説明

マイクロ総合分析システム

【課題】検査チップにおいて、検体、試薬の中の生体物質が微細流路壁に非特異的に吸着することを阻止する。
【解決手段】本発明のマイクロ総合分析システムは、検体中のアナライトを分析するための検査チップと、流体を送出するマイクロポンプと、該流体が流れる流路であって、検査チップに設けられ、その内壁をブロッキング処理されている微細流路とを含むことを特徴としている。前記ブロッキング処理は、微細流路の内壁に吸着される親水ポリマーなどを含む溶液を流すことによりおこなわれる。本発明は、シンプルな構成で複数の流体の安定的かつ精度の高い混合を実現し、効率的かつ高感度の分析を可能とするマイクロ総合分析システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、セ
ンサーなど)を微細化して1チップ上に集積化したシステムが開発されている(特許文献
1)。これは、μ−TAS(Micro total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・
オン・チップ(Lab-on-chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。現実には遺伝子検査に見られるように、煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化されたミクロ化分析システムは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とすることによる恩恵は多大と言える。
【0002】
各種の分析、検査ではこれらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題である。精度が高く、信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明者らはすでに提案している(特許文献2〜4)。
【0003】
上記ミクロ化分析システムを用いる分析において、複数の流体、例えば試薬、試料をマイクロ・チップの微細流路内を流通させて混合することが、ほとんど例外なく必要な工程として組み込まれる。マイクロ・チップでは、小さいプレートに微細な流路、流路エレメントが設けられることから、そのような微細空間内で詰りを起こすか、空気が混入し、気泡が生じる事態になると、流体が円滑に流れ、分割され、混合し、反応することが効率よく行なわれない。さらに微量物質を分析する場合に、流路途中で吸着されてロスが生じることがある。酵素などを含む試薬液も、流路内壁に該酵素が吸着されると必要な試薬量が増大する。このように微細流路で非特異的な吸着の問題が起きると、分析の微量化の障害となる。そこで流路の状態、流体の性状が予め適正化されていることが望ましい。
【特許文献1】特開2004-28589号公報
【特許文献2】特開2001-322099号公報
【特許文献3】特開2004-108285号公報
【特許文献4】特開2004-270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の実状に鑑みてなされたものであり、検査チップにおいて、検体、試薬の中の物質が微細流路内壁に非特異的に結合もしくは吸着することを阻止することを課題とする。本発明はブロッキング処理された微細流路を有する検査チップを含むマイクロ総合分析システムを提供する。
【0005】
さらに本発明は、各種の分析、検査、処理に好適なマイクロ総合分析システムの提供を行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロ総合分析システムは、
マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部と、内壁がブロッキング処理されている微細流路と、が設けられた検査チップと、
システム本体と、
を備え、そのシステム本体は、少なくとも
ベース本体と、
そのベース本体内に配置され、該検査チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットと、
検出処理装置と、
少なくとも該マイクロポンプユニットの機能と該検出処理装置の機能とを制御する制御装置と、
を備え、
該検査チップのポンプ接続部と該マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密に密着させた状態で該検査チップを該ベース本体内に装着した後、該検査チップにおいて検体中の標的物質を分析することを特徴としている。
【0007】
前記ブロッキング処理は、微細流路の内壁に結合もしくは吸着する親水性ポリマー、両親媒性ポリマーまたは界面活性剤を含む溶液を流すことにより行なわれる。
前記親水性ポリマーは、好ましくはタンパク質、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールまたはポリヒドロキシアルキルセルロースである。
【0008】
前記タンパク質は、好ましくはアルブミン、カゼイン、ゼラチンまたはヘパリンである。
前記ブロッキング処理が、0.1〜10%タンパク質溶液を流すことにより行なわれること
が望ましい。
【0009】
前記のブロッキング処理されている流路が少なくとも、タンパク質を含有する試薬液、検体液またはその検体処理液が通過する微細流路である。
前記ブロッキング処理は、検査チップを作製した後に行なわれるか、または検体の分析時に検体液を流す前に行なわれてもよい。
【0010】
前記マイクロポンプが、
前記微細流路に設けられ、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
前記微細流路に設けられ、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
前記微細流路に設けられ、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
該アクチュエータを駆動する駆動装置と
を備えるマイクロポンプであることを特徴としている。
【0011】
また前記システムは、
前記検査チップのポンプ接続部と前記マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密に密着させた状態で該検査チップをベース本体内に装着した後、
検体液または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる標的物質と、
試薬収容部に収容された試薬とを、
反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、
これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、
検出部位を構成する流路へ送液してその検出を前記検出処理装置により自動的に行なうことを特徴とするマイクロ総合分析システムである。
【0012】
前記の標的物質が好ましくはDNA、RNAまたはタンパク質である。
本発明の方法は、マイクロ総合分析システムにおいて、
