説明

ポリエステル系乾式不織布とこれに用いる複合繊維及び複合繊維用樹脂

【課題】 アンチモン触媒を使用することなく得られる繊維製造用の低融点ポリエステル樹脂及び潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂と、乾式不織布の製造工程において、静電気による繊維塊の発生を防止することができる熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維、及びこれらからなる乾式不織布を提供する。
【解決手段】 テレフタル酸を主たる酸成分、エチレングリコールと1,4−ブタンジオールを主たるジオール成分とし、かつ、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を含有する低融点ポリエステル樹脂とこれらからなる熱接着性複合バインダー繊維。エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂を構成する酸成分としてイソフタル酸と金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸を含有するポリエステル樹脂とこれらからなる潜在捲縮性ポリエステル複合繊維並びにこれらの繊維を使用した乾式不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性や均一性及び風合いに優れるポリエステル系乾式不織布と、この乾式不織布を製造するのに好適な熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維、及びこれらの複合繊維を製造するのに好適な低融点ポリエステル樹脂と潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生材料分野をはじめとして様々な分野において、ポリエステル等の熱可塑性樹脂からなる短繊維とバインダー繊維からなる乾式不織布が広く使用されている。
【0003】
一般に、短繊維を用いて乾式不織布を得る場合、特にエアレイド法では、繊維を解繊して空気の流れにのせて搬送し、金網又は細孔を有するスクリーンを通過させた後、ワイヤーメッシュ上に落下堆積させる方法が採用される。この場合、短繊維の解繊、搬送、分散、積層工程において、繊維−繊維間及び繊維−金属間では摩擦が大きく、静電気が発生しやすく、このため繊維塊が生成しやすいという問題がある。また、一旦繊維塊が生じると、各工程での通過性が悪化し、操業性が低下することはもちろん、得られる不織布においても堆積した繊維が不均一となり、斑の生じた不織布となって製品の品位が著しく低下する。
【0004】
今日では、製品の高級化及び高機能化等の差別化のために、機能性を有する熱可塑性樹脂製の繊維が多く用いられ、中には低温加工を必要とする繊維、高粘着性を有する熱可塑性樹脂製の繊維等、従来の繊維に比べてさらに繊維−繊維間の摩擦及び繊維−金属間の摩擦が大きくなる繊維が使用されている。また、製造加工効率を向上させるために加工速度の高速化も図られている。これらの要因により、乾式不織布、特にエアレイド法による乾式不織布の製造工程における静電気の発生量は多くなり、繊維塊の発生も多くなっている。
【0005】
このような問題を解決するためには、制電性や平滑性を付与する仕上げ油剤等の繊維処理剤を繊維表面に付着させることが有効である。平滑性及び制電性を付与する仕上げ油剤としては、ワックス又は脂肪酸を中心とする脂肪族類、長鎖アルキル基を含有する第4級アンモニウム塩類が広く使用されている。しかしながら、これらの脂肪族類等は繊維に制電性をある程度付与することはできるが、十分な平滑性は付与できなかった。
【0006】
一方、優れた平滑性を付与する繊維仕上げ油剤としてシリコーン系仕上げ油剤が知られており、例えばジメチルシロキサン乳化重合物、アミン変成シリコーン等が付与された繊維及び繊維コードが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、上記ジメチルシロキサン乳化重合物、アミン変性シリコーン共に制電性付与が十分ではなく、さらには親水性を阻害するとともに繊維及び得られた製品が黄変するという問題があった。また、これら技術は、短繊維ではなく長繊維(繊維コード)に関するものであり、短繊維不織布の製造工程における静電気の発生による問題点を解決できるものではなかった。
【0008】
また、平滑性と制電性及び親水性の付与された繊維として、アルキルホスフェート塩とアミド基含有ポリオキシアルキレン変性シリコーン組成物の混合物で処理した高平滑性繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、この繊維においても特別な処理剤を用いることにより平滑性や制電性を付与するものであって、操業性やコスト的にも不利になるという問題があった。 また、得られる不織布に対するニーズは様々であり、不織布に高機能性を付与する目的で様々な処理を施すため、繊維に付与された処理剤により、得られた不織布に変色や着色が生じるなどの新たな問題もあり、品質面でも不十分であった。
【0010】
ところで、上記した乾式不織布を構成する短繊維の代表的な素材であるポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの重縮合触媒としては、従来より三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは安価で、かつ優れた触媒活性を有する重縮合触媒であるが、近年、環境面からアンチモンの安全性に対する問題が欧米をはじめ各国で指摘されている。
【0011】
現状では、三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒として、テトラアルコキシチタネートやゲルマニウム化合物等が実用化されてきているが、テトラアルコキシチタネートを用いたポリエステルは著しく着色し、かつ熱分解を容易に起こすという問題がある。また、ゲルマニウム化合物は非常に高価であるばかりか、反応中に系外へ溜出しやすく、反応系の触媒濃度が変化して反応の制御が困難になるという問題がある。
