説明

メディアストリームの品質イベントを特定する方法、端末、通信ノード装置及びプログラム

【課題】階層符号化されたメディアストリームを、メディア配信サーバ−端末間に備えられた通信ノード装置によって階層制御を実行する場合、その制御のための端末の品質イベントを即時に特定することができる方法等を提供する。
【解決手段】端末は、通信ノード装置から受信するメディアストリームにおける品質イベントを計測している。第1の端末が、自らの第1の品質イベントを、マルチキャストで送信する。次に、第1の品質イベントを受信した第2の端末が、第1の品質イベントと比較して、自らの第2の品質イベントが劣化している場合にのみ、第2の品質イベントをマルチキャストで送信する。これらを繰り返し、通信ノード装置は、1つ以上の端末から最終的に受信した品質イベントに基づいて、端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディア配信サーバからメディアストリームを配信する技術であって、そのメディアストリームの制御に用いられる品質イベントを特定する方法、端末、通信ノード装置及びプログラムに関する。特に、階層符号化されたメディアストリームを、通信ノード装置によって階層制御することによって、端末へ配信する技術に基づく。
【背景技術】
【0002】
近年、端末がIP(Internet Protocol)ネットワークに接続するためのアクセスネットワークについては、移動網又は固定網を問わず、データ転送速度が高速化されてきている。このようなアクセスネットワークの急速な普及に伴って、コアネットワークに「NGN(New Generation Network、次世代ネットワーク)」を用いた、大規模なメディア配信サービスの構築が検討されている。NGNを用いることによって、メディアの種類や配信形態(ビジネスモデル)の多様化に即した、高品質且つ高安全性のメディア配信サービスが期待されている。
【0003】
メディア配信サービスとは、ユーザによって所持される端末が、メディア配信サーバからメディアストリームを受信しつつ再生するサービスである。メディアストリームとは、リアルタイムに連続的に配信される音声又は映像のコンテンツデータである。従来、メディアストリームを受信しつつ再生する端末には、高性能なプロセッサ及び大容量のメモリを搭載する必要があった。
【0004】
これに対し、端末の処理能力及びメモリ量に応じて、メディアストリームを再生することができるように、メディア配信サーバが、階層符号化されたメディアストリームを送信する技術がある。階層符号化とは、メディアストリームを複数の階層に分けて符号化し、異なる復号データを段階的に得る技術である。最初の層では、基本的な解像度のメディアデータを符号化し、次の層ではより高い解像度のメディアデータを符号化し、これら多層の符号化を実現する(例えばMPEG2におけるプロファイルとレベルとの関係に基づく符号化がある)。例えば、音声/映像、可聴周波数帯域、解像度、色調等、メディア種別や各種品質尺度に応じて階層符号化される。
【0005】
メディア配信サービスにNGNを用いた場合、送信装置と受信装置との間にあるネットワークのIPパケット転送状態が、常に計測される。メディアストリームの受信時に、品質劣化(例えば音声の途切れ又は画像の乱れ)が生じた際、IP網におけるメディアストリームの転送リソース又は転送レートが制御される。これによって、IPパケットの品質劣化が防止される。
【0006】
第1の従来技術として、メディア配信サーバが、複数の異なる転送レート毎のメディアストリームを蓄積し、端末が、その転送レートを選択する技術がある(例えば特許文献1参照)。
【0007】
第2の従来技術として、端末又はネットワークシステムが、アクセスネットワークにおけるメディア・アクセス種別(MAC(Media Access Control)レイヤの種別)に応じて、転送レートを制御する技術がある(例えば特許文献2参照)。
【0008】
第3の従来技術として、端末が、受信したメディアデータの品質劣化状態をメディア配信サーバへ送信し、メディア配信サーバが、符号化レート又は送信レートを制御してそのメディアデータを送信する技術もある(例えば特許文献3参照)。この技術によれば、送信されるIPパケットのサイズと、そのパケットのロス率と、端末−メディア配信サーバ間の往復遅延時間とに基づいて、メディアデータを配信すべきIPパケットの転送レートを推定し且つ制御する。
【0009】
第4の従来技術として、端末で計測された品質劣化状態に応じて、階層符号化の階層数の増減を制御する技術もある(例えば特許文献4参照)。この技術によれば、端末自ら品質劣化度を確認し、そのメディアデータの受信を開始した端末から順に、その転送帯域のリソースを獲得する。
【0010】
【特許文献1】特開2004−135017号公報
【特許文献2】特開2000−295276号公報
【特許文献3】特開2003−298677号公報
