説明

ポンプおよび燃料電池システム

【課題】低温環境でのポンプ停止中に、ロータがポンプ室内で凍結しにくく、迅速に起動させることが可能なポンプを提供する。
【解決手段】本発明では、ポンプ室内に設置されたロータを回転軸で回転することにより流体を圧縮するポンプにおいて、前記ロータは、毛細管を有し、該毛細管の一端の開口は、ロータの表面に設けられることを特徴とするポンプが提供される。本発明のポンプは、低温環境下においてポンプ室内で残留水分の凝縮が生じても、毛細管現象によって、水が毛細管側に誘導されるため、ロータ表面に水分は残留しない。従って、水の凍結によりロータがポンプ室内で固着することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温下でも凍結の生じにくいポンプおよびそのようなポンプを使用した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料ガスと酸化剤ガスを燃料電池に供給し、電池本体でこれらのガスの電気化学反応を利用して発電を行うシステムである。この電気化学反応によって電池本体では水が生成されるが、この水は、燃料オフガス(燃料電池本体から排出される燃料ガス)や酸化剤オフガス(燃料電池本体から排出される酸化剤ガス)中に含まれた状態で電池本体から排出される。
【0003】
従って、燃料電池システムの停止中等に外気の温度が例えば氷点下にまで低下すると、システムのガス流路に設けられた弁や配管等の構成部品に残留するガス中の水分が凝縮して、これらの構成部品が凍結する場合がある。このような場合、その後燃料電池システムを始動させようとしても、始動させることができなかったり、始動させることができても正常な作動を行うことができなくなる恐れがある。特にポンプ等のようなガス供給系装置が凍結してしまうと、燃料ガスや酸化剤ガスの供給が行えなくなり、システム全体が始動できるまで相当な時間を要してしまう。例えば、燃料ポンプとして回転式の圧縮ポンプ等を使用した場合、ロータとこれに対向するケーシング内面との隙間に水分が介在した状態で凍結が生じると、ロータがケーシングに固着されてしまい、運転再開時にポンプを速やかに起動することができなくなるという問題があった。
【0004】
このようなポンプの凍結による不具合を回避する方法として、ロータの回転軸方向の表裏面およびこれと対向するケーシングの内面に溝を設けることが提案されている(特許文献1参照)。このようなポンプ構造では、ロータとこれに対向するケーシング内面の間で凍結が生じた際に、凍結による両者の固着領域を少なくすることができるため、ポンプの始動時にロータを容易に固着状態から離脱させ、通常の回転運動を開始させることができる。
【特許文献1】特開2005−150298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、凍結による固着領域を少なくすることはできるが、オフガス中の生成水やポンプ室内で発生した凝縮水が溝に入り込むと、凍結による固着が発生する。従ってこのような場合には、低温環境下からポンプを起動させる際に、依然として起動に時間がかかるという問題がある。また、氷の粒によりロータ表面に傷が生じるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、低温環境においても水の凍結によるロータの固着が生じにくく、次回起動時に速やかに始動させることが可能なポンプおよびそのようなポンプを使用した燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明では、ポンプ室内に設置されたロータを回転軸で回転することにより流体を圧縮するポンプであって、前記ロータは、毛細管を有し、該毛細管の一端の開口は、ロータの表面に設けられることを特徴とするポンプが提供される。本発明のポンプでは、ポンプ室内に水分が残留しても、水は、毛細管現象によって、ロータ表面からロータに設置された毛細管を介して、別の場所に誘導される。従って、ロータ表面に水分が残留することはなく、ロータがポンプ室内で固着されることを抑制することができる。
【0008】
