説明

ポリマジャケット材料中に摩擦安定剤を有するコードおよびポリマジャケットアセンブリ

一例のアセンブリが少なくとも一つの長尺の引張部材(32)を含む。ジャケットが引張部材(32)の少なくとも一部を被覆する。ジャケットはその少なくとも外表面における所望の摩擦特性の維持を容易にする摩擦安定剤(62)を含んだポリマ材料(68,64)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ荷重支持部材、乗用コンベヤの移動手すり、乗用コンベヤに用いられる駆動ベルト等の、ポリマジャケットアセンブリに関し、特に、摩擦安定剤を備えたポリマジャケットアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エレベータ荷重支持部材すなわちロープ機構や、乗用コンベヤ等の装置用駆動ベルト、乗用コンベヤの移動手すりなど、長尺の可撓性アセンブリには様々な用途が存在する。こうしたアセンブリはポリウレタンジャケットで被覆される複数のコードを考慮して設計される。例えば、特許文献1および特許文献2は、エレベータシステム内のエレベータかごおよびつり合いおもりの懸垂用のベルトを示す。一例の乗用コンベヤの移動手すりの構造が特許文献3に示される。一例の乗用コンベヤの駆動ベルトが特許文献4に示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6295799号明細書
【特許文献2】米国特許第6739433号明細書
【特許文献3】米国特許第4982829号明細書
【特許文献4】米国特許第6540060号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたアセンブリの一側面は、これらのアセンブリが他のシステムコンポーネントと相互に作用することである。ジャケットと他のシステムコンポーネントとの間の摩擦係数は一般的に十分な性能を実現するように選択される。例えば、エレベータかごの動作を制御するための十分な性能を実現するようにエレベータ荷重支持部材と駆動綱車との間に多少の摩擦が望まれる。綱車もしくはジャケットの表面粗度、またはその両方の表面粗度が、両者間の摩擦係数に影響を及ぼす一要因である。もう一つの要因はジャケット材料の化学組成である。
【0005】
乗用コンベヤの移動手すりにはその他の摩擦特性に対する要求がある。移動手すりの一方の側がガイドに沿って滑動する。好ましくはこの移動手すりの動作は移動手すりとガイドとの間の摩擦が制限されるもしくは生じないように行われる。移動手すりの他方の側にはコンベヤに乗る人が掴まる把持面が設けられる。把持面には異なる摩擦特性が要求される。多くの場合、把持面は移動手すりの駆動用に用いられるローラによって係合される。このような構成においては、所望の動作を達成するように移動手すりと駆動機構との間に十分な量の摩擦を維持する必要がある。
【0006】
時間が経過するに従い、これらのコンポーネント間の摩擦係数は変化する傾向にある。例えば、表面粗度、表面化学、もしくはその両方が変化しうる。除去する必要のある表面汚染物が蓄積しうる。メンテナンス処置時に洗浄溶剤もしくは潤滑油が用いられうる。これらの要因のいずれもが、表面粗度、表面化学、もしくはその両方を変化させ、コンポーネントの摩擦特性の変動をさらに増加させる。所望の摩擦特性の維持を試みるように付加的な努力が要求される。周知の試みがなされているときでさえ、その成果は一貫しておらず、十分正確ではない。例えば、所望の性能レベルを維持するための一貫した摩擦特性を維持することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一例のアセンブリが少なくとも一つの長尺のコード引張部材を含む。ジャケットが引張部材の少なくとも一部を被覆する。ジャケットは少なくともその外表面における所望の摩擦特性の維持を容易にする摩擦安定剤(friction stabilizer)を含んだポリマ材料を備える。
【0008】
ジャケットにより少なくとも部分的に被覆された少なくとも一つの長尺のコード引張部材を有するアセンブリの一例の製造方法が、摩擦安定剤と高分子樹脂とを混合して、混合材料のマスターバッチを用意することを含む。次いでその混合材料が基礎ポリマ材料と混合されてジャケット材料を形成する。次いでジャケット材料が引張部材の少なくとも一部にモールドされて所望の形状のジャケットを成形する。
【0009】
開示の実施例の様々な特徴および利点が以下の詳細な説明から当業者にとって明らかとなるであろう。詳細な説明に添付の図面を、以下のように簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例により設計された荷重支持部材を含むエレベータシステムの選択された部分の概略図。
