説明

ポリベンゾオキサゾール及びそのポジ型感光性樹脂組成物、並びにパターン形成方法

【課題】 本発明の課題は、優れた耐熱性、低誘電性を有するポリベンゾオキサゾール、感光性樹脂組成物として用いる際に、アルカリ水溶液にて現像が可能な高解像度のポジ型パターン形成能を有するポリベンゾオキサゾー前駆体、およびそれを含むポジ型感光性樹脂組成物、並びに該組成物を用いたパターン形成方法を提供する。
【解決手段】 スピロビインダン骨格およびフェニルジイソプロピリデン骨格(ビスフェノールPタイプ)を有する特定構造のポリベンゾオキサゾール前駆体、それより得られるポリベンゾオキサゾール、該ポリベンゾオキサゾール前駆体および感光剤、または該ポリベンゾオキサゾール前駆体、感光剤、および架橋剤を含む感光性樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板配線用絶縁膜、半導体コーティング膜などの耐熱性と微細加工を必要とする用途に用いられる、アルカリ水溶液現像が可能なポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、及びそれを含むポジ型感光性樹脂組成物、並びに該組成物を用いたパターン形成方法に関する。より詳細には、高解像度のパターン形成性を有し、かつ電気特性、耐熱性等の物性に優れた硬化膜となるポリベンゾオキサゾール、その前駆体、およびその前駆体を含むポジ型感光性樹脂組成物、並びに該組成物を用いたパターン成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドやポリベンゾオキサゾールは、その高い耐熱性、機械特性、耐薬品性、電気絶縁性など優れた特性を有することから半導体の表面保護膜、多層配線基板の層間絶縁膜、フレキシブル配線基板のカバーコート膜など電気、電子分野への展開が期待されている。特に、フォトレジストの機能をもたせた感光性ポリイミドや感光性ポリベンゾオキサゾールは、加工工程を大幅に短縮できることから注目されている材料である。近年、通信情報処理技術においてコンピューターや計測機器の一層の高速化、大容量化が求められており、これに使用されるプリント配線基板の信号の伝播速度は高速化が進み、低誘電率化の要求も高まりつつある。また、作業時の安全性や環境への影響に対する配慮から、アルカリ水溶液での現像処理が可能なポジ型感光性樹脂組成物への要望が強くなってきている。
【0003】
これまで、ポジ型の感光性ポリイミドの報告例は、数多くあるが、現時点でユーザーを満足させうるものはできていない。これは、ポリイミドの構造に由来する耐湿性に劣ることや吸湿による問題があげられる。ポリアミック酸は、
1)カルボキシル基を有するためにアルカリ溶解性が大きすぎ、現像時の膜減りが激しい
2)フェノール性水酸基を導入すると最終硬化物に残ってしまうために耐湿性が低下し、半導体の信頼性が得られない
といった問題がある。
【0004】
そこで、最近、感光性ポリベンゾオキサゾール前駆体が注目されている(例えば、特許文献1や2)。ポリベンゾオキサゾールは、アルカリ現像時には、フェノール性水酸基があり、硬化後には消失する(耐湿性が優れる)といった特徴を有することから感光性ポリベンゾオキサゾールとしての開発が注目されている。
【0005】
しかし、近年、要求されている電気特性の水準が非常に高く、これまで報告されているポリベンズオキサゾール樹脂では、誘電率が3.0以上であるため要求されている水準まで達していない。そこで、誘電特性の向上を目指し、フッ素原子を含むポリベンゾオキサゾールが、開発された(例えば特許文献3)が、耐熱性の指標であるガラス転移温度が低くなってしまうといったことや高価である、という問題があった。
【特許文献1】特開昭56年27140号公報
【特許文献2】特開平5年11451号公報
【特許文献3】特開平11年237736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた耐熱性、低誘電性を有するポリベンゾオキサゾール、感光性樹脂組成物として用いる際に、アルカリ水溶液にて現像が可能な高解像度のポジ型パターン形成能を有するポリベンゾオキサゾー前駆体、およびそれを含むポジ型感光性樹脂組成物、並びに該組成物を用いたパターン形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、スピロビインダン骨格あるいは、フェニレンジイソプロピリデン骨格を有する新規なポリベンゾオキサゾール前駆体を見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の[1]〜[9]に記載の事項によって提供される。
[1] 一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、yおよびy’は、独立に0から3の整数である)。
【0008】
【化1】

