説明

ポリエステルより高純度モノマーを回収する方法及び高純度モノマー、ポリエステル

【課題】本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレート製造時の、エステル化及び/または重合触媒由来の金属を含み、溶剤や、化学物質が付着したポリエチレンテレフタレート製品及び/または廃棄物からであっても、効率的に異物を除去し、分解生成物であるテレフタル酸とエチレングリコールを高純度で得る点である。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを主成分とする製品及び/またはこの廃棄物を回収し、有効成分を回収する方法であって、原料モノマーを回収するに当たり、圧力:10乃至30MPa、温度:200乃至400℃で比誘電率が40以下の水の存在下においてで加水分解反応を行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート廃棄物から有効成分を回収、再使用する方法に関し、詳しくは、ポリエチレンテレフタレートに含有する可能性のある品質に悪影響を及ぼす物質及び/またはボトルとして再使用したときに衛生性に問題のある物質を、製品モノマーまたは、該モノマーを再使用して重合した製品ポリマー中に残留させない方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート製品(ボトル容器、フィルム、繊維他)の消費量は年々増大しており、中でもポリエチレンテレフタレート製ボトル(PETボトル)の消費量増加は著しく、PETボトルだけでも大雑把にみて、1999年は33万トンが消費され、2003年にはその消費量は44万トンに達しようとしている。今後もポリエチレンテレフタレート製品の消費量は年々増加すると予測され、使用済みポリエチレンテレフタレート製品の回収率とリサイクル率を向上することは地球規模で必要不可欠な命題となっている。
【0003】
最近、使用済みPETボトルの分別収集と再商品化が法律で義務付けられ、行政と民間が一体となって使用済みPETボトルの回収とリサイクルに努めている。回収率は年々増加し2003年には60%を超えているが、現在のところ再生品用途が限定されており、回収率の向上と共に再生品用途の拡大も課題となっている。
【0004】
従来、回収されたPETボトルは、市町村が分別・減容圧縮してPETボトルのベール(例えば40×40×60cm程度)とし、再商品化業者に引き渡している。再商品化業者は、これを解俵して金属、塩ビボトル等の異物を分別し、洗浄した後に更に着色ボトルを分別し、次に粉砕してラベル、アルミ等を分別する。更に、洗浄を行い、ポリエチレンテレフタレート以外のプラスチック(ポリエチレン、ポリスチレン等)を分別し、脱水、乾燥を行なった後、更に磁力による金属の分別を行ない、フレークもしくはペレットとしている。このフレークは、利用業者に送られ、該業者はこのフレークもしくはペレットを原料として、カーペット、卵等の包装用シート、短繊維等、PETボトル以外の製品としている。
【0005】
近年PETボトルから再びPETボトルの重合用原料を回収する方法として、ポリエチレンテレフタレートを化学的に分解しオリゴマーもしくはモノマーを回収し再びポリエチレンテレフタレートを重合する方法が各種開発されている。例えば特許文献1に開示されている方法はポリエチレンテレフタレートを原料成分等に加水分解する方法である。
【0006】
この方法ではポリエチレンテレフタレートの原料であるテレフタル酸及び/またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールのエステル化に用いられる触媒由来等金属、及び/またはポリエチレンテレフタレート重縮合時に添加し、樹脂中に残留する触媒由来等金属を完全には除去できないため、得られたテレフタル酸をそのまま高品質な繊維、フィルムや飲料用ボトルなどの原料として使用することはできない。
【0007】
また、薬品や溶剤などの化学物質を消費者が使用済みPETボトルに充填した場合など、化学物質などの不純物が付着した使用済みボトルが回収され再商品化原料とされてしまう。混入する可能性のある化学物質としては、たとえば、シンナー、クリーニング剤などの溶剤、殺虫剤、除草剤、農薬、ワックス、モーターオイル、不凍液などの化学物質など
が考えられる。
【0008】
これら化学物質を残したまま再生品化した場合は、不純物が完全に除去しきれず、特に飲料用ボトルに再生された場合は、中身の飲料に化学物質が移行し、食品衛生上の安全性が確保されにくい可能性があった。
【特許文献1】特開2001−335518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレート製造時の、エステル化及び/または重合触媒由来の金属を含み、溶剤や、化学物質が付着したポリエチレンテレフタレート製品及び/または廃棄物からであっても、効率的に異物を除去し、分解生成物であるテレフタル酸とエチレングリコールを高純度で得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の従来技術に鑑み鋭意検討を行った結果、特定条件下で加水分解することによりポリエステルに付随する異物や不純物を効果的に除去出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の特徴を有する。
(1)ポリエステルを加水分解することにより原料モノマーを得る方法であって、加水分解反応を比誘電率が40以下の水の存在下において、圧力:10乃至30MPa、温度:200乃至400℃で行うことを特徴とする方法。
【0011】
(2)上記方法(1)は、(a)ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコール中に投入し処理するエチレングリコール洗浄工程、(b)得られた処理ポリエステルを溶融状態で水と混合し、モノマーに加水分解する加水分解工程、(c)加水分解生成物を固液分離する固液分離工程、(d)加水分解により得られた原料モノマーを精製する精製工程からなるプロセスにおいて加水分解工程(b)に用いることが好ましい。該プロセスはポリエチレンテレフタレートから高純度の原料モノマーを回収する方法として好適に用いることが出来る。
【0012】
(3)上記加水分解工程(b)後、加水分解生成物を降温、降圧させることにより固体の反応生成物を析出させて回収するにあたり、複数段の晶析槽を用いて降温、降圧操作を多段で行うことが好ましい。多段で行うとテレフタル酸の飛散を防止できる点で好ましい。
