マンノシルエリスリトール異性体の製造方法
【課題】マンノシルエリスリトールの製造における原料コストを低減し、微生物を用いてマンノシルエリスリトール異性体を効率的かつ選択的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【解決手段】シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードザイマ属に属する微生物を利用し、植物油脂やバイオマス資源などを利用した物質・エネルギー生産系において副生される安価な物質を原料として付加価値の高いマンノシルエリスリトール異性体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンノシルエリスリトールは、保湿作用が強く、化粧品、医薬品の成分として有用なものとして知られている。マンノシルエリスリトールの生産方法としては、マンノピラノシルグルコースを出発材料として4−O−β−D−マンノピラノシル−D−エリスリトールを化学的に合成する方法が知られているが、この方法は多段階の反応から成るので非効率的である(例えば、非特許文献1を参照)。その他に、糖脂質の一種であるマンノシルエリスリトールリピッドを加水分解して製造する方法も知られているが、この方法は高機能糖脂質であるマンノシルエリスリトールリピッドを消費することに加え、培養プロセスと化学プロセスから成る工程を経る必要がある。これに対し、微生物を利用した培養プロセスのみから成るマンノシルエリスリトール生産方法は、実プロセスに最も適した手法であり、これまでグルコースを炭素源とする培地中で黒穂病菌(Ustilago sp.PRL627)を培養して生産する例(非特許文献2)や糖及び/又は糖アルコールを炭素源とする培地中でキャンディダ属菌(Candida sp.S-10)を培養して生産する例(特許文献1)などが報告される。このような微生物を利用した培養プロセスでは、微生物培養条件の最適化によるマンノシルエリスリトールの生産効率(生産速度、対原料収率、及び収率)の向上が試みられている。しかし、いずれの方法も、炭素源として糖または糖アルコールを含有する培地を用いて微生物を培養してマンノシルエリスリトールを生産するものであり、対糖収率が十分ではなく、特に、糖アルコールは原料コストがかかる。また、培養スケール拡大の生産効率に対する影響についても何ら検討されていない。
【0003】
また、マンノシルエリスリトールには二つの異性体(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールおよび4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール)が存在するが、上記の化学的合成方法は4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールを製造する方法であり、また微生物培養による製造方法で得られたマンノシルエリスリトールはこれら異性体の混合物であり、その区別も全くされていない。
【0004】
一方、近年、地球環境問題解決のために石油代替・再生産可能資源である植物油脂原料を活用した技術、事業に注目が集まっている。植物油脂原料からの物質生産は京都議定書に示された規定においても、二酸化炭素の排出量がゼロカウントとされている。しかし、植物油脂原料の利用に伴い、グリセロールが副生するため、その有効活用が急務の課題となっている。例えば、バイオディーゼル燃料は、一般的に植物油をメチルエステル化し、ディーゼル機関用燃料としたものであるが(例えば、特許文献2、3を参照)、副産物としてグリセロールが生じる。バイオディーゼル燃料利用において、このグリセロールなどの有効利用は今後の課題となっている。これまでグリセロールの利用技術としては、例えば、1,3−プロパンジオール(例えば、非特許文献3、特許文献4を参照)やコハク酸(例えば、非特許文献4、特許文献5を参照)をグリセロールから微生物転換によって製造する方法が提案されており、これらの技術は、グリセロールから新しい機能性物質や、多種の有用製品へ変換可能な基幹化合物を生産するという点で有効なグリセロールの利用技術といえる。このように、グリセロールは植物油脂利用の副生成物として生じるため、安価な原料であり、今後ますます積極的なグリセロールの利用技術の開発が進められてくることが予想される。
【0005】
また、二酸化炭素の排出量の削減には、化石燃料からバイオマスエネルギーへの転換が進められ、なかでも建設廃木材、古紙等の木質系バイオマスは供給量が最も多く、代表的なバイオマス資源である。たとえば木質系バイオマスから生産されるグルコースを原料としてエタノール(バイオエタノール)を製造する技術があるが、グルコースはエタノールのみならず、新しい機能性物質生産の原料としての利用が期待される。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−63390号公報
【特許文献2】特開2002−233393号公報
【特許文献3】特開2005−220227号公報
【特許文献4】特開2003−507022号公報
【特許文献5】特開2005−211041号公報
【非特許文献1】P.A.J.Gorin et al.:Can.J.Chem., 39, 2474(1961)
【非特許文献2】B.Boothroyd et al.:Can.J.Biochem.Physiol., 34,10(1951)
【非特許文献3】Th..Willke,K.-D.Vorlop: Appl.Microbiol.Biotechnol., 66,131(2004)
【非特許文献4】C.L.Pyung,G.L.Woo,Y.L.Sang,N.C.Ho:Biotechnol.Bioeng., 72,41(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のマンノシルエリスリトールの製造方法では、マンノシルエリスリトールは、一つの異性体のみか、または二つの異性体の混合物としてしか得ることはできなかった。また、植物油脂やバイオマス資源を利用した物質・エネルギー生産系において副生され、安価な物質を有効利用することが望まれていた。
【0008】
従って、本発明の課題は、マンノシルエリスリトールの各異性体を生産する能力を有する微生物を探索し、これを用いて、マンノシルエリスリトールの各異性体を効率的かつ選択的に製造する方法を提供することにある。また、本発明のさらなる課題は、マンノシルエリスリトールの製造における原料コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シュードザイマ属に属する微生物の中に、グルコースまたはグリセロールからマンノシルエリスリトール異性体それぞれを多量に産生できる微生物を見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(2) マンノシルエリスリトール異性体が、4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトールまたは4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールである、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(3) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株であることを特徴とする、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【0011】
(4) シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)である、(3)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(5) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株であることを特徴とする、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(6) シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)である、(5)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【0012】
(7) 培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度が、5〜20重量%であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(8) シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、シュードザイマ属に属する微生物を利用して安価なグルコースまたはグリセロールからマンノシルエリスリトールを高い生産効率で製造することができる。また、本発明に用いるシュードザイマ属に属する微生物は、マンノシルエリスリトールの各異性体を混合物でなくそれぞれを個別に生産することができるので、使用目的などに応じて、マンノシルエリスリトールの各異性体を選択的に製造することもできる。また、本発明は、バイオディーゼル燃料の製造に伴って増加しつつある、副産物としてのグリセロールを有効利用して、化粧品や医薬品の機能的成分として有用なマンノシルエリスリトールを量産できる点で、特に画期的である。さらに、マンノシルエリスリトールは小腸の微鞭毛に局在するα−グルコシダーゼの分解を受けず、ノンカロリーである点で食品添加物として有用であり、この面でも、マンノシルエリスリトールの量産を可能にする本発明の技術的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.目的生産物
本発明のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法による生産されるマンノシルエリスリトール(ME)は、下記式(I)で表される4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)- エリスリトール(以下、ME−Aという場合がある。)または下記式(II)で表される4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール(以下、ME−Bという場合がある。)の2種のマンノシルエリスリトール異性体である。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
従来の微生物学的製造法においては、マンノシルエリスリトールはこれら異性体の混合物として得られていたが、本発明においては、これら異性体の一方を選択的に製造できる。
【0018】
2.使用微生物