【0009】
[2] 一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、zおよびz’は、独立に0から3の整数である)。
【0010】
【化2】

【0011】
[3] 一般式(3)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、R、R’、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、y、y’、zおよびz’は、独立に0から3の整数であり、mおよびnは、共重合比を示し、mとnの合計は100であり、mおよびnは、1〜99での整数ある)。
【0012】
【化3】

【0013】
[4] 上記[1]に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(4)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、yおよびy’は、独立に0から3の整数である)。
【0014】
【化4】

【0015】
[5] 上記[2]に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(5)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、zおよびz’は、独立に0から3の整数である)。
【0016】
【化5】

【0017】
[6] 上記[3]に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(6)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、R、R’、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、y、y’、zおよびz’は、独立に0から3の整数であり、mおよびnは、共重合比を示し、mとnの合計は100であり、mおよびnは、1〜99の整数である)。
【0018】
【化6】

【0019】
[7] 上記[1]〜[3]に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体と感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【0020】
[8] 上記[1]〜[3]に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体、架橋剤、および感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【0021】
[9] 上記[7]記載のポジ型感光性樹脂組成物を基板上にコーティングし、50〜160℃で乾燥させる塗膜工程と、得られた塗膜にマスクパターンを透して活性紫外線を露光した後、80〜350℃で加熱する工程と、露光塗膜をアルカリ水溶液を使用して露光部分のみを溶解して現像するポジ型パターン現像工程と、現像したポジ型パターンを熱処理してポリベンゾオキサゾールのポジ型パターンを形成する閉環熱処理工程とを含むポジ型パターン形成方法。
【発明の効果】
【0022】
ポジ型感光性樹脂組成物に有用なポリベンゾオキサゾール前駆体を提供することができ、かつそれから得られたポリベンゾオキサゾールの硬化膜は、高価なフッ素原子を導入しなくても高耐熱性、低誘電性を有するポジ型感光性樹脂組成物であり、高感度の微細パターン形成が可能であることから安価なポジ型感光性樹脂組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
ポリベンゾオキサゾール前駆体
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体の原料である、一般式(7)で示されるスピロビインダン構造含有o−アミノフェノール誘導体は、一般式(8)で示されるスピロビインダン化合物を公知の方法にてニトロ化して一般式(9)示されるジニトロ体を得、次いでニトロ基を還元することにより得られる。一般式(8)で示されるスピロビインダン化合物は、ビスフェノールAを原料として、公知の方法により得られる。
【0024】
【化7】

(式中、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、yおよびy’は、独立に0から3の整数である)。
【0025】
【化8】

(式中、R、R’、yおよびy’は、前記同様である)。
【0026】
【化9】

(式中、R、R’、yおよびy’は、前記同様である)。
【0027】
一般式(10)で表される3核体のo−アミノフェノール誘導体も、市販されているビスフェノールMを原料とし、それを上記と同様な方法で得ることができる。
【0028】
【化10】

