説明

ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物及び自動車用外装体

【課題】 ポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂組成物からなる大型成形品を成形する際の滞留安定性に優れ、かつ、流動性、耐衝撃性、成形外観に優れ、線膨張係数も抑えられた成形品を実現する。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂(A)45〜75質量部、ポリエステル樹脂(B)14〜40質量部、グラフト共重合体(C)1〜15質量部よりなる熱可塑性樹脂100質量部に対し、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基を含有しないポリエチレンワックス(D)を0.05〜1質量部、フェノール系抗酸化剤(E)を0.05〜1質量部、燐系抗酸化剤(F)を0.05〜1質量部、無機充填材(G)を5〜15質量部含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用外装体等に成形され得るポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用外装体のうち、比較的大型な成形品としてリヤガーニッシュやリヤスポイラ等が挙げられるが、これらには成形外観、耐衝撃強度、低線膨張係数、寸法安定性、耐候性等が要求されている。そのような大型成形品の材料としては、例えばABS樹脂、ASA樹脂、ポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂、ポリカーボネート/ABS系アロイ樹脂あるいはポリカーボネート/ASA系アロイ樹脂が使用されている。
しかし、ABS樹脂、ASA樹脂は、寸法安定性、成形性には優れるものの、剛性が不足しており、充填材を配合すると外観が劣る。ポリカーボネート/ABS系アロイ樹脂は、寸法安定性に優れるものの耐候性、流動性に劣る。ポリカーボネート/ASA系アロイ樹脂は、寸法安定性、耐候性には優れるものの、耐衝撃性に劣ると言う問題があった。こうした問題点を解決する手段として、ポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂を用いる検討が行われている。
ポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂を使った例としては、ポリカーボネート樹脂に代表される非晶性樹脂に、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂に代表される結晶性樹脂等とゴム状弾性体をアロイ化した熱可塑性樹脂組成物が使用されている。
例えば、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂を用い、これに衝撃改良剤、各種抗酸化安定剤、離型剤を配合した組成物を用いる方法が提案されている(特許文献1、2、3参照)。
【特許文献1】特開平10−36645号公報
【特許文献2】特開平11−106624号公報
【特許文献3】特開2002−105295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この特許文献1、2、3に記載の技術では、ポリカーボネート樹脂の配合量がポリエステル樹脂の配合量に対し少なく、エステル交換反応もポリカーボネート樹脂の配合量が多い領域とは異なり、ポリカーボネート樹脂の配合量が多い領域で使用される自動車用外装体等の大型成形品での熱安定性の制御が困難であった。また、ポリエステル樹脂が多い領域では、ポリカーボネート樹脂が多い領域に比べ耐衝撃性に劣る。
最近では、特に自動車用外装体は大型化の方向にあり、流動性、耐衝撃性、成形外観、滞留安定性(大型成形品を成形する際であっても衝撃強度の低下が少ない)、特に低線膨張化も重要な要件となっている。
しかし、特許文献1は、三価の燐化合物と離型剤の2種類が配合された組成物であり、コネクタ類のように小さな成形品を対象とするものである。
また、特許文献2では、フェノール系抗酸化剤、燐系抗酸化剤の2種類は特定されてはいるが、特に離型剤に関して言及するものではない。その為、離型剤の選定によっては、熱安定性が劣る場合があった。また、特許文献2も小型、薄肉成形品に関するヒケ防止の為の流動性向上を目的としたもので、大型射出成形機にて大型成形品を成形した場合の優れた滞留安定性を発現させるものではない。
また、特許文献3では、離型剤についてポリオレフィンワックスの特定はされてはいるものの、抗酸化安定剤についての言及も滞留安定性についての言及もない。