【特許文献4】Xue Li, Sanjoy Paul, Mostafa H. Ammar,"Multi-session Rate Control for Layered Video Multicast, " in Proc.SPIE Multimedia Computing and Networking, vol. 3654, San Jose, CA, Jan. 1999,pp. 175-189.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第1の従来技術によれば、ネットワーク全体の混雑状態に関係なく、端末自らの判断のみにより、転送レートを選択する。そのために、ネットワーク全体として大幅な品質劣化が生じる可能性がある。また、各端末が、独立にI転送レートを選択することができるために、ネットワークの輻輳を、長期に増大させる可能性もある。
【0012】
第2の従来技術によれば、1つの端末が複数のアクセスネットワークを選択的に用いる場合、アクセスネットワーク毎に制御スキームを備える必要がある。また、パケットロス補償などのアプリケーションレイヤの制御によって、MAC(Media Access Control)レイヤ以下のレイヤに基づく制御結果と、IPアプリケーションサービスの品質とが一致しない場合がある。
【0013】
第3の従来技術によれば、端末が、メディア配信サーバへ送信する品質劣化状態情報のトラヒックの増加によって、メディア配信サーバの負荷増大と、ネットワークの輻輳増大とが生じる可能性がある。
【0014】
第4の従来技術によれば、メディアデータの受信を開始した端末から順に、その転送帯域のリソースを獲得するので、端末間の公平性を維持することはできない。また、端末が階層数の増減制御を実行するために(特に階層数を減らす処理に時間を要する)、ネットワーク全体の輻輳に対する制御の追随性が悪くなる。
【0015】
従って、本発明は、階層符号化されたメディアストリームを、メディア配信サーバ−端末間に備えられた通信ノード装置によって階層制御を実行する場合、その制御のための端末の品質イベントを即時に特定することができる方法、端末、通信ノード装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、階層符号化されたメディアストリームを送信するメディア配信サーバと、メディア配信サーバからメディアストリームを受信し且つそのメディアストリームをマルチキャストで送信する通信ノード装置と、メディアストリームを受信する端末とを有するシステムについて、メディアストリームの品質イベントを特定する方法であって、
端末は、通信ノード装置から受信するメディアストリームにおける品質イベントを計測しており、
第1の端末が、自らの第1の品質イベントを、マルチキャストで送信する第1のステップと、
第1の品質イベントを受信した第2の端末が、第1の品質イベントと比較して、自らの第2の品質イベントが劣化している場合にのみ、第2の品質イベントをマルチキャストで送信する第2のステップと、
通信ノード装置は、1つ以上の端末から最終的に受信した品質イベントに基づいて、端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御する第3のステップと
を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の方法における他の実施形態によれば、端末は、所定周期のトリガを発生するタイマ部を有し、第1のステップ又は第2のステップは、そのトリガが発生した際に実行されることも好ましい。
【0018】
本発明の方法における他の実施形態によれば、メディアストリームは、RTP(Real-time Transport Protocol)を用いて送信されるものであり、品質イベントは、RTPヘッダ情報及びRTCP(RTP Control Protocol)情報に基づいて計測され、且つ、RTCPを用いて送信されるものであることも好ましい。
【0019】
本発明の方法における他の実施形態によれば、品質イベントは、音声メディアにおける1つの特定階層のメディアストリームに基づくものであることも好ましい。
【0020】
本発明によれば、メディア配信サーバから階層符号化されたメディアストリームを受信する通信ノード装置に接続され、その通信ノード装置からメディアストリームを受信する端末であって、
通信ノード装置から受信するメディアストリームにおける品質イベントを計測する品質イベント計測手段と、
所定周期のトリガを発生するタイマ手段と、
トリガが発生した際に、他の端末から第1の品質イベントを既に受信しており、且つ、第1の品質イベントと比較して自らの第2の品質イベントが劣化している場合、又は、他の端末から品質イベントを未だ受信していない場合を判定する品質イベント判定手段と、
判定が真である場合、第2の品質イベントを、マルチキャストで送信するマルチキャスト送信手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の端末における他の実施形態によれば、
メディアストリームは、RTPを用いて送信されるものであり、
品質イベントは、RTPヘッダ情報及びRTCP情報に基づいて計測され、且つ、RTCPを用いて送信されるものであることも好ましい。
【0022】
本発明の端末における他の実施形態によれば、
品質イベント計測手段は、音声メディアにおける1つの特定階層のメディアストリームに基づく品質イベントを計測することも好ましい。
