説明

マイクロポンプ

【課題】従来の開閉運動アクチュエータを用いたマイクロポンプよりもポンプ性能をより向上させた有用なマイクロポンプを提供することにある。
【解決手段】ポンプ入口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成される第1開閉駆動手段と、ポンプ出口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成される第2開閉駆動手段とを少なくとも有し、前記第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とを所定の位相差で行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータを用いたマイクロポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の発達に伴い,物体の小型化が進んでおり,マイクロポンプの開発が盛んに行われている。マイクロポンプは化学分野、高度医療技術分野において用いられるμ−TAS(Micro Total Analysis Systems)などの化学分析装置や医療機器、DDS(Drug Delivery System)などの薬剤の送液装置、CPUの高温化を抑制するために用いられるCPU冷却ポンプとして利用されている。特に、μ−TASに用いられるマイクロポンプは微小流量を高精度に輸送し、さらには、様々な薬剤を輸送することから高粘性流体の輸送も必要とされている。これまでに,様々な駆動原理を持ったマイクロポンプが作製されている。その多くはピエゾ素子が駆動源であるために、マイクロポンプの部品点数は多くなり、その構造は非常に複雑となる。さらには,ピエゾ素子の消費電力が大きいためにマイクロポンプの効率は高くない。そのため,微小流量を高精度に輸送するマイクロポンプの実現のためには単純なメカニズムにより高精度で微小変形が可能なアクチュエータが必要不可欠である。
【0003】
本発明者等は、導電性高分子アクチュエータを用いた開閉運動アクチュエータを創作している(特許文献1)。この開閉運動アクチュエータは、バイモルフ構造の第1、第2導電性高分子アクチュエータを対向させて両端部を結合し、その中央部を開閉するように構成した開閉運動アクチュエータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−236950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の開閉運動アクチュエータを用いたマイクロポンプよりもポンプ性能をより向上させた有用なマイクロポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータを複数配置してなるマイクロポンプであって、ポンプ入口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成される第1開閉駆動手段と、ポンプ出口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成され、前記第1開閉駆動手段と直列に隣り合って配置される第2開閉駆動手段とを少なくとも有し、前記第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とを所定の位相差で行なうように構成したマイクロポンプである。
【0007】
この構成によれば、ポンプ入口の第1開閉駆動手段の開閉運動と、ポンプ出口の第2開閉駆動手段の開閉運動とを所定の位相差で行なえるので、従来(例えば特許文献1)構成よりもポンプ性能を高めることができる。導電性高分子アクチュエータの開閉駆動手段を複数個配置することができ、ポンプ入口から第1、第2、第3、(・・第n)開閉駆動手段と順に配置される場合もあり、それぞれを所定の位相差で開閉運動させることが好ましい。隣り合う開閉駆動手段同士の位相差は、例えば、100°〜260°の範囲が挙げられ、入口側の開閉駆動手段(第1)が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の開閉駆動手段(第2)は、開状態に構成されて出口側に流体を送れ、この出口側の開閉駆動手段(第2)が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の開閉駆動手段(第3)は、開状態に構成されて出口側に流体を送れると共に、その隣の入口側の開閉駆動手段(第1)が閉状態になっていることで入口側に逆送されることはない。
【0008】
上記構成において、前記第1開閉駆動手段の開閉運動の周波数f1と、前記第2開閉駆動手段の開閉運動の周波数f2の周波数比f1/f2に応じて、前記位相差の値を設定することが好ましい。例えば、周波数比f1/f2が0.5のとき、位相差の範囲を110°〜200°に設定できる。また、周波数比f1/f2が1.0のとき、位相差の範囲を170°〜230°に設定できる。また、周波数比f1/f2が1.5のとき、位相差の範囲を180°〜240°に設定できる。また、周波数比f1/f2が2.0のとき、位相差の範囲を200°〜260°に設定できる。開閉運動の周波数は、印加電圧の周波数で設定できる。
【0009】
また、上記発明の一実施形態において、第1開閉駆動手段および/または第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータを筒状の導電性高分子膜体で構成することがある。筒状の導電性高分子膜体は、例えば、円柱、任意の部分の直径が異なる円柱、蛇腹状、入口と出口の直径が異なる台錐等が挙げられ、筒状の導電性高分子膜体の直径、高さ、周長、厚みもマイクロポンプの仕様に応じて設定され、第1開閉駆動手段と第2開閉駆動手段とで同じに設定する場合もあれば、異なるように設定することもある。第n開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータも同様に筒状の導電性高分子膜体で構成できる。
【0010】
また、導電性高分子膜体は、カチオン駆動層にアニオン駆動層が積層されたバイモルフ層を有する導電性高分子膜体で構成することができる。また、導電性高分子膜体は、アニオン駆動層若しくはカチオン駆動層を有する膜で構成でき、または、アニオン駆動層単体若しくはカチオン駆動層単体で構成することもできる。導電性高分子膜体を筒状に形成する方法としては、特に制限されず、最初から筒状の膜を形成するように導電性高分子膜体を製造でき、1枚または複数枚の枚葉の導電性高分子膜を結合部材で筒状に結合することもできる。筒状にする場合、例えば、電解重合時に、基盤電極の形状を筒状にしたものを用いる。筒状の導電性高分子膜体は、電気的酸化還元によって、蠕動運動し、筒状の開口部が拡大縮小して、ポンプ機能、輸送機能を好適に発揮する。例えば、筒状のアニオン駆動層単体構成の導電性高分子膜体の正極と負極の間に所定電圧を印加させて、電気化学的酸化状態のときにアニオン駆動層を膨潤させ、電気化学的還元状態のときにアニオン駆動層を収縮させて、筒状の導電性高分子膜体の開口部の開閉運動が実現される。
【0011】
また、上記発明の一実施形態において、第1開閉駆動手段および第2開閉駆動手段(さらに第n開閉駆動手段)の導電性高分子アクチュエータは、前記カチオン駆動層を内側にして互いに対向させるように、第1、第2導電性高分子膜体を配置し、当該第1導電性高分子膜体と当該第2導電性高分子膜体とのそれぞれの両端部を結合部で結合するように構成され、前記第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とが前記周波数比f1/f2に応じた位相差で行なわれる構成が好ましい。
【0012】
第1導電性高分子膜体と当該第2導電性高分子膜体のそれぞれのカチオン駆動層を互いに内側に対向させて、第1導電性高分子膜体と当該第2導電性高分子膜体の夫々の両端部を結合部で結合する。ここでの結合は、例えば、接着または粘着による固定でもよく、結合部の挟持手段による挟み込み固定でもよい。結合部は、金属材料等の導電性材料で構成される。また、両端部の固定面積は、目的の用途によって設定できる。このように構成された第1導電性高分子膜体および当該第2導電性高分子膜体に所定電圧を印加させた場合、電気化学的酸化状態のときに、内側に設置された第1、第2カチオン駆動層が夫々収縮し、外側に設置された第1、第2アニオン駆動層が夫々膨潤することで、2個の導電性高分子アクチュエータは、外側に膨らむように変形する(開く動作を行い開口部面積が広がる)。また、電気化学的還元状態のときに、内側に設置された第1、第2カチオン駆動層が夫々膨潤し、外側に設置された第1、第2アニオン駆動層が夫々収縮することで、2個の導電性高分子アクチュエータは、内側に収縮するように変形する(閉じる動作を行い開口部面積が狭まる)。すなわち、両端部が結合された2個の導電性高分子膜体は、電気化学的酸化、還元によって開閉運動を行なうことができる。
【0013】
