説明

マイクロリアクタ

【課題】マイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができると共に伝熱効率に優れるマイクロリアクタを提供すること。
【解決手段】内部にマイクロ流路(5)が形成されたマイクロチューブ(32)と、マイクロチューブ(32)を加熱する加熱手段(31)とを備え、加熱手段(31)によりマイクロチューブ(32)を加熱することでマイクロ流路(5)内の被反応流体を加熱させつつ被反応流体の反応を進行させるマイクロリアクタ(1)において、加熱手段(31)は、所定温度まで昇温可能なコア体とされ、マイクロチューブ(32)は、加熱手段(31)を巻芯として密に巻回されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路を用いて、流体の混合や反応を行うマイクロリアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロリアクタの一つに、熱媒体を用いて、被反応液を反応に応じた温度に昇温させつつ反応を進行させるものがある。このようなマイクロリアクタとして、特許文献1に開示されたものを挙げることができる。
【0003】
図8は従来のマイクロリアクタ100の分解斜視図である。図68に示すように、マイクロリアクタ100は、外側シェル80とその中に取り付けられた反応部90とを備える。
【0004】
外側シェル80は、枠状体81、シール部材82及び蓋部材83などを備える。枠状体81は、熱媒体室85を形成するための中空部を備えると共に、熱媒体入口ポート81a、熱媒体出口ポート81b、被反応液入口ポート81c及び反応済液出口ポート81dを備える。このような枠状体81は、シール部材82を介して蓋部材83を取り付けることで、その中空部が密閉状態とされ、これにより熱媒体室85が形成される。熱媒体室85は、熱媒体入口ポート81a及び熱媒体出口ポート81bに連通している。
【0005】
一方、反応部90は、マイクロチューブ91及びコア92を備える。マイクロチューブ91はコア92に巻回された構成となっている。このマイクロチューブ91は、内部にマイクロ流路を形成している。マイクロチューブ91の一端は、枠状体81の被反応液入口ポート81cに連通し、他端は、枠状体81の反応済液出口ポート81dに連通している。
【0006】
以上のように構成されるマイクロリアクタ100は、マイクロ化学プラントに組み込まれて、次のようにして使用される。即ち、被反応液入口ポート81cからは被反応液が導入される。一方、熱媒体入口ポート81aからは熱媒体が導入され、熱媒体室85内で循環して、熱媒体出口ポート81bから導出される。このとき熱媒体室85内で循環する熱媒体により、マイクロチューブ91が加熱される。マイクロチューブ91が熱媒体から得た熱は、マイクロ流路内の被反応液に伝わり、これを昇温させる。このようにして、被反応液入口ポート81cから導入された被反応液は、マイクロ流路を通過中に、熱媒体により昇温されつつ反応を進行させ、反応済液出口ポート81dから反応済液として導出される。
【0007】
【特許文献1】特開2007−29887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のマイクロリアクタ100のように、マイクロ流路を流れる被反応液を、熱媒体を用いて反応に応じた温度に昇温させる形態では、次に示す問題がある。1つ目の問題は、マイクロリアクタ100を組み込むマイクロ化学プラントの大型化とコストアップを招くことである。即ち、熱媒体室85内で熱媒体を循環させるために、多くの装置を設ける必要がある。例えば、熱媒体を貯留するためのタンク、熱媒体を加熱するためのヒーター、熱媒体を圧送するためのポンプ、及びこれら各機器をマイクロリアクタ100に接続するための配管などである。2つ目の問題は、伝熱効率が良くないことである。即ち、熱媒体室85内で循環する熱媒体のうち、マイクロチューブ91に直接に接触するものは一部であり、ほとんどの熱媒体はマイクロチューブ91に直接に接触することなく熱媒体出口ポート81bから導出されてしまう。つまり、加熱された熱媒体が持つ熱のうち、マイクロ流路内の被反応液を昇温させるために使われる熱は数パーセントに過ぎず、ほとんどの熱は捨てられてしまい無駄になることになる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、マイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができると共に伝熱効率に優れるマイクロリアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記の本発明により達成される。なお「特許請求の範囲」及びこの「課題を解決するための手段」の欄において各構成要素に付した括弧書きの符号は、後述する実