【0013】
(4)上記エチレングリコール洗浄工程(a)として、原料であるポリエチレンテレフタレートフレークをエチレングリコール中に投入し、温度:100乃至180℃で加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートに含有及び/または付着する異物を低減させることが好ましい。
【0014】
(5)上記精製工程(d)として、加水分解により得られた粗テレフタル酸を酢酸水溶液に投入し、温度:60乃至140℃で加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートに含有及び/または付着する異物を低減させることが好ましい。
【0015】
(6)上記精製工程(d)として、加水分解により得られた粗テレフタル酸を水素添加処理をすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に掛かるポリエチレンテレフタレートから回収される原料モノマーは、そのままポリエチレンテレフタレートの重合に使用できるので、良好な色調を持つポリエチレンテレフタレート繊維、並びに良好な色相及び透明性を有するフィルム、飲料用PETボトルな
どの食品包装材料を製造できる様になる。この結果ポリエチレンテレフタレート廃棄物の良好なリサイクルが可能となり、省資源化が達成でき、環境保全に貢献できる様になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について具体例を挙げつつ詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法を表すフローチャートである。本実施形態では、使用済みPETボトルを減容圧縮したベールを出発原料としている。このPETボトルベールは、現在市町村が採用している公知の方法によって製造される。勿論、PETボトルベールの替わりに他のポリエステル廃棄物を出発原料としても差し支えないし、PETボトルのフレークを出発原料としても差し支えない。
【0018】
本発明ではこれらポリエステル中のポリエチレンテレフタレートの含有量は90重量%以上が好ましい。この含量以下であると、分別のための労力が膨大となり産業として好適ではない。ポリエチレンテレフタレートとは異なる成分としては、PETボトルのキャップや、ラベルなどに用いられるポリオレフィンやポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂類や、容器のガスバリア目的で混練または多層ボトルの中間層などで使われるナイロン類、ラベル印刷用のインクなど、また飲料缶やビンなどの金属類、ガラス類、飲み残した飲料や、消費者が飲料容器を他の液体の保存容器として転用した場合に混入する様々な化学物質など、廃棄、回収過程で混入が考えられる砂や埃などが挙げられる。
【0019】
(1)前処理工程
PETボトル廃棄物を減容圧縮したPETボトルベールを解梱包することなくベール状のままで粉砕機に連続投入し、温水もしくは常温水又は洗剤を含有する温水もしくは常温水を注入して水中粉砕する。このように、PETボトルベールを解梱包することなく粉砕するので、作業性の向上が図れ、安全衛生対策上も効果的である。更に、粉砕時の混合、摩擦のエネルギーを利用して洗浄を行うことにより洗浄効果が極めて高くなり、食用油や機械油等の除去も洗浄剤によって容易に行われる。従って高度の洗浄効果が得られる。
【0020】
更に、粉砕機から排出されるPETボトルのフレークと洗浄水の混合物は直ちに比重分離処理を行って、夾雑物である金属、石、ガラス、砂とフレークとを分離する。次いで、フレークと洗浄水とを分離し、フレークはイオン交換水で濯ぎ、遠心脱水する。分離された洗浄水及び使用後の濯ぎの水は濾過され、上記水中粉砕用の水として再使用され、汚水は排水処理にかけられる。このようにして前処理工程は極めて単純化される。従って、この前処理工程の自動化も容易に図ることができる。また、このように効果的な粉砕と洗浄が行われるために、本発明によればPETボトル中味が残存していても全く問題がない。
【0021】
(2)エチレングリコール洗浄工程
ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコール中で、温度100乃至180℃で加熱攪拌することにより洗浄し、含有金属量を低減すること、すなわちポリエチレンテレフタレート廃棄物中の金属量CR、エチレングリコール処理後のポリエチレンテレフタレート処理体中の金属量CTとすると、CT/CR<1の式に従うことが好ましい。好ましくはCT/CR<0.8、更に好ましくはCT/CR<0.6の式に従う。洗浄に用いるのはポリエチレンテレフタレートを構成するジオールモノマー成分と等しいことが好ましく、エチレングリコールを用いる。
【0022】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルの分子量が加熱攪拌前にMRであり、加熱攪拌後にMTである時に、MT/MR<1が成り立つことが好ましい。ここで分子量は指標となる固有粘度を用いた。固有粘度はポリエチレンテレフタレート1.2g計量し、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶媒(50/50重量比)を用いて0.5g/dlの試料溶液を調製し、25℃で測定した溶液粘度から算出した。その他の公知の分子量測定法、たとえばゲル浸透クロマトグラフィーなどで測定され
る数平均分子量、重量平均分子量を用いてもよく、いずれもMT/MR<1が成立することが好ましい。
【0023】
前記エステル化及び/または重縮合触媒由来等の金属化合物がAl,Ba,Ca,Cd,Ce,Co,Ge,K,Li,Mg,Mn,Na,P,Pd,Sb,Sn,Ti,Znの内1種またはその組み合わせのいずれかによることが好ましい。
【0024】
前記エステル化及び/または重縮合触媒由来などには、触媒以外の金属混入手段として、重合時及び/または成形加工時にフィラー、難燃剤、染料、顔料、安定剤等として混入することも含まれる。
さらには、ガスバリア性向上目的にナイロンMXD−6が混入した場合、本工程においてナイロンMXD−6のみが選択的にエチレングリコールに溶解し、分離、除去することが可能である。
【0025】
前記ポリエチレンテレフタレート処理はバッチ式、半連続式、連続式いずれでも行うことができる。
