに単独の円筒状に閉じたカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブがある。
【0024】
前者の多層カーボンナノチューブは、上記のように直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁からなるチューブが中心軸線の周りに多層になって構成されており、カーボン壁は、カーボンの六角網目構造にて形成されている。その他、上記カーボン壁が渦巻き状に多層に形成されているものもある。好ましい多層カーボンナノチューブは、このカーボン壁が2〜30層重なったものであり、そのような多層カーボンナノチューブを上記の如き分散状態で分散させると、光線透過率を良好にすることができる。より好ましくはカーボン壁が2〜15層重なったものが用いられる。該多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散しているものが殆どであるが、2〜3層カーボンナノチューブは、束になって分散している場合もある。
【0025】
一方、後者の単層カーボンナノチューブは、上記のように中心軸線の周りに円筒状に閉じた単独のカーボン壁から構成されており、カーボン壁はカーボンの六角網目構造にて形成されている。このような単層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態では分散されにくく、2本以上集まって束になり、それが1束ずつ分離して、束同士が複雑に絡み合うことなく凝集せずに、単純に交差した状態で導電層の内部若しくは表面に分散され、それぞれの交点で接触している。好ましくは、10〜50本の単層カーボンナノチューブが集まって束になったものが用いられる。
【0026】
本発明のポリイミド樹脂組成物で用いられる導電性粒子の含有率は3〜70重量%とすることができる。よりこのましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。導電性粒子の含有率が3重量%より少ないと十分な導電性が得られないので好ましくない。導電性粒子の含有率が70重量%より多いと均一に分散することが困難になり好ましくない。
【0027】
本発明のポリイミド樹脂組成物は通常、ポリイミドと溶媒からなるポリイミド溶液に導電性粒子を配合して得る。配合は、ポリイミドの合成中、あるいは合成終了後、さらには合成終了後希釈溶媒にて希釈した後のいずれかで行っても良いが、通常、合成終了後希釈溶媒にて希釈した後に行う。
導電性粒子の攪拌分散は適切な攪拌能力を有する攪拌機を付設した攪拌槽にて実施してもよく、ボールミルなどの混合を目的とした装置、または、公転・自転型の混合装置を用いても行うことができる。
【0028】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、その他の成分を含むことができる。たとえば二酸化チタンなど白色に着色することを目的とした添加剤を混合することによって白色光の反射率が向上したり、ナノフィラーなどを添加することによって、ポリイミド樹脂組成物成形体の見かけのガラス転移温度が上昇し耐熱性が高まり、さらに引張弾性率が大きくなり機械的強度が増大する。
【0029】
本発明において一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子、溶媒からなるポリイミド樹脂組成物を、通常、剥離性を有した支持体上に膜状に押し出しまたは塗布または流延し膜状混合物を得て、次いで膜状混合物より溶媒を除去し、支持体から剥離することによりポリイミド樹脂複合物フィルムを製造することができる。
【0030】
この成膜工程において導電性粒子が流動性を有する状態において膜の厚み方向の磁場を加えると、導電性粒子を膜の厚み方向に配向させることができ、導電性粒子を配向させた状態で溶媒を除去することで異方導電膜を得ることができる。
【0031】
上記溶媒の蒸発除去は、通常、温度100〜350℃にて、適宜、不活性雰囲気或いは減圧の条件下に溶媒を蒸発させることにより製造する。上記ポリイミド樹脂複合物フィルムの厚さは3〜100μmを通常選択する。
【0032】
このようにして得られた異方導電膜は微細な多数の高密度回路を一括接続でき、ガラス基板上に形成された回路と駆動用ドライバチップのアウトリードとを電気的に接続できる。
【0033】
本発明のポリイミド樹脂組成物は導電性ワニスとして使用することができる。また本発明のポリイミド樹脂組成物をフィルム状に成形し、溶媒を除去したポリイミド樹脂複合物フィルムは回路の接続や、ガラス基板上に形成された回路と駆動用ドライバチップのアウトリードとを電気的に接続できる接合材料として使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0035】
実施例および比較例で得られたポリイミドフィルム、樹脂組成物フィルム、片面フレキシブル銅張り積層板、および両面フレキシブル銅張り積層板の評価は以下のように行った。また使用した導電性粒子の粒径測定は以下のように行った。
(1)ガラス転移温度
島津製作所製の示差走査熱量計装置(DSC−50)を用い、昇温速度10℃/minの条件でDSC測定を行い、ガラス転移温度を求めた。
(2)接着強度
JIS C 6471に準拠して回転式冶具を用いて90°剥離強度を測定した。
(3)熱分解開始温度
島津製作所製熱重量分析装置(DTG−50)を用い、窒素気流下、室温から昇温速度10℃/minの条件でDTG測定を行い、1%重量減少する温度を求めた。
【0036】
(4)粒径
株式会社堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を使用して、水を分散媒とし、透過率が定常になるまで超音波照射して測定を実施した。体積基準で累積50%に相当する粒子径をメジアン径とした。
【0037】
合成例1
1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の合成。
