説明

ポリイミド系多層フィルムの製造方法、およびポリイミド系多層フィルムの製造装置

【課題】 多層構造のゲルフィルム(多層ゲルフィルム)を作製し、これを加熱処理してポリイミド系多層フィルムを製造するにあたり、各ポリイミド層の間の密着性も優れたものとするだけでなく、生産性の向上を図る。
【解決手段】
ポリイミドまたはその前駆体のポリアミド酸を含有するポリイミド系ワニスを、複数種類、支持体上に積層して多層液膜を形成し、これを乾燥して多層ゲルフィルムを得るときに、少なくとも1種のワニスには、予め脱水剤および触媒を添加しておくとともに、上記多層液膜の層間が剥離する前、好ましくは2分以内に乾燥を開始する。上記ワニスは予め常温以下に冷却しておくことがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有しており、各ポリイミド層の密着性が良好なポリイミド系多層フィルムの製造方法と、この製造方法に好適に用いることのできるポリイミド系多層フィルムの製造装置とに関するものであり、例えば、耐熱性ポリイミドを含有するフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドを含有する接着層が設けられた構造を含む接着フィルム等といった多層フィルムの製造に好適に用いることができる製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びている。これらのプリント基板の中でも、フレキシブル配線板の需要が特に伸びている。フレキシブル配線板はフレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する。フレキシブル配線板は、絶縁性フィルム上に金属層からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル配線板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼り合わせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられており、上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている。このような熱硬化性接着剤を用いたフレキシブル配線板は、基板/接着材料/金属箔の三層構造を有しているので、以下、説明の便宜上、「三層FPC」と称する。
【0004】
上記三層FPCに用いられる熱硬化性接着剤は、比較的低温での接着が可能であるという利点があるが、相対的に耐熱性が低く電気特性に劣る。そのため、今後、フレキシブル配線板に対して耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった各種特性に対する要求が厳しくなることが想定されているが、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは、このような要求に十分対応することが困難になると考えられている。
【0005】
これに対して、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたフレキシブル配線板や、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したフレキシブル配線板が提案されている。これらフレキシブル配線板は絶縁性の基板に直接金属層を形成している状態にあるため、以下、説明の便宜上、「二層FPC」と称する。この二層FPCは、特に基板(基材)の主成分として、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性等に優れるポリイミド系の樹脂を用いるため、三層FPCより優れた特性を有する。それゆえ、上記各種特性に対する要求にも十分対応可能であるため産業上有用であり、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0006】
上記二層FPCは、基板に金属箔を積層した構造を有するフレキシブル金属張積層板を用いて製造される。このフレキシブル金属張積層板の製造方法としては、キャスト法、メタライジング法、ラミネート法等が挙げられる。キャスト法は、金属箔上に、ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸の有機溶媒溶液(便宜上、「ポリイミド系ワニス」と称する)を流延、塗布した後イミド化する方法である。メタライジング法は、スパッタ、メッキによりポリイミドフィルム上に直接金属層を設ける方法である。ラミネート法は、熱可塑性ポリイミド層を介してポリイミドフィルムと金属箔とを貼り合わせる方法である。
【0007】
これらのうち、ラミネート法は、対応できる金属箔の厚み範囲がキャスト法よりも広く、装置に要するコストがメタライジング法よりも低いという点で優れている。ラミネート法を行う装置としては、ロール状の材料を繰り出しながら連続的にラミネートする熱ロールラミネート装置またはダブルベルトプレス装置等が用いられている。
【0008】
上記ラミネート法により製造されるフレキシブル金属張積層板においては、基板として、耐熱性ポリイミドを主成分とするポリイミドフィルム(耐熱性ポリイミド層)の少なくとも一方の表面に熱可塑性ポリイミドを含む樹脂組成物の層(熱可塑性ポリイミド層)を設けてなる接着フィルムが広く用いられている。この接着フィルムにおいては、耐熱性ポリイミド層が絶縁性フィルムとなり、熱可塑性ポリイミド層が接着層となる。この接着フィルムは、言い換えれば、多層構造のポリイミド系フィルム(ポリイミド系多層フィルム)ということができる。
【0009】
上記ポリイミド系多層フィルムの製造方法としては、代表的なものとして塗工法、熱ラミネート法、流延成膜法等が挙げられる。塗工法は、耐熱性ポリイミド層となるポリイミドフィルムの片面または両面に、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体を含有する樹脂組成物の溶液を塗工し乾燥させて製造する方法である。また、熱ラミネート法は、耐熱性ポリイミド層となるポリイミドフィルムの片面または両面に、熱可塑性ポリイミドを主成分とするポリイミドフィルムを加熱して貼り合わせ加工し製造する方法である。
【0010】
上記流延製膜法としては、逐次法(逐次コーティング法)と共押出法(共押出流延製膜法)とが挙げられる。逐次法は、耐熱性ポリイミドまたはその前駆体を含有する樹脂組成物の溶液(便宜上、「耐熱性ポリイミド系ワニス」と称する)と、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体を含有する樹脂組成物の溶液(便宜上、「熱可塑性ポリイミド系ワニス」と称する)とを、支持体上に順次コーティングして行く方法である。共押出法は、支持体上に、耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスの双方を同時に共押出ダイを用いて押し出し成膜する方法である(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0011】
上記ポリイミド系多層フィルムの製造方法では、一般的には、ポリイミド系ワニスをゲルフィルム化してからイミド化するという過程を経る。このゲルフィルムは、ポリイミド系ワニスからなる液膜を、加熱乾燥や一部イミド化等の処理により自己指示性を有する程度のゲル状態にしたものである。
【0012】
例えば、上記塗工法では、まず、耐熱性ポリイミド系ワニスに脱水剤、触媒等を添加して反応させ、完全にイミド化されていないゲルフィルムを得る。このゲルフィルムの少なくとも一方の表面に、熱可塑性ポリイミド系ワニスを塗布してから乾燥し、加熱する。これにより、中心層となる耐熱性ポリイミド層の表面に熱可塑性ポリイミド層が形成されたポリイミド系多層フィルムが得られる(例えば、特許文献3・4参照)。
【0013】
また、上記流延成膜法では、まず、金属ベルトや金属ロール等の支持体上に、耐熱性ポリイミド系ワニスや熱可塑性ポリイミドワニスからなる液膜を形成させる。そして、これら液膜を加熱乾燥させることにより、当該液膜を、自己支持性を有するゲルフィルムとする。このゲルフィルムは逐次法でも共押出法でも多層構造となっている。その後、多層構造のゲルフィルム(多層ゲルフィルム)を支持体上から引き剥がし、さらにこれを高温で加熱処理することによりイミド化する。これにより、ポリイミド系多層フィルムを得ることができる。
【0014】
ここで、上記各製造方法の中でも、共押出法は、一度に多層構造の液膜(多層液膜)を形成できる等、必要となる工程数が少なくて済むことから、他の方法と比較して生産性および製品歩留まりが高いという利点がある。また、塗工法では、得られるポリイミド系多層フィルムにおいて、各ポリイミド層の間を強固に密着させることが困難となり、十分な接着強度を有する接着フィルムを得ることができない場合が多いことが知られている。それゆえ、ポリイミド系多層フィルムを製造する場合には、流延成膜法、中でも共押出法(共押出流延成膜法)を採用することが好ましい。
【特許文献1】第2946416号公報(平成11年(1999)7月2日登録、公開番号:特開平11−99554、公開日:平成11年(1999)4月13日)
【特許文献2】特開平7−214637号公報(平成7年(1995)8月15日公開)
【特許文献3】特開平8−244168号公報(平成8年(1996)9月24日公開)
【特許文献4】特開2001−139807号公報(平成13年(2001)5月22日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、ポリイミド系多層フィルムの製造方法として、上記共押出流延成膜法を採用した場合、実用上で解決すべき問題点が残っている。
【0016】
具体的には、共押出法により多層ゲルフィルムを得ようとする場合、耐熱性ポリイミド系ワニスや熱可塑性ポリイミドワニスを、そのまま積層して液膜とし、これを乾燥させることになる。ところが、この場合、液膜の厚みが大きいために、ゲル化するまでの時間が長くなったり、イミド化処理の時間が長くなったりするという問題や、多層ゲルフィルムが支持体の表面に強固に付着してしまい、ゲルフィルムの引き剥がしが困難になるという問題等を生じる。これらの問題は、ポリイミド系多層フィルムの生産性や製品歩留まりを低下させることになる。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、多層構造のゲルフィルム(多層ゲルフィルム)を作製し、これを加熱処理してポリイミド系多層フィルムを製造するにあたり、各ポリイミド層の間の密着性も優れたものとするだけでなく、生産性の向上を図ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリイミド系ワニスに脱水剤および触媒を添加してゲル化する(化学イミド法を採用する)ことにより、多層液膜のゲル化速度を速くすることができるとともに、支持体からのゲルフィルムの引き剥がし性を良好なものとすることができ、生産性や製品歩留まりを向上させることが可能であることを独自に見出した。
【0019】
ところが、化学イミド法を採用した場合、得られる多層ゲルフィルムにおいて、各ゲルフィルムの間の密着性が低下し、ゲルフィルムが相互に剥離することも明らかとなった。これは、多層液膜がゲル化反応を起こす際に、反応により生じる水、溶媒、脱水剤、触媒等が系外(液膜の外)に排出されるため、これらが各ゲルフィルムの間に蓄積するためであることが判明した。
【0020】
そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、多層液膜を形成してから、液膜相互に剥離が発生する前にゲル化を完了することにより、層間の密着性が高い多層ゲルフィルムを得ることができることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
すなわち、本発明にかかるポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有するポリイミド系多層フィルムの製造方法であって、ポリイミドまたはその前駆体を含有する有機溶媒溶液を、複数種類、支持体上に積層して多層液膜を形成する多層液膜形成工程と、上記多層液膜を乾燥してゲル化することにより、自己支持性を有する多層ゲルフィルムを得るゲルフィルム形成工程とを含んでおり、さらに、上記多層液膜形成工程で用いる上記有機溶媒溶液の少なくとも1種には、予め脱水剤および触媒が添加されているとともに、上記ゲルフィルム形成工程では、上記多層液膜の層間が剥離する前に、当該多層液膜の乾燥を開始することを特徴としている。
【0022】
上記多層液膜形成工程では、複数種類の有機溶媒溶液を支持体上に同時に押し出して流延する共押出流延製膜法により多層液膜を形成することが好ましい。
【0023】
上記ゲルフィルム形成工程では、支持体上に多層液膜を形成した時点を起点として2分以内に乾燥を開始することが好ましく、支持体上に多層液膜を形成した時点を起点として30秒以内に乾燥を開始することがより好ましい。また、上記ゲルフィルム形成工程において、多層液膜を乾燥する際の温度を60〜200℃の範囲内とすることが好ましい。
【0024】
上記製造方法においては、上記複数のポリイミド層には、耐熱性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなる耐熱性ポリイミド層と、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなる熱可塑性ポリイミド層とが含まれており、上記多層液膜形成工程では、耐熱性ポリイミド層となる液膜の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリイミド層となる液膜が接触するように多層液膜を形成することが好ましい。この場合、上記耐熱性ポリイミド層となる有機溶媒溶液のみに、脱水剤および触媒を添加することが特に好ましい。
