説明

メッキ装置

【課題】半導体等の被処理基板にメッキを施すメッキ装置において、被処理基板の円形被処理領域全域を簡単な機構で隈なく攪拌する装置を提供する。
【解決手段】上部に開口を有するメッキ槽1とメッキ槽内に配置されたアノード5とアノード5と被処理基板23の間に液流を形成するポンプ2を備え、さらに直線ガイド13、131とこれに沿って往復運動する直動板12と直動板12に固定された弾性を有する攪拌板15と攪拌板15の両端を、転がり軸受16を介してガイドする円弧状ガイドによって構成された攪拌ユニットを備え、円形開口を有する被処理基板マスク部材18の開口に配置された被処理基板23の被処理領域を、攪拌板15を左右に弓形に撓ませながら往復運動させることにより攪拌するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理基板にメッキを施すメッキ装置に関するものである。

【背景技術】
【0002】
半導体等の被処理基板にメッキを施すメッキ装置においては、被処理基板に向けた液流や被処理基板近辺の液攪拌により、被処理基板表面に新液を供給し続けることが重要であることが広く知られている。
【0003】
前記新液とは、被処理基板表面でのメッキ反応による変化を被っていない沖合のメッキ液のことを言う。
【0004】
被処理基板のパターンが微細であるとき、または、メッキ膜の生成速度を上げようとする場合にこのメッキ液供給は特に重要である。
【0005】
この分野に属する従来技術としては、例えば、特許文献1や特許文献2を上げることができる。
【0006】
特許文献1では、回転翼により被処理基板周辺部の液の滞留を防止する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2では自公転する2つの回転翼を用いて被処理基板全域を攪拌する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−64795号公報
【特許文献2】特開2003−119598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示された技術では、円形メッキカップ上部のウエハ支持部に当接するように配置された被処理基板の近傍を回転翼で攪拌する技術が開示されている。しかし、この技術では、被処理域の周辺部は、良く攪拌されるものの、被処理基板中心近辺の攪拌が不十分であることが、特許文献2で指摘されている。
【0009】
また、特許文献2に開示された技術では、円形メッキカップ上部のウエハ支持部に当接するように配置された被処理基板の被処理域全域を攪拌することを実現しているものの、機構が複雑であり、高価なものにならざるを得ないという欠点を有する。
【0010】
具体的にその複雑さを上げるならば、外周歯車と太陽歯車の間で自公転する2つの攪拌体をメッキカップ内に構成することの複雑さ、攪拌体自体の形状の複雑さ、メッキカップ側壁から回転軸を挿入し、1組の傘歯車とさらに別の駆動用平歯車を介して外周歯車を駆動することの複雑さがある。
【0011】
また、特許文献2の機構では、到る所に摺動部が存在し、パーティクルの発生が懸念される。メッキ液中にパーティクルが発生することは、言うまでもなく好ましことではない。
【0012】
具体的にパーティクルの発生が懸念される個所を上げるならば、回転する外周歯車とこれを支えるメッキカップ内壁との間の摺動、攪拌体が脱落したり浮上したりしないように支える部分が存在するはずであるが、その部分と攪拌体の間の摺動、各歯車の噛合いの摺動である。
【0013】
また、自公転する2つの回転翼を用いるという基本機構を大きく変えること無しに摺動部を排除するためには、到る所に転がり軸受などの手段を配置せねばならず現実的ではない。
【0014】
本発明は、上記のような問題点に鑑みなされたものであり、より簡単な機構で、円形開口を有するマスク部材の内周に当接するように配置された被処理基板の被処理域全域を隈なく攪拌し、良好なメッキ膜を生成するメッキ装置を提供することを目的とする。


【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載する発明は、弾性を有する攪拌板を左右に弓形に撓ませながら往復運動させる攪拌手段を備えたメッキ装置である。

【0016】
請求項2に記載する発明は、請求項1に記載のメッキ装置であって、前記攪拌板を弓形に撓ませるために攪拌板両端に円形開口を有する被処理基板マスク部材の開口の中心と同軸の関係となる位置に円弧状ガイドを備える。

