説明

マットハードコート用転写シートおよびマットハードコート成形品の製造方法

【課題】マット感を有しかつ表面強度に優れた装飾を行うことに用いるマットハードコート用転写シートであって、転写後基体シートの剥離時に、基体シートとハードコート層間で確実に剥離されるハードコート転写シートを提供する。
【解決手段】基体シート11の一方表面上に少なくとも未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aを含む転写層16aが形成され、前記基体シートの他方表面に平均粒子径5〜25μmの樹脂微粒子を含むマット型12が形成されているマットハードコート用転写シート1である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
従来より、家電製品、化粧品容器、雑貨品などの表面を装飾する方法として、転写法がある。転写法とは、基体シート上に、剥離層、加飾層、接着層などからなる転写層を形成した転写シートを用い、加熱加圧して転写層を成形品に密着させた後、基体シートを剥離して、成形品面に転写層のみを転移して装飾を行う方法である。表面強度の高い装飾成形品を得るための転写シートとしては、剥離性を有する基体シート上に、電離放射線硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を形成し、さらにその上に加飾層、接着層などを形成したものがあった。
【0002】
さらに、表面強度が高く、表面が部分的にマット状の装飾成形品を得るための部分マットハードコート用転写シートとして、従来、基体シート上に硬化型樹脂からなる部分マット層を形成し、これを硬化させた後、電離放射線硬化性樹脂組成物からなるハードコート層を形成し、さらにその上に加飾層、接着層などを形成したものが提案されている。このような転写シートは、成形品に接着し、基体シートとともに部分マット層を剥離すると、部分マット層の表面が微細な凹凸を有するため、転写層に凹凸が写し取られ、マット形状を部分的に形成し、かつ、ハードコート層を形成することが期待される。
【0003】
また、従来、上記部分マット層として、基体シートと固着性の良い硬化型樹脂、たとえばアミノアルキッド系樹脂や尿素メラミン系樹脂に樹脂微粒子を分散させたものを用い、ハードコート層として特定のガラス転移温度帯である樹脂を用いた部分マットハードコート用転写シートが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
これらの転写シートは、部分的なマットハードコート層の形成のみならず、全面的なマットハードコート層の形成に使用することも期待される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−85299
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、部分マット層からハードコート層、場合により加飾層までを一連の印刷機で印刷するいわゆるインライン印刷の場合、部分マット層の印刷からハードコート層の印刷までの間に十分な乾燥時間を確保することができない。その結果、部分マット層を構成する前記樹脂が十分に硬化しないうちにハードコート層を重ねて形成せざるを得なくなり、部分マット層を構成する前記樹脂はハードコート層を構成する電離放射線硬化性樹脂と反応して部分マット層とハードコート層との固着性が高くなる。このため、成形品へ転写シートを接着した後に基体シートを剥離する際、部分マット層とハードコート層との間で剥離せず、ハードコート層が層内剥離を起こしたり、あるいは基体シートが剥がれずに破れたりして、部分マットハードコート成形品に外観不良が発生するという問題があった。
【0006】
特許文献1に記載された、特定の材料からなるハードコート層を有する部分マットハードコート用転写シートの場合には、上記した転写シートを接着した後に基体シートを剥離する際に生じる不具合はある程度改善されるが、それでも完全に不具合が克服されるものではなかった。
【0007】
また、マット層を印刷後、十分に加熱して乾燥させ、マット層を十分に硬化させてから再び印刷機に取り付けてハードコート層以降を印刷するいわゆるオフライン印刷の場合には、部分マット層の硬化が十分に進むことによって部分マット層を構成する樹脂中の反応基が無くなるため、ハードコート層を構成する電離放射線硬化性樹脂と反応せず、部分マット層とハードコート層との固着性は低くなるが、次の問題がある。すなわち、部分マット層の印刷とハードコート層以降の印刷とを別工程で行なわなければならないため、部分マットハードコート用転写シートの製造において経済的でない。また、部分マット層を印刷してからハードコート層を印刷するまでの間、インライン印刷の場合よりも多くの熱と長い時間をかけるため、基体シートの収縮が起こり、先に印刷した部分マット層のパターンと後に印刷するハードコート層以降、特に加飾層のパターンとを一致させるのが困難である。
【0008】
したがって、本発明は、マット感を有しかつ表面強度に優れた装飾を行うことに用いるマットハードコート用転写シートであって、転写後基体シートの剥離時に、基体シートとハードコート層間で確実に剥離されるマットハードコート用転写シートを得ることを課題とする。また、本発明は、マット型の印刷とハードコート層以降の印刷を経済的なインライン印刷で行う製造が可能なマットハードコート用転写シートを得ることを課題とする。さらに、本発明は、部分的なマット層とこれと組合わされる加飾層を形成する場合であっても、加飾層の位置合わせを容易に行うことができるマットハードコート用転写シートを得る事を課題とする。