【0025】
さらに、上記製造方法においては、上記多層液膜形成工程の前に、上記有機溶媒溶液を常温未満に冷却する溶液冷却工程を含むことがより好ましい。この溶液冷却工程では、上記有機溶媒溶液を10℃以下に冷却することが好ましく、上記有機溶媒溶液の冷却温度の下限を−10℃とすることが好ましい。したがって、上記溶液冷却工程における有機溶媒溶液の冷却温度は、−10〜10℃の範囲内がより好ましい。
【0026】
本発明にかかるポリイミド系多層フィルムの製造装置は、ポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有するポリイミド系多層フィルムの製造装置であって、ポリイミドまたはその前駆体を含有する有機溶媒溶液を冷却しながら供給する溶液供給手段と、当該溶液供給手段から供給される有機溶媒溶液を液膜状に吐出する吐出手段と、当該吐出手段から吐出された有機溶媒溶液の液膜を流延させる支持体と、当該支持体上の液膜をゲル化して、自己支持性を有するゲルフィルムとするために乾燥する乾燥手段と、ゲルフィルムをイミド化するために焼成する焼成手段とを備えており、さらに、上記溶液供給手段は、複数種類の有機溶媒溶液を供給可能とするように複数設けられており、かつ、少なくとも一つの溶液供給手段は、予め脱水剤および触媒を含有する有機溶媒溶液を供給可能としており、上記吐出手段は、支持体上で、複数の液膜が積層されてなる多層液膜を形成可能とするように、上記有機溶媒溶液を吐出するとともに、上記乾燥手段は、上記多層液膜の層間が剥離する前に、当該多層液膜の乾燥を開始することを特徴としている。
【0027】
上記吐出手段は、複数種類の有機溶媒溶液の液膜を支持体上に同時に吐出可能とすることが好ましく、当該吐出手段が共押出ダイであることがより好ましい。
【0028】
上記支持体は、回転体であることが好ましく、上記支持体が、複数の回転軸により回転可能に張り渡されたベルト状支持体であることがより好ましい。
【0029】
上記乾燥手段は、支持体上の多層液膜を搬入した状態で、当該多層液膜を加熱する加熱炉であることが好ましい。このとき、上記支持体は、吐出手段により形成された多層液膜を、形成後2分以内に加熱炉に搬入することが好ましい。さらに、形成後2分以内に多層液膜を加熱炉に搬入できるように、上記吐出手段から加熱炉まで距離、および/または、上記支持体の回転速度が設定されていることが好ましい。
【0030】
上記焼成手段は、支持体上から引き剥がしたゲルフィルムを搬入した状態で、当該ゲルフィルムを焼成する焼成炉であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明では、ポリイミド系多層フィルムを製造する際に、多層液膜を形成する液膜の少なくとも一つに、脱水剤および触媒が加えられており、さらに、この多層液膜において、層間が剥離する前に乾燥処理を施している。
【0032】
本発明では、脱水剤および触媒の使用により液膜のゲル化やイミド化を円滑に進行させているが、反応により生成する水、溶媒、脱水剤および触媒が系外(液膜の外)に排出されてしまう。これらは液膜の間に排出されることになるので、各液膜の間はこれら成分により分離しやすくなる。ところが、本発明では、さらに、液膜の分離が顕著になる前(層間が剥離する前)に、迅速に乾燥処理に入る。そのため、得られる多層ゲルフィルムにおいては、層間の密着性が高くなる。
【0033】
このような多層ゲルフィルムは、支持体からの引き剥がし性に優れており、さらにこれを焼成処理すれば、得られるポリイミド系多層フィルムにおいては、各ポリイミド層の密着性をより優れたものにすることができる。その結果、層間の密着性に優れたポリイミド系多層フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の一実施形態について図1ないし図4に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。
【0035】
(I)ポリイミド系多層フィルムの製造方法
本発明は、少なくとも二種以上のポリイミド系化合物(ポリイミドを含有する樹脂組成物)からなる二層以上の多層フィルム(ポリイミド系多層フィルム)を製造する技術である。
【0036】
具体的には、本発明では、まず、上記二種以上のポリイミド系化合物の溶液(ポリイミド系ワニス)を−10以上、10℃以下に冷却する。次に、当該二種以上のポリイミド系化合物の溶液から選択される少なくとも一種以上のポリイミド系化合物の溶液に、化学脱水剤(脱水剤)および触媒を添加した後に、当該二種以上のポリイミド系化合物の溶液を積層させた多層構造の液膜(多層液膜)を基体(支持体)上に形成せしめる。次に、当該多層構造の液膜の層間が剥離する時間より前に、当該多層構造の液膜を加熱乾燥して溶媒を除去することにより、多層構造のゲルフィルム(多層ゲルフィルム)を得る。そして、これを加熱処理してイミド化を完結させる。
【0037】
本発明は、上記の過程の中でも、少なくとも、多層液膜の形成に際して、脱水剤および触媒の添加と、層間の剥離前のゲル化処理とを組み合わせることで達成され、さらに、ポリイミド系ワニスの冷却により、本発明の作用・効果をより優れたものとすることができる。特に本発明では、前記多層構造の液膜の形成方法が、共押出流延製膜法であることが好ましい。
【0038】
本発明にかかるポリイミド系多層フィルム(説明の便宜上、単に、多層フィルムと略す場合がある)の製造方法においては、当該製造方法を工程に区分するとすれば、上記ポリイミド系ワニスを調製する工程(ワニス調製工程)、脱水剤および触媒を上記ポリイミド系ワニスに添加する工程(硬化剤添加工程)、上記ポリイミド系ワニスを冷却する工程(ワニス冷却工程)、上記ポリイミド系ワニスを用いて支持体上に多層液膜を形成する工程(多層液膜形成工程)、得られた多層液膜を乾燥して多層ゲルフィルムを得る工程(ゲルフィルム形成工程)、得られた多層ゲルフィルムを焼成してイミド化を完結させる工程(焼成工程)に区分することができる。以下、上記各工程の区分に基づいて製造方法を具体的に説明する。
【0039】
<ワニス調製工程>
上記ワニス調製工程は、ポリイミド系化合物の溶液であるポリイミド系ワニスを調製する工程である。ここでポリイミド系化合物とは、ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)、さらには、これらの少なくとも何れかを含有する樹脂組成物を指すものとし、これを有機溶媒に溶解した溶液を、ポリイミド系ワニスと称する。
【0040】
一般に、ポリイミドは、各種有機溶媒に対する溶解度が低く、溶液を調製し難いことが知られている。これに対して、ポリアミド酸は、比較的に多種類の有機溶媒に溶解させることが可能である。そこで、本発明では、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を適切な有機溶媒に溶解して用いることができる。また、本発明では、ポリイミドまたはポリアミド酸を溶液化する場合に、他の成分を加えてもよい。それゆえ、本発明における「ポリイミド系化合物」には、ポリイミド、ポリアミド酸、これらの少なくとも一方を含有する樹脂組成物が含まれる。
【0041】
上記ポリイミド系ワニスに用いられる有機溶媒としては、ポリイミド系化合物を溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン等の溶媒;等の有機極性溶媒を挙げることができる。これら有機溶媒は単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。さらに、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素も使用可能である。
【0042】
上記有機溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミド(DMAc)等のホルムアミド系溶媒を特に好ましく用いることができる。なお、有機溶媒中の水の含有はポリアミド酸の分解を促進するため、当該有機溶媒からは可能な限り水分を除去しておくことが好ましい。
【0043】
上記のように、一般的に、ポリイミドは、各種の有機溶媒への溶解度が低い場合が多い。そのため、使用するポリイミドが有機溶媒に対して十分な溶解度を有する場合には、当該ポリイミドをそのまま有機溶媒に溶解することにより、ポリイミド系ワニスとして用いればよい。一方、使用するポリイミドが有機溶媒に対して十分な溶解度を有しない場合には、対応するポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解することにより、ポリイミド系ワニスとして用いればよい。
【0044】
本発明において用いられるポリイミド、またはその前駆体であるポリアミド酸は、ポリイミド骨格またはポリアミド酸骨格を有する化合物であれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、酸二無水物成分およびジアミン成分を重合用溶媒に溶解して重合することにより得られる前駆体(ポリアミド酸)、このポリアミド酸を化学的にまたは熱的に脱水することによりイミド化して得られるポリイミドを挙げることができる。
【0045】
上記重合用溶媒としては、上述したワニス調製用の有機溶媒を好適に用いることができる。例えば、DMFやDMAc等の有機溶媒を重合用溶媒として用いれば、得られるポリアミド酸の有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)をほぼそのままポリイミド系ワニスとして用いることができる。
【0046】
上記酸二無水物成分およびジアミン成分については特に限定されるものではなく、公知の化合物を用いることができる。代表的には、無水ピロメリット酸およびジアミノフェニルエーテルの組み合わせが挙げられるが、必要に応じて、他の酸二無水物やジアミンに代えたり併用したりしてもよいし、これら化合物以外の他の化合物を共重合してもよい。
【0047】
なお、本発明において好適に用いられるポリイミド、ポリアミド酸、並びにこれらのモノマー原料(酸二無水物成分およびジアミン成分)の詳細については、後述の(II)ポリアミド酸の合成の項でより具体的に説明する。
【0048】
<硬化剤添加工程>
上記硬化剤添加工程は、上記ワニス調製工程で調製されたポリイミド系ワニスの少なくとも1種に対して、化学脱水剤(脱水剤)および触媒を添加する工程である。これら脱水剤および触媒はまとめて硬化剤と称する。つまり、本発明では、少なくとも1層のポリイミド層は、化学イミド法によりイミド化されることになる。
【0049】
本発明で用いられる脱水剤とは、ポリアミド酸に対する脱水閉環剤であれば得に限定されるものではないが、具体的には、例えば、主成分として、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等の化合物を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族酸無水物および/または芳香族酸無水物を特に好適に用いることができる。
【0050】
上記脱水剤の使用量は特に限定されるものではないが、添加対象となるポリイミド系ワニスにおいて、含有されるポリアミド酸に含まれるアミド酸ユニット1モル当り、0.5〜5モルの範囲内が好ましく、0.7〜4モルの範囲内がより好ましく、1.5〜2.5モルの範囲内が特に好ましい。
【0051】
本発明で用いられる触媒は、ポリアミド酸に対する上記脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であれば得に限定されるものではないが、具体的には、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。これらの中でも、例えば、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が特に好ましく用いられる。
【0052】
上記触媒の使用量は、添加対象となるポリイミド系ワニスにおいて、含有されるポリアミド酸に含まれるアミド酸ユニット1モル当り、0.05〜3モルの範囲内が好ましく、0.2〜2モルの範囲内がより好ましく、0.5〜1モルの範囲内が特に好ましい。
【0053】
上記脱水剤および触媒の使用量が上記範囲を下回ると、イミド化が不十分となり、焼成途中で破断したり、機械的強度が低下したりすることがある。また、これらの量が上記範囲を上回ると、イミド化の進行が早くなりすぎ、ポリイミド系ワニスをフィルム状にキャストすることが困難となることがある。
【0054】
本発明では、複数種類のポリイミド系ワニスの一種以上に、上記脱水剤および触媒(硬化剤)を添加することが必須である。このように硬化剤を添加すれば、ポリイミド系ワニスを液膜化して乾燥する際のゲル化反応を促進させることができるとともに、ゲル化反応の促進により、系外に、硬化剤や反応により生成した水、有機溶媒等が排出される。
【0055】
具体的には、ゲルフィルムは、ポリイミド系ワニスを加熱および/または乾燥させることにより、液膜が自己支持性を有するゲル状のフィルムとなったものである。このゲルフィルムには、少なくとも有機溶媒が残存しており、特に、ワニス中の樹脂製分がポリアミド酸である場合、当該ポリアミド酸の一部がイミド化されている。さらに、硬化剤添加工程では、硬化剤を添加するため、硬化剤そのものが一部残存したり、反応に伴って生成する水等が一部残存したりする。このような有機溶媒、水、硬化剤等をまとめて残存成分と称する。これら残存成分は、ゲル化の進行に伴って、液膜またはゲルフィルムの内部から外部へ染み出してくる。これは、硬化剤を添加した系ではゲル化が迅速に進行するためである。
【0056】