ここで、前記毛細管の一端の開口は、前記ロータの回転軸方向の側面の、ポンプ室の内面と近接して対向する領域に設置されることが好ましい。この場合水は、前述のように前記領域に設置された開口を介して誘導される。従って、水がロータの当該領域に溜まることはなくなり、この領域での水の凍結によるロータの固着をより確実に防止することができる。
【0009】
あるいは前記毛細管は、前記ロータの回転軸方向の側面の、ポンプ室の内面と近接して対向する領域に開口を有する複数の溝で構成されても良い。この場合より多くの残留水をロータ表面から誘導させることが可能となる。
【0010】
また前記毛細管の他端は、閉口端であっても良い。これにより毛細管内に誘導した水分を収容することが可能となる。
【0011】
あるいは前記毛細管の他端は、前記ロータの回転軸方向の表裏面の少なくとも一方に設けられた開口であっても良い。これにより、ロータの回転軸方向の表裏面上の水分についても、毛細管側に誘導することが可能となり、水の凍結によるロータの固着をより効果的に抑制することができる。
【0012】
さらに、前記ロータの回転軸方向の表裏面は、該表裏面の高さレベルよりも低くなるように形成された誘導部を有し、前記毛細管の他端は、前記誘導部に設けられた開口であっても良い。これにより、ロータの回転軸方向の表裏面の水分をより確実に毛細管側に誘導することができる。
【0013】
また前記毛細管の一端の開口には、前記ロータ自身よりも弾性率の大きな部材が配置されても良い。この場合、ロータ回転時にこの部材が変形することを利用して、毛細管内の氷を粉砕し易くすることにより、ロータの回転の遠心力により、粉砕した氷を毛細管内から速やかに排出させることが可能となる。
【0014】
上記のいずれかの特徴を有するポンプは、燃料電池システムに適用しても良い。このような燃料電池システムでは、ポンプ内で凍結が生じにくく、低温環境においても速やかな起動が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポンプでは、低温環境下においてポンプ室内で水の凍結が生じても、ロータの固着を回避することができる。またこのようなポンプを燃料電池システムに適用することによって、低温環境においてもシステムの迅速な起動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面により本発明の形態を説明する。
【0017】
図1には、本発明のポンプの一態様としてのルーツ型ポンプ10の概略構成図を示す。なお本発明は、ルーツ型ポンプに限られるものではなく、他のダイアフラム型などのポンプについても同様に適用することができる。
【0018】
ルーツ型ポンプ10は、モータ部45とポンプ部48とで構成される。モータ部45は、一端側(図1では下端側)が閉塞し、他端側(図の上端側)が開口した有底略筒状をなすモータハウジング111と、モータハウジング111に対して開口を閉塞するように印籠結合された仕切壁112とを備えており、モータハウジング111の内面と仕切壁112の内面とにより、モータ室113が囲み形成されている。ポンプ部48は、一端側(図1では下端側)が開口した有底略楕円筒状をなすポンプケーシング15と、ポンプケーシング15に対して開口を閉塞するようにボルト115によって締付結合された軸受ブロック116とを備え、ポンプケーシング15の内面と軸受ブロック116の内面によって、ポンプ室20が囲み形成されている。
【0019】
ポンプ部48において、ポンプケーシング15の他端側(図1の上端側)には、ポンプケーシング15よりも小さな有底略楕円筒状をなすハウジング118が接合固定され、ポンプケーシング15の他端側外面とギヤハウジング118の内面とにより、ギヤ室119が囲み形成されている。仕切壁112の外面と軸受ブロック116の外面が、ボルト等の締結手段(図示されていない)を介して接合固定されることにより、モータ部45とポンプ部48とが一体構成される。なお、前記モータハウジング111と仕切壁112との接合面、ポンプケーシング15と軸受ブロック116との接合面、ポンプケーシング15とギヤハウジング118との接合面、および仕切壁112と軸受ブロック116との接合面には、それぞれ、気密確保のため、Oリング120が設置されている。
【0020】