【0023】
本発明によれば、前述した端末へ、メディアストリームを送信する通信ノード装置であって、
1つ以上の端末から最終的に受信した品質イベントに基づいて、制御イベントを生成する制御イベント生成手段と、
制御イベントに基づいて、端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御するメディアストリーム制御手段とを有することを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、メディア配信サーバから階層符号化されたメディアストリームを受信する通信ノード装置に接続され、その通信ノード装置からメディアストリームを受信する端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
通信ノード装置から受信するメディアストリームにおける品質イベントを計測する品質イベント計測手段と、
所定周期のトリガを発生するタイマ手段と、
トリガが発生した際に、他の端末から第1の品質イベントを既に受信しており、且つ、第1の品質イベントと比較して自らの第2の品質イベントが劣化している場合、又は、他の端末から品質イベントを未だ受信していない場合を判定する品質イベント判定手段と、
判定が真である場合、第2の品質イベントを、マルチキャストで送信するマルチキャスト送信手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、前述の端末へ、メディアストリームを送信する通信ノード装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
1つ以上の端末から最終的に受信した品質イベントに基づいて、制御イベントを生成する制御イベント生成手段と、
制御イベントに基づいて、端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御するメディアストリーム制御手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法、端末、通信ノード装置及びプログラムによれば、階層符号化されたメディアストリームを、メディア配信サーバ−端末間に備えられた通信ノード装置によって階層制御を実行する場合、その制御のための端末の品質イベントを即時に特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下では、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0029】
図1のシステムによれば、メディア配信サーバ3は、階層符号化されたメディアストリームを、通信ノード装置2へ送信する。メディアストリームは、RTPを用いて送信される。
【0030】
マルチキャストに対応したIPネットワークは、ツリー構造に配置された複数の通信ノード装置2によって構成される。これら通信ノード装置2は、通常、通信事業者によって運用される通信設備である。メディアストリームは、上位層の通信ノード装置から下位層の通信ノード装置へ向けて送信される(階層型マルチキャスト)。
【0031】
端末1は、アクセスネットワークを介して最下位層の通信ノード装置2に接続する。アクセスネットワークとしては、例えば携帯電話網、WiMAX網、有線ブロードバンド網等がある。
【0032】
通信ノード装置2は、配下の複数の端末1及び/又は通信ノード装置に対して、メディアストリームの階層数を制御して送信する。通信ノード装置2は、その階層数を制御するために、端末1における「品質イベント」を知る必要がある。本発明によれば、通信ノード装置2が、メディアストリームの階層数を制御するための要素となる「品質イベント」を即時に収集して特定することができる。
【0033】
端末1におけるメディアストリームの通信品質を表す「品質イベント」は、例えばジッタである。尚、イベントとは、「事象」を意味するが、単に「情報」を意味するものとしてもよい。
【0034】
図2は、本発明における端末、通信ノード装置及びメディア配信サーバの機能構成図である。
【0035】
メディア配信サーバ3は、階層符号化されたメディアコンテンツを蓄積するメディアコンテンツ蓄積部30と、パケット送受信部31と、マルチキャスト処理部32と、RTP処理部33とを有する。パケット送受信部31は、トランスポートレイヤ以下の通信プロトコルを処理し、具体的には、トランスポートプロトコル処理部(UDP/TCP)と、IP処理部と、網接続インタフェース部とから構成される。これら機能構成部(パケット送受信部31における網接続インタフェースを除く)は、サーバに搭載されたコンピュータを機能させるメディア配信用プログラムを実行させることによって実現される。
【0036】
RTP処理部33は、メディアコンテンツ蓄積部30から出力された階層符号化のメディアストリームを、RTPパケットに構成する。RTPパケットのメディアストリームは、マルチキャスト処理部32へ出力される。
【0037】
マルチキャスト処理部32は、1つ以上の通信ノード装置及び端末に対して、RTPパケットをマルチキャストで送信する。マルチキャスト送信は、マルチキャストグループ識別子に基づいて実行される。尚、非マルチキャストのパケットについては、ユニキャストで送信される。
