説明

モータの回転制御装置及び方法、並びにそれを用いた画像形成装置

【課題】 瞬間的にクロックが入力されなかった場合でも回転を維持できるPLL制御を用いたモータの回転制御装置及び方法、並びにそれを用いた画像形成装置を提供する。
【解決手段】 PLL制御部12がクロックCKと位置検出信号Stとの差を偏差信号Seとして出力し、コントロール部202が偏差信号と位相検出信号Sfとから駆動信号Smを出力する、モータの回転制御装置において、コントロール部は、偏差信号が入力された場合、駆動信号を遅延させた遅延駆動信号Smdを出力し、遅延駆動信号の出力を開始してから所定時間が経過した後、駆動信号を遅延させずに出力し、モータの使用回転速度は最低回転速度の2倍以上であり、遅延時間は使用回転速度に対応するクロック周期の2倍以上の整数倍であり、所定時間は遅延時間以下である。これにより、瞬間的にクロックが入力されなかった場合でもモータの回転を維持することできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL制御を用いたブラシレスモータの回転制御装置及び方法に関し、特に、瞬間的にクロックが入力されなかった場合にも回転を維持することができるブラシレスモータの回転制御装置及び方法、並びにそれを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器である画像処理装置の1種として、記録紙に画像を形成する画像形成装置(複写機、ファクシミリ装置、複合機など)が知られている。画像処理装置には、記録紙を送るためのブラシレスモータ、感光ドラムを回転させるためのモータ等種々のブラシレスモータが使用されている。
【0003】
従来のブラシレスモータ(以下、単にモータとも記載する)の制御方式では、制御部から入力される周波数信号(例えばモータの回転数を制御するための所定周波数のパルス信号)と、モータのエンコーダからフィードバックされる回転速度信号(実際の回転を検出した信号)が一致する様に制御を行なう。周波数信号と回転速度信号とが不一致の場合には、モータの回転異常として機器を停止させる。
【0004】
下記特許文献1には、PLL制御方式によりモータの回転を制御する方法が開示されている。具体的には、図1に示すように、コントローラ1からドライバ2に対して、スタート、ストップ等の動作制御信号Sc、リセット信号Srs、回転方向(正回転又は逆回転)を指定する回転方向信号Sw、及びクロック入力パルスCKを送信する。ドライバ2は、これらの制御信号をもとに、スピンドル部3のエアスピンドル31に取り付けられたエンコーダ等からの位置検出信号Stと、ブラシレスモータ32のホールセンサからの位相検出信号Sfとをもとに、ブラシレスモータ32の駆動制御を行い、エアスピンドル31の回転制御を行なう。
【0005】
図2を参照して、ドライバ2は、入出力部11と、PLL制御部12と、コントロール部13と、パワー部14と、アラーム発生部15とから構成されている。コントローラ1からの制御信号(動作制御信号Sc、リセット信号Srs、回転方向信号Sw、及びクロック入力パルスCK)は、入出力部11を介してPLL制御部12に入力される。PLL制御部12は、動作制御信号Scに応じて、コントローラ1からのクロック入力パルスCKと、エアスピンドル31に取り付けたエンコーダ等からの位置検出信号Stとの偏差から偏差信号Seを生成する。PLL制御部12は、生成した偏差信号Seを、回転方向信号Swと共に、コントロール部13に出力する。
【0006】
コントロール部13は、PLL制御部12からの回転方向信号Swに基づいて、PLL制御部12からの偏差信号Seと、ブラシレスモータ32のホールセンサからの位相検出信号Sfとをもとにブラシレスモータ32の駆動信号Smを生成して、パワー部14に出力する。また、コントロール部13は、アラーム発生部15からアラーム信号Srが入力されたとき、パワー部14への駆動信号Smの出力を停止して逆通電信号を出力し、ブラシレスモータ32の回転を急速停止させる。
【0007】
パワー部14は、駆動信号Smから駆動電流Saを生成して、ブラシレスモータ32に供給する。また、パワー部14は、過電流、過熱、過回転等の異常状態を検出し、異常信号Spをアラーム発生部15に出力する。アラーム発生部15は、異常信号Spに基づいてアラーム信号Srを出力する。アラーム信号Srは、例えば、警報ランプ等の外部装置に出力され、オペレータに異常を通知すると共に、コントロール部13へも出力される。
