説明

ポリプロピレン系樹脂発泡シートまたはポリプロピレン系樹脂積層発泡シート及びその成形体

【課題】 成形時のドローダウンが少なく、かつ成形時の伸びが良好であり、仕切り型や深型の容器成形、容器ごとに周期的な模様の入った容器の成形が可能なポリプロピレン系樹脂発泡シートまたはポリプロピレン系樹脂積層発泡シート、および、これらを加熱成形して得られる成形体を提供する。
【解決手段】 190℃の雰囲気下に1分間放置した際のポリプロピレン系樹脂発泡シートの巻取り方向および幅方向での加熱収縮率を共に0〜5.0%とすることにより、上記特性を有するポリプロピレン系樹脂発泡シートを、さらには、ポリプロピレン系樹脂積層発泡シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂発泡シートまたはポリプロピレン系樹脂積層発泡シート、及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる発泡シートは、一般に軽量で、断熱性や外部応力への緩衝性が良好であり、また、真空成形などの加熱二次成形により容易に成形体を得ることができるので、ポリスチレン系樹脂やポリエチレン系樹脂を中心に、緩衝材や食品容器、断熱材、自動車用部材などの用途で幅広く利用されている。
【0003】
それらの中で、ポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とする発泡シートは、その基材樹脂の特性から、従来のポリスチレン系樹脂発泡シートに比べると、耐熱性および耐油性に優れるため、近年、注目を集めている。
【0004】
一方、耐熱性および耐油性に優れたポリプロピレン系樹脂は、溶融時の粘度及び張力が低いために押出発泡シートを得ることが困難とされていたが、近年、ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射することにより、長鎖分岐を導入した樹脂を使用する方法(例えば、特許文献1)やポリプロピレン系樹脂を共役ジエン化合物およびラジカル重合開始剤との反応により改質された樹脂を使用する方法(例えば、特許文献2)などにより、発泡シートを製造しうることが見出された。
【0005】
しかしながら、これらのポリプロピレン系樹脂から得た発泡シートでは、成形時のドローダウンが問題となったり、ポリプロピレン系樹脂積層発泡シートの成形伸びが悪いなどの問題があった。
【0006】
ここで、発泡シートの気泡径および特定の加熱雰囲気下における発泡シートの収縮率を規定することにより、上記の問題を解消する方法(特許文献3参照)が開示されている。この方法により、成形時のドローダウンや金型再現性は改善される傾向にあるものの、規定した収縮率の発泡シートを製造するために、発泡シート化工程以外に加熱延伸工程が必要となったり、規定した収縮率が大きすぎ、成形時の伸びが悪く、深型の容器や仕切り部のある容器の成形ではシートが破れたり、また、容器ごとに周期的な模様のはいったものの成形では、金型からその模様がずれたりするなどの問題があった。
【特許文献1】特許第2521388号公報
【特許文献2】特開平11−228726号公報
【特許文献3】特開2001−287262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形時のドローダウンが少なく、かつ成形時の伸びが良好であり、深型の容器や仕切り部のある容器成形、容器ごとに周期的な模様の入った容器の成形が可能なポリプロピレン系樹脂発泡シートまたはポリプロピレン系樹脂積層発泡シート、およびそれらを加熱成形して得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の溶融粘度を有したポリプロピレン系樹脂を基材樹脂とした発泡シートの加熱収縮率を規定することにより、成形時の加工性に優れるとともに外観美麗なポリプロピレン系樹脂発泡シート、ポリプロピレン系樹脂積層発泡シートを提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
ポリプロピレン系樹脂発泡シートであって、190℃の雰囲気下に1分間放置した際のポリプロピレン系樹脂発泡シートの巻取り方向および幅方向での加熱収縮率が、共に0〜5.0%であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡シート(請求項1)、
ポリプロピレン系樹脂発泡シートの基材樹脂の200℃および122sec-1における溶融粘度が1200〜2500Pa・sであることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン系樹脂発泡シート(請求項2)、
ポリプロピレン系樹脂発泡シートが、目付200g/m2〜400g/m2、密度0.08〜0.5g/cc、独立気泡率60%以上および厚み方向セル数5個以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂発泡シート(請求項3)、
