説明

ポリエステル樹脂組成物、および光反射体

【課題】 光反射体基体の成形時や光反射体とした際に於いても、発生ガスが少なく、光反射体基体表面に設けた金属薄膜層との密着性に優れ、さらに高温雰囲気に曝した場合にも高輝度感を保持する、光反射体基体用ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 表面に光反射層を設ける光反射体基体用ポリエステル樹脂組成物であって、該組成物が(A)ポリエステル樹脂100重量部、(B)重量平均分子量2000以上、酸価が1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満である変性ポリオレフィン樹脂0.05〜2重量部からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に光反射層を設ける光反射体基体用ポリエステル樹脂組成物、およびこれを成形してなる光反射体基体、並びに光反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ランプ等におけるハウジング、リフレクター、エクステンションや家電照明器具等などの光反射体は、ランプ光源の方向性、反射性のために、高い輝度感、平滑性、均一な反射率、さらには光源からの発熱に耐えうる高耐熱性等が要求される。よって光反射体としては、従来、金属製(板金)のものや、バルクモールディングコンパウンド(BMC)やシートモールディングコンパウンド(SMC)に代表される熱硬化性樹脂の表面に、金属メッキ加工や蒸着等により金属薄膜を設けたものが用いられてきた。
【0003】
金属製の光反射体は加工性が悪く、また重く扱い難いという欠点があり、一方、熱硬化性樹脂成形体表面に金属薄膜を有する光反射体は、耐熱性、剛性、寸法安定性をはじめとして優れた特性を有しているものの、成形サイクルが長く、成形の際におけるバリの発生や成形時のモノマー揮発によるガス発生等で作業環境が悪化するなどの問題があった。
【0004】
この様な問題を解決するために、光反射体の高機能化やデザインの多様化に対応し、且つ生産性にも優れる、熱可塑性樹脂を用いた光反射体基体が提案され、近年では熱可塑性樹脂性の光反射体基体の表面に金属薄膜を設けたものが主流となってきている。
【0005】
熱可塑性樹脂製の光反射体基体には、機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ良好な加工性が要求されるので、この様な熱可塑性樹脂として、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂単独またはポリエチレンテレフタレート樹脂と他の樹脂との混合物に様々な強化材を添加配合した樹脂組成物が用いられてきた。そして光反射体基体表面にアンダーコート等の前処理(下塗り)を行った後、真空蒸着等により光反射層として金属薄膜層を形成し、光反射体を製造する方法が一般的であった。
【0006】
しかしアンダーコート等の下塗りは、大幅なコストアップとなるので、アンダーコートしなくとも高い輝度感を有する光反射体を得ることが望まれている。アンダーコートしなくとも成形体の一面に光反射層を付与された反射体が、高い輝度感・均一な反射率を有するには、樹脂成形体自体が良好な表面平滑性を有し、且つ高い光沢性・輝度感を有することが必要となる。またその用途仕様から、樹脂の耐熱性や、成形時等におけるガス発生抑制(低ガス性)も重要な問題である。
【0007】
しかし高輝度を必要とするため、成形金型の表面を著しく研磨せねばならず、このため成形時に成形体取り出しの際の型離れが悪くなり成形サイクルが低下し、離型ムラ模様が成形体表面に現れることがあり、反射率の低下に起因することがある。そこで成形性を低下させないために離型性を向上させることと表面輝度の保持の両立が必要となる。
【0008】
ところで、高光沢感・良表面性を有する成形体を得る上での成形面での手法として、樹脂温度を上げ流動性を向上させる方法や、金型温度を上げて固化速度を遅らせて金型転写性を向上させる方法等が一般的に用いられている。
【0009】
しかしこれらの方法により成形体の外観は向上するものの、樹脂温度、金型温度の上昇は成形時にガス(揮発分)の生成が問題となる。このような揮発分は、成形体表面に曇り(ヘイズ)状の外観不良を発生させることから、連続的に良好な成形体を得ることができず、金型の磨き、拭き取り等の新たな対策が必要となる。さらに高温雰囲気に曝した場合に反射金属表面を犯してしまい、すなわち曇りが発生する問題がある。
【0010】
離型性の向上に対して、材料面では、離型剤の配合が行われており、例えばポリアルキレンテレフタレート樹脂に、変性シリコーンオイル、有機リン化合物および微粉末フィラーを併用する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0011】
一般的な離型剤としては、各種ワックス類が知られている(例えば特許文献2、3参照)。また脂肪酸エステル類、およびその部分鹸化物などの脂肪酸エステル系化合物や、これとシリコーン系化合物を併用する方法も提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平11−241005号公報
【特許文献2】特開2005−146103号公報
【特許文献3】特開2002−105295号公報
【特許文献4】特開2005−41977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし上述したような離型剤、とりわけワックス系の離型剤を多量に含有すると、樹脂成形体からのガス発生を助長してしまい、光反射体基体の表面性・輝度感の低下を招き、さらに光反射層である金属薄膜層の密着性が低下してしまうという問題があった。また光反射体とした後でも、高温度雰囲気下に光反射体を曝すと、光反射体基体を形成する樹脂中の離型剤が揮発し発生するガスにより、金属薄膜層を犯してしまい、曇りが発生するという問題があった。
【0014】
また特許文献3にはポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂に滑剤として変性ポリオレフィン樹脂を用いてはいるが、ここでは焼き付け塗装性の改良を目的としており、一般的に真空蒸着法による樹脂成形体表面への金属薄膜形成とは別技術であり、成形薄膜厚みが大幅に異なることなどから、応用できないものであった。
【0015】
さらには、特許文献3にて実際に用いられている変性ポリオレフィン樹脂は、その酸価が例えば112mgKOH/gと大きく、この様なものを樹脂成形体表面への金属薄膜形成における表面金型転写性(離型性)なる課題解決に用いても、離型不良、曇りを生じてしまい、表面が不均一となるなど、問題を解決することは困難であった。
【0016】
