説明

メカニカルシール用シャットダウンシール

【課題】最も機内側に位置するシールのさらに機内側の位置に緊急用のシャットダウンシールを設けることにより、緊急時における被密封流体の機外側への漏洩を確実に防止する。
【解決手段】最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に位置して回転軸5側に装着されるフランジ23の機外側の面と、シールハウジング3の機内側に設けられる熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環保持部25とを対向するように配設し、該緊急用シール環保持部25の内周に通常の作動温度下で固定されるように熱膨張率の小さい材料から作製された緊急用シール環26を設け、緊急用シール環保持部25と緊急用シール環26との間に緊急用シール環26をフランジの機外側の面30に押圧するように作用する弾性部材を設けることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に使用されるメカニカルシール用シャットダウンシールに関し、特に、原子炉1次冷却材ポンプの回転軸のシールに好適なメカニカルシール用シャットダウンシールに関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水型原子力発電プラントにおいては、蒸気を発生させる蒸気発生器に炉心から熱を伝えるため、原子炉1次冷却系統が使用されている。そして、蒸気はタービン式発電機を駆動するために用いられる。
図6は、従来の原子炉の冷却系統における複数の冷却ループ50のうちの1つを概略的に示したものである。冷却ループ50は、原子炉の炉心51に閉回路で直列に接続された蒸気発生器52と、原子炉1次冷却材ポンプ53とを備えている。
炉心51から流出する高温の冷却材は、流路57を経て蒸気発生器52の入口54に導かれ、入口54に連通している1次系管56に導入される。高温の冷却材は、1次系管56内において蒸気発生器52に供給される2次冷却水(図示しない)と熱交換される。2次冷却水は加熱され、その一部がタービン発電機(図示しない)を駆動するため蒸気に変換される。そして、熱交換により温度が下がった1次冷却材は、出口55から流路58を介して原子炉1次冷却材ポンプ53に入り、加圧され、流路59を通って炉心51に再循環される。
【0003】
原子炉1次冷却材ポンプ53は、多量の冷却材を、高温かつ高圧で閉回路全体に流すことができなければならない。熱交換後に蒸気発生器52から原子炉1次冷却材ポンプ53に流れる1次冷却材の温度は、まだ比較的に高く、一般的には約288℃(550°F)である。このような温度で1次冷却材を液相で維持するために、1次冷却系統は約158kg/cm(2250psi)の圧力で作動される。
原子炉1次冷却材ポンプ53は、縦型単段遠心ポンプであり、基本的には、下部から上部にかけて、水圧部分、軸シール部分及びモータ部分を備えている。
【0004】
図7は、原子炉1次冷却材ポンプ53の軸シール部分を示した縦断面図である。
原子炉1次冷却材ポンプ53のポンプハウジング60にはシールハウジング61がボルトで固定され、回転軸62がポンプハウジング60の中心を延びるとともにシールハウジング61内で封止可能に設けられている。回転軸62の下部部分はインペラー(図示しない)に連結され、上部部分は高出力のモータ(図示しない)に連結されている。ポンプハウジング60の機内側63とシールハウジング61の機外側との間に約158kg/cmの圧力差を維持しながら、回転軸62がシールハウジング61内で自由に回転し得るように、直列に配置された下部の第1シール装置65、中間の第2シール装置66及び上部の第3シール装置67が、シールハウジング61内の回転軸62の周りに設けられている。各シール装置の形式としては種々のものが採用可能であるが、本例では、圧力封止の大部分を行う下部の第1シール装置65を非接触式とし、第2及び第3シール装置66、67を接触式としている。
【0005】
各シール装置65、66、67は、回転軸62と共に回転するように取付けられた環状のメイティングリング68、69、70と、シールハウジング61内に装着された環状のシールリング71、72、73をそれぞれ有している。対をなすメイティングリング68、69、70とシールリング71、72、73とは、それぞれ、互いに対向する上向きの端面と、下向きの端面とを有している。
【0006】
上記した3つの第1シール装置65、第2シール装置66及び第3シール装置67は、各段階で制御漏洩量を最小とすることができ、また、1次冷却系統からシールリークオフポートへの冷却材の過度の漏洩を防止する。通常の運転において、各シール装置は、1次冷却系統の温度よりも十分に低い温度に維持されるが、これらの系統に理論上考えられる故障ないし損傷が生じた場合、各シール装置は高温にさらされ、各シール装置を故障させる可能性がある。万一、シール装置が故障すると、過度の漏れ率となり、その極限においては、原子炉の炉心に冷却材が行き渡らず、炉心損傷を引き起こす恐れがある。そのため、シール装置をバックアップする手段が必要とされている。
【0007】
図8は、シール装置が高温にさらされ、封止が万一損なわれた場合のバックアップ手段の一例を示したものである(以下、「従来技術1」という。たとえば、特許文献1参照。)。
この従来技術1では、下部の第1シール装置65の機外側の位置(図7及び8の符号64で示す位置)にバックアップ手段を設けたものである。