請求項2記載のポリプロピレン系樹脂発泡シートに、ポリプロピレン系樹脂を押出ラミネートしてなる非発泡ポリプロピレン系樹脂層を介して、ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されたポリプロピレン系樹脂積層発泡シート(請求項4)、
非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みが20〜150μmであることを特徴とする請求項4記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シート(請求項5)、
ポリプロピレン系樹脂積層フィルムの厚みが15〜50μmであることを特徴とする請求項4または5記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シート(請求項6)、
請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡シートまたは、請求項4〜6のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シートを、加熱成形して得られる成形体(請求項7)
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるポリプロピレン系樹脂発泡シートまたはポリプロピレン系樹脂積層発泡シートは、成形時のドローダウンが少なく、かつ成形時の伸びが良好であり、加熱成形において、深型の容器や仕切り部のある容器成形、容器ごとに周期的な模様の入った容器の成形が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0012】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートは、190℃の雰囲気下で1分間加熱した場合の巻取り方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の収縮率が、共に0〜5%が好ましく、共に0〜4%がより好ましい。本発明において、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの巻取り方向または幅方向の収縮率が0%に満たない場合、熱成形時のドローダウン性が大きくなり、容器ごとに周期的な模様のはいったものの成形では、金型からその模様がずれたりする傾向にある。また、巻取り方向または幅方向の収縮率が5%を超える場合、熱成形時のドローダウン性は改善されるものの、発泡シートの成形伸びが悪くなり、深型容器や仕切り部のある容器成形では、シートが破れたりするなどの成形不良が起こりやすい傾向にある。
【0013】
なお、本発明における加熱収縮率の測定は、ヤマト株式会社製「ファインオーブンDH62」を使用する。測定は、MD方向100mm×TD方向100mmの大きさに切断した発泡シートを、190℃の雰囲気下に設定されたオーブン中に1分間放置した時のMD方向およびTD方向の加熱収縮率を求める。なお、加熱収縮率は、発泡シートの加熱前の寸法および加熱後の寸法をノギスで測定し、下記式によって算出する値を採用する。
加熱収縮率(%)=[(加熱前の寸法−加熱後の寸法)/(加熱前の寸法)]×100
【0014】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートに用いられる基材樹脂のポリプロピレン系樹脂としては、線状のポリプロピレン系樹脂(以下、このポリプロピレン系樹脂のことを「原料ポリプロピレン系樹脂」ということもある)に電子線を照射して長鎖分岐を導入したもの(例えば、バセル社製HMS−PP)および、原料ポリプロピレン系樹脂、イソプレン単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混練して得られる改質ポリプロピレン樹脂が、発泡性に優れるという点から好ましい。特に、原料ポリプロピレン系樹脂、イソプレン単量体およびラジカル重合開始剤を溶融混練して得られる改質ポリプロピレン樹脂が、製造が容易で、かつ溶融粘度を容易に操作できる点から、好ましい。
【0015】
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂発泡シートに用いられる基材樹脂の溶融粘度を制御することにより、190℃の雰囲気下で1分間加熱した場合の巻取り方向(MD方向)および幅方向(TD方向)の収縮率を制御することができる。
【0016】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートに用いられる基材樹脂の溶融粘度は、1200〜2500Pa・sが好ましく、1300〜2000Pa・sがより好ましい。溶融粘度が1200Pa・s未満の場合、熱成形時のドローダウン性が大きくなり、肉厚の均一な容器を得ることが困難になるとともに、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの加熱収縮率のコントロールが困難となる傾向にある。一方、溶融粘度が2500Pa・sを超える場合、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの表面性が悪化する傾向にある。
