説明

マスターバッチペレット及びプロピレン樹脂組成物成形体の製造方法

【課題】曲げ弾性率、曲げ強度及び引張降伏点強度が高く、かつ熱安定性に優れたプロピレン樹脂組成物成形体を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムとを質量比で80:20〜20:80の範囲の量にて含み、さらにプロピレン重合体の造核剤をオレフィン重合体100質量部に対して0.3〜8質量部の範囲の量で、かつ繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.2〜4質量部の範囲の量にて含むプロピレン樹脂組成物成形体製造用のマスターバッチペレットと、プロピレン重合体と混合し、溶融混練した後、成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン樹脂組成物成形体の製造に有利に用いることができるマスターバッチペレットに関する。本発明はまた、上記のマスターバッチペレットを用いたプロピレン樹脂組成物成形体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体は熱可塑性であり、加熱して溶融させることによって種々の形状に成形することが可能であることから、冷蔵庫や洗濯機などの家庭電化製品の外装材、トレー、棚板、包装シートなどの各種成形体の材料として広く利用されている。プロピレン重合体からなる成形体の剛性や衝撃強度などの物性を向上させるために、プロピレン重合体に無機充填材、造核剤、エラストマーなどを添加することは広く行われている。無機充填材としては、繊維状塩基性硫酸マグネシウムなどの繊維状無機充填材、タルクなどの非繊維状無機充填材が用いられている。
【0003】
特許文献1には、結晶性プロピレン重合体と特定のゴムとタルクと繊維状塩基性硫酸マグネシウム(繊維状マグネシウムオキシサルフェート)と造核剤とを含むプロピレン樹脂組成物成形体が記載されている。この特許文献1の表3に記載されている、実施例2(結晶性プロピレン重合体とゴムとタルクと繊維状塩基性硫酸マグネシウムと造核剤とを含む成形体)、比較例2(結晶性プロピレン重合体とゴムとタルクとを含む成形体)、比較例3(結晶性プロピレン重合体とゴムとタルクと繊維状塩基性硫酸マグネシウムとを含む成形体)の曲げ弾性率を比較すると、実施例2が最も高く、次に比較例3が高く、比較例2が最も低い値を示す。なお、特許文献1には、上記プロピレン樹脂組成物成形体の製造方法として、各材料をドライブレンドした後に射出成形する方法やそれらの材料を予め溶融混練した物を射出成形する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−134321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、繊維状塩基性硫酸マグネシウムと造核剤とを含むプロピレン樹脂組成物成形体は、これらを含まない成形体と比較して、高い曲げ弾性率を示す。しかしながら、プロピレン樹脂組成物成形体の用途によってはさらに曲げ弾性率を向上させることが必要となることがある。また、プロピレン樹脂組成物成形体の用途によっては曲げ弾性率以外の物性が重要とされることがある。例えば、家庭用電気機器の外装材やトレーや棚板に用いるプロピレン樹脂組成物成形体では成形体の上に物を乗せても、破損しないように曲げ強度が高いことや、熱による変形が起こりにくいことが要求される。さらに包装用シートなどの厚みが薄い成形体では引っ張られたときの形状変化が起こりにくいこと、すなわち引張降伏点強度が高いことが要求される。
従って、本発明の目的は、曲げ弾性率、曲げ強度及び引張降伏点強度が高く、かつ熱安定性に優れたプロピレン樹脂組成物成形体を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウム、そしてプロピレン重合体の造核剤を特定の割合で含むマスターバッチペレットと、別に用意したプロピレン重合体とを混合し、溶融混練した後、成形する方法により製造したプロピレン樹脂組成物成形体は、オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムと造核剤とプロピレン重合体との割合が上記成形体と同じ割合となるように混合し、溶融混練した後、成形する方法により製造したプロピレン樹脂組成物成形体と比較して、曲げ弾性率、曲げ強度及び引張降伏点強度が向上し、かつ熱変形温度が高くなることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
従って、本発明は、オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムとを質量比で80:20〜20:80の範囲の量にて含み、さらにプロピレン重合体の造核剤をオレフィン重合体100質量部に対して0.3〜8質量部の範囲の量で、かつ繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.2〜4質量部の範囲の量にて含む、プロピレン樹脂組成物成形体製造用のマスターバッチペレットにある。
【0008】
本発明のマスターバッチペレットの好ましい態様は、次の通りである。
(1)繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲の量にて、脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪族モノカルボン酸金属塩を含む。
(2)オレフィン重合体が、プロピレン重合体、エチレン重合体及びエチレン−プロピレン共重合体からなる群より選ばれるオレフィン重合体である。
(3)繊維状塩基性硫酸マグネシウムが、平均繊維太さが0.1〜1.0μmの範囲にあって、平均アスペクト比が5以上である。
(4)造核剤が、芳香族リン酸エステル、芳香族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、ロジン酸及びそれらの金属塩からなる群より選ばれる一種以上の化合物である。