【0008】
動作を説明すると、モータ32が回転する場合、コントローラ1からスタートの動作制御信号Scが出力され、PLL制御部12が、コントローラ1からのクロック入力パルスCKとエンコーダ等からの位置検出信号Stとをもとに、偏差信号Seを生成する。コントロール部13は、偏差信号Seと、ホールセンサからの位相検出信号Sfと、PLL制御部12を介して入力されたコントローラ1からの回転方向信号Swとをもとに駆動信号Smを生成する。パワー部14は、入力される駆動信号Smから駆動電流Saを生成してブラシレスモータ32に供給する。これによって、モータが所定の回転速度で回転する。
【0009】
作動中に、パワー部14において、過電流、過熱、過回転等を検出した場合等には、パワー部14からアラーム発生部15に異常信号Spを送出する。これによって、アラーム発生部15は、アラーム信号Srを出力して異常を通知する。アラーム信号Srはコントロール部13にも入力され、コントロール部13が作動してパワー部14への駆動信号Smを逆通電信号として送出し、ブラシレスモータ32を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−31175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コントローラ1からブラシレスモータ32へ入力されるクロック入力パルスCKが、ノイズや静電気等の外乱で瞬間的に乱された場合、瞬間的に、クロック入力パルスCKがPLL制御部12に入力されないことがある。これは、異常ではなく、モータの回転を維持しても支障は無い。即ち、クロック入力パルスCKが1パルスだけ入力されないだけで、その後はクロック入力パルスCKが連続して入力される場合には、モータの回転を維持して支障は無い。しかし、図2に示した従来のPLL制御を用いたモータの回転制御では、モータからの位置検出信号Stは出力され、PLL制御部12に供給され続けているので、クロック入力パルスCKと位置検出信号Stとが不一致と判定され、機器が強制停止されてしまう問題がある。
【0012】
図3の(a)はクロック入力パルスCKが正常に一定周期で入力される場合を示している。クロック入力パルスCK及び位置検出信号Stが一定の周期且つ同じタイミングでPLL制御部12に入力しているので、偏差信号Seは発生していない。従って、駆動信号Smが一定の周期で生成されており、異常信号Spは、正常状態に対応するローレベルのままである。
【0013】
これに対して、図3の(b)は、ノイズや静電気の外乱要因によって、クロック入力パルスCKが1パルスだけPLL制御部12に入力されない場合を示している(入力されないクロック入力パルスCKを破線で示す)。この場合でも、エアスピンドル32は慣性で回転しているので、位置検出信号Stは一定の周期でPLL制御部12に入力される。従って、クロック入力パルスCKが入力されないタイミングで、偏差信号Seが発生する。これによって、正常回転時とは異なる駆動信号Smが生成され、異常信号Spは、異常状態に対応するハイレベルとなる。異常信号Spがアラーム発生部15に入力され、アラーム信号Srがコントロール部13に入力され、コントロール部13が作動してパワー部14への駆動信号Smを逆通電信号として送出し、ブラシレスモータ32を停止させる。
【0014】
このように、従来のPLL制御を用いたモータの回転制御装置では、クロック入力パルスCKが1パルスだけ入力されないような、モータの回転を維持しても支障が無い場合にも、機器が強制停止されてしまう問題がある。
【0015】
従って、本発明は、PLL制御を用いたモータの回転制御において、瞬間的にクロックが入力されなかった場合にも回転を維持することでき、不要な停止を抑制することができるモータの回転制御装置及び方法、並びにそれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的は、下記によって達成することができる。
【0017】