【特許文献1】特公昭48−1480号公報
【特許文献2】特開平9−67772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を解決し、重合時にアンチモン系触媒を使用することなく、制電性に優れたバインダー繊維用の低融点ポリエステル樹脂や潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、これら樹脂を用いることにより、均一性に優れ、品質が高く、かつ嵩高性も十分な不織布を得ることができる熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維、及びこれらの繊維で構成されるポリエステル系乾式不織布を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の構成を要旨とするものである。
(1)テレフタル酸を主たる酸成分、モル比80/20〜30/70のエチレングリコールと1,4−ブタンジオールを主たるジオール成分とし、かつ、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有することを特徴とする低融点ポリエステル樹脂。
(2)上記(1)記載の低融点ポリエステル樹脂(A)と、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する。)又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有している結晶融点が220℃以上のポリエステル樹脂(B)とからなり、低融点ポリエステル樹脂(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めていることを特徴とする熱接着性複合バインダー繊維。
【0015】
(3)エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂を構成する酸成分のうち、イソフタル酸が1〜12モル%、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸が1〜6モル%であり、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有することを特徴とする潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂。
(4)PET又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有している結晶融点が220℃以上のポリエステル樹脂(B)と、上記(3)記載の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)とからなり、前記樹脂(B)、(C)がサイドバイサイド型又は偏心芯鞘型に接合されてなることを特徴とする潜在捲縮性ポリエステル複合繊維。
(5)上記(2)記載の熱接着性複合バインダー繊維と、上記(4)記載の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維とを質量比10/90〜50/50の割合で混合して形成されたことを特徴とするポリエステル系乾式不織布。
【発明の効果】
【0016】
本発明の低融点ポリエステル樹脂と潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂を使用すれば、熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維を、熱延伸法により、低コストで操業性よく得ることができる。
【0017】
また、本発明のこれらの繊維を使用することにより、乾式不織布の製造工程において、特別な処理剤を繊維表面に付与することなく、繊維−繊維間や繊維−機械間の摩擦によって発生する静電気に起因する繊維塊の発生を防止することが可能となる。その結果、本発明の不織布においては、外観を損なうことなく優れた接着性と捲縮性を発現させることができると共に、均一性、品質、嵩高性に優れたものとなる。
【0018】
さらに、本発明の熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維を形成する低融点ポリエステル樹脂と潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂等は、重合触媒としてアンチモンに代表される重金属を用いていないので環境に優しいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の低融点ポリエステル樹脂(以下、低融点ポリエステル樹脂(A)と称することもある。)としては、熱接着性複合バインダー繊維(以下、複合バインダー繊維と称することがある。) を製造するのに好適な樹脂であり、テレフタル酸を主たる酸成分とし、モル比80/20〜30/70、好ましくは70/30〜40/60のエチレングリコールと1,4−ブタンジオール (いずれもエステル形成性誘導体を含む) を主たるジオール成分とするものである。
【0020】
ここで、1,4−ブタンジオールのモル比が20未満の場合、得られるポリエステルの結晶性が悪くなる。逆に当該モル比が70を超える場合、重縮合反応中にテトラヒドロフランが多量に生成してポリエステルの熱安定性が悪くなり、紡糸時に糸切れが多発するなど操業性が悪くなる。
【0021】
なお、本発明の低融点ポリエステル樹脂においては、その特性が大きく変化しない範囲で、他の成分、例えば、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸などのジカルボン酸類や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、ビスフエノールA、ビスフエノールSなどの多価アルコール類、4−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、及びこれらのエステル形成性誘導体を共重合成分として併用してもよい。
【0022】