本発明のマンノシルエリスリトールの製造に使用する微生物は、シュードザイマ属に属し、グルコースまたはグリセロールのいずれからでもマンノシルエリスリトールを生産する能力を有する微生物であれば特に限定はされないが、たとえば、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株またはシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が好ましい。シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株としては、具体的には、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis) KM-59株(FERM P-20987)が挙げられ、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株としては、具体的には、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株が挙げられる。
【0019】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、本発明者らが日本で採取した植物(葉)サンプルから分離した株である。本菌株は、YM寒天培地上にて25℃8日間培養で、直径が5〜10mm程度のコロニーを形成する(形:円形、隆起状態:扁平状、周縁:全縁、表面の形状:スムーズ、透明度:不透明、粘ちょう度:バター様)。また、子嚢胞子の形成は認められない。
【0020】
また、本菌株の26S rDNAの塩基配列を決定し、DNAデータベース(DDBJ)にアクセスして、FASTAプログラムを用いて、26S rDNAの塩基配列の相同性検索を行った結果、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis) およびウスチラゴ・スペルモホラ (Ustilago spermophora)と本菌株の26S rDNA の相同性は100% であった。形態観察および生理性状試験の結果、本菌株はシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に帰属された。本菌株は、平成19(2007)年12月26日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1−1−3)に受託番号FERM P-21481として寄託されている。
【0021】
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis) KM-59株(FERM P-20987)は、グルコースまたはグリセロールを基質としてME−Aを、一方、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グルコースまたはグリセロールを基質としてME−Bを高効率で生産できる。
【0022】
上記のシュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)及びシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株の培地、培地条件は同様であり、同様の培地、培養条件でME−AまたはME−Bを生産することができる。したがって、本発明によれば、本質的に培地、培養条件を基本的に変更することなく、上記の菌株を培養することにより、マンノシルエリスリトールの各異性体(ME―AまたはME−B)のいずれかを選択的に生産することが可能である。
【0023】
3.マンノシルエリスリトールの製造
上記微生物菌株をグルコースまたはグリセロールを含む培地にて培養することにより培養物中に前記式(I)または(II)で表されるマンノシルエリスリトールの各異性体、すなわちME−AまたはME−Bを生産することができる。
【0024】
上記培養に用いる培地には、グルコースまたはグリセロールを微生物の炭素源及び基質として含有させるが、このほかの条件については、特に制限はなく、適宜選定することができる。例えば、酵母に対して一般に用いられる培地を使用でき、このような培地として、例えば、YPD培地(イーストイクストラクト10g、 ポリペプトン20g、及びグルコース100g)を挙げることができる。
【0025】
また、上記の炭素源以外に、通常の酵母の培養において栄養源なる炭素源、たとえば、有機酸(酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等)を用いてもよい。
【0026】
マンノシルエリスリトールの生産量を増加させるためには原料であるグルコースまたはグリセロールの供給量を増加させることが好ましい。これは、原料であるグルコースまたはグリセロールを酵母が基礎代謝のために炭素源として利用するため、基礎代謝に必要な炭素源の供給を十分行う必要があるためと考えられる。良好なマンノシルエリスリトールの生産速度、生産量、及び収率を得る上で、培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度は5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%である。
【0027】
培地に添加する上記の炭素源以外の他の成分としては、当該技術分野で通常用いられる窒素源、無機塩類、及び必要な栄養源等が用いられる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、またはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、コーンスチープリカー等の含窒素化合物が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0028】
培養温度は、22〜28℃が好ましく、25℃が特に好ましい。培養日数としては、マンノシルエリスリトール生産量に応じて適宜設定すればよいが、3〜20日間が好ましい。培養方法としては、振盪培養、通気撹拌培養等の公知の一般的な微生物の培養方法を適用することができる。良好な微生物の生育及びマンノシルエリスリトールの生産のためには、培養液に酸素を供給することが好ましく、そのためには、ジャーファメンターを用いる場合では、空気を通気しながら撹拌するか、振とう培養を行えばよい。
【0029】
上記菌株を用いてマンノシルエリスリトールをさらに大量に生産するための培地または培養条件については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、種培養、本培養及びマンノシルエリスリトール生産培養の順にスケールアップしていくことが好ましい。
【0030】
これらの培養における、具体的な培地組成、培養条件を例示すると以下のとおりである。
(1)種培養;グルコース50〜200g/L、好ましくは100g/L、酵母エキス0.5〜2g/L、好ましくは1g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/Lリン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管に保存菌株を1白金耳接種し、22〜28℃で1〜3日間振とう培養を行う。
【0031】
(2)本培養;グルコースまたはグリセロール50〜300g/L、好ましくは100〜200g/L、さらに好ましくは100g/L、酵母エキス1〜6g/L、好ましくは3〜6g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/L、リン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/Lの組成の液体培地20〜30mLが入った坂口フラスコに上記の種培養を行った培養液を接種して、22〜28℃で1〜10日間振とう培養を行う。
【0032】
(3)マンノシルエリスリトール生産培養;グルコースまたはグリセロール50〜200g/L、好ましくは100g/L、酵母エキス1〜6g/L、好ましくは3〜6g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/L、リン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/Lの組成の液体培地1.0Lが入ったジャーファメンターに上記の本培養を行った培養液を接種して、22〜28℃で600〜1000rpmの撹拌速度で3〜20日間培養する。この培養においては、培養途中からグルコースまたはグリセロールを培養容器中に流下させて、培地中のグルコースまたはグリセロール濃度を50〜200g/L、好ましくは100g/Lに保持することが好ましい。
【0033】
微生物菌株の培地への使用量は、例えば、菌体を接種する場合、培地1Lあたり、10〜200ml、好ましくは50〜100mlの種培養液あるいは本培養液中に含まれる量であればよい。
【0034】
本発明における培養は、培養液中の所望のマンノシルエリスリトール生成量が最高に達した時点で終了させることができるように、培養液中の目的とするマンノシルエリスリトールをガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等の周知の方法により測定しながら行うことが好ましい。
【0035】
培養液中に蓄積されたマンノシルエリスリトールの各異性体、すなわちME−AまたはME−Bを採取するには、培養液から遠心分離等の手段で菌体を除去した後、抽出、ゲル濾過、濃縮等の定法に従って精製すればよく、菌株の相違により精製手段に特段の違いはなく、これらにより、マンノシルエリスリトールの各異性体を効率よく生産することができる。
【0036】
上記培養において、微生物の形態は、特に限定されず、微生物の菌体、菌体処理物(例えば、菌体破砕物)などをいう。
【0037】
微生物の菌体または菌体処理物は固定化して用いることもできる。固定化法としては、従来公知の担体結合法、架橋化法、包括法などの方法が挙げられる。担体結合法では、担体に菌体を固定化させるが、固定化は物理的吸着、イオン結合、共有結合のいずれであってもよい。担体としては多糖(アセチルセルロース、アガロース)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド、ポリスチレン)等が用いられる。架橋化法では、グルタルアルデヒド等の二官能性試薬を用いて菌体同士を架橋、結合させることによって固定化する。また、包括法では、多糖(アルギン酸、カラギーナン)、ポリアクリルアミド、コラーゲン、ポリウレタン等の高分子ゲルの格子や半透膜カプセルに菌体を包み込むことによって固定化する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)マンノシルエリスリトールを生産する微生物の探索