(式中、R、R’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、zおよびz’は、独立に0から3の整数である)。
【0029】
一般式(1)〜(3)において、Xで表される2価の有機基とは、ジアミンと反応してポリアミド構造を形成するジカルボン酸誘導体の残基であり、ポリベンゾオキサゾールの耐熱性を低下させず、誘電特性に悪影響を与えない構造でi線もしくはg線領域において高い透過率を有するカルボン酸誘導体であれば制限されない。
【0030】
具体例として、イソフタル酸、テレフタル酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホンなどの芳香族系のジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,4−アダマンチルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、(4−カルボキシメチル-シクロヘキシル)酢酸、(3−カルボキシメチル-シクロヘキシル)酢酸などの脂環式構造や非連続芳香環構造などが挙げられ、これらは、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0031】
本発明において、一般式(1)〜(3)で表される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体は、公知の方法により、一般的にはジカルボン酸誘導体とo−アミノフェノール類とから合成できる。具体的には、カルボン酸誘導体をジハライド誘導体に変換後、前記o−アミノフェノール類との反応を行うことにより合成できる。ジハライド誘導体としてはジクロライド誘導体が好ましい。また、活性化剤を用いることによってカルボン酸誘導体をそのまま用いることもできる。
【0032】
ジクロライド誘導体とジアミン類との反応は、通常、受酸剤としてピリジン、トリエチルアミンなどの有機塩基が用いられる。本発明に用いるポリベンゾオキサゾール前躯体を合成するための重縮合反応の溶媒としては、ポリベンゾオキサゾール前駆体を製造のために使用される公知の有機溶媒を使用することが可能できる。
【0033】
具体的には、
(イ)フェノール系溶媒である、フェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、
(ロ)非プロトン性アミド系溶媒である、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、
(ハ)エーテル系溶媒である、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン
(ニ)アミン系溶媒である、ピリジン、キノリン、イソキノリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、イソホロン、ピペリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、および
(ホ)その他の溶媒である、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、γ−ブチロラクトン、アニソール、水、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジブロモベンゼン、m−ジブロモベンゼン、p−ジブロモベンゼン、o−クロロトルエン、m−クロロトルエン、p−クロロトルエン、o−ブロモトルエン、m−ブロモトルエン、p−ブロモトルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、フルオロベンゼン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル等が挙げられる。
【0034】
これらの溶媒は、単独又は2種以上混合して用いても差し支えない。これらの溶剤は、製造されるポリベンゾオキサゾール前駆体100重量部に対し、100〜1000重量部使用することが好ましい。
【0035】
反応温度は、およその範囲として−10℃から100℃が好ましいが、更に好ましくは、氷冷温度付近から50℃前後の範囲である。また、反応圧力は、常圧で十分である。また更に、反応時間は、使用するモノマーの種類、溶媒の種類、および反応温度により異なるが、1〜48時間が好ましい。さらに好ましくは、1〜24時間であり、特に好ましくは、1〜12時間であり、工程の効率化より1〜6時間が最も好ましい。
【0036】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体の分子量は、特に制限されないが、重量平均分子量で10000以上が好ましい。
【0037】
感光性樹脂組成物
本発明の感光性樹脂組成物は、下記(a)と(b)による。
(a)ポリベンゾオキサゾール前駆体と感光剤を含む。
(b)ポリベンゾオキサゾール前駆体、架橋剤、および感光剤を含む。
【0038】
感光性樹脂組成物(a)
(a)で用いられる感光剤は、紫外線等の活性光線によって酸を発生する化合物が使用される。その種類としては、o−キノンジアジド化合物、アリールジアゾニウム塩などが挙げられ、o−キノンジアジド化合物が高感度感度、高コントラストを与える。化学構造は特に制限されないが、具体的には、化学式群(11)で表される化合物が好ましい。
【0039】
【化11】

(化学式群中、Qは下記の1価の基である)
【0040】
【化12】

【0041】
感光剤の添加量は、ポリベンゾオキサゾール前駆体100重量部に対して1〜50重量部が好ましい。より好ましくは、15〜40重量部、さらに好ましくは25〜30重量部である。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物(a)は、前記ポリベンゾオキサゾール前駆体と感光剤を必須とし、これを溶剤に溶解して得ることができる。
【0043】
用いることができる溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミドなどの非プロトン性アミド系溶媒やプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどのエステル系、a−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、ジグライム、2−メトキシエタノールなどのケトン、エーテル、アルコール系であるが挙げられる。
【0044】
これらは、単独または2種以上併用しても構わない。溶剤は製造されるポリベンゾオキサゾール100重量部に対し、100〜3000重量部使用することが好ましい。
【0045】
感光性樹脂組成物(a)は、従来の方法、すなわち、ナフトキノンジアジド化合物を30重量部程度添加するだけで容易にポジ型パターン形成が可能になる。
【0046】
感光性樹脂組成物(b)
(b)で用いられる架橋剤は、ビニルエーテル基含有架橋剤であり、一般式(13)で示される化合物であり、ビニルエーテルの中心構造は、特に制限されないが、好ましくは、2価又は3価の芳香族基、脂肪族基等でビニルエーテルユニットが結合されたものが好ましい。
【0047】
【化13】

