説明

ポリシングパッド及びその製造方法

【課題】ポリシングパッドの表面凹凸の加工に寄与している周波数成分や振幅を反映した構造を選択的に形成させることで、研磨性能の向上を図る。
【解決手段】ポリシングパッドは、基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、該基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数の突起を、ピーク材によって一体に形成する。この複数の突起は、基材層の表面において縦及び横方向にそれぞれ所定間隔を開けて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明業界、半導体、そしてディスプレイで使用する研磨技術に適用可能のポリシングパッド及びその製造方法に関する。特に、研磨プロセスに適用した場合、研磨レートの高効率化や加工精度を向上させることで、製造にかかるコストやエネルギー量の低減を実現するとともに、デバイス自体の高性能化も可能となる。
【背景技術】
【0002】
近年、ULSIのデバイスの高性能化が進んでおり、配線構造のさらなる多層化が必要とされている。配線構造の多層化には、リソグラフィー工程においてウエハ表面の凹凸を平坦化し、投影レンズの焦点深度以下に収めることが必須である。それを実現するための技術として化学的機械的研磨CMP( Chemical mechanical polishing )技術が広く用いられている。
【0003】
CMPの研磨性能は、ポリシングパッドにより強く影響される。これまでポリシングパッドは発砲ウレタン材料を用い、実際の研磨プロセスでポリシングパッドに対してダイヤモンド粒子を接触させる処理(コンディショニング)で表面凹凸を形成させることで良好な研磨性能を実現されてきた。
【0004】
従来のポリシングパッドとして、特許文献1に示すようにポリシングパッド上に砥粒を固定する技術が報告されているが、スクラッチや寿命の問題があったため実用化できなかった。
【0005】
また、表面に凹凸形状を形成したポリシングパッドが知られている。図8は、特許文献2に開示されたポリシングパッドを説明する図である。基板と、絶縁層と、導電層とを有するウエハは、ウエハキャリアに搭載され、また、平坦化溶液がポリシングパッド上に堆積される。ウエハキャリアはポリシングパッドの隆起形態に対してウエハを実質的に押圧する。ウエハがポリシングパッドに対して押圧された後で、ウエハまたはポリシングパッドのうち少なくとも一方が他方と相対して移動し、ポリシングパッドの隆起形態がウエハの粗面層を横断してこすり取りを行う。
【0006】
しかしながら、CMPで用いられるポリシングパッドには加工の進行に伴い、パッド表面が劣化するため、実際の表面凹凸の形状は複雑である。そのため、十分な解析が行われておらず、さらに加工に寄与している凹凸の周波数は振幅成分を積極的に形成することはなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009-513028
【特許文献2】特表2001-502610
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Keiichi Kimura, Yuichi Hashiyama, Panart Khajornrungruang, Hirokuni Hiyama, Yoshihiro Mochizuki: Study on Material Removal Phenomena in CMP Process, International Conference on Planarization /CMP Technology 2007-Dresden, Germany pp 201-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリシングパッド表面に、単に凹凸を設けることのみでは、研磨液中に含まれる微粒子を被研磨面に接触させる十分な作用をもたせることができない。ポリシングパッド表面の凹凸先端を、被研磨面に対して点接触させて、接触面積を小さくすると共に、研磨液を、パッドの水平方向から斜め上方向へ押し上げる垂直成分による流れにより、研磨液中に含まれる微粒子を被研磨面に十分に接触させることができる。
【0010】
そこで、本発明は、ポリシングパッドの表面凹凸の加工に寄与している周波数成分や振幅を反映した構造を選択的に形成させることで、研磨性能の向上を図ることを目的としている。ここでは研磨レートや均一性、段差緩和性の他に、耐摩耗性材料を使用することで、長寿命化も実現する。