【図2】一例のエレベータ荷重支持部材アセンブリの概略端面図。
【図3】別の例のエレベータ荷重支持部材アセンブリの概略端面図。
【図4】本発明の実施例により設計された駆動ベルトおよび移動手すりを含んだ乗用コンベヤの概略図。
【図5】一例の駆動ベルトの構成を示す概略図。
【図6】一例の移動手すりの構成を示す概略図。
【図7】本発明の実施例により設計された一例のアセンブリの製造方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は一例のエレベータシステム20の選択された部分を概略的に示す。エレベータかご22およびつり合いおもり24が荷重支持アセンブリ26によって懸架される。一例では、荷重支持部材アセンブリ26は複数のフラットベルトを備える。別の例では、荷重支持アセンブリ26は複数の円形ロープを備える。
【0012】
荷重支持アセンブリ26がエレベータかご22およびつり合いおもり24の重量を支持し、綱車28,30に沿って移動することにより、エレベータかご22の所望の位置への移動を容易にする。綱車の一つは、エレベータかご22を所望のように移動および配置させるように、エレベータ装置により周知の方法で駆動される駆動綱車である。場合によっては、フラットベルトを備えた駆動綱車は、エレベータ装置の機械軸から構成される(換言すれば、機械軸に取り付けられた個別のコンポーネントではない)。一例のもう一つの綱車は遊び車である。
【0013】
図2は一例の荷重支持アセンブリ26の一例のフラットベルトの構造を概略的に示す端面図である。この例では、フラットベルトは、複数の長尺のコード引張部材32と、引張部材32と接触するポリマジャケット34と、を含む。この例では、ジャケット34が引張部材32を被覆する。一例では、引張部材32は、スチール等の巻かれた金属コードを備える。一例ではポリマジャケット34は熱可塑性エラストマを備える。一例では、ジャケット34は熱可塑性ポリウレタンを備える。
【0014】
別の例を図3に概略的に示す。荷重支持アセンブリ26の一部として用いられるロープの端面図が少なくとも1つの引張部材32と、ポリマジャケット34と、を含む。図3の例では、上記のものと同一の材料が用いられる。
【0015】
一例のベルトの荷重は引張部材32によって支持される。ジャケット34と綱車28,30との間の相互作用には、例えば、十分な牽引力を達成するように所望の量の摩擦力が要求される。所望の摩擦係数を維持することにより一貫したシステム性能が保証される。図2,3の各々の例では、ジャケット34のポリマ材料が、少なくともその外表面における所望の摩擦特性の維持を容易にする摩擦安定剤を含む。
【0016】
図4は一例の乗用コンベヤ40を概略的に示す。この例では、複数の踏段42が乗降口44,46間で乗員を運ぶように周知のように移動する。コンベヤ40を移動する際に乗客が掴まるための移動手すり48が設けられる。
【0017】
図6に示すように、移動手すり48はポリマジャケット34で少なくとも部分的に被覆されたスチールコードなどの複数の引張部材32を含む。この例のポリマジャケットはグリップ面および移動手すり48の本体を形成する。ポリマジャケット材料は、少なくともジャケット34の外側のグリップ面における所望の摩擦特性の維持を容易にする少なくとも1つの摩擦安定剤を含む。
【0018】
図4の例は、踏段42を所望の方向に推進させる駆動機構50を含む。モータ52が駆動滑車54を回転させて駆動ベルト56を移動させる。図5に示すように、一例の駆動ベルト56は、ジャケット34で被覆された複数の長尺のコード引張部材32を有する。ジャケット材料は、駆動滑車54の対応する面と相互に作用する複数の歯57を形成する。ステップチェーン58(図4)が駆動ベルト56上の歯59と係合して踏段42を所望のように移動させる。
【0019】
所望の摩擦量が、一方の側の駆動ベルト56と他方の側の駆動綱車54もしくはステップチェーン58との間に所望の相互作用を保証するのに役立つ。この例では、駆動ベルト56は少なくともジャケット34の外表面における所望の摩擦特性の維持を容易にする少なくとも1つの摩擦安定剤を有するポリマジャケット材料を含む。
【0020】
実施例の引張部材32のいずれかに金属が用いられる場合、金属材料は保護剤で被覆してもしなくてもよく、保護剤でめっきしてもよい。例えば、主要鉄類は亜鉛、スズ、もしくは銅で被覆もしくはめっきしてもよい。
【0021】