【0017】
請求項3に記載する発明は、請求項2に記載のメッキ装置であって、前記攪拌板の両端に前記円弧状ガイドに接する転がり軸受を備える。

【0018】
請求項4に記載する発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のメッキ装置であって、複数枚の前記攪拌板を備える。

【0019】
請求項5に記載する発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のメッキ装置であって、前記攪拌板を往復運動させるための直線ガイドと前記円弧状ガイドを一体的に備える。

【0020】
請求項6に記載する発明は、上部に開口を有するメッキ槽と前記メッキ槽内に配置されたアノードと前記メッキ槽内に液流を形成させるためのポンプを備えた電解メッキ装置であって、弾性を有する攪拌板の両端を円弧上ガイドに沿わせながら、前記攪拌板の中心部を支持して往復運動させることにより、前記攪拌板を左右に弓形に撓ませて、円形開口を有するマスク部材の内周に当接するように配置された被処理基板の被処理域全域を隈なく攪拌する攪拌手段を備える。


【発明の効果】
【0021】
請求項1発明では、円形開口を有するマスク部材の開口の奥に位置する被処理基板の被処理域全域を隈なく攪拌することができる。

【0022】
請求項2の発明では、容易に攪拌板の撓み具合を制御することが可能である。

【0023】
請求項3の発明では、攪拌板と円弧状ガイドの間の摺動を無くしパーティクルの発生を少なくすることができる。

【0024】
請求項4の発明では、より小さいストロークの往復運動で被処理基板の被処理域全域を攪拌することができる。

【0025】
請求項5の発明では、円弧状ガイドと攪拌板の位置関係を容易に整合させることができる。

【0026】
請求項6の発明では、簡単な機構で安価でありながら攪拌性能の高い攪拌手段を備えることにより、良質のメッキ膜を高い生膜速度で生成する電解メッキ装置を提供することができる。


