説明

マニピュレータ装置およびマニピュレータの制御方法

【課題】先端部の形状を有効に利用して把持する物体の姿勢制御を行うことができるマニピュレータ装置および制御方法を提供する。
【解決手段】各先端アーム20,30の先端には、先端アーム本体52,72に対して捻転可能であり、物体に当接可能な凸曲面状の先端曲面部53,73を備える。第一駆動手段54a,54b,74a,74bにより、先端アーム本体52,72の基部に対する位置、姿勢の変更により、先端曲面部53,73の物体との接触位置における先端アーム軸に対する接触角度を変更できる。第二駆動手段54c、74cにより、先端アーム本体52,72に対する先端曲面部53,73の先端アーム軸周りの捻転角度を変更できる。制御手段2は、接触角度を変更すると共に捻転角度を変更することにより、接触角度に応じた物体の動作を物体に行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ロボットハンドなどのマニピュレータ装置およびマニピュレータの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットハンドなどのマニピュレータとしては、国際公開第2005/102619号(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1に記載のロボットハンドは、指先部が指根元部に対して捻転させることが記載されている。また、非特許文献1にも、指先旋回軸を有する多指ハンドについて記載されている。その他に、ロボットハンドについて種々の研究がされている。例えば、特許文献2〜5には、種々のロボットハンドが記載されている。
【0003】
ここで、特許文献1に記載のロボットハンドは、捻転する部材が円柱状の外周面のみを用いているため、物体の動作は1つの回転軸のみである。一方、非特許文献1には、物体に2つの回転軸の動作をさせることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/102619号
【特許文献2】特開昭60−167792号公報
【特許文献3】特開平3−239491号公報
【特許文献4】特開2005−144573号公報
【特許文献5】特開2008−87105号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】菅野了也、並木明夫「指先旋回軸を有する多指ハンドを用いた把持物体の姿勢制御」、ロボティクス・メカトロニクス講演会2009 講演論文集、2009年5月24日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1〜5および非特許文献2には、ロボットハンドの先端を球面凸状に形成されているものがあるが、この形状を積極的に物体の姿勢制御に利用することはされていない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、先端部の形状を有効に利用して把持する物体の姿勢制御を行うことができるマニピュレータ装置およびマニピュレータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(マニピュレータ装置)
上記の課題を解決するため、本発明のマニピュレータ装置は、先端部を捻転する構造とし、且つ、当該先端部を凸曲面状に形成した上で、先端部の捻転軸(先端アーム軸)に対する物体との接触角度を変更すると共に先端部の捻転角度を変更することにより、接触角度に応じた物体の動作を物体に行わせるようにした。
【0009】
すなわち、本発明のマニピュレータ装置は、
基部と、前記基部に連結され先端にて物体を把持可能な複数の先端アームと、前記基部に対する前記先端アームの位置および姿勢を変更する駆動手段と、前記駆動手段を制御することにより前記物体の位置および姿勢を制御する制御手段と、を備えるマニピュレータ装置であって、
各前記先端アームは、
前記基部に対して少なくとも1自由度を有するように連結された先端アーム本体と、
前記先端アーム本体に対して前記先端アーム本体の基端側から先端側に向かう先端アーム軸を中心に捻転可能となるように前記先端アーム本体の先端に設けられ、前記物体に当接可能な先端表面が凸曲面状に形成されている先端曲面部と、
を備え、
前記駆動手段は、
複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを変更することにより、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更可能な第一駆動手段と、
複数の前記先端アームの少なくとも一つにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能な第二駆動手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更しながら、前記先端曲面部を前記物体に対して相対的に転がり運動するように、前記第一駆動手段および前記第二駆動手段を制御することにより、前記接触角度に応じた前記物体の姿勢に制御することとする。
【0010】
このように、本発明によれば、把持する物体の姿勢を制御する際に、先端曲面部の凸曲面形状を有効に利用している。具体的には、先端曲面部のうち物体との接触位置における先端アーム軸に対する接触角度を変更することに加えて、先端曲面部の先端アーム軸周りの捻転角度を変更している。特に、物体の姿勢を変更しながら、位置を変更可能となる。例えば、物体に所定の第一軸周りに回転させながら、第一軸に直交する第二軸周りに回転させることができる。この動作により、接触角度に応じた物体の姿勢の変更を行うことができる。つまり、物体の姿勢制御の自由度が従来に比べて高くなる。
【0011】
ここで、物体の形状や把持する位置によって、物体が安定した姿勢は異なる。本発明によれば、物体を把持する際において、物体と接触する位置は先端曲面部である。そのため、物体を把持する際に、先端曲面部のうち物体との接触位置は、物体が安定した姿勢となるように、変化していく。つまり、本発明によれば、先端曲面部によって物体を把持するため、物体の形状や把持する位置に関わりなく、安定して物体を把持することができる。
【0012】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記制御手段は、第一の前記先端アームの前記先端曲面部の前記接触位置と第二の前記先端アームの前記先端曲面部の前記接触位置とを結ぶ軸方向が目的の方向に一致するように、前記第一駆動手段により前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを制御してもよい。
【0013】