(式中、mは、1以上の整数、Rは、1価以上の芳香族基、または脂肪族基を示す)
【0048】
これらの化合物は、公知の文献のとおり、容易に合成することができる(例えば、Chem.Mater. 1994, 6, 1854-1860)。ビニルエーテルの中心構造(一般式(13)のR)は、特に制限されないが、例えば、下記化学式(14)で表される化合物群が挙げられる。これらは、単独または2種以上で混合して使用しても構わない。
【0049】
【化14】

【0050】
架橋剤の添加量は、ポリベンゾオキサゾール前駆体100重量部に対して1〜50重量部、より好ましくは、5〜20重量部、さらに好ましくは、10〜18重量部である。
【0051】
(b)の感光剤
(b)で用いる感光剤としては、紫外線等活性光線に対して分解し、酸を発生するものが好ましく、公知の感光剤を使用することが可能である。具体例としては例えば下記に示すような化学式群(15)〜(21)で表される7つの化合物群があり、それらの化合物は、本発明においてより好ましいものであるが、活性紫外線の照射によって分解し、効率よく酸を発生するものであれば下記構造に限定されるものではない。また、これらは単独又は混合して使用することができる。
【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
【化17】

【0055】
【化18】

【0056】
【化19】

【0057】
【化20】

【0058】
【化21】

【0059】
感光剤の添加量は、ポリベンゾオキサゾール前駆体100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましい。より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは、3〜8重量部添加させることが好ましい。上記範囲内である方が紫外線に対する感度が高く、塗膜の特性が良好であるため好ましい。
【0060】
本発明の感光性樹脂組成物(b)は、前記ポリベンゾオキサゾール前駆体、架橋剤、および感光剤を必須とし、これを溶剤に溶解して得ることができ、用いられる溶剤は上記の感光性樹脂組成物(a)の場合と同様である。
【0061】
本発明の感光性樹脂組成物(a)および(b)は、その必須成分以外のその他の成分として、目的に応じて他のいかなる成分、例えば、増感剤、レベリング剤、カップリング剤、モノマー、オリゴマー、安定剤、湿潤剤、顔料、染料等を含有しても構わない。
【0062】
本発明の感光性樹脂組成物(a)および(b)の製造方法は、特に制限はなく、いずれの公知の方法を適用しても構わないが、必要に応じて、ポジ型感光性樹脂組成物の最終工程において、テフロン(登録商標)フィルター等の濾過膜で濾過、減圧で脱気する工程を加えることが好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物(b)を用いた感光機構について説明する。
【0064】
基板上にスピンコートした後の加熱乾燥により、一般式(1)〜(3)で表されるポリベンゾオキサゾール前駆体のフェノール性水酸機部位とビニルエーテル部位を有する化合物とがアセタール結合を形成し、架橋構造をとる。次いで紫外線等の活性光線を照射、加熱をすることによって活性光線露光部では、光酸発生感光剤が分解し、酸が発生、拡散し、アセタール結合が開裂することによってフェノール性水酸基が再生する。このポリマーの水酸基酸は、アルカリ水溶液に対して適度な溶解性をもっており、この結果、紫外線等の活性光線を照射した部分のみがアルカリ水溶液に高い溶解性を示し、未照射部は不溶化しているため一切溶けない。この化学増幅型の概念を利用することにより樹脂以外の添加物の量を減らすことができ、しかも高感度なポジ型パターンを形成することが可能となった。
【0065】
ポジ型パターン形成方法
本発明によって得られた感光性樹脂組成物によるポジ型パターン形成方法について説明する。
【0066】
半導体デバイスへの適用を考えた場合、まず、この樹脂組成物を対象とするウェーハ上にスピンコーターを用いてコーティングし、次に50〜160℃、好ましくは70〜140℃で塗膜を乾燥させる。