【0004】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、ポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂組成物からなる大型成形品を成形する際の滞留安定性に優れ、かつ、流動性、耐衝撃性、成形外観に優れ、線膨張係数も抑えられた成形品を実現する熱可塑性樹脂組成物を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)45〜75質量部、ポリエステル樹脂(B)14〜40質量部、グラフト共重合体(C)1〜15質量部よりなる熱可塑性樹脂100質量部に対し、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基を含有しないポリエチレンワックス(D)を0.05〜1質量部、フェノール系抗酸化剤(E)を0.05〜1質量部、燐系抗酸化剤(F)を0.05〜1質量部、無機充填材(G)を5〜15質量部含有したことを特徴とするものである。
無機充填材(G)としては、珪酸アルミニウム及び含水珪酸マグネシウムから選ばれた1種以上であることが望ましい。
本発明の自動車用外装体は、上記ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリカーボネート/ポリエステル系アロイ樹脂組成物であると、その樹脂組成物にて成形される成形品は、大型射出成形機で成形した際でも、滞留安定性に起因する耐衝撃強度の低下が低減され、優れた成形外観を有し、線膨張係数も抑えられた成形品が得られる。
従って、自動車用外装体等の耐衝撃性が必要な大型成形品を大型射出成形機を用いて成形する場合でも耐衝撃強度が高い成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。
本発明において用いられるポリカーボネート樹脂(A)は、2価フェノールとホスゲン又は炭酸ジエステルの反応により得ることができる。反応の方法としては、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法及び環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
2価のフェノールとしては、ハイドロキノン、レゾンシノール、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等、又はこれらの各アルキル化誘導体が挙げられるが、好ましくはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、ビスフェノールAが特に好ましい。これらの2価フェノールのホモポリマー又は、2種以上のコポリマーあるいはこれらのブレンド品であってもよい。必要ならば分岐化剤も2価フェノールとホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させて得られるランダムに分岐したポリカーボネートも含まれる。これらの多官能性の芳香族化合物はカルボキシ、ヒドロキシ、カルボン酸無水物、ハロホルミル及びこれらの組み合わせといったような官能基を少なくとも3個含有する。分岐剤として用いられる具体例としては、トリメリト酸無水物、トリメリト酸、ピロメリト酸、4−クロロホルミルフタル酸無水物、メリト酸、トリメシン酸及びベンゾフェノンテトラカルボン酸等が挙げられる。
これらポリカーボネート樹脂の含有量は、全樹脂組成中45〜75質量部である。45質量部未満の場合には耐衝撃性の面より好ましくなく、75質量部を超えると流動性の面より好ましくない。好ましくは48〜70質量部であり、特に好ましくは50〜65質量部である。
【0008】
本発明において用いられるポリエステル樹脂(B)は、芳香族もしくは脂環式のジカルボン酸又はそれらの誘導体と、ポリオールとを重縮合して得られるポリエステルが挙げられる。ジカルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。ポリオールの例としては、メチレン鎖が2〜6であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等のアルキレンジオールや、ビスフェノールAのポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールの付加体等が挙げられる。
ポリエステル樹脂(B)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、それら単体を使用してもよいし、組成及び/又は分子量の異なるポリエステル樹脂を併用した混合物を使用してもよい。
特に、成形性、外観、経済性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(B−1)あるいはポリブチレンテレフタレート(B−2)を単体で使用することが好ましいが、併用することもできる。これらを併用する場合の混合比率は、特に制限されない。
これらポリエステル樹脂(B)の含有量は流動性、衝撃性の面から全樹脂組成中14〜40質量部である。14質量部未満の場合は流動性の面から好ましくなく、40質量部を超えると衝撃性の面より好ましくない。好ましくは17〜42質量部であり、特に好ましくは20〜40質量部である。
【0009】
