説明

ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法並びにこのシート製の成形品

【課題】適度な剛性と強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)に優れるため、取り扱い時に割れ、破れ等が起こり難く、薄肉軽量化や繰り返し使用が可能であり、型再現性、持続的帯電防止性に優れるので、洗浄、再利用、熱成形が可能なポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法、並びに該シート製の成形品を提供すること。
【解決手段】少なくとも1層の発泡層と少なくとも1層の非発泡層又は発泡層が積層されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート、及びそのポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法、並びに該シート製の成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンウェイの食品用、非食品用の成形用材料のみならず、取り扱い時に割れ、破れ等が起こり難く、或いは繰り返し使用が可能な食品用、非食品用の紙代替材料等向けの多層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡含有二軸延伸シート及びその製造方法、並びに、このシートを原料として製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリスチレン系非発泡樹脂シート(特に、ハイインパクトポリスチレンシート(以下「HIPS」と記載することがある))、及びポリスチレン系発泡樹脂シート(特に、発泡ポリスチレンシート(以下「PSP」と記載することがある))は、熱成形性が優れているため、惣菜容器等の各種食品容器の製造材料として汎用されている。前者は更に、剛性、二次成形品の寸法安定性に優れ、後者は断熱性、緩衝性、軽量化に優れている。取り扱い時の安全性を考えた場合、前者では緩衝性や柔軟性を付与するのは困難であり、また後者では、断熱性や緩衝性を重視するとシートが高発泡構造となり、剛性や寸法安定性は低下する。そこで機械的強度の低下をカバーするため肉厚となってしまい、保管スペースや輸送コストが高くなってしまう。そこで両者の中間的性能を有し、更に薄肉軽量化が可能で、コスト的に優れたシートの開発が望まれている。
【0003】
また、近年、環境保護と資源の有効利用、コストダウン等の観点から、例えばPSP等の成形材料が、洗浄・粉砕されて再利用され始めている。一方で、食品用、非食品用の紙もプラスチック化による代替で、洗浄、再利用を求める声が高まってきている。
【0004】
特許文献1には、ゴム分含有量20%以下、発泡倍率1.5〜7.0、厚み0.3〜1.0mm、厚み方向の気泡膜数5〜20、残ガス量0.3モル/kg以下である薄肉成形品の加熱成形用押し出し発泡ポリスチレンシートが開示されている。このシートは、厚み0.5mmのトレイ(特許文献1の実施例4)では、リブ構造を多用した場合は実用的なレベルにある(具体的な強度の数値記載はない)が、更なる薄肉化が必要な場合は、割れや破れが起こり易くなり、十分ではない。
【0005】
一方、特許文献2には、化学発泡剤を配合し、発泡倍率1.07〜2.1倍、厚み0.1〜1mmとなるよう二軸延伸し、耐折強さが10以上の成形用スチレン系樹脂シートが開示されている。ここには、二軸延伸することによりPSPの強靭性、成形性が改良されることが記載されているが、発泡倍率が1.24倍以上になると耐折強さは30回以下となり(特許文献2の第1表)、取り扱い時の割れや破れ防止には不十分である。
【0006】
【特許文献1】特公昭61−003820号公報
【特許文献2】特公昭64−006014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は次の(1)及び/又は(2)及び/又は(3)である。
(1)適度な剛性と強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)に優れるため、取り扱い時に割れ、破れ等が起こり難く、薄肉軽量化や繰り返し使用が可能なポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法、並びにこのシート製の成形品を提供すること。
(2)型再現性に優れるため、熱成形可能なポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法、並びにこのシート製の成形品を提供すること。
(3)持続的帯電防止性に優れるので、洗浄、再利用が可能なポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法、並びにこのシート製の成形品を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、前記諸欠点を解消し、上記課題を達成した、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びその製造方法、並びに該シート製の成形品を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも1層の発泡層と少なくとも1層の非発泡層又は発泡層が積層されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、非発泡層/発泡層/非発泡層の順に積層され、かつ両非発泡層の厚みの合計が全厚みの1〜70%であることを特徴とする上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを提供するものである。
【0011】
また、本発明は、発泡層/非発泡層/発泡層の順に積層され、かつ非発泡層の厚みが全厚みの5〜95%であることを特徴とする上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを提供するものである。
【0012】
また、本発明は、発泡層/発泡層/発泡層の順に積層され、かつ各発泡層の厚みが全厚みの1〜99%であることを特徴とする上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを原料とし、熱成形法によって製造されたものであることを特徴とする成形品を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物と、発泡剤を含まないポリスチレン系樹脂組成物を別々の押出機で溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも1層の非発泡層と少なくとも1層の発泡層を積層させることを特徴とする上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物を、少なくとも2台以上の押出機で別々に溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも2層以上の発泡層のみを積層させることを特徴とする上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、次の(1)、(2)、(3)及び/又は(4)が達成できる。
(1)本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、優れた強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)を有するので、熱成形して得られる成形品の薄肉軽量化が可能で、単位質量あたりの原材料からより多くの成形品を製造することができる。
(2)本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、型再現性に優れるため、熱成形性に優れる。
(3)本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、適度な剛性と同時に柔軟性、緩衝性を併せ持つので、取り扱い時に割れ、破れ等が起こり難く、安全に使用することができる。
(4)本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、洗浄を含む繰り返し使用による帯電防止性の低下が少ないので、毎回廃棄する紙代替用としてコスト的メリットを有するのみならず、自然保護にもつながる。