検体中の標的物質を分析するための検査チップに設けられ、流体が流通する微細流路のうち、少なくとも検体が流れる微細流路またはタンパク質を含む試薬が流れる微細流路内へ0.1〜10%タンパク質溶液を流してその内壁をタンパク質によりブロッキング処理するこ
とにより、該流路内壁を表面改質し、該流路内壁への生体物質の非特異的な結合もしくは吸着を防止する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマイクロ総合分析システムによれば、検査チップにおいて、検体、試薬の中の物質が微細流路壁に非特異的に吸着することを阻止することができる。
さらに本発明により、シンプルな構成で、複数流体の安定的かつ精度の高い混合を実現し、効率的かつ高感度の分析システムが提供される。
〔発明の詳細な説明〕
本明細書において、「流体」とは、流体収容部などからマイクロポンプにより送出され、チップ内の流路を流れるものであり、適用する流体として液体、流動体、気体などであってもよい。対象とする流体は、実際は液体であることが多く、具体的には、各種の試薬類、試料液、変性剤液、洗浄液、駆動液などが該当する。なお、「流路エレメント」とは、マイクロリアクタに設置される機能部品をいう。「微細流路」は、本発明のマイクロリアクタ基板上に形成された微小な溝状の流路のことである。「遺伝子」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担うDNAまたはRNAをいうが、単に化学的実体であるDNA、RNAの形でいうこともある。分析対象である標的物質(分析対象物)を「アナライト」ということもある。
・本発明のマイクロ総合分析システムの概要
本発明のマイクロ総合分析システムは、
マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部と、内壁がブロッキング処理されている微細流路と、が設けられた検査チップと、
システム本体と、
を備え、そのシステム本体は、少なくとも
ベース本体と、
そのベース本体内に配置され、該検査チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットと、
検出処理装置と、
少なくとも該マイクロポンプユニットの機能と該検出処理装置の機能とを制御する制御装置と、
を備え、
該検査チップのポンプ接続部と該マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密に密着させた状態で該検査チップを該ベース本体内に装着した後、該検査チップにおいて検体中の標的物質を分析することを特徴としている。
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明のマイクロ総合分析システムの一実施形態における構成を示した概念図である。かかる実施形態では、図示したように検査チップ2、ならびにこのチップを収容する装置として、反応のための加熱・冷却ユニット(ペルティエ素子3、ヒーター4)と、送液用マイクロポンプ11、駆動液タンク10およびチップ接続部を有するマイクロポンプユニットと、その送液、温度、反応の各制御に関わる制御装置(図示せず)と、光学検出系(LED6、ホトダイオード5など)と、データの収集(測定)および処理を受け持つ検出処理装置(図示せず)とを備えているシステム本体1とから構成されている。
【0015】
検査チップ2は、一般に分析チップ、マイクロリアクタ・チップなどとも称されるものと同等である。検査チップは、例えば樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどを材料とし、そこに微細加工技術によりその幅および高さが約10μm〜数百μmのマイクロオーダーのサイズを有する微細流路を形成したものである。その縦横のサイズは、通常、数十mm、高さが数mm程度である。
【0016】
上記チップでは、各種試薬の収容部、試料収容部などの各収容部内の液体が、マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12によってこれらの各収容部に連通された上記マイクロポンプ11で送液される。
【0017】
検査チップ2以外の構成要素については、これらを一体化したシステム装置本体1とし、チップ2をこの装置本体に着脱するように構成することが望ましい。またマイクロポンプ11は、チップ2に設けることも可能であるが、通常、複数のマイクロポンプが装置本体に組み込まれる。これら複数のマイクロポンプと、検査チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部とを含むマイクロポンプユニットが、本発明システム本体のベース本体内に配置されている。図示したようにチップ2を該装置本体に装着し、面同士で重ね合わせることによりチップ2のポンプ接続部を装置本体のマイクロポンプユニットにあるチップ接続部のポートに接続するようになっている。
【0018】
マイクロポンプ11を制御する電気制御系統の装置は、流量の目標値を設定し、それに応じた駆動電圧をマイクロポンプに供給している。そうした制御を受け持つ制御装置についても、本発明システムの装置本体に組み込んで、検査チップのポンプ接続部を装置本体のマイクロポンプユニットのチップ接続部に接続させた場合に作動制御させるようにしてもよい。
【0019】
少なくとも前記マイクロポンプユニットの機能と検出処理装置の機能とを制御する制御装置が本発明システムの装置本体に組み込まれている。その制御装置は、さらに温度管理、測定データの記録と処理なども含めてシステムを統括的に制御支配させてもよい。この場合の制御装置は、予め送液順序、容量、タイミングなどに関して設定された諸条件を、マイクロポンプおよび温度の制御とともにプログラムの内容として有する。
【0020】
測定試料である検体の前処理、反応および検出の一連の分析工程は、前記のマイクロポンプ、検出処理装置および制御装置とが一体化されたシステム装置本体1に、チップを装着した状態で分析が行なわれる。装着したチップに試料を注入してから、あるいは試料を注入したチップを装置本体に装着してから分析を開始してもよい。試料および試薬類の送液、前処理、混合に基づく所定の反応および光学的測定が、一連の連続的工程として自動的に実施され、測定データが、必要な条件、記録事項とともにファイル内に格納される形態が望ましい。
【0021】
光学系検出手段として特に限定されないが、例えば可視分光法、蛍光測光法などの手法が適用され、LED、光電子増倍菅、CCDカメラなどが検出処理装置の構成要素としてシステム装置本体内に適宜設置される。
・検査チップ
本発明のシステムに用いられるチップ2は、マイクロリアクタとして化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などに利用されるように、各流路エレメントまたは構造部が、機能的に適当な位置に微細加工技術により配設されている。検査チップ2には、流体収容部として試料液を収容する試料収容部のほか、各試薬を収容するための複数の試薬収容部が設けられ、この試薬収容部には所定の反応に用いる試薬類、洗浄液、変性処理液などが収容される。これは、場所や時間を問わず迅速に検査ができるように、予め試薬が収容されていることが望ましいためである。チップ内に内蔵される試薬類などは、蒸発、漏失、気泡の混入、汚染、変性などを防止するため、その試薬部の表面が密封処理されている。