【0011】
また、従来技術ではポリシングパッド表面の凹凸形状を形成させるため、コンディショニングを行ってきたが、凹凸形状を制御することは困難であった。本発明ではポリシングパッドの表面構造を形成させるために、マイクロ金型を半導体プロセスにより作成し、インプリント処理を行う一方、インプリント処理ではポリシングパッドの原材料となるピーク材シートをマイクロ金型に高温(例えば、360℃)で熱圧着することで、パターン配置や形状を制御することを目的としている。ピーク材とは、周知のように、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン,polyetheretherketone)樹脂材料のことであり、射出成形可能な熱可塑性樹脂としては最高の耐熱性を持つ芳香族系のプラスチックである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の基板の表面層の研磨に用いるポリシングパッドは、基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、該基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数の突起を、ピーク材によって一体に形成する。この複数の突起は、基材層の表面において縦及び横方向にそれぞれ所定間隔を開けて配置した。
【0013】
また、ポリシングパッドの製造方法は、リソグラフィー技術を用いた半導体プロセスによりマイクロ金型を作成した後、このマイクロ金型に、ピーク材を熱圧着させることで成形を行うインプリント処理により、基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、該基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数の突起を、ピーク材によって一体に形成する。
【0014】
複数の突起を、相互の間に4μm〜6μmの範囲の間隔を開けたマイクロパターン形状に配置することができる。複数の突起のそれぞれは、三角形以上の多角形(例えば、正方形)形状の底部から先端側突起に向けて側壁面を傾斜させたピラミッド形状にすることができる。側壁面の傾斜角度は、ポリシングパッドの表面を基準として、20度以上であり90度未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリシングパッドの表面凹凸の加工に寄与している周波数成分や振幅を反映した構造を選択的に形成させることで、研磨性能の向上を図ることができる。
【0016】
マイクロパターンを有するポリシングパッドにすることにより、接触面積を制御することができ、また、研磨性能の大幅なる改善が期待できる。さらに研磨効率の向上により、コストを低減させるうえで効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に基づき構成したポリシングパッド(マイクロパターンパッド)を用いた化学的機械的研磨装置の動作を説明する図である。
【図2】非特許文献1のモデルを参考にして材料除去現象を説明する図である。
【図3】本発明に基づき構成したポリシングパッドを説明する図であり、(A)は上面図であり、(B)は、1個のピラミッド形状を取り出して示す図である。
【図4】PEEK材と、無発泡性ポリウレタン(参考例)それぞれの共焦点レーザ顕微鏡(キーエンス:VK‐9700)による成形結果の観察写真を示す図である。
【図5】図1に例示の化学的機械的研磨装置を用いて行ったポリシング実験の条件を示す表である。
【図6】ポリシング前後のマイクロパターンパッドの突起形状の高さを示すグラフである。
【図7】ポリシング時間2分の表面観察結果を示す図である。
【図8】特許文献2に開示されたポリシングパッドを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明に基づき構成したポリシングパッド(マイクロパターンパッド)を用いた化学的機械的研磨装置の動作を説明する図である。ウエハは、キャリアにより保持され、回転しているプラテンに貼り付けたポリシングパッド表面上に対して荷重を受けながら回転する。同時に研磨液であるスラリー(研磨粒子が含まれる化学溶液)がポリシングパッド上に供給されることにより研磨が進行する。また、ポリシングパッドの表面積がウエハに比較して小さいとき、ウエハとポリシングパッドの装着位置を逆にすることができる。
【0019】