ポリエチレンテレフタレートに対するエチレングリコールの量は1乃至100重量倍にすることが好ましく、4乃至40重量倍とすることがさらに好ましい。また、滞留時間は10分乃至2時間保持することが好ましい。次にエチレングリコールからポリエチレンテレフタレートを回収するには、固液分離装置が適用できるが、その他の従来技術で分離してもよい。このとき、溶解した触媒金属がポリエチレンテレフタレート処理体に付着して残らないように、分離後さらに精製したエチレングリコ−ルでポリエチレンテレフタレートを洗浄することが好ましい。さらに蒸留水、イオン交換水等の水で洗浄してもよい。
【0026】
(3)溶融工程
次に上記ポリエチレンテレフタレートを解重合するが、この際該ポリエチレンテレフタレートを溶融して供給することが好ましい。
この場合遠心脱水された程度の水分の多い状態で溶融すると同時に加水分解させて重合度の低いポリエチレンテレフタレート溶融物とし、該ポリエチレンテレフタレート溶融物を高圧高温度下の水と混合し加水分解させると効果的である。
【0027】
溶融させる方法としては、押出機によるものや、溶解槽を用いるものいずれでも可能である。溶解温度は、ポリエステルにより異なるが、260乃至300℃で行うことが好ましい。溶解した樹脂はギアポンプなどを使用して供給することが出来る。
【0028】
(4)加水分解工程
上記工程(3)にて溶融された樹脂は、ポンプにて反応器へ供給される。圧力10乃至30MPaに昇圧されて供給する。該反応器入り口では、水供給装置から昇温、昇圧された、高温高圧水、すなわち温度200乃至400℃の水と前記溶融ポリエチレンテレフタレートが混合されて反応器へ供給される。
圧力及び温度が前記範囲にあると、ポリエチレンテレフタレートの加水分解が効率的に進行する点で好ましい。
【0029】
ここで供給される水に対する溶融ポリエチレンテレフタレートの重量比は2乃至10%、望ましくは3乃至5%に調整されて反応器入り口にて混合されて供給される。また、水の温度はポリエチレンテレフタレート及び/又は反応器内温度よりも高いことが好ましい。すなわち溶融ポリエチレンテレフタレートは加熱された水の熱エネルギーを得ることで、反応温度近傍まで加熱される。
【0030】
反応器内において、水の比誘電率は40以下である。常温の水の比誘電率は80程度で
あるが、常温においては無極性物質の溶解度が低い。そのため、ポリエステル廃棄物が無極性化学物質に汚染されていた場合溶解して除去することが困難である。これら汚染物質が残留したままの回収モノマーを再度重合し、食品容器などに使用するには安全性に問題がある。本発明では比誘電率を40以下まで低減させることで、水に無極性物質が溶けやすい状態となり、混入する無極性汚染物質の除去に効果的である。
【0031】
比誘電率を制御する方法としては、たとえばPure Appl.Chem.,Vol.53,1847(1981)には0〜100℃の水の比誘電率が載せてあり、温度を上げると減少することが示されている。またJ.Mol.Liquids,Vol.68,171(1996)には比誘電率と温度の相関式として
ε=87.85306exp(−0.00456992×温度/℃)
なる式が示されている。
【0032】
前記反応器に供給される水は溶存酸素を脱気しておくことが望ましい。通常常温の水には8乃至12ppm程度の溶存酸素が含まれている。従来高温下においては、溶存酸素が反応器材質の応力腐食割れ原因となることが指摘されているが、溶存酸素は加水分解工程において酸化剤として働き、ポリエチレンテレフタレートの加水分解を促進するにとどまらず、有機物が酸化され不純物の原因となることがある。
【0033】
溶存酸素濃度は0.5ppm以下、好ましくは0.2ppm以下であることが好ましい。溶存酸素の降下方法は公知の方法を使うことが可能である。すなわち窒素などの不活性気体を吹き込み、含有する酸素を追い出すことが出来る。または還元剤として水素を導入することも効果的である。この際、水の温度を上げた方が溶存酸素の除去効果は大きい。
【0034】
反応器は、高温高圧水と溶融ポリエチレンテレフタレートを収容して、超臨界水域又は亜臨界水域を形成し、該ポリエチレンテレフタレートは加水分解する。反応器は、既知のベッセル型と称される縦筒型の反応器であっても、パイプ式と称される管状の反応器であってもよい。
反応器にて反応した処理流体は、超臨界水、又は亜臨界水と、分解生成物である、テレフタル酸、エチレングリコール、分解副生物のほかに、触媒由来等の金属などの無機不純物を含んでいる。反応器出口には濾過体を用いて不溶解分を除去することが望ましい。
【0035】
反応器材質は、Ni基合金のハステロイC276、ハステロイC22やインコネル62
5、MAT21、MCアロイ、インコロイ800、或いはステンレス鋼の表面を、それら合金若しくはTi或いはTi合金のクラッドまたはライニング材とすることが望ましい。中でもTiあるいはTi合金を用いることが特に好ましい。高温高圧下においては水の性状が通常とは異なり、材質の腐食が起こりやすくなる。材質の腐食は機器の寿命や応力腐食割れによる内部流体の流出事故が発生する危険性がある。
【0036】
また、溶存酸素濃度を0.5ppm以下としさらに上述の反応器材質を使用することで、腐食がおきにくいのみならず、ポリエチレンテレフタレート加水分解によって生成する、テレフタル酸、エチレングリコールの品質も向上する。すなわち腐食により金属材質が反応器表面から生成物へ溶出することで生じる、金属由来の着色や、金属の触媒作用でおきるテレフタル酸及びまたはエチレングリコールの変性による着色成分の生成が防止され、良好な色相の原料モノマーを製造することが可能となる。
【0037】
(5)晶析工程
該濾過体を通過した処理流体は、減圧弁にて反応圧力から減圧し、その際、蒸発する水の潜熱により流体の温度は低減される。反応により生成したテレフタル酸は、温度が下がることにより析出する。この降温、降圧操作は、複数段で行われることが好ましい。すな
わち圧力を順次、緩やかに大気圧近くまで戻すことが好ましい。1段で大気圧まで低減させると、減圧弁に大きな力がかかり、また蒸発する水と共に析出したテレフタル酸が、気体放散口にまで飛散し、閉塞させることなどの弊害が生じることがある。
【0038】
(6)固液分離工程
析出したテレフタル酸を回収するため、遠心分離機、板枠型圧濾器、葉状濾過器、円筒型連続真空濾過器、などの分離装置を用いて、固-液分離する。上記操作により脱水した
TAは更に、水とスラリーとして付着した不純物などを分離した後、同様の固液分離装置で脱水し、更に乾燥機で乾燥させる。
【0039】
(7)蒸留工程
上記工程(6)で分離された液体分は、蒸留装置により低沸点有機物を含む水と、重質分を含むエチレングリコールとに分離された後、水はさらに既知の精製手法により精製され、再度水供給装置に供給される。蒸留工程は複数段で行われることが好ましい。複数段で行い、蒸発した水を次工程の熱源として使用する、多重効用缶とすることで、消費エネルギーを低く抑えられる。
