説明

ポリマーの製造方法

【課題】安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることができるポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物と、(B)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含む重合成分と、(C)フリーラジカル源と、を含有する組成物をフリーラジカル重合する工程を含む、ポリマーの製造方法。


(但し、上記一般式(1)において、Z及びZは相互に独立して、炭素数4〜18のアルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの製造方法に関する。更に詳しくは、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることが可能なポリマーの製造方法、及びそれにより得られるポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
リビング重合は、予想可能な立体規則性の制御された構造を持つポリマー(重合体)を合成するために好適な重合方法である。リビング重合体の特性は、QuirkとLee(Polymer International27,359(1992))によって論議されており、彼らは実験的に観察可能な以下の基準を挙げている。
【0003】
即ち、リビング重合は、(1)単量体が全部消費されるまで重合が続く。単量体を更に加えると、引き続き重合が行われる。(2)数平均分子量(または数平均重合度)は重合率の線形関数である。(3)重合体分子(および活性中心)の数は一定であり、重合率とは明らかに無関係である。(4)分子量を反応の化学量論によって制御することができる。(5)狭い分子量分布の重合体が生成される。(6)単量体の逐次添加によってブロック共重合体を生成することができる。(7)鎖末端官能化重合体(chain end−functionalized polymer)を定量的収量で生成することができる。
【0004】
リビング重合プロセスは、1つ又は2つの単量体配列を含む狭い分子量分布の重合体を生成するために使用でき、その長さ及び組成は反応の化学量論及び転化度によって制御される。単独重合体、ランダム共重合体、又はブロック重合体を高度の制御性及び低い多分散性で生成することができる。
【0005】
このようなリビング重合(リビングラジカル重合)プロセスにおいて、狭い分子量分布を有し、重合体の構造に対し優れた制御性を与える重合方法が提案されている(特許文献1を参照)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第07/029871号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、テトラエチルチウラムジスルフィドやビス(ピラゾール−1−イル−チオカルボニル)ジスルフィド等のジスルフィド化合物が分子量制御剤として優れているものの、これらのジスルフィド化合物は、合成後保管中に分解による経時変化を起こし易いため、非常に取り扱い難いという問題があった。
【0008】
本発明の課題は、保存安定性の良好な特定のジスルフィド化合物を分子量制御剤として用いることにより、安定的に構造の制御されたポリマーを製造することが可能なポリマーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このようなポリマーの製造方法を開発すべく鋭意検討を重ねた結果、フリーラジカル重合によりポリマーを生成する工程において、制御剤として、特定の骨格構造を有するジスルフィド化合物を用いることによって、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることが可能であることを見出し本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のポリマーの製造方法、及びそれにより得られるポリマーが提供される。
【0010】
[1] (A)下記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物と、(B)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含む重合成分と、(C)フリーラジカル源と、を含有する組成物をフリーラジカル重合する工程を含む、ポリマーの製造方法。
【0011】
【化1】

(但し、上記一般式(1)において、Z及びZは相互に独立して、炭素数4〜18のアルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を示す。)
【0012】
[2] 前記フリーラジカル重合する前記組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(A)ジスルフィド化合物を0.1〜50質量部、及び(C)フリーラジカル源を0.1〜50質量部加えて調製したものを用い、重量平均分子量Mwが1000〜100万で、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜2.0のポリマーを得る前記[1]に記載のポリマーの製造方法。
【0013】
[3] 前記フリーラジカル重合する前記組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(C)フリーラジカル源を0.1質量部以上加えて調製したものを用い、重合温度5〜120℃、重合時間8時間以内の条件で前記フリーラジカル重合する前記[1]又は[2]に記載のポリマーの製造方法。
【0014】
[4] 得られるポリマーの金属含有率が100ppm以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
【0015】
[5] 得られるポリマーは、マレイミド含量が5〜50質量%、スチレン含量が3〜90質量%、及び他の化合物含量が92〜5質量%である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