また、本発明の低融点ポリエステル樹脂の結晶融点としては、100〜190℃であることが好ましい。当該結晶融点が100℃未満の場合、複合バインダー繊維としたとき、接着した繊維製品を高温雰囲気下で使用すると接着強度が低下したり、型崩れを起こしたりするため好ましくない。一方、結晶融点が190℃を超える場合、熱接着温度が主体繊維の融点に近い高温となるため、熱接着にあたって主体繊維自体の物性や不織布等の繊維構造物の形状を損なう場合があり好ましくない。
【0023】
次に、本発明の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)(以下、本発明のポリエステル樹脂(C)と略記する。)としては、エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂を構成する酸成分のうち、イソフタル酸が1〜12モル%、好ましくは2〜9モル%であり、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸が1〜6モル%、好ましくは2〜5.5モル%であることが必要である。
【0024】
ここで、イソフタル酸の共重合量が1モル%未満の場合、繊維を熱処理したときの捲縮発現性が劣るため、不織布の伸縮性が低くなる。一方、当該共重合量が12モル%を超える場合、チップ乾燥時に融着を起こすため好ましくない。また、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸が1モル%未満になると、得られた潜在捲縮性複合繊維の強度が高すぎるため、作成した不織布等は裁断加工時の切断性が悪く、このため切断面に毛羽が発生し、不織布等の品位を著しく低下させる。一方、6モル%を超えると、樹脂の溶融粘度が高くなるため、目標の極限粘度のポリエステルを得ることができず、十分な潜在捲縮性能を有する繊維が得られない。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂(C)の極限粘度としては、0.58〜0.80であることが好ましい。当該極限粘度が0.58未満の場合、十分な潜在捲縮性能を有する繊維が得られなくない場合があり好ましくない。一方、当該極限粘度が0.80を超える場合、紡糸時にニーリングが発生し、糸切れが多発するなど、紡糸操業性が著しく悪化する場合があり好ましくない。
【0026】
本発明の低融点ポリエステル樹脂(A)と本発明のポリエステル樹脂(C)においては、重合触媒として、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm、好ましくは110〜350ppm含有していることが必要である。ここで、固溶体の含有量が100ppm未満の場合、触媒活性が十分に発現しない。一方、400ppmを超える場合、得られるポリエステル樹脂の色調が悪化したり、固溶体がポリマー中で凝集して粗大粒子となり紡糸時のノズルパックの異常昇圧や糸切れが発生したりする。
【0027】
本発明におけるマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体としては、各成分がそれぞれ均一に溶け合った固体であり、これらの結晶格子の一部は他の原子によって置き換わり、組成を変化させることができるものである。固溶体中における両原子間のモル比としては、アルミニウム/マグネシウムが0.1〜10、特に0.2〜5であることが好ましい。
【0028】
ここで、上記固溶体に用いられるアルミニウム化合物としては、特に限定されたものではなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム等の水酸化物、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム等のカルボン酸塩、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム等の無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウム−n−プロポキサイド、アルミニウム−n−ブトキサイド等のアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。これらのうち、水酸化物、カルボン酸塩と無機酸塩が好ましく、これらの中でも水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムが特に好ましい
次に、上記固溶体に用いられるマグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩等が挙げられ、特に、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0029】
また、本発明で用いられるアルミニウム化合物並びにマグネシウム化合物としては、いずれか一方もしくは両者において、上記の例示から選ばれた2種類以上の化合物からなる混合物であってもよい。
【0030】
本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体としては、必要に応じて、アルミニウム、マグネシウム以外の他の金属を含有してもよいが、その場合には、70質量%以上がアルミニウム化合物とマグネシウム化合物であることが好ましい。含有できる他の金属としては、例えば、チタン、マンガン、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ジルコウニム、ハフニウム、ケイ素、ニッケル、ガリウム等が挙げられる。
【0031】
次に、本発明の熱接着性複合バインダー繊維(以下、複合バインダー繊維と称することがある。)について説明する。本発明の複合バインダー繊維としては、前記した低融点ポリエステル樹脂(A)と、下記のポリエステル樹脂(B)とからなり、低融点ポリエステル樹脂(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めている複合繊維である。
【0032】