【0040】
水と分離した重質分を含むエチレングリコールは、更に蒸留により精製され、エチレングリコールと残渣を含む重質分に分離される。該エチレングリコールは再びEG処理に使用可能であり、ポリエステル製造に使用することも可能であるほか、不凍液原料として使用することが可能である。また重質分又は重質分を含むエチレングリコールは、そのままボイラーなどの燃料として使用することも可能である。
【0041】
(8)酢酸洗浄工程
前記の工程(6)で分離されたテレフタル酸には、モノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート及び/又はビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどの分解途中のエステル体や、安息香酸などの過分解生成物、及び/又はイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその機能的誘導体などが含有していることがある。さらに前記濾過体を通過したポリエステル製造時のエステル交換触媒、エステル化触媒及び/又は重縮合触媒(以下単に触媒と称することがある)由来等の金属化合物が含有していることがある。
【0042】
これら有機及び/又は無機不純物を含むテレフタル酸を公知のテレフタル酸製造プロセスに直接投入することができる。これによって新たに設備を設置することなしに、廃ポリエステルから得られたポリエステルモノマーを再びポリエステルが製造可能な高純度モノマーに精製することが可能となる。該テレフタル酸製造プロセスは、SD法もしくはAmoco法などと呼ばれるプロセスで、たとえば特公昭37―2666号公報に開示されているようなパラキシレンを酢酸溶媒中、空気酸化してテレフタル酸得るプロセスである。このプロセスで酸化反応器から溶媒とともに排出されたテレフタル酸は、遠心分離器により固液分離された後、洗浄のため再び酢酸溶媒によりリスラリーされる。該リスラリー工程に本発明の廃ポリエステルから加水分解により得られた有機及び/又は無機不純物を含むテレフタル酸を投入する。
【0043】
該リスラリー工程において、本発明の廃ポリエステルから加水分解により得られたテレフタル酸に含まれるエステル交換触媒、エステル化化触媒及び/又は重縮合触媒由来等の金属は酢酸に溶解し除去される。ここで該リスラリー工程の温度は60乃至140℃、酢酸に対するテレフタル酸の濃度は10乃至60重量%、望ましくは20乃至50重量%で行われる。また酢酸水溶液には5乃至40重量%の水を含有するものが用いられる。
【0044】
前記のエステル交換触媒、エステル化触媒及び又は重合触媒由来等の金属を含有した酢酸はそのまま、パラキシレン酸化反応器へ供給することができる。
触媒由来等金属を除去したテレフタル酸を公知の設備に従い、固液分離、乾燥を行い、粗テレフタル酸としてサイロに貯留された後、精製工程へ供給される。
【0045】
(9)水添工程
前記の粗テレフタル酸は、たとえばイギリス特許第994769号公報に開示されて
いるような着色不純物の水素添加による除去、及びたとえばイギリス特許第781936号公報に開示されているような再結晶による純度向上といった公知の技術による方法で精製することができる。
【0046】
粗テレフタル酸を水でスラリーにし、テレフタル酸濃度10乃至60重量%、望ましくは20乃至50重量%に調整される。該テレフタル酸スラリーを完全に溶解するまで昇温、昇圧する。テレフタル酸の溶解度より20%で約270℃、50%で約300℃となる。溶解したテレフタル酸水溶液はそのまま公知の水素添加触媒存在下、水素により不純物が水添される。既存のテレフタル酸製造設備であれば主反応は4−カルボキシベンズアルデヒドを水添して水溶性のパラトルイル酸にする反応であるが、本発明のテレフタル酸においては共役二重結合に由来する着色成分の除去が目的となる。しかし異なる目的においても既存の設備の運転条件と全く同様に運転することが可能であり、廃ポリエステル由来のテレフタル酸を供給することによっても何ら制限されるものではない。さらに本発明においては、加水分解工程で得られる粗製テレフタル酸に含まれる モノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート及び/又はビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどの分解途中のエステル体が、高温高圧条件により加水分解され、テレフタル酸の純度が向上する効果も認められる。
【0047】
(10)晶析工程
水添工程を出たテレフタル酸水溶液は直列に連続した数段の晶析ドラムで段階的に降圧、降温が行われる。この課程でテレフタル酸の結晶は徐々に成長し、溶解度の高い有機物由来の不純物は溶解したままでテレフタル酸から分離され、テレフタル酸純度が向上する。
【0048】
上記のようにして高純度の精製テレフタル酸が得られたら、公知の高純度ポリエステルポリマー製造設備において、エチレングリコールとともに原料として使用される。
これらの操作によりバージンと同等、又はそれ以上の高純度のポリエステルポリマーが得られ、公知の技術により各種のポリエステル製品をバージン原料と同様に製造することができる。
【0049】
(PET重合)
高純度ポリマーの製造方法は公知の方法であるが、参考にポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造について以下に説明する。一般に芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとをエステル交換反応させ、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレ−ト及び/又はそのオリゴマ−を形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下に溶融重縮合を行って、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を得る。
【0050】
本発明で用いられる芳香族ジカルボン酸としては、前記廃ポリエステル原料から加水分解により得られた精製テレフタル酸のほかに、パラキシレンから合成される高純度テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を共に用いることができる。
【0051】