ポリエチレンテレフタレート(B−1)は、特に制限されず、エチレンテレフタレート単位の単独重合体であってもよいし、エチレンテレフタレート単位を繰り返し単位中70質量%以上含有する共重合体であってもよい。共重合されるモノマーとしては、テレフタル酸及びその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の芳香族もしくは脂肪族多塩基酸又はそれらのエステル等が挙げられる。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,3−オクタンジオール等のアルキレングリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物又はそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0010】
ポリエチレンテレフタレート(B−1)の分子量は、分子量の指標としての固有粘度([η])が0.4〜1.0であることが好ましい。固有粘度が0.4以上の場合に強度が良好となる傾向にあり、1.0以下の場合に流動性及び外観が良好となる傾向にある。この固有粘度の下限値は、0.45以上がより好ましく、0.5以上が特に好ましい。また、この固有粘度の上限値は、0.9以下がより好ましく、0.8以下が特に好ましい。
【0011】
ポリブチレンテレフタレート(B−2)は、特に制限されず、ブチレンテレフタレート単位の単独重合体であってもよいし、ブチレンテレフタレート単位を繰り返し単位中70質量%以上含有する共重合体であってもよい。共重合されるモノマーとしては、テレフクル酸及びその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の芳香族もしくは脂肪族多塩基酸又はそれらのエステル等が挙げられる。また、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオベンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,3−オクタンジオール等のアルキレングリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物又はそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート(B−2)の分子量は、分子量の指標としての25℃における還元粘度(ηsp/C)が0.7〜2.0であることが好ましい。還元粘度が0.7以上の場合に強度が良好となる傾向にあり、2.0以下の場合に流動性及び外観が良好となる傾向にある。この還元粘度の下限値は、0.8以上がより好ましく、0.9以上が特に好ましい。また、この還元粘度の上限値は、1.7以下がより好ましく、1.5以下が特に好ましい。
【0013】
本発明においては、衝撃性の面から、グラフト共重合体(C)を含有することが好ましい。グラフト共重合体(C)の含有量は、全樹脂組成中1〜15質量部であることが好ましい。この含有量が1質量部以上の場合に成形品の衝撃性が高くなり良好となる傾向にあり、15質量部超の場合には流動性が低下する傾向があり好ましくない。好ましくは1.5〜10質量部であり、特に好ましくは2〜8質量部である。
【0014】
本発明において用いられるグラフト共重合体(C)としては、ゴム状重合体の存在下、ビニル系単量体の1種又は2種以上を重合させることよって得られる共重合体が好適である。ゴム状弾性体としては、アルキルアクリレートやアルキルメタクリレートを主体とするアクリル系重合体やメタクリル系重合体、ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを主体とするジエン系重合体、ポリオルガノシロキサンを主体とするシリコーン系重合体の1種又は2種以上の共重合体である。その他、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソブチレン−イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、スチエレン−ブタジエンゴムの水素化物、スチレン−イソプレン−スチレンゴム、スチレン−イソプレンゴムの水素化物などを用いても良い。このゴム状弾性体は2種以上を併用しても良い。また、ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等メタクリル酸エステル、アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などが挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるポリエチレンワックスは離型剤として用いられるもので、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基を含有しない。
この離型剤(D)成分は、成形時に成形品表面に外滑性フィルムを形成することによって、良好な離型性を発現させるものである。また、この離型剤(D)成分は、本発明に用いられるフェノール系抗酸化剤(E)と燐系抗酸化剤(F)と併用することで本発明の樹脂組成物の滞留安定性を発現するものである。
【0016】