CMPにおける材料除去現象は未だ明らかにされていないが、いくつかのモデルは提唱されている。図2は、そのうちの1つである非特許文献1のモデルを参考にして材料除去現象を説明する図である。図示のように、ウエハ表面(SiO2)の化学反応層(Si(OH)4)を研磨粒子が転動することで、その凝着作用によりウエハ表面の分子が除去されていくモデルである。CMPプロセスによる材料除去現象は、スラリー中の化学溶液成分により軟弱化したウエハ表面の材料が、化学反応層に凝着した研磨粒子および回転機構で発生したスラリー流れの機械的運動により、取り除かれることで進行すると考えられている。
【0020】
図3は、本発明に基づき構成したポリシングパッドを説明する図であり、(A)は上面図であり、(B)は、1個のピラミッド形状を取り出して示す図である。スラリーに含まれている研磨材(研磨粒子)を被研磨面に対して、効率的に供給するためピラミッド形状が好ましい。本明細書において、ピラミッド形状とは、多角錐形状を意味する用語として用いており、それ故に、三角形以上の多角形(例えば、正方形)の底面から、頂点に向けて傾斜する傾斜面を有している。但し、本発明のピラミッド形状は、底面から頂点に向けての傾斜面を有する突起形状であれば、必ずしも多角錐形状には限定されない。ポリシングパッドは、図示のように、基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、この基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数のピラミッド形状を、ピーク材によって一体に形成している。個々のピラミッドは、左右前後のピラミッドとの間に間隔を開けて互いに独立しているだけでなく、ピラミッド形状の傾斜部分で研磨材の流れが押し上げられ、被研磨面に効率的に接触させることができる。これによって、材料除去メカニズムによれば、砥粒を効率的に被研磨面に接触させて、研磨レートを向上させることができる。さらに、ポリシングパッドの周波数解析から5μm程度の周波数成分が重要であることが確認されており、この結果をマイクロパターンに反映させることが望ましい。
【0021】
ピラミッド形状などの突起形状は、被研磨面に対して点接触に近い接触をするため、接触面積が小さくできる効果と、突起(ピラミッド)斜面により研磨液の流れ方向がパッド表面に対して水平方向から斜め方向へ押し上げられる効果をもつ。突起斜面の角度は、ポリシングパッドの表面を基準として、20度以上であり90度未満が望ましい。この垂直成分による流れにより、研磨液中に含まれる微粒子が被研磨面に接触させる作用をもたせることができる。したがって、ピラミッド形状による高効率研磨が可能となる。
【0022】
前述の材料除去現象を考慮して、スラリー中の研磨粒子をウエハ表面に誘導できるような斜面を持たせた代表例としてピラミッド形状のマイクロパターンの寸法の一例を図3に示している。図示のように、ピラミッド形状の一例は、多角形(正方形として図示)底面:7μm×7μm、高さ:5μm、斜面の傾斜角:54°である。このようなピラミッド形状を、図3(A)に示すように、例えば、厚さ500μmの基材層の上に、3μm〜7μm(5μmとして図示)の横方向間隔を開けた複数行を、3μm〜7μm(5μmとして図示)の縦方向間隔を開けて配列する。また、例えば、突起底辺の一辺を3μm、突起間の頂点間隔5μm、底辺の間隔2μmとすることもできる。突起の高さ寸法は、5μmにしたとき、シリコン面方位(111)面が表面から55度の関係で最も精度が高い。突起の辺は、現行使用されているポリシングパッドの表面凹凸の解析から、5μmにしたときの凹凸間の周波数がポリシング性能と相関が良い。各行のピラミッド形状のそれぞれは、隣接する上下行のそれぞれに対して、そのピラミッド形状の間に位置するように互い違いに配置した。
【0023】
本発明ではポリシングパッドの表面構造(マイクロパターン)を形成するために、マイクロ金型を半導体プロセスにより作成した後、このマイクロ金型に、PEEK材を熱圧着させることで成形を行うインプリント処理を行う。まず、マイクロ金型の形成法としては、MEMS( Micro Electro Mechanical System)に用いられているリソグラフィー技術(フォトリソグラフィープロセス)によりパターニングを行い、異法性ウェットエッチング処理により(ピラミッド形状に相当する)ホール形成を行う。この時、ホール形状は結晶面を反映した構造を取る。具体的には、設計したパターンを有するフォトマスクを製作し、SiO2酸化膜つきSi単結晶4inch ウエハに露光を行い、Si単結晶の結晶性を利用した異方性ウェットエッチングを行うことでパッドの型が完成する。
【0024】