【0038】
パケット送受信部31では、マルチキャスト処理部32から出力されたメディアストリームを、トランスポートプロトコル処理部によってUDPパケットに構成する。また、IP処理部によって、IPパケットに構成される。そして、そのIPパケットは、網接続インタフェース部から送信される。網接続インタフェース部は、無線又有線のアクセスネットワークに接続する物理レイヤ部である。
【0039】
通信ノード装置2は、パケット送受信部201(トランスポートプロトコル処理部、IP処理部、網接続インタフェース部)と、マルチキャスト処理部202と、RTCP処理部213と、制御イベント生成部214と、メディアストリーム制御部205とを有する。これら機能構成部(パケット送受信部201の網接続インタフェース部を除く)は、通信ノード装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現できる。
【0040】
パケット送受信部201及びマルチキャスト処理部202は、前述したメディア配信サーバ3のものと同様である。ここで、マルチキャスト処理部202は、メディアストリーム制御部205から出力された階層数に応じて、マルチチャスト送信を制御する。また、RTCP処理部213は、その配下の端末1から送信された品質イベントを、RTCPによって送受信する。受信された品質イベントは、制御イベント生成部214へ通知される。
【0041】
制御イベント生成部214は、1つ以上の端末1から最終的に受信した品質イベントに基づいて、それら端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御するための制御イベントを生成する。生成された制御イベントは、メディアストリーム制御部205へ通知される。逆に、制御イベントを、メディアストリーム制御部205から制御イベント生成部214に通知する場合もある。尚、制御イベントは、配下の端末1の中で、マルチキャストグループ識別子及びサービス識別子毎に生成される。
【0042】
制御イベントは、品質イベントに基づくものであって、
(1)メディアストリームにおけるRTPパケット送信間隔、
(2)パケットロス補償部におけるパケットロス補償強度及び/又は補償アルゴリズム、
(3)符号化部における転送レート
(4)トランスポートパケット送受信部におけるUDP又はTCPパケットに積載されるメディアフレーム数、
(5)同一コンテンツに対する同時接続ストリーム数
のいずれか1つ又はこれらの組合せである。
【0043】
メディアストリーム制御部205は、制御イベントに基づいて、端末全てへ送信すべきメディアストリームの階層数を制御する。具体的には、メディアストリームの転送ポート番号の開閉制御である。
【0044】
端末1は、メディア出力インタフェース部10と、パケット送受信部11(トランスポートプロトコル処理部、IP処理部、網接続インタフェース部)と、RTP/RTCP処理部13と、マルチキャスト処理部12と、階層復号部14と、メディアストリーム再生部15と、品質イベント計測部16と、サービス制御処理部17と、品質イベント判定部18と、タイマ部19とを有する。これら機能構成部(メディア出力インタフェース部10と、パケット送受信部11の網接続インタフェース部を除く)は、端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0045】
パケット送受信部11及びマルチキャスト処理部12は、前述したメディア配信サーバ3のものと同様である。RTP/RTCP処理部13は、通信ノード装置2から送信された品質イベントを、RTCPによって受信し、その品質イベントを品質イベント判定部18へ出力する。また、RTP/RTCP処理部13は、通信ノード装置2から受信したメディアストリームを、RTPによって受信し、そのメディアストリームを階層復号部14へ出力する。尚、RTP/RTCP処理部13は、RTPとRTCPとの間の同期を確認する。
【0046】
階層復号部14は、階層符号化されたメディアデータを復号して、統合されたメディアストリームを生成する。生成されたメディアストリームは、メディアストリーム再生部15へ通知される。
【0047】
メディアストリーム再生部15は、サービス制御処理部17の指示に応じて、メディアストリームを、メディア出力インタフェース部10へ出力する。メディア出力インタフェース部10は、例えばディスプレイ及びスピーカである。これによって、メディアストリームを受信しつつ再生することができる。
【0048】
品質イベント計測部16は、通信ノード装置2から受信しているメディアストリームにおける品質イベントを計測する。具体的には、RTP/RTCP処理部13におけるパケットの、例えばジッタ(遅延時間)やパケットロスを計測する。品質イベント計測部16は、音声メディアにおける1つの特定階層のメディアストリームに基づく品質イベントを計測する。計測された品質イベントは、品質イベント判定部18へ出力される。
【0049】
タイマ部19は、所定周期のトリガを発生する。複数の端末1における所定周期が同じであっても、トリガ発生時刻(起動時刻)は異なるために、全ての端末が同時にトリガを発生することはない。