図8において、回転軸62にはスリーブ75が装着され、また、第1シール装置65のメイティングリング68がポンプハウジング60の機内側63に設けられたホルダー76によりOリング77を介して保持され、さらに、該ホルダー76は肩リング78によりOリング79を介して保持されている。さらに、肩リング78は回転軸62にOリング74を介して装着されている。一方、シールリング71は、機外側に位置して設けられたホルダー80によりOリング82を介して保持され、また、該ホルダー80は、シールハウジング61内に固定されたインサート81の外周面とOリング83を介して摺動可能に設けられている。インサート81の機外側側面とシールハウジング61内面との間にはOリング86が設けられている。
【0008】
インサート81は、断面が略L字型をしており、フランジ部84に形成された空洞部(図示しない)にバックアップ手段としてのシャットダウンシール85(二点鎖線で示す)が配設されている。
シャットダウンシール85は、図示しないが、異常高温に至った際に膨張するワックス、該ワックスにより駆動されるピストン、該ピストンに連結されスペーサ、及び、該スペーサが円周方向の割れ目に挟着されてなるスプリットリングを備えている。
万一、シール装置が高温にさらされた際には、ワックスが膨張してピストンを半径方向外側に駆動し、スプリットリングに挟着されたスペーサをスプリットリングから半径方向外側に引き出す。これにより、スプリットリングが弾性収縮してスリーブ75の外周面に密着し、機内側63から機外側への被密封流体の漏洩を防止するようになっている。
【0009】
なお、従来技術1の他、シール装置部分の温度変化を利用して、被密封流体の漏洩を防止するようにした発明として、特許文献2及び特許文献3に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2010/068615号
【特許文献2】特開平2−26369号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0140877号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来技術1においては、インサート81の内周部でスプリットリングをスリーブ75の外周面に密着させてシールするものであるが、異常高温発生の原因の1つとして想定されているSBO(全電源喪失)を発生させ得る大地震では、シャフトとハウジングの相対振動により、隙間の狭いシャットダウンシールとスリーブ間において接触が生じ、破損する可能性がある。また、スリーブ75は異常高温の熱及び緊急時の振動により変形され、スリーブ75とスプリットリングとの間に間隙ができ、該間隙から被密封流体の漏洩が発生するという問題がある。
また、第1シール装置65には複数個所にOリング74、77、79、82、83、86が配設されており、異常高温に至った際に、これらのOリングのシール性が損なわれる可能性がある。万一、シャットダウンシール85の機内側に位置するOリング77、79、82及び83のシール性が損なわれてもシャットダウンシール85により被密封流体の漏洩は一定程度防止できるが、肩リング78と回転軸62との間のOリング74、及び、シャットダウンシール85を装着しているインサート81とシールハウジング61との間のOリング86が高温にさらされてそのシール性が損なわれると被密封流体の漏洩を防止することができないという問題もある。
なお、上記の特許文献2及び3に記載の発明においても、従来技術1と同様の問題がある。
【0012】
本発明は、従来技術の問題点を解決するためになされたもので、最も機内側に位置するシールのさらに機内側の位置に、機器の異常高温時においてもシール性が損なわれることのない緊急用のシャットダウンシールを設けることにより、緊急時における被密封流体の機外側への漏洩を確実に防止できるメカニカルシール用シャットダウンシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明のメカニカルシール用シャットダウンシールは、第1に、定常運転状態逸脱に伴う異常高温時の回転軸停止後に作動するメカニカルシール用シャットダウンシールであって、最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に位置して回転軸側に装着されるフランジの機外側の面と、シールハウジングの機内側に設けられる熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環保持部とを対向するように配設し、該緊急用シール環保持部の内周に通常の作動温度下で固定されるように熱膨張率の小さい材料から作製された緊急用シール環を設け、緊急用シール環保持部と緊急用シール環との間に緊急用シール環をフランジの機外側の面に押圧するように作用する弾性部材を設けることを特徴としている。
【0014】
