説明

マスタシリンダ

【課題】逆止弁の摺動隙間への異物の噛み込みを確実に防止できるようにして、作動の安定化を図ることのできるマスタシリンダを提供する。
【解決手段】リザーバ2に接続されるシリンダ本体3に、リザーバ2から圧力室6に作動液を補給する補給通路を設ける。補給通路をバイパスしてリザーバ2と圧力室6を連通するバイパス通路37を設け、バイパス通路37に、圧力室6の圧がリザーバ2の圧よりも低いときに開く逆止弁34を設ける。逆止弁34の上流側と下流側にリザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49をそれぞれ設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のブレーキ装置等に用いられるマスタシリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダは、リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体にピストンが摺動自在に嵌合され、シリンダ本体の内部に、ピストンの作動に応じて作動液を加圧する圧力室が形成されている。そして、圧力室は配管を通してブレーキ装置等の液圧機器に接続され、ピストンの作動に応じて液圧機器を作動させるようになっている。また、シリンダ本体には、ピストンの戻り作動時等に圧力室内の圧力が負圧になるのを防止するため、リザーバから圧力室に作動液を補給する補給通路が設けられている。
【0003】
近年、車両の車輪スリップ状況に応じて車輪に自動的に制動力を付与するトラクションコントロールシステムが開発されている。このようなシステムにおいては、トラクション制御時に液圧機器の一部である制御用ポンプがマスタシリンダの圧力室内から作動液を吸い込み、その作動液を車輪制動部に供給する。この場合、マスタシリンダでは、圧力室から吸い込まれる分に対応する作動液が前記補給通路を通してリザーバから圧力室に補給されるが、制御用ポンプの吸い込み量が多い場合には作動液の補給が不足し易くなる。
【0004】
従来、これに対処するマスタシリンダとして、圧力室で作動液が不足する状況になった場合に、リザーバと圧力室を接続する別通路を開く構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このマスタシリンダは、シリンダ本体に、補給通路を迂回してリザーバと圧力室を連通するバイパス通路が設けられ、このバイパス通路内に、圧力室内の圧力がリザーバの圧力よりも低くなったときに開弁する逆止弁が介装されている。この逆止弁は、弁孔を有する弁座部材と、弁座部材の弁座に離接する弁体と、弁体を弁座方向に付勢する付勢スプリングと、を備え、これらがバイパス通路内に設けられた弁室に収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−268629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この従来のマスタシリンダにおいては、バイパス通路に介装される逆止弁が、同弁に作用する負圧と付勢スプリングの反力のみによる比較的小さな力で作動する構造となっているため、作動液内の異物が逆止弁の摺動隙間に噛み込むと、その噛み込みによって逆止弁の作動が阻害されることが懸念される。
【0007】
そこで、この発明は、逆止弁の摺動隙間への異物の噛み込みを確実に防止できるようにして、作動の安定化を図ることのできるマスタシリンダを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、リザーバから作動液が導入され内部に圧力室を有するシリンダ本体と、前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、前記シリンダ本体内に摺動自在に嵌合されて前記圧力室を画成するとともに摺動位置に応じて前記補給通路を連通、遮断するピストンと、前記補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通し、前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁して作動液を前記リザーバから前記圧力室へ流通させる逆止弁を有するバイパス通路と、を備えたマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路の前記逆止弁の上流側および下流側に、前記逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室と、該弁室と前記リザーバを連通するリザーバ通路と、前記弁室と前記圧力室を連通する圧力室通路とを有し、前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された凹部と、該凹部を閉塞する蓋部材とにより構成され、さらに、前記リザーバと逆止弁との間および前記圧力室と逆止弁との間に、該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁室には、弁座を有するバルブケースが配置され、該バルブケース内に前記逆止弁の弁体が前記弁座に離着座可能に収容され、該バルブケースには、前記逆止弁の上流側および下流側から該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のマスタシリンダにおいて、前記逆止弁は、弁体が付勢手段により弁座に向けて付勢されるリフト弁であり、前記弁体は前記弁座に離着座する弁部と摺動部とを有し、前記バイパス通路内には、前記摺動部を摺動可能に案内するガイド部が設けられ、前記フィルタの目は、前記摺動部と前記ガイド部の間の摺動隙間よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁体の摺動部は、摺動方向に離間した2つのフランジ部を備え、前記フランジ部には作動液の流通を許す通路が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3乃至5のいずれかに記載のマスタシリンダにおいて、前記弁体の弁部は、前記摺動部と一体の弁部本体と、これに取り付けられて前記弁座に離接するゴム製の弁シートを有し、該弁シートは、所定以上の圧力で前記弁座に押圧されたときに前記弁体の摺動方向に圧縮され、前記弁体の弁部本体は、このとき前記弁座に当接することを