よって離型性に優れ、アンダーコート等が不要であり、樹脂成形体表面に直接、光反射金属層を設けても密着性に優れ、そして輝度感、反射率に優れ、且つ高温使用下でも曇りの発生を抑制した光反射体を提供できる、光反射体基体や、これを形成するための樹脂組成物、とりわけポリエステル樹脂組成物が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上述した課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ポリエステル樹脂に特定の離型成分、具体的には特定少量の変性度を有する、重量平均分子量2000以上で且つ、酸価が特定の低い範囲の酸化変性または酸変性ポリオレフィン樹脂を特定量含有したポリエステル樹脂組成物が、光反射体基体の成形時や光反射体とした際に於いても、発生ガスが少なく、光反射体基体表面に設けた金属薄膜層との密着性に優れることを見出した。そしてこの光反射体は、高温雰囲気に曝した場合にも高輝度感を保持する、優れたものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
即ち本発明の要旨は、表面に光反射層を設ける光反射体基体用ポリエステル樹脂組成物であって、該組成物が、(A)ポリエステル樹脂100重量部、(B)重量平均分子量2000以上、酸価が1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満の酸化変性または酸変性ポリオレフィン樹脂0.05〜2重量部からなることを特徴とする、ポリエステル樹脂組成物、およびこれを成形してなる光反射体基体、並びに光反射体に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光反射体基体は、鏡面鮮明性、表面平滑性等で表される表面外観に優れている。よってこの光反射体基体表面に金属層を設けてなる光反射体を製造する際に、金属蒸着性に優れ、表面性、光反射性に優れた光反射体を提供することができる。さらに加えて、得られた光反射体は、高温環境下においてもこれらの特性の低下が抑制されるので、自動車用ランプにおけるハウジング、リフレクター、エクステンションや家電照明器具等、広範な用途へ好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0021】
(A)ポリエステル樹脂
本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂は、従来公知の任意のポリエステル樹脂を使用できるが、中でも芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。ここで芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステル樹脂を示し、例えば、芳香族ジカルボン酸成分と、ジオール(および/またはそのエステルやハロゲン化物)成分とを主成分とし、これらを重縮合して得られる重合体または共重合体である。
【0022】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4'−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4'−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
【0023】
これら芳香族ジカルボン酸成分は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよく、これら芳香族ジカルボン酸の中では、テレフタル酸が好ましい。尚、本発明の効果を損なわない範囲で、これら芳香族ジカルボン酸と共に、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸を併用してもよい。
【0024】
ジオール成分としては、脂肪族グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール類、脂環式ジオール類、芳香族ジオール類等が挙げられる。脂肪族グリコール類としては、具体的には例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等の炭素数2〜20のものが挙げられ、中でも炭素数2〜12、特に炭素数2〜10の脂肪族グリコール類が好ましい。
【0025】
ポリオキシアルキレングリコール類としては、アルキレン基の炭素数が2〜4で、複数のオキシアルキレン単位を有するグリコール類、具体的には例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、トリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0026】
脂環式ジオール類としては、例えば1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、水素化ビスフェノールA等が挙げられる。また芳香族ジオール類としては、2,2−ビス−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、キシリレングリコール等が挙げられる。
【0027】
その他のジオール成分としては上述したジオール類のエステルや、ハロゲン化物、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなど)付加物などのハロゲン化ジオール類が挙げられる。これらのジオール成分は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。また少量であれば、分子量400〜6000の長鎖ジオール類、具体的には例えばポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を用いてもよい。
【0028】
本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメチレン−テレフタレート)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0029】
またこれらの他に、これらの共重合体や混合物が挙げられる。例えばアルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリマーや、ポリアルキレンテレフタレーを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物が挙げられる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものを用いてもよい。
【0030】