このように排出された残存成分は、ゲルフィルムと支持体との隙間に蓄積することにより、支持体からゲルフィルムを引き剥がしやすくなる。それゆえ、硬化剤を添加すれば、ゲル化やイミド化が促進されるとともに、ゲルフィルムの引き剥がし性も向上させることができる。その結果、多層フィルムの生産性を高めることができる。これに対して、硬化剤を添加しない場合には、ゲル化の反応速度が遅くなり、生産性が低下するだけではなく、ゲルフィルムが支持体上に強固に密着してしまうため、引き剥がし性が低下する。そのため、多層フィルムの生産性の向上を妨げかねないことになる。
【0057】
上記硬化剤をポリイミド系ワニスに添加する方法は特に限定されるものではなく、ポリイミド系ワニス中に硬化剤を十分に分散または溶解できるような方法であればよい。一般的には、硬化剤をポリイミド系ワニスに用いられているものと同一の有機溶媒に予め分散または溶解させて、硬化剤溶液を調製しておき、これをポリイミド系ワニスに添加して混合する方法を挙げることができる(実施例参照)。
【0058】
この方法では、ポリイミド系ワニスの粘性が高いため、硬化剤をそのままポリイミド系ワニスに添加するよりも、硬化剤を分散または溶解させやすいという利点がある。さらに、硬化剤を実質的に液体として取り扱うことができるので、後述するように、本発明にかかる多層フィルムの製造装置において、硬化剤を供給させやすくすることができるという利点もある。
【0059】
<ワニス冷却工程>
上記ワニス冷却工程は、上記ワニス調製工程により得られたポリイミド系ワニス、または、上記硬化剤添加工程により硬化剤が加えられたポリイミド系ワニスを常温未満に冷却する工程である。
【0060】
本発明では、上記のように、少なくとも1種のポリイミド系ワニスに硬化剤(脱水剤および触媒)を添加してから多層液膜を形成する。このため、多層液膜を形成するまでの間にゲル化反応が進んでしまうと、多層液膜を所望の構造となるように作製することが困難となる。そこで、ポリイミド系ワニスを常温未満に冷却すれば、ゲル化反応の進行を抑制することができる。
【0061】
ここでいう常温とは、加熱・冷却しない平常の温度であり、通常は約15℃程度の温度であるが、必ずしもこの温度に限定されるものではなく、本発明にかかる多層フィルムの製造方法において冷却せずに作業を進める環境の温度を「常温」と見なすことができる。したがって、ワニス冷却工程では、少なくとも、作業環境の温度よりも低くなるようにポリイミド系ワニスを冷却すればよい。
【0062】
このように、ポリイミド系ワニスを冷却する温度は具体的には特に限定されるものではないが、好ましくは、ポリイミド系ワニスを10℃以下に冷却することが好ましく、5℃以下に冷却することがより好ましい。冷却温度の上限を上記温度とすれば、どのような種類のポリイミドまたはポリアミド酸、あるいは硬化剤を用いてもゲル化の進行を抑制することができる。
【0063】
一方、上記冷却温度の下限は−10℃であることが好ましく、−5℃であることがより好ましい。すなわち、ワニス冷却工程では、ポリイミド系ワニスを−10℃以上10℃以下に冷却することが好ましく、−5℃以上5℃以下に冷却することがより好ましい。ポリイミド系ワニスの温度が低すぎると、ポリイミド系ワニスの粘度が高くなりすぎ、硬化剤との混合性が悪化したり、製膜が不可能になったりする。
【0064】
ここで、ワニス冷却工程は、後述する多層液膜形成工程の前に行えばよいが、好ましくは、硬化剤添加工程の前に行う。ポリイミド系ワニスに硬化剤を添加する場合、添加前にポリイミド系ワニスが冷却されていれば、製膜前のゲル化の進行をより確実に抑制することができる。さらに、ワニス冷却工程では、添加する硬化剤(または硬化剤溶液)も常温未満となるように冷却しておくことがより好ましい。これによって、添加する硬化剤の温度も低くなっているため、冷却したポリイミド系ワニスの温度が硬化剤の添加により上昇するような事態を有効に回避することができる。
【0065】
上記ポリイミド系ワニス、および硬化剤(硬化剤溶液)を冷却する方法は特に限定されるものではなく、製造設備に応じて従来公知の冷却方法を好適に用いることができる。例えば、後述する多層フィルムの製造装置では、ポリイミド系ワニスおよび硬化剤溶液をタンクに蓄積した状態で順次供給するが、このタンクに公知の冷却装置を装備させておけばよい。
【0066】
<多層液膜形成工程>
上記多層液膜形成工程は、ポリイミド系ワニスを、複数種類、支持体上に積層して多層液膜を形成する工程である。ここで、多層液膜の形成方法は特に限定されるものではなく、それぞれの液膜を流延塗布法により逐次形成して積層してもよいし、各液膜を同時に形成してもよい。中でも、本発明では、複数種類の有機溶媒溶液を支持体上に同時に押し出して流延する共押出流延製膜法により多層液膜を形成することが好ましい。
【0067】
共押出流延製膜法(共押出法)では、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に吐出して流延することにより、多層液膜を実質的に1段階で形成する。それゆえ、工程数の増加を回避できるだけでなく、逐次積層する方法(逐次法)よりも多層液膜を形成する時間を短くすることができるので、硬化剤によるゲル化促進に伴う残存成分の層間への蓄積も回避することができる。
【0068】
上記支持体としては、特に限定されるものではなく、ポリイミド系ワニスにより溶解することが無いものであり、好ましくはゲルフィルムの引き剥がし性にも優れたものであればよいが、各種金属製のものを好適に用いることができる。特に、後段の焼成工程において、ゲルフィルムを支持体とともに加熱する場合には、加熱に対する耐久性を有する金属製の支持体が好適に用いられる。また、支持体上に多層液膜を形成する手段も特に限定されるものではなく、ポリイミド系ワニスを支持体上に吐出できるもの(吐出手段)であればよいが、好ましくは共押出ダイを用いることができる。
【0069】
なお、上記支持体および吐出手段のより具体的な構成については、後述する(III)多層フィルムの製造装置の項において詳細に説明する。
【0070】
<ゲルフィルム形成工程>
上記ゲルフィルム形成工程は、多層液膜形成工程にて形成された上記多層液膜を乾燥してゲル化することにより、自己支持性を有する多層ゲルフィルムを得る工程である。特に本発明では、上記多層液膜形成工程で用いる複数種類のポリイミド系ワニスの少なくとも1種には、予め脱水剤および触媒(硬化剤)が添加されている。そこで、本工程では、上記多層液膜の層間が剥離する前に、当該多層液膜の乾燥を開始する。
【0071】
前記硬化剤添加工程にて説明したように、硬化剤の添加は、ゲル化やイミド化を促進するだけでなく、支持体と多層ゲルフィルムとの隙間に残存成分を蓄積させるため、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が向上する。この残存成分の系外排出は、硬化剤の添加による重要な作用効果の一つである。
【0072】
ところが、上記残存成分が、多層ゲルフィルムと支持体の隙間ではなく、多層ゲルフィルムを構成する各層(個々のゲルフィルム)の間に蓄積されると、各層同士の密着性が低下してしまい、層間の剥離が生じて多層構造が破壊される。つまり、硬化剤を添加したポリイミド系ワニスを用いて多層液膜を形成し、これを乾燥して多層ゲルフィルムを得ると、層間が剥離しやすいと言う問題が生じる。したがって、残存成分の系外排出は、多層フィルムの製造において好ましく無い現象でもある。
【0073】
そこで、本発明では、多層ゲルフィルムの支持体からの引き剥がし性と、多層ゲルフィルムの層間の剥離防止を両立するために、できるだけ速やかに多層液膜の温度を上昇させ、各液膜内に含有される残存成分(有機溶媒、ゲル化反応により生成した水等の反応液、脱水剤等)を蒸発させる。これによって、多層構造の層間に上記残存成分が蓄積することが抑制または回避できるので、得られる多層ゲルフィルムでは、層間の密着性が向上し、その結果、得られる多層フィルムにおける多層構造を優れたものとすることができる。つまり、本発明では、上記多層液膜の層間が剥離する前に乾燥を開始しているので、上記残存成分の蒸発を開始させるよりも前にゲル化反応が進んでしまうという事態を回避することができる。
【0074】
本工程において、できる限り速やかに多層液膜を乾燥させるために、乾燥を開始する時間、すなわち、多層液膜の層間が剥離する前に乾燥処理を開始する時間とは、用いるポリイミド系ワニスや硬化剤の種類、ワニス冷却工程での冷却温度、周囲の環境の温度、多層液膜を形成する装置の構成等の条件(液膜の形成条件)により変化するものであり、特に限定されるものではない。多層液膜において層間の剥離が生じているか否かは、当該多層液膜の端部に近い部分の上面を指等で軽く擦ることで判別することができる。指等で擦ることにより層間にズレが生じる場合には、多層構造の液膜において硬化反応(ゲル化)が進行しており、層間に上記残存成分が蓄積して低粘度の液膜層が形成されていることを示している。そこで、このような層間のズレが生じる前に、乾燥処理を開始すればよい。
【0075】
より具体的には、支持体上に多層液膜を形成せしめた時点(多層液膜形成工程が完了した時点)を起点として、2分以内に乾燥処理を開始することが好ましく、30秒以内に乾燥処理を開始することがより好ましく、10秒以内開始することがさらに好ましい。
【0076】
本工程における乾燥方法は特に限定されるものではなく、ゲル化を進行できる方法であればよいが、初期段階で残存成分を有効に蒸発できる方法であることがより好ましい。具体的には、加熱よる乾燥方法を好適に用いることができる。具体的な加熱方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の加熱方法を好適に用いることができるが、加熱温度は60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0077】
上記ゲル化する際の加熱温度(多層液膜の乾燥温度)を60〜200℃の範囲内とすることにより、液膜のゲル化を効率的に進行できるだけでなく、乾燥の初期段階で残存成分を有効に蒸発させることができる。その結果、層間の剥離をより一層有効に抑制することができる。一方、上記温度範囲を下回ると、残存成分を有効に蒸発させることができない場合がある。また、上記温度範囲を上回ると、多層ゲルフィルムが支持体上に固着しやすくなり、多層ゲルフィルムの引き剥がし性が低下する傾向にある。
【0078】
さらに、乾燥時間についても特に限定されるものではないが、加熱方法によらず1〜60分の範囲内であることが好ましい。加熱時間が上記範囲内であれば、多層ゲルフィルムを効率良くかつ確実に作製することができる。一方、乾燥時間が上記範囲を外れると、ほとんど乾燥できなかったり過剰に乾燥されたりすることがある。
【0079】
<焼成工程>
上記焼成工程は、ゲルフィルム形成工程で得られた多層ゲルフィルムを焼成してイミド化を完結させる工程である。これにより、複数のポリイミド層が積層されたポリイミド系多層フィルムを得ることができる。
【0080】
上記焼成工程で用いる加熱方法は特に限定されるものではなく、多層ゲルフィルムを有効に加熱して多層フィルムに焼成できる方法であればよいが、具体的には、例えば、フィルムの上方の面または下方の面、あるいは、両面から100℃以上の熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式、または遠赤外線をフィルムに照射する方式等を好適に用いることができる。
【0081】
上記焼成工程における焼成温度は、イミド化を完了できるとともに、残存成分を十分に蒸発できる温度範囲であれば特に限定されるものではないが、200℃以上600℃以下であることが好ましく、また、徐々に温度を上昇させることが好ましい。焼成温度が高すぎると、多層フィルムの焼成に温度ムラができやすく平坦性が失われやすい傾向にあり、低すぎると、十分な焼成処理が行われない場合がある。焼成時間も特に限定されるものではなく、イミド化が完了できる時間であれば、従来公知の範囲内の時間で焼成することができる。
【0082】
なお、本発明にかかる製造方法は、上記ワニス調製工程、硬化剤添加工程、ワニス冷却工程、多層液膜形成工程、ゲルフィルム形成工程、焼成工程の全てを含んでいる必要はなく、前述したように、多層液膜の形成に際して、少なくとも、硬化剤の添加と、層間の剥離前の乾燥処理とが組み合わせて行われていれば、適宜、各工程を省略したり、他の工程を追加したりすることができる。
【0083】
<多層フィルム形成の好ましい一例>
本発明にかかる多層フィルムの製造方法は、ポリイミド層を複数積層したポリイミド系多層フィルムの製造に広く用いることができ、多層フィルムの具体的な種類は特に限定されるものではないが、当該多層フィルムの代表例として、ポリイミド系の接着フィルムを挙げることができる。
【0084】
上記ポリイミド系の接着フィルムには、少なくとも、耐熱性ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層とを直接積層した構造が含まれているものである。上記耐熱性ポリイミド層は、耐熱性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなっており、絶縁層(絶縁フィルム)として機能するポリイミド層である。また、上記熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなっており、接着層(接着フィルム)として機能するポリイミド層である。このような接着フィルムは、特に二層FPC等の基板材料として好適に用いることができる。
【0085】
上記ポリイミド系の接着フィルムのより具体的な構成は特に限定されるものではなく、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が積層されていてもよいし、片面のみ積層されていてもよいし、これら以外のポリイミド層が含まれていてもよいし、耐熱性ポリイミド層および熱可塑性ポリイミド層の積層構成が複数含まれていてもよい。また、複数のポリイミド層中に、耐熱性ポリイミド層とこれに直接積層される熱可塑性ポリイミド層とが含まれ、かつ、熱可塑性ポリイミド層が少なくとも一方の面の表面層に位置していればよい。