そして、第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とが前記周波数比f1/f2に応じた位相差で行なわれる構成である。例えば、周波数比f1/f2が1.0で位相差が180°の場合、ポンプ入口側の第1開閉駆動手段が開いた状態のときは、第2開閉駆動手段は閉じた状態である。周波数比f1/f2が1.0の場合に、液体輸送量の観点からこの位相差としては、例えば、110°〜230°の範囲であり、好ましくは170°〜200°であり、より好ましくは180°〜190°である。これによって、液体の輸送量を大きくできる。また、入口側の開閉駆動手段(第1)が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の開閉駆動手段(第2)は、開状態に構成されて出口側に流体を送れ、この出口側の開閉駆動手段(第2)が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の開閉駆動手段(第3)は、開状態に構成されて出口側に流体を送れると共に、その隣の入口側の開閉駆動手段(第1)が閉状態になっていることで入口側に逆送されることはない。
【0014】
また、上記本発明において、前記第1開閉駆動手段の開閉運動が第2開閉駆動手段の開閉運動より大きいことが好ましい。例えば、第1開閉駆動手段と第2開閉駆動手段が隣接する場合にポンプ入口側の第1開閉駆動手段の開閉運動を第2開閉駆動手段の開閉運動より大きくするように構成することが好ましい。ポンプ入口から第1、第2、第3、(・・第n)開閉駆動手段と順に配置される場合も同様に、隣接するもの同士では、ポンプ入口側の開閉駆動手段の開閉運動のほうがポンプ出口側の開閉駆動手段の開閉運動より大きくすることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、前記第1開閉駆動手段の開閉運動が第2開閉駆動手段の開閉運動より大きく構成することで、液体の送り出しや液体輸送をスムーズに行なえる。開閉運動の大きさは、開口部面積の拡大と縮小のサイズで表現でき、または、液体を搬送する液送力(の強さ)としても表現できる。第1開閉駆動手段の開閉運動における最大開口幅D1と第2開閉駆動手段の開閉運動における最大開口幅D2との関係が、D1/D2=1.3〜3.1の範囲であることが好ましく、1.4〜3.0の範囲がより好ましく、1.8〜2.2の範囲がさらに好ましい。また、関係式D1/D2は、液体の性状、輸送量に応じて最適範囲が設定される。また、関係式D1/D2<1.0では、液体を輸送できないか、実用的でない輸送の程度である。また、開閉駆動手段を駆動するための印加電圧値を用いて、開閉運動の大きさを表現できる。印加電圧値が大きいほど開閉運動を大きくできる。隣り合うもの同士である入口側の開閉駆動手段の印加電圧(V1)と、出口側の開閉手段の印加電圧(V2)の関係は、V1/V2=1.3〜3.1の範囲であることが好ましく、1.4〜3.0の範囲がより好ましく、1.8〜2.2の範囲がさらに好ましい。なお、導電性高分子アクチュエータに+値と−値との正負を切り替えた電圧を印加して、導電性高分子アクチュエータを電気的酸化・還元作用で開閉駆動させる。例えば、V1=[−1.0〜+1.0]の矩形波、V2=[−0.5〜+0.5]の矩形波であれば、V1/V2=[−側2.0、+側2.0]となり、−側、+側のそれぞれの絶対値はV1/V2=1.3〜3.1の範囲となる。
【0016】
また、上記本発明において、第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とを前記周波数比f1/f2に応じた位相差で制御し、且つ前記第1開閉駆動手段の開閉運動が第2開閉駆動手段の開閉運動より大きくなるように制御する制御手段を有する構成である。さらに制御手段は、第n開閉駆動手段の開閉運動を第1、第2開閉駆動手段の開閉運動と連動させ、隣り合う開閉駆動手段に対して前記周波数比f1/f2に応じた位相差および開閉運動の大きさを制御することができる。また、位相差に応じて周波数比f1/f2を変更する構成ができる。
【0017】
制御手段は、第1開閉駆動手段および第2開閉駆動手段(さらに第n開閉駆動手段)のそれぞれの導電性高分子アクチュエータに対して、位相差を持った印加電圧制御、電流制御等が可能である。開閉運動の位相差は、例えば印加電圧の印加タイミングによって制御できる。開閉運動の大きさは、例えば印加電圧の電圧値によって制御できる。また、制御手段は、周波数比f1/f2に応じた位相差制御を行える。また、制御手段は、位相差に応じた周波数比f1/f2の制御を行える。
【0018】
上記構成において、前記周波数比f1/f2を0.5〜2.0に変化させ、当該周波数比に応じて前記位相差を110°〜260°に変化させる構成ができる。これによって、110°〜260°の範囲で位相差を変えた場合において、それぞれの位相差におけるマイクロポンプの輸送液量を最大にできる。上記制御手段が、印加電圧の位相タイミング、周波数制御、印加電圧値のそれぞれを自動的に制御する構成が可能である。
【0019】
また、第1導電性高分子膜体および/または第2導電性高分子膜体が、前記バイモルフ層を2以上の積層した構成が好ましい。第1導電性高分子膜体および/または第2導電性高分子膜体を、2以上のバイモルフ層で積層することで、その開閉運動の発生力を大きくでき、マクロポンプの圧力を効果的に上昇させることができる。
【0020】
また、第1、第2導電性高分子膜体を前記結合部で結合される部分を少なくとも除いて、その幅方向と直交する方向に所定数のスリットが第1、第2導電性高分子膜体に形成される構成がある。ここでのスリットは、完全に貫通する切れ目または貫通していない切れ目、または凹状の溝、折り目等でもよく、特に完全に貫通する切れ目が好ましい。スリットの数、スリット間隔は、目的の用途によって設定できる。また、第1、第2導電性高分子膜体の幅、厚みは、特に制限されず、マイクロポンプの用途によって設定できる。
【0021】
このスリットによって、第1、第2開閉駆動手段の閉じる動作の場合に、大きな力(強い力)を発生することができる。例えば、幅1mmの第1導電性高分子膜体(ひも状)を25個平行に並べて、これに対向するように幅1mmの第2導電性高分子膜体(ひも状)を25個平行に並べて構成した第1、第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータ(ひも状を束ねた構成)と、幅25mmの第1、第2導電性高分子膜体(上記スリットあり)から構成した第1、第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータ(スリットあり)とを比較した場合に、前者のアクチュエータ(ひも状を束ねた構成)は、導電性高分子膜体(ひも状)の個体差により動作の同期が正確にとれず、また、近接する導電性高分子膜体(ひも状)同士が互いに接触することによって、開閉動作の際に互いに邪魔となりその動きが阻害され、十分な開閉運動ができなくなるために、開閉動作の際の発生力が十分ではない。一方、後者のアクチュエータ(スリットあり)の場合、第1、第2導電性高分子膜体の結合部分にスリットが設けられていないため、電圧を一様に印加でき、開閉動作における同期がとれることになる。このように同期がとれているため、完全に貫通する切れ目のスリットを形成していても、近接する部分での接触がなく、開閉動作を阻害することがない。
【0022】
また、第1、第2導電性高分子膜体を曲線形状に構成することが好ましい。第1、第2導電性高分子膜体を作製する場合に、例えば、電解重合時に、基盤電極の形状を直線状ではなく曲線状、特にはアクチュエータを開いた状態の形状、または円弧状等にすることにより、マイクロポンプの初期状態を開いた状態にすることができる。これによって、当該マイクロポンプの開閉運動を、初期状態が直線状(開口面積零)の開閉運動に比較して、開口面積を大きく設定することができ、さらに、その際の発生力も大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1、第2導電性高分子アクチュエータの一例について説明する図
【図2】マイクロポンプの一例について説明する図
【図3】マイクロポンプの一例について説明する図
【図4】アクチュエータの開閉の距離とマイクロポンプの輸送体積につて説明する図
【図5】マイクロポンプの流量と圧力ヘッドの関係(P−Q線図)を示す図
【図6】2枚の導電性高分子膜体を積層したアクチュエータを示す図
【図7】アクチュエータの位相差とその流量の結果を示す図
【図8】粘性によるマイクロポンプのP−Q線図を示す図
【図9】マイクロポンプのエネルギ消費率を示す図
【図10】チューブ状の導電性高分子アクチュエータの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(導電性高分子アクチュエータ)
本発明の導電性高分子アクチュエータは、電気化学的酸化または還元によって駆動するカチオン駆動層およびアニオン駆動層を少なくとも積層して構成されるバイモルフ層、アニオン層、カチオン層のそれぞれの単体層、それらが適宜の組み合わせで積層された導電性高分子膜体で構成される。バイモルフ層の構成として、カチオン駆動層とアニオン駆動層を直接にまたは接着剤、金属膜等を介して積層する構成が可能であり、または、カチオン駆動層とアニオン駆動層との中間に基材(電解液保液機能有する)を設ける構成も可能である(カチオン駆動層/基材/アニオン駆動層)。さらに、基材の両面に金属膜を積層してカチオン駆動層とアニオン駆動層とをそれぞれ積層した5層構造も可能である。
【0025】
また、導電性高分子材料としては、特に制限されず、例えば、分子鎖にピロールおよび/またはピロール誘導体を含むものが好ましい。また、導電性高分子膜体(アクチュエータ)の縦長さ、横幅、厚み等のサイズは、マイクロポンプとしての用途に応じて適宜設定され、マイクロポンプに用いられる第1、第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータとしては、それぞれ同じサイズでもよく、液体輸送の仕様に応じて、縦サイズ、横幅サイズ、厚み等を異なるように構成することもできる。