本発明におけるポリエステル樹脂(B)としては、PET又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が220℃以上、好ましくは230〜260℃であるポリエステル樹脂である。
【0033】
ここで、低融点ポリエステル樹脂(A)と共に複合バインダー繊維を構成するポリエステル樹脂(B)の結晶融点が220℃未満の場合、両樹脂間の融点差が少ないため、バインダー繊維として熱接着させる工程において、繊維全体が融着されることとなり本発明の目的である嵩高い不織布が得られなくなるという問題がある。また、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有しているのは前述した低融点ポリエステル樹脂(A)と潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)の場合と同じ理由である。
【0034】
本発明の複合バインダー繊維の複合形態としては、低融点ポリエステル樹脂(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めるものであればよく、同心又は偏心芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型あるいは紡糸パック内に静止混合素子を挿入して紡糸したポリエステル樹脂(B)が層状もしくは筋状に分散した複合繊維等を採用することができる。
【0035】
本発明の複合バインダー繊維を構成する低融点ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)との複合比としては、質量比で40/60〜60/40であることが好ましい。低融点ポリエステル樹脂(A)の割合が40質量%未満になると接着強度が不十分となり、一方、60質量%を超えると、複合繊維化が困難になるおそれがあり好ましくない。
【0036】
次に、本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維(以下、潜在捲縮性複合繊維と称することがある。)について説明する。本発明の潜在捲縮性複合繊維としては、PET又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有している結晶融点が220℃以上の前記したポリエステル樹脂(B)と、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)で構成されている。
【0037】
ここで、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)と共に潜在捲縮性複合繊維を構成するポリエステル樹脂(B)の結晶融点が220℃未満になると、熱処理により捲縮を顕在化させる工程において、繊維全体が軟化することとなり良好な捲縮性が発現しなくなるという問題がある。
【0038】
本発明の潜在捲縮性複合繊維における複合形態としては、前記ポリエステル樹脂(B)とポリエステル樹脂(C)とが、サイドバイサイド型又は偏心芯鞘型に接合されており、熱処理などで捲縮を発現できるものであればよいが、捲縮発現性の点からサイドバイサイド型で接合したものが好ましい。
【0039】
また、前記ポリエステル樹脂(B)、(C)の極限粘度の差は、0.2以下であることが好ましい。当該極限粘度の差が0.2を超える場合、紡糸時にニーリングが発生し、糸切れが多発するなど、紡糸操業性が悪化する場合があるため好ましくない。
【0040】
本発明の潜在捲縮性複合繊維を構成するポリエステル樹脂(C)とポリエステル樹脂(B)との複合比率(C/B)は、体積比率で3/7〜7/3の範囲であることが好ましい。体積比率が3/7未満では複合繊維を熱処理した際の捲縮発現数が乏しいものとなり、一方、7/3を超えると紡糸時にニーリングが発生し、糸切れが多発するなど、紡糸操業性が悪化する場合があるため好ましくない。
【0041】
本発明の潜在捲縮性複合繊維としては、170℃における無荷重下での熱処理で、50個以上/25mmのスパイラル捲縮を発現する潜在捲縮性能を有することが好ましい。
【0042】
一般に、伸縮性を有する織編物や不織布を得るためには、捲縮を発現させたとき、織編物や不織布を構成する繊維が30個以上/25mmのスパイラル捲縮を有することが望ましく、そのためには原糸の状態で40個以上/25mmのスパイラル捲縮を有することが好ましい。したがって、本発明の潜在捲縮性複合繊維においては、170℃における無荷重下の熱処理で50個未満/25mmのスパイラル捲縮を発現するものであると、得られる織編物や不織布が伸縮性に乏しいものとなりやすい。
【0043】
なお、無荷重下の熱処理とは、オーブンなどの熱処理機の中に、繊維を1本ずつ、収縮しても緊張しないように十分に弛ませた状態でセットし、170℃で15分間加熱処理することをいう。
【0044】
次に、本発明のポリエステル系乾式不織布(以下、乾式不織布と称することがある。)について説明する。本発明の乾式不織布は、前記した本発明の潜在捲縮性複合繊維を主体繊維とし、本発明の複合バインダー繊維をバインダー成分として構成されたものである。
【0045】
本発明の乾式不織布を構成する複合バインダー繊維と潜在捲縮性複合繊維としては、長繊維、短繊維のずれでもよいが、乾式不織布用としては短繊維を用いる。そして、複合バインダー繊維、潜在捲縮性複合繊維ともに、繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維を採用することが好ましい。
【0046】
繊度が1dtex未満になると、紡糸時に単糸同士が密着したり、単糸が細すぎるため、糸切れが多発するなどして操業性が低下しやすくなる。一方、繊度が20dtexを超えると、2種の短繊維を混綿した後、熱接着させるときの繊維同士の接触点が少なくなるため、乾式不織布の強力が不足しやすくなる。
【0047】
また、繊維長が30mm未満になると、カードをかける時、カードから短繊維が落綿しやすくなる。一方、繊維長が100mmを超えると、カードに短繊維が絡み付くため、均一な乾式不織布が得られ難くなる。
【0048】