即ち、本発明に係るモータの回転制御装置は、PLL制御部及びコントロール部を含み、PLL制御部は、モータの使用回転速度に応じて供給されるクロックとモータが回転させるスピンドルの回転位置を表す位置検出信号とのタイミングの差を偏差信号としてコントロール部に出力し、コントロール部は、偏差信号とモータの回転位相を表す位相検出信号とにより、モータを駆動するための駆動信号を生成してモータに出力する、モータの回転制御装置であって、コントロール部は、偏差信号が入力された場合、駆動信号の代わりに、駆動信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延駆動信号をモータに出力し、コントロール部は、遅延駆動信号の出力を開始してから所定時間が経過した後、遅延駆動信号の代わりに、駆動信号を遅延させずにモータに出力し、モータの使用回転速度は、使用可能な最低回転速度の2倍以上であり、遅延時間は、モータの使用回転速度に対応するクロック周期の2倍以上の整数倍の時間であり、所定時間は、遅延時間以下の時間である。
【0018】
好ましくは、コントロール部は、所定時間が経過した後に遅延させずに出力した駆動信号が異常な場合、モータを停止させる。
【0019】
より好ましくは、コントロール部は、偏差信号及び位相検出信号から駆動信号を生成する駆動信号発生部と、駆動信号を遅延時間だけ遅延させて遅延駆動信号として出力する遅延部と、入力される遅延駆動信号及び遅延されていない駆動信号の何れかを出力するセレクタと、偏差信号を検出して第1制御信号を出力する偏差信号判定部と、偏差信号判定部から入力される第1制御信号に応じて第2制御信号を出力するカウンタと、を含み、カウンタは、第1制御信号が遷移した場合、第2制御信号を遷移させて出力し、且つカウント動作を開始し、カウンタは、所定時間をカウントした後に第2制御信号を遷移させ、セレクタは、第1制御信号が遷移した場合の第2制御信号の遷移に応じて、遅延駆動信号を出力し、所定時間をカウントした後の第2制御信号の遷移に応じて、遅延されていない駆動信号を出力する。
【0020】
また、本発明に係るモータの回転制御方法は、PLL制御によりモータの回転を制御する方法であって、モータの使用回転速度に応じたクロックとモータが回転させるスピンドルの回転位置を表す位置検出信号とのタイミングの差を偏差信号として出力するステップと、偏差信号とモータの回転位相を表す位相検出信号とにより、モータを駆動するための駆動信号を生成してモータに出力するステップと、偏差信号が出力された場合、駆動信号の代わりに、駆動信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延駆動信号をモータに出力するステップと、遅延駆動信号の出力を開始してから所定時間が経過した後、遅延駆動信号の代わりに、駆動信号を遅延させずにモータに出力するステップとを含み、モータの使用回転速度は、使用可能な最低回転速度の2倍以上であり、遅延時間は、モータの使用回転速度に対応するクロック周期の2倍以上の整数倍の時間であり、所定時間は、遅延時間以下の時間である。
【0021】
また、本発明に係る画像形成装置は、上記のモータの回転制御装置と、その回転制御装置によって制御されるモータとを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、PLL制御部に瞬間的にクロックが入力されなかった場合でも、モータの回転を維持することできる。従って、モータが正常であるにもかかわらず不要に機器を停止させてしまうことを抑制することができ、機器を無駄なく、効率的かつ経済的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】モータの回転制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】従来のドライバの内部構成を示すブロック図である。
【図3】図2のドライバによるモータの回転制御を示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係るモータの回転制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】モータの電流値とトルクとの関係、及び、モータの回転数とトルクとの関係を示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係るモータの回転制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】図6のドライバによるモータの回転制御の一例を示すタイミングチャートである。