【0050】
品質イベント判定部18は、トリガが発生した際に、他の端末から第1の品質イベントを既に受信しており、且つ、第1の品質イベントと比較して自らの第2の品質イベントが劣化している場合、又は、他の端末から品質イベントを未だ受信していない場合を判定する。この判定が真となる場合、第2の品質イベントを、RTP/RTCP処理部13及びサービス制御処理部17へ通知する。
【0051】
RTP/RTCP処理部13は、第2の品質イベントをRTCPで構成する。そのRTCPパケットは、マルチキャスト処理部12によってマルチキャストで送信される。
【0052】
サービス制御処理部17は、品質イベント判定部18から、第2の品質イベントを受け取る。そして、サービス制御処理部17は、最終的に受信した品質イベントに基づいて、メディアストリーム再生部15を制御する。具体的には、メディアストリーム再生部15におけるパケットロス補償処理又は再生速度制御処理などの制御が実行される。また、メディア出力インタフェース部10における再生音量の調整、又は表示画面数の調整などの制御も実行される。
【0053】
図3は、本発明における他のシステム構成図である。
【0054】
図2によれば、IPパケット転送機能(パケット送受信部201、マルチキャスト処理部202、RTCP処理部213)と、メディアストリーム制御機能(制御イベント生成部214、メディアストリーム制御部205)とが、1つの通信ノード装置内に一体的に搭載されている。しかしながら、図3のように、IPパケット転送装置(IPパケット転送機能)20と、メディアストリーム制御サーバ(メディアストリーム制御機能)21とに、機能区分することもできる。これによって、既存のマルチキャストルータを、IPパケット転送装置として用いることができる。即ち、メディア配信サーバ3からメディアストリームを受信したIPパケット転送装置20に対し、メディアストリーム制御サーバ21が、メディアの制御イベントを送信することにより、IPパケット転送装置20は、そのメディアストリームに対して階層制御を実行する。そして、IPパケット転送装置20は、制御に基づくメディアストリームを、端末1へ送信する。
【0055】
図4は、本発明における品質イベントの送信シーケンス図である。
【0056】
図4によれば、5台の端末A〜Eが、1つの通信ノード装置2に接続されている。各端末は、通信ノード装置2から受信するメディアストリームにおける品質イベントを計測している。また、各端末は、所定周期のトリガを発生するタイマ部を有し、図4によれば、端末A−>端末C−>端末E−>端末D−>端末Bの順に、トリガが発生したとする。
【0057】
(T1)最初に、端末Aのトリガが発生した。このとき、端末Aは、他の端末から品質イベントを未だ受信していない。そこで、端末Aは、自ら受信しているメディアストリームの第1の品質イベント(ジッタ=100ms)を、マルチキャストで送信する。この品質イベントは、通信ノード装置2を介して、端末B〜Eへ送信される。これによって、通信ノード装置2配下の全ての端末は、ジッタ=100msの品質イベントの端末の存在を知る。
【0058】
(T2)端末Cのトリガが発生した。このとき、端末Cは、端末Aから第1の品質イベントを既に受信している。端末Cは、第1の品質イベント(ジッタ=100ms)と比較して、自らの第2の品質イベント(ジッタ=120ms)が劣化していると判定する。この場合、端末Cは、自ら受信しているメディアストリームの第2の品質イベント(ジッタ=120ms)をマルチキャストで送信する。この品質イベントは、通信ノード装置2を介して、端末A、B、D及びEへ送信される。これによって、通信ノード装置2配下の全ての端末は、ジッタ=120msの品質イベントの端末の存在を知る。
【0059】
(T3)端末Eのトリガが発生した。このとき、端末Eは、端末Aから第1の品質イベントを既に受信し、更に、端末Cから第2の品質イベントを既に受信している。端末Eは、第2の品質イベント(ジッタ=120ms)と比較して、自らの第3の品質イベント(ジッタ=110ms)は良好であると判定する。この場合、端末Eは、品質イベントを送信することはない。
【0060】
(T4)端末Dのトリガが発生した。このとき、端末Dは、端末Aから第1の品質イベントを既に受信し、更に、端末Cから第2の品質イベントを既に受信している。端末Dは、直近の第2の品質イベント(ジッタ=120ms)と比較して、自らの第4の品質イベント(ジッタ=100ms)は良好であると判定する。この場合、端末Dは、品質イベントを送信することはない。
【0061】
(T5)端末Bのトリガが発生した。このとき、端末Bは、端末Aから第1の品質イベントを既に受信し、更に、端末Cから第2の品質イベントを既に受信している。端末Bは、直近の第2の品質イベント(ジッタ=120ms)と比較して、自らの第5の品質イベント(ジッタ=80ms)は良好であると判定する。この場合、端末Bは、品質イベントを送信することはない。
【0062】