【0026】
また、上記導電性高分子は、ドーパントとしてのアニオンを、該導電性高分子へのドーピングおよび脱ドーピングすることができるものであれば、特に限定されるものではない。上記ドーパントは、必要とされる電解伸縮量や用途等に応じて、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PF、過塩素酸イオンやパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。
【0027】
特に、上記導電性高分子として、上記導電性高分子が、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンがドープされた膜状導電性高分子を用いること、
(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)N (1)
〔上記式(1)において、mおよびnは任意の整数。〕、
または、上記導電性高分子として、下記式(2)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンがドープされた膜状導電性高分子を用いること、
(C(2l+1)SO)(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)C (2)
〔上記式(2)において、l、mおよびnは任意の整数。〕、
が、より速い駆動速度を得ることができるために好ましい。
【0028】
なお、本発明において、バイモルフ層の中間層として、基材を用いることができる。この基材(さらに金属電極層)を介してアニオン層、カチオン層がそれぞれ形成される。この基材としては、その面方向での伸縮が可能な素材であれば特に制限されず、例えば、不織布、紙、布、綿、メンブレン素材、織物素材、編み物素材等が例示される。また、基材は、絶縁性を有し、電解液を含浸、又は液移動可能に保持できることが好ましい。また、基材の厚み、硬度は、伸縮変位機能を発揮するように設計されていれば、特に制限されない。
【0029】
また、基材としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロースアセテートなどの多孔質基材(多孔質支持体)が好ましい。なかでも、上記多孔質基材(多孔質支持体)としては、化学的安定性や柔らかさやアクチュエータ素子の繰り返しの駆動における耐久性の観点から、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(多孔質PTFE)などをもちいることが特に好ましい。また空中で駆動させる場合は、電解液を保持している層(多孔質基材層(多孔質支持体層))のイオン導電率が高いことがより好ましく、また、空孔率は可能な限り高い方が好ましい。
【0030】
(駆動電解液)
本発明に用いられる駆動電解液は、上記導電性高分子膜体(アクチュエータ)の各素子が電圧印加により駆動するための電解質を含み、上記電解質を溶解するための溶媒として用いられる。上記電解質を溶解する溶媒として有機溶媒、水、有機溶媒と水の混合溶液を用いることができる。上記電解質を溶解する溶媒として有機溶媒および酸の混合溶液、または有機溶媒、水、および酸の混合溶液を用いることができる。また、上記導電性高分子が酸に接触処理したものを用いる場合では、上記電解質を溶解する溶媒として、有機溶媒、または有機溶媒および水の混合溶液を用いることができる。駆動電解液としてこれらの混合溶液を含むことにより、上記導電性高分子膜体(アクチュエータ)は、一定の電圧を与えた状態における時間に対する伸縮量(駆動速度)を測定した場合に、上記駆動電解液中で大きな駆動速度を示すことができる。
【0031】
また、上記有機溶媒が、エステル結合、カーボネート結合、およびニトリル基のうち少なくとも1つ以上の結合または官能基を含む極性有機化合物であることが好ましい。
【0032】
上記有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、電気化学の反応場として用いることができる溶媒であることが好ましい。上記極性有機化合物としては、たとえば、γ−ブチロラクトン、α―メチル−γ−ブチロラクトン(以上、エステル結合を含む有機化合物)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート(以上、カーボネート結合を含む有機化合物)、およびアセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル(以上、ニトリル基を含む有機化合物)をあげることができる。上記極性有機化合物は速い伸縮速度と大きな最大伸縮率を得ることができるために好ましい。なかでも、たとえば、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、アセトニトリル、又はエチレンカーボネイトなどが好ましく、バランスの良い駆動性能と共に、より長期の耐久性を得ることができる。
【0033】
また、上記混合溶媒に水を含む場合、水と有機溶媒との混合比は、特に限定されるものではない。上記駆動電解液の溶媒として水を含む混合溶媒を用いた場合には、有機溶媒のみを用いた場合に比べて通常2倍以上の駆動速度の向上をすることができる。また、上記有機溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
上記駆動電解液は、導電性高分子や有機溶媒の種類により、上記混合比を特定することが難しい。有機溶媒の導電性高分子を膨潤させる能力等により、駆動速度を向上させるための有機溶媒の最小値は、上記有機溶媒の種類に依存することになる。たとえば、プロピレンカーボネートについては、特級試薬では水の含有量が0.005%であることから、水と有機溶媒との混合比を0.1:99.9とすることもできる。上記混合溶媒における水と有機溶媒との好適な混合比の範囲は、容量比で、水含有比下限が0.5、1.0、5.0、10または20から選ばれる値から、水含有比下限上限が99.5、99.0、95.0、90.0、または80.0から選ばれる範囲を、有機溶媒の種に応じて、選ぶことができる。なお、上記混合比は、ガスクロマトグラフィー法を用いた測定方法、特に水分含有率が少ない場合にはカールフィッシャー法を用いた測定方法を用いることにより、駆動電解液を分析することにより求めることができる。
【0035】
たとえば、上記有機溶媒がプロピレンカーボネートである場合には、水とプロピレンカーボネートとの混合比が容量比で25:75〜75:25であることが、導電性高分子への電圧印可による駆動速度がより速くなるため好ましい。上記混合溶媒は、上記有機溶媒が複数種用いられていてもよく、この場合には、上記混合比は、水の重量と全有機溶媒の合計重量との比で計算される。
【0036】
上記水は、特に限定されるものではないが、純水、蒸留水もしくはイオン交換水であることが、金属イオンや塩化物イオン等による電解伸縮への阻害因子が含まれ難いために好ましい。
【0037】
また、上記の駆動電解液には、電解質としてアニオンが含まれる。上記アニオンは、ドーパントイオンとして、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PFやパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。また、上記アニオンは、たとえば、Na、K、Li等とカチオンと対イオンを形成した電解質塩を用いてもよい。
【0038】
上記電解質塩としては、たとえば、上記アニオンのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウムパーフルオロアルキルスルホニルイミド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドのリチウム塩、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドのテトラブチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0039】
上記電解質として電解質塩が加えられる場合、上記駆動電解液100重量部に対して、上記電解質塩が1〜90重量部含まれることが好ましく、5〜75重量部含まれることがより好ましく、10〜50重量部含まれることが特に好ましい。
【0040】
また、上記駆動電解液には酸を含む混合溶液を用いることもできる。この酸としては、特に限定されるものではないが、一価の強酸であることが好ましい。
【0041】
上記酸としては、たとえば、(CFSONH、(CSONH、(CFSO)(CSO)NHなどのパーフルオロアルキルスルホニルイミド、(CFSOCH、(CSOCH、(CFSO)(CSOCHなどのパーフルオロアルキルスルホニルメチド、硝酸などの無機酸などが好ましいものとしてあげられる。
【0042】
上記酸は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、上記駆動電解液のpHが0〜4であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。上記pHが4以上であると十分な添加効果が得られにくく、一方、上記pHが0以下では溶媒が分解してしまうおそれがある。なお、上記導電性高分子が酸に接触処理したものを用いる場合では、特に酸を駆動電解液に含まなくてもよい。