【0017】
なお、本発明における溶融粘度の測定する方法としては、以下の方法が採用される。先端に口径1mm、長さ10mmおよび流入角45度のオリフィスを装着した、口径10mmおよび長さ350mmのシリンダーを有するピストン型せん断粘度計を用い、200℃に加熱された該シリンダーにポリプロピレン系樹脂組成物約15gを充填する。充填後5分間予熱した後、シリンダーと同径のピストンをせん断速度が122sec-1となる速度で降下させた(ピストン降下速度は10mm/min)時の応力から計算されるせん断粘度を、溶融粘度とする。測定機器としては、東洋精機(株)製キャピログラフを用いることができる。
【0018】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートは、例えば、押出機内でポリプロピレン系樹脂および発泡剤を溶融混練後、押出機内において発泡温度に調節し、環状のリップを有するサーキュラーダイスを用い、そのダイスのリップから大気圧中に押し出して円筒状の発泡体を得、次いで、その円筒状発泡体を引き取りながら、冷却筒(マンドレル)による成形加工によって延伸・冷却後、切り開いて、シート状にする方法によって容易に製造される。また、前記改質ポリプロピレン系樹脂組成物を原料とする場合、改質ポリプロピレン系樹脂組成物の製造と連続して押出発泡を行っても良い。
【0019】
前記発泡剤としては、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、無機ガス、水などが挙げられる。また、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
前記発泡剤の添加量(混練量)は、発泡剤の種類および目標発泡倍率により異なるが、ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
本発明においては、発泡シートの気泡径を適宜の大きさにコントロールするために、必要に応じて、重炭酸ソーダ−クエン酸混合物またはタルクなどの造核剤を併用してもよい。必要に応じて用いられる該造核剤の添加量は、特に制限はないが、通常、ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜3重量部であることが好ましい。
【0022】
本発明においては、、発泡シートの製造において、ポリプロピレン系樹脂の発泡性を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂を混合しても良い。
【0023】
本発明のポリプロピレン系樹脂には必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、または架橋剤、連鎖移動剤、造核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を添加してもよい。
【0024】
本発明においては、本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートは、所望の気泡構造を得る目的で、例えば、押出発泡した後に空気の吹き付けなどにより冷却を促進したり、マンドレルへの引き取り時に延伸してもよい。
【0025】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートの目付は、200〜400g/m2が好ましく、220〜360g/m2がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡シートの目付が200g/m2より小さい場合には、加熱して得られる成形体の剛性に劣る傾向があり、400g/m2より大きい場合には、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの加熱収縮率が小さくなる傾向にあるとともに、加熱成形時にドローダウン性が大きくなり、肉厚の均一な成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0026】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートの密度は、0.08〜0.5g/ ccが好ましく、0.1〜0.4g/ ccがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡シートの密度が0.08g/ccより小さい場合には、加熱して得られる成形体の剛性に劣る傾向があり、0.5g/ ccより大きい場合には、加熱して得られる成形体の断熱性に劣る傾向がある。