アルキレンテレフタレートコポリエステルとしては、2種以上のジオール成分とテレフタル酸からなるコポリエステルや、ジオール成分とテレフタル酸、およびテレフタル酸以外のジカルボン酸からなるコポリエステルが挙げられる。ジオール成分を2種以上用いる場合には、上述したジオール成分から適宜選択して決定すればよいが、主構成単位であるアルキレンテレフタレートに共重合されるモノマー単位を、25重量%以内とすることで、耐熱性が良好となるので好ましい。
【0031】
具体的には例えば、エチレングリコール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)や、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/テレフタル酸共重合体(イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート)等の、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とする、アルキレンテレフタレートコポリエステルの他に、1,4−ブタンジオール/イソフタル酸/デカンジカルボン酸共重合体等が挙げられ、中でもアルキレンテレフタレートコポリエステルが好ましい。
【0032】
本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂としては、アルキレンテレフタレートのコポリエステルを用いる場合には、上述のイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートや、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートなどが好ましく、特にこれらの内、耐熱性の観点から、イソフタル酸成分が25重量%以内のものが好ましい。
【0033】
ポリアルキレンテレフタレートの混合物としては、例えば、PBTとPBT以外のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT以外のアルキレンテレフタレートコポリエステルとの混合物等が挙げられる。中でもPBTとPETとの混合物や、PBTとポリトリメチレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT/ポリアルキレンイソフタレートとの混合物などが挙げられる。
【0034】
本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂である芳香族ポリエステル樹脂としては、中でも芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用いる、所謂ポリアルキレンテレフタレートやこれらの混合物が好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、PBTやPBT/PETコポリマー、PBTにイソフタル酸を共重合したコポリマー、PBT/PTMG共重合体エラストマー、PET等が好ましく、中でもPBTを主構成単位とするアルキレンテレフタレートやそのコポリエステルが好ましく、特にPBTや、PBTとPBT以外のポリエステル樹脂との混合物であることが好ましい。
【0035】
ポリアルキレンテレフタレートの混合物においては、PBTが、(A)ポリエステル樹脂の40〜100重量%を占めることが好ましく、65〜100重量%を占めることがより好ましい。
【0036】
尚、この様な混合物は溶融混練時や成形時にエステル交換などを生じて耐熱性が低下する場合があるので、適宜、従来公知の任意の有機リン酸エステル化合物等を用いて、耐熱性低下を抑制すればよい。
【0037】
本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限はなく、適宜選択して決定すればよい。通常、1×104〜100×104であり、中でも3×104〜70×104、特に5×104〜50×104であることが好ましい。
【0038】
また本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂の固有粘度[η]は、通常、0.5〜2dl/gであり、中でも0.6〜1.5dl/g、特に0.6dl/g〜1.2dl/gであることが好ましい。尚、ここで固有粘度とは、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの重量比1:1の混合溶媒に試料を溶解し、ウベローデ粘度計を用いて30℃にて測定した粘度である。
【0039】
本発明において(A)ポリエステル樹脂として、ポリアルキレンテレフタレートやそのコポリエステルを用いる際、その固有粘度〔η〕は、好ましくは0.5〜1.5であり、より好ましくは0.6〜1.3である。
【0040】
(A)ポリエステル樹脂としてPBTを用いる場合、PBTの固有粘度は、好ましくは0.6〜1.4であり、PETを用いる場合、PETの固有粘度は、好ましくは0.6〜1.0である。固有粘度を0.6以上とすることにより機械的強度がより向上する傾向にあり、1.4以下とすることにより、溶融成形時の流動性が低下し過ぎず、成形体の表面特性を光反射体としての高輝度を発揮し易い傾向にあり好ましい。
【0041】
また、本発明に用いるポリアルキレンテレフタレートの末端カルボキシル基量は適宜選択して決定すればよいが、通常、PBTにおいては60μeq/g以下、特に50μeq/g以下であることが好ましい。60μeq/g以下とすることにより本発明の樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しにくくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリアルキレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10μeq/g以上である。
【0042】
尚、本発明における(A)ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定して得られた値である。末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0043】
本発明に用いる(A)ポリエステル樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意のものを使用できる。例えば、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とからなるポリブチレンテレフタレートについて説明すると、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを直接エステル化反応させる直接重合法と、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。
【0044】