施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0011】
請求項1の発明は、内部にマイクロ流路(5)が形成されたマイクロチューブ(32)と、マイクロチューブ(32)を加熱する加熱手段(31)とを備え、加熱手段(31)によりマイクロチューブ(32)を加熱することでマイクロ流路(5)内の被反応流体を加熱させつつ被反応流体の反応を進行させるマイクロリアクタ(1)において、加熱手段(31)は、所定温度まで昇温可能なコア体とされ、マイクロチューブ(32)は、加熱手段(31)を巻芯として密に巻回されてなることを特徴とする。
【0012】
請求項1の発明によると、マイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができると共に伝熱効率に優れるマイクロリアクタが提供される。その理由は次のとおりである。即ち、請求項1のマイクロリアクタ(1)は、マイクロチューブ(32)を加熱する加熱手段として、熱媒体でなく、所定温度まで昇温可能なコア体を用いるため、熱媒体を循環させるための各種装置が必要とならないからである。また、加熱手段(31)の熱は、マイクロチューブ(32)が加熱手段(31)に巻回されることで生じる接触部(P1)を介して、直接にマイクロチューブ(32)に伝わる。この接触部(P1)は、マイクロチューブ(32)が加熱手段(31)に密に巻回されていることにより、広範囲に亘って存在することになる。つまり、マイクロチューブ(32)が加熱手段(31)に直接に接触する箇所が、一つの加熱手段(31)について多く確保できる。これにより、熱媒体を用いる場合と異なり、加熱手段(31)の熱をマイクロチューブ(32)に損失少なく伝えることができる。このため、マイクロ流路(5)を流れる被反応流体を、伝熱効率良く加熱することができる。
【0013】
請求項2の発明では、加熱手段(31)は、300°Cを超える温度に昇温可能とされる。
【0014】
請求項2の発明によると、被反応流体として、その反応に必要な温度が、例えば300°Cを超えるような高温領域のものを対象とする場合でも、マイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができる。その理由は次のとおりである。即ち、従来のように熱媒体を用いて被反応液を上記高温領域の温度に昇温させる形態では、一般に、熱媒体に合成系有機物を用いることが多い。この合成系有機物には、高温領域の温度に加熱した際に、揮発や発火の虞を伴うものが多いため、それらを防止する構成が更に必要となる。例えば、揮発防止のための加圧装置や、漏洩防止のための密閉構造などである。請求項2の発明では、高温加熱を必要とする被反応流体に対応するにあたり、マイクロチューブ(32)を加熱する手段として、熱媒体を高温加熱するのではなく、コア体を高温加熱するため、高温の熱媒体を扱う上で必須な加圧装置や密閉構造などを必要としないからである。
【0015】
請求項3の発明では、加熱手段(31)は略円柱形状をなし、マイクロチューブ(32)はこの加熱手段(31)を巻芯としてコイル状に締結して巻回されてなる。
【0016】
請求項3の発明によると、マイクロチューブ(32)は、略円柱形状をなす加熱手段(31)にコイル状に巻回され、巻回部に角部がないため、被反応流体は、マイクロ流路(5)内で滞留を起こすことなくスムーズに流れることができる。また、加熱手段(31)が略円柱形状をなすことにより、例えば略角柱形状とした場合に比べて、マイクロチューブ(32)を加熱手段(31)に締結して巻回することができる。これにより、マイクロチューブ(32)は加熱手段(31)から浮き上がらずに確実に接触部(P1)を有するようにできる。その結果、加熱手段(31)の熱をマイクロチューブ(32)に損失少なく伝えることができるようになる。
【0017】
請求項4の発明では、マイクロチューブ(32)は、互いに隣り合うマイクロチューブ(32,32)の外周面同士が接触して接触部(P2)を有するように巻回される。
【0018】
請求項4の発明によると、加熱手段(31)の熱は、接触部(P1)を介してマイクロチューブ(32)に伝わるのに加えて、接触部(P2)を介して隣のマイクロチューブ(32)に伝わる。また、マイクロチューブ(32)は、細いチューブ体であるため、互いに隣接するマイクロチューブ(32,32)と加熱手段(31)とにより形成される空間(S1)は微小空間となる。このような微小空間の中で存在する空気は熱容量が極めて小さいため、容易に加熱される。マイクロチューブ(32)はこの加熱空気からも加熱されるため、マイクロ流路(5)を流れる被反応流体への伝熱効率が更に良くなる。
【0019】
請求項5の発明は、マイクロチューブ(32)のうち少なくとも加熱手段(31)に巻回されている領域を取り囲むように断熱材(4)を設けてある。
【0020】