【0022】
本発明の検査チップにおける好ましいその構造は、溝形成基板および被覆基板なる基本的基板を用いて、構造部として、ポンプ接続部、弁基部および液溜部(試薬収容部、検体収容部などの各収容部、廃液貯留部)、送液制御部、逆流防止部、試薬定量部、混合部、
廃液貯留部など)の構造部を形成するとともに、流路が少なくとも該溝形成基板上に形成されており、該溝形成基板における、少なくともこれらの構造部、該流路および検出部に被覆基板を密着させて覆い、少なくとも検出部を光透過性の被覆基板を密着させて覆うことを特徴としている。
【0023】
検査チップの基本構造は、通常は1以上の成形材料を適宜組み合わせて作製されるが、その成型材料として様々な成形材料が使用可能であり、個々の材料特性に応じて使用される。例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどのフルオロカーボン樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系ポリマー、6−ナイロン、6,6−ナイロンなどのポリアミド系ポリマー、環状シクロオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、酢酸セルロースやニトロセルロースのようなセルロース系ポリマー、各種の無機ガラス、シリコン、セラミックス、金属などが挙げられる。なかでもポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン系ポリマー、シリコン、ガラスなどが好ましい。もっとも本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0024】
このように材料の選択肢は幅広く各種の材料を用いることができるが、加工性、耐薬品性、耐熱性、廉価性などを満たすことが望まれる。このような要求すべてに応え得る、優れた単一の材料はないために、チップの構造、用途、検出方法などを考慮してチップ材料を適切に選択することが求められる。例えば、半導体製造技術で培われたフォトリソグラフィー、エッチングといった加工技術が活かせるシリコンは、不透明で高価であるという難点がある。透明な耐熱性の材料であるガラスでは、生体物質が非特異的に吸着され、加工性が必ずしも良好でないという問題点がある。そこで複数の材料を適宜組み合わせたチップも作製されている。また多数の測定検体、とりわけ汚染、感染のリスクのある臨床検体を対象とするチップに対しては、ディスポーサブルであることが望まれ、さらに多用途対応性、量産性などを具えることが望ましい。
【0025】
以上の観点から本発明のシステムに使用される検査チップにおいては、その流路、流路エレメントおよび躯体は、チップを製造容易なディスポーサブルタイプとするために、量産可能であり、軽量で衝撃に強く、焼却廃棄が容易なプラスチック樹脂で形成される。用いられるプラスチック樹脂は、好ましくは加工成形性、非吸水性、耐薬品性、耐熱性、廉価性などの特性が良好であることが望まれる。これらの材質特性を少しでも多く有するプラスチックを使用すれば、チップを構成する部材の種類は少なくなり、加工製造の工程も複雑化しない。これに対して複雑な微細加工を基板に施し、各種の流路エレメントを配設した複数の基板を組み合わせて作製する集積型チップでは、システムの複雑化、精度の低下、製造コストの上昇を招きやすい。
【0026】
溝形成基板など流路を形成加工する基板では、吸水による流路の変形などが起こりにくく、微量の検体液が途中でロスすることなく送液されるように疎水性、溌水性のプラスチックが好ましい。このような材質には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、フルオロカーボン、飽和環状ポリオレフィンなどの樹脂が例示される。溝形成基板には、ポリスチレン系樹脂が好ましい。ポリスチレンが、透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすいからである。
【0027】
分析の都合により100℃近くに加熱する必要がある場合には、耐熱性に優れる樹脂、例
えばポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトンなどに変更する必要がある。
【0028】
アナライトの検出を行う反応を進行させるために、マイクロリアクタの流路の所定箇所または反応部位を所望する温度まで加熱することが多い。加熱領域において局所的に加熱する温度は、通常100℃程度までである。他方、高温では不安定になる検体、試薬類を冷却する必要に迫られることもある。チップ内のそうした局所的な温度の昇降を考慮して、適切な熱伝導率の材料を選択することが望ましい。このような材質としては、樹脂材、ガラス材などを挙げることができ、熱伝導率が小さい材質でこれらの領域を形成することにより、面方向への熱伝導が抑制され、加熱領域のみ選択的に加熱することができる。
【0029】
蛍光物質または呈色反応の生成物などを光学的に検出するために、マイクロリアクタ表面のうち少なくとも微細流路の検出部位を覆うその検出部分は、光透過性である部材であることが必要である。したがって、光透過性の被覆基板は、透明な材料、アルカリガラス、石英ガラス、透明プラスチック類が使用可能である。その被覆基板は、透明板として、該溝形成基板上の、少なくともこれらの構造部、該微細流路および検出部を覆う形態となるように、溝形成基板と接着されている。なお、そうした被覆基板が、チップ上面全体を覆う形態でも構わない。
【0030】
透明性の他に、可撓性も要求される場合には、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリジメチルシロキサンなどの材質が好ましい。・微細流路
マイクロリアクタとしての検査チップの流路は、基板上に目的に応じて予め設計された流路配置に従って、形成される(図4)。流体が流れる流路は、例えば幅数十〜数百μm、好ましくは10〜200μm、深さ5〜500μm程度、好ましくは10〜300μmに形成されるマイクロメーターオーダー幅の微細流路である。流路幅が50μm未満であると、流路抵抗が増大し、流体の送出および検出上不都合である。幅500μmを超える流路ではマイクロス
ケール空間の利点が薄まる。その形成方法は、従来の微細加工技術による。典型的にはフォトリソグラフィー技術による感光性樹脂による微細構造の転写が好適であり、その転写構造を利用して、不要部分の除去、必要部分の付加、形状の転写が行われる。チップの構成要素を型どるパターンをフォトリソグラフィー技術により作製し、このパターンを樹脂に転写成形する。したがって、マイクロリアクタの微細流路を形成する基本的基板の材料は、サブミクロンの構造も正確に転写でき、機械的特性の良好なプラスチックが好ましく用いられる。ポリスチレン、ポリジメチルシロキサンなどは形状転写性に優れる。必要であれば射出成形、押し出し成形などによる加工も使用してもよい。