ここで、複数の先端曲面部が先端曲面部の物体との接触位置における接触角度を変更しながら転がり運動する場合として、次の場合を例に挙げて説明する。2つの先端アームにより物体を把持している状態において、先端アーム本体の動作により第一軸周りに回転させ、両先端アームの先端曲面部の捻転により第一軸に直交する第二軸周りに回転させようとする場合を考える。ところが、この場合、それぞれの先端曲面部と物体との接触位置とを結ぶ軸方向が常に平行となるように動作させると、第二軸は平行な状態を保つことができない。つまり、物体を本来の第二軸周りに回転させることができていない。これは、それぞれの先端曲面部と物体との接触位置とを結ぶ軸方向と、第二軸とが常に一定ではないためである。そこで、第二軸を平行な状態に保つためには、それぞれの先端曲面部と物体との接触位置とを結ぶ軸方向を積極的に変更するように制御することで達成できる。つまり、本発明によれば、物体を第一軸周りに回転させながら、第二軸周りに回転させることができる。
【0014】
また、本発明のマニピュレータ装置において、前記先端曲面部の表面は、弾性変形可能でとしてもよい。これにより、先端曲面部によって物体を把持する際に、先端曲面部が物体を押圧することによって、先端曲面部の表面が潰れるように弾性変形する。物体がどのような形状であっても、例えば、物体のうち先端曲面部に当接する部位が平面状の場合であっても、先端曲面部と物体は面接触が可能となる。つまり、先端曲面部は物体に対して、トルク(回転力)を伝達することができる。従って、確実に物体を回転させることができる。
【0015】
また、本発明のマニピュレータ装置において、前記先端曲面部は、球面凸状に形成されるようにしてもよい。これにより、先端曲面部が物体に対して相対的に転がり運動をする際に、先端曲面部の姿勢に対して物体が非常に安定して滑らかに動作することができる。さらに、先端曲面部を球面凸状にすることで、先端曲面部のどの位置が物体に接触しているときに、物体がどのような姿勢となるかを、容易に把握することができる。つまり、物体の姿勢制御が容易となる。
【0016】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記制御手段は、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度に応じて、前記先端曲面部の前記先端アーム本体に対する駆動トルクを制御するようにしてもよい。
【0017】
ここで、同じ駆動トルクを先端曲面部に付与した場合には、先端曲面部における捻転軸上の点が物体に当接する場合(接触角度0°の場合)に、先端曲面部から物体に伝達される発生トルクが最も大きくなり、先端曲面部の捻転軸が先端曲面部と物体との接平面に平行の場合(接触角度90°の場合)に発生トルクが最も小さくなる。そして、接触角度が、0°から90°に変化するにつれて、発生トルクは徐々に小さくなるように変化する。このように、同じ駆動トルクを先端曲面部に付与したとしても、実際に先端曲面部から物体へ伝達される発生トルクは変化する。そこで、本発明のように、接触角度に応じて駆動トルクを変えることで、常に同じ発生トルクを与えることができる。もちろん、発生トルクを積極的に変化させることもでき、この場合には、その発生トルクに応じた駆動トルクを出力することになる。
【0018】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記マニピュレータ装置は、前記先端アームに設けられ、前記先端曲面部が前記物体に対して接触することにより生じる力を検出するセンサをさらに備え、
前記制御手段は、前記センサにより検出される前記力に基づいて、前記第二駆動手段を制御するようにしてもよい。
【0019】
これにより、2つの先端アームの位置および姿勢の制御をより高精度に行うことができ、所望の物体の位置および姿勢とすることができる。
【0020】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記第二駆動手段は、複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能としてもよい。
【0021】
つまり、複数の先端アームのそれぞれの先端曲面部の捻転角度を制御できるようになる。これにより、より複雑な物体の位置および姿勢の変化を実現することができる。つまり、物体の位置および姿勢の自由度が高くなる。
【0022】
また、上述したように、複数の先端アームのそれぞれの先端曲面部の捻転角度を制御できる場合には、前記先端アーム本体は、前記基部に対して少なくとも2自由度を有するように連結されるようにしてもよい。このようにすることで、物体に直進軸3軸と回転軸3軸の合計6自由度を有するようにできる。
【0023】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記第二駆動手段は、複数の前記先端アームの何れかにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能であり、
複数の前記先端アームの残りにおける前記先端曲面部は、前記物体の相対移動に伴って前記先端アーム本体に対する前記先端アーム軸周りに従動捻転するようにしてもよい。
【0024】
この場合、例えば、先端アームが2つの場合には、1つの先端アームにおける先端曲面部の捻転角度を制御することができ、もう1つの先端アームにおける先端曲面部は、従動捻転することになる。これにより、駆動手段が少なくすることにより、低コスト化を図りつつ、姿勢変更が可能となる。
【0025】
また、本発明のマニピュレータ装置において、
前記先端アームは、3つ以上であり、
前記第二駆動手段は、少なくとも2つの前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能であり、
複数の前記先端アームの残りにおける前記先端曲面部は、前記物体の相対移動に伴って前記先端アーム本体に対する前記先端アーム軸周りに従動捻転するようにしてもよい。
【0026】
つまり、3つの先端アームの場合には、2つの先端アームにおける先端曲面部の捻転角度を制御することができ、残りの1つの先端アームにおける先端曲面部は、従動捻転することになる。これにより、十分に、複雑な動きが可能となる。また、少なくとも1つの先端曲面部を従動捻転させることで、安定した物体の位置および姿勢を制御できる。
【0027】
(マニピュレータの制御方法)
上述においては、本発明をマニピュレータ装置として把握して説明した。この他に、本発明は、マニピュレータの制御方法としても把握することができる。本発明のマニピュレータの制御方法は、先端部を捻転する構造とし、且つ、当該先端部を凸曲面状に形成した上で、先端部の捻転軸(先端アーム軸)に対する物体との接触角度を変更すると共に先端部の捻転角度を変更することにより、接触角度に応じた物体の動作を物体に行わせるようにした。
【0028】
すなわち、本発明のマニピュレータの制御方法は、
基部と、前記基部に連結され先端にて物体を把持可能な複数の先端アームと、を備えるマニピュレータの制御方法であって、
各前記先端アームは、
前記基部に対して少なくとも1自由度を有するように連結された先端アーム本体と、