保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)に保存しておいた数種のシュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物を用いて以下の培養を行った。
【0040】
(培養A)
上記微生物をグルコース100g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管に1白金耳接種し、25℃で振とう培養を2日間行った。
【0041】
(培養B)
次いで、菌体培養液をグルコース100g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム 0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地20mLが入った坂口フラスコに接種して、25℃で振とう培養を7日間行った。
【0042】
培養Bで得られた菌体培養液を遠心分離し、その培養上清をペーパークロマトグラフィーに供した。ペーパークロマトグラフィーは、1−プロパノール:酢酸エチル:水=7:1:2を展開溶媒として用い、過ヨウ素酸カリウムおよび硫酸マンガン−テトラベース試薬(依田:日本化学雑誌、73、18(1952))にて生じる糖成分のスポットを観察した。また、標準として用いたマンノシルエリスリトールは、マンノシルエリスリトールリピッドを加水分解して得られたマンノシルエリスリトールを用いた。これらの結果を図1に示す。
【0043】
図1に示されるように、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株はマンノシルエリスリトールに相当するスポットが検出された(レーン10、14)。この結果は、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グルコースを炭素源とする培地で培養することによって、マンノシルエリスリトールを生産可能であることを示す。
【0044】
(実施例2)マンノシルエリスリトール高生産菌のマンノシルエリスリトール生産量
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、培養Bの培養を7日間に代えて10日間行う以外は実施例1と同様にして培養A、培養Bを行った。培養液を採取し、培養液中に含まれるマンノシルエリスリトールの濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量した。高速液体クロマトグラフィーは、SH1011カラム(昭和電工製)を用い、0.01mMの硫酸を移動相として行った。高速液体クロマトグラフィーの結果のチャートを図2に示す。マンノシルエリスリトール、マンノース、エリスリトール、グルコース量は、それぞれ標品を用いて作成した検量線に基づいて定量した。シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株は10日間で18.7g/Lのマンノシルエリスリトールを生産し、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は10日間で11.8g/Lのマンノシルエリスリトールを生産した。
【0045】
(実施例3)グリセロールを炭素源としたマンノシルエリスリトールの生産
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用い、培養Bの液体培地中のグルコース100g/Lに代えてグリセロール100g/Lを用いる以外は実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液を遠心分離し、その培養上清をフィルターろ過後、高速液体クロマトグラフィーにて分析定量した。高速液体クロマトグラフィーの結果のチャートを図3に示す。マンノシルエリスリトール、マンノース、エリスリトール、グリセロール量は、それぞれ標品を用いて作成した検量線に基づいて定量した。図3に示されるように、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株およびシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グリセロールを炭素源として、マンノシルエリスリトールを生産することが明らかである。
【0046】
(実施例4)マンノシルエリスリトールの分離精製および構造解析
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液をゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールの単離精製を行った。当該カラムクロマトグラフィーは、Bio−Gel P−2を1.5cm×90cmのカラムに充填したものを用い、培養液3mLをアプライした後、蒸留水を流速10mL/hで流し、溶出してきた画分を分取して行った。糖成分の溶出は、糖濃度計を用いて測定した。当該カラムクロマトグラフィーの結果を図4に示す。図4に示されるように、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーによって、培地中に含まれる糖成分が分画された。各画分を高速液体クロマトグラフィー分析に供した結果、溶出ピークAはマンノシルエリスリトール、溶出ピークBはグルコースであることがわかった。
【0047】
また、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液を活性炭カラムクロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールの単離精製を行った。当該カラムクロマトグラフィーは、2.3cm×7cmのカラムに充填したものを用い、培養液1mLをアプライした後、蒸留水を流速50mL/hで100mL流した後、1%エタノールを流速50mL/hで100mL流すことで行った。各画分の高速液体クロマトグラフィーチャートを図5に示す。図5に示されるように、蒸留水溶出画分にはマンノシルエリスリトールが含まれず、エタノール溶出画分に濃縮された。
【0048】
上記の各分画操作で得られた画分のうち、図4の抽出ピークA周辺の画分を分取した試料と図5のエタノール溶出画分からエタノールを減圧濃縮によって除いた後の試料を用い、NMR分析にて含有される糖成分の構造を決定した。その結果をそれぞれ表1および表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
これらの結果より、得られた糖成分は何れもマンノシルエリスリトールであることが確認できた。さらに、エリスリトール部の1H−NMRの結果(D.Crich et al.:Tetrahedron, 58, 35 (2002))から、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株由来のマンノシルエリスリトールはME−A(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトール)、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株由来のマンノシルエリスリトールはME−B(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール)であることがわかった。このことから、上記2種の微生物を使い分けることで、マンノシルエリスリトールの構造異性体を選択的に生産することが可能であるといえる。
【0052】
(実施例5)シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株のマンノシルエリスリトール生産条件の検討
(1) 条件1
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて8日間行った。培養の3、6、8日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図6に示す。図6に示されるように、KM-59株は、17g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は17%であった。
【0053】
(2) 条件2
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース200g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて10日間行った。培養の3、6、9、12、15日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図7に示す。図7に示されるように、KM-59株は、36g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は21%であった。
【0054】
(3) 条件3
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グリセロール100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて10日間行った。培養の3、6、9、12日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グリセロール濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図8に示す。図8に示されるように、KM-59株は、13g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は14%であり、対糖収率はグルコースを唯一の炭素源とした場合に匹敵することがわかる。
【0055】
(実施例6)シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のマンノシルエリスリトール生産条件の検討
(1) 条件1
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて11日間行った。培養の3、6、9,11日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図9に示す。図9に示されるように、KM-160株は、17g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は19%であった。
【0056】
(2) 条件2
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グリセロール100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて18日間行った。培養の3、6、9、12、15、18日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グリセロール濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図10に示す。図10に示されるように、KM-160株は、13g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は17%であり、対糖収率はグルコースを唯一の炭素源とした場合に匹敵することがわかる。