また、本発明は、マット感を有しかつ表面強度に優れた装飾を付けることができるマットハードコート成形品の製造方法を提供することを課題とする。
本発明のその他の課題は以下の本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のマットハードコート用転写シートは、基体シートの一方表面上に少なくとも未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を含む転写層が形成され、前記基体シートの他方表面に平均粒子径5〜25μmの樹脂微粒子を含むマット型が形成される。
本発明のマットハードコート用転写シートは、ハードコート層とマット型を、基体シートを挟んで両面に配置したので、ハードコート層とマット型が固着することは無い。そして、マット型は、基体シートの変形を経由して、ハードコート層の成形に使用されるために、このようなマット型の最適化を図っている。すなわち、マット型は平均粒子径5〜25μmの樹脂微粒子を含む。さらに、転写シートの状態では、ハードコート層は未硬化または半硬化状態であるために、基体シートの変形に追随して、ハードコート層がマット成形状態に容易に変形する。
【0010】
本発明のマットハードコート用転写シートは、製造工程において、格別にマット型の乾燥を待つ必要がなく、加飾層などとともに一連の印刷機で印刷するいわゆるインライン印刷で容易に作成され得る。ただし、本発明のマットハードコート用転写シートは必ずしもインライン印刷により製造しなければならないものではなく、オフライン印刷により製造してもよい。
本発明のマットハードコート用転写シートは、全面にマット形状を有する転写製品に使用されてもよく(すなわち、上述のマット型が転写シートのほぼ全面に形成されていてもよく)、また、部分的にマット形状を有する転写製品に使用されても(すなわち、上述のマット型が転写シートの一部分に形成されても)よい。他の成形方法では、部分マットハードコートを有する製品が作り難い観点から、本発明は部分的にマット形状を有する転写製品に使用することが好ましい。
【0011】
本発明の好適な実施態様にかかるマットハードコート用転写シートにあっては、前記基体シートの平均厚みをt(μm)とし、コールターカウンター法により求めた前記樹脂微粒子の重量平均粒子径をd(μm)としたとき、式(1)が成立してもよい。
0.06≦t/d≦1.9 (1)
(ただし、12≦t≦50である)
式(1)に関して、コールターカウンター法により求める前記樹脂微粒子の重量平均粒子径の測定が困難な場合には、画像処理装置を用いて得られる球換算径を使用する。
上述のように、マット型は、基体シートの変形を経由して、ハードコート層の成形に使用される。この変形と成形を良好に行うために、基体シートの厚さと、マット型に含まれる樹脂微粒子の粒子径は、式(1)の関係を満足することが好ましい。本好ましい実施態様にかかるマットハードコート用転写シートは、ハードコート層の成形がより容易になり、またより好ましいマット形状のハードコート層が得られる。
【0012】
本発明の部分マットハードコート成形品の製造方法は、以下の工程からなる。
イ 本発明にかかるマットハードコート用転写シートを準備する工程
ロ 前記マットハードコート用転写シートの転写層側を成形品側にして、前記マートハードコート用転写シートを成形品の表面に位置付け、熱及び前記マット型側からの圧力を加え、前記転写層を成形品に転写するとともに未硬化または半硬化状態のハードコート層にマット形状を成形し、前記マットハードコート用転写シートと成形品の一体物を得る工程
ハ 前記一体物から前記基体シートを剥離し、マット成形状態のハードコート付成形品を得る工程
ニ 前記マット成形状態のハードコート付成形品に電離放射線を照射して前記マット成形状態のハードコート層を硬化させ、マットハードコート成形品を得る工程
【0013】
本発明にかかる他のマットハードコート成形品の製造方法は、本発明にかかるマットハードコート用転写シートを射出成形金型に設置し、前記金型内に成形樹脂を注入し冷却固化させた後、型開きして成形品を取り出すと共に前記基体シートを剥離した後、前記成形品に電離放射線を照射して未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を硬化させることを特徴とする。
以上説明した本発明の一の態様、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マット感を有しかつ表面強度に優れた装飾を確実に行うことができるマットハードコート用転写シートが得られる。また、転写工程に使用した場合に、基体シートとハードコート層が容易に剥離可能なマットハードコート用転写シートが得られる。さらに、本発明によれば、マット型の印刷とハードコート層以降の印刷をインライン印刷で行う製造が可能となり、経済的に製造され得るマットハードコート用転写シートが得られる。また、本発明によれば、部分的なマット層とこれと組合わされる加飾層を形成する場合であっても、加飾層の位置合わせを容易に行うことができるマットハードコート用転写シートが得られる。