(5)造核剤が、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸、安息香酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びそれらの金属塩からなる群より選ばれる一種以上の化合物である。
【0009】
本発明はさらに、上記本発明のマスターバッチペレット100質量部に対して、プロピレン重合体を100〜1000質量部の範囲となる量にて混合し、溶融混練した後、成形するプロピレン樹脂組成物成形体の製造方法にもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマスターバッチペレットを用いて製造したプロピレン樹脂組成物成形体は、後述の実施例の結果から明らかなように、該プロピレン樹脂組成物成形体と同じ組成となるように各材料を混合して溶融混練した後、成形する方法により得られたプロピレン樹脂組成物成形体と比較して、曲げ弾性率が大きく向上し、さらに曲げ強度、引張降伏点強度及び熱変形温度の各物性が向上する。従って、本発明のマスターバッチペレットを用いて製造したプロピレン樹脂組成物成形体は、家庭電化製品の外装材、トレー、棚板、包装シートなどの各種用途に有利に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマスターバッチペレットは、オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムとプロピレン重合体の造核剤とを含む。マスターバッチペレット中のオレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、質量比で80:20〜20:80の範囲の量、好ましくは50:50〜20:80の範囲の量、特に好ましくは40:60〜20:80の範囲の量である。プロピレン重合体の造核剤の含有量は、オレフィン重合体100質量部に対して0.3〜8質量部の範囲の量で、かつ繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.2〜4質量部の範囲の量である。
【0012】
オレフィン重合体は、ASTM−D1238(温度230℃、荷重2.16kg)に準拠した方法により測定されるメルトフローレート(MFR)が3〜300g/10分の範囲にあることが好ましい。オレフィン重合体の例としては、エチレン重合体、プロピレン重合体及びエチレン−プロピレン共重合体を挙げることができる。プロピレン重合体の例としては、本質的に結晶性のプロピレン単独重合体、及びプロピレン単位成分が50モル%以上である本質的に結晶性のプロピレン及び1−オレフィン単量体との共重合体を挙げることができる。これらの重合体はそれぞれを単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維太さが0.1〜1.0μmの範囲にあって、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維太さ)が5以上、特に5〜50の範囲にあることが好ましい。ここで繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長及び平均繊維太さは、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から測定した繊維長及び繊維太さの平均値を意味する。繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状粒子の集合体もしくは結合体であってもよい。
【0014】
プロピレン重合体の造核剤としては、芳香族リン酸エステル、芳香族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びロジン酸などの有機化合物、あるいはそれら有機化合物の金属塩を用いることが好ましい。これらの造核剤はそれぞれを単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
芳香族リン酸エステルの例としては、ビス(4−tert−ブチルフェニル)リン酸、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸及び2,2’−エチリデン(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸を挙げることができる。芳香族リン酸エステルの金属塩の例としては、上記芳香族リン酸エステルのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩及びマグネシウム塩を挙げることができる。
【0016】
芳香族カルボン酸の例としては、安息香酸、フタル酸及びヘキサヒドロフタル酸を挙げることができる。芳香族カルボン酸の金属塩の例としては、上記芳香族カルボン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩及びマグネシウム塩を挙げることができる。
【0017】
脂肪族ジカルボン酸の例としては、脂環式炭化水素の水素原子をカルボキシル基で置換した化合物を挙げることができる。脂環式炭化水素は、炭素原子数3〜8の範囲にあることが好ましい。脂環式炭化水素は、二以上の環を持っていてもよい。脂環式炭化水素は、環式飽和炭化水素であることが好ましい。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸の金属塩の例としては、上記脂肪族ジカルボン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩を挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸金属塩の好ましい例としては、下記一般式(I)で表される化合物及び(II)で表される化合物を挙げることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