【0086】
このように、本発明は、何れの種類のポリイミド層を組み合わせた多層フィルムを製造する場合にも適用することができる。例えば、本発明で得られるポリイミド系多層フィルムを、二層FPCの原料に使用する場合には、耐熱性ポリイミド層の片面または両面に熱可塑性ポリイミド層が密着した構造にすればよい。この場合、耐熱性ポリイミド層となるポリイミド系ワニス(耐熱性ポリイミド系ワニス)から形成される液膜の少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミド層となるポリイミド系ワニス(熱可塑性ポリイミド系ワニス)から形成される液膜が接触した、多層構造の液膜を支持体上に形成させ、これを加熱乾燥してゲルフィルムを得た後に高温焼成する製造方法を、特に好ましい態様として挙げることができる。
【0087】
特に、FPCの実用性の面からは、接着フィルムの具体的な構成としては、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が密着した三層構造が最も好ましい形態である。それゆえ、このような三層構造の接着フィルム(多層フィルム)を製造する場合には、耐熱性ポリイミド系ワニスから形成される液膜の両面に、熱可塑性ポリイミド系ワニスから形成される液膜が接触した、三層構造の液膜を支持体上に形成させ、これを加熱乾燥した後に高温焼成する製造方法を、最も好ましい態様として挙げることができる。
【0088】
ここで、硬化剤(脱水剤および触媒)は何れのポリイミド層となるポリイミド系ワニスに添加してもよいが、必ずしも全てのポリイミド系ワニスに硬化剤を添加しなくてもよい。例えば、上記二層FPC用の接着フィルムを製造する場合には、耐熱性ポリイミド系ワニスにのみに硬化剤を添加することが好ましい。
【0089】
熱可塑性ポリイミド系ワニスは、一般に分子量が低く、ゲル化反応の速度が速く、微細構造が緻密である。そのため、熱可塑性ポリイミド系ワニスに硬化剤を添加すると、当該ポリイミド系ワニスのみが先に緻密な構造のゲルフィルムを形成してしまうため、多層液膜において中央の液膜(耐熱性ポリイミド層となる液膜)の外層に、緻密な構造のゲルフィルムが形成されることになる。その結果、耐熱性ポリイミド系ワニスから排出される残存成分が逃げ場を失い層間に蓄積されるため、層間の剥離現象がより発生しやすくなる。
【0090】
これに対して、耐熱性ポリイミド系ワニスにのみ硬化剤を添加すると、耐熱性ポリイミド系ワニスのゲル化反応の進行に伴い、残存成分が液膜の外部に排出される。これらの残存成分のうち、硬化剤(脱水剤および触媒)は、隣接する液膜、すなわち熱可塑性ポリイミド系ワニスの内部に浸透し、熱可塑性ポリイミド系ワニスのゲル化反応を次第に促進させることになる。その結果、耐熱性ポリイミド系ワニスから生成するゲルフィルムと熱可塑性ポリイミド系ワニスから生成するゲルフィルムと層間の密着性が良好となるため、層間の剥離をより一層有効に抑制または回避することができる。
【0091】
(II)ポリアミド酸の合成
本発明にかかる多層フィルムは、少なくとも二種以上のポリイミド系フィルムを積層して構成されることが好ましい。そして、一方のフィルムは、上述したように、耐熱性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明にかかるポリイミド系多層フィルムは少なくとも耐熱性を有することとなる。また、他方のフィルムは、上述したように熱可塑性ポリイミド層であることが好ましい。これにより、本発明にかかるポリイミド系多層フィルムは、熱可塑性ポリイミド層が高温下において接着剤の役割を担うこととなる。このような多層フィルムは、絶縁性フィルム(耐熱性ポリイミド層)を銅箔等の金属箔に熱圧着法で貼り付けることが容易になるため、プリント基板用のポリイミドフィルムとして高性能なものを作製することが可能となる。
【0092】
<耐熱性ポリイミド層>
ここで、上記耐熱性ポリイミド層とは、非熱可塑性ポリイミドを90重量%以上含有する樹脂組成物からなっていれば、その具体的な組成や用いられるポリイミドの分子構造、層の厚み等は特に限定されるものではない。耐熱性ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドは、前述したように、ポリアミド酸を前駆体として用いて製造される。
【0093】
このポリアミド酸の製造方法(合成方法、重合方法)としては公知のあらゆる方法を用いることができ、特に限定されるものではない。通常、1種以上の酸二無水物からなる酸二無水物成分と1種以上のジアミンからなるジアミン成分とを、実質的に等モル量となるように合成用溶媒中に分散または溶解させて、制御された温度条件下で上記各モノマー成分の重合が完了するまで攪拌する方法を好適に用いることができる。なお、酸二無水物成分としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が好適に用いられ、ジアミン成分としては、芳香族ジアミン等が好適に用いられる。
【0094】
得られるポリアミド酸は合成用溶媒に分散または溶解した状態、すなわち有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)の状態であり、そこ固形分濃度は通常5〜35重量%の範囲内、好ましくは10〜30重量%の範囲内となる。固形分濃度がこの範囲内であれば、適切な分子量のポリアミド酸が合成されているとともに、ポリアミド酸溶液としても作業上好ましい溶液粘度となっている。
【0095】
なお、上記耐熱性ポリイミド層、およびこれを形成するためのポリイミド系ワニスには、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
【0096】
<ポリアミド酸の重合方法>
上記ポリアミド酸の重合方法としては、従来公知のあらゆる方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合方法の特徴は、そのモノマー成分の添加順序にある。それゆえ、モノマー成分の添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。それゆえ、本発明において、ポリアミド酸の重合にはどのようなモノマー成分の添加方法を用いてもよい。代表的な重合方法としては、次に示す各方法を挙げることができる。これら方法は単独で用いてもよいし、部分的に組み合わせて用いてもよい。本発明では、下記のの何れの重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いてもよい。
(1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加して反応させて重合する。
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとが実質的に等モルとなるように芳香族ジアミンを追加添加して重合させる。
(3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いて、ここに芳香族ジアミンを追加添加した後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を追加添加して重合させる。
(4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を添加して重合させる。
【0097】
特に本発明では、耐熱性ポリイミドを得るために、後述する剛直構造を有するジアミン(便宜上、剛直ジアミンと称する)を用いてプレポリマーを得る重合方法を用いてもよい。この重合方法を用いることにより、弾性率が高く、吸湿膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得やすくなる傾向にある。
【0098】
上記重合方法において、プレポリマー調製時に用いる剛直ジアミンと酸二無水物とのモル比は、100:70〜100:99もしくは70:100〜99:100の範囲内が好ましく、さらには100:75〜100:90もしくは75:100〜90:100の範囲内がより好ましい。上記モル比が上記範囲を下回ると弾性率および吸湿膨張係数の改善効果が得られにくく、上記範囲を上回ると線膨張係数が小さくなりすぎたり、引張伸び性が低下したりする等の弊害が生じることがある。
【0099】
<非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられる酸二無水物成分>
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いる酸二無水物成分としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0100】
上記酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の群から選択される少なくとも一種の化合物を特に好ましく用いることができる。
【0101】
上記4種の特に好ましい酸二無水物を用いる場合の使用量は、全酸二無水物に対して、60モル%以下であることが好ましく、55モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。上記4種の特に好ましいテトラカルボン酸二無水物から少なくとも一種を用いる場合、その使用量が上記の範囲を上回ると、得られる耐熱性ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)が低くなりすぎたり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜そのものが困難になったりすることがあるため好ましくない。
【0102】
また、テトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を用いる場合の使用量は、40〜100モル%の範囲内が好ましく、45〜100モル%の範囲内がより好ましく、50〜100モル%の範囲内がさらに好ましい。ピロメリット酸二無水物をこの範囲内で用いれば、得られる耐熱性ポリイミド層のTg、および、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率を使用または製膜に好適な範囲に保ちやすくなる。
【0103】
<非熱可塑性ポリイミドの製造に用いられるジアミン成分>
本発明において、上記耐熱性ポリイミド層に含有される非熱可塑性ポリイミドを製造するにあたり、前駆体であるポリアミド酸の合成に用いるジアミン成分としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、あるいはこれらの類似物等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0104】
上記ジアミン成分としては、剛直構造を有する剛直ジアミンと柔構造を有するジアミンとを併用することができる。その場合の好ましい使用比率は、モル比で80/20〜20/80の範囲内であればよく、70/30〜30/70の範囲内であることがより好ましく、60/40〜30/70の範囲内であることがさらに好ましい。剛直ジアミンの使用比率が上記範囲を上回ると、得られる耐熱性ポリイミド層の引張伸びが小さくなる傾向にある。また、剛直ジアミンの使用比率が上記範囲を下回ると、得られる耐熱性ポリイミド層のTgが低くなりすぎたり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が低くなりすぎて製膜が困難になったりする等の弊害を伴う場合がある。
【0105】
本発明における上記剛直ジアミンとは、次に示す一般式(1)で表される2価の芳香族基からなる群から選択される基である。
【0106】
【化1】

【0107】
なお、一般式(1)中のR2 は一般式群(2)で表される。
【0108】
【化2】

【0109】
上記一般式群(2)中のR3 は同一または異なってH−,CH3−,−OH,−CF3 ,−SO4 ,−COOH,−CO−NH2 、Cl−、Br−、F−、およびCH3O−からなる群より選択される何れかの1つの基である。
【0110】
一方、柔構造を有するジアミンとは、エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等の柔構造を有しており、好ましくは、下記一般式(3)で表されるものである。
【0111】
【化3】

【0112】
なお、一般式(3)中のR4 は、一般式群(4)
【0113】
【化4】

【0114】
で表される2価の有機基からなる群から選択される基であり、式中のR5 は同一または異なってH−,CH3−,−OH,−CF3 ,−SO4 ,−COOH,−CO−NH2 ,Cl−,Br−,F−,およびCH3O−からなる群より選択される1つの基である。
【0115】
本発明において、耐熱性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスは、最終的に得られる当該耐熱性ポリイミド層(ポリイミドフィルム)が所望の特性を有するフィルムとなるように、上記酸二無水物成分およびジアミン成分の種類、配合比を適宜決定して用いることができる。
【0116】
ここで、ポリアミド酸を合成するための好ましい重合用溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を特に好ましく用いることができる。これら重合用溶媒は、そのままポリイミド系ワニス用の溶媒として用いることができる。
【0117】
<熱可塑性ポリイミド層>
