説明

ミシンおよび縫製物品管理プログラム

【課題】ミシンによる縫製の準備段階で、縫製に必要な縫製物品が揃っているか否かをユーザが容易に確認することを可能とするミシンおよび縫製物品管理プログラムを提供する。
【解決手段】ユーザが所望の模様をミシンのタッチパネルを介して選択すると(S21:YES)、選択された模様の縫製に必要な必要物品の物品情報が取得され(S23)、必要物品リストに追加される(S25)。必要物品リストが、ミシンのタグリーダによって通信範囲内にある準備済み物品に装着された無線タグから読み取られた情報に基づいて作成された準備済み物品リストと比較され(S27)、必要物品のうち、準備済み物品に含まれていない不足物品があれば(S28:NO)、不足物品に関する情報をユーザに報知するための不足物品報知画面が液晶ディスプレイに表示される(S29)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の縫製物品を使用して縫製を行うミシン、および縫製時に使用される各種の縫製物品を管理するための縫製物品管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンで縫製を行う場合には、様々な縫製物品が使用される。例えば、針棒に装着される縫針、糸が巻回された糸駒、押え棒に装着され、縫製対象である加工布を押える押え足等である。さらに、刺繍縫製可能なミシンで刺繍が行われる場合には、加工布を保持する刺繍枠も使用される。これらの縫製物品は、縫製される模様の種類(大きさ、色等)に応じて適した種類が定められている。模様の種類に適した縫製物品を使用しなければ、ユーザは所望の縫製結果が得られない。
【0003】
そこで、縫針、押え足、刺繍枠、糸駒等のミシンに着脱可能な縫製部品に非接触型のIDタグを装着しておき、これらの部品がミシンに装着された状態で、ミシンのリーダにより、各IDタグに記憶された情報を読み取って、部品の適否を判別することができるミシンが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−102915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ユーザは、ミシンに装着する前に、模様に適した種類の縫製物品を準備しなければならない。縫製物品によっては多数の種類が存在するため、その中から、模様に適した縫製物品があるかないかを確認すること自体が煩雑な作業である。例えば、市販されている刺繍糸の色数は非常に多く、似通った色の糸もある。よって、自分が保有する様々な糸色の多数の糸駒の中から、所望の刺繍模様に適した色の糸駒があるかないかを確認することは容易ではない。特に、ユーザが初心者の場合には尚更である。
【0006】
本発明は、ミシンによる縫製の準備段階で、縫製に必要な縫製物品が揃っているか否かをユーザが容易に確認することを可能とするミシンおよび縫製物品管理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るミシンは、複数の模様の各々について、模様を識別する情報である模様情報と、ミシンに交換可能に装着されて縫製に使用される物品である複数の縫製物品のうち、前記模様を縫製するのに必要な縫製物品を識別する情報である物品情報とを対応づけて記憶する記憶手段と、前記複数の模様の中から、所望の模様を選択模様として選択する選択手段と、前記記憶手段に記憶された前記模様情報および前記物品情報を参照して、前記選択手段によって選択された前記選択模様を縫製するのに必要な前記縫製物品を、必要物品として特定する第1特定手段と、通信範囲内に存在する縫製物品である準備済み物品に付された無線タグに記憶された前記準備済み物品を識別する情報を、タグ情報として読み取る読み取り手段と、前記読取り手段によって読み取られた前記タグ情報に基づいて、前記準備済み物品を特定する第2特定手段と、前記第1特定手段によって特定された前記必要物品および前記第2特定手段によって特定された前記準備済み物品に基づいて、少なくとも、前記準備済み物品に含まれていない前記必要物品である不足物品に関する情報を、不足物品情報として報知手段に報知させる報知制御手段とを備えている。
【0008】
かかるミシンによれば、縫製される模様が選択されると、その模様の縫製に必要な縫製物品(必要物品)が特定され、読取り手段によって読み取られたタグ情報から、通信範囲内、すなわち、ミシンの周囲の所定範囲内に存在する縫製物品(準備済み物品)が特定される。そして、準備済み物品に含まれていない必要物品、すなわち、選択された模様の縫製に必要なのに不足している縫製物品に関する情報が、報知手段により報知される。したがって、ミシンのユーザは、縫製の準備段階で、所望の模様の縫製に必要な縫製物品が揃っているか否かを容易に確認することができる。
【0009】
