説明

マスタシリンダ

【課題】リターンスプリングの末端部のエッジがピストンの内壁に接触するのを防止するマスタシリンダの提供。
【解決手段】リターンスプリング62の末端部62a側は、軸方向に直交する平面部97が形成されるとともに、径方向の形状が、リターンスプリング62の末端部62aを通る外径寸法Yが末端部62aを通る外径寸法Yの線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短い形状であり、リターンスプリング62は、その末端部62a側の外周でピストンの内壁に対して固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧を発生するマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダには、ピストンをシリンダ本体の開口側へ付勢するリターンスプリングを有するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−291933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リターンスプリングはコイル状であるため、その末端部の寸法精度によって末端部のエッジがピストンの内壁に接触してしまう可能性があった。
【0005】
したがって、本発明は、リターンスプリングの末端部のエッジがピストンの内壁に接触するのを抑制し得るマスタシリンダの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リターンスプリングの末端部側の径方向の形状が、前記リターンスプリングの末端部を通る外径寸法が該末端部を通る外径寸法の線分と直交する方向の外径寸法よりも短い形状とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リターンスプリングの末端部のエッジがピストンの内壁に接触するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダを示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマスタシリンダのリターンスプリングを示す正面図である。
【図3】リターンスプリングの変形例を示す正面図である。
【図4】リターンスプリングの変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係るマスタシリンダについて図面を参照して以下に説明する。
【0010】
図1中符号11は、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させる本実施形態に係るマスタシリンダを示しており、このマスタシリンダ11には、その重力方向上側にブレーキ液を貯留するリザーバ12が取り付けられている。
【0011】
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成されるとともに横方向に沿う姿勢で車両に配置されるシリンダ本体15と、このシリンダ本体15の開口部16側に摺動可能に挿入されるプライマリピストン18と、シリンダ本体15のプライマリピストン18よりも底部13側に摺動可能に挿入されるセカンダリピストン19とを有するタンデムタイプのものである。なお、プライマリピストン18およびセカンダリピストン19は、シリンダ本体15の筒部14の軸線(以下、シリンダ軸と称す)に直交する断面が円形状の摺動内径部20に摺動可能に案内される。なお、シリンダ本体15の筒部14の摺動内径部20のセカンダリピストン19を嵌合させる範囲よりもセカンダリピストン19の先端側には、摺動内径部20よりも大径の大径部28が形成されている。また、シリンダ本体15の筒部14の摺動内径部20のプライマリピストン18を嵌合させる範囲よりもプライマリピストン18の先端側には、摺動内径部20よりも大径の大径部29が形成されている。
【0012】
シリンダ本体15には、筒部14の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する取付台部21が筒部14の円周方向(以下、シリンダ円周方向と称す)における所定位置に一体に形成されており、取付台部21にリザーバ12を取り付けるための取付穴24,25が、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態で形成されている。
【0013】
シリンダ本体15の筒部14の取付台部21が形成される側には、ブレーキ液を図示せぬディスクブレーキキャリパ等のブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が形成されている。なお、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、互いにシリンダ円周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
【0014】
シリンダ本体15の摺動内径部20には、シリンダ軸方向における位置をずらして複数具体的には4カ所のシール溝30、シール溝31、シール溝32およびシール溝33が底部13側から順に形成されている。これらシール溝30〜33は、シリンダ円周方向に環状をなしてシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。