同様に脂肪族ジオールとしては、前記廃ポリエステル原料から加水分解により得られた精製エチレングリコールのほか、酸化エチレンから合成されるモノエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコールなどの脂肪族グリコールを用いることができる。
【0052】
また、芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などを原料として使用することができ、脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。
さらに本発明では、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として使用することができる。
【0053】
(12)液相重合工程(エステル化工程)
まず、ポリエステルを製造するに際して、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とをエステル化させる。
【0054】
具体的には、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを含むスラリーを調製する。このようなスラリーには芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体1モルに対して、通常1.005〜1.4モル、好ましくは1.01〜1.3モルの脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体が含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。
エステル化反応は好ましくは2個以上のエステル化反応基を直列に連結した装置を用いてエチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。
【0055】
エステル化反応工程は通常多段で実施され、第1段目のエステル化反応は、通常、反応温度が240乃至270℃、好ましくは245乃至265℃であり、圧力が0.02乃至0.3MPaG、好ましくは0.05乃至0.2MPaGの条件下で行われ、また最終段目のエステル化反応は、通常、反応温度が250乃至280℃、好ましくは255乃至275℃であり、圧力が0乃至0.15MPaG、好ましくは0乃至0.13MPaGの条件下で行われる。
【0056】
エステル化反応を2段階で実施する場合には、第1段目および第2段目のエステル化反応条件がそれぞれ上記の範囲であり、3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段の1段前までエステル化反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件であればよい。
【0057】
例えば、エステル化反応が3段階で実施される場合には、第2段目のエステル化反応の反応温度は通常245乃至275℃、好ましくは250乃至270℃であり、圧力は通常0乃至0.2MPaG、好ましくは0.02乃至0.15MPaGであればよい。
【0058】
これらの各段におけるエステル化反応率は、特に制限はされないが、各段階におけるエステル化反応率の上昇の度合いが滑らかに分配されることが好ましく、さらに最終段目のエステル化反応生成物においては通常90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。
【0059】
このエステル化工程により、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのエステル化反応物(低次縮合物)が得られ、この低次縮合物の数平均分子量が500乃至5000程度である。
上記のようなエステル化工程で得られた低次縮合物は、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0060】
(12)液相重合工程(重縮合工程)
液相重縮合工程においては、公知の重縮合触媒の存在下に、エステル化工程で得られた低次縮合物を、減圧下で、かつポリエステルの融点以上の温度(通常250乃至280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応の脂肪族ジオールを反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
重縮合触媒としては、一般にゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物、スズ化合物などが知られている。
【0061】
重縮合反応は、1段階で行ってもよく、複数段階に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が複数段階で行われる場合には、第1段目の重縮合反応は、反応温度が250乃至290℃、好ましくは260乃至280℃、圧力が66乃至2.7kPa、好ましくは26乃至4.0kPaの条件下で行われ、最終段の重縮合反応は、反応温度が265乃至300℃、好ましくは270乃至295℃、圧力が1.3乃至0.013kPa、好ましくは0.67乃至0.067kPaの条件下で行われる。
【0062】
重縮合反応を3段階以上で実施する場合には、第2段目から最終段目の1段前間での重縮合反応は、上記1段目の反応条件と最終段目の反応条件との間の条件で行われる。例えば、重縮合工程が3段階で行われる場合には、第2段目の重縮合反応は通常、反応温度が260乃至295℃、好ましくは270乃至285℃で、圧力が6.7乃至0.27kPa、好ましくは5.3乃至0.67kPaの条件下で行われる。
【0063】
また、重縮合反応では、安定剤の共存下で行われることが望ましい。安定剤としては具体的に、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;トリフェニルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステル類;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート等のリン酸エステルおよびリン酸、ポリリン酸などのリン化合物が挙げられる。
【0064】
上記の触媒の使用割合は、全重合原料中触媒中の金属重量として2乃至1000ppm、好ましくは4乃至500ppmの範囲とされ、安定剤の使用割合は全原料中、安定剤中のリン原子の重量として通常4乃至1000ppm、好ましくは4乃至500ppmの範囲とされる。また、触媒及び安定剤の供給は、公知技術では原料スラリー調製時の他、エステル化反応の任意の段階において行うことができる。さらに重縮合反応工程の初期に供給することもできる。