前記縫製物品は、縫針、糸駒、押え足、刺繍枠のうち少なくとも1つを含んでもよい。この場合、ミシンは、夫々多数の種類が存在する縫針、糸駒、押え足、刺繍枠について、模様に対応する必要物品を管理し、不足物品をユーザに知らせることができるので、ユーザの必要物品の有無の確認作業の煩雑さを軽減できる。
【0010】
前記報知制御手段は、前記第1特定手段によって特定された前記必要物品および前記第2特定手段によって特定された前記準備済み物品に基づいて、前記不足物品情報と、前記準備済み物品に含まれている前記必要物品に関する情報である充足物品情報とを前記報知手段に報知させてもよい。この場合、不足物品情報と充足物品情報があわせて報知手段により報知されるので、ユーザは、縫製の準備段階で、選択された所望の模様の縫製に必要な縫製物品をすべて把握でき、そのうち揃っているものといないものの両方を容易に確認できる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る縫製物品管理プログラムは、第1の態様に係るミシンの各種処理手段として、前記ミシンのコンピュータを機能させる。したがって、縫製物品管理プログラムがミシンのコンピュータによって実行されることにより、第1の態様に係るミシンと同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ミシン1の左前方からの斜視図である。
【図2】ミシン1の縫製物品の管理方法の一例を示す説明図である。
【図3】ミシン1の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】必要物品データベース69の構成の一例を示す説明図である。
【図5】ミシン1で行われる準備済み物品特定処理のフローチャートである。
【図6】準備済み物品リスト41の一例を示す説明図である。
【図7】ミシン1で行われる必要物品判断処理のフローチャートである。
【図8】必要物品リスト42の一例を示す説明図である。
【図9】不足物品報知画面110の一例を示す説明図である。
【図10】判断結果報知画面120の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、これらの図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成、各種処理のフローチャートなどは、単なる説明例である。
【0014】
図1および図2を参照して、ミシン1の物理的構成について説明する。以下の説明では、図2の上下、左右方向を、夫々ミシン1の上下、左右方向とする。
【0015】
図1に示すように、ミシン1は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13および頭部14を有する。ベッド部11は、左右方向に長い、ミシン1の土台部である。脚柱部12は、ベッド部11の右端部から上方へ延びる。アーム部13は、ベッド部11に対向して脚柱部12の上端から左方へ延びる。頭部14は、アーム部13の左先端に連結する部位である。ベッド部11の上面には、針板(図示略)が配設されている。針板の下側(つまり、ベッド部11内)には、図示しない送り歯、送り機構、釜機構、および送り量調整用パルスモータ78(図3参照)が設けられている。送り歯は、送り機構によって駆動されて、加工布を所定の送り量で移送する。送り歯の送り量は、送り量調整用パルスモータ78によって調整される。
【0016】
ベッド部11の上側には、加工布100を保持する刺繍枠34を配置可能である。刺繍枠34は、内枠と外枠とで加工布100を挟持して保持する周知の構成を有する。刺繍枠34を移送する刺繍枠移送装置33は、周知の構成であるので簡単に説明する。刺繍枠移送装置33は、ベッド部11に対して着脱可能である。刺繍枠移送装置33の上部には、前後方向に延びるキャリッジ35が設けられる。キャリッジ35の内部には、刺繍枠34を着脱可能な枠ホルダ(図示略)と、枠ホルダを前後方向(Y方向)に移送するY軸移送機構(図示略)とが設けられている。Y軸移送機構は、Y軸モータ84(図3参照)により駆動される。
【0017】
刺繍枠移送装置33の本体内には、キャリッジ35を左右方向(X方向)に移送するX軸移送機構(図示略)が設けられている。X軸移送機構は、X軸モータ83(図3参照)により駆動される。キャリッジ35が左右方向(X方向)に移送されるのに伴って、刺繍枠34が左右方向(X方向)に移送される。
【0018】
刺繍枠34が左右方向(X方向)および前後方向(Y方向)に移送されるのと併せて、図2に示す針棒6や釜機構(図示略)が駆動されることで、針棒6に装着された縫針7(図2参照)により、刺繍枠34に保持された加工布100に対して刺繍模様が縫製される。刺繍模様ではない通常の実用模様の縫製時には、ベッド部11から刺繍枠移送装置33が取り外された状態で、送り歯により加工布が移動されながら縫製が行われる。
【0019】