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項2または3に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁室の前記凹部は、前記シリンダ本体に一体に形成された底面と該底面を取り囲む側壁とを備えてなり、前記フィルタは、前記弁室内に収容されてなることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項3に記載のマスタシリンダにおいて、前記バルブケースの外周が前記蓋部材の内周に嵌合され、前記バルブケースの内側と前記蓋部材で形成される空間に前記逆止弁の弁体が収容され、前記蓋部材の外周が前記弁室の内周にシール状態で嵌合されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項3に記載のマスタシリンダにおいて、前記2つのフィルタは前記バルブケースの外側領域に配置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項3、8、9のいずれかに記載のマスタシリンダにおいて、前記2つのフィルタのうちの一方のフィルタは筒状に形成され、前記バルブケースの外側を覆うように前記蓋部材とシリンダ本体の間に配置されていることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のマスタシリンダにおいて、前記一方のフィルタの軸方向の両端には環状のリップ部が設けられ、該リップ部が前記蓋部材と前記シリンダ本体の間をシールすることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の発明は、請求項10に記載のマスタシリンダにおいて、前記バルブケースの軸方向の一端側に前記一方のフィルタが当接する前記蓋部材が設けられ、前記バルブケースの軸方向の他端側に前記一方のフィルタの内径よりも外径が大きい環状シール部材が設けられていることを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載の発明は、請求項3、8乃至12のいずれかに記載のマスタシリンダにおいて、前記2つのフィルタのうちの他方のフィルタは有底円筒状に形成され、開口側の端部が前記バルブケースに固着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、リザーバと圧力室を連通するバイパス通路の逆止弁の上流側と下流側にそれぞれフィルタが設けられているため、これらのフィルタによって逆止弁の作動を阻害する異物の侵入を規制し、逆止弁の円滑な作動を保障することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の第1の実施形態を示すマスタシリンダの部分断面側面図。
【図2】同実施形態を示すマスタシリンダの平面図。
【図3】同実施形態を示す図2のA−A断面とB−B断面を合成した断面図。
【図4】同実施形態を示す逆止弁の拡大断面図。
【図5】同実施形態を示す図6のD−D断面に対応するリザーバ室側フィルタ部材の断面図。
【図6】同実施形態を示す図5のC−C断面に対応するリザーバ室側フィルタ部材の断面図。
【図7】同実施形態を示す圧力室側フィルタ部材の縦断面図。
【図8】同実施形態を示す図7のE部の拡大断面図。
【図9】同実施形態の収納部の軸長が最大の場合と最小の場合の圧力室側フィルタ部材の形状変化をそれぞれ(A),(B)で示す模式的な断面図。
【図10】同実施形態を示す蓋部材の上面図(A)と縦断面図(B)を併せて記載した図。
【図11】同実施形態のバルブケースと弁体の寸法関係を示す模式的な断面図。
【図12】この発明の第2の実施形態を示す逆止弁の拡大断面図。
【図13】この発明の第3の実施形態を示す図3と同様の断面図。
【図14】この発明の第4の実施形態を示す図3と同様の断面図。
【図15】同実施形態を示す逆止弁の拡大断面図。
【図16】この発明の第5の実施形態を示す図3と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、同一部分には同一符号を付して重複する説明を省略するものとする。
最初に、図1〜図11に示す第1の実施形態について説明する。
図面において、1は、この発明に係るマスタシリンダであり、2は、このマスタシリンダ1の上部に取付けられたリザーバである。この実施形態のマスタシリンダ1は車両のブレーキ装置に用いられ、運転席のブレーキ操作に連動してブレーキ回路に作動液を供給する。また、ブレーキ回路には図示しないトラクションコントロール用の制御ポンプ(液圧機器)が設けられ、車両の運転状況に応じて、運転者のブレーキ操作とは別にマスタシリンダ1から制御ポンプに作動液が吸引されるようになっている。
【0024】
マスタシリンダ1は、図1に示すように、有底円筒状のシリンダ本体3内にプライマリピストン4とセカンダリピストン5が直列に配置されたタンデム型のマスタシリンダであり、シリンダ本体3内の両ピストン4,5によって画成される2つの圧力室6(図1においては、後方側の一方の圧力室6のみを図示)が給排孔10を介して車両の異なるブレーキ配管系(例えば、前輪側のブレーキ配管系と後輪側のブレーキ配管系)に接続されている。
【0025】
プライマリピストン4は、シリンダ本体3の開口側(図1中の右側)に摺動自在に嵌合され、その開口側の端部が図示しないブースタを介してブレーキペダルの操作ロッドに連結されている。セカンダリピストン5は、シリンダ本体3の底部側に摺動自在に嵌合され、プライマリピストン4との間に圧力室6を形成するとともに、シリンダ本体3の底部との間に図示しない別の圧力室を形成している。各圧力室6内には、プライマリピストン4とセタンダリピストン5に戻り方向の反力を付与するリターンスプリング8が設けられている。各リターンスプリング8は、スプリングリテーナ9に一体に組み付けられ、スプリングユニットとして各圧力室6内に配置されている。
【0026】
また、シリンダ本体3の上面には、リザーバ2を取付けるためのボス部11a,11bが設けられ、この各ボス部11a,11bにリザーバ2の円筒状の給排口12a,12b(作動液の供給部)が接続されている。そして、各ボス部11a,11bには、シリンダ本体3の軸心に向かってほぼ直角に凹設され、前記リザーバ2の給排口12a,12bを受容する接続凹部20a,20aが形成されている。
【0027】