少なくともトリガT5までの時間が経過した際には、通信ノード装置2及びその配下の全ての端末は、最悪の品質イベントがジッタ=120msであることを知ることができる。通信ノード装置2は、メディアストリームを、ジッタ=120msに応じて制御して配信することができる。例えば、図1からも明らかなとおり、最下層の通信ノード装置に接続される複数の端末は、通常、アクセスネットワークを同一とする。従って、品質イベントに大きく差が生じない。この場合、通信ノード装置2は、同一のアクセスネットワークにおける最悪の品質イベントに応じて、メディアストリームを制御して配信することができる。
【0063】
一方で、異なるアクセスネットワークに接続される複数の端末に対しては、品質イベントも大きく異なる。このような場合に、通信ノード装置2が、最悪の品質イベントに応じてメディアストリームを制御した場合、システム全体としてのサービスが極めて劣化することとなる。
【0064】
他の実施形態として、上位層の通信ノード装置が、下位層の通信ノード装置に送信するメディアストリームの制御に用いることもできる。例えば、メディア配信サーバが7層のメディアストリームをメディア配信サーバにより近い上位層の通信ノード装置へ送信し、その上位層の通信ノード装置は、メディア配信サーバに対して自身より下位層の2つの通信ノード装置へ5層のメディアストリームを送信することもできる。また、第1の下位層の通信ノード装置は、その最下位層の通信ノード装置へ3層のメディアストリームを送信し、第2の下位層の通信ノード装置は、その最下位層の通信ノード装置へ5層のメディアストリームを送信することもできる。
【0065】
また、図4によれば、最下位層の通信ノード装置2と、その配下の複数の端末1との間のシーケンスを表している。しかしながら、端末1から送信された品質イベントは、最下位層から更に上位層の通信ノード装置2へ送信されるものであってもよい。これは、通信ノード装置2のIPパケット転送機能(IPパケット転送装置)のパケットフィルタの設定によって、その転送範囲を制御することができる。上位層の通信ノード装置2へ送信されることによって、その上位層の通信ノード装置2が受信した最悪の品質イベントによってメディアストリームが制御されることとなる。
【0066】
以上、詳細に説明したように、本発明の方法、端末、通信ノード装置及びプログラムによれば、階層符号化されたメディアストリームを、メディア配信サーバ−端末間に備えられた通信ノード装置によって階層制御を実行する場合、その制御のための端末の品質イベントを即時に特定することができる。これによって、端末の通信品質に応じて(例えばアクセスネットワークに応じて)、メディアストリームの階層制御が可能となり、システム全体のメディア配信サービスの品質が向上する。また、端末が異なるアクセスネットワークに接続する場合であっても、メディア配信サーバ自体が何ら制御することなく、端末の通信品質に応じたメディアストリームを配信することができる。また、本発明によれば、メディア配信サーバまで品質イベントのパケットが送信されず、且つ、極めて少ないシーケンスで、最悪の品質イベントが通信ノード装置−端末間で特定されるために、ネットワークリソースに与える負荷の影響も少ない。
【0067】
前述した本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明におけるシステム構成図である。
【図2】本発明における端末、通信ノード装置及びメディア配信サーバの機能構成図である。
【図3】本発明における他のシステム構成図である。
【図4】本発明における品質イベントの送信シーケンス図である。
【符号の説明】
【0069】
1 端末
10 メディア出力インタフェース部
11 パケット送受信部
12 マルチキャスト処理部
13 RTP/RTCP処理部
14 階層復号部
15 メディアストリーム再生部
16 品質イベント計測部
17 サービス制御処理部
18 品質イベント判定部
2 通信ノード装置
20 IPパケット転送装置
21 メディアストリーム制御サーバ
201、211 パケット送受信部
202 マルチキャスト処理部
213 RTCP処理部
214 制御イベント生成部
205 メディアストリーム制御部
3 メディア配信サーバ
30 メディアコンテンツ蓄積部
31 パケット送受信部
32 マルチキャスト処理部
33 RTP処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階層符号化されたメディアストリームを送信するメディア配信サーバと、前記メディア配信サーバから前記メディアストリームを受信し且つ該メディアストリームをマルチキャストで送信する通信ノード装置と、前記メディアストリームを受信する端末とを有するシステムについて、メディアストリームの品質イベントを特定する方法であって、
前記端末は、前記通信ノード装置から受信する前記メディアストリームにおける品質イベントを計測しており、
第1の端末が、自らの第1の品質イベントを、マルチキャストで送信する第1のステップと、
第1の品質イベントを受信した第2の端末が、第1の品質イベントと比較して、自らの第2の品質イベントが劣化している場合にのみ、第2の品質イベントをマルチキャストで送信する第2のステップと、