(5)帯電防止剤を外層にのみ又は外層に多く配合することによって、製造原料コストを上げずに表面抵抗値を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0018】
本発明におけるポリスチレン系樹脂組成物は、ゴム成分を含有しないポリスチレン系樹脂を(A)、ゴム成分を含有するポリスチレン系樹脂を(B)とした場合、(A)単独、(B)単独、又は、(A)と(B)の混合物により構成される。
【0019】
(A)の代表例としては、一般用ポリスチレン(以下、「GPPS」と記載することがある)等のポリスチレンが挙げられ、更には、スチレン、アルキルスチレン(例えば、o−、m−、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン)、α−アルキルスチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン)等の芳香族ビニル化合物の単独重合体、これら単量体を組み合わせた共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられる。ここに(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸をいう。これらの(A)は、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
(A)としては、好ましくはGPPSである。上記したGPPS以外の(A)は、GPPSに対して、GPPSとの相溶性を有する範囲で、単独または2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0021】
GPPSのなかでも、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレートが0.5〜20g/10分の範囲のGPPSが好ましく、2〜10g/10分の範囲のGPPSが特に好ましい。このようなGPPSを用いることにより、比較的低温での溶融混練、押出発泡が可能となり、また後述する練り込み型帯電防止剤の分散性が良化する。
【0022】
上記(B)としては、例えば、グラフト型共重合体の代表であるHIPS、ABA型ブロック共重合体の代表であるスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」と記載することがある)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と記載することがある)等が挙げられる。「HIPS」には、ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフト重合したグラフト型のHIPS単独以外に、このグラフト型のHIPSとGPPSとをブレンドしたブレンド型HIPSも含む(但し、ブレンドされたGPPSは(A)に分類される)。
【0023】
上記(B)のゴム成分を有するポリスチレン系樹脂は、相溶性を有する範囲で水素添加物であってもよい。
【0024】
上記(B)の製造において用いられるゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、ブタジエン−イソプレンゴム等の非スチレン系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム等のスチレン系ゴムを挙げることができる。なかでもブタジエンゴムが好ましく、ブタジエンゴムのなかでも、シス−1,4構造の含有率の高いハイシス型が、同含有率の低いローシス型より熱安定性の点から好ましい。
【0025】
本発明における「ゴム成分」とは、ポリスチレン系樹脂に結合された、例えば上記のゴムが有するような低弾性率の成分をいう。
【0026】
また、「ゴム成分の含有量」は、一塩化ヨウ素、ヨウ化カリウム及びチオ硫酸ナトリウム標準液を用いた電位差滴定でジエン含有量を測定し、ジエン含有量を「ゴム成分の含有量」として計算する。分析方法は、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版 高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659「(3)ゴム含量」に記載されており、この方法で測定し、そのように測定した値として定義される。後述する、シート全体に対する「シートのゴム成分含有量」も同様に測定し、そのように測定した値として定義される。
【0027】
そこで、(B)中の「ゴム成分の含有量」は、(B)全体に対して、3〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、7〜30質量%が特に好ましい。
【0028】
(B)としては、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレートが0.5〜20g/10分の範囲のHIPSやSISが好ましく、2〜10g/10分の範囲のHIPSやSISが特に好ましい。(B)は1種類で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
このようなポリスチレン系樹脂を用いることにより比較的低温での溶融混練、押出発泡が可能となり、また後述する練り込み型帯電防止剤の分散性が良化する。
【0030】
本発明における発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の揮発性発泡剤;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、ジアゾアミノベンゼン等)、スルホニルヒドラジド化合物(ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルオキシ−4,4‘−ビススルホニルヒドラジド等)、ニトロソ化合物(N,N’−ジニトロソペンタメチレントリアミン等)等の化学発泡剤(分解型発泡剤);二酸化炭素、窒素ガス等の気体;水等が挙げられ、これらの発泡剤を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
発泡成形の方法には、(1)化学発泡剤を添加して押出成形する方法、(2)発泡ガス原料を注入しながら押出成形する方法、(3)液状の発泡ガス原料を樹脂組成物に含浸させたものを押出成形する方法等を適用することができる。なかでも発泡剤のハンドリング性、二軸延伸時の安定性、及び発泡倍率の観点から、(1)の方法が好ましく、ポリスチレンベースのマスターバッチ化されたもの(例えば、永和化成工業(株)製ポリスレンESシリーズ、三協化成(株)製セルマイクMB6000シリーズ)が好適に使用できる。また、食品用途向けには、上記のなかからポリオレフィン等衛生協議会登録品を選択的に使用できる。
【0032】
発泡剤の含有量は、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、通常0.1〜5質量部、好ましくは0.3〜3質量部である。発泡剤が少な過ぎると、柔軟性、緩衝性が得られないばかりでなく、シート表面外観も見劣りしてしまう場合があり、一方、多過ぎるとシート表面外観が悪化するばかりでなく、強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)が低下したり、熱成形時の型再現性や成形品外観が悪化してしまったりする場合がある。
【0033】
また、T−ダイ等の口金に対する追従性や表面外観を改良するための充填剤(例えば、タルク、シリカ、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)や気泡調整剤(例えば多価カルボン酸等の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとの反応混合物等)を用いてもよく、発泡剤同様マスターバッチ化されたものを用いてもよい。これら充填剤や気泡調整剤の割合は、ポリスチレン系樹脂組成物100質量部に対して、通常0.01〜2質量部である。
【0034】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは持続的帯電防止性を有し、具体的には、JIS K6911に準拠して測定したシート表面抵抗値が10〜1013Ωであることが好ましい。
【0035】