【0067】
得られた塗膜上にパターンが描画されているマスクを透過させて365nm、436nmといった活性紫外線を照射する。次に、110〜200℃、好ましくは120〜180℃で再度塗膜を加熱し、続けて塗膜をアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等の無機アルカリ水溶液やエチルアミン、n−プロピルアミン等の一級アミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等の二級アミン、トリエチルアミン、メチルジメチルアミン等の三級アミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アミンの水溶液を使用して活性光線照射部のみを溶解現像し、純水によってリンス洗浄する。
【0068】
現像方式としては、スプレー、パドル、浸漬、超音波等の方式が使用可能である。これによって、対象とするウェーハ上には所望するポジ型パターンを得ることができる。さらに、この塗膜を80〜350℃で加熱する熱処理により、感光性樹脂組成物を硬化させる。加熱による熱処理温度は、好ましくは150〜350℃、更に好ましくは、200〜350℃、特に好ましくは、300〜350℃である。加熱による熱処理時間は、処理温度や膜厚によっても異なるが、好ましくは0.1〜24時間、更に好ましくは、0.5〜12時間、最も好ましくは、1〜6時間である。また、それらの温度と時間を組合せて段階的に加熱することも好ましい。例えば150℃で1時間、その後250℃で1時間の熱処理をすることができる。このようにして、膜特性に優れるポリベンゾオキサゾール膜を形成することができる。
【0069】
[実施例]
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。実施例中の各評価方法を以下に示す。
i)ガラス転移温度(Tg):DSC(示差走査型熱量計、島津製作所社製DSC−60)により、25℃から350℃まで昇温速度10℃/分で測定した。
ii)重量平均分子量(Mw);ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で、溶離液としてクロロホルムを用い日本分光社製のJasco2000システムを用いて測定した。
iii)誘電率・誘電正接:アジレント・テクノロジー(株)製PrecisionLCRmeterHP4284Aを用いて自動平衡ブリッジ法によって測定した。
【0070】
[合成例1]化学式(22)のo−アミノフェノールの合成
【0071】
【化22】

【0072】
6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン(SPI)15.42g(0.05mol)をモノクロロベンゼン43.26gに溶解させ、65%硝酸9.7g(0.1mol/SPIに対して2当量)を15℃で滴下した。15〜20℃で2時間反応させた後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。さらに水洗した後、有機層を分液、濃縮し、熱イソプロパノールで洗浄することによって目的物を得た。
【0073】
この化合物5.98g(0.015mol)に5%パラジウム/カーボン1.856g(15wt%)、ジメチルアセトアミド18g、エタノール6gを加えて、で12時間反応させた。反応終了後、パラジウム/カーボンをろ過により除去し、濃縮した後、水を加えることによって晶析した。収率は60%、融点は277.1℃であった。
【0074】
[合成例2]化学式(23)のo−アミノフェノールの合成
【0075】
【化23】

【0076】
合成例1における6,6’−ジヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン(SPI)の代わりに4,4’−((p−フェニレン)ジイソプロピリデン)ジフェノールに代えた以外は、同様方法で合成を行った。
収率は60%、融点は248.1℃であった。
【0077】
[実施例1]化学式(24)のポリベンゾオキサゾール前駆体の合成
【0078】
【化24】

