説明

マニピュレータの制御装置および制御方法

【課題】ハンドを先端に装着したアームの動作状態に応じて多指ハンドの指ごとに位置制御と力制御とを切り替え、物体の把持や搬送に適した多指ハンドの制御を行うことができる制御方法および装置を提供する。
【解決手段】先端部に各々力センサ18を設けた複数の指を備えた多指ハンドと、多指ハンドを先端に装着したアームとからなるマニピュレータの制御装置において、アーム制御部1は、多指ハンド制御部2に対しアームの動作状態としてアームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つと、アームの先端部の位置姿勢を出力し、多指ハンド制御部2は、指ごとに位置制御または力センサの出力に応じた力制御を行う指制御部51、52、53と、アームの動作状態に応じて指制御部51、52、53に対し力制御と位置制御の間で切り替えを指令する制御モード選択部4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレータの制御に関し、特にアームと多指ハンドを備え、多指ハンドにて物体の把持動作を行うマニピュレータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の指を備えた多指ハンドによって物体を把持する装置が開示されている。
こうした多指ハンドの制御方法として、多指ハンドによる物体の把持状況に応じて位置制御と力制御を切り替えているものがある(例えば、特許文献1参照)。また、複数の指の協調制御により対象物を把持する場合において、各指の制御モードをコンプライアンス制御または力制御に切り替えているものもある(例えば、特許文献2参照)。
従来の多指ハンドの制御方法では、物体の把持状況やハンドの動作状態によってハンド全体または各指の制御モードを切り替えて対象物を把持するという手順をとっている。
【特許文献1】特開平6−126684号公報(第6頁、図3)
【特許文献2】特開平8−141951号公報(第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、多指ハンドはアーム等の先端部に装着されて使用される場合が多いにも関わらず、従来技術では多指ハンドを装着しているアームの動作状態については考慮されていなかった。そのためアームの動作状態に対応した最適な物体把持が行われていなかった。
一方、多指ハンドの各指を力制御することで、把持対象物の形状や位置が未知な場合であっても指が柔軟に動作して物体を把持し、かつ把持力を維持することができる。しかし一旦把持した物体をアームの動作によって移動、搬送する際に多指ハンドや把持対象物に加速度が加わると、その慣性力によって力制御している指がそれぞれ影響を受けて動作し、把持状態が不安定になったりハンド内の把持対象物が動いてしまったりするという欠点があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ハンドを先端に装着したアームの動作状態に応じて多指ハンドの指ごとに位置制御と力制御とを切り替え、物体の把持や搬送に適した多指ハンドの制御を行うことができる制御方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項1に記載の発明は、先端部に各々力センサを設けた複数の指を備えた多指ハンドと、前記多指ハンドを先端に装着したアームとからなるマニピュレータの制御装置において、前記制御装置は、前記アームを制御するアーム制御部と前記多指ハンドを制御する多指ハンド制御部とを備え、前記アーム制御部は、前記多指ハンド制御部に対し前記アームの動作状態として前記アームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つと、前記アームの先端部の位置姿勢を出力し、前記多指ハンド制御部は、前記指ごとに位置制御または前記力センサの出力に応じた力制御を行う指制御部と、前記アームの動作状態をそれぞれについての所定の閾値と比較することにより前記指制御部に対し力制御と位置制御の間で切り替えを指令する制御モード選択部を備えることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、前記指制御部は、目標力指令と、前記力センサによって検出した力の大きさと向きとをもとに前記指の位置補正量を出力する力制御部と、目標位置指令と、前記指の各関節の位置を検出する位置検出器によって検出した位置情報とをもとに前記指を位置制御する位置制御部と