前記先端アーム本体に対して前記先端アーム本体の基端側から先端側に向かう先端アーム軸を中心に捻転可能となるように前記先端アーム本体の先端に設けられ、前記物体に当接可能な先端表面が凸曲面状に形成されている先端曲面部と、
を備え、
前記制御方法は、
複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを変更することにより、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更させながら、前記先端曲面部を前記物体に対して相対的に転がり運動するように、制御することにより、前記接触角度に応じた前記物体の姿勢に制御することである。
【0029】
本発明によれば、把持する物体の姿勢を制御する際に、先端曲面部の凸曲面形状を有効に利用している。具体的には、先端曲面部のうち物体との接触位置における先端アーム軸に対する接触角度を変更することに加えて、先端曲面部の先端アーム軸周りの捻転角度を変更している。特に、物体の姿勢を変更しながら、位置を変更可能となる。例えば、物体に所定の第一軸周りに回転させながら、第一軸に直交する第二軸周りに回転させることができる。この動作により、接触角度に応じた物体の姿勢の変更を行うことができる。つまり、物体の姿勢制御の自由度が従来に比べて高くなる。
【0030】
ここで、物体の形状や把持する位置によって、物体が安定した姿勢は異なる。本発明によれば、物体を把持する際において、物体と接触する位置は先端曲面部である。そのため、物体を把持する際に、先端曲面部のうち物体との接触位置は、物体が安定した姿勢となるように、変化していく。つまり、本発明によれば、先端曲面部によって物体を把持するため、物体の形状や把持する位置に関わりなく、安定して物体を把持することができる。
【0031】
また、上述した本発明のマニピュレータ装置における他の特徴部分について、本発明のマニピュレータの制御方法にも、実質的に同様に適用できる。この場合、同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第一実施形態:マニピュレータ装置の全体構成を示す図である。
【図2】マニピュレータ装置の各関節部を通る断面図である。
【図3】マニピュレータのモデル図である。
【図4】物体に第一動作をさせる場合のマニピュレータのモデル図である。
【図5】物体に第二動作をさせる場合のマニピュレータのモデル図である。
【図6】物体に第三動作をさせる場合のマニピュレータのモデル図である。
【図7】物体に第四動作をさせる場合のマニピュレータのモデル図である。(a)(b)(c)(d)は、時系列にマニピュレータの動作を示す図である。
【図8】第四実施形態:マニピュレータのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第一実施形態>
第一実施形態のマニピュレータ装置について、図1〜図9を参照して説明する。本実施形態のマニピュレータ装置は、機械構造部分に相当するマニピュレータと、マニピュレータを制御する制御装置とにより構成される。このマニピュレータ装置は、種々の物体を把持し、把持した物体の位置および姿勢を変更することができる。ここで、物体の位置とは、例えば、3次元座標における位置を意味し、物体の姿勢とは、3次元座標系において物体の向きを意味する。つまり、物体の位置は、3次元座標により表すことができ、物体の姿勢は、ベクトルにより表すことができる。以下に、詳細に説明する。
【0034】
(マニピュレータ装置の構成)
本実施形態のマニピュレータ装置の構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、マニピュレータ装置は、マニピュレータ1と、制御装置2とから構成される。
【0035】
マニピュレータ装置を構成するマニピュレータ1と制御装置2の概要は、次のとおりである。マニピュレータ1は、2本のアーム20,30により構成され、各アーム20,30の先端曲面部53,73を捻転できる構造からなり、且つ、アーム20,30の先端曲面部53,73を凸曲面状に形成している。そして、アーム20,30の先端曲面部53,73によって、物体を把持可能となる。これらのアーム20,30は、位置および姿勢を変更することができる。制御装置2は、アーム20,30の先端曲面部53,73の捻転軸に対する物体との接触角度を変更すると共に先端曲面部53,73の捻転角度を変更することにより、アーム20,30の位置および姿勢を変更することができる。そして、制御装置2は、アーム20,30の位置および姿勢を変更することにより、物体の位置および姿勢を制御することができる。
【0036】
マニピュレータ1は、詳細には、基部10と、2本のアーム20、30と、駆動用モータ41〜46とから構成される。基部10は、本実施形態においては、固定されている。この基部10は、図2に示すように、基部下側プレート11と、基部上側第一プレート12と、基部上側第二プレート13とから構成されている。基部上側第一プレート12は、基部下側プレート11に対して上側に離間し且つ対向した状態で、複数のピンにより固定されている。基部上側第二プレート13は、基部下側プレート11に対して上側に離間した状態で、複数のピンにより固定されている。基部上側第二プレート13は、基部上側第一プレート12よりも僅かに上側に位置している。
【0037】
第一,第二アーム20,30は、基部10に取り付けられ、それぞれの先端部を基部10に対して移動することができる構成からなる。そして、第一,第二アーム20,30の先端部により、物体を把持し、且つ、物体の位置および姿勢を変更することができる。これら第一,第二アーム20,30は、同一構成からなる。そこで、以下の説明において、第一アーム20について説明することとし、第二アーム30については、対応する部材の符号を括弧書きにて記載する。なお、図2において、括弧なし符号は、第一アーム20を構成する部材を示し、括弧内の符号は、第二アーム30を構成する部材を示す。
【0038】
第一アーム20(30)は、基部側アーム本体51(71)と、先端アーム本体52(72)と、先端曲面部53(73)と、駆動機構54(74)とから構成される。なお、先端アーム本体52(72)と先端曲面部52は、本発明の「先端アーム」を構成する。
【0039】
基部側アーム本体51(71)は、基部10に対して図2の上下軸周りに揺動可能に連結されている。この基部側アーム本体51(71)は、距離を隔てて配置された一対のプレートと、一対のプレートを固定する複数のピンとから構成されている。そして、基部側アーム本体51(71)の基端側(図2の左側)に固定されているピン51a(71a)が、基部10を構成する基部下側プレート11と基部上側第二プレート13に回転可能に支持されている。つまり、基部側アーム本体51(71)の先端側(図2の右側)が、ピン51a(71a)に対して、揺動可能となる。つまり、このピン51a(71a)は、第一関節部の回転中心としてのピンとなる。
【0040】