【0057】
(3) 条件3
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス1〜6g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて7日間行った。培養の7日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図11に示す。図11に示されるように、KM-160株は、6g/Lの酵母エキス濃度で培養した時、20g/Lのマンノシルエリスリトールを7日間で培地中に蓄積し、生産量の向上ならびに培養日数の短縮の効果が認められた。
【0058】
(実施例7) マンノシルエリスリトールのラット小腸糖質分解酵素に対する耐性
ラット小腸由来の消化酵素を用いて以下の実験を行った。500mMのマンノシルエリスリトール(ME-A)またはシュクロース溶液0.1mlを試験管に取り、これに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)を0.125ml、ラット小腸糖分解酵素を0.05ml(0.1U)、蒸留水0.225mLの合計0.5mlとし、これを酵素液を添加してから37℃、最大24時間反応させ、100℃で10分間過熱して酵素反応を止めた。反応液中のシュクロース濃度は、遊離したグルコース濃度をグルコースCII−テストワコー(グルコース濃度測定キット)を用いて定量した値に基づいて算出した。反応液中のマンノシルエリスリトール(ME-A)濃度は、高速液体クロマトグラフィーにて定量した。その結果を図12に示す。これによると、マンノシルエリスリトール(ME-A)がラットの小腸糖質分解酵素の作用を受けていないことが明らかである。
【0059】
(実施例8)マンノシルエリスリトール高生産菌によるマンノシルエリスリトール生産培養
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、培養Bの培養を7日間に代えて3日間行う以外は実施例1と同様にして培養A、培養Bを行った。グルコースまたはグリセロール100g/L、酵母エキス2〜6g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地0.8Lが入ったジャーファメンターに上記の培養Bを行った培養液を接種して、22〜28℃で600〜1000rpmの撹拌速度で6日間培養した。この培養においては、培養途中からグルコースまたはグリセロールを含む上記培地を培養容器中に流下した。培養液を、採取し、培養液中に含まれるマンノシルエリスリトールの濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量した。培養途中の培養液を分取し、培養液中に含まれる残存グルコース濃度(g/L)およびマンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図13〜16に示す。図13に示されるように、KM-59株は、6日間で200g/Lのグルコースから11.1g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は6.2%であった。また、図14に示されるように、KM-59株は、6日間で100g/Lのグリセロールから0.5g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は0.6%であった。また、図15に示されるように、KM-160株は、6日間で300g/Lのグルコースから38.0g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は13%であった。また、図16に示されるように、KM-160株は、6日間で200g/Lのグリセロールから20.1g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は10.1%であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物の培養液中に含有されるマンノシルエリスリトールをペーパークロマトグラフィーによって検出した結果を示す写真である。
【図2】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のグルコース培養液の高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。
【図3】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のグリセロール培養液の高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。
【図4】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株の培養液をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールを分画した結果を示す図である。
【図5】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株の培養液を活性炭クロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールを分画した結果を示す図である。
【図6】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図7】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を20%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図8】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を10%グリセロール含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グリセロール濃度を示す図である。
【図9】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図10】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グリセロール含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グリセロール濃度を示す図である。
【図11】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中の酵母エキス濃度がマンノシルエリスリトールの生産量に及ぼす影響を示す図である。
【図12】マンノシルエリスリトールがラット小腸糖質分解酵素に対する耐性を有することを示す図である。
【図13】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59 株をグルコース含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図14】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59 株をグリセロール含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図15】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160 株をグルコース含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図16】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160 株をグリセロール含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュードザイマ属に属する微生物を利用し、植物油脂やバイオマス資源などを利用した物質・エネルギー生産系において副生される安価な物質を原料として付加価値の高いマンノシルエリスリトール異性体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンノシルエリスリトールは、保湿作用が強く、化粧品、医薬品の成分として有用なものとして知られている。マンノシルエリスリトールの生産方法としては、マンノピラノシルグルコースを出発材料として4−O−β−D−マンノピラノシル−D−エリスリトールを化学的に合成する方法が知られているが、この方法は多段階の反応から成るので非効率的である(例えば、非特許文献1を参照)。その他に、糖脂質の一種であるマンノシルエリスリトールリピッドを加水分解して製造する方法も知られているが、この方法は高機能糖脂質であるマンノシルエリスリトールリピッドを消費することに加え、培養プロセスと化学プロセスから成る工程を経る必要がある。これに対し、微生物を利用した培養プロセスのみから成るマンノシルエリスリトール生産方法は、実プロセスに最も適した手法であり、これまでグルコースを炭素源とする培地中で黒穂病菌(Ustilago sp.PRL627)を培養して生産する例(非特許文献2)や糖及び/又は糖アルコールを炭素源とする培地中でキャンディダ属菌(Candida sp.S-10)を培養して生産する例(特許文献1)などが報告される。このような微生物を利用した培養プロセスでは、微生物培養条件の最適化によるマンノシルエリスリトールの生産効率(生産速度、対原料収率、及び収率)の向上が試みられている。しかし、いずれの方法も、炭素源として糖または糖アルコールを含有する培地を用いて微生物を培養してマンノシルエリスリトールを生産するものであり、対糖収率が十分ではなく、特に、糖アルコールは原料コストがかかる。また、培養スケール拡大の生産効率に対する影響についても何ら検討されていない。
【0003】
また、マンノシルエリスリトールには二つの異性体(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールおよび4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール)が存在するが、上記の化学的合成方法は4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールを製造する方法であり、また微生物培養による製造方法で得られたマンノシルエリスリトールはこれら異性体の混合物であり、その区別も全くされていない。