一般的に、ポリエチレンワックスの中には、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する酸化ポリエチレンワックスがあるが、酸化ポリエチレンワックスでは、本発明の樹脂組成物の滞留安定性が得られず、本発明の目的を達成することができない。ポリエチレンワックスは、現在一般的に広く知られているエチレンを重合したもの、ポリエチレンを熱分解したもの、ポリエチレン重合物より低分子量成分を分離精製したものなどが挙げられるが、本発明で用いるポリエチエンワックスは、チーグラー触媒により低圧法にて重合された分岐がある低密度ポリエチレンワックスである。密度としては、0.90〜1.03g/cm、より好ましくは、0.92〜0.94g/cmである。分子量としては、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により測定され標準ポリスチレン換算で算出された重量平均分子量で1,000〜12,000が好ましく、更に好ましくは2,000〜10,000、特に好ましいのは4,000〜8,000である。
【0017】
離型剤(D)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部(上記(A)成分〜(C)成分の合計)に対し、0.05〜1質量部である。0.05質量部未満であると離型性の発現が薄れ1質量部超になるとガスの発生で金型汚れ等の問題が発生し好ましくない。好ましくは0.08〜0.8質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0018】
本発明で使用するフェノール系抗酸化剤(E)は、前述した離型剤(D)及び後述する燐系抗酸化剤(F)と併せて用いることで滞留安定性が発現されるものである。
フェノール系抗酸化剤(E)の具体例としては、4,4’−チオビス(3−メチル−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシルフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンが挙げられる。特に好ましくはオクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシルフェニル)プロピオネートである。
フェノール系抗酸化剤(E)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.05〜1質量部である。0.05質量部未満であると溶融安定性(滞留安定性)の効果がなく1質量部超になるとガスの発生で金型汚れ等の問題が発生し好ましくない。好ましくは0.08〜0.8質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0019】
本発明で使用する燐系抗酸化剤(F)は、前述した離型剤(D)及びフェノール系抗酸化剤(E)と併せて用いることで溶融安定性(滞留安定性)が発現されるものである。
燐系抗酸化剤(F)の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト、トリフェニルファスファイト、ビス(3−メチル−1,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジファスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。好ましくはサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)及びテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイトであり、それらからなる群より選ばれた1種類以上の化合物である。
燐系抗酸化剤(F)の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.05〜1質量部である。0.05質量部未満であると溶融安定性(滞留安定性)の効果がなく1質量部超になるとガスの発生で金型汚れ等の問題が発生し好ましくない。好ましくは0.08〜0.8質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0020】
本発明に用いられる無機充填材(G)について説明する。
本発明において、無機充填材は、低線膨張係数の作用を奏するものである。
本発明に用いられる無機充填材の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜15質量部の範囲である。この含有量が5質量部以上の場合に、線膨張係数が小さくなる傾向にあり、また、15質量部以下の場合に、無機充填材の分散状態が良好となって成形品の表面平滑性が良好となる傾向にある。無機充填材の含有量の下限値は、成形品の線膨張係数の面から、6質量部以上が好ましく、7質量部以上が特に好ましい。また、無機充填材の含有量の上限値は、表面平滑性の面から、12質量部以下が好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
成形品を例えば自動車用外装体のように鋼板部品と嵌合させて使用する場合に、成形品の線膨張係数が、8×10−5以下であると、鋼板部品と成形品の嵌合部の見た目が良好となり好ましい。
無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム(カオリン)、石英、含水珪酸マグネシウム(タルク)、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、黒鉛、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、ドロマイト、セリサイト等が使用できる。