式(I)において、M1及びM2はそれぞれ独立して、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛又は塩基性アルミニウムを意味し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数が1〜9のアルキル基を意味する。R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10において、隣接する基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0021】
【化2】

【0022】
式(II)において、M11及びM12はそれぞれ独立して、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、亜鉛又は塩基性アルミニウムを意味し、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数が1〜9のアルキル基を意味する。R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19及びR20において、隣接する基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0023】
上記式(I)で表される脂肪族ジカルボン酸金属塩の例としては、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸の金属塩、特にシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸カルシウムを挙げることができる。上記式(II)で表される脂肪族ジカルボン酸金属塩の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸の金属塩、特にビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸ナトリウムを挙げることができる。これらの脂肪族ジカルボン酸金属塩は、米国特許出願公開第2007/0080485号明細書に記載されている。
【0024】
ロジン酸の例としては、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ジヒドロピマル酸及びこれらの誘導体を挙げることができる。ロジン酸の金属塩の例としては、上記芳香族カルボン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、ベリリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩を挙げることができる。これらのロジン酸及びロジン酸金属塩は、特開平9−157437号公報に記載されている。
【0025】
上記造核剤の中で好ましいのは、芳香族リン酸エステル及び芳香族カルボン酸である。特に好ましいのは、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸、安息香酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びそれらの金属塩である。
【0026】
本発明のマスターバッチペレットは、滑材として一般に用いられている、脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪族モノカルボン酸金属塩を含んでいることが好ましい。
【0027】
脂肪族モノカルボン酸は、炭素原子数が12〜22の範囲にあることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸は飽和脂肪族モノカルボン酸であってもよいし、不飽和脂肪族モノカルボン酸であってもよい。飽和脂肪族モノカルボン酸の例としては、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸及びベヘン酸を挙げることができる。不飽和脂肪族モノカルボン酸の例としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸及びエルカ酸を挙げることができる。
【0028】
脂肪族モノカルボン酸金属塩は、上記脂肪族モノカルボン酸の金属塩であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸金属塩は、マグネシウム塩、カルシウム塩、リチウム塩及び亜鉛塩であることが好ましく、マグネシウム塩であることが特に好ましい。
【0029】
脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪族モノカルボン酸金属塩の含有量は、繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲にあることが好ましく、0.5〜5.0質量部の範囲にあることがより好ましい。
【0030】
本発明のマスターバッチペレットは円柱状であることが好ましく、そのサイズは直径が1〜5mmの範囲、長さが1〜5mmの範囲にあることが好ましい。ペレット50個の質量は、0.5〜5.0gの範囲にあることが好ましい。
【0031】
本発明のマスターバッチペレットは、例えば、上記の各材料をドライブレンドによって混合し、得られた混合物を溶融混練した後、ペレット状に成形することによって製造することができる。
【0032】
本発明のマスターバッチペレットは、プロピレン樹脂組成物成形体の製造に有利に用いることができる。
【0033】
本発明のマスターバッチペレットを用いてプロピレン樹脂組成物成形体を製造する方法としては、マスターバッチペレットとプロピレン重合体とを混合し、溶融混練した後、成形する方法を挙げることができる。
【0034】
マスターバッチペレットとプロピレン重合体との配合比は、マスターバッチペレット100質量部に対して、プロピレン重合体を100〜1000質量部の範囲となる割合であることが好ましい。
【0035】
プロピレン重合体は、ASTM−D1238(温度230℃、荷重2.16kg)に準拠した方法により測定されるメルトフローレート(MFR)が3〜300g/10分の範囲にあることが好ましい。プロピレン重合体は、粉末状、フレーク状及びペレット状のいずれの形態であってもよい。