さらに、本発明の乾式不織布における複合バインダー繊維と潜在捲縮性複合繊維との混合割合としては、質量比で10/90〜50/50であることが必要であり、20/80〜45/55であることが好ましい。複合バインダー繊維の混合割合が10質量比未満になると、主体繊維である潜在捲縮性複合繊維を十分に接着することができず、混合割合が50質量比を超えると、乾式不織布の風合いが硬くなる。なお、本発明の乾式不織布には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の繊維などを含有していてもよい。
【0049】
ところで、一般に乾式不織布を得る場合、特にエアレイド法で製造する場合には、静電気の発生が多くなる。このエアレイド法に用いられる装置としては、複数の回転シリンダーをハウジング内に収納し、これらシリンダーを高速回転させることによってシリンダーの周縁に積極的に空気流を発生させ、この空気流によって繊維成分を所定方向に吹き飛ばし得る装置が挙げられる。そして、このエアレイド法によるウエブ形成(短繊維の解繊、搬送、分散、積層工程の全て)においては、空気流を積極的に発生させているために、繊維同士が摺擦され、また繊維と装置(金属製部材)との摩擦によっても静電気の発生が多くなる。
【0050】
本発明者らは、本発明のバインダー繊維と潜在捲縮性複合繊維(短繊維)では、その理由は明確ではないが、ウエブ形成のいずれの工程(解繊、搬送、分散、積層工程)においても、繊維同士間、繊維と金属間での摩擦による静電気が発生し難く、かつ発生した静電気を貯め難いものであり、短繊維同士が集合して繊維塊を生じることが格段に減少されることを見出した。
【0051】
一般に、上記のような静電気の問題については、当該繊維の捲縮が多く、大きく付与されているほど形状的に電気を貯めやすいものとなる。つまり、繊維に捲縮が付与されていると、3次元的な立体形状を呈するため、その立体的な空間部分が多くなるほど静電気が貯まりやすくなる。一方、捲縮がないフラットな状態となるほど、平面的な形状となり、静電気を貯め難くなるが、繊維同士、あるいは繊維と金属との接触点(面)が増え、摩擦による静電気の発生が多くなる傾向になる。
【0052】
また、不織布の嵩高性を考慮する場合、繊維において捲縮がないフラットな状態とするほど得られる不織布の嵩高性は低下する。一方、捲縮が多く付与されているほど、得られる不織布の嵩高性は向上するが、繊維の嵩高性も高くなるため、ウエブ形成の工程中において、繊維同士が絡み合い、繊維塊を生じやすくなり、均一性に劣った不織布となりやすい。
【0053】
さらに、繊維における静電気と絡み合いの問題、得られる不織布の風合い(嵩高性や柔軟性)の問題については、単糸繊度によっても影響を受けるものである。つまり、静電気に関しては、繊維同士あるいは繊維と金属との接触により静電気は発生するものなので、接触点や接触面の大きさを左右する単糸繊度の要因は大きいものとなる。また、捲縮により3次元的な立体形状を形成するので、単糸繊度はその空間部分の大きさを左右する要因となり、静電気を貯める程度や繊維の絡みあいの程度を左右する要因となる。
【0054】
これらの点を総合的に勘案しても、前述したように、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、170℃における無荷重下の熱処理で50個以上/25mmのスパイラル捲縮を発現する潜在捲縮性能を有することが好ましく、また、複合バインダー繊維、潜在捲縮性複合繊維ともに、繊度1〜20dtexとすることが好ましい。
【0055】
次に、本発明の低融点ポリエステル樹脂(A)などの製造法について説明する。
まず、本発明の複合バインダー繊維用の低融点ポリエステル樹脂(A)は、例えば、次のような方法により製造することができる。
すなわち、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート又はその低重合体(以下、PETオリゴマーと称する。) の存在するエステル化反応槽に、エチレングリコール (以下、EGと称する。) とテレフタル酸 (以下、TPAと称する。) からなり、両者のモル比が1.1〜2.0のスラリーを連続的に添加し、滞留時間7〜8時間で平均重合度10以下のエステル化反応物を連続的に得る。
【0056】
次に、このエステル化反応物を重縮合反応缶に移し、1,4−ブタンジオールをEGとのモル比が80/20〜30/70となる量を加え、重縮合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を添加した後、重縮合反応缶の温度を180〜250℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行い、目的とする低融点ポリエステル樹脂(A)を得る。
【0057】
次に、本発明の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)は、例えば、次のような方法により製造することができる。
すなわち、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート又はPETオリゴマーの存在するエステル化反応槽に、EGとTPAからなり、両者のモル比が1.1〜2.0のスラリーを連続的に添加し、滞留時間7〜8時間でエステル化反応物を連続的に得る。
【0058】
次に、このエステル化反応物を重縮合反応缶に移し、イソフタル酸を1〜12モル%、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸を1〜6モル%添加し、次いで酸化チタンとEGからなるスラリーを所定量添加し、触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を添加した後、重縮合反応缶の温度を260〜300℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行い、目的とする潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)を得る。
【0059】