また、本発明のメカニカルシール用シャットダウンシールは、第2に、第1の特徴において、緊急用シール環が固定される緊急用シール環保持部の内周に金属Oリングを設けることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第3に、第1又は第2の特徴において、緊急用シール環保持部がオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属(例えばSUS316)から形成され、緊急用シール環がマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金など比較的熱膨張係数の小さな金属(例えばSUS403又はTF340)から形成されることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第4に、第1又は第2の特徴において、緊急用シール環保持部の内周に凹部が形成され、該凹部に嵌合するように緊急用シール環の外周に凸部が形成されるとともに、緊急用シール環保持部はオーステナイト系ステンレス鋼から形成され、緊急用シール環はインバーから形成されることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第5に、第1ないし第4のいずれか1つの特徴において、緊急用シール環が断面略L字状であり、シール面にリング状突起を設けることを特徴としている。
【0015】
また、本発明のメカニカルシール用シャットダウンシールは、第6に、定常運転状態逸脱に伴う異常高温時の回転軸停止後に作動するメカニカルシール用シャットダウンシールであって、最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に位置して回転軸側に装着されるフランジの外周側に設けられる熱膨張率の小さい材料から作製された緊急用シール環保持部と、シールハウジングの機内側に突出する突出部とが対向するように配設し、該緊急用シール環保持部の外周に通常の作動温度下で固定されるように熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環を設け、緊急用シール環保持部と緊急用シール環との間に緊急用シール環をシールハウジングの機内側の面に押圧するように作用する弾性部材を設けることを特徴としている。
【0016】
また、本発明のメカニカルシール用シャットダウンシールは、第7に、第6の特徴において、緊急用シール環が固定される緊急用シール環保持部の外周に金属Oリングを設けることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第8に、第6又は第7の特徴において、緊急用シール環保持部がマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金など比較的熱膨張係数の小さな金属(例えばSUS403又はTF340)から形成され、緊急用シール環がオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属(例えばSUS316)から形成され、シールハウジングの機内側に突出する突出部がオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属(例えばSUS316)から形成されることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第9に、第6又は第7の特徴において、緊急用シール環保持部の外周に凹部が形成され、該凹部に嵌合するように緊急用シール環の内周に凸部が形成されるとともに、緊急用シール環保持部はインバーから形成され、緊急用シール環はオーステナイト系ステンレス鋼から形成されることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第10に、第6ないし第9のいずれか1つの特徴において、緊急用シール環が断面略L字状であり、シール面にリング状突起を設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)定常運転状態逸脱に伴う異常高温時の回転軸停止後に作動するメカニカルシール用シャットダウンシールにおいて、最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に異常高温により作動する緊急用シール手段を設けることにより、メカニカルシールの機内側において遮断が行われるので、被密封流体の機外側への漏洩を確実に防止することができる。
(2)遮断時には、緊急用シール環の裏面に機内側の圧力が作用し、差圧により緊急用シール環には遮断する方向の力が作用されるため、より一層の遮断効果を発揮することができる。
(3)緊急用シール環保持部に設けられる金属Oリングは耐熱性を有するので、異常高温時においても、緊急用シール環保持部と緊急用シール環との二次シールとしての機能が損なわれることはない。
(4)緊急用シール環保持部と緊急用シール環との係合が凹凸形状によりなされることにより、シャットダウンシールの作動する条件が精度よく設定でき、また、シャットダウンシールの誤作動を防止でき、さらに、固着による作動不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分を示した縦断面図であって、通常の運転状態を示している。
【図2】図1のA部を示すもので、シャットダウン時の状態を示している。
【図3】本発明の実施の形態2に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分を示した縦断面図であって、通常の運転状態を示している。
【図4】図3のB部を示すもので、シャットダウン時の状態を示している。
【図5】本発明の実施の形態3に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分の要部を示した縦断面図であって、(a)は通常の運転状態を、(b)はシャットダウン時の状態を示している。