請求項5の発明によると、断熱材(4)により、加熱手段(31)の熱がマイクロチューブ(32)の外部に逃げることを防止できるため、マイクロ流路を流れる被反応流体への伝熱効率が更に良くなる。。特に、マイクロチューブ(32)のうち加熱に係る領域の保温性を確保できるため、加熱手段(31)から放出される熱の有効利用を図ることができる。また、マイクロチューブ(32)を収容するためのケーシング(2)等が高温になることを防止できる。
【0021】
請求項6の発明は、加熱手段(31)がシースヒータである。
【0022】
請求項6の発明によると、被反応流体として、その反応に必要な温度が、例えば300°Cを超えるような高温領域のものを対象とする場合に特に好適である。その理由は次のとおりである。即ち、一般にシースヒータは、例えば300°Cを超える高温になっても熱変形を起こしたり、動作の安定性を欠いたりすることがないからである。
【0023】
請求項7の発明は、マイクロチューブ(32)が金属を材質としている。
【0024】
請求項7の発明によると、マイクロチューブ(32)が金属を材質とすることにより、接触部(P1)における加熱手段(31)からマイクロチューブ(32)への熱伝導性、及び接触部(P2)で互いに隣接するマイクロチューブ(32,32)間での熱伝導性を良くすることができるため、マイクロ流路(5)を流れる被反応流体への伝熱速度を高めることができる。
【0025】
請求項8の発明は、マイクロチューブ(32)を冷却するための冷却手段(6)を備える。
【0026】
請求項8の発明によると、マイクロチューブ(32)を流れる被反応流体が発熱反応を伴う場合でも、マイクロチューブ(32)を冷却することができるため、被反応流体を過加熱とすることなく、最適の温度に保つことができる。
【0027】
請求項9の発明は、マイクロチューブ(32)と断熱材(4)との間に冷媒体を流通させるための冷媒空間(42M′)を設け、更にこの冷媒空間(42M′)に連通して冷媒体の入口となる冷媒体入口ポート(61)と、この冷媒空間(42M′)に連通して冷媒体の出口となる冷媒体出口ポート(62)とを設け、冷媒体入口ポート(61)から供給した冷媒体を冷媒体出口ポート(62)から排出させることで冷媒空間(42M′)で冷媒体を流通させることにより、マイクロチューブ(32)を冷却するように構成される。
【0028】
請求項9の発明によると、マイクロチューブ(32)を流れる被反応流体が発熱反応を伴うものである場合でも、冷媒体入口ポート(61)から供給した冷媒体を冷媒体出口ポート(62)から排出させることで冷媒空間(42M′)に冷媒体を流通させることにより、マイクロチューブ(32)を冷却することができ、延いてはマイクロチューブ(32)を流れる被反応流体を冷却することができる。このようにマイクロチューブ(32)を強制的に冷却できるため、シースヒータ(31)をオフにしただけでは得られない冷却効果を備える。つまり、被反応流体が発熱反応を伴う場合でも、過加熱とすることなく、速やかに最適の温度に保つことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、マイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができると共に伝熱効率に優れるマイクロリアクタが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
〔第1実施形態〕
以下、添付図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態マイクロリアクタ1の外観斜視図、図2はリアクタ本体3を示す外観斜視図、図3はシースヒータ31の内部構造を示す正面一部断面図、図4は本発明の要部を示す正面一部断面図、図5は本発明の第1実施形態に係るマイクロリアクタ1の側面一部断面図である。
【0031】
図1に示すように、第1実施形態に係るマイクロリアクタ1は、ケーシング2、リアクタ本体3及び断熱材4を備え、互いに直列接続され且つ並設された2本のリアクタ本体3が、断熱材4により取り囲まれた状態でケーシング2内に収容された構成とされる。
【0032】
ケーシング2は、ケーシング本体21と蓋体22とを備える。ケーシング本体21は、上方が開放され且つ外形が直方体を呈する中空箱状体であり、ステンレス鋼等の金属を材質としている。蓋体22は、ケーシング本体21の上部に蝶番23を介して開閉自在となるように取り付けられ、ケーシング本体21と同様にステンレス鋼等の金属を材質としている。蓋体22はフック部材24を有しており、蓋体22を閉めた状態でこのフック部材24をケーシング本体21の留め部材25に留めることでロック状態とすることができる。
【0033】
リアクタ本体3は、図2に示すように、シースヒータ31とマイクロチューブ32とを備える。
【0034】