上記ポリスチレン系樹脂組成物には帯電防止剤が含有されることが好ましい。帯電防止剤は特に限定はないが、界面活性剤等の低分子量型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等が挙げられる。界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、両イオン系、非イオン系に大別され、最も一般的に使われるのは、効果と経済性のバランスの良いアニオン系であり、代表的には、1)脂肪酸塩類、2)高級アルコール硫酸エステル塩類、3)液体脂肪油硫酸エステル塩類、4)脂肪族アミン及び脂肪族アミドの硫酸塩類、5)脂肪族アルコールリン酸エステル塩類、6)二塩基性脂肪酸エステル塩類、7)脂肪酸アミドスルホン酸塩類、8)アルキルアリールスルホン酸塩類、9)ホルマリン縮合のナフタレンスルホン酸塩類等が挙げられる。
【0036】
また、熱に弱く高コストであるが帯電防止性が高いカチオン系としては、1)脂肪族アミン塩類、2)四級アンモニウム塩類、3)アルキルピリジニウム塩類等が挙げられる。更には、アニオン系の弱点である耐熱性をやや改良した両性イオン系としては、1)イミダゾリン誘導体類、2)カルボン酸アンモニウム類、3)硫酸エステルアンモニウム類、4)リン酸エステルアンモニウム類、5)スルホン酸アンモニウム類等が挙げられる。
【0037】
これら界面活性剤等の低分子量型帯電防止剤についても発泡剤同様、マスターバッチ化されたものを用いてもよい。また、食品用途向けには上記のなかから、ポリオレフィン等衛生協議会登録品を選択的に使用することが好ましい。帯電防止性の付与方式としては公知の方法である[1]:練り込みタイプの帯電防止剤の使用、[2]:塗布タイプの帯電防止剤の使用、[3]:[1]と[2]の併用等が挙げられる。
【0038】
ポリスチレン系樹脂と「界面活性剤等の低分子量型帯電防止剤」との割合(質量比、多層シートの場合は低分子量型帯電防止剤を含む1つの層当りの質量比)は、ポリスチレン系樹脂/帯電防止剤=80/20〜99.5/0.5の範囲から選択することが好ましく、特に好ましくは90/10〜99/1である。帯電防止剤が少な過ぎる場合は、帯電防止性や持続的帯電防止性が劣る場合があり、一方、多過ぎる場合は、それ以上の効果がでない場合、帯電防止剤の過剰なブリードアウトにより接触物が汚染される場合がある。
【0039】
用途が洗浄を含む繰り返し使用の場合は、特に限定されないが、なかでもシート表面への帯電防止剤の過剰なブリードアウトによる接触物の汚染が防止できることから、高分子型帯電防止剤が好ましく、具体的には、ポリエーテルエステル系高分子型帯電防止剤等のノニオン系高分子型帯電防止剤、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーやポリスチレンスルホン酸系高分子型帯電防止剤等のアニオン系高分子型帯電防止剤、ポリアクリルエステル系高分子型帯電防止剤等のカチオン系高分子型帯電防止剤等が好ましいものとして挙げられる。なかでも、帯電防止性能に優れる点で、ポリエーテルエステル系高分子型帯電防止剤やエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマーが好ましく、ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤やエチレン・(メタ)アクリル酸ランダム共重合体のカリウムアイオノマーが特に好ましい。ここでエチレン・(メタ)アクリル酸ランダム共重合体のカリウムアイオノマーには帯電防止性能を上げる目的でグリセリンやポリエチレングリコールを含んでいても良い。尚、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸をいう。
【0040】
ポリスチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤との割合(質量比、多層シートの場合は高分子型帯電防止剤を含む1つの層当りの質量比)はポリスチレン系樹脂/高分子型帯電防止剤=50/50〜99.5/0.5の範囲から選択することが好ましく、更に好ましくは60/40〜95/5である。
【0041】
上記した界面活性剤等の低分子量型帯電防止剤;上記したポリエーテルエステル系高分子型帯電防止剤、カリウムアイオノマー等の高分子型帯電防止剤;等の帯電防止剤は、いずれの層に含有させてもよいが、外層にのみ又は内層より外層に多く配合させることによって、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの帯電防止性能を下げずに帯電防止剤の使用量を減らすことができる。すなわち、製造原料コストを上げずに表面抵抗値を十分に下げることができる。特に、発泡層/発泡層/発泡層の順で積層された本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートにおいては、上記した理由でその積層形態の効果をより発揮する。
【0042】
また、前記高分子型帯電防止剤と共に、その分散剤を添加してもよい。分散剤としては特に限定されないが、例えば、分子鎖内にポリスチレン系樹脂との相溶性がある非極性ユニットと、高分子型帯電防止剤との相溶性がある極性ユニットを有する共重合体が挙げられ、具体的には酸変性オレフィン系樹脂等が挙げられる。分散剤の割合はポリスチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤との合計100質量部に対して、通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0043】
上記ポリスチレン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、その他充填剤、その他分散剤、内部潤滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、防曇剤、抗菌剤、顔料、染料、流動性改良剤、増粘剤、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、補強材等の各種添加剤を配合してもよい。
【0044】
上記ポリスチレン系樹脂組成物には、相溶性を損なわない他の樹脂も含有させることができる。他の樹脂としては、ポリフェニレンエーテル(GPPS及び/又はHIPSと完全相溶系を形成することが好ましい)等が挙げられる。但し、実質的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂のいずれも含んでいないものであることが好ましい(ここに高分子型帯電防止剤は除くものとする)。これらの樹脂を実質的に含有すると、相溶性が低いため、もしくは相溶化剤を併用してもまだ相溶性が不十分なため、二軸延伸が困難となり、可能な場合でも強度(特に引裂強度、耐折強度)が低下してしまう場合があり、コスト的に優れたシートの開発が困難となってしまう場合がある。尚、上記「ポリオレフィン系樹脂」には、前記したポリスチレン系樹脂は含まれない。
【0045】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、以下の(1)、(2)又は(3)の形態であることが好ましい。
(1)非発泡層/発泡層/非発泡層の順に積層され、かつ両非発泡層の厚みの合計が全厚みの1〜70%である上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート
(2)発泡層/非発泡層/発泡層の順に積層され、かつ非発泡層の厚みが全厚みの5〜95%である上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート
(3)発泡層/発泡層/発泡層の順に積層され、かつ各発泡層の厚みが全厚みの1〜99%である上記のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート
【0046】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法については、上記(1)と(2)のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートでは、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物と、発泡剤を含まないポリスチレン系樹脂組成物を別々の押出機で溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも1層の非発泡層と少なくとも1層の発泡層を積層させる製造方法が好ましい。
【0047】