中でも、表面平滑性、機械的強度の面から、珪酸アルミニウム(カオリン)及び含水珪酸マグネシウム(タルク)が好ましい。
珪酸アルミニウム(カオリン)(G−1)の具体例としては、例えば、ENGELHARD製のASP101、ASP102、ASP170等の含水カオリンとサチントン5、ウルトレックス98等の焼成カオリンが挙げられる。カオリンの製造方法、表面処理は特に限定されるものではないが、粒径については好ましくは平均粒子径(メジアン径)(レーザー回折法による測定値)で1μm以下のものが表面平滑性の面より好ましい。
含水珪酸マグネシウム(タルク)(G−2)の具体例としては、例えば、林化成製ミクロンホワイト#5000S、#5000A、圧縮タルクUPNHS−T0.5、ミセルトン等が挙げられる。タルクの製造方法、表面処理は特に限定されるものではないが、粒径については好ましくは平均粒子径(メジアン径)(レーザー回折法による測定値)で10μm以下のものが平面平滑性の面より好ましい。
これら珪酸アルミニウム(カオリン)(G−1)及び含水珪酸マグネシウム(タルク)(G−2)は、単独で用いることもできるが、併用しても良い。
【0021】
その他の添加剤としては、染料や顔料等の着色剤、等を配合することができる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法については、特に制限されず、例えば、溶融混練法により製造することができる。溶融混練に用いる装置としては、特に制限されず、公知の装置を使用することができ、例えば、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を使用することができる。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法については、特に制限されず、射出成形法、ガスアシスト成形法、冷熱サイクル成形法、ブロー成形法、押出成形法等の公知の方法が使用でき、これらの方法により、成形品を得ることができる。中でも、汎用性の面から、射出成形法が好ましい。
【0024】
本発明の自動車用外装体は上述したポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたものである。この自動車用外装体としては、各種の部品が挙げられ、例えば、リヤガーニッシュ、リヤスポイラ、ルーフレール、ルーフレールカバー等が挙げられる。本発明は、特に大型な成形品において顕著にその効果を発揮する。
【実施例】
【0025】
次に、実施例、比較例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[ポリエステル樹脂の粘度測定]
(1)還元粘度(ηsp/C)
ポリブチレンテレフタレート樹脂0.25gに対し、フェノールとテトラクロロエタンの1:1(質量比)混合溶媒(関東化学(株)製、商品名「PTM11」)50mlを添加し、140℃で10〜30分溶解して溶液を得た。これを25℃の恒温水槽中で3分間調温した後、ウベローデ型粘度計により標線間を通過する時間を測定し、還元粘度ηsp/Cを求めた。
ηsp/C=(ηrel−1)/C =(T/T−1)/C
T:サンプル溶液の毛細管標線通過時間(秒)
:混合溶媒のみの毛細管標線間通過時間(秒)
C:サンプル濃度(g/dl)
【0027】
(2)固有粘度([η])
フェノールとテトラクロロエタンの1:1(質量比)混合溶媒を用い、濃度0.2、0.3、0.4g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂溶液を調整した。各濃度の溶液の粘度を、ウベローデ型自動粘度計(SAN DENSHI(株)製、AVL−2C)を用いて、温度25℃で測定し、得られた値をHugginsプロットにて、濃度0g/dlに外挿して、固有粘度[η]を求めた。
【0028】
[成形品の評価方法]
(1)離型性
射出成形機((株)東芝製IS80FPB)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度60℃の条件で図1、2に示す箱型成形品10を成形し、その成形品が離型する時に発生する離型音を確認した。この箱型成形品10は、40×30×30mmの上部が開放された箱形で、底部から上方に向かって2本の円筒(外径:5mm、内径:3mm)が30mmの間隔で立設されているもので、平均肉厚が1mmとなるものである。
○:離型音がせず円滑に離型した。
×:突き出しピンにより成形品を突き破り離型しない。
(2)線膨張係数
射出成形機((株)東芝製IS80FPB)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度60℃の条件でISO試験用ダンベルを成形し、その成形品より4mm×4mm×10mmの角柱試験片を切り出し、理学電機株式会社製熱機械分析装置CN8098F1を用い石英ガラスを標準試料として−30℃〜90℃の温度範囲で線膨張係数を測定し、その平均値を求めた。
結果として8×10−5以下を良好とした。
(3)滞留安定性