脚柱部12の前面には、縦長の長方形状の液晶ディスプレイ(以下、LCDという)15が設けられている。LCD15には、コマンド、イラスト、設定値、メッセージ等の様々な項目を含む画像が表示される。LCD15の前面側には、タッチパネル26が設けられている。ユーザが、指や専用のタッチペンを用いてタッチパネル26の押圧操作を行うと(以下、この操作を「パネル操作」と言う。)、タッチパネル26によって検知される押圧位置に対応して、どの項目が選択されたかが認識される。ユーザは、このようなパネル操作によって、縫製したい模様や実行すべきコマンドを選択できる。
【0020】
アーム部13は、その上部に、開閉可能なカバー16を備えている。カバー16の下方、つまりアーム部13内の略中央部には、糸駒20が収容される凹部である糸収容部18が設けられている。糸収容部18の脚柱部12側の内壁面には、頭部14に向かって左方へ突出する糸立棒19が設けられている。糸駒20は、その挿入孔(図示略)に糸立棒19が挿入された状態で、糸収容部18に装着される。
【0021】
糸駒20に巻回された上糸(図示略)は、糸駒20から、頭部14に設けられた糸掛部(図示略)を経由して、針棒6に装着された縫針7(図2参照)に供給される。針棒6は、頭部14内に設けられた針棒上下動機構(図示略)により、上下動するように駆動される。針棒上下動機構は、ミシンモータ79(図3参照)により回転駆動する主軸(図示略)によって駆動される。頭部14の下端部からは、加工布100を押える押え足92が交換可能に装着される押え棒91が下方に延びている。また、アーム部13の前面下部には、開始・停止スイッチ32を含む複数の操作スイッチが設けられている。
【0022】
図2に示すように、ミシン1には、脚柱部12の右側面に設けられたコネクタ(図示略)を介して、タグリーダ50が接続されている。なお、タグリーダ50は、ミシン1に内蔵されている構成であってもよい。また、脚柱部12の右側面には、ミシン1の電源をオン・オフするための電源スイッチ31(図3参照)と、記憶媒体であるメモリカードを接続可能なカードスロット17(図3参照)も設けられている。
【0023】
タグリーダ50は、アンテナ、送受信回路、信号処理回路および制御回路を備えた周知のタグリーダである。制御回路はいわゆるマイクロコンピュータであり、CPU、ROM、およびRAM等を含み、RAMの一時的な記憶領域を利用しつつ、ROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うように構成されている。タグリーダ50は、その通信範囲内にある無線タグ51との間で無線通信を行って、非接触で情報の読み取りを行うことができる。なお、無線タグ51は、アンテナと、メモリ部を含むIC回路を内蔵した周知の無線タグである。
【0024】
図2を参照して、ミシン1の縫製物品の管理方法の一例について説明する。本実施形態でいう縫製物品は、ミシン1に交換可能に装着されて縫製に使用される物品であって、例えば、糸駒20、押え足92、刺繍枠34、縫針7等がある。以下の説明では、説明の簡単化のため、糸駒20、押え足92および刺繍枠34の3種類の縫製物品の管理方法を例とするが、これら以外の縫製物品にも、勿論同様の方法が適用可能である。
【0025】
ミシン1のユーザは、無線タグ51が装着された縫製物品をタグリーダ50との通信範囲内に収納保管しておくことで、タグリーダ50を利用した縫製物品の管理が可能となる。例えば、図2に示すように、ユーザは、複数の糸駒20、押え足92および刺繍枠34を夫々に収納可能な糸駒収納ケース200、押え足収納ケース900および枠収納ケース300を準備し、自分が保有する糸駒20、押え足92および刺繍枠34を収納して、ミシン1の近傍に保管すればよい。または、各種の縫製物品を全て収納可能な1つの収納ケースに収納してもよい。縫製物品に無線タグ51さえ装着しておけば、特に収納ケースに収納しなくても、通信範囲内に縫製物品を置いておくだけでもよい。
【0026】
本実施形態では、縫製物品の収納場所を確保する観点から、数メートル程度離れていても通信が可能なアクティブ型の無線タグ51とタグリーダ50とを用いている。なお、アクティブ型の無線タグ51は、アンテナとIC回路の他に電池を内蔵しており、自らの電源で駆動して電波を受発信することができるタイプの無線タグである。図2に示すように、糸駒20、押え足92、刺繍枠34には、夫々、無線タグ51が埋め込まれている。無線タグ51のメモリ部には、無線タグ51が装着された縫製物品の物品IDと、物品名と、その種類とを示すデータが記憶されている。
【0027】
物品IDは、縫製物品の物品名とその種類を特定可能な識別コードである。物品名は、糸駒20、押え足92、刺繍枠34等の縫製物品の名称である。種類は、糸駒20については、巻回されている糸の糸番号、押え足92については、実用押え(J押え)、飾り模様縫い押え(N押え)、刺繍押え(W押え)等の押え足の種類、刺繍枠34については、L、M、S等の枠サイズである。本実施形態では、タグリーダ50は、定期的(例えば、1秒毎)に無線タグ51と通信し、メモリ部に記憶された物品ID、物品名および種類を示すデータを読み取って、無線タグデータとして、RAM63の所定の記憶エリアに記憶する。