先端アーム本体52(72)は、先端アーム本体52(72)は、基部側アーム本体51(71)の先端側に対して図2の上下軸周りに揺動可能に連結されている。この先端アーム本体52(72)は、距離を隔てて配置された一対のプレートと、一対のプレートを固定する複数のピンとから構成されている。そして、先端アーム本体52(72)の基端側(図2の左側)に固定されているピン52a(72a)が、基部側アーム本体51(71)の一対のプレートの先端側に回転可能に支持されている。つまり、先端アーム本体52(72)の先端側(図2の右側)が、ピン52a(72a)に対して、揺動可能となる。つまり、このピン52a(72a)が、第二関節部の回転中心としてのピンとなる。
【0041】
先端曲面部53(73)は、先端アーム本体52(72)の先端側に設けられている。この先端曲面部53(73)は、先端アーム本体52(72)に対して、当該先端アーム本体52(72)の基端側から先端側に向かうアーム軸を中心に捻転可能となるようにされている。先端曲面部53(73)の先端表面が、物体に当接可能な部位となる。この先端曲面部53(73)の先端表面は、半球面凸状に形成されている。具体的には、半球面凸状の中央凸部が最も先端側に位置している。そして、先端曲面部53(73)は、物体に当接したときに僅かな範囲で面接触することができる程度に弾性変形可能な材料により形成されている。例えば、先端曲面部53(73)の先端表面は、シリコンゴム(SR)、天然ゴム(NR)、合成ゴム(NBR)、EPDMなどのゴム弾性体により形成されている。
【0042】
駆動機構54(74)は、基部側アーム本体51(71)を基部10に対して揺動可能とする第一駆動機構54a(74a)と、先端アーム本体52(72)を基部側アーム本体51(71)に対して揺動可能とする第二駆動機構54b(74b)と、先端曲面部53(73)を先端アーム本体52(72)に対して揺動可能とする第三駆動機構54c(74c)とから構成される。なお、駆動源は、後述する駆動用モータ41〜46である。
【0043】
第一駆動機構54a(74a)は、第一プーリ101(201)と、第一駆動ベルト102(201)とから構成される。第一プーリ101(201)は、基部側アーム本体51(71)の基端側に固定されているピン51a(71a)に固定されている。第一駆動ベルト102(202)は、後述する第一駆動用モータ41(44)の出力軸と、第一プーリ101(201)とを懸架している。つまり、第一駆動ベルト102(202)は、第一駆動用モータ41(44)の駆動力を第一プーリ101(202)に伝達し、ピン51a(71a)を回転駆動している。
【0044】
第二駆動機構54b(74b)は、第二プーリ111(211)と、第三プーリ112(212)と、第二駆動ベルト113(213)と、第三駆動ベルト114(214)とから構成される。第二プーリ111(211)は、基部側アーム本体51(71)の基端側に固定されているピン51a(71a)に回転可能に支持されている。第三プーリ112(212)は、先端アーム本体52(72)の基端側に固定されているピン52a(72a)に固定されている。第二駆動ベルト113(213)は、後述する第二駆動用モータ42(45)の出力軸と、第二プーリ111(211)とを懸架している。つまり、第二駆動ベルト113(213)は、第二駆動用モータ42(45)の駆動力を第二プーリ111(211)に伝達している。第三駆動ベルト114(214)は、第二プーリ111(211)と第三プーリ112(212)とを懸架している。つまり、第三駆動ベルト114(214)は、第二プーリ111(211)の回転力を第三プーリ112(212)に伝達し、ピン52a(72a)を回転駆動している。
【0045】
第三駆動機構54c(74c)は、駆動側ベベルギヤ121(221)と、従動側ベベルギヤ122(222)と、第四プーリ123(223)と、第五プーリ124(224)と、第六プーリ125(225)と、第四駆動ベルト126(226)と、第五駆動ベルト127(227)とから構成される。駆動側ベベルギヤ121(221)は、先端アーム本体52(72)に、図2の上下軸周りに回転可能に支持されている。従動側ベベルギヤ122(222)は、先端アーム本体52(72)のアーム軸周りに回転可能となるように、先端アーム本体52(72)に支持されている。そして、従動側ベベルギヤ122(222)は、駆動側ベベルギヤ121(221)に噛合している。つまり、従動側ベベルギヤ122(222)は、駆動側ベベルギヤ121(221)の図2の上下軸周りの回転を、アーム軸周りの回転に変換している。そして、従動側ベベルギヤ122(222)の先端側は、先端曲面部53(73)に固定されている。
【0046】
第四プーリ123(223)は、基部側アーム本体51(71)の基端側に固定されているピン51a(71a)に、回転可能に支持されている。第五プーリ124(224)は、先端アーム本体52(72)の基端側に固定されているピン52a(72a)に、回転可能に支持されている。第六プーリ125(225)は、駆動側ベベルギヤ121(221)の軸に固定されている。
【0047】
第四駆動ベルト126(226)は、後述する第三駆動用モータ43(46)の出力軸と、第四プーリ123(223)とを懸架している。つまり、第四駆動ベルト126(226)は、第三駆動用モータ43(46)の駆動力を第四プーリ123(223)に伝達している。第五駆動ベルト127(227)は、第四プーリ123(223)と第五プーリ124(224)とを懸架している。つまり、第五駆動ベルト127(227)は、第四プーリ123(223)の回転力を第五プーリ124(224)に伝達している。第六駆動ベルト128(228)は、第五プーリ124(224)と第六プーリ125(225)とを懸架している。つまり、第六駆動ベルト128(228)は、第五プーリ124(224)の回転力を第六プーリ125(225)に伝達し、駆動側ベベルギヤ121(221)を回転駆動している。
【0048】
第一駆動用モータ41(44)は、基部下側プレート11に固定されている。この第一駆動用モータ41(44)には、例えば、DCモータを適用している。さらに、第一駆動用モータ41(44)は、エンコーダを有している。そして、第一駆動用モータ41(44)の出力軸には、第一駆動ベルト102(202)が懸架されている。つまり、第一駆動用モータ41(44)は、第一駆動機構54a(74a)を介して、基部側アーム本体51(71)を基部10に対して揺動する。
【0049】
第二駆動用モータ42(45)は、基部上側第二プレート13に固定されている。この第二駆動用モータ42(45)には、例えば、DCモータを適用している。さらに、第二駆動用モータ42(45)は、エンコーダを有している。そして、第二駆動用モータ42(45)の出力軸には、第二駆動ベルト113(213)が懸架されている。つまり、第二駆動用モータ42(45)は、第二駆動機構54b(74b)を介して、先端アーム本体52(72)を、基部側アーム本体51(71)に対して揺動する。
【0050】