本発明にかかる熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物より形成されていればよい。ここで、用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)とは、熱可塑性ポリイミド(狭義)、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等を挙げることができるが特に限定されるものではない。これら樹脂は1種類のみを用いてもよいし2種類以上を適宜混合して用いてもよい。上記樹脂の中でも、吸湿性が低い点から、熱可塑性ポリエステルイミドを特に好適に用いることができる。
【0118】
上記熱可塑性ポリイミド層は、接着層として耐熱性ポリイミド層に積層されて接着フィルムとなった場合に、特に、ラミネート法により被積層物を貼り合わせる際に有為な接着力を発揮できればよく、含有される熱可塑性ポリイミド(広義)の含有量、分子構造、熱可塑性ポリイミド層の厚み等の条件は特に限定されるものではない。しかしながら、有為な接着力を発現せしめるためには、実質的には熱可塑性ポリイミド(広義)を50重量%以上含有することが好ましい。
【0119】
なお、上記熱可塑性ポリイミド層、およびこれを形成するためのポリイミド系ワニスには、必要に応じて無機あるいは有機物のフィラーを添加しても良い。
【0120】
上記熱可塑性ポリイミド(広義)も、前記非熱可塑性ポリイミドと同様に、その前駆体であるポリアミド酸からの転化反応により得ることができる。当該ポリアミド酸の製造方法としては、前記非熱可塑性ポリイミドの前駆体と同様、公知のあらゆる合成方法を用いることができる。
【0121】
また、本発明に用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)は、そのTgが150〜300℃の範囲内であることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。Tgが上記の範囲内であれば、既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られる接着フィルム(多層フィルム)の耐熱性を損なうことがない。
【0122】
本発明に用いられる熱可塑性ポリイミド(広義)の前駆体であるポリアミド酸についても特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆるポリアミド酸を用いることができる。このポリアミド酸溶液の製造に関しても、前記非熱可塑性ポリイミドで説明したモノマー原料および製造条件等を全く同様に用いることができる。
【0123】
なお、上記熱可塑性ポリイミド(広義)は、使用するモノマー原料を種々組み合わせることにより、諸特性を調節することができるが、一般に、上記剛直ジアミンの使用比率が大きくなるとTgが高くなったり、ポリアミド酸溶液の熱時の貯蔵弾性率が大きくなり接着性・加工性が低くなったりする場合がある。上記剛直ジアミンの使用比率は、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることが特に好ましい。
【0124】
上記熱可塑性ポリイミド(広義)の好ましい具体例としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類を含有する酸二無水物成分とアミノフェノキシ基を有するジアミン成分とを重合して得られるポリアミド酸をイミド化したものを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0125】
このように、本発明では、少なくとも2種以上の、好ましくは冷却したポリイミド系化合物のワニスに化学脱水剤および触媒(硬化剤)を添加し、当該ワニスを多層構造の液膜とする。得られた多層構造の液膜の層間に剥離が生じるよりも速く乾燥処理を施してゲルフィルムを得、これに高温で加熱焼成処理を施す。これにより、多層構造のポリイミド系化合物の製膜において、生産性を高めると同時に層間剥離を防止し、層間密着性の高いポリイミド系多層フィルムを製造することができる。
【0126】
(III)ポリイミド系多層フィルムの製造装置
本発明にかかるポリイミド系多層フィルムの製造装置は、上記構成の多層フィルムの製造方法を行うための装置であれば特に限定されるものではない。上記製造装置の具体的な構成は、製造の規模や目的等に合わせて適宜選定することができる。例えば、後述する実施例のうち、実施例1〜3では、小規模の実験室レベルでポリイミド系多層フィルムの製造を行っているため、シリンジやアルミ箔等を用いているが、実施例4では、工業的な生産レベルの製造装置を利用している。
【0127】
工業的な生産レベルの製造装置としては、具体的には、例えば、図1に示すように、製膜部10、ワニス用タンク11・12a・12b、硬化剤用タンク13、液体混合器14、エンドレスベルト16、連続式乾燥炉17、連続式焼成炉18、多層フィルム巻取部19を備えている構成を挙げることができる。この製造装置は、前述した接着フィルム、すなわち、耐熱性ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層が形成されている構成の多層フィルムを製造する装置である。
【0128】
<ポリイミド系ワニスを供給する構成>
上記ワニス用タンク11・12a・12bは、ポリイミド系ワニスを供給する溶液供給手段であり、このように本発明にかかる製造装置では、複数種類のポリイミド系ワニスを供給可能とするように溶液供給手段が複数設けられている。このうち、少なくとも一つの溶液供給手段、図1に示す例の場合、ワニス用タンク11からは、予め脱水剤および触媒(硬化剤)を含有するポリイミド系ワニスを供給可能となっている。
【0129】
上記3つのワニス用タンクのうち、ワニス用タンク11が、耐熱性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスを貯蔵する中央層用タンク11となっており、ワニス用タンク12aおよび12bが、熱可塑性ポリイミド層を形成するためのポリイミド系ワニスを貯蔵する上層用タンク12aおよび下層用タンク12bとなっている。これらワニス用タンクは、何れも配管15を介して製膜部10に接続されているが、特に、中央層用タンク11は、配管15の途中に液体混合器14が介在している。この液体混合器14は、硬化剤用タンク13と配管15で接続されているので、硬化剤用タンク13と中央層用タンク11とは、液体混合器14で合流した状態で、配管15を介して製膜部10に接続されていることになる。
【0130】
上記ワニス用タンク11・12a・12bの具体的な構成は特に限定されるものではなく、従来公知のタンクを好適に用いることができる。配管15についても同様であり、従来公知のものを好適に用いることができる。これらタンクや配管のサイズや材質等については、製造規模、製造しようとする多層フィルムの種類、詳細な製造条件等によって適宜設定されるものであり、特に限定されない。なお、上記タンクや配管以外の構成についても原則同様である。
【0131】
上記ワニス用タンク11・12a・12bおよび硬化剤用タンク13は、何れも、内部のポリイミド系ワニスまたは硬化剤溶液を冷却できるようになっている。これらタンクに備えられている冷却部の具体的な構成は特に限定されるものではなく、ポリイミド系ワニスまたは硬化剤溶液を、前述したように、常温以下、好ましくは、上限を10℃以下とするように、また、下限を−10℃以上とするように冷却すればよいので、このような冷却が可能な従来公知の冷却装置を用いればよい。
【0132】
上記ワニス用タンク11・12a・12bおよび硬化剤用タンク13において、多層液膜を形成する前に、ポリイミド系ワニスおよび硬化剤溶液を冷却することにより、本発明にかかる製造装置内でポリイミド系ワニスのゲル化の進行を制御することができる。具体的な冷却温度としては、上記ポリイミド系ワニスや硬化剤溶液が上記の温度範囲となればよいので、冷却部の構成やタンクの構成等に応じて、適宜冷却温度を設定すればよい。通常、タンクを冷却する温度は、熱伝導率を考慮した上でポリイミド系ワニスの上記設定温度よりも低い温度とする必要があるので、−20℃以上10℃以下であることが好ましく、−15℃以上5℃以下であることがより好ましく、−10℃以上0℃以下であることが特に好ましい。
【0133】
上記硬化剤用タンク13および液体混合器14は、中央層用のポリイミド系ワニスに対して硬化剤溶液(脱水剤および触媒)を添加するものであるため、硬化剤供給手段ということができる。硬化剤供給手段の具体的な構成は、上記硬化剤用タンク13および液体混合器14の組み合わせに限定されるものではないが、硬化剤は溶液化して混合することが効率的であるので、配管15を介してポリイミド系ワニスに硬化剤溶液を混合する上記組み合わせの構成がより好ましい。
【0134】
上記硬化剤用タンク13の具体的な構成は特に限定されるものではなく、ワニス用タンクと同様に従来公知のタンクを好適に用いることができる。また、液体混合器14の具体的な構成も特に限定されるものではないが、ポリイミド系ワニスと硬化剤溶液との粘度を比較した場合、ポリイミド系ワニスの方が高く、硬化剤の方が低いので、高粘度の液体に対して低粘度の液体を効率的に混合できるような装置を好適に用いることができる。具体的には、例えば、一定容積の容器に撹拌翼を備えた撹拌槽、二重円筒管の内部に多数のピンを配したローターを回転させる構成、スタティックミキサー、円筒内で多数の円盤を上下運動させる構成等を挙げることができる。
【0135】
また、ポリイミド系ワニスのゲル化を制御する理由から、液体混合器14も冷却可能となっていることが好ましい。液体混合器14を冷却する温度も、上記タンクの冷却温度と同様に、ポリイミド系ワニスの設定温度よりも低くする必要があるので、例えば、−20℃以上10℃以下であることが好ましい。
【0136】
<多層液膜を形成する構成>
上記ワニス用タンク11・12a・12b、硬化剤用タンク13、液体混合器14では、本発明にかかる製造方法における硬化剤添加工程、ワニス冷却工程が実施され、これら工程が実施された後に、多層液膜形成工程が実施される。図1に示す製造装置においては、多層液膜を形成する手段として、製膜部10を備えている。
【0137】
この製膜部10の具体的な構成は特に限定されるものではなく、支持体上で、上記ポリイミド系ワニスからなる液膜が複数積層されてなる多層液膜を形成可能となっていればよいが、具体的には、上記ワニス用タンク11・12a・12bから供給される各ポリイミド系ワニスを支持体に吐出する吐出手段、例えば、従来公知のダイを好適に用いることができる。このようなダイとしては、具体的には、多層共押出ダイ、スライドダイ、単層ダイ等を挙げることができる。単層ダイの場合には、複数の単層ダイを並列させ、単層の液膜を順次塗布していくことになる。
【0138】
多層共押出ダイとしては、例えば、図2に示すように、ダイ本体21内部に、一つの中心層用流路22a、および2つの外層用流路22bが形成された構成の三層共押出ダイを挙げることができる。中心層用流路22aには、中心層用タンクである上記ワニス用タンク11(および硬化剤用タンク13並びに液体混合器14)が接続されており、中心層用のポリイミド系ワニス(例えば、耐熱性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。また、外層用流路22aのうち、図中左側の方には、上層用タンクである上記ワニス用タンク12aが接続されており、上層用のポリイミド系ワニス(例えば、熱可塑性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。同様に、外層用流路22aのうち、図中右側の方には、下層用タンクである上記ワニス用タンク12bが接続されており、下層用のポリイミド系ワニス(例えば、熱可塑性ポリイミド系ワニス)が流通するようになっている。
【0139】
上記三層共押出ダイでは、ダイ本体21中で、上記3つの流路が合流し、一つの吐出口23に接続される構成となっている。したがって、上記ワニス用タンク11・12a・12bから供給された各ポリイミド系ワニスは、ダイ本体21内で合流して三層構造の液膜として吐出口23から吐出される。その結果、中央層51の両面に外層(上層52および下層53)が積層された三層構造の多層液膜50を支持体(エンドレスベルト16)上に直接形成することができる。
【0140】
次に、スライドダイとしては、例えば、図3に示すように、ダイ本体31内部に、上層用流路32b、中心層用流路32a、および下層用流路32cがこの順で配列されている構成のものを挙げることができる。この構成では、上層用流路32bに対応する上層用吐出口33b、中心層用流路32aに対応する中心層用吐出口33a、下層用流路32cに対応する下層用吐出口33cがこの順で設けられ、かつ、これら吐出口の形成されているダイ本体31の部位は、上層用吐出口33bから下層用吐出口33cに向かって下方に傾斜した傾斜面34となっている。また、下層用吐出口33cから見て外側となる位置には、液膜を支持体(エンドレスベルト16)上に良好に流延できるように、ダイ本体31から外側に突出したリップ部35が形成されている。
【0141】
上記スライドダイにおいては、上記三層共押出ダイと同様に、上層用流路32b、中心層用流路32a、および下層用流路32cに対して、それぞれ上記ワニス用タンク12a、ワニス用タンク11、およびワニス用タンク12bが接続されている。それゆえ、これらタンクから供給されるポリイミド系ワニスは各吐出口から吐出される。ここで、傾斜面34の下方にある下層用吐出口33cから吐出される下層ポリイミド系ワニスは、直接傾斜面34の上に流出し、リップ部35から下方の支持体上に流れ落ちる。
【0142】
この下層用吐出口33cから見て傾斜面34の上方には、中心層用吐出口33aが形成されている。そのため、この中心層用吐出口33aから吐出される中心層ポリイミド系ワニスは、下層用吐出口33cから継続的に吐出される下層ポリイミド系ワニスの上に積層された状態で傾斜面34の上を流出し、リップ部35から下方の支持体上に流れ落ちる。