シースヒータ31は、図3に示すように、略円柱形状をなし、シース311、発熱体312、絶縁材313、リード部材314,317及び熱電対式温度センサ315を備える。このようなシースヒータ31は、リード部材314を介して発熱体312に電力を供給することで発熱体312を発熱させ、この発熱体312の熱をシース311に伝えることで、その表面温度を900°Cまで昇温可能とされる。なお、この表面温度は、図示しない制御装置により、所望する任意の値に設定可能とされる。
【0035】
シースヒータ31の各構成要素の詳細について記す。シース311は、ステンレス鋼等の金属からなる細長い有底円筒体からなる。このシース311は、マイクロチューブ32をコイル状に巻回可能なコア体とされると共に、発熱体312の発熱により加熱可能な加熱表面を有する。発熱体312は、グラファイト、ニクロム、タンタル等の導電体粉末または粒体などを使用でき、シース311の内部における中心軸線まわりにほぼ均等となるように収納されている。絶縁材313は、マグネシア、アルミナ等の粉末からなり、発熱体312とシース311の内周面との間に充填されている。リード部材314は、シース311の一端部側において、発熱体312に接続された金属線等からなる。熱電対式温度センサ315は、感熱部としての熱電対316を先端に備えた細長体からなり、有底円筒形のシース311のほぼ中心軸上に挿設される。熱電対316はリード部材317に電気接続されている。この熱電対式温度センサ315は、熱電対316がシース311における長手方向中央付近に位置するように設けられる。この位置で熱電対316が検出した温度に基づいて、シース311が所望の設定温度に保たれるように、フィードバック制御されるようになっている。
【0036】
マイクロチューブ32は、長尺可撓性のチューブ体からなり、図2に示すように、シースヒータ31にコイル状に巻回されている。マイクロチューブ32は、図4に示すように、内径が0.5mm以上且つ3mm以下の中空部を有し、この中空部がチューブ体の長手方向に連続することでマイクロ流路5を形成している。このマイクロ流路5は、被反応液が反応を進行させるためのマイクロ空間であるため、マイクロチューブ32の材質は、マイクロ流路5を流れる被反応液、反応途中液及び反応済液により浸食または腐食されないものが適宜選択される。マイクロチューブ32の一端は、図2に示すように入口ポート321とされ、他端は出口ポート322とされる。
【0037】
上記巻回は、マイクロチューブ32がシース311に締結するようになされている。これにより、巻回されたマイクロチューブ32は、シース311から浮き上がることなく、全体に亘ってシース311の外周面と接触部P1で接触するようになっている。これによりシース311の熱を、接触部P1を介して直接にマイクロチューブ32に伝えるようにしている。また、互いに隣り合うマイクロチューブ32,32の外周面同士が接触部P2を有するように巻回されている。これにより、接触部P1を介してマイクロチューブ32に伝わった熱が、接触部P2を介して、当該マイクロチューブ32に隣接するマイクロチューブ32に伝わるようにし、伝熱効率を良くしている。
【0038】
なお、マイクロチューブ32の材質に金属を用いることにより、接触部P1におけるシースヒータ31からマイクロチューブ32への熱伝導性、及び接触部P2で互いに隣接するマイクロチューブ32,32間での熱伝導性を良くすることができるため、マイクロ流路5を流れる被反応液への伝熱速度を高めることができる。このような金属としては例えば、ステンレス鋼やハステロイ(米国ヘインズ・インターナショナル社の登録商標)等を用いることができる。また、上記のように巻回することで、互いに隣接するマイクロチューブ32,32とシース311とにより、微小な空間S1が形成される。このような微小な空間S1の中で存在する空気は熱容量が極めて小さいため、容易に加熱される。本マイクロリアクタ1では、シースヒータ31の熱を、この加熱空気からもマイクロチューブ32に伝えることができるようにしている。
【0039】
このようなマイクロチューブ32は、シース311に対して密に巻回される。具体的には、シース311の表面のうち80パーセント以上をマイクロチューブ32で巻回することが好ましい。これにより、接触部P1はシース311における広範囲に亘って存在することになる。つまり、マイクロチューブ32がシース311に直接に接触する箇所が、一つのシースヒータ31について多く確保できる。これにより、シースヒータ31の熱をマイクロチューブ32に損失少なく伝えるようにしている。また、上記のように密に巻回することで、全長の長いチューブ体を省スペース内に収納するようにしている。
【0040】
また、マイクロチューブ32に形成されるマイクロ流路5は、上述したように、内径が0.5mm以上且つ3mm以下という微小なものであるため、次に示す理由により、伝熱効率が良い。即ち、マイクロチューブ32においてマイクロ流路5内の単位容積Vと、その単位容積Vに対する周面の表面積Sとしたとき、Vが非常に小さい分、S/Vの値を大きくすることができ、マイクロ流路5を流れる単位容積あたりの流体に伝わる熱量を大きく確保できるからである。