内容積5リットルのハステロイ製(HC22)オートクレーブにピロメリット酸552g、活性炭にロジウムを担持させた触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社(N.E. Chemcat Corporation)製)200g、水1656gを仕込み、攪拌をしながら反応器内を窒素ガスで置換した。次に水素ガスで反応器内を置換し、反応器の水素圧を5.0MPaとして60℃まで昇温した。水素圧を5.0MPaに保ちながら2時間反応させた。反応器内の水素ガスを窒素ガスで置換し、反応液をオートクレーブより抜き出し、この反応液を熱時濾過して触媒を分離した。濾過液をロータリーエバポレーターで減圧下に水を蒸発させて濃縮し、結晶を析出させた。析出した結晶を室温で固液分離し、乾燥して1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸481g(収率85.0%)を得た。
【0038】
続いて、得られた1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸450gと無水酢酸4000gとを、5リットルのガラス製セパラブルフラスコ(ジムロート冷却管付)に仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶媒の還流温度まで昇温し、10分間溶媒を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して一次結晶を得た。更に分離母液をロータリーエバポレーターで減圧下に濃縮し、結晶を析出させた。この結晶を固液分離し、乾燥して二次結晶を得た。一次結晶、二次結晶を合わせて1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物375gが得られた(無水化の収率96.6%)。
【0039】
合成例2
温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えた500mL5つ口フラスコに、窒素気流下、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシフェニル)フェニル〕プロパン(BAPP)20.53g(0.05モル)と、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン85gを仕込んで溶解させた後、合成例1で合成した1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。次に共沸脱水溶媒としてキシレン30.0gを添加して180℃に昇温して3時間反応を行い、ディーンスタークでキシレンを還流させて、共沸してくる生成水を分離した。
【0040】
3時間後、水の留出が終わったことを確認し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを留去し29.0gを回収した後、内温が60℃になるまで空冷してポリイミド溶液を取り出した。得られたポリイミド溶液をガラス板に塗布し、90℃のホットプレート上で1時間加熱して溶媒を蒸発させた後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して真空乾燥器中200℃で5時間加熱して溶媒をさらに蒸発させ、フレキシブルな膜厚100μmのフィルムを得た。このフィルムのIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1772、1700(cm−1)にイミド環の特性吸収が認められた。このポリイミドのガラス転移温度は263℃であった。
【0041】
実施例1
200mlのポリエチレン製容器に合成例2で合成したポリイミド溶液55g(固形分10g)とメジアン径10μmのニッケル粉末5g(メルク製)とN−メチルピロリドン30gを加え株式会社シンキー製自転・公転方式ミキサーARE−250に固定し20秒間混合分散しポリイミド樹脂組成物を得た。
【0042】
続いて厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)上に、得られたポリイミド樹脂組成物を塗布し、100℃のホットプレート上で1時間加熱して溶媒を蒸発させた後、ステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶媒をさらに蒸発させ、片面フレキシブル銅張り積層体を得た(樹脂組成物層25μm)。片面フレキシブル銅張り積層体の熱分解開始温度を測定したところ、1%重量減少する温度が470℃であった。
【0043】
また得られた片面フレキシブル銅張り積層体の樹脂組成物層面に、別にもう1枚用意した同仕様の厚さ18μmの電解銅箔を重ね、二枚の金型に挟み330℃に設定した熱プレス(小平製作所)を使用して圧力1MPaで減圧にした状態で30分熱圧着した後、金型ごと取り出して冷却プレスにて5分間冷却した後取り出し、両面フレキシブル銅張り積層体を得た。両面フレキシブル銅張り積層体の接着強度は1.1N/mmであった。
【0044】
実施例2
実施例1で得たポリイミド樹脂組成物を、バーコーターを用いてガラス板に塗布し、100℃のホットプレート上で1時間加熱して溶媒を蒸発させた後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して真空乾燥器中200℃で5時間加熱して溶媒をさらに蒸発させ、フレキシブルな膜厚25μmのポリイミド樹脂複合物フィルムを得た。
【0045】
続いて2枚の厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)で、得られたポリイミド樹脂複合物フィルムを挟みこむようにして重ね、二枚の金型に挟み330℃に設定した熱プレス(小平製作所)を使用して圧力1MPaで減圧にした状態で30分熱圧着した後、金型ごと取り出して冷却プレスにて5分間冷却した後取り出し、両面フレキシブル銅張り積層体を得た。両面フレキシブル銅張り積層体の接着強度は1.1N/mmであった。