【0143】
さらに、中心層用吐出口33aから見て傾斜面34の上方には、上層用吐出口33bが形成されている。そのため、この上層用吐出口33bから吐出される上層ポリイミド系ワニスは、中心層用吐出口33aから継続的に吐出される中心層ポリイミド系ワニスの上に積層された状態となる。中心層ポリイミド系ワニスは上記のように下層ポリイミド系ワニスの上に積層されているので、上層、中心層および下層の三層構造の液膜が形成された状態で傾斜面34の上を流出し、リップ部35から下方の支持体上に流れ落ちる。これにより、支持体(エンドレスベルト16)上には、中央層51の両面に外層(上層52および下層53)が積層された三層構造の多層液膜50が形成されることになる。
【0144】
次に、単層ダイ(単層押出ダイ)としては、図4に示すように、上層、中心層および下層ポリイミド系ワニスに対応して、それぞれ単層ダイを並列配置した構成のものを挙げることができる。この構成では、エンドレスベルト(支持体)16の進行方向(図中矢印)の下流側から順に、上層用単層ダイ41b、中央層用単層ダイ41a、および下層用単層ダイ41cが配置されている。各単層ダイの構成は何れも同じで、本体の内部にはポリイミド系ワニスの流路42b、42aまたは42cが形成されており、ダイの先端には、吐出口43b、43aまたは43cが形成されている。
【0145】
上記進行方向から見て最も上流側には、下層用単層ダイ41cが設けられているので、このダイから吐出される下層ポリイミド系ワニスは、エンドレスベルト16上に流延して液膜(下層53)を形成する。このすぐ下流側には、中央層用単層ダイ41aが設けられているので、このダイから吐出される中央層ポリイミド系ワニスは、下層53の上に流延し、液膜(中央層51)を形成する。この状態では、中央層51および下層53の二層構造の液膜が支持体上に形成されていることになる。
【0146】
さらに、最も下流側には、上層用単層ダイ41bが設けられているので、このダイから吐出される上層ポリイミド系ワニスは、中央層51の上に流延し、液膜(上層52)を形成する。その結果、上から上層52、中央層51および下層53の順で積層された三層構造の多層液膜50が形成されることになる。
【0147】
なお、上記各構成以外には、スプレー法やナイフエッジ式のコーティング、グラビア式コーティング等の方法を用いることにより、支持体上に多層構造の液膜を形成させることもできる。
【0148】
特に、本発明では、製膜部10は、複数種類のポリイミド系ワニスを支持体上に同時に吐出可能とする構成であることが好ましく、中でも、共押出ダイを用いることがより好ましい。順次液膜を積層する方法(逐次法)よりも、複数の液膜を同時に形成する方法(共押出法)の方が、各液膜相互の密着性が高く、特に、共押出ダイを用いた共押出流延製膜法を用いれば、各液膜相互の密着性をより一層優れたものとすることができるため好ましい。上記共押出ダイには、マルチマニホールド型およびフィードブロック型の2種類があるが、マルチマニホールド型の共押出ダイを用いることがより好ましい。これにより。形成される各層の厚みの均一性をより一層高くすることができる。
【0149】
なお、ポリイミド系ワニスのゲル化を制御する理由から、製膜部10すなわち上記各種ダイも冷却可能となっていることが好ましい。上記ダイを冷却する温度も、上記タンクの冷却温度と同様に、ポリイミド系ワニスの設定温度よりも低くする必要があるので、例えば、−20℃以上10℃以下であることが好ましい。
【0150】
<支持体>
上記製膜部10において、多層液膜50を形成する対象となる支持体は、特に限定されるものではなく、吐出されたポリイミド系ワニスを流延させた状態で多層液膜50を形成することができるように、表面(形成面)に平滑性があればよい。上記支持体の具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、金属製のベルト、金属製のローラー、樹脂ベルト、樹脂フィルム、樹脂ローラー等を挙げることができる。
【0151】
これらの中でも、製造効率の点から、上記支持体は回転体であることが好ましい。回転体であれば、同一の支持体を回転させることで、液膜を連続して形成し、次のゲルフィルム形成工程(液膜の乾燥・ゲル化)に進めることができる。回転体としての支持体の具体例としては、複数の回転軸により回転可能に張り渡されたベルト状支持体、単一の回転軸により回転可能となっているドラム(ローラー)状支持体を挙げることができる。例えば、図1〜4では、支持体として、2つの軸ローラーにより張り渡されたエンドレスベルト16が用いられている。
【0152】
上記支持体の材質は、液膜の形成に影響を与えない限り特に限定されるものではないが、本発明では、多層液膜を高温で乾燥する過程を含むことから、各種金属製の支持体を好適に用いることができる。また、金属製の支持体の表面は十分研磨されていることが好ましい。このような研磨により、乾燥後に生成したゲルフィルムを支持体から容易に引き剥がすことができる。さらに、ゲルフィルムの引き剥がし性を高めるために、金属製の支持体の表面に、メッキやテフロン(登録商標)コーティング、テフロン(登録商標)含有メッキなどの表面処理を施すことがより好ましい。
【0153】
また、本発明で用いる硬化剤のうち、特に脱水剤は一般的に腐食性が高いので、支持体の材質としては、ステンレス鋼やハステロイ鋼等の金属が好適に用いられる。このような金属材料を用いることで、脱水剤にも高温の加熱にも耐久することができる。さらに、本発明で用いられる支持体は、加熱可能となっていることが好ましい。前述したように、多層液膜が製膜された後には、できる限り速やかに液膜を加熱して乾燥することが求められる。このような迅速な加熱・乾燥によれば、ゲル化反応の進行に伴い排出される残存成分が各液膜(ゲルフィルム)の層間に蓄積することを有効に抑制または回避できるため、多層ゲルフィルムの層間の密着性を向上することができる。
【0154】
<液膜の乾燥とゲル化とを行う構成>
上記支持体上に形成された多層液膜は、加熱手段により加熱され、乾燥することによりゲル化する(ゲルフィルム形成工程)。これにより自己支持性を有する多層ゲルフィルムが得られる。ここで、本発明では、多層ゲルフィルムを作製するにあたり、好ましくは、ポリイミド系ワニスを冷却し、かつ、少なくとも一種以上のポリイミド系ワニスに硬化剤を添加した後に、多層液膜を形成し、さらに、形成された多層液膜をできるだけ速やかに、すなわち多層液膜の層間に剥離が発生するより前に、乾燥処理を施し、多層ゲルフィルムを得るようになっている。
【0155】
まず、多層液膜の乾燥に用いられる乾燥手段としては、特に限定されるものではないが、一般的には、加熱による乾燥が効率的であるので、従来公知の加熱・乾燥装置を好適に用いることができる。特に、本発明では、上記エンドレスベルト16上の多層液膜50を搬入した状態で、当該多層液膜50を加熱する連続式乾燥炉17を好ましく用いることができる。支持体としてエンドレスベルト16を用いていること、連続的な乾燥が可能なことから、さらに、上述したように、エンドレスベルト16そのものが加熱可能な支持体となっていれば、より一層迅速な加熱・乾燥が可能になるため好ましい。
【0156】
本実施の形態では、図1に示すように、エンドレスベルト16における一方の端部(図中右側の端部)の上側において製膜部10により多層液膜50が形成され、当該エンドレスベルト16の回転により、他方の端部(図中左側の端部)を介して、右側の端部の下方まで多層液膜50が移動する(搬送される)ことになる。そこで、図1に示す構成では、加熱手段として、当該エンドレスベルト17の図中左側の大部分を覆った状態で設けられる連続式乾燥炉17を備えている。このような連続式乾燥炉17であれば、エンドレスベルト16における右側の端部の上方から下方に至るまでの間、当該エンドレスベルト16上の多層液膜50を乾燥することができるとともに、装置構成をコンパクト化することも可能となる。
【0157】
上記連続式乾燥炉17における加熱温度は特に限定されるものではないが、前記ゲルフィルム形成工程で説明したように、液膜内に含有される有機溶媒や、ゲル化反応により生成した反応液、脱水剤等を蒸発させるために十分な高温が求められる。一方、加熱温度が高すぎると多層ゲルフィルムが支持体上に固着してしまう。そこで、上記加熱温度としては、60℃以上200℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0158】
ここで、多層液膜の層間に剥離が発生する前に、迅速に多層液膜の加熱を開始するための具体的な方法としては特に限定されるものではないが、例えば、図1に示す構成の製造装置においては、共押出ダイ(製膜部10)から連続式乾燥炉17までの距離と、エンドレスベルト16のベルト移動速度との関係が、当該エンドレスベルト16上に形成された多層液膜50が2分以内に連続式乾燥炉17に搬入されるような関係にあればよい。言い換えれば、形成後2分以内に多層液膜50を連続式乾燥炉17に搬入できるように、上記製膜部10から連続式乾燥炉17まで距離、および/または、上記エンドレスベルト16の回転速度が設定されていることが好ましい。
【0159】
構造的には、図1に示すように、製膜部10と連続式乾燥炉17の入り口との間の領域(多層液膜が製膜されてから乾燥されるまでの領域)である領域Wにおいて、多層液膜50が加熱されない状態となるので、この領域Wを多層液膜50が移動する時間を短くするために、エンドレスベルト16の回転速度を速くすることか、領域Wの距離を短くすることで対応することができる。
【0160】
多層液膜50が領域Wを通過する時間、すなわち、形成直後の多層液膜50が連続式乾燥炉17内に搬入される時間は2分以内であればよいが、30秒以内であることが好ましく、10秒以内であることがより好ましい。なお、エンドレスベルト16の具体的な回転速度や、領域Wの具体的な距離は、製造装置のより具体的な構成によって適宜変更されるため、特に限定されるものではない。
【0161】
なお、乾燥の開始は、多層液膜50の形成後2分以内であればよいので、支持体および乾燥装置の構成が図1に示す構成とは異なる場合、上記時間条件を満たすように、装置構成を設定したり、装置の動作を制御したりすればよい。
【0162】
<ゲルフィルムを焼成する構成>
上記乾燥処理により、図1に示すように、連続式乾燥炉17では、多層液膜50は多層ゲルフィルム54となるので、連続式乾燥炉17からの多層ゲルフィルム54の排出とともに、当該多層ゲルフィルム54はエンドレスベルト16上から引き剥がされ、焼成される。ここで用いられる焼成手段としては、ゲルフィルムをイミド化するために焼成するものであれば特に限定されるものではないが、支持体上の多層ゲルフィルム54を搬入した状態で、当該多層ゲルフィルム54を焼成する連続式焼成炉18であることが好ましい。
【0163】
多層ゲルフィルム54を引き剥がした後、さらに高温に加熱焼成することによって、当該多層ゲルフィルム54内に残存する残存成分(有機溶媒、ゲル化反応により生成した反応液、脱水剤、触媒等)を完全に蒸発させるととともに、特に、液膜が、ポリアミド酸を含有するポリイミド系ワニスにより形成されている場合には、ゲル化により一部のみなされたポリアミド酸のイミド化を終了させる。これにより、ポリイミド系多層フィルムを製造することができる。
【0164】
上記連続式焼成炉18の具体的な構成は特に限定されるものではなく、多層ゲルフィルム54を有効に加熱してポリイミド系多層フィルム55に焼成できる加熱炉であればよいが、具体的には、例えば、熱風をフィルム全体に噴射して加熱する方式の熱風炉、または、遠赤外線をフィルムに照射する遠赤外線発生装置を備えた遠赤外線炉を好適に用いることができる。
【0165】
上記連続式焼成炉18における加熱温度(焼成温度)は特に限定されるものではなく、多層ゲルフィルム54すなわち得ようとするポリイミド系多層フィルム55の種類や、用いる脱水剤および触媒の種類、イミド化の条件等に応じて適宜設定することができる。一般的には、前記焼成工程の項でも説明したように、200℃以上600℃以下の温度であることが好ましい。また、焼成時には、徐々に温度を上昇させる方法を用いることが好ましい。
【0166】
したがって、連続式焼成炉18としては、複数の加熱炉を連結する段階式の加熱炉を用いることがより好ましい。このとき用いる個々の加熱炉としては、熱風炉のみでもよいし、遠赤外線炉のみでもよいし、熱風炉と遠赤外線炉とを混在させてもよい。また、各加熱炉の間には、進行方向前段の加熱炉からの熱を次段の加熱炉へ伝えないために、各加熱炉を仕切るための断熱手段が備え付けられていることが好ましい。この断熱手段としては特に限定されるものではなく、公知の構成を用いることができる。
【0167】
また、上記連続式焼成炉18で多層ゲルフィルム54を加熱焼成する場合、当該連続式焼成炉18内の多層ゲルフィルム54の搬送方法については特に限定されるものではなく、従来公知の構成で搬送すればよい。例えば、多層ゲルフィルム54の両端をクリップや針で固定した状態で、連続式焼成炉18内を搬送する構成を挙げることができる。
【0168】
<その他の構成>
図1に示す製造装置においては、連続式焼成炉18で焼成され完全にイミド化されたポリイミド系多層フィルム55を巻き取るための多層フィルム巻取部19が備えられている。その具体的な構成は特に限定されるものではなく従来公知の構成を適宜採用することができる。
【0169】
このように、上記製造装置においては、図1に示すように、製膜部10、ワニス用タンク11・12a・12b、硬化剤用タンク13、液体混合器14、エンドレスベルト16、連続式乾燥炉17、連続式焼成炉18、多層フィルム巻取部19等を備えている構成を挙げることができるが、もちろん本発明にかかる製造装置はこれに限定されるものではなく、これら以外の構成が適宜備えられていてもよいし、必要に応じて一部の構成は備えられていなくてもよい。
【0170】