また、上記(3)のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートについては、発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物を、少なくとも2台以上の押出機で別々に溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも2層以上の発泡層のみを積層させる製造方法が好ましい。
【0048】
上記(1)、(2)又は(3)のいずれのポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートであっても、別々の押出機で溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することが好ましいが、更に以下のように製造することが特に好ましい。ただし、本発明は以下の具体的範囲には限定されず、本発明の思想の範囲内で変形が可能である。
【0049】
例えば、「HIPS等の上記(B)」及び/又は「GPPS等の上記(A)」と帯電防止剤、必要に応じてその他各種添加剤を所定量計量しながら二軸押出機にて溶融混練し、ペレット化して帯電防止剤含有マスターバッチを準備する。帯電防止剤の種類によっては市販のマスターバッチを使用することもできるし、市販品をそのまま使用することもできる。
【0050】
次に少なくとも2台の押出機を準備する。一方には、HIPSやGPPS或いは帯電防止剤含有マスターバッチを秤量してブレンダーやタンブラーによって攪拌し、ドライブレンド物(発泡剤を含まないポリスチレン系樹脂組成物)として投入し、溶融混練する。他方には、HIPSやGPPS或いは帯電防止剤含有マスターバッチ並びに発泡剤マスターバッチを秤量して、ブレンダーやタンブラーによって攪拌し、ドライブレンド物(発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物)として投入し、溶融混練する。
【0051】
次に、これら押出機に接続された1組のフィードブロック及びフィードブロックダイ、或いはマルチマニホールドダイ(これらのダイを総称して「T−ダイ」と称することがある)にて合流・積層させ連続的に押出発泡させながら共押出して冷却ロールで急冷する。次に急冷した、少なくとも1層の発泡層と「少なくとも1層の非発泡層若しくは発泡層」とが積層された発泡原反シートを加熱ロールで再加熱し、ロール延伸法で縦延伸、続いてテンター法で横延伸し、連続的に共延伸(逐次二軸延伸)を行う。そして最後にワインダーにてロール状に巻き取る方法が好ましい。
【0052】
ここで、本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、少なくとも1層の発泡層と「少なくとも1層の非発泡層若しくは発泡層」が積層された構成であることが必須である。こうすることで、少なくとも1層の発泡層と少なくとも1層の非発泡層が積層された構成の場合には、発泡基材を二軸延伸しても、縦延伸時の端部からの破断や端部不良による横延伸時のチャック外れを抑えることが可能となり、二軸延伸安定性が確保され、歩留まり向上につながる。また同時に、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート自体や該シートを原料として製造された成形品自体の強度も向上することとなる。即ち通常の押出発泡だけでは困難な薄肉軽量化が二軸延伸技術により可能となる。
【0053】
一方、発泡層と発泡層とが積層された構成の場合には、所望の層に帯電防止剤を配合することによって、帯電防止剤の全体の使用量を減らすことが可能であり、また非発泡層が積層された構成より、よりシート全体としての柔軟性や緩衝性を高めることが可能である。但し、発泡層のみからなるシートの二軸延伸安定性は、非発泡層が積層された構成より低下する傾向にあるが、(1)押出発泡品の特徴として厚さ方向で表面付近より中央付近の方が発泡倍率が高くなるので、発泡積層構成品は同じ厚みの単層発泡構成品に比べ、一つの層における厚さ方向の発泡倍率の振れを抑えることができ、縦・横延伸時のシート穴開きやそれに伴う破断を抑えることが可能となる。(2)各層の発泡倍率/及び又はゴム成分含有量を変えることで(例えば、3層構造で、両外層の発泡倍率/及び又はゴム成分含有量を中間層のそれより低くする、或いはその逆にすることで)、縦延伸時の端部からの破断や、縦・横延伸時のシート穴開きやそれに伴う破断を抑えることが可能となり、二軸延伸安定性が向上する。
【0054】
具体的な層構成として、非発泡層/発泡層/非発泡層の場合は、両非発泡層の厚みの合計が全厚みの1〜70%とすることが好ましい。より好ましくは3〜45%、更に好ましくは5〜20%である。ここで、両非発泡層の厚みの合計が1%未満では二軸延伸安定性が保てなかったり、シートが強度不足になったりする場合がある。逆に70%より厚いとシートの剛性が高くなるばかりか、柔軟性、緩衝性が低下する場合がある。
【0055】
他の具体的な層構成として、発泡層/非発泡層/発泡層の場合は、非発泡層の厚みが全厚みの5〜95%が好ましい。より好ましくは10〜65%、更に好ましくは15〜35%である。ここで、非発泡層の厚みが5%未満では二軸延伸安定性が保てなかったり、シートが強度不足になったりする場合がある。逆に95%より厚いとシートの剛性が高くなるばかりか、柔軟性、緩衝性が低下してしまい、シートの発泡外観(手触り感、凹凸等)も失われてしまう場合がある。
【0056】
他の具体的な層構成として、発泡層/発泡層/発泡層の場合は、各発泡層の厚みが全厚みの1〜99%であることが好ましい。より好ましくは5〜95%、更に好ましくは10〜80%である。ここで、各発泡層のどこかの層の厚みが薄過ぎたり、逆に厚過ぎたりすると、共押出自身が困難であったり、可能な場合でも二軸延伸時に厚みの厚い層が破泡してシートに穴が開き、更には破断が発生する場合がある。また、層構成が非対称の場合、シートが反ったり、繰り返し使用中に変形したりする場合があり、層構成が対称の場合でも、シートの発泡外観(手触り感、凹凸等)が失われてしまう場合がある。
【0057】
本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの厚みは0.05〜1mmが好ましい。薄肉軽量化の観点から、より好ましくは0.08〜0.5mmであり、更に好ましくは0.1〜0.3mmである。シートの厚みが0.05mm未満では、シート自体及び成形品自体の剛性が不足し、シートとして繰り返し使用する場合、折れたり皺が入り易くなったりする場合がある。また該シートを原料として製造された成形品(トレイ等)の場合は、収納した食品等の保持、保存が困難になってしまう場合がある。一方、厚さが1mmを超えると、シートや成形品の嵩や、スタック高さが高くなり、結局保管スペースや輸送コストが高くなってしまい、リサイクル及びコストの観点から好ましくない。本発明の方法で製造されたポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート(本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート)は、他の物性を良好に保ちつつ、上記厚みを実現することが可能である。特に薄肉軽量化しても二軸延伸の安定性確保と、割れや破れが起こり難いための強度確保が可能である。
【0058】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートには、ゴム成分が実質的に含有されていることが好ましい。本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートのゴム成分含有量(以下、「シートのゴム成分含有量」と記載することがある。)は、より好ましくは0.1〜30質量%であり、特に好ましくは1.0〜20質量%であり、更に好ましくは5.0〜15質量%である。ここで、本発明における「シートのゴム成分含有量」とは、前記の例えばHIPS、SIS、SBS等の樹脂全体に対する「ゴム成分の含有量」とは異なり、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート全体に対するゴム成分含有量を意味する。すなわち、個々の樹脂におけるゴム成分の含有量ではなく、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート又は該シートを原料として製造された成形品に対するゴム成分含有量を意味し、測定方法は前記した「ゴム成分の含有量」の場合と同様である。ゴム成分が実質的に含有されていなかったり、「シートのゴム成分含有量」が0.1質量%未満であったりすると、製造された発泡二軸延伸シート及び成形品(容器等)の、衝撃強度、引裂強度、耐折強度が向上せず、割れ易く、或いは破れ易くなってしまう場合がある。一方、「シートのゴム成分含有量」が30質量%を超えると、製造時の押出安定性や延伸安定性が悪くなるばかりでなく、製造された発泡二軸延伸シート及び成形品の剛性が低下してしまう場合がある。