【0015】
最も底部13側にあるシール溝30は、底部13側の取付穴24の近傍に形成されており、このシール溝30に円環状のカップシール35が嵌合状態で格納されている。
【0016】
シリンダ本体15におけるシール溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37および連通穴36は、リザーバ12に常時連通して筒部14内とリザーバ12とを連通可能に結んでいる。
【0017】
シリンダ本体15には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37のシール溝30に対し反対側つまり開口部16側に、上記したシール溝31が形成されており、このシール溝31に、円環状の区画シール42が嵌合状態で格納されている。
【0018】
シリンダ本体15のシール溝31よりも開口部16側であって開口部16側の取付穴25の近傍に、上記したシール溝32が形成されており、このシール溝32に円環状のカップシール45が嵌合状態で格納されている。
【0019】
シリンダ本体15におけるこのシール溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、筒部14の摺動内径部20からシリンダ径方向外側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47および連通穴46は、リザーバ12に常時連通して筒部14内とリザーバ12とを連通可能に結んでいる。
【0020】
シリンダ本体15における上記開口溝47のシール溝32に対し反対側つまり開口部16側に上記したシール溝33が形成されており、このシール溝33に円環状の区画シール52が嵌合状態で格納されている。
【0021】
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部55と、円筒部55の軸線方向における一側に形成された軸直交方向に沿う底部56とを有する有底円筒状(カップ状)をなしており、その円筒部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態でシリンダ本体15の摺動内径部20に摺動可能に嵌合されている。円筒部55の底部56に対し反対側の端部には、シリンダ径方向に貫通するポート60が複数放射状に形成されている。
【0022】
セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、縮長状態でセカンダリピストン19をシリンダ本体15の開口部16側へ付勢するコイル状のセカンダリリターンスプリング62を含むバネ組立体63が円筒部55内に挿入された状態で設けられている。このバネ組立体63は、シリンダ本体15の底部13に当接する軸線方向長さの長い部材64と、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの短い部材65と、これら一対の部材64,65を連結する軸部材66とからなるリテーナ67を有している。軸部材66は、長さの短い部材65に一端部が固定されるとともに長さの長い部材64を所定範囲内でのみ摺動自在に支持するもので、セカンダリリターンスプリング62は、リテーナ67の両側の相対移動可能に連結された部材64,65間に縮長可能に介装されており、リテーナ67で最大長が規制されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間隔は、バネ組立体63によって決められる。
【0023】
ここで、カップシール35および区画シール42はセカンダリピストン19の外周に当接している。そして、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、カップシール35により画成されてセカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室68となっている。このセカンダリ圧力室68は、セカンダリピストン19がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき(ブレーキペダルが操作されていない非制動時)、リザーバ12に連通する。一方、シリンダ本体15の底部13側のシール溝30に設けられたカップシール35は、内周がセカンダリピストン19の外周側に摺接することになり、セカンダリピストン19がポート60をカップシール35よりも底部13側に位置させた状態では、リザーバ12とセカンダリ圧力室68との間の連通を遮断可能となっている。この状態で、セカンダリピストン19が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール35および区画シール42の内周で摺動する。これによって、セカンダリ圧力室68内のブレーキ液を加圧して液圧を発生させ、この液圧がセカンダリ吐出路26からブレーキ装置に供給されることになる。
【0024】
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、内側円筒部71と、内側円筒部71の軸線方向における一側に形成された軸直交方向に沿う底部72と、底部72の内側円筒部71に対し反対側に形成された外側円筒部73とを有する有底筒状をなしており、その内側円筒部71をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態でシリンダ本体15に挿入されている。ここで、外側円筒部73の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸が底部72を押圧する。