【0028】
なお、一般的に通信範囲はアクティブ型よりも狭くはなるが、パッシブ型の無線タグ51とタグリーダ50とを用いることも勿論可能である。この場合、例えば、ラベル状に形成された無線タグ51を縫製物品に貼り付けることができるので、縫製物品に無線タグ51を容易に装着することができる。
【0029】
図3を参照して、ミシン1の電気的構成について説明する。図3に示すように、ミシン1の制御部60は、CPU61、ROM62、RAM63、EEPROM64、外部アクセスRAM68、カードスロット17、入力インターフェイス65、および出力インターフェイス66を含み、これらはバス67により相互に電気的に接続されている。入力インターフェイス65には、電源スイッチ31、開始・停止スイッチ32を含む複数の操作スイッチ、タッチパネル26、およびタグリーダ50等が電気的に接続されている。
【0030】
出力インターフェイス66には、駆動回路71〜74、85および86が電気的に接続されている。駆動回路71は、送り量調整用パルスモータ78を駆動させる。駆動回路72は、ミシンモータ79を駆動させる。駆動回路73は、針棒6を揺動させる針棒揺動機構(図示略)を駆動する針振りパルスモータ80を駆動させる。ただし、刺繍模様の縫製時には、送り量調整用パルスモータ78及び針振りパルスモータ80は駆動されない。駆動回路74は、LCD15を駆動させる。駆動回路85および86は、刺繍枠34を移送するためのX軸モータ83およびY軸モータ84を夫々駆動する。
【0031】
ROM62は、ミシン1の動作を制御するための各種プログラムを記憶している。CPU61は、ROM62に記憶されたこれらのプログラムに従って、各種のデータをRAM63に一時的に記憶させながら、各種演算および処理を実行する。また、ROM62には、ミシン1で縫製可能な様々な実用模様および刺繍模様の各々について、模様IDと縫製データが対応づけて記憶されている。模様IDは、各模様を識別するための固有の識別コードである。縫製データとは、縫針7が加工布100に刺さる位置である針落ち点を示すデータである。なお、刺繍模様の場合、縫製データには、針落ち点を示すデータに加え、糸色を示す情報も含まれる。
【0032】
EEPROM64には、図4に示す必要物品データベース(以下、必要物品DBという)69が記憶されている。本実施形態の必要物品DB69は、ROM62に縫製データが記憶されている各種模様(以下、内蔵模様という)の各々について、その内蔵模様を縫製するのに必要な縫製物品(押え足92、糸駒20および刺繍枠34)を識別するための情報を管理するためのデータベースである。必要な縫製物品は、内蔵模様の種類やそのサイズ等に応じて定められている。実用模様の場合は、特定の色糸や刺繍枠34は特に必要でないため、押え足92のみが必要な縫製物品である。刺繍模様の場合は、模様の色やサイズに応じて糸の色や刺繍枠34のサイズを変更する必要があるので、押え足92に加え、糸駒20および刺繍枠34も必要な縫製物品である。
【0033】
図4に示すように、必要物品DB69には、各内蔵模様の模様IDに対して、物品ID、物品名および種類を示すデータが対応付けられ格納されている。なお、物品ID、物品名および種類については、無線タグ51に関して前述した通りである。なお、以下では、模様IDに対応する物品ID、物品名および種類を示すデータを、物品情報という。図4は、説明の便宜上、物品名と種類も必要物品DB69に記憶されている例であるが、前述したように、物品IDは、縫製物品の物品名とその種類を特定可能な識別コードであるから、必要物品DB69には、模様IDと物品IDだけが対応付けて記憶されていればよく、物品名と種類はなくても構わない。
【0034】
1つの内蔵模様に必要な縫製物品が複数ある場合、より詳細には、複数の異なる縫製物品がある場合、および、同じ縫製物品で複数の異なる種類がある場合、必要物品DB69には、同じ模様IDに対応して複数のレコードが存在する。図4は、模様ID「E0001」の刺繍模様を縫製するのに、1種類の押え足92(W押え)と、3種類の糸駒20(513番、001番、513番)と、3種類の刺繍枠34(L、M、S)が、必要な縫製物品として定められている例である。この例において、糸駒20に関する3つのレコードのうち、糸番号が513番のレコードが2つあるのは、刺繍模様では、513番の色糸である範囲を縫製した後、001番の色糸で別の範囲を縫製し、再度、513番の色糸でさらに別の範囲を縫製する場合、同じ色の糸駒20が2度必要となるからである。
【0035】