射出成形機((株)東芝製IS80FPB)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度60℃の条件でISO試験用ダンベルを通常サイクル(約40秒)で成形し初期品とした。また、滞留安定性の確認の為、該樹脂を20分間射出成形機のシリンダ内に滞留させ初期品と同様にISO試験用ダンベルを成形し滞留品とした。夫々の試験片を東洋精機製ノッチングツールA−3型装置を用いシャルピーノッチ付き試験片に切削加工しISO試験法に準拠しシャルピーノッチ付き試験を実施し初期値と滞留後を比較した。
結果として、滞留試験後のシャルピーノッチ付きで3kJ/m以上かつ保持率が60%以上を良好とした。
【0029】
【数1】

【0030】
[外観の評価方法]
射出成形機((株)東芝製IS80FPB)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度60℃の条件で、100角厚み3mmを成形し、スガ試験株式会社製UGV−5Kを用い入射角60°受光角60°で光沢を測定した。
結果として光沢度80%以上を良好とした。
【0031】
[グラフト共重合体(C−1)の製造例]
固形分含量が35%、平均粒子径0.08μmのポリブタジエンラテックス63.5質量部(固形分として)にアクリル酸n−ブチル単位85%、メタクリル酸単位15%からなる平均粒子径0.08μmの共重合ラテックス1.5質量部(固形分として)を撹拌しながら添加し、30分撹拌を続け平均粒子径0.28μmの肥大化ゴムラテックスを得た。得られた肥大化ゴムラテックスを反応器に加え、更に蒸留水20質量部、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(デモールN:花王(株)製)0.2質量部、水酸化ナトリウム0.02質量部、デキストローズ0.35質量部を加え反応器内の温度を60℃に上げた後、硫酸第一鉄0.006質量部、ピロリン酸ナトリウム0.2質量部を加え、更にアクリロニトリル10.5質量部、スチレン24.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.2質量部、クメンハイドロパーオキサイド0.12質量部からなる混合物を撹拌しながら90分間にわたり連続的に滴下した後1時間保持して冷却した。得られたグラフト共重合体ラテックスを希硫酸で凝析した後、洗浄、ろ過、乾燥してグラフト共重合体(C−1)を得た。
得られたグラフト共重合体(C−1)中のグラフト結合していない樹脂成分の含有量は4%であった。
【0032】
[グラフト共重合体(C−2)の製造例]
ポリオルガノシロキサン乳化重合について説明する。下記化学式に示す環状ジメチルシロキサン(n=3〜6)100質量部、テトラエトキシシラン20質量部、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン30質量部のモノマー混合物を、ドデシルベンゼンスルホン酸10質量部を溶解した蒸留水3000質量部中に入れ、ホモミキサーにて1000rpmで5分間予備混合した。更にホモゲナイザーにより250Kg/cmの圧力で2回通すことにより乳化、分散させた。その後90℃で6時間加熱した後、5℃で20日間熟成することによって、架橋シリコンゴムラテックスを得た。この架橋シリコンゴムラテックスを水酸化ナトリウム水溶液で中和し重合を停止させた。
【0033】
【化1】

【0034】
次に、上記得られた架橋シリコンゴムラテックス2436質量部をセパラブルフラスコ中に計量し、窒素置換してから70℃に昇温し、その後アクリロニトリルモノマー75質量部、スチレンモノマー225質量部、t−ブチルハイドロパーオキサイド1.2質量部の混合物を仕込み30分間撹拌した。更に、ロンガリット1.8質量部、硫酸第一鉄0.003質量部、EDTA0.009質量部、水30質量部の水溶液を投入、ラジカル重合を開始、発熱が安定した後、更にアクリロニトリルモノマー25質量部、スチレンモノマー75質量部、n−オクチルメルカプタン1質量部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.4質量部の混合物を20分間にわたり滴下仕込みしながら重合した。更に、60分間保持した後に重合を停止させた。重合率は98%でグラフト率は24%であった。このグラフト共重合体は、塩化カルシウム温水中に投入塩析凝固を行ってポリマーを分離、水洗、乾燥しグラフト共重合体(C−2)を得た。
【0035】
[実施例1]