【0015】
また、本発明によれば、マット感を有しかつ表面強度に優れた転写製品を確実に製造可能なマットハードコート成形品の製造方法が得られる。
さらに、本発明によれば、マット感を有しかつ表面強度に優れた射出成形品を確実に製造可能なマットハードコート射出成形品の製造方法が得られる。
本発明にかかる、マットハードコート用転写シートと、マットハードコート成形品の製造方法は、特に、部分的なマットハードコート製品の製造に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を参照して、本発明にかかるマットハードコート用転写シートとマットハードコート成形品の製造方法をさらに説明する。この発明の実施例に記載されている部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0017】
図1は、本発明にかかるマットハードコート用転写シート1aの一実施例の構成を示す断面説明図である。
基体シート11の一方の表面には、未硬化または半硬化状態のハードコート層13aと、接着層14が順に形成されている。マットハードコート用転写シート1aの転写層16aは、未硬化または半硬化状態のハードコート層13a、接着層14さらに必要に応じて形成されるその他の層から構成される。基体シート11の他方表面には、部分的にマット型12が形成されている。マット型は、必要に応じて、基体シート11の全面に形成してもよい。
【0018】
図2(a)から(d)は、マットハードコート用転写シート1aを使用して、転写法により成形品を装飾する方法を示す断面説明図である。
図2(a)に示すように、マットハードコート用転写シート1aの転写層14を成形品6側にして、マットハードコート用転写シート1aを成形品6の表面に密着させる。そして、耐熱弾性体(例えばシリコンラバーなど)製の圧熱ローラ31を備えたロール転写機、アップダウン転写機、真空プレス転写機などの転写機を用い、温度80〜260℃程度の条件に設定した圧熱ローラ31により、マットハードコート用転写シート1aのマット型12側から熱と圧力とを加える。
【0019】
図2(b)は、圧熱ローラ31により、圧熱を加えた後の、マットハードコート用転写シート1aと成形品6一体物の状態を示す図である。基体シート11は、マット型12が押し付けられるので、マット型12の形状に略一致して変形する。当該基体シートの変形は、未硬化または半硬化状態のハードコート層に反映され、マット成形状態のハードコート層13bが成形される。同時に、接着層14が成形品6に接着する。
冷却後、図2(c)に示すように、マットハードコート用転写シート1aと成形品6の一体物から、マット型12が付いた基体シート11を剥離する。この工程では、基体シート11とマット成形状態のハードコート層13bとの境界面で剥離が起こり、転写が完了する。
【0020】
次いで、図2(d)に示すように、電離放射線36を照射して、マット成形状態である未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13bを架橋硬化させることによって、硬化状態のハードコート層13cを得る。電離放射線36としては、紫外線や電子線などを用い、400〜4000mJ/cm程度の条件で照射するとよい。
以上のようにして、マットハードコート層が装飾された成形品を製造することができる。
【0021】
マット型12は、基体シート11の変形を介してハードコート層をマット成形するために、一定の厚さが必要となる。この厚さを付与し、また、相応しい凹凸を形成するために、マット型12は、平均粒子径5μm〜25μmの樹脂微粒子を含むもので形成する。具体的には、マット型12は、例えば、当該樹脂微粒子とバインダーを混合したインキで印刷して形成することができる。
【0022】
図3は、樹脂微粒子とバインダーからなるインクを用いて成形したマット型12の模式推定断面図である。
マット型12はマット型形成インク21を基体シート11の表面に印刷することなどにより形成される。マット型形成インク21は、樹脂微粒子22の表面を取り囲む薄層のバインダー23により、基体シート11の表面に固定されているものと考えられる。図3では、樹脂微粒子が単一層で基体シート11の表面に並んでいる場合を図示したが、樹脂微粒子は二層、三層に並んでいてもよい。
【0023】
平均粒子径5μm〜25μmの樹脂微粒子を用いるのは、基体シートの変形を介して、ハードコート層をマット調にするのに必要なマット型12の厚みを確保すると同時に、マット成形状態において、ハードコート層の表面をマット調にするのに必要な、適度の凹凸を形成するためである。とくに、平均粒子径8μm〜15μmの樹脂微粒子を用いた場合には非常に美麗なマット感が得られる。
平均粒子径が5μm未満であると、マット型12の必要な厚みを確保することができない。平均粒子径が25μmを超える大きさであると、成形品の表面は、マット感よりもゴワゴワ感を感じる凹凸となり、不都合である。
【0024】
さらに、上述のように、マット型は、基体シートの変形を経由して、ハードコート層の成形に使用される。この変形と成形を良好に行うために、基体シートの厚さと、マット型に含まれる樹脂微粒子の粒子径の関係を試験した。