一方、シリンダ本体3の内周面のうちの、プライマリピストン4の嵌合される部位には環状溝14が形成され、その環状溝14と前記接続凹部20aが連通孔13aによって接続されている。そして、シリンダ本体3の内周面のうちの、環状溝14の軸方向の前後位置にはシールリング15,16が装着され、これらのシールリング15,16によってシリンダ本体3とプライマリピストン4の摺動隙間が液密にシールされている。なお、図1においては図示は省略されているが、シリンダ本体3の内周面のうちの、セカンダリピストン5の嵌合される部位には同様の環状溝が形成され、その環状溝と前記接続凹部20bが連通孔13bによって接続されている。また、このセカンダリ側の環状溝の軸方向の前後にはプライマリ側と同様の図示しないシールリングが装着されている。
【0028】
また、シリンダ本体3の内周面のうちの、環状溝14の前方側(図1中左側)には、環状溝14と圧力室6を接続する導通溝18が形成されている。この導通溝18は、シリンダ本体3の軸方向に沿って形成されているが、この導通溝18の延出方向の途中には前述の一方のシールリング15が介装されている。このシールリング15は、断面E字状に形成され、その断面の開口側が前方(図1中左側)に向くようにシリンダ本体3に設置され、内周壁がプライマリピストン4の外周面に摺動自在に密接するようになっている。また、シールリング15は、前方側の圧力室6の圧力が後方側の環状溝14の圧力よりも低くなった場合に、外周壁が撓み変形することによって導通溝18を開き、環状溝14(リザーバ2)から圧力室6への作動液の補給を許容する。
さらに、プライマリピストン4には圧力室6に臨む円筒壁4aが設けられ、その円筒壁4aには径方向に貫通する戻し孔17が形成されている。この戻し孔17は、プライマリピストン4が最大に後退した初期位置にあるときに、圧力室6と環状溝14とを導通させ、圧力室6およびブレーキ回路をリザーバ2と同圧の大気圧に維持するようになっている。
なお、図示は省略されているが、セカンダリ側についても、ここで説明したプライマリ側と同様の導通溝や戻し孔の構造が採用されている。
【0029】
したがって、各ピストン4,5が初期位置にあるときには、リザーバ2と各圧力室6が連通孔13a,13b、環状溝14及びピストン4,5の戻し孔17を通して導通しており、トラクションコントロールの作動等により各圧力室6の作動液量が不足したときにリザーバ2から作動液が補給される。上記の初期位置の状態から各ピストン4,5が前方側に移動して各戻し孔17が環状溝14に臨む位置から前方側にずれると、リザーバ2と各圧力室6との導通がシールリング15を介して実質的に遮断される。このとき、各ピストン4,5の前進作動に応じて各圧力室6の圧力が高まり、作動液が給排孔10を通してブレーキ回路に供給される。
【0030】
また、この状態から各ピストン4,5がリターンスプリング8の力を受けて後退すると、ブレーキ回路の作動液が給排孔10を通して各圧力室6,7内に戻される。そして、このとき各圧力室6内の圧力が一時的にリザーバ2の内圧よりも低くなると、前述のようにシールリング15の外周壁が撓み、導通溝18を通って各圧力室6内での不足分の作動液がリザーバ2から補給される。
なお、この実施形態の場合、シリンダ本体3の連通孔13a,13b,環状溝14および戻し孔17がこの発明における補給通路を構成している。また、本明細書において、給排孔10は圧力室6の一部を成すものとする。
【0031】
ところで、シリンダ本体3のボス部11aよりも若干前方側の外側側面には、図1〜図3に示すように弁収容ブロック30が一体に形成されている。この弁収容ブロック30はシリンダ本体3の側方から膨出し、鉛直下方(車体組付け状態における鉛直下方)に向かって略円柱状に延出している。弁収容ブロック30には、図3に示すように、弁収容ブロック30(シリンダ本体3)に一体に形成された底面と、その底面を取り囲む側壁とを備え、かつ下方に向かって開口する断面略円形状の凹部31が形成されている。その凹部31の開口端は蓋部材32によって閉塞され、凹部31と蓋部材32の間には弁室33が形成されている。この弁室33内には後述する逆止弁34が配置されている。また、弁室33は、シリンダ本体3の側部から鉛直下方に延出するように設けられ、全体がリザーバ2よりも下方側に位置されている。
【0032】
弁室33の上部(凹部31の底面)には、弁室33から斜め上方側に延出して弁室33と接続凹部20a(リザーバ2)とを接続するリザーバ通路35(上流側の通路)が形成され、弁室33の側壁には、弁室33とシリンダ本体3内の圧力室6とを接続する圧力室通路36(下流側の通路)が形成されている。
なお、ここで説明したリザーバ通路35,弁室33,圧力室通路36は、前述した補給通路(連通孔13,環状溝14及び戻し孔17)をバイパスしてリザーバ2と圧力室6を連通するバイパス通路37を構成している。
また、この実施形態においては、圧力室通路36を直接圧力室6と接続しているが、圧力室6の一部をなす給排孔10に圧力室通路36を接続しても良い。
【0033】
逆止弁34は、図4に拡大して示すように、一端が開口した有底円筒状のバルブケース38と、バルブケース38の開口側を閉塞する蓋部材32(蓋体)によってカートリッジ39が形成され、そのカートリッジ39の内部に、弁座40に離着座する弁体41と、弁体41を弁座40方向に付勢する付勢スプリング42(付勢手段)とが収容されている。なお、カートリッジ39を構成する蓋部材32は、図3に示すように、カートリッジ39が凹部31に装着された状態において、凹部31の開口を閉塞する蓋としても機能する。
【0034】
カートリッジ39を構成するバルブケース38は、図4に示すように、軸心部に上下に貫通する弁孔43(軸方向孔)を備えた頭部壁44と、頭部壁44から下方に延出する筒状壁45と、を備え、筒状壁45の内周側の空間に臨む頭部壁44の裏面が弁座40とされている。頭部壁44の上面側の中央には略円形状の凹部46が形成され、その凹部46には、有底円筒状のリザーバ側フィルタ部材47が嵌合固定されている。また、筒状壁45の上端部には、筒状壁45を径方向に貫通する複数の径方向孔48…が形成され、筒状壁45の外周面には、径方向孔48…の開口を覆うように略円筒状の圧力室側フィルタ部材49が取り付けられている。したがって、弁室内33において上流側に配置されるリザーバ側フィルタ部材47と、下流側に配置される圧力室側フィルタ部材49は、いずれもバルブケース38の外側領域に配置されている。
【0035】