【0004】
一方、近年、地球環境問題解決のために石油代替・再生産可能資源である植物油脂原料を活用した技術、事業に注目が集まっている。植物油脂原料からの物質生産は京都議定書に示された規定においても、二酸化炭素の排出量がゼロカウントとされている。しかし、植物油脂原料の利用に伴い、グリセロールが副生するため、その有効活用が急務の課題となっている。例えば、バイオディーゼル燃料は、一般的に植物油をメチルエステル化し、ディーゼル機関用燃料としたものであるが(例えば、特許文献2、3を参照)、副産物としてグリセロールが生じる。バイオディーゼル燃料利用において、このグリセロールなどの有効利用は今後の課題となっている。これまでグリセロールの利用技術としては、例えば、1,3−プロパンジオール(例えば、非特許文献3、特許文献4を参照)やコハク酸(例えば、非特許文献4、特許文献5を参照)をグリセロールから微生物転換によって製造する方法が提案されており、これらの技術は、グリセロールから新しい機能性物質や、多種の有用製品へ変換可能な基幹化合物を生産するという点で有効なグリセロールの利用技術といえる。このように、グリセロールは植物油脂利用の副生成物として生じるため、安価な原料であり、今後ますます積極的なグリセロールの利用技術の開発が進められてくることが予想される。
【0005】
また、二酸化炭素の排出量の削減には、化石燃料からバイオマスエネルギーへの転換が進められ、なかでも建設廃木材、古紙等の木質系バイオマスは供給量が最も多く、代表的なバイオマス資源である。たとえば木質系バイオマスから生産されるグルコースを原料としてエタノール(バイオエタノール)を製造する技術があるが、グルコースはエタノールのみならず、新しい機能性物質生産の原料としての利用が期待される。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−63390号公報
【特許文献2】特開2002−233393号公報
【特許文献3】特開2005−220227号公報
【特許文献4】特開2003−507022号公報
【特許文献5】特開2005−211041号公報
【非特許文献1】P.A.J.Gorin et al.:Can.J.Chem., 39, 2474(1961)
【非特許文献2】B.Boothroyd et al.:Can.J.Biochem.Physiol., 34,10(1951)
【非特許文献3】Th..Willke,K.-D.Vorlop: Appl.Microbiol.Biotechnol., 66,131(2004)
【非特許文献4】C.L.Pyung,G.L.Woo,Y.L.Sang,N.C.Ho:Biotechnol.Bioeng., 72,41(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来のマンノシルエリスリトールの製造方法では、マンノシルエリスリトールは、一つの異性体のみか、または二つの異性体の混合物としてしか得ることはできなかった。また、植物油脂やバイオマス資源を利用した物質・エネルギー生産系において副生され、安価な物質を有効利用することが望まれていた。
【0008】
従って、本発明の課題は、マンノシルエリスリトールの各異性体を生産する能力を有する微生物を探索し、これを用いて、マンノシルエリスリトールの各異性体を効率的かつ選択的に製造する方法を提供することにある。また、本発明のさらなる課題は、マンノシルエリスリトールの製造における原料コストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シュードザイマ属に属する微生物の中に、グルコースまたはグリセロールからマンノシルエリスリトール異性体それぞれを多量に産生できる微生物を見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(2) マンノシルエリスリトール異性体が、4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトールまたは4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールである、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(3) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株であることを特徴とする、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【0011】
(4) シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)である、(3)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(5) シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株であることを特徴とする、(1)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(6) シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)である、(5)に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【0012】
(7) 培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度が、5〜20重量%であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
(8) シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、シュードザイマ属に属する微生物を利用して安価なグルコースまたはグリセロールからマンノシルエリスリトールを高い生産効率で製造することができる。また、本発明に用いるシュードザイマ属に属する微生物は、マンノシルエリスリトールの各異性体を混合物でなくそれぞれを個別に生産することができるので、使用目的などに応じて、マンノシルエリスリトールの各異性体を選択的に製造することもできる。また、本発明は、バイオディーゼル燃料の製造に伴って増加しつつある、副産物としてのグリセロールを有効利用して、化粧品や医薬品の機能的成分として有用なマンノシルエリスリトールを量産できる点で、特に画期的である。さらに、マンノシルエリスリトールは小腸の微鞭毛に局在するα−グルコシダーゼの分解を受けず、ノンカロリーである点で食品添加物として有用であり、この面でも、マンノシルエリスリトールの量産を可能にする本発明の技術的意義は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.目的生産物
本発明のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法による生産されるマンノシルエリスリトール(ME)は、下記式(I)で表される4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)- エリスリトール(以下、ME−Aという場合がある。)または下記式(II)で表される4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール(以下、ME−Bという場合がある。)の2種のマンノシルエリスリトール異性体である。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
従来の微生物学的製造法においては、マンノシルエリスリトールはこれら異性体の混合物として得られていたが、本発明においては、これら異性体の一方を選択的に製造できる。
【0018】
2.使用微生物
本発明のマンノシルエリスリトールの製造に使用する微生物は、シュードザイマ属に属し、グルコースまたはグリセロールのいずれからでもマンノシルエリスリトールを生産する能力を有する微生物であれば特に限定はされないが、たとえば、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株またはシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が好ましい。シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株としては、具体的には、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis) KM-59株(FERM P-20987)が挙げられ、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株としては、具体的には、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株が挙げられる。
【0019】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、本発明者らが日本で採取した植物(葉)サンプルから分離した株である。本菌株は、YM寒天培地上にて25℃8日間培養で、直径が5〜10mm程度のコロニーを形成する(形:円形、隆起状態:扁平状、周縁:全縁、表面の形状:スムーズ、透明度:不透明、粘ちょう度:バター様)。また、子嚢胞子の形成は認められない。
【0020】
また、本菌株の26S rDNAの塩基配列を決定し、DNAデータベース(DDBJ)にアクセスして、FASTAプログラムを用いて、26S rDNAの塩基配列の相同性検索を行った結果、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis) およびウスチラゴ・スペルモホラ (Ustilago spermophora)と本菌株の26S rDNA の相同性は100% であった。形態観察および生理性状試験の結果、本菌株はシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に帰属された。本菌株は、平成19(2007)年12月26日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)(茨城県つくば市東1−1−3)に受託番号FERM P-21481として寄託されている。
【0021】
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis) KM-59株(FERM P-20987)は、グルコースまたはグリセロールを基質としてME−Aを、一方、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グルコースまたはグリセロールを基質としてME−Bを高効率で生産できる。
【0022】