【0036】
マスターバッチペレットとプロピレン重合体とを混合する際には、さらにタルクや炭酸カルシウムなどの無機充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、耐電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、気泡防止剤、架橋剤を加えてもよい。
【0037】
プロピレン樹脂組成物成形体を成形する方法には、射出成形法、押出し成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法、発泡成形法及び延伸成形法を用いることができる。
【0038】
プロピレン樹脂組成物成形体中の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの含有量は2〜15質量%の範囲にあることがより好ましい。また、プロピレン樹脂組成物成形体中の造核剤の含有量は、0.004〜0.6質量%の範囲にあることが好ましい。
【実施例】
【0039】
[実施例1〜4]
(1)マスターバッチペレットの製造
プロピレン重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):49.4g/10分]、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(平均繊維長:15μm、平均繊維太さ:0.5μm)、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムを、下記の表1に示す割合にてタンブラーに投入してドライブレンドした。得られた混合物を、二軸混練機に投入し、200℃の温度で溶融混練した後、直径3mmのストランド状に押出し、長さ3mmとなるように切断してマスターバッチペレットを製造した。
【0040】
表1
────────────────────────────────────────
2,2’−メチレン−ビス
繊維状塩基性 (4,6−ジ−tert−
プロピレン 硫酸マグネシ ブチルフェニル)リン酸 ステアリン酸
重合体 ウム ナトリウム マグネシウム
────────────────────────────────────────
実施例1 30.0 70.0 0.7 1.47
実施例2 40.0 60.0 0.6 1.26
実施例3 50.0 50.0 0.5 1.05
実施例4 70.0 30.0 0.3 0.63
────────────────────────────────────────
【0041】
(2)プロピレン樹脂組成物成形体の製造
上記(1)で得られたマスターバッチペレットとプロピレン重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):49.4g/10分]とを下記の表2に示す質量比にて混合した後、射出成形機に投入し、200℃の温度で射出成形して、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースを製造した。なお、各実施例で得られたプロピレン樹脂組成物成形体テストピースは、プロピレン重合体を90質量部、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを10質量部、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウムを0.1質量部、ステアリン酸マグネシウムを0.21質量部の割合で含有する。
【0042】
表2
────────────────────────────────────────
マスターバッチペレット プロピレン重合体
────────────────────────────────────────
実施例1 102.17 600
実施例2 101.86 500
実施例3 101.55 400
実施例4 100.93 200
────────────────────────────────────────
【0043】
(3)評価
得られたプロピレン樹脂組成物成形体テストピースの曲げ弾性率、曲げ強度、引張降伏点強度及び熱変形温度を下記の方法より測定した。その結果を下記の表3に示す。
【0044】
曲げ弾性率:ASTM−D790に準拠した方法により測定した。
【0045】
曲げ強度:ASTM−D790に準拠した方法により測定した。
【0046】
引張降伏点強度:ASTM−D638に準拠した方法により測定した。なお、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースの形状は、ASTM TYPE1の試験片と同じ形状とした。
【0047】
熱変形温度:ASTM−D648に準拠した方法により測定した。
【0048】
[比較例1]
プロピレン重合体を90質量部、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを10質量部、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウムを0.1質量部、ステアリン酸マグネシウムを0.21質量部の割合で、タンブラーに投入してドライブレンドした。得られた混合物を、射出成形機に投入して、200℃の温度で溶融混練した後、射出成形して、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースを製造した。得られたテストピースの曲げ弾性率、曲げ強度、引張降伏点強度及び熱変形温度を上記の方法により測定した。その結果を下記の表3に示す。
【0049】
表3
────────────────────────────────────────
曲げ弾性率 曲げ強度 引張降伏点強度 熱変形温度
(MPa) (MPa) (MPa) (℃)
────────────────────────────────────────
実施例1 3653 50.3 27.8 133.6
実施例2 3655 50.0 28.0 133.7