このように、本発明にかかる製造装置では、複数種のポリイミド系化合物の溶液(ポリイミド系ワニス)を貯層から、混合器に導入し、混合器で化学脱水剤および触媒(硬化剤)とを混合し、得られる混合液を、多層構造の液膜を基体(支持体)上に作製する装置(製膜部)に導入する。そして、基体上の多層液膜を加熱乾燥して自己保持性を有する多層構造のゲルフィルムを得た後に、当該ゲルフィルムを基体から引き剥がし、当該ゲルフィルムを高温で加熱処理することにより、多層構造のポリイミド系化合物のフィルム(多層フィルム)を得ることができる。これにより、多層構造のポリイミド系化合物の製膜において、生産性を高めると同時に層間剥離を防止し、層間密着性の高いポリイミド系多層フィルムを製造することができる。
【実施例】
【0171】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例および比較例における多層液膜および多層ゲルフィルムにおける層間の剥離、支持体からの多層ゲルフィルムの引き剥がし性、は次のようにして評価した。
【0172】
〔多層液膜および多層ゲルフィルムにおける層間の剥離〕
多層液膜については、多層液膜を支持体上に形成してから所定時間経過した後に、多層ゲルフィルムについては、上記多層液膜が形成された支持体を所定条件で乾燥して多層ゲルフィルムを得た後に、目視で観察し、剥離の有無を確認することにより、層間の剥離を評価した。
【0173】
〔支持体からの多層ゲルフィルムの引き剥がし性〕
上記多層ゲルフィルムの端部を把持して引っ張ることにより、支持体からの引き剥がし性を評価した。
【0174】
〔合成例1;耐熱性ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸の合成〕
76.2kgのDMFを10℃に冷却し、これに、p−フェニレンジアミン(PDA)を3.7kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、さらに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を9.8kg徐々に添加し、30分間撹拌した。当該溶液にリン酸水素カルシウム粒子の10%DMF分散液を41.4g添加し、十分に攪拌して反応溶液とした。上記リン酸水素カルシウム粒子としては、メジアン平均径が2μm、かつ7μm以上の粒子径の割合が0.05%の粒子径分布を有するものを用いた。
【0175】
次いで、300gのBPDAを2kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加し、撹拌した。粘度が3500poise に達したところで添加を停止することにより、固形分濃度が15重量%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液は、耐熱性ポリイミドの前駆体の有機溶媒溶液であるため、以下、耐熱性ポリイミド系ワニスと称する。
【0176】
〔合成例2;熱可塑性ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸の合成〕
78kgのDMFを10℃に冷却し、これに、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を11.56kg加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、さらに、BPDAを7.87kg徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を380g添加し、30分間撹拌して反応溶液とした。
【0177】
次いで、300gのTMEGを3kgのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加し、撹拌した。粘度が3000poise に達したところで添加を停止した後、さらに、DMFを43.7kg添加することにより、固形分濃度が14重量%のポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液は、熱可塑性ポリイミドの前駆体の有機溶媒溶液であるため、以下、熱可塑性ポリイミド系ワニスと称する。
【0178】
〔実施例1〕
本実施例では、多層液膜を形成する吐出手段(製膜部)として、図2に示す構造の三層共押出ダイを用いた。
【0179】
まず、19.6gのDMFに対して、無水酢酸6.5g(脱水剤)およびイソキノリン(触媒)3.9gを溶解させて30gの硬化剤を調製した。この硬化剤を、10℃に冷却した100gの耐熱性ポリイミド系ワニスに添加して混合した。得られた混合液を遠心分離機で脱泡してからシリンジに充填し、このシリンジを上記三層共押出ダイの中心層の流路に接続した。同時に、三層共押出ダイの外層の流路には、10℃に冷却した熱可塑性ポリイミド系ワニスのみを充填したシリンジを接続した。
【0180】
各シリンジを動作させ、耐熱性ポリイミド系ワニス(硬化剤含有)を1.0kg/hrの速度で、熱可塑性ポリイミド系ワニスを0.17kg/hrの速度で、三層共押出ダイに注入した。これにより三層共押出ダイのリップから三層構造の多層液膜を押し出し、これを1.0m/分の速度で移動するアルミ箔(支持体)の上に流延し、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成した。
【0181】
上記多層液膜をアルミ箔上に形成してから30秒間経過させて、多層液膜を目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れ、130℃で100秒間乾燥することにより多層ゲルフィルムを得た。得られた多層ゲルフィルムを目視で観察したが、剥離は観察されなかった。その後、多層ゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がした。引き剥がし性は良好であった。
【0182】
引き剥がした多層ゲルフィルムをピン枠で固定し、300℃×30秒、400℃×50秒、450℃×10秒の温度で焼成してイミド化を完了させた。これにより、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
【0183】
〔実施例2〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを0℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから1分間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0184】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0185】
〔実施例3〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを0℃まで冷却したこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0186】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0187】
〔実施例4〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを0℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから1分30秒間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0188】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0189】
〔実施例5〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを0℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから2分間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0190】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0191】
〔実施例6〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを−10℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから2分間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0192】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0193】
〔実施例7〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを−10℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから30秒間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。
【0194】
本実施例においては、多層液膜および多層ゲルフィルムの何れにも剥離は観察されず、また、多層ゲルフィルムの引き剥がし性も良好であった。さらに、得られた多層フィルムの層間の密着性も良好であった。
【0195】
〔比較例1〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを−10℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから3分間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして三層構造の多層液膜を得た。この多層液膜には、端部において、下層(熱可塑性ポリイミド系ワニスの液膜)と中間層(耐熱性ポリイミド系ワニスの液膜)との間、並びに、中間層(耐熱性ポリイミド系ワニスの液膜)と上層(熱可塑性ポリイミド系ワニスの液膜)との間に僅かに剥離と思われる層間のズレが観察された。
【0196】
その後、この多層液膜をアルミ箔とともに乾燥炉に入れ、実施例1と同様に130℃で100秒間乾燥することにより多層ゲルフィルムを得た。得られた多層ゲルフィルムには、中間層および上層のゲルフィルムが収縮し、下層のゲルフィルムとの間に剥離が生じてしまい、以降の焼成処理が不可能となった。
【0197】
〔比較例2〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを0℃まで冷却したこと、および、多層液膜をアルミ箔上に形成してから3分間経過させた後に、アルミ箔とともに当該多層液膜を乾燥炉に入れたこと以外は、実施例1と同様にして三層構造の多層液膜を得た。この多層液膜には、端部において、下層と中間層との間、並びに、中間層と上層との間に僅かに剥離と思われる層間のズレが観察された。
【0198】
その後、この多層液膜をアルミ箔とともに乾燥炉に入れ、実施例1と同様に130℃で100秒間乾燥することにより多層ゲルフィルムを得た。得られた多層ゲルフィルムには、中間層および上層のゲルフィルムが収縮し、下層のゲルフィルムとの間に剥離が生じてしまい、以降の焼成処理が不可能となった。
【0199】
〔比較例3〕
耐熱性ポリイミド系ワニスおよび熱可塑性ポリイミド系ワニスを冷却せずに室温(20℃)で用いた以外は、実施例1と同様にして、三層構造の多層液膜をアルミ箔上に形成することを試みた。しかしながら、三層共押出ダイから吐出された液膜は、部分的に硬化反応が進行しており、アルミ箔上には、平滑性が無く、部分的に凹凸のある液膜が形成された。
【0200】
上記平滑性の無い液膜をアルミ箔上に形成してから30秒経過した後に液膜を観察すると、液膜の複数箇所において、下層と中間層との間、並びに、中間層と上層との間に僅かに剥離と思われる層間のズレが観察された。その後、この多層液膜をアルミ箔とともに乾燥炉に入れ、実施例1と同様に130℃で100秒間乾燥することにより多層ゲルフィルムを得た。得られた多層ゲルフィルムには、中間層および上層のゲルフィルムが収縮し、下層のゲルフィルムとの間に剥離が生じてしまい、以降の焼成処理が不可能となった。
【0201】
〔実施例8〕
本実施例では、実施例1〜3とは異なり、図1に示す構造を備える製造装置を用いるとともに、多層液膜を形成する吐出手段(製膜部)として、実施例1〜3と同様に、図2に示す構造の三層共押出ダイを用いた。当該三層共押出ダイとしては、リップ幅12cmのマルチマニホールド型のものを用いた。
【0202】
まず、図1に示す製造装置において、製膜部10、耐熱性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク11、熱可塑性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク12aおよび12b、硬化剤を貯蔵する硬化剤用タンク13、液体混合器14については、予め0℃になるように温度調整した。
【0203】
次に、ワニス用タンク11に耐熱性ポリイミド系ワニスを充填し、当該耐熱性ポリイミド系ワニスを、0.77kg/hrの速度で配管15を介して液体混合器14の入り口から導入した。また、予めDMF(溶媒)を1kg、無水酢酸(脱水剤)を0.33kg、イソキノリン(触媒)を0.20kgの割合で溶解させて硬化剤溶液を調製し、これを硬化剤用タンク13に充填した。そして、当該硬化剤溶液を、0.23kg/hrの速度で配管15を介して液体混合器14の別の入り口から導入した。
【0204】
上記液体混合器14からは、耐熱性ポリイミド系ワニスと硬化剤溶液との混合物が供給されるので、この混合物(硬化剤を含有する耐熱性ポリイミド系ワニス)を1kg/hrの速度で、上記三層共押出ダイの中心層用流路22a(図2参照)に注入するとともに、熱可塑性ポリイミド系ワニスを0.17kg/hrの速度で、上記三層共押出ダイの外層用流路22b(図2参照)に注入した。