【0043】
さらに、上記駆動電解液には、アニオンが含まれる。上記アニオンは、ドーパントイオンとして、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PFやパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。これらのアニオンを用いた場合であっても、上記混合溶媒を用いることにより、導電性高分子を含む導電性高分子アクチュエータ素子の駆動速度を向上することができる。
【0044】
特に、上記駆動電解液において、より速い駆動速度を得るために、上記導電性高分子アクチュエータに含まれる導電性高分子のバルク中に下記式(3)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを含み、かつ、上記駆動電解液中にも下記式(3)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを含むことがより好ましい。
(式3)
(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)N (3)
〔上記式(3)において、mおよびnは任意の整数。〕
【0045】
さらに、上記駆動電解液において、より速い駆動速度を得るために、上記高分子アクチュエータ素子に含まれる導電性高分子のバルク中に下記式(4)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを含み、かつ、上記駆動電解液中にも下記式(4)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを含むことがより好ましい。
(式4)
(C(2l+1)SO)(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)C (4)
〔上記式(4)において、l、mおよびnは任意の整数。〕
【0046】
これらのドーパントイオンを含むことにより、上記導電性高分子のバルク中に上記パーフルオロアルキルスルホニルイミドまたはパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンが取り込まれ、または放出されて、導電性高分子が大きな伸縮運動をすることができるので、上記高分子アクチュエータ素子は、従来の導電性高分子の電解伸縮方法に比べて、速い駆動速度を示すことができる。
【0047】
また、上記電解質を溶解する溶媒として常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液を用いることができる。上記非イオン性有機化合物は、イオン性官能基やイオン性部位を分子構造中に有していないものであれば特に限定されず適宜用いることができる。上記有機化合物としては、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができる有機化合物、または電荷のキャリアとなることができる有機化合物であればよい。上記非イオン性有機化合物は、180℃以上の沸点または分解温度を有し、常温常圧下で液状であることが好ましく、さらに溶媒としての機能も有することが好ましい。また、245℃以上の沸点を有する有機溶媒であることがより好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
上記非イオン性有機化合物としては、たとえば、ジエチレングリコール、グリセリン、スルホラン、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、アセトニトリル、エチレンカーボネイト、ポリエーテル化合物などをあげることができる。なかでも、たとえば、ジエチレングリコール、グリセリン、スルホラン、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、又はポリエーテル化合物などが好ましく、さらには、ポリエーテル化合物を用いることが、バランスの良い駆動性能と共に、より長期の耐久性を得ることができるため、特に好ましい。
【0049】
上記非イオン性有機化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、電解液100重量部に対して、0.01〜100重量部であることが好ましく、0.05〜50重量部であることがより好ましく、0.1〜30重量部であることがさらに好ましい。0.01重量部未満であると十分な経時的耐久性が得られない場合があり、100重量部を超えると駆動周波数が低下する場合がある。
【0050】
また、駆動電解液には、電解質としてアニオンが含まれる。上記アニオンは、ドーパントイオンとして、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、BF、PFやパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを用いることができる。また、上記アニオンは、たとえば、Na、K、Li等とカチオンと対イオンを形成した電解質塩を用いてもよい。
【0051】
上記電解質塩としては、たとえば、上記アニオンのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウムパーフルオロアルキルスルホニルイミド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドのリチウム塩、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドのテトラブチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0052】
上記電解質として電解質塩が加えられる場合、上記駆動電解液100重量部に対して、上記電解質塩が1〜90重量部含まれることが好ましく、5〜75重量部含まれることがより好ましく、10〜50重量部含まれることが特に好ましい。
【0053】
また、上記駆動電解液中にさらにイオン性液体を含むことができる。イオン性液体は、特に限定されないで用いることができる。なかでも、上記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどのイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より少なくとも一種選ばれたカチオンと、PF、BF、AlCl、ClO、および下記式(5)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より少なくとも一種選ばれたアニオンとの組合せからなる塩を含むことが好ましい。これらのイオン性液体は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0054】
(式5)
(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)N (5)
[上記式(5)において、mおよびnは任意の整数である。]。
【0055】
さらには、上記駆動電解液において、より速い駆動速度を得るために、上記アクチュエータ素子に含まれる導電性高分子のバルク中に下記式(6)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを含み、かつ、上記駆動電解液中にも下記式(6)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンを含むことがより好ましい。
【0056】
(式6)
(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)N (6)
〔上記式(6)において、mおよびnは任意の整数。〕。
【0057】
また、上記駆動電解液において、より速い駆動速度を得るために、上記アクチュエータ素子に含まれる導電性高分子のバルク中に下記式(7)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを含み、かつ、上記駆動電解液中にも下記式(7)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンを含むことがより好ましい。
【0058】
(C(2l+1)SO)(C(2m+1)SO)(C(2n+1)SO)C (7)
〔上記式(7)において、l、mおよびnは任意の整数。〕。
【0059】
これらのドーパントイオンを含むことにより、上記導電性高分子のバルク中に上記パーフルオロアルキルスルホニルイミドまたはパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンが取り込まれ、または放出されて、導電性高分子が大きな伸縮運動をすることができるので、上記アクチュエータ素子は、従来の導電性高分子の電解伸縮方法に比べて、速い駆動速度を示すことができる。
【0060】