また、頭部壁44の径方向孔48…よりも上方側の外周面には環状溝50が形成され、その環状溝50に、弁室33の内周面に密接してカートリッジ39と弁室33の間をシールするOリング51(環状シール部材)が取り付けられている。このOリング51は、図3に示すように、カートリッジ39を弁室33に装着したときにリザーバ通路35と圧力室通路36の間に位置され、弁室33内をリザーバ側空間と圧力室側空間とに画成するようになっている。また、Oリング51は、カートリッジ39を弁室33に組み付ける前の段階では、環状溝50に装着した状態において、バルブケース38の外周面から外側に所定量膨出しており、その外径は、バルブケース38に嵌合される圧力室側フィルタ部材47の内径よりも大きくなっている。
【0036】
リザーバ側フィルタ部材47は、図5,図6に示すように、有底円筒状のフレーム材52の周壁と頂部壁に窓52a…が形成され、その各窓52a…がフィルタ本体部であるメッシュ材53によって覆われている。また、フレーム材52の下端には、厚肉の環状部52bが設けられ、その環状部52bがバルブケース38側の凹部46に密着状態で嵌合されるようになっている。したがって、厚肉の環状部52bによってバルブケース38の凹部46に嵌合されたリザーバ側フィルタ部材47は、その嵌合部よりも上方側において、バルブケース38の凹部46の壁によって所定隙間をもって周囲を囲まれている。このため、作動液はリザーバ側フィルタ部材47の端面ばかりでなく周囲にも回り込み、作動液が通過する際の流通抵抗は小さく抑えられる。
【0037】
また、圧力室側フィルタ部材49は、図7,図8に示すように、円筒状のフレーム材54の周壁に複数の窓54a…が形成され、その各窓54a…がメッシュ材53によって覆われている。そして、フレーム材54の上端部と下端部には、図8に拡大して示すようにそれぞれ付根部に環状の窪み部54bを有する薄肉の環状リップ54c(リップ部)が一体に設けられている。この環状リップ54cは、先端側が径方向外側に開くテーパ状に形成され、軸方向から荷重を受けたときに周域全体が弾性変形するようになっている。圧力室側フィルタ部材49は、図3に示すように、カートリッジ39が弁室33内に装着された状態において、上方側の環状リップ54cが弁室33内の圧力室通路36よりも上方側の環状段部55に当接するとともに、下方側の環状リップ54cが蓋部材32の端面32aに当接するようになっている。
【0038】
ところで、カートリッジ39が弁室33内に装着される際には、部品の製造誤差や組み付け誤差等によって、環状段部55と蓋部材32の端面32aの間の軸方向の離間幅にばらつきが生じることがあるが、この圧力室側フィルタ部材49にあっては、上記の環状リップ54c,54cを介して環状段部55と端面32aに当接するため、図9(A),(B)に示すように離間幅にばらつきがあっても、環状リップ54c,54cの弾性変形によって当接隙間を最小限(リザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49の目の粗さ以下の隙間幅)に抑えることができる。
【0039】
カートリッジ39を構成する蓋部材32は、図10(A),(B)に示すように、全体がほぼ有底円筒状に形成され、底壁56から延出する周壁57がバルブケース38の筒状壁45の下端外周に嵌合されるようになっている。周壁57の外周面には環状溝58が形成され、その環状溝58に弁室33との間をシールするOリング59(シール部材)が装着されている。
なお、バルブケース38の筒状壁45の下端外周には、図4に示すように、断面の小さいOリング25(環状弾性部材)が装着されている。このOリング25は、蓋部材32をバルブケース38に嵌合したときに、弾性変形を伴って両者に密着し、それによって蓋部材32とバルブケース38を仮固定するようになっている。このOリング25による蓋部材32とバルブケース38の係合力は、カートリッジ39を搬送したり、弁収容ブロック30に組付けたりするときにカートリッジ39が分解しない程度のものとなっている。また、蓋部材32の底壁56の外周は八角形状の係止部56aとされ、その係止部56aが弁室33の凹部31に形成された円形状の係止溝31a(図3参照)に挿入されるようになっている。
【0040】
また、カートリッジ39に収容される弁体41は、バルブケース38の筒状壁45の内側で昇降作動するリフト弁であり、図4に拡大して示すように、バルブケース38の弁座40に離着座する弁部60と、弁部60の下方に延設された略円筒状の脚部61(摺動部)と、を有し、脚部61の外周面がバルブケース38の筒状壁45の内周面45a(ガイド部)に摺動自在に案内されるようになっている。
【0041】
弁部60は、脚部61と一体に形成されるアルミニウム合金製の弁部本体62と、弁部本体62に取り付けられるゴム製の弁シート63と、から成り、弁部本体62は、弁部60の軸心に沿って突出する支軸62aの先端にフランジ部62bが形成され、支軸62aとフランジ部62bに円環状の弁シート63が嵌着固定されている。弁シート63の端部は、フランジ部62bよりも上方側に円環状に突出し、弁体61が上方変位したときに弁孔43の周域の弁座40に弾接するようになっている。ただし、弁シート63が所定以上の荷重で弁座40に圧接されると、弁シート63の弾性変形に伴って金属製のフランジ部62bが弁座40に直接当接するようになる。
【0042】
脚部61は、上下端の外周にそれぞれフランジ部64,64が形成され、これらのフランジ部64がバルブケース38の筒状壁45にガイドされるが、図11に示すように、両フランジ部64,64を含む脚部61の摺動方向の長さLは、脚部61の最大直径Dよりも長くなるように設定されている。また、バルブケース38の筒状壁45の摺動方向の長さは、脚部61の摺動方向長さLよりも長く設定されており、弁体41の昇降作動時に、脚部61の摺動部が常に一定の長さ範囲でバルブケース38に摺接するようになっている。なお、脚部61の上下のフランジ部64には作動液の流通を許容するための複数の溝65(通路)が形成されている。
【0043】