(式中、nは重合度を示す)
【0079】
攪拌器、窒素導入管を備えた反応フラスコに化学式(22)で表される化合物4.52g(0.012mol)、塩化リチウム1.12g(0.026mol)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)28mLに溶解させ、氷冷した。これに、イソフタル酸クロライド2.44g(0.012mol)を加え、氷浴で1時間、室温で24時間攪拌したのち、水へ排出することによってポリマーを得た。重量平均分子量は、12000であった。合成したポリベンゾオキサゾール前駆体の1H−NMR、赤外線吸収スペクトル、およびそれを350℃/1時間で加熱処理によって得られた熱硬化膜の赤外線吸収スペクトルを図1〜3に示す。対数粘度は0.30dL/gであり、ガラス転移温度は、分解開始温度以下で観察されなかった。
【0080】
[実施例2]化学式(25)のポリベンゾオキサゾール前駆体の合成
【0081】
【化25】

(式中、nは重合度を示す)
【0082】
実施例1における化学式(22)の化合物の代わりに一般式(24)で表されるo−アミノフェノールを用いた以外は実施例1と同様な手法で重合を行った。重量平均分子量は、18000であった。合成したポリベンゾオキサゾール前駆体の1H−NMR、赤外線吸収スペクトルおよびそれを350℃/1時間で加熱処理によって得られた熱硬化膜の赤外線吸収スペクトルを図4〜6に示す。対数粘度は0.36dL/gであり、ガラス転移温度は、分解開始温度以下で観察されなかった。
【0083】
[実施例3]化学式(26)のポリベンゾオキサゾール前駆体の合成(m=70、n=30)
【0084】
【化26】

(式中、mとnは共重合比を示す)
【0085】
2種のo−アミノフェノール、化学式(22)と化学式(23)で表される化合物をモル比70:30で用いること以外は実施例2と同様な手法で重合を行った。重量平均分子量は、11000であった。対数粘度は0.31dL/gであり、ガラス転移温度は、分解開始温度以下で観察されなかった。
【0086】
[実施例4]化学式(27)のポリベンゾオキサゾール前駆体の合成(m=30、n=70)
【0087】
【化27】

(式中、mとnは共重合比を示す)
【0088】
2種のo−アミノフェノール、化学式(22)と化学式(23)で表される化合物をモル比30:70で用いること以外は実施例3と同様な手法で重合を行った。重量平均分子量は、11000であった。対数粘度は0.31dL/gであり、ガラス転移温度は、分解開始温度以下で観察されなかった。
【0089】
[実施例5〜8]
実施例1〜4で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体1.2gをシクロヘキサノン4mLに溶解させ、化学式(28)の感光剤であるナフトキノンジアジドを0.36g加えた。この溶液を1μm孔のテフロン(登録商標)製のフィルターを用いてろ過し、試料1〜4として感光性樹脂組成物を得た。
【0090】
【化28】

【0091】
試料1〜4をスピンコーターにより4インチシリコンウェーハ上にコートし、100℃の乾燥オーブン中で10分間乾燥させ、3μmの塗膜を得た。この塗膜をブロードバンド紫外線露光機によって220〜240mJ/cm2 のエネルギーでテストパターンを照射した。次に2.38wt%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)水溶液にて15秒間のパドル現像を行い、続けて純水にて洗浄した。
【0092】
この操作によって塗膜の紫外線照射部のみを溶解させたポジ型レリーフパターンを得ることができた。得られたパターンを光学顕微鏡によって観察したところ12〜20μmまでのパターンが形成されていることが確認できた。更にこのパターンを、350℃で1時間加熱処理を行い、塗膜のポリベンゾオキサゾール化を完結させた。得られた膜は、良好なパターン形成性を保持していた。試料1〜4の特性評価の結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
[実施例9〜12]
実施例1〜4で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体1.2gをシクロヘキサノン4mLに溶解させ、化学式(29)の感光剤である光酸発生剤0.06g、架橋剤0.18gを加えた。この溶液を1μm孔のテフロン(登録商標)製のフィルターを用いてろ過し、試料5〜8として感光性樹脂組成物を得た。
【0095】
試料5〜8をスピンコーターにより4インチシリコンウェーハ上にコートし、120℃の乾燥オーブン中で5分間乾燥させ、3μmの塗膜を得た。この塗膜をブロードバンド紫外線露光機によって150〜180mJ/cm2 のエネルギーでテストパターンを照射し、続けて120℃で5分間加熱した。次に2.38%のTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)水溶液にて60秒間のパドル現像を行い、続けて純水にて洗浄した。
【0096】
この操作によって塗膜の紫外線照射部のみを溶解させたポジ型レリーフパターンを得ることができた。得られたパターンを光学顕微鏡によって観察したところ、10μmまでのパターンが形成されていることが確認できた。更にこのパターンを、350℃で1時間行い、塗膜のポリベンゾオキサゾール化を完結させた。得られた膜は、良好なパターン形成性を保持していた。試料5〜8の特性を表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
[比較例1]
o−アミノフェノールとして実施例1で用いた化学式(22)で表される化合物の代わりに4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(o−アミノフェノール)を用い、実施例1と同様に相当するポリベンゾオキサゾール前駆体の合成した。更に、実施例5〜8と同様にして試料9として感光性樹脂組成物を得て、その評価を行った。結果を表3に示す。解像度は、10μmと同等である5μmであり、ガラス転移温度を有するため、その温度以上では、用いられないことが判った。
【0099】
【表3】