【0041】
以上のように構成されたリアクタ本体3は、本実施形態では、2本並設されており、一方のマイクロチューブ32における出口ポート322と他方のマイクロチューブ32における入口ポート321とはジョイント部材323(図1,5参照)により直列接続されている。このように複数本のマイクロチューブ32を直列接続することにより、マイクロ流路の長さを長く確保できるようにしている。また、リアクタ本体3を並設することにより、ケーシング2がリアクタ本体3の長手方向に必要以上に長くなるのを避けるようにしている。
【0042】
また、図5に示すように、断熱材4が、上記2本のリアクタ本体3を取り囲むように設けられる。断熱材4は、第1断熱材41と第2断熱材42と第3断熱材43とからなる。第1断熱材41は、リアクタ本体3に密着すると共にこれを被覆するように設けられる。第2断熱材42は、各リアクタ本体3を収容するための2本の収容溝空間42Mを形成し且つ第1断熱材41に密着してこれを取り囲むように設けられる。第3断熱材43は、第2断熱材42に密着してこれを取り囲むように設けられる。第1断熱材41は例えばファインフレックス(株式会社ニチアス社の登録商標)ブランケットを材質とし、第2断熱材42及び第3断熱材43は、ファインフレックスハードボードからなる。なお、第1断熱材41は、ファインフレックスブランケットに代えて、これよりも耐熱温度が高い、ロックウール製の保温筒であるマイティーカバーを使用してもよい。
【0043】
上記断熱材4により、リアクタ本体3の保温性を確保し、シースヒータ31から放射される熱の有効利用を図ると共に、ケーシング2が高温になることを防止している。なお、この断熱材4は、第1断熱材41、第2断熱材42、第3断熱材43の順で、シースから遠ざかるに従って堅さが堅くなっている。このため、蓋体22を閉状態とし且つロック状態としたときに、最も柔らかい第1断熱材41が強く圧縮されることにより、リアクタ本体3と第1断熱材41との間の空気層を極めて小さくすることができる。それと共に、隙間が殆ど無い状態でこれら各断熱材をケーシング2内に充填できる。これによりシースヒータ31の熱をマイクロチューブ32の巻回された領域に封じ込めることで、断熱効率を一層良くしている。なお、第1断熱材41を設けずに、第2断熱材42と第3断熱材43とだけを設けるようにしても、適度な断熱効果を得ることができる。
【0044】
次に、本発明に係るマイクロリアクタ1の使用例について説明する。マイクロリアクタ1は、蓋体22をロックした状態でマイクロプラントに組み込まれて使用される。具体的には、マイクロリアクタ1における入口ポート321は、図示しない被反応液供給部に配管接続される。この被反応液供給部は、被反応液を所定の圧力で圧送可能に構成される。ここでの被反応液は、反応に必要とされる温度がT1(T1>300°C)の液体であるものとする。このような被反応液は、異なる複数種類の液体の混合液からなるものとする。また、出口ポート322は、図示しない反応済み液回収タンクに配管接続される。シースヒータ31は、図示しない制御装置にリード部材314,317により電気接続され、シース311の温度がT2となるように設定される。この温度T2は、具体的には、マイクロ流路を流れる被反応液を、T1の温度に昇温できる温度であり、少なくともT1よりも高い値である。
【0045】
このような構成・設定の下で、リアクタ本体3における入口ポート321(図1参照)からは被反応液が導入される。導入された被反応液は、一方のリアクタ本体3のマイクロチューブ32から他方のリアクタ本体3のマイクロチューブ32へと向かう。一方、シース311がT2の温度に昇温するようにシースヒータ31を加熱する。これにより、次のようにして、マイクロチューブ32が昇温する。即ち、T2の温度に昇温したシース311が持つ熱は、接触部P1を介してマイクロチューブ32に伝わる。また、接触部P1を介してマイクロチューブ32に伝わった熱は、接触部P2を介して、当該マイクロチューブ32に隣接するマイクロチューブ32に伝わる。また、シース311の熱は、微小空間S1に存在する空気を介してもマイクロチューブ32に伝わる(図4参照)。このようにしてシースヒータ31の熱がマイクロチューブ32に伝わる。
【0046】
マイクロチューブ32に伝わった熱は、マイクロ流路5を流れる被反応液に伝わり、被反応液は、マイクロチューブ32におけるマイクロ流路5を通過中に、温度T1に昇温されつつ反応を進行させて、反応済み液が出口ポート322(図1参照)から導出される。このような反応の進行中に、断熱材4により、シースヒータ31の熱が外部に逃げることが防止される。これにより、特に、マイクロチューブ32のうち加熱に係る領域の保温性を確保できるため、シースヒータ31から放出される熱の有効利用を図ることができる。それと共にケーシング2が高温になることを防止することができる。