【0027】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートの独立気泡率は60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡シートの独立気泡率が60%未満の場合には、加熱して得られる成形体の剛性に劣る場合がある。
【0028】
本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートのセル数は、5個以上が好ましく、6個以上がより好ましく、7個以上がさらに好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡シートのセル数が5個より小さくなると、発泡シートの断熱性、表面性に劣る傾向がある。
【0029】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂発泡シートの厚さは、1〜5mmが好ましく、1〜3mmがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂発泡シートの厚さが1mm未満では、断熱性、剛性および緩衝性に劣る傾向があり、5mmより大きくなると成形性に劣る傾向がある。
【0030】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂積層発泡シートは、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シートとポリプロピレン系樹脂フィルムとの間に、押出ラミネートによって押出された非発泡ポリプロピレン系樹脂層を介して製造される。押出ラミネート法を採用することにより、ドライラミネート法などで必要なフィルムに接着剤を塗布する工程、熱圧着する工程といった工程の複雑さはなく、また、ドライラミネート法などで問題となる高温下での接着強度も改善することができる。
【0031】
本発明における非発泡ポリプロピレン系樹脂層に用いられるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンおよび他の単量体とのブロック共重合体、プロピレンおよび他の単量体とのランダム共重合体などがあげられるが、剛性が高く、安価であるという点からはポリプロピレン単独重合体が好ましく、低温脆性の改善という点からは、プロピレンおよび他の単量体とのブロック共重合体であることが好ましい。
【0032】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂がプロピレンと他の単量体とのブロック共重合体、または、プロピレンおよび他の単量体とのランダム共重合体である場合、ポリプロピレン系樹脂の特徴である高結晶性、高い剛性および良好な耐薬品性を保持する点から、含有されるプロピレン単量体成分が全体の75重量%以上であることが好ましく、全体の90重量%以上であることがより好ましい。
【0033】
本発明における非発泡ポリプロピレン系樹脂層においては、ポリプロピレン系樹脂を単独で用いるだけでなく、2種類以上を混合して用いることもできる。更に、ポリプロピレン系樹脂には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ブテン系樹脂などを混合したものも使用できる。
【0034】
本発明における非発泡ポリプロピレン系樹脂層に用いられるポリプロピレン系樹脂の、温度230℃および荷重21.18Nの条件下におけるメルトフローレート(以降、「MFR」という)は、加工性および二次成形性の点から、4〜20g/10分であることが望ましい。上記条件下でのMFRが4g/10分未満では、非発泡樹脂層の厚みムラが生じやすく、成形体の外観を損なうのと同時に、成形体の剛性を部分的に低下させり、また、二次成形時に加熱軟化させても金型賦形に適するほど軟化せず、成形体側壁や仕切形状部などにおいて部分的な伸びを生じ、成形体の剛性を低下させやすい傾向がある。一方、MFRが20g/10分を超えると、積層加工時に非発泡樹脂層を取り扱いにくく、また、Tダイから押し出された非発泡樹脂層がTダイ巾方向に収縮するネックインという現象が大きくなり過ぎ、非発泡樹脂層の巾を制御しがたくなる傾向がある。
【0035】
なお、本明細書におけるポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210に準拠して測定される。
【0036】
本発明における非発泡ポリプロピレン系樹脂層に用いられるポリプロピレン系樹脂の、温度270℃における溶融張力(メルトテンション)は、0.6cN未満であることが望ましい。非発泡ポリプロピレン系樹脂層に用いられるポリプロピレン系樹脂の溶融張力が0.6cN以上であると、非発泡ポリプロピレン系樹脂層が発泡シートに積層された際に、非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みのムラを生じやすく、この厚みのムラに起因して成形体の外観や剛性を損なう傾向がある。
【0037】