モータハウジング111の底部121には、モータハウジング111の軸心と同軸上で、かつモータ室113内に臨む位置にベアリング122が設けられ、該ベアリング122に対して、駆動軸(第1の回転軸)35の一端(図1では下端)が回転可能な状態で軸支されている。この第1の回転軸35の他端側は、仕切壁112と軸受ブロック116およびポンプケーシング15の底部124を貫通して、ギヤ室119まで延設されている。またこの第1の回転軸35は、その他端部がポンプケーシング15の底部124に設けられたベアリング125に回転可能に軸支され、さらにその中間部分が、軸受ブロック116に設けられたベアリング126に回転可能な状態で、挿通支持されている。またモータ室113内において、第1の回転軸35には、モータ回転子127が取り付けられ、さらにモータ回転子127の外周側に位置するように、モータ固定子128がモータハウジング111に取り付けられ、モータ回転子127とモータ固定子128によって、電動モータ129が構成される。
【0021】
ポンプ部48のポンプ室20内には、第1の回転軸35と平行をなす第2の回転軸40が、ポンプケーシング15の底部124に設けられたベアリング131と軸受ブロック116に設けられたベアリング132とに両端部を支持され、それぞれに対して回転可能な状態で設置されている。ポンプ室20において、第1の回転軸35および第2の回転軸40には、それぞれ2葉形状の駆動ロータ(第1のロータ)50および従動ロータ(第2のロータ)60が、取り付けられている。また、第2の回転軸40の他端側は、第1の回転軸35の他端側と同様に、ポンプケーシング15の底部124を貫通して、ギヤ室119内にまで延設されている。ギヤ室119では、第1の回転軸35の他端部に固定された第1のタイミングギヤ70と第2の回転軸40の他端部に固定された第2のタイミングギヤ72とが噛合連結されている。なお、軸受ブロック116内、およびポンプケーシング15の底部124内において第1の回転軸35と第2の回転軸40との各摺動部にはシーリング137が設置されている。
【0022】
次に、ポンプ部48におけるポンプ室20の内部構造について詳しく説明する。なお、本明細書では、ロータの表面位置を表す際に、「回転軸方向の表裏面」および「回転軸方向の側面」という表現を用いる。「回転軸方向の表裏面」とは、ロータ用回転軸が通るロータの二つの面を意味し、「回転軸方向の側面」とは、ロータの「回転軸方向の表裏面」以外の面を意味する。
【0023】
図2には、本発明のルーツ型ポンプ10の作動時のポンプ室内の断面図を模式的に示す。本発明のルーツ型ポンプ10では、ポンプケーシング15は、ほぼ楕円状に形成されており、この内部にはポンプ室20が設けられる。またポンプケーシング15には、燃料電池からの燃料または酸化剤のオフガス等(以下、単にオフガスという)をポンプ室20内へ吸引するための吸引口25が設けられている。この吸引口25は、ポンプケーシング15の鉛直方向の上部に設けることが好ましい。またポンプケーシング15には、ポンプ室内で圧縮されたオフガスをポンプ室20から吐出するための吐出口30が設けられている。この吐出口30は、ポンプケーシング15の鉛直方向の下部に設けることが好ましい。ポンプ室20内には、前述のように、第1のロータ50と第2のロータ60が設置されている。第1のロータ50は、中心Oを貫通する第1の回転軸35に固定されており、第1の回転軸35は、前述の電動モータ129によって回転される。第2のロータ60は、中心Pを貫通する第2の回転軸40に固定されており、この第2の回転軸40は、第1の回転軸35と平行にポンプ室外まで伸びている。前述のように、第1の回転軸35と第2の回転軸40の一端は、それぞれ、第1および第2のタイミングギヤ70、72に固定されており、第1および第2のタイミングギヤ70、72は、相互に噛合されている。
【0024】
電動モータ129により第1の回転軸35が回転されると、第1のロータ50が回転される。またそれと同時に、第1および第2のタイミングギヤ70、72を介して第2の回転軸40が第1の回転軸35とは反対の方向に回転される。従ってポンプ室20内では、第1のロータ50と第2のロータ60は、図の矢印で示すように、相互に反対方向に回転される。また各ロータ50、60は相互に90゜の位相差で回転し、ポンプ室20の内面と協働することにより、ポンプ室20内に吸引したオフガスが圧縮される。なおポンプ室20の内面と各ロータ50、60との間には、これらが最近接したときでも、相互に接触しないように微小な隙間が形成されている。