前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。直接エステル化反応は原料コスト面から有利である。また、ポリエステルの製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。
【0045】
さらに、初期のエステル化(またはエステル交換)反応を連続操作で行い、続く重縮合を回分操作で行う方法や、初期のエステル化(またはエステル交換)反応を回分操作で行い、続く重縮合を連続操作で行う方法も挙げられる。
【0046】
(B)変性ポリオレフィン樹脂
本発明においては、(B)重量平均分子量2000以上、酸価が1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満の変性ポリオレフィン樹脂を、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.05〜2重量部含有する。
【0047】
本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂は、その原料であるポリオレフィン樹脂(以下、「未変性ポリオレフィン樹脂」ということがある。)に、カルボキシル基(カルボン酸(無水物)基、即ちカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を表す。以下同様。)、ハロホルミル基、エステル基、カルボン酸金属塩基、水酸基、アルコシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等の、ポリアルキレンテレフタレート樹脂と親和性のある官能基を付与した、重量平均分子量が2000以上の変性ポリオレフィン樹脂を示す。
【0048】
未変性ポリオレフィン樹脂としては、従来公知の任意のものを使用でき、例えば、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは2〜12、さらに好ましくは2〜10の、オレフィンの一種、または任意の割合の二種以上を含む(共)重合体(重合または共重合を意味する。以下同様。)が挙げられる。
【0049】
炭素数2〜30のオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、炭素数4〜30(好ましくは4〜12、さらに好ましくは4〜10)のα−オレフィン、および炭素数4〜30(好ましくは4〜18、さらに好ましくは4〜8)のジエンが挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンおよび1−ドデセンが挙げられる。ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、11−ドデカジエン等が挙げられる。
【0050】
未変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、ポリブテンや、これらの混合物が挙げられる。これらのうち耐熱性の点からプロピレンホモポリマー、エチレン−プロピレンブロックコポリマー、エチレン−プロピレンランダムコポリマー等の結晶性ポリプロピレン系樹脂およびこれらの混合物が好ましい。
【0051】
未変性ポリオレフィン樹脂としては中でも、(共)重合体モノマーとしてエチレン、プロピレン、炭素数4〜12のα−オレフィン、ブタジエン、イソプレン等が好ましく、更にはエチレン、プロピレン、炭素数4〜8のα−オレフィン、ブタジエンが、特にエチレン、プロピレン、ブタジエンが好ましい。
【0052】
未変性ポリオレフィン樹脂の製造方法は任意であり、特に制限はない。具体的な製造方法としては例えば、ラジカル触媒、金属酸化物触媒、Ziegler触媒、Ziegler−Natta触媒、各種メタロセン触媒等の存在下で(共)重合反応させる方法などにより容易に得ることができる。
【0053】
ラジカル触媒としては例えば、ジターシャルブチルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、デカノイルパーオキサイド、ドデカノイルパーオキサイド、過酸化水素−Fe2+塩およびアゾ化合物等が挙げられる。金属酸化物触媒としては、シリカ−アルミナ担体に酸化クロム等を付着させたものが挙げられる。Ziegler触媒およびZiegler−Natta触媒としては、(C253Al−TiCl4等が挙げられる。
【0054】
本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂は、上述した未変性ポリオレフィン樹脂に、ポリアルキレンテレフタレート樹脂と親和性のある官能基を導入したものである。これら官能基の導入方法は任意であり、従来公知の任意の方法を用いればよい。
【0055】
ポリアルキレンテレフタレート樹脂と親和性のある官能基としては、具体的には例えば、カルボキシル基[カルボン酸(無水物)基すなわちカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を示す。以下同様。]、ハロホルミル基、エステル基、カルボン酸金属塩基、水酸基、アルコシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。
【0056】
カルボキシル基としては、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸などのカルボン酸基を含有する低分子量化合物、スルホン酸などのスルホ基を含有する低分子量化合物、ホスホン酸などのホスホ基を含有する低分子量化合物などを挙げることができる。これらの中でもカルボン酸基を含有する低分子量化合物が好ましく、特にマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸などが好ましい。
【0057】
変性に用いるカルボン酸は、一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。また酸変性ポリオレフィン樹脂における酸の付加量としては、酸変性ポリオレフィン樹脂に対して、通常、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0058】
ハロホルミル基としては具体的には例えば、クロロホルミル基、ブロモホルミル基等が挙げられる。これらの官能基を、未変性ポリオレフィン樹脂に付与する手段は、従来公知の任意の方法によれば良く、具体的には例えば、官能基を有する化合物との共重合や、酸化などの後加工など、いずれの方法でもよい。
【0059】
また、官能基の種類としては、適度なポリアルキレンテレフタレート樹脂との親和性があることから、官能基としてはカルボキシル基であることが好ましい。本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂におけるカルボキシル基の濃度としては、適宜選択して決定すればよいが、低すぎると(A)ポリエステル樹脂との親和性が小さく、揮発分の抑制効果が小さくなり、また離型効果が低下する場合がある。逆に濃度が高すぎると、例えば変性の際にポリオレフィン樹脂を構成する高分子主鎖が過度に切断さて、(B)変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が低下し過ぎることで揮発分の発生が多くなり、ポリエステル樹脂成形体表面に曇りが発生する場合がある。