なお、導電性高分子膜体(アクチュエータ)素子においては、特定の形状を有し、かつ導電性高分子を含んでなる導電性高分子有形物に含まれるアニオンと同じアニオンが、上記駆動電解液中に含まれることが好ましい。上記アクチュエータ素子に用いられた導電性高分子のバルク中に含まれ、ドーパントとして機能し得るアニオンと同じアニオンが上記駆動電解液中に含まれることにより、導電性高分子バルク中への出入りが容易となりやすく、所望の伸縮量の電解伸縮を容易に得ることができる。また、上記駆動電解液中に含まれるアニオンがパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンまたはパーフルオロアルキルスルホニルメチドイ・BR>Iンである場合には、上記駆動電解液中で電解伸縮をさせる導電性高分子有形物の製造用電解液中に含まれるパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンまたはパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンとイオン半径が同程度であることが、電解伸縮を容易に行うことができるので好ましい。
【0061】
(導電性高分子膜体(アクチュエータ)の製造方法)
導電性高分子膜体は、電解重合法により作製できる。作用電極、対向電極および参照電極はそれぞれチタン板、白金板および銀線を用いることができる。ポリピロール(PPy)をモノマーとし、支持電解質にテトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホンイミド(TBATFSI)およびドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)を用いことができる。また、この作製時の支持電解質に、ラフェノールスルホン酸(PPS)を用いてもよいが、イオン半径の大きなテトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホンイミド(TBATFSI)を支持電解質とすることにより、導電性高分子膜体の変形量および発生力が増加することができるので好ましい。
【0062】
バイモルフ構造(二層)にする方法としては、例えば、電解重合法により作用電極上に得られた導電性高分子膜(カチオン駆動層)作製し、この膜上に導電性高分子膜(アニオン駆動層)を電解重合法により作製する方法がある。この際に、カチオン駆動層の両端部分をマスキングして電解重合することによりアニオン駆動層のサイズを適宜設定することができる。次いで、この2層の導電性高分子膜を作用電極から剥がす。これにより、導電性高分子膜(カチオン駆動層)と導電性高分子膜(アニオン駆動層)の2枚の膜が積層されて構成されたバイモルフ構造の導電性高分子膜体(アクチュエータ)が得られる。電圧を印加した場合に、電気化学的酸化によって収縮する膜がカチオン駆動層、膨張する膜がアニオン駆動層である。これらの関係において、カチオン駆動層が還元状態であるときにアニオン駆動層は酸化状態であり、一方、アニオン駆動層が還元状態であるときにアニオン駆動層は酸化状態である。
【0063】
また、上記電解重合によって形成されるカチオン駆動層とアニオン駆動層のサイズについては特に制限されないが、第1、第2導電性高分子膜体(アクチュエータ)の結合部位である、一方の第1結合先端部から他方の第2結合先端部に延びる方向のアニオン駆動層の長さ(a)と、当該アニオン駆動層の一方の先端部から直近の結合先端部までの長さ(b)との関係において、(a:2×b)が(3〜1.1:1)の範囲に設定した場合、アクチュエータの開閉運動を大きくすることができる。特に、2:1にした場合、アクチュエータの開閉運動が最大になる。すなわち、この条件に従うことで、開く動作による開口面積が大きくなり、閉じる動作による開口面積が最小(例えば、2個の導電性高分子膜体(アクチュエータ)同士が当接する、または略当接する程度)になる。また、開閉動作における開く力、閉じる力の程度が強くなる。
【0064】
また、導電性高分子膜体(アクチュエータ)は、その長さ方向の厚み断面形状が直線状、または、その長さ方向の厚み断面形状が曲線状に構成できる。第1、第2導電性高分子膜体を曲線形状に構成するために、第1、第2導電性高分子膜体を作製する場合に、例えば、電解重合時に、作用電極の形状を直線状ではなく曲線状、特にマイクロポンプのアクチュエータを開いた状態の形状、円弧状にすることにより、マイクロポンプの初期状態を開いた状態にすることができる。例えば、図3に示すマイクロポンプの初期状態において、第1、第2導電性高分子膜体対が曲線状に形成され、開口状態が形成されているのが分かる。これによって、マイクロポンプの開閉運動を、閉じた状態の直線状からの開閉運動に比較して大きく設定することができ、さらに、その際の発生力も大きくすることができる。
【0065】
また、上記電解重合に用いる電解液(導電性高分子製造用電解液)が、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基、ニトロ基、スルホン基およびニトリル基のうち少なくとも1つ以上の結合または官能基を含む有機化合物および/またはハロゲン化炭化水素を溶媒として含むことが好ましい。上記の電解液中に上記溶媒を含み、さらに、パーフルオロアルキルスルホニルイミドイオンまたはパーフルオロアルキルスルホニルメチドイオンなどを含むことにより、得られた導電性高分子は、1酸化還元サイクル当たりにおいてより大きな電解伸縮を示すものとなる。上記有機化合物としては、従来公知のものを適用できる。
【0066】
アニオン駆動層の支持電解質としては、例えば、塩酸(HCL)、エチルベンゼンスルホン酸(EBS)、パラトルエンスルホン酸(PTS)、テトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホンイミド(TBATFSI)、テトラフルオロ硼酸テトラブチルアンモニウム(TBABF)、パラフェノールスルホン酸(PPS)等が挙げられる。また、カチオン駆動層としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)等が挙げられる。
【0067】
上記電解重合法は、導電性高分子単量体の電解重合として、公知の電解重合方法を用いることが可能であり、定電位法、定電流法および電気掃引法のいずれをも適宜用いることができる。たとえば、上記電解重合法は、電流密度0.01〜20mA・cm−2、反応温度−70〜80℃で行うことができ、良好な膜質の導電性高分子を得るために、電流密度0.1〜2mA・cm−2、反応温度−40〜40℃の条件下で行うことが好ましく、反応温度が−30〜30℃の条件であることがより好ましい。
【0068】
なお、上記電解重合法に用いられる作用電極は、電解重合に用いることができれば特に限定されるものではなく、ITOガラス電極、炭素電極や金属電極などを適宜用いることができる。上記金属電極は、金属を主とする電極であれば特に限定されるものではないが、Pt、Ti、Ni、Au、Ta、Mo、CrおよびWからなる群より選ばれた金属元素についての金属単体の電極または合金の電極を好適に用いることができる。なかでも、得られた導電性高分子の伸縮率および発生力が大きく、かつ電極を容易に入手できることから、金属電極に含まれる金属種がPt、Tiであることが特に好ましい。なお、上記合金としては、たとえば、商品名「INCOLOY alloy 825」、「INCONEL alloy 600」、「INCONEL alloy X−750」(以上、大同スペシャルメタル社製)を用いることができる。また、対極については公知の電極、たとえばPt、Niを好適に用いることができる。
【0069】
上記電解重合法に用いられる電解液に含まれる導電性高分子の単量体としては、電解重合による酸化により高分子化して導電性を示す化合物であれば特に限定されるものではなく、たとえばピロール、チオフェン、イソチアナフテン等の複素五員環式化合物、ならびにそのアルキル基、オキシアルキル基等の誘導体があげられる。なかでも、ピロール、チオフェン等の複素五員環式化合物、ならびにその誘導体が好ましく、特にピロールおよび/またはピロール誘導体を含む導電性高分子であることが、製造が容易であり、導電性高分子として安定であるために好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0070】
上記導電性高分子膜(アニオン駆動層、カチオン駆動層)の厚みは、マイクロポンプの仕様により適宜設計するものであり、例えば0.01μm〜数百μmの範囲が例示できる。
【0071】
(第1、第2開閉駆動手段)
開閉運動する第1、第2開閉駆動手段の導電性高分子膜体(アクチュエータ)の構造を図1に示す。このアクチュエータは、PPy.DBSによるカチオン駆動層(縦30×横幅28 [mm])の中央部にアニオン駆動層であるPPy.TFSI (縦20×横幅28 [mm])を接合したバイモルフ構造(二層)のアクチュエータである。マイクロポンプの第1、第2開閉駆動手段は、カチオン駆動層を内側にして互いに対向させるように、第1、第2導電性高分子膜体を配置し、当該第1導電性高分子膜体と当該第2導電性高分子膜体との夫々の先端部を結合するように作製される。また、電解重合時の作用電極であるチタン板の中心部を湾曲させることにより、アクチュエータの初期状態はバイモルフ層が開いた形状となる。各々の導電性高分子膜体には、それら結合部分(電圧印加される部分)を除きスリットが1[mm]間隔で27本設けられ、二つの導電性高分子膜体がカチオン駆動層を内側にして向かい合わせに設置され、その上部および下部を白金板(結合部に相当する)により固定され、一つのアクチュエータとして構成されている。
【0072】
図1に示すように、第1導電性高分子膜体40は、カチオン駆動層10とアニオン駆動層20で構成されるバイモルフ構造である。また、第2導電性高分子膜体41は、カチオン駆動層11とアニオン駆動層21で構成されるバイモルフ構造である。これら第1、第2導電性高分子膜体40、41の両先端部分(カチオン駆動層10、11)は、結合部30、31(白金板)によって挟持されて固定されている。