・流路のブロッキング処理
微細空間では、毛細管力、流路抵抗の影響により流体の粘性は上昇する。このような状況で微細流路内を流通する流体の流路抵抗に流路の材質もまた影響する。したがって、親水性よりも疎水性の流路壁の方が、水性流体との相互作用は少ないために流路抵抗の上昇を招かない。加えて流体の流れを止めたり、緩めたりなどする流体運動の制御に好都合である。そこで微細流路を形成する基板に、溌水性のプラスチック樹脂を使用すれば、流路内を特に撥水コーティングは必要ない。特に必要であれば、フッ素系ポリマー材料のコーティングを施してもよい(例えば特開2004-75780号公報)。
【0031】
反面、疎水性のプラスチック樹脂を使用すると、試薬中の酵素、抗体タンパク質などが流路の底面もしくは側面に吸着されてしまい、反応部位へ到達する前に著しいロスが生じる。あるいは検体由来の夾雑物タンパク質が吸着されて微細流路に残留して層流を乱すか、流路を部分的にも狭隘にする可能性がある。それ以上に深刻な問題は、特に検体液が少量である場合、アナライトとしての標的物質が微量しか含まれていない希薄な検体液の場合、そのような標的物質の流路途中でのロスは、分析の精度、感度に著しく影響する。さ
らに、核酸、細胞なども非特異的吸着を起こし得る。このようなサンプルのロスは、流路を構成するプラスチック上への非特異的吸着によるものである。
【0032】
タンパク質、DNAなどの生体分子の流路内壁への非特異的な吸着を防止するには、流路壁に吸着されやすく、かつ反応などに影響を及ぼさない物質で、予め微細流路の内表面をコーティングしてもよい。ここで「ブロッキング」とは、一般には反応性を有する基を試薬などの反応物質から遮蔽することにより両者間で反応することを防止することであるが、本発明では、特に対象物質または標的物質などの生体分子が流路壁を含む固体表面に非特異的に結合もしくは吸着することを阻害することである。その作用を発現させるように行なう処理がブロッキング処理であり、使用する上記物質を含む組成物をブロッキング剤という。
【0033】
例えば、プラスチックへのタンパク質の非特異的な結合もしくは吸着は、その種類と濃度に依存し、また個々のタンパク質の高次構造における相対的な疎水度により、その吸着程度が変化する。 使用前にプラスチック部位にブロッキング処理をおこなうことで希薄
な検体液についての分析の感度を上げることができる。プラスチック内壁にブロッキング剤を均一にコーティングしてもよいが、必ずしもそれは必要とされない。一様でなくとも標的物質などが非特異的に結合もしくは吸着されなければよいからである。
【0034】
本発明の好適なブロッキング剤は、微細流路の内壁に非特異的に結合もしくは吸着される任意の親水性ポリマー、両親媒性ポリマー、界面活性剤などであり、特に限定されない。ただし、試薬、特に標的物質と検出のために接触させる反応試薬などと相互作用、反応などを起こさないことも必要である。
【0035】
親水性ポリマーとしては、ヒドロキシル基を有するポリマー化合物、例えばポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、ポリヒドロキシアルキルセルロースなどが挙げられ、あるいはポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロック共重合物でもよい。さらに部分エステル化または部分アミド化されたポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸などを挙げることができる。これらのポリマーの分子量は、103〜106の範囲にあることが好ましい。
【0036】
両親媒性ポリマーとして、リン脂質含有ポリマー、複合脂質ポリマーのほか、界面活性剤でもよい。
なお、ブロッキング剤は、上記のうちの1種でもよいが、2種以上併用してもよい。流
路内壁とは、結合、吸着、付着などいずれの形態で付いてもよい。ブロッキング処理の溶液の溶媒は、特に限定はないが、流路内壁の表面性状に影響が少なく、溶液の伸展性が過度に大きくない水が好適である。
【0037】
前記のブロッキング処理は、微細流路の内壁に吸着される前記ポリマーを含む溶液を微細流路に注入し、一定時間静置すると、ブロッキング剤が微細流路内壁に吸着され覆うようになる。その後該溶液を除き、必要であれば洗浄処理を行なって乾燥させるとブロッキング剤は内壁に残留し、使用時には流体中の吸着性物質にはマスク作用を示す。
【0038】
このようなマスク作用において、流路の一部に限定して表面改質、例えば官能基の導入、機能性材料の固定化、親水性の付与、疎水性の付与などの作業を行なう場合、表面改質の対象でない流路内壁部分をマスクするにもブロッキング処理は有益である。例えばポリスチレンは疎水性であり、タンパク質を吸着する傾向が強い性質を利用して微細流路上の下流地点に、ストレプトアビジンなどのビオチン結合性タンパク質を吸着させて検出部位を形成することも行なわれる。このような追い加工の際には、検出部位に至るまでの流路内について予め上記ブロッキング剤でコーティングを施しておくことが望ましい。
【0039】
さらに、アルブミンやヘパリンなどを吸着させた表面にはタンパク質や細胞が接着しない(すなわちブロッキングされている)ことが知られているが、そこへ微小電極を近づけて2V程度の電圧をかけると、タンパク質が接着性を有する状態へと瞬時にスイッチする
ことを見出されている。この技術を用いると、電極と電源さえあれば必要なタンパク質や細胞を必要な箇所に簡便に固定できる。
【0040】
核酸(DNA、RNAなど)を分析する場合には上記タンパク質系のブロッキング剤のほかに、アミノ基またはメルカプト基を有するアニオン性化合物を接触させることによってブロッキング処理することができる。核酸は負の電荷を有するため、流路内壁表面にも負の電荷を発生させることによって、核酸が内壁へ非特異的に吸着されることを防ぐことができる。このようなアニオン性化合物としては、負の電荷(COO-、SO3-、OSO3-、PO3-、もしくはPO2-)を有するものであれば何れのものも用いることができるが
、アミノ酸であることが好ましく、グリシンもしくはシステインであることが特に好ましい。また、タウリンも好ましく用いることができる。
【0041】
ブロッキング処理の時期は、流路を作製した後に行なわれるか、あるいは検体の分析時に検体液を流す前に行なわれることが望ましい。検体チップを作製した後にブロッキング処理を行なう場合には、チップを使用する時まで保管する都合上、流路に適用されたブロッキング剤は乾燥させることが望ましい。ブロッキング剤にタンパク質を用いた場合、吸着させたタンパク質は乾燥した状態で微細流路に結合している。タンパク質は脆弱であるため、固定、乾燥、保存の過程における失活が危倶される。またカビが生えたり変質のおそれもあるので、ブロッキング剤には防腐剤、安定剤などの添加も好ましい。
【0042】