【0100】
以上のように本発明で得られた感光性樹脂組成物は、フッ素を用いない構造でありながら低誘電性を保持しつつ、感度、耐熱性において優れていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、紫外線に対して化学増幅的に反応するため、高いコントラストを有し、高感度でシャープなポジ型のパターンを得ることができる。本発明は、プリント配線基板用絶縁膜、半導体コーティング膜など耐熱性と微細加工を必要とする用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体膜の1H−NMRスペクトルである。
【0103】
【図2】実施例1で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体膜の赤外線吸収スペクトルである。
【0104】
【図3】実施例1で得られたポリベンゾオキサゾールの赤外線吸収スペクトルである。
【0105】
【図4】実施例2で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体膜の1H−NMRスペクトルである。
【0106】
【図5】実施例2で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体膜の赤外線吸収スペクトルである。
【0107】
【図6】実施例2で得られたポリベンゾオキサゾールの赤外線吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、yおよびy’は、独立に0から3の整数である)。
【化1】

【請求項2】
一般式(2)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、zおよびz’は、独立に0から3の整数である)。
【化2】

【請求項3】
一般式(3)で示される繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体(式中、Xは、2価の有機基であり、R、R’、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、y、y’、zおよびz’は、独立に0から3の整数であり、mおよびnは、共重合比を示し、mとnの合計は100であり、mおよびnは、1〜99の整数である)。
【化3】

【請求項4】
請求項1に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(4)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、yおよびy’は、独立に0から3の整数である)。
【化4】

【請求項5】
請求項2に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(5)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、zおよびz’は、独立に0から3の整数である)。
【化5】

【請求項6】
請求項3に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的または化学的に閉環した一般式(6)で表されるポリベンゾオキサゾール(式中、Xは、2価の有機基であり、R、R’、RおよびR’は、ベンゼン環に結合するハロゲン原子、または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、複数ある場合には各々同一でも異なっていてもよく、y、y’、zおよびz’は、独立に0から3の整数であり、mおよびnは、共重合比を示し、mとnの合計は100であり、mおよびnは、1〜99の整数である)。
【化6】

【請求項7】
請求項1〜3に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体と感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜3に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体、架橋剤、および感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜7記載のポジ型感光性樹脂組成物を基板上にコーティングし、50〜160℃で乾燥させる塗膜工程と、得られた塗膜にマスクパターンを透して活性紫外線を露光した後、80〜350℃で加熱する工程と、露光塗膜をアルカリ水溶液を使用して露光部分のみを溶解して現像するポジ型パターン現像工程と、現像したポジ型パターンを熱処理してポリベンゾオキサゾールのポジ型パターンを形成する閉環熱処理工程とを含むポジ型パターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−31511(P2007−31511A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214523(P2005−214523)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】