【図6】従来の原子炉の冷却系統における複数の冷却ループのうちの1つを概略的に示した説明図である。
【図7】従来技術1の原子炉冷却材ポンプの軸シール部分を示した縦断面図である。
【図8】従来技術1のシャットダウンシールを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0020】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施の形態1に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分1を示した縦断面図であって、通常の運転状態を示している。
原子炉1次冷却材ポンプのポンプハウジング2にはシールハウジング3がボルト4で固定され、回転軸5がポンプハウジング2の中心を上向きに延びるとともにシールハウジング3内で封止可能に設けられている。回転軸5の下部部分はインペラー(図示しない)に連結され、上部部分は高出力のモータ(図示しない)に連結されている。ポンプハウジング2の機内側6とシールハウジング3の機外側との間に約158kg/cmの圧力差を維持しながら、回転軸5がシールハウジング3内で自由に回転し得るように、直列に配置された下部の第1シール装置7、中間の第2シール装置8及び上部の第3シール装置9が、シールハウジング3内の回転軸5の周りに設けられている。各シール装置の形式は種々のものが採用可能であるが、本例では、圧力封止の大部分を行う下部の第1シール装置7を非接触式とし、第2及び第3シール装置8、9を接触式としている。
【0021】
各シール装置7、8、9は、回転軸5と共に回転するように取付けられた回転側密封要素であるところのメイティングリング10、11、12と、シールハウジング3側に装着された静止側密封要素であるところのシールリング13、14、15をそれぞれ有している。対をなすメイティングリング10、11、12とシールリング13、14、15とは、それぞれ、互いに対向する上向きの端面16、17、18と、下向きの端面19、20、21とを有している。
また、各シール装置7、8、9には、ニトリルゴムやEPDMなどのゴムあるいは樹脂などから作製された多数のOリング40が装着されている。
【0022】
上記3つのシール装置のうち、機内側6に最も近い位置に装着された第1シール装置7は、そのメイティングリング10が回転軸5に装着されたカラー22により機内側6から支持されるようになっている。カラー22のさらに機内側6には、メイティングリング10及びカラー22を固定するためのフランジ23が回転軸5に設けられている。フランジ23の外径は、後記するシールハウジング3の緊急用シール環保持部25に対向できるように拡大されている。
【0023】
シールハウジング3の機内側は延長され、緊急用シール環保持部25が形成される。緊急用シール環保持部25の内周には、断面略L字状の緊急用シール環26が圧入により嵌合され、固定されている。緊急用シール環26が固定される緊急用シール環保持部25の内周に金属Oリング27が設けられる。緊急用シール環26の外向きのフランジ部28のフランジ23に対向する面29は、緊急時にフランジ23の機外側の面30に接触させられシール面を形成するものであり、シール面29にはリング状突起31が設けられている。
また、緊急用シール環保持部25と緊急用シール環26との間には緊急用シール環26をフランジ23の機外側の面30に押圧するコイルスプリング32が設けられる。
シールハウジング3の機内側の緊急用シール環保持部25はオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属、例えば、SUS316から形成される。緊急用シール環保持部25がシールハウジング3と一体に形成される場合には、シールハウジング3全体をオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属、例えば、SUS316で形成することになるが、緊急用シール環保持部25を別体として形成してもよい。
一方、緊急用シール環26は、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金など比較的熱膨張係数の小さな金属、例えば、SUS403又はTF340から形成される。
【0024】
通常の冷却系統の作動温度下では緊急用シール環26が作動されないように、緊急用シール環26の外径は緊急用シール環保持部25の内径より一定のしめ代分だけ大きく設定されている。
緊急用シール環保持部25に緊急用シール環26を嵌合し、固定するには、まず、緊急用シール環保持部25に金属Oリング27及びコイルスプリング32をセットする。次に、緊急用シール環保持部25に加熱手段を装着して、緊急用シール環26の外径より緊急用シール環保持部25の内径の方が大きくなるまで加熱する。その後、緊急用シール環26を圧入する。
【0025】
図2は、図1のA部を示したもので、シャットダウン時の状態を示している。
原子炉冷却材ポンプに流れる冷却材の通常の温度は、一般的には約288℃であり、緊急用シール環26は図1の状態に維持されている。
冷却系統に故障ないし損傷が生じた場合、各シール装置7、8、9は異常高温にさらされ、各シール装置を故障させる可能性がある。