基体シートの平均厚さt(μm)と樹脂微粒子の重量平均粒子径d(μm)を変更して、マットハードコート用転写シートを作成し、これを用いて成形品を製造した場合のマット感を測定した結果を、表1に示す。
【0025】
【表1】

マット感は、目視の結果を以下の3段階で評価したものである。
○ 良好
△ やや良
× 不可
樹脂微粒子の重量平均粒子径は、コールターカウンター法により求めた。
【0026】
上記の実験から、本発明にかかるマットハードコート用転写シートにあっては、前記基体シートの平均厚みをt(μm)とし、コールターカウンター法により求めた前記樹脂微粒子の重量平均粒子径をd(μm)としたとき、式(1)が成立することが好ましいことが明らかとなった。
0.06≦t/d≦1.9 (1)
(ただし、12≦t≦50である)
基体シートの厚みt(μm)の数値範囲は、表1の実験結果や、転写シートを転写工程に使用する場合の取り扱い性などの要因から決定された。
【0027】
式(1)に関して、コールターカウンター法により求める前記樹脂微粒子の重量平均粒子径の測定が困難な場合には、画像処理装置を用いて得られる球換算径を使用することができる。
【0028】
マット型12の形成には、樹脂微粒子とバインダーからなるインキを使用することができる。
図2を参照して説明した転写法に用いる転写シート作成にあたっては、マット型12は、エポキシ系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、メラミン系樹脂などの硬化性樹脂をバインダーにして、平均粒子径5〜25μの樹脂微粒子を分散させたものが好ましい。
一方、後に説明する成形同時転写法に用いる転写シート作成にあたっては、ポリビニル系樹脂、熱可塑ポリアクリル系樹脂、熱可塑ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂をバインダーにして、平均粒子径5〜25μの樹脂微粒子を分散させたものが好ましい。
【0029】
転写法の場合に、硬化性樹脂をバインダーにするのが好ましいのは、熱可塑性樹脂などを使うと熱および圧力を変えたときに転写機の一部にマット型12が付着してしまう場合があるからである。一方、成形同時転写法の場合に、熱可塑性樹脂をバインダーにするのが好ましいのは、硬化性樹脂などを使うと未反応のオリゴマーや添加剤などが遊離して成形用金型の表面を汚染してしまう場合があるからである。
【0030】
本発明にいう樹脂微粒子は、シリコン、ベンゾグアナミン、アクリル、スチレン、ウレタン、メラミンなどの樹脂粒子のほか、カーボンブラック、沈降性バリウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、タルク等を成分とする無機顔料や、フタロシアン、ジオキサジン、アントラキノン系などの有機顔料を含むものとする。樹脂微粒子の量はバインダーに対して凝集破壊が起こらない程度の10〜30%程度に調整するのが好ましい。
【0031】
マット型12の形成方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの印刷法がある。マット型12の厚みは最も厚い部分で5μm〜200μmとする。厚みをこの範囲内にすることにより、未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aをマット成形状態にすることができる。また、帯状の基体シート上に複数の転写シート部分を作成し、これをロール状に巻いたときにデコボコ状にならないようにすることができる。生産上での安定性を考慮すれば、より好ましい厚みは10〜50μmである。
【0032】
未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aは、転写後に基体シート11を剥離した後に、転写層16aの最上層となる層である。未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aとしては、紫外線や電子線等で硬化する電離放射線硬化性樹脂を用いる。未硬化または半硬化状態にしておくことで、転写時に、マット型12の凹凸がハードコート層13aの表面部分に反映される。
未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aとしては、ウレタンアクリレート系樹脂、シアノアクリレート系樹脂などが使用できる。半硬化状態にする方法としては、イソシアネートなどの添加剤を加えて熱を加えることによりモノマーまたはオリゴマーの一部を架橋させる方法などがある。未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aの形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0033】
基体シート11の材質としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シートなど、通常の転写シートの基体シートとして用いるものを使用することができる。基体シート2の厚みは、マット型12の凹凸を未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層4の表面上に反映させ、かつマットハードコート成形品の表面にシワ跡等の不良が発生しない12〜50μmが好ましい。