【0205】
上記三層共押出ダイのリップから押し出される三層構造の多層液膜50を、1.0m/分の速度で回転移動するステンレス製のエンドレスベルト16上に流延した。上記三層構造の多層液膜50がエンドレスベルト16に流延された位置から0.5mの距離となる位置に、連続式乾燥炉17の入り口を設置し、形成された多層液膜50を連続式乾燥炉17内に導入して、130℃×100秒の条件で連続的な操作で加熱した。
【0206】
なお、多層液膜50がエンドレスベルト16上に形成された位置から連続式乾燥炉17に入るまでの時間、すなわち上記領域Wにおいて多層液膜50が通過する時間は30秒間とした。つまり、多層液膜50は形成されてから30秒かけて、領域Wを通過した後に、乾燥処理されたことになる。このとき、多層液膜50には、層間の剥離が観察されなかった。
【0207】
乾燥処理が終わった後、エンドレスベルト16から多層ゲルフィルム54を引き剥がして観察したところ、多層ゲルフィルム54にも層間の剥離が観察されなかった。その後、この多層ゲルフィルム54をテンタークリップに固定し、当該多層ゲルフィルムを乾燥・イミド化させた。このとき用いた連続式焼成炉18は、連続式の熱風式乾燥炉と赤外線乾燥炉とを組み合わせたもので、300℃×30秒、400℃×50秒、450℃×10秒に相当する条件で焼成した。
【0208】
これにより、耐熱性ポリイミド層(絶縁層)の両面に熱可塑性ポリイミド層(接着層)が積層された三層構造のポリイミド系多層フィルムを得た。この多層フィルムにおける層間の密着性は良好であった。
【0209】
〔比較例2〕
実施例4と同じ構成の製造装置を用いた。まず、当該製造装置において、製膜部10、耐熱性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク11、熱可塑性ポリイミド系ワニスを貯蔵するワニス用タンク12aおよび12b、硬化剤を貯蔵する硬化剤用タンク13、液体混合器14については、予め8℃になるように温度調整した。
【0210】
次に、ワニス用タンク11に耐熱性ポリイミド系ワニスを充填し、当該耐熱性ポリイミド系ワニスを、0.25kg/hrの速度で配管15を介して液体混合器14の入り口から導入した。また、予めDMF(溶媒)を1kg、無水酢酸(脱水剤)を0.33kg、イソキノリン(触媒)を0.20kgの割合で溶解させて硬化剤溶液を調製し、これを硬化剤用タンク13に充填した。そして、当該硬化剤溶液を、0.083kg/hrの速度で配管15を介して液体混合器14の別の入り口から導入した。
【0211】
上記液体混合器14からは、耐熱性ポリイミド系ワニスと硬化剤溶液との混合物が供給されるので、この混合物(硬化剤を含有する耐熱性ポリイミド系ワニス)を0.17kg/hrの速度で、上記三層共押出ダイの中心層用流路22a(図2参照)に注入するとともに、熱可塑性ポリイミド系ワニスを0.03kg/hrの速度で、上記三層共押出ダイの外層用流路22b(図2参照)に注入した。
【0212】
上記三層共押出ダイのリップから押し出される三層構造の多層液膜50を、0.17m/分の速度で回転移動するステンレス製のエンドレスベルト16上に流延した。上記三層構造の多層液膜50がエンドレスベルト16に流延された位置から0.5mの距離となる位置に、連続式乾燥炉17の入り口を設置し、形成された多層液膜50を連続式乾燥炉17内に導入して、120℃×100秒の条件で連続的な操作で加熱した。
【0213】
なお、多層液膜50がエンドレスベルト16上に形成された位置から連続式乾燥炉17に入るまでの時間、すなわち上記領域Wにおいて多層液膜50が通過する時間は3分間とした。つまり、多層液膜50は形成されてから3分をかけて、領域Wを通過した後に、乾燥処理されたことになる。このとき、多層液膜50の端部には、上層52(空気に接している層)と中央層51との間、および中央層51と下層53(エンドレスベルト16に接している層)との間に僅かなズレによる剥離が観察された。
【0214】
乾燥処理が終わった後、エンドレスベルト16から多層ゲルフィルム54を引き剥がして観察したところ、ゲルフィルムの殆どの部分において、最下層のゲルと中間層のゲルが剥離していることが観察され、三層構造が破壊されていることが判明した。
【0215】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0216】
以上のように、本発明では、ポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有する多層フィルムを製造する際に、化学脱水剤および触媒(硬化剤)を添加して液膜を含む多層液膜を形成しつつ、各液膜の剥離が生じる前に乾燥処理を開始する。そのため、多層構造を損なうことなく硬化剤の添加による効果を十分に発揮することが可能となる。そのため、本発明は、ポリイミドフィルムを製造する分野に利用することができるだけでなく、さらには、これを用いたFPC、TAB、あるいは高密度記録媒体やその利用分野等、各種電子部品の製造に関わる分野に広くするにも応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0217】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであり、本発明にかかる多層フィルムの製造方法を行う製造装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであり、図1に示す製造装置の製膜部に用いることが可能な三層共押出ダイの構成の一例を示す部分断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示すものであり、上記製膜部として用いることが可能なスライドダイの構成の一例を示す部分断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態を示すものであり、上記製膜部として用いることが可能な単層ダイを組み合わせた構成の一例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0218】
10 製膜部(吐出手段)
11 ワニス用タンク(溶液供給手段)
12a ワニス用タンク(溶液供給手段)
12b ワニス用タンク(溶液供給手段)
13 硬化剤用タンク(溶液供給手段)
14 溶液混合器(溶液供給手段)
15 配管
16 エンドレスベルト(支持体、回転体、ベルト状支持体)
17 連続式乾燥炉(乾燥手段、加熱炉)
18 連続式焼成炉(焼成手段、焼成炉)
21 ダイ本体(共押出ダイ、吐出手段)
31 ダイ本体(スライドダイ、吐出手段)
41a 中央層用単層ダイ
41b 上層用単層ダイ
41c 下層用単層ダイ
50 多層液膜
54 ゲルフィルム
55 ポリイミド系多層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有するポリイミド系多層フィルムの製造方法であって、
ポリイミドまたはその前駆体を含有する有機溶媒溶液を、複数種類、支持体上に積層して多層液膜を形成する多層液膜形成工程と、上記多層液膜を乾燥してゲル化することにより、自己支持性を有する多層ゲルフィルムを得るゲルフィルム形成工程とを含んでおり、
さらに、上記多層液膜形成工程で用いる上記有機溶媒溶液の少なくとも1種には、予め脱水剤および触媒が添加されているとともに、
上記ゲルフィルム形成工程では、上記多層液膜の層間が剥離する前に、当該多層液膜の乾燥を開始することを特徴とするポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項2】
上記多層液膜形成工程では、複数種類の有機溶媒溶液を支持体上に同時に押し出して流延する共押出流延製膜法により多層液膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項3】
上記ゲルフィルム形成工程では、支持体上に多層液膜を形成した時点を起点として2分以内に乾燥を開始することを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項4】
上記ゲルフィルム形成工程では、支持体上に多層液膜を形成した時点を起点として30秒以内に乾燥を開始することを特徴とする請求項3に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
上記ゲルフィルム形成工程において、多層液膜を乾燥する際の温度を60〜200℃の範囲内とすることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
上記複数のポリイミド層には、耐熱性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなる耐熱性ポリイミド層と、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなる熱可塑性ポリイミド層とが含まれており、
上記多層液膜形成工程では、耐熱性ポリイミド層となる液膜の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリイミド層となる液膜が接触するように多層液膜を形成することを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
上記耐熱性ポリイミド層となる有機溶媒溶液のみに、脱水剤および触媒を添加することを特徴とする請求項6に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項8】
さらに、上記多層液膜形成工程の前に、上記有機溶媒溶液を常温未満に冷却する溶液冷却工程を含むことを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項9】
上記溶液冷却工程では、上記有機溶媒溶液を10℃以下に冷却することを特徴とする請求項8に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項10】
上記溶液冷却工程では、上記有機溶媒溶液の冷却温度の下限を−10℃とすることを特徴とする請求項8または9に記載のポリイミド系多層フィルムの製造方法。
【請求項11】
ポリイミドを含有する樹脂組成物からなるポリイミド層を複数有するポリイミド系多層フィルムの製造装置であって、
ポリイミドまたはその前駆体を含有する有機溶媒溶液を冷却しながら供給する溶液供給手段と、
当該溶液供給手段から供給される有機溶媒溶液を液膜状に吐出する吐出手段と、
当該吐出手段から吐出された有機溶媒溶液の液膜を流延させる支持体と、
当該支持体上の液膜をゲル化して、自己支持性を有するゲルフィルムとするために乾燥する乾燥手段と、
ゲルフィルムをイミド化するために焼成する焼成手段とを備えており、
さらに、上記溶液供給手段は、複数種類の有機溶媒溶液を供給可能とするように複数設けられており、かつ、少なくとも一つの溶液供給手段は、予め脱水剤および触媒を含有する有機溶媒溶液を供給可能としており、
上記吐出手段は、支持体上で、複数の液膜が積層されてなる多層液膜を形成可能とするように、上記有機溶媒溶液を吐出するとともに、
上記乾燥手段は、上記多層液膜の層間が剥離する前に、当該多層液膜の乾燥を開始することを特徴とするポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項12】
上記吐出手段は、複数種類の有機溶媒溶液の液膜を支持体上に同時に吐出可能とすることを特徴とする請求項11に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項13】
上記吐出手段が共押出ダイであることを特徴とする請求項12に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項14】
上記支持体が回転体であることを特徴とする請求項11、12または13に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項15】
上記支持体が、複数の回転軸により回転可能に張り渡されたベルト状支持体であることを特徴とする請求項14に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項16】
上記乾燥手段は、支持体上の多層液膜を搬入した状態で、当該多層液膜を加熱する加熱炉であることを特徴とする請求項11ないし15の何れか1項に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項17】
上記支持体は、吐出手段により形成された多層液膜を、形成後2分以内に加熱炉に搬入することを特徴とする請求項16に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項18】
形成後2分以内に多層液膜を加熱炉に搬入できるように、上記吐出手段から加熱炉までの距離、および/または、上記支持体の回転速度が設定されていることを特徴とする請求項17に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。
【請求項19】
上記焼成手段は、支持体上から引き剥がしたゲルフィルムを搬入した状態で、当該ゲルフィルムを焼成する焼成炉であることを特徴とする請求項11ないし18の何れか1項に記載のポリイミド系多層フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−187963(P2006−187963A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1899(P2005−1899)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】