今、 各シール装置が異常高温にさらされた場合、緊急用シール環保持部25及び緊急用シール環26も異常高温となり、熱膨張率の大きい材料で作製された緊急用シール環保持部25は、熱膨張率の小さい材料で作製された緊急用シール環26より径方向においても膨張し、両者の嵌合部に隙間が形成される。この隙間の形成により、緊急用シール環保持部25の内周と緊急用シール環26の外周との間の摩擦力よりコイルスプリング32の弾発力が大きくなると、緊急用シール環26は機内側6に向けて瞬時に押し出され、フランジ23の機外側の面30に押圧される。
【0026】
緊急用シール環26のフランジ23に対向する面29とフランジ23の機外側の面30との接触により、第1シール装置7、中間の第2シール装置8及び上部の第3シール装置9よりも機内側6において遮断が行われるので、被密封流体の機外側への漏洩を防止することができる。
また、遮断時には、緊急用シール環26の裏面に機内側の圧力が作用し、差圧により緊急用シール環26には閉じる方向の力が作用される。
さらに、緊急用シール環保持部25の内周に設けられる金属Oリング27は耐熱性を有するので、異常高温時においても、緊急用シール環保持部25の内周と緊急用シール環26の外周との二次シールとしての機能が損なわれることはない。
【0027】
〔実施の形態2〕
図3は、本発明の実施の形態2に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分を示した縦断面図であって、通常の運転状態を示している。
図3において、図1の符号と同じ符号は図1と同じ部材を示しており、詳しい説明は省略する。
【0028】
図3において、機内側6に最も近い位置に装着された第1シール装置7は、そのメイティングリング10が回転軸5に装着されたリテーナ22により機内側6から支持されるようになっている。リテーナ22のさらに機内側6には、メイティングリング10及びリテーナ22を固定するためのフランジ23が回転軸5に設けられている。フランジ23の外周側には、緊急用シール環保持部33が設けられる。該緊急用シール環保持部33は熱膨張率の小さい材料から作製されるもので、フランジ23と一体的、あるいは、別体で形成されてもよい。緊急用シール環保持部33の外周には、熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環34が嵌合、固定されている。緊急用シール環34は、断面略L字状をしており、緊急用シール環34のフランジ部35と緊急用シール環保持部33との間には緊急用シール環34の機外側の面37をシールハウジング3の機内側に突出する突出部36の機内側の面38に押圧するコイルスプリング32が設けられている。
【0029】
緊急用シール環保持部33はマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金など比較的熱膨張係数の小さな金属、例えば、SUS403又はTF340から作製され、緊急用シール環34はオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属、例えば、SUS316から作製され、シールハウジングの機内側に突出する突出部36はオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属、例えば、SUS316から作製される。
緊急用シール環34が固定される緊急用シール環保持部33の外周には金属Oリング27が設けられる。また、緊急用シール環34の機外側の面37には、シールハウジング3の突出部36の機内側の面38と接触する位置にリング状突起31が設けられる。
【0030】
通常の冷却系統の温度下では緊急用シール環34が作動されないように、緊急用シール環34の内径は緊急用シール環保持部33の外径より一定のしめ代分だけ小さく設定されている。
緊急用シール環保持部33に緊急用シール環34を嵌合し、固定するには、まず、緊急用シール環保持部33に金属Oリング27及びコイルスプリング32をセットする。次に、緊急用シール環34に加熱手段を装着して、緊急用シール環保持部33の外径より緊急用シール環34の内径の方が大きくなるまで加熱する。その後、緊急用シール環34を圧入する。
【0031】
図4は、図3のB部を示したもので、シャットダウン時の状態を示している。
今、 各シール装置が異常高温にさらされた場合、緊急用シール環保持部33及び緊急用シール環34も異常高温となり、熱膨張率の大きい材料で作製された緊急用シール環34は、熱膨張率の小さい材料で作製された緊急用シール環保持部33より径方向においても膨張し、両者の嵌合部に隙間が形成される。この隙間の形成により、緊急用シール環保持部33の外周と緊急用シール環34の内周との間の摩擦力よりコイルスプリング32の弾発力が大きくなると、緊急用シール環34は機外側に向けて瞬時に押し出され、シールハウジング3の突出部36の機内側の面38に押圧される。
【0032】
緊急用シール環34の機外側の面37とシールハウジング3の突出部36の機内側の面38との接触により、第1シール装置7、中間の第2シール装置8及び上部の第3シール装置9よりも機内側6において遮断が行われるので、被密封流体の機外側への漏洩を防止することができる。
また、遮断時には、緊急用シール環34の裏面に機内側の圧力が作用し、差圧により緊急用シール環34には遮断する方向の力が作用される。
さらに、緊急用シール環保持部33の外周に設けられる金属Oリング27は耐熱性を有するので、異常高温時においても、緊急用シール環保持部33の外周と緊急用シール環34の内周との二次シールとしての機能が損なわれることはない。