検体処理の前に流路のブロッキング処理を行なうことも可能である。その場合には、検体を適用する前に予めブロッキング剤を含む液体で所定の時間、例えば5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間だけ流路を満たし、ブロッキング剤を作用させる。その後、洗浄液を流して余剰のブロッキング剤、気泡、空気、ゴミなども微細流路から除去しておくことが望ましい。
【0043】
ブロッキング処理は、好ましくはタンパク質溶液をブロッキング剤として用いるが、より具体的にはアルブミン、カゼイン、ゼラチンまたはヘパリンの水溶液である。特に好ましくは、アルブミン、とりわけ牛血清アルブミン(BSA)が安価であり容易に入手できる
。かかるブロッキング処理は、タンパク質を0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、
さらに好ましくは1〜3重量%含む溶液を流すことにより、そのタンパク質を微細流路内
壁に吸着させておこなわれる。タンパク質濃度が0.1重量%未満であるとブロッキング処
理の効果が出ず、また10重量%を超えると、吸着されない分が無駄になる部分として出てくる。
【0044】
前記のブロッキング処理される流路が、検査チップのすべての微細流路について行なう必要は必ずしもない。しかしながら少なくともタンパク質を含有する試薬液、検体液またはその検体処理液が通過する流路は、ブロッキング処理することが望ましい。
【0045】
別の態様のブロッキング処理として、疎水性樹脂に親水性付与剤を添加し、必要な個所の流路を親水性樹脂としてもよい。このような親水性付与剤として、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数が7以上の脂肪酸および/またはその塩、ポリアルキレングリコールおよび/またはそのオリゴマーから選択される少なくとも1種を用いる
ことができる。
【0046】
本発明による微細流路内壁への生体物質の非特異的な結合もしくは吸着を防止する方法
は、マイクロ総合分析システムにおいて、検体中の標的物質を分析するための検査チップに設けられ、流体が流通する微細流路のうち、少なくとも検体が流れる微細流路またはタンパク質を含む試薬が流れる微細流路内へ0.1〜10%タンパク質溶液を流してその内壁を
タンパク質によりブロッキング処理することにより、該流路内壁を表面改質し、該流路内壁への生体物質の非特異的な結合もしくは吸着を防止する方法である。
【0047】
上記ブロッキング処理により、微細流路内壁の表面にはBSAなどが存在することとなり、流体中のタンパク質などの生体物質が結合することができなくなる。したがって流路内でのタンパク質等の非特異的な吸着が防止され、流路内の流体は、スムースに流れ、流体の混合、分割なども円滑に行なわれる。また気泡の発生も抑制されるか、空気が流路から抜けやすくなる。
・マイクロポンプユニット
本発明のシステム本体1は、ベース本体とともにそのベース本体内に配置され、該検査チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットを構成単位として有している。
【0048】
マイクロポンプ11は、例えば複数のマイクロポンプがフォトリソグラフィー技術などにより形成されたチップ状のポンプユニットとして装置本体1に組み込まれていてもよい。マイクロポンプとしては、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、ピエゾポンプを用いることが好適である。図2(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図2(b)は、その上面図である。このマイクロポンプには、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47、および第2液室49が形成された基板42と、基板42上に積層された上側基板41と、上側基板41上に積層された振動板43と、振動板43の加圧室45と対向する側に積層された圧電素子44と、圧電素子44を駆動するための駆動部(図示せず)とが設けられている。この駆動部と、圧電素子44表面上の2つの電極とは、フレキシブルケーブルなどによる配線で接続されており、かかる接続を通じて当該駆動部の駆動回路によって圧電素子44に特定波形の電圧を印加する構成となっている。
【0049】
この例では、基板42として、厚さ500μmの感光性ガラス基板を用い、深さ100μmに達するまでエッチングを行なうことにより、第1液室48、第1流路46、加圧室45、第2流路47および第2液室49を形成している。第1流路46はその幅を25μm、長さを20μmとしている。また、第2流路47は、その幅を25μm、長さを150μmとしている。
【0050】
ガラス基板である上側基板41を、基板42上に積層することにより、第1液室48、第1流路46、第2液室49および第2流路47の上面が形成される。上側基板41の加圧室45の上面に当たる部分は、エッチングなどにより加工されて貫通している。
【0051】
上側基板41の上面には、厚さ50μmの薄板ガラスからなる振動板43が積層され、その上に、例えば厚さ50μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスなどからなる圧電素子44が積層されている。
【0052】
駆動部からの駆動電圧により、圧電素子44とこれに貼付された振動板43が振動し、これにより加圧室45の体積が増減する。第1流路46と第2流路47とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路よりも第2流路の方が長くなっており、第1流路46では、差圧が大きくなると、流路内で渦を巻くように乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路47では、流路幅が長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。
【0053】
例えば、圧電素子44に対する駆動電圧により、加圧室45の内方向へ素早く振動板43を変位させて大きい差圧を与えながら加圧室45の体積を減少させ、次いで加圧室45から外方向へゆっくり振動板43を変位させて小さい差圧を与えながら加圧室45の体積を増加させると、流体は同図のB方向へ送液される。逆に、加圧室45の外方向へ素早く振動板43を変位させて大きい差圧を与えながら加圧室45の体積を増加させ、次いで加圧室45から内方向へゆっくり振動板43を変位させて小さい差圧を与えながら加圧室45の体積を減少させると、流体は同図のA方向へ送液される。
【0054】
なお、第1流路と第2流路における、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0055】