第三駆動用モータ43(46)は、基部上側第一プレート12に固定されている。この第三駆動用モータ43(46)には、例えば、DCモータを適用している。さらに、第三駆動用モータ43(46)は、エンコーダを有している。そして、第三駆動用モータ43(46)の出力軸には、第四駆動ベルト126(226)が懸架されている。つまり、第三駆動用モータ43(46)は、第三駆動機構54c(74c)を介して、先端曲面部53(73)を、先端アーム本体52(72)に対してアーム軸周りに捻転する。
【0051】
そして、制御装置2は、各駆動用モータ41〜46のエンコーダの出力値に基づいて、各駆動用モータ41〜46をそれぞれフィードバック制御する。つまり、制御装置2は、それぞれの先端曲面部53(73)の基部10に対する位置を制御すると共に、先端曲面部53(73)の捻転角度を制御する。従って、制御装置2は、各駆動用モータ41〜46をそれぞれ制御することによって、物体の位置および姿勢を制御することになる。
【0052】
図3のモデル図に示すように、基部側アーム本体51(71)は、第一駆動機構54a(74a)により基部10に対して揺動し、先端アーム本体52(72)は、第二駆動機構54b(74b)により基部側アーム本体51(71)に対して揺動し、先端曲面部53(73)は、第三駆動機構54c(74c)により先端アーム本体52(72)に対して捻転する。
【0053】
ここで、それぞれの先端曲面部53,73は、その先端表面における球面凸状のどの位置であっても物体を把持することができる。そして、第一アーム20の先端曲面部53のうち物体との接触位置をPとし、第二アーム30の先端曲面部73のうち物体との接触位置をQとする。
【0054】
また、接触位置Pにおける、第一アーム20の先端アーム本体52のアーム軸に対する接触角度をφ1とする。ここで、接触角度φ1とは、接触位置Pの法線と、アーム軸とのなす角度である。従って、接触角度φ1が0°の場合は、接触位置Pがアーム軸上に位置している状態、先端曲面部53の先端が物体に接触している状態である。また、接触角度φ1が90°の場合には、先端曲面部53の基端側が物体に接触している状態である。
【0055】
また、接触位置Qにおける、第二アーム30の先端アーム本体72のアーム軸に対する接触角度をφ2とする。ここで、接触角度φ2とは、接触位置Qの法線と、アーム軸とのなす角度である。従って、接触角度φ2が0°の場合は、接触位置Qがアーム軸上に位置している状態、先端曲面部73の先端が物体に接触している状態である。また、接触角度φ2が90°の場合には、先端曲面部73の基端側が物体に接触している状態である。
【0056】
つまり、第一駆動機構54aおよび第二駆動機構54bは、第一アーム20の先端アーム本体52の位置及び姿勢を変更することにより、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1を変更可能とするものである。第一駆動機構74aおよび第二駆動機構74bは、第二アーム30の先端アーム本体72の位置及び姿勢を変更することにより、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2を変更可能とするものである。また、第三駆動機構54cは、先端アーム本体52,72に対する先端曲面部53,73のアーム軸周りの捻転角度を変更可能とするものである。
【0057】
(マニピュレータ1の動作)
次に、上述したマニピュレータ1が動作することにより、マニピュレータ1により把持する物体がどのように動作するかについて説明する。マニピュレータ1の動作は、上述したように、制御装置2によって制御されている。ここで、物体は、先端曲面部53,73を捻転させる場合には、先端曲面部53,73における接触角度φ1,φ2に応じた動作となる。つまり、接触角度φ1,φ2を変更することにより、マニピュレータ1により把持する物体の動作は、多数実現できる。以下に、それぞれの動作について説明する。
【0058】
(第一動作)
まず、物体に第一動作をさせる場合における、マニピュレータ1の動作について、図4を参照して説明する。ここで、第一動作とは、Z軸方向の移動である。また、この第一動作をさせる物体は、便宜上、直方体としている。そして、物体における直方体の対向する面を、それぞれの先端曲面部53,73により挟持している。
【0059】
この場合、図4に示すように、一方の先端アーム本体52のアーム軸と、他方の先端アーム本体72のアーム軸とが、平行となるように、第一,第二駆動用モータ41,42,44,45を駆動する。ここでは、両アーム軸が、Y軸に平行となるように、それぞれの第一関節角度および第二関節角度を制御している。ここで、第一関節角度とは、基部10に対する基部側アーム本体51,71の揺動角度を意味し、第二関節角度とは、基部側アーム本体51,71に対する先端アーム本体52,72の揺動角度を意味する。また、捻転角度とは、先端アーム本体52,72に対する先端曲面部53のアーム軸周りの角度を意味する。
【0060】
このように、先端アーム本体52,72のアーム軸が平行になることで、先端曲面部53,73の捻転軸は、平行となる。つまり、この場合、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1(図3に示す)は、90°であり、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2(図3に示す)は、90°である。そして、この状態で、一方の先端曲面部53の回転方向と他方の先端曲面部73の回転方向が逆方向となるように、それぞれの第三駆動用モータ43,46を駆動する。その結果、物体は、Z軸方向に移動する。
【0061】
(第二動作)
次に、物体に第二動作をさせる場合における、マニピュレータ1の動作について、図5を参照して説明する。ここで、第二動作とは、Y軸周りに回転する動作である。また、この第二動作をさせる物体は、便宜上、円柱状としている。そして、物体における円柱状の周面を、それぞれの先端曲面部53,73により挟持している。
【0062】
この場合、図5に示すように、一方の先端アーム本体52のアーム軸と、他方の先端アーム本体72のアーム軸とが、Y軸に平行となるように、第一,第二駆動用モータ41,42,44,45を駆動する。このように、先端アーム本体52,72のアーム軸がY軸に平行になることで、先端曲面部53,73の捻転軸は、Y軸に平行となる。つまり、この場合、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1(図3に示す)は、90°であり、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2(図3に示す)は、90°である。
【0063】
そして、この状態で、一方の先端曲面部53の回転方向と他方の先端曲面部73の回転方向が同じ方向となるように、それぞれの第三駆動用モータ43,46を駆動する。さらに、先端曲面部53,73の先端表面は、ゴムなどの弾性変形可能な材料に形成されている。従って、先端曲面部53,73と物体とは面接触している。その結果、物体は、Y軸周りに回転する動作を行う。