、前記制御モード選択部からの切り替え指令により前記力制御部から出力される位置補正量を前記目標位置指令に加算する制御モード切替スイッチを備えることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、前記制御モード選択部は、前記複数の指のうち前記力センサによって検出した力の向きが所定の範囲内であるものをグループ化して把持側と支持側との2つのグループに分け、前記把持側の指制御部に対し力制御への切り替えを指令し、前記支持側の指制御部に対し位置制御への切り替えを指令することを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、前記アームは複数の関節を有する垂直多関節ロボットであることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、先端部に各々力センサを設けた複数の指を備えた多指ハンドと、前記多指ハンドを先端に装着したアームとからなるマニピュレータの制御方法において、前記アームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つと、前記アームの先端部の位置姿勢を含む前記アームの動作状態に応じて前記指ごとに位置制御と前記力センサの出力に応じた力制御とを切り替えて制御を行うことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、前記複数の指のうち前記力センサによって検出した力の向きが所定の範囲内であるものをグループ化して把持側と支持側との2つのグループに分け、前記把持側の指を力制御に切り替えて動作させ、前記支持側の指を位置制御に切り替えて動作させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載の発明によると、アームの動作状態に応じて多指ハンド各指の制御を位置制御または力制御に適切に切り替えて、アームの動作に伴い多指ハンドや把持対象物が受ける慣性力によって把持状態が乱れることを防止し、把持状態を安定させることができる。
また請求項2に記載の発明によると、多指ハンド各指の制御を力制御と位置制御との間で即座に切り替えを行うことができアームの動作状態に応じた安定した把持状態を実現することができる。
請求項3に記載の発明によると、支持側の指を力制御から位置制御に切り替えることで、支持側の指が固定され、アームの動作に伴い多指ハンドや把持対象物が受ける慣性力による影響を受けないようにすることができる。
請求項4に記載の発明によると、安定した把持状態のまま、多指ハンドおよび把持対象物に様々な位置姿勢を取らせることが可能となる。
請求項5に記載の発明によると、アームの動作状態に応じて多指ハンド各指の制御を位置制御または力制御に適切に切り替えて、アームの動作に伴い多指ハンドや把持対象物が受ける慣性力によって把持状態が乱れることを防止し、把持状態を安定させることができる。
また請求項6に記載の発明によると、支持側の指を力制御から位置制御に切り替えることで、支持側の指が固定され、アームの動作に伴い多指ハンドや把持対象物が受ける慣性力による影響を受けないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明のマニピュレータおよびその制御装置の外観例を示す図である。マニピュレータはアームとアーム先端に装着した3本の指を持つ多指ハンドとからなり、アームおよびハンドは制御装置によって制御される。
アームは多関節ロボットである。さらには多指ハンドが把持対象物へアプローチしたり、把持状態を保ちながら把持対象物を移動させたりする際に多指ハンドの位置や姿勢を自在に調整できるように垂直多関節ロボットであることが望ましい。
図2は図1のハンド部分を拡大した図である。ハンドの指は各々複数の関節軸を備えており、各関節はサーボモータなどの駆動源によって動作する。このような複数の指が協調して動作することで把持対象物を把持したり、対象物を把持した状態のまま対象物の姿勢を変更したりすることができる。図2では各指が2つの関節を備えた例を示している。
また、各指の先端部には力センサ18が設けられており、把持対象物を把持した際に指先に働く力の大きさと向きを検知することができる。
なお図1や図2に示したハンドの指の数や各指の関節数は一例であり、ハンドの指の本数や各指の関節数は適宜変更可能である。
【0008】