【0060】
よってこの濃度は、(B)変性ポリオレフィン樹脂の酸価として、1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満、中でも2〜9mgKOH/g、さらには2〜8mgKOH/g、特に3〜8mgKOH/gであることが好ましい。また光反射体基体用においては揮発分が少なく、同時に離型性の改良効果も著しい点で、本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂としては、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0061】
尚、本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂としては、その酸価が1mgKOH/g以下のもの(未変性ポリオレフィン樹脂を含む。)や、10mgKOH/g以上のものを併用してもよい。また、本発明において、複数種類の(B)変性ポリオレフィン樹脂を用いる場合、該(B)変性ポリオレフィン樹脂全体としての酸価が、1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満となれば、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0062】
本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は2000以上である。2000より小さいと揮発分が著しく多くなり、成形体表面に曇りが発生するので好ましくない。上限は特に定めるものではないが、重量平均分子量が大きすぎると、分散性が低下し、成形体の表面性や離型性が低下する傾向にあるので、通常500000以下、中でも300000以下、その中で100000以下、さらにその中でも30000以下、特に10000以下であることが好ましい。
尚、本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂においては、二種以上の変性ポリオレフィンを任意の割合で用いてもよい。この際、用いる全ての(B)変性ポリオレフィン樹脂全体の重量平均分子量が2000以上となれば、2000未満のものを用いてもよい。
【0063】
本発明に用いる(B)変性ポリオレフィン樹脂として、重量平均分子量が20000以上である樹脂の場合には、具体的には例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン樹脂、エチレン−(メタ)アクリレート共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン−グリシジルアクリレート共重合樹脂などが挙げられる。
【0064】
また重量平均分子量が2000以上20000未満の、ワックスタイプとしては、具体的には例えば、酸化ポリエチレン(例えば、クラリアント社製 リコワックスPEDシリーズ、セリダスト3700シリーズなど)、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン(例えば、クラリアント社製 リコワックスARシリーズ)、酸化酢ビ−エチレン共重合体(例えば、クラリアント社製 リコワックス371FP)、アミド変性ポリエチレンワックス(クラリアント社製 セリダスト9615A)等が挙げられる。
【0065】
尚、本発明における重量平均分子量の測定方法は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法であり、また酸価の測定方法は、0.5mol KOHエタノール溶液による電位差滴定法(ASTM D 1386)による。
【0066】
本発明における成分(B)変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、成分(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.05〜2重量部である。0.05重量部未満では、射出成形時の離型不良により表面性が低下し、逆に2重量部を超えると、樹脂成形体表面へ金属層、特に金属蒸着層を設けても、金属表面のくもりが見られる。よって成分(B)の含有量は、成分(A)100重量部に対して、中でも0.07〜1重量部、特に0.1〜0.8重量部であることが好ましい。
【0067】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記(A)ポリエステル樹脂と、(B)変性ポリオレフィン樹脂のみから構成されていてもよいが、他の構成成分を含んでいてもよい。この場合、本発明のポリエステル樹脂組成物の70重量%以上が、(A)ポリエステル樹脂と(B)変性ポリオレフィン樹脂から構成されていることが好ましい。
以下に、本発明のポリエステル樹脂組成物に添加してもよい、他の構成成分について、説明する。
【0068】
(C)微粉末フィラー
本発明のポリエステル樹脂組成物においては、さらに、耐熱性、成形サイクルの改善のため、微粉末フィラーを含有することが好ましい。微粉末フィラーとしては、具体的には例えば、シリカ、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト、石英、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、雲母、黒鉛、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化珪素、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を任意の割合で併用してもよい。また微粉末フィラーは、必要に応じて表面処理が施されていてもよい。
【0069】
これらの中でも、シリカ、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト、石英、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、雲母等の、鉱物系微粉末フィラーや複合酸化物系微粉末フィラーが好ましく、さらにはカオリンや焼成カオリン、タルクが好ましく、特に、焼成カオリンやタルクが好ましい。焼成カオリンは小粒子径で且つ結晶水が少ないと言う点が、またタルクは結晶表面の水酸基が少ない点が、加熱時における樹脂成分の分解を抑制できるので好ましい。つまり、樹脂成分の分解によるガス発生が抑制できるので、金型や光反射体基体用樹脂成形体の汚染を防止し、更にこの樹脂成形体上へ反射層を設けた光反射体基体とした際、反射層の曇り等を防止できるので好ましい。