【0016】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により得られるポリマー。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、保存安定性の良好な特定のジスルフィド化合物を分子量制御剤として用いることにより、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることができる。更に、本発明の製造方法によれは、狭い分子量分布(低い多分散性)を有するポリマーを、市場で入手可能な化合物を用いて、制御よく短時間で製造することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0019】
[1]ポリマーの製造方法:
本発明のポリマーの製造方法は、(A)下記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物(以下、「(A)ジスルフィド化合物」ということがある)と、(B)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含む重合成分(以下、「(B)重合成分」ということがある)と、(C)フリーラジカル源と、を含有する組成物をフリーラジカル重合する工程を含むポリマーの製造方法である。
【0020】
【化2】

(但し、上記一般式(1)において、Z及びZは相互に独立して、炭素数4〜18のアルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を示す。)
【0021】
即ち、本発明のポリマーの製造方法は、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含む重合成分と、フリーラジカル源とのフリーラジカル重合工程において、分子量制御剤(以下、単に「制御剤」ということがある)として、上記一般式(1)で表される骨格構造を有するという特定構造の(A)ジスルフィド化合物を用いることを特徴とする。このように、保存安定性の良好な(A)ジスルフィド化合物を制御剤として用いることにより、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることができる。更に、本発明の製造方法によれは、狭い分子量分布(低い多分散性)を有するポリマーを、市場で入手可能な化合物を用いて、制御よく短時間で製造することもできる。
【0022】
以下、本発明のポリマーの製造方法に用いられるフリーラジカル重合用の組成物を構成する各成分について更に具体的に説明する。
【0023】
[1−1](A)ジスルフィド化合物:
本発明のポリマーの製造方法に用いられる(A)ジスルフィド化合物は、上記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物である。上記したように、このジスルフィド化合物は、フリーラジカル重合工程における制御剤として機能するものである。
【0024】
このような骨格構造を有する特定の(A)ジスルフィド化合物は、保存安定性が良好であることから、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で得ることができる。即ち、本発明のポリマーの製造方法においては、制御剤として、例えば、合成後時間が経過した化合物((A)ジスルフィド化合物)を用いたとしても、安定的に構造の制御されたポリマーを良好に得ることができる。従来のポリマーの製造方法では、合成後時間が経過した化合物を制御剤として用いた場合には、構造の制御性が悪化してしまう。
【0025】
なお、一般式(1)におけるZ及びZは、上記したように炭素数4〜18のアルキル基又は置換されていてもよいベンジル基である。なお、ベンジル基における置換基については特に制限はないが、例えば、p−クロロ基、o−クロロ基、p−シアノ基、o−シアノ基、p−メトキシ基、o−メトキシ基等を挙げることができる。
【0026】
(A)ジスルフィド化合物の具体例としては、ビス(n−オクチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(ベンジルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ブチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(t−ブチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘプチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘキシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ペンチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ノニルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−デシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(t−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−テトラデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−ヘキサデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド、ビス(n−オクタデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド等を挙げることができる。
【0027】
上記した(A)ジスルフィド化合物は、公知のジスルフィド化合物の調製方法に従って調製することができる。例えば、対応するチオカルボン酸塩誘導体を酸化剤で酸化することによって得ることができる。
【0028】
本発明におけるフリーラジカル重合に用いられる組成物中の(A)ジスルフィド化合物の量は、特に制限はないが、(B)重合成分を100質量部としたとき、0.1〜50質量部の範囲であることが好ましく、0.2〜16質量部の範囲であることが更に好ましい。このように構成することによって、フリーラジカル重合を良好に制御することができ、安定的に構造の制御されたポリマーを高い収率で製造することができる。なお、例えば、(A)ジスルフィド化合物の量が少なすぎると、フリーラジカル重合の制御を十分に行うことができないことがある。また、(A)ジスルフィド化合物の量が多すぎると、低分子量成分が優先的に生成してしまうおそれがある。
【0029】
[1−2](B)重合成分:
本発明のポリマーの重合方法に用いられる(B)重合成分は、少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含み、(A)ジスルフィド化合物の存在下で重合して活性ポリマー鎖を与える全てのモノマーである。
【0030】
この(B)重合成分に含まれるエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
【0031】
スチレン及びスチレン誘導体、例えば、α−メチルスチレン又はビニルトルエン;カルボン酸のビニルエステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル;ハロゲン化ビニル;エチレン性不飽和モノカルボン酸及びジカルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸又はフマル酸、及び上記したジカルボン酸のアルカノール(好ましくは1〜4個の炭素原子を有するもの)とのモノアルキルエステル、及び上記したモノアルキルエステルの誘導体、及びそのN−置換誘導体、アリールエステル、及びそれらの誘導体;
【0032】
不飽和カルボン酸のアミド、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド若しくはメタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド;スルホン酸基を含むエチレン性モノマー及びそのアンモニウム又はアルカリ金属塩、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、α−アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチレンメタクリレート;ビニルアミンのアミド、例えば、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド;第2、第3若しくは第4級アミノ基又は窒素含有ヘテロ環基を含む不飽和エチレン性モノマー、例えば、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、アクリル酸若しくはメタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸若しくはメタクリル酸ジ−t−ブチルアミノエチル、又はジメチルアミノメチルアクリルアミド若しくはメタクリルアミド;ツビッターイオン性モノマー、例えば、スルホプロピル(ジメチル)アミノプロピルアクリレート;ジエン類、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン;(メタ)アクリル酸エステル;ビニルニトリル類;ビニルホスホン酸及びその誘導体。
【0033】
ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸又はメタクリル酸と、水素化又はフッ素化C〜C12アルコール、好ましくはC〜Cアルコールとのエステルを意味する。このような化合物の中では、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ベンジルを挙げることができる。
【0034】
また、上記ビニルニトリル類には、例えば、3〜12個の炭素原子を有するもの、具体的には、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが包含される。
【0035】
ポリビニルアミンブロックを製造するためには、ビニルアミンのアミド、例えば、ビニルホルムアミド又はビニルアセトアミドをエチレン性不飽和モノマーとして用いるのが好ましい。次いで、得られるポリマーを酸性又は塩基性pHにおいて加水分解する。
【0036】
ポリ(ビニルアルコール)ブロックを製造するためには、カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル)をエチレン性不飽和モノマーとして用いるのが好ましい。次いで、得られるポリマーを酸性又は塩基性pHにおいて加水分解する。
【0037】
本発明において用いられる重合可能なモノマーのタイプ及び量は、ポリマーに予定される最終用途の種類によって変化する。これらの変更はよく知られており、当業者ならば容易に決定することができる。
【0038】
(B)重合成分は、これらのモノマーを単独で用いることも混合物として用いることもできる。なお、上記以外の重合成分として、例えば、無水マレイン酸等の酸無水物類、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−位置換マレイミド類等を挙げることができる。
【0039】
[1−3](C)フリーラジカル源:
本発明の重合方法に用いられる(C)フリーラジカル源としては、フリーラジカル重合開始剤を挙げることができる。フリーラジカル重合開始剤は、従来公知のフリーラジカル重合において一般的に用いられている開始剤から選択することができる。例えば、このような(C)フリーラジカル源としては、例えば、過酸化水素類、アゾ化合物、過酸化物と還元剤とからなるレドックス系開始剤等を挙げることができる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
過酸化水素類としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ペルオキシ酢酸t−ブチル、ペルオキシ安息香酸t−ブチル、ペルオキシオクタン酸t−ブチル、ペルオキシネオデカン酸t−ブチル、ペルオキシイソ酪酸t−ブチル、過酸化ラウロイル、ペルオキシピバル酸t−アミル、ペルオキシピバル酸t−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムを挙げることができる。
【0041】
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブタンニトリル)、4,4’−アゾビス(4−ペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(1,1)−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジクロリド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジクロリド、2,2’−アゾビス(N,N−ジメチレンイソブチルアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]又は2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)二水和物を挙げることができる。