【0064】
(第三動作)
次に、物体に第三動作をさせる場合における、マニピュレータ1の動作について、図6(a)(b)(c)を参照して説明する。ここで、第三動作は、X軸周りに回転する動作である。そして、図6(a)(b)(c)は、何れも、物体に第三動作をさせる場合について示している。また、この第三動作をさせる物体は、便宜上、直方体としている。そして、物体における直方体の対向する面を、それぞれの先端曲面部53,73により挟持している。
【0065】
図6(a)について説明する。図6(a)に示すように、一方の先端アーム本体52のアーム軸と他方の先端アーム本体72のアーム軸とが、X軸に平行であって、同軸上に位置するように、第一,第二駆動用モータ41,42,44,45を駆動する。この場合、先端曲面部53,73の捻転軸は、X軸に平行であって、同軸上に位置することになる。つまり、この場合、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1(図3に示す)は、0°であり、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2(図3に示す)は、0°である。そして、この状態で、一方の先端曲面部53の回転方向と他方の先端曲面部73の回転方向がX軸周りに同じ方向となるように、それぞれの第三駆動用モータ43,46を駆動する。その結果、物体は、X軸周りに回転する動作を行う。
【0066】
図6(b)について説明する。図6(b)に示すように、第一アーム20と第二アーム30とは、X軸直交平面に対して対称的な形状となるように、第一関節角度および第二関節角度が決定されている。さらに、一方の先端アーム本体52のアーム軸とY軸とのなす角度θ1が、0°<θ1<180°となるように位置決めされている。また、他方の先端アーム本体52のアーム軸とY軸とのなす角度θ2は、角度θ1に一致するように位置決めされている。このとき、一方の先端アーム本体52のアーム軸と他方の先端アーム本体72のアーム軸とが交差するようにしている。
【0067】
この場合、一方の先端曲面部53のうち物体との接触位置(接触範囲の中心点)は、P1となる。他方の先端曲面部73のうち物体との接触位置(接触範囲の中心点)は、Q1となる。ここで、一方の先端曲面部53が把持している物体の面において、一方の先端アーム本体52のアーム軸上に位置する点は、A1となる。また、他方の先端曲面部73が把持している物体の面において、他方の先端アーム本体72のアーム軸上に位置する点は、B1となる。そして、接触位置P1とアーム軸上点A1との離間距離と、接触位置Q1とアーム軸上点B1との離間距離とは、一致するようにしている。また、一方の接触位置P1と他方の接触位置Q1とを結ぶ直線は、X軸に平行となる。従って、一方のアーム軸上点A1と他方のアーム軸上点B1とを結ぶ直線も、X軸に平行となる。
【0068】
この場合、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1(図3に示す)は、約45°であり、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2(図3に示す)は、45°である。この状態で、一方の先端曲面部53の回転方向と他方の先端曲面部73の回転方向がX軸直交平面に対して対称となる回転方向となるように、それぞれの第三駆動用モータ43,46を駆動する。そうすると、それぞれの先端曲面部53,73における接触位置P1,Q1が、それぞれのアーム軸周りに回転する。その結果、物体は、一方のアーム軸上点A1と他方のアーム軸上点B1とを結ぶ直線軸周りに回転する動作を行う。このとき、それぞれの先端曲面部53,73と物体とが相対的に転がり運動するように動作している。つまり、物体は、X軸周りに回転する。
【0069】
図6(c)について説明する。図6(c)に示すように、第一アーム20と第二アーム30とは、X軸直交平面に対して非対称的な形状となるように、第一関節角度および第二関節角度が決定されている。さらに、一方の先端アーム本体52のアーム軸とY軸とのなす角度θ3が、0°≦θ3<180°となるように位置決めされている。これに対して、他方の先端アーム本体52のアーム軸とY軸とのなす角度θ4(図示せず)は、0°≦θ4<180°であって、角度θ3と異なるように位置決めされている。ただし、一方の先端アーム本体52のアーム軸と他方の先端アーム本体72のアーム軸とが交差するようにしている。なお、図6(c)においては、角度θ4を0°としているため、図示していない。
【0070】
この場合、一方の先端曲面部53のうち物体との接触位置は、P2となる。他方の先端曲面部73のうち物体との接触位置は、Q2となる。ここで、一方の先端曲面部53が把持している物体の面において、一方の先端アーム本体52のアーム軸上に位置する点は、A2となる。また、他方の先端曲面部73が把持している物体の面において、他方の先端アーム本体72のアーム軸上に位置する点は、B2となる。そして、接触位置P2とアーム軸上点A2との離間距離は、接触位置Q2とアーム軸上点B2との離間距離と異なるようにしている。また、一方のアーム軸上点A2と他方のアーム軸上点B2とを結ぶ直線が、X軸に平行となるようにしている。つまり、一方の接触位置P2と他方の接触位置Q2とを結ぶ直線は、X軸に平行とはならない。
【0071】
この場合、第一アーム20の先端曲面部53における接触角度φ1(図3に示す)は、約45°であり、第二アーム30の先端曲面部73における接触角度φ2(図3に示す)は、ほぼ0°である。この状態で、それぞれの第三駆動用モータ43,46を駆動する。このとき、一方の第三駆動用モータ43による駆動トルクと、他方の第三駆動用モータ46による駆動トルクとは、異なるようにしている。
【0072】
ここで、第三駆動用モータ43,46が常に一定の駆動トルクを出力している場合には、先端曲面部53,73の回転力が物体に伝達する力(発生トルク)は、接触角度φ1,φ2に応じて異なる。例えば、第三駆動用モータ43,46が常に一定の駆動トルクを出力している場合には、接触角度φ1,φ2が0°の場合が最も発生トルクが大きくなり、接触角度φ1,φ2が大きくなるにつれて発生トルクが小さくなる。そして、上述したように、図6(c)の状態では、一方の接触角度φ1と他方の接触角度φ2が異なる。そこで、X軸周りの発生トルクが同一となるように、それぞれの第三駆動用モータ43,46の駆動トルクを異なるように制御する。
【0073】
そうすると、それぞれの先端曲面部53,73における接触位置P2,Q2が、それぞれのアーム軸周りに回転すると共に、それぞれの先端曲面部53,73によるX軸周りの発生トルクも同一となる。このとき、少なくとも先端曲面部53と物体とが相対的に転がり運動するように動作している。その結果、物体は、一方のアーム軸上点A2と他方のアーム軸上点B2とを結ぶ直線軸周りに回転する動作を行う。つまり、物体は、X軸周りに回転する。