図3は、制御装置内の構成のうち、アームの動作状態に応じて多指ハンドの指ごとに位置制御と力制御とを切り替える機能に関する部分についての概略図である。マニピュレータの制御装置の内部はアーム制御部1と多指ハンド制御部2のブロックに分かれている。多指ハンド制御部2はさらに第1指、第2指、第3指の制御部51、52、53に分かれており、それぞれが第1指、第2指、第3指の動作を制御している。
アーム制御部1は、図1の基準座標系に基づくアーム先端部の位置姿勢の他、アーム先端部の速度情報をアームの動作状態3として多指ハンド制御部2に定期的に出力している。またアーム制御部1から伸びている白抜き矢印は、アームの各関節の駆動源やエンコーダとの信号のやり取りを示している。
多指ハンド制御部2ではアームの動作状態に関する情報を制御モード選択部4において受け、制御モード選択部4はこれらの情報に基づいて各指の制御モードについて位置制御または力制御のいずれかを選択し、各指の制御部の制御モードを切り替える(図3の矢印24)。各指の制御部51〜53は、制御モード選択部4によってそれぞれ選択された制御モードすなわち位置制御、力制御のいずれかによって指を駆動する。また各指制御部から伸びている白抜き矢印は、多指ハンドの各指の駆動源やエンコーダ、力センサとの信号のやり取りを示している。詳細は図4に沿って説明する。
【0009】
図4は、図3のうち第1指制御部51の内部構成を示した概略図である。図において、位置制御部11は追従目標位置12と第1指の駆動源14に設けられた位置検出器であるエンコーダ15から得られるフィードバック位置16に基づき駆動源14への指令を生成して位置制御を行う。
一方、力制御部17は第1指の指先に設けられた力センサ18が検出した力情報(力の大きさ、向き)19と目標力指令20に基づき位置補正量21を生成し、これを目標位置指令22に加算して前述の追従目標位置12とすることで、力制御を構成している。なお、目標力指令20と目標位置指令22は、マニピュレータの動作を決定する上位装置の動作プログラム等(図示せず)から多指ハンド制御部2に送られてくる指令である。
ここで、制御モード切替スイッチ23を閉じて力制御部17から出力される位置補正量21を目標位置指令22に加算するようにすれば力制御によって第1指が動作する。また制御モード切替スイッチ23を開けば第1指は位置制御によって動作する。
制御モード選択部4は、制御モード切替スイッチ23の開閉を制御することで第1指について位置制御と力制御との切り替えを行う。
第2指制御部52、第3指制御部53も第1指制御部51と同様の構成となっており、制御モード選択部4が各指制御部の51、52、53内の制御モード切替スイッチの開閉を個別に制御することで各指について位置制御と力制御との切り替えを行う。
なおアームが静止もしくは狭い範囲を低速で動きながら多指ハンドが物体を把持しようとする際には従来のように多指ハンドのすべての指を力制御によって動作させてもよい。
【0010】
図5は、制御モード選択部4において、3本の指のうち位置制御にて動作させる指、力制御にて動作させる指の組み合わせを決定する手法を説明する概念図である。図5は多指ハンドにて直方体の把持対象物を把持した状態を図1の白抜き矢印方向から見た様子を示している。
制御モード選択部4では、多指ハンドによって把持対象物を把持するとき、対向する指の対を設定し、対の一方の制御モードとして力制御を選択し、対向するもう一方には位置制御を選択する。
こうした制御を行うため、制御モード選択部4は各指先の力センサ18の出力から指ごとに作用している力の向きを調べ、対向する指の対を設定する。そのため制御モード選択部4は各指のエンコーダ15の値を取得し順変換を行って各指先の位置と姿勢を求め、さらに力センサから力情報を取得する。
指先に設けられた力センサによって検知された力の向きを指先の姿勢によって変換することによって図5のように基準座標系に基づく力の向きを知ることができる。
【0011】
図5(a)の場合は、第2指と第3指の力センサによって検知される力の向きが同じになるので、第2指と第3指を一まとめとし、残りの第1指をこれに対向する指と判断する。
指の対を設定する際、第2指と第3指の力センサによって検知される力の向きは全く同じである必要はなく、その力の向きの違いが予め設定された範囲内であれば同方向とみなすようにする。
図5(a)のように第1指とこれに対向する第2指および第3指で物体を挟んで把持した際に、第1指を位置制御により動作させる一方、第2指および第3指は力制御により動作させ、第2指と第3指で力を発生させる。