また、本発明の熱接着性複合バインダー繊維と潜在捲縮性ポリエステル複合繊維に用いるポリエステル樹脂(B)は、例えば、次のような方法により製造することができる。
すなわち、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート又はPETオリゴマーの存在するエステル化反応槽に、EGとTPAからなり、両者のモル比が1.1〜2.0のスラリーを連続的に添加し、滞留時間7〜8時間でエステル化反応物を連続的に得る。
【0060】
次に、このエステル化反応物を重縮合反応缶に移し、酸化チタンとEGからなるスラリーを所定量添加し、触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を添加した後、重縮合反応缶の温度を260〜300℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行い、目的とするポリエステル樹脂(B)を得る。
【0061】
上記した本発明におけるポリエステル樹脂(A)、(B)、(C)の製造時におけるマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体の添加方法としては、特に限定されるものではないが、固溶体を分散媒中に分散させたスラリーとして、重縮合反応時に添加することが好ましい。なお、スラリー中の固溶体の含有量は0.5〜3質量%であることが好ましい。当該含有量が0.5質量%未満になるとスラリーの添加量が多くなり、重縮合反応中に多量の溜出物が生成し、コストアップにつながりやすい。一方、当該含有量が3質量%を超えると、ポリエステル中にスラリーを添加した際に、固溶体の凝集が起こりやすく、ポリマー中で固溶体が粗大粒子となり、ポリエステル繊維の紡糸時にパック圧の上昇や糸切れの原因となりやすい。
【0062】
上記固溶体のスラリーに用いる分散媒としては、EG、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等が挙げられ、これらの中でも特にEGが好ましい。
【0063】
また、ポリマー中で固溶体が凝集して粗大粒子となり、紡糸時にパック圧の上昇や糸切れが多発することを防ぐには、EGなどの分散媒に所定量の固溶体を添加し、撹拌混合した後、超音波処理を行うことが好ましい。
【0064】
なお、超音波の周波数は通常の周波数領域でよく、例えば、20kHz程度から100kHzの範囲を適用できる。超音波を発生させる発振源としては、公知の手段でよく、例えば水晶を用いた圧電振動子、ニッケルやフエライトを用いた電歪発振子等が挙げられる。また、超音波処理の時間は、0.5〜5時間の範囲が好ましい。
【0065】
さらに、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ヒンダードフエノール系化合物のような抗酸化剤、蛍光剤、染料のような色調改良剤、耐光剤等の添加物をポリエステル樹脂(A)、(B)、(C)に含有させてもよい。
【0066】
次に、本発明の熱接着性複合バインダー繊維(短繊維の場合)の製造法について説明する。
本発明の低融点ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを用いて、通常の溶融紡糸機に供給し、紡糸速度700〜1000m/分で複合紡糸して未延伸糸を得る。これをトウ状に集束し、60〜80℃の加熱ローラを使用し、3〜5倍に延伸し、130〜150℃の熱板上を通過させ、さらにクリンパーに導入して捲縮を付与した後、カッターで切断して短繊維とする。この際、カッターに入る前のスライバーの温度を80℃以下にするのが好ましく、クリンパー上でのスチームブローはカッター内部での繊維の融着状態を見て実施する必要がある。
【0067】
本発明の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維(短繊維の場合)の製造方法について説明する。
本発明の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)とポリエステル樹脂(B)とを用いて、通常の溶融紡糸機に供給し、サイドバイサイド型で製糸した後、糸条を冷却後に未延伸糸又は半未延伸糸として一旦捲き取るか、あるいは、捲き取ることなしに引き続いて延伸、熱処理等を行って目的の繊維を得る。この際、複合体積比、紡糸速度、延伸倍率及び熱処理温度等を適切に設定することにより、本発明の潜在捲縮複合繊維を得ることができる。
【0068】
因みに、複合体積比5/5のサイドバイサイド型複合繊維を得る場合は、例えば、通常の複合紡糸装置を用いて、引き取り速度1200m/分で溶融紡糸し、集束して糸状束とした後、延伸温度40〜90℃、延伸倍率2〜5倍で延伸した後、熱処理温度100〜210℃で熱処理し、その後、切断して短繊維とする。
【0069】
次に、本発明のポリエステル系乾式不織布の製造方法について説明する。
まず、簡易エアレイド試験機を用い、試料投入ブロアより、本発明の複合バインダー繊維と潜在捲縮性複合繊維の短繊維をそれぞれ投入し、解繊翼回転モータにより解繊翼回転用スプロケットを介して回転する、それぞれ5枚1組の第1解繊翼と第2解繊翼で解繊し、飛散落下させる。落下する短繊維を、下部にあるサクションボックスで吸引しつつ、水平方向に移動する集綿コンベアの上に堆積させてウエブを作成し、下流にある熱処理機にて熱処理〔熱処理温度:複合バインダー繊維の(融点又は流動開始温度)+10℃程度〕を施し、乾式不織布を得る。不織布の目付調整は、集綿コンベアの移動速度を変化させて行えばよい。
【実施例】
【0070】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例におけるポリエステルの各特性は、次の各方法により測定もしくは評価した。
(1)極限粘度[η]
フエノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃下で、通常の手法にて測定した。
(2)融点(Tm)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0071】
(3)繊維塊の生成