ポリカーボネート樹脂(A)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ノバレックス7022A」)60質量部、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B−1)(三菱レイヨン(株)製、商品名「ダイヤナイトMA521H−D25」)36質量部、及び上記製造例で得たグラフト共重合体(C−1)4質量部、離型剤(D−1)として低密度低分子量ポリエチレンワックス(クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licowax PE520」)0.2質量部、フェノール系抗酸化剤(E)としてオクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブ AO−50」)0.1質量部、燐系抗酸化剤(F−1)としてサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト) (旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブ PEP−8」)0.1質量部、無機充填剤(G−1)として珪酸アルミニウム(カオリン):ステアリン酸で表面処理(0.5質量%)した含水カオリン(ENGELHARD社製、商品名「ASP−101」)、平均粒子径(メジアン径)=0.4μm(レーザー回折法による測定値)9質量部を配合し、V型ブレンダで5分間混合均一化させシリンダ温度260℃で直径30mmのベント付き二軸押出機に投入し、ペレットを得た。
【0036】
得られたペレットを用い上記成形品の評価方法(1)に従い離型性の評価を実施した。結果は、○であった。
更に得られたペレットを用いて上記成形品の評価方法(2)に従い線膨張係数を測定した。結果は、7×10−5で良好であった。
また、得られたペレットを用いて上記成形品の評価方法(3)に従い滞留安定性を確認した。結果は、初期値4.9kJ/m、滞留試験後3.6kJ/m、保持率73.5%で良好であった。
また、得られたペレットを用いて外観評価を実施した。結果は、光沢度85.2%で良好であった。
【0037】
[実施例2〜6]
熱可塑性樹脂組成物の組成を表1の組成とする以外は、実施例1と同様の方法で得たペレットを用い実施例1と同様に、離型性、線膨張係数、滞留安定性、外観評価の結果を得た。評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
[比較例1〜8]
熱可塑性樹脂組成物の組成を表2の組成とする以外は、実施例1と同様の方法で得たペレットを用い実施例1と同様に、離型性、線膨張係数、滞留安定性、外観評価の結果を得た。評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
なお、表1及び表2に記載した実施例及び比較例においては、以下に記載した材料を用いた。
D−2:酸化ポリエチレンワックス;クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licowax PED521」
D−3:炭素数24〜34のモンタン酸グリセリンジエステル;クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licowax E」
D−4:炭素数24〜34のモンタン酸カルシウム塩;クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licowax OP」
F−2:テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(クラリアントジャパン(株)製、商品名「サンドスタブ P−EPQ」)
G−2:タルク;γ−グリキドキシプロピルトリメトキシシラン(エポキシシラン)で表面処理(0.5質量%)したタルク(林化成(株)製、商品名「CHC−13S−05E」)、平均粒子径(メジアン径)=5.3μm(レーザー回折法による測定値)
【0042】
表1、2から明らかなように、本実施例の熱可塑性樹脂組成物であれば、優れた離型性、線膨張係数、滞留安定性、外観評価を発揮するものであった。しかしながら、無機充填材を含有しない比較例1は線膨張係数が大きく、本発明特有のポリエチレンワックスを含まない比較例2〜5は滞留安定性が悪かった。また、ポリカーボネート樹脂割合の少ない比較例6は、線膨張係数、衝撃強度保持率が悪く、無機充填材量の多い比較例7、8は耐衝撃性や外観光沢が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】離型性評価用の箱型成形品の上面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10 箱型成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)45〜75質量部、ポリエステル樹脂(B)14〜40質量部、グラフト共重合体(C)1〜15質量部よりなる熱可塑性樹脂100質量部に対し、
カルボキシル基及びカルボン酸無水物基を含有しないポリエチレンワックス(D)を0.05〜1質量部、
フェノール系抗酸化剤(E)を0.05〜1質量部、
燐系抗酸化剤(F)を0.05〜1質量部、
無機充填材(G)を5〜15質量部含有したポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された自動車用外装体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−307033(P2006−307033A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131946(P2005−131946)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】