【図8】図6のドライバによるモータの回転制御の別の例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。従って、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0025】
図4を参照して、本発明の実施の形態に係るモータの回転制御装置は、上記した図1と同様の構成をしており、コントローラ1及びドライバ200を備えている。ドライバ200は、入出力部11、PLL制御部12、コントロール部202、パワー部14、及びアラーム発生部15から構成されている。ドライバ200は、図2と比較して、コントロール部202のみが異なるので、以下においては、主としてコントロール部202に関して説明する。
【0026】
コントロール部202は、駆動信号発生部204、遅延部206、偏差信号判定部208、カウンタ210、及びセレクタ212を備えている。
【0027】
駆動信号発生部204は、図2のコントロール部13と同様の機能を有する。即ち、駆動信号発生部204は、PLL制御部12からの回転方向信号Swに基づいて、PLL制御部12からの偏差信号Seと、ブラシレスモータ32のホールセンサからの位相検出信号Sfとをもとにブラシレスモータ32の駆動信号Smを生成して、パワー部14に出力する。また、駆動信号発生部204は、アラーム発生部15からアラーム信号Srが入力されたとき、パワー部14への駆動信号Smの出力を停止して逆通電信号を出力し、ブラシレスモータ32の回転を急速停止させる。
【0028】
遅延部206は、駆動信号発生部204から出力される駆動信号Smを、所定の時間遅延させて遅延駆動信号Smdとして出力する。遅延部206には、例えばトランジスタを用いた公知の遅延回路を用いることができる。詳細は後述するが、遅延時間は、モータの回転速度に対応するクロック入力パルスCKの周期との関係で決定される。
【0029】
偏差信号判定部208は、入力される偏差信号Seの信号レベルを検出し、偏差信号Seの信号レベルに応じたカウンタ制御信号Sctを出力する。例えば、偏差信号判定部208は、入力される偏差信号Seがローレベルであれば、カウンタ制御信号Sctをローレベルで出力し、偏差信号Seがローレベルからハイレベルに遷移したことを検出すれば、カウンタ制御信号Sctをローレベルからハイレベルに遷移させる。
【0030】
カウンタ210は、入力されるカウンタ制御信号Sctの信号レベルが変化した場合、カウントを開始し、所定の時間が経過した場合、セレクタ制御信号SLを遷移させる。例えば、カウンタ210は、カウンタ制御信号Sctがローレベルであれば、セレクタ制御信号SLをローレベルで出力し、カウンタ制御信号Sctの立ち上がりを検知して、カウントを開始すると共に、セレクタ制御信号SLを立ち上げる。そして、所定の時間が経過した場合、セレクタ制御信号SLを立ち下げる。カウンタ210には、所定時間をカウントする公知の回路を用いることができる。
【0031】
セレクタ212は、入力される駆動信号Sm及び遅延駆動信号Smdの何れかを、セレクタ制御信号SLに応じて最終駆動信号Smoとして出力する。例えば、セレクタ212は、セレクタ制御信号SLがローレベルの場合、駆動信号Smを最終駆動信号Smoとして出力し、セレクタ制御信号SLがハイレベルの場合、遅延駆動信号Smdを最終駆動信号Smoとして出力する。セレクタ212には、トランジスタゲートを用いた公知の回路を用いることができる。
【0032】
なお、図4では、駆動信号Smを1つの信号ラインで示しているが、複数の信号であってもよい。ブラシレスモータ用の駆動電流Sa(例えば3相電流)を生成するパワー部の回路に応じた数の信号を、パワー部に供給できればよい。複数の信号であれば、信号の数だけ遅延回路及びセレクタを備え、各駆動信号と、それに対応する遅延駆動信号とをセレクタで択一的に出力すればよい。
【0033】
上記のように構成されたドライバ200の動作を、以下に説明する。上記したように、遅延部206の遅延時間は、モータの回転速度(より正確にはモータが回転するスピンドル部の回転速度)に対応するクロック入力パルスCKの周期との関係で決定される。本実施の形態では、モータの最低回転速度の2倍以上の回転速度でモータを使用し、遅延部206の遅延時間を、モータの最低回転速度に対応するクロック入力パルスCKの周期以下に設定する。