【0025】
内側円筒部71の底部72に対し反対側の端部には、径方向に貫通するポート76が複数放射状に形成されている。
【0026】
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、縮長状態でプライマリピストン18をシリンダ本体15の開口部16側へ付勢するコイル状のプライマリリターンスプリング78を含むバネ組立体79が内側円筒部71に挿入された状態で設けられている。このバネ組立体79は、セカンダリピストン19の底部56に当接する軸線方向長さの長い部材81と、プライマリピストン18の底部72に当接する軸線方向長さの短い部材82と、これら一対の部材81,82を連結する軸部材83とからなるリテーナ84を有している。軸部材83は、長さの短い部材82に一端部が固定されるとともに長さの長い部材81を所定範囲内でのみ摺動自在に支持するもので、プライマリリターンスプリング78は、リテーナ84の両側の相対移動可能に連結された部材81,82間に縮長可能に介装されており、リテーナ84で最大長が規制されている。図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態のセカンダリピストン19とプライマリピストン18との間隔はバネ組立体79によって決められる。
【0027】
ここで、カップシール45および区画シール52はプライマリピストン18の外周に当接している。そして、シリンダ本体15の筒部14とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、区画シール42およびカップシール45により画成されてプライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室85となっている。このプライマリ圧力室85は、プライマリピストン18がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき(ブレーキペダルが操作されていない非制動時)、リザーバ12に連通する。一方、シリンダ本体15のシール溝32に設けられたカップシール45は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接することになり、プライマリピストン18がポート76をカップシール45よりも底部13側に位置させた状態では、リザーバ12とプライマリ圧力室85との間の連通を遮断可能となっている。この状態で、プライマリピストン18が、シリンダ本体15の摺動内径部20およびシリンダ本体15に保持されたカップシール45および区画シール52の内周で摺動する。これによって、プライマリ圧力室85内のブレーキ液を加圧して液圧を発生させ、この液圧がプライマリ吐出路27からブレーキ装置に供給されることになる。
【0028】
シリンダ本体15の開口部16側には、開口部16から突出するプライマリピストン18を覆うようにカバー86が取り付けられている。
【0029】
上記したセカンダリ側のバネ組立体63において、セカンダリピストン19の円筒部55内に収容される部分に設けられる端部の部材65は、軸線方向に貫通する結合穴91が中央に形成された平板状の円板部92と、この円板部92の外周縁部から軸線方向一側に突出する略円筒状の中間部93と、中間部93の円板部92とは反対側の端縁部から径方向外方に延出する円環状の当接部94とを有している。当接部94には、軸方向の円板部92とは反対側に突出する凸部95が複数形成されており、これら凸部95は、円板部92とは反対側の端面が、軸方向に直交する同一平面内に配置されている。
【0030】
この部材65は、結合穴91において軸部材66に結合されることになり、中間部93をセカンダリリターンスプリング62の軸方向の端部に挿入し、セカンダリリターンスプリング62の軸方向端部を当接部94に当接させることで、セカンダリリターンスプリング62の軸方向の端部を係止する。ここで、セカンダリリターンスプリング62の軸方向の端部には、軸方向に直交して平坦となっている平面部97が形成されており、この平面部97が、リテーナ67の軸方向端部にある部材65の当接部94に面接触で当接する。なお、この平面部97は、研磨や圧縮等により平面に成形されている。
【0031】
セカンダリピストン19の円筒部55には、底部56側に最も内径が小さい円筒面からなる内壁98が形成されており、この内壁98内に、部材65およびセカンダリリターンスプリング62の軸方向の端部が嵌合され、部材65が当接部94の凸部95の外端面において底部56に面接触で当接する。
【0032】
ここで、セカンダリリターンスプリング62およびプライマリリターンスプリング78の開口部16側の端部は略同様の形状をなしており、図2〜図4は、セカンダリリターンスプリング62およびプライマリリターンスプリング78を開口部16側から見た図である。図2〜図4において、セカンダリリターンスプリング62に関する構成の符号は括弧外に、プライマリリターンスプリング78に関する構成の符号を括弧内に示している。
【0033】