また、刺繍枠34に関するレコードが3つあるのは、この刺繍模様のサイズなら、最適な刺繍枠34はSサイズ枠であるが、Mサイズ枠やLサイズ枠であっても収まるので、使用可能な3種類の枠を全て必要な枠とみなしているためである。同様に、例えば押え足92についても、W押えに加え、最適ではないが使用可能な種類が記憶されていてもよい。また、糸駒20についても、513番と001番に加え、これらの色とは異なるが、見た目にはほぼ同色の糸の糸番号が記憶されていてもよい。このように、本実施形態では、できるだけ縫製不可能な事態を避けるように、「内蔵模様の縫製に必要な縫製物品」として、「最適ではなくても、少なくとも内蔵模様の縫製を可能とする縫製物品」が定められている。しかし、「内蔵模様の縫製に必要且つ最適な縫製物品」のみを「内蔵模様の縫製に必要な縫製物品」としてもよい。
【0036】
以下に、図5〜図9を参照して、ミシン1で行われる縫製物品管理処理について説明する。縫製物品管理処理は、準備済み物品特定処理および必要物品判断処理を含む。準備済み物品特定処理は、タグリーダ50が無線タグ51と通信することで、ミシン1の周囲の通信範囲内にある縫製物品を準備済み物品として特定する処理である。必要物品判断処理は、ユーザによって選択された所望の内蔵模様の縫製に必要な縫製物品を必要物品として特定し、必要物品のうち不足している縫製物品がある場合に、それをユーザに報知する処理である。以下に各処理の詳細を説明する。
【0037】
図5および図6を参照して、準備済み物品特定処理について説明する。図5に示す準備済み物品特定処理は、ミシン1の電源スイッチ31(図3参照)がオンにされると、ROM62に記憶された準備済み物品特定処理用のプログラムが起動されて開始される。そして、CPU61がこのプログラムを実行することにより行われる。まず、RAM63の所定の記憶エリアに設けられた準備済み物品リスト41(図6参照)および更新用リスト(図示略)をクリアする初期化処理が行われた後、タグリーダ50によって定期的に読み取られ、RAM63の所定の記憶エリアに記憶されている無線タグデータ(物品ID、物品名および種類)が取得される(S1)。なお、通信範囲内に複数の準備済み物品が存在する場合、タグリーダ50により読み取られ、RAM63に記憶された無線タグデータは複数ある。この場合は、複数の無線タグデータが取得される。
【0038】
CPU61は、取得された無線タグデータのうち未処理の1つを処理対象として選択し、この無線タグデータが、準備済み物品リスト41(図6参照)中のデータと重複するか否かを判断する(S2)。準備済み物品リスト41とは、取得された無線タグデータに基づいて作成される、準備済み物品を特定するためのリストであり、図6に示すように、物品ID、物品名および種類を含む。前述の初期化処理で、準備済み物品リスト41のデータは全てクリアされているため、最初の処理では重複するデータはない(S2:NO)。よって、処理対象の無線タグデータの物品ID、物品名および種類が、準備済み物品リスト41に追加される(S3)。なお、ミシン1の機種に応じて、例えばEEPROM64に、ミシン1で対応可能な縫製物品を予め記憶しておき、無線タグデータにより特定される縫製物品が、ミシン1では対応不能な場合(例えば、特定された刺繍枠34がミシン1には装着できない場合)には、その物品ID、物品名および種類は準備済み物品リスト41に追加しない処理を行ってもよい。
【0039】
続いて、RAM63に記憶されている全ての無線タグデータを処理したか否かが判断される(S5)。未処理の無線タグデータがあれば(S5:NO)、そのうちの1つが次の処理対象として取得され、前述と同様の処理が行われる(S2、S3、S5)。このようにして、準備済み物品リスト41中のデータとは重複しない無線タグデータが全て準備済み物品リスト41に追加されると(S5:YES)、所定の更新時間が経過したか否かが判断される(S6)。具体的には、例えばステップS1の処理回数をカウンタでカウントしておき、回数が3回に達している場合に更新時間が経過したと判断すればよい。更新時間が経過していない場合(S6:NO)、処理はステップS1に戻り、タグリーダ50により読み取られた無線タグデータが全て取得される。
【0040】
まだタグリーダ50の次の読取りのタイミングになっていない場合や、通信範囲内に新たに追加された縫製物品がない場合には、RAM63に記憶されている無線タグデータは増えていない。よって、この場合、取得される無線タグデータは全て、前の処理で既に準備済み物品リスト41に記憶されているから、準備済み物品リスト41のデータと重複することになる(S2:YES)。この場合、処理対象の無線タグデータは、準備済み物品リスト41とは別にRAM63に設けられた更新用リスト(図示略)に追加される(S4)。更新用リストは、前述した図6に示す準備済み物品リスト41と同様、物品ID、物品名および種類を含むリストである。
【0041】