【0065】
以上のような液相重縮合工程で得られるポリエステルの固有粘度[IV]は0.40乃至1.0dl/g、好ましくは0.50乃至0.90dl/gであることが望ましい。なお、この液相重縮合工程の最終段目を除く各段階において達成される固有粘度は特に制限されないが、各段階における固有粘度の上昇の度合いが滑らか分配されることが好ましい。
【0066】
この重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融押し出し成形されて粒状(チップ状)に成形される。
【0067】
(13)固相重縮合工程
この液相重縮合工程で得られるポリエステルは、所望によりさらに固相重縮合することができる。固相重縮合工程に供給される粒状ポリエステルは、予め、固相重縮合を行なう場合の温度より低い温度に加熱して予備結晶化を行なった後、固相重縮合工程に供給してもよい。
【0068】
このような予備結晶化工程は、粒状ポリエステルを乾燥状態で通常、120乃至20
0℃、好ましくは130乃至180℃の温度に1分から4時間加熱することによって行なうことができる。またこのような予備結晶化は、粒状ポリエステルを水蒸気雰囲気、水蒸気含有不活性ガス雰囲気下、あるいは水蒸気含有空気雰囲気下で、120乃至200℃の温度で1分間以上加熱することによって行なうこともできる。
【0069】
予備結晶化されたポリエステルは、結晶化度が20乃至50%であることが望ましい。なお、この予備結晶化処理によっては、いわゆるポリエステルの固相重縮合反応は進行せず、予備結晶化されたポリエステルの固有粘度は、液相重縮合後のポリエステルの固有粘度とほぼ同じであり、予備結晶化されたポリエステルの固有粘度と予備結晶化される前のポリエステルの固有粘度との差は、通常0.06dl/g以下である。
【0070】
固相重縮合工程は、少なくとも1段からなり、温度が190乃至230℃、好ましくは195乃至225℃であり、圧力が0.1MPaG乃至1.3kPa、好ましくは常圧から13.3kPaの条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。使用する不活性ガスとしては窒素ガスが望ましい。
【0071】
このような固相重縮合工程を経て得られた粒状ポリエステルには、例えば特公平7-6
4920号公報記載の方法で、水処理を行ってもよく、この水処理は、粒状ポリエステルを水、水蒸気、水蒸気含有不活性ガス、水蒸気含有空気などと接触させることにより行われる。
【0072】
このようにして得られた粒状ポリエステルの固有粘度は、通常0.60乃至1.00dl/g、好ましくは0.75乃至0.95dl/gであることが望ましい。上記のようなエステル化工程と重縮合工程とを含むポリエステルの製造工程はバッチ式、半連続式、連続式のいずれでも行うことができる。
【0073】
このようにして製造されたポリエステルは、従来から公知の添加剤、例えば、安定剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、染顔料等の着色剤などが添加されていてもよく、これらの添加剤はポリエステル製造時のいずれかの段階で添加してもよく、成形加工前、マスターバッチにより添加したものであってもよい。
【0074】
本発明によって得られるポリエステルは、製膜設備でポリエステルフィルムにして各種ポリエステルフィルム製品群としたり、製糸設備でポリエステル原糸や綿とし、繊維衣料、カーペット、自動車用内装材、フトン、床材などの製品としたりすることもできる。また上記ポリマーを固相重合設備で必要な処理を施すことにより、PETボトルやエンジニアリングプラスチックの原料とすることもできる。
【0075】
本発明のリサイクル方法によれば、殆どの、ポリエステルを含有する廃棄物から再び元のポリエステル製品群を生産することができるので、ほぼ完全な「循環型リサイクルシステム」を可能とすることができる。現在、大きな課題となっているPETボトルをはじめ
、繊維廃棄物を包含したポリエステル製品からポリエステル製品への循環が容易に可能となり、一般・産業廃棄物として埋め立て、焼却等の環境汚染型処分をする必要がなくなる。このため、廃棄物処理問題の解決と省資源・省エネルギーを達成できるに有効なリサイクル方法である。
【0076】
(実施例)
以下、実施例により本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定を受けるものではない。なお、実施例中の各数値は以下の方法により求めた。また実施例中において特に断らない限り「部」は「重量部」を示す。
【0077】
(1)固有粘度(以下、IVと略称することもある):チップ及び成形体から切り出した試料を一定量計量し、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン混合溶媒(50/50重量比)を用いて0.5g/dlの試料溶液を調製し、25℃で測定した溶液粘度から固有粘度(IV)を算出した。
(2)金属分析:試料を濃硫酸及び、濃硝酸で分解した後、高周波プラズマ発光分析を用いて測定した。
(3)テレフタル酸純度:テレフタル酸10mgをDMF 10mlに溶解し、高速液体クロマトグラフィー(日本ウォーターズ(株)製2690アライアンスシステム、カラム:Develosil ODS−HG−3 4.6×150mm(野村化学(株)製)、溶媒:0.25%酢酸水溶液/アセトニトリル= 85/15、検出器:UV 254nm)を用いて絶対検量線法で測定した。
(4)b値:日本電色(株)製カラーメーターSQ−300Hを用いて反射光より試料のb値を測定した。
(5)ヘイズ:日本電色(株)製、ヘイズメーターNDH20Dを使用し、ASTMD1003に準ずる方法にて、図2に示すようなを段付角板状の成形物の5mm厚のヘイズを測定した。
(6)汚染物質濃度:試料ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム混合溶媒に溶解し、アセトンを徐々に加えてポリマー部を沈殿させた。上澄みをガスクロマトグラフィー質量分析装置(Agilent6890/5973GC/MS)にてSIM法にて測定した。
(7)EG分析:試料をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード GC−5890)にて検量線法で測定した。
【実施例1】
【0078】
(代理汚染物質)