【0059】
「シートのゴム成分含有量」が上記範囲内に入るようにするには、ゴム成分の含有量が多い(B)を少量使用して範囲内に入るようにしても、ゴム成分の含有量が少ない(B)を多量に使用して範囲内に入るようにしてもよい。また、ゴム成分を含まない(A)の含有量で調整してもよい。また、それぞれの層の厚みを調整して上記範囲に入るようにしてもよい。
【0060】
本発明におけるポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの縦方向(シートの押出し方向、以下「MD」と記載することがある)と横方向(シートの押出し方向と直角方向、以下「TD」と記載することがある)の熱収縮応力の平均値は0.10〜2.0MPaであることが好ましい。より好ましくは、0.20〜1.0MPa、更に好ましい範囲は0.30〜0.7MPaである。この平均値が0.10MPa未満では、シート自体及びこのシートを成形した成形品自体が割れ易く、或いは破れ易くなる場合がある。また熱成形時、特に熱板加熱式圧空成形時には金型外周のワク部分で裂けて成形不良が発生する場合もある。逆に平均値が2.0MPaより高くなると、熱成形時の型再現性(シートが金型キャビティ形状を忠実に再現する性能)が不良となる場合がある。また、熱成形用でない場合でもシートの剛性が高くなりすぎ柔軟性、緩衝性の点から好ましくない場合がある。
【0061】
本発明において「熱収縮応力」とは、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートが、ASTM D−1504に準拠した日理工業社製の「DN式ストレステスター」を使用して、熱収縮される際の最大荷重を測定し、その最大荷重の値から熱収縮前の該シートの断面積で除した数値(単位[MPa])を意味する。
【0062】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの「延伸」については、延伸工程を経ているものであれば、延伸倍率等に関し特に限定はない。本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートのMDとTDの延伸倍率は、MDとTDの熱収縮応力の平均値が上記範囲に入るように定められていることが好ましい。好ましくはMD、TDいずれも1.1〜5.0倍、特に好ましくは2.0〜3.0倍である。また、用途に合わせた表面状態を達成するため、或いは二次加工時に収縮させる目的でMDとTDで熱収縮応力や延伸倍率に大きく差をつけ、異方性を持たせてもよい。
【0063】
上記の延伸倍率とは、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの試験片に記入した直線の長さが収縮前後で変化した割合であり、具体的には、次式、すなわち、延伸倍率=Y/Z、によって算出される値(単位[倍])を意味する。この式において、Yは、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの試験片に、定規及び筆記用具を用いて、MD及びTDに描いた直線の長さ[mm]を示し、Zは140℃のシリコーンオイルバスに、上記試験片を10分間浸漬し収縮させた後の、上記直線の長さ[mm]を示す。
【0064】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートにおける「発泡」とは、発泡倍率1.01倍〜20倍かつ気泡セルの平均長径10μm〜5000μmとなっているものをいう。
【0065】
本発明のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの発泡倍率は、上記「発泡」の定義に入っていれば、所望する用途、特性等に応じて選択でき特に限定はないが、1.1〜2.5倍とすることが好ましい。1.1倍未満ではシート外観、柔軟性、緩衝性、手触り感等が低下し、2.5倍を超えるとシートの剛性や外観、表面均一性等が低下してしまう場合があり、特にシート厚みが薄い場合は、シート端部からの破断頻度が多くなり、二軸延伸の連続運転が不可能となってしまう場合がある。発泡倍率は、好ましくは1.2〜2.0倍、特に好ましくは、1.3〜1.7倍である。発泡倍率の制御は、発泡剤の種類、特に配合量、発泡押出時の樹脂温度、樹脂圧力等によって可能である。
【0066】
発泡倍率(P)は、JIS K7222に準拠して測定した発泡シートの密度(Q)と、JIS K7112のD法に準拠して測定した、その発泡体材料の発泡させていない状態の密度(R)より、P=R/Qにより求めることができる。
【0067】
また、気泡セルのサイズについても特に限定されないが、平均長径を10〜5000μmにすることが好ましく、100〜3000μmにすることが特に好ましい。平均アスペクト比(=気泡の平均長径/気泡の平均短径)は1〜5にすることが好ましく、1〜4にすることが特に好ましい。
【0068】
最外層若しくは表面の極近傍に発泡層がある場合には、例えば意匠性のある表面外観、表面均一性、パール調の光沢や手触り感を得る目的で、平均長径を200〜2000μmにすることが好ましく、500〜1000μmにすることが特に好ましい。平均アスペクト比(=気泡の平均長径/気泡の平均短径)は1〜4にすることが好ましく、1〜2にすることが特に好ましい。平均長径や平均アスペクト比は、シート面に対して垂線方向から電子顕微鏡で観察した写真を用いて計測する。従って、上記「平均長径」と「平均アスペクト比」における「平均」は個数平均である。発泡倍率、気泡長径の平均長さ、平均アスペクト比が上記範囲であると、良好な表面外観、表面均一性、パール調の光沢や手触り感が得られる。また、熱成形時の型再現性が良く、濃淡や気泡痕のない外観の良好な製品を得ることができる。
【0069】
一方、発泡層が内層の場合、平均長径や平均アスペクト比は、シート流れ方向と平行なシート断面に対して電子顕微鏡で観察した写真を用いて計測する。この場合、気泡セルは延伸により扁平形状となっており、上記の視野形状とは異なる。気泡セルのサイズについても特に限定されないが、平均長径を10〜5000μmにすることが好ましく、100〜3000μmにすることが特に好ましい。また、平均アスペクト比(=気泡の平均長径/気泡の平均短径)は2〜20にすることが好ましく、2〜10にすることが特に好ましい。
【0070】
気泡セルの大きさや形状の制御は、発泡剤の種類、配合量、特に発泡押出時の樹脂温度、樹脂圧力、特にMD、TDの延伸倍率等によって制御することが可能である。具体的には、縦延伸倍率及び/又は横延伸倍率が大きくなると平均長径は大きくなり、縦延伸倍率と横延伸倍率の差が大きくなる(異方性が大きくなる)と、それに応じて平均アスペクト比も大きくなる。
【0071】
本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、JIS K7127に準拠して測定した引張弾性率が0.6〜2.2GPaであり、衝撃強度が200kg・cm/cm以上であり、引裂強度が2.5N/mm以上であり、耐折強度が200回以上であることが好ましい。引張弾性率、衝撃強度、引裂強度及び耐折強度の全てを上記範囲とすることで、二軸延伸による薄肉軽量化を行っても適度な剛性と同時に強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)を併せ持つことが可能となる。よって、取り扱い時に割れ、破れ等が起こり難く、繰り返し使用が可能となる。引張弾性率、衝撃強度、引裂強度及び耐折強度は、実施例の方法で測定したもので定義される。
【0072】
特に好ましくは、上記の点で、引張弾性率が1.0〜1.9GPa、衝撃強度が300kg・cm/cm以上、引裂強度が3.0N/mm以上、及び/又は、耐折強度が300回以上である。
【0073】