【0073】
(結合部)
第1、第2導電性高分子膜体の両端部を結合するために、結合手段が用いられる。この結合手段としては、例えば、接着または粘着による結合による固定でもよく、挟み込みによる結合の固定でもよい。挟み込みによる結合手段は、その形状及びサイズが特に制限されず、マイクロポンプの用途に応じて適宜設計できる。また、結合手段は、ソリッド素材、フレキシブル素材で構成でき、その用途に応じた素材を選択できる。また、結合手段は、その機能を発揮するものであれば特に制限されないが、例えば、導電性素材、金属、貴金属が例示される。
【0074】
第1、第2導電性高分子膜体の幅方向と直交する方向(長さ方向、または周方向)に所定数のスリットを設けるように構成している。ここでのスリットは、完全に貫通した切れ目または貫通していない切れ目、または凹状の溝、折り目等でもよく、特に完全に貫通した切れ目が好ましい。スリットの数、スリット間隔は、アクチュエータの用途によって設定できる。また、第1、第2導電性高分子膜体の幅、厚みは、特に制限されず、マイクロポンプの用途によって設定できる。図1に示すように、第1、第2導電性高分子膜体40、41の両端部が結合部30、31によって結合され、結合部30、31で結合された部分を除いて、スリット45(切れ目)が所定間隔(例えば1mm間隔)で設けられている。なお、本発明の第1、第2導電性高分子膜体に必ずスリットを設ける必要はなく、マイクロポンプの仕様に応じて設けることができる。
【0075】
このスリット45によって、アクチュエータを閉じる動作の場合に、大きな力を発生することができる。つまり、第1、第2導電性高分子膜体の結合された両端部分(結合部30、31で結合された部分)にはスリットが設けられていないため、開閉動作における同期がとれ、その結果、完全な切れ目のスリットであっても、近接する部分での接触がなく、開閉動作を阻害することがない。
【0076】
上記で作成された第1、2開閉駆動手段の導電性高分子膜体(アクチュエータ)に、1.0MのLiTFSI水/プロピレンカーボネイト混合溶液中で、作動電極(例えば、導電性部材で構成された結合部30)に所定の印加電圧を与えて駆動させる。例えば、印加電圧としては−1.3[V]から1.3[V]の範囲で周波数が0.0025[Hz]の正弦波(他には矩形波、三角波、のこぎり波等が例示される)を与える。アクチュエータは電気的酸化・還元により開閉運動を行う。還元時に完全に開口部が閉じて、酸化時に大きく開口部が開く運動を行う。還元時には、アニオンとなるTFSIが脱ドープされるためにアニオン駆動層は収縮し、アクチュエータは閉じる。酸化時には、アニオン駆動層にTFSIがドープされるためにアニオン駆動層は伸張し、アクチュエータは初期状態のように開く。イオン半径の大きなTFSIのドープ・脱ドープが支配的になり、開閉運動を実現している。
【0077】
(実施例1)
(マイクロポンプ) 開閉運動を行うマイクロポンプ200の変形例を図2に示す。図2のマイクロポンプ200は、駆動源として第1、第2開閉駆動手段201、202を有して構成される。2つの開閉運動する導電性高分子膜体のアクチュエータの内側にポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane:PDMS)により作製された直径(d0)5mm、膜厚20[μm]のチューブ102を配置し、アクチュエータの開閉運動によりチューブ102は押しつぶされる。チューブ102の片端にはタンク101と接続し、その他の片側には出口側103と接続され、それぞれのアクチュエータの開閉運動によりタンク101内部の流体を出口側103の一方向に輸送することができる。導電性高分子膜体のアクチュエータは、内側のカチオン駆動層(縦30×横幅28mm)とこのカチオン駆動層の外側に形成されたアニオン駆動層(縦20×横幅28mm)とのバイモルフ構造であり、カチオン駆動層の上下の両端(図2)は、2枚の白金板WE(結合部30、31)で挟まれて固定されている。銀線REは、スリット形成されたアニオン駆動層表面に、電気的に接続されている。白金箔CEは、それぞれのアクチュエータの下部に、アクチュエータの下部を包み込むように形成されている(図2(b)参照)。それぞれのアクチュエータ(白金箔CEを含む)は、分離壁203aで分離配置されて、ポリエチレン製のカプセル203内に密封され、その内部には電解液として1MのLiTFSI水/プロピレンカーボネイト混合溶液が満たされている。上部の白金板WE(30)は、カプセル203から貫通しているが、下部の白金板WE(31)はカプセル203に固定されないで配置されている。カプセル203の直径は20mm、長さは60mmである。
【0078】
図2の上部の白金板WE(30)が作動電極であり電圧が印加される。銀線REの電圧値を常にモニターし、このモニター電圧を基準にして、白金板WE(30)に印加する電圧値を決定している。白金箔CEは白金板WE(30)から電流が正常に流れるために設置されている。アクチュエータの印加電圧として、例えば、タンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータ(白金板WE(30))に、−1.2[V]から+1.0[V]の矩形波を与え、出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータ(白金板WE(30))に、−0.6[V]から+0.5[V]の矩形波を与える。すなわち、第1開閉駆動手段の印加電圧値に対し第2開閉駆動手段のそれは2倍であり、タンク側と出口側のアクチュエータの開閉運動をする大きさが異なる。両方のアクチュエータの開閉運動の印加電圧の周波数は、0.005[Hz]とし、周波数比f1/f2が1.0である。f1は第1開閉駆動手段201の開閉運動の印加電圧の周波数を、f2は第2開閉駆動手段202の開閉運動の印加電圧の周波数を示す。電圧印加のタイミングを180°の位相差でずらして、これらのアクチュエータの開閉運動に180°の位相差を与える。
【0079】
開閉運動するアクチュエータを駆動源としたマイクロポンプのシステムの構成図を図3に示す。図3において、タンク101に貯められた水をマイクロポンプ200により、一方向へ輸送する。この時、出口側103を高くすることにより、圧力ヘッドを与えている。
【0080】
開閉運動する導電性高分子膜体のアクチュエータの開閉の距離とマイクロポンプの輸送体積をそれぞれ図4(a)および(b)に示す。図4(a)は、横軸および縦軸にそれぞれ測定時間およびアクチュエータの開閉距離(最大開口幅D)を示す。実線はタンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータの開閉距離(最大開口幅D1)、破線は出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータの開閉距離(最大開口幅D2)を示す。D1/D2=2.0である。図4(c)は、アクチュエータの開閉距離(最大開口幅)について説明するための図である。開閉距離(最大開口幅)は、アクチュエータの開口部の中央部分を測定して得られる。
【0081】
図4(b)は、横軸および縦軸にそれぞれ測定時間および内部流体の輸送量を示す。図4(b)より、マイクロポンプは、逆流することなく一方向に流体が輸送されていることがわかる。図4(a)に示すアクチュエータの開閉距離と比較すると、以下のことがわかる。t=0[s]から20[s]において輸送流体は、約100[μl]送液される。タンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータが完全に閉じ、さらに出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータも閉じることにより、流体は出口側へと押し出される。t=20[s]から100[s]においては、タンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータは開き始めるが、出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータが閉じた状態であるために、体積は一定を保つ。t=110[s]から170[s]においてタンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータは閉じ始め、また出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータが開き始めるために、流体は出口側へと輸送される。この時、タンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータが完全に閉じるまでの間、約150[μl]の流体を輸送する。その後、出口側の第2開閉駆動手段202のアクチュエータが開き始めるまで流体は逆流することなく一定値を保つ。すなわち、導電性高分子アクチュエータの開閉運動一周期当たりで約250[μl]を輸送することが可能である。この開閉運動を周期的に繰り返すことにより、流体は逆流することなく一方向へ輸送することが可能となる。
【0082】