【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
まず、図1を中心に、必要に応じて他の図を参照しながら、本発明全体の構成を説明する。
【0028】
ここでメッキ槽1は、例えば硬質塩化ビニル製であって、平面視長方形であり上部に開口を備える。メッキ槽1の正面にメッキ液入口8、背面にメッキ液出口22を備える。メッキ槽1の容積は、例えば20リットルである。
【0029】
メッキ液は、予めメッキ液面27あたりまで満たされる。本実施形態におけるメッキ液は、銅メッキを目的とした硫酸銅メッキ液である。
【0030】
ポンプ2は、例えば毎分20リットル程度の流量の回転翼式のポンプである。メッキ液は、ポンプ2によりメッキ槽入口8から入り、アノード5通過して被処理基板23の近辺を通りメッキ液出口22に向い、循環する。
【0031】
メッキ液拡散板9は、シャワーヘッド状の穴をもつ円板であり、メッキ液入口8から入ってきたメッキ液を、アノード5全体に拡散させる働きを持つ。
【0032】
アノード5は、不溶性アノードであり、円形のチタンメッシュより成る。アノード5の表面は、酸化イリジュームで覆われており、メッキ液に耐性を持つ。アノード5は、アノードホルダ4に支持されている。
【0033】
アノードホルダ4は、アノード5を支持するとともに、メッキ槽外部への電気的導通路となる。アノードホルダ4の導通を要しない表面は、フッ素樹脂コーティングで絶縁されている。
【0034】
電界遮蔽リング3及び電界遮蔽リング6は、アノード5から被処理基板に至るメッキ液中の余計な電流経路を遮断する部材である。
【0035】
電界遮蔽板7は、円形開口を持つ円板であり、円形開口の径を適当に設定することにより、メッキ液中の電流経路を規制して、被処理基板に生成されるメッキ膜厚の均一性を高めることができる。
【0036】
リニアアクチュエータ10は、モータ、リニアガイド、ボールネジなどを内部に備え、直線往復運動を出力し、攪拌伝達棒11に直線往復運動を伝達する。
【0037】
攪拌伝達棒11と直動板12と直線ガイド13、131と転がり軸受21、211と攪拌ユニットベース14と攪拌板支持部材25(図4参照)と攪拌板15、151と転がり軸受16、161、162,163(図6参照)により攪拌ユニットを構成する。
【0038】
攪拌伝達棒11は、直動板12に連結されていて、直動板に往復運動を伝達する。
【0039】
直動板12は、正面視長方形(図4参照)をなし、メッキ液中の電流経路を妨げないよう、4つの大きな開口を備える。直動板12は、転がり軸受21、211を介して直線ガイド13、131と接しており、直線ガイド13、131に沿って動く際には、摺動部は無い。転がり軸受は、転がり軸受21、211の影になる部分にも存在し、少なくとも直動板12の4隅に各1ケ配置されている。
【0040】
直動板12の正面視中央には、被処理基板に向かって攪拌板支持部材25(図4参照)が固定されている。また攪拌板支持部材25には2枚の攪拌板15と攪拌板151(図6参照)が固定されている。
【0041】
被処理基板保持ホルダ取手17と被処理基板マスク部材18とカソード19とカソード引出し線24と被処理基板背面カバー20により被処理基板ホルダを構成する。
【0042】
被処理基板保持ホルダ取手17は、被処理基板保持ホルダをメッキ槽1に出し入れする場合の取手であると同時に、メッキ槽1内の定位置に被処理基板ホルダを支持する手段であり、カソード19に接続されたカソード引出し線24(図3参照)を内蔵する。
【0043】
被処理基板マスク部材18は、例えば硬質塩化ビニル製であり、正面視ドーナツ状(図2参照)をなす。被処理基板マスク部材18は、被処理基板23のメッキさせない部分をマスクすると同時にカソード19をメッキ液に接液させない働きを持つ。
被処理基板マスク部材18の開口部は、本実施形態では円形(図2参照)であるが、楕円形、長円形などであってもよい。
【0044】
被処理基板23は、本実施形態では、略円形の直径200mmの半導体ウエハであるが、正方形、長方形などの基板であってもよいし、材質もセラミック、ガラスなどであってもよい。被処理基板23は、開閉可能な被処理基板背面カバー20により、被処理基板マスク部材18の内周及びカソード19に押し付けられる。
【0045】
この際、被処理基板23は、被処理基板マスク部材18の開口の奥に位置する関係となり、形態的に凹部の底となる。
【0046】
メッキ処理時、被処理基板ホルダは、攪拌ユニットベース14と被処理基板マスク部材18の間に適等な隙間、例えば3mm、を保つように固定される。この隙間を通して、攪拌板15、151(図6参照)によって攪拌されたメッキ液は、被処理基板の左右に排除される。
【0047】
図示しないが、メッキ電源は、アノードホルダ4、被処理基板ホルダを通じてアノード5とカソード19の間に接続される。
【0048】
次に、図4、5、6を用いて、攪拌ユニットの機構と動作について説明する。図4では、攪拌ユニットをアノード5側から、また図5、6では被処理基板23側から見ている。
【0049】
攪拌板15,151は、弾性を有しメッキ液に耐性を持つ材料、金属であれば例えばチタン、樹脂であればPTFE(ポリテトラフロロエチレン)、PFA(パーフロロアルキルビニルエーテル)などを用いるこができる。PTFE、PFAは樹脂としては耐屈曲性に優れているので長寿命である。
【0050】
攪拌板の枚数は中央に1枚だけであっても本発明における機能を満たすが、往復運動のストロークを小さく取れる点において複数枚の方が有利である。
【0051】
攪拌板15,151は、以下に説明する機構によって、被処理基板マスク部材18と干渉することなく被処理基板23の直近、例えば被処理面から2mmまで近づいて被処理域全域を攪拌することができる。
【0052】
攪拌板15、151は、攪拌板支持部材25を介して、その中央部が直動板12に固定されている。したがって中央部は、直動板12に従って動く。
【0053】
一方、攪拌板15、151の両端は、転がり軸受16、161、162、163を介して円弧状ガイド26、261に接しており、弓状に撓みながら円弧状ガイド26、261に沿って動く。従って、攪拌板15、151と円弧状ガイド26、261の間に摺動が生じることはない。
【0054】
直線ガイド13は、円弧状ガイド26、261を含む攪拌ユニットベース14に固定されている。従って、攪拌板15、151の往復動作は、常に円弧状ガイド26、261に整合した位置でなされる。
【0055】
メッキ処理時、被処理基板ホルダは、円弧状ガイド26、261の中心が、被処理基板マスク部材18の開口部の中心と同軸の関係になるように適当な方法で固定される。従って、攪拌板15、151の攪拌域が、被処理基板23の被処理領域に一致した状態でメッキ処理がなされる。
【0056】
攪拌板15、151が弓状に撓む様子を図6に示す。図6では、攪拌板が中央にある場合と左側一杯まで移動した様子を重ねて描いている。攪拌板の撓みは、完全に円弧をなすものではないが、攪拌板の側面視形状(図1参照)を適当に設定することにより、略円弧に撓ませることができる。
【0057】
このように本発明では、攪拌板15、151を上記に説明した機構で左右に動作させることにより、被処理基板マスク部材18の開口で形成される凹部の底に位置する被処理基板23の直近を隈なく掃くように攪拌することができ、その結果、良好なメッキ膜を高いメッキ速度で生成することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態では、硫酸銅メッキ液による電解メッキを例にとり説明してきたが、本発明は、硫酸銅以外のメッキ液を用いた電解メッキの場合にも利用できることは当然である。
【0059】
また、電解メッキだけでなく無電解メッキの場合にもメッキ液攪拌は重要であり、電解メッキの場合と同様に本発明を利用することができる。