なお、本明細書中におけるポリプロピレン系樹脂の溶融張力(メルトテンション)は、以下の方法によって測定することができる。すなわち、メルトテンションテスター(東洋精機社製)を用い、270℃に加熱したポリプロピレン系樹脂を口径2.095mmおよび長さ8mmのオリフィスから10mm/分の速度でストランド状に押出し、該ストランド状物を張力検出用プーリーへ通過させ、5rpm/秒程度の割合で巻き取り速度を徐々に増加させながら巻き取り、該ストランド状物が切断される際のテンション値を測定する。
【0038】
本発明の非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みは、接着性、軽量性および剛性の点から、20μm〜150μmが好ましく、30μm〜120μmがより好ましく、50μm〜100μmがさらに好ましい。非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みが20μm未満の場合には、高温下でのポリプロピレン系樹脂発泡シートとポリプロピレン系樹脂フィルムとの接着性(剥離強度)が低下したり、発泡シートの剛性を補強する効果が薄い傾向がある。非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みが150μmを超えると、発泡シートの剛性は向上するものの、軽量性およびコストの点で劣る傾向がある。
【0039】
本発明に使用されるポリプロピレン系樹脂フィルムは、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー等のポリプロピレン系樹脂を主成分とする、無延伸、または2軸延伸されたポリプロピレン系樹脂フィルムである。また、ポリプロピレン系樹脂フィルムとして、2層以上の多層フィルムを使用してもよい。
【0040】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂フィルムを形成するのに特に好適なポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等があげられる。また、フィルムを形成するポリプロピレン系樹脂には、この発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂を混合して良い。他の樹脂としては、例えば、エチレン、α−オレフィン等の単独重合体もしくは共重合体、ポリオレフィン系エラストマー等のオレフィン系樹脂などが1種単独で、または2種以上混合して使用される。
【0041】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂フィルムを形成するポリプロピレン系樹脂には、必要に応じて、防曇剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、滑剤、フィラー等の種々の添加剤を、この発明の効果を損なわない範囲で適宜、添加しても良い。
【0042】
前記ポリプロピレン系樹脂フィルムの厚みは、15〜50μmが好ましく、20〜45μmがより好ましく、25〜40μmがさらに好ましい。前記ポリプロピレン系フィルムの厚みが15μmより薄いと、得られる積層発泡シートの加熱成形時の延伸によりフィルムが破ける場合がみられ、成形性に劣る傾向がある。厚みが50μmを超える場合、剛性は向上するものの、積層発泡シートの軽量性は不十分となる傾向がある。
【0043】
本発明において製造されたポリプロピレン系樹脂積層発泡シートの目付は、230g/m2〜500g/m2が好ましく、270g/m2〜450g/m2がより好ましい。積層シートの目付が230g/m2より小さいと、剛性を十分に得ることができない傾向がある。目付が500g/m2を超えると、剛性は十分に得られるものの、軽量性がなくなり、またコストの点からも好ましくない。
【0044】
本発明のポリプロピレン系樹脂積層発泡シートは、意匠性を付与するため、ポリプロピレン系樹脂積層フィルムの非発泡樹脂層と接着する面に、印刷層を形成し、積層することができる。
【0045】
本発明における印刷層は、樹脂、溶剤および顔料を混合したものを主成分とするインクによって印刷されることにより形成される。印刷インク用樹脂としては、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合物、ゴムの塩素化物、エチレンと酢酸ビニルの共重合体の塩素化物、ポリプロピレンの塩素化物、アクリル酸およびその誘導体の重合物、ダイマー酸とポリアミンとの縮合物、ポリエステルまたはポリエーテルとジイソシアネートの重合物、セルソースの硝酸エステル化合物等があげられる。また、それらの樹脂を1種または2種以上混合して用いてもよい。特に、ポリプロピレン系樹脂との接着性の点から、塩素化ポリプロピレンが好ましい。また、印刷インクには、必要に応じて、アンカーコート剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤、分散剤等を添加してもよい。但し、印刷層は、本発明の目的を達成できるものであれば良く、上記のものに限定されない。
【0046】