【0034】
また、基体シート11の剥離性を高めるために、基体シート11の転写層側表面に離型層を形成してもよい。離型層としては、アミノアルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂等、あるいはこれらの混合樹脂などを用いることができる。離型層を形成する方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。また、離型層を形成する際、基体シート11表面にコロナ処理や易接着処理をすることもできる。
【0035】
必要に応じて、本発明にかかるマットハードコート用転写シートには、加飾層を設けても良い。
図4は、加飾層を含むマットハードコート用転写シート1bの構成を示す断面説明図である。図1、図2と同一または同様の構成部分には、同一の図番号を付している。
加飾層15は、未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aと接着層14との間に形成される。加飾層を含むマットハードコート用転写シート1bの場合には、転写層16bは、未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13a、加飾層15と接着層14さらに必要に応じて形成されるその他の層から構成される。
【0036】
加飾層15は、ハードコート層13aの上に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。また、金属発色させる場合には、アルミニウム、チタン、ブロンズ等の金属粒子やマイカに酸化チタンをコーティングしたパール顔料を用いることもできる。
加飾層15の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。
【0037】
加飾層を含むマットハードコート用転写シート1bの基体シート11上の余白部分に、十字形や方形の光電管マークを形成しておいて、光電管マークを検知しながら加飾層の印刷とマット型の印刷を行うと、加飾層とマット型の見当を容易に合わせることができる。基体シートは通常透明または半透明であるから、基体シートの一方面にのみ光電管マークを付することにより、上述の見当合わせが容易に行える。当該光電管マークによる見当合わせは、基体シートの表裏面にそれぞれ加飾層を含む転写層とマット型を、インライン印刷する場合であっても、オフライン印刷する場合であっても用いることができる。
加飾層15が単色の場合には、加飾層15の形成に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。加飾層15は、厚さ0.5〜50μmに形成するとよい。
【0038】
加飾層15は、表現したい加飾柄などに応じて、全面的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aとの密着性を向上させるために、加飾層15と未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層13aとの間にアンカー層を設けてもよい。アンカー層の材質としては、二液硬化性ウレタン系樹脂、熱硬化ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂、塩化ビニル共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂を使用するとよい。アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0039】
加飾層15は、金属薄膜層からなるもの、あるいは印刷層と金属薄膜層との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜層は、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などで形成する。また、金属箔を使用してもよい。表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物を使用する。
【0040】
金属薄膜層を設ける際に、他の転写層と金属薄膜層との密着性を向上させるために、前アンカー層や後アンカー層などのアンカー層を設けてもよい。アンカー層の材質としては、二液硬化性ウレタン系樹脂、熱硬化ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂、塩化ビニル共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂を使用するとよい。アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0041】
接着層14は、成形品表面に転写層16aあるいは16bを接着するものである。接着層14としては、成形品または成形樹脂の材質に適した感熱圧接着性を有する樹脂を適宜使用する。たとえば、成形品または成形樹脂の材質がアクリル系樹脂の場合はアクリル系樹脂を用いるとよい。成形品または成形樹脂の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。成形品または成形樹脂の材質がポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層14の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの印刷法がある。