【0070】
微粉末フィラーの平均粒子径は適宜選択して決定すればよいが、中でも10μm以下、更には5μm以下、特に0.1〜4μmであることが好ましい。ここで平均粒子径とは、微粒子フィラーを3%中性洗剤水溶液に適量加え、攪拌して得られた微粒子の分散液を堀場製作所社製 LA−700レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られた値である。
【0071】
また微粉末フィラーの吸油量は適宜選択して決定すればよいが、通常、10ml/100g以上であり、中でも30ml/100g以上、特に40〜1000ml/100gであることが好ましい。ここで吸油量とは、JIS K−5101−13−2法で測定した値である。吸油量を10ml/100g以上とすることにより、溶融成形時や高温雰囲気下で発生するガスのトラップが効果的に行われ、光反射体の曇り防止が良好になる傾向がある。逆に1000ml/100g以下とすることにより、溶融成形において流動性が向上する傾向にあり、また機械的強度が向上する傾向にあり好ましい。
【0072】
本発明のポリエステル樹脂組成物における微粉末フィラーの含有量は適宜選択して決定すればよいが、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましく、1〜45重量部であることがより好ましく、0.1〜30重量部であることがさらに好ましい。配合量を0.1重量部以上とすることにより耐熱性、成形サイクルが改善される傾向にあり、逆に50重量部以下とすることによりフィラーが成形体表面に相対的に多く浮き出すのが抑制される傾向にあり、結果として、その表面へアルミ等の金属を蒸着した後、光沢性が向上する傾向にある。
【0073】
特に収縮率調整等の目的で、微粉末フィラーの含有量を高くする場合には、光反射体表面の光沢性低下を引き起こす場合があるので、(A)ポリエステル樹脂として二種以上のポリエステル樹脂混合物を用いることが好ましい。具体的には例えば、ポリブチレンテレフタレートと、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、および/またはイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート等との混合物が挙げられる。
【0074】
(D)有機リン化合物
本発明においては、(D)有機リン化合物を、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部含有することが好ましい。有機リン化合物を含有することで、例えば上述の様に、複数種のポリエステル樹脂を用いる際に生ずるエステル交換反応を制御し、また耐熱性を維持し易くなるので好ましい。
【0075】
本発明に用いる(D)有機リン化合物としては、従来公知の任意の有機リン化合物、具体的には例えば、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物または有機ホスホナイト化合物等を用いることができる。中でも(A)ポリエステル樹脂として複数種の樹脂を用いた場合に生ずるエステル交換反応の抑制と言う観点から、有機ホスフェート化合物が好ましい。
【0076】
有機ホスフェート化合物としては、中でも以下の式(1)で表される、長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物等が好ましい。
【0077】
【化1】

(式中、R1およびR2は、各々、炭素数8〜30のアルキル基を示す。)
【0078】
炭素数8〜30のアルキル基は、好ましくは、炭素数10〜24のアルキル基であり、例えば、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0079】
長鎖ジアルキルアシッドホスフェート化合物としては、具体的には例えば、ジオクチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソオクチルホスフェート、ジノニルホスフェート、ジイソノニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジイソデシルホスフェート、ジラウリルホスフェート、ジトリデシルホスフェート、ジイソトリデシルホスフェート、ジミリスチルホスフェート、ジパルミチルホスフェート、ジステアリルホスフェート、ジエイコシルホスフェート、ジトリアコンチルホスフェート等が挙げられる。中でもジステアリルホスフェート、ジパルミチルホスフェート、ジミリスチルホスフェート等が好ましい。
【0080】
本発明における(D)有機リン化合物の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.01〜1重量部であることが好ましい。含有量を前記範囲内とすることにより、(D)有機リン化合物の添加効果である熱安定性や熱滞留安定性を向上させつつ、熱安定性や滞留安定性以外の性能に悪影響を抑制できる傾向にあり好ましい。(D)有機リン化合物の含有量は、中でも0.05〜0.5重量部、特に0.07〜0.4重量部であることが好ましい。
【0081】
また本発明においては、光反射体基体を構成する樹脂組成物の成形時の熱安定性を高め、特に連続的に射出成形された場合でも、得られた成形体から発生するガス、低分子成分、染み出し物等の影響による外観・輝度感の低下を抑制する目的で、さらに酸化防止剤・熱安定剤を添加することができる。
【0082】
本発明に使用することができる酸化防止剤・熱安定剤としては、上述した(D)有機リン化合物を含む、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類および有機リン化合物類等が挙げられる。またこれらは、単独で、または2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0083】
これら酸化防止剤・熱安定剤を用いることで、押出し成形時や成形機内での溶融熱安定性向上に効果があり、ガスの付着による表面曇りの発生を抑制するので、良好な外観・表面平滑性を有する光反射体基体となる樹脂成形体を、連続的に長時間生産する上で有用である。さらには、この基体を用いた光反射体が高温条件下に晒された際にも、樹脂から発生するガスや分解物の生成を抑制し、良好な外観・表面平滑性を維持する効果がある。
【0084】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、良好な外観、成形収縮等を目的としてポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂などの樹脂や通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料等を含有することができる。