簡易空気流撹拌試験機を用い、得られた短繊維の繊維塊の生成を評価した。すなわち、100gの短繊維を解綿機で予備解繊した後、サンプル送り込み用ブロアから空気流にて撹拌タンクに投入し、撹拌用ブロアから20m/秒の空気流を吹き込み、攪拌タンク内で1分間撹拌する。攪拌後の繊維をサンプリング口より0.1g採取し、黒色紙の上に広げ、独立した繊維塊の有無を目視にて次のような3段階で評価した。
○:繊維塊が発生していない。
△:繊維塊が少量発生している。
×:繊維塊が大量発生している。
(4)不織布の均一性
得られた乾式不織布(潜在捲縮を発現後)の均一性の状態を目視にて観察し、次のような3段階で評価した。
○:十分に解繊されて、かつ品位的に均一である。
△:部分的に未解繊な部分がある。
×:解繊が不十分で、品位的に不均一である。
【0072】
(5)不織布の嵩高性
得られた乾式不織布(潜在捲縮を発現後)を20cm×20cmに切り出してサンプルとし、そのサンプル10枚を重ねた上に25cm×25cm×5mmのアクリル板(370g)を載せ、その上に1kgの錘を載せてアクリル板の下面の4辺のそれぞれの辺の中央の高さを測定し、4点の平均値により、次のような3段階で評価した。
○:高さが25.0mm以上である。
△:高さが15.0mm以上、25.0mm未満である。
×:高さが15.0mm未満である。
【0073】
(製造例1)
ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びPETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
【0074】
このPETオリゴマー52.1kgに、重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムのモル比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の含有量がポリエステルに対して250ppm)を加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で3.5時間重縮合反応を行い、常法により払い出して[η]が0.57のポリエステル樹脂(B)を得た。
【0075】
(実施例1)
ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びPETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
【0076】
このPETオリゴマー60.3kgを重縮合缶に仕込み、EGと1,4−ブタンジオールのモル比が55/45となる量(16.2kg)を添加し、重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムの物質量(モル)比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の含有量がポリエステルに対して250ppm)を加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で4時間重縮合反応を行い、[η]が0.67、Tmが181℃の低融点ポリエステル樹脂(A)を得た。
【0077】
この低融点ポリエステル樹脂(A)と製造例1で得られたポリエステル樹脂(B)とを同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、吐出孔数225の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、紡糸速度700m/分、吐出量227g/分、複合比50/50の紡糸条件で溶融紡糸し、その後、引き揃えて10万dtexの未延伸トウを得た。
次いで、このトウを延伸温度62℃、延伸倍率3.2倍で延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した後、長さ51mmに切断して繊度4dtexの熱接着性複合バインダー繊維を得た。
【0078】
一方、別の重合設備で、PETオリゴマーの存在するエステル化反応缶に、TPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
【0079】
このPETオリゴマー52.1kgに、共重合成分として、イソフタル酸を4.5kg(全酸成分に対して9.0モル%)、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸を3.6kg(全酸成分に対して4.5モル%)を加え、重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムのモル比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の含有量がポリエステルに対して200ppm)を加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で、3.5時間重縮合反応を行い、常法により払い出して[η]が0.69の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)を得た。
【0080】
このポリエステル樹脂(C)と製造例1で得られたポリエステル樹脂(B)を用い、複合体積比5/5で、複合溶融紡糸装置の円形紡糸孔を334個有する紡糸口金を用い、紡糸温度290℃、引取速度1150m/分、吐出量204g/分で、サイドバイサイド型複合繊維を紡糸した。得られた未延伸糸をトウ状に集束し、延伸倍率2.4倍、延伸温度70℃で延伸し、160℃で緊張熱処理を行い、スタツフイングボツクスで機械捲縮を付与した後、切断して、繊度2dtex、繊維長51mmの潜在捲縮性ポリエステル複合繊維を得た。
【0081】
次いで、得られた複合バインダー繊維と潜在捲縮性複合繊維との質量比を40/60とした繊維群を、試料投入ブロアより投入し、解繊翼回転モータにより解繊翼回転用スプロケットを介して回転する、それぞれ5枚1組の第1解繊翼と第2解繊翼で解繊させ飛散落下させた。落下する短繊維を、下部にあるサクションボックスで吸引しつつ、水平方向に移動する集綿コンベアの上に堆積させてウエブを作成し、下流にある熱処理機にて熱処理(熱処理温度:145℃)を施し、乾式不織布を得た。