【0025】
ここで当該ポンプを燃料電池システムの循環ポンプとして使用した場合、背景部で示したように、ポンプ室20内に取り込まれるオフガスには、燃料電池本体での電池反応により生じた水分が含まれ、ポンプ室20内には、オフガスとともに一定量の水分が導入される。従って、オフガスがポンプ室20内に残留された状態のままポンプ10を停止しておくと、低温環境下では、ポンプ室20内でオフガス中の水分が凝縮して、凍結が生じる恐れがある。特に、ロータ50、60とこれに対向するポンプケーシング15の内面間の隙間で水の凍結が生じた場合、ロータ50、60がポンプケーシング15に固着されて回転できなくなるため、凍結水が解凍されるまでポンプの起動ができなくなり、ポンプの起動に多大な時間を要するという問題が生じる。
【0026】
しかしながら本発明のポンプ10では、以下の通り、このような問題の発生を回避することができる。
【0027】
図3には本発明のポンプ10のロータ50(またはロータ60、以下同じ)を、また図4には、このロータ50のA−A断面を矢印の方向から見たときの概略図を示す。ロータ50の側面52のポンプケーシング15の内面と最近接し対向する領域54(以下対向面54という)には、第1の開口85が多数設けられている。この開口85のそれぞれは、溝80とつながっており、この溝80は、対向面54からロータ50の内方に向かって、X軸方向(ロータ50の長手方向)に沿って相互に平行に延びている。なお図4は一つの切断面を示したものであり、実際のロータ50にはY軸(X軸と直行する軸)方向に沿って(例えばA’−A’線、A”−A”線に沿って)、図4のような構造の溝80が複数列形成されている。なお、これらの溝80の深さには特に制限はないが、後述のように、ポンプの停止中に溝に収容された水分やこの凍結氷が、ポンプの作動中にロータ50の回転によって速やかに放出され得る深さにする必要がある。また第1の開口85の寸法についても特に制約はないが、これらの開口85および溝80は、毛細管現象を利用してロータ内部に水分を収容する毛細管としての役割を有するため、最大でも2、3mm以下程度の開口幅(または直径)とすることが好ましい。また本実施例においては、溝80がZ軸方向(回転軸方向)、Y軸方向に等間隔で4本ずつ配置された例を示すが、溝80の配置および数には特に制約はない。さらに図4において溝80は長方形断面形状となっているが、断面形状はこれに限られるものではないことに留意する必要がある。
【0028】
ポンプ10のロータ50の対向面54にこのような開口85および溝80を設けたことにより、低温環境下においてオフガス中に含まれる水分がポンプ室20内で凝縮し、ロータ50の対向面54に水分が溜まっても、水は、毛細管現象によってロータ50の第1の開口85から溝80内に誘導され、そこに収容されることになる。従ってポンプ10が水の凍結が生じるような低温環境に置かれても、水分は溝80の内部で凍結するに過ぎず、ロータ50がこれに対向するケーシング15の内面と固着されて、ロータ50が動かなくなるという問題を回避することができる。
【0029】
ポンプの停止中に溝80に収容された水は、次回のポンプ10の起動時に、ロータ50の遠心力によって溝80から排出される。また溝80の内部で凍結した氷も、ポンプ10の起動時または作動中に、ポンプ室20内の熱によって解凍され、ロータ50の遠心力によって溝80から排出される。これにより次回の低温環境下でのポンプ停止時に、これらの溝80を再度水分の収容に利用することができる。ここで、溝内部で凍結した氷は、完全に解凍される前であっても、溝80の内壁との固着がある程度解消され、氷と内壁との間に多少の隙間が生じれば、ロータ50の回転による遠心力によって、溝80から小片として排出され得ることに留意する必要がある。すなわちケーシングのような静止体に、水を収容する溝などを設置する構造では、ポンプ停止中に溝に溜まり凍結した水分が完全に解凍され、液体水として溝から完全に排出されない限り、溝内を「空」にすることはできない。従ってポンプの運転時間が短く、凍結氷が不完全に解凍され、液体として流出される前にポンプが停止してしまった場合には、溝内に氷が残留したままの状態となり、ポンプ停止中に溝が水を収容する収容部として十分に機能しなくなる可能性がある。これに対して、本発明では、回転体であるロータの内部に水を収容する溝を設けたため、前述のように氷を速やかに排出させることができ、このような問題が生じにくくなる。その後、溝80から排出された液体水あるいは氷の小破片は、吐出口30からポンプ外へ排出される。