一方、通信範囲内に新たな縫製物品が追加されたとき、タグリーダ50の定期的な読取りが行われ、RAM63に記憶されている無線タグデータが増えている場合には、この無線タグデータについては、準備済み物品リスト41のデータと重複しない(S2:NO)。この場合は、無線タグデータの物品ID、物品名および種類が、準備済み物品リスト41に追加される(S3)。ステップS3またはS4の後、未処理の無線タグデータがあれば(S5:NO)、そのうちの1つが次の処理対象として取得され(S2)、前述と同様の処理が行われる(S2〜S5)。
【0042】
このようにして処理が繰り返された結果、所定の更新時間が経過すると(S6:YES)、準備済み物品リスト41が、更新用リストのデータで上書き更新される(S7)。これにより、更新時間経過時点までの一定時間、継続して通信範囲内に存在した無線タグ51のデータで、準備済み物品リスト41のデータが更新されることになる。つまり、この更新によって、通信範囲内から持ち出された縫製物品のデータは排除される。その後、更新用リストのデータが全てクリアされ(S8)、処理はステップS1に戻る。このようにして、ミシン1の電源がオンの間、タグリーダ50によって定期的に読み取られる無線タグ51に記憶されたデータに基づき、準備済み物品を特定するための準備済み物品リスト41が定期的に更新される。
【0043】
図7〜図9を参照して、必要物品判断処理について説明する。図7に示す必要物品判断処理は、ミシン1の電源スイッチ31(図3参照)がオンにされると、ROM62に記憶された必要物品判断処理用のプログラムが起動されて開始される。そして、CPU61がこのプログラムを実行することにより行われる。まず、LCD15に模様選択画面(図示略)が表示され、ユーザのパネル操作により、縫製される所望の内蔵模様が選択されたか否かが判断される(S21)。選択が行われない間は(S21:NO)、CPU61は待機する。いずれかの内蔵模様が選択された場合(S21:YES)、選択された模様(以下、選択模様という)の模様IDと縫製データが、ROM62からRAM63に読み出される。
【0044】
RAM63の所定の記憶エリアに設けられた必要物品リスト42(図8参照)がクリアされた後(S22)、必要物品DB69(図4参照)から、選択模様の模様IDに対応する物品情報、すなわち、物品ID、物品名および種類が取得される(S23)。なお、1つの内蔵模様に対して必要な縫製物品が複数ある場合には、必要物品DB69中、最先のレコードの物品情報が取得される。続いて、取得された物品情報が、既に必要物品リスト42(図8参照)に含まれているか否かが判断される(S24)。必要物品リスト42とは、選択模様に応じて必要物品DB69から取得された物品情報に基づいて作成される、選択模様を縫製するのに必要な縫製物品(以下、必要物品という)を特定するためのリストであり、図8に示すように、物品ID、物品名および種類を含む。前述のステップS22の処理で、必要物品リスト42のデータは全てクリアされているため、最初の処理では、ステップS23で取得された物品情報はリストにはない(S24:NO)。よって、物品情報(物品ID、物品名および種類)は、必要物品リスト42に追加される(S25)。
【0045】
選択模様の模様IDに対応して必要物品DB69に記憶されている物品情報を全て処理したか否かが判断される(S26)。未処理の物品情報があれば(S26:NO)、処理はステップS23に戻って次の物品情報が取得される。前述したように、必要物品DB69では、図4の糸番号513番の糸駒20の物品情報のように、同じ内蔵模様に対して同じ物品情報が複数記憶されている場合がある。このような場合、2度目以降に同じ物品情報が取得されると、すでにその物品情報は必要物品リスト42にあるので(S24:YES)、リストに追加されることなく、処理はステップS26に進む。
【0046】
このようにして、選択模様の模様IDに対応して必要物品DB69に記憶されている全ての物品情報の処理が完了すると(S26:YES)、作成された必要物品リスト42(図8参照)と、準備済み物品特定処理(図5参照)で作成されRAM63に記憶されている準備済み物品リスト41(図6参照)とが比較される(S27)。そして、必要物品リスト42に含まれるデータで特定される必要物品の全てが、準備済み物品リスト41に含まれるデータで特定される準備済み物品に含まれるか否か、すなわち、全ての必要物品が揃っているか否かが判断される(S28)。
【0047】
ただし、前述したように、本実施形態では、刺繍枠34については、少なくとも内蔵模様の縫製を可能とする種類が全て必要物品DB69に記憶されているので、例えば、図8に示すように、3種類の刺繍枠34(L、M、S)が必要物品として特定される場合がある。よって、刺繍枠34については、特定された複数の種類のうち少なくとも1つが準備済み物品に含まれれば、必要な刺繍枠34は揃っているものと判断すればよい。図6に示す準備済み物品リストの例では、Lサイズ枠とSサイズ枠が準備済み物品として特定されるので、必要な刺繍枠34は揃っているものと判断される。