ところで、バルブケース38に装着される前述のリザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49の目の粗さは、弁体41の脚部61(摺動部)とバルブケース38の筒状壁45(ガイド部)の間の摺動隙間dよりも小さくなるように設定されている。具体的には、摺動隙間dは、車両走行中の振動により弁体41が傾くと、圧力室6への液圧負荷時に弁部本位62と弁座40とが直接当接する、いわゆるメタルシールができずに隙間ができてしまい、この隙間に弁シート63が入り込んで損傷するおそれがあるため、このような弁体41の傾きが発生しないように、数値的には140ミクロンとしており、これに対してフィルタ部材49の目の粗さは120ミクロンから140ミクロン未満としている。したがって、これにより、摺動隙間dよりも外径の大きい異物cは、リザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49によって確実に捕獲されるようになり、異物cがフィルタ部材47,49を通過することがあっても、その異物cは弁体41とバルブケース38の摺動隙間dよりも小さくこの摺動隙間dに噛み込むことがなくなる。
【0044】
付勢スプリング42は、図4に示すように、脚部61に囲まれる弁部本体62の裏面と蓋部材32の底壁56の間に介装されている。この実施形態の場合、付勢スプリング42は、弁体41とともにバルブケース38の脚部61の内側に挿入され、その状態でバルブケース38に蓋部材32が嵌合されることにより、弁部本体62の裏面と蓋部材32の底壁56の間に圧縮状態で介装される。
また、図3に示すように、弁室33の凹部31のうちの開口寄りの内周面には雌ねじ66が設けられ、凹部31内にカートリッジ39を嵌入した後に、雌ねじ66にナット67が螺合されることによってカートリッジ39の蓋部材32が弁収容ブロック30に締め付け固定されるようになっている。
【0045】
以上の構成において、車両の走行中にトラクションコントロールが作動してブレーキ回路内の制御ポンプがマスタシリンダ1側から作動液を吸い上げ、マスタシリンダ1内の第1圧力室6の圧力がリザーバ2内の圧力よりも設定圧以上に低下すると、弁収容ブロック30内の逆止弁34の弁体41が付勢スプリング42の力に抗して鉛直下方に変位し、このとき弁部60が弁座40から離間することによってバイパス通路37の圧力室通路36とリザーバ通路35を連通させる。これにより、リザーバ2内の作動液がリザーバ通路35、弁孔43、径方向孔48、圧力室通路36を順次通って圧力室6内に補給されるようになる。したがって、これにより充分な量の作動液が圧力室6から制御ポンプに迅速に供給されるようになり、所望のトラクションコントロールが安定して得られるようになるとともに、マスタシリンダ1内での負圧の発生も防止される。
【0046】
このマスタシリンダ1は、バルブケース38の上部と外周面にそれぞれリザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49が取り付けられ、リザーバ通路35や圧力室通路36を通して逆止弁34内に侵入しようとする大型の異物cを両フィルタ部材47,49によって確実に捕獲することができるため、逆止弁34の弁体41とバルブケース38の摺動隙間に異物cが噛むことを未然に防止することができる。特に、このマスタシリンダ1では、各フィルタ部材47,49の目の粗さが、弁体41とバルブケース38の摺動隙間dよりも小さくなるように設定されているため、異物cがフィルタ部材47,49を通過することがあっても、その異物cが弁体41の作動を阻害することはない。したがって、このマスタシリンダ1においては、逆止弁34の円滑な作動を長期に亙って保障することができる。
【0047】
また、この実施形態のマスタシリンダ1の場合、逆止弁34の弁体41が摺動方向に離間した2つのフランジ部64を備えた構造とされているため、バルブケース38と弁体41の軸方向の中間領域の間に異物cがより噛み込みにくくなる。また、各フランジ部64には複数の溝65…が形成されているため、フランジ部64での異物の噛み込みをも少なくすることができる。したがって、これらにより逆止弁34の円滑な作動をさらに保障することができる。
【0048】
さらに、この実施形態のマスタシリンダ1は、リザーバ側フィルタ部材47と圧力室側フィルタ部材49が逆止弁34とともに弁室33内に収容された構造とされているため、両フィルタ部材47,49の組込みが容易になるという利点がある。
【0049】
また、このマスタシリンダ1においては、バルブケース38と蓋部材32の間に介装したOリング25によって両者を固定してカートリッジ39を構成するようになっているため、極めて簡単な構造でありながら、弁体41や付勢スプリング42を内部に収容した状態において、カートリッジ39を弁室33の凹部46に装填し、凹部46にナット67を締め込むによってカートリッジ39を凹部46に確実に固定することができる。
さらにこの実施形態の場合、バルブケース38の軸方向の一端側外周に蓋部材32が配置され、バルブケース38の他端側外周に、圧力室側フィルタ部材49の内径よりも外径の大きいOリング51が装着されているため、カートリッジ39を弁室33に組み込む前段階において、圧力室側フィルタ部材49をカートリッジ39の外周に確実に仮止めしておくことができる。すなわち、カートリッジ39に嵌合されたOリング51は蓋部材32とOリング51の間に配置されるため、これらの蓋部材32とOリング51によって確実に脱落を防止される。
【0050】
そして、このマスタシリンダ1にあっては、カートリッジ39を構成する蓋部材32が弁室33の凹部31の蓋を兼ねるため、部品点数を削減できるという利点がある。
また、この実施形態においては、蓋部材32が固定のために回転するナット67と別体で構成されており、ナット67による締め込みによって蓋部材32が押圧固定されるようになっているため、カートリッジ39と凹部46の間に介装されるOリング59が固定時に捻られることがなく、安定したシール性能を確実に得ることができる。
ただし、図12に示す第2の実施形態のように、蓋部材132の外周に雄ねじ69を設け、蓋部材132を弁室の凹部に直接ねじ込むようにしても良い。この場合には、さらなる部品点数の削減が可能になる。
【0051】
また、このマスタシリンダ1にあっては、弁体41の脚部61の摺動を案内する筒状壁45と弁座40が一体のバルブケース38に設けられているため、弁座40に対する弁体40の着座精度を高めることができる。加えて、弁体41の脚部61の摺動長さが脚部61の直径よりも長く設定されているため、弁体41の作動時における姿勢をより安定させることができる。
この実施形態の場合、バルブケース38の筒状壁45の摺動部長さが、弁体41の脚部61の摺動部長さと弁体41の昇降ストロークを加えた長さよりも長く設定されている。このため、弁体41は摺動部で引っ掛かることがなく常時安定して昇降作動する。したがって、このマスタシリンダ1においては、弁座40に対する弁体41の着座姿勢を常時安定させ、弁座40に対する弁シート63の片当たりを防止することができる。