前記通信ノード装置は、1つ以上の端末から最終的に受信した品質イベントに基づいて、前記端末全てへ送信すべき前記メディアストリームの階層数を制御する第3のステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記端末は、所定周期のトリガを発生するタイマ部を有し、第1のステップ又は第2のステップは、該トリガが発生した際に実行されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メディアストリームは、RTP(Real-time Transport Protocol)を用いて送信されるものであり、
前記品質イベントは、RTPヘッダ情報及びRTCP(RTP Control Protocol)情報に基づいて計測され、且つ、前記RTCPを用いて送信されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記品質イベントは、音声メディアにおける1つの特定階層のメディアストリームに基づくものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記メディア配信サーバから階層符号化されたメディアストリームを受信する通信ノード装置に接続され、該通信ノード装置から前記メディアストリームを受信する端末であって、
前記通信ノード装置から受信する前記メディアストリームにおける品質イベントを計測する品質イベント計測手段と、
所定周期のトリガを発生するタイマ手段と、
前記トリガが発生した際に、他の端末から第1の品質イベントを既に受信しており、且つ、第1の品質イベントと比較して自らの第2の品質イベントが劣化している場合、又は、他の端末から品質イベントを未だ受信していない場合を判定する品質イベント判定手段と、
前記判定が真である場合、第2の品質イベントを、マルチキャストで送信するマルチキャスト送信手段とを有することを特徴とする端末。
【請求項6】
前記メディアストリームは、RTPを用いて送信されるものであり、
前記品質イベントは、RTPヘッダ情報及びRTCP情報に基づいて計測され、且つ、前記RTCPを用いて送信されるものであることを特徴とする請求項5に記載の端末。
【請求項7】
前記品質イベント計測手段は、音声メディアにおける1つの特定階層のメディアストリームに基づく品質イベントを計測することを特徴とする請求項5又は6に記載の端末。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の端末へ、前記メディアストリームを送信する通信ノード装置であって、
前記1つ以上の端末から最終的に受信した前記品質イベントに基づいて、制御イベントを生成する制御イベント生成手段と、
前記制御イベントに基づいて、前記端末全てへ送信すべき前記メディアストリームの階層数を制御するメディアストリーム制御手段と
を有することを特徴とする通信ノード装置。
【請求項9】
前記メディア配信サーバから階層符号化されたメディアストリームを受信する通信ノード装置に接続され、該通信ノード装置から前記メディアストリームを受信する端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記通信ノード装置から受信する前記メディアストリームにおける品質イベントを計測する品質イベント計測手段と、
所定周期のトリガを発生するタイマ手段と、
前記トリガが発生した際に、他の端末から第1の品質イベントを既に受信しており、且つ、第1の品質イベントと比較して自らの第2の品質イベントが劣化している場合、又は、他の端末から品質イベントを未だ受信していない場合を判定する品質イベント判定手段と、
前記判定が真である場合、第2の品質イベントを、マルチキャストで送信するマルチキャスト送信手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする端末用のプログラム。
【請求項10】
請求項5から7のいずれか1項に記載の端末へ、前記メディアストリームを送信する通信ノード装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記1つ以上の端末から最終的に受信した前記品質イベントに基づいて、制御イベントを生成する制御イベント生成手段と、
前記制御イベントに基づいて、前記端末全てへ送信すべき前記メディアストリームの階層数を制御するメディアストリーム制御手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする通信ノード装置用のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−284259(P2009−284259A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134669(P2008−134669)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人 情報通信研究機構「次世代ネットワーク(NGN)基盤技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599108264)株式会社KDDI研究所 (233)
【Fターム(参考)】