【0074】
(第四動作)
次に、物体に第四動作をさせる場合における、マニピュレータ1の動作について、図7を参照して説明する。ここで、第四動作とは、X軸周りに回転しながら、同時にZ軸周りに回転する動作である。また、この第四動作をさせる物体は、便宜上、直方体としている。そして、物体における直方体の対向する面を、それぞれの先端曲面部53,73により挟持している。
【0075】
第四動作は、上述した第三動作(X軸周りの回転)を行いながら、Z軸周りに回転する動作を行うものである。ここで、本実施形態のマニピュレータ1は、基部側アーム本体51,71および先端アーム本体52,72の位置を制御することにより、物体をZ軸周りに回転させることができる。また、第三動作において、図6(a)(b)(c)にて示したように、各アーム20,30がどのような位置にある場合であっても、物体をX軸周りに回転させることができることを説明した。つまり、両者を同時に制御することで、第四動作を実現することができる。以下に、図7を参照して説明する。
【0076】
まず、図7(a)に示すように、基部側アーム本体51,71および先端アーム本体52,72を位置決めする。そして、それぞれの先端曲面部53,73を捻転させる。この状態は、第三動作を説明する図6(b)にて説明した状態に一致する。つまり、接触角度φ1,φ2(図3に示す)を変更しながら、先端曲面部53,73と物体とが相対的に転がり運動するように動作する。
【0077】
続いて、図7(b)に示すように、先端曲面部53,73の位置が、Z軸周りに回転するように、基部側アーム本体51,71および先端アーム本体52,72を移動させる。そして、図7(b)に示す状態は、第三動作を説明する図6(c)にて説明した状態に一致する。そして、図7(a)から図7(b)の状態に移行する間において、物体におけるそれぞれのアーム軸上点(図6(c)における点A2,B2)がX軸に平行な状態を維持するように、一方の先端曲面部53と物体との接触位置および他方の先端曲面部73と物体との接触位置が、徐々に変化する。
【0078】
続いて、図7(c)に示すように、先端曲面部53,73の位置が、Z軸周りに回転するように、基部側アーム本体51,71および先端アーム本体52,72を移動させる。続いて、図7(d)に示すように、先端曲面部53,73の位置が、Z軸周りに回転するように、基部側アーム本体51,71および先端アーム本体52,72を移動させる。この図7(d)の状態は、図7(b)のX軸直交平面に対称的な状態となる。そして、図7(a)に戻る。このように、物体を、X軸周りに回転させながら、同時にZ軸周りに回転させることができる。
【0079】
(効果)
以上説明したように、本実施形態のマニピュレータ装置によれば、把持する物体の姿勢を制御する際に、先端曲面部53,73の凸曲面形状を有効に利用している。具体的には、先端曲面部53,73のうち物体との接触位置P,Qにおけるアーム軸に対する接触角度φ1,φ2を変更することに加えて、先端曲面部53,73のアーム軸周りの捻転角度を変更している。この動作により、接触角度φ1,φ2に応じた物体の姿勢の変更を行うことができる。つまり、物体の姿勢制御の自由度が従来に比べて高くなる。
【0080】
ここで、物体の形状や把持する位置によって、物体が安定した姿勢は異なる。本実施形態のマニピュレータ装置によれば、物体を把持する際において、物体と接触する位置は先端曲面部53,73である。そのため、物体を把持する際に、先端曲面部53,73のうち物体との接触位置P,Qは、物体が安定した姿勢となるように、変化していく。つまり、先端曲面部53,73によって物体を把持するため、物体の形状や把持する位置に関わりなく、安定して物体を把持することができる。
【0081】
<第二実施形態>
第二実施形態のマニピュレータ装置について説明する。本実施形態のマニピュレータ装置は、先端曲面部53,73の先端表面に力センサを設けている。この力センサは、先端曲面部53,73が物体に接触することにより生じる力を検出する。そして、制御装置2が、この力センサにより検出する力に基づいて、各駆動用モータ41〜46を制御する。これにより、第一,第二アーム20,30の位置および姿勢の制御をより高精度に行うことができ、所望の物体の位置および姿勢とすることができる。なお、力センサの位置は、例えば、従動側ベベルギヤ122,222に設け、従動側ベベルギヤ122,222に係る力を検出することもできる。
【0082】
<第三実施形態>
第三実施形態のマニピュレータ装置について説明する。第一実施形態においては、先端曲面部53,73は、それぞれ第三駆動用モータ43,46により捻転角度を変更可能とした。つまり、第一実施形態においては、制御装置2により、先端曲面部53,73の捻転角度を制御することとした。
【0083】
この他に、一方の先端曲面部73の回転を駆動するための第三駆動機構74cをなくすようにすることもできる。つまり、第一アーム20の先端曲面部53は、第三駆動用モータ43により捻転角度を制御することができるが、第二アーム30の先端曲面部73は、捻転角度を制御できない。つまり、物体の位置および姿勢の変更は、第一駆動用モータ41,44、第二駆動用モータ42,45および第三駆動用モータ43により行われる。この場合、第二アーム30の先端曲面部73は、物体の位置または姿勢の変更に伴って、従動捻転する。この場合、駆動手段が少なくなる。その結果、低コスト化を図りつつ、物体の位置および姿勢の変更が可能となる。ただし、第一実施形態に比べると、物体の位置および姿勢の変更の自由度は低くなる。
【0084】
<第四実施形態>
第四実施形態のマニピュレータ装置について図8を参照して説明する。第一実施形態においては、2つのアーム20,30を有する構成とした。本実施形態のマニピュレータ装置は、図8に示すように、3つのアームを有する構成とする。3つのアームのうち、2つのアームの構成は、第一実施形態のアームと同様の構成からなる。残りの1つのアームは、先端曲面部の駆動機構がない構成とする。つまり、当該残りの1つのアームの先端曲面部は、捻転角度の制御ができず、従動捻転する。
【0085】
つまり、3つのアームの場合には、2つのアームにおける先端曲面部の捻転角度を制御することができ、残りの1つのアームにおける先端曲面部は、従動捻転することになる。これにより、十分に、複雑な動きが可能となる。また、少なくとも1つの先端曲面部を従動捻転させることで、安定した物体の位置および姿勢を制御できる。
【符号の説明】
【0086】
1:マニピュレータ、 2:制御装置
10:基部、 11:基部下側プレート、 12:基部上側第一プレート
13:基部上側第二プレート
20:第一アーム、 30:第二アーム
41,44:第一駆動用モータ、 42,45:第二駆動用モータ
43,46:第三駆動用モータ
51,71:基部側アーム本体、 51a:ピン
52,72:先端アーム本体、 52a:ピン
53,73:先端曲面部
54:駆動機構、 54a,74a:第一駆動機構(第一駆動手段)