【0030】
本発明の変形例は図5に示されている。この例では、溝80の第1の開口85側の端部から一定の深さで、ロータ50の材質よりも弾性率の大きなゴムなどの部材84が取り付けられている。このような構成では、ロータ50の溝80に収容された水分が凍結した状態でポンプ10を起動すると、ロータ50の回転時に部材84が変形するため、溝80内の氷柱に応力が加わりやすくなり、ロータ50の回転による遠心力によって氷柱を速やかに粉砕して、溝80から排出させることが可能となる。従って、ポンプの作動中に、溝内で凍結した氷がロータから排出されるまでの時間をさらに短縮することができる。
【0031】
図6、7には、別の実施例を示す。図6に示すロータ50では、溝80の形状が前述の実施例とは異なっている。各溝80は、ロータ50の内方側に第2の開口86を有し、第2の開口86は、ロータ50のZ軸方向の表裏面51のいずれかに設けられている。このような溝の構造では、前述の対向面54の位置での水に加えて、ロータ50のZ軸方向の表裏面51に凝縮する水分を溝80内に収容することも可能となる。従って、ロータ50のZ軸方向の表裏面51上に凝縮する水分が凍結して、ロータ50が固着されることを防止することが可能となる。
【0032】
図7に示すロータ50は、図6に示すロータ50の別の実施の態様である。この例では、ロータ50のZ軸方向の表裏面51には、溝80に水を誘導するための誘導部90が設けられている。誘導部90は、ロータ50のZ軸方向の表裏面51の高さレベルに比べて、深さdだけ低くなるようにして構成される。また第2の開口86は、この収容部90内に設置される。ロータ50にこのような誘導部90を設けることにより、ロータ50のZ軸方向の表裏面51で凝縮した水分を、より確実に溝80の方に誘導することができる。
【0033】
このように本発明のポンプでは、ロータ50の側面52の対向面54に多数の開口85を設け、さらに開口につながれた溝80を設けたため、凝縮した水分を毛細管現象を利用して溝80内に収容することができる。従ってロータ50の対向面54には水が残留しにくく、水の凍結によるロータ50の固着を防止することができる。これにより低温環境下においても、ポンプを迅速に始動させることが可能となる。
【0034】
なお上記の実施例では、ロータ50の回転軸方向の側面や表裏面に付着、凝縮した水分を移動させる毛細管として、多数の溝80を設置した例について説明したが、本発明の態様はこれに限られるものではない。すなわち、本発明では、毛細管現象を利用してロータ50に生じた水を別の場所に移動させることができる構造であって、例えばロータの回転等を利用して、この誘導させた水または凍結氷を速やかに系外に排出することのできる構造であれば、溝形状に限らず、いかなる形態であっても利用することが可能である。
【0035】
本発明のポンプは、燃料電池システムの燃料ガスまたは酸化剤ガスのポンプとしても使用することが可能である。そこで次に、本発明のポンプを使用した燃料電池システムの実施の形態について説明する。なお以下の例では、本発明によるポンプを燃料オフガスの循環経路に適用したシステムについて説明する。ただし、本発明は酸化剤ガス側の経路にも適用できる。
【0036】
図8には、本発明による燃料電池システムの一構成例を示す。このシステムは、燃料電池本体1を有し、この燃料電池本体1で発生した電力を、例えば車両等の駆動源として利用することができる。またこの燃料電池システムは、システム内で燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路2と、酸化剤ガス(空気)を流通させるための酸化剤ガス流路3とを備えている。なお以下の説明では、燃料電池に供給する燃料ガスとして水素ガスを使用するシステムを例に説明する。
【0037】