本発明においては、印刷層と発泡シートとの接着性を向上させるために、アンカーコート剤を使用することができる。アンカーコート剤としては、一般に使用されているポリプロピレン系樹脂の印刷性・接着性改良に用いられるアンカーコート剤(例えば、サカタインクス社製XGL−1200)や接着剤・プライマー処理剤を用いることができる。その中で、坪量を小さく塗布するという点より、塗布し易い溶剤系、水性系のものが好ましい。アンカーコート剤が溶剤系、水性系であることより、塗布・乾燥により、溶剤や水を揮発させ、所望の坪量の塗布を容易に行うことができる。
【0047】
本発明における印刷層は、グラビア印刷等の公知の方法によって形成される。印刷の模様は特に限定はなく、その印刷層が内面(ポリプロピレン系樹脂層フィルムの発泡層側)に配置されることにより、光沢を持ち、意匠性に優れる積層発泡シートおよび積層発泡体が得ることができる。
【0048】
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂発泡シートおよびポリプロピレン系樹脂積層フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を押出ラミネートしてなる非発泡ポリプロピレン系樹脂層を介して積層される。押出ラミネートの代表的な方法を、図1に基づいて説明する。
【0049】
発泡シート1と非発泡樹脂層7とフィルム8とからなる積層発泡シート10を製造する方法としては、発泡シート1をニップロール2に沿わせながら、ニップロール2と冷却ロール3との間に繰り出し、Tダイ4から非発泡樹脂層7をフィルム状に押出し、さらにフィルム8をエキスパンダーロール(フィルムのシワを取るためのロール)9を通して、ニップロール2と冷却ロール3との隙間6に繰り出し、ニップロール2と冷却ロール3とでフィルム8と非発泡樹脂層7と発泡シート1とを圧着、引取りすることにより、発泡シートと非発泡樹脂層とフィルムとからなる積層発泡シート10を得る。この際、エアギャップ5(Tダイ4から出た非発泡樹脂層8が発泡シート1に圧着されるまでの距離)を変更することにより、発泡シートからの非発泡樹脂層のはみ出しなどを調整することができると共に、発泡シートと非発泡樹脂層との界面および非発泡樹脂層とフィルムとの界面での接着強度を改善することができる。
【0050】
加熱成形の例としては、プラグ成形、マッチド・モールド成形、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形、プラグアシスト・リバースドロー成形、エアスリップ成形、スナップバック成形、リバースドロー成形、フリードローイング成形、プラグ・アンド・リッジ成形、リッジ成形などの方法があげられる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0052】
(発泡シートの密度の測定)
JIS−K6767に準拠し、測定した。
【0053】
(発泡シートの独立気泡率の測定)
ASTM D2856に記載の方法に準拠し、エアピクノメータにより測定した。
【0054】
(発泡シートの厚み方向のセル数の測定)
発泡シートの幅方向に等間隔に10点の測定点を設け、測定点における厚み方向のセル数をルーペ(peacock社製、pocket・micro×10)を用いて測定した。その後、各点の測定値の平均を、厚み方向のセル数とした。
【0055】
(加熱収縮率の測定)
収縮率の測定は、先に記載したように、ヤマト株式会社製「ファインオーブンDH62」を使用した。測定は、MD方向100mm×TD方向100mmの大きさに切断した発泡シートを、190℃の雰囲気下に設定されたオーブン中に1分間放置し、発泡シートの加熱前の寸法および加熱後の寸法をノギスで測定した。この際のMD方向およびTD方向の加熱収縮率を下記の式より求めた。
加熱収縮率(%)=[(加熱前の寸法−加熱後の寸法)/(加熱前の寸法)]×100
【0056】
(ドローダウン性評価)
得られた発泡シートまたは積層発泡シートを540×540mm角に切り出し、単発成形機(SENBAシステム(株)製VAS−66−45T)を用いて、内寸500×500mmの枠に固定した後、雰囲気温度200℃に温度調節した加熱炉に50秒挿入した。このときの中央部の垂れ下がり量を以下の基準に従い、ドローダウン性として評価した。
○:発泡シートまたは積層発泡シートの中央部の垂れ下がり量が20mm未満
△:発泡シートまたは積層発泡シートの中央部の垂れ下がり量が20〜40mm
×:発泡シートまたは積層発泡シートの中央部の垂れ下がり量が40mm以上
【0057】
(成形体の成形性評価)
前記ドローダウン性評価を行った直後に、加熱された発泡シートまたは積層発泡シートを、開口部175mm×175mmの角型で、各辺の中央部に5mm幅の仕切り部が存在し、深さ30mmの四つ仕切り状金型を用い、雰囲気温度200℃に温度調節した加熱炉にて50秒間加熱後、マッチド・モールド成形法にて10個成形した。このときの成形体の状態を以下の基準に従い、評価した。
○:成形体のいずれにも仕切り部分や底部の肉厚が均一で、破れなどがない。