【0033】
〔実施の形態3〕
図5は、本発明の実施の形態3に係るメカニカルシール用シャットダウンシールを装着した原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分の要部を示した縦断面図であって、(a)は通常の運転状態を、(b)はシャットダウン時の状態を示している。
実施の形態3は、実施の形態1及び実施の形態2の緊急用シール環及び緊急用シール環保持部のうち、径方向において内径側に位置する部材を熱膨張係数の小さいインバー(不変鋼)より形成するとともに、両者の係合面を凹凸形状にした点(以下「変更点」という。)で実施の形態1及び実施の形態2と相違するが、それ以外は実施の形態1及び実施の形態2と同じである。
図5では、実施の形態1に変更点を適用した場合を示しており、図1の符号と同じ符号は図1と同じ部材を示しており、詳しい説明は省略する。
【0034】
図5(a)に示すように、緊急用シール環保持部25の内周には、断面略L字状の緊急用シール環26が圧入により嵌合され固定されるが、緊急用シール環保持部25の内周の上部には凹部39が形成され、また、緊急用シール環26の外周の上部には凹部39に嵌合するように凸部41が形成されている。緊急用シール環保持部25はオーステナイト系ステンレス鋼などの比較的熱膨張係数の大きな金属、例えば、SUS316から形成される。一方、緊急用シール環26は、熱膨張係数の小さな金属、例えば、インバーから形成されている。
実施の形態1では、通常の冷却系統の作動温度下では緊急用シール環26が作動されないように、緊急用シール環26の外径は緊急用シール環保持部25の内径より一定のしめ代分だけ大きく設定されているが、本実施の形態3では、緊急用シール環保持部25の凹部39と緊急用シール環26の凸部41とが段部により係合するため、実施の形態1のように、しめ代を設ける必要はない。
【0035】
緊急用シール環保持部25に緊急用シール環26を嵌合し、固定するには、まず、緊急用シール環保持部25に金属Oリング27及びコイルスプリング32をセットする。次に、緊急用シール環保持部25に加熱手段を装着して、緊急用シール環26の凸部41の外径より緊急用シール環保持部25の内径の方が大きくなるまで加熱する。その後、緊急用シール環26を挿入し、緊急用シール環保持部25の凹部39に緊急用シール環26の凸部41を嵌合する。
【0036】
図5(b)は、シャットダウン時の状態を示している。
今、 緊急用シール環保持部25及び緊急用シール環26が異常高温にさらされた場合、熱膨張率の大きい材料で作製された緊急用シール環保持部25は、熱膨張率の小さい材料で作製された緊急用シール環26より径方向においても膨張し、緊急用シール環保持部25の内径が緊急用シール環26の凸部41の外径よりわずかに大きくなる。この状態においては、緊急用シール環保持部25の凹部39と緊急用シール環26の凸部41の係合は解除され、コイルスプリング32の弾発力により、緊急用シール環26は機内側6に向けて瞬時に押し出され、フランジ23の機外側の面30に押圧される。この状態では、緊急用シール環26の凸部41が金属Oリング27に当接し、緊急用シール環保持部25の内周と緊急用シール環26の外周との二次シールとしての機能が損なわれることはない。
【0037】
このように、本例では、緊急用シール環保持部25と緊急用シール環26との係合が凹凸形状によりなされるため、焼き嵌めによる係合に比べてシャットダウンシールの作動する条件が精度よく設定できる。また、シャットダウンシールの誤作動を防止できる。さらに、焼き嵌めによる係合におけるような固着による作動不良を防止できるという効果を奏する。
【0038】
上記においては、実施の形態1に変更点を適用した場合について説明しているが、実施の形態2における緊急用シール環保持部33の外周に凹部を形成し、緊急用シール環34の内周に凸部を形成することにより、実施の形態1に変更点を適用した場合と同様のものが得られることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0039】
1 原子炉1次冷却材ポンプの軸シール部分
2 ポンプハウジング
3 シールハウジング
4 ボルト
5 回転軸
6 機内側
7 第1シール装置
8 第2シール装置
9 第3シール装置
10 メイティングリング
11 メイティングリング
12 メイティングリング
13 シールリング
14 シールリング
15 シールリング
16 メイティングリングの上向きの端面
17 メイティングリングの上向きの端面
18 メイティングリングの上向きの端面
19 シールリングの下向きの端面
20 シールリングの下向きの端面
21 シールリングの下向きの端面
22 リテーナ
23 フランジ
25 緊急用シール環保持部
26 緊急用シール環
27 金属Oリング
28 緊急用シール環のフランジ部
29 緊急用シール環のフランジに対向する面
30 フランジの機外側の面
31 リング状突起
32 コイルスプリング
33 緊急用シール環保持部
34 緊急用シール環
35 緊急用シール環のフランジ部
36 シールハウジング3突出部
37 緊急用シール環の機外側の面
38 シールハウジングの突出部の機内側の面
39 緊急用シール環保持部の凹部
40 Oリング
41 緊急用シール環の凸部