【0048】
必要物品が全て揃っていると判断された場合(S28:YES)、そのまま縫製を開始することができるので、ミシン1のアーム部13の前面に設けられた開始・停止スイッチ32(図1参照)が押下されると、ROM62から読み出された縫製データに従って、選択模様の縫製が行われる(S31)。選択模様の縫製が終了すると、処理はステップS21に戻って、CPU61は、次に縫製される内蔵模様が選択されるまで待機する。
【0049】
一方、必要物品のうち少なくとも一部が準備済み物品に含まれていない場合、揃っていない必要物品(以下、不足物品という)があると判断される(S28:NO)。この場合、例えば図9に示すような不足物品報知画面110がLCD15に表示されることで、不足物品に関する情報がユーザに報知される(S29)。図9に示すように、不足物品報知画面110は、通常の模様選択画面に警告ウィンドウ111が重ねて表示される画面である。警告ウィンドウ111には、例えば、必要物品(道具)がないことと、不足物品を特定する情報とをユーザに知らせるメッセージ112が表示される。また、現在の模様選択状態を取り消して、他の内蔵模様を選択する画面に移る指示を入力するためのキャンセルボタン113と、不足物品があることは無視してそのまま縫製を開始可能な状態に移る指示を入力するためのOKボタン114とが表示される。
【0050】
ユーザのパネル操作によってキャンセルボタン113が選択され、現在の模様選択状態が取り消された場合には(S30:YES)、処理はステップS21に戻って再びLCD15に模様選択画面(図示略)が表示され、CPU61は、新たに内蔵模様が選択されるまで待機する。一方、ユーザのパネル操作によってOKボタン114が選択された場合(S30:NO)、縫製開始が可能な状態になった後、開始・停止スイッチ32が開始されると、選択模様の縫製が行われる(S31)。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態のミシン1では、タグリーダ50によって、通信範囲内にある準備済み物品に装着された無線タグ51から、定期的に準備済み物品を識別するための情報が読み取られ、準備済み物品リスト41に記憶される。また、ユーザによって、タッチパネル26のパネル操作により、複数の内蔵模様のうち所望の模様が選択模様として選択されると、内蔵模様の各々について縫製に必要な縫製物品に関する物品情報を記憶する必要物品DB69から、選択模様に対応する必要物品の物品情報が、必要物品リスト42に記憶される。そして、必要物品リスト42と準備済み物品リスト41とが比較されて準備済み物品に含まれていない必要物品である不足物品が特定され、LCD15に表示される不足物品報知画面110によって、不足物品に関する情報がユーザに報知される。したがって、ミシン1のユーザは、縫製の準備段階で、所望の選択模様に対応する必要物品が全て揃っているか否かを容易に確認することができる。
【0052】
また、無線タグ51が装着される縫製物品は、夫々多数の種類が存在する糸駒20、押え足92、刺繍枠34である。本実施形態のミシン1によれば、内蔵模様に対応する必要物品を管理し、不足物品をユーザに知らせることができるので、ユーザの必要物品の有無の確認作業の煩雑さを軽減できる。特に、刺繍縫製では、糸色が異なる糸駒20が多数必要である。このため、ユーザは、糸色が異なる多数(例えば、40色)の糸駒20がケースに収納された糸駒セットを購入し、使用するのが一般的である。しかし、糸駒セットの中には、一見すると同じような色に見える非常によく似た色の複数の糸駒20が含まれ、区別が難しい場合がある。この場合、ユーザは、縫製の準備段階で、自分が必要な色の糸駒20を保有しているのか否かを確認するために、糸駒20に付記されている糸番号を一々視認しなければならない。本実施形態のミシン1によれば、このような非常に煩雑な作業も不要となる。
【0053】
上記実施形態では、必要物品DB69を記憶するEEPROM64が、本発明の「記憶手段」に相当する。ユーザがパネル操作により所望の内蔵模様を選択するタッチパネル26が、「選択手段」に相当する。図7のステップS23〜S26で、必要物品リストを作成する処理を行うCPU61が、「第1特定手段」に相当する。無線タグ51から情報を読み取るタグリーダ50が、「読取り手段」に相当する。図5の準備済み物品特定処理を行うCPU61が、「第2特定手段」に相当する。図7のステップS29で、「報知手段」に相当するLCD15に、不足物品報知画面110または判断結果報知画面120を表示させるCPU61が、「報知制御手段」に相当する。