二つのアクチュエータを駆動源とするマイクロポンプの流量と圧力ヘッドの関係(P−Q線図)を図5に示す。横軸および縦軸にそれぞれ流量(μl)および圧力ヘッド(Pa)を示す。「●」が導電性高分子アクチュエータを駆動源としたマイクロポンプである。また、「PPy.DBS/PPy.TFSI」は上述したように、支持電解質にTBATFSIを用いて作製した導電性高分子アクチュエータであり、開閉運動の際の電解液には、LiTFSI水溶液を用いている。そのため、ドーパントは、TFSIとなる。「PPy.DBS/PPy.PPS」は、支持電解質にパラフェノールスルホン酸(PPS)を用いて作製した導電性高分子アクチュエータであり、開閉運動の際の電解液には、NaCl水溶液を用いている。そのため、ドーパントは、Clとなる。また、「PPy.DBS/PPy.TFSI×2」は、図6に示すように、「PPy.DBS/PPy.TFSI」の2枚の導電性高分子アクチュエータ(40、40a、41、41a)を積層したアクチュエータである。「●」以外は、これまでに報告されているマイクロポンプのP−Q線図を示す。Ling et alのマイクロポンプは、2007,“A stand alone peristaltic micropump based on piezoelectric actuation”, Biomed Microdevices.,Vol.9,185−194頁に記載されている。Ramirez et alのマイクロポンプは、2006,“Biomimetic low power pumps based on soft actuators”,Sensors and Actuators A.Physical.,Vol.135,229−235頁に記載されている。Wu et alのマイクロポンプは、2005,“TITAN:A Coducting Polymer Based Microfluidic Pump”,Smart Materials and Structures,Vol.14,1511−1516頁に記載されている。S.Santraのマイクロポンプは、2002,“Fabrication and testing of a magnetically actuated micropump“,Sensors and Actuators B. Chemical.,Vol.87,358−364頁に記載されている。A.Gpelのマイクロポンプは、は、2008,”An implantable active microport based on a self priming high performance two stage micropump“,Sensors and Actuators A . Physical.,Vol.145,414−422頁に記載されている。
【0083】
「PPy.DBS/PPy.TFSI」、「PPy.DBS/PPy.PPS」、「PPy.DBS/PPy.TFSI×2」のいずれにおいても、流量が増加するに伴い、ヘッドによる圧力が減少している。これは、通常のポンプ性能にも言えることである。その流量は約2.0-85.0[μl/min]である。また、「PPy.DBS/PPy.TFSI」の圧力ヘッドは、約2.5-2.0[kPa]であり、「PPy.DBS/PPy.PPS」に比べて5倍程度大きい。TBATFSIを支持電解質として用いた場合には、イオン半径の大きいTFSIがドーパントとなるため、電気化学的酸化還元による開閉運動するアクチュエータの発生力が大きくなり、マイクロポンプの圧力が上昇する。
【0084】
一方、「PPy.DBS/PPy.TFSI」を積層すると、マイクロポンプの最大圧力ヘッドは、「PPy.DBS/PPy.TFSI」に比べて2倍程度上昇することがわかる。導電性高分子アクチュエータを積層することにより、アクチュエータの発生力がさらに大きくなることにより、圧力ヘッドも大きくなっていると言える。
【0085】
(実施例1における位相差を変えた例)
マイクロポンプの駆動源である第1、第2開閉駆動手段201、202のアクチュエータの位相差および最大開口幅比(D1/D2)を変えた場合において、液送の評価を行った。その結果を表1、2に示す。周波数比f1/f2は1.0(0.005Hz/0.005Hz)である。第1開閉駆動手段への印加電圧値V1を−1.2[V]〜+1.0[V]の矩形波で固定し、第2開閉駆動手段への印加電圧値V2(矩形波)を変えた。「○(良好に液送できた)」、「△(○を1としてその1/3以下の量を液送できた状態)」、「×(液送できない)」で液送の評価を行った。位相差180°の液体輸送量が最も高く、それに次いで、190°、170°、200°、210°、220°、230°の順番であった。隣り合う開閉駆動手段同士の位相差が160°以下、240°以上では、液体を送れなかった。また、各位相差と最大開口幅比D1/D2の関係において、位相差170〜230°の範囲およびD1/D2=1.4〜3.0の範囲で液送を確認でき、さらに位相差180〜190°の範囲およびD1/D2=1.3〜3.1の範囲で液送を確認できた。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
次いで、周波数比f1/f2を0.5(0.005Hz/0.01Hz)とした場合における各位相差と最大開口幅比D1/D2の関係を表3,4に示す。位相差140°〜170°の液体輸送量が高く、周波数比f1/f2=1.0における180°位相差の半分程度の液送量であった。隣り合う開閉駆動手段同士の位相差が100°以下、210°以上では、液体を送れなかった。また、各位相差と最大開口幅比D1/D2の関係において、位相差120〜200°の範囲およびD1/D2=1.4〜3.0の範囲で液送を確認でき、さらに位相差130〜190°の範囲およびD1/D2=1.3〜3.1の範囲で液送を確認でき、位相差140〜160°の範囲およびD1/D2=1.0〜3.4の範囲で液送を確認できた。
【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
次いで、周波数比f1/f2を2.0(0.01Hz/0.005Hz)とした場合における各位相差と最大開口幅比D1/D2の関係を表5,6に示す。位相差230°〜260°の液体輸送量が高く、周波数比f1/f2=1.0における180°位相差の1/3程度の液送量であった。隣り合う開閉駆動手段同士の位相差が190°以下、270°以上では、液体を送れなかった。また、各位相差と最大開口幅比D1/D2の関係において、位相差210〜250°の範囲およびD1/D2=1.4〜3.0の範囲で液送を確認でき、さらに位相差220〜150°の範囲およびD1/D2=1.3〜3.1の範囲で液送を確認でき、位相差230〜250°の範囲およびD1/D2=1.0〜3.4の範囲で液送を確認できた。
【0092】
【表5】

【0093】
【表6】

【0094】
また、周波数比f1/f2が0.5、1.0、2.0のそれぞれにおいて最大開口幅比D1/D2=2.0における各位相差と流量の関係を図7(a)、(b)に示す。横軸および縦軸にそれぞれ2つのアクチュエータの開閉運動の位相差と流量を示す。ここでは、10[deg]刻みの位相差で測定している。●、◆および▲にはそれぞれf1/f2が0.5、1.0および2.0の結果を示す。図7(a)に示すように周波数比f1/f2によって、位相差と流量のピークが変化していることがわかる。図7(b)において、各位相差における最大流量(輸送量)となるように周波数比を変えることが可能であることを示す。
【0095】
図7(c)〜(e)は、周波数比f1/f2変えた場合におけるそれぞれの最大開口幅の時間的変化を示す。但し、D1/D2=2.0、位相差=180°である。
【0096】
マイクロポンプで輸送する流体の粘性の影響を明らかにするために、粘性によるマイクロポンプのP−Q線図を図8に示す。横軸および縦軸にそれぞれ流量(μl)および圧力ヘッド(Pa)を示す。「●」、「▲」、「■」、「◆」および「▼」はそれぞれ作動流体の粘度が0.001[Pas](水)、0.150[Pas](グリセリン)、0.200[Pas](シリコンオイル)、0.300[Pas](シリコンオイル)および0.400[Pas](シリコンオイル)の結果を示す。流体の粘性が高くなるにつれ、流量域が狭くなり、圧力ヘッドも少しずつ減少しているが、水より粘性が400倍高いシリコンオイルでも、流量3.5-45.0[μl/min]が得られ、最大圧力ヘッドも4.2[kPa]である。すなわち、輸送流体の粘性影響は比較的小さいと言える。第1、第2開閉駆動手段201、202のアクチュエータを駆動源とするマイクロポンプは、水だけでなく、水に比べて400倍粘性の高い流体でさえも、水とほぼ同等に送液可能である。
【0097】
導電性高分子膜体(アクチュエータ)を駆動源とするマイクロポンプのエネルギ消費率を図9に示す。エネルギ消費率は、マイクロポンプが流量1[μl]を輸送するために必要なエネルギであり、式(1)および(2)により求められる。E,I,V,t,QおよびEnはそれぞれ単位時間あたりの消費エネルギ[mJ/s]、電流[A]、電圧[V]、時間[s]、流量[μl/s]およびエネルギ消費率[mJ/μl]である。横軸および縦軸にそれぞれ流量およびエネルギ消費率を示す。「●」は、本発明のマイクロポンプを示し、「■」、「◆」、「▲」、「▲」および「▼」は、それぞれLingら、Wuら、Ramirez、GpelおよびSantraらのマイクロポンプの結果を示す。
【数1】

【数2】

【0098】
導電性高分子膜体(アクチュエータ)を駆動源とするマイクロポンプは、他のマイクロポンプに比べて、その消費電力が劇的に小さい。例えば、表7に流量が約28[μl/s]程度のエネルギ消費率の結果を示す。導電性高分子アクチュエータを駆動源とするマイクロポンプは、他のマイクロポンプに比べて非常に低い消費エネルギで流体を輸送していることがわかる。導電性高分子膜体(アクチュエータ)は低駆動電圧で駆動可能であり、低い消費電力で動作可能であることから、少ない消費エネルギで流体を輸送することが可能である。