【0042】
転写層16aあるいは16bの構成は、上記した態様に限定されるものではなく、たとえば、加飾層15の材質として成形品との接着性に優れたものを使用する場合には、接着層14を省略することができる。
【0043】
成形品6としては、樹脂成形品、ゴム製品、金属製品、木工品、ガラス製品、陶磁器製品もしくは各種材質からなる複合製品などを挙げることができる。成形品6は、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。成形品6は、着色されていても、着色されていなくてもよい。樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂を使用してもよい。
【0044】
成形品6が射出成形樹脂成形品である場合に、転写法をより合理的に行う方法として、成形同時転写法がある。次に、本発明にかかる転写シートを用い、成形同時転写法を利用して成形品である射出成形樹脂成形品の面に装飾を行う方法について説明する。
図5は、成形同時転写法の工程を説明する説明図である。
【0045】
まず、金型A41と金型B42からなる成形用金型にマットハードコート用転写シート1aを送り込む。その際、枚葉の部分マットハードコート用転写シート1を、一回の射出成形毎に、1枚づつ送り込んでもよいし、帯状の基体シート上にマットハードコート用転写シート1aを多数成形した転写シートを作成し、そのマットハードコート用転写シート1a部分を、一回の射出成形毎に、間欠的に送り込んでもよい。生産性を考慮すれば後者の方が好ましい。成形用金型を閉じた後、ゲート43から溶融した射出成形樹脂を成形用金型内に充満させ、成形品を形成するのと同時にその面に部分マットハードコート用転写シート1aを接着させる。このとき、マット型12は金型B42の内面に押付けられるので、結果的に基体シート11が変形し、未硬化または半硬化状態のハードコート層13aが、マット状に成形される。
【0046】
冷却固化後、成形用金型を開いて成形品を取り出す。次に、基体シート11を剥離すると、基体シート11とマット成形状態の電離放射線硬化型ハードコート層13bとの境界面で剥離が起こり、転写が完了する。成形品の取り出しと基体シートの剥離は同時に行ってもよい。続いて、電離放射線を照射して、マット成形状態のハードコート層13bを架橋硬化させることによってマット ハードコート成形品を得ることができる。
【実施例1】
【0047】
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに離型処理を施したものを基体シートとし、次の各層を形成することにより、携帯電話の窓部パネル用の部分マットハードコート用転写シートを作製した。
【0048】
すなわち、1%のイソシアネートを含ませたウレタンアクリレート樹脂からなる紫外線硬化型インキをリバースコートし、150℃の乾燥フードを通して半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を形成した。続いて、着色剤を含むアクリル樹脂およびビニル樹脂からなるインキをグラビア印刷し、80℃の乾燥フードを通して加飾層を形成した。最後に、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂からなるインキをグラビア印刷し、80℃の乾燥フードを通して接着層を形成した。続いて、基体シートの上記各層と反対面に、熱可塑ポリエステル樹脂に平均粒子径12μmのシリコン系樹脂粒子を20%添加したインキを用いて部分的にスクリーン印刷し、80℃の乾燥フードを通して指触乾燥させて最大膜厚38μmのマット型を形成した。
【0049】
上記の部分マットハードコート用転写シートを射出成形用金型に固定し、型締めしてアクリル樹脂を射出した。冷却後、型開きし、部分マットハードコート用転写シートの基体シートを剥離した後、成形品表面に形成された半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層表面に高圧水銀灯(1kW/cm)を用いて照射距離3cmで7秒間紫外線を照射し、半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を架橋硬化させた。
【0050】
このようにして得られた部分マットハードコート成形品は、表面にマット部分が確実に形成され、かつ、表面の耐擦傷性、耐摩擦性、耐溶剤性に優れたものであった。
【実施例2】
【0051】
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに離型処理を施したものを基体シートとし、次の各層を形成することにより、音響機器パネル用の部分マットハードコート用転写シートを作製した。
【0052】