【0042】
レドックス系開始剤(過酸化物と還元剤とからなる開始剤)としては、例えば、過酸化水素又は過酸化アルキル、過酸エステル類、過炭酸塩等と鉄塩、第一チタン塩、亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシレート又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及び還元糖のいずれかとの混合物;過硫酸、過ホウ酸又は過塩素酸のアルカリ金属又はアンモニウム塩とメタ重亜硫酸ナトリウム等の重亜硫酸アルカリ金属塩及び還元糖との組合せ物;過硫酸アルカリ金属塩とベンゼンホスホン酸等のアリールホスホン酸及び他の同様の酸並びに還元糖との組合せ物等を挙げることができる。
【0043】
[1−4]フリーラジカル重合:
フリーラジカル重合を行う際には、まず、(A)ジスルフィド化合物と(B)重合成分と(C)フリーラジカル源とを含有する組成物を得、得られた組成物を用いてフリーラジカル重合を行う。
【0044】
なお、このフリーラジカル重合は、(A)ジスルフィド化合物と(B)重合成分と(C)フリーラジカル源とを混合した時点から開始される場合もあるし、例えば、得られた組成物の温度を上げることによって重合が開始される場合もある。このため、使用する(B)重合成分に含まれるエチレン性不飽和モノマー等の種類によって、重合条件を適宜選択することが好ましい。
【0045】
フリーラジカル重合に用いられる組成物における、(A)ジスルフィド化合物と(B)重合成分と(C)フリーラジカル源との配合割合としては、(B)重合成分を100質量部としたとき、(A)ジスルフィド化合物が0.1〜50質量部、(C)フリーラジカル源が0.1〜50質量部であることが好ましく、(A)ジスルフィド化合物が0.2〜16質量部、(C)フリーラジカル源が0.1〜20質量部であることが更に好ましい。また、(A)ジスルフィド化合物と(C)フリーラジカル源の配合比率(質量比)「(A)ジスルフィド化合物/(C)フリーラジカル源」は0.1〜10であることが好ましく、0.1〜5であることが更に好ましい。
【0046】
本発明のポリマーの製造方法におけるフリーラジカル重合は、塊状、溶液状、あるいはエマルジョン条件下で、分散体状で又は懸濁液状で行うことができる。なお、溶液状で又はエマルジョン条件下で行うことが好ましく、溶液状で行うことが更に好ましい。また、このフリーラジカル重合は、半連続式に行うことが好ましい。
【0047】
本発明のポリマーの製造方法におけるフリーラジカル重合では、(A)ジスルフィド化合物と(B)重合成分と(C)フリーラジカル源とを含有する組成物に、更に溶媒を加えてもよい。この溶媒は、沸点が120℃以上のものであることが好ましく、140℃以上のものであることが更に好ましく、160〜300℃のものであることが特に好ましい。具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール、及びブチレングリコールのそれぞれの誘導体から選ばれるいずれかを用いることが、得られるポリマーの収率向上のために好ましい。
【0048】
より具体的には、例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジエーテル類;などを挙げることができる。
【0049】
フリーラジカル重合の重合温度は、用いるモノマーの性状に応じて5〜120℃の範囲にすることが好ましく、30〜120℃の範囲にすることが更に好ましい。このように構成することによって、ポリマーを高い収率で得ることができる。
【0050】
フリーラジカル重合の重合時間については、所望のポリマーが一定以上の収率で得られた段階で終了とすることができる。本発明においては、例えば、重合時間が8時間以内でも高い収率を得ることができる。このため、重合時間は4時間以内、更に2時間以内であってもよい。なお、最短の重合時間については特に制限はないが、例えば、0.1時間とすることが好ましい。
【0051】
本発明のポリマーの製造方法におけるフリーラジカル重合では、二種類以上のエチレン性不飽和モノマーを含む(B)重合成分を用いた場合には、ランダムポリマーを得ることができる。特定の性状のモノマー群、例えば、親水性モノマー及び疎水性モノマーを選択し、これらのそれぞれのモノマーのブロック中の量を適宜選択することによって、特別な性質を有するポリマーを得ることができる。
【0052】
本発明のポリマーの製造方法によって得られるポリマーは、狭い分子量分布(低い多分散性)であって制御された分子量を示している。本発明のポリマーの製造方法においては、フリーラジカル重合する組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(A)ジスルフィド化合物を0.1〜50質量部、及び(C)フリーラジカル源を0.1〜50質量部加えて調製したものを用い、重量平均分子量Mwが1000〜100万で、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜2.0のポリマーを得ることが好ましい。なお、得られるポリマーの重量平均分子量Mwは、2000〜30万であることが更に好ましく、3000〜10万であることが特に好ましい。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)はより小さいことが好ましく、1.0〜1.7であることが更に好ましい。なお、本明細書における数平均分子量Mnは、ポリスチレン換算の数平均分子量であり、重量平均分子量Mwは、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0053】
また、本発明のポリマーの製造方法においては、例えば、上記のような狭い分子量分布(低い多分散性)のポリマーを高い収率で得るためには、フリーラジカル重合する組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(C)フリーラジカル源を0.1質量部以上加えて調製したものを用い、重合温度5〜120℃、重合時間8時間以内の条件でフリーラジカル重合することが好ましい。このように構成することによって、80%以上の収率でポリマーを得ることができる。なお、その他の重合条件によっても異なるが、上記重合温度及び重合時間の条件において90%以上の収率を実現することも可能である。