【0052】
さらに、このマスタシリンダ1においては、弁体41の弁部60が金属製の弁部本体62と、ゴム製の弁シート63とから構成されているため、弁シート63が弁座40に密接することによって確実に液密状態での閉弁することができるうえ、弁体41が圧力室6からの高圧を受けることによって弁シート63が弁座40に押し付けられたときには、弁部本体62が直接弁座40に当接することによって、圧力室6とリザーバ2(大気圧)との境界部に、弁シート63が入り込んで損傷するような隙間が形成されなくなり、弁シート63の保護と液密性の維持を図ることができる。
【0053】
さらに、このマスタシリンダ1においては、弁体41が重力方向に移動するように逆止弁34が弁収容ブロック30内に配置されているため、圧力室6側から弁室33内側に流入したエアを弁体41の作動とともに外部に排出することができる。特に、この実施形態の場合、リザーバ2が弁室33の上方側に配置され、弁室33の上端部とリザーバ2が上方傾斜したリザーバ通路35によって接続されているため、弁室33内に流入したエアを効率良くリザーバ2に排出することができる。
【0054】
なお、以上で説明した実施形態では、リザーバ側フィルタ部材47がバルブケース38の上面の凹部46に嵌合されているが、リザーバ側フィルタ部材47は、図13に示す第3の実施形態のように弁収容ブロック30の凹部31の底面に形成した嵌合穴75に嵌着固定するようにしても良い。
【0055】
次に、図14,図15に示すこの発明の第4の実施形態について説明する。
この実施形態は、基本的な構成は第1の実施形態とほぼ同様であるが、弁室33の凹部31に収容される逆止弁234の構成が主に異なっている。
具体的には、逆止弁234の構成のうちでも、バルブケース38と蓋部材32によってカートリッジ39が形成されている点や、カートリッジ39内に弁体241と付勢スプリング42が収容される点等は同様であるが、弁体241と、弁体241のガイド部と、リザーバ側フィルタ部材47の取付部の構成が大きく異なっている。
【0056】
すなわち、弁体241は、金属製の弁部本体62とゴム製の弁シート63から成る弁部60に断面略十字状のガイド軸70が突設され、このガイド軸70が、バルブケース38の頭部壁44のうちの、弁孔を兼ねるガイド孔71に摺動自在に嵌入されている。この実施形態の場合、弁体241はガイド軸70部分がガイド孔71に案内されて昇降作動するが、ガイド軸70の軸長は、少なくともガイド孔71の軸長と、弁体241のストローク量を加算したものよりも大きくなるように設定されている。これにより、弁体241は常に一定の摺動方向長さをもって安定して案内されることになる。
【0057】
また、この実施形態においては、弁体241のガイド軸71がバルブケース38のガイド孔71から上方に突出するが、バルブケース38の上面には比較的浅い凹部46が形成され、その凹部46にリザーバ側フィルタ部材47が嵌合固定されている。弁体241のガイド軸71はリザーバ側フィルタ部材47の内側に突出する。したがって、この実施形態の場合、バルブケース38の軸長を短くすることができる。そして、この実施形態においては、バルブケース38の凹部46が浅い分リザーバ側フィルタ部材47がバルブケース38の上面側から大きく突出することになるが、弁収容ブロック30の凹部31の底面には、突出したリザーバ側フィルタ部材47を受容するための凹部77が形成されている。リザーバ側フィルタ部材47の頂部と外周面は、凹部77に対して所定の隙間が保たれている。
【0058】
この実施形態は、弁体241と、そのガイド部の構成等が若干異なるものの、第1の実施形態とほぼ同様の作用と効果を得ることができる。ただし、この実施形態では、ガイド軸71がリザーバ側フィルタ部材47の内側に突出する構造であることから、カートリッジ39を小型化できるという利点がある。
【0059】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の各実施形態においては、いずれも弁室内にフィルタ部材を配置しているが、図16に示すこの発明の第5の実施形態のように、リザーバ側フィルタ部材47を、リザーバ通路35の接続凹部20aに臨む位置に設置することも可能である。また、上記の各実施形態はタンデム型のマスタシリンダについて説明したが、ピストンが単一であるシングル型のマスタシリンダであっても良い。
【0060】
上述した各実施形態の構成と作用効果をまとめると以下のようになる。
【0061】
(1)上記各実施形態によれば、リザーバから作動液が導入され内部に圧力室を有するシリンダ本体と、前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、前記シリンダ本体内に摺動自在に嵌合されて前記圧力室を画成するとともに摺動位置に応じて前記補給通路を連通、遮断するピストンと、前記補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通し、前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁して作動液を前記リザーバから前記圧力室へ流通させる逆止弁を有するバイパス通路と、を備えたマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路の前記逆止弁の上流側および下流側に、前記逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられているので、これらのフィルタによって逆止弁の作動を阻害する異物の侵入を規制し、逆止弁の円滑な作動を保障することができる。
【0062】
(2)上記各実施形態によれば、前記逆止弁は、弁体が付勢手段により弁座に向けて付勢されるリフト弁であり、前記弁体は前記弁座に離着座する弁部と摺動部とを有し、前記バイパス通路内には、前記摺動部を摺動可能に案内するガイド部が設けられ、前記フィルタの目は、前記摺動部と前記ガイド部の間の摺動隙間よりも小さく設定されているため、フィルタを通過した異物が逆止弁の摺動部に噛み込むのを確実に防止することができる。
【0063】
(3)上記第1,2,3,5の実施形態によれば、弁体の摺動部は、摺動方向に離間した2つのフランジ部を備えてなるので、弁体の軸方向の中間領域とガイド部との間に異物がより噛み込みにくくなり、逆止弁の作動不良の可能性をより少なくすることが可能になる。
【0064】