図7はエレベータ荷重支持部材、乗用コンベヤの移動手すり、もしくは乗用コンベヤ等に用いられる駆動ベルトなどのアセンブリの一例の製造方法60を概略的に示す。摩擦安定剤62がマスターバッチミキサ66内で基礎高分子樹脂64の供給物と混合される。
【0022】
摩擦安定剤62は、メラミンベースもしくはリン酸ベースのうちの一方、またはその両方である。実施例の摩擦安定剤は、ハロゲンを含有しないメラミン塩(non−halogen containing melamine salt)を含む。ある実施例のメラミン塩の摩擦強化剤は、シアヌル酸メラミン、およびリン酸メラミンを含む。これらの例は熱可塑性ポリウレタンのジャケット材料とともに有用である。
【0023】
その他の実施例の摩擦安定剤は有機リン酸塩を含む。一つのこうした例は炭化水素リン酸塩(hydrocarbon phosphate)を備える。こうした摩擦安定剤は溶融加工が可能なゴム(melt−processible rubber)などの、弾性合金を備えたジャケット材料とともに有用である。
【0024】
摩擦安定剤の量は、目標となる摩擦特性を実現するように異なりうる。一例では、マスターバッチミキサ66中で基礎高分子樹脂と混合される摩擦安定剤の量は20〜50重量%である。次いで、この例で得られた混合材料のマスターバッチがジャケット材料ミキサ70中で基礎ポリマ材料68と混合される。符号70の混合後に得られるジャケット材料は20重量%までの摩擦安定剤を含みうる。一例ではジャケット材料中に0.2%〜20%(重量)の摩擦安定剤を含みうる。一例では、ジャケット材料ミキサ70中の得られたポリマ材料は約0.2%〜約10%(重量)の摩擦安定剤を備える。
【0025】
図7を参照すると、成形装置などのジャケット成形ステーション72内で所望の形状のジャケットを提供するように実施例のジャケット材料が成形される。図示の例では、複数のスプール74がジャケット成形ステーション72に引張部材32を供給し、ここで所望のアセンブリをもたらすようにジャケットが引張部材32の少なくとも1つの外側表面上にモールドされる。図5の場合、結果としてもたらされるアセンブリはエレベータ荷重支持部材26である。
【0026】
ジャケットポリマ材料の20重量%までのメラミンベースもしくはリン酸ベースの摩擦安定剤を提供することにより、ジャケット材料の摩擦特性の寿命を伸ばす。摩擦安定剤により摩擦特性の経時的な変化を最小限に抑え、もしくはこれを防ぐ。
【0027】
ジャケットが特定の応用例における要望どおりに機能するように、少なくとも一実施例の摩擦安定剤の存在が、基本ポリマ材料の可撓性等のジャケット材料のその他の特性に干渉するもしくはこれを悪い方向に変えることはない(例えば、アセンブリが乗用コンベヤの移動手すりを備えた場合にジャケットはガイドに従うことができ、アセンブリがベルト等の駆動部材を備えた場合にジャケットは十分な駆動力を伝達することができ、あるいは、アセンブリがエレベータ荷重支持部材を備えた場合にジャケットは綱車の周りに巻きついてエレベータかごを移動させるための十分な牽引力を達成することができる)。さらに、ジャケットを所望の形状にモールドし、かつ、ジャケット34と引張部材32との間に優れた接着性を維持する能力は損なわれない。実際には、ジャケット材料中の摩擦安定剤の存在により、ジャケット34の材料と引張部材32との間の接着性は向上する。
【0028】
実施例の摩擦安定剤により、これらのうちの一つも持たないポリマジャケット材料に比べて、予想以上に高められたジャケットの摩擦特性の安定性をもたらす。一部の例では、その接着強さは、実施例の摩擦安定剤なしで達成される接着強さの少なくとも2倍である。
【0029】
実施例の摩擦安定剤により、アセンブリのジャケットはまた、優れた温度安定性や、加水分解安定性、低親水特性、および、エレベータ綱車や乗用コンベヤのステップチェーンなどの他のコンポーネントと相互に作用する優れた適合性を有する。また開示の摩擦安定剤は、ジャケット材料に対し、難燃特性を提供する。
【0030】
上記の記載は本質的に限定的なものではなく例示に過ぎない。本発明の真意を逸脱することなく開示の実施例に対する種々の変形や修正が当業者にとって明らかとなるであろう。本発明に付与される法的保護の範囲は付記の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの長尺の引張部材と、
前記少なくとも1つの引張部材の少なくとも一部を被覆するジャケットと、
を備え、
前記ジャケットが、ポリマ材料と、該ジャケットの少なくとも外表面における所望の摩擦特性の維持を容易にする少なくとも1つの摩擦安定剤と、を備えたアセンブリ。
【請求項2】