PETボトルに付着して混入する可能性のある化合物は無数に考えられるため、物理、化学的性質により分類された代理汚染物質をあらかじめPETフレークに吸着させ、その除去効果を確認する実験を行った。
代理汚染物質としては、揮発性,極性物質としてクロルベンゼン、揮発性,非極性物質としてトルエン、不揮発性,極性物質としてベンゾフェノン、不揮発性,非極性物質としてフェニルシクロヘキサン、ステアリン酸メチル、官能性物質としてトリクロロアニソールを選択した。
【0079】
(汚染物質の含浸処理)
SUS製容器にポリエチレン製袋を入れ、その中にPETフレーク(よのペットボトルリサイクル社製)15重量部を投入し、その上へあらかじめ混合しておいた前述の代理汚染物質6種をフレークに対して、それぞれ1000ppm(トリクロロアニソールのみ100ppm)となる量を滴下した。ポリエチレン袋とSUS容器を密閉し、1日数回攪拌し、常温で7日間処理しフレークに汚染物質を含浸させた。
【0080】
(エチレングリコール洗浄工程、図1の工程(2))
5Lフラスコにエチレングリコール3200部を投入し、さらにPETフレーク1500部を加え、攪拌しながら昇温した。160℃まで昇温した後、160℃に保ったまま60分攪拌した。その後グラスフィルターにより濾別し、さらにエチレングリコール300部で洗浄、蒸留水300部で2回洗浄し、濾別することでPETフレーク処理体を得た。
【0081】
得られたPETフレーク処理体の金属分析結果、固有粘度並びに代理汚染物質濃度は表1に示すとおりであった。
【0082】
【表1】

【0083】
(加水分解工程、図1の工程(3)、(4))
PETフレーク処理体2000部を受入槽から連続的にポリエチレンテレフタレート溶解タンクに供給した。ポリエチレンテレフタレート溶解タンクは260℃に保持され、ポリエチレンテレフタレートを溶解させた。一方水タンクから6000部の水(溶存酸素0.2ppm以下に制御)を連続的に供給し、圧力20MPa、温度350℃に昇圧、昇温して反応器入り口で溶融ポリエチレンテレフタレートと混合した後、反応器へ供給した。反応器内は温度300℃、圧力20MPaに保ち、滞留時間30分とし、連続的に塔頂から反応生成物を抜き出した。尚、反応器内の水の比誘電率は前に示した文献J.Mol.Liquids,Vol.68,171(1996)の式より22であった。
【0084】
(固液分離工程、図1の工程(5))
4段の晶析槽で、連続的に降圧、降温することで、テレフタル酸を固体として回収した。固体は100℃の真空オーブンにて5時間乾燥した。得られた固形の分析値を表2に示す。
【0085】
(酢酸洗浄工程、図1の工程(8))
上記テレフタル酸を酢酸洗浄槽に入れ、10倍量の90%酢酸水溶液を加えた。110℃で30分加熱攪拌し、固液分離後リスラリー槽に投入し、10倍量の90%酢酸水溶液と合わせ100℃で30分加熱した。その後固液分離し、固体は100℃の真空オーブンにて5時間乾燥した。得られた固形の分析値を表2に示す。
【0086】
(水添工程、図1の工程(9))
次いで該洗浄テレフタル酸30部を500mlオートクレーブに仕込み、水240部を添加した。水素で圧力3.0MPaGに加圧して、温度265℃まで昇温しテレフタル酸を完全に溶解させた。ここであらかじめオートクレーブ上部につるしておいたPd/C
0.3部を溶解したテレフタル酸水溶液に浸漬させた。さらに280℃まで昇温し、1.5時間水添反応をさせた。その後200℃まで放冷し、その後70℃まで風を送り強制的に冷却した。液温50℃で濾過により固液分離し、精製テレフタル酸を得た。固体は100℃の真空オーブンにて5時間乾燥した。得られた固形の分析値を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
(蒸留工程、図1の工程(7))
固液分離工程で分離したエチレングリコールを含む水溶液を、充填塔型蒸留装置(充填等高さ58cm、充填物:ラシヒリング)を用いて蒸留した。
(水の分離)塔底温度70℃、塔頂温度60℃、圧力18kPaで蒸留した。
(EGの分離)塔底温度130℃、塔頂温度94℃、圧力5kPaで蒸留した。
得られたEGの分析値を表3に示す。
【0089】
【表3】

【実施例2】
【0090】
実施例1の如くして得られた精製テレフタル酸とエチレングリコールを用いて、ポリエステルを重合した。該テレフタル酸13000部及びエチレングリコール5340部を100℃、常圧下でエステル化反応層に供給した。次いで260℃に昇温し、圧力0.1MPaG、窒素雰囲気にて340分間反応させた。反応により精製した水は、常時系外に留去した。
【0091】
次いで常圧に戻したエステル化反応槽に触媒として二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液47.9部(テレフタル酸に対し0.036モル%)と、安定剤としてメチルアシッドホスフェート2.2部(テレフタル酸に対し0.023モル%)を加えた後、エステル化槽内の全量をあらかじめ260℃とした重縮合反応槽に移した。60分かけて260℃から285℃まで昇温するとともに、常圧から20.267kPaまで減圧した。
【0092】
さらに重縮合反応槽での反応を53分間行った後、反応物を重縮合反応槽外にストランド状に抜き出し、水中に浸漬して冷却し、ストランドカッターにて粒状に裁断しポリエチレンテレフタレートを得た。このポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.542dl/gであり、ゲルマニウム含有量は65ppmであった。得られたポリマーの色相b値は−0.1であった。
【0093】
さらに、液相重合によって得られたポリエチレンテレフタレートを固相重合装置に移し、窒素雰囲気下、170℃で2時間結晶化させた後、220℃で10時間固相重合を行い、粒状ポリエチレンテレフタレートを得た。該ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.761dl/g、色相b値0.0のポリエチレンテレフタレートであった。該ポリエチレンテレフタレートを乾燥機にて170℃、5時間乾燥させた後に、射出成形機(名機製作所株式会社製M−70A)で成形した段付角板状の成形物の5mm厚のヘイズは4%であった。飲料用PETボトルとして使用するに十分な品質を備えたポリエチレンテレフタレートであった。
(参考例1)
【0094】