【0047】
このようなマイクロリアクタ1によると、当該マイクロリアクタ1を組み込んだマイクロ化学プラントの小型化及び低コスト化を図ることができる。その理由は次のとおりである。即ち、マイクロリアクタ1は、マイクロチューブ32を加熱する加熱手段として、熱媒体でなく、シースヒータ31というコア体を用いるため、熱媒体を循環させるための各種装置が必要とならないからである。また、被反応流体として、その反応に必要な温度が、300°Cを超えるような高温領域のものを対象としているが、上記高温加熱を必要とする被反応流体に対応するにあたり、マイクロチューブ32を加熱する手段として、熱媒体を高温加熱するのではなく、コア体であるシースヒータ31を高温加熱するため、高温の熱媒体を扱う上で必須な加圧装置や密閉構造などを必要としないからである。
【0048】
更に、マイクロリアクタ1は、伝熱効率にも優れる。その理由は次のとおりである。即ち、シースヒータ31の熱は、マイクロチューブ32がシースヒータ31に巻回されることで生じる接触部P1を介して、直接にマイクロチューブ32に伝わる。しかもマイクロチューブ32がシースヒータ31に密に巻回されていることにより、この接触部P1は、シース311における広範囲に亘って存在することになる。つまり、マイクロチューブ32がシースヒータ31に直接に接触する箇所が、一つのシースヒータ31について多く確保できる。これにより、熱媒体を用いる場合と異なり、シースヒータ31の熱をマイクロチューブ32に損失少なく伝えるようにできる。このため、マイクロ流路を流れる被反応流体を、伝熱効率良く加熱することができる。
【0049】
また、シースヒータ31の熱は、接触部P1を介してマイクロチューブ32に伝わるのに、接触部P2を介して隣のマイクロチューブ32に伝わる。また、マイクロチューブ32は、細いチューブ体であるため、互いに隣接するマイクロチューブ32,32とシースヒータ31とにより形成される空間S1は微小空間となる。このような微小空間の中で存在する空気は熱容量が極めて小さく、容易に加熱される。マイクロチューブ32はこの加熱空気からも加熱されるため、マイクロ流路を流れる被反応流体への伝熱効率が更に良くなる。
【0050】
また、略円柱形状をなすシースヒータ31において、シース311が細長い有底円筒体とされ、発熱体312は、シース311の内部における中心軸線まわりにほぼ均等となるように収納されていることにより、発熱体312とシース311との距離がシース311全体について一定となるため、シース311の温度ムラが少ない。
【0051】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6は本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタ1Aの外観斜視図、図7は本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタ1Aの側面一部断面図である。図6,7に示す第2実施形態に係るマイクロリアクタ1Aにおいて、第1実施形態に係るマイクロリアクタ1Aと同一の構成要素には、それらと同一符号を付してある。
【0052】
第2実施形態に係るマイクロリアクタ1Aは、基本的には、第1実施形態に係るマイクロリアクタ1に、マイクロチューブ32を冷却する冷却手段6を設けたことを特徴としている。この冷却手段6は、具体的には、次のようにして設けられる。即ち、マイクロリアクタ1Aは、図6,7に示すように、マイクロリアクタ1における第2断熱材42に代えて第2断熱材42′を有し、且つマイクロチューブ32の周りに第1断熱材41を設けずに、リアクタ本体3と第2断熱材41′とにより形成される空間を収容溝空間42M′として中空状態のまま残しておく。そして、この収容溝空間42M′に連通する冷却空気入口ポート61及び冷却空気出口ポート62を設けている。このような構成は、並設される2つのリアクタ本体3について適用される。これら冷却空気入口ポート61は、バルブ及び加圧ポンプを介して冷却空気貯留タンクの供給側に配管接続される。また、冷却空気出口ポート62は、冷却空気貯留タンクのリターン側に配管接続される。
【0053】
マイクロリアクタ1Aが奏する作用効果について説明する。マイクロチューブ32を流れる被反応液が発熱反応を伴う場合、被反応液の温度が目的温度よりも上昇することがある。このような反応の場合には、冷却空気入口ポート61から冷却空気を加圧導入して収容溝空間42Mを循環させることにより、マイクロチューブ32を冷却することができ、延いてはマイクロチューブ32を流れる被反応液を冷却することができる。このようにマイクロチューブ32を強制的に冷却できるため、シースヒータ31をオフにしただけでは得られない冷却効果を備える。つまり、被反応液が発熱反応を伴う場合でも、過加熱とすることなく、速やかに最適の温度に保つことができる。