前記摩擦安定剤が、メラミンベースであることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記メラミンベースの摩擦安定剤が、ハロゲンを含有しないメラミン塩を備えることを特徴とする請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記メラミンベースの摩擦安定剤が、シアヌル酸メラミンもしくはリン酸メラミンのうちの少なくとも1つを備えることを特徴とする請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記摩擦安定剤が、リン酸ベースであることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記リン酸ベースの摩擦安定剤が、有機リン酸塩を備えることを特徴とする請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記リン酸ベースの摩擦安定剤が、リン酸メラミンもしくは炭化水素リン酸塩のうちの少なくとも1つを備えることを特徴とする請求項5に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記ジャケットにより少なくとも部分的に被覆された複数の長尺のコード引張部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項9】
前記アセンブリが、エレベータ荷重支持部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項10】
前記エレベータ荷重支持部材が、フラットベルトを備えることを特徴とする請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記アセンブリが、乗用コンベヤの駆動部材もしくは乗用コンベヤの移動手すりのうちの1つを備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記駆動部材が、駆動ベルトを備えることを特徴とする請求項11に記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記ポリマ材料が、20重量%までの前記摩擦安定剤を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記ポリマ材料が、0.2〜10重量%の前記摩擦安定剤を備えることを特徴とする請求項13に記載のアセンブリ。
【請求項15】
ポリマジャケットにより少なくとも部分的に被覆された少なくとも1つの長尺のコード引張部材を有するアセンブリの製造方法であって、
ポリマ材料を用意し、
摩擦安定剤を用意し、
所望の形状のジャケットを形成するように、前記ポリマ材料および前記摩擦安定剤を前記少なくとも1つの長尺のコード引張部材に対して配置するステップを備えた、アセンブリの製造方法。
【請求項16】
高分子樹脂と前記摩擦安定剤を混合させることにより一群の混合材料を用意し、
前記一群の混合材料を前記ポリマ材料と混合させることにより一群のジャケット材料を用意することを備え、
前記配置ステップが、前記一群のジャケット材料を用いることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項17】
前記摩擦安定剤が、メラミンベースであることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項18】
前記メラミンベースの摩擦安定剤が、シアヌル酸メラミン、リン酸メラミン、もしくはハロゲンを含有しないメラミン塩のうちの少なくとも1つを備えることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項19】
前記摩擦安定剤が、リン酸ベースであることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項20】
前記ジャケット材料中の前記摩擦安定剤の量が、0.2〜10重量%であることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−500167(P2012−500167A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522954(P2011−522954)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073231
【国際公開番号】WO2010/019149
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】