上記のシュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)及びシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株の培地、培地条件は同様であり、同様の培地、培養条件でME−AまたはME−Bを生産することができる。したがって、本発明によれば、本質的に培地、培養条件を基本的に変更することなく、上記の菌株を培養することにより、マンノシルエリスリトールの各異性体(ME―AまたはME−B)のいずれかを選択的に生産することが可能である。
【0023】
3.マンノシルエリスリトールの製造
上記微生物菌株をグルコースまたはグリセロールを含む培地にて培養することにより培養物中に前記式(I)または(II)で表されるマンノシルエリスリトールの各異性体、すなわちME−AまたはME−Bを生産することができる。
【0024】
上記培養に用いる培地には、グルコースまたはグリセロールを微生物の炭素源及び基質として含有させるが、このほかの条件については、特に制限はなく、適宜選定することができる。例えば、酵母に対して一般に用いられる培地を使用でき、このような培地として、例えば、YPD培地(イーストイクストラクト10g、 ポリペプトン20g、及びグルコース100g)を挙げることができる。
【0025】
また、上記の炭素源以外に、通常の酵母の培養において栄養源なる炭素源、たとえば、有機酸(酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等)を用いてもよい。
【0026】
マンノシルエリスリトールの生産量を増加させるためには原料であるグルコースまたはグリセロールの供給量を増加させることが好ましい。これは、原料であるグルコースまたはグリセロールを酵母が基礎代謝のために炭素源として利用するため、基礎代謝に必要な炭素源の供給を十分行う必要があるためと考えられる。良好なマンノシルエリスリトールの生産速度、生産量、及び収率を得る上で、培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度は5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%である。
【0027】
培地に添加する上記の炭素源以外の他の成分としては、当該技術分野で通常用いられる窒素源、無機塩類、及び必要な栄養源等が用いられる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、またはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、コーンスチープリカー等の含窒素化合物が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0028】
培養温度は、22〜28℃が好ましく、25℃が特に好ましい。培養日数としては、マンノシルエリスリトール生産量に応じて適宜設定すればよいが、3〜20日間が好ましい。培養方法としては、振盪培養、通気撹拌培養等の公知の一般的な微生物の培養方法を適用することができる。良好な微生物の生育及びマンノシルエリスリトールの生産のためには、培養液に酸素を供給することが好ましく、そのためには、ジャーファメンターを用いる場合では、空気を通気しながら撹拌するか、振とう培養を行えばよい。
【0029】
上記菌株を用いてマンノシルエリスリトールをさらに大量に生産するための培地または培養条件については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、種培養、本培養及びマンノシルエリスリトール生産培養の順にスケールアップしていくことが好ましい。
【0030】
これらの培養における、具体的な培地組成、培養条件を例示すると以下のとおりである。
(1)種培養;グルコース50〜200g/L、好ましくは100g/L、酵母エキス0.5〜2g/L、好ましくは1g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/Lリン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管に保存菌株を1白金耳接種し、22〜28℃で1〜3日間振とう培養を行う。
【0031】
(2)本培養;グルコースまたはグリセロール50〜300g/L、好ましくは100〜200g/L、さらに好ましくは100g/L、酵母エキス1〜6g/L、好ましくは3〜6g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/L、リン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/Lの組成の液体培地20〜30mLが入った坂口フラスコに上記の種培養を行った培養液を接種して、22〜28℃で1〜10日間振とう培養を行う。
【0032】
(3)マンノシルエリスリトール生産培養;グルコースまたはグリセロール50〜200g/L、好ましくは100g/L、酵母エキス1〜6g/L、好ましくは3〜6g/L、硝酸ナトリウム1〜5g/L、好ましくは3g/L、リン酸2水素カリウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.1〜1g/L、好ましくは0.25〜0.5g/Lの組成の液体培地1.0Lが入ったジャーファメンターに上記の本培養を行った培養液を接種して、22〜28℃で600〜1000rpmの撹拌速度で3〜20日間培養する。この培養においては、培養途中からグルコースまたはグリセロールを培養容器中に流下させて、培地中のグルコースまたはグリセロール濃度を50〜200g/L、好ましくは100g/Lに保持することが好ましい。
【0033】
微生物菌株の培地への使用量は、例えば、菌体を接種する場合、培地1Lあたり、10〜200ml、好ましくは50〜100mlの種培養液あるいは本培養液中に含まれる量であればよい。
【0034】
本発明における培養は、培養液中の所望のマンノシルエリスリトール生成量が最高に達した時点で終了させることができるように、培養液中の目的とするマンノシルエリスリトールをガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等の周知の方法により測定しながら行うことが好ましい。
【0035】
培養液中に蓄積されたマンノシルエリスリトールの各異性体、すなわちME−AまたはME−Bを採取するには、培養液から遠心分離等の手段で菌体を除去した後、抽出、ゲル濾過、濃縮等の定法に従って精製すればよく、菌株の相違により精製手段に特段の違いはなく、これらにより、マンノシルエリスリトールの各異性体を効率よく生産することができる。
【0036】
上記培養において、微生物の形態は、特に限定されず、微生物の菌体、菌体処理物(例えば、菌体破砕物)などをいう。
【0037】
微生物の菌体または菌体処理物は固定化して用いることもできる。固定化法としては、従来公知の担体結合法、架橋化法、包括法などの方法が挙げられる。担体結合法では、担体に菌体を固定化させるが、固定化は物理的吸着、イオン結合、共有結合のいずれであってもよい。担体としては多糖(アセチルセルロース、アガロース)、無機物質(多孔質ガラス、金属酸化物)、合成高分子(ポリアクリルアミド、ポリスチレン)等が用いられる。架橋化法では、グルタルアルデヒド等の二官能性試薬を用いて菌体同士を架橋、結合させることによって固定化する。また、包括法では、多糖(アルギン酸、カラギーナン)、ポリアクリルアミド、コラーゲン、ポリウレタン等の高分子ゲルの格子や半透膜カプセルに菌体を包み込むことによって固定化する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)マンノシルエリスリトールを生産する微生物の探索
保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)に保存しておいた数種のシュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物を用いて以下の培養を行った。
【0040】
(培養A)
上記微生物をグルコース100g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地2mLが入った試験管に1白金耳接種し、25℃で振とう培養を2日間行った。
【0041】
(培養B)
次いで、菌体培養液をグルコース100g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム 0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地20mLが入った坂口フラスコに接種して、25℃で振とう培養を7日間行った。
【0042】
培養Bで得られた菌体培養液を遠心分離し、その培養上清をペーパークロマトグラフィーに供した。ペーパークロマトグラフィーは、1−プロパノール:酢酸エチル:水=7:1:2を展開溶媒として用い、過ヨウ素酸カリウムおよび硫酸マンガン−テトラベース試薬(依田:日本化学雑誌、73、18(1952))にて生じる糖成分のスポットを観察した。また、標準として用いたマンノシルエリスリトールは、マンノシルエリスリトールリピッドを加水分解して得られたマンノシルエリスリトールを用いた。これらの結果を図1に示す。
【0043】
図1に示されるように、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株はマンノシルエリスリトールに相当するスポットが検出された(レーン10、14)。この結果は、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グルコースを炭素源とする培地で培養することによって、マンノシルエリスリトールを生産可能であることを示す。
【0044】
(実施例2)マンノシルエリスリトール高生産菌のマンノシルエリスリトール生産量
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、培養Bの培養を7日間に代えて10日間行う以外は実施例1と同様にして培養A、培養Bを行った。培養液を採取し、培養液中に含まれるマンノシルエリスリトールの濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量した。高速液体クロマトグラフィーは、SH1011カラム(昭和電工製)を用い、0.01mMの硫酸を移動相として行った。高速液体クロマトグラフィーの結果のチャートを図2に示す。マンノシルエリスリトール、マンノース、エリスリトール、グルコース量は、それぞれ標品を用いて作成した検量線に基づいて定量した。シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株は10日間で18.7g/Lのマンノシルエリスリトールを生産し、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は10日間で11.8g/Lのマンノシルエリスリトールを生産した。