上記のように構成されたピエゾポンプによれば、ポンプの駆動電圧および周波数を変えることによって、所望する流体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。図2の(a)(b)には図示されていないが、第1液室48には、駆動液タンク10につながるポート72が設けられており、その第1液室は、「リザーバ」の役割を演じ、ポート72で駆動液タンク10から駆動液の供給を受けている。第2液室49はマイクロポンプユニットの流路を形成し、その流路の先にチップ接続部のポート73があり、検査チップの「ポンプ接続部」12とつながる。
【0056】
図2(c)に、このポンプの他の例を示した。この例では、ポンプをシリコン基板71、圧電素子44、および図示しないフレキシブル配線から構成している。シリコン基板71は、シリコンウエハをフォトリソグラフィー技術により所定の形状に加工したものであり、エッチングにより加圧室45、ダイヤフラム43、第1流路46、第1液室48、第2流路47、および第2液室49が形成されている。第1液室48にはポート72が、第2液室49にはチップ接続部のポート73がそれぞれ設けられており、例えばこのピエゾポンプを図1のチップ2とは別体とする場合には、このポート73を介して検査チップ2のポンプ接続部12と連通する。例えば、ポート72、73が穿孔された基板74と、検査チップのポンプ接続部近傍とを上下に重ね合わせることによって、ポンプを検査チップ2に接続することができる。また、前述したように、1枚のシリコン基板に複数のポンプを形成することも可能である。この場合、チップ2と接続したポートの反対側のポートには、駆動液タンク10が接続されていることが望ましい。ポンプが複数個ある場合、それらのポートは共通の駆動液タンクに接続されてもよい。
【0057】
上記マイクロポンプと、図1に示した本発明システムとの関係を以下説明する。図1の例では、マイクロポンプは、検査チップ2とは別の装置としてシステム本体に属し、駆動液タンクと連通している。マイクロポンプは、検査チップ2とは、両者が互いに所定の形態で接合したときに、マイクロポンプユニットにあるチップ接続部のポート73と、検査チップにあってマイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部12とが連結して検査チップの流路と連通するようになる。
【0058】
図3は、マイクロポンプとしてのピエゾポンプを図1の検査チップ2とは別体とした場合におけるチップ2のポンプ接続部周辺の構成を示す。この図でマイクロポンプの流体送出用のポートから検査チップの流路へと連通するポンプ接続部12から下流の流路が検査チップ上にある。(a)は駆動液を送液するポンプ部の構成を示し、同図(b)は試薬を送液するポンプ部の構成を示している。ここで、24は駆動液の収容部であり、図1の駆動液タンクに相当する。駆動液は鉱物油などのオイル系、あるいは水系のいずれであってもよい。25は、予め収容された試薬を封止する封止液の収容部である。この封止液は、微細流路への漏出により試薬が反応してしまうこと等を防止するためのものであり、使用前に、検査チップが保管される冷蔵条件下では、固化もしくはゲル化しており、使用時、検査に
適した温度にすると融解し流動状態となる。封止液は、微細流路中に充填してもよく、あるいは封止液用に設けられた貯留部に充填してもよい。
【0059】
なお、別の態様として、マイクロポンプそのものも検査チップ上に組み込むことも可能である。特にチップ上の流路が比較的単純であり、繰り返し使用を前提とするような目的または用途、例えば化学合成反応用のマイクロリアクタ・チップとする場合にはこの形態を採り得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
・検査チップの実施態様
検査チップ2は、例えば50×76×2mmの大きさの矩形板状であり、好ましくは透明性、機械的特性および成型性に優れて微細加工がしやすいポリスチレン系樹脂からなる。
【0061】
検査チップ2には、分析用または化学合成用の微細流路がパターニングされている。微細流路の寸法形状の例を挙げると、幅が100μm程度、深さが100μm程度の断面矩形の溝である。検査チップ内には、ポンプ接続部、微細流路、検体収容部、試薬収容部、送液制御部、反応部、検出部などが設けられ、それぞれ流路で連絡されている。さらに送液の精度を高めるために、逆流防止部、定量送液機構なども配設することが望ましい。上記以外の種々の構成および材料を採用することができる。
・分析の実施態様
本発明のマイクロ総合分析システムは、
前記検査チップのポンプ接続部と前記マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密に密着させた状態で該検査チップをベース本体内に装着した後、
検体液または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる標的物質と、
試薬収容部に収容された試薬とを、
反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、
これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、
検出部位を構成する流路へ送液してその検出を前記検出処理装置により自動的に行なうことが望ましい。
【0062】
典型的には、図4に示されるように最上流部に位置する複数の試薬収容部18に収容され
た各試薬31が、試薬収容部より下流側の流路15で混合され、混合試薬が下流の分析流路に送液される。分析流路において、検体19と混合試薬とがY字流路などから合流して混合され、昇温等により反応が開始され、流路15の下流に設けられた検出部位において反応が検出される。
・遺伝子検査
本発明のシステムは、特に遺伝子または核酸(DNA、RNA)の検査に好適に用いることができる。その場合、検査チップ2の微細流路はPCR増幅に適した構成とされるが、遺伝子検査以外の生体物質についても基本的な流路構成はほぼ同一になるといえる。通常は検体前処理部、試薬類、プローブ類を変更すればよく、その場合、送液エレメントの配置、数などは変化するであろう。当業者であれば、例えばイムノアッセイ法のために必要な試薬類などを検査チップ2に搭載し、若干の流路エレメントの変更、仕様の変更を含む修正を施すことにより、分析の種類を容易に変更することができる。ここにいう遺伝子以外の生体物質とは、各種の代謝物質、ホルモン、タンパク質(酵素、抗原なども含む)などをいう。
【0063】
検査チップ2の好ましい一態様では、一つのチップ内において、
検体もしくは検体から抽出したアナライト(例えば、DNA、RNA、遺伝子)が注入さ
れる検体収容部と、
検体の前処理を行なう検体前処理部と、
プローブ結合反応、検出反応(遺伝子増幅反応または抗原抗体反応なども含む)などに用いる試薬が収容される試薬収容部と、
ポジティブコントロールが収容されるポジティブコントロール収容部と、
ネガティブコントロールが収容されるネガティブコントロール収容部と、
プローブ(例えば、遺伝子増幅反応により増幅された検出対象の遺伝子にハイブリダイズさせるプローブ)が収容されるプローブ収容部と、
これらの各収容部に連通する微細流路と、
前記各収容部および流路内の液体を送液する別途のマイクロポンプに接続可能なポンプ接続部と、が設けられている。
【0064】