本発明におけるポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、例えば食品用途向け等の場合、二軸延伸後ロール状に巻き取る前に、離型剤を塗布してもよい。塗布方法は特に限定はなく、例えば、25℃における粘度が1,000〜20,000mm/sのジメチルシリコーンオイルと乳化剤を含むジメチルシリコーンエマルジョンを、固形分濃度を0.1〜5質量%程度とした水溶液とし、スプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等によって塗布し、熱風乾燥機等によって乾燥させる方法が好ましい。離型剤には帯電防止剤を混合してもよく、混合する割合はシリコーンオイル(固形分)との合計量に対して30〜80質量%が好ましい。
【0074】
尚、離型剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、前記以外の帯電防止剤、ブロッキング防止剤、粘度調節剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、顔料、染料等の各種添加剤を配合することができる。
【0075】
本発明に係るポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、熱成形法によって容器・トレイ等の成形品に成形することができる。熱成形法には限定はなく、真空成形法、圧空成形法、真空成形法と圧空成形法とを組み合わせた差圧成形法等、従来から知られている方法が挙げられる。なかでも、例えば、金型からの圧空圧と熱板側からの真空圧とにより、シートを熱板に近接または密着させて加熱し、その直後に熱板側からの圧空圧と金型側からの真空圧により、加熱、軟化したシートを金型に押し付けて成形する熱板加熱式圧空成形法により型再現性の良好な成形品を得ることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。原材料としては、以下の特性を有する市販品を使用し、ポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート、及び、このシートから得られた成形品の評価項目は以下の通りである。
【0077】
<原材料>
[(A)ゴム成分を有しないポリスチレン系樹脂]
1.GPPS:一般用ポリスチレン
PSジャパン社製、商品名:HH102、温度200℃、荷重5kgにおいてのメルトフローレート(以下、「MFR(200℃、5kg)」と記載する)が3.5g/10分である。
2.SC:スチレン−アクリル酸ブチル共重合体
PSジャパン社製、商品名:SC004、MFR(200℃、5kg)が6.5g/10分である。
【0078】
[(B)ゴム成分を有するポリスチレン系樹脂]
3.HIPS:耐衝撃性ポリスチレン
PSジャパン社製、商品名:HT478、MFR(200℃、5kg)が3.0g/10分である。
4.SIS:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体
旭化成ケミカルズ社製、商品名:AFX(R)i−350、MFR(200℃、5kg)が8g/10分である。
【0079】
[帯電防止剤]
5.高分子型:ポリエーテルエステルアミド
三洋化成工業社製、商品名:ペレスタット NC6321と、上記HIPSを15:85(質量比)で、二軸押出機にて混練して再ペレット化し、15質量%マスターバッチとしたものである。
6.界面活性剤:アルキルスルホン酸塩系
花王社製、商品名:エレストマスターS−520、PSベースの20質量%マスターバッチタイプ、ポリ衛協登録品である。
7.高分子型:エチレン・メタクリル酸共重合物のカリウムイオンアイオノマー
三井デュポンポリケミカル社製、商品名:ENTIRA MK400、ポリ衛協登録品である。
【0080】
[発泡剤]
8.FA−1:発泡剤
永和化成工業社製、商品名:ポリスレンES106、分解温度200℃、PSベースの10質量%マスターバッチタイプである。
9.FA−2:発泡剤
永和化成工業社製、商品名:ポリスレンES405、分解温度155℃、PSベースの40質量%マスターバッチタイプ、ポリ衛協登録品である。
【0081】
<評価項目>
(1)延伸安定性
実施例、比較例に記載した条件で多層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを製造する際、樹脂温度等の条件がほぼ一定になってから、2時間連続してシート破断がないかを目視にて観察した。
○:2時間中1回も破断なし
×:2時間中1回以上の破断あり
【0082】
(2)熱収縮応力の縦方向と横方向の平均値
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、大きさが10mm×100mmの試験片を、各シートにつきMDを長辺したもの5個と、TDを長辺としたもの5個を作成した。これらの試験片につき、ASTM D−1504に準拠した日理工業社製の「DN式ストレステスター」を使用して、設定温度180℃の条件で熱収縮により生じる最大荷重を測定し、初期試験片の断面積で除した値を熱収縮応力(単位[MPa])とした。MD及びTDについて5個の試験片の平均値を求め、更にMDとTDの平均値から熱収縮応力の平均値を求めた。
【0083】
(3)引張弾性率
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、JIS K7127に準拠し、試験片タイプ2(幅10mm)をMD、TD各5個作成し、東洋精機社製「オートグラフDSS2000」を用い、初期クランプ間距離5cm、引張速度10mm/分の条件で測定して平均値を求め、更にMDとTDの平均値から全平均としての引張弾性率(単位[GPa])を求めた。
【0084】
(4)衝撃強度
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、大きさが100mm×100mmの試験片を各シートにつき5個作成し、JIS P8134に準拠した東洋精機社製「パンクチャーテスタ(先端は12.7mm丸球面ヘッドを使用)」を使用して、試験片の破壊に要したエネルギーの量(衝撃強度[kg・cm])を目盛板より読み取った。このエネルギー量をシート厚さ[cm]で除した値を衝撃強度(パンクチャー衝撃強度、単位[kg・cm/cm])とし、測定した5個の試験片の平均値を求めた。この値が200kg・cm/cm以上であると衝撃強度が良好と判定し、200kg・cm/cm未満では劣ると判定した。
○:200kg・cm/cm以上
×:200kg・cm/cm未満
【0085】
(5)引裂強度
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、大きさが50mm×64mmの試験片を、各シートのMDを長辺として5個、TDを長辺として5個作成した。これら試験片の短辺(50mm)側の中央端から長辺と平行に長さが13mmの切れ込みを入れ、東洋精機社製「軽荷重引裂試験機」を使用して、引裂いた時の指示値を読み取り、この指示値から初期試験片の厚さ[mm]で除した値を引裂強度(単位[N/mm])とした。MD及びTDについて、各々長辺とした5個の試験片での平均値を求め、両者の平均値から全平均値を求めた。この値が2.5N/mm以上であると引裂強度が良好と判定し、2.5N/mm未満では劣ると判定した。
○:2.5N/mm以上
×:2.5N/mm未満
【0086】
(6)耐折強度
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、大きさが15mm×150mmの試験片を、各シートのMDを長辺として5個、TDを長辺として5個作成した。これらの試験片につき、JIS P−8115に準拠した東洋精機社製「MIT耐揉疲労試験機」を使用し、折り曲げ角±90°、折り曲げ速度175rpm、荷重1kgの条件で、破断するまでの折り曲げ回数を計測し、この回数を耐折強度(単位[回])とした。MD及びTDについて各5個の平均値を求め、両者の平均値から全平均値を求めた。この値が200回以上であると耐折強度が良好と判定し、200回未満では劣ると判定した。
○:200回以上
×:200回未満
【0087】
(7)表面抵抗値
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートから、大きさが100mm×100mmのサンプルを5個作成し、23℃、相対湿度50%で24時間状態調整した。次にJIS K6911に準拠し、三菱化学社製「ハイレスターUP MCP−450型(JボックスUタイプ)」を使用し、印加電圧500V、測定時間60秒の条件で表面抵抗値(単位[Ω])を測定し、その平均値を求めた。また、これらシートサンプルを60℃の流水で3分間洗浄し、清浄な紙で水分を拭き取り、23℃、相対湿度50%で24時間状態調整後、洗浄前と同条件で表面抵抗値を測定し、その平均値を求めた。