【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に於けるメッキ槽断面および全体構成を示す説明図である。
【図2】被処理基板ホルダの正面図である。
【図3】被処理基板ホルダのカソード近辺断面図である。
【図4】攪拌ユニットの正面図である。
【図5】攪拌ユニットの背面図である。
【図6】攪拌板の動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 メッキ槽
2 ポンプ
3 電界遮蔽リング
4 アノードホルダ
5 アノード
6 電界遮蔽リング
7 電界遮蔽板
8 メッキ液入口
9 メッキ液拡散板
10 リニアアクチュエータ
11 攪拌伝達棒
12 直動板
13、131 直線ガイド
14 攪拌ユニットベース
15、151 攪拌板
16、161、162、163 転がり軸受
17 被処理基板ホルダ取手
18 被処理基板マスク部材
19 カソード
20 被処理基板背面カバー
21、211 転がり軸受
22 メッキ液出口
23 被処理基板
24 カソード引出し線
25 攪拌板支持部材
26、261 円弧状ガイド
27 メッキ液面




【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する攪拌板を左右に弓形に撓ませながら往復運動させることにより、円形開口を有するマスク部材の内周に当接するように配置された被処理基板の被処理域全域を攪拌することを特徴とするメッキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のメッキ装置であって、前記攪拌板を弓形に撓ませる手段として、攪拌板両端に前記円形開口を有するマスク部材の開口の中心と同軸の関係となる円弧状ガイドを配置したことを特徴とするメッキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のメッキ装置であって、前記攪拌板の両端に前記円弧状ガイドに接する転がり軸受を配置したことを特徴とするメッキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のメッキ装置であって、前記攪拌板は、複数枚であることを特徴とするメッキ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のメッキ装置であって、前記攪拌板を往復運動させるための直線ガイドを前記円弧状ガイドと一体的に配置したことを特徴とするメッキ装置。
【請求項6】
上部に開口を有するメッキ槽と前記メッキ槽内に配置されたアノードと前記メッキ槽内に液流を形成させるためのポンプを備えた電解メッキ装置であって、弾性を有する攪拌板の両端を円弧状ガイドに沿わせながら、前記攪拌板の中心部を支持して往復運動させることにより、前記攪拌板を左右に弓形に撓ませて、円形開口を有するマスク部材の内周に当接するように配置された被処理基板の被処理域全域を攪拌することを特徴とするメッキ装置。









【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13441(P2009−13441A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173651(P2007−173651)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(707001263)有限会社技開工房 (2)
【Fターム(参考)】