この検査チップ2には、ポンプ接続部12を介してマイクロポンプが接続され、検体収容部20に収容された検体19もしくは検体から抽出した生体物質(例えばDNAまたはそれ以外の生体物質)と、試薬収容部18に収容された試薬31とを流路15へ送液し、微細流路の反応部位、例えば遺伝子増幅反応(タンパク質の場合、抗原抗体反応など)の部位で混合して反応させた後、その下流側流路にある検出部へ、この反応液を処理した処理液と、プローブ収容部に収容されたプローブとを送液し、流路内で混合してプローブと結合(またはハイブリダイゼーション)させ、この反応生成物に基づいて生体物質の検出を行なう(図4)。
【0065】
また、ポジティブコントロール収容部に収容されたポジティブコントロールおよびネガティブコントロールに収容されたネガティブコントロールについても同様に上記反応および検出を行なう。
【0066】
使用に先立ち、流路壁面に対するタンパク質、例えば酵素、抗体などの非特異的吸着を防ぐために上述のブロッキング処理を行なう。この処理ではブロッキング剤として1%BSA溶液を所定の流路に流して流路内を充填し、室温で1〜2時間程度静置した後、洗浄液をさらに流してブロッキング剤を廃液溜め中へ流し捨てる。
【0067】
検査チップ2における検体収容部20は、検体注入部に連通し、検体の一時収容および混合部への検体供給を行なう。検体収容部20の上面から検体を注入する検体注入部は、外部への漏失、感染および汚染を防ぎ、密封性を確保するために、ゴム状材質などの弾性体からなる栓が形成されているか、あるいはポリジメチルシロキサン(PDMS)などの樹脂、強化フィルムで覆われていることが望ましい。例えば、当該ゴム材質の栓を突き刺したニードルまたは蓋付き細孔を通したニードルでシリンジ内の検体を注入する。前者の場合、ニードルを抜くとその針穴が直ちに塞がることが好ましい。あるいは他の検体注入機構を設置してもよい。
【0068】
検体収容部20に注入された検体19は、必要に応じて、試薬31との混合前に、予め流路15に設けられた検体前処理部にて、例えば検体19と処理液とを混合することによって前処理される。そのような検体前処理部は、分離フィルター、吸着用樹脂、ビーズなどを含んでもよい。好ましい検体前処理として、アナライトの分離または濃縮、除タンパクなどが含まれる。例えば1%SDS混合液などの溶菌剤を用いて溶菌処理・DNA抽出処理を行なう。この過程では、細胞内部からDNAが放出され、ビーズまたはフィルターの膜面に吸着する。
【0069】
検査チップ2の試薬収容部18には、必要な試薬類31が予め所定の量だけ封入されている。したがって使用時にその都度、試薬31を必要量充填する必要はなく、即使用可能の状態になっている。検体中の生体物質を分析する場合、測定に必要な試薬類は、通常それぞれ公知である。例えば、検体に存在する抗原を分析する場合、それに対する抗体、好ましく
はモノクローナル抗体を含有する試薬が使用される。抗体は、好ましくはビオチンおよびFITCで標識されている。
【0070】
遺伝子検査用の試薬類には、遺伝子増幅に用いられる各種試薬、検出に使用されるプローブ類、発色試薬とともに、必要であれば前記の検体前処理に使用する前処理試薬も含めてもよい。
【0071】
マイクロポンプから駆動液を供給することにより各収容部から検体液および試薬液を押し出してこれらを合流させることによって、遺伝子増幅反応、アナライトのトラップまたは抗原抗体反応といった分析に必要な反応が開始される。
【0072】
試薬と試薬との混合、および検体と試薬との混合は、単一の混合部で所望の比率で混合してもよく、あるいは何れかもしくは両方を分割して複数の合流部を設け、最終的に所望の混合比率となるように混合してもよい。
【0073】
そうした反応部位の態様は特に限定されるものではなく、様々な形態および様式が考えられる。一例としては、試薬を含む2以上の液体を合流させる合流部(流路分岐点)から先に、各液が拡散混合される微細流路が設けられ、この微細流路の下流側端部から先に設けられた、該微細流路よりも広幅の空間からなる液溜めにおいて反応が行われる。
【0074】
DNA増幅方法としては、改良点も含めて各種文献などに記載され、多方面で盛んに利用されているPCR増幅法を使用することができる。PCR増幅法においては、3つの温度間で昇降させる温度管理が必要になるが、マイクロ・チップに好適な温度制御を可能とする流路デバイスが、すでに本発明者らにより提案されている(特開2004−108285号)。このデバイスシステムを本発明のチップの増幅用流路に適用すればよい。これにより、熱サイクルが高速に切り替えられ、微細流路を熱容量の小さいマイクロ反応セルとしているため、DNA増幅は、手作業で行う従来の方式よりはるかに短時間で行うことができる。
【0075】
最近開発されたICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid
amplification)法は、50〜65℃における任意の一定温度の下にDNA増幅を短時間で実施できるため(特許第3433929号)、本発明システムにおいても好適な増幅技術である。手作業では、1時間かかる本法は、本発明のシステムにおいては、10〜20分、好ましくは15分で解析まで終わる。
【0076】
検査チップ2の微細流路における反応部位よりも下流側には、アナライト、例えば増幅された遺伝子を検出するための検出部位が設けられている。少なくともその検出部分は、光学的測定を可能とするために透明な材質、好ましくは透明なプラスチックとなっている。
【0077】
さらに微細流路上の検出部位に吸着されたビオチン親和性タンパク質(アビジン、ストレプトアビジン)はプローブ物質に標識されたビオチン、または遺伝子増幅反応に使用されるプライマーの5’末端に標識されたビオチンと特異的に結合する。これにより、ビオチンで標識されたプローブまたは増幅された遺伝子が本検出部位でトラップされる。
【0078】
分離されたアナライトまたは増幅された目的遺伝子のDNAを検出する方法は特に限定されないが、好ましい態様として基本的には以下の工程で行われる。
(1a) 検体もしくは検体から抽出したDNA、あるいは検体もしくは検体から抽出したRNAから逆転写反応により合成したcDNAと、5’位置でビオチン修飾したプライマーとを、これらの収容部から下流の微細流路へ送液する。
【0079】
反応部位の微細流路内で、遺伝子を増幅する工程、微細流路内で増幅された遺伝子を含む増幅反応液と変性液とを混合して、増幅された遺伝子を変性処理により一本鎖にし、これと末端をFITC(fluorescein isothiocyanate)で蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせる。
【0080】
次いで、ビオチン親和性タンパク質を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、前記増幅遺伝子を微細流路内の検出部位にトラップする(増幅遺伝子を検出部位でトラップした後に蛍光標識したプローブDNAとをハイブリダイズさせてもよい。)。