図1および図2に示すように、セカンダリリターンスプリング62の部材65に当接する末端部62a側は、径方向の形状が、セカンダリリターンスプリング62の末端部62aを通る外径寸法Yが、末端部62aを通る外径寸法Yの線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短いオーバル形状となっている。
【0034】
具体的には、末端部62aから始まる一巻き分の一巻部99のうち、末端部62aから始まる略4分の1巻きの部分が、末端部62aから離れるほど一定比率でスプリング中心Oからの半径が拡径する略円弧状の円弧状部100とされ、この円弧状部100と隣り合う略2分の1巻きの部分が、スプリング中心Oからの半径が円弧状部100の最大半径と同半径の円弧状の円弧状部101とされ、残りの略4分の1巻きの部分が、円弧状部101から離れるほど一定比率で半径が縮径する略円弧状の円弧状部102とされている。このとき、末端部62aと円周方向の位置が合う円弧状部102の円弧状部101とは反対の端部(つまり一巻部99の基端部)の外周部までのスプリング中心Oからの距離が、末端部62aの外周部までのスプリング中心Oからの距離以上となるようにし、好ましくは、図2に示すように、一巻部99の基端部の外周部までのスプリング中心Oからの距離が、末端部62aの外周部までのスプリング中心Oからの距離より大きくなるようにする。
【0035】
ここで、末端部62aとは90度位相が異なる方向の外径寸法Xは、セカンダリピストン19の円筒部55の内壁98の内径よりも大きくなっており、セカンダリリターンスプリング62は、主に、その末端部62a側の外周である、この外径寸法Xの部分が内壁98で押圧されて径方向に圧縮されることにより生じる付勢力で、セカンダリピストン19の内壁98に固定される。
【0036】
同様に、上記したプライマリ側のバネ組立体79において、プライマリピストン18の内側円筒部71内に収容される部分に設けられる端部の部材82は、軸線方向に貫通する結合穴111が中央に形成された平板状の円板部112と、この円板部112の外周縁部から軸線方向一側に突出する略円筒状の中間部113と、中間部113の円板部112とは反対側の端縁部から径方向外方に延出する円環状の平坦な当接部114とを有している。
【0037】
この部材82は、結合穴111において軸部材83に結合されることになり、中間部113をプライマリリターンスプリング78の軸方向の端部の内側に挿入し、プライマリリターンスプリング78の軸方向端部を当接部114に当接させることで、プライマリリターンスプリング78の軸方向の端部を係止する。ここで、プライマリリターンスプリング78の軸方向の端部には、軸方向に直交して平坦となっている平面部117が形成されており、この平面部117がリテーナ84の軸方向端部にある部材82の当接部114に面接触で当接する。なお、この平面部97は、研磨や圧縮等により平面に成形されている。
【0038】
プライマリピストン18の内側円筒部71には、底部72側に最も内径が小さい円筒面からなる内壁118が形成されており、この内壁118内に、部材82およびプライマリリターンスプリング78の軸方向の端部が嵌合され、部材82が当接部114において底部72に面接触で当接する。
【0039】
プライマリリターンスプリング78の部材82に当接する側の末端部78a側は、径方向の形状が、プライマリリターンスプリング78の末端部78aを通る外径寸法Yが、末端部78aを通る外径寸法Yの線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短いオーバル形状となっている。
【0040】
具体的には、末端部78aから始まる一巻き分の一巻部119のうち、末端部78aから始まる略4分の1巻きの部分が、末端部78aから離れるほど一定比率でスプリング中心Oからの半径が拡径する略円弧状の円弧状部120とされ、この円弧状部120と隣り合う略2分の1巻きの部分が、スプリング中心Oからの半径が円弧状部120の最大半径と同半径の円弧状の円弧状部121とされ、残りの略4分の1巻きの部分が、円弧状部121から離れるほど一定比率で半径が縮径する略円弧状の円弧状部122とされている。このとき、末端部78aと円周方向の位置が合う円弧状部122の円弧状部121とは反対の端部(つまり一巻部119の基端部)の外周部までのスプリング中心Oからの距離が、末端部78aの外周部までのスプリング中心Oからの距離以上となるようにし、好ましくは、図2に示すように、一巻部119の基端部の外周部までのスプリング中心Oからの距離が、末端部78aの外周部までのスプリング中心Oからの距離より大きくなるようにする。
【0041】
ここで、末端部78aとは90度位相が異なる方向の外径寸法Xは、プライマリピストン18の内側円筒部71の内壁118の内径よりも大きくなっており、プライマリリターンスプリング78は、主に、その末端部78a側の外周である、この外径寸法Xの部分が内壁118で押圧されて径方向に圧縮されることにより生じる付勢力で、プライマリピストン18の内壁118に固定される。これにより、末端部78aと円周方向の位置が合う円弧状部122の円弧状部121とは反対の端部が末端部78aよりも径方向外側に位置することになる。
【0042】