実施例3 3617 50.4 27.8 133.8
実施例4 3615 50.6 27.8 133.8
────────────────────────────────────────
比較例1 3178 49.6 27.3 131.2
────────────────────────────────────────
【0050】
上記表3の結果から明らかなように、繊維状塩基性硫酸マグネシウムと2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウムとを含むマスターバッチペレットを用いて製造したプロピレン樹脂組成物成形体(実施例1〜4)は、マスターバッチペレットを用いずに製造したプロピレン樹脂組成物成形体(比較例1)と比較して、同じ組成でありながらも曲げ弾性率が大きく向上し、さらに曲げ強度、引張降伏点強度及び熱変形温度の各物性も向上する。
【0051】
[実施例5]
実施例1の(1)マスターバッチペレットの製造において、プロピレン重合体、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムの配合割合を、30.0:70.0:2.1:1.47としたこと、(2)プロピレン樹脂組成物成形体の製造において、マスターバッチペレットとプロピレン重合体との混合比を質量比で103.57:600としたこと以外は実施例1と同様にして、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースを製造した。得られたテストピースは、曲げ弾性率が3839MPa、曲げ強度が49.6MPa、引張降伏点強度が27.5MPa、熱変形温度が134.8℃であった。
【0052】
[実施例6]
実施例1の(1)マスターバッチペレットの製造において、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウムの代わりに2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸を用いて、プロピレン重合体、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸、ステアリン酸マグネシウムの配合割合を、30.0:70.0:0.7:1.47としたこと以外は実施例1と同様にして、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースを製造した。得られたテストピースは、曲げ弾性率が3519MPa、曲げ強度が49.3MPa、引張降伏点強度が27.7MPa、熱変形温度が132.9℃であった。
【0053】
[実施例7]
実施例1の(1)マスターバッチペレットの製造において、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸ナトリウムの代わりにヘキサヒドロフタル酸を用いて、プロピレン重合体、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、ヘキサヒドロフタル酸、ステアリン酸マグネシウムの配合割合を、30.0:70.0:0.7:1.47としたこと以外は実施例1と同様にして、プロピレン樹脂組成物成形体テストピースを製造した。得られたテストピースは、曲げ弾性率が3435MPa、曲げ強度が49.1MPa、引張降伏点強度が27.8MPa、熱変形温度が131.4℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合体と繊維状塩基性硫酸マグネシウムとを質量比で80:20〜20:80の範囲の量にて含み、さらにプロピレン重合体の造核剤をオレフィン重合体100質量部に対して0.3〜8質量部の範囲の量で、かつ繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.2〜4質量部の範囲の量にて含む、プロピレン樹脂組成物成形体製造用のマスターバッチペレット。
【請求項2】
繊維状塩基性硫酸マグネシウム100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲の量にて、脂肪族モノカルボン酸もしくは脂肪族モノカルボン酸金属塩を含む請求項1に記載のマスターバッチペレット。
【請求項3】
オレフィン重合体が、プロピレン重合体、エチレン重合体及びエチレン−プロピレン共重合体からなる群より選ばれるオレフィン重合体である請求項1に記載のマスターバッチペレット。
【請求項4】
繊維状塩基性硫酸マグネシウムが、平均繊維太さが0.1〜1.0μmの範囲にあって、平均アスペクト比が5以上である請求項1に記載のマスターバッチペレット。
【請求項5】
造核剤が、芳香族リン酸エステル、芳香族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、ロジン酸及びそれらの金属塩からなる群より選ばれる一種以上の化合物である請求項1に記載のマスターバッチペレット。
【請求項6】
造核剤が、2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)リン酸、安息香酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びそれらの金属塩からなる群より選ばれる一種以上の化合物である請求項1に記載のマスターバッチペレット。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載のマスターバッチペレット100質量部に対して、プロピレン重合体を100〜1000質量部の範囲となる量にて混合し、溶融混練した後、成形するプロピレン樹脂組成物成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−153216(P2011−153216A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15540(P2010−15540)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】