実施例1の(5)晶析工程において、加水分解反応圧力20MPaから1段で常圧に戻す操作をしたところ、減圧弁でテレフタル酸が析出し、抜き出し不能になった。以下の精製操作は行えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の方法によれば、比誘電率を40以下まで低減した水を用いることで、水に無極性物質が溶けやすい状態となり、従来除去が困難であった混入する無極性汚染物質を効果的に低減することが出来るため、純度の高い原料モノマーを得ることができる。またポリエチレンテレフタレート廃棄物をエチレングリコールを用いて処理することで、含有されるポリエチレンテレフタレート製造時の触媒由来等金属を選択的に除去し、得られたポリエチレンテレフタレート処理体を原料として解重合反応を行うことで更に高純度の原料モノマーが回収できる。従ってポリエチレンテレフタレート廃棄物から回収される原料モノマーをそのままポリエチレンテレフタレート重合に使用できるので、良好な色調を持つポリエチレンテレフタレート繊維、並びに良好な色相及び透明性を有するフィルム、中空成形体などを製造できるようになる。この結果ポリエチレンテレフタレート廃棄物の良好なリサイクルが可能となり、省資源化が達成でき、環境保全に貢献できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の加水分解方法を実施するための設備の一例の概略説明図である。
【図2】図2は段付角板状成形物の斜視図である。A部の厚みは約6.5mmであり、B部の厚みは約5mmであり、C部の厚みは約4mmである。このB部を用いて成形物のヘイズを測定した。
【符号の説明】
【0097】
(1)ポリエチレンテレフタレートを粉砕、洗浄、異物分別の処理を行う前処理工程
(2)上記ポリエチレンテレフタレートフレークをエチレングリコール(EG)中に投入し、温度:100乃至180℃で加熱することにより含有異物、特に重合触媒由来の金属を低減するエチレングリコール洗浄工程
(3)上記ポリエチレンテレフタレートフレーク処理体を溶融させる溶融工程
(4)上記ポリエチレンテレフタレートと水との混合物を温度:200乃至400℃、圧力:10乃至30MPaの範囲で加水分解させる加水分解工程
(5)上記加水分解反応生成物を降温、降圧させることにより、反応生成物を析出して回収する晶析工程
(6)上記加水分解生成物の内、主にテレフタル酸よりなる固体成分と主にエチレングリコール及び水よりなる液体成分を分離後乾燥する分離、乾燥工程
(7)上記固液分離工程より得られる濾液を、蒸留によりエチレングリコール及び水に分離する蒸留工程
(8)上記乾燥工程より得られる粗テレフタル酸を酢酸水溶液に投入し、温度:60乃至140℃粗テレフタル酸の濃度1乃至40重量%で処理する酢酸洗浄工程
(9)工程(8)で得られた粗テレフタル酸を水に溶解し、水素添加触媒の存在下、水素添加する水添工程
(10)工程(9)で得られた粗テレフタル酸を降温、降圧させることにより、高純度テレフタル酸を析出させ回収する晶析工程
(11)工程(10)で得られた高純度テレフタル酸(TA)を固液分離後、乾燥する分離、乾燥工程
(12)ポリエステル重合工程の内、液相重合工程(エステル化工程、重縮合工程)
(13)ポリエステル重合工程の内、固相重合工程









【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを加水分解することにより原料モノマーを得る方法であって、加水分解反応を比誘電率が40以下の水の存在下において、圧力:10乃至30MPa、温度:200乃至400℃で行うことを特徴とするポリエステルより原料モノマーを得る方法。
【請求項2】
(a)ポリエチレンテレフタレートをエチレングリコール中に投入し処理するエチレングリコール洗浄工程、(b)得られた処理ポリエステルを溶融状態で水と混合し、モノマーに加水分解する加水分解工程、(c)加水分解生成物を固液分離する固液分離工程、(d)加水分解により得られた原料モノマーを精製する精製工程、からなるポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する方法であって、(b)加水分解工程が請求項1
記載の方法により行われることを特徴とするポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する方法。
【請求項3】
前記加水分解工程(b)の後に、加水分解生成物を降温、降圧させることにより固体の反応生成物を析出させて回収するにあたり、複数段の晶析槽を用いて降温および降圧操作を多段で行うことを特徴とするポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エチレングリコール洗浄工程(a)において、温度:100乃至180℃で加熱することにより、エチレングリコールをポリエチレンテレフタレートに含有させ、及び/またはポリエチレンテレフタレートに付着する異物を低減させることを特徴とする、請求項2乃至請求項3に記載のポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する方法。
【請求項5】
前記精製工程(d)として、加水分解により得られた粗テレフタル酸を酢酸水溶液に投入し、温度:60乃至140℃で加熱することにより、異物を低減させることを特徴とする、ポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する請求項2乃至請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記精製工程(d)として、加水分解により得られた粗テレフタル酸を水素添加処理することを特徴とする、ポリエチレンテレフタレートから高純度モノマーを回収する請求項2乃至請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記請求項2乃至6記載の製造方法で得られるテレフタル酸。
【請求項8】
上記請求項2乃至6に示す製造方法で得られたテレフタル酸を原料に用いて重合したポリエチレンテレフタレート。
【請求項9】
ポリエチレンテレフタレートを請求項1に記載の方法で加水分解して得られたエチレングリコール及び/またはテレフタル酸を原料に用いて重合したポリエチレンテレフタレート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−282520(P2006−282520A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101132(P2005−101132)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】