以上に述べた本実施形態に係るマスタシリンダ10によれば、セカンダリリターンスプリング62は、その末端部62a側の外周でセカンダリピストン19の内壁98に対して固定されるものであり、しかも、末端部62a側の径方向の形状が、末端部62aを通る外径寸法Yがこの外径寸法Yの方向の線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短い形状であるため、末端部62aの外径側のエッジがセカンダリピストン19の内壁98に接触するのを防止することができる。よって、バネ組立体63をセカンダリピストン19に組み付ける際に斜めに組み付いてしまうことが防止されることになり、セカンダリピストン19を異音等発生させることなく円滑にシリンダ本体15に対して摺動させることができる。また、バネ組立体63をセカンダリピストン19に組み付ける際に挿入が容易となるとともに、セカンダリピストン19に傷が付くことを防止できる。
【0043】
同様に、プライマリリターンスプリング78は、その末端部78a側の外周でプライマリピストン18の内壁118に対して固定されるものであり、しかも、末端部78a側の径方向の形状が、末端部78aを通る外径寸法Yがこの外径寸法Yの方向の線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短い形状であるため、末端部78aの外径側のエッジがプライマリピストン18の内壁118に接触するのを防止することができる。よって、バネ組立体79をプライマリピストン18に組み付ける際に斜めに組み付いてしまうことが防止されることになり、プライマリピストン18を異音等発生させることなく円滑にシリンダ本体15に対して摺動させることができる。また、バネ組立体79をプライマリピストン18に組み付ける際に挿入が容易となるとともに、プライマリピストン18に傷が付くことを防止できる。
【0044】
なお、リターンスプリング62,78の末端部62a,78a側の径方向の形状を、末端部62a,78aを通る外径寸法Yが末端部62a,78aを通る外径寸法Yの線分と直交する方向の外径寸法Xよりも短いオーバル形状とするために、上記以外にも、例えば、図3に示すように、円弧状部101,121と同径で末端部62a,78aまで形成した一巻部99,119のうち末端部62a,78aを含む一部を内側(中心側)に曲げて曲部123を形成しても良い。この場合も、スプリング中心Oから末端部62a,78aの外周部までの距離(半径)が、スプリング中心Oから一巻部99,119の基端部の外周部までの距離(半径)に対して同距離以下(好ましくは同距離より小)となるようにする。
【0045】
また、上記のオーバル形状を、図4に示すように、円弧状部101,121と同径で末端部62a,78aまで形成した一巻部99,119のうち末端部62a,78aを含む一部の外周側の除去部Z(図4のハッチング部分)を削り取ることで形成しても良い。この場合も、スプリング中心Oから末端部62a,78aの外周部までの距離(半径)が、スプリング中心Oから一巻部99,119の基端部の外周部までの距離(半径)に対して同距離以下(好ましくは同距離より小)となるようにする。
【0046】
なお、上記実施形態においては、リターンスプリング62,78の軸方向の端部に平面部97,117を形成しているが、軸方向に直交して平坦となっていれば、平面とする必要はなく、線径を残したままで、リテーナ67,84の軸方向端部にある部材65,82の当接部94,114にコイル径の2分の1より大きい範囲で線接触で当接するように平坦部を形成しても良い。
【符号の説明】
【0047】
10 マスタシリンダ
15 シリンダ本体
18 プライマリピストン
19 セカンダリピストン
62 セカンダリリターンスプリング
62a,78a 末端部
64,65,81,82 部材
67,84 リテーナ
78 プライマリリターンスプリング
94,114 当接部
97,117 平面部
98,118 内壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状のシリンダ本体と、
該シリンダ本体に挿入され、移動に伴って前記シリンダ本体内で液圧を発生させる筒状のピストンと、
該ピストンを前記シリンダ本体の開口側へ付勢するコイル状のリターンスプリングと、からなり、
前記リターンスプリングの末端部側は、軸方向に直交する平坦部が形成されるとともに、径方向の形状が、前記リターンスプリングの前記末端部を通る外径寸法が該末端部を通る外径寸法の線分と直交する方向の外径寸法よりも短い形状であり、
前記リターンスプリングは、その前記末端部側の外周で前記ピストンの内壁に対して固定されることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記リターンスプリングは、該リターンスプリングを縮小可能となるように互いに連結された一対の部材を有して前記リターンスプリングの最大長を規制するリテーナに設けられ、該リテーナの軸方向端部には、前記リターンスプリングの前記平面部が当接するとともに前記ピストンの底部に当接する当接部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−173555(P2010−173555A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20270(P2009−20270)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】