【0054】
本発明のポリマーの製造方法においては、得られるポリマー中のCu、Fe、Naなどの金属含有率が、それぞれ100ppm以下となるように、フリーラジカル重合に用いる組成物を調製することが好ましい。なお、上記金属含有率は、50ppm以下になるようにすることが好ましい。このように構成することによって、使用環境上、あるいはリサイクルに際して好ましいものである。
【0055】
更に、本発明のポリマーの製造方法においては、得られるポリマーが、マレイミド含量が5〜50質量%、スチレン含量が3〜90質量%、他の化合物の含量が92〜5質量%であることが好ましい。なお、マレイミド含量とスチレン含量と他の化合物の含量との合計含量が100質量%である。
【0056】
より具体的には、本発明のポリマーの製造方法によって得られるポリマーは、ポリスチレン、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ブチルアクリレート)、ポリ(ベンジルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸)、及びポリ(マレイミド/スチレン)からなる群より選択される2種のポリマーブロックを含むものであることが好ましい。
【0057】
また、ブロックの内の1つがエチレン性不飽和モノマーの混合物を用いて得られるランダムコポリマーであってもよい。
【0058】
本発明の重合工程では、(B)重合成分としてのエチレン性不飽和モノマーを含む混合物を(C)フリーラジカル源及び特定の(A)ジスルフィド化合物とともに溶媒に混合し、所定温度で所定時間加熱することにより重合を行うことができるし、また、第1のモノマーが完全に消費されないうちに反応媒体に第2のモノマーを導入することによって、ホモポリマーブロック及び第2のランダムコポリマーブロックを含有する二ブロックコポリマーを単一工程で製造することも可能である。
【0059】
[2]ポリマー:
次に、本発明のポリマーの実施形態について説明する。本発明のポリマーは、これまでに説明した本発明のポリマーの製造方法によって製造されたポリマーである。また、本発明のポリマーは、保存安定性の良好な特定のジスルフィド化合物(上記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物)を制御剤として製造されたものであるため、安定的に構造の制御された狭い分子量分布(低い多分散性)を有するものである。
【0060】
具体的には、本発明のポリマーは、重量平均分子量Mwが1000〜100万で、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜2.0であることが好ましい。なお、重量平均分子量Mwは、2000〜30万であることが更に好ましく、3000〜10万であることが特に好ましい。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)はより小さいことがより好ましく、1.0〜1.7であることが更に好ましい。
【0061】
また、本発明のポリマーは、ポリマー中のCu、Fe、Na等の金属含有率が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。
【0062】
更に、本発明のポリマーは、マレイミド含量が5〜50質量%、スチレン含量が3〜90質量%、他の化合物の含量が92〜5質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例、比較例中の部及び%は、特に断らない限り質量基準である。
【0064】
(実施例1)
還流冷却管、温度計、窒素導入管及び攪拌機を備えた200mlのセパラブルフラスコを窒素置換し、これに、(A)ジスルフィド化合物(制御剤)として合成直後のビス(n−オクチルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィド4質量部と、重合溶媒としてジプロピレングリコールジメチルエーテル200質量部と、(B)重合成分としてスチレン18.8質量部、フェニルマレイミド31.2質量部、ブチルアクリレート30質量部、及びメタクリル酸20質量部(全モノマー100質量部)と、(C)フリーラジカル源としてアゾビスイソブチロニトリル3質量部とをそれぞれ収容して、フリーラジカル重合用組成物(以下、単に重合用組成物ということがある)を得た。重合用組成物の配合処方を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
次いで、窒素気流下に、攪拌しながら、上記重合用組成物が収容されたセパラブルフラスコを、オイルバスを用いて、表1に示す温度で所定時間加熱し、フリーラジカル重合を行った。
【0067】
なお、重合途中に、ポリマーを含む反応混合物を適宜抜き取り、この混合物に含まれる揮発分を除去し、固形分濃度を求めてモノマーの重合転化率(%)を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0068】
また、上記フリーラジカル重合によって得られたポリマーの数平均分子量Mnと、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)とを測定した。なお、数平均分子量Mnはポリスチレン換算の数平均分子量を示し、重量平均分子量Mwはポリスチレン換算の重量平均分子量を示し、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフイーを用いて測定した。
【0069】
(実施例2)
(A)ジスルフィド化合物(制御剤)としてビス(n−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィドを4質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表1に示す。本実施例においては、上記(A)ジスルフィド化合物(制御剤)として、合成直後のビス(n−ドデシルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィドを用いた。
【0070】
(実施例3)
(A)ジスルフィド化合物(制御剤)としてビス(ベンジルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィドを4質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表1に示す。本実施例においては、上記(A)ジスルフィド化合物(制御剤)として、合成直後のビス(ベンジルメルカプト−チオカルボニル)ジスルフィドを用いた。