【0046】
比較例1
厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)上に、2液型導電性エポキシ接着剤Circuit Works CW2400(Chemtronics社製)を塗布して25μmの厚さとし、100℃のホットプレート上で1時間加熱して片面フレキシブル銅張り積層体を得た。片面フレキシブル銅張り積層体の熱分解開始温度を測定したところ、1%重量減少する温度が204℃であった。
厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)上に2液型導電性エポキシ接着剤Circuit Works CW2400(Chemtronics社製)を塗布して25μmの厚さとし、さらに導電性エポキシ接着剤の上に厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)を重ね、二枚の金型に挟み120℃に設定した熱プレス(小平製作所)を使用して圧力1MPaで減圧にした状態で30分熱圧着した後取り出し、両面フレキシブル銅張り積層体を得た。両面フレキシブル銅張り積層体の接着強度は8.0N/mmであった。
【0047】
実施例3
200mlのポリエチレン製容器に参考例2で合成したポリイミドの有機溶媒溶液55g(固形分10g)に単層カーボンナノチューブ(カーボンナノテクノロジーズ社製、直径0.7〜2nm)3gと分散剤としての酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液(ポリマー含有量1.5g)とN−メチルピロリドン30gを加え株式会社シンキー製自転・公転方式ミキサーARE−250に固定し20秒間混合分散した。
続いて厚さ18μmの電解銅箔(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining & Smelting Co. Ltd.)製3EC−VLP)上に、得られた樹脂組成物を塗布し、100℃のホットプレート上で1時間加熱して溶媒を蒸発させた後、ステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶媒をさらに蒸発させ、片面フレキシブル銅張り積層体を得た(樹脂組成物層25μm)。片面フレキシブル銅張り積層体の熱分解開始温度を測定したところ、1%重量減少する温度が470℃であった。
また得られた片面フレキシブル銅張り積層体の樹脂組成物層面に、別にもう1枚用意した同仕様の厚さ18μmの電解銅箔を重ね、二枚の金型に挟み330℃に設定した熱プレス(小平製作所)を使用して圧力1MPaで減圧にした状態で30分熱圧着した後、金型ごと取り出して冷却プレスにて5分間冷却した後取り出し、両面フレキシブル銅張り積層体を得た。両面フレキシブル銅張り積層体の接着強度は1.0N/mmであった。
また得られた片面フレキシブル銅張り積層体の電解銅箔をエッチングにより除去して樹脂フィルムを得た。この樹脂フィルムの550nm波長の光線透過率は85.2%であった。さらに、この樹脂フィルムには30μm以上のカーボンナノチューブの凝集塊は存在していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミド、導電性粒子および溶媒からなるポリイミド樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数4〜39の4価の脂肪族、脂環族基であり、Φは合計の炭素数が2〜39の2価の脂肪族、脂環族、芳香族またはこれらの組み合わせからなる基であって、結合基として−O−、−SO−、−CO−、−CH−、−C(CH−、−OSi(CH−、−CO−および−S−からなる群から選ばれた少なくとも1を有していても良いものである。)
【請求項2】
前記導電性粒子がニッケル、銀、銅、銅合金、炭素および金属付き樹脂粒子より選ばれる1種以上である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記導電性粒子がカーボンナノチューブである請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、P−クロルフェノール、m−クレゾール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエンおよび1,3−ジオキソランより選ばれる1種以上である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記一般式I中のRがシクロヘキサンから誘導される4価の基である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記導電性粒子の含有率が3〜70重量%である請求項1記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1記載のポリイミド樹脂組成物を支持体上に膜状に押し出しまたは塗布または流延し膜状混合物を得て、次いで膜状混合物より溶媒を除去し、支持体から剥離することを特徴とするポリイミド樹脂複合物フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1記載のポリイミド樹脂組成物を支持体上に膜状に押し出しまたは塗布または流延し膜状混合物を得て、次いで膜状混合物より溶媒を除去し、支持体から剥離することにより得られるポリイミド樹脂複合物フィルム。

【公開番号】特開2008−239959(P2008−239959A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33514(P2008−33514)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】