×:成形体のいずれかに仕切り部分や底部の肉厚が不均一で、破れがみられる。
【0058】
(成形体の外観評価)
前記成形性の評価を行った成形体を用いて、外観を以下の基準に従い、評価した。
○:成形体のいずれにも、側部や底部にやぶれやシワがない。また、積層発泡シートから得られた成形体においては、さらに、フィルムズレがなく、光沢がある。
×:成形体のいずれかに側部や底部にやぶれやシワがあり、また、積層発泡シートから得られたにおいては、さらに、フィルムズレがあったり、光沢がない。
【0059】
以下に、実施例および比較例に用いた発泡シートの製造方法を示す。
【0060】
(ポリプロピレン系樹脂発泡シートA−1〜A−4の製造方法)
ポリプロピレンホモポリマーおよびラジカル重合開始剤(t−ブチルパーオキシベンゾエート)を表1に示した配合により、リボンブレンダーで攪拌混合した配合物を、計量フィーダを用いて二軸押出機に供給し、液添ポンプを用いて押出機途中からイソプレンを供給し、前記二軸押出機中で溶融混練することにより、改質ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。改質ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融粘度は、表1に示す値であった。
前記二軸押出機は、同方向二軸タイプであり、スクリュー径が44mmφであり、最大スクリュー有効長(L/D)が38であった。二軸押出機のシリンダー部の設定温度は、イソプレン圧入位置までは180℃、イソプレン圧入位置以降は200℃とし、スクリュー回転速度を150rpmに設定した。
【0061】
前記改質ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部、ブレンドオイル0.05重量部および気泡核形成剤(永和化成工業社製、セルボンSC/K)0.5重量部をリボンブレンダーにて撹拌混合した配合物を、90−125mmφタンデム型押出機に供給し、シリンダ温度200℃に設定した第1段押出機(90mmφ)中にて溶融させた後、発泡剤としてイソブタンを前記改質ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対し1.7重量部圧入混合し、160℃(ダイスの樹脂流入部に設置した温度センサーによって測定)に設定した第2段押出機(125mmφ)中で冷却し、サーキュラーダイ(127mmφ)より大気圧下に吐出し、外径335mmφおよび本体長さ800mmの冷却筒にて成形しながら4.4m/minで引き取りつつ延伸・冷却し円筒型発泡体を得、これをカッターで切り開くことにより1035mm幅の発泡シートを得た。
得られた発泡シートの物性は、表1に示す値となった。
【0062】
【表1】

【0063】
(ポリプロピレン系樹脂発泡シートA−5の製造方法)
ポリプロピレン系樹脂(サンアロマー社製、PF−814)100重量部、ブレンドオイル0.05重量部、気泡核形成剤(永和化成工業社製セルボンSC/K)0.7重量部を、リボンブレンダーで撹拌混合した配合物を90−125mmφタンデム型押出機に供給し、200℃に設定した第1段押出機(90mmφ)中にて溶融させたのち、発泡剤としてイソブタンを前記改質ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対し1.5重量部圧入混合し、165℃に設定した第2段押出機(125mmφ)中で冷却し、サーキュラーダイ(127mmφ)より大気圧下に吐出し、外径335mmおよび本体長さ800mmの冷却筒にて成形しながら4.6m/minで引き取りつつ延伸・冷却し円筒型発泡体を得、これをカッターで切り開くことにより1035mm幅の発泡シートを得た。得られた発泡シートの物性は、表1の値となった。
【0064】
(ポリプロピレン系樹脂非発泡樹脂層B−1)
MFR=9g/10minのポリプロピレンホモポリマー(三井化学(株)製、J105G)を非発泡樹脂層として使用した。
【0065】
(ポリプロピレン系樹脂二軸延伸フィルムC−1)
厚み30μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(サントックス(株)製、MF20♯30)を、フィルムとして使用した。
【0066】
(ポリプロピレン系樹脂二軸延伸フィルムC−2)
厚み25μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(サントックス(株)製、MF20#25)を、フィルムとして使用した。
【0067】
(ポリプロピレン系樹脂無延伸フィルムC−3)
厚み25μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(サントックス(株)製、KT#25)を、フィルムとして使用した。
【0068】
(実施例1〜6および比較例1〜4)