(1b) 検体に存在する抗原、代謝物質、ホルモンなどのアナライトに対する特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含有する試薬を検体と混合する。 その場合、抗体は、ビオチンおよびFITCで標識されている。したがって抗原抗体反応により得られる生成物は、ビオチンおよびFITCを有する。これをビオチン親和性タンパク質(好ましくはストレプトアビジン)を吸着させた微細流路内の検出部位に送液し、ビオチン親和性タンパク質とビオチンとの結合を介して該検出部位に固定化する。
(2) 上記微細流路内にFITCに特異的に結合する抗FITC抗体で表面を修飾した金コロイド液を流し、これにより固定化したアナライト・抗体反応物のFITCに、あるいは遺伝子にハイブリダイズしたFITC修飾プローブに、その金コロイドを吸着させる。
(3) 上記微細流路の金コロイドの濃度を光学的に測定する。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、マイクロ総合分析システムの一つの実施形態として概略構成を示した図である。
【図2】図2(a)は、ピエゾポンプの一例を示した断面図、図2(b)は、その上面図である。図2(c)は、ピエゾポンプの他の例を示した断面図である。
【図3】図3は、ピエゾポンプをチップとは別体とした場合におけるチップのポンプ接続部周辺の構成を示した図である。
【図4】図4は、検査チップでの分析の一態様を示す。この図で流体の合流および混合が行なわれる流路構成の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0083】
1 本体
2 検査チップ
3 ペルチェ
4 ヒーター
5 ホトダイオード
6 LED
10 駆動液タンク
11 マイクロポンプ(ピエゾポンプ)
12 ポンプ接続部
13 疎水性バルブ
15 微細流路
18 試薬収容部
19 検体
20 検体収容部
24 駆動液収容部
25 封止液収容部
26 空気抜き用流路
31 試薬
41 上側基板
42 基板
43 振動板
44 圧電素子
45 加圧室
46 第1流路
47 第2流路
48 第1液室
49 第2液室
71 シリコン基板
72 ポート
73 ポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロポンプに連通させるための流路開口を有するポンプ接続部と、内壁がブロッキング処理されている微細流路と、が設けられた検査チップと、
システム本体と、
を備え、そのシステム本体は、少なくとも
ベース本体と、
そのベース本体内に配置され、該検査チップに連通させるための流路開口を有するチップ接続部と、複数のマイクロポンプとを含むマイクロポンプユニットと、
検出処理装置と、
少なくとも該マイクロポンプユニットの機能と該検出処理装置の機能とを制御する制御装置と、
を備え、
該検査チップのポンプ接続部と該マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密に密着させた状態で該検査チップを該ベース本体内に装着した後、該検査チップにおいて検体中の標的物質を分析することを特徴とするマイクロ総合分析システム。
【請求項2】
前記ブロッキング処理が、微細流路の内壁に結合もしくは吸着する親水性ポリマー、両親媒性ポリマーまたは界面活性剤を含む溶液を流すことにより行なわれることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項3】
前記親水性ポリマーが、タンパク質、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールまたはポリヒドロキシアルキルセルロースであることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項4】
前記タンパク質が、アルブミン、カゼイン、ゼラチンまたはヘパリンであることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項5】
前記ブロッキング処理が、0.1〜10%タンパク質溶液を流すことにより行なわれること
を特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項6】
前記のブロッキング処理されている流路が少なくとも、タンパク質を含有する試薬液、検体液またはその検体処理液が通過する微細流路であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項7】
前記ブロッキング処理が、検査チップを作製した後に行なわれるか、または検体の分析時に検体液を流す前に行なわれることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項8】
前記マイクロポンプが、
前記微細流路に設けられ、流路抵抗が差圧に応じて変化する第1流路と、
前記微細流路に設けられ、差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が第1流路よりも小さい第2流路と、
前記微細流路に設けられ、第1流路および第2流路に接続された加圧室と、
該加圧室の内部圧力を変化させるアクチュエータと、
該アクチュエータを駆動する駆動装置と
を備えるマイクロポンプであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項9】
前記検査チップのポンプ接続部と前記マイクロポンプユニットのチップ接続部とを液密
に密着させた状態で該検査チップをベース本体内に装着した後、
検体液または該検体を流路内で処理した処理液に含まれる標的物質と、
試薬収容部に収容された試薬とを、
反応部位を構成する流路へ送液して合流させ、
これらを反応させた後、得られた反応生成物質もしくはその処理物質を、
検出部位を構成する流路へ送液してその検出を前記検出処理装置により自動的に行なうことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項10】
前記標的物質が、DNA、RNAまたはタンパク質であることを特徴とする請求項9に記載のマイクロ総合分析システム。
【請求項11】
マイクロ総合分析システムにおいて、
検体中の標的物質を分析するための検査チップに設けられ、流体が流通する微細流路のうち、少なくとも検体が流れる微細流路またはタンパク質を含む試薬が流れる微細流路内へ0.1〜10%タンパク質溶液を流してその内壁をタンパク質によりブロッキング処理するこ
とにより、該流路内壁を表面改質し、該流路内壁への生体物質の非特異的な結合もしくは吸着を防止する方法。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−292472(P2006−292472A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110967(P2005−110967)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】