【0045】
(実施例3)グリセロールを炭素源としたマンノシルエリスリトールの生産
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用い、培養Bの液体培地中のグルコース100g/Lに代えてグリセロール100g/Lを用いる以外は実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液を遠心分離し、その培養上清をフィルターろ過後、高速液体クロマトグラフィーにて分析定量した。高速液体クロマトグラフィーの結果のチャートを図3に示す。マンノシルエリスリトール、マンノース、エリスリトール、グリセロール量は、それぞれ標品を用いて作成した検量線に基づいて定量した。図3に示されるように、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株およびシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株は、グリセロールを炭素源として、マンノシルエリスリトールを生産することが明らかである。
【0046】
(実施例4)マンノシルエリスリトールの分離精製および構造解析
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液をゲル濾過カラムクロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールの単離精製を行った。当該カラムクロマトグラフィーは、Bio−Gel P−2を1.5cm×90cmのカラムに充填したものを用い、培養液3mLをアプライした後、蒸留水を流速10mL/hで流し、溶出してきた画分を分取して行った。糖成分の溶出は、糖濃度計を用いて測定した。当該カラムクロマトグラフィーの結果を図4に示す。図4に示されるように、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーによって、培地中に含まれる糖成分が分画された。各画分を高速液体クロマトグラフィー分析に供した結果、溶出ピークAはマンノシルエリスリトール、溶出ピークBはグルコースであることがわかった。
【0047】
また、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを7日間行った。得られた菌体培養液を活性炭カラムクロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールの単離精製を行った。当該カラムクロマトグラフィーは、2.3cm×7cmのカラムに充填したものを用い、培養液1mLをアプライした後、蒸留水を流速50mL/hで100mL流した後、1%エタノールを流速50mL/hで100mL流すことで行った。各画分の高速液体クロマトグラフィーチャートを図5に示す。図5に示されるように、蒸留水溶出画分にはマンノシルエリスリトールが含まれず、エタノール溶出画分に濃縮された。
【0048】
上記の各分画操作で得られた画分のうち、図4の抽出ピークA周辺の画分を分取した試料と図5のエタノール溶出画分からエタノールを減圧濃縮によって除いた後の試料を用い、NMR分析にて含有される糖成分の構造を決定した。その結果をそれぞれ表1および表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
これらの結果より、得られた糖成分は何れもマンノシルエリスリトールであることが確認できた。さらに、エリスリトール部の1H−NMRの結果(D.Crich et al.:Tetrahedron, 58, 35 (2002))から、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株由来のマンノシルエリスリトールはME−A(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトール)、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株由来のマンノシルエリスリトールはME−B(4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトール)であることがわかった。このことから、上記2種の微生物を使い分けることで、マンノシルエリスリトールの構造異性体を選択的に生産することが可能であるといえる。
【0052】
(実施例5)シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株のマンノシルエリスリトール生産条件の検討
(1) 条件1
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて8日間行った。培養の3、6、8日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図6に示す。図6に示されるように、KM-59株は、17g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は17%であった。
【0053】
(2) 条件2
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース200g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて10日間行った。培養の3、6、9、12、15日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図7に示す。図7に示されるように、KM-59株は、36g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は21%であった。
【0054】
(3) 条件3
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グリセロール100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて10日間行った。培養の3、6、9、12日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グリセロール濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図8に示す。図8に示されるように、KM-59株は、13g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は14%であり、対糖収率はグルコースを唯一の炭素源とした場合に匹敵することがわかる。
【0055】
(実施例6)シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のマンノシルエリスリトール生産条件の検討
(1) 条件1
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて11日間行った。培養の3、6、9,11日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図9に示す。図9に示されるように、KM-160株は、17g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は19%であった。
【0056】
(2) 条件2
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グリセロール100g/L、酵母エキス2g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて18日間行った。培養の3、6、9、12、15、18日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グリセロール濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図10に示す。図10に示されるように、KM-160株は、13g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は17%であり、対糖収率はグルコースを唯一の炭素源とした場合に匹敵することがわかる。
【0057】
(3) 条件3
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、実施例1と同様にして培養Aを2日間行った後、培養Bを、グルコース100g/L、酵母エキス1〜6g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム 0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地を用いて7日間行った。培養の7日後に培養液を分取し、培養液中に含まれる菌体量(乾燥重量, g/L)、残存グルコース濃度(g/L)、マンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図11に示す。図11に示されるように、KM-160株は、6g/Lの酵母エキス濃度で培養した時、20g/Lのマンノシルエリスリトールを7日間で培地中に蓄積し、生産量の向上ならびに培養日数の短縮の効果が認められた。
【0058】
(実施例7) マンノシルエリスリトールのラット小腸糖質分解酵素に対する耐性
ラット小腸由来の消化酵素を用いて以下の実験を行った。500mMのマンノシルエリスリトール(ME-A)またはシュクロース溶液0.1mlを試験管に取り、これに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)を0.125ml、ラット小腸糖分解酵素を0.05ml(0.1U)、蒸留水0.225mLの合計0.5mlとし、これを酵素液を添加してから37℃、最大24時間反応させ、100℃で10分間過熱して酵素反応を止めた。反応液中のシュクロース濃度は、遊離したグルコース濃度をグルコースCII−テストワコー(グルコース濃度測定キット)を用いて定量した値に基づいて算出した。反応液中のマンノシルエリスリトール(ME-A)濃度は、高速液体クロマトグラフィーにて定量した。その結果を図12に示す。これによると、マンノシルエリスリトール(ME-A)がラットの小腸糖質分解酵素の作用を受けていないことが明らかである。
【0059】
(実施例8)マンノシルエリスリトール高生産菌によるマンノシルエリスリトール生産培養