第1指は力を受けても位置を保つ位置制御によって動作しているため、第2指と第3指で発生させた力を支える支持指として機能して反力を発生させる。これによって第1指〜第3指を力制御して図5(b)のように向き合ってつり合う力を発生させて把持するのと同じ効果を得ている。
加えて、図5(a)では一部の指を位置制御としているので、ハンドを装着したアームの動作に伴いハンドや把持物体が加速度を受けて慣性力が生じても、位置制御で動作している指が支持指として機能し、その慣性力に対して対抗する反力を発生させて把持状態を保つことができるという利点がある。図5(b)のようにすべての指を力制御している場合は、慣性力が生じた際にその力によって指が動いてしまうが図5(a)の場合にはそのようなことはない。
【0012】
図5では、指ごとに作用している力の向きによって対向する指の対を設定しやすい直方体を把持対象物として説明したが、本発明は指ごとに作用している力の向きが異なる場合にも適用できる。
図6のような球体(または円筒)を把持する場合には、1つの指(例えば第1指)を位置制御により動作させるようにし、残りの各指先(第2指、第3指)については力制御により動作させるようにする。
この際、第2指、第3指の各指先の力センサによって検知される力を、第1指の力センサによって検知される力の向きと平行な成分と直交する成分とに分解し、平行な成分同士を図5のような対と想定することで、図5の場合と同様に制御することができる。
【0013】
このように、物体を把持する多指ハンドの各指について、力制御によって力を発生させる指、それに対向して位置制御によって支持指として機能する指、と異なる機能を持たせることにより把持力を発生させ、かつアームの動作によって慣性力が生じても把持状態の乱れを抑えて把持状態を保つことができる。
また、制御モード選択部4は、物体を把持する際に物体を挟んで対向する指を把持側と支持側に分けた後であっても、アームの動作状態3によって再度支持側の指の制御モードを力制御と位置制御との間で切り替えることもできる。
【0014】
図7は制御モード選択部4の内部構成を示す概略図である。
前述のように、アームの動作状態3として図1の基準座標系に基づくアーム先端部の位置姿勢の他、アーム先端部の速度情報が定期的に提供されている。
制御モード選択部4ではアーム先端部の位置姿勢や速度の変化をもとに、アーム先端部の移動方向、加速度を演算部25にて求める。さらに移動距離についても演算部25で求めるようにしてもよい。一方座標変換部26では、指の各関節のエンコーダ15から得られるフィードバック位置16とアーム先端部の位置姿勢を基に、基準座標系に基づく多指ハンドの各指の位置を求める。
閾値記憶部27では予め設定された速度閾値、加速度閾値、移動距離閾値を記憶しており、比較部28ではアーム先端部の速度や演算部25で求めた加速度とこれら閾値とを比較する。アームの動作に係る速度や加速度、移動距離がそれぞれの閾値を越えたり、閾値より小さくなったりした場合には比較部28が切替指令部29へ指令を出力し、その指令を受けた切替指令部29が力制御で動作している指の制御モードを位置制御に切り替え、逆に位置制御で動作している指の制御モードを力制御に切り替える。
この際、切替指令部29では基準座標系に基づくアーム先端部の移動方向を演算部25から取得し、基準座標系から見た多指ハンドの各指の位置を座標変換部26から取得して、どの指の制御モードを切り替えるか判断する。
【0015】
なお本実施例ではアーム制御部1はアームの動作状態3として、図1の基準座標系に基づくアーム先端部の位置姿勢の他、アーム先端部の速度を多指ハンド制御部2に出力しているが、制御モード選択部4内の演算部25の機能をアーム制御部1内にて実現することにより、アーム動作状態としてアーム先端部の加速度を出力するようにしてもよい。
またアーム先端部の移動距離もアームの動作状態3としてアーム制御部1から多指ハンド制御部2に出力するようにしてもよい。
さらにアーム制御部1から多指ハンド制御部2に出力されるアーム先端部の位置姿勢以外のアームの動作状態3として、アーム先端部の加速度、速度、移動距離を併用してもよいし、アーム先端部の加速度、速度、移動距離のいずれか1つのみを出力するようにしてもよい。
【0016】
図8のように、把持対象物を多指ハンドで把持したまま、アームの動作によって下(図中のa地点)から上(図中のb地点)へと移動させる場合を例に説明する。図9は多指ハンドにて直方体の把持対象物を把持した状態を図8の白抜き矢印方向から見た様子を示している。