【0034】
ブラシレスモータは、コイル部に流れる電流量及び磁界の強度により、回転力及び回転可能速度が決まり、通常は回転の対象物(負荷)による抵抗によって、モータの使用可能な回転速度領域が制限される。図5は、画像形成装置内で使用されるあるブラシレスモータに関して、定電圧24Vを供給し、毎分2700回転の条件で測定した結果である。図5のグラフのうち、実線は、モータに供給する電流I(A)とモータのトルクTrq(mNm)との関係を示し、破線は、モータの回転速度(1分間の回転数)N(min−1)とモータのトルクTrq(mNm)との関係を示す。この場合、使用する負荷の範囲を3mNm〜120mNmとすると、使用可能な回転速度の範囲は500rpm〜2000rpmとなる。
【0035】
図5に示した特性のモータを制御対象とした場合、使用可能回転速度が500rpm〜2000rpmの範囲であるので、最低回転速度の2倍以上の回転速度とは、1000rpm以上となる。使用可能回転速度の下限回転速度500rpm及び上限回転速度2000rpmをそれぞれ出力するためのクロック入力パルスCKの周波数を、500Hz及び2000Hzとすると、遅延部206の遅延時間は、最低回転速度(500rpm)に対応するクロック入力パルスCKの周期2msec(500Hz)以下となる。なお、モータ回転速度1000rpmに対応するクロック入力パルスCKの周期は1msecである。
【0036】
以下に、ドライバ200によるモータの制御動作について、図6のフローチャートを参照して説明する。ここで、制御対象のモータを図5の特性を有するモータとし、使用回転速度を1000rpmとする。クロック入力パルスCKは周波数1000Hz、周期1msecである。遅延部206の遅延時間Tmは2msecである。
【0037】
ステップ300において、モータに電力を供給してモータの回転を開始する。電力は、負荷を考慮して、回転速度が1000rpmとなるように供給される。この段階では、PLL制御は行なわれていない。
【0038】
ステップ302において、PLL制御を有効にするために、コントローラ1からスタートの動作制御信号Sc、回転方向信号Sw、及びクロック入力パルスCKを、PLL制御部12に供給する。具体的には、図7に示すように、周期1msecのクロック入力パルスCKがPLL制御部12に入力される。
【0039】
ステップ304において、PLL制御部12は、コントローラ1からのクロック入力パルスCKとエンコーダからの位置検出信号Stとのタイミングに差があるか否かを判定する。差がなければ、ステップ306に移行し、差があればステップ308に移行する。
【0040】
ステップ306において、クロック入力パルスCKとエンコーダからの位置検出信号Stとのタイミングに差がないので、偏差信号Seは生成されずに、定速制御が継続される。偏差信号Seが生成されないとは、具体的には偏差信号Seの信号レベルが変化しないことを意味する。これは、図7のタイミングチャートの時刻t1の直前までの期間に対応する。偏差信号Seは、初期のローレベルのままである。この状態では、偏差信号判定部208から出力されるカウンタ制御信号Sctはローレベルのままであり、カウンタ210は動作せず、セレクタ制御信号SLはローレベルのままである。従って、セレクタ212から出力される最終駆動信号Smo(左端の期間D1のSmo)は、遅延されていない駆動信号Sm(期間D1のSm)と同じ信号である。これにより、従来と同じ駆動信号がパワー部14に入力される。
【0041】
ステップ308において、クロック入力パルスCKと位置検出信号Stとのタイミングに差があるので、PLL制御部12は偏差信号Seを出力する。即ち、クロック入力パルスCKと位置検出信号Stとの差として、偏差信号Seが生成されて出力される。これは、図7において、時刻t1で偏差信号Seがハイレベルで出力されることに対応する。
【0042】
偏差信号Seがハイレベルで出力されることによって、ステップ310において、セレクタ212を切換える。具体的には、偏差信号判定部208が、ハイレベルに遷移した偏差信号Seを検出し、カウンタ制御信号Sctをハイレベルに遷移させてカウンタ210に出力する。カウンタ210は、カウンタ制御信号Sctのハイレベルへの遷移を受けて、カウントを開始すると同時にセレクタ制御信号SLをハイレベルに遷移させて出力する。これによって、セレクタ212は、出力信号として出力する入力信号を切換えて、遅延部206からの出力である遅延駆動信号Smdを最終駆動信号Smoとして出力する。