(4)上記第1,2,3,5の実施形態によれば、前記フランジ部に作動液の流通を許容する通路が設けられているため、フランジ部における異物の噛み込みをより少なくすることができる。
【0065】
(5)上記各実施形態によれば、弁体の弁部が、摺動部と一体の弁部本体と、弁座に離接するゴム製の弁シートを有する構成とされているため、弁座にゴム製の弁シートで密着することによって確実に閉弁状態を維持することができる。
【0066】
(6)上記各実施形態によれば、弁シートは、所定以上の圧力で前記弁座に押圧されたときに前記弁体の摺動方向に圧縮され、前記弁体の弁部本体は、このとき前記弁座に当接するため、圧力室とリザーバとの境界部に隙間がなくなるので、弁シートが隙間に入り込んで損傷するような恐れがなく、弁シートの性能を長期に亙って維持することができる。
【0067】
(7)上記各実施形態によれば、内部の圧力室で発生する加圧された作動液を外部に供給するシリンダ本体と、該シリンダ本体に形成されてリザーバに貯留されている作動液を前記圧力室に補給する補給通路と、該補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路に介装されて前記リザーバから前記圧力室へのみ作動液の供給を許す逆止弁と、を備えたマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室と、該弁室と前記リザーバを連通するリザーバ通路と、前記弁室と前記圧力室を連通する圧力室通路とを有し、前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された凹部と、該凹部を閉塞する蓋部材とにより構成され、さらに、前記リザーバと逆止弁との間および前記圧力室と逆止弁との間に、該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられているので、これらのフィルタによって逆止弁の作動を阻害する異物の侵入を規制し、逆止弁の円滑な作動を保障することができる。
【0068】
(8)上記各実施形態によれば、逆止弁は、弁座が前記弁座に離着座するリフト弁であり、前記弁室内には前記弁体の摺動部を摺動可能に案内するガイド部が設けられ、前記フィルタの目は、前記摺動部と前記ガイド部の間の摺動隙間よりも小さく設定されているので、フィルタを通過した異物が逆止弁の摺動部に噛み込むのを確実に防止することができる。
【0069】
(9)上記第1,2,3,5の実施形態によれば、逆止弁を構成する弁体が摺動方向に離間した2つのフランジ部を備えているため、弁体の軸方向の中間領域とガイド部との間に異物がより噛み込みにくくなり、逆止弁の作動不良の可能性をより少なくすることが可能になる。
【0070】
(10)上記各実施形態によれば、弁体の弁部本体には、前記弁座に離接するゴム製の弁シートが設けられ、前記弁体は付勢手段により前記弁座に向けて付勢されているため、弁座にゴム製の弁シートで密着することによって確実に閉弁状態を維持することができる。
【0071】
(11)上記第1〜4の実施形態によれば、前記凹部は、前記シリンダ本体に一体に形成された底面と該底面を取り囲む側壁とを備えてなり、前記フィルタは、前記弁室内に収容されてなるため、フィルタの組込みが容易になるという利点がある。
【0072】
(12)上記第1,2,4の実施形態によれば、リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、該シリンダ本体内に摺動自在に嵌合されて該シリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、該補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、を備えたマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室を有し、該弁室を前記リザーバおよび前記圧力室に連通し、前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された凹部と、該凹部を閉塞する蓋部材とにより構成され、さらに、前記弁室に弁座を有するバルブケースが配置され、該バルブケース内に前記逆止弁の弁体が前記弁座に離着座可能に収容され、該バルブケースには、前記逆止弁の上流側および下流側から該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられているので、これらのフィルタによって逆止弁の作動を阻害する異物の侵入を規制し、逆止弁の円滑な作動を保障することができる。
【0073】
(13)上記第1,2,4の実施形態によれば、前記逆止弁は、弁体が付勢手段により前記弁座に向けて付勢され、その弁体が前記弁座に離着座するリフト弁であり、前記バルブケース内には、前記弁体の摺動部を摺動可能に案内するガイド部が設けられ、前記フィルタの目は、前記摺動部と前記ガイド部の間の摺動隙間よりも小さく設定されているため、フィルタを通過した異物が逆止弁の摺動部に噛み込むのを確実に防止することができる。
【0074】
(14)上記第1,2,4の実施形態によれば、バルブケースの外周に蓋部材が嵌合され、バルブケースと蓋部材で形成される空間に逆止弁の弁体が収容されるとともに、蓋部材の外周が弁室の内周にシール状態で嵌合されるため、逆止弁の弁体を収容するカートリッジの蓋部材を利用して弁室を密閉状態で閉塞することができる。
【0075】
(17)上記各実施形態によれば、バルブケースの外側を覆う筒状のフィルタの軸方向の両端に環状のリップ部が設けられ、該リップ部が蓋部材とシタリンダ本体の間をシールするようになっているため、フィルタ収納部とフィルタの間に軸方向の寸法のばらつきがあっても、そのばらつきをリップ部の弾性によって吸収することができる。
【0076】
(18)上記各実施形態によれば、バルブケースの軸方向の一端側にフィルタが当接する蓋部材が設けられ、他端側にフィルタの内径よりも外径が大きい環状シール部材が設けられているため、逆止弁を弁室に組み付ける前の状態において、フィルタを蓋部材と環状シールの間で保持させることができ、それにより、組み付け作業効率を高めることができる。
【0077】
(19)上記第1,2,4の実施形態によれば、他方のフィルタが有底円筒状に形成され、開口側の端部がバルブケースに固着されるため、広い面積でもって異物の捕獲を行うことができ、それにより作動液の吸入抵抗の低減を図ることができる。
【0078】