把持対象物を把持した多指ハンドがa地点で停止した状態からアーム先端部の移動に伴って上方へ移動を開始しその移動速度が増加すると把持対象物には下向きの慣性力が働く。よって安定した把持状態を実現するためには、把持対象物の下にある指では位置制御を行って把持対象物を支持するのが望ましい。
制御モード選択部4はアーム制御部1からアーム動作状態3として、図1の基準座標系に基づくアーム先端部の位置姿勢と速度を取得する。また各指の指制御部51〜53より各指先端の位置を取得する。
制御モード選択部4はアーム先端部の位置姿勢と各指先端の位置とから、どの指が把持対象物を下から支えているか、またどの指が把持対象物を下から支えている指と対向しているかを把握するとともにアーム先端部の速度変化から加速度を求める。アーム先端部の加速度が予め設定した第1の閾値を越えたら把持対象物を下から支えている指の制御モードを位置制御に切り替え、把持対象物を上から押さえている指の制御モードを力制御に切り替える。
この様子を示したのが図9(a)である。把持対象物を下から支えている第2指、第3指の制御モードが位置制御となり、把持対象物を上から押さえている第1指の制御モードが力制御となっている。
【0017】
把持対象物が移動を続けb地点に近づくと、停止するためアーム先端部の移動速度は減少し始める。すると把持対象物には上向きの慣性力が働く。よって安定した把持状態を実現するためには、今度は把持対象物の上にある指では位置制御を行って把持対象物を支持するのが望ましい。
制御モード選択部4は先程と同様、アーム制御部1からアーム動作状態3として、図1の基準座標系に基づくアーム先端部の位置姿勢と速度を取得する。また各指の指制御部51〜53より各指先端の位置を取得する。今回は減速しているので、アーム先端部の加速度は負の値となる。
制御モード選択部4はアーム先端部の位置姿勢と各指先端の位置とから、どの指が把持対象物を上から押さえているか、またどの指が把持対象物を上から押さえている指と対向しているかを把握するとともにアーム先端部の速度変化から加速度を求める。アーム先端部の加速度が予め設定した第2の閾値より小さくなったら把持対象物を上から押さえている指の制御モードを位置制御に切り替え、把持対象物を下から支えている指の制御モードを力制御に切り替える。
この様子を示したのが図9(b)である。把持対象物を上から押さえている第1指の制御モードが位置制御となり、把持対象物を下から支えている第2指、第3指の制御モードが力制御となっている。
【0018】
以上の例ではアーム動作状態の情報のうち、アーム先端部の速度をもとに加速度を求めて慣性力の作用する方向を導出したが、アーム先端部の位置の情報から単位時間あたりのアーム先端部の移動距離を取得し、さらにその変化を求めることによっても同様に慣性力を導出することもできる。
また、アーム先端の加速度、速度、移動距離を複合的に利用すれば、把持対象物に作用する慣性力をより適切に導出できる。前述のようにアーム先端部の速度が所定の値以下であれば比較部は切替指令部への指示は行わず、力制御と位置制御の切り替えを行わずにすべての指を力制御により動作させるようにしてもよい。
また、アーム動作による多指ハンドの移動方向についても、図8のような上下方向の移動は一例に過ぎない。アーム先端部の移動に伴って慣性力が作用する指を特定し、その指を位置制御に切り替え、対向する指を力制御に切り替えるようにすることで、様々なアーム動作に対しても適切な把持状態を維持できることは言うまでもない。
【0019】
多指ハンドを装着したアームが静止した状態において、ハンドの指の動作によって把持対象物を把持したり、把持した後に操ったりしている場合には、指を全て力制御によって柔軟に動作させることが必要であるが、把持対象物を把持した後に把持状態を保ちながらアームの動作によって把持対象物を移動させる場合には、アームの動作によって生じる慣性力に対抗して把持状態を保つ力を発生させることが必要となる。
従って、以上説明したように、アームの動作状態によって多指ハンドの一部の指の制御モードを切り替えて対応することは、アームと多指ハンドから成るマニピュレータの制御方法として有効な手段である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は力センサを備えた多指ハンドを先端に有するマニピュレータに広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のマニピュレータおよびその制御装置の外観例を示す図
【図2】図1のハンド部を拡大した図
【図3】本発明のマニピュレータ制御装置内の構成を示す概略図
【図4】本発明の指制御部の構成を示す概略図