54b,74b:第二駆動機構(第一駆動手段)
54c,74c:第三駆動機構(第二駆動手段)
101:第一プーリ、 102:第一駆動ベルト
111:第二プーリ、 112:第三プーリ、 113:第二駆動ベルト
114:第三駆動ベルト
121:駆動側ベベルギヤ、 122:従動側ベベルギヤ、 123:第四プーリ
124:第五プーリ、 125:第六プーリ、 126:第四駆動ベルト
127:第五駆動ベルト、 128:第六駆動ベルト
A1,A2,B1,B2:アーム軸上点
P,P1,P2,Q,Q1,Q2:接触位置
φ1,φ2:接触角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部に連結され先端にて物体を把持可能な複数の先端アームと、前記基部に対する前記先端アームの位置および姿勢を変更する駆動手段と、前記駆動手段を制御することにより前記物体の位置および姿勢を制御する制御手段と、を備えるマニピュレータ装置であって、
各前記先端アームは、
前記基部に対して少なくとも1自由度を有するように連結された先端アーム本体と、
前記先端アーム本体に対して前記先端アーム本体の基端側から先端側に向かう先端アーム軸を中心に捻転可能となるように前記先端アーム本体の先端に設けられ、前記物体に当接可能な先端表面が凸曲面状に形成されている先端曲面部と、
を備え、
前記駆動手段は、
複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを変更することにより、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更可能な第一駆動手段と、
複数の前記先端アームの少なくとも一つにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能な第二駆動手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更しながら、前記先端曲面部を前記物体に対して相対的に転がり運動するように、前記第一駆動手段および前記第二駆動手段を制御することにより、前記接触角度に応じた前記物体の姿勢に制御することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御手段は、第一の前記先端アームの前記先端曲面部の前記接触位置と第二の前記先端アームの前記先端曲面部の前記接触位置とを結ぶ軸方向が目的の方向に一致するように、前記第一駆動手段により前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを制御することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記先端曲面部の表面は、弾性変形可能であることを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記先端曲面部は、球面凸状に形成されていることを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記制御手段は、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度に応じて、前記先端曲面部の前記先端アーム本体に対する駆動トルクを制御することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記マニピュレータ装置は、前記先端アームに設けられ、前記先端曲面部が前記物体に対して接触することにより生じる力を検出するセンサをさらに備え、
前記制御手段は、前記センサにより検出される前記力に基づいて、前記第二駆動手段を制御することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記第二駆動手段は、複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能であることを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記先端アーム本体は、前記基部に対して少なくとも2自由度を有するように連結されていることを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記第二駆動手段は、複数の前記先端アームの何れかにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能であり、
複数の前記先端アームの残りにおける前記先端曲面部は、前記物体の相対移動に伴って前記先端アーム本体に対する前記先端アーム軸周りに従動捻転することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項において、
前記先端アームは、3つ以上であり、
前記第二駆動手段は、少なくとも2つの前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体に対する前記先端曲面部の前記先端アーム軸周りの捻転角度を変更可能であり、
複数の前記先端アームの残りにおける前記先端曲面部は、前記物体の相対移動に伴って前記先端アーム本体に対する前記先端アーム軸周りに従動捻転することを特徴とするマニピュレータ装置。
【請求項11】
基部と、前記基部に連結され先端にて物体を把持可能な複数の先端アームと、を備えるマニピュレータの制御方法であって、
各前記先端アームは、
前記基部に対して少なくとも1自由度を有するように連結された先端アーム本体と、
前記先端アーム本体に対して前記先端アーム本体の基端側から先端側に向かう先端アーム軸を中心に捻転可能となるように前記先端アーム本体の先端に設けられ、前記物体に当接可能な先端表面が凸曲面状に形成されている先端曲面部と、
を備え、
前記制御方法は、
複数の前記先端アームのそれぞれにおいて、前記先端アーム本体の前記基部に対する位置および姿勢の少なくとも一つを変更することにより、前記先端曲面部のうち前記物体との接触位置における前記先端アーム軸に対する接触角度を変更させながら、前記先端曲面部を前記物体に対して相対的に転がり運動するように、制御することにより、
前記接触角度に応じた前記物体の姿勢に制御することを特徴とするマニピュレータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−62788(P2011−62788A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216993(P2009−216993)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年5月24日 社団法人日本機械学会発行、「ロボティクス・メカトロニクス講演会2009 講演論文集 No.09−4」(DVD−ROM)、講演概要目次番号:2A2−A14
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】