【0043】
ステップ312において、カウンタ210は所定時間Tpをカウントし、ステップ314において、カウンタ210は、所定時間Tpが経過したか否かを判定する。所定時間Tpは、遅延時間Tmと同じであり、2msecである。所定時間が経過していなければ、ステップ312に戻り、所定時間Tpが経過するまでカウントを継続する。所定時間Tpが経過したと判定した場合、ステップ316に移行する。
【0044】
ステップ310、312及び314の処理は、図7の時刻t1〜t3の間実行される。この期間の駆動信号Sm(期間D2のSm)は、偏差信号Seがハイレベルで出力されたことによって、一定周期(1msec)のパルス波形ではなくなる。しかし、セレクタ212の最終駆動信号Smoは、期間D1の遅延駆動信号Smd、即ち、期間D1の駆動信号Smである。従って、周期一定の正常な駆動信号がパワー部14に入力され、モータは通常動作する。
【0045】
ステップ316において、カウンタ210は、セレクタ212を切換えるために、ローレベルのセレクタ制御信号SLを出力する。これによって、セレクタ212は、出力信号として出力する入力信号を切換えて、遅延されていない駆動信号Smを最終駆動信号Smoとして出力する。これは、図7の時刻t3以降の期間である。駆動信号Smは、一定周期の正常なパルス信号に戻っており、その正常な駆動信号Sm(期間D3のSm)が、セレクタ212から最終駆動信号Smoとして出力される(期間D3のSmo)。
【0046】
ステップ318において、パワー部14は、入力される最終駆動信号Smoが正常であるか否かを判定する。最終駆動信号Smoが正常であればステップ306に移行し、定速制御を継続する。最終駆動信号Smoが正常でなければステップ320に移行して、パワー部14は異常信号Spを出力する。異常信号Spが出力された場合、アラーム発生部15がアラーム信号Srを出力する。アラーム信号Srは駆動信号発生部204に入力され、駆動信号発生部204は駆動信号Smの出力を停止して逆通電信号を出力し、ブラシレスモータ32の回転を停止させる。図7の例では、t3以降は、一定周期の正常な駆動信号Sm(期間D3のSm)が、セレクタ212から最終駆動信号Smoとして出力される(期間D3のSmo)ので、ステップ306に移行する。
【0047】
このように、クロック入力パルスCKが、瞬間的にPLL制御部12に入力されなかった場合、正常な駆動信号Smを遅延させた駆動信号Smdが、最終駆動信号Smoとしてパワー部14に入力されるので、モータの回転を維持することができる。
【0048】
一方、本実施の形態においては、クロック入力パルスCKが2回以上連続してPLL制御部12に入力されなかった場合(図8参照)には、モータを停止させる。この場合にも、図6のフローチャートに従って制御が行なわれる。
【0049】
図8において、時刻t2までのパルスシーケンスは、図7と同じである。しかし、図8では、時刻t2、t3においても、クロック入力パルスCKがPLL制御部12に入力されないので、偏差信号Se(パルスP1、P2)が生成される。従って、駆動信号発生部204は、回転方向信号Sw、偏差信号Se及び位相検出信号Sfを用いて、駆動信号Smを生成する(Smに関する期間D2及びD3)。
【0050】
ステップ314において、所定時間Tpが経過したと判定されるまで(時刻t3まで)は、遅延駆動信号Smdがセレクタ212から最終駆動信号Smoとして出力される。従って、一定周期の正常な駆動信号Smがパワー部14に供給されるので、モータは回転を維持する。
【0051】
ステップ314において、所定時間Tpが経過したと判定された後(時刻t3以降)には、遅延されていない駆動信号Smがセレクタ212から最終駆動信号Smoとして出力される。このとき、最終駆動信号Smoとして出力される駆動信号Smは、正常なパルス信号ではない。従って、ステップ320において、異常信号Spをハイレベルで出力する(図8参照)。異常信号Spが出力された場合、上記したように、アラーム発生部15から出力されるアラーム信号Srが駆動信号発生部204に入力され、駆動信号発生部204は駆動信号Smの出力を停止して逆通電信号を出力し、ブラシレスモータ32の回転を停止させる。このように、クロック入力パルスCKが複数連続してPLL制御部12に入力されないような、明らかな異常状態では、モータを停止させることができる。