【0071】
(実施例4〜6)
室温で3ヶ月放置した(A)ジスルフィド化合物(制御剤)を使用した以外は実施例1〜3と同様の処方でフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
制御剤として、ビス(ピラゾール−1−イル−チオカルボニル)を4質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表2に示す。本比較例においては、上記制御剤として、合成直後のビス(ピラゾール−1−イル−チオカルボニル)を用いた。
【0073】
【表2】

【0074】
(比較例2)
制御剤として、ビス(2,4−ジメチルピラゾール−1−イル−チオカルボニル)を4質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表2に示す。本比較例においては、上記制御剤として、合成直後のビス(2,4−ジメチルピラゾール−1−イル−チオカルボニル)を用いた。
【0075】
(比較例3及び4)
室温で2ヶ月放置した制御剤を使用した以外は比較例1及び2と同様の処方でフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表2に示す。
【0076】
(比較例5)
制御剤として、α−メチルスチレンダイマーを10質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表2に示す。
【0077】
(比較例6)
制御剤として、α−メチルスチレンダイマーを3質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にフリーラジカル重合を行ってポリマーを得た。得られた結果を表2に示す。比較例5及び6においては、上記制御剤として、合成直後のα−メチルスチレンダイマーを用いた。
【0078】
(考察)
以上の実施例1〜3と実施例4〜6の結果から明らかなように、特定構造の(A)ジスルフィド化合物を制御剤としてフリーラジカル重合を行った本発明のポリマーの製造方法によれば、例えば、制御剤として、合成後、室温で3ヶ月放置した化合物を用いたとしても、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)については、大きな変化が見られず、安定的に構造の制御されたポリマーを得ることができた。
【0079】
一方、比較例1〜4に用いられた制御剤は、室温で2ヶ月放置しただけで、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が大きく増大しており、構造の制御性が悪化した。
【0080】
また、本発明のポリマーの製造方法である実施例1〜6は、収率(重合転化率)が高く(具体的には、91%以上)、且つ、Mw/Mnが1.5以下と狭い分子量分布のポリマーを得ることができ。一方、比較例5及び6のポリマーの製造方法においては、得られたポリマーのMw/Mnが高く、その分子量分布が広いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリマーの製造方法は、フリーラジカル共重合の分野で幅広く適用することができ、例えば、自動車やその他の車両用のクリアコート、下塗仕上、塗料、又は多岐にわたる基板用の保全上塗をはじめとする塗料用のポリマー、及びそれを含む組成物を製造するために使用することができる。また、本発明の製造方法によって得られるポリマーは、上記塗料用のほか、液晶表示材料等の表示材料としても好適に用いることができる。更に、ブロック、星形ポリマー、及び分岐ポリマー等は、熱可塑性エラストマー、分散剤、レオロジー調整剤等として使用することができる。また、その他の適用分野として、イメージング、電子工学(例えば、フォトレジスト)、エンジニアリングプラスチック、接着剤、シーラント等の分野を挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される骨格構造を有するジスルフィド化合物と、
(B)少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを含む重合成分と、
(C)フリーラジカル源と、を含有する組成物をフリーラジカル重合する工程を含む、ポリマーの製造方法。
【化1】

(但し、上記一般式(1)において、Z及びZは相互に独立して、炭素数4〜18のアルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を示す。)
【請求項2】
前記フリーラジカル重合する前記組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(A)ジスルフィド化合物を0.1〜50質量部、及び(C)フリーラジカル源を0.1〜50質量部加えて調製したものを用い、重量平均分子量Mwが1000〜100万で、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.0〜2.0のポリマーを得る請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記フリーラジカル重合する前記組成物として、(B)重合成分100質量部に対して、(C)フリーラジカル源を0.1質量部以上加えて調製したものを用い、重合温度5〜120℃、重合時間8時間以内の条件で前記フリーラジカル重合する請求項1又は2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
得られるポリマーの金属含有率が100ppm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
得られるポリマーは、マレイミド含量が5〜50質量%、スチレン含量が3〜90質量%、及び他の化合物含量が92〜5質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られるポリマー。

【公開番号】特開2009−67840(P2009−67840A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235324(P2007−235324)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】