【0088】
(8)型再現性
実施例、比較例で得られた発泡(又は非発泡)二軸延伸(又は未延伸)シートの、幅方向に対して3箇所(左端、中央、右端)からMD、TDの方向が分かるようにシートサンプルを切り出した。これらシートサンプルを、熱板加熱式圧空成形機(関西自動成形機社製「PK−450型」)に下記評価型を取り付け、熱板温度はシート厚みが0.11mmの時は128℃、同0.3mm及び0.4mmの時は136℃、同0.7mmの時は140℃とし、加熱時間2.0秒(シート厚みが0.7mmの時は10秒)、加熱圧力1.0kg/cm(≒0.10MPa)、成形時間1.0秒、成形圧力3.0kg/cm(≒0.29MPa)、金型温度60℃の条件で成形を行い、シート溝部を目視で観察し、型再現性が良好な最大絞り比(単位[なし])を求めた。MD及びTD各々について上記3ヶ所の平均値を求め、両者の平均値から全平均値を求めた。この値が1.00以上であると型再現性が良好と判定し、1.00未満では劣ると判定した。
○:1.00以上
×:1.00未満
【0089】
[評価型]
形状が長方形で、長辺(シートのMDと平行)200mm、短辺(シートのTDと平行)150mmの絞り比評価用型である。この長方形面内に、絞り比(開口部の最大深さ/開口部の幅)が0.1刻みで0.3〜1.2まで深さの異なる多数の溝が設けられている金型。溝の開口部幅はいずれも10mm、溝長さは50〜70mmであり、MD及びTDの各方向に10個設けられている。
【0090】
実施例1
<主に帯電防止性を必要としない非食品用途向け>
両外層用として表1に記載した割合の樹脂組成、発泡剤マスターバッチ(以下、マスターバッチを「(MB)」と記載する)を秤量し、リボンブレンダーによって均一混合してドライブレンド物とした後、タンデム115mmφ押出機(池貝鉄工社製)に供給し、シリンダー温度約190℃の条件で溶融した。一方、内層用として、表1に記載した割合の樹脂組成を秤量し、リボンブレンダーによって均一混合してドライブレンド物とした後、ベント式65mmφ押出機(プラ技研社製)に供給し、シリンダー温度約220℃の条件で溶融した。
【0091】
上記各押出機に接続用導管を介して装着された2種3層用フィードブロック&分配ブロック(プラ技研社製)及び面長850mmのT−ダイ(プラ技研社製;コートハンガータイプ)からシート状に押出して、80℃に設定した冷却ロールで急冷し、両外層が発泡層で内層が非発泡層からなる未延伸発泡シートを得た。得られた未延伸発泡シートをロール方式縦延伸機、続いてテンター横延伸機によって、縦方向に約2.5倍、横方向に約2.5倍延伸し、厚さ0.11mm、幅980mmの二軸延伸発泡シートをロール状に巻き取った。延伸安定性は良好であった。上記(1)〜(6)、(8)の評価を行い、得られた結果を表1に記載した。
【0092】
実施例2
<主に帯電防止性を必要とする非食品用途向け>
両外層用として表1に記載した割合の帯電防止剤(MB)を秤量し、ベント式65mmφ押出機(プラ技研社製)に供給し、シリンダー温度約220℃の条件で溶融した。一方、内層用として、表1に記載した割合の樹脂組成、発泡剤(MB)を秤量し、リボンブレンダーによって均一混合してドライブレンド物とした後、タンデム115mmφ押出機(池貝鉄工社製)に供給し、シリンダー温度約190℃の条件で溶融した。
【0093】
上記各押出機に接続用導管を介して装着された2種3層用フィードブロック&分配ブロック(プラ技研社製;実施例1とは流路が異なるタイプ)及び面長850mmのT−ダイ(プラ技研社製;コートハンガータイプ)からシート状に押出して、80℃に設定した冷却ロールで急冷し、両外層が非発泡層で内層が発泡層からなる未延伸発泡シートを得た。得られた未延伸発泡シートをロール方式縦延伸機、続いてテンター横延伸機によって、縦方向に約2.5倍、横方向に約2.5倍延伸し、厚さ0.3mm、幅980mmの二軸延伸発泡シートをロール状に巻き取った。延伸安定性は良好であった。上記(1)〜(7)の評価を行い、得られた結果を表1に記載した。
【0094】
実施例3
<主に帯電防止性を必要としない食品用途向け>
表1に記載した割合の樹脂組成、発泡剤(MB)を用いた以外は実施例2と同様の手順で二軸延伸発泡シートを製造した(但し、65mmφ押出機のシリンダー温度を約200℃とした)。尚、層比率の変更は押出機回転数の変更で行った。延伸安定性は良好であった。また、シートに離型性を付与するため、横延伸後、一方の面にジメチルシリコーンエマルジョン(信越化学工業社製「KM9738」)の固形分濃度3質量%水溶液をスプレーコーターによって塗布し、熱風乾燥機によって乾燥させた後、ロール状に巻き取った。被覆量既知のシートから作成した検量線を用いて定量した被覆量は20mg/mであった。このロールについては上記(1)〜(8)の評価を行い、得られた結果を表1に記載した。
【0095】
実施例4
<主に帯電防止性を必要とする食品用途向け>
表1に記載した割合の樹脂組成、帯電防止剤(MB)、発泡剤(MB)を用いた以外は実施例1と同様の手順で二軸延伸発泡シートを製造した。延伸安定性は良好であった。尚、シートに離型性を付与するため、実施例3と同様の手順でジメチルシリコーンエマルジョン塗布後、乾燥し、ロール状に巻き取った。被覆量は20mg/mであった。このロールについては上記(1)〜(8)の評価を行い、得られた結果を表1に記載した。
【0096】
実施例5
両外層用として表1に記載した割合の樹脂組成、帯電防止剤(カリウムアイオノマー)、発泡剤(MB)を秤量し、リボンブレンダーによって均一混合してドライブレンド物とした後、ベント孔を塞いだ65mmφ押出機(プラ技研社製)に供給し、シリンダー温度約190℃の条件で溶融した。一方、内層用として、表1に記載した割合の組成物、発泡剤(MB)を秤量し、リボンブレンダーによって均一混合してドライブレンド物とした後、タンデム115mmφ押出機(池貝鉄工社製)に供給し、シリンダー温度約190℃の条件で溶融した。
【0097】
上記各押出機に接続用導管を介して装着された、実施例2と同じタイプの2種3層用フィードブロック&分配ブロック(プラ技研社製)及び面長850mmのT−ダイ(プラ技研社製;コートハンガータイプ)からシート状に押出して、80℃に設定した冷却ロールで急冷し、全層が発泡層からなる未延伸発泡シートを得た。得られた未延伸発泡シートをロール方式縦延伸機、続いてテンター横延伸機によって、縦方向に約2.0倍、横方向に約2.3倍延伸し、厚さ0.4mm、幅980mmの二軸延伸発泡シートをロール状に巻き取った。延伸安定性は良好であった。上記(1)〜(7)の評価を行い、得られた結果を表1に記載した。
【0098】
比較例1
表2に記載した割合の樹脂組成、帯電防止剤(カリウムアイオノマー)、発泡剤(MB)を用いた以外は実施例5と同様の手順で、全層発泡層で構成された二軸延伸発泡シートを製造した。しかし、横方向に約2.5倍延伸したまま、縦方向の倍率を約2.5倍に上げたところ、縦延伸部での破断が発生したためサンプリングを中止した。縦延伸部でシートの端が裂けたような状態になっていた。よって、評価は未実施とした。
【0099】
比較例2
表2に記載した割合の樹脂組成、帯電防止剤(カリウムアイオノマー)、発泡剤(MB)を用いた以外は比較例1と同様の手順で、全層発泡層で構成された二軸延伸発泡シートを製造した。但し、延伸倍率を縦方向に約2.0倍、横方向に約2.3倍として、厚さ0.4mm、幅980mmの二軸延伸発泡シートをロール状に巻き取った。延伸安定性は良好であった。上記(1)〜(7)の評価を行い、得られた結果を表2に記載した。
【0100】
比較例3
表2に記載した割合の樹脂組成、発泡剤(MB)を用いた以外は実施例3と同様の手順で、両外層が非発泡層で内層が発泡層からなる厚さ0.7mmの発泡未延伸シートを作成し、二軸延伸を行わず、そのままサンプリングした。但し、ゴム成分を含有しないポリスチレン系樹脂を用い、65mmφ押出機のシリンダー温度を約220℃、115mmφ押出機のそれを約190℃とした。このシートについて上記(1)〜(6)、(8)の評価を行い、得られた結果を表2に記載した。尚、(5)引裂強度は上記記載の評価方法ではシートを完全に引裂くことができず、測定不可能であった。また、(8)型再現性の評価(圧空成形)時、金型外周の型枠部でシートが裂け、成形不良が発生した。
【0101】
比較例4