【0052】
以上によって、ノイズ等によってクロック入力パルスCKが、連続せずに1回だけPLL制御部12に入力されない場合(正常状態)には、モータを停止することが無く、機器の不要な停止を抑制することができる。また、クロック入力パルスCKが連続してPLL制御部12に入力されない異常状態では、モータを停止させて、安全を確保することができる。
【0053】
上記では、モータを回転速度1000rpmで使用し、クロック入力パルスCKの周期が1msec、遅延部206の遅延時間Tmが2msec、カウンタ210がカウントする所定時間(セレクタ212から遅延駆動信号Smdを出力する時間)Tpが2msecである場合を説明したが、これに限定されない。モータの使用回転速度は、モータを安定使用するときの最低回転速度の2倍以上であればよい。遅延部206の機能は、クロック入力パルスCKが入力されなかった場合に、その直後から所定の時間正常な駆動信号Smをパワー部14に入力できるようにするためのものであるので、遅延時間Tmは、モータの使用回転速度に対応するクロック入力パルスCKの周期のn倍(nは2以上の整数)の時間であればよい。カウンタ210がカウントする所定時間Tpは、強制的に正常な駆動信号Smを出力する時間であるので、所定時間Tpは遅延時間Tm以下の時間であればよい。例えば、クロック入力パルスCKの周期が0.5msec(例えば、モータの使用周波数が2000rpm)である場合、Tmを1msec、Tpを1msecとすることができる。また、クロック入力パルスCKの周期が1msec(モータの使用周波数は1000rpm)である場合、Tmを3msec、Tpを2msecとしてもよい。また、1つの偏差信号Seによって駆動信号Smが影響を受ける時間が比較的短い場合、即ち、偏差信号Seがローレベルに戻ると、比較的短時間で駆動信号Smが正常な信号に戻る場合には、Tmが2msec(クロック入力パルスCKの周期が1msec)に設定されていたとしても、Tpは2msecより短くてもよい。
【0054】
上記では、異常信号Spが出力された場合に出力されるアラーム信号Srによって、駆動信号Smの出力を停止してモータを停止する場合を説明したが、モータの用途によっては、直ちに駆動信号Smの出力を停止しなくてもよい。例えば、複写機のドラム用モータでは、回転数のわずかな変動でも、ドラム表面の画像がずれて使えなくなるのでモータを停止させる必要がある。しかし、紙送り用のモータであれば、モータを停止させずに回転数の調節を行なってもよい。この場合、駆動信号発生部は駆動信号Smの出力を維持する。
【0055】
上記した制御信号の遷移方向は、逆であってもよい。例えば、偏差信号Seは、クロック入力パルスCKと位置検出信号Stに差が無い場合にハイレベルであり、差がある場合にローレベルに遷移してもよい。また、セレクタ制御信号SLは、偏差信号Seが検出されるまではハイレベルであり、偏差信号Seが検出されたときに、ローレベルに遷移してもよい。この場合、カウンタ210は、所定時間Tpが経過した後、セレクタ制御信号SLをハイレベルに遷移させる。セレクタ212は、セレクタ制御信号SLがハイレベルであれば、遅延されていない駆動信号Smを出力し、ローレベルであれば、遅延駆動信号Smdを出力すればよい。
【0056】
上記では、カウンタ210がセレクタ212を切換える場合を説明したが、偏差信号判定部208が、セレクタ212を切換えるためのセレクタ制御信号SLを出力するように構成してもよい。この場合、偏差信号判定部は、偏差信号Seを検出した場合、セレクタ制御信号SLを遷移させ、カウンタ制御信号Sctによってカウンタのカウント動作を開始させる。その後、偏差信号判定部は、所定時間が経過したことを知らせる信号をカウンタから受信した場合、セレクタ制御信号SLを元のレベルに遷移させる。
【0057】
また、遅延部206は、公知の遅延回路の代わりに、メモリを用いて実現してもよい。即ち、入力信号をデジタル信号として一旦記憶し、所定時間の後に出力するようにしてもよい。
【0058】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 コントローラ
3 スピンドル部
31 エアスピンドル
32 ブラシレスモータ
11 入出力部
12 PLL制御部
14 パワー部
15 アラーム発生部