その後、箱型乾燥機を用いて、得られた乾式不織布に、温度170℃、時間10分の熱処理を施し、潜在捲縮性複合繊維からなる短繊維の潜在捲縮を発現させた乾式不織布を得た。
【0082】
(実施例2〜5、比較例1〜10)
1,4−ブタンジオール、イソフタル酸や金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸の共重合量やマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体の量、短繊維群の混合比などを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
実施例1〜5と比較例1〜10で得られた乾式不織布の性能を併せて表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から明らかなように、実施例1〜5で得られた乾式不織布は、いずれも繊維塊の発生がなく、嵩高性、均一性ともに優れたものであった。
【0085】
これに対して、比較例1は、低融点ポリエステル樹脂(A)の1,4−ブタンジオールの共重合量が少なすぎて結晶性が悪く、このため得られた乾式不織布は耐熱性が不足し、繊維塊も多く発生したので、均一性が劣るものであった。
比較例2は、低融点ポリエステル樹脂(A)の1,4−ブタンジオールの共重合量が多すぎたので熱安定性が悪く、紡糸時に粘度低下のために糸切れが多発し、操業性が悪かった。
比較例3は、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)にイソフタル酸を共重合していないため、繊維を熱処理したときの捲縮発現性が劣り、不織布の伸縮性が低く、嵩高性に劣るものであった。
【0086】
比較例4は、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)のイソフタル酸の共重合量が多いため、得られた樹脂を乾燥した際、装置内で融着を起こし、紡糸を行うことができなかった。
比較例5は、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)に金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸を共重合していないため、得られた潜在捲縮性複合繊維の強度が高すぎ、作成した不織布等は裁断加工時の切断性が悪く、このため切断面に毛羽が発生するなど、品位が低く嵩高性や均一性に劣るものであった。
【0087】
比較例6は、潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)の金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸の共重合量が多いため、得られた樹脂の溶融粘度が高く、捲縮発現数が乏しく、繊維塊も多く発生した。
比較例7は、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体の量が少なかったため、ポリエステル樹脂(A)、(C)ともに重合性が極めて悪く、重合を途中で打ち切った。
比較例8は、ポリエステル樹脂(A)、(C)ともにマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体の量が多かったため、固溶体に起因する粗大粒子により紡糸時に糸切れが多発し、短繊維を得ることができなかった。
【0088】
比較例9は、複合バインダー繊維の混合比が少なすぎたので、得られた乾式不織布は均一性と嵩高性が不十分なものであった。
比較例10は、複合バインダー繊維の混合比が多すぎたので、繊維塊が多く発生した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主たる酸成分、モル比80/20〜30/70のエチレングリコールと1,4−ブタンジオールを主たるジオール成分とし、かつ、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有することを特徴とする低融点ポリエステル樹脂。
【請求項2】
請求項1記載の低融点ポリエステル樹脂(A)と、ポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有している結晶融点が220℃以上のポリエステル樹脂(B)とからなり、低融点ポリエステル樹脂(A)が繊維表面の少なくとも一部を占めていることを特徴とする熱接着性複合バインダー繊維。
【請求項3】
エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂を構成する酸成分のうち、イソフタル酸が1〜12モル%、金属塩スルホネート基を有するイソフタル酸が1〜6モル%であり、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有することを特徴とする潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とし、重合触媒としてマグネシウム化合物とアルミニウム化合物からなる固溶体を100〜400ppm含有している結晶融点が220℃以上のポリエステル樹脂(B)と、請求項3記載の潜在捲縮性繊維用ポリエステル樹脂(C)とからなり、前記樹脂(B)、(C)がサイドバイサイド型又は偏心芯鞘型に接合されてなることを特徴とする潜在捲縮性ポリエステル複合繊維。
【請求項5】
請求項2記載の熱接着性複合バインダー繊維と、請求項4記載の潜在捲縮性ポリエステル複合繊維とを質量比10/90〜50/50の割合で混合して形成されたことを特徴とするポリエステル系乾式不織布。





【公開番号】特開2008−303322(P2008−303322A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152813(P2007−152813)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】