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)を用いて、培養Bの培養を7日間に代えて3日間行う以外は実施例1と同様にして培養A、培養Bを行った。グルコースまたはグリセロール100g/L、酵母エキス2〜6g/L、硝酸ナトリウム3g/L、リン酸2水素カリウム0.25g/L、及び硫酸マグネシウム0.25g/Lの組成の液体培地0.8Lが入ったジャーファメンターに上記の培養Bを行った培養液を接種して、22〜28℃で600〜1000rpmの撹拌速度で6日間培養した。この培養においては、培養途中からグルコースまたはグリセロールを含む上記培地を培養容器中に流下した。培養液を、採取し、培養液中に含まれるマンノシルエリスリトールの濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量した。培養途中の培養液を分取し、培養液中に含まれる残存グルコース濃度(g/L)およびマンノシルエリスリトール濃度を測定した。その結果を図13〜16に示す。図13に示されるように、KM-59株は、6日間で200g/Lのグルコースから11.1g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は6.2%であった。また、図14に示されるように、KM-59株は、6日間で100g/Lのグリセロールから0.5g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は0.6%であった。また、図15に示されるように、KM-160株は、6日間で300g/Lのグルコースから38.0g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は13%であった。また、図16に示されるように、KM-160株は、6日間で200g/Lのグリセロールから20.1g/Lのマンノシルエリスリトールを培地中に蓄積し、対糖収率は10.1%であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物の培養液中に含有されるマンノシルエリスリトールをペーパークロマトグラフィーによって検出した結果を示す写真である。
【図2】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のグルコース培養液の高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。
【図3】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株とシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株のグリセロール培養液の高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を示すチャートである。
【図4】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株の培養液をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールを分画した結果を示す図である。
【図5】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株の培養液を活性炭クロマトグラフィーに供し、マンノシルエリスリトールを分画した結果を示す図である。
【図6】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図7】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を20%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図8】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株を10%グリセロール含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グリセロール濃度を示す図である。
【図9】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グルコース濃度を示す図である。
【図10】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グリセロール含有培地で培養した際の、培地中のマンノシルエリスリトール濃度、菌体量および残存グリセロール濃度を示す図である。
【図11】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株を10%グルコース含有培地で培養した際の、培地中の酵母エキス濃度がマンノシルエリスリトールの生産量に及ぼす影響を示す図である。
【図12】マンノシルエリスリトールがラット小腸糖質分解酵素に対する耐性を有することを示す図である。
【図13】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59 株をグルコース含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図14】シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59 株をグリセロール含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図15】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160 株をグルコース含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【図16】シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160 株をグリセロール含有培地でマンノシルエリスリトール生産培養した結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項2】
マンノシルエリスリトール異性体が、4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトールまたは4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールである、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項3】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株であることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項4】
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)である、請求項3に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項5】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株であることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項6】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)である、請求項5に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項7】
培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度が、5〜20重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項8】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)。
【請求項1】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物をグルコースまたはグリセロールを炭素源として含有する培地にて培養し、培養物中からマンノシルエリスリトール異性体を採取することを特徴とする、マンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項2】
マンノシルエリスリトール異性体が、4-O-β-D-マンノピラノシル-(2R, 3S)-エリスリトールまたは4-O-β-D-マンノピラノシル-(2S, 3R)-エリスリトールである、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項3】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株であることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項4】
シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)に属する菌株が、シュードザイマ・フベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)KM-59株(FERM P-20987)である、請求項3に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項5】
シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する微生物が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株であることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項6】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する菌株が、シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)である、請求項5に記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項7】
培養開始時の培養液中のグルコースまたはグリセロール濃度が、5〜20重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトール異性体の製造方法。
【請求項8】
シュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)KM-160株(FERM P-21481)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−178093(P2009−178093A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20331(P2008−20331)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]