すなわち、ウレタンアクリレート樹脂に平均粒子径5μmのアクリル系樹脂粒子を30%添加したインキを用いて部分的にスクリーン印刷し、高圧水銀灯(1kW/cm)を用いて照射距離3cmで10秒間紫外線を照射し、最大膜厚50μmのマット型12を形成した。続いて、基体シートのマット型12と反対面に、3%のイソシアネートを含ませたシアノアクリレート樹脂からなる紫外線硬化型インキをグラビア印刷し、90℃の乾燥フードを通して半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を形成した。続いて、着色剤を含むアクリル樹脂およびビニル樹脂からなるインキをグラビア印刷し、80℃の乾燥フードを通して加飾層を形成した。最後に、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂からなるインキをグラビア印刷し、80℃の乾燥フードを通して接着層を形成した。
【0053】
上述の部分マットハードコート用転写シートをシリコンラバーの耐熱ゴム状弾性体を備えたロール転写機に設置し、温度80〜260℃程度の条件に設定した耐熱ゴム状弾性体を介して前記転写シートの基体シート側から熱と圧力とを加えた。次いで、冷却後に基体シートを剥がし、半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層に高圧水銀灯(1kW/cm)を用いて照射距離3cmで7秒間紫外線を照射し、半硬化状態電離放射線硬化型のハードコート層を架橋硬化させた。
【0054】
このようにして得られた部分マットハードコート成形品は、表面にマット部分が確実に形成され、かつ、表面の耐擦傷性、耐摩擦性、耐溶剤性に優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により得られるマットハードコート成形品は、通信機器、音響機器、家電製品、住宅機器、事務機器、自動車部品などに利用されるパネル部材等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明にかかるマットハードコート用転写シートの一実施例の構成を示す断面説明図である。
【図2】本発明にかかるマットハードコート用転写シートを使用して、転写法により成形品を装飾する方法を示す断面説明図である。
【図3】樹脂微粒子とバインダーからなるインクを用いて成形したマット型12の模式推定断面図である。
【図4】本発明にかかる加飾層を含むマットハードコート用転写シートの構成を示す断面説明図である。
【図5】本発明にかかるマットハードコート用転写シートを用いる成形同時転写法の工程を説明する説明図である。
【0057】
1a マットハードコート用転写シート
1b 加飾層を含むマットハードコート用転写シート
6 成形品
11 基体シート
12 マット型
13a 未硬化または半硬化状態のハードコート層
13b マット成形状態のハードコート層
13c 硬化状態のハードコート層
14 接着層
15 加飾層
16a、16b 転写層
21 マット型形成インキ
22 樹脂微粒子
23 バインダー
31 圧熱ローラ
36 電離放射線
41 金型A
42 金型B
43 ゲート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートの一方表面上に少なくとも未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を含む転写層が形成され、前記基体シートの他方表面に平均粒子径5〜25μmの樹脂微粒子を含むマット型が形成されたマットハードコート用転写シート。
【請求項2】
前記基体シートの平均厚みをt(μm)とし、コールターカウンター法により求めた前記樹脂微粒子の重量平均粒子径をd(μm)としたとき、式(1)が成立することを特徴とする請求項1記載のマットハードコート用転写シート。
0.06≦t/d≦1.9 (1)
(ただし、12≦t≦50である)
【請求項3】
以下の工程からなるマットハードコート成形品の製造方法。
イ 請求項1乃至2いずれか記載のマットハードコート用転写シートを準備する工程
ロ 前記マットハードコート用転写シートの転写層側を成形品側にして、前記マートハードコート用転写シートを成形品の表面に位置付け、熱及び前記マット型側からの圧力を加え、前記転写層を成形品に転写するとともに未硬化または半硬化状態のハードコート層にマット形状を成形し、前記マットハードコート用転写シートと成形品の一体物を得る工程
ハ 前記一体物から前記基体シートを剥離し、マット成形状態のハードコート付成形品を得る工程
ニ 前記マット成形状態のハードコート付成形品に電離放射線を照射して前記マット成形状態のハードコート層を硬化させ、マットハードコート成形品を得る工程
【請求項4】
請求項1乃至2いずれか記載のマットハードコート用転写シートを射出成形金型に設置し、前記金型内に成形樹脂を注入し冷却固化させた後、型開きして成形品を取り出すと共に前記基体シートを剥離した後、前記成形品に電離放射線を照射して未硬化または半硬化状態の電離放射線硬化型ハードコート層を硬化させることを特徴とするマットハードコート成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198911(P2006−198911A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13440(P2005−13440)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】