ポリプロピレン系樹脂発泡シート、非発泡積層樹脂およびポリプロピレン系樹脂フィルムを、表2のような組み合わせにより、積層発泡シートを得た。積層発泡シートを得る方法としては、実施例3〜5および比較例4は、図1に示した押出ラミネート法で行った。押出ラミネートにおいて、Tダイから出た非発泡樹脂層の温度は230〜240℃に調整し、Tダイ4から出た発泡樹脂層が発泡シートに圧着されるまでの距離(エアギャップ5)を15cm、非発泡樹脂層7の巾を1030mmとした。実施例および比較例における積層発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
以上のように、実施例1〜5のような発泡シート、非発泡樹脂層およびフィルムの組み合わせにおける積層発泡シートでは、ドローダウンがなく、かつ成形時の伸びが良いことがわかる。また、得られた深型成形体も外観が良好であるがわかる。
一方、比較例1については、発泡シート及び積層発泡シートのMD、TD方向の収縮率が大きいため、加熱成形時の伸びが悪く、成形性や成形体の外観が悪いことがわかる。比較例2および3では、収縮率が小さくなる傾向にあり、加熱成形時にドローダウンしやすくなり、特に比較例3では、発泡シート面側と積層フィルム面側の加熱バランスが取りづらくなり、外観が悪くなる傾向にることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明で製造されたポリプロピレン系樹脂発泡シート及びポリプロピレン系樹脂積層発泡シートは、基材樹脂をポリプロピレン系樹脂とすることより、耐熱性・耐油性に優れ、また、発泡層を設けることにより、断熱性・軽量性に優れるものである。
【0072】
上記のことより、本発明のポリプロピレン系樹脂発泡シート及び積層発泡シートは、外観が美麗で耐熱性・耐油性・軽量性・断熱性に優れ、電子レンジを用いて調理したり、再加熱する電子レンジ加熱用食品容器として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】押出ラミネート法の一例を示す図
【符号の説明】
【0074】
1 発泡シート
2 ニップロール
3 冷却ロール
4 Tダイ
5 エアギャップ(Tダイ4から出た非発泡樹脂層7が発泡シート1に圧着されるまでの距離)
6 ニップロール2と冷却ロール3とで形成される隙間
7 非発泡樹脂層
8 フィルム
9 エキスパンダーロール(フィルム8のシワを取るためのロール)
10 積層発泡シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂発泡シートであって、190℃の雰囲気下に1分間放置した際のポリプロピレン系樹脂発泡シートの巻取り方向および幅方向での加熱収縮率が、共に0〜5.0%であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂発泡シートの基材樹脂の200℃および122sec-1における溶融粘度が、1200〜2500Pa・sであることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
ポリプロピレン系樹脂発泡シートが、目付200〜400g/m2、密度0.08〜0.5g/cc、独立気泡率60%以上および厚み方向セル数5個以上であることを特徴とする、請求項1または2記載のポリプロピレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
請求項2記載のポリプロピレン系樹脂発泡シートに、ポリプロピレン系樹脂を押出ラミネートしてなる非発泡ポリプロピレン系樹脂層を介して、ポリプロピレン系樹脂フィルムが積層されたポリプロピレン系樹脂積層発泡シート。
【請求項5】
非発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みが20〜150μmであることを特徴とする請求項4記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シート。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂積層フィルムの厚みが15〜50μmであることを特徴とする請求項4または5記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シート。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂発泡シート、または、請求項4〜6のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂積層発泡シートを、加熱成形して得られる成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−104422(P2006−104422A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296997(P2004−296997)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】