一方、インプリント処理ではポリシングパッドの原材料となるピーク材シートをマイクロ金型に高温(360℃)で熱圧着することでピーク材表面に表面凹凸を形成させることで、ポリシングパッドを作成する。ここでは、フォトリソグラフィーでのパターンを選択することで、パターン配置や形状を制御することができる。
【0025】
なお、参考例として後述する無発泡性ポリウレタン材料の場合は、型に流し込み、圧着させることでパッドを成型した。
【実施例】
【0026】
PEEK材を用いたマイクロパターンパッドの耐摩耗性を評価するため、PEEK材(本発明)と、無発泡性ポリウレタン(参考例)の2種類の材料で製作したピラミッド形状マイクロパターンパッドを用いてSiO2膜付Siウエハのポリシングを行った。図4(A)(B)は、それぞれ、PEEK材と、無発泡性ポリウレタン(参考例)それぞれの共焦点レーザ顕微鏡(キーエンス:VK‐9700)による成形結果の観察写真を示す。各図における寸法は、測定レンジを示している。図4(A)と(B)を比較すると、PEEK材料でも無発泡性ポリウレタン材料と同様に突起形状が形成できていることがわかる。PEEK材料は、インプリント工程における冷却時の熱収縮率が小さいため、突起高さの低下を抑えることができる。
【0027】
図5は、図1に例示の化学的機械的研磨装置を用いて行ったポリシング実験の条件を示している。図6は、ポリシング前後のマイクロパターンパッドの突起形状の高さを示すグラフである。図示のように、ポリウレタン材料のマイクロパターンパッドでは2分間のポリシングで突起形状の高さが約0.4μmとなり、突超高さの約90%がほとんど損なわれていた。一方、PEEK材料のマイクロパターンパッドも突起形状の高さが約40%減少しているが、3分間のポリシング後も突起形状高さは約60%を維持していた。ここで、摩耗量に大きな差が生じたポリシング時間2分の表面観察結果を図7(A)(B)に示す。図7(A)と(B)を比較すると、ポリウレタン材料の方が明らかに突起形状の高さが減少していることがわかる。つまり、PEEK材料の適用により、マイクロパターンパッドの耐摩耗性を向上させることができたといえる。これにより、材料除去に重要であると考えられるマイクロパターンパッドの微小突起の斜面の維持が可能となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面層の研磨に用いるポリシングパッドにおいて、
基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、該基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数の突起を、ピーク材によって一体に形成し、
前記複数の突起は、前記基材層の表面において縦及び横方向にそれぞれ所定間隔を開けて配置したことから成るポリシングパッド。
【請求項2】
前記複数の突起を、相互の間に4μm〜6μmの範囲の間隔を開けたマイクロパターン形状に配置した請求項1に記載のポリシングパッド。
【請求項3】
前記複数の突起のそれぞれは、多角形形状の底部から先端側突起に向けて側壁面を傾斜させたピラミッド形状である請求項1に記載のポリシングパッド。
【請求項4】
前記側壁面の傾斜角度は、ポリシングパッドの表面を基準として、20度以上であり90度未満である請求項3に記載のポリシングパッド。
【請求項5】
基板の表面層の研磨に用いるポリシングパッドの製造方法において、
リソグラフィー技術を用いた半導体プロセスによりマイクロ金型を作成した後、このマイクロ金型に、ピーク材を熱圧着させることで成形を行うインプリント処理により、基材層と、該基材層の表面に設けられ、かつ、該基材層の表面側から先端側に傾斜面を有する複数の突起を、ピーク材によって一体に形成し、
前記複数の突起は、前記基材層の表面において縦及び横方向にそれぞれ所定間隔を開けて配置したことから成るポリシングパッドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−49112(P2013−49112A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188471(P2011−188471)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2011年6月24日に東京都千代田区六番町15プラザエフで開催された、公益社団法人精密工学会主催の、「プラナリゼーションCMP委員会」第110回研究会において、文書をもって発表した。
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】