(20)第1,2の実施形態によれば、他方のフィルタの周囲がバルブケースに隙間をもって囲まれているため、作動液の吸入抵抗の低減と、フィルタ占有スペースの狭小化を図ることができる。
【符号の説明】
【0079】
1…マスタシリンダ
2…リザーバ
3…シリンダ本体
4…プライマリピストン(ピストン)
6…圧力室
13a…連通孔(補給通路)
14…環状溝(補給通路)
17…戻し孔(補給通路)
31…凹部
32,132…蓋部材(蓋体)
33…弁室
34,234…逆止弁
35…リザーバ通路
36…圧力室通路
37…バイパス通路
38,338…バルブケース
39,339…カートリッジ
40…弁座
41,241…弁体
42…付勢スプリング(付勢手段)
45a…内周面(ガイド部)
47…リザーバ側フィルタ部材
49…圧力室側フィルタ部材
51…Oリング(環状シール部材)
54c…環状リップ(リップ部)
60…弁部
61…脚部(摺動部)
62…弁部本体
63…弁シート
64…フランジ部
65…溝(通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバから作動液が導入され内部に圧力室を有するシリンダ本体と、前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、前記シリンダ本体内に摺動自在に嵌合されて前記圧力室を画成するとともに摺動位置に応じて前記補給通路を連通、遮断するピストンと、前記補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通し、前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁して作動液を前記リザーバから前記圧力室へ流通させる逆止弁を有するバイパス通路と、を備えたマスタシリンダにおいて、
前記バイパス通路の前記逆止弁の上流側および下流側に、前記逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室と、該弁室と前記リザーバを連通するリザーバ通路と、前記弁室と前記圧力室を連通する圧力室通路とを有し、前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された凹部と、該凹部を閉塞する蓋部材とにより構成され、さらに、前記リザーバと逆止弁との間および前記圧力室と逆止弁との間に、該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記弁室には、弁座を有するバルブケースが配置され、該バルブケース内に前記逆止弁の弁体が前記弁座に離着座可能に収容され、該バルブケースには、前記逆止弁の上流側および下流側から該逆止弁への異物の侵入を防止するフィルタがそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項2に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記逆止弁は、弁体が付勢手段により弁座に向けて付勢されるリフト弁であり、前記弁体は前記弁座に離着座する弁部と摺動部とを有し、前記バイパス通路内には、前記摺動部を摺動可能に案内するガイド部が設けられ、前記フィルタの目は、前記摺動部と前記ガイド部の間の摺動隙間よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
前記弁体の摺動部は、摺動方向に離間した2つのフランジ部を備え、前記フランジ部には作動液の流通を許す通路が設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載のマスタシリンダ。
【請求項6】
前記弁体の弁部は、前記摺動部と一体の弁部本体と、これに取り付けられて前記弁座に離接するゴム製の弁シートを有し、該弁シートは、所定以上の圧力で前記弁座に押圧されたときに前記弁体の摺動方向に圧縮され、前記弁体の弁部本体は、このとき前記弁座に当接することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載のマスタシリンダ。
【請求項7】
前記弁室の前記凹部は、前記シリンダ本体に一体に形成された底面と該底面を取り囲む側壁とを備えてなり、前記フィルタは、前記弁室内に収容されてなることを特徴とする請求項2または3に記載のマスタシリンダ。
【請求項8】
前記バルブケースの外周が前記蓋部材の内周に嵌合され、前記バルブケースの内側と前記蓋部材で形成される空間に前記逆止弁の弁体が収容され、前記蓋部材の外周が前記弁室の内周にシール状態で嵌合されていることを特徴とする請求項3に記載のマスタシリンダ。
【請求項9】
前記2つのフィルタは前記バルブケースの外側領域に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のマスタシリンダ。
【請求項10】
前記2つのフィルタのうちの一方のフィルタは筒状に形成され、前記バルブケースの外側を覆うように前記蓋部材とシリンダ本体の間に配置されていることを特徴とする請求項3、8、9のいずれかに記載のマスタシリンダ。
【請求項11】
前記一方のフィルタの軸方向の両端には環状のリップ部が設けられ、該リップ部が前記蓋部材と前記シリンダ本体の間をシールすることを特徴とする請求項10に記載のマスタシリンダ。
【請求項12】
前記バルブケースの軸方向の一端側に前記一方のフィルタが当接する前記蓋部材が設けられ、前記バルブケースの軸方向の他端側に前記一方のフィルタの内径よりも外径が大きい環状シール部材が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のマスタシリンダ。
【請求項13】
前記2つのフィルタのうちの他方のフィルタは有底円筒状に形成され、開口側の端部が前記バルブケースに固着されていることを特徴とする請求項3、8乃至12のいずれかに記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−207480(P2011−207480A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125735(P2011−125735)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【分割の表示】特願2007−200185(P2007−200185)の分割
【原出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】