【図5】本発明で位置制御にて動作させる指、力制御にて動作させる指の組み合わせを決定する手法を説明する概念図
【図6】本発明で位置制御にて動作させる指、力制御にて動作させる指の組み合わせを決定する手法を説明する別の概念図
【図7】制御モード選択部の内部構成を示す概略図
【図8】把持対象物を多指ハンドで把持したまま、移動させる様子を示す図
【図9】本発明でアームの動作状態に応じて位置制御にて動作させる指、力制御にて動作させる指の組み合わせを決定する手法を説明する概念図
【符号の説明】
【0022】
1 アーム制御部
2 多指ハンド制御部
3 アーム動作状態
4 制御モード選択部
11 位置制御部
12 追従目標位置
13 駆動部
14 駆動源
15 エンコーダ
16 フィードバック位置
17 力制御部
18 力センサ
19 力情報
20 目標力指令
21 位置補正量
22 目標位置指令
24 制御モード切替指令
25 演算部
26 座標変換部
27 閾値記憶部
28 比較部
29 切替指令部
51 第1指制御部
52 第2指制御部
53 第3指制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に各々力センサを設けた複数の指を備えた多指ハンドと、前記多指ハンドを先端に装着したアームとからなるマニピュレータの制御装置において、
前記制御装置は、前記アームを制御するアーム制御部と前記多指ハンドを制御する多指ハンド制御部とを備え、
前記アーム制御部は、前記多指ハンド制御部に対し前記アームの動作状態として前記アームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つと、前記アームの先端部の位置姿勢を出力し、
前記多指ハンド制御部は、前記指ごとに位置制御または前記力センサの出力に応じた力制御を行う指制御部と、前記アームの動作状態のうち、前記アームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つをそれぞれについての所定の閾値と比較することにより前記指制御部に対し力制御と位置制御の間で切り替えを指令する制御モード選択部を備えることを特徴とするマニピュレータの制御装置。
【請求項2】
前記指制御部は、目標力指令と、前記力センサによって検出した力の大きさと向きとをもとに前記指の位置補正量を出力する力制御部と、
目標位置指令と、前記指の各関節の位置を検出する位置検出器によって検出した位置情報とをもとに前記指を位置制御する位置制御部と、
前記制御モード選択部からの切り替え指令により前記力制御部から出力される位置補正量を前記目標位置指令に加算する制御モード切替スイッチを備えることを特徴とする請求項1記載のマニピュレータの制御装置。
【請求項3】
前記制御モード選択部は、前記複数の指のうち前記力センサによって検出した力の向きが所定の範囲内であるものをグループ化して把持側と支持側との2つのグループに分け、
前記把持側の指制御部に対し力制御への切り替えを指令し、
前記支持側の指制御部に対し位置制御への切り替えを指令することを特徴とする請求項1記載のマニピュレータの制御装置。
【請求項4】
前記アームは複数の関節を有する垂直多関節ロボットであることを特徴とする請求項1記載のマニピュレータの制御装置。
【請求項5】
先端部に各々力センサを設けた複数の指を備えた多指ハンドと、前記多指ハンドを先端に装着したアームとからなるマニピュレータの制御方法において、
前記アームの先端部の加速度、速度または移動距離の少なくとも1つと、前記アームの先端部の位置姿勢を含む前記アームの動作状態に応じて前記指ごとに位置制御と前記力センサの出力に応じた力制御とを切り替えて制御を行うことを特徴とするマニピュレータの制御方法。
【請求項6】
前記複数の指のうち前記力センサによって検出した力の向きが所定の範囲内であるものをグループ化して把持側と支持側との2つのグループに分け、前記把持側の指を力制御に切り替えて動作させ、前記支持側の指を位置制御に切り替えて動作させることを特徴とする請求項5記載のマニピュレータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−69584(P2010−69584A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240993(P2008−240993)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】