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常運転状態逸脱に伴う異常高温時の回転軸停止後に作動するメカニカルシール用シャットダウンシールであって、最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に位置して回転軸側に装着されるフランジの機外側の面と、シールハウジングの機内側に設けられる熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環保持部とを対向するように配設し、該緊急用シール環保持部の内周に通常の作動温度下で固定されるように熱膨張率の小さい材料から作製された緊急用シール環を設け、緊急用シール環保持部と緊急用シール環との間に緊急用シール環をフランジの機外側の面に押圧するように作用する弾性部材を設けることを特徴とするメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項2】
緊急用シール環が固定される緊急用シール環保持部の内周に金属Oリングを設けることを特徴とする請求項1記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項3】
緊急用シール環保持部が緊急用シール環に比べて熱膨張係数の大きな金属材料から形成され、緊急用シール環が緊急用シール環保持部に比べて熱膨張係数の小さな金属材料から形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項4】
緊急用シール環保持部がオーステナイト系ステンレス鋼から形成され、緊急用シール環がマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金のいずれか1つから形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項5】
緊急用シール環保持部の内周に凹部が形成され、該凹部に嵌合するように緊急用シール環の外周に凸部が形成されるとともに、緊急用シール環保持部はオーステナイト系ステンレス鋼から形成され、緊急用シール環はインバーから形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項6】
緊急用シール環が断面略L字状であり、シール面にリング状突起を設けることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項7】
定常運転状態逸脱に伴う異常高温時の回転軸停止後に作動するメカニカルシール用シャットダウンシールであって、最も機内側に位置するメカニカルシールの機内側に位置して回転軸側に装着されるフランジの外周側に設けられる熱膨張率の小さい材料から作製された緊急用シール環保持部と、シールハウジングの機内側に突出する突出部とが対向するように配設し、該緊急用シール環保持部の外周に通常の作動温度下で固定されるように熱膨張率の大きい材料から作製された緊急用シール環を設け、緊急用シール環保持部と緊急用シール環との間に緊急用シール環をシールハウジングの機内側の面に押圧するように作用する弾性部材を設けることを特徴とするメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項8】
緊急用シール環が固定される緊急用シール環保持部の外周に金属Oリングを設けることを特徴とする請求項7記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項9】
緊急用シール環保持部が緊急用シール環に比べて熱膨張係数の小さな金属材料から形成され、緊急用シール環が緊急用シール環保持部に比べて熱膨張係数の大きな金属材料から形成され、シールハウジングの機内側に突出する突出部が緊急用シール環保持部に比べて熱膨張係数の大きな金属材料から形成されることを特徴とする請求項7又は8記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項10】
緊急用シール環保持部がマルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、チタン合金のいずれか1つから形成され、緊急用シール環がオーステナイト系ステンレス鋼から形成され、シールハウジングの機内側に突出する突出部がオーステナイト系ステンレス鋼から形成されることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項11】
緊急用シール環保持部の外周に凹部が形成され、該凹部に嵌合するように緊急用シール環の内周に凸部が形成されるとともに、緊急用シール環保持部はインバーから形成され、緊急用シール環はオーステナイト系ステンレス鋼から形成されることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。
【請求項12】
緊急用シール環が断面略L字状であり、シール面にリング状突起を設けることを特徴とする請求項7ないし11のいずれか1項に記載のメカニカルシール用シャットダウンシール。























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−241724(P2012−241724A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109055(P2011−109055)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】