【0054】
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明を行ったが、上に開示した2つの実施形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。即ち、マイクロリアクタ1の全体または一部の構造、形状、サイズ、材質、個数などは、本発明の趣旨に沿って種々に変更することができる。また、上に開示した実施形態では、被反応流体は液体として例示したが、気体とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロリアクタの外観斜視図である。
【図2】リアクタ本体を示す外観斜視図である。
【図3】シースヒータの内部構造を示す正面一部断面図である。
【図4】本発明の要部を示す正面一部断面図である。
【図5】本発明に係るマイクロリアクタの側面一部断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタの外観斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るマイクロリアクタの側面一部断面図である。
【図8】従来のマイクロリアクタの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 マイクロリアクタ
4 断熱材
5 マイクロ流路
6 冷却手段
32 マイクロチューブ
31 シースヒータ(加熱手段)
61 冷却空気入口ポート(冷媒体入口ポート)
62 冷却空気出口ポート(冷媒体出口ポート)
P1 接触部
P2 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にマイクロ流路(5)が形成されたマイクロチューブ(32)と、マイクロチューブ(32)を加熱する加熱手段(31)とを備え、加熱手段(31)によりマイクロチューブ(32)を加熱することでマイクロ流路(5)内の被反応流体を加熱させつつ被反応流体の反応を進行させるマイクロリアクタ(1)において、
加熱手段(31)は、所定温度まで昇温可能なコア体とされ、
マイクロチューブ(32)は、加熱手段(31)を巻芯として密に巻回されてなることを特徴とするマイクロリアクタ。
【請求項2】
加熱手段(31)は、300°Cを超える温度に昇温可能とされた請求項1に記載のマイクロリアクタ。
【請求項3】
加熱手段(31)は略円柱形状をなし、マイクロチューブ(32)はこの加熱手段(31)を巻芯としてコイル状に締結して巻回されてなる請求項1または請求項2に記載のマイクロリアクタ。
【請求項4】
マイクロチューブ(32)は、互いに隣り合うマイクロチューブ(32,32)の外周面同士が接触して接触部(P2)を有するように巻回された請求項1から請求項3のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項5】
マイクロチューブ(32)のうち少なくとも加熱手段(31)に巻回されている領域を取り囲むように断熱材(4)を設けてある請求項1から請求項4のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項6】
加熱手段(31)がシースヒータである請求項1から請求項5のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項7】
マイクロチューブ(32)が金属を材質としている請求項1から請求項6のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項8】
マイクロチューブ(32)を冷却するための冷却手段(6)を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載のマイクロリアクタ。
【請求項9】
マイクロチューブ(32)と断熱材(4)との間に冷媒体を流通させるための冷媒空間(42M′)を設け、更にこの冷媒空間(42M′)に連通して冷媒体の入口となる冷媒体入口ポート(61)と、この冷媒空間(42M′)に連通して冷媒体の出口となる冷媒体出口ポート(62)とを設け、冷媒体入口ポート(61)から供給した冷媒体を冷媒体出口ポート(62)から排出させることで冷媒空間(42M′)で冷媒体を流通させることにより、マイクロチューブ(32)を冷却するように構成された請求項8に記載のマイクロリアクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−94660(P2010−94660A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335619(P2008−335619)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】