これらの添加剤の含量は、本発明のポリエステル樹脂組成物の10重量%以下であることが好ましい。
【0085】
このため、本発明に係る組成物からなる成形体を用いて直接蒸着工程により製造される光反射体は、良好な外観、耐熱性、熱安定性を有している。組成物の調製 本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、上述した各成分を、従来公知の任意の方法により混合、混練して得ることができる。
【0086】
混合・混練方法としては、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機などを用いる方法により行うことができる。混練時の加熱温度は、適宜選択して決定すればよいが、通常230〜300℃である。
【0087】
本発明の光反射体は、上述の方法で得られたポリエステル樹脂成形体を基体として、その表面に光反射層を設けてなるものである。本発明の樹脂成形体の成形方法としては特に制限は無く、従来公知の任意の成形方法を用いればよい。例えば、射出成形、ガスアシスト射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形、回転成形等が挙げられる。中でも、生産性と、得られる樹脂成形体の表面性が良好なことから、射出成形法により成形することが好ましい。
【0088】
本発明の光反射体は、上述したポリエステル樹脂組成物からなる光反射体基体表面に、光反射層を設けてなるものである。光反射層は、例えば、金属蒸着を行ない、金属層を形成することにより得られる。金属蒸着の方法は特に制限はなく、従来公知の任意の方法を用いればよい。具体的には例えば、以下に示す方法が挙げられる。
【0089】
樹脂成形体を真空状態下の蒸着装置内に静置し、アルゴン等の不活性ガスと酸素を導入後、成形品表面にプラズマ活性化処理を施す。次に蒸着装置内においてターゲットを担持した電極に通電し、チャンバー内に誘導放電したプラズマによりスパッタしたスパッタ粒子(例えばアルミ粒子)を成形体に付着させる。さらに必要に応じて、そしてアルミニウム蒸着膜の保護膜として、珪素を含むガスをプラズマ重合処理するか、または酸化珪素をイオンプレーティング法等により、アルミニウム蒸着膜の表面に付着してもよい。
【0090】
本発明においては、中でも、樹脂成形体(光反射体基体)表面に、アンダーコートを形成することなく、直接、金属層を設けることにより、本発明の効果が顕著となるので好ましい。つまり、上述した光反射体基体は、表面性に優れ、その表面にプライマー処理を施さずに直接、金属蒸着しても、金属層との接着性に優れ、良好な光沢表面が得られる。そしてさらに、射出成形時においても樹脂成形体の離型性が高いので、金型の転写むら発生も抑制できるのである。
【0091】
蒸着する金属としては、具体的には例えば、クロム、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられ、中でもアルミニウムが好ましい。尚、光反射体基体表面と金属層との接着力を上げるために、蒸着前に、光反射体基体である樹脂成形体表面を洗浄、脱脂してもよい。
【0092】
本発明の光反射体は、自動車用等のランプにおけるハウジング、リフレクター、エクステンションとして、特に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
これらの実施例および比較例においては下記の成分を使用した。
【0095】
[ポリエステル樹脂](ポリアルキレンテレフタレート樹脂)
(1)ポリブチレンテレフタレート(PBT):三菱エンジニアリングプラスチックス(MEP)社製ノバデュラン5008 η=0.85、末端カルボキシル基量20μeq/g、Mn20,000
【0096】
(2)ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体(IPA共重合PBT):MEP社製ノバデュラン5605 η=0.85 末端カルボキシル基量20μeq/g
【0097】
(3)ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール共重合体(PTMG共重合PBT):MEP社製ノバデュラン5505、η=0.90 末端カルボキシル基量20μeq/g
【0098】
(4)ポリエチレンテレフタレート(PET):三菱化学社製GS385 η=0.65
【0099】
(5)ポリトリメチレンテレフタレート(PTT):シェルケミカルズ社製Corterra9200 η=0.92
【0100】
[変性ポリオレフィン樹脂]
(6)酸化ポリエチレンワックス:クラリアント社製リコワックス 分子量5500、酸価3〜5mgKOH/g (酸化ポリエチレンワックス(クラリアント社製リコワックスPED522、分子量3100、酸価22〜28mgKOH/g)と、ポリエチレンワックス(クラリアント社製リコワックスPE520、分子量6000、酸価0mgKOH/g)との混合物)
【0101】
(7)酸化ポリエチレンワックス:クラリアント社製リコワックスPED521 分子量4200、酸価15〜19mgKOH/g
【0102】
(8)酸化ポリエチレンワックス:クラリアント社製リコワックスPED522 分子量3100、酸価22〜28mgKOH/g
【0103】
(9)無水マレイン酸グラフトポリエチレンワックス:以下に示す方法により得られたものである。
無水マレイン酸、ラジカル発生剤、およびポリエチレンワックス(三洋化成社製サンワックス171P)とを、よく混合し、150℃設定の押出機で混連してポリエチレンワックスの無水マレイン酸グラフト変性を行った。冷却後、粉砕した。得られた変性ポリエチレンワックスの分子量は900、酸価11mgKOH/gであった。
【0104】
(10)ポリエチレンワックス:クラリアント社製リコワックスPE130 分子量4800 酸価0mgKOH/g
【0105】
(11)脂肪酸エステル(グリセリンモノステアレート):理研ビタミン社製 リケマールS100A
【0106】
[微粉末フィラー]
(12)焼成カオリン:ENGELHARD社製 ウルトレックス98 平均粒子径0.75μm 吸油量90ml/100g
(12')タルク:林化成社製 ミセルトン 平均粒子径1.4μm、吸油量50ml/100g
【0107】
[有機リン酸エステル]
(13)オキシエチルアシッドホスフェート:城北化学社製 JP−502
(14)ステアリン酸ホスフェート:旭電化社製 AX−71
【0108】
[試験・評価方法]
樹脂成形体離型ムラ模様:
後述する方法により作製した樹脂成形体の表面の離型ムラ模様の有無を目視により観察し、以下に示す判断基準で評価した。
○:離型ムラ模様がまったくみられない。
△:離型ムラ模様が極僅かに観られるが、実用範囲内と判断される。
×:離型ムラ模様がかなり認められた。
【0109】
光反射体外観:
後述する方法により作製したアルミ蒸着を行った光反射体に対して、目視にて観察し、以下に示すA〜Eの基準により、外観を評価した。次いで光反射体を熱風乾燥機(ヤマト科学社製送風定温恒温器DN−43)で160℃、24時間および180℃、24時間の2条件で加熱処理後の試料についても同様に目視にて評価した。
【0110】
A:輝度感が高く曇りも無く、反射像が鮮明に映る。熱処理後も曇りはみられない。
B:高い輝度感を有するが反射像は多少ぼやける。熱処理後は曇りが多少みられた。
C:高い輝度感を有するものの反射像はぼやける。熱処理後は曇りがみられた。
D:表面が均一でなく反射像は歪んで見える。熱処理後は曇りがみられた。
E:表面が均一でなく反射像を認識できない。熱処理後は曇りが酷く、表面が白化した。
【0111】
加熱処理後の反射率:
後述する方法により作製したアルミ蒸着した試料を熱風乾燥機で180℃、24時間加熱処理した試料を分光測色計(コニカミノルタ社製CM−3600d)にて反射率を測定した。
【0112】
テープ剥離性:
後述する方法により作製したアルミ蒸着した試料を熱風乾燥機で180℃、24時間加熱処理した後、アルミ蒸着面にナイフで傷を入れ、その上からセロハンテープを貼り付け、そのセロハンテープをはがした時の接着性を以下に示す基準により評価した。
【0113】
○:アルミ蒸着膜の剥がれが殆どみられない。
△:アルミ蒸着膜の剥がれが多少みられる。
×:アルミ蒸着膜剥がれが著しい。
【0114】
〔実施例1〜12、比較例1〜9〕
ポリエステル樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、微粒子フィラー、およびその他の添加剤を、表1の組成で十分にドライブレンドした後、250℃に設定した2軸スクリュウ押出機を用い、15Kg/時間の押出速度でペレット化した。
【0115】
得られたペレットを射出成形前に120℃、6時間乾燥し、型締め力が75tonの射出成形機を用い、成形温度265℃、成形体形状が100mm×100mm×3mmの鏡面金型を用い、金型温度110℃で成形して、樹脂成形体を得た。射出成形時の離型性は良好であり、無抵抗で成形体の取り出しが可能であった。
【0116】
得られた樹脂成形体の表面に、プライマー処理を施さずにアルミ膜厚140nmになるよう、アルミ蒸着を行って、アルミ蒸着を行った光反射体を得た。また上述したペレットを用いて、射出成形機で、成形温度265℃、金型温度80℃にて、ISO試験片を成形した。
【0117】
以上の試験・評価結果を、各成分を重量部で表し、表1〜表3に示した。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
表1〜表3より、本発明の様に変性ポリオレフィン樹脂を用いた実施例1〜12は、多種類の離型剤等の成分を使用した比較例1〜9と比較すると、離型性や、高温雰囲気暴露後の表面外観性、光反射率、およびテープ剥離性がいずれも良好である。反射率については数%の差であっても光反射体としての性能を左右する重要な特性であるので、本発明の樹脂組成物、およびこれを用いた光反射体としてが、良好な特性を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明により、樹脂製の光反射体基体を射出成形等により成形する際、金型離型性、ガス発生抑制、表面性に優れた樹脂成形体を得ることが可能になる。さらに、樹脂下地層等を設けなくとも樹脂成形体表面に金属蒸着膜等の光反射層を直接設けることができる光反射体基体、および高温度雰囲気に曝されても高輝度感の保持が可能な、光反射体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光反射層を設ける光反射体基体用ポリエステル樹脂組成物であって、該組成物が(A)ポリエステル樹脂100重量部、(B)重量平均分子量2000以上、酸価が1mgKOH/gを超えて10mgKOH/g未満である変性ポリオレフィン樹脂0.05〜2重量部を含むことを特徴とする、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(B)変性ポリオレフィン樹脂が、酸化ポリエチレンワックスであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(C)平均粒子径が10μm以下の微粉末フィラーを、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(C)微粉末フィラーの吸油量が30ml/100g以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(D)有機リン化合物を、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリエステル樹脂の少なくとも1種が、芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
(A)ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジメチレン−テレフタレート)樹脂およびポリトリメチレンテレフタレート樹脂から選択される少なくとも1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
(A)ポリエステル樹脂の少なくとも1種が、ポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリエステル樹脂の、100〜40重量%がポリブチレンテレフタレート樹脂であり、0〜60重量%がポリブチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量が、60μeq/g以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
(A)ポリエステル樹脂の固有粘度が0.6〜1.4であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
(B)変性ポリオレフィン樹脂の酸価が2〜9mgKOH/gである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなる光反射体基体。
【請求項14】
請求項13に記載の光反射体基体の表面に光反射層を設けてなる光反射体。
【請求項15】
光反射層が蒸着金属膜であって、該金属蒸着膜が光反射体基体表面と接していることを特徴とする請求項14に記載の光反射体。

【公開番号】特開2008−280498(P2008−280498A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191649(P2007−191649)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】