【表7】

【0099】
(電圧印加制御)
本発明において、印加電圧の制御方法は、例えば、正負極の切り替え、電圧値制御、パルス制御、連続印加、断続的印加制御等が例示される。また、本発明において、印加する時間(期間)に比例して、伸縮が生じている。よって、印加時間を制御することで、収縮・膨潤の変位量を簡単に制御できる。
【0100】
また、印加電圧は、導電性高分子膜体(アクチュエータ)のサイズ・性能、電導性高分子膜体の材料、厚み、サイズ等の設計に依存するが、電導性高分子としてポリピロールを用いた場合、その印加電圧は、例えば、ポリピロールが分解しない電圧値以下が望ましく、−2.0Vから2Vの範囲が例示される。
【0101】
また、印加電圧の正負極切り換えタイミングは、マイクロポンプの仕様によって設定でき、たとえば、0.0001〜400Hz周期で各電極に正負の反対電圧が印加されるようにすることができる。
【0102】
(実施例2) 上記実施例1のマイクロポンプ200において、ポンプ入口側(タンク側)の第1開閉駆動手段201と、その隣の出口側に第2開閉駆動手段202と、さらにその隣の出口側に第3開閉駆動手段(不図示)を配置した。第3開閉駆動手段は、第1、2開閉駆動手段と同様に製作した。
【0103】
アクチュエータ(作動電極の白金板WE(30))の印加電圧として、例えば、タンク側の第1開閉駆動手段201のアクチュエータに、−1.2[V]から+1.0[V]の矩形波を与え、中間の第2開閉駆動手段202に−0.85[V]から+0.71[V]の矩形波を与え、ポンプ最出口側の第3開閉駆動手段のアクチュエータに、−0.4[V]から+0.3[V]の矩形波を与える。すなわち、印加電圧値が異なっており、タンク側、中間、出口側のアクチュエータの開閉運動をする大きさが異なる。3つのアクチュエータの開閉運動の周波数は、0.005[Hz]とし、それぞれ隣り合うもの同士の開閉駆動手段への電圧印加のタイミングを170°〜230°の範囲(10°刻み)の位相差でずらして、これらのアクチュエータの開閉運動に170°〜230°の範囲(10°刻み)の位相差を与えることができる。また、タンク側を閉としたときに中間および出口側を開にし、次にタンク側を閉にした状態で中間を閉にして、出口側を開として液送を可能にし、次に、中間および出口側を閉にした状態でタンク側を開き、次にタンク側を閉にして中間および出口側を開くというように開閉運動を行なえる。また、入口側の第1開閉駆動手段が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の第2開閉駆動手段は、開状態に構成されて出口側に流体を送れ、この出口側の第2開閉駆動手段が開状態から閉状態に以降する際に、その隣の出口側の第3開閉駆動手段は、開状態に構成されて出口側に流体を送れると共に、その隣の入口側の第1開閉駆動手段が閉状態になっていることで入口側へ逆送されることはない。
【0104】
上記実施例1と同様に、図3のシステム構成で、実施したところ好適に液送を行えた。
【0105】
(実施例3)
電解重合法によって、円筒状の作用電極上にカチオン駆動層を形成し、それに積層するように、アニオン駆動層を形成することで、バイモルフ構造の筒状の導電性高分子膜体(チューブ状のマイクロポンプアクチュエータ)を製作した。図10にその一例を示す。図10に示すように、チューブ状のアクチュエータの上部端に電圧を印加することで、チューブ径が縮小する部分とチューブ径が拡大する部分とが形成される。上記の実施例1のマイクロポンプ200に代わり、このチューブ状のマイクロポンプアクチュエータを2つ用いたところ、実施例1と同様に液送を行えた。
【符号の説明】
【0106】
10、11 カチオン駆動層
20、21 アニオン駆動層
30、31 結合手段(結合部)
40 第1導電性高分子膜体
41 第2導電性高分子膜体
45 スリット(切れ目)
200 マイクロポンプ
201 第1開閉駆動手段
202 第2開閉駆動手段
WE 白金板
RE 銀線
CE 白金箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータを複数配置してなるマイクロポンプであって、
ポンプ入口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成される第1開閉駆動手段と、
ポンプ出口側に配置され、電気化学的酸化還元駆動でその開口面積が変化する導電性高分子アクチュエータで構成され、前記第1開閉駆動手段と直列に隣り合って配置される第2開閉駆動手段とを少なくとも有し、
前記第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とを所定の位相差で行なうように構成したマイクロポンプ。
【請求項2】
前記第1開閉駆動手段の開閉運動の周波数f1と、前記第2開閉駆動手段の開閉運動の周波数f2の周波数比f1/f2に応じて、前記位相差の値を設定することを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプ。
【請求項3】
前記第1開閉駆動手段および/または第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータが筒状の導電性高分子膜体である請求項1または2に記載のマイクロポンプ。
【請求項4】
前記第1開閉駆動手段および前記第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータを、カチオン駆動層にアニオン駆動層が積層されたバイモルフ層を有する導電性高分子膜体で構成する請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項5】
前記第1開閉駆動手段および第2開閉駆動手段の導電性高分子アクチュエータは、前記カチオン駆動層を内側にして互いに対向させるように、第1、第2導電性高分子膜体を配置し、当該第1導電性高分子膜体と当該第2導電性高分子膜体とのそれぞれの両端部を結合部で結合するように構成され、
隣り合う前記ポンプ入口側の第1開閉駆動手段の開閉運動とポンプ出口側の第2開閉駆動手段の開閉運動とが、前記周波数比f1/f2に応じた位相差で行なわれる請求項4に記載のマイクロポンプ。
【請求項6】
前記第1開閉駆動手段の開閉運動が、第2開閉駆動手段の開閉運動より大きい請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項7】
前記第1開閉駆動手段の開閉運動と第2開閉駆動手段の開閉運動とを前記周波数比f1/f2に応じた位相差で制御し、且つ前記第1開閉駆動手段の開閉運動が第2開閉駆動手段の開閉運動より大きくなるように制御する制御手段をさらに有する請求項1から6のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項8】
前記第1開閉駆動手段の開閉運動の大きさを導電性高分子アクチュエータの最大開口幅D1で示し、前記第2開閉駆動手段の開閉運動の大きさを導電性高分子アクチュエータの最大開口幅D2で示し最大開口幅比D1/D2が、1.3〜3.1である請求項6または7に記載のマイクロポンプ。
【請求項9】
前記周波数比f1/f2が0.5のとき、前記位相差の範囲が110°〜200°であることを特徴とする請求項2〜8に記載のマイクロポンプ。
【請求項10】
前記周波数比f1/f2が1.0のとき、前記位相差の範囲が170°〜230°であることを特徴とする請求項2〜8に記載のマイクロポンプ。
【請求項11】
前記周波数比f1/f2が2.0のとき、前記位相差の範囲が200°〜260°であることを特徴とする請求項2〜8に記載のマイクロポンプ。
【請求項12】
前記周波数比f1/f2を0.5〜2.0に変化させ、当該周波数比に応じて前記位相差を110°〜260°に変化させることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載のマイクロポンプ。
【請求項13】
前記第1導電性高分子膜体および/または第2導電性高分子膜体が、前記バイモルフ層を2以上の積層した構成である請求項4に記載のマイクロポンプ。
【請求項14】
前記第1、第2導電性高分子膜体を前記結合部で結合される部分を少なくとも除いて、その幅方向と直交する方向に所定数のスリットが第1、第2導電性高分子膜体に形成される請求項5に記載のマイクロポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−208597(P2011−208597A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78697(P2010−78697)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 平成22年2月1日 掲載されたホームページのアドレス http://www3.interscience.wiley.com/journal/123305398/issue http://www3.interscience.wiley.com/journal/123244398/abstract http://www3.interscience.wiley.com/cgi−bin/fulltext/123244398/main.html,ftx_abs
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】