200 ドライバ
202 コントロール部
204 駆動信号発生部
206 遅延部
208 偏差信号判定部
210 カウンタ
212 セレクタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLL制御部及びコントロール部を含み、
前記PLL制御部は、モータの使用回転速度に応じて供給されるクロックと前記モータが回転させるスピンドルの回転位置を表す位置検出信号とのタイミングの差を偏差信号として前記コントロール部に出力し、
前記コントロール部は、前記偏差信号と前記モータの回転位相を表す位相検出信号とにより、前記モータを駆動するための駆動信号を生成して前記モータに出力する、モータの回転制御装置であって、
前記コントロール部は、前記偏差信号が入力された場合、前記駆動信号の代わりに、前記駆動信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延駆動信号を前記モータに出力し、
前記コントロール部は、前記遅延駆動信号の出力を開始してから所定時間が経過した後、前記遅延駆動信号の代わりに、前記駆動信号を遅延させずに前記モータに出力し、
前記モータの前記使用回転速度は、使用可能な最低回転速度の2倍以上であり、
前記遅延時間は、前記モータの前記使用回転速度に対応するクロック周期の2倍以上の整数倍の時間であり、
前記所定時間は、前記遅延時間以下の時間であることを特徴とする、モータの回転制御装置。
【請求項2】
前記コントロール部は、前記所定時間が経過した後に遅延させずに出力した前記駆動信号が異常な場合、前記モータを停止させることを特徴とする、請求項1に記載のモータの回転制御装置。
【請求項3】
前記コントロール部は、
前記偏差信号及び前記位相検出信号から前記駆動信号を生成する駆動信号発生部と、
前記駆動信号を前記遅延時間だけ遅延させて前記遅延駆動信号として出力する遅延部と、
入力される前記遅延駆動信号及び遅延されていない前記駆動信号の何れかを出力するセレクタと、
前記偏差信号を検出して第1制御信号を出力する偏差信号判定部と、
前記偏差信号判定部から入力される前記第1制御信号に応じて第2制御信号を出力するカウンタと、を含み、
前記カウンタは、前記第1制御信号が遷移した場合、前記第2制御信号を遷移させて出力し、且つカウント動作を開始し、
前記カウンタは、前記所定時間をカウントした後に前記第2制御信号を遷移させ、
前記セレクタは、前記第1制御信号が遷移した場合の前記第2制御信号の遷移に応じて、前記遅延駆動信号を出力し、前記所定時間をカウントした後の前記第2制御信号の遷移に応じて、遅延されていない前記駆動信号を出力することを特徴とする、請求項1又は2に記載のモータの回転制御装置。
【請求項4】
PLL制御によりモータの回転を制御する方法であって、
モータの使用回転速度に応じたクロックと前記モータが回転させるスピンドルの回転位置を表す位置検出信号とのタイミングの差を偏差信号として出力するステップと、
前記偏差信号と前記モータの回転位相を表す位相検出信号とにより、前記モータを駆動するための駆動信号を生成して前記モータに出力するステップと、
前記偏差信号が出力された場合、前記駆動信号の代わりに、前記駆動信号を所定の遅延時間だけ遅延させた遅延駆動信号を前記モータに出力するステップと、
前記遅延駆動信号の出力を開始してから所定時間が経過した後、前記遅延駆動信号の代わりに、前記駆動信号を遅延させずに前記モータに出力するステップとを含み、
前記モータの前記使用回転速度は、使用可能な最低回転速度の2倍以上であり、
前記遅延時間は、前記モータの前記使用回転速度に対応するクロック周期の2倍以上の整数倍の時間であり、
前記所定時間は、前記遅延時間以下の時間であることを特徴とする、モータの回転制御方法。
【請求項5】
請求項1から3の何れか1項に記載のモータの回転制御装置と、
該回転制御装置によって制御されるモータとを含むことを特徴とする画像形成装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−120338(P2012−120338A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268305(P2010−268305)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】