【0054】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、1つの糸駒20をセット可能なミシン1を例示したが、複数(例えば、6個)の糸駒20をセット可能ないわゆる多針ミシンを採用してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、不足物品がある場合に、不足物品に関する情報がユーザに報知されるが、不足物品に関する情報だけではなく、準備済み物品に含まれている必要物品(以下、充足物品という)に関する情報も合わせて報知されてもよい。上記実施形態の必要物品判断処理の一部を変更することで、このような変形例の処理を実現できる。以下に、図7および図10を参照して変形例に係る必要物品判断処理について説明する。
【0056】
上記実施形態では、図7のステップS27で必要物品リスト42と準備済み物品リスト41とが比較された後、ステップS28で必要物品が全て揃っているか否かが判断され、揃っていない場合に(S28:NO)、ステップS29で不足物品報知画面110が表示される。変形例の必要物品判断処理では、ステップ28の処理は行われず、ステップS29では、不足物品報知画面110に代えて、例えば図10に示すような判断結果報知画面120がLCD15に表示される。判断結果報知画面120では、通常の模様選択画面に結果ウィンドウ116が重ねて表示される。結果ウィンドウ116には、必要物品(道具)とその有無を表示することを報知するメッセージ117と、全ての必要物品の物品(道具)名、種類とその有無を示すリスト118と、キャンセルボタン113とOKボタン114とが表示される。リスト118の「有無」欄に「×」が付されているのが不足物品、「○」が付されているのが充足物品である。キャンセルボタン113とOKボタン114が選択された場合の夫々の処理は、上記実施形態と同じである。
【0057】
かかる変形例の必要物品判断処理によれば、判断結果報知画面120によって、不足物品に関する情報と、充足物品に関する情報とが合わせてユーザに報知される。したがって、ミシン1のユーザは、縫製の準備段階で、所望の選択模様に対応する必要物品をすべて把握でき、そのうち揃っているものといないものの両方を容易に確認することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ミシン
15 液晶ディスプレイ
26 タッチパネル
50 タグリーダ
51 無線タグ
61 CPU
64 EEPROM


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の模様の各々について、模様を識別する情報である模様情報と、ミシンに交換可能に装着されて縫製に使用される物品である複数の縫製物品のうち、前記模様を縫製するのに必要な縫製物品を識別する情報である物品情報とを対応づけて記憶する記憶手段と、
前記複数の模様の中から、所望の模様を選択模様として選択する選択手段と、
前記記憶手段に記憶された前記模様情報および前記物品情報を参照して、前記選択手段によって選択された前記選択模様を縫製するのに必要な前記縫製物品を、必要物品として特定する第1特定手段と、
通信範囲内に存在する縫製物品である準備済み物品に付された無線タグに記憶された前記準備済み物品を識別する情報を、タグ情報として読み取る読み取り手段と、
前記読取り手段によって読み取られた前記タグ情報に基づいて、前記準備済み物品を特定する第2特定手段と、
前記第1特定手段によって特定された前記必要物品および前記第2特定手段によって特定された前記準備済み物品に基づいて、少なくとも、前記準備済み物品に含まれていない前記必要物品である不足物品に関する情報を、不足物品情報として報知手段に報知させる報知制御手段とを備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製物品は、縫針、糸駒、押え足、刺繍枠のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記報知制御手段は、前記第1特定手段によって特定された前記必要物品および前記第2特定手段によって特定された前記準備済み物品に基づいて、前記不足物品情報と、前記準備済み物品に含まれている前記必要物品に関する情報である充足物品情報とを前記報知手段に報知させることを特徴とする請求項1または2に記載のミシン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のミシンの各種処理手段として、前記ミシンのコンピュータを機能させるため縫製物品管理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−120723(P2012−120723A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274253(P2010−274253)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】