燃料ガス流路2は、例えば高圧水素タンク200のような水素燃料源からの燃料ガスを燃料電池本体1に供給するための燃料ガス供給流路201と、燃料電池本体1から燃料オフガスを排出するための燃料オフガス排出流路203とを備えている。ただし燃料オフガス排出流路203は、実質的には循環流路となっており、燃料電池本体1側から、気液分離器220および本発明による前述の特徴を有する水素ポンプ210を介して燃料ガス供給流路201に接続されている。以降この燃料オフガス排出流路203を循環流路203とも呼ぶ。循環流路203には、第1の分岐流路207と、第2の分岐流路209とが接続されている。
【0038】
また、燃料ガス流路2の燃料ガス供給流路201には、高圧水素タンク200の放出口に常閉電磁弁230が配置されており、燃料電池本体1側に向かって順に、減圧弁232、常閉減圧弁234が配置されている。一方循環流路203には、燃料電池本体1側から見てこの順に常閉減圧弁240、気液分離器220、水素ポンプ210および逆止弁242が配置されている。また第1の分岐流路207は、気液分離器220と接続されており、その途中には常閉電磁弁244が配置されている。第2の分岐流路209は、水素ポンプ210の出口側と、循環流路203と燃料ガス供給流路201の接続点Aの間で、循環流路203に接続されている。第2の分岐流路209には常閉電磁弁(パージ弁)246および希釈器250が配置されており、希釈器250の出口側の第2の分岐流路209の他端は、後述する酸化剤オフガス排出流路303と接続されている。なお第1の分岐流路207の他端も、酸化剤オフガス排出流路303と接続されている。
【0039】
一方、酸化剤ガス流路3は、燃料電池本体に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給流路301と、燃料電池本体1から酸化剤オフガスを排出するための酸化剤オフガス排出流路303とを備えている。
【0040】
酸化剤ガス供給流路301には、コンプレッサ305と加湿器325とが配置されている。また酸化剤オフガス排出流路303には、前述の加湿器325が設置され、加湿器325と燃料電池本体1の間には電磁弁(エア調圧弁)309が配置されている。
【0041】
ここで、酸化剤ガスの通常の流れについて簡単に説明する。燃料電池システムの通常の運転時には、コンプレッサ305を駆動させることにより、大気中の空気が酸化剤ガスとして取り込まれ、酸化剤ガス供給流路301を通り、加湿器325を介して燃料電池1に供給される。供給された酸化剤ガスは、燃料電池1内において電気化学反応により消費された後、酸化剤オフガスとして排出される。排出された酸化剤オフガスは、酸化剤オフガス排出流路303を通り、外部に排出される。
【0042】
次に水素ガスの流れについて説明する。通常の運転時には、電磁弁230が開かれ、高圧水素タンク200から水素ガスが放出され、その放出された水素ガスは、燃料ガス供給流路201を通って、減圧弁232で減圧された後、電磁弁234を介して燃料電池本体1に供給される。供給された水素ガスは、燃料電池1内で電気化学反応に消費された後、水素オフガスとして排出される。排出された水素オフガスは、循環流路203を通り、気液分離器220で水分が除去された後、前述の特徴を有する水素ポンプ210を介して燃料ガス供給流路201に戻され、再び燃料電池本体1に供給される。なお燃料ガス供給流路201と循環流路203の接続点Aと水素ポンプ210との間には逆止弁242が設けられているため、循環している水素オフガスは、逆流しない。なお通常は、第1および第2の分岐流路207、209の電磁弁244および246は閉じているが、必要に応じてこれらのバルブが開かれると、それぞれの分岐流路から、気液分離器220で処理された水分を多く含むガスおよび循環させる必要のなくなった水素オフガスが排出される。これらの液体および/または気体は、酸化剤オフガス排出流路303を介して系外に排出される。
【0043】
このような燃料電池システムを低温環境下で停止させた場合、水素ポンプ210は前述のような特徴を有するため、ポンプ室に水素オフガスが含まれていても、ポンプ室内では水分によるロータの凍結は生じない。従って、次回の燃料電池システム起動時に速やかな起動が可能となる。
【0044】
なお、本発明の説明のために使用した燃料電池システムの構成は一例であって、本発明を限定するものではない。例えば、実際の燃料電池システムでは、示されていない箇所にも、電磁弁や配管等他の構成部品が配設される場合があり、逆に図8に示したいくつかの構成部品が省略される場合もあり得ることに留意する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のポンプの概略断面図である。