実施例4と同様の手順で、両外層が発泡層で内層が非発泡層からなる厚さ0.7mmの発泡未延伸シートを作成し、二軸延伸を行わず、そのままサンプリングした。このシートについては上記(1)〜(8)の評価を行い、得られた結果を表2に記載した。尚、(5)引裂強度は上記記載の評価方法ではシートを完全に引裂くことができず、測定不可能であった。
【0102】
比較例5
表2に記載した割合の樹脂組成のみを用いた以外は実施例3と同様の手順で、全層非発泡層で構成された二軸延伸シートを製造した。但し、65mmφ押出機、115mmφ押出機共にシリンダー温度は約220℃とし、シート厚み0.11mmの非発泡二軸延伸シートをロール状に巻き取った。延伸安定性は良好であった。これらのロールについて上記(1)〜(6)、(8)の評価を行い、得られた結果を表2に記載した。
【0103】
【表1】

表1中、「PHR」は、per hundred resin、即ち樹脂組成100質量部に対する発泡剤(マスターバッチ)の混合量(質量部)を表す。実施例2で用いた高分子型帯電防止剤には、前記したようにHIPSを含有する。
【0104】
【表2】

【0105】
上記表1及び表2より、次のことが明らかとなった。
(1)非発泡層と発泡層が共押出・共延伸された積層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは延伸安定性に優れていた(実施例1〜実施例4参照)。また、発泡層/発泡層/発泡層が共押出・共延伸された積層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートも延伸安定性に優れていた(実施例5参照)。
(2)シートの厚み、ゴム成分含有量、熱収縮応力の縦方向と横方向の平均値が、いずれも請求項5で規定する要件を満たす積層構造のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、適度な剛性と同時に強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)が優れていた(実施例1〜実施例5参照)。
(3)また、上記積層構造のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートは、型再現性が良好で、熱成形用途に優れていた(実施例1、3、4参照)。
(4)「発泡層/発泡層/発泡層」でも、ゴム成分含有量を0.1%以上とし、かつ延伸倍率を下げれば(縦方向に約2.0倍、横方向に約2.3倍)、延伸安定性がよく、また表面抵抗値が十分に小さく優れていた(実施例5参照)。
これに対して、ゴム成分含有量が0%でかつ延伸倍率が通常範囲(縦方向に約2.5倍、横方向に約2.5倍)では、そもそも延伸安定性が悪くシートができなかった(比較例1参照)。また、ゴム成分含有量が0%でも延伸倍率を下げれば(縦方向に約2.0倍、横方向に約2.3倍)、一応、延伸安定性は良くシートはできたが、他の物性が極めて劣っていた(比較例2参照)。
(5)非発泡層と発泡層が共押出された積層構造を有し、シートの厚みが請求項5の範囲内であっても、共延伸を伴わないポリスチレン系樹脂製発泡未延伸シートは、熱収縮応力の縦方向と横方向の平均値が0.1MPa未満となり、耐折強度と衝撃強度が劣ってしまい、或いはゴム成分含有量が請求項5の範囲内であっても耐折強度が劣ってしまい、割れ易く、或いは破れ易いばかりでなく、繰り返し使用が困難であった。また、熱成形に際しても成形不良が発生したり、或いは十分な型再現性が得られなかったりして、成形用途には不向きであった(比較例3、4参照)。
(6)また、シートの厚み、ゴム成分含有量、熱収縮応力の縦方向と横方向の平均値が請求項5の範囲内であっても、発泡層を有しないポリスチレン系樹脂製二軸延伸シートは、剛性(引張弾性率)が高くなりすぎ、緩衝性や柔軟性に欠けるので、取り扱い時の安全性が低下した(比較例5参照)。
(7)積層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートであっても、帯電防止剤を含有しないと、表面抵抗値が13乗のオーダーより高くなってしまい、帯電防止性が必要な用途に限っては不向きではあった(実施例3参照)。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る積層構造を有するポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート及びこのシートを原料に製造した成形品は、適度な剛性と優れた強度(衝撃強度、引裂強度、耐折強度)、更には柔軟性、緩衝性を具備し、更に層構成によっては優れたシート外観を具備するので、食品、非食品向けの紙代替シート、或いは洗浄工程を含む繰り返し使用用途に好適である。また、型再現性が優れるので食品用途、非食品用途に係わらず、容器やトレイ、立体形状物等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の発泡層と少なくとも1層の非発泡層又は発泡層が積層されていることを特徴とするポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
【請求項2】
非発泡層/発泡層/非発泡層の順に積層され、かつ両非発泡層の厚みの合計が全厚みの1〜70%であることを特徴とする請求項1記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
【請求項3】
発泡層/非発泡層/発泡層の順に積層され、かつ非発泡層の厚みが全厚みの5〜95%であることを特徴とする請求項1記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
【請求項4】
発泡層/発泡層/発泡層の順に積層され、かつ各発泡層の厚みが全厚みの1〜99%であることを特徴とする請求項1記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
【請求項5】
下記(1)〜(7)を同時に満たすことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかの請求項記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
(1)シートの厚みが0.05〜1mm
(2)シートのゴム成分含有量が0.1〜30質量%
(3)熱収縮応力の縦方向と横方向の平均値が0.10〜2.0MPa
(4)JIS K7127に準拠して測定した引張弾性率が0.6〜2.2GPa
(5)衝撃強度が200kg・cm/cm以上
(6)引裂強度が2.5N/mm以上
(7)耐折強度が200回以上
【請求項6】
JIS K6911に準拠して測定した表面抵抗値が10〜1013Ωである請求項1ないし請求項5のいずれかの請求項記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シート。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかの請求項記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートを原料とし、熱成形法によって製造されたものであることを特徴とする成形品。
【請求項8】
発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物と、発泡剤を含まないポリスチレン系樹脂組成物を別々の押出機で溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも1層の非発泡層と少なくとも1層の発泡層を積層させることを特徴とする請求項1ないし請求項3、請求項5、請求項6のいずれかの請求項記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法。
【請求項9】
発泡剤を含むポリスチレン系樹脂組成物を、少なくとも2台以上の押出機で別々に溶融混練して1つの口金から共押出させてシートを形成し、該シートを冷却後再加熱して二軸方向に共延伸することにより、少なくとも2層以上の発泡層のみを積層させることを特徴とする請求項1、請求項4ないし請求項6のいずれかの請求項記載のポリスチレン系樹脂製発泡二軸延伸シートの製造方法。

【公開番号】特開2009−149054(P2009−149054A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277767(P2008−277767)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】