【図2】ポンプケーシング、ロータおよび回転軸の関係を模式的に示したポンプ室の概略断面図である。
【図3】本発明によるポンプのロータの正面図である。
【図4】本発明によるポンプのロータの図2のA−A断面図である。
【図5】溝80の第1の開口85の周囲に弾性の高い部材84を設置したロータの概略断面図である。
【図6】ロータの回転軸方向の表裏面51に第2の開口86を有する、溝80の別の形状を示す図である。
【図7】ロータの回転軸方向の表裏面51に設置された誘導部90に第2の開口を有する、溝80のさらに別の形状を示す図である。
【図8】本発明によるポンプを水素循環ポンプとして使用した、燃料電池システムの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料電池本体
2 燃料ガス流路
3 酸化剤ガス流路
10 ポンプ
15 ポンプケーシング
20 ポンプ室
25 吸引口
30 吐出口
35 第1の回転軸
40 第2の回転軸
45 モータ部
48 ポンプ部
50 第1のロータ
51 回転軸方向の表裏面
52 ロータ側面
54 対向面
60 第2のロータ
70 第1のタイミングギヤ
72 第2のタイミングギヤ
80 溝
84 弾性部材
85 第1の開口
86 第2の開口
90 誘導部
129 電動モータ
200 高圧水素タンク
201 燃料ガス供給流路
203 循環流路
207 第1の分岐流路
209 第2の分岐流路
210 水素ポンプ
220 燃料オフガス用気液分離器
230、234、240、244、246 電磁弁
232 減圧弁
242 逆止弁
250 希釈器
301 酸化剤ガス供給流路
303 酸化剤オフガス排出流路
305 コンプレッサ
309、344、510 電磁弁
325 加湿器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室内に設置されたロータを回転軸で回転することにより流体を圧縮するポンプであって、
前記ロータは、毛細管を有し、該毛細管の一端の開口は、ロータの表面に設けられることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
前記毛細管の一端の開口は、前記ロータの回転軸方向の側面の、ポンプ室の内面と近接して対向する領域に設置されることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記毛細管は、前記ロータの回転軸方向の側面の、ポンプ室の内面と近接して対向する領域に開口を有する複数の溝で構成されることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項4】
前記毛細管の他端は、閉口端であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のポンプ。
【請求項5】
前記毛細管の他端は、前記ロータの回転軸方向の表裏面の少なくとも一方に設けられた開口であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のポンプ。
【請求項6】
前記ロータの回転軸方向の表裏面は、該表裏面の高さレベルよりも低くなるように形成された誘導部を有し、前記毛細管の他端は、前記誘導部に設けられた開口であることを特徴とする請求項5に記載のポンプ。
【請求項7】
前記毛細管の一端の開口には、前記ロータ自身よりも弾性率の大きな部材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載のポンプ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載のポンプを